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審決分類 審判 全部無効 発明同一  G02B
管理番号 1266678
審判番号 無効2011-800044  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-03-18 
確定日 2012-11-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第3854392号発明「光学的フィルター」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3854392号の請求項1ないし3、5ないし6に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3854392号の請求項4に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その6分の1を請求人の負担とし、6分の5を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3854392号は、
平成9年11月10日に優先権主張(特願平8-298773号,優先日 平成8年11月11日)を伴って出願され、
平成18年9月15日に特許の設定登録がなされたものである。

これに対して、
平成23年3月18日付けで請求人 菊井俊一 より本件無効審判の請求がなされ、
同年6月17日付けで被請求人 DOWAホールディングス株式会社 より答弁書が提出され、
同年9月2日付けで審判長より送付された審理事項通知書に対し、
同年9月13日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、
同年10月12日(差出日)付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、
同年10月27日(差出日)付けで請求人及び被請求人の双方より2回目の口頭審理陳述要領書が提出された後、
同年10月27日に口頭審理が行われ、
同年11月25日に被請求人より上申書が提出されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、審判請求書によれば、
「特許第385492号の請求項1?6に係る発明についての特許は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、
以下の甲第1号証?甲第10号証を証拠方法としているものと認める。

<証拠方法>
・甲1 特許第3854392号公報 (本件特許公報)
・甲2 特開平10-48625号公報(本件先願の公開公報)
・甲3 特開平5-127822号公報(刊行物1)
・甲4 特開平8-129172号公報(刊行物2)
・甲5 特開平7-218904号公報(刊行物3)
・甲6 特開平3-188420号公報(刊行物4)
・甲7 特開平5-281538号公報(刊行物5)
・甲8 特開平6-180628号公報(刊行物6)
・甲9 特開平7-13144号公報 (刊行物7)
・甲10 特開平6-19622号公報 (刊行物8)

また、口頭審理陳述要領書により、
上記甲第1号証?甲第10号証を補完する証拠方法として、
以下の甲第11号証?甲第14号証を証拠方法としているものと認める。

・甲11 特開平5-173707号公報(刊行物9)
・甲12 実願昭63-151600号(実開平2-71821号)のマイクロフィルム(刊行物10)
・甲13 特開平4-118622号公報(刊行物11)
・甲14 特開平10-186136号公報(本件特許の出願公開公報)

以下、特許第3854392号を「本件特許」といい、本件特許の請求項1?6に係る発明のそれぞれを、「本件特許発明1」?「本件特許発明6」という。

請求人は、審判の全趣旨からして、次の無効理由1?3を主張しているものと認める。

本件特許には、特許法第29条の2(無効理由1)、同法第29条第2項(無効理由2)、同法第36条第4項並びに同条第6項第1号及び第2号(無効理由3)の3つの無効理由(特許法第123条第1項2号及び第4号)がある。

1.特許法第29条の2違反(無効理由1)
本件特許発明1?3は、特願平8-204595号(甲第2号証参照。以下「本件先願」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件先願当初明細書等」という。)に記載された発明と同一か、あるいは、相違点を有するが、この相違点は刊行物9?10(甲第11?12号証)に例示されているとおり周知技術の付加・転換であって、新たな効果を奏するものではないから、課題解決上の微差であって両者は実質同一であり、
本件特許発明5?6は、本件先願当初明細書等に記載された発明と相違点を有するが、この相違点は、刊行物6?7(甲第8?9号証)に例示されているとおり周知技術の付加であって、新たな効果を奏するものではないから、課題解決上の微差であって両者は実質同一である。
しかも、本件特許の発明者は当該本件先願の発明者と同一ではなく、また、本件特許出願の出願時点において両出願の出願人も同一ではないため、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

