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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
管理番号 1264676
審判番号 不服2008-30947  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-08 
確定日 2012-10-09 
事件の表示 特願2004-348998「潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年6月15日出願公開、特開2006-152222〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年12月1日の出願であって,平成19年11月9日付けで拒絶理由が通知され,平成20年5月14日に意見書及び手続補正書が提出され,同年9月2日付けで拒絶査定がされ,同年12月8日に拒絶査定に対する審判が請求され,その後,当審において,平成23年9月16日付けで拒絶理由が通知され,平成24年3月27日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載
平成20年5月14日付けの手続補正及び平成24年3月27日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲(以下,「特許請求の範囲」という。)及び発明の詳細な説明(以下,「発明の詳細な説明」という。)には,以下の事項が記載されている。

1 本願の特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された特許を受けようとする発明(以下,それぞれ,「本願発明1」?「本願発明4」といい,合わせて「本願発明」という。)は,特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
主要量の基油および少量の潤滑剤添加物を含んで成る潤滑剤組成物において、該潤滑剤添加物は(a)ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、並びにアルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物、から成る群から選ばれる少なくとも一つのメンバーを各々独立して含む、第1の分散剤および第2の分散剤、
ここで、該第1の分散剤のヒドロカルビル置換基は、ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された1500から2500の範囲の数平均分子量を有し、
ここで、該第2の分散剤のヒドロカルビル置換基は、ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された800から1200の範囲の数平均分子量を有し、
ここで、該第1および第2の分散剤の少なくとも1つのヒドロカルビル置換基は、(a)55?65重量%の抽残油I生成流と(b)35?45重量%のイソブチレンとを含む反応混合物から誘導される重合生成物を含んで成る、及び(b)ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が50,000?250,000の範囲の実質的に直鎖のブロック共重合体を含んで成る粘度指数向上剤、を含んで成り、該ブロック共重合体は炭素数が5以上の共役ジエン単量体とモノアルケニルアレーン単量体とから誘導され、該ブロック共重合体の芳香族含量が10?50重量%であり、オレフィン不飽和度が0.5?5重量%の範囲にあることを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
(a)ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、並びにアルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物から成る群から選ばれる少なくとも一つのメンバーを各々独立して含む、第1の分散剤および第2の分散剤、
ここで該第1の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が1500?2500の範囲にあり、該第2の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が800?1200の範囲にあり;
第1および第2の分散剤の少なくとも一つのヒドロカルビル置換基は(i)55?65重量%の抽残油I生成流と(ii)35?45重量%のイソブチレンとを含む反応混合物から誘導される重合生成物を含んで成る、および
(b)ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が50,000?250,000の範囲にある実質的に直鎖のブロック共重合体を含んで成り、該ブロック共重合体はモノアルケニルアレーン単量体から誘導されるAブロック、および炭素数が5以上の共役ジエン単量体から誘導されるBブロックを有し、該ブロック共重合体は芳香族含量が10?50重量%であり、オレフィン不飽和度が0.5?5重量%である、粘度指数向上剤成分、を含んでなる潤滑剤添加物。
【請求項3】
可動部材の摩耗を減少させる方法において、
主要量の基油、
ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、並びにアルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物、から成る群から選ばれる少なくとも一つのメンバーを各々独立して含む、第1の分散剤および第2の分散剤、
ここで該第1の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が1500?2500の範囲にあり、該第2の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が800?1200の範囲にあり;そして
ここで第1および第2の分散剤の少なくとも一つのヒドロカルビル置換基は(a)55?65重量%の抽残油I生成流と(b)35?45重量%のイソブチレンとを含む反応混合物から誘導される重合生成物を含んで成る、及び
ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が50,000?250,000の範囲の実質的に直鎖のブロック共重合体を含んで成り、該ブロック共重合体は炭素数が5以上の共役ジエン単量体とモノアルケニルアレーン単量体とから誘導され、該ブロック共重合体の芳香族含量が10?50重量%であり、オレフィン不飽和度が0.5?5重量%の範囲にある、
粘度指数向上量の非剪断安定性をもつ少量の粘度指数向上剤、
ここで該粘度指数向上剤はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が50,000?250,000の範囲の実質的に直鎖のブロック共重合体を含んで成り、該ブロック共重合体は炭素数が5以上の共役ジエン単量体とモノアルケニルアレーン単量体とから誘導され、芳香族含量が10?50重量%であり、オレフィン不飽和度が0.5?5重量%の範囲にある、
を含んでなる潤滑剤添加物、を可動部材と接触させることを含んでなる方法。
【請求項4】
鉱油の基質原料と潤滑剤添加物とを潤滑剤組成物中の粒子の分散性を向上させるに充分な量で含む潤滑剤組成物を可動部材の少なくとも一つと接触させることを含んでなる輸送車両の可動部材を潤滑する方法において、該潤滑剤添加物は
(a)ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、並びにアルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物から成る群から選ばれる少なくとも一つのメンバーを各々独立して含む、第1の分散剤および第2の分散剤、
ここで該第1の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が1500?2500の範囲にあり、該第2の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が800?1200の範囲にあり;そして
ここで第1および第2の分散剤の少なくとも一つのヒドロカルビル置換基は(i)55?65重量%の抽残油I生成流と(ii)35?45重量%のイソブチレンとを含む反応混合物の重合生成物を含んで成る、及び
(b)ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が50,000?250,000の範囲にある実質的に直鎖のブロック共重合体を含んで成り、該ブロック共重合体はモノアルケニルアレーン単量体および炭素数が5以上の共役ジエン単量体から誘導され、該ブロック共重合体は芳香族含量が10?50重量%であり、オレフィン不飽和度が0.5?5重量%である粘度指数向上剤、
を含んでなる方法。」

