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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1266262
審判番号 不服2011-11897  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-06 
確定日 2012-11-15 
事件の表示 特願2004-348287「ブラックマトリックス基板およびそれを用いたカラーフィルタ、モノクロフィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月15日出願公開、特開2006-154606〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判に係る特許出願(以下「本願」という)は、平成16年12月1日の出願であって、平成22年5月17日付けで拒絶理由が通知され、同年7月12日付けで手続補正がなされたが、平成23年3月11日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、前記拒絶査定を不服として平成23年6月6日に請求された拒絶査定不服審判事件であり、当該請求と同時に手続補正がなされた。
その後、前置報告書の内容について、審判請求人の意見を求めるために平成23年11月1日付けで審尋がなされ、平成24年2月29日付けで上申書が提出され、当審より同年6月18日付けで拒絶理由が通知され、同年8月6日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。



第2 本願の特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の請求項1乃至3の記載は、平成24年8月6日付け手続補正によって以下のように補正された。

「 【請求項1】
表示装置用カラーフィルタまたはモノクロフィルタに用いられ、透明基板上にブラックマトリックス層を形成したブラックマトリックス基板であって、
前記ブラックマトリックス層が、金属および/または金属化合物を材料とした薄膜、または黒色顔料を有する樹脂材料より構成されており、前記ブラックマトリックス層の厚さは、0.06μm?2.0μmの範囲であり、
前記ブラックマトリックス層が複数の表示部を有する多面付けで形成されており、前記ブラックマトリックス層の画素開口部が矩形状もしくは略矩形状であり、前記画素開口部の面積Pa(μm^(2))と面付け間隔Pd(μm)との関係を示す値Pa/Pd(μm)が、下記の式(1)を満たし、顔料を分散させた液状の感光性樹脂組成物を少ない塗布液量でスピン塗布するときに、塗り残し塗布不良を生じないことを特徴とするブラックマトリックス基板。
(1) 1.0μm≦Pa/Pd
【請求項2】
請求項1に記載のブラックマトリックス基板を用いたことを特徴とするカラーフィルタ

【請求項3】
請求項1に記載のブラックマトリックス基板を用いたことを特徴とする単色のモノクロフィルタ。」

なお、上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項3に記載した発明のうち請求項2を介して請求項1を引用する発明(請求項3-2-1)を補正後の請求項1とし、補正前の特許請求の範囲の請求項3に記載した発明のうち請求項1を直接引用する発明(請求項3-1)、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明、及び、補正前の特許請求の範囲の請求項2に記載した発明を削除するものであり、いわゆる新規事項を含まない適正な補正である。



第3 平成24年6月18日付け拒絶理由
当審において平成24年6月18日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という)は、本願の明細書の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしてない、及び、本願の明細書及び図面の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとするものであり、具体的には以下の指摘を含むものである。

(ア)特許法第36条第4項第1号(委任省令違反)について
『2-1.委任省令違反について
本願の明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号で規定する経済産業省令で定めるところ、すなわち、特許法施行規則第24条の2に規定する“特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という)が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない”という要件を充足するように記載されたものであるか、以下検討する。

請求項1に記載された発明は、ブラックマトリックス層の画素部開口部の面積Pa(μm^(2))と、(多面付けされた複数の表示部同士の間隔である)面付け間隔Pd(μm)との関係について、式(1)を満たし、顔料を分散させた液状の感光性樹脂組成物を少ない塗布液量でスピン塗布するときに、塗布不良を生じないようにしたものである(「1.本願の特許請求の範囲の記載」参照)。
そうすると、請求項1に記載された発明は、画素部開口部の面積Pa及び面付け間隔Pdからなるパラメータの範囲を数式で規定することにより、塗布不良を生じさせないようにした発明、すなわち、パラメータ発明と認められる。
してみれば、請求項1に記載された発明の技術上の意義が明確であるためには、その数式で規定される数値範囲の技術上の意義が明確であることを要するものと解するのが相当である。


(中略)


