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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1266554
審判番号 不服2011-24771  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-16 
確定日 2012-11-22 
事件の表示 特願2008- 15124「ハイブリッド車両」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月 6日出願公開、特開2009-173196〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成20年1月25日の出願であって、平成23年6月1日付けで拒絶理由が通知され、それに対して、同年7月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、平成24年2月20日付けで当審において書面で審尋がなされ、それに対して、同年4月10日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成23年11月16日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年11月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
平成23年11月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年7月13日付けの手続補正書により補正された)以下の(a)に示す請求項1ないし5を、(b)に示す請求項1ないし5と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし5
「【請求項1】
機関出力軸から機械的動力を出力する内燃機関と、
発電機として作動してロータを制動可能なモータジェネレータと、
機関出力軸からの機械的動力を第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪に向けて伝達可能な第1変速機構と、
機関出力軸及びロータからの機械的動力を、当該ロータと係合する第2入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪に向けて伝達可能な第2変速機構と、
機関出力軸と第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、
機関出力軸と第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、
第1及び第2クラッチの係合/解放状態と、第1及び第2変速機構における変速段の選択と、内燃機関及びモータジェネレータの作動を制御可能な制御手段と、
を備え、
駆動輪とロータとを係合させると共にモータジェネレータを発電機として作動させて、駆動輪を制動する回生制動を行うことが可能なハイブリッド車両であって、
制御手段は、
モータジェネレータに電力を供給する二次電池の蓄電状態が判定値以下であり、且つ、車速が判定車速以下である場合には、
機関回転速度に応じて最も燃料消費率の低い作動状態である機関負荷で内燃機関を作動させると共に、
機関出力軸からの機械的動力により駆動輪に作用する機関駆動トルクから、駆動輪に生じることが要求される要求駆動トルクを減じた値を、駆動輪に作用させる回生制動トルクに設定してモータジェネレータを発電機として作動させ、
前記車速が前記判定車速を超える場合には、要求駆動力と前記蓄電状態に応じて、前記内燃機関と前記モータジェネレータとのうちの少なくとも一方を使用して走行する、
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両において、
制御手段は、
機関回転速度及び機関負荷に対する燃料消費率を規定する燃料消費率マップが記憶された記憶手段を備え、
機関回転速度と燃料消費率マップに基づいて前記最も燃料消費率の低い作動状態である機関負荷を推定する
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハイブリッド車両において、
第1変速機構及び第2変速機構からの機械的動力は、動力統合機構において統合されて駆動輪に伝達されるものであり、
第1変速機構の最低速段は、第2変速機構の最低速段に比べて減速比が大きく設定されており、
制御手段は、
第1変速機構及び第2変速機構において、それぞれ最低速段を選択し、第1クラッチを係合状態にすると共に第2クラッチを解放状態にして、
機関出力軸からの機械的動力を、第1変速機構の最低速段により変速して動力統合機構に伝達し、動力統合機構に伝達された機械的動力のうち、一部を駆動輪に伝達させると共に、残りを第2変速機構の最低速段により変速してロータに伝達させる
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のハイブリッド車両において、
第1変速機構の最低速段は、第2変速機構の最低速段に比べて減速比が大きく設定されており、
制御手段は、
第2変速機構において最低速段を選択し、第1クラッチを解放状態にすると共に第2クラッチを係合状態にして、