2 本願の発明の詳細な説明の記載
(a)「【0001】
本発明は潤滑剤および該潤滑剤のレオロジー特性を改善するためのその添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
油、特に潤滑油のレオロジー特性は温度によって変化する。多くの油は広い範囲の温度に亙って使用されるから、油のレオロジー特性をこのような広い温度範囲に亙って維持することが重要である。鉱油の潤滑剤に対しては、油のレオロジー特性を保持するために典型的には添加剤が使用される。
【0003】
潤滑油のレオロジー特性の一つの指標は、本明細書において「粘度指数」と呼ばれる温度と粘度との関係であり、これは標準的な方法で決定することができる。油の粘度指数が高いほど、油の粘度の温度依存性は低くなる。低い粘度指数をもった油に対しては油の中に粘度指数向上剤組成物が含まれている。しかし、すべての粘度指数向上剤が同じ性能をもっているわけではない。潤滑油の使用は広がり続けより複雑になっているから、改善された潤滑油組成物がなお必要とされている。」
(b)「【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の概要
本発明の一具体化例においては、主要量の鉱油の潤滑剤および少量の潤滑剤添加物を含む潤滑剤組成物が提供される。該潤滑剤添加物は、ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、並びにアルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物から成る群から選ばれる少なくとも一つのメンバーを含む分散剤を含有している。
【0005】
他の具体化例においては、ヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約800?約1200の範囲にあり、重合生成物の約70モル%以上が末端のビニリデン基をもっている抽残油I生成流とイソブチレンとの重合生成物を含んでいる。また添加物の中にはゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約50,000?約250,000の実質的に直鎖のブロック共重合体を含む粘度指数向上剤も含まれている。このブロック共重合体は炭素数が5以上の共役ジエン単量体とモノアルケニルアレーン単量体とから誘導される。また、このブロック共重合体は芳香族含量が約10?約50重量%であり、オレフィン不飽和度が約0.5?約5重量%の範囲にある。
【0006】
他の具体化例においては、潤滑剤添加物が提供される。この潤滑剤添加物は
(a)ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、並びにアルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物から成る群から選ばれる少なくとも一つのメンバーを含む第1の分散剤、および (b)ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、並びにアルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物から成る群から選ばれる一つのメンバーを含む第2の分散剤を含む分散剤成分を含有している。
【0007】
第1の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約1500?約2500である。第2の分散剤はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約800?約1200である。」
(c)「【0010】
上記に説明した具体化例の利点は、それによって種々の用途に対する改善された潤滑剤が提供されることである。これらの潤滑剤は高温において粘度が劣化する傾向が少なく、また高温および低温の両方の環境において円滑にエンジンを作動させるのに重要な改善された低温特性をもっている。」
(d)「【0033】
本発明の分散剤組成物は少なくとも第1および第2の分散剤を含み、これらの分散剤はそれぞれ、これだけに限定されないが、無灰分散剤、例えばヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、およびアルデヒドと縮合させたヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物から成る群から選ばれる。第1の分散剤は好ましくはゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約1800?約2500の範囲のヒドロカルビル置換基をもち、第2の分散剤は好ましくはゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約800?約1200の範囲のヒドロカルビル置換基をもっている。特に好適な具体化例においては、第1の分散剤は後処理された分散剤であり、第2の分散剤は上記の抽残油Iとイソブテンとの混合物から重合させて得られたヒドロカルビル置換基を含んでいる。」
(e)「【0051】
上記のように、本明細書記載の具体化例による潤滑剤組成物は第1の分散剤と第2の分散剤の混合物、並びに粘度指数向上剤を含んでいる。第1および第2の分散剤はそれぞれヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換フェノールをフォルムアルデヒドおよびポリアルキレンポリアミンと縮合させて得られるマンニッヒ塩基分散剤、およびヒドロカルビル置換アミンから選ばれる。第1および第2の分散剤の少なくとも一つは好ましくはゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約1800?約2200の範囲であり、第1および第2の分散剤の少なくとも一つは好ましくはゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約800?約1200の範囲である。最も好ましくは分子量が低い方の分散剤はイソブテンと抽残油I生成流との重合生成物から誘導されるヒドロカルビル基を含んでいる。」
(f)「【0053】
上記の具体化例に従った市販されている分散剤は、これが全部ではないが、次のものが含まれる。
【0054】
HiTEC^((R))644分散剤はMW_(N)が1000のPIBSA+ポリアミンである。
【0055】
HiTEC^((R))646分散剤はMW_(N)が1300のPIBSA+ポリアミンである。
【0056】
HiTEC^((R))1921分散剤はMW_(N)が2100のPIBSA+ポリアミンをノニルフェノール、フォルムアルデヒドおよびグリコール酸で後処理した、SA/PIBのモル比が1.6の分散剤である。
【0057】
HiTEC^((R))643分散剤はMW_(N)が1300のPIBSA+ポリアミンであり、この分散剤はマレイン酸無水物および硼酸で後処理されたものである。
【0058】
HiTEC^((R))1919分散剤はMW_(N)が2100のPIBSA+ポリアミンをノニルフェノール、フォルムアルデヒドおよびグリコール酸で後処理したものである。
【0059】
HiTEC^((R))1932分散剤はMW_(N)が2100のPIBSA+ポリアミンであり、SA/PIBのモル比が1.6の分散剤である。
【0060】
HiTEC^((R))7049分散剤はMW_(N)が2100のPIB-フェノール/マンニッヒ反応生成物である。
【0061】
上記の分散剤はすべて米国バージニア州、RichmondのEthyl Corporationから市販されている。「PIBSA」はポリイソブチレン琥珀酸または琥珀酸無水物として定義される。「SA/PIB」の比はPIBSA付加物中の琥珀酸またはその無水物のモル数対PIBのモル数の比である。
【0062】
分散剤の混合物は下記表1に示すようにしてつくることができる。表1は単に本発明で製造し使用できる混合物の代表的なものであり、本発明の具体化例をいかなる方法においても限定するものではない。
【0063】
【表1】


