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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D21H 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D21H |
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管理番号 | 1265810 |
審判番号 | 不服2011-21151 |
総通号数 | 156 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-09-30 |
確定日 | 2012-11-06 |
事件の表示 | 特願2009-514224「カチオン性アミロペクチンデンプンを用いて紙を作製するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月13日国際公開、WO2007/142528、平成21年11月19日国内公表、特表2009-540137〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2007年6月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年6月9日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成23年3月31日付けで手続補正がなされ、同年7月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成23年9月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「少なくとも5重量%の広葉樹パルプを含むパルプからの製紙のウェットエンドにおいてベッセルピッキング(vessel picking)を減少させるための、カチオン性アミロペクチンデンプンの使用であって、前記広葉樹パルプが、オーク、ニレ、ユーカリ、アスペン、ヒロハハコヤナギ(balsam cottonwood)、またはアカシアから取得される、使用。」 と補正された。 上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「広葉樹パルプ」について、「前記広葉樹パルプが、オーク、ニレ、ユーカリ、アスペン、ヒロハハコヤナギ(balsam cottonwood)、またはアカシアから取得される」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 1.引用文献 原査定の拒絶の理由に引用された特表平10-509221号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。 「【特許請求の範囲】 1.アミロペクチン型のカチオン性デンプンの使用であって、前記アミロペクチン型のカチオン性デンプンが、アミロース型デンプンの形成を抑制するために遺伝子工学により修飾されたジャガイモから得られるものであり、製紙工程において保持性改良剤として、場合に応じてアニオン性成分とともに紙料へ添加される使用。 2.前記アミロペクチン型デンプンが95%よりも多いアミロペクチンを、好ましくは98%よりも多いアミロペクチンを含有する請求の範囲第1項の使用。 3.化学的、物理的及び/又は酵素的誘導化に供されたアミロペクチン型デンプンの1又はそれ以上の誘導体が保持性改良剤として用いられる請求の範囲第1項の使用。 4.アミロペクチン型デンプン又はその誘導体が、前記紙料中に、製造された紙1トン当たり1?50kg、好ましくは製造された紙1トン当たり1?20kg添加される請求の範囲第1項ないし第3項のいずれか1項の使用。」(2頁1行?14行) 「実施例1 保持性におけるアミロペクチン型カチオン性デンプンの効果を評価するために、いわゆるDDA装置(ダイナミック排水分析機(Dynamic Drainage Analyser))内で実験室での試験が行われた。紙料のパルプは、完全に漂白された化学硬木パルプ(fully bleached chemical hardwood pulp)50%及び25°SRに粉砕され、完全に漂白された化学軟木パルプ(fully bleached chemical softwoodpulp)50%からなった。充填剤として40%チョークを紙料に添加した。紙料のpH値を8.2に調整し、伝導率を測定すると600μSであった。DDA装置内での試験に先立ち、紙料を2g/リットルの濃度に希釈した。保持性を測定するために、濃度及び灰含有量の測定をバッチ紙料について、さらにワイヤーを通して排水された水について行った。0.05の置換の程度を有するアミロペクチン型カチオン性デンプンを、同じ置換の程度を有する伝統的なカチオン性ジャガイモデンプンと比較した。カチオン性アミロペクチンとカチオン性デンプンを60?130℃の範囲の多くの異なる温度水準において溶解し、添加量は、各々2.5、5.0、10.0及び15.0kg/トンであった。アミロペクチン型のカチオン性デンプン及びカチオン性ジャガイモデンプンを各々最適に調整し、添加することにより、アミロペクチン型カチオン性デンプンが用いられた場合、約10%の総保持性の改良と約40%の充填剤保持性の改良が得られた。」(6頁13行?7頁1行) これらの記載によれば、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「製紙工程において保持性改良剤として紙料へ添加される、アミロペクチン型のカチオン性デンプンの使用であって、アミロペクチン型デンプンが、前記紙料中に、製造された紙1トン当たり1?50kg添加される、使用。」 2.対比 広辞苑によれば、「し‐りょう【紙料】‥レウ 製紙の原料。パルプと水を混合させたもの。特に、抄紙機に流す直前のもの。」(広辞苑第六版)であることから、引用発明の「紙料へ添加」することは、本願補正発明の「パルプからの製紙のウェットエンド」における使用に相当する。 引用発明の「アミロペクチン型のカチオン性デンプン」は、本願補正発明の「カチオン性アミロペクチンデンプン」に相当する。 よって、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「パルプからの製紙のウェットエンドにおける、カチオン性アミロペクチンデンプンの使用。」 [相違点1] パルプについて、本願補正発明は、「少なくとも5重量%の広葉樹パルプを含む」及び「前記広葉樹パルプが、オーク、ニレ、ユーカリ、アスペン、ヒロハハコヤナギ(balsam cottonwood)、またはアカシアから取得される」と特定されているのに対し、引用発明は、このようなパルプの特定がされていない点。 [相違点2] 本願補正発明は、「ベッセルピッキング(vessel picking)を減少させるための」使用であるのに対し、引用発明は、「保持性改良剤として」の使用である点。 3.判断 (1)相違点1について 原査定に周知例として示された特開平2-293497号公報には、その従来技術として、ユーカリ材等をパルプ中へ20重量%程度まで配合することが記載されている(1頁左欄下から3行?同頁右欄14行)から、「少なくとも5重量%の広葉樹パルプを含む」パルプであって、「前記広葉樹パルプが、オーク、ニレ、ユーカリ、アスペン、ヒロハハコヤナギ(balsam cottonwood)、またはアカシアから取得される」ものは、周知と認められる。 そして、引用発明は、パルプの種類が特に限定されるものではないから、針葉樹パルプも広葉樹パルプも、適宜に使用可能なものといえる。更に、引用文献には、実施例1として、「紙料のパルプは、完全に漂白された化学硬木パルプ(fully bleached chemical hardwood pulp)50%及び25°SRに粉砕され、完全に漂白された化学軟木パルプ(fully bleached chemical softwoodpulp)50%からなった。」との記載があり、「hardwood pulp」とは広葉樹パルプのことであるから、引用発明のパルプとして「少なくとも5重量%の広葉樹パルプを含む」パルプを使用することが示唆されているともいえる。 したがって、引用発明において、周知の「少なくとも5重量%の広葉樹パルプを含む」パルプであって、「前記広葉樹パルプが、オーク、ニレ、ユーカリ、アスペン、ヒロハハコヤナギ(balsam cottonwood)、またはアカシアから取得される」ものを用いること、すなわち、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2について 上記「2.対比」で検討したように、本願補正発明と引用発明とは、「パルプからの製紙のウェットエンドにおける、カチオン性アミロペクチンデンプンの使用。」の点では一致している。また、本願明細書に「使用されるカチオン性デンプンの量は・・・(中略)・・・乾燥物質の紙パルプに対して計算して、好ましくは0.05?10重量%、より好ましくは0.1?2重量%の乾燥物質のカチオン性アミロペクチンデンプンが使用される。」(【0027】)と記載され、一方、引用発明は、「製造された紙1トン当たり1?50kg」(製造された紙に対するカチオン性アミロペクチンデンプンの量が0.1?5重量%)であることから、カチオン性アミロペクチンデンプンの使用量も両者で格別相違しない。そうすると、本願補正発明と引用発明は、カチオン性アミロペクチンデンプンの具体的な使用の態様が相違するものではない。 そして、上記原査定における周知例である特開平2-293497号公報には、ユーカリ材等の広葉樹を原料とするパルプから得られた紙がベッセルピックのトラブルを発生することも示されている(1頁左欄下から3行?同頁右欄14行)。 してみれば、本願補正発明の「ベッセルピッキング(vessel picking)」は、周知の「少なくとも5重量%の広葉樹パルプを含む」パルプであって、「前記広葉樹パルプが、オーク、ニレ、ユーカリ、アスペン、ヒロハハコヤナギ(balsam cottonwood)、またはアカシアから取得される」ものを用いた紙に内在するトラブルであって、引用発明において、上記周知のパルプを用いた場合には、必然的に「ベッセルピッキング(vessel picking)を減少させる」こととなる。 そして、引用発明において、上記周知のパルプを用いることは、上記(1)に述べたとおり、当業者が容易に想到し得たことである。 よって、相違点2に係る本願補正発明の構成も、引用発明において、上記周知のパルプを用いることにより、当業者が容易に想到し得たものである。 請求人は、引用文献には、ベッセルピッキングの問題について何ら記載も示唆も無い旨主張する。しかし、引用発明において、上記周知のパルプを用いた場合には、ベッセルピッキングを減少させる意図の有無に関わらず、必然的に「ベッセルピッキング(vessel picking)を減少させる」こととなるのであるから、上記請求人の主張は採用できない。 (3)まとめ 本願補正発明の効果は、引用発明において周知のパルプを用いた場合に当然に奏する効果であって、引用発明に内在する効果にすぎない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年3月31日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「少なくとも5重量%の広葉樹パルプを含むパルプからの製紙のウェットエンドにおいてベッセルピッキング(vessel picking)を減少させるための、カチオン性アミロペクチンデンプンの使用。」 第4 引用文献 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、および、その記載事項は、前記「第2[理由]1.引用文献」に記載したとおりである。 第5 対比・判断 本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から「前記広葉樹パルプが、オーク、ニレ、ユーカリ、アスペン、ヒロハハコヤナギ(balsam cottonwood)、またはアカシアから取得される」との限定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]3.判断」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-06-12 |
結審通知日 | 2012-06-13 |
審決日 | 2012-06-26 |
出願番号 | 特願2009-514224(P2009-514224) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(D21H)
P 1 8・ 575- Z (D21H) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 長谷川 大輔 |
特許庁審判長 |
仁木 浩 |
特許庁審判官 |
河原 英雄 紀本 孝 |
発明の名称 | カチオン性アミロペクチンデンプンを用いて紙を作製するための方法 |
代理人 | 春名 雅夫 |
代理人 | 刑部 俊 |
代理人 | 新見 浩一 |
代理人 | 大関 雅人 |
代理人 | 井上 隆一 |
代理人 | 五十嵐 義弘 |
代理人 | 小林 智彦 |
代理人 | 渡邉 伸一 |
代理人 | 佐藤 利光 |
代理人 | 川本 和弥 |
代理人 | 山口 裕孝 |
代理人 | 清水 初志 |