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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1264677
審判番号 不服2009-316  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-05 
確定日 2012-10-09 
事件の表示 特願2003-585849「封入フィルター・カートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月30日国際公開、WO03/89104、平成17年 8月 4日国内公表、特表2005-523144〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、2003年4月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年4月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成16年10月18日に国内書面が提出され、平成19年10月19日付けで拒絶理由が起案され(発送日は同年同月30日)、平成20年3月31日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月26日付けで拒絶査定が起案され(発送日は同年10月7日)、これに対し、平成21年1月5日に拒絶査定不服審判が請求され、同日付けで手続補正書が提出されたものであり、その後、平成23年6月16日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され(発送日は同年7月12日)、これに対する回答書が同年10月6日付けで提出されたものである。
そして、平成21年1月5日付けの手続補正書により特許請求の範囲についてする補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものであると認められるから、適法であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年1月5日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
液体を濾過する封入フィルター・カートリッジであって;
フィルター・アセンブリと、ここで、前記フィルター・アセンブリが、上端と、下端と、軸方向部分と、半径方向外面とを有すると共に、
カーボン・ブロック・フィルター要素と、
前記カーボン・ブロック・フィルター要素を包囲する勾配多孔性の微孔性フィルター要素と、を含み、ここで、前記勾配多孔性の微孔性フィルター要素が、前記カーボン・ブロック・フィルター要素の上流に効果的に配置されると共に、微生物が前記カーボン・ブロック・フィルター要素に入る前に前記微生物を保持するに有効であって、前記微生物が、生育して、増殖して、前記フィルター・カートリッジに集落をつくることを防止し、
前記勾配多孔性の微孔性フィルター要素が、
130?300μmの厚さと複数の隣接不連続帯とを有する膜構造体を有し、ここで任意の下流ゾーンが、0.05?0.8μmの平均孔径を有し;
前記フィルター・アセンブリを収容するように構成される内室を画定する永久密封式水溜めと、ここで前記水溜めが、未濾過流体を前記フィルター・アセンブリの前記半径方向外面に連通する前記内室に流入させる入口と、濾過流体を前記フィルター・アセンブリの前記軸方向部分から、前記内室から流出させる出口とを有し;
前記封入フィルター・カートリッジを流体源に選択的に連結すると共に前記封入フィルター・カートリッジを前記流体源から離脱する構造と;
を備える、封入フィルター・カートリッジ。」

第2 引用発明
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由において引用文献4として引用された実願平01-107582号(実開平03-47089号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献4」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】原水入口及び浄水出口を有するケースと、その内部にケース内周面から離間して装填される濾材ユニットとから構成され、該濾材ユニットが、ケース内空間に対して封鎖された中心孔を有する繊維活性炭ロールからなる内側の主フィルターと、ジグザグ状に折返した繊維シートからなり周面全体が軸方向に沿う襞状をなす円筒形である外側のプレフィルターと、上記主フィルターの中心孔内に配置して一端が上記浄水出口に連通する集水部材とを備えてなる浄水器。