(g)「【実施例】
【0064】
ここに記載したスチレン/イソプレン粘度指数向上剤を使用する利点を示すために、上記の分散剤抑制剤パックおよび下記表に示した粘度指数向上剤を含む調合物をつくった。API Group IIの調合物において実験用のGF-4 10W40乗用車用モーターオイルに関し配合の研究を行った。ASTM 6278-02に記載されたBosch剪断サイクルを30回行った後の10W40モーター・オイルに対する等級(grade)動粘度(KV)の限度におけるAPIのステイ値(stay)は100℃において11.5センチストークス(cSt)である。-25℃における低温クランク・シミュレーターの結果(CCS)をセンチポイズ(cP)単位で下記の表に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
上記の調合物に示されているように、スチレン/イソプレン共重合体VIIを含む潤滑剤組成物(配合物3)は低温クランク粘度(CCS)が低く、剪断サイクルの後においてAPIの等級の必要条件におけるAPIのステイ値に関して合格する等級をもっていた。配合物1の調合物は等級の必要条件におけるAPIのステイ値が不合格であった。オレフィンVII共重合体を含む調合物は、調合物中のオレフィン共重合体の量を増加させることによりBosch剪断試験に合格することができるが、調合物中のオレフィン共重合体の量を増加させると、低温クランク・シミュレーターの粘度が7000cPを越え、この試験に不合格な調合物が得られる。配合物3は調合物中にもっと多くの共重合体を含んでいるが、低温クランク粘度は配合物1および2に対するCCSに比べ著しく低い。
【0067】
下記の表においては、オレフィン共重合体VIIおよびスチレン/イソプレン共重合体VIIを含む調合物の低温クランク粘度を比較する。
【0068】
【表3】

