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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1265264
審判番号 不服2010-6559  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-29 
確定日 2012-10-24 
事件の表示 特願2004-508172「共役ジエン/モノビニルアレーンブロックコポリマーブレンド」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 4日国際公開、WO2003/99925、平成17年10月 6日国内公表、特表2005-529992〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.出願の経緯
本願は、平成15年5月19日(優先権主張 2002年5月20日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成16年12月16日に特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書が提出され、平成21年3月13日付けで拒絶理由が通知され、同年9月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年3月29日に拒絶査定不服審判が請求され、同年5月7日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。


第2.本願発明
本願の請求項1?13に係る発明は、平成21年9月17日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」ともいう。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも1種のカップリングされた共役ジエン/モノビニルアレーンブロックコポリマー及び少なくとも1種のスチレン系ポリマーを含むポリマーブレンドであって、
前記カップリングされた共役ジエン/モノビニルアレーンブロックコポリマーが、少なくとも1種のモノビニルアレーンモノマー、有機アルカリ金属開始剤及び少なくとも1種の共役ジエンモノマーを重合条件下で逐次接触させ、その後に多官能性カップリング剤をカップリングしてブロックコポリマーを形成することを含む方法により製造され、
モノビニルアレーンモノマー及び共役ジエンモノマーを含む少なくとも3種の連続したモノマー混合物の投入材料が供給されて、ブロックコポリマー中に少なくとも3個の連続した共役ジエン/モノビニルアレーンのテーパー構造のブロックを作成し、
それぞれの投入材料に含まれる前記モノビニルアレーンモノマー及び共役ジエンモノマーの全てが、その投入初期に添加され、反応器内に過剰モノマーの存在が許され、
前記少なくとも1種のモノビニルアレーンモノマーが、8?18個の炭素原子を含み、前記少なくとも1種の共役ジエンモノマーが、4?12個の炭素原子を含み、かつ
前記スチレン系ポリマーが、少なくとも1種のスチレン系コモノマーと少なくとも1種の酸素又は窒素含有不飽和コモノマーとを共重合することにより製造される少なくとも1種のコポリマーからなる群から選ばれるポリマーブレンドであって、
前記酸素又は窒素含有不飽和コモノマーが、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、メチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリロニトリル及びそれらの混合物からなる群から選ばれ、
(A)50重量%以下のスチレン系ポリマー、及び
(B)50重量%以上のカップリングされた共役ジエン/モノビニルアレーンブロックコポリマーを含むポリマーブレンド。」


第3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由とされた、平成21年3月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由1は、次のとおりである。

「<理由1>
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
……
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
1.<理由1、2>について
(1)
・請求項; 1-13
・引用文献等; 1
・備考;
引用文献1記載の「ブロックコポリマー」、及び、「スチレン-メチルメタクリレート、スチレン-アクリロニトリル等のスチレン性ポリマー」は、それぞれ、本願請求項記載の「ブロックコポリマー(B)」、及び、「スチレン系ポリマー(A)」に相当する。
したがって、引用文献1記載のポリマーブレンドと、本願発明に係るポリマーブレンドとの間に差異はない(【特許請求の範囲】、【0001】、【0003】、【0005】、【0006】、【0013】、【0019】-【0023】、【0027】、【0032】、【0033】、【0036】、【0037】、【0048】、【0049】を特に参照。)。
……
よって、請求項1-13に係る発明は、引用文献1に記載された発明と同一であり、……。
……
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平09-169825号公報
(以下省略)」


