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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01M
管理番号 1265451
審判番号 不服2011-23447  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-31 
確定日 2012-11-01 
事件の表示 特願2007-303558「燃費低減方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月11日出願公開、特開2009-127531〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本件出願は、平成19年11月22日の出願であって、平成23年4月28日付けの拒絶理由通知に対して、同年7月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月31日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成24年5月14日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、同年7月12日付けで回答書が提出されたものである。


【2】平成23年10月31日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年10月31日付けの手続補正を却下する。


[理 由]
1.本件補正の内容
平成23年10月31日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年7月11日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記の(b)に示す請求項1を、下記の(a)に示す請求項1へと補正するものである。

(a)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
ディーゼル機関の運転において、脂肪酸メチルエステルを2?100質量%含有する燃料と、HTHS粘度が2.6mPa・s以上である潤滑油組成物とを用い、エンジンへの燃料のパイロット噴射又はポスト噴射を行うことにより燃料希釈を5?25%に調整し、エンジン中の摺動面の摩擦を低下させることを特徴とする燃費低減方法。」(下線部は審判請求人が補正箇所を示したものである。)

(b)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
ディーゼル機関の運転において、脂肪酸メチルエステルを2?100質量%含有する燃料と、HTHS粘度が2.6mPa・s以上である潤滑油組成物とを用い、エンジンへの燃料のパイロット噴射又はポスト噴射を行うことにより燃料希釈を2?25%に調整し、エンジン中の摺動面の摩擦を低下させることを特徴とする燃費低減方法。」


2.本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、
「燃料希釈」の数値範囲を「2?25%」から「5?25%」へと範囲を狭めて限定するものであるから、
請求項1に関する本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。


3.本件補正の適否の判断
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。

3-1.引用文献記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の出願日前に頒布された刊行物である特開2004-340090号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
内燃機関の気筒内へ燃料を直接に噴射する燃料噴射弁と、
前記内燃機関のエンジンオイルの粘度が所定の粘度より高いか否かを判定するエンジンオイル粘度判定手段と、
前記エンジンオイル粘度判定手段によって前記内燃機関のエンジンオイルの粘度が所定の粘度より高いと判定されたときは、前記気筒の内壁面に該燃料を付着させるべく該気筒における非燃焼期間に前記燃料噴射弁より燃料を噴射するエンジンオイル希釈手段と、を備えることを特徴とする内燃機関のエンジンオイル粘度制御システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(イ)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
気筒内における燃料の燃焼によって生じるスーツが、シリンダとピストンの摺動面に付着することでエンジンオイルに混入し、エンジンオイルの粘度が上昇する。そして、エンジンオイルの粘度が上昇することで、内燃機関の定常的な機関負荷が上昇するため、燃費が悪化する虞がある。
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、内燃機関のエンジンオイルの粘度上昇に伴う燃費の悪化を抑制すべく該エンジンオイルの粘度を制御するエンジンオイル粘度制御システムを提供することを目的とする。」(段落【0006】及び【0007】)

(ウ)「【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、内燃機関の有する燃料噴射弁からの燃料によるエンジンオイルの希釈に着目した。これは、エンジンオイルに燃料噴射弁から噴射された内燃機関の燃料を混入させることでエンジンオイルを希釈し、その結果、エンジンオイルの粘度が低下し、内燃機関の定常的な負荷が低下することによる。」(段落【0008】)

(エ)「【0011】
ここで、前記気筒における非燃焼期間とは、燃焼サイクルにおいて前記燃料噴射弁から噴射された燃料が気筒内において燃焼されずに、該気筒の内壁面に付着することが可能な所定の期間をいう。即ち、非燃焼期間に噴射された燃料は、内燃機関の機関出力に寄与しないこととなる。例えば、圧縮着火内燃機関においては、圧縮工程上死点近傍において気筒内で燃料が燃焼するため、その燃焼が終了した時点以降の膨張行程または排気工程の期間を非燃焼期間とすることができる。また、前記エンジンオイル希釈手段は、気筒の内壁面に燃料を付着させることを目的とするので、特に気筒内のピストンのヘッド位置が低く内壁面が大きく露呈される膨張行程中期から排気工程中期の期間が、非燃焼期間として好ましい。
【0012】
更に、内壁面に付着した燃料がその後蒸発し、気筒内の燃焼に供されることを可及的に回避するために、内燃機関の機関停止直前において、前記エンジンオイル希釈手段による燃料の噴射を行うことが好ましい。」(段落【0011】及び【0012】)