【0069】
上記配合物によって示されるように、スチレン/イソプレン共重合体VIIを含む潤滑剤配合物は、オレフィン共重合体VIIを含む調合物に比べ低い低温クランク粘度(CCS)(配合物1に比べて配合物2)を与える。また、スチレン/イソプレン共重合体VIIを含む調合物はもっと高価なGroup IIIの基油を少量しか使用しないで済ますことができる(配合物1に比べて配合物3)が、低温クランク粘度(CCS)は同程度であるか僅かに低い。」

第3 当審における拒絶の理由の概要
平成23年9月16日付けで通知された拒絶の理由の概要は,以下の理由を含むものである。
[理由1]本願は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから,同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
[理由2]本願は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものでないから,同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断
1 特許法第36条第4項第1号(理由2)について
(1)委任省令要件について
特許法第36条第4項は,「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない。」と規定し,特許法施行規則第24条の2は,「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならい。」と規定している。
そうすると,発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題及びその解決手段が発明の技術上の意義を理解できる程度に記載されていることを要するものと解される。

(2)検討
本願発明1?4は,それぞれ,
「第1の分散剤および第2の分散剤、
ここで、該第1の分散剤のヒドロカルビル置換基は、ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された1500から2500の範囲の数平均分子量を有し、
ここで、該第2の分散剤のヒドロカルビル置換基は、ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された800から1200の範囲の数平均分子量を有し」(請求項1),
「第1の分散剤および第2の分散剤、
ここで該第1の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が1500?2500の範囲にあり、該第2の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が800?1200の範囲にあり」(請求項2,請求項3,請求項4)との発明特定事項が含まれ,いずれも,ヒドロカルビル置換基の数平均分子量が,「1500?2500の範囲」にある「第1の分散剤」と「800?1200の範囲」にある「第2の分散剤」の2種類の分散剤を用いることを規定している。
この点に関して,発明の詳細な説明には,「第1の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約1500?約2500である。第2の分散剤はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約800?約1200である。」(摘記b参照),「第1の分散剤は好ましくはゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約1800?約2500の範囲のヒドロカルビル置換基をもち、第2の分散剤は好ましくはゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約800?約1200の範囲のヒドロカルビル置換基をもっている。」(摘記d参照),「第1および第2の分散剤の少なくとも一つは好ましくはゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約1800?約2200の範囲であり、第1および第2の分散剤の少なくとも一つは好ましくはゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が約800?約1200の範囲である。」(摘記e参照)と記載されているものの,ヒドロカルビル置換基の数平均分子量が,「1500?2500の範囲」にある第1の分散剤と「800?1200の範囲」にある第2の分散剤の2種類の分散剤を用いることによって,どのような発明の解決しようとする課題を解決し,また,それがその発明の解決しようとする課題において,どのような技術上の意義があるのかについて何ら記載されていない。
また,その他の発明の詳細な説明の記載をみても,ヒドロカルビル置換基の数平均分子量が「1500?2500の範囲」にある第1の分散剤と「800?1200の範囲」にある第2の分散剤の2種類の分散剤を用いることが,発明の解決しようとする課題において,どのような技術上の意義があるのか記載されておらず,技術常識を参酌しても当業者が理解できるように記載されているとはいえない。