第4.合議体の判断
1.刊行物の記載事項
本件出願の優先日前に頒布されたことが明らかな、引用文献1(特開平9-169825号公報)には、以下の事項が記載されている。

a.「【請求項1】 少なくとも1 種のモノビニルアレーンモノマー、有機モノアルカリ金属開始剤、少なくとも1 種の共役ジエンモノマーを連続的に重合条件下で接触させ、しかる後多官能性カップリング剤で結合させてブロックコポリマーを形成させることから成るブロックコポリマーの製造法であって、
モノビニルアレーンモノマー及び共役ジエンモノマーを含むモノマー混合物の充填が連続して少なくとも3 回実施され、
少なくとも1 種のモノビニルアレーンモノマーが8 ?18の炭素原子を含み、
そして少なくとも1 種の共役ジエンモノマーが4 ?12の炭素原子を含むことを特徴とする前記ブロックコポリマーの製造方法。
……
【請求項10】 少なくとも3 つの連続する共役ジエン/ モノビニルアレーンのテーパーブロックを含む結合した共役ジエン/ モノビニルアレーンブロックコポリマーであって、
モノビニルアレーンが8 ?18の炭素原子を含み、
共役ジエンが4 ?12の炭素原子を含むブロックコポリマー。
……
【請求項15】 以下のポリマー鎖、
S_(1)- S_(2)- B_(1)/S_(3)- B_(2)/S_(4)- B_(3)/S_(5)- Li
S_(2)- B_(1)/S_(3)- B_(2)/S_(4)- B_(3)/S_(5)- Li
( S はモノビニルアレーンブロックを表し、B/S は共役ジエン/ モノビニルアレーンのテーパーブロックを表し、そして Li はモノアルカリ金属開始剤からの残基)を結合することによって作られた、請求項10、11、12、13、又は14に記載のブロックコポリマー。
【請求項16】 請求項10、11、12、13、14、又は15、のブロックコポリマー、及びスチレン性ポリマーとを含有するポリマーブレンド。」(特許請求の範囲の請求項1,10,15及び16)

b.「【従来の技術】共役ジエン/ モノビニルアレーンのコポリマーは知られており、そして種々の目的に対し有用である。特にこのポリマー関心事は、耐衝撃性のような良好な物理特性を有する無色の透明物品を形成することができる点にある。このような物品は、玩具、窓部品、飲料容器、及びブリスター包装のような包装に有用である。ポリマーはまた、通常の射出成形装置を用いた使用に適するよう、充分な熱安定性を示すべきである。多くの応用に対し、多量のスチレンを含むコポリマーブレンドが必要とされている。このようなポリマーは、あるモノビニルアレーン- 共役ジエンコポリマーをスチレンポリマーとブレンドすることによって、一般に作られる。しかしながら、ブレンドはしばしば望ましくないヘイズや青着色を伴う。夫故に、青着色の程度の少ない、良好な透明性、硬さ、剛性、靱性を併せ持つポリマー、及びポリマーブレンドの開発が望まれている。
【発明が解決しようとする課題】本発明の1 つの態様は、良好な光学的な透明性を有するブレンドを作るのに有用なポリマーを提供することにある。本発明の他の態様は、青着色の程度が低いブレンドを作るために有用なポリマーに関する。更なる態様は、良好な光学的、及び機械的特性を有するこのようなポリマーの製造方法に関する。」(段落【0002】-【0003】)