2.特許法第29条第2項違反(無効理由2)
(1)本件特許発明1?3は、刊行物1(甲第3号証)に記載された発明と、刊行物2(甲第4号証)及び刊行物3(甲第5号証)に記載された発明に基いて、あるいは、刊行物1(甲第3号証)に記載された発明と、刊行物11(甲第13号証)に記載された発明に基いて、
本件特許発明4は、刊行物1(甲第3号証)に記載された発明と、刊行物2(甲第4号証)及び刊行物3(甲第5号証)に記載された発明、並びに刊行物8(甲第10号証)に記載された発明に基いて、あるいは、刊行物1(甲第3号証)に記載された発明と、刊行物11(甲第13号証)に記載された発明、並びに刊行物8(甲第10号証)に記載された発明に基いて、
本件特許発明5?6は、刊行物1(甲第3号証)に記載された発明と、刊行物2(甲第4号証)及び刊行物3(甲第5号証)に記載された発明、並びに刊行物6?7(甲第8?9号証)に記載された発明に基いて、あるいは、刊行物1(甲第3号証)に記載された発明と、刊行物11(甲第13号証)に記載された発明、並びに刊行物6?7(甲第8?9号証)に記載された発明に基いて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)本件特許発明1?3は、刊行物1(甲第3号証)に記載された発明と、刊行物4(甲第6号証)及び刊行物5(甲第7号証)に記載された発明に基いて、
本件特許発明4は、刊行物1(甲第3号証)に記載された発明と、刊行物4(甲第6号証)及び刊行物5(甲第7号証)に記載された発明、並びに刊行物8(甲第10号証)に記載された発明に基いて、
本件特許発明5?6は、刊行物1(甲第3号証)に記載された発明と、刊行物4(甲第6号証)及び刊行物5(甲第7号証)に記載された発明、並びに刊行物6?7(甲第8?9号証)に記載された発明に基いて、
当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

3.特許法第36条第4項並びに同条第6項第1号及び第2号(無効理由3)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、また、本件特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなっており、さらに、特許を受けようとする発明が不明確であるから、本件特許発明1?6は、特許法第36条第4項並びに同条第6項第1号及び第2号の要件を充足せず、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。

請求人は審判過程において、特許法第36条第4項第1号の規定を充足しない旨の無効理由を説明している箇所があるが(審判請求書第7頁 「第2 3」他)、本件特許は平成9年11月10日出願によるものであるから、特許法第36条第4項の誤記であるものと認める。

(1)無効理由3-1
本件特許請求の範囲には、請求項1?6までしかないところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0034】?【0047】には、請求項1?14まで記載されており、対応関係が不明確である。
本件特許明細書【0034】?【0039】における請求項1?6についての記載内容も、本件特許請求の範囲に記載された請求項1?6の記載と整合していない。
このため、本件特許発明1?6の技術上の意義を理解することができず、また、発明の範囲が不明確である。(審判請求書第35頁 「第7 1」)

(2)無効理由3-2
本件特許発明1?6は「第1の直線偏光板」を必須の構成とするところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、第1の直線偏光板を有さないものが「実施例」として記載されており(例えば【0077】の「実施例3」)、第1の直線偏光板を有さないものまで本件特許発明に含まれるかのように記載されている。
本件特許発明1?6は「液晶表示装置」を必須の構成とするところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0090】には、「表示装置としては、直線偏光を出すものであれば、液晶表示装置以外の他のものを用いてもよい。」と記載されており、液晶表示装置が任意的事項であるかのように記載されている。
さらに、本件特許発明1?6は「透明タッチパネル」を必須の構成とするところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0091】には、「本発明は、透明タッチパネル以外の他の装置(光学的フィルター)にも同様に適用できる。例えぱ、防塵ケースの表示窓や、表示装置の保護フィルター等に適用することができる。」と記載されており、透明タッチパネルを前提としないものまで権利範囲に含むかのように記載されている。
以上の結果、本件特許発明1?6の技術上の意義を理解することができず、また、発明の範囲が不明確である。(審判請求書第35?36頁 「第7 2」)

(3)無効理由3-3
本件特許発明1?6は「液晶表示装置」とは別に「第1の直線偏光板」を構成要件として規定するところ、液晶表示装置は、通常、それ自体の構成に偏光板を具備しており、直線偏光を出射するように構成されているため、「液晶表示装置自体が有する偏光板」と「第1の直線偏光板」との関係を特定しなければ、直ちに「表示装置の視認性等の光学特性を著しく向上させる」(本件特許明細書【0091】)という効果を奏するとはいえない。
このため、本件特許発明1?6は、その技術上の意義を理解することができず、発明の範囲が不明確であるとともに、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決する範囲を超えて特許を請求することになっている。(審判請求書第36?37頁 「第7 3」)

第3 被請求人の主張
被請求人は、審判事件答弁書によれば、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、そして、無効理由1乃至3はないと主張しているものと認める。

