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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J |
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管理番号 | 1266557 |
審判番号 | 不服2011-26857 |
総通号数 | 157 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-01-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-12-12 |
確定日 | 2012-11-22 |
事件の表示 | 特願2008- 23388「電界放射型電子源の電子流制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月20日出願公開、特開2009-187684〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年(2008年)2月2日に出願された特願2008-23388号であって、平成23年6月14日付けで拒絶理由が通知され、同年8月11日付けで手続補正がなされ、同年9月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。 その後、当審において平成24年6月22日付けで、回答書の提出の期限を定めて、前置報告書の内容について請求人に事前に意見を求める審尋をなしたが、回答書の提出の期限を過ぎても回答書の提出はなされなかった。 第2 平成23年12月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成23年12月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成23年8月11日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載の、 「電界が印加されることにより電子を放出する電界放射型電子源の電子流制御方法であって、ターゲットに対し電子流を放出するエミッタの周囲に導電性材料を、前記エミッタの先端が当該導電性材料の上面よりも前記ターゲット側に位置するように配置し、該導電性材料に前記エミッタに対して負の電圧を印加することにより、前記電子流を制御することを特徴とする電子流制御方法。」が 「電界が印加されることにより電子を放出する電界放射型電子源の電子流制御方法であって、ターゲットに対し電子流を放出するエミッタの周囲に導電性材料を、前記エミッタの先端が当該導電性材料の上面よりも前記ターゲット側に位置するように配置し、該ターゲットには前記エミッタに対して正の電圧を印加し、該導電性材料に前記エミッタに対して負の電圧を印加することにより、該エミッタから該ターゲットに供給する電子流を制御することを特徴とする電子流制御方法。」と補正された。(下線は補正箇所を示す。) そして、この補正は、「電子流」について、「ターゲットにはエミッタに対して正の電圧を印加」することにより「該エミッタから該ターゲットに供給する」ものであることを限定する補正事項からなり、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正であるといえる。 すなわち、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。 2 独立特許要件違反についての検討 そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(本件補正における請求項1に係る発明の補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成23年改正前特許法」という。)第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。 (1)本願補正発明 本願補正発明は、平成23年12月12日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記の「1 本件補正について」の記載参照。) (2)引用例 ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭57-180059号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「イ 引用例1に記載された発明の認定」において直接引用した記載に下線を付した。) 「本発明は電子放出源と開口を有するビーム加速電極と電子放出源の付近に設けられかつ電子放出源からの電界放出を変調する調整信号に応動するウエーネルト電極または制御電極とを有する電界放出形電子銃に関する。また本発明は電子放出源とウエーネルト電極と加速電極とを有する電界放出形3極管の構造に関し、また本発明は、調整信号の極性と振幅とが一定のビーム電流を保持するために連続的に変化する場合に収束作用を安定化したものである。」(第2ページ左上欄第3?12行) 「第1図は陰極電子放出源10を有する電界電子流放出形電子銃を示す回路略図であり、その場合陰極電子放出源は(図示されていない)高真空室内に収容されているので、陰極10の局部基準接地電位に対して所定のプラスの電位に保持された加速陽極12に向つて容易に電子ビームを放射する。加速陽極12は同軸の開口を有し、この開口を通して電子ビームの部分は、有利にはアース接地電位で陰極10の局部基準接地電位に対して非常に高いプラスの電位に保持された試料14に向かつて加速される。 試料14をボンバードするために用いられる実際のビーム電流は電流-電圧変換器16で測定され、変換器16の出力信号は比較器18で(図示されてない)所定の直流基準信号と比較され、かつ比較器18の出力信号はウエーネルト電極20に加えられて、陰極10の頂部付近の電界強度を変化させ、かつそれによつて陰極10からの放射を変化しかつ調整する。それ故ウエーネルト電極20は振幅と極性とが変化する調整信号を比較器18から受取る。 第2図は陰極10の頂部から放射を行う光学的に等価な装置を断面図で示し、ここで放射ビームの収束作用が不安定になる問題につき説明する。第2図からわかるように、第1図の尖鋭に形成された陰極10はウエーネルト電極20があることによつて生ずる電界を表わす凸レンズ22内に設けられている。