c.「その後の充填を実施する前に、各々のモノマー充填又はモノマー混合物充填による重合が実質的に完了するような溶液重合条件の下で、各々のモノマーの充填又はモノマー混合物の充填を行って重合される。
代表的な開始剤、モノマー、モノマー混合物の充填の順序は以下の順序が含まれるが、これに限定されない。
様式 A
(a) モノビニルアレーンモノマー及び開始剤
(b) モノビニルアレーンモノマー及び開始剤
(c) 共役ジエン/ モノビニルアレーンモノマー混合物
(d) 共役ジエン/ モノビニルアレーンモノマー混合物
(e) 共役ジエン/ モノビニルアレーンモノマー混合物、及び
(f) カップリング剤
……
モノマー混合物は、プレ混合されそして混合物として充填されるか、或いは各モノマーを同時に充填することができる。工程(a) において、開始剤はモノビニルアレーンモノマーの充填前又はその後に添加することができる。大容量で操作を行う場合には、工程(a) でモノビニルアレーンモノマーを開始剤の添加前に添加することが望ましい。その後の開始剤を含む工程においては、開始剤はモノマー又はモノマー混合物の前に添加すべきである。
上記の連続的な重合によって作られた、カップリング前の代表的なポリマー鎖は以下の様式を含む。
様式 A
S_(1)- S_(2)- B_(1)/S_(3)- B_(2)/S_(4)- B_(3)/S_(5)- Li
S_(2)- B_(1)/S_(3)- B_(2)/S_(4)- B_(3)/S_(5)- Li
……
カップリング剤は重合が完了したのちに添加される。……有用な多官能性カップリング剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油及びその他同種のもの又はこれらの混合物のようなエポキシ化植物油が含まれる。現在好ましいカップリング剤は、エポキシ化植物油である。エポキシ化大豆油が現在好ましい。」(段落【0017】-【0027】)

d.「本発明の他の態様において、ブロックコポリマーは、ポリスチレン、アクリロニトリル- ブタジエン- スチレンコポリマー、及びスチレン- アクリロニトリルコポリマーのような他のスチレン性ポリマーとブレンドされる。
スチレン性のポリマーは通常、(a) スチレンのホモポリマー、又は(b) 主成分としてのスチレンと、例えばアルファ- メチルスチレン、ビニルトルエン、又はパラ-tert-ブチルスチレンのようなスチレン以外の、少量の任意の他の共重合可能なモノビニルアレーン化合物とのコポリマーである。メチルアクリレート、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、及びこの類似物のような少量の他のモノマーもスチレンと共重合することができる。本発明のブロックコポリマーとポリスチレンから成る混合物は組み合わされた望みの特性を示し、そしてこれらは好ましいものである。」(段落【0032】-【0033】)

e.「ポリマーブレンドを作るために用いられるスチレン性ポリマーと、ブロックコポリマーとの間の相対量は、最終ポリマーブレンドの望みの特性に従って広く変化させることができる。代表的なポリマーブレンドは、最終ポリマーブレンドの合計重量を基礎にして、約5 重量パーセント?約95重量パーセント、好ましくは約10重量パーセント?約90重量パーセント、そして更に好ましくは最終ポリマーブレンドの合計重量を基礎にして約20重量パーセント?約80重量パーセントの範囲の量のブロックコポリマーを含んでいる。
スチレン性のポリマーは、最終ポリマーブレンドの合計重量を基礎にして、約5 重量パーセント?約95重量パーセント、好ましくは約10重量パーセント?約90重量パーセント、そして更に好ましくは最終ポリマーブレンドの合計重量を基礎にして約20重量パーセント?約80重量パーセントの範囲の量で存在する。」(段落【0036】-【0037】)

