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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1264602
審判番号 不服2010-16412  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-21 
確定日 2012-10-12 
事件の表示 特願2005-378536「漏れ磁束を制御できる高周波トランスのコイル組立体及び該組立体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月12日出願公開,特開2007-180352〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年12月28日の出願であって,平成20年11月27日付けの拒絶理由通知に対して,平成21年2月2日に手続補正書及び意見書が提出され,同年9月8日付けの拒絶理由通知(最後)に対して,同年11月16日に意見書が提出されたが,平成22年4月13日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年7月21日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日に手続補正書が提出され,その後,当審において平成23年10月28日付けで審尋がされ,平成24年1月4日に回答書が提出されたものである。

第2 平成22年7月21日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年7月21日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,本件補正前の請求項1を本件補正後の請求項1とする補正を含むものであって,本件補正前後の請求項1は次のとおりである。
(1)本件補正前の請求項1
「軸方向に併設する筒状の一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねた高周波トランスのコイル組立体にあって,予め上記一次コイルを形成する巻線と上記二次コイルを形成する巻線とを上記の噛合状態に並行に重ねる部分同士で捻り合わせて一連の巻線としておき,該一連の巻線を1コイルとして巻回することにより上記一次コイル及び上記二次コイル並びに両コイル間の上記噛合状態を形成したことを特徴とする高周波トランスのコイル組立体。」
(2)本件補正後の請求項1
「軸方向に併設する筒状の一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねた高周波トランスのコイル組立体にあって,予め上記一次コイルを形成する平角帯状の巻線と上記二次コイルを形成する平角帯状の巻線とを上記の噛合状態に並行に重ねる部分同士で捻り合わせて一連の巻線としておき,該一連の巻線を1コイルとして巻回することにより上記一次コイル及び上記二次コイル並びに両コイル間の上記噛合状態を形成したことを特徴とする高周波トランスのコイル組立体。」

2 補正内容の検討
本件補正前の請求項1を本件補正後の請求項1とする上記の補正は,次の補正事項をその内容とするものである。
<補正事項>
補正前の「上記一次コイルを形成する巻線と上記二次コイルを形成する巻線」との事項を補正後の「上記一次コイルを形成する平角帯状の巻線と上記二次コイルを形成する平角帯状の巻線」とすること。

上記補正事項について,新規事項の追加の有無及び補正目的の適否を検討する。上記補正事項は,本願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)の請求項2,【0012】及び【0015】に基づくものであるから,上記補正事項は,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。また,上記補正事項は,補正前の「巻線」を補正後の「平角帯状の巻線」と限定するものであるから,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
したがって,上記補正事項は,特許法17条の2第3項の規定に適合し,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下「特許法第17条の2第4項」という。)第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件の検討
以上で検討したとおり,上記補正事項を含む本件補正は,特許法17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含んでいる。そこで,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて,以下で更に検討する。