第1図の比較器18から供給される変調調整電圧によつて、電界が変化し、これはレンズ22の収束作用を変化する効果を有する。比較器18からの調整信号が基準値0に関してプラスである場合、陰極の電界強度は増加するので放射電流が増加し、一層多くの電子が第1図のプラスのウエーネルト電極20に向つて引出されるようになる。それによつてこのレンズ部分からのビームは実際の陰極より近い個所で発生したように見せかけられる。即ち陰極に対応するレンズ部分はレンズ22の弓形部分24で示したように、収束作用が減少する。それ故前述のプラスの調整電圧によつて生ずる電子ビームの径路は第2図の光束26であるように見せかけられる。それに対して比較器18から供給される調整信号が基準値に関してマイナスである場合、電子はウエーネルト電極から反撥されるような力を受けるので、レンズ部分28の収束作用が増加しかつ電子ビームは光束30によつて示されるようになる。」(第2ページ右下欄第6行?第3ページ右上欄第12行) 「第2図の凹レンズ32は第1図の加速電極12の作用を示し、加速電極12は陰極電子放出源10に関してプラスの電位を有するので、電子を吸引して電子ビームを発散させる。またこのレンズ32でも発散作用が変化する、それはその場合ウエーネルト電極20で生ずるプラスの電位が増加すると、ウエーネルト電極および第1の陽極12間の電界が減少することによつて第1の陽極の開口で電界の変化が弱められるからである。そこでウエーネルト電極に加わる基準値に関してプラスの電圧によつて、弓形の表面34で示すレンズ作用が生じ、また調整信号がマイナスになるとレンズ作用はレンズ32の弓形の部分36によつて表わされる。レンズ22と32が適正な間隔を置いて設けられ、ウエーネルト電極としてのレンズに加わる可変な調整信号によつてそれぞれのレンズの発散作用と収束作用とが適正な値だけ変化するものとすれば、3極管構造から放射されるビームはその3極管構造の軸線38の周りで対称になり、かつすべてのビームは陰極電子放出源10即ち電界放出形電子銃の仮想の電子放出源である固定点40で収斂される。即ち3極管ユニツトを適正な構造にした場合にはじめて、第1図の比較器18で生じかつウエーネルト電極20に加わる調整信号の振幅または極性の変化には無関係に、電子銃に対する仮想の電子放出源は動かずに固定される。」(第3ページ左下欄第2行?右下欄第8行) 「第3図は電界放出形3極管ユニツトを更に詳しく示す正面からみた断面図であり、電界放出形3極管ユニツトは陰極10と第1の陽極または加速電極12とウエーネルト電極または制御電極20とを有する。前述のように第1の陽極12は陰極10に関する局部基準接地電位に対してプラスの電位に保持されている。ウエーネルト電極20は第1図の比較器18から供給される調整信号に依存して電位の極性と振幅とが変化する。」(第3ページ右下欄末行?第4ページ左上欄第9行) 「第3図に示されているように陽極12の上方の面42は陰極10の電子放出端部からLcで示す距離だけ離れており、かつ薄いウエーネルト電極20の上方の面からはLwで示す距離だけ離れている。これらの4つの寸法Dw,Da,Lc,およびLwはすべて前述のように安定な仮想の電子放出源のために正確に平衡させる必要から適正に選択すべきである。第3図に示す3極管において陰極-陽極間距離Lcと陽極の開口の直径Daとは重要なパラメータであり、かつこの後者のパラメータDaを用いることは本発明と公知技術との本質的な差異である。多くの異なつた寸法の組合わせによつて得られる軸線方向の電位分布を用いて種々の計算を行いかつ実際に放射を追跡することによつて、第2図の仮想の電子放出源40を所定の位置に固定しひいては装置の収束安定性を確保するのに必要な寸法は次のようにすればよいことがわかつた: Dw=3.0mm Da=300μ Lc=1.0?1.3mm Lw=1.9mm ビーム制限開口40の直径の標準値は100μの程度で、陽極12の厚さは略1.8mmの程度にすることができる。これらの2つの寸法は前述のように装置の収束安定性に対しては重要でない。またこの例において、Lwの値はLcの値より大きい、即ち陰極10の電子放出端の部分はウエーネルト電極20の開口に突入していることを注意すべきである。 これまでに説明した本発明の有利な実施例において、電界放出形電子銃は局部的基準接地電位を有する陰極から第1の陽極を通して試料に達する電子流を発生している。その場合試料は有利には、陰極の局部的基準接地電位に関してプラス数千ボルトの基準接地電位に保持されている。」(第4ページ左上欄末行?左下欄第16行) 「 」 「 」 イ 引用例1に記載された発明の認定 上記記載(図面の記載も含む)から、引用例1には、電子ビームの制御方法について記載されているといえる。よって、引用例1には、 「電子放出源(陰極10)と開口を有するビーム加速電極(陽極12)と電子放出源の付近に設けられかつ電子放出源からの電界放出を変調する調整信号に応動するウエーネルト電極20とを有する電界放出形電子銃における電子ビームの制御方法に関し、 電子放出源(陰極10)は陰極10の局部基準接地電位に対して所定のプラスの電位に保持された陽極12に向つて電子ビームを放射し、陽極12の開口を通して電子ビームの部分は、アース接地電位で陰極10の局部基準接地電位に対して非常に高いプラスの電位に保持された試料14に向かつて加速され、 陽極12の上方の面42は陰極10の電子放出端部からLcで示す距離だけ離れており、かつ薄いウエーネルト電極20の上方の面からはLwで示す距離だけ離れているとき、Lwの値はLcの値より大きい、即ち陰極10の電子放出端の部分はウエーネルト電極20の開口に突入し、 試料14をボンバードするために用いられる実際のビーム電流は電流-電圧変換器16で測定され、変換器16の出力信号は比較器18で所定の直流基準信号と比較され、かつ比較器18の出力信号はウエーネルト電極20に加えられて、陰極10の頂部付近の電界強度を変化させ、かつそれによつて陰極10からの放射を変化しかつ調整し、 比較器18からの調整信号が基準値0に関してプラスである場合、陰極の電界強度は増加するので放射電流が増加し、一層多くの電子が引出されるようになるのに対して、比較器18から供給される調整信号が基準値0に関してマイナスである場合、電子はウエーネルト電極から反撥されるような力を受けるので、レンズ部分28の収束作用が増加する電子ビームの制御方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 (3)対比及び当審の判断 ア 本願補正発明と引用発明との対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「電子放出源(陰極10)と開口を有するビーム加速電極(陽極12)と電子放出源の付近に設けられかつ電子放出源からの電界放出を変調する調整信号に応動するウエーネルト電極20とを有する電界放出形電子銃における電子ビームの制御方法」が、本願補正発明の「電界が印加されることにより電子を放出する電界放射型電子源の電子流制御方法」に相当する。 