機関出力軸から第2入力軸に伝達された機械的動力のうち、一部を第2変速機構の最低速段により変速して駆動輪に伝達させると共に、残りをロータに伝達させる ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のハイブリッド車両において、
制御手段は、
車速が、前記判定車速に比べて低い値に設定された第2判定車速以下である場合には、第1変速機構及び第2変速機構において、それぞれ最低速段を選択し、第1クラッチを係合状態にすると共に第2クラッチを解放状態にし、
車速が第2判定車速を上回る場合には、第2変速機構において最低速段を選択し、第1クラッチを解放状態にすると共に第2クラッチを係合状態にする
ことを特徴とするハイブリッド車両。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし5
「【請求項1】
機関出力軸から機械的動力を出力する内燃機関と、
発電機として作動してロータを制動可能なモータジェネレータと、
機関出力軸からの機械的動力を第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪に向けて伝達可能な第1変速機構と、
機関出力軸及びロータからの機械的動力を、当該ロータと係合する第2入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪に向けて伝達可能な第2変速機構と、
機関出力軸と第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、
機関出力軸と第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、
第1及び第2クラッチの係合/解放状態と、第1及び第2変速機構における変速段の選択と、内燃機関及びモータジェネレータの作動を制御可能な制御手段と、
を備え、
駆動輪とロータとを係合させると共にモータジェネレータを発電機として作動させて、駆動輪を制動する回生制動を行うことが可能なハイブリッド車両であって、
制御手段は、
モータジェネレータに電力を供給する二次電池の蓄電状態が判定値以下であり、且つ、車速が判定車速以下である場合には、
機関回転速度に応じて最も燃料消費率の低い作動状態でありかつ駆動輪に生じることが要求される要求駆動トルクを上回るトルクを発生する機関負荷で内燃機関を作動させると共に、
機関出力軸からの機械的動力により駆動輪に作用する機関駆動トルクから、前記要求駆動トルクを減じた値を、駆動輪に作用させる回生制動トルクに設定してモータジェネレータを発電機として作動させ、
前記車速が前記判定車速を超える場合には、要求駆動力と前記蓄電状態に応じて、前記内燃機関と前記モータジェネレータとのうちの少なくとも一方を使用して走行する、
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両において、
制御手段は、
機関回転速度及び機関負荷に対する燃料消費率を規定する燃料消費率マップが記憶された記憶手段を備え、
機関回転速度と燃料消費率マップに基づいて前記最も燃料消費率の低い作動状態である機関負荷を推定する
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハイブリッド車両において、
第1変速機構及び第2変速機構からの機械的動力は、動力統合機構において統合されて駆動輪に伝達されるものであり、
第1変速機構の最低速段は、第2変速機構の最低速段に比べて減速比が大きく設定されており、
制御手段は、
前記二次電池の蓄電状態が前記判定値以下であり、且つ、前記車速が前記判定車速以下である場合には、
第1変速機構及び第2変速機構において、それぞれ最低速段を選択し、第1クラッチを係合状態にすると共に第2クラッチを解放状態にして、
機関出力軸からの機械的動力を、第1変速機構の最低速段により変速して動力統合機構に伝達し、動力統合機構に伝達された機械的動力のうち、一部を駆動輪に伝達させると共に、残りを第2変速機構の最低速段により変速してロータに伝達させる
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のハイブリッド車両において、
第1変速機構の最低速段は、第2変速機構の最低速段に比べて減速比が大きく設定されており、
制御手段は、
前記二次電池の蓄電状態が前記判定値以下であり、且つ、前記車速が前記判定車速以下である場合には、
第2変速機構において最低速段を選択し、第1クラッチを解放状態にすると共に第2クラッチを係合状態にして、
機関出力軸から第2入力軸に伝達された機械的動力のうち、一部を第2変速機構の最低速段により変速して駆動輪に伝達させると共に、残りをロータに伝達させる
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のハイブリッド車両において、
制御手段は、
前記二次電池の蓄電状態が前記判定値以下であり、且つ、前記車速が前記判定車速以下であるとともに前記判定車速に比べて低い値に設定された第2判定車速以下である場合には、第1変速機構及び第2変速機構において、それぞれ最低速段を選択し、第1クラッチを係合状態にすると共に第2クラッチを解放状態にし、
前記二次電池の蓄電状態が前記判定値以下であり、且つ、前記車速が前記判定車速以下であるとともに第2判定車速を上回る場合には、第2変速機構において最低速段を選択し、第1クラッチを解放状態にすると共に第2クラッチを係合状態にする
ことを特徴とするハイブリッド車両。」(下線は補正箇所を示すために請求人が付した。)