(3)小括
以上のとおり,本願の発明の詳細な説明の記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものとはいえず,経済産業省令で定めるところにより,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものと認めることができない。

2 特許法第36条第6項第1号(理由1)について
上記1で述べたように,本願の発明の詳細な説明の記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものとはいえないが,仮に,本願の発明の詳細な説明の記載が,発明の解決しようとする課題及びその解決手段が,当業者にとって,発明の技術上の意義を理解できるように記載されているものとして,以下論ずる。

(1)明細書のサポート要件について
特許法第36条第6項は,「・・・特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,「特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり」(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号判決参照)と判示されている。
そこで,この観点にたって,本願の特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討する。

(2)本願発明の課題について
本願発明の課題は,発明の詳細な説明に,「本発明は潤滑剤および該潤滑剤のレオロジー特性を改善するためのその添加剤に関する。」(摘記a参照)と記載されているので,本願発明の課題は,少なくとも「レオロジー特性が改善された潤滑剤組成物」及び「潤滑剤のレオロジー特性を改善するための添加剤」の提供にあるものと認められる。
さらに,発明の詳細な説明には,「潤滑油のレオロジー特性の一つの指標は、本明細書において「粘度指数」と呼ばれる温度と粘度との関係であり・・・低い粘度指数をもった油に対しては油の中に粘度指数向上剤組成物が含まれている。しかし、すべての粘度指数向上剤が同じ性能をもっているわけではない。潤滑油の使用は広がり続けより複雑になっているから、改善された潤滑油組成物がなお必要とされている。」(摘記a参照),「上記に説明した具体化例の利点は、それによって種々の用途に対する改善された潤滑剤が提供されることである。これらの潤滑剤は高温において粘度が劣化する傾向が少なく、また高温および低温の両方の環境において円滑にエンジンを作動させるのに重要な改善された低温特性をもっている。」(摘記c参照)と記載され,「スチレン/イソプレン共重合体VIIを含む潤滑剤組成物(配合物3)は低温クランク粘度(CCS)が低く、剪断サイクルの後においてAPIの等級の必要条件におけるAPIのステイ値に関して合格する等級をもっていた。」(摘記g参照)と記載されているので,改善された「潤滑油のレオロジー特性」とは,より具体的には,「低温クランク粘度(CCS)が低く、かつ剪断サイクルの後においてAPIのステイ値に関して合格する等級をも」つものを意味するものと認められる。
そうすると,本願発明の課題は,「レオロジー特性を改善し、特には、低温クランク粘度(CCS)が低く、かつ剪断サイクルの後においてAPIのステイ値に合格する等級をもつ潤滑剤組成物」及びこのような潤滑剤組成物の「レオロジー特性を改善するための添加剤」を提供することと認められる。