第4 当審の判断

1.本件特許発明
本件特許発明1?6は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
液晶表示装置に取り付けられる光学的フィルターであって、
前記液晶表示装置側から順に、
第1の直線偏光板と、
第1の位相差板と、
偏光性がない又は偏光性が小さい部材の透明タッチパネルと、
該透明タッチパネルに実質的に密着させて1/4波長板である第2の位相差板と、
第2の直線偏光板と、が配置されており、
前記透明タッチパネルは、表面にそれぞれ透明導電膜を形成した2枚の透明基板がそれぞれの透明導電膜を互いに対向させるように配置されたものであり、
前記2枚の透明基板のうちの前記液晶表示装置側に配置される一方の透明基板における前記透明導電膜形成面と反対側の表面に前記第1の位相差板が取り付けられ、他方の透明基板における前記透明導電膜形成面と反対側の表面に前記第2の位相差板及び第2の直線偏光板が表面側から順に取り付けられているとともに、
前記液晶表示装置と前記第1の位相差板との間に前記第1の直線偏光板が設けられていることを特徴とする光学的フィルター。
【請求項2】
前記透明基板はガラス基板であり、前記第1の位相差板が1/4波長板であることを特徴とする請求項1記載の光学的フィルター。
【請求項3】
前記透明基板のいずれか一方若しくは双方が樹脂製の基板であり、前記第1の位相差板は、前記液晶表示装置から外側に向かう光に対して前記第1の位相差板と透明タッチパネルとを通過することによって与えられる位相差の合計を1/4波長とする位相差を前記光に与える位相差板であることを特徴とする請求項1記載の光学的フィルター。
【請求項4】
前記光学的フィルターを密封構造にして、その内部に不活性ガスを充満したことを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の光学的フィルター。
【請求項5】
前記第2の直線偏光板と第2の位相差板とが一体に積層されて積層体をなし、この積層体における前記透明タッチパネルの操作部を除く周辺部に対向する部分と前記透明タッチパネルの操作部を除く周辺部との間に接着手段若しくはスペーサが介在されて前記積層体が前記透明タッチパネルに接着若しくは固定されてなるものであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の光学的フィルター。
【請求項6】
前記接着手段が両面接着テープであることを特徴とする請求項5に記載の光学的フィルター。」

2.特許法第29条の2違反(無効理由1)について

請求人提出の本件先願である特願平8-204595号(甲第2号証参照。)は、平成8年8月2日に出願され、平成10年2月20日に出願公開がなされたものである。
したがって、本件先願(甲第2号証参照。)は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開されたものである。

そして、本件特許の発明者は、本件先願の発明者と同一ではなく、また、本件特許の出願時点において、両出願の出願人は同一ではない。

(1)本件先願当初明細書等に記載の事項
本件先願当初明細書等(甲第2号証参照。)には、以下の記載がある。(下線は当審にて付与した。)

「【請求項1】液晶ディスプレイの前面に配置されるタッチパネルであって、液晶ディスプレイ側から順に第1の1/4波長板、スペーサーを介して対向する2枚の透明導電膜、第2の1/4波長板、偏光板を配置してなる液晶ディスプレイ用タッチパネル。」

「【0005】本発明者はかかる事情に鑑み、透明導電膜からの反射を無くし、液晶ディスプレイの視認性を向上させるべく鋭意検討した結果、液晶ディスプレイ側から順に第1の1/4波長板、スペーサーを介して対向する2枚の透明導電膜、第2の1/4波長板、偏光板を配置することによって、タッチパネルを装着した液晶ディスプレイの視認性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。」

「【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明において、第1の1/4波長板は第2の1/4波長板と合わせて、位相差を無くするか、または1/2波長板としての効果を持たせる。第1の1/4波長板は液晶ディスプレイの位相差板または偏光板の上にセットされるが、単に置くだけでも良いし、位相差板または偏光板に貼合した状態で配置されても良い。」

「【0012】本発明の最外層に使用される偏光板は、第2の1/4波長板と組み合わされて円偏光タイプの反射防止フィルターを形成すると共に、偏光板のない液晶ディスプレイに本発明のタッチパネルを配設した場合には、この偏光板の役割をも果たすものである。偏光板の吸収軸は第2の1/4波長板の光軸と45°または135°になるよう配置される。」