2.本件補正の目的
本件補正は、請求項1に関し、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「機関回転速度に応じて最も燃料消費率の低い作動状態である機関負荷」について、「駆動輪に生じることが要求される要求駆動トルクを上回るトルクを発生する」機関負荷である旨を限定することを含むものであるから、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.本件補正の適否
上記2.で検討したように、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかについて、以下に検討する。

(1)引用例
(1-1)引用例1
(1-1-1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-118590号公報(以下、「引用例1」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【0013】
図1に示されるように本発明に係るハイブリッド車両は駆動力源としてエンジン1とモータ3を備えている。エンジン1はガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関であり、モータジェネレータ3は例えば三相交流式の電動機である。エンジン1には、スタータモータと発電機の機能を有するスタータジェネレータ2が接続されており、エンジン1はスタータジェネレータ2を力行させることで始動される。また、モータジェネレータ3にはインバータ4を介してバッテリ5が接続されており、バッテリ5の電力をモータジェネレータ3に供給すればモータジェネレータ3を力行させて電動機として機能させることができ、また、モータジェネレータ3が発電機として機能するときはその発電電力でバッテリ5を充電することもできる。
【0014】
この車両のパワートレインについて説明すると、終減速装置12を介して駆動輪13に接続される車両駆動軸11に対して平行に第1の入力軸14、第2の入力軸15が設けられており、第1の入力軸14の一端にはモータジェネレータ3が接続されている。エンジン1は第1のクラッチ18、第2のクラッチ19を介して第1の入力軸14、第2の入力軸15のいずれにも接続することができる。第1のクラッチ18、第2のクラッチ19は図示しない油圧供給回路から供給される油圧で締結/解放状態、締結力を切り換えることができる摩擦板式クラッチであるが、これに代えて供給電流によって締結/解放状態、締結力を切り換えることができる電磁クラッチ等、別の機構のクラッチを用いても構わない。
【0015】
第1の入力軸14にはギヤ41ないし43が第1の入力軸14と相対回転可能に設けられている。これらのギヤの間に配置されるドグクラッチ61あるいは62を軸方向に移動させてギヤ41ないし43のいずれかに噛み合せば、噛み合ったギヤが第1の入力軸14に固定され、第1の入力軸14と一体となって回転する。同様に第2の入力軸15にはギヤ44ないし47が第2の入力軸15と相対回転可能に設けられている。これらのギヤの間に配置されるドグクラッチ63あるいは64を軸方向に移動させてギヤ44ないし47のいずれかに噛み合せば、噛み合ったギヤが第2の入力軸15に固定され、第2の入力軸15と一体となって回転する。
【0016】
車両駆動軸11には、ギヤ51ないし57が固定され、車両駆動軸11と一体となって回転する。ギヤ52、54、56はそれぞれ第1の入力軸14に設けられているギヤ41ないし43とそれぞれ噛み合っており、ギヤ51、53、55はそれぞれ第2の入力軸15に設けられているギヤ44ないし46と噛み合っている。ギヤ57はカウンターギヤ58を介して第2の入力軸15に設けられているギヤ47と噛み合っており、ギヤ57、58、47は後進用のギヤ列を構成する。
【0017】
図中にギリシア数字で示すように、ギヤ41とギヤ52からなるギヤ列を第1の変速段、ギヤ44とギヤ51からなるギヤ列を第2の変速段、ギヤ42とギヤ54からなるギヤ列を第3の変速段、ギヤ45とギヤ53からなるギヤ列を第4の変速段、ギヤ43とギヤ56からなるギヤ列を第5の変速段、ギヤ46とギヤ55からなるギヤ列を第6の変速段とする。各ギヤ列のギヤ比は各変速段の減速比(変速比)が変速段の番号が大きくなるほど小さくなるように選択される。第1、第3及び第5の変速段が第1の変速機71、第2、第4及び第6の変速段が第2の変速機72をそれぞれ構成し、エンジン1の回転は第1、第2の変速機71、72で変速されて車両駆動軸11に伝達される。第1の変速機71、第2の変速機72の変速段の変更は、ドグクラッチ61ないし64を軸方向に変位させることで行われる。
【0018】
エンジン1にはその回転速度を検出するセンサ81が取り付けられており、また、車両駆動軸11にはその回転速度を検出するセンサ82が取り付けられている。また、車両には運転者のアクセルペダルの操作量を検出するアクセル操作量センサ83、バッテリ5の充電状態を検出するセンサ84が設けられている。コントローラ90には、これらセンサ81ないし84の検出信号の他、エンジン1の冷却水温、油温、吸入空気量、スロットル開度等を示す信号が入力され、コントローラ90は、入力された信号に基づき車両の運転状態を判断し、エンジン1の吸入空気量、燃料噴射量、燃料噴射時期を制御し、また、第1の変速機71、第2の変速機72の変速制御(クラッチ18、19、ドグクラッチ61ないし64の切換え制御)を行う。
【0019】
特に、本発明に係るハイブリッド車両では、走行中にアクセルペダルが離されて車両がコースト走行状態(惰性走行状態)になると、クラッチ18、19をともに解放してエンジン1を車両駆動軸11から切り離し、エンジン1が連れ回ることによる損失をなくし、さらにこのとき、モータジェネレータ3を回生動作させてエネルギを回収する。
【0020】
回生時、第1の変速機71の変速段は、モータジェネレータ3の回生効率がよくなるような変速段、具体的には、モータジェネレータ3の回転速度が高効率で回生を行うことができる回転速度の上限よりも低くなるように変更される。また、モータジェネレータ3の回生量は、それによる減速力が、変速マップを参照して得られるマップ参照変速段を介してエンジン1と車両駆動力11を接続したときに得られるエンジンブレーキによる減速力と等しくなるように設定される。」(段落【0013】ないし【0020】)