3-1 本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記1(2))。

3-2 引用例に記載された事項と引用発明
(1)引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2004-103624号公報(以下「引用例」という。)には,図1?2とともに,次の記載がある(下線は当審で付加。以下同じ。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,各種電子機器などに使用されるトランス及びその製造方法に関し,さらに詳しくは,平角導体の幅方向に一定の曲率で曲げ加工を施して得られる,ヘリカルコイルを用い,結合定数が向上したトランスと,その製造方法に関するものである。」
「【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従って,本発明の技術的な課題は,エッジワイズコイルを用いた従来より小型のトランスで,及びその製造方法を提供し,併せて,このトランスを組み込む電子機器の小型化に寄与することにある。」
「【0012】
即ち,本発明は,平角導体の幅方向に一定の曲率で曲げ加工を施してなる,いわゆるエッジワイズコイルを2個用いて,一次コイル及び二次コイルとしたトランスにおいて,前記2個のエッジワイズコイルが,導体の層間に,ほぼ前記平角導体の厚さの間隙を有し,前記エッジワイズコイルの一方の導体の層間に,前記エッジワイズコイルの他方の導体が配置され,前記エッジワイズコイルを構成する平角導体の,軸方向に垂直な面の少なくとも一部が,交互に重なり合うように配置してなることを特徴とするトランスである。
【0013】
また,本発明は,前記2個のエッジワイズコイルのそれぞれが,ほぼ同じ幅と厚さの平角導体から構成され,ほぼ同一の巻線径を有し,巻線の中心がほぼ同じ位置に配置されてなることを特徴とする,前記のトランスである。」
「【0017】
本発明によるトランスにおいては,一次コイルと二次コイルの導体が交互に配置され,巻線の中心をほぼ共有しているので,実質的に2個のコイルが同一の空間に配置されることになる。このため,漏れインダクタンスを極めて小さくすることが可能であり,結合性を向上することも可能となる。」
「【0023】
図1は,本発明のトランスに用いるエッジワイズの一例を示す図で,図1(a)は,2個のエッジワイズコイルを組み立てた状態を示す斜視図,図1(b)は,2個のエッジワイズコイルを組み立てた状態を示す正面図である。
【0024】
図1に示したように,本発明では,第1のエッジワイズコイル1aと,第2のエッジワイズコイル1bの,それぞれの平角導体の層が,互いに他方の導体の層間に配置された状態となっている。なお,図1(b)では,識別のため,第2のエッジワイズコイル側にハッチングを施した。
【0025】
また,図2は,図1における,第1のエッジワイズコイル1aと,第2のエッジワイズコイル1bとを,それぞれ個別に示した斜視図である。図2において,2aは第1のエッジワイズコイル1aの,一方の端末部,2bは第1のエッジワイズコイル1bの,一方の端末部を示す。
【0026】
図1,図2に示したように,2個のエッジワイズコイル1a,1bは,同一サイズの平角導体からなり,巻線の径も同一で,巻線の層間には,ほぼ平角導体の厚さに対応した間隙が形成されている。そして,このエッジワイズコイルの例では,巻線工程が終了した後,全体にポリアミドイミドなどを塗装,硬化して強化絶縁を施すことができる。」
「【0028】
図4は,前記の組立て工程を終了したエッジワイズコイルを用いて,表面実装型トランスを構成した例を示す図で,図4(a)は,平面図,図4(b)は,側面図,図4(c)は,正面図である。ここでは,組立て後のエッジワイズコイル3に,ポリイミド樹脂フィルムなどからなる絶縁体5を介して,EI型のMn-Zn系フェライトコア4を組み付け,エッジワイズコイルの4箇所の端末それぞれに,折り曲げ加工を施し,表面実装用の端子とした。
【0029】
この例では,コイルに組み付ける磁心として,EI型のMn-Zn系フェライトを用いたが,磁心の形状としては,EE型など各種の形状が使用できることは勿論である。また,磁心の材質としては,前記のMn-Zn系フェライトの他に,高透磁率の各種材料を用いることができる。具体的には,Ni-Zn系フェライトのようなセラミックスの他,パーマロイ,珪素鋼板,アモルファス合金薄帯などの積層体が使用できる。
【0030】
【発明の効果】
以上に説明したように,本発明によれば,小型で,かつ結合性が高い,エッジワイズコイルを用いたトランス及びその製造方法が得られる。このトランスを用いることで,従来のエッジワイズコイルを用いていた機器類の,小型化や高性能化に寄与することができる。」

(2)引用発明
上記によれば,引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「平角導体の幅方向に一定の曲率で曲げ加工を施してなるエッジワイズコイルを2個用いて一次コイル及び二次コイルとしたトランスにおいて,前記2個のエッジワイズコイルが,導体の層間に,ほぼ前記平角導体の厚さの間隙を有し,前記エッジワイズコイルの一方の導体の層間に,前記エッジワイズコイルの他方の導体が配置され,前記エッジワイズコイルを構成する平角導体の,軸方向に垂直な面の少なくとも一部が,交互に重なり合うように配置され,前記2個のエッジワイズコイルのそれぞれが,ほぼ同一の巻線径を有し,巻線の中心がほぼ同じ位置に配置されてなることを特徴とするトランス。」

(3)周知例の記載
本願出願前の当業者の技術常識を示す文献として,原査定の拒絶理由に引用された文献を含め,以下の周知例1?4がある。
・周知例1:実願昭63-134161号(実開平2-54211号)のマイクロフィルム
・周知例2:特開2003-17328号公報
・周知例3:特開平3-16108号公報
・周知例4:特開平11-251159号公報