f.「実施例
以下の実施例はブロックコポリマーの製法、及び種々のポリマーブレンドの透明性と機械的性質の組み合わせを示すものである。スチレン/ ブタジエンブロックコポリマー( SB )は、窒素下での連続的な溶液重合を用いることによって作られた。重合の実験は、本質的に無水の反応成分と条件を用い、内部冷却コイルを有する攪拌 100ガロン炭素スチール反応器中で行った。各ラインは各々充填した後に、0.5kg のシクロヘキサンで洗い流した。重合は各々のモノマー又はモノマー混合物を充填後、完了するまで継続した。重合温度は約38℃?約120 ℃の範囲であり、圧力は約2psig ?約60psigの範囲であった。合計モノマー重量は約90kgであった。テトラヒドロフラン(THF) 、スチレン(S) 、n-ブチルリチウム開始剤(i) 、ブタジエン/ スチレン混合物(B/S) 、及びカップリング剤(CA)の充填の順序は以下の通りであった。
ブロックコポリマー A 1
0.5 THF 、0.05 i_(1) 、30 S_(1) 、0.05 i_(2) 、20S_(2)、(5B_(1)/10S_(3))、10B_(2)/10S_(4))、(10B_(3)/5S_(5))、 CA. ( 部/100部モノマーの量)
ブロックコポリマー A 2
0.1 THF 、0.05 i_(1) 、30 S_(1) 、0.05 i_(2) 、20S_(2)、(5B_(1)/10S_(3))、10B_(2)/10S_(4))、(10B_(3)/5S_(5))、 CA. ( 部/100部モノマーの量)
連続的な重合が完結した後、ビコフレックス7170(Vikoflex7170) [ビキングケミカル(Viking Chemical) 社から販売のエポキシ化大豆油から成るカップリング剤] を反応器に充填した。カップリング反応が完結したのち、……で安定化した。
……
ノバコールプラスチック部門(Novacor Plastics Division) から入手可能なポリスチレン(PS)、ノバコール(Novacor)555 GPPS を、S/B ブロックコポリマーと60 : 40 、及び50 : 50 の比率( ブロックコポリマー : ポリスチレン、重量比) でブレンドした。
結果を表 1 に要約する。……以下の表において、コポリマーは、用いたスチレン/ ブタジエンブロックコポリマーである。CP / PS はブロックコポリマーとポリマーブレンドに用いたポリスチレンとの比率である。……

表 1

ブレンド コポリマー CP/PS ヘイズ% 青着色
101 A 1 60/40 2.49 -10.0
102 A 1 50/50 2.92 -12.2
103 A 2 60/40 2.53 -9.8
104 A 2 50/50 2.86 -10.4

【発明の効果】表 1 の結果は、3 つのテーパーブロックを含むブロックコポリマーを用いたポリマーブレンドが、良好な透明性と低い青着色の組み合わせを示すことを表している。ポリマーブレンドはまた、良好な衝撃靱性と延性を示している。」(段落【0047】-【0054】)