(1-1-2)上記(1-1-1)から分かること
上記(1-1-1)及び図面の記載から、以下の事項がわかる。

(a)上記(1-1-1)及び図1から、エンジン1は、「機関回転軸から機械的動力を出力する内燃機関」であることが分かる。

(b)上記(1-1-1)及び図1から、モータジェネレータ3は、「発電機として作動してロータを制動可能」なものであることが分かる。

(c)上記(1-1-1)及び図1から、第2の変速機72は、「機関出力軸からの機械的動力を第2の入力軸15で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪13に向けて伝達可能」なものであることが分かる。

(d)上記(1-1-1)及び図1から、第1の変速機71は、「機関出力軸及びロータからの機械的動力を、当該ロータと係合する第1の入力軸14で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪13に向けて伝達可能」なものであることが分かる。

(e)上記(1-1-1)及び図1から、第2のクラッチ19は、「機関出力軸と第2の入力軸15とを係合可能」なものであることが分かる。

(f)上記(1-1-1)及び図1から、第1のクラッチ18は、「機関出力軸と第1の入力軸14とを係合可能」なものであることが分かる。

(g)上記(1-1-1)及び図1から、コントローラ90は、第2のクラッチ19及び第1のクラッチ18の係合/開放状態と、第2の変速機72及び第1の変速機71の変速段の選択と、エンジン1の作動を制御可能」なものであることが分かる。さらに、図1においてコントローラ90とインバータ4とが点線で接続して表記されていることから、コントローラ90は、インバータ4を介して「モータジェネレータ3の作動を制御可能」なものであることが分かる。

(f)上記(1-1-1)及び図1から、ハイブリッド車両は、「駆動輪13とロータとを係合させると共にモータジェネレータ3を発電機として作動させて、駆動輪13を制動する回生制動を行うことが可能」なものであることが分かる。

(1-1-3)引用例1に記載された発明
上記(1-1-1)、(1-1-2)及び図面から、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「機関出力軸から機械的動力を出力する内燃機関であるエンジン1と、
発電機として作動してロータを制動可能なモータジェネレータ3と、
機関出力軸からの機械的動力を第2の入力軸15で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪13に向けて伝達可能な第2の変速機72と、
機関出力軸及びロータからの機械的動力を、当該ロータと係合する第1の入力軸14で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪13に向けて伝達可能な第1の変速機71と、
機関出力軸と第2の入力軸15とを係合可能な第2のクラッチ19と、
機関出力軸と第1の入力軸14とを係合可能な第1のクラッチ18と、
第2のクラッチ19及び第1のクラッチ18の係合/解放状態と、第2の変速機72及び第1の変速機71における変速段の選択と、エンジン1及びモータジェネレータ3の作動を制御可能な制御手段と、
を備え、
駆動輪13とロータとを係合させると共にモータジェネレータ3を発電機として作動させて、駆動輪13を制動する回生制動を行うことが可能なハイブリッド車両。」(以下、この発明を「引用例1に記載された発明」という。)