(オ)「【0013】
前記エンジンオイル希釈手段によって噴射された燃料は、気筒の内壁面に付着し、内壁面に存在するエンジンオイルと混入することとなる。エンジンオイルは、内燃機関において潤滑が必要とされる部位を循環しており、内壁面に付着した燃料は結果的にエンジンオイルを希釈し、その粘度を低下させることとなる。その結果、前記エンジンオイル粘度判定手段によって所定の粘度より高いと判断されたエンジンオイルの粘度が低下するため、内燃機関のエンジンオイルの粘度上昇に伴う燃費の悪化が抑制される。」(段落【0013】)

(カ)「【0014】
また、エンジンオイルは使用に伴う剪断によって使用開始時期に比べそのエンジンオイル粘度は、漸近的にある程度まで低下していく性質を有しており、従ってエンジンオイルは元来、使用に伴う剪断によるエンジンオイル粘度の低下を踏まえて内燃機関において使用されている。そこで、過度にエンジンオイルを低下させると、エンジンオイルが潤滑剤としての機能を果たさず、潤滑が必要とされる部位にいて焼付けが発生する虞があるため、前記エンジンオイル希釈手段によるエンジンオイルの希釈を行う場合であっても、剪断によって低下するエンジンオイル粘度より高いエンジンオイル粘度とするのが好ましい。」(段落【0014】)

(キ)「【0024】
図1の内燃機関1は圧縮着火内燃機関であり、気筒5の内部において往復運動を行うピストン2を有している。さらに、気筒5とピストン2との間に設けられる燃焼室3に直接燃料を噴射する燃料噴射弁4を備えている。燃料噴射弁4は、燃料供給管18を介して蓄圧室15および燃料ポンプ16と連通している。燃料ポンプ16は内燃機関の出力軸30(以後、「クランクシャフト30」という)の回転を駆動源とし、燃料タンク17より燃料を吸い上げ、蓄圧室15へと供給する。蓄圧室15では一定圧力に燃料が蓄圧されており、燃料噴射弁4に駆動電流が印加され燃料噴射弁が開弁することによって、燃焼室3内へ燃料が噴射される。また、燃料噴射弁4内において噴射されずに残った燃料はリターン通路19を経て燃料タンク17へと戻る。図1中、実線の矢印は、燃料の流れを表すものである。
・・・(中略)・・・・
【0026】
次に、内燃機関1には、クランクシャフト30やカムシャフト(図示略)などの軸受けや上記気筒5とピストン2との摺接面等のように、潤滑を必要とする潤滑部20が存在する。尚、図1においては、潤滑部20を概略的に一のブロックで示しているが、先述のように内燃機関1に存在する潤滑が必要とされる摺動部位を総称するものである。ここで、オイル通路22を介して潤滑部20に供給される潤滑用のエンジンオイルは、内燃機関1にあってその気筒5の下方に設けられたオイルパン10内に貯留されている。そして、そのオイルパン10内のエンジンオイルがオイルポンプ21によって汲み出され、オイル通路22を介して潤滑部20へと送り出される。こうして潤滑部20へと送られたエンジンオイルは、再びオイル通路22を介してオイルパン10へと還流され、循環される。
【0027】
ここで、内燃機関1において、リターン通路19から分岐した燃料通路12がオイルパン10にまで連通している。燃料通路12の途中には、燃料通路19を流れる燃料の流量を調整する流量調整弁14が備えられている。従って、流量調整弁14の開度が調整されることで、リターン通路19を流れる燃料の少なくとも一部がオイルパン10に貯留されているエンジンオイルに混入する。
【0028】
燃料噴射弁4は、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)11からの制御信号によって開閉動作を行う。即ち、ECU11からの指令によって、燃料噴射弁4における燃料の噴射時期および噴射量が制御される。また、流量調整弁14は、ECU11からの制御信号によってその開度が制御されることで、燃料通路12を介してオイルパン10に貯留されているエンジンオイルに混入される燃料の量が制御される。
・・・(中略)・・・・
【0030】
また、オイル通路22を流れるエンジンオイルの温度を検出するエンジンオイル温度センサ23とエンジンオイルの流速を検出するエンジンオイル流速センサ24が、エンジンオイル通路22に備えられており、それぞれがECU11と電気的に接続されている。また、排気枝管9に空燃比センサ26が設けられ、ECU11と電気的に接続されている。そして、空燃比センサ26によって検出された空燃比等に基づいて、燃焼室3における混合気の空燃比が推定される。」(段落【0024】ないし【0030】)

