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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C01B
管理番号 1266255
審判番号 不服2011-2199  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-31 
確定日 2012-11-15 
事件の表示 特願2004-208998「単層カーボンナノチューブの製法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 2日出願公開、特開2006- 27947〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年7月15日の出願であって、平成22年7月6日付けの拒絶理由通知に対して、同年7月26日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され、同年11月12日付けの拒絶査定に対して、平成23年1月31日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同年2月1日付けで、請求の理由の中で言及された参考資料を添付する手続補足書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の発明は、平成22年7月26日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
一酸化炭素を炭素源とし、この一酸化炭素を触媒金属が担持された支持体上に流し、気相成長法により、支持体上に単層カーボンナノチューブを成長させる単層カーボンナノチューブの製法であって、
触媒金属が、8族、9族、10族遷移金属からなる主触媒金属と、6族遷移金属からなる助触媒金属とから構成され、
支持体上に主触媒金属が、隣接する主触媒金属間の間隔が4nm以上である疎に分散された状態で担持されていることを特徴とする単層カーボンナノチューブの製法。」

第3 原査定の理由の概要
原審における本願に対する拒絶査定の理由の1つは、本願発明は、本願出願前日本国内において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

<引用刊行物>
刊行物1 特表2002-526361号公報

第4 刊行物1の記載事項
上記刊行物1には、以下の記載がある。
[1a]「本発明は、一般的に単層カーボンナノチューブの産出方法・・・に関する。」(第28頁第15行?第16行)

[1b]「本支持体は、大きさが10 ナノメートルからセンチメートルの範囲にありうる。」(第12頁第11行?第12行)

[1c]「遷移金属触媒
種々の遷移金属含有クラスターが・・・触媒として適している。・・・好ましい物質は、遷移金属、特に・・・モリブデン(Mo)・・・または例えば、鉄(Fe)・・・の遷移金属を含む。・・・任意のこれらの遷移金属を単独に、或いは列記した他の任意の遷移金属とを組み合わせて単層カーボンナノチューブの成長用触媒として役立つクラスターで使用することが出来る。特に好ましい触媒は、列記した金属の二以上の混合物である。
【0020】
遷移金属クラスターは、約0.5ナノメートルから30ナノメートルまでに亙る大きさを有することができる。0.5乃至3ナノメートルの範囲のクラスターは、それより大きいクラスターが約3ナノメートルを超える外径を有する多層ナノチューブを産出する傾向があるのに対して、単層ナノチューブを産出するでろう。・・・ 遷移金属クラスターは、支持体から成長する単層ナノチューブが一般的には揃えられた単層カーボンナノチューブの束またはロープを形成するように互いに直近して実質的に均一に支持体表面上に分散されている。 代わりに、遷移金属クラスターは、該支持体から成長する単層ナノチューブが互いに分離しているようにクラスター間に空隙を存在させて支持体上に分散させることが出来る。」(第12頁第13行?第13頁第11行)
(審決注 「束またわロープ」は、「束またはロープ」の明らかな誤記と認定した。)

[1d]「【0037】
本発明において形成された単層ナノチューブは、それらが互いに直近した触媒粒子から成長するので組織化された束或いは“ロープ”へと形成していくのが観察される。・・・このような単層カーボンナノチューブのロープは、それに続く加工及び/または利用のために支持触媒から除去することができ、或いはそれらがまだ触媒粒子へ付着している間に“そのまま”使用することができる。 広く分散した触媒粒子を有する支持触媒を使用する本発明により調製した単層カーボンナノチューブは、個々のナノチューブが凝集する前に回収することができる。 これらのナノチューブは、特定の用途のために二次元的に不規則配列したマットまたはフェルトの形状で、或いは個々に収集することができる。」(第19頁第26行?第20頁第7行)
(審決注 「支持触媒がら除去する」は、「支持触媒から除去する」の明らかな誤記と認定した。)

[1e]「実施例
・・・
より大きな(10-20ナノメートル)アルミナ粒子に支持されたナノメートル寸法の金属粒子上を高められた温度で炭素含有ガス(一酸化炭素・・・)を通過させることにより単層カーボンナノチューブを成長させることができる。
【0038】
二つの異なる金属触媒、すなわち、一方は純粋なモリブデンを含むもので、他方は鉄とモリブデンを含むものを使用することができる。鉄のモリブデンに対する比を9:1であり得る。・・・触媒は当該技術分野で公知の方法を使用して調製した。
・・・
【0040】
・・・該第二の触媒は質量比で90対9対1のアルミナ/鉄/モリブデンで調製する。」(第20頁第26行?第22頁第1行)
(審決注 「一方は純粋なモリブデンを含むもで」は、「一方は純粋なモリブデンを含むもので」の明らかな誤記と認定した。)