引用発明の「試料14」「電子放出源(陰極10)」及び「(電子放出源の付近に設けられた)ウエーネルト電極20」が、それぞれ、本願補正発明の「ターゲット」「電子流を放出するエミッタ」及び「(エミッタの周囲の)導電性材料」に相当し、引用発明の「陽極12の上方の面42は陰極10の電子放出端部からLcで示す距離だけ離れており、かつ薄いウエーネルト電極20の上方の面からはLwで示す距離だけ離れているとき、Lwの値はLcの値より大きい、即ち陰極10の電子放出端の部分はウエーネルト電極20の開口に突入」していることが、本願補正発明の「ターゲットに対し電子流を放出するエミッタの周囲に導電性材料を、前記エミッタの先端が当該導電性材料の上面よりも前記ターゲット側に位置するように配置」することに相当する。 引用発明の「試料14」が「陰極10の局部基準接地電位に対して非常に高いプラスの電位に保持され」ることが、本願補正発明の「該ターゲットには前記エミッタに対して正の電圧を印加」することに相当する。 引用発明の「比較器18の出力信号はウエーネルト電極20に加えられ」「比較器18から供給される調整信号が基準値0に関してマイナスである場合、電子はウエーネルト電極から反撥されるような力を受けるので、レンズ部分28の収束作用が増加する」ことが、本願補正発明の「該導電性材料に前記エミッタに対して負の電圧を印加することにより、該エミッタから該ターゲットに供給する電子流を制御する」ことに相当する。 引用発明の「電子ビームの制御方法」が、本願補正発明の「電子流制御方法」に相当する。 イ 一致点及び相違点 よって、本願補正発明と引用発明は、 「電界が印加されることにより電子を放出する電界放射型電子源の電子流制御方法であって、ターゲットに対し電子流を放出するエミッタの周囲に導電性材料を、前記エミッタの先端が当該導電性材料の上面よりも前記ターゲット側に位置するように配置し、該ターゲットには前記エミッタに対して正の電圧を印加し、該導電性材料に前記エミッタに対して負の電圧を印加することにより、該エミッタから該ターゲットに供給する電子流を制御する電子流制御方法。」の発明である点で一致し、両者に、格別、相違するところが存在しない。 ウ 当審の判断 よって、本願補正発明は実質的に引用発明であるということができるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。 3 むすび したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成23年改正前特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成23年12月12日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年8月11日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成23年12月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。) 2 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成23年12月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。 3 対比・判断 上記「第2 平成23年12月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明に対して、「電子流」について、「ターゲットにはエミッタに対して正の電圧を印加」することにより「該エミッタから該ターゲットに供給する」ものであることを限定して特定したものが本願補正発明である。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成23年12月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)対比及び当審の判断」において記載したとおり、実質的に引用発明であるから、本願発明も、同様に、実質的に引用発明である。よって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。 なお、原審の拒絶査定においては、拒絶理由書に記載した、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとする理由(理由2)によって本願は拒絶すべきものであるとしたが、上記拒絶理由通知書には、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し特許を受けることができないという理由(理由1)も記載されていたのであり、この点については、その後に出願人(請求人)が提出した意見書の記載から、出願人(請求人)が認識していたことは明らかであるから、当審においては改めて拒絶理由を通知することなく上記のとおり審決した。 4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、実質的に引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-09-19 |
結審通知日 | 2012-09-25 |
審決日 | 2012-10-11 |
出願番号 | 特願2008-23388(P2008-23388) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01J)
P 1 8・ 113- Z (H01J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 遠藤 直恵 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
北川 清伸 川俣 洋史 |
発明の名称 | 電界放射型電子源の電子流制御方法 |
代理人 | 特許業務法人創成国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人創成国際特許事務所 |