【請求項2】集水部材が周面に複数の通水孔を有するパイプからなる請求項(1)記載の浄水器。
【請求項3】集水部材が中空糸膜集合体からなる請求項(1)記載の浄水器。」(実用新案登録請求の範囲)
(イ)「この考案は、上述の事情に鑑みて、繊維活性炭ロールを用いた濾材の目詰まりを生じにくゝ、該ロールを構成する繊維活性炭全体の吸着能力をフルに利用でき、それだけ濾材寿命が長くなって浄水化処理コストが低減され、また中空糸膜を設けたものではその長寿命化が期待できる浄水器を提供することを目的としている。」(明細書第4頁第2?8行)
(ウ)「第1図及び第2図で示す第1実施例の浄水器(A)は、ステンレス鋼製のケース(1)内に、濾材ユニット(2A)が該ケース(1)の内面全体から離間した吊持状態に装填されてなる。しかして、ケース(1)は有底円筒状の本体(1a)の上端開口縁に、径断面略下向き開放コ字形のキャップ(1b)がシリコンゴム製のリング状パッキン(3)を介してステンレス鋼製クランプバンド(4)にて水密に嵌着されてなり、キャップ(1b)にはそれぞれステンレス鋼製の配管接続用筒軸(5)(6)を各別に外方突出状に固設した中央部の浄水出口(7)と離心位置の原水入口(8)とが設けてあり、原水入口(8)の筒軸(5)にはケース(1)の内側よりシリコンゴム製逆止弁(9)を取付けた筒形の弁保持金具(9a)が螺着されている。
濾材ユニット(2A)は、繊維活性炭の不織布シートを捲回して肉厚のロールとした主フィルター(10)と、その中心孔(10a)内に同心状に配置した周面に複数の通水孔(11a)を有する合成樹脂製の集水パイプ(11)と、主フィルター(10)に外嵌する円筒形のプレフィルター(12)と、合成樹脂成形物からなる略円板形のヘッドプレート(13)及びボトムプレート(14)とで構成されている。しかして、プレフィルター(12)は、ポリプロピレン不織布等からなる平均空隙20?50μmの繊維シートをジグザグ状に折り返し、これを環形としてその両端を接着剤により合成樹脂製のリング状端板(12a)(12a)に接合したものであり、周面全体が上記折り返しにより軸方向に沿う襞状ををなして且つ主フィルター(10)と略同一長さの円筒形に形成されている。
ヘッドプレート(13)は、下面中央部に集水パイプ(11)の上端と螺合連結するための雌ねじ筒部(13a)を有すると共に、上面中央部に先端側に雄ねじを刻設したユニット取付用筒部(13b)を有し、両筒部(13a)(13b)にて上下に透通する通水路(13c)を形成し、且つ上面側にユニット取付用筒部(13b)の根元を中心として十字形に配置した捻回用リブ(13d)が設けてある。また、ボトムプレート(14)は、上面中央部に集水パイプ(11)の下端と螺合連結するための雌ねじ筒部(14a)を有すると共に、下面側に十字形の捻回用リブ(14b)を有している。
しかして、濾材ユニット(2A)は、ヘッドプレート(13)及びボトムプレート(14)の雌ねじ筒部(13a)(14a)が主フィルター(10)の中心孔(10a)に嵌入する状態で、且つ両フィルター(10)(12)の上下両端面と両プレート(13)(14)との間にそれぞれ平坦環状パッキン(15)を介在させて、両プレート(13)(14)を集水パイプ(11)の両端に螺合連結して締め付けることによって一体のユニットに組み立てられており、ヘッドプレート(13)のユニット取付用筒部(13b)を浄水出口(7)の配管接続用筒軸(5)にケース(1)の内側からOリング(16)を介して螺着することにより、ケース(1)のキャップ(1b)に吊持状態に連結されている。
上記構成の浄水器(A)によれば、原水入口(8)より流入した原水は、ケース(1)内に充満したのち、濾材ユニット(2A)の外周面から先ずプレフィルター(12)を透過して含まれていた錆、スケール、その他の固形物質が除去され、主フィルター(10)を透過し、この過程で活性炭による吸着作用によって溶存していた臭気、悪味、着色等の原因成分や有害成分等の不純物質が除去されて浄水化され、そして中心孔(10a)より通水孔(11a)(11a)…を通って集水パイプ(11)内より通水路(13c)を経て浄水出口(7)より器外に流出される。しかして、長期使用によって通水性の低下をきたしたり導出水が臭気や悪味を帯びた場合は、ケース(1)の本体(1a)を取り外せば、キャップ(1b)に吊持されている濾材ユニット(2A)のボトムプレート(14)を外すだけで両フィルター(10)(12)が離脱可能となるため、寿命の尽きた両フィルター(10)(12)の一方もしくは両方を新品と交換すればよい。」(明細書第8頁第2行?第12頁第3行)