2.刊行物に記載された発明の認定
引用文献1の摘示事項aには、「少なくとも3 つの連続する共役ジエン/ モノビニルアレーンのテーパーブロックを含む結合した共役ジエン/ モノビニルアレーンブロックコポリマーであって、モノビニルアレーンが8 ?18の炭素原子を含み、共役ジエンが4 ?12の炭素原子を含むブロックコポリマー」「及びスチレン性ポリマーとを含有するポリマーブレンド」が記載されており、該ブロックコポリマーは「少なくとも1 種のモノビニルアレーンモノマー、有機モノアルカリ金属開始剤、少なくとも1 種の共役ジエンモノマーを連続的に重合条件下で接触させ、しかる後多官能性カップリング剤で結合させてブロックコポリマーを形成させることから成るブロックコポリマーの製造法であって、モノビニルアレーンモノマー及び共役ジエンモノマーを含むモノマー混合物の充填が連続して少なくとも3 回実施され、少なくとも1 種のモノビニルアレーンモノマーが8 ?18の炭素原子を含み、そして少なくとも1 種の共役ジエンモノマーが4 ?12の炭素原子を含むことを特徴とする前記ブロックコポリマーの製造方法」により製造されたものであると認められ、該モノマー混合物の充填につき摘示事項cには「その後の充填を実施する前に、各々のモノマー充填又はモノマー混合物充填による重合が実質的に完了するような溶液重合条件の下で、各々のモノマーの充填又はモノマー混合物の充填を行って重合される」ものであることが記載されているから、引用文献1には摘示事項a及びcからみて、
「少なくとも1 種のモノビニルアレーンモノマー、有機モノアルカリ金属開始剤、少なくとも1 種の共役ジエンモノマーを連続的に重合条件下で接触させ、しかる後多官能性カップリング剤で結合させてブロックコポリマーを形成させることから成るブロックコポリマーの製造法であって、モノビニルアレーンモノマー及び共役ジエンモノマーを含むモノマー混合物の充填が連続して少なくとも3 回実施され、該充填はその後の充填を実施する前に、各々のモノマー混合物充填による重合が実質的に完了するような溶液重合条件の下で、各々のモノマー混合物の充填を行って、少なくとも1 種のモノビニルアレーンモノマーが8 ?18の炭素原子を含み、そして少なくとも1 種の共役ジエンモノマーが4 ?12の炭素原子を含む製造方法により製造された、少なくとも3 つの連続する共役ジエン/ モノビニルアレーンのテーパーブロックを含む結合した共役ジエン/ モノビニルアレーンブロックコポリマーであって、モノビニルアレーンが8 ?18の炭素原子を含み、共役ジエンが4 ?12の炭素原子を含むブロックコポリマー、
及び、
スチレン性ポリマーとを含有するポリマーブレンド」が記載されているといえる。
また、上記ブロックコポリマーと上記スチレン性ポリマーとの重量比に関して引用文献1に具体的に記載されているのは、摘示事項fの実施例のとおり「60 : 40 、及び50 : 50 の比率( ブロックコポリマー : ポリスチレン、重量比)」のみであることから、引用文献1には上記ポリマーブレンドについても、ブロックコポリマーとスチレン性ポリマーとの重量比が「60 : 40 、及び50 : 50 の比率」である態様が記載されていると認められるから、引用文献1には、摘示事項a、c及びfからみて、
「少なくとも1 種のモノビニルアレーンモノマー、有機モノアルカリ金属開始剤、少なくとも1 種の共役ジエンモノマーを連続的に重合条件下で接触させ、しかる後多官能性カップリング剤で結合させてブロックコポリマーを形成させることから成るブロックコポリマーの製造法であって、モノビニルアレーンモノマー及び共役ジエンモノマーを含むモノマー混合物の充填が連続して少なくとも3回実施され、該充填はその後の充填を実施する前に、各々のモノマー混合物充填による重合が実質的に完了するような溶液重合条件の下で、各々のモノマー混合物の充填を行って、少なくとも1 種のモノビニルアレーンモノマーが8 ?18の炭素原子を含み、そして少なくとも1 種の共役ジエンモノマーが4 ?12の炭素原子を含む製造方法により製造された、少なくとも3つの連続する共役ジエン/ モノビニルアレーンのテーパーブロックを含む結合した共役ジエン/ モノビニルアレーンブロックコポリマーであって、モノビニルアレーンが8?18の炭素原子を含み、共役ジエンが4?12の炭素原子を含むブロックコポリマー、
及び、
スチレン性ポリマーとを含有し、
ブロックコポリマーとスチレン性ポリマーとの重量比が60:40、及び50:50の比率であるポリマーブレンド」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。


