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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E02B
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  E02B
管理番号 1264535
審判番号 無効2010-800018  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-01-29 
確定日 2012-09-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4379825号「誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置」の特許無効審判事件についてされた平成22年10月13日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成22年行ケ第10337号平成23年1月14日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 平成23年2月10日付けの訂正請求のうち、請求項6及び9についての訂正を認める。 特許第4379825号の請求項1乃至5,7,8,10に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成20年 4月15日 特許出願(特願2008-105963号)
平成21年10月 2日 特許権の設定登録(特許第4379825号)
平成22年 1月29日 本件無効審判請求(請求項1?10に対して)
平成22年 4月19日 被請求人:答弁書提出
同日 被請求人:訂正請求書提出
平成22年 5月26日 請求人:弁駁書提出

平成22年 8月19日 請求人:口頭審理陳述要領書提出
平成22年 8月19日 被請求人:口頭審理陳述要領書提出
平成22年 9月 2日 口頭審理(特許庁審判廷にて)

平成22年 9月 6日 被請求人:上申書提出
平成22年 9月 7日 被請求人:審理再開申立書提出
平成22年10月13日 1回目審決(請求成立)

平成22年10月29日 請求人:知的財産高等裁判所出訴
(平成22年行ケ10337号)
平成23年 1月14日 審決取消しの判決言渡

平成23年 2月10日 被請求人:訂正請求書提出
平成23年 3月18日 請求人:弁駁書提出
平成23年 5月11日 被請求人:答弁書提出


第2 請求人の主張
請求人は,特許第4379825号の請求項1ないし10に係る発明についての特許を無効とする,との審決を求め,以下のように主張している。

1.無効理由の概要
(1)無効理由1
本件特許に係る出願の平成21年8月10日付の手続補正書による補正は,いずれの請求項についても,願書に添付された特許請求の範囲,明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものではない。
したがって,本件特許は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり,特許法第123条第1項第1号の規定により,無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件特許の請求項1ないし10に係る発明は,いずれも発明の詳細な説明に記載されていないものである。
したがって,本件特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,特許法第123条第1項第4号の規定により,無効とすべきものである。

(3)無効理由3
本件特許の請求項4,5に係る発明は,不明確である。
したがって,請求項4,5に係る発明の特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,特許法第123条第1項第4号の規定により,無効とすべきものである。

(4)無効理由4
本件特許の請求項1,4,6乃至10に係る発明は,甲第7号証又は甲第8号証に記載された発明である。
したがって,請求項1,4,6乃至10に係る発明の特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから,特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とすべきものである。

(5)無効理由5
本件特許の請求項1乃至10に係る発明は,甲第7乃至12号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,請求項1乃至10に係る発明の特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とすべきものである。

2.平成23年2月10日付け訂正請求による訂正について
平成23年2月10日付け訂正請求による訂正は,願書に添付された特許請求の範囲,明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではないから,特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定に適合しない。
仮に,訂正が認められたとしても,訂正後の請求項1乃至8に係る発明について,審判請求書で主張した無効理由が解消されるものではない。

3.証拠方法
請求人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。
-審判請求書で提示-
甲第1号証:特許第4379825号公報(本件特許公報)
甲第2号証:特開2009-256942号公報(本件特許出願の公開公報)
甲第3号証:本件特許出願の平成21年8月10日付け手続補正書
甲第4号証:東京地裁平成21年(ワ)44344号損害賠償事件訴状抜粋(第1頁,第7-10頁)
甲第5号証:本件特許出願の平成21年7月17日付け手続補正書
甲第6号証:本件特許出願に対する平成21年7月31日付け拒絶理由通知書
甲第7号証:特公昭57-40293号公報
甲第8号証:特開昭53-145334号公報
甲第9号証:「電気工学ハンドブック 1978年版」社団法人電気学会 昭和53年10月30日発行 表紙,1578頁,奥付
甲第10号証:特公昭48-40492号公報
甲第11号証:特開昭57-60684号公報
甲第12号証:特開昭61-285691号公報
甲第13号証:化学物質安全データシート(MSDS) 株式会社サーモンファーイースト2008年7月29日作成
-平成22年5月26日付弁駁書で提示-
甲第14号証の1:平成16年度施行 直轄堰堤維持の内 定山渓ダム副ゲート凍結防止装置改修工事 特記仕様書,平成16年 北海道開発局 石狩川開発建設部 豊平川ダム統合管理事務所
甲第14号証の2:「平成16年度施行 直轄堰堤維持の内 定山渓ダム副ゲート 凍結防止装置改修工事」施工箇所図
甲第15号証:特開昭61-269884号公報
甲第16号証:特開昭56-130551号公報
甲第17号証:特開平2-148592号公報


第3 被請求人の主張
被請求人は,本件特許第4379825号の明細書及び特許請求の範囲を,平成23年2月10日付け訂正請求書に添付した全文訂正明細書及び特許請求の範囲のとおりに訂正することを求める,本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,以下のように主張している。

1.訂正請求の適法性について
訂正請求により訂正された発明は,いずれも,願書に添付された特許請求の範囲,明細書又は図面に記載された範囲内のものである。

2.無効理由1乃至3に対して
訂正請求により訂正された発明は,いずれも,願書に添付された特許請求の範囲,明細書又は図面に記載された範囲内のものであって,かつ,発明の詳細な説明に記載されており,不明確でもない。

3.無効理由4,5に対して
訂正請求により訂正された発明は,いずれも甲第7号証又は甲第8号証記載の発明ではない。また,甲第7号証乃至甲第12号証記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。

4.無効理由5についての具体的主張
訂正発明1と甲第7号証記載の発明との相違点は,以下のとおりである。

相違点A
訂正発明1は,並列の複数個の誘導発熱鋼管単体が,同一の押さえ金具に溶接されており,さらに,押さえ金具が戸当板のコンクリート充填側に溶接されているのに対し,甲第7号証記載の発明では,誘導発熱鋼管単体は,直接,戸当板に溶接又は伝熱セメントによって取り付けられている点。

相違点B
訂正発明1は,複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と,戸当板のコンクリート充填側と誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程とを有するのに対し,甲第7号証記載の発明では,伝熱セメントを誘導発熱鋼管の溶接の代用とする点。

(相違点についての評価)
相違点Aについて
訂正発明1の「並列の複数個の誘導発熱鋼管単体が,同一の押さえ金具に溶接されており,さらに,押さえ金具が戸当板のコンクリート充填側に溶接されて」いる構成は,甲号各証のいずれにも記載されておらず,また,その構成についての動機づけとなり得るものは存在しない。

相違点Bについて
甲第8号証には,「絶縁電線16を挿通した鉄管17を多数本溶接し,かつ,鉄管17と鉄板15両者の広い面積を金属または熱良導性セメントのような熱良導体18をもって相互に接続する。」との記載があるが,これは,溶接とともに熱良導性セメントを用いて,鉄管17と鉄板15とを接続することを示すものであり,訂正発明1のように,発熱鋼管を固定する工程とは別に伝熱セメントを充填塗布する工程を備える構成を示すものではない。
結局,訂正発明1の「複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と,戸当板のコンクリート充填側と誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程とを有する」点は,甲号各証のいずれにも記載されておらず,また,その構成についての動機づけとなり得るものは存在しない。。


第4 平成23年2月10日付け訂正請求による訂正についての当審の判断
1.訂正の内容
平成23年2月10日付けの訂正請求による訂正(以下,「本件訂正」という。)は,本件特許第4379825号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した全文訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり,その訂正の内容は次のとおりである。

(1)訂正事項a
以下の特許請求の範囲の請求項1乃至5,7,8,10
「【請求項1】
水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材に、各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有する複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と、
前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に、絶縁電線を通す工程と、
前記被加熱部材と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程と、
前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程とを含む、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
(他の請求項については,記載を省略。)」を,

訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された以下のとおりとする。
「【請求項1】
水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材である戸当板のコンクリート充填側に、各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有する複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と、
前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に、絶縁電線を通す工程と、
前記戸当板のコンクリート充填側と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程と、
前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程とを含み、並列の前記複数個の誘導発熱鋼管単体が、同一の押さえ金具に溶接されており、さらに、該押さえ金具が前記戸当板のコンクリート充填側に溶接されている、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と、前記戸当板のコンクリート充填側と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程とによって、前記複数個の誘導発熱鋼管単体を相互に電気的に絶縁する、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項3】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記柱状の強磁性鋼材の外側表面は絶縁処理されている、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項4】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記柱状の強磁性鋼材は、軸方向に短長寸法の管形鋼管である、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項5】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記柱状の強磁性鋼材は、軸方向に短長寸法の角形鋼管であり、前記凍結防止範囲の戸当板のコンクリート充填側に対して面接触して固着する、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項6】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記誘導発熱鋼管は、複数個の前記誘導発熱鋼管単体が、長さ方向、幅方向及び厚さ方向に必要な個数並べて配置されている、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項7】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記誘導発熱鋼管は、所定個数の前記誘導発熱鋼管単体毎に、前記交流電源に接続されている、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項8】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記交流電源は、単相交流電源又は三相交流電源である、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。」(以下,「訂正発明1」等という。)