(3)特許請求の範囲に記載された発明と発明の詳細な説明に記載された発明との対比
本願発明1?4は,
「潤滑剤添加物は(a)ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、並びにアルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物、から成る群から選ばれる少なくとも一つのメンバーを各々独立して含む、第1の分散剤および第2の分散剤、
ここで、該第1の分散剤のヒドロカルビル置換基は、ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された1500から2500の範囲の数平均分子量を有し、
ここで、該第2の分散剤のヒドロカルビル置換基は、ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された800から1200の範囲の数平均分子量を有し、
ここで、該第1および第2の分散剤の少なくとも1つのヒドロカルビル置換基は、(a)55?65重量%の抽残油I生成流と(b)35?45重量%のイソブチレンとを含む反応混合物から誘導される重合生成物を含んで成る、及び(b)ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が50,000?250,000の範囲の実質的に直鎖のブロック共重合体を含んで成る粘度指数向上剤、を含んで成り、該ブロック共重合体は炭素数が5以上の共役ジエン単量体とモノアルケニルアレーン単量体とから誘導され、該ブロック共重合体の芳香族含量が10?50重量%であり、オレフィン不飽和度が0.5?5重量%の範囲にあること」(請求項1),
「(a)ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、並びにアルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物から成る群から選ばれる少なくとも一つのメンバーを各々独立して含む、第1の分散剤および第2の分散剤、
ここで該第1の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が1500?2500の範囲にあり、該第2の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が800?1200の範囲にあり;
第1および第2の分散剤の少なくとも一つのヒドロカルビル置換基は(i)55?65重量%の抽残油I生成流と(ii)35?45重量%のイソブチレンとを含む反応混合物から誘導される重合生成物を含んで成る、および
(b)ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が50,000?250,000の範囲にある実質的に直鎖のブロック共重合体を含んで成り、該ブロック共重合体はモノアルケニルアレーン単量体から誘導されるAブロック、および炭素数が5以上の共役ジエン単量体から誘導されるBブロックを有し、該ブロック共重合体は芳香族含量が10?50重量%であり、オレフィン不飽和度が0.5?5重量%である、粘度指数向上剤成分、を含んでなる潤滑剤添加物。」(請求項2),
「ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、並びにアルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物、から成る群から選ばれる少なくとも一つのメンバーを各々独立して含む、第1の分散剤および第2の分散剤、
ここで該第1の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が1500?2500の範囲にあり、該第2の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が800?1200の範囲にあり;そして
ここで第1および第2の分散剤の少なくとも一つのヒドロカルビル置換基は(a)55?65重量%の抽残油I生成流と(b)35?45重量%のイソブチレンとを含む反応混合物から誘導される重合生成物を含んで成る、及び
ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が50,000?250,000の範囲の実質的に直鎖のブロック共重合体を含んで成り、該ブロック共重合体は炭素数が5以上の共役ジエン単量体とモノアルケニルアレーン単量体とから誘導され、該ブロック共重合体の芳香族含量が10?50重量%であり、オレフィン不飽和度が0.5?5重量%の範囲にある、
粘度指数向上量の非剪断安定性をもつ少量の粘度指数向上剤、
ここで該粘度指数向上剤はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が50,000?250,000の範囲の実質的に直鎖のブロック共重合体を含んで成り、該ブロック共重合体は炭素数が5以上の共役ジエン単量体とモノアルケニルアレーン単量体とから誘導され、芳香族含量が10?50重量%であり、オレフィン不飽和度が0.5?5重量%の範囲にある、
を含んでなる潤滑剤添加物」(請求項3),
「潤滑剤添加物は
(a)ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、並びにアルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物から成る群から選ばれる少なくとも一つのメンバーを各々独立して含む、第1の分散剤および第2の分散剤、
ここで該第1の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が1500?2500の範囲にあり、該第2の分散剤のヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が800?1200の範囲にあり;そして