[1f]「・・・金属粒子が・・・モリブデン(Mo)・・・及び・・・例えば、鉄(Fe)・・・及びこれらを任意に含む混合物よりなる群から選ばれる」(第2頁第23行?第27行)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、[1a]によれば、刊行物1に記載された発明が、単層カーボンナノチューブの産出方法に関するものであることが記載され、[1e]には、当該単層カーボンナノチューブの産出方法に係る実施例として、アルミナ粒子に支持されたナノメートル寸法の金属粒子上を高められた温度で炭素含有ガスとしての一酸化炭素を通過させることが記載されるとともに、その際に金属粒子の形で用いられる金属触媒として、同[1e]の【0038】には、鉄とモリブデンが9:1の比で含む、すなわち9割の鉄と1割のモリブデンを含むものを使用することが記載されており、また、[1f]には、上記金属粒子が混合物であることが記載されている。さらに、[1c]の【0020】には、単層ナノチューブが支持体から成長することが記載されている。
ここで、上記[1e]に実施例として記載された単層カーボンナノチューブの産出方法は、炭素含有ガスとしての一酸化炭素を炭素源としていることが明らかであるし、一酸化炭素を原料ガスとして使用する上記方法が気相成長法によるものであることもまた、自明の事項である。
したがって、以上の記載事項を本願発明の記載ぶりに沿って整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されているといえる。

「一酸化炭素を炭素源とし、この一酸化炭素を金属粒子が支持されたアルミナ粒子に通過させ、気相成長法により、支持体上に単層カーボンナノチューブを成長させる単層カーボンナノチューブの産出方法であって、
金属粒子が、9割の鉄と、1割のモリブデンを含む混合物である、単層カーボンナノチューブの産出方法。」(以下、「引用発明」という。)

2 本願発明と引用発明との対比
引用発明の「金属粒子」、「支持」、「アルミナ粒子」、「通過させ」、「産出方法」、「9割の鉄」及び「1割のモリブデン」は、その機能を考慮すれば、それぞれ本願発明の「触媒金属」、「担持」、「支持体」、「流し」、「製法」、「8族」「遷移金属からなる主触媒金属」及び「6族遷移金属からなる助触媒金属」に相当する。
また、引用発明の「9割の鉄と、1割のモリブデンを含む混合物である」金属粒子に関して、[1e]の【0038】には、金属粒子の形で用いられる二種類の金属触媒うち、他方の金属触媒として、鉄とモリブデンを含む金属触媒が記載されており、同[1e]の【0040】には、上記他方の金属触媒である、鉄とモリブデンを含む金属触媒と、支持体であるアルミナとで構成される第二の触媒が、90対9対1のアルミナ/鉄/モリブデンで調製されることが記載されている。ここで、かかる触媒は、金属成分として、鉄、モリブデンを除く成分が含まれていない点に照らして考えると、上記「9割の鉄と、1割のモリブデンを含む混合物である」金属粒子は、「9割の鉄と、1割のモリブデンとから構成されている」金属粒子と解することができ、上記の相当関係も考慮すれば、本願発明の「8族遷移金属からなる主触媒金属と、6族遷移金属からなる助触媒金属とから構成されている」触媒金属に相当するものと認められる。
そうすると両者は、
「一酸化炭素を炭素源とし、この一酸化炭素を触媒金属が担持された支持体上に流し、気相成長法により、支持体上に単層カーボンナノチューブを成長させる単層カーボンナノチューブの製法であって、
触媒金属が、8族遷移金属からなる主触媒金属と、6族遷移金属からなる助触媒金属とから構成されている単層カーボンナノチューブの製法。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願発明は、支持体上に主触媒金属が、隣接する主触媒金属間の間隔が4nm以上である疎に分散された状態で担持されているのに対して、引用発明は、主触媒金属の分散状態について特定されていない点。