(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項6及び9を削除する。

2.訂正事項aについての当事者の主張の概要
(1)被請求人の主張
訂正事項aによって付加された訂正発明1の「並列の前記複数個の誘導発熱鋼管単体が、同一の押さえ金具に溶接されており、さらに、該押さえ金具が前記戸当板のコンクリート充填側に溶接されている」という構成は,段落【0012】の「一方、コンクリート側へは誘導表皮電流発熱管1,1’と押さえ金具12とを溶接37付けし、一緒に鋼板24へも溶接37付けして密着するように取り付けられている。」との記載,及び,【図18】の記載に基づくものである。
段落【0012】は明細書の従来技術を説明する欄に位置し,【図18】はその段落において言及されているものであるが,そこに誘導表皮電流発熱管の取り付け方法として記載された技術は,先行技術として明細書中に記載された【特許文献1】特公昭57-40293号公報に開示されているものではなく,公知の方法でもない。
訂正発明1の「誘導発熱鋼管」は,段落【0012】及び【図18】で用いられている「誘導表皮電流発熱管」を上位概念で表現したものであって,本件訂正は,該「誘導発熱鋼管」の取り付け方法として,段落【0012】及び【図18】に記載されているものに特定したものである。
したがって,上記構成が付加された訂正発明1は,願書に添付した明細書に記載されている事項の範囲内のものである。

(2)請求人の主張
被請求人が訂正事項aの根拠と主張する,段落【0012】及び【図18】に記載された取付方法は,従来技術とされる「誘導表皮電流発熱管」の取付方法として記載されているものである。そして,押さえ金具が誘導発熱管に溶接されるので,押さえ金具に溶接された複数の誘導表皮発熱管同士は押さえ金具を介して電気的に導通されることとなり,その結果,押さえ金具が短絡片の機能を果たすこととなる。
一方,訂正発明1は,「誘導発熱鋼管」にかかる発明であって,該「誘導発熱鋼管」には,請求項2で限定されているような,誘導発熱鋼管を電気的に絶縁するものを含むものであるが,そのような電気的に絶縁された「誘導発熱鋼管」の取り付け手段として,上記のような,段落【0012】及び【図18】に記載された取り付け方法を採用することはできない。
すなわち,願書に添付された明細書には,「本件従来技術」と「本件最良実施形態」の2つの独立した技術思想が記載されているのであって,訂正発明1は,それらを適当に組み合わせて体裁を整えたものにすぎず,願書に添付された明細書に記載されている事項の範囲内のものではない。

3.当審の判断
(1)訂正事項aについて
・訂正事項aによって,特許請求の範囲の請求項1は,訂正前の「被加熱部材」が「被加熱部材である戸当板のコンクリート充填側」に特定され,「並列の前記複数個の誘導発熱鋼管単体が,同一の押さえ金具に溶接されており,さらに,該押さえ金具が前記戸当板のコンクリート充填側に溶接されている」という構成が付加された。
そこで,当該訂正が願書に添付された明細書,特許請求の範囲に記載された事項の範囲内であるか否かについて検討する。

・まず,上記訂正発明1の訂正前の「被加熱部材」が「戸当板のコンクリート充填側」に特定された点について検討する。

願書に添付された明細書段落【0056】,【図22】には,水門戸当板19の裏面のコンクリート充填側に発熱鋼管を取付ける構成が記載されている。
すなわち,誘導発熱鋼管単体を固定する対象である「水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材」として「戸当板のコンクリート充填側」は開示されている。
そうすると,訂正発明1における,訂正前の「被加熱部材」を「被加熱部材である戸当板のコンクリート充填側」とする訂正は,願書に添付された明細書の範囲内のものである。

・次に,訂正発明1の「並列の前記複数個の誘導発熱鋼管単体が,同一の押さえ金具に溶接されており,さらに,該押さえ金具が前記戸当板のコンクリート充填側に溶接されている」という構成が付加された点について検討する。

訂正の根拠とされる,願書に添付された明細書段落【0012】には,「コンクリート側へは誘導表皮電流発熱管1,1’と押さえ金具12とを溶接37付けし,一緒に鋼板24へも溶接37付けして密着するように取付けられている。」と記載されており,同【図18】には,水門鋼板製戸当板19,溝形成板24のコンクリート充填側に対して,誘導表皮電流発熱管1,1’が押さえ金具12に溶接37され,押さえ金具12が鋼板19,24に溶接37されて取付けられている図が記載されているから,鋼管を押さえ金具に溶接し,該押さえ金具を戸当板に溶接することによってなる,鋼管の戸当板への取付方法自体は,願書に添付された明細書又は図面に記載されている。
ここで,同段落【0012】,【図18】は,【図13】乃至【図17】に記載された従来技術の表皮電流発熱管の取付方法を示したものであって,本件発明の「誘導発熱鋼管単体」の取り付け方法として上記「鋼管の戸当板への取付方法」を採用したものを直接的に記載したものではない。しかしながら,構造材に対する鋼管部材の取付方法として,押さえ金具による取り付けや溶接による取り付けは従来周知の技術である。
そうすると,同段落【0012】,【図18】に示された取付方法は,それら周知の技術を単に組み合わせた取付方法であり,当該訂正は,複数個の誘導発熱鋼管単体の取付方法として,周知技術を組み合わせてなる取付方法を採用しただけの訂正であって,形式的には,願書に添付された明細書又は図面に内在されているものの範囲内での訂正であると考えることもできる。

しかしながら,該取付方法は,溶接により固定される複数個の発熱管を電気的に接続してしまうことになるので,電気的に絶縁されている複数個の誘導発熱鋼管の取付方法として採用しえないことは,当業者にとって自明であるから,同段落【0012】,【図18】に記載された取付方法は,あくまでも従来技術として【図13】乃至【図17】に記載された鋼管同士が電気的に接続された誘導表皮電流発熱管の取付方法として開示されたものと考えるのが妥当である。
つまり,実質的には,願書に添付された明細書又は図面に,複数の誘導発熱鋼管単体が電気的に絶縁されているものに対して,上記「並列の複数個の誘導発熱鋼管単体が,同一の押さえ金具に溶接されており,さらに,該押さえ金具が前記戸当板のコンクリート充填側に溶接されている」という構成を付加したものが開示されているとは認められない。また,特許請求の範囲にも,そのようなものが記載されてはいない。
してみると,そのようなものを含む訂正発明1が,願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に開示もしくは示唆されているとすることはできない。

・そして,訂正発明2乃至8は,それぞれ訂正発明1を引用するものであって,訂正発明1と同様に,複数の誘導発熱鋼管単体が電気的に絶縁されているものに対して,同一の押さえ金具に溶接され,さらに,該押さえ金具が戸当板のコンクリート充填側に溶接されてなるものを含むものであるから,訂正発明1と同様に訂正発明2乃至8が願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に開示もしくは示唆されているとすることはできない。

したがって,訂正事項aは,願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面の範囲内においてなされたものではない。

(2)訂正事項bについて
訂正事項bは,特許請求の範囲の請求項6及び9を削除する訂正であり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また,訂正事項bは,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

4.まとめ
以上のとおりであるから,請求項1乃至5,7,8,10についての訂正は,特許法第134条の2第5項の規定において準用する同法第126条第3項の規定に適合しないから,当該訂正を認めない。
また,請求項6及び9を削除する訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に適合し、同条第5項の規定において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するから、当該訂正を認める。


第5 無効理由5についての当審の判断
1.本件発明
上記のとおり,訂正事項bは認められ,訂正事項aについては認められないから,本件特許の発明は,特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至5,7,8,10に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材に、各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有する複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と、
前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に、絶縁電線を通す工程と、
前記被加熱部材と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程と、
前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程とを含む、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と、前記被加熱部材と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程とによって、前記複数個の誘導発熱鋼管単体を相互に電気的に絶縁する、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項3】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記柱状の強磁性鋼材の外側表面は絶縁処理されている、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項4】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記柱状の強磁性鋼材は、軸方向に短長寸法の管形鋼管である、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項5】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記柱状の強磁性鋼材は、軸方向に短長寸法の角形鋼管であり、前記凍結防止範囲の被加熱部材に対して面接触して固着する、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。

【請求項7】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記誘導発熱鋼管は、複数個の前記誘導発熱鋼管単体が、長さ方向、幅方向及び厚さ方向に必要な個数並べて配置されている、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項8】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記誘導発熱鋼管は、所定個数の前記誘導発熱鋼管単体毎に、前記交流電源に接続されている、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。

【請求項10】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記交流電源は、単相交流電源又は三相交流電源である、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。」
(以下,「本件発明1」等という。)