「【0016】実施例1
図2に示すように、第1の1/4波長板(スミカライトSEF-380135住友化学工業(株)製)、ガラス板に設けられたITO膜からなるスペーサーを介して対向する2枚の透明導電膜、第2の1/4波長板(スミカライトSEF-380135 住友化学工業(株)製)、偏光板(スミカランSQ-1852AP住友化学工業(株)製)を配置してなるタッチパネルを、表示面の偏光板の吸収軸が右上がり45゜方向の液晶ディスプレイに配置した。この時、第1の1/4波長板の光軸を0゜方向、第2の1/4波長板の光軸を90゜方向、偏光板の吸収軸を45°方向になるように配置した。この液晶ディスプレイの視認性を評価したところ、液晶ディスプレイは非常に明るく、また透明導電膜による反射もなくコントラストも非常に良かった。」

【図2】は次のとおり。


これらの記載事項から、本件先願当初明細書等(甲第2号証)には次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているものと認める。
「液晶ディスプレイの前面に配置されるタッチパネルであって、表示面の偏光板の吸収軸が右上がり45°方向の液晶ディスプレイの側から、第1の1/4波長板、ガラス板に設けられたITO膜からなるスペーサーを介して対向する2枚の透明導電膜、第2の1/4波長板、偏光板を配置してなる液晶ディスプレイ用タッチパネル。」

(2)対比
本願特許発明1と先願発明とを対比すると、
先願発明の
「第1の1/4波長板」、
「ガラス板に設けられたITO膜からなる」「対向する2枚の透明導電膜」及び「スペーサー」、
「第2の1/4波長板」、
「偏光板」は、それぞれ、
本件特許発明1における
「第1の位相差板」、
「偏光性がない又は偏光性が小さい部材の透明タッチパネル」であって「前記透明タッチパネルは、表面にそれぞれ透明導電膜を形成した2枚の透明基板がそれぞれの透明導電膜を互いに対向させるように配置されたもの」、
「第2の位相差板」、
「透明タッチパネルに実質的に密着させて1/4波長板である第2の直線偏光板」、
に相当している。

また、先願発明の「液晶ディスプレイ用タッチパネル」と、本件特許発明1の「液晶表示装置に取り付けられる光学的フィルター」とは、偏光板の数は異なるが、「液晶表示装置に取り付けられる光学的フィルター」の点で共通する。

してみると、両者は、
「液晶表示装置に取り付けられる光学的フィルターであって、
前記液晶表示装置側から順に、第1の位相差板と、偏光性がない又は偏光性が小さい部材の透明タッチパネルと、該透明タッチパネルに実質的に密着させて1/4波長板である第2の位相差板と、第2の直線偏光板と、が配置されており、前記透明タッチパネルは、表面にそれぞれ透明導電膜を形成した2枚の透明基板がそれぞれの透明導電膜を互いに対向させるように配置されたものであり、前記2枚の透明基板のうちの前記液晶表示装置側に配置される一方の透明基板における前記透明導電膜形成面と反対側の表面に前記第1の位相差板が取り付けられ、他方の透明基板における前記透明導電膜形成面と反対側の表面に前記第2の位相差板及び第2の直線偏光板が表面側から順に取り付けられている光学的フィルター」の点で一致し、以下の点で一応相違している。

[相違点]
本件特許発明1においては、光学的フィルターが、液晶表示装置と第1の位相差板との間に第1の直線偏光板を有しているのに対し、
先願発明においては、液晶ディスプレイの表面が「吸収軸が右上がり45°方向の偏光板」からなり、この偏光板は、光学的フィルターの第1の位相差板の下に配置されているものの、光学的フィルターの構成要素とはされていない点。

ここで、請求人、被請求人両当事者ともに、本件先願当初明細書等(甲第2号証)には、「吸収軸が右上がり45°方向の偏光板」は、液晶ディスプレイの最表面にある偏光板であって、この上に第1の位相差板が取り付けられる構成が開示されていることについては、争いはなく、
(請求人の主張:審判請求書第11頁「第4 1(3)」、
被請求人の主張:答弁書第5頁21行?第6頁末行、同第7頁第6?24行、同第7頁第25行?第8頁第18行)、
この構成は、上記検討したとおり、本件先願当初明細書等(甲第2号証)に記載されている。

また、先願発明における「吸収軸が右上がり45°方向の偏光板」が、その上に積層された光学的フィルターの「第1の1/4波長板」と組み合わさって、「タッチパネル」に対して円偏光板を提供することは技術的に自明の事項である。
そして、先願発明においても、当該円偏光板により「タッチパネル」界面での表示装置内部からの反射光がカットされており、よって、先願発明は本件特許発明と同様の作用・効果が生じていることも、技術的に自明の事項である。