ここで第1および第2の分散剤の少なくとも一つのヒドロカルビル置換基は(i)55?65重量%の抽残油I生成流と(ii)35?45重量%のイソブチレンとを含む反応混合物の重合生成物を含んで成る、及び
(b)ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が50,000?250,000の範囲にある実質的に直鎖のブロック共重合体を含んで成り、該ブロック共重合体はモノアルケニルアレーン単量体および炭素数が5以上の共役ジエン単量体から誘導され、該ブロック共重合体は芳香族含量が10?50重量%であり、オレフィン不飽和度が0.5?5重量%である粘度指数向上剤、
を含んでなる」(請求項4)と記載されているように,いずれも,
「潤滑剤添加物」が,
「(a)ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド、ヒドロカルビル置換アミン、並びにアルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物から成る群から選ばれる少なくとも一つのメンバーを各々独立して含む」,「ヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が1500?2500の範囲にあ」る「第1の分散剤」(以下,「第1の分散剤」という。)および「ヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が800?1200の範囲にあ」る「第2の分散剤」(以下,「第2の分散剤」という。)であって,「第1および第2の分散剤の少なくとも一つのヒドロカルビル置換基は(i)55?65重量%の抽残油I生成流と(ii)35?45重量%のイソブチレンとを含む反応混合物から誘導される重合生成物を含んで成る」ものであり,
および
「(b)ゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が50,000?250,000の範囲にある実質的に直鎖のブロック共重合体を含んで成り、該ブロック共重合体はモノアルケニルアレーン単量体」と「炭素数が5以上の共役ジエン単量体」から誘導され,「該ブロック共重合体は芳香族含量が10?50重量%であり、オレフィン不飽和度が0.5?5重量%である」「粘度指数向上剤」(以下,「特定の粘度指数向上剤」という。)を含むことをその発明特定事項としている。
一方,発明の詳細な説明には,上記「第1の分散剤」と「第2の分散剤」および上記「特定の粘度指数向上剤」を含む「潤滑剤添加物」を用いることによって,なぜ,本願発明の課題である「レオロジー特性の改善された潤滑組成物」を得ることができるのか,その理論的な根拠については記載されていない。
一方,発明の詳細な説明には実施例が記載され,その結果として,「表2」には,「分散剤抑制剤パック」及び「スチレン/イソプレン共重合体VII」を含む潤滑剤組成物(配合物3)は,低温クランク粘度(CCS)が低く,剪断サイクルの後においてAPIのステイ値に合格する等級をもっていることが,また,「表3」には,「分散剤抑制剤パック」及び「スチレン/イソプレン共重合体VII」を含む潤滑剤組成物(配合物2)は,低温クランク粘度(CCS)が低いことが示されている(摘記g参照)。
しかしながら,本願発明1?4で規定される「第1の分散剤」および「第2の分散剤」は,「ヒドロカルビル置換琥珀酸イミド」,「ヒドロカルビル置換アミン」並びに「アルデヒドおよびアミンと縮合したヒドロカルビル置換フェノールから誘導されるマンニッヒ塩基付加物」の3種類のいずれかから選ばれ,かつ,「第1および第2の分散剤の少なくとも一つのヒドロカルビル置換基は(i)55?65重量%の抽残油I生成流と(ii)35?45重量%のイソブチレンとを含む反応混合物から誘導される重合生成物を含んで成る」ものであり,さらに,「第1の分散剤」は「ヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が1500?2500の範囲にあり」,「第2の分散剤」は「ヒドロカルビル置換基はゲル浸透クロマトグラフ法で決定された数平均分子量が800?1200の範囲にあ」るものであるところ,実施例の「表2」,「表3」に示される「分散剤抑制剤パック」が,どのような種類の分散剤を使用したのか記載されていない。
実施例の「分散剤抑制剤パック」については,「上記の分散剤抑制剤パック」(摘記g参照)と記載され,その記載の上にある「表1」に市販された特定の「分散剤」の組み合わせが20とおり示されている(摘記f参照)ものの,「表2」及び「表3」に記載される「分散剤抑制剤パック」が,「表1」に示される20とおりの組合せのうちのいずれを使用したものなのか,あるいは「表1」に示された以外のものなのか,本願の発明の詳細な説明からは理解できない。
そうすると,発明の詳細な説明に記載されている実施例においては,本願発明1?4の発明特定事項である「第1の分散剤」及び「第2の分散剤」を含む「潤滑剤添加物」を用いているということができず,発明の詳細な説明には,本願発明の課題を解決できると当業者が認識することのできる具体的な裏付けを欠いているといわざるを得ない。
そして,潤滑剤は,添加剤の化合物の種類によりその性能が大きく左右されることは当業者の技術常識といえ,このような技術常識をも踏まえると,発明の詳細な説明は,本願発明1?4に規定する「第1の分散剤」および「第2の分散剤」を含む「潤滑剤添加物」を用いて本願発明の課題が解決できると当業者が認識し得る理論的な根拠も,そのための具体的な裏付けをも欠くものであるから,当業者が発明の詳細な説明から,本願発明の課題を解決し得ると認識することができたとは認められない。