2.甲号各証の記載内容
(1)甲第7号証:特公昭57-40293号公報
本件特許に係る出願の出願前に発行された刊行物である,甲第7号証には、以下の記載がある。 (下線は,当審が付与。)。
(1a)「1 強磁性を有する鋼管内に絶縁電線を固定することなく自由に貫通し、この絶縁電線に交流電流を通じた時、前記鋼管の内表皮附近に、前記交流電流を1次電流とする2次電流が集中して流れ、鋼管外に2次交流電流が実用的に流れないように構成した誘導表皮電流発熱管、又は前記絶縁電線と前記鋼管を交流電源に対し直列に接続し、電流が前記鋼管の内表皮附近のみに集中して流れ、鋼管外には電流が実用的には流出しないように構成した直列表皮電流発熱管を、凍結を防止しようとする水門の扉体の水側上部、扉体の左右両側誘導溝板の水側部、および下縁の戸当板等に必要量複数本溶接付するか、熱伝導性セメントをもつて接着するか或いは密着し、発熱と微振動をさせ、前記それぞれの部分に氷雪が生ずることを防止し、扉体のローラーおよび水密用ゴム板が戸当板に凍結して、扉体の開閉を妨げることがないようにした電気的凍結防止装置付水門。」(特許請求の範囲)
(1b)「第1図は直列表皮電流発熱管を、第2図は誘導表皮電流発熱管を示しているが、両図において1,1′は強磁性をもつ発熱鋼管、2はこの発明ではこの鋼管内に比較的自由に通される絶縁電線又はケーブル、3は交流電源で通常は商用周波数である。4,4′,4″等は接続電線で、第1図の場合では交流電源3の一端と鋼管1の端子6、交流電源3のもう一つの他端子と絶縁電線2、および鋼管1のもう一つの端子5と電線2の電源3の反対側端子を接続して、交流電源3に対し、絶縁電線2と、鋼管1が直列になるように接続しているし、第2図の場合では絶縁電線2の2個の端子と電源3の両端を接続線4、4′で接続し、一方2本の鋼管1,1′はその両端において短絡片7,8で電気的に接続され、電源3、接続電線4,4′、電線2の作る1次回路に対し2次誘導回路を作るように構成され、第1図、第2図の鋼管1又は1’等の肉厚をt(cm)、長さをl(cm)、鋼管内径をD(cm)とし、交流電流が、鋼管の内表皮に流れる範囲を示す表皮の厚さをS(cm)とすると
t>2S,l≫D,D≫S
のような条件の下では交流電流iは殆ど鋼管1の外部に流出しないので、鋼管外面に金属的接触をしてもアークの発生を見たり、人体、動物に危険を及ぼさない。従つて通常第1図は直列表皮電流発熱管、第2図は誘導表皮電流発熱管として、パイプラインの加熱保温や路床面加熱に用いられてきた。」(1頁2欄34行?2頁3欄24行)
(1c)「また第1図、第2図では単相回路で説明したが、これらの発熱管の組合せで、多相回路の構成も可能であり、発熱管も円管断面に限定せず、種々の断面のものが使用されている。」(2頁3欄25?28行)
(1d)「さて、以上述べた表皮電流発熱管は、以上の説明で明らかなように、電気装置の弱点である絶縁物、ここでは電線2の絶縁が、鋼管1,1′で機械的に保護されているだけでなく、鋼管1,1′等の発熱は、鋼管1,1′が前記水門扉体、戸当板等に直接溶接可能であるので、その発熱が殆ど直接扉体、戸当板等に伝熱されるから鋼管と扉体、戸当板間の温度差は1?5℃ときわめて小さく、他の発熱体のように電線の絶縁物が高温に曝される危険がない。」(2頁3欄29?38行)
(1e)「まず第8図においては、第4図に示した氷雪11,12および16による凍結防止のため、第1図又は第2図による表皮電流発熱管を扉体9を構成する池水側前部鋼板27の氷雪11,12の発生する部分の裏側に、必要発熱量に相当した本数だけ、例えば表皮電流発熱管28,29,30等を群に分けて取付けた状況を示し、さらに下部水密用ゴム板14が接触する戸当板15の下面に表皮電流発熱管31,32等を群に分けて必要量本数を取付けている。」(3頁5欄24?33行)
(1f)「取付けの方法としては鋼板27又は鋼板製戸当板15に発熱管1,1′を直接溶接付し、完了後絶縁電線2を比較的自由に発熱管1内に通線することが望ましい。それは溶接によつて伝熱を良くして、局部的な加熱を防止するのみならず、絶縁電線2を流れる電流iの相乗作用によつて発生した微振動を良く鋼板27、戸当板15等に伝えうるし、機械的一体構造となつて機械的構造を強くするのみならず誘導表皮電流加熱管を利用する場合短絡片7,8は板15,27によつて代用が可能になるからである。しかし状況によつては溶接は必要条件でなく、伝熱セメント等で代用できるばかりでなく、時には密着だけでもよい。或いはこのような方法をそれぞれ局部的に利用することも可能である。」(3頁5欄34行?同頁6欄7行)
(1g)第2図には,誘導表皮電流発熱管の原理説明図が示されており,2本の鋼管1,1′の両端が短絡片7,8により接続され,両者の鋼管に導通された絶縁電線2の両端が交流電源3に接続されていることが記載されている。

上記記載事項(1a)?(1g)及び図面の記載からみて,甲第7号証には,以下の発明が記載されている。
「水門の扉体9を構成する池水側前部鋼板27の氷雪11,12の発生する部分の裏側及び下部水密用ゴム板14が接触する戸当板15の下面に,
絶縁電線を通す強磁性をもつ発熱管を必要発熱量に相当する本数並べて溶接又は伝熱セメントで固定し,
該発熱管内に絶縁電線を通し,
絶縁電線の両端に交流電源を接続してなる,
水門凍結防止装置の施工方法。」(以下,「甲7発明」という。)

(2)甲第8号証:特開昭53-145334号公報
本件特許に係る出願の出願前に発行された刊行物である,甲第8号証には、以下記載がある。
(2a)「(2)水門の扉体の池側上部へ電線を挿通した発熱管を溶接し、かつ、金属または熱良導性セメントをもつて両者の広い面を相互に結合し、扉体の両側の転子の誘導溝板の池側部分および水密用ゴム板の接触面へ、電線を挿通した発熱管を溶接し、かつ、金属または熱良導性セメントをもつて両者の広い面を相互に結合し、扉体の下縁の水密用ゴム板が接触する戸当板の裏面へ、電線を挿通した発熱管を溶接し、かつ、金属または熱良導性セメントをもつて両者の広い面を相互に結合し、電線および金属管を直列に接続して交流電源を接続した貯水池水門の凍結防止装置。」(特許請求の範囲第2項)
(2b)「次に図面について説明すれば、扉体1を構成する鉄板2の池側上部裏面へ、絶縁電線3を挿通した鉄管4を多数本溶接し、かつ、鉄管4と鉄板2両者の広い面を、金属または熱良導性セメントのような熱良導体5を介して相互に接続する。」(1頁右下欄10?14行)
(2c)「扉体1の両側に取付けた転子6の誘導溝7を形成する鉄板8の池側部分の裏面、および扉体1の側縁に取付けた水密用ゴム板9が接触する鉄板10の裏面へ、絶縁電線11を挿通した鉄管12を多数本溶接し、かつ、鉄管12と鉄板8両者の広い面積を、金属または熱良導性セメントのような熱良導体13をもつて相互に接続する。」(1頁右下欄15行?2頁左上欄1行)
(2d)「扉体1の下縁に取付けた水密用ゴム板14が接触する鉄板15の裏面へ、絶縁電線16を挿通した鉄管17を多数本溶接し、かつ、鉄管17と鉄板15両者の広い面積を金属または熱良導性セメントのような熱良導体18をもつて相互に接続する。
電線3と鉄管4,電線11と鉄管12,および電線16と鉄管17をそれぞれ直列に接続し、これに交流電源19を接続したものである。」(2頁左上欄2?9行)
(2e)「この発明は上記欠点を除いたもので,第5図に示すように電流は交流電源19から電線3,11,16および鉄管4,12,17を流れ渦電流を生じるが,表皮作用によつて鉄管4,12,17を流れる電流は,内壁面に集中して流れるので漏電や感電のおそれがなく,その際鉄管4,12,17内面の電気抵抗に基くジユール熱により鉄管4は発熱する。」(2頁右上欄14?20行)
(2f)「かつ、鉄板および戸当板へ発熱管を溶接するとともに、熱良導体を介して両者を接続したから、熱は良好に鉄板および戸当板に伝わり、無駄に放散される熱はきわめて少なく、効率がよい。」(2頁右下欄1?4行)(2g)第3図には,水門の縦断側面図が示されており,扉体1を構成する鉄板2の裏側に10本の鉄管4が配置され,各鉄管4の間に金属又は熱良導セメントのような熱良導体5が配されることが記載されている。
(2h)第5図には,発熱管の説明図が示されており,鉄管4に挿通された電線3の一端が鉄管の一端に接続され,電線の他端と鉄管の他端との間に交流電源19が接続されることが記載されている。

上記記載事項(2a)?(2h)及び図面の記載からみて,甲第8号証には,以下の発明が記載されている。
「扉体1を構成する鉄板2の池側上部裏面等に,絶縁電線3を挿通した鉄管4を多数本溶接し,
鉄管4と鉄板2とを熱良導性セメントをもって相互に接続し,
絶縁電線3と鉄管4を直列に接続して交流電源を接続することからなる,
発熱管による水門凍結防止装置の施工方法。」(以下,「甲8発明」という。)

(3)甲第10号証:特公昭48-40492号公報
本件特許に係る出願の出願前に発行された刊行物である,甲第10号証には、以下記載がある。
(3a)「本発明は、本発明者がさきに提案した特許第460224号(特公昭40-12128)発明のような表皮電流発熱管の改良に関するものである。
特許第460224号発明による表皮電流発熱管の原理を第1図によつて説明すると、1は鋼管、2は該鋼管内を通される絶縁電線であつて、電線2および2′はともに鋼管1を交流電源5に接続する。・・・」(1頁1欄17?25行)
(3b)「しかしながら、鋼管の内、外表面のうち半分だけが発熱に利用されていることになる。このような発熱管は鋼管1が大地8又は図示されていないが送液管のような電導性物質に電気的に接続される場合にも、それら電導性物質に電流が流出しないという、前提にもとずくものである。したがつてもし鋼管の外表面が絶縁物に包まれ鋼管外表面に直接電導性物質との接触がない場合には、鋼管外表面側にも電流を流すことによつて同一の鋼管を使用して、その発熱をほぼ2倍にできる筈である。
本発明はこのような考え方によつて行われた。」(1頁2欄6?16行)(3c)「第2図は本発明による誘導発熱鋼管の原理説明図である。1,1′は鋼管で発熱管となり図では断面を示している。鋼管1,1′は実際には所要の間隔をおいて並列に設置されるのが普通である。
電源5よりの電流3は鋼管1,1′に貫通された絶縁電線2を通つて流れ、同時にこの電流3によつて鋼管1,1′内には図示のように内表皮4,4′、外表皮6,6′において最大電流密度を有する渦流(2次電流)が流れる。・・・」(1頁2欄17?25行)
(3d)「第2図のような発熱管の実際的応用の一例はこのような鋼管の組合せをコンクリート、アスフアルト等で舗装された道路に埋設して道路面の融雪に利用する場合である。道路幅は普通数米から数十米であるが、その道幅にほぼ等しい長さの鋼管を道路の長さ方向に直角にならべて必要本数を埋設し・・・」(2頁3欄2?8行)
(3e)第1図には,鋼管1に挿通された絶縁電線2の一端が鋼管の一端に接続され,絶縁電線の他端と鋼管の他端との間に交流電源5が接続されることが記載されている。
(3f)第2図には,2本の鋼管1,1′に挿通された絶縁電線2が交流電源5に接続されることが記載されている。