(3-1)周知例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例1には,次の記載がある。
ア 「以上のごとく構成した高周波トランスは一次,二次両巻線の導体断面が角形形状で,巻線窓の鍔幅よりやや小さい幅の導体幅を有し,しかも両巻線が巻線窓の鍔方向と直角方向に密接されて構成されるので巻線導体が巻線窓面積を,極めて効率よく使用し得る。」(明細書の第4頁7行?12行)
イ 「更に一次,二次巻線が交互に隣接して形成されることは同一外形形状に巻かれることになり巻線治具が一種類でよく,かつ両巻線が交互に隣り合う形に同時に巻線作業が出来,巻線作業を軽減できる。又,一次,二次巻線が交互に隣り合うことはいわゆるバイファイラ巻きとなることを意味するのでトランスとしての結合度がよくなる。」(明細書の第4頁14行?第5頁1行)
ウ 「第2図は本項案の一次巻線3,二次巻線4の構成例を示す外観斜視図である。図では一次巻線3は8回,二次巻線4は5回の巻回数であり,図のごとき巻線を構成するために,所望の巻線形上に合わせた一種類の治具を用いて,先ず一次巻線3に用いる角形導体を単独で2回巻回し,更にこれに二次巻線4に用いる中空角形導体を隣接付加して導体を2本並行に密接して5回巻回し,ここで二次巻線導体を切り離し,更に一次巻線導体のみ単独で一回巻回すれば同時に一次,二次巻線の巻線作業を一度に行なうことが出来る。」(明細書の第6頁14行?第5頁4行)
エ 「以上のごとく,本考案によれば一種類の巻線治具により同時に一次巻線,二次巻線の巻線作業を同時に行うことが出来,巻線コストを低減できる。・・・(中略)・・・総合して,全体として安価で,しかも電力変換効率,及び結合度の両面を向上した高周波トランスの提供が可能となる。」(明細書の第8頁4行?14行)
オ 第1図から,角形導体がエッジワイズ巻きされていることが見て取れる。

(3-2)周知例2の記載
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例2には,図1とともに次の記載がある。
「【0011】
【発明の実施の形態】以下,本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るインダクタンス素子を示す斜視図である。このインダクタンス素子は,磁界を発生する空心コイル状の巻線3が,2本の平角線4,5を巻線3の軸方向に重ねて螺旋巻きして形成されたものである。各平角線4,5の引出線4a,4b,5a,5bの両端部は,これに被覆されたエナメルなどの絶縁被覆が剥離除去されて,端子電極40,50とされている。」

(3-3)周知例3の記載
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例3には,第1?3図とともに,次の記載がある。
ア 「本発明は,例えばDC-DCコンバータの電力トランス等に用いられる小型高周波トランスの構成に関するものである。」(第1頁左下欄18行?19行)
イ 「第1図は本発明によるトランスの一実施例を示す正面断面図である。
磁性体からなるコア10は,巻軸12と,その両端に一体的に設けられたフランジ14,フランジl6を備えている。巻軸12には,絶縁層(図示せず)を介して積層された2本の箔状の導線30,40が,その幅広の面がコアの巻軸12の中心軸線Eにほぼ直角になるようにして螺旋状に巻回してある。
導線30,40を幅広の面がコアの巻軸12の中心軸線Eにほぼ直角になるようにしてコア10に巻回するには,軟質の銅線やアルミニウム線を圧延し偏平に成形すると同時に絶縁層を被覆しながら,2本の導線30,40を重ねて直接コア10に巻きつけることにより行なえる。あるいは,第2図に示すように片面に絶縁層20を被着した導線30A(イ)や全体を絶縁層20で被った導線30B(ロ)を2本重ねて,絶縁層20を溶剤で溶かしながら導線を成形してコア10に巻回してもよい。なお,第2図における31は導線の幅広の面を示している。」(第2頁右上欄20行?左下欄18行)
ウ 「本発明のトランスは,偏平な導線を例えば一次コイル,二次コイルとして,その幅広の面が巻軸の中心軸線にほぼ直角になるようにして交互に螺旋状に巻き込む構成なので,漏れ磁束が一次コイル,二次コイルに同時に鎖交し,結合係数のきわめて大きなものとなる。
コンピュータのシミュレーションによれば,従来の丸線を用いたトランスでは結合係数が98%が限界であったが,本発明によると99.99%程度にまで大幅に改善できることが分かった。」(第3頁左上欄3行?12行)