(2)引用発明の認定
引用文献4の記載事項(ア)には、「原水入口及び浄水出口を有するケースと、その内部にケース内周面から離間して装填される濾材ユニットとから構成され、該濾材ユニットが、ケース内空間に対して封鎖された中心孔を有する繊維活性炭ロールからなる内側の主フィルターと、ジグザグ状に折返した繊維シートからなり周面全体が軸方向に沿う襞状をなす円筒形である外側のプレフィルターと、上記主フィルターの中心孔内に配置して一端が上記浄水出口に連通する集水部材とを備えてなる浄水器。」が記載され、同(ウ)には、「浄水器(A)によれば、原水入口(8)より流入した原水は、ケース(1)内に充満したのち、濾材ユニット(2A)の外周面から先ずプレフィルター(12)を透過して含まれていた錆、スケール、その他の固形物質が除去され、主フィルター(10)を透過し、この過程で活性炭による吸着作用によって溶存していた臭気、悪味、着色等の原因成分や有害成分等の不純物質が除去されて浄水化され、そして中心孔(10a)より通水孔(11a)(11a)…を通って集水パイプ(11)内より通水路(13c)を経て浄水出口(7)より器外に流出される。」と記載されている。
これら記載事項を本願発明の記載ぶりに則って整理すると、
「浄水器が原水入口及び浄水出口を有するケースと、ケースは有底円筒状の本体の上端開口縁に、径断面略下向き開放コ字形のキャップがシリコンゴム製のリング状パッキンを介して水密に嵌着されてなり、ケースの内部にケース内周面から離間して装填される濾材ユニットとから構成され、
濾材ユニットが活性炭による吸着作用によって溶存していた臭気、悪味、着色等の原因成分や有害成分等の不純物質が除去されて浄水化されるケース内空間に対して封鎖された中心孔を有する繊維活性炭ロールからなる内側の主フィルターと、錆、スケール、その他の固形物質が除去されるジグザグ状に折返した繊維シートからなり周面全体が軸方向に沿う襞状をなす円筒形である外側のプレフィルターと、上記主フィルターの中心孔内に配置して一端が上記浄水出口に連通する集水部材とを備えてなり、
濾材ユニットは、ヘッドプレート及びボトムプレートの雌ねじ筒部が主フィルターの中心孔に嵌入する状態で、両プレートを集水パイプの両端に螺合連結して締め付けることによって一体のユニットに組み立てられた濾材ユニット。」
(以下、「引用発明」という。)が引用文献4には記載されていると認められる。

第3 対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「濾材ユニット」は、「浄水器」の「ケース内周面から離間して装填される」から、本願発明の「液体を濾過する封入フィルターカートリッジ」に相当するということができる。そして、引用発明の「ヘッドプレート」、「ボトムプレート」、「雌ねじ筒部」がそれぞれ本願発明の「上端」、「下端」、「軸方向部分」に相当し、引用発明の「組み立てられたもの」は、「アセンブリ」であり、該「濾材ユニット」の「繊維活性炭ロールからなる内側の主フィルター」は、本願発明の「カーボン・ブロック・フィルター要素」と「カーボン・フィルター要素」で共通し、「ジグザグ状に折返した繊維シートからなり周面全体が軸方向に沿う襞状をなす円筒形である外側のプレフィルター」は、当然「半径方向外面」を有し、本願発明の「カーボン・フィルター要素を包囲するフィルター要素」で共通するから、引用発明の「濾材ユニット」の構成事項の内で「ヘッドプレート及びボトムプレートの雌ねじ筒部が主フィルターの中心孔(10a)に嵌入する状態で、両プレートを集水パイプの両端に螺合連結して締め付けることによって一体のユニットに組み立てられ」たものは、本願発明の「上端と、下端と、軸方向部分と、半径方向外面とを有すると共に、
カーボン・フィルター要素と、
前記カーボン・フィルター要素を包囲するフィルター要素」に相当し、引用発明の「浄水器」の「原水入口及び浄水出口を有するケース」は、「水密に嵌着されてな」るから、本願発明の「フィルター・アセンブリを収容するように構成される内室を画定する密封式水溜めと、ここで前記水溜めが、未濾過流体を前記フィルター・アセンブリの前記半径方向外面に連通する前記内室に流入させる入口と、濾過流体を前記フィルター・アセンブリの前記軸方向部分から、前記内室から流出させる出口とを有」することに相当するということができる。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「液体を濾過する封入フィルター・カートリッジであって;