(4)甲第11号証:特開昭57-60684号公報
本件特許に係る出願の出願前に発行された刊行物である,甲第11号証には、以下の記載がある。
(4a)「鉄構の上面又は両側を構成する鉄骨の外側へ、間隙をおいて表皮電流発熱管の1本ないし複数本を平行に取付け、この発熱管の発熱によつて鉄構上の氷雪を融解させることを主要手段とし、さらにこれら発熱管の固有振動数が、交流電源の周波数の2倍となるように、発熱管を鉄構に支持又は固定して発熱管を共振させ、氷雪の発熱管への付着を防止することを補助手段とした鉄構の融氷雪装置。」(特許請求の範囲)
(4b)「第5図の場合では交流電源3の一端子を鋼管1の端子6に接続電線4′で接続し、交流電源3の他端子を絶縁電線2の一端に接続電線4で接続し、鋼管1の他端子5を電線2の他端に接続電線4″で接続して、交流電源3に対し絶縁電線2と鋼管1が直列になるように接続してあり、第6図の場合では絶縁電線2の両端を電源3の両端子に接続電線4,4′で接続し、また、2本の鋼管1,1′はその両端において短絡片7、8で電気的に接続し、電源3、接続電線4,4′および電線2によつて形成される1次回路に対し、2次誘導回路を形成するように構成され、第5図、第6図の鋼管1または1′等の肉厚をt(cm)長さをl(cm)鋼管内径をD(cm)とし、交流電流が鋼管内表皮に流れる範囲を示す表皮の厚さをS(cm)とすると、
t>2S,l≫D,D≫S
のような条件の下では交流電流iは殆ど鋼管1の外部に流出しないので、鋼管外面に金属的接触をしてもアークの発生を見たり、人体や動物に感電の危険を及ぼさない。従つて通常第5図は直列表皮電流発熱管、第6図は誘導表皮電流発熱管として、パイプラインの加熱保温や路床面加熱に用いられてきた。・・・」(2頁左上欄18行?同頁右上欄20行)
(4c)「第7図は、発熱管を取付けた鉄構断面図で積雪15,15′のある状態を示し、第8図はその平面図、第9図は側面図である。アングル9,10,11,12を連結材13を以つて連結して断面正方形の桁14を形成し、この桁14に連結材13′を組合せて鉄構を構成する。発熱管1,1′は、上面両側を形成しているアングル9,10に間隙を介して取付けたものである。その取付位置は、アングル9,10上面または側面が適当である。
また取付方法例としては第10図,第11図に示すようにアングル9,10にU字ボルト16を取付け、アングル9,10の上面板へ発熱管1,1′を、ライナー17を介して等しい間隙を以て、発熱管抑え金具18と締付ナツト19で支持したものである。」(3頁右上欄16行?同頁左下欄10行)
(4d)「鋼管1,1′等の断面は、第12図では円管としたが角形管等任意でよいが、通線のためには円管が最適である。・・・」(3頁左下欄18?20行)

(5)甲第12号証:特開昭61-285691号公報
本件特許に係る出願の出願前に発行された刊行物である,甲第12号証には、以下の事項が記載されている。
(5a)「(1)肉厚がt1であり、交流電流の表皮の深さがS1である強磁性鋼管および該管内に挿通された絶縁電線からなる誘導電流発熱管において、該t1を
0.5S1<t1<2S1(2)
とし、該強磁性鋼管を該誘導発熱管に通電すべき交流電源が単相である場合は偶数本を、3相である場合には3本又はその倍数本を相互に平行に、かつ、両端を揃えて密接させた一体的管群とし、該両端においてそれらの管群を相互に電気的に接続し、
該各強磁性鋼管内に神通された1本又は複数本の絶縁電線が該管群全体につき各相毎に1本の直列電線となる如く接続し、
前記交流電源に対して、前記絶縁電線が1次回路、前記強磁性管が2次回路となる如くし、
さらに、前記強磁性鋼管群の長さ方向の外周を肉厚がt2である金属板で取巻き、該板の肉厚t2と交流電流の表皮の深さS2とを
(t1+t2)>(S1+S2),(S2≧S1)(4)
となる如く式(2)および(4)から決定してなることを特徴とする2重誘導電流発熱管。」(特許請求の範囲)
(5b)「第5図は、第3図が2本の強磁性発熱管1,2が1組となって2次回路を形成しているのに対し、別にもう1組の強磁性発熱管1’,2’があり、その両端は、1,2の組の7,8と同様に7’,8’で電気的に接続されて2次回路となり、絶縁電線3がこれら2組を直列に貫通して電源4と共に1次回路をなしている状態を示している。これらの強磁性発熱管の組により構成される2次回路の組は、必要に応じさらに多数の組とすることができるが、このような2次回路の組の複数化、増加は、第4図の3相の場合についても同様に考えられることは勿論である。」(4頁左上欄15行?同頁右上欄6行)

3.本件発明1について
(1)本件発明1と甲7発明との対比
本件発明1と甲7発明とを対比すると,甲7発明の「水門の扉体9を構成する池水側前部鋼板27の氷雪11,12の発生する部分の裏側及び下部水密用ゴム板14が接触する戸当板15の下面」が,本件発明1の「水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材」に相当している。
そして,甲7発明の「絶縁電線を通す強磁性をもつ発熱管」が,本件発明1の「内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有する誘導発熱鋼管単体」に相当しており,それにともない,甲7発明の「発熱管を必要発熱量に相当する本数並べて溶接又は伝熱セメントで固定」することが,本件発明1の「複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程」に相当している。

したがって,両者は,以下の点で一致している。
「水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材に,各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材からなる複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と,
前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に,絶縁電線を通す工程と,
前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程とを含む,
誘導発熱鋼管単体による水門凍結防止装置の施工法。」

そして,以下の点で相違している。
(相違点1)
本件発明1は,被加熱部材に複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と,被加熱部材と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程とを有するのに対して,甲7発明は,被加熱部材に複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて伝熱セメントで固定するものではあるが,該鋼管部材を固定する工程と伝熱セメントを充填塗布する工程とが別の工程ではない点。

(2)相違点についての判断
(相違点1について)
甲8発明の「扉体1を構成する鉄板2の池側上部裏面等に,絶縁電線3を挿通した鉄管4を多数本溶接し,かつ,鉄管4と鉄板2とを熱良導性セメントをもって相互に接続」する構成において,「扉体1を構成する鉄板2の池側上部裏面等に,絶縁電線3を挿通した鉄管4を多数本溶接」することと,「鉄管4と鉄板2とを熱良導性セメントをもって相互に接続」することとは,別の構成であって,異なる工程であることは明らかである。
そして,それら2つの工程は,それぞれ相違点1に係る本件発明1の構成の「複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程」及び「被加熱部材と誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程」に相当しており,上記相違点1に係る本件発明1の構成は,公知の技術である。
ここで,甲7発明は,被加熱部材に対して,発熱鋼管部材を溶接によって固定するか,若しくは,伝熱セメントによって固定したものであり,そのうち,伝熱セメントによって固定する構成は,鋼管部材の固定手段と伝熱手段を伝熱セメントに兼用させるために採用したものであるが,伝熱セメントによって発熱鋼管部材と被加熱部材の間を伝熱的に接続する場合には,鋼管部材の固定をも伝熱セメントによって行うことが必須であることを示すものではなく,発熱鋼管部材を溶接によって固定しながら伝熱セメントによって熱的に接続することを否定するものではない。
したがって,甲7発明に甲8発明として開示された上記公知の技術を採用することを妨げる要因はなく,甲7発明において,被加熱部材に発熱鋼管部材を固定する工程と,発熱鋼管部材の熱を被加熱部材に良好に伝達するために伝熱セメントを充填塗布する工程を備えるように構成することは,当業者が容易になし得たことである。

(3)本件発明1の効果について
本件発明1が上記相違点1に係る構成を備えることによって奏する効果は,甲7発明に甲8発明及び周知の技術を採用することによって当然生じる効果であって,当業者が十分予測できる効果でしかない。

(4)まとめ
したがって,本件発明1は,甲7発明,甲8発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

4.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであって,さらに,「複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と,被加熱部材と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程とによって,複数個の誘導発熱鋼管単体を相互に電気的に絶縁する」という構成を備えるものである。
しかしながら,複数個の誘導発熱鋼管を離間して相互に電気的に絶縁してなる形式の誘導発熱鋼管は,例えば甲第10号証(記載事項(3b),(3c))に記載されているように,周知であって,甲7発明の誘導発熱鋼管として,上記周知のものを採用することは,当業者が容易に想到することである。