3.対比、判断
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「少なくとも1 種のモノビニルアレーンモノマー、有機モノアルカリ金属開始剤、少なくとも1 種の共役ジエンモノマーを連続的に重合条件下で接触させ、しかる後多官能性カップリング剤で結合させてブロックコポリマーを形成させることから成るブロックコポリマーの製造法」、「モノビニルアレーンモノマー及び共役ジエンモノマーを含むモノマー混合物の充填が連続して少なくとも3回実施され」、「少なくとも3つの連続する共役ジエン/ モノビニルアレーンのテーパーブロックを含む結合した共役ジエン/ モノビニルアレーンブロックコポリマー」、「結合した共役ジエン/ モノビニルアレーンブロックコポリマー」及び「スチレン性ポリマー」が、それぞれ本願発明の「少なくとも1種のモノビニルアレーンモノマー、有機アルカリ金属開始剤及び少なくとも1種の共役ジエンモノマーを重合条件下で逐次接触させ、その後に多官能性カップリング剤をカップリングしてブロックコポリマーを形成することを含む方法」、「モノビニルアレーンモノマー及び共役ジエンモノマーを含む少なくとも3種の連続したモノマー混合物の投入材料が供給されて」、「ブロックコポリマー中に少なくとも3個の連続した共役ジエン/モノビニルアレーンのテーパー構造のブロック」、「少なくとも1種のカップリングされた共役ジエン/モノビニルアレーンブロックコポリマー」及び「少なくとも1種のスチレン系ポリマー」に相当するものであることは明らかである。
また、引用発明の「該充填はその後の充填を実施する前に、各々のモノマー混合物充填による重合が実質的に完了するような溶液重合条件の下で、各々のモノマー混合物の充填を行って」なる規定において、各々のモノマー混合物の全てがその充填初期に投入されていることは技術常識からみて自明であると認められ、また、該「各々のモノマー混合物充填による重合が実質的に完了するような」なる規定における「実質的に」なる記載はその後の充填において前充填に由来する若干のモノマーの残存を排除していないものと認められるから、引用発明の「該充填はその後の充填を実施する前に、各々のモノマー混合物充填による重合が実質的に完了するような溶液重合条件の下で、各々のモノマー混合物の充填を行って」は、本願発明の「それぞれの投入材料に含まれる前記モノビニルアレーンモノマー及び共役ジエンモノマーの全てが、その投入初期に添加され、反応器内に過剰モノマーの存在が許され」に相当しているものと認められる。
また、引用発明における「ブロックコポリマーとスチレン性ポリマーとの重量比が60:40、及び50:50の比率」なる重量比が、本願発明の「(A)50重量%以下のスチレン系ポリマー、及び(B)50重量%以上のカップリングされた共役ジエン/モノビニルアレーンブロックコポリマー」と重複一致していることは明らかであるから、本願発明と引用発明とは、
「少なくとも1種のカップリングされた共役ジエン/モノビニルアレーンブロックコポリマー及び少なくとも1種のスチレン系ポリマーを含むポリマーブレンドであって、
前記カップリングされた共役ジエン/モノビニルアレーンブロックコポリマーが、少なくとも1種のモノビニルアレーンモノマー、有機アルカリ金属開始剤及び少なくとも1種の共役ジエンモノマーを重合条件下で逐次接触させ、その後に多官能性カップリング剤をカップリングしてブロックコポリマーを形成することを含む方法により製造され、
モノビニルアレーンモノマー及び共役ジエンモノマーを含む少なくとも3種の連続したモノマー混合物の投入材料が供給されて、ブロックコポリマー中に少なくとも3個の連続した共役ジエン/モノビニルアレーンのテーパー構造のブロックを作成し、
それぞれの投入材料に含まれる前記モノビニルアレーンモノマー及び共役ジエンモノマーの全てが、その投入初期に添加され、反応器内に過剰モノマーの存在が許され、
前記少なくとも1種のモノビニルアレーンモノマーが、8?18個の炭素原子を含み、前記少なくとも1種の共役ジエンモノマーが、4?12個の炭素原子を含み、かつ
(A)50重量%以下のスチレン系ポリマー、及び
(B)50重量%以上のカップリングされた共役ジエン/モノビニルアレーンブロックコポリマーを含むポリマーブレンド。」の点で一致しているが、以下の相違点1において一応相違している。

[相違点1]
スチレン系ポリマーが、本願発明においては「前記スチレン系ポリマーが、少なくとも1種のスチレン系コモノマーと少なくとも1種の酸素又は窒素含有不飽和コモノマーとを共重合することにより製造される少なくとも1種のコポリマーからなる群から選ばれる」、「前記酸素又は窒素含有不飽和コモノマーが、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、メチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリロニトリル及びそれらの混合物からなる群から選ばれ」るものであることが規定されているのに対し、引用発明においてはこの点に関する規定がない点。