(4)小括
以上検討したように,本願発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとも認められない。

第5 請求人の主張について
1 請求人の主張の概要
請求人は,平成24年3月27日付けの意見書において,以下のような主張をしている。

(1)特許法第36条第6項第1号(理由1)について
「本願発明の、該第1の分散剤のヒドロカルビル置換基がゲル浸透クロマトグラフ法で決定された1500から2500の範囲の数平均分子量を有し、該第2の分散剤のヒドロカルビル置換基がゲル浸透クロマトグラフ法で決定された800から1200の範囲の数平均分子量を有し、該第1および第2の分散剤のヒドロカルビル置換基が(a)55?65重量%の抽残油I生成流と(b)35?45重量%のイソブチレンとを含む反応混合物から誘導される重合生成物を含んで成る、第1の分散剤および第2の分散剤の組み合わせは、発明の詳細な説明に明確に開示されている。よって、実施例中にこのような分散剤の組み合わせの明確な開示がなくとも、発明の詳細な説明の記載は特許請求の範囲に記載された発明を十分にサポートするものである。」

(2)特許法第36条第4項第1号(理由2)について
「高い及び低い分子量を有する2つの分散剤を用いることの利益は、スラッジやピストン沈着物形成をコントロールするためのバランスのとれたアプローチ並びに潤滑組成物のためのレオロジー的特性を提供することにある。高い分子量の分散剤は一般にスラッジコントロール及び粘度上昇のためにより好ましいと見なされ、一方で、低い分子量の分散剤は低い粘度上昇を有するピストン沈着物コントロールのためにより好ましいと見なされる。従って、高い分子量と低い分子量の混合された系は、様々な性能要求および油ブレンドプロファイルに対処するための形成適応性を可能とするものである。
よって、2つの分散剤を用いることによる技術的意義は明確であり、本願の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たすものである。」

2 検討
請求人の主張について検討する。

(1)特許法第36条第6項第1号について
請求人は,「第1の分散剤および第2の分散剤の組み合わせは、発明の詳細な説明に明確に開示されている」と主張するが,それは文言として形式的に記載があるということにすぎず,上記「第4 2」で述べたように,本願の発明の詳細な説明には,本願発明1?4に規定する「第1の分散剤」および「第2の分散剤」を含む「潤滑剤添加物」を用いて本願発明の課題が解決できると当業者が認識し得る理論的な根拠も,そのための具体的な裏付けをも記載されていないから,当業者が発明の詳細な説明から,本願発明の課題を解決し得ると認識することができたとは認められず,特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
したがって,請求人の主張は採用できない。

(2)特許法第36条第4項第1号について
請求人は,「高い分子量の分散剤は一般にスラッジコントロール及び粘度上昇のためにより好ましいと見なされ、一方で、低い分子量の分散剤は低い粘度上昇を有するピストン沈着物コントロールのためにより好ましいと見なされる。従って、高い分子量と低い分子量の混合された系は、様々な性能要求および油ブレンドプロファイルに対処するための形成適応性を可能とするものである。」と主張しているが,このような事項については,本願の発明の詳細な説明に何ら記載がなく,本願の発明の詳細な説明は,当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものとはいえない。
さらに,「高い分子量の分散剤は一般にスラッジコントロール及び粘度上昇のためにより好ましいと見なされ、一方で、低い分子量の分散剤は低い粘度上昇を有するピストン沈着物コントロールのためにより好ましいと見なされる。従って、高い分子量と低い分子量の混合された系は、様々な性能要求および油ブレンドプロファイルに対処するための形成適応性を可能とするものである。」との事項が,本願発明の課題である「潤滑剤のレオロジー特性の改善」において,どのような技術上の意義を有するかも不明であるから,いずれにしても,本願の発明の詳細な説明の記載は,2つの分散剤を用いることによる発明の技術上の意義を当業者が理解できるものとはいえない。
したがって,請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり,本願の発明の詳細な説明の記載は,経済産業省令で定めるところにより,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから,特許法第36条第4項第1号に適合せず,本願は同法第36条第4項に規定する要件を満たしていないし,また,本願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから,特許法第36条第6項第1号に適合せず,本願は,特許法第36条第6項の規定を満たしていない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-20 
結審通知日 2012-05-08 
審決日 2012-05-22 
出願番号 特願2004-348998(P2004-348998)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C10M)
P 1 8・ 537- WZ (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 大畑 通隆
橋本 栄和
発明の名称 潤滑油組成物  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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