したがって,本件発明2は,甲7発明,甲8発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

5.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用するものであって,さらに,「柱状の強磁性鋼材の外側表面は絶縁処理されている」という構成を備えるものである。
しかしながら,電圧が生じるものに対して,感電を防止したり,他の部材との絶縁を図るために,表面に絶縁処理を施すことは,例示するまでもなく周知の技術である。
そして,甲7発明の誘導発熱鋼管単体に対して,上記周知の技術を採用することは,当業者が適宜なし得た設計事項である。

したがって,本件発明3は,甲7発明,甲8発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

6.本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を引用するものであって,さらに,「柱状の強磁性鋼材は,軸方向に短長寸法の管形鋼管である」という構成を備えるものである。
しかしながら,建造物を構成する構成要素に対してある部材を設置する場合に,その部材の大きさによってはその運搬や施工に著しい障害となることは,当業者であれば容易に想定できることであって,該部材の運搬や施工性さらには製造等を考慮して,扱いやすい寸法に分割して,製造・運搬し,現場で接続して施工することは,土木建築の技術分野において周知の技術であり,甲7発明の誘導発熱鋼管単体の寸法を,複数個接続することにより様々な大きさの被加熱部材に対応でき,孔や溝を加工が行いやすい程度の比較的短い長さとすること,つまり,本件発明4でいうところの「軸方向に短長寸法」とすることは,当業者が適宜なし得た設計事項である。

したがって,本件発明4は,甲7発明,甲8発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

7.本件発明5について
本件発明5は、本件発明1を引用するものであって,さらに,柱状の強磁性鋼材が「軸方向に短長寸法の角形鋼管」であって,「凍結防止範囲の被加熱部材に対して面接触して固着」する構成を特定したものである。
しかしながら,上記「6.本件発明4について」に記載したとおり,甲7発明の誘導発熱鋼管単体を「軸方向に短長寸法」とすることは当業者にとって容易であって,また,発熱鋼管を円管以外の鋼管とすることは,甲第7号証(記載事項(1c))や甲第11号証(記載事項(4d))に記載されているように周知であり,角形鋼管も甲第11号証に記載されている。
そして,甲7発明において,発熱鋼管を角形鋼管等の多角形鋼管とした場合に,凍結防止範囲の被加熱部材に対して面接触して固着することは,当業者が適宜なし得た設計事項である。

したがって,本件発明5は,甲7発明,甲8発明,甲11発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

8.本件発明7について
本件発明7は、本件発明1を引用するものであって,さらに,誘導発熱鋼管は,「複数個の前記誘導発熱鋼管単体が,長さ方向,幅方向及び厚さ方向に必要な個数並べて配置されている」ことを特定したものである。
しかしながら,甲7発明においても誘導発熱鋼管単体が必要発熱量に相当する本数並べられているように,誘導発熱鋼管を水門の凍結を防止するために必要な範囲にわたって設けることは,当然のことであり,そのために,複数個の誘導発熱鋼管単体を,長さ方向,幅方向及び厚さ方向に必要な個数並べて配置することは,当業者が当然行うべき設計事項である。

したがって,本件発明7は,甲7発明,甲8発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

9.本件発明8について
本件発明8は、本件発明1を引用するものであって,さらに,「誘導発熱鋼管は,所定個数の誘導発熱鋼管単体毎に,交流電源に接続されている」ことを特定したものである。
しかしながら,建造物に対する付属設備等において,該付属設備の電源を複数のユニットごとに設ける事は,配線の複雑化の防止やメンテナンスの容易性等から考えて,当業者が普通に採用できる構成である。

したがって,本件発明8は,甲7発明,甲8発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

10.本件発明10について
本件発明10は、本件発明1を引用するものであって,さらに,「交流電源は,単相交流電源又は三相交流電源である」ことを特定したものである。
しかしながら,誘導発熱鋼管に用いる交流電源として,単相交流電源及び三相交流電源は,例えば甲第12号証(記載事項(5a))に記載されているように,周知である。
そして,甲7発明の誘導発熱鋼管の電源として,単相交流電源又は三相交流電源を用いることは,それに何ら阻害要因はなく,当業者が適宜なし得た設計事項である。

したがって,本件発明10は,甲7発明,甲8発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

11.まとめ
以上より,本件特許の請求項1乃至5,7,8,10に係る発明は,甲7発明,甲8発明,甲11発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許の請求項1乃至5,7,8,10に係る発明の特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。


第6 付言
上記「第4 平成23年2月10日付け訂正請求による訂正についての当審の判断」に記載したとおり,請求項1についての訂正は認められないものであるが,仮に,該訂正が認められたものとしても,以下のとおり,無効理由5により,無効とすべきものである。

1.訂正発明1
訂正後の請求項1に係る発明(以下,「訂正発明1」という。)は,以下のとおりのものである。
「水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材である戸当板のコンクリート充填側に、各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有する複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と、
前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に、絶縁電線を通す工程と、
前記戸当板のコンクリート充填側と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程と、
前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程とを含み、並列の前記複数個の誘導発熱鋼管単体が、同一の押さえ金具に溶接されており、さらに、該押さえ金具が前記戸当板のコンクリート充填側に溶接されている、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。」

2.訂正発明1と甲7発明との対比
訂正発明1と甲7発明とを対比すると,甲7発明の「下部水密用ゴム板14が接触する戸当板15の下面」が,訂正発明1の「戸当板のコンクリート充填側」に相当している。

したがって,両者は,以下の点で一致している。
「水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材である戸当板のコンクリート充填側に,各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材からなる複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と,
前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に,絶縁電線を通す工程と,
前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程からなる,
誘導発熱鋼管単体による水門凍結防止装置の施工法。」

そして,以下の点で相違している。
(相違点1’)
訂正発明1は,戸当板のコンクリート充填側に複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と,戸当板のコンクリート充填側と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程とを有するのに対して,甲7発明は,戸当板のコンクリート充填側に複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて伝熱セメントで固定する工程はあるが,鋼管部材を固定する工程と伝熱セメントを充填塗布する工程とが別の工程ではない点。
(相違点2)
相違点1’に関連して,訂正発明1は,並列の前記複数個の誘導発熱鋼管単体が,同一の押さえ金具に溶接されており,さらに,該押さえ金具が戸当板のコンクリート充填側に溶接されているのに対して,甲7発明は,並列の複数本の誘導発熱鋼管単体は溶接又は伝熱セメントによって固定されており,並列の複数本の誘導発熱鋼管単体が,同一の押さえ金具に溶接され該押さえ金具が戸当板のコンクリート充填側に溶接されることによって,固定されているものではない点。

3.各相違点についての判断
相違点1’については,「 第5 3.(2)(相違点1について)」に記載したとおりである。

(相違点2について)
建造物を構成する構成要素に対して,鋼管等の付属部材を固定金具によって固定する技術は,溶接による固定技術,接着剤による固定技術,ボルト・ナット等による固定技術等と同様に,建築・土木技術分野において,周知である。
そして,訂正発明1の「並列の前記複数個の誘導発熱鋼管単体が,同一の押さえ金具に溶接されており,さらに,該押さえ金具が戸当板のコンクリート充填側に溶接されている」という構成について,願書に添付した明細書には,その段落【0012】及び【図18】に記載されているのみであることは,上記「第4 3.(1)」に記載したとおりである。
そうすると,上記構成は,単に,鋼管の固定手段としての押さえ金具を使用するとともに,鋼管を押さえ金具によって戸当板に固定するに際して,鋼管と押さえ金具とを溶接によって固定して,さらに,押さえ金具を戸当板に溶接によって固定したもの,つまり押さえ金具や溶接といった取付技術として周知の技術を組み合わせただけの取付方法に特定したものと解釈すべきものである(仮に,そうでないとすると,本件訂正は,願書に添付された明細書の範囲を逸脱することになる可能性が極めて高い。)。
そして,例えば甲第11号証の記載事項(4c)に記載されているように,複数の発熱鋼管部材を固定金具である同一の押さえ金具によって固定することが公知であって,発熱鋼管の取付手法として押さえ金具による取付けが十分想い到ることであるから,甲7発明の複数個の発熱鋼管部材を押さえ金具等の固定金具で固定しようと考えることは,当業者にとって容易である。
さらに,発熱鋼管部材を押さえ金具で固定するに際して,両者を溶接付けし,さらに押さえ金具を戸当板に溶接付けして固定することも,単なる周知技術の組み合わせに過ぎない。
したがって,相違点2は,甲7発明に周知の技術を採用することにより,当業者が容易になし得たことである。

4.効果についての検討
被請求人は,特に相違点2に係る上記構成によって生じる格別の効果として以下の点を挙げている。
1.発熱鋼管及び戸板板のひずみ防止
2.コンクリート打設時の発熱鋼管の剥離やずれ防止
3.発熱鋼管の戸当板への固定作業の効率化
4.発熱鋼管の振動による戸当板からの剥離防止
しかしながら,訂正発明1は上記効果を奏するために押さえ金具や溶接について工夫したものではなく,上記効果1?4は,取付手段として固定金具と溶接とを組み合わせて用いることによってある程度生じるであろう自明の効果の域を逸脱するものとは認められない。

そして,その他訂正発明1全体が奏する効果を考えても,甲7発明に甲8発明,甲第11号証に記載された技術及び周知の技術のそれぞれが奏する効果の総和に比べて格別なものであるとも認められず,当業者が十分予測できる程度の効果でしかない。