(2)相違点1についての検討
引用文献1には、スチレン性のポリマーとして摘示事項dのとおり「メチルアクリレート、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、及びこの類似物のような少量の他のモノマーもスチレンと共重合することができる」ことが記載されているから、引用発明には、スチレン性のポリマーとして、スチレンと「メチルアクリレート、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、及びこの類似物のような少量の他のモノマー」との共重合体を用いる態様についても包含されているといえる。
なお、本願発明においてスチレン系ポリマーとして「メチルアクリレート、エチルメタクリレート、メチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリロニトリル及びそれらの混合物からなる群から選ばれ」るコモノマーを共重合したものを選択したことによる作用効果について検討してみても、本願明細書中においてこれらコモノマーを共重合単位として有さないスチレン系ポリマーを用いた比較例等は何ら示されておらず、本願発明においてこれらコモノマーを選択したことにより、いわゆる選択発明を構成しうるほどの、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であっても予想し得ないような異質な又は顕著な作用効果が奏されているとは認められない。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

(3)まとめ
よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


第5.平成22年5月7日提出の審判請求書の手続補正書(方式)における審判請求人の主張について
審判請求人は、平成22年5月7日提出の審判請求書の手続補正書(方式)において、「(3-2-1)理由1(29条1項3号)に対して」として「(a)スチレン系ポリマー成分の割合が、引用文献1には、広範囲に『5?95重量%(更に好ましくは20?80重量%)』と開示している。一方、本願発明では『50重量%以下』である。引用文献1に開示のスチレン系ポリマー成分の割合の数値範囲に本願発明のスチレン系ポリマー成分の割合の数値範囲が含まれているとしても、本願発明の数値範囲は引用文献より限定的であるため、『数値範囲による限定を含む請求項における新規性の判断に有効である』(審査基準第II部第2章1.5.4(2))と、本願出願人も確信している。」と主張し、さらに、「(3-2-2)理由2(29条2項)に対して」の項目においてではあるが、「実施例で示した、スチレン系ポリマー含量が50重量%以下のものと50重量%超のものとの間でノッチ付アイゾットに大きな差が存在するという発見に基づいて、本願発明がなされた。引用文献1には、かかる発見に導く開示も示唆もない。故に、当業者が引用文献1に接しても本願発明に想到し得なかったはずである。(c)更に、前述の実施例に示した効果は、各引用文献に接した当業者には予期出来ない有利な効果である。故に、本願発明は、『請求項に係る発明が、限定された数値の範囲内で、刊行物に記載されていない有利な効果であって、刊行物に記載された発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測できたものでないときは、進歩性を有する』(審査基準第II部第2章2.5(3)丸1(i))との基準に適合するため、理由2を理由とした拒絶査定は取り消されるべきである。」なる主張をしている。