(1-2)引用例2
(1-2-1)引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-45210号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】エンジンとモーターのいずれか一方または両方の駆動力で車両を走行駆動するとともに、前記エンジンにより前記モーターを駆動して発電を行い、発電電力を前記バッテリーに供給して前記バッテリーを充電するハイブリッド車両の制御装置において、
前記バッテリーのSOCを検出するSOC検出手段と、
前記バッテリーのSOCが予め設定されたしきい値以下のときは、燃料消費量が最少となる運転点で前記エンジンを運転して所要の走行駆動力を満たしながら前記モーターにより発電して前記バッテリーを充電する通常充電モードを選択し、前記バッテリーのSOCが前記しきい値を超えたときは、燃料消費量が最少となる運転点で前記エンジンを運転して所要の走行駆動力を満たしながら予め設定された微少電流で前記バッテリーを充電する微少電流充電モードに切り換える充電モード切換手段とを備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(イ)「【0007】
図1は一実施の形態のハイブリッド車両の構成を示す。一実施の形態のハイブリッド車両はエンジン1とモーター2を備え、いずれか一方または両方の駆動力により走行する。モーター2は1台で走行駆動、エンジン始動、発電および回生制動の機能を有する。エンジン1とモーター2の駆動力はトランスミッションを介して駆動輪(不図示)に伝達される。なお、この一実施の形態ではモーター2に交流モーターを用いた例を示すが、直流モーターを用いることもできる。
【0008】
インバーター4はバッテリー5の直流電力を交流電力に変換してモーター2へ供給し、モーター2から走行駆動力を発生させるとともに、モーター2の交流発電電力または交流回生電力を直流電力に逆変換し、バッテリー5を充電する。バッテリー5は複数のセル電池が直並列に接続された組電池であり、リチウムイオン電池やニッケル水素電池などが用いられる。
【0009】
車両コントローラー6は車速、変速機のシフト位置、ブレーキペダルの踏み込み圧、アクセルペダルの踏み込み量などの車両情報に基づいて車両の走行駆動力を演算し、燃料消費量が最少となるようにエネルギーマネージメントを行ってエンジン1とモーター2のトルク指令を決定する。なお、車速は車速センサー10により検出する。車両コントローラー6はエンジンコントローラー7を制御してエンジン1の運転と停止およびトルクを制御するとともに、モーターコントローラー8を制御してモーター2の運転と停止およびトルクを制御する。
【0010】
車両コントローラー6はまた、車速センサー10により検出した車速と、SOCセンサー11により検出したバッテリー5のSOC(State of charge;充電状態)とに基づいて充電モードを切り換え、バッテリーコントローラー9を制御してバッテリー5の充放電制御を行う。この一実施の形態では、バッテリー5のSOCが30?80%の範囲に入るように充放電制御を行う。
【0011】
エンジンコントローラー7はエンジン1のトルク指令値にしたがってスロットルバルブ開閉制御、燃料噴射制御、点火時期制御などを行う。モーターコントローラー8はモーター2のトルク指令値に応じてインバーター4の出力電圧と出力電流を制御する。バッテリーコントローラー9は車両コントローラー6の充放電指令にしたがってバッテリー5の充放電を行う。」(段落【0007】ないし【0011】)

(ウ)「【0018】
バッテリー5のSOCが充電モード切換しきい値以下のときは、ステップ4で通常充電モードによる充電制御を行う。
【0019】
図5はエンジンの回転速度とトルクに対する燃料消費特性を示す図である。エンジンの駆動力は回転速度とトルクの積に比例するから、所要の走行駆動力と充電量を満たす駆動力を得るために、トランスミッション3の変速比を調節してエンジン1の運転点が図5に示す最少燃費運転線上になるように制御する。
【0020】
図6は、エンジンを最少燃費運転線上で運転した場合の走行駆動力と充電量との配分を示す図である。この一実施の形態では最大出力30kWのエンジンを例に上げて説明する。走行駆動力は車速やアクセルペダルの踏み込み量などに応じて決定されるので、走行駆動力と発電量の和が最大30kWとなるように発電量を調節する。
【0021】
車両コントローラー6は、所要の走行駆動力を満たしながらモーター2により発電を行うために、燃料消費量が最少となるようにエネルギーマネージメントを行ってエンジン1の駆動トルク指令値とモーター2の発電トルク指令値を決定する。エンジンコントローラー7はエンジン1のトルクが駆動トルク指令値に一致するようにエンジン1を制御し、モーターコントローラー8はモーター5のトルクが発電トルク指令値と一致するようにインバーター4を制御する。」(段落【0018】ないし【0021】)

(1-2-2)引用例2に記載された技術
上記(1-2-1)及び図面から、引用例2には、次の技術が記載されているといえる。

「バッテリーのSOCが予め設定されたしきい値以下のときは、燃料消費量が最少となる運転点で前記エンジンを運転して所要の走行駆動力を満たしながら前記モーターにより発電して前記バッテリーを充電すること」(以下、「引用例2に記載された技術」という。)