5.まとめ
以上より,訂正発明1は,甲7発明に甲8発明,甲第11号証に記載された技術及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
また,訂正発明1を引用する訂正発明2ないし8についても,上記「第6 2.?4.」及び「第5 4.?10.」に記載したのと同様の理由により,甲7発明に甲8発明,甲第11号証に記載された技術及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,仮に,訂正が適法なものであったとしても,訂正発明1ないし訂正発明8の特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。


第7 結び
以上のとおり,
請求項6及び9についての訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に適合し、同条第5項の規定において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するから、当該訂正を認める。
そして,請求人の主張する無効理由1乃至4について検討するまでもなく,本件特許第4379825号の請求項1乃至5,7,8,10に係る発明の特許は,特許法第123条第1項第2号により無効とすべきである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
寒冷地のダム等の水門は、しばしば凍結により開閉不能になる。具体的には、降雪地域に於ける水門設備は、冬期の貯水池の水門扉体に接する水面に氷雪が浮遊し、更には扉体の上面、左右両溝部、側部水密ゴム板、下縁底部戸当板、底部水密ゴム板等にも氷雪が発生し、扉体本体が凍結して開閉不能になる。
【0003】
そこで、冬季でも水門の開閉に支障がないようにするため、次のような凍結を防止する熱源が利用されてきた。
【0004】
(1)温水循環、温風循環、温油・不凍液循環等の各方式による加熱
これらの各方式には、加熱機器の故障、加熱配管の凍結の危険性、通風路の水溜による通風能力低下、油系路の破損による河川への油流出、公害の発生等諸々の欠点が挙げられる。
【0005】
(2)電気加熱
電気加熱には、抵抗加熱、アーク加熱、誘導加熱、赤外線加熱、ビーム加熱、その他の方式がある。
【0006】
この中で、誘導加熱における表皮電流発熱管を利用した水門凍結防止装置は、温水、温風や温油、不凍液循環方式による加熱方式に比較して、種々の利点を有している。図1は、誘導表皮電流発熱管を示している。符号1,1′は強磁性をもつ発熱鋼管、2はこの鋼管内に比較的自由に通された絶縁電線又はケーブル、3は交流電源で通常は商用周波数である。なお、発熱鋼管1,1′は、実際は管体形状であるが、図ではその構造を分かり易くするため、その中心線に沿った面で破断した断面図で描かれていることに注意願いたい。
【0007】
絶縁電線2の両端と電源3の両端とを接続線で夫々接続し、2本の鋼管1,1′はその両端にある短絡片4,5間が溶接等により電気的に夫々接続されている。電源3及び絶縁電線2の作る1次回路に流れる1次電流i_(1)に対応して、発熱鋼管1,1′の内周部分に反対方向の2次電流i_(2)が誘導され、発熱鋼管1,1′の外周部分に1次電流と同じ方向の渦電流が発生する。しかし、発熱鋼管1,1′の外周部分に発生する渦電流は相互に逆方向のため、短絡片4,5を通って打ち消し合う。従って、鋼管外周面に金属が接触してアークが発生したりせず、人体、動物が接触しても危険が無い。
【0008】
このような表皮電流発熱管による水門凍結防止装置は、次の特許文献1で公知である。
【特許文献1】特公昭57-40293「電気的水門凍結防止付水門」(公告日:昭和57年8月26日)特許文献1に開示の表皮電流発熱管は、次の通りである。図13は、水門を水側から見た略図で、符号13は扉体、14は扉体13の左右両側の支持構造を示している。図14は扉体13の横断面図であり、図15は扉体13の左右支持構造部分の略図である。
【0009】
図14の扉体断面中央部鋼板9、扉体前部鋼板29及び底部水門戸当板19の付近に夫々発生する氷雪15,16,20,21の凍結により、水門の開閉に支障をきたす。同様に、図15の溝形成板24及び戸当板26の付近に夫々発生する氷雪27の凍結により、水門の開閉に支障をきたす。
【0010】
これを防止するため、図16に示すように、扉体断面中央部鋼板9、扉体前部鋼板29及び扉体底部水門戸当板19に、表皮電流発熱管の各群30,31,32,33,34を取付け、水門の9,29,19及び底部水密ゴム板18を夫々加熱し、水門の凍結防止を行っている。同様に、図17の溝形成板24及び戸当板26に、表皮電流発熱管の各群35,36を夫々取付け、水門の24,26及び側部水密ゴム板25を夫々加熱し、水門の凍結防止を行っている。
【0011】
取付け方法としては、発熱管1,1′を直接溶接付すること、状況によっては伝熱セメント等で代用すること、時には密着すること、が記載されている。以上が、特許文献1の表皮電流発熱管に関する開示内容である。
【0012】
なお、取り付け方法に関しては、実際には、誘導表皮電流発熱管1,1′の各群は、図18に示すように、水門扉体断面中央部鋼板9、扉体前部鋼板29、水門鋼板製戸当板19及び溝形成板24に対して、必要発熱量に相当する本数の誘導表皮電流発熱管が各群に分けて配置され、これら鋼板等への伝熱を良くするために、伝熱セメント10を塗布すると共に、扉体断面中央部鋼板9及び扉体前部鋼板29に固定締付ボルト11と発熱鋼管押さえ金具12で固定して取付けられる。一方、コンクリート側へは誘導表皮電流発熱管1,1´と押さえ金具12とを溶接37付けし、一緒に鋼板24へも溶接37付して密着するように取付けられている。
【0013】
凍結防止に必要な電力は、気象条件或いは水門の構造と局部によって変化はあるが、凍結防止を必要とする面積1平方米当り数100ワットかこれをやや上回る程度で余り大きなものでなく、温水、温風、温油等による欠点を完全に除去でき高能率であるから熱量も少なく、自動制御が確実簡単であるから維持管理も殆ど必要なく凍結防止が可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような表皮電流発熱管は、加熱効率が優れていること、耐久性、耐候性に優れていることなどの利点を有する。
【0015】
しかし、この誘導表皮電流発熱管は、鋼管の外周部分には電流が流れない構造となっているため、鋼管の内周部分に流れる電流のみによって生じるジュール熱を利用したものである。
【0016】
更に、この誘導表皮電流発熱管は、形状が円管であって、その取付け断面は、被加熱部材(水門扉体前部鋼板,水門扉体断面中央部鋼板等)に対して線接触となり、発熱管の発熱が有効に伝熱されない。例え、伝熱セメントを充填して熱伝導を良くしても、伝熱は十分とは言えない。更に、伝熱セメントの充填塗布のための作業性の問題も残る。
【0017】
更に、誘導表皮電流発熱管の発熱原理に基づく閉回路として、短絡片間の接続のため、作業性の問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで、本発明は、発熱効率を一層向上させた新規な水門の凍結防止装置を提供することを目的とする。
【0019】
更に、本発明は、伝熱効率を一層向上させた新規な水門の凍結防止装置を提供することを目的とする。
【0020】
上記目的に鑑みて、本発明に係る水門凍結防止装置は、水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材に対して固着する誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置であって、前記誘導発熱鋼管は、並列に配置された複数個の誘導発熱鋼管単体を備え、各々の前期誘導発熱鋼管単体は、内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有し、並列した複数個の前記誘導発熱鋼管単体の差込み孔に通して、その両端に交流電源が接続された絶縁電線を有し、複数個の前記柱状の強磁性鋼材は、相互に電気的に絶縁されている。
【0021】
更に、上記水門凍結防止装置では、前記柱状の強磁性鋼材の表面は絶縁処理されていてもよい。
【0022】
更に、上記水門凍結防止装置では、前記柱状の強磁性鋼材は、軸方向に短長寸法の管形鋼管であってよい。
【0023】
更に、上記水門凍結防止装置では、前記柱状の強磁性鋼材は、軸方向に短長寸法の角形鋼管であり、前記凍結防止範囲の被加熱部材に対して面接触して固着してもよい。
【0024】
更に、上記水門凍結防止装置では、前記凍結防止範囲の被加熱部材は、氷雪による凍結のおそれがある相対的に移動する部材であって、扉体中央部鋼板、扉体前部鋼板、扉体底部水門戸当板、底部水密ゴム、溝形成板及び戸当板側部水密ゴム板から成る群から選択されたいずれかであってよい。
【0025】
更に、上記水門凍結防止装置では、前記誘導発熱鋼管は、複数個の前記誘導発熱鋼管単体が、長さ方向、幅方向及び厚さ方向に必要な個数並べて配置されていてもよい。
【0026】
更に、上記水門凍結防止装置では、前記誘導発熱鋼管は、所定個数の前記誘導発熱鋼管単体毎に、前記交流電源に接続されていてもよい。
【0027】
更に、上記水門凍結防止装置では、前記誘導発熱鋼管単体は、前記凍結防止範囲の被加熱部材に対して、溶接又はボルト締めにより固着されていてもよい。
【0028】
更に、上記水門凍結防止装置では、前記交流電源は、単相交流電源又は三相交流電源であってよい。
【0029】
更に、本発明に係る誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法は、水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材に、各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有する複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固着する工程と、前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に、絶縁電線を通す工程と、前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程とを含む、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法であって、複数個の前記柱状の強磁性鋼材は、相互に電気的に絶縁されている。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、発熱効率を一層向上させた新規な水門の凍結防止装置を提供することができる。
【0031】