(3-4)周知例4の記載
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例4には,図1?6とともに,次の記載がある。
「【0010】
【発明の実施の形態】図1は,この発明のコモンモードチョークコイルの一例を示す斜視図であり,図2はその正面図である。
・・・(中略)・・・
【0011】巻装部14には,図3に示すように,2つの平角線26,28がエッジワイズ巻でバイファイラ巻されて巻線が形成される。平角線26,28は,断面四角形の銅線の表面を絶縁したものである。平角線26,28としては,その角形比(断面の縦方向と横方向の長さの比)が1:1?1:2の範囲にあるものが好ましいが,特に角形比が1:2のものが望ましい。このような角形比であれば,2つの平角線26,28を重ねることにより,角形比を1:1にすることができ,平角線26,28の長い断面横方向に巻回するエッジワイズ巻が容易となる。
【0012】これらの平角線26,28は,図5および図6に示すように,フランジ部18側からフランジ部16側に向かって巻き上げられ,所定の巻数だけ巻回したところで折り返されて,フランジ部18側に導かれる。これらの平角線26,28の両端部は,切欠き部20からフランジ部18の底面側に折り返される。そして,フランジ部18の底面において,平角線26の両端が電極22a,22bに接続され,平角線28の両端が電極24a,24bに接続される。したがって,電極22a,22b間に第1のコイルが形成され,電極24a,24b間に第2のコイルが形成される。」

3-3 補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。

・引用発明における「一次コイル及び二次コイル」は,「平角導体の幅方向に一定の曲率で曲げ加工を施してなるエッジワイズコイル」を「一次コイル及び二次コイルとした」ものであるから,補正発明における「筒状の一次コイルと二次コイル」に相当する。

・引用発明における「一次コイル及び二次コイル」は「2個のエッジワイズコイルのそれぞれが,ほぼ同一の巻線径を有し,巻線の中心がほぼ同じ位置に配置されてなる」ものであるから,補正発明と同様に「軸方向に併設する」「一次コイル及び二次コイル」であるといえる。

・引用発明における「一次コイル及び二次コイル」は,「2個のエッジワイズコイルが,導体の層間に,ほぼ前記平角導体の厚さの間隙を有し,前記エッジワイズコイルの一方の導体の層間に,前記エッジワイズコイルの他方の導体が配置され,前記エッジワイズコイルを構成する平角導体の,軸方向に垂直な面の少なくとも一部が,交互に重なり合うように配置され」たものであるから,補正発明と同様に「一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねた」ものであるといえる。

・引用発明は「エッジワイズコイルを2個用いて一次コイル及び二次コイルとしたトランス」であるから,「トランスのコイル組立体」を開示するものであることは明らかである。

以上を総合すると,補正発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「軸方向に併設する筒状の一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねたトランスのコイル組立体。」である点。

<相違点1>
補正発明は「予め上記一次コイルを形成する平角帯状の巻線と上記二次コイルを形成する平角帯状の巻線とを上記の噛合状態に並行に重ねる部分同士で捻り合わせて一連の巻線としておき,該一連の巻線を1コイルとして巻回することにより上記一次コイル及び上記二次コイル並びに両コイル間の上記噛合状態を形成した」ものであるのに対し,引用発明はそのように形成したものではない点。

<相違点2>
補正発明は「高周波トランスのコイル組立体」であるのに対し,引用発明は「高周波トランス」とは特定されていない点。

3-4 相違点についての判断
(1)相違点1について
上記周知例1?4には,次のことが記載されているものと理解できる。
・周知例1には,断面が角形形状の一次,二次巻線が交互に隣接して形成されたコイルを,導体を2本並行に密接して巻回して形成することが記載されている。
・周知例2には,2本の平角線4,5を巻線3の軸方向に重ねて螺旋巻きしたコイルが記載されている。
・周知例3には,偏平な導線を一次コイル,二次コイルとして,その幅広の面が巻軸の中心軸線にほぼ直角になるようにして交互に螺旋状に巻き込む構成を,2本の導線30,40を重ねて直接コア10に巻きつけて形成することが記載されている。
・周知例4には,第1のコイル及び第2のコイルとなる2つの平角線26,28がエッジワイズ巻でバイファイラ巻されて巻線が形成され,当該巻線が,2つの平角線26,28がフランジ部18側からフランジ部16側に向かって巻き上げられて形成されることが記載されている。
以上によれば,次のようなコイル(以下「周知のコイル」という。)が,本願出願前において既に周知であったといえる。
「一次コイル及び二次コイルとなる2本の平角線を,幅広の面が巻軸の中心軸線にほぼ直角になるようにして(エッジワイズ巻),交互に隣接して螺旋巻き(バイファイラ巻)されたコイルであって,2本の平角線を重ねてから巻きつけて形成したコイル」