(ク)「【0031】
ここで、アクセル開度センサ13からの信号に基づいて、ECU11が内燃機関1に要求される機関トルクに応じた燃料を燃料噴射弁4から噴射する。その噴射された燃料が燃焼される過程において、燃焼室3内の燃焼状態、例えば燃料噴射量、燃料噴射時期、混合気の空燃比等によってはスーツが発生し、その一部が気筒5の内壁面に存在するエンジンオイルに混入し、エンジンオイルの粘度が上昇する。エンジンオイルの粘度が上昇すると内燃機関の定常的な機関負荷が上昇することになるため、燃費が悪化する虞がある。そこで、エンジンオイルの粘度上昇に伴う燃費の悪化を抑制するための制御について図2に基づいて説明する。図2はエンジンオイル粘度上昇抑制制御のフローチャートである。尚、該制御は、ECU11によって実行される。」(段落【0031】)

(ケ)「【0037】
また、後述するように燃料噴射弁4から燃料を噴射し該燃料を気筒5の内壁面に付着させることで、エンジンオイルの希釈を行うときは、その希釈のために噴射された燃料が燃焼されるのを回避するために、希釈のための燃料噴射を非燃焼期間に行う必要がある。内燃機関1の機関負荷によっては、燃焼室3内の燃焼ガス温度等の条件が変動するため、非燃焼期間も変動する。そこで、S102においては、燃料噴射弁4より燃料を噴射し該燃料を気筒5の内壁面に付着させることで、エンジンオイルの希釈を行うときは、より適した非燃焼期間を算出する。S102の処理が終了すると、S103へ進む。
【0038】
S103では、エンジンオイルへ燃料を混入させる。具体的には、圧縮上死点近傍における燃料の燃焼に影響されずに、噴射された燃料が気筒5の内壁面に付着する非燃焼期間、例えば膨張行程中期から排気行程中期にかけて、ECU11から燃料噴射弁4に対して噴射指令を出し、気筒5の内壁面に燃料を付着させることで、エンジンオイルへ燃料を混入させる。特に、噴射された燃料が燃焼されない期間であって、ピストン2が下方に下がることで気筒5の内壁面が露呈し噴射された燃料が付着しやすい時点で、燃料噴射弁4から燃料を噴射するのが好ましい。また、燃料噴射弁4からの燃料の噴射の他に、ECU11から流量調整弁14に対して開弁指令を出して、エンジンオイルにリターン通路を流れる燃料の一部を混入させることも可能である。」(段落【0037】及び【0038】)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(ケ)及び図面の記載からみて、次のことがわかる。

(コ)上記(1)の(ア)ないし(オ)及び(キ)ないし(ケ)並びに図1及び2の記載からみて、内燃機関のエンジンオイル粘度制御システムにおける内燃機関1は圧縮着火内燃機関であり、内燃機関のエンジンオイル粘度制御システムにおける燃費の悪化を抑制する方法は、燃料とエンジンオイルとを用い、当該内燃機関1への燃料の非燃焼期間における噴射を行うことによりエンジンオイルの燃料による希釈を行い、当該内燃機関1中の摺動部位である潤滑部20の摩擦を低下させて燃費の悪化を抑制するものであることがわかる。
換言すると、内燃機関のエンジンオイル粘度制御システムにおける燃費の悪化を抑制する方法は、圧縮着火内燃機関の運転において、燃料と、エンジンオイルとを用い、内燃機関1への燃料の非燃焼期間における噴射を行うことにより燃料希釈を行い、内燃機関1中の摺動部位である潤滑部20の摩擦を低下させる燃費低減方法といえる。

(サ)上記(1)の(ア)、(オ)、(キ)及び(ク)の記載からみて、内燃機関1に使用される燃料は、当該内燃機関1が圧縮着火内燃機関であるので、圧縮着火内燃機関用の燃料であることは明らかである。
また、内燃機関1に使用されるエンジンオイルは、粘度を有するものであることも明らかである。

(3)上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「圧縮着火内燃機関の運転において、圧縮着火内燃機関用の燃料と、粘度を有するエンジンオイルとを用い、内燃機関1への燃料の非燃焼期間における噴射を行うことにより燃料希釈を行い、内燃機関1中の気筒5とピストン2との摺接面の摩擦を低下させる燃費低減方法。」