更に、本発明によれば、伝熱効率を一層向上させた新規な水門の凍結防止装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係る誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の実施形態について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図中、同じ要素に対しては同じ符号を付して、重複した説明を省略する。
【0033】
[誘導発熱鋼管]
(誘導発熱鋼管単体)
図2及び図3に示す誘導発熱鋼管の特徴の1つは、鋼管1,1′の両端を電気的に接続する短絡片4,5(図1参照)は存在しない点にある。このため、1次電流i_(1)に対応して鋼管1,1′に流れる2次電流i_(2)は、鋼管断面の内周部分から外周部分に渦電流として流れる。そのジュール熱は、図1に示す誘導表皮電流発熱管のジュール熱の約2倍となり、発熱電力が大幅に増加する。
【0034】
なお、図2と図3の誘導発熱鋼管の相違は、図2の誘導発熱鋼管1,1′が管体形状であって、外周形状は円柱状であるのに対して、図3の誘導発熱鋼管1,1′は軸方向に(絶縁電線2を通すための)孔又は溝が形成された角形鋼管である点で相違する。図2及び図3に於いても、発熱鋼管1,1′の構造を分かり易くするため、その中心線に沿った面で破断した断面図で描かれていることに注意願いたい。誘導発熱鋼管は、孔又は溝を形成する必要から、短長寸法の構造となっている。
【0035】
更に、図3の誘導発熱鋼管1,1′は、絶縁電線2を通すための孔又は溝は、断面形状が角形の溝であっても、円形の孔であってもよい。更に、誘導発熱鋼管1,1′の外形形状は、断面で見て、外周の一辺が平面を形成していれば、他の辺は任意の形状であってよい。例えば、一辺が平面であって、その他は円状であれは、全体としてはかまぼこ形状なるが、このような形状であってもよい。後述するように、外形形状の平面部分を、被加熱部材の平面部分に対して固着することにより、両者を面接触することが出来るからである。
【0036】
誘導発熱鋼管の鋼管1,1′両端に電圧が誘起され発生している。このため、図2の誘導発熱鋼管1,1′は、図5に示すように、鋼管の内周面及び外周面を絶縁物6,6’で覆い、外部への影響(即ち、金属が接触してアークが発生したり、人体、動物が接触等した場合の危険)を無くしている。
【0037】
同様に、図3の誘導発熱鋼管1,1′は、図6に示すように、鋼管の内周面及び外周面を絶縁物6,6’で覆い、外部への影響を無くしている。図4の左側の図は、図5の誘導発熱鋼管1,1′の軸線に垂直方向の断面図であり、右側の図は、図6の誘導発熱鋼管1,1′の軸線に垂直方向の断面図である。
【0038】
絶縁物6,6’は、氷雪に対して耐久性のあるものであれば、任意のものであってよい。絶縁処理を耐久性絶縁物で処理した場合、発錆の心配が無く、凍結防止の被加熱部材の屋外箇所にも取付け可能である。
【0039】
なお、厳密には、誘導発熱鋼管1,1′への絶縁処理は、外周面及び端面のみに対して必要であって、孔の内周面に対しては不要である。孔に通されるのは絶縁電線2であり、また内周面に対して、金属が接触したり、人体、動物が接触することは無いからである。しかし、誘導発熱鋼管1,1′への絶縁処理は、内周面、外周面及び端面の全体に対して一括して処理する方が作業性はよい。
【0040】
先に、図2及び図3に示す誘導発熱鋼管の特徴の1つは、鋼管1,1′の両端を電気的に接続する短絡片4,5が存在しない点にあると説明した。即ち、図2及び図3の誘導表皮電流発熱管は、図1の誘導表皮電流発熱管から短絡片4,5を除去した構成として説明している。しかし、本発明のポイントの1つは、短絡片4,5を除去することにより、誘導発熱鋼管1,1′の外周部分に流れる渦電流をも利用する点にある。従って、図2及び図3の誘導発熱鋼管は、図1の誘導発熱鋼管のように2本(単相交流電源を利用する場合)又は3本(多層交流電源を利用する場合)に限定されず、任意の本数でよい。更に、絶縁電線2に流す電流の方向も、図1の誘導発熱鋼管のように、隣接する誘導発熱鋼管に対して反対方向に流す必要もなく、同じ方向でもよい。いずれも、図1の誘導発熱鋼管では、短絡片4,5を通して外周部分に流れる渦電流を相殺するために、反対向きの同じ大きさの電流である必要があったが、図2及び図3の誘導発熱鋼管にはこのような制約は存在しないからである。
【0041】
これまで、交流電源3が、単相交流の場合を説明したので、誘導発熱鋼管は2本又は偶数本であった。しかし、交流電源3は、三相交流電源であってもよい。この場合、誘導発熱鋼管は3本又は奇数本である。
【0042】
図5の円形鋼管7,7′及び図6の角型鋼管8,8′は、いずれも強磁性体鋼管で、短長寸法構造となっている。以下、説明にため、このような円形鋼管7,7′及び図6の角型鋼管8,8′を、「誘導発熱鋼管単体」とも言うこととする。
【0043】
(誘導発熱鋼管単体の配列方法)
この誘導発熱鋼管単体は、短長寸法構造のため、凍結防止が必要な範囲の被加熱部材に対して、複数個並べて取り付ける必要がある。このような被加熱部材は、水門の移動部材及びこの移動部材に隣接する静止部材である。図7は、複数本の管状発熱鋼管単体を軸方向に並べたものを2列用意し、列同士を相互に離して配置している例である。図9は、複数本の管状発熱鋼管単体を軸方向並べたものを4列用意し、列同士を相互に密着して配置した例である。図11は、複数本の角形発熱鋼管単体を軸方向に並べたものを4列用意し、列同士が相互に密着して配置した例である。このように、発熱鋼管単体は、管状であっても、角形であってもよく、軸方向に並べた本数も所望の本数であってよく、更に列同士が相互に離れていても、密着していてもよい。更に、このような複数本の管状発熱鋼管単体から成る列を、二重、三重に重ねて、多層化してもよい。
【0044】
図7では、管状誘導発熱鋼管単体7,7′,7”の列及び,7_(1)′,7_(2)′,7_(3)′の列を凍結防止が必要な箇所に、断面図である図8に示すように列同士が相互に離れるように取付けている。
【0045】
図9では、管状誘導発熱鋼管単体の4つの列を、凍結防止が必要な箇所に、断面図である図10に示すように列同士が相互に密着するように取付けている。
【0046】
図11では、角型誘導発熱鋼管単体の4つの列を、凍結防止が必要な箇所に、断面図である図12に示すように列同士が相互に密着するように取付けている。
【0047】
図8、図10及び図12に示す通り、誘導発熱鋼管は、水門の凍結防止が必要な被加熱部材に対して固着される。例えば、固定締付ボルト11と発熱管押さえ金具12とを用いて、凍結防止が必要な部材に対して固定される。複数個の発熱鋼管を固定して連結した後、絶縁電線2を発熱鋼管の中へ通し、この絶縁電線の両端に交流電源3を接続し通電して加熱する。
【0048】
また、交流電源3は、複数個連結した発熱鋼板単体全体に対して、1個である必要はない。或る程度まとまった個数の発熱鋼管単体毎に、交流電源3を用意することで、1箇所の断線等の不良による凍結防止装置の故障が、当該部分に限定され、凍結防止装置全体が故障することが避けられる。この場合、修復するためには、その部分に属する発熱鋼管単体を修理・交換すればよい。
【0049】
丸型誘導発熱鋼管7,7′の場合は線接触(図8参照)となるので、所望により、熱伝導を良くするために伝熱セメント10を充填塗布してもよい。
【0050】
これら円形及び角型誘導発熱鋼管は、従来の誘導表皮電流発熱管より約2倍の渦電流が利用出来るので、発熱効率は一層向上したものとなる。
【0051】
また、角型発熱鋼管のような平面部分を有する鋼管では、鋼管の平面が、凍結防止が必要な被加熱部材の平面部に対して面接触するので、伝熱効率は一層向上したものとなる。
【0052】
また、交流電源3は、単相交流電源でもよく、三相交流電源でもよい。
【0053】
(水門への設置方法)
この誘導発熱鋼管を水門の凍結防止が必要な箇所に設置した図を図19及び図20に、その拡大図を図21、図22、図23及び図24に、夫々示す。
【0054】
図19の扉体断面中央部鋼板9及び扉体前部鋼板29の裏面には、池水22上面の氷雪15,16(図14参照)による影響が無いように、誘導発熱鋼管の各群38,39,40が夫々取付けられる。
【0055】
図21に示すように、誘導発熱鋼管の各群38,39,40は、扉体断面中央部鋼板9及び扉体前部鋼板29の平面又は曲面に沿って配置され、誘導発熱鋼管7,7′及び8,8′の所要本数を、固定締付ボルト11と発熱鋼管押さえ金具12等で設置される(図8,10図,12図参照)。
【0056】
図22に示すように、扉体断面中央鋼板9及び扉体前部鋼板29の底部には底部水密ゴム板18があり、この水密ゴムの凍結防止のため、水門戸当板19裏面にも誘導発熱鋼管7,7′及び8,8′が取付けられる。また、底部水密ゴム板18の押さえ板と一緒に誘導発熱鋼管41を取付け、誘導発熱鋼管41の伝熱で底部水密ゴム板18を加熱して凍結を防止する。
【0057】
図23及び図24に示すように、水門の扉体誘導溝28のローラー23及び側部水密ゴム板24附近の凍結防止のために、誘導発熱鋼管の各群43,44,45,46が取付けられる。誘導発熱鋼管の各群43,44,45は、溝形成板24の外面に取付けられ、発熱鋼管から直接の加熱によって氷雪27(図15参照)を溶融し、誘導発熱鋼管46は側部水密ゴム板25の押さえ板と一緒に側部水密ゴム板25を加熱する。誘導発熱鋼管47,48は、いずれも溝形成板24,26の裏側に取付けられる。
【0058】
これらいずれの誘導発熱鋼管38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48も、水門の凍結防止必要熱量に従って、誘導発熱管7,7′及び8,8′の発生電力に伴う使用本数で、図8,10図,12図に関連して説明した誘導発熱管7,7′及び8,8′の配列方法により設置される。
【0059】
[実施形態の利点・効果]
本実施形態に係る誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置は、次のような利点・長所を有する。
【0060】
(1)この誘導発熱鋼管では、一層大きな渦電流を利用することが出来、発熱効率を向上することが出来る。
【0061】
図2及び図3の強磁性鋼管1,1′に絶縁電線2を通して交流電源3より1次電流i_(1)を通電することにより、鋼管1,1′に鋼管断面の内周部と外周部に2次電流i_(2)が流れ、鋼管1,1′には図1の誘導表皮電流発熱管1,1′より約2倍のジュール熱が発生して加熱される。
【0062】
発熱電力が大幅に増加するため、従来の誘導表皮電流発熱管(図1参照)に比較して、一層少ない本数で済む。発熱管取付けの取り付け作業も軽減される。閉回路を形成するための短絡片の設置も必要が無く、溶接作業が軽減される。
【0063】
(2)外形の一辺が平面状の誘導発熱鋼管を採用することで、伝熱効率を向上させることが出来る。
【0064】