フィルター・アセンブリと、ここで、前記フィルター・アセンブリが、上端と、下端と、軸方向部分と、半径方向外面とを有すると共に、
カーボン・フィルター要素と、
前記カーボン・フィルター要素を包囲するフィルター要素と、を含み、
前記フィルター・アセンブリを収容するように構成される内室を画定する密封式水溜めと、ここで前記水溜めが、未濾過流体を前記フィルター・アセンブリの前記半径方向外面に連通する前記内室に流入させる入口と、濾過流体を前記フィルター・アセンブリの前記軸方向部分から、前記内室から流出させる出口とを有し;
前記封入フィルター・カートリッジを流体源に選択的に連結すると共に前記封入フィルター・カートリッジを前記流体源から離脱する構造と;
を備える、封入フィルター・カートリッジ。」である点で一致し、以下の点で相違する。
本願発明においては、カーボン・「ブロック」・フィルター要素であるのに対して、引用発明においては、「繊維」活性炭ロールからなる内側の主フィルターである点(以下、「相違点a」という。)。
本願発明においては、カーボン・フィルター要素を包囲する「微孔性」フィルター要素が「勾配多孔性」であるのに対して、引用発明においては、外側のプレフィルターにおいてそのような特定がなされていない点(以下、「相違点b」という。)。
本願発明においては、「微孔性」フィルター要素が、「前記カーボン・ブロック・フィルター要素の上流に効果的に配置されると共に、微生物が前記カーボン・ブロック・フィルター要素に入る前に前記微生物を保持するに有効であって、前記微生物が、生育して、増殖して、前記フィルター・カートリッジに集落をつくることを防止」するものであるのに対して、引用発明においては、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点c」という。)。
本願発明においては、「微孔性」フィルター要素が、「130?300μmの厚さと複数の隣接不連続帯とを有する膜構造体を有し、ここで任意の下流ゾーンが、0.05?0.8μmの平均孔径を有」するのに対して、引用発明においては、「ジグザグ状に折返した繊維シートからなり周面全体が軸方向に沿う襞状をなす円筒形である外側のプレフィルター」であって、厚さと平均孔径について特定がなされていない点(以下、「相違点d」という。)。
本願発明においては、水溜めが、「永久」密封式であるのに対して、引用発明においては、「ケースは有底円筒状の本体の上端開口縁に、径断面略下向き開放コ字形のキャップがシリコンゴム製のリング状パッキンを介して水密に嵌着されてな」る点(以下、「相違点e」という。)。

第4 判断
(相違点aについて)
本願発明における「カーボン・ブロック・フィルター要素」については、本願の明細書の段落【0034】に「フィルター・アセンブリ122,222は、貫通または貫通しない軸方向キャビテイ126,226を有する円筒形カーボン・ブロック・フィルター要素124,224を含む。このようなカーボン・ブロック・フィルター要素は、たとえば、共にキュノ社(Cuno Inc.)に譲渡され、ここに文献として組み入れる、ウェイ・シ・チェン(Wei-Chih Chen)他の米国特許第5,928,588号および第5,928,588号明細書により製造される。カーボン・ブロック・フィルター要素124,224は好ましくは、約0.01から約0.10の間のk-値を有し、流体の流速に大きな減少、または所望の流体の流速を保持するため圧力増大を必要とせず優れた吸着能力を発揮する。」とあり、公知のもので、格別の技術的意義を有するものではなく、原査定の拒絶理由の引用文献1として引用された国際公開00/64560にも、「carbon block (44)」として示されたものである。そして、引用発明における「繊維活性炭ロール」に換えて「カーボン・ブロック・フィルター」とすることも当業者であれば格別の困難なくなし得る単なる材料置換にすぎないものというべきである。
(相違点bについて)