3-2.対比
本件補正発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「圧縮着火内燃機関」は、その機能又は技術的意義からみて、本件補正発明における「ディーゼル機関」に相当し、以下同様に、「エンジンオイル」は「潤滑油組成物」に、「内燃機関1」は「エンジン」に、「気筒5とピストン2との摺接面」は「摺動面」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明における「圧縮着火内燃機関用の燃料」は、「ディーゼル機関用の燃料」という限りにおいて、本件補正発明における「脂肪酸メチルエステルを2?100質量%含有する燃料」に相当し、以下同様に、
「粘度を有する」は「粘度を有する」という限りにおいて、「HTHS粘度が2.6mPa・s以上である」に、
「非燃焼期間における噴射を行うこと」は、「主噴射とは別の噴射を行うこと」という限りにおいて、「パイロット噴射又はポスト噴射を行うこと」に、
「燃料希釈を行い」は、「燃料希釈を行い」という限りにおいて、「燃料希釈を5?25%に調整し」に、それぞれ相当する。

したがって、本件補正発明と引用文献記載の発明は、次の一致点及び相違点を有するものである。

<一致点>
「ディーゼル機関の運転において、ディーゼル機関用の燃料と、粘度を有する潤滑油組成物とを用い、エンジンへの燃料の主噴射とは別の噴射を行うことにより燃料希釈を行い、エンジン中の摺動面の摩擦を低下させる燃費低減方法。」


<相違点>
(1)相違点1
燃料及び燃料希釈に関し、
本件補正発明においては、「脂肪酸メチルエステルを2?100質量%含有する」燃料であり、燃料希釈を「5?25%に調整し」たものであるのに対し、
引用文献記載の発明においては、圧縮着火内燃機関(ディーゼル機関)用の燃料ではあるが、具体的な燃料の種類や成分は不明であり、燃料希釈を行っているが、具体的な調整度合いは不明である点(以下、「相違点1」という。)。

(2)相違点2
潤滑油組成物の粘度に関し、
本件補正発明においては、「HTHS粘度が2.6mPa・s以上である」のに対し、
引用文献記載の発明においては、粘度を有するが、具体的な粘度の度合いは不明である点(以下、「相違点2」という。)。

(3)相違点3
燃料希釈のための燃料噴射の形態に関し、
本件補正発明においては、「パイロット噴射又はポスト噴射を行うこと」であるのに対し、引用文献記載の発明においては、「非燃焼期間における噴射を行うこと」である点(以下、「相違点3」という。)。


3-3.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
(ア)ディーゼル機関において、燃料として脂肪酸メチルエステルを含有するものを使用することは、従来周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、原査定の拒絶の理由において例示された特開2007-16089号公報の特に、請求項1、段落【0002】、【0027】及び【0040】の【表1】参照。)である。

(イ)また、本件補正発明における「脂肪酸メチルエステル」の含有量の「2?100質量%」の数値範囲の技術的意義、前提となる条件及び上限・下限の臨界的意義は、本件出願の明細書及び図面を見ても、格別のものとはいえない。
その上で、ディーゼル機関において、燃料として使用する脂肪酸メチルエステルの含有量を「2?100質量%」程度とすることは、ディーゼル燃料として通常使用される数値範囲の程度であって単なる設計上の事項にすぎないし、本件補正発明の前記数値範囲自体は格別のものとはいえない(例えば、原査定の拒絶の理由において例示された前記の特開2007-16089号公報の特に、【0027】及び【0040】の【表1】参照。)。

(ウ)一方、燃料希釈については、本件補正発明における「5?25%」の数値範囲の技術的意義、前提となる条件及び上限・下限の臨界的意義は、本件出願の明細書及び図面を見ても、格別のものとはいえない。
その上で、ディーゼル機関において、燃料希釈を「5?25%」とすることは、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜選定する設計上の事項であるし、本件補正発明の前記数値範囲自体は格別のものとはいえない(例えば、特開2006-242074号公報の特に、請求項1、段落【0038】及び図4、国際公開第2005/071403号(ファミリー文献である特表2007-522442号公報の特に、段落【0003】及び【0004】参照。)参照。)。

(エ)さらに、ディーゼル機関において、エンジンの摩擦低減のために、燃料又は潤滑油組成物に脂肪酸メチルエステルを含有させることは、従来周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、国際公開第2005/049550号(ファミリー文献である特表2007-511511号公報の特に、段落【0012】、【0015】、【0018】及び【0024】参照。)、国際公開第2005/049551号(ファミリー文献である特表2007-510726号公報の特に、段落【0014】、【0017】、【0021】、【0035】及び【0036】参照。)参照。)である。