ここで、特許法第29条の2の発明の同一性に関して、先願発明における液晶ディスプレイ表面にある「吸収軸が右上がり45°方向の偏光板」が、本件特許発明1における「光学的フィルター」の構成要素とされるか否かが、請求人、被請求人両当事者の意見の別れるところである。
(請求人の主張:審判請求書第12?13頁「第4 1(6)」、口頭審理陳述要領書第2?3頁「第1 1(2)ア」及び第6?7頁「第1 1(3)」、
被請求人の主張:答弁書第5頁第17行?第6頁末行及び第7頁第6行?第8頁第18行、口頭審理陳述要領書第13?17頁「5 (4)」)

そこで、上記[相違点]を判断するに先立って、請求人及び被請求人の両当事者の主張を検討しつつ、本件特許明細書の記載を参酌すると、本件特許発明1における「第1の直線偏光板」はどのような技術的意味を有するものであったのか以下に考察する。

(3)本件特許明細書の開示事項に関する当審の判断
両当事者において主張され、「第1の直線偏光板」の技術的意味について争いがある本件特許明細書の記載箇所とその内容は、段落順に次のとおりである。
(請求人の主張:口頭審理陳述要領書第3?6頁「第1 1(2)イ及びウ」、口頭審理陳述要領書2回目第1?5頁「1」?「3」、
被請求人の主張:口頭審理陳述要領書2回目第3?13頁「5(2)」?「5(3)」、上申書第13?14頁「C」)

a)【0050】液晶表示装置1には、通常、第1の直線偏光板2が取り付けられている。

b)【0052】液晶表示装置1から出る光線は直線偏光光線であり、この偏光軸に合わせて、第1の直線偏光板2が取り付けられている。
【0053】第1及び第2の直線偏光板2,6と位相差板7,11の設置角度の関係を図2に示す。第2の1/4波長位相差板7と第1の1/4波長位相差板11は90°ずれた角度に配置した。
【0054】第1の直線偏光板2をそのまま通遇した光線は、第1の1/4波長位相差板11によって、異常光線と常光線とが1/4波長ずれた光線(円偏光光線)になる。
【0055】さらに、透明タッチパネル12を通過した光線は、第2の1/4波長位相差板7を通過する。このとき、1/4波長ずれていた光線の位相は、-1/4波長ずれて、第2の1/4波長位相差板7を通過した光線は直線偏光光線になる。
【0056】透明タッチパネル12及び第2の1/4波長位相差板7を通過することで直線偏光化した光線は、第2の直線偏光板6を通過する。
【0057】本実施の形態では、2つの1/4波長位相差板11,7を用いることによって、位相のずれを打ち消し合うようにしたので、液晶表示装置1から第2の直線偏光板6に入射する光には、第2の直線偏光板6の偏光軸と直交した方向の成分は含まれない。従来は、第1の1/4波長位相差板11を備えていなかったので、液晶表示装置1から第2の直線偏光板6に入射する光には、第2の直線偏光板6の偏光軸と直交した方向の成分が含まれていて、この直交した成分が第2の直線偏光板6を通過できないので、タッチパネルの視認性がかなり低かった。

c)【0063】【0066】【0067】【0070】「円偏光+位相差方式」

d)【0072】実施例1「液晶表示装置1には、あらかじめ、第1の直線偏光板2が取り付けられている。」
【0075】実施例2「液晶表示装置1には、あらかじめ、第1の直線偏光板2が取り付けられている。」

e)【0077】実施例3(当審注:実施例3は、出願当初は実施例であったが、審査過程における特許請求の範囲の補正により、その後、本件特許発明の実施例ではなくなった参考例である。)本実施例は、実施例1、2から第1の直線偏光板を取り除いたものである。つまり、液晶表示装置に取り付けられていた第1の直線偏光板を省略して、円偏光を構成する第2の直線偏光板をその代替として使用する。第2の直線偏光板は、本発明に係る反射防止機能とともに、通常液晶表示装置に取り付けられている第1の直線偏光板の機能を有することになる。

f)【0090】さらに、表示装置としては、直線偏光を出すものであれぱ、液晶表示装置以外の他のものを用いてもよい。液晶表示装置に適用する場合には、液晶表示装置を構成する液晶として、いわゆるTN型液晶、STN型液晶、TFT型液晶等を採用できることは勿論であるが、特に、高分子分散型液晶を用いれば、液晶表示装置自体に必ずしも偏光板を用いる必要がなくなるので、本発明との相乗効果でさらに視認性が向上し、かつ構造をより単純にすることが可能になる。

g)【図1】【図5】:本発明の実施の形態に係る光学的フィルターの概略構成を示す図。第1の直線偏光板(直線偏光板2)が液晶表示装置1と一体に設けられている。
【図1】