(2)対比
本願補正発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、引用例1に記載された発明における「エンジン1」は、その構成及び機能からみて、本願補正発明における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「モータジェネレータ3」は「モータジェネレータ」に、「第2の変速機72」は「第1変速機構」に、「第1の変速機71」は「第2変速機構」に、「第2のクラッチ19」は「第1クラッチ」に、「第1のクラッチ18」は「第2クラッチ」に、「コントローラ90」は「制御手段」に、それぞれ相当する。
してみると、本願補正発明と引用例1に記載された発明は、
「機関出力軸から機械的動力を出力する内燃機関と、
発電機として作動してロータを制動可能なモータジェネレータと、
機関出力軸からの機械的動力を第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪に向けて伝達可能な第1変速機構と、
機関出力軸及びロータからの機械的動力を、当該ロータと係合する第2入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、駆動輪に向けて伝達可能な第2変速機構と、
機関出力軸と第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、
機関出力軸と第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、
第1及び第2クラッチの係合/解放状態と、第1及び第2変速機構における変速段の選択と、内燃機関及びモータジェネレータの作動を制御可能な制御手段と、
を備え、
駆動輪とロータとを係合させると共にモータジェネレータを発電機として作動させて、駆動輪を制動する回生制動を行うことが可能なハイブリッド車両。」
である点で一致し、次の(A)及び(B)の点で相違している。

(A)本願補正発明においては、制御手段が、「モータジェネレータに電力を供給する二次電池の蓄電状態が判定値以下であり、且つ、車速が判定車速以下である場合には、
機関回転速度に応じて最も燃料消費率の低い作動状態でありかつ駆動輪に生じることが要求される要求駆動トルクを上回るトルクを発生する機関負荷で内燃機関を作動させると共に、
機関出力軸からの機械的動力により駆動輪に作用する機関駆動トルクから、前記要求駆動トルクを減じた値を、駆動輪に作用させる回生制動トルクに設定してモータジェネレータを発電機として作動させ」るものであるのに対し、引用例1に記載された発明においては、本願補正発明の制御手段に相当するコントローラ90が、このような制御を行うのかどうか不明である点(以下、「相違点1」という。)。

(B)本願補正発明においては、制御手段が、「前記車速が前記判定車速を超える場合には、要求駆動力と前記蓄電状態に応じて、前記内燃機関と前記モータジェネレータとのうちの少なくとも一方を使用して走行する」というものであるのに対し、引用例1に記載された発明においては、本願補正発明の制御手段に相当するコントローラ90が、このような制御を行うのかどうか不明である点(以下、「相違点2」という。)。