(オ)そうすると、引用文献記載の発明において、燃料として上記周囲技術1を採用し、燃料希釈に際、エンジンの摩擦低減のため上記周知技術2を勘案して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(2)相違点2について
潤滑油組成物の粘度については、本件補正発明における「HTHS粘度が2.6mPa・s以上である」の数値範囲の技術的意義、前提となる条件及び下限の臨界的意義は、本件出願の明細書及び図面を見ても、格別のものとはいえない。
その上で、内燃機関において、潤滑油組成物の粘度を「HTHS粘度が2.6mPa・s以上」とすることは、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜選定する設計上の事項であるし、本件補正発明の前記数値範囲自体は格別のものとはいえない(例えば、原査定の拒絶の理由において引用された特開2007-217494号公報(平成19年8月30日公開。)の特に、請求項3、段落【0001】、【0003】、【0010】、【0011】、【0079】、【0081】の【表1】及び【0082】参照。)。
そうすると、引用文献記載の発明において、潤滑油組成物の粘度として上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜選定する設計上の事項にすぎない。

(3)相違点3について
燃料希釈のための燃料噴射の形態については、本件補正発明も引用文献記載の発明も「主噴射とは別の噴射を行うこと」という点において共通する。
また、ディーゼル機関において、主噴射とは別のタイミングの噴射形態として、パイロット噴射又はポスト噴射を行なうことは、文献等を例示するまでもなく周知慣用技術(以下、「周知慣用技術」という。)である。そして、このような「パイロット噴射又はポスト噴射」は、主噴射の行われる燃焼期間以外の噴射である、引用文献記載の発明における「非燃焼期間における噴射」に包含されるものであることから、「パイロット噴射又はポスト噴射」も燃料希釈を生じさせる噴射形態であることは当業者であれば容易に推察できる。
そうすると、引用文献記載の発明において、主噴射とは別のタイミングの噴射形態として、上記周知慣用技術を採用し、上記相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(4)上記(1)及び(2)における各数値範囲の相互の関連について
一般に、数値又は数値範囲が有意のものでなければ、このような数値又は数値範囲の点に進歩性があるものとはいえず、さらに、有意のものでない数値又は数値範囲の相互の関連の点についても進歩性があるものとはいえない。
そうすると、上記(1)及び(2)において検討したように、各数値範囲の点はいずれも有意のものとはいえず、このため、これらの相互の関連の点についても、有意のものとはいえない。
以上のことから、各数値範囲の相互の関連の点は、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜選定する設計上の事項といわざるを得ない。

また、本件補正発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明、周知技術1及び2並びに周知慣用技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。


3-4.まとめ
したがって、本件補正発明は、引用文献記載の発明、周知技術1及び2並びに周知慣用技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。


【3】本件発明について
1.本件発明の内容
平成23年10月31日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、平成23年7月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲及び出願当初の明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、単に「本件発明」という。)は、前記【2】の[理 由]の1.(b)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。


2.引用文献記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開2004-340090号公報)の記載事項及び引用文献記載の発明は、前記【2】の[理 由]3.の3-1.(1)ないし(3)に記載したとおりである。


3.対比・判断
本件発明は、実質的に、前記【2】で検討した本件補正発明における発明特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記【2】の[理 由]3.の3-1.ないし3-4.に記載したとおり、引用文献記載の発明、周知技術1及び2並びに周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、引用文献記載の発明、周知技術1及び2並びに周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明、周知技術1及び2並びに周知慣用技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。


4.むすび
以上のとおり、本件発明は、引用文献記載の発明、周知技術1及び2並びに周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、平成24年7月12日付けの回答書において、補正案を提示し、特に、HTHS粘度を「2.7mPa・s以上」及び燃料希釈を「10?25%」にそれぞれ数値範囲の下限値を大きくしている。
しかしながら、前記【2】[理 由]3.3-3.(1)、(2)及び(4)において検討したものと同様の理由により特許を受けることができない。
したがって、補正案を検討しても特許性があるものとは認められない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-29 
結審通知日 2012-09-04 
審決日 2012-09-18 
出願番号 特願2007-303558(P2007-303558)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F01M)
P 1 8・ 121- Z (F01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 出口 昌哉  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 柳田 利夫
藤原 直欣
発明の名称 燃費低減方法  
代理人 平野 裕之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 城戸 博兒  
代理人 黒木 義樹  
代理人 池田 正人  
代理人 石坂 泰紀  
代理人 清水 義憲  

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