引用文献1は、摘示事項bに「共役ジエン/ モノビニルアレーンのコポリマーは知られており、そして種々の目的に対し有用である。特にこのポリマー関心事は、耐衝撃性のような良好な物理特性を有する無色の透明物品を形成することができる点にある。……ポリマーはまた、通常の射出成形装置を用いた使用に適するよう、充分な熱安定性を示すべきである。多くの応用に対し、多量のスチレンを含むコポリマーブレンドが必要とされている。このようなポリマーは、あるモノビニルアレーン- 共役ジエンコポリマーをスチレンポリマーとブレンドすることによって、一般に作られる。しかしながら、ブレンドはしばしば望ましくないヘイズや青着色を伴う。夫故に、青着色の程度の少ない、良好な透明性、硬さ、剛性、靱性を併せ持つポリマー、及びポリマーブレンドの開発が望まれている。」なる記載がなされているとおり、耐衝撃性等に優れた共役ジエン/ モノビニルアレーンのコポリマーに対して、「通常の射出成形装置を用いた使用に適するよう、充分な熱安定性を示す」ものとするため、スチレンポリマーをブレンドすることが前提技術であると認められる。
そして、上記前提技術からみれば、引用文献1の摘示事項eの「最終ポリマーブレンドの合計重量を基礎にして、約5 重量パーセント?約95重量パーセント、好ましくは約10重量パーセント?約90重量パーセント、そして更に好ましくは最終ポリマーブレンドの合計重量を基礎にして約20重量パーセント?約80重量パーセントの範囲の量のブロックコポリマーを含んでいる。」、「スチレン性のポリマーは、最終ポリマーブレンドの合計重量を基礎にして、約5 重量パーセント?約95重量パーセント、好ましくは約10重量パーセント?約90重量パーセント、そして更に好ましくは最終ポリマーブレンドの合計重量を基礎にして約20重量パーセント?約80重量パーセントの範囲の量で存在する。」なる記載につき、ブロックコポリマーの相対量が小さくなれば耐衝撃性が低下し、それに応じてスチレン性のポリマーの相対量が大きくなり熱安定性が向上するものであることは自明な事項であるといえる。
さらに、上記第4.2.で述べたとおり、ブロックコポリマーとスチレン性のポリマーとの重量比に関して引用文献1に具体的に記載されているのは、摘示事項fの実施例のとおり「60 : 40 、及び50 : 50 の比率( ブロックコポリマー : ポリスチレン、重量比)」のみであり、摘示事項fには「ポリマーブレンドはまた、良好な衝撃靱性と延性を示している。」ことが記載されているのであるから、引用文献1には、ブロックコポリマーとスチレン性のポリマーとの相対量として60:40?50:50(重量比)程度の比率で用いる態様が記載されているといえ、また、その程度の比率で用いた場合には得られるポリマーブレンドが良好な衝撃靱性を有するものとなることについても記載されているといえる。
よって、第4.2.で述べた引用発明の認定に誤りがないことは明らかであり、かつ、第4.3.で述べたとおり引用発明と本願発明とはポリマーブレンドにおけるブロックコポリマーとスチレン系ポリマーとの配合比において重複一致しているのであるから、上記した配合比に関する請求人の主張はいずれも採用することができないものである。
なお、請求人が主張するように「実施例で示した、スチレン系ポリマー含量が50重量%以下のものと50重量%超のものとの間でノッチ付アイゾットに大きな差が存在する」としても、そのようなブレンド比によるノッチ付アイゾットにおける差異は引用発明においても同様に発現しているものと認められ、ブロックコポリマーとスチレン性のポリマーとの相対量として60:40?50:50(重量比)程度の比率で用いたものである引用発明は、本願発明と同等のノッチ付アイゾット値を有する蓋然性がきわめて高いと認められる。この点につき、請求人は上記のとおり「前述の実施例に示した効果は、各引用文献に接した当業者には予期出来ない有利な効果である。」とし、「限定された数値の範囲内で、刊行物に記載されていない有利な効果であって、刊行物に記載された発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れた効果を有」する、いわゆる選択発明を構成するものであるかのような主張をしているが、ここで請求人が主張しているノッチ付アイゾット値についての効果は本願明細書中に示された比較例に対する効果であって、引用発明に対する効果の主張とはなっておらず、これら効果に関する主張もまた採用することができないものである。(なお、ポリマーブレンドにおいて、耐衝撃性に優れるブロックコポリマーの比率が増えれば、それに応じてポリマーブレンドの耐衝撃性が向上すること、すなわち、ノッチ付アイゾット値が向上することは上述したように自明の事項に過ぎず、たとえ本願明細書中の実施例を本願明細書中の比較例と対比したとしても「予期出来ない有利な効果」は何ら奏されていない。)


第6.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由1は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-29 
結審通知日 2012-06-01 
審決日 2012-06-13 
出願番号 特願2004-508172(P2004-508172)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 勇生  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 藤本 保
小野寺 務
発明の名称 共役ジエン/モノビニルアレーンブロックコポリマーブレンド  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  
代理人 安藤 克則  
代理人 池田 幸弘  

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