上記周知のコイルの構造は,引用発明のコイルと同様に「一次コイルと二次コイルの導体が交互に配置され,巻線の中心をほぼ共有しているので,実質的に2個のコイルが同一の空間に配置される」ものであることは明らかであるから,引用例の【0017】に照らし,「漏れインダクタンスを極めて小さくすることが可能であり,結合性を向上することも可能となる」との作用を有するものであると理解できる。また,周知例1(上記3-2,(3),(3-1),イ),周知例3(上記3-2,(3),(3-3),ウ)にも,上記周知のコイルが引用例の上記作用と同様の作用を有することが示されている。
そうすると,引用発明における「一次コイル及び二次コイル」を,同様の作用を有する上記周知のコイルに変更することは,当業者が適宜なし得た設計変更であるということができる。
ここで,上記周知のコイルにおける「2本の平角線を重ねてから巻きつけて形成」することが,補正発明における「予め上記一次コイルを形成する平角帯状の巻線と上記二次コイルを形成する平角帯状の巻線とを上記の噛合状態に並行に重ねる部分同士で捻り合わせて一連の巻線としておき,該一連の巻線を1コイルとして巻回することにより上記一次コイル及び上記二次コイル並びに両コイル間の上記噛合状態を形成」することに相当することは,明らかである。
したがって,引用発明において相違点1に係る構成とすることは,上記周知技術に照らし,当業者が容易になし得たことである。

さらに,「予め上記一次コイルを形成する平角帯状の巻線と・・・上記噛合状態を形成した」ことによる効果は,「より一層簡単迅速に製作でき,コストダウンできる。」(本願明細書【0013】)であると解されるところ,当該効果は例えば周知例1にも記載された効果であるから(上記3-2(3)(3-1)エ),当業者が予測し得た程度のものであって格別のものではない。

(2)相違点2について
引用例の【0028】?【0029】には,引用発明のトランスにおいてフェライトコアを用いることが記載されているところ,高周波トランスにおいてフェライトコアを用いることは,例えば特開2003-285032号公報(【0002】参照。),特開平9-92541号公報(【0002】参照),特開平7-192931号公報(【0002】,【0005】参照)等にも記載された,当業者の技術常識である。また,「一次コイルと二次コイルとの一部乃至全部の巻線相互を噛合状態に並行に重ねた」コイルを高周波トランスに適用することは,上記周知例1(3-2,(3-1)エ),周知例3(3-2,(3-3)ア)にも記載された周知の技術である。
そうすると,引用発明の「トランス」を「高周波トランス」とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(3)小括
上記(1)(2)のとおり,相違点1及び2に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。したがって,補正発明は,引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

3-5 独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項(以下「特許法17条の2第5項」という。)において準用する同法126条5項の規定に適合しない。

4 補正却下の決定についてのまとめ
以上検討したとおり,本件補正は,特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合しないものであるから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年7月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?2に係る発明は,平成21年2月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものであり,その内の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,上記第2,1(1)に本件補正前の請求項1として摘記したとおりのものである。

2 引用発明
引用発明は,上記第2,3-2(2)で認定したとおりのものである。

3 対比・判断
上記第2,2で検討したように,補正発明は,本件補正前の請求項1について,上記第2,2に示した補正事項の点を限定したものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをさらに限定したものである補正発明が,上記第2,3で検討したとおり,引用発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものということができる。

4 本願発明についての結論
以上検討したとおり,本願発明は,引用発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結言
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-21 
結審通知日 2012-03-28 
審決日 2012-08-27 
出願番号 特願2005-378536(P2005-378536)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
P 1 8・ 575- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小池 秀介  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 小川 将之
近藤 幸浩
発明の名称 漏れ磁束を制御できる高周波トランスのコイル組立体及び該組立体の製造方法  
代理人 今岡 憲  

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