【図5】

【図8】【図9】:実施例1、2の図。第1の直線偏光板(液晶部直線偏光板2)が液晶表示装置1と一体に設けられている。
【図8】

【図9】


h)【図2】:本発明の実施の形態に係る光学的フィルターの直線偏光板と位相差板との設置角度の関係を示す図。液晶直線偏光板(第1の直線偏光板)と記載。
【図2】


j)【図11】【図12】:従来例を示す図。液晶部直線偏光板と記載。
【図11】

【図12】


次に、上記本件特許明細書の記載箇所a)?j)が開示する技術的な内容について、検討する。

a)について
被請求人は、「第1の」、とわざわざ記載しているのであるから、当該「第1の直線偏光板2」は、液晶表示装置に内蔵される偏光板ではないと主張し、その証拠として甲第12号証を示したが、特許明細書の中で、光学部品の名称をどのように付けるかは自由に決められる事項であるから、「第1の」という名称から、液晶表示装置に内蔵される偏光板ではない、と一概に言い切ることはできない。
請求人は、液晶表示装置に「通常」取り付けられている偏光板であるから、当該「第1の直線偏光板2」は、液晶表示装置に内蔵される偏光板であると主張している。

被請求人が主張するとおり、本件特許出願当時、液晶表示装置には、少なくとも、
液晶セルの前面・背面に偏光板がある<第1のタイプ>、即ち、
<第1のタイプ>:観察者側|前面偏光板|液晶セル|背面偏光板|光源側と、
液晶セルの背面に偏光板がある<第2のタイプ>、即ち、
<第2のタイプ>:観察者側|液晶セル|背面偏光板|光源側、
の2つのタイプがあったものと認められる。

すると、【0050】の「通常」取り付けられている「第1の直線偏光板2」とは、<第1のタイプ>の前面偏光板(液晶表示装置内蔵偏光板)であった可能性があるが、そうではなく、<第2のタイプ>の液晶表示装置に、光学的フィルターの要素として第1の直線偏光板を張り付けたものであった可能性もあるため、【0050】の当該箇所の記載のみでは、この「通常」取り付けられている「第1の直線偏光板2」が、液晶表示装置内蔵偏光板であったのか、光学的フィルターの要素としての第1直線偏光板であったのか、いずれであったとも断定することはできない。

b)について
本件特許発明は、本件特許明細書【0001】に「本発明は、直線偏光を出射する表示装置に取り付けられる光学的フィルターに関し」と記載されているから、直線偏光を出射する液晶表示装置を取り付け対象として想定した発明である。
そして、前記のとおり、被請求人が説明しているように、直線偏光を出射する液晶表示装置には、<第1のタイプ>と<第2のタイプ>の両方式があり、この<第1のタイプ>、<第2のタイプ>とも、前面偏光板があってもなくても、それ自体直線偏光を出射する。
そうすると、【0052】の記載から確かに分かることは、液晶セルからの出射光線と、第1の直線偏光板との偏光軸が合致するよう配置されていたこと、だけであって、「第1の直線偏光板2」が<第1のタイプ>における前面偏光板(液晶表示装置内蔵偏光板)であったのか、<第1のタイプ>あるいは<第2のタイプ>の液晶表示装置に外付けされた偏光板であったのか、いずれであったのかは、この記載からは判別できない。
同様に、【0054】の「第1の1/4波長板11によって、異常光線と常光線とが1/4波長ずれた光線(円偏光光線)になる。」という記載は、液晶表示装置から出射された直線偏光光が第1の直線偏光板をそのまま通過し、第1の1/4波長板を通過すると円偏光化されるという光線の変化を説明したものに過ぎず、この記載も、「第1の直線偏光板2」が内蔵偏光板であったのか、外付け偏光板であったのかを判断する手がかりにはならない。

c)について
被請求人が釈明しているように、本件特許明細書は、出願当初、第1の1/4波長板?第2の直線偏光板までの構成を備えた光学的フィルターで特許取得する目的で記載されたものであり、このため、本件特許明細書全体が「円偏光+位相差方式」に合致するように開示がなされている。したがって、本件特許明細書において「円偏光+位相差方式」と記載されている箇所があるからといって、「第1の直線偏光板」が液晶表示装置内蔵偏光板である、と認める根拠にはならない。