本願発明におけるカーボン・フィルター要素を包囲する「微孔性」フィルター要素が「勾配多孔性」であることの技術的意義は、本願の明細書の段落【0046】?【0047】に「膜構成体272は,所望の厚みに頂上に互いに配設された同じまたは異なる媒体の単層または複数層を含む。膜構成体272はまた、異なる濾過特性を有する複数層を含む。好ましい実施例において、膜構成体272は勾配多孔性構造を有する。“ 勾配多孔性”とは、本開示の文脈において、膜構成体272の平均孔サイズが膜内への深さの関数として変化することを意味する。たとえば、膜構成体272は異なる平均孔サイズを有する離散帯または層を含む。
勾配多孔性構造を有する膜構成体272は、図示目的で広げた構成層を有するひだ付きフィルター要素の断面図を表す、図6に示されている。この実施例において、膜構成体272は、媒体371,372および373の隣接層を含み、下流層373は層371および372と同じまたは、それより小さい平均孔サイズを有する。本開示の好ましい実施例において、媒体層371と372は約0.65ミクロンに定めた平均孔サイズを有し、媒体層373は約0.2ミクロンに定めた平均孔サイズを有する。」と記載されるだけであり、審尋において引用した特開昭50-157266号公報に「従来一般的に濾過を行う場合、汚染された被濾過液を直接精密濾過にかけずに、フィルター自身の寿命を延ばすために最終段階の微細なフィルターの前にそれよりも数倍?数1000倍という孔径をもった粗いフィルターで前もって濾過をして大きな微粒子を除去して最終的に目的とする微細な精密フィルターにて濾過するのが通常である。このような方法をとるのは最初から目的とする微細なフィルターで濾過すると大きな粒子から小さな粒子に至るまで全部がフィルター表面につまり短時間で目詰りが生じるから、予じめ最終目的とするフィルターの孔径より大きなフィルターで大きな粒子を除去して目詰りする濾さいの量を減らしておき、最終段階では小さい微粒子のみが精密フィルターで濾過されるようにして精密フィルターの寿命を延ばすようにしたものである。」(第1頁左下欄下から6行?同右下欄第11行)と記載されるように、そもそもフィルター自身の寿命を延ばすための最終段階の微細なフィルターの前にそれよりも粗いフィルターで前もって濾過をして大きな微粒子を除去して最終的に目的とする微細な精密フィルターにて濾過することは、フィルターの寿命延長のために普通に採用される周知手段にすぎないものである。そして、原査定の拒絶の理由において引用文献6として引用された特開昭62-155912号公報(以下、「引用文献6」という。)は、「(1)複数枚のポリプロピレン繊維製不織布を積層状態で加熱一体化しかつプリーツ状に折り曲げ、両側面部を液密に溶封した濾過材と、この濾過材の中央開口部に配置されたポリプロピレン樹脂製多孔性支持筒と、前記濾過材の両端部に液密に溶着させたポリプロピレン樹脂製キャップとからなることを特徴とする精密濾過用フィルターエレメント。」(特許請求の範囲)に関し、「場合よってはこの濾過材とスペーサーは更に多層構造としてもよく、・・・必要によってはポリプロピレン繊維製の孔径の粗い不織布をプレフィルタ-2として一緒に折り込むこともある。又、再ボンディング法による複層一体化は同単位重量のものを使用した場合、孔径分布は最も狭くなり、分離精度も上るが、条件によっては単位重量の異なるもの、構成繊維径の異ったものを使用してもよい。」(第3頁左上欄第10行?同右上欄第3行)と記載されている。この孔径の粗い不織布が本願発明の「勾配多孔性」を示唆するものと認められるので、相違点bに係る「勾配多孔性」を「繊維活性炭ロールを用いた濾材の目詰まりを生じにくゝ、該ロールを構成する繊維活性炭全体の吸着能力をフルに利用でき、それだけ濾材寿命が長くなって浄水化処理コストが低減され」(引用文献4記載事項(イ))ることを目的とする引用発明のプレフィルターに採用することは当業者であれば容易に想到し得る設計事項というべきである。
(相違点cについて)
引用発明も「濾材ユニットが活性炭による吸着作用によって溶存していた臭気、悪味、着色等の原因成分や有害成分等の不純物質が除去されて浄水化される・・・繊維活性炭ロールからなる内側の主フィルターと、錆、スケール、その他の固形物質が除去される断面ジグザグ状に折返した繊維シートからなり周面全体が軸方向に沿う襞状をなす円筒形である外側のプレフィルターと、」を有するもので、引用文献6には、さらに「本発明に係るフィルターエレメントはフィルターハウジングに設置し、濾過しようとする媒体を外部の多孔網筒7から濾過材を通って内部の多孔性支持筒3に透過させることにより、微生物、微粒子を効率よく除去することができる」(第3頁右上欄第10?14行)と記載されることからも、引用発明のプレフィルターは、固形物質の一つである微生物を保持するのに有効であって、前記微生物が、生育して、増殖して、前記フィルター・カートリッジに集落をつくることを防止するものと認められるので、相違点cは実質的なものではない。