上記各記載内容によれば、本願の明細書の発明の詳細な説明及び図面には、塗り残しが生じない均一なスピン塗布ができるための塗布液量が、式(1)におけるPa/Pdの値を1.0以上とした実施例1乃至4において26cc未満となり、同じく1.0未満とした比較例1及び2において26cc以上となっていることが分かる。
しかしながら、Pa及びPdのパラメータ以外は同じ条件で行われている実施例1乃至4に関して、例えば、Pa/Pdの値が1.16である実施例1の塗布液量が21ccであるのに対し、それよりもPa/Pdの値が大きい(1.49乃至3.51)実施例2乃至4の塗布液量が増加(22乃至24cc)していることから、Pa/Pdの値が大きくなると塗布液量が減少するという明確な相関関係は見出せない。
一方、請求項1に記載された発明では、画素部開口部の形状について、実施例に示されたもの(矩形であると認められる)以外に、略矩形状、矩形以外の多角形を含む構成とされている。すなわち、請求項1に記載された発明における画素部開口部の形状は、特定の形状に限らず相当の自由度を有するものであるが、均一なスピン塗布ができるための塗布液量が、当該画素部開口部の形状に依存することは、当業者であれば当然に理解される。
また、上記実施例及び比較例はいずれも、ブラックマトリックスの厚みを80nmとしていると認められるが、当該厚みが厚く、すなわち、画素部開口部を形成する障壁の高さが塗布液量に寄与することも、当業者であれば当然に理解される。ブラックマトリックスの材質による物性(塗れ性)や、塗布される感光性樹脂組成物の材質による物性(粘度、表面張力)についても同様である。
さらに、その他のパラメータ、例えば、スピン塗布の条件(回転数・回転時間)、多面付けの面付け数等が、均一なスピン塗布に影響することも、当業者であれば当然に理解される。

これらのことを総合して勘案すると、塗り残しが生じない均一なスピン塗布ができるための塗布液量は、上記各種の条件が影響するであろうところ、明細書の発明の詳細な説明には、Pa/Pd以外の条件を変えた例は示されておらず、他の条件を変えた場合においても、Pa/Pdの値を1.0以上とすることにより塗布液量が減少するのか、当業者といえども理解できるとはいえない。
よって、式(1)で規定される数値範囲の技術上の意義が明確であるとはいえない。
請求項2乃至5に記載された発明についても同様である。

したがって、本願の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。』

(イ)特許法第36条第6項第2号(明確性違反)について
『2-2.明確性違反について
本願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(中略)


2-2-3.面付け間隔Pdについて
請求項1に記載された発明では、多面付けの面数は特定されておらず、例えば、図2に示されるような、4面がマトリクス状に配置されたものやそれ以上の面数のものを含むと解される。ここで、図2に示されるような表示部の配置では、表示部同士の間隔であるところのPdに該当するものが複数存在することになる。しかしながら、当該構成のものにおいて、複数存在する間隔からどのようにPdの値を決定するのか、明確でない。
よって、請求項1に記載された発明及び当該請求項を引用する請求項2乃至5に記載された発明は、明確でない。
なお、この点に関して、明細書の発明の詳細な説明の段落【0018】には、横方向の面付け間隔Pdxと縦方向の面付け間隔Pdyとは異なっていてもよく、Pdx、Pdyの場合を含めてPdとして扱う、と記載されているが(「2-1.委任省令違反について」における摘記箇所参照)、両者が異なっていた場合にどのようにしてPdを決定するかについては、何ら開示されていない。』



第4 検討・判断
1.特許法第36条第4項第1号違反(委任省令違反)について
本願の明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号で規定する経済産業省令で定めるところ、すなわち、特許法施行規則第24条の2に規定する“特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という)が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない”という要件を充足するように記載されたものであるか、以下改めて検討する。