d)について
被請求人は、当該箇所に記載された実施例1、2における液晶表示装置1は、<第1のタイプ>であって、かつ、第1の直線偏光板2は<第1のタイプ>に外付けされた偏光板であると説明しているが(上申書第11頁第9?15行)、本件特許明細書の記載のみでは、液晶表示装置1が<第1のタイプ>であったのか、<第2のタイプ>であったのかは、分からない。
また、液晶表示装置1がどちらかのタイプであると判明したとしても、「あらかじめ」「取り付けられた」「第1の直線偏光板」が、液晶表示装置の内蔵偏光板なのか、外付け偏光板なのかを知る手がかりにはならない。
ここでの記載から分かることは、いずれのタイプか分からない液晶表示装置に、タッチパネルを設ける前に、偏光板があらかじめ取り付けられている、ということだけである。

e)について
本件特許明細書の実施例3は、本件特許発明に対する実施例ではなくなった実施形態であるが、本件特許発明に対する実施例である実施例1、2の変形例であるから、実施例3における各光学部品の技術的意義は、実施例1、2における各光学部品の技術的意義を踏襲するものであると解釈される。
ここで、変形例である実施例3は、実施例1、2から第1の直線偏光板を取り除いたものであることが記載されているが、第1の直線偏光板を取り除いたら、「液晶表示装置に取り付けられていた第1の直線偏光板を省略して、円偏光板を構成する第2の直線偏光板をその代替として使用する。第2の直線偏光板は、本発明に係る反射防止機能とともに、通常液晶表示装置に取り付けられている第1の直線偏光板の機能を有することになる。」と記載されている。
つまり、実施例1、2で通常液晶表示装置に取り付けられていた第1の直線偏光板がない場合は、第2の直線偏光板がその機能を代替するというものである。
第2の直線偏光板の配置からして、タッチパネルの液晶表示装置側に設けられ、第1の1/4波長板と組み合わさって円偏光板を形成するための偏光板としての機能を代替することはできない。
ここでの記載からは、依然として、本件特許明細書の実施例1、2の液晶表示装置が<第1のタイプ>であったのか、<第2のタイプ>であったのか、いずれであったのかは分からない。
しかしながら、第1の直線偏光板を取り去った時に、第2の直線偏光板が代替できる機能は、少なくとも液晶セルに対して観察面側に配置される、画像表示のための偏光板としての機能である。
したがって、この記載から、実施例1、2の第1の直線偏光板2は、液晶表示装置の液晶セルに対して観察者側に設けられる画像表示のための偏光板である、との認識を以て記載されていることが明らかである。

f)について
本件特許明細書は、被請求人が説明しているように、出願当初においては、光学的フィルターが「円偏光+位相差方式」である場合について記載されたものである。
したがって、【0090】の高分子分散型液晶を用いた偏光板を持たない液晶表示装置にも光学的フィルターを使用できる旨の記載は、あくまでも光学的フィルターが「円偏光+位相差方式」である場合について記載したものであり、液晶表示装置が偏光板を持たない高分子分散型液晶を用いた液晶表示装置である場合に、光学的フィルターをどのようにすれば、「円偏光+円偏光方式」を実現できるのかについては、【0090】には記載されておらず、また【0090】からその手がかりを探ることもできない。

g)?j)について
各図面において、「液晶直線偏光板」「液晶部直線偏光板」と記載されている部材は、「液晶」「液晶部」と記載されているのであるから、<第1のタイプ>の液晶表示装置における前面偏光板であるとの認識を以て記載されていると解釈するのが妥当である。
よって、本発明の実施の形態の【図2】、実施例1の【図8】、実施例2の【図9】、従来例の【図11】及び【図12】の「液晶直線偏光板(第1の直線偏光板)」「2液晶部直線偏光板」は、液晶表示装置に内蔵される偏光板であると解釈される。
g)?j)を合わせて解釈すると、本件特許明細書における実施例1、2においては、第1の直線偏光板は、液晶表示装置に通常取り付けられている内蔵偏光板であったことが分かる。