例えば、角型誘導発熱鋼管のような外形の一辺が平面状の誘導発熱鋼管を採用することで、被加熱部材の平面部に対して固着して、両者を面接触させることができる。管状誘導発熱鋼管では、被加熱部材の平面部に対して線接触である。従って、角型誘導発熱鋼管のような発熱鋼管を採用することで、伝熱効率を向上させることが出来る。
【0065】
(3)この誘導発熱鋼管は、比較的短長寸法であるので、任意の被加熱部材に適合することが出来る。
【0066】
凍結防止が必要な範囲に対して、比較的短長寸法の誘導発熱鋼管単体を必要個数用意すればよく、水門の任意の大きさ(長さ、幅等)の範囲に対して、凍結防止装置を構成することが出来る。誘導発熱鋼管単体は、長さ方向、幅方向及び厚さ方向に、所望の個数用意し、凍結防止装置を構成することが出来る。
【0067】
(4)或る程度の個数毎の強磁性誘導発熱鋼管単体に対して、交流電源を用意することで、一箇所で発生した不良が、凍結防止装置全体に及ぶのを防ぐことが出来る。この場合、不良発生箇所単位で修理・交換すれば良く、保守作業も効率的に行える。
【0068】
(5)強磁性鋼管1,1′の絶縁処理を耐久性絶縁物で処理した場合、発錆の心配が無く凍結防止の屋外箇所にも取付け可能である。
【0069】
(6)誘導発熱鋼管単体の本数は、任意の本数でよい。更に、流す電流の方向も、任意の方向でよい。
【0070】
図1の誘導発熱鋼管では、短絡片4,5を通して相殺するために、反対向きの同じ大きさの電流を発生させる必要があったが、図2及び図3の誘導発熱鋼管にはこのような制約は存在しないからである。
【0071】
[代替例他]
以上、本発明に係る誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の実施形態を説明したが、これらは例示であって、本発明を限定するものではない。当業者が、本実施形態に対して容易になしえる追加・変更・削除・変更・改良等は本発明に含まれる。本発明の技術的範囲は、添付の特許請求の範囲の記載によって定められる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、従来の誘導表皮電流発熱管の原理を説明する図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る誘導発熱鋼管の原理を説明する図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る角形誘導発熱鋼管の原理を説明する図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る誘導発熱鋼管の断面構造を示す図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る円形誘導発熱鋼管の斜め断面構造図である。
【図6】図6は、本実施形態に係る角形誘導発熱鋼管の斜め断面構造図である。
【図7】図7は、本実施形態に係る円形誘導発熱鋼管の連結構造を説明する図である。
【図8】図8は、本実施形態に係る円形誘導発熱鋼管の水門戸当板への設置取付け方法を示す断面図である。
【図9】図9は、本実施形態に係る円形誘導発熱鋼管の密接連結構造を説明する図である。
【図10】図10は、本実施形態に係る円形誘導発熱鋼管を密接して水門戸当板へ設置した取付け断面図である。
【図11】図11は、本実施形態に係る角形誘導発熱鋼管の密接連結構造を説明する図である。
【図12】図12は、本実施形態に係る角形誘導発熱鋼管を密接して水門戸当板へ設置した取付け断面図である。
【図13】図13は、水門の正面図である。
【図14】図14は、水門扉体部の氷雪による凍結状態を示す縦断側面図である。
【図15】図15は、水門扉体誘導溝部の氷雪による凍結状態を示す横断面図である。
【図16】図16は、公知の誘導表皮電流発熱管による凍結防止装置を施した水門扉体部の縦断側面図である。
【図17】図17は、従来の誘導表皮電流発熱管による凍結防止装置を施した水門扉体誘導溝部の横断面図である。
【図18】図18は、従来の誘導表皮電流発熱管を水門鋼板製戸当板及び溝形成板に設置した断面拡大図である。
【図19】図19は、本実施形態に係る円形及角型誘導発熱鋼管による凍結防止装置を施した水門扉体部の縦断側面図である。
【図20】図20は、本実施形態に係る円形及角型誘導発熱鋼管による凍結防止装置を施した水門扉体誘導溝部の横断面図である。
【図21】図21は、本実施形態に係る円形及角型誘導発熱鋼管を施した水門扉体前部への設置取付け縦断面拡大図である。
【図22】図22は、本実施形態に係る円形及角型誘導発熱鋼管を施した水門扉体底部への設置取付け縦断面拡大図である。
【図23】図23は、本実施形態に係る円形及角型誘導発熱鋼管を施した水門扉体誘導溝部への設置取付け横断面拡大図である。
【図24】図24は、本実施形態に係る円形及角型誘導発熱鋼管を施した水門扉体誘導溝部への設置取付け横断面拡大図である。
【符号の説明】
【0073】
i_(1):電源側1次電流(A)、i_(2):鋼管側2次電流(A)、
1,1′:強磁性鋼管、2:絶縁電線、3:交流電源、4,5:短絡片、6,6′:絶縁物、7,7′,7”,7_(1)′,7_(2)′,7_(3)′:円形強磁性誘導発熱鋼管、8,8′:角型強磁性誘導発熱鋼管、9:扉体断面中央部鋼板、10:伝熱セメント、11:固定締付ボルト、12:発熱鋼管押さえ金具、13:扉体、14:扉体両側支持構造、15,16:氷雪、17:門扉巻上ロープ、18:底部水密ゴム板、19:水門戸当板、20,21:氷雪、22:池水、23:ローラー、24:溝形成板、25:側部水密ゴム板、26:戸当板、27:氷雪、28:扉体誘導溝、29:扉体前部鋼板、30,31,32,33,34,35,36:誘導表皮電流発熱管の各群、37:溶接、38,39,40,41,43,44,45,46:円形及び角型誘導発熱鋼管の外部取付けの各群、42,47,48:円形及び角型誘導発熱鋼管のコンクリート側取付けの各群、
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材である戸当板のコンクリート充填側に、各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有する複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と、
前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に、絶縁電線を通す工程と、
前記戸当板のコンクリート充填側と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程と、
前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程とを含み、並列の前記複数個の誘導発熱鋼管単体が、同一の押さえ金具に溶接されており、さらに、該押さえ金具が前記戸当板のコンクリート充填側に溶接されている、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と、前記戸当板のコンクリート充填側と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程とによって、前記複数個の誘導発熱鋼管単体を相互に電気的に絶縁する、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項3】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記柱状の強磁性鋼材の外側表面は絶縁処理されている、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項4】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記柱状の強磁性鋼材は、軸方向に短長寸法の管形鋼管である、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項5】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記柱状の強磁性鋼材は、軸方向に短長寸法の角形鋼管であり、前記凍結防止範囲の戸当板のコンクリート充填側に対して面接触して固着する、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項6】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記誘導発熱鋼管は、複数個の前記誘導発熱鋼管単体が、長さ方向、幅方向及び厚さ方向に必要な個数並べて配置されている、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項7】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記誘導発熱鋼管は、所定個数の前記誘導発熱鋼管単体毎に、前記交流電源に接続されている、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
【請求項8】
請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法において、
前記交流電源は、単相交流電源又は三相交流電源である、誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-06-23 
結審通知日 2011-06-30 
審決日 2011-07-20 
出願番号 特願2008-105963(P2008-105963)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (E02B)
P 1 113・ 841- ZA (E02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西田 秀彦  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮崎 恭
土屋 真理子
登録日 2009-10-02 
登録番号 特許第4379825号(P4379825)
発明の名称 誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置  
代理人 高橋 要泰  
代理人 小泉 淑子  
代理人 大平 拓治  
代理人 大平 拓治  
代理人 尾崎 英男  
代理人 堀籠 佳典  
代理人 古城 春実  
代理人 上野 潤一  
代理人 尾崎 英男  
代理人 小泉 淑子  
代理人 牧野 知彦  
代理人 小林 武  
代理人 玉城 光博  
代理人 上野 潤一  
代理人 高橋 要泰  
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