3 相違点についての判断
刊行物1の[1c]には、触媒としての遷移金属クラスターに関する記載があり、当該遷移金属クラスターが、モリブデン、鉄等の組み合わせで使用し得ることや、【0020】には、0.5乃至3ナノメートルの範囲のクラスターにより単層ナノチューブが産出されることが記載されている。ここで記載される遷移金属クラスターの材料や大きさは、[1e]の実施例に記載される金属粒子の材料である鉄とモリブデンや、その大きさとして記載される「ナノメートル寸法」と一致するものであり、また、当該実施例ではかかる金属粒子を使用することで単相ナノチューブが成長しているのであるから、[1c]に記載の「0.5乃至3ナノメートルの範囲の」「遷移金属クラスター」は、[1e]に記載の「金属粒子」を意味するものと解することができ、本願発明の「触媒金属」に相当するものということができる。
そして、[1c]の【0020】には、単相カーボンナノチューブの束またはロープを形成するように、遷移金属クラスター、すなわち金属粒子を互いに直近して分散させる一方、単相カーボンナノチューブを互いに分離させるべく、クラスター間、すなわち金属粒子間に空隙を存在させて支持体上に分散させることができるとの記載があり、これに関連して[1d]には、束或いはロープに形成された単相カーボンナノチューブは、除去されるか、そのままの状態で使用される一方、広く分散した金属粒子を使用して広く分散された単相カーボンナノチューブは、二次元的に不規則配列したマットまたはフェルトの形状で、或いは個々に収集されることが記載されている。
ここで、[1b]や[1e]に記載されるように、金属粒子が支持される支持体は、10ナノメートルからセンチメートルの範囲の大きさを有するものであり、金属粒子はこの大きさを上限として粒子間に空隙を持たせることができる点や、単相カーボンナノチューブを個々に収集する際には、その間隔を極力広げる方が望ましいことが容易に想像できる点、形成可能な金属粒子間の空隙の大きさが制限される旨の特段の記載が刊行物1の中に認められない点も併せて考慮すれば、引用発明において、産出される単相カーボンナノチューブの使用目的に応じて、当該単相カーボンナノチューブを広く分散された状態で成長させるべく、金属粒子の粒子間に4nm以上、かつ支持体の大きさ以下の空隙を存在させて支持体上に分散させることは、当業者が容易になし得るものである。
そして、その際に、鉄とモリブデンの混合物である金属粒子が、鉄粒子とモリブデン粒子から構成されるものである点を踏まえれば、主触媒金属である鉄粒子の粒子間もまた4nm以上の空隙を有し、上記相違点に係る本願発明の特定事項を有することは、当然の帰結である。
また、[1d]に記載される、広く分散した金属粒子を使用した際に得られる二次元的に不規則配列した単相カーボンナノチューブは、平面上に配向しているのであるから、支持体に表面に平行に配向しているものということができ、かかる配向状態は、本願発明により得られる単相カーボンナノチューブの配向状態と一致するものである点に照らせば、上記相違点1に基づく本願発明の奏する作用効果も、刊行物1の記載事項から予測できる範囲内のものであり、格別なものではない。

4 審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、平成23年1月31日付け審判請求書において、同年2月1日付け手続補足書に添付された参考資料1?5の技術内容を説明した上で、CVD法によって単層カーボンナノチューブを成長させる際に、触媒金属の分散状態が合成される単層カーボンナノチューブの成長時の配向状態を左右するパラメータであるとする知見は、原査定の理由で用いられた刊行物に記載されていないし、本願出願以前には全く知られていない旨主張している。
かかる主張について検討するに、上記「第5 3」で述べたとおり、刊行物1について摘示した[1c]の【0020】には、単相カーボンナノチューブの束またはロープを形成するように、遷移金属クラスター、すなわち金属粒子を互いに直近して分散させる一方、単相カーボンナノチューブを互いに分離させるべく、クラスター間、すなわち金属粒子間に空隙を存在させて支持体上に分散させることができるとの記載があり、これに関連して[1d]には、束或いはロープに形成された単相カーボンナノチューブは、除去されるか、そのままの状態で使用される一方、広く分散された単相カーボンナノチューブは、二次元的に不規則配列したマットまたはフェルトの形状で、或いは個々に収集されることが記載されている。
かかる記載は、束またはロープに成長する配向状態と、二次元的に不規則に成長する配向状態とが、金属粒子、すなわち本願発明における触媒金属の分散状態によって左右されることを示したものと解されるから、刊行物1には、単層カーボンナノチューブの成長において、触媒金属の分散状態が、合成される単層カーボンナノチューブの成長時の配向状態を左右するパラメータであるとする知見が記載されているということができる。
それゆえに、かかる知見が刊行物1に記載されていないし、本願出願以前には全く知られていないとする上記審判請求人の主張は採用できない。

イ また、審判請求人は同審判請求書において、隣接する主触媒金属間の間隔に関する数値限定は、臨界的意義を有するものである旨主張している。
かかる主張についても検討するに、上記「ア」で述べたとおり、刊行物1には、単層カーボンナノチューブの成長において、触媒金属の分散状態が、合成される単層カーボンナノチューブの成長時の配向状態を左右するパラメータであるとする知見が記載されているといえる。
そうであれば、求める使用形態の単層カーボンナノチューブを確実に得るべく、触媒金属の分散状態と、合成される単層カーボンナノチューブの成長時の配向状態との関係を定量的に調べ、このパラメータを最適化することは、当業者が当然に配慮すべき事項であるといえるから、本願発明に係る上記数値限定は、単なる最適化の範疇にとどまり、その臨界的意義により本願発明の進歩性を肯定することはできない。
したがって、隣接する主触媒金属間の間隔を数値限定したことに関する上記審判請求人の主張も採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2、3に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-12 
結審通知日 2012-09-18 
審決日 2012-10-01 
出願番号 特願2004-208998(P2004-208998)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 壺内 信吾  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 田中 則充
中澤 登
発明の名称 単層カーボンナノチューブの製法  
代理人 渡邊 隆  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  
代理人 高橋 詔男  
代理人 高橋 詔男  

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