(相違点dについて)
引用文献6には、「(2)前記濾過材の平均孔径が0.5?10μm、空隙率が30?80%である特許請求の範囲第1項記載の精密濾過用フィルターエレメント。」(特許請求の範囲)及び「こうして作られたポリプロピレン繊維製不織布濾材は厚さ100?300μm、・・・、平均孔径0.5?10μm程度の物性をもち、キャスティング法、延伸法等によって作られたメンブラン状濾材に比べて立体構造化しているため、デプス濾過の効果もあり、このため、孔径の均一度が高く、しかもライフが長い点に特徴がある。」(第2頁右下欄第4?12行)との記載もあり、相違点cで摘示したように該濾過材がプリーツ上に折り曲げられ微生物を効率よく除去することができるもので厚さが相違点dと重複する100?300μmで、平均孔径が0.05?0.8μmであることに鑑みれば、相違点dに係るプリーツ状の上位概念と認められる複数の隣接不連続帯を有し、130?300μmの厚さと任意の下流ゾーンが、0.05?0.8μmの平均孔径を有する微孔性フィルターも当業者であれば容易に想到し得る設計事項にすぎないのものというべきである。
(相違点eについて)
浄水器のケースを密封するに際して本願発明のように溶接等の「永久」密封式にするのか(浄水カートリッジの蓋の超音波溶接について必要であれば拒絶査定において引用した特開2001-179255号公報の段落【0033】等参照)、引用発明のようにシリコンゴム製のリング状パッキン(3)を介して水密に嵌着するのかは、ケース等部品の再利用の程度に応じて適宜選択する設計事項にすぎず、当業者であれば容易に想到し得るものである。
また、相違点a乃至eに係る補正事項を採用することにより得られる効果についても、格別顕著であるとは認められない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1及び6に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 回答書の主張について
審判請求人は、回答書において「本件請求人が平成20年3月31日付提出の手続補正書において、引用文献4により拒絶対象となった請求項10を削除し、大幅な補正を請求項1について行ったにも拘らず、再度拒絶理由通知を発することなく、本件を拒絶査定した点にも、原審の審査手続に重大な瑕疵があるから、当該拒絶査定は、取り消されるべきである。」と主張する。
しかしながら、上記の請求項1に加えた大幅な補正は、引用文献4を主引用例とし、引用文献1も副引用例とされて進歩性欠如を理由として拒絶の対象となった請求項10において特定されていた「(ii)前記カーボン・ブロック・フィルター要素の前記半径方向外面を包囲するひだ付きフィルター要素」及び請求項11において特定されていた「ひだ付きフィルター要素が傾斜多孔率構造を有する膜構造体を備える」ことを基本として限定したものであるから、実質的に請求項11についての補正であり、同項に関して原査定の拒絶の理由において引用文献4を主引用例として対比したことに対して、審判請求書及び回答書で反論の機会が与えられ、補正も行われているのであるから、手続の瑕疵はないものと当審は判断する。
また、回答書において提示された補正案についても、単に「勾配多孔性」を具体化し、平均孔径について上限を下げて特定しただけのものであり、これらの限定により、進歩性が生じるものとは判断することができないので、係る補正案を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献4に記載された発明及び引用文献1及び6に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-27 
結審通知日 2012-04-17 
審決日 2012-05-07 
出願番号 特願2003-585849(P2003-585849)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 忠宏  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 國方 恭子
中澤 登
発明の名称 封入フィルター・カートリッジ  
代理人 大川 晃  

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