(3)判断
(3-1)相違点1について
本願補正発明と引用例2に記載された技術とを対比すると、引用例2に記載された技術における「エンジン1」は、その構成及び機能からみて、本願補正発明における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「モータ2」は「モータジェネレータ」に、「バッテリー5」は「二次電池」に、「SOC」は「蓄電状態」に、「予め設定されたしきい値」は「判定値」に、「所要の走行駆動力」は「駆動輪に生じさせることが要求される要求駆動トルク」に、「駆動輪13」は「駆動輪」に、それぞれ相当する。
そうすると、引用例2に記載された技術における「バッテリーのSOCが予め設定されたしきい値以下のとき」とは、本願補正発明における「二次電池の蓄電状態が判定値以下である場合」に相当する。
また、引用例2には、「バッテリーのSOCが予め設定されたしきい値以下のとき」に、「燃料消費量が最小となる運転点で前記エンジンを運転して所要の走行駆動力を満たしながら前記モーターにより発電してバッテリーを充電する」ことが記載されている。ここで、「燃料消費量が最小となる運転点」とは、段落【0019】及び図5から、「機関回転速度に応じて最も燃料消費率の低い作動状態」と同義であって、「前記エンジンを運転して所要の走行駆動力を満たしながら前記モーターにより発電してバッテリーを充電」しているということは、「所要の走行駆動力」を上回る力(トルク)を発生させる作動状態でエンジンを運転していると共に、「エンジンの出力軸からの機械的動力により駆動輪に作用する機関駆動トルクから、前記要求駆動トルクを減じた値を、駆動輪13に作用させる回生制動トルクに設定してモータ2を発電機として作動させ」ていることが明らかである。
以上のことから、引用例2に記載された技術を本願発明の用語を用いて表現すると、
「モータジェネレータに電力を供給する二次電池の蓄電状態が判定値以下である場合には、
機関回転速度に応じて最も燃料消費率の低い作動状態でありかつ駆動輪に生じることが要求される要求駆動トルクを上回るトルクを発生する機関負荷で内燃機関を作動させると共に、
機関出力軸からの機械的動力により駆動輪に作用する機関駆動トルクから、前記要求駆動トルクを減じた値を、駆動輪に作用させる回生制動トルクに設定してモータジェネレータを発電機として作動させる技術」であるといえる。
そして、引用例1に記載された発明と、引用例2に記載された発明とは、「機関出力軸から機械的動力を出力する内燃機関と、発電機として作動してロータを制動可能なモータジェネレータと、変速機構とを備え、モータジェネレータを発電機として作動させて、駆動輪を制動する回生制動を行うことが可能なハイブリッド車両」に関するものである点で、技術分野が共通する。よって、引用例1に記載された発明において、引用例2に記載された技術を組み合わせることにより、相違点1に係る本願補正発明のように特定することは、当業者が容易になし得たことである。
なお、内燃機関の作動やモータジェネレータの発電機としての作動を、車速が判定車速以下である場合に行うようにすることは、ハイブリッド車両の分野において通常採用する周知技術(以下、「周知技術」という。必要であれば、特開2001-103608号公報の請求項1、特開2004-9970号公報の請求項6を参照。)であって、このように構成することに格別の意義はなく、しかも、このように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないものである。

(3-2)相違点2について
車速が判定車速を超える場合に、要求駆動力と蓄電状態に応じて、内燃機関とモータジェネレータとのうちの少なくとも一方を使用して走行することは、ハイブリッド車両の分野において通常採用する慣用手段であるから、引用例1に記載された発明において、相違点2に係る本願補正発明のように特定することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないものである。

(3-3)まとめ
本願補正発明を全体としてみても、本願補正発明の奏する効果は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術並びに周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
なお、審判請求書の段落4.(3)及び回答書の段落2.(3)において審判請求人は、本願補正発明について、「蓄電量が判定地以下の場合には、燃料消費率が悪化する傾向である低速時の内燃機関の回転数を最も燃料消費率の低い機関負荷となるように増加させて、走行等に余分なトルクをモータジェネレータにより電力として回収することで、ハイブリッド車全体のエネルギ効率を向上させるものであります。」と主張する。
しかし、引用例2に記載された技術は、燃料消費率が悪化する傾向である低速時をも対象とし得ることが明らかである。
また、内燃機関の回転数を増加させるものであることは、本願の特許請求の範囲の請求項1において特定されている事項ではなく、本願補正発明の発明特定事項ではないから、上記審判請求人の主張は失当である。

なお、仮に本願補正発明における「機関回転速度に応じて最も燃料消費率の低い作動状態でありかつ駆動輪に生じることが要求される要求駆動トルクを上回るトルクを発生する機関負荷で内燃機関を作動させる」との事項が、本願の明細書の段落【0105】等に記載のように機関回転速度Neに基づいて最も燃料消費率が低い機関負荷Teを算出するものであったとしても、このように制御することは、周知技術であって(必要であれば、特開平9-98516号公報、特開平11-4506号公報、特開平11-229916号公報、特開2001-146121号公報、特開2002-135909号公報、特開2003-118434号公報、特開2004-19641号公報を参照。)、本願補正発明をこのように限定的に解釈したとしても、このように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成23年11月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1.(a)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2.引用例に記載された発明及び技術
引用例1(特開2006-118590号公報)に記載された発明及び引用例2(特開2007-45210号公報)記載された技術は、それぞれ前記第2.[理由]3.(1-1-3)及び(1-2-2)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.[理由2]2.で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.[理由]3.に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-24 
結審通知日 2012-09-25 
審決日 2012-10-09 
出願番号 特願2008-15124(P2008-15124)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60K)
P 1 8・ 575- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畔津 圭介  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 中川 隆司
金澤 俊郎
発明の名称 ハイブリッド車両  
代理人 伊藤 剣太  
代理人 酒井 宏明  

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