本願の特許請求の範囲の請求項1には、「顔料を分散させた液状の感光性樹脂組成物を少ない塗布液量でスピン塗布するときに、塗り残し塗布不良を生じない」と特定されている。
ここで、“少ない塗布液量”とは、例えば本願の明細書(特に段落【0029】乃至【0038】)を参酌すれば、26cc未満がこれに当たると認められるが、“少ない塗布液量”が26cc未満であるとする技術的根拠は、本願の明細書及び図面並びに当業者の技術常識を参酌しても、何ら見出せない。
そして、本願の明細書の段落【0037】の【表1】からも分かるように、上記塗布液量の境界値が変われば、それを満たすためのPa/Pdの値も変わる(例えば、“少ない塗布液量”を24cc未満とすれば、実施例2及び3は“塗り残し塗布不良”となり、Pa/Pdの値を1.0μm以上とするのみでは十分ではなく、少なくとも1.49μm乃至1.88μmの範囲では課題を解決できなくなる)。
また、仮に“少ない塗布液量”を26ccとすることに何らかの技術的な意味があるとしても、当審拒絶理由において指摘した各条件(画素開口部の形状(アスペクト比等)、画素開口部を形成する障壁の高さ、ブラックマトリックスの材質、感光性樹脂組成物の物性、スピン塗布の回転数・回転時間、多面付けの面数等)が変われば、塗布液量を26cc未満、かつ、塗り残し塗布不良を生じないためのPa/Pdの範囲が変わることは明らかであるところ、本願の明細書に開示された実施例においては、これら各条件の技術的意味については何ら開示されていない。よって、これら各条件を変更した場合においても“少ない塗布液量で塗り残し塗布不良を生じない”ための支配的なパラメータがPa/Pdであり、当該パラメータを1.0μm以上とすることの技術上の意味を、当業者といえども理解できるとはいえない。なお、後述の「2.」で述べるように、面付け間隔が複数存在する場合のPdの定義(平均値をとるのか、最も大きい面付け間隔とするのか等)によってもPa/Pdの境界値(1.0μm)の技術的意義は変わり、この点からも、当該境界値の技術的意義は不明である。
以上のように、いわゆるパラメータ発明と認められる本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明について、依然としてPa/Pdの値を1.0μm以上とすることの技術上の意義が、当業者といえども理解することができるとはいえないから、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしたものであるとはいえない。なお、特許請求の範囲の請求項2及び3に係る発明についても、上記と同様である。
よって、本願の明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号で規定する経済産業省令で定める要件を充足するように記載されたものではない。

なお、請求人は、平成24年8月6日付けで提出した意見書において、
『(ホ)上記のように、補正後の本願請求項1の発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものと思料いたします。』
と主張しているが、当該拒絶理由は、いわゆる実施可能要件違反ではなく、委任省令違反を理由とした特許法第36条第4項第1号違反であり、この点からも、請求人の主張は、当該拒絶理由を覆すものではない。
その他の請求人の主張を参酌しても、上記判断に変わりはない。


2.特許法第36条第6項第2号違反(明確性違反)について
本願が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすか、すなわち、本願の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された発明が明確であるか否かについて、以下改めて検討する。

当審拒絶理由で指摘したとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された発明では、面付け間隔に相当する間隔が複数存在する構成を含むところ、そのような構成のものにおいて、本願の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された発明における「面付け間隔Pd」をどのように決定するかについては、本願の特許請求の範囲、明細書及び図面には何ら開示されていない。
なお、請求人は、平成24年8月6日付けで提出した意見書において、面付け間隔が複数存在し、それらが互いに異なっている場合には、それぞれの面付け間隔が数値条件を満たすようにするものである、と主張するが、本願の特許請求の範囲、明細書及び図面には何らそのような記載はなく、当業者にとって自明であるともいえない(例えば、それらの平均値を用いることも想定されるところ、請求人の主張するものであるとする何らの根拠も見出せない)から、請求人の上記主張は採用できない。
よって、平成24年8月6日付けで提出した意見書における請求人の主張を参酌しても、面付け間隔Pdをどのように決定するか明確でないから、本願の特許請求の範囲の請求項1乃至3に係る発明は明確でない。



第5 むすび
以上のとおり、本願の明細書の発明の詳細な説明は、本願の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された発明について、特許法第36条第4項第1号で規定する経済産業省令で定める要件を充足するように記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願の請求項1乃至3に記載された発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-11 
結審通知日 2012-09-18 
審決日 2012-10-03 
出願番号 特願2004-348287(P2004-348287)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G02B)
P 1 8・ 536- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中山 佳美  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 吉川 陽吾
土屋 知久
発明の名称 ブラックマトリックス基板およびそれを用いたカラーフィルタ、モノクロフィルタ  
代理人 金山 聡  

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