そして、両当事者において主張された本件特許明細書a)?j)の記載箇所のみならず、本件特許明細書の開示内容全体を詳細に検討すると、本件特許明細書及び図面には、液晶表示装置自体が予め表面に有している液晶部直線偏光板2か、または、液晶表示装置の前面に画像表示の目的で設けられている偏光板を取り込む形での「円偏光+円偏光方式」が記載されているに過ぎず、つまり、液晶表示装置が、内蔵偏光板である液晶部直線偏光板2や、画像表示のための前面に設けられる偏光板を利用して「円偏光+円偏光方式」を実現させているものであることが分かる。
本件特許明細書及び図面の開示内容全体を詳細に検討したが、本件特許明細書及び図面には、第1の直線偏光板が、液晶表示装置それ自体の表面に有する内蔵偏光板ではない形態、あるいは、第1の直線偏光板が、画像表示のために設けられている偏光板とは違う部材である形態、を採り得ることが窺える記載は一切ない。

(4)特許法第29条の2についての当審の判断
(3)で、本件特許明細書及び図面の記載内容について検討した結果、本件特許明細書及び図面には、液晶表示装置が、液晶表示装置自体が予め表面に有している内蔵偏光板(本件特許明細書では液晶部直線偏光板、液晶偏光板という名称でも記載されている。)、あるいは、画像表示のために液晶表示装置の前面に設けられる偏光板、を利用して「円偏光+円偏光方式」を実現させているものであることが分かった。

そうすると、先願発明における「吸収軸が右上がり45°方向の偏光板」と、本件特許明細書に開示された実施例1、2の液晶部直線偏光板2は、双方共に液晶表示装置自体がその表面に有する内蔵偏光板であるか、または、少なくとも、画像表示のために設けられている偏光板であるから、同じ技術的意義を有する光学部材であり、先願発明と、本件特許明細書に記載された実施例1、2の実施形態は、同じである。

ここで、(2)の[相違点]に関わる本件特許発明1の「光学的フィルターが、液晶表示装置と第1の位相板の間に第1の直線偏光板を有している」から把握される具体的構成について整理する。

まず、技術的常識からすると、液晶表示装置には、前面偏光板を備えたもの(偏光板を内蔵した液晶表示装置)と、前面に偏光板を備えていないもの(偏光板を内蔵しない液晶表示装置)の2タイプがある。

また、本件特許発明1において、第1の直線偏光板は、液晶表示装置と第1の位相差板の間に設けられているのであるから、液晶表示装置との関係では、第1の直線偏光板が液晶表示装置に固定(接着等)されている場合と、液晶表示装置ではなくタッチパネルの第1の位相差板に固定(接着等)されている場合と、液晶表示装置及びタッチパネルの第1の位相差板のいずれにも固定(接着等)されておらず、両者の間に何らかの手段で挟み込まれている場合、の3つの場合が考えられる。

これらのことから、本件特許発明1の「光学的フィルターが、液晶表示装置と第1の位相差板の間に第1の直線偏光板が設けられている」の具体的な構成としては、次の様態が考えられる。

(i)直線偏光板を内蔵しない液晶表示装置に対して、第1の直線偏光板が、その表面に固定されるか、または、第1の位相差板との間に挟着されている態様。
(第1の位相差板|第1の直線偏光板|(内蔵偏光板なし)液晶表示装置)

(ii)偏光板を内蔵する液晶表示装置に対して、第1の直線偏光板が、その表面に固着されるか、または、第1の位相差板との間に挟着されている態様。この態様では、2枚の偏光板が積層される形となるが、技術的機能の観点からは、2枚の偏光板を積層する必要はなく、1枚の偏光板で足りる。
(第1の位相差板|第1の直線偏光板|(内蔵偏光板あり)液晶表示装置)

(iii)偏光板を内蔵する液晶表示装置において、当該偏光板が、第1の直線偏光板を兼用している態様。この態様は、本件特許明細書等の記載から推認されるものである。
(第1の位相差板|(第1の直線偏光板=内蔵偏光板)液晶表示装置)

本件特許発明1の上記3態様について、先願発明との相違を検討する。
まず、(iii)の態様については、光学的フィルターと液晶表示装置とを組み付けた状態を見ると、先願発明と全く同じであるから、光学的フィルターと液晶表示装置との切り分けをどこでするのか、すなわち、第1の直線偏光板を、光学的フィルターに含まれるものとするのか(本件特許発明1)、あるいは、液晶表示装置に含まれるものとするのか(先願発明)の違いだけである。これは、設計上の微差であり、両者は実質的に同一である。

次に、(i)の態様については、偏光板を内蔵する液晶表示装置である先願発明において、偏光板を内蔵しない液晶表示装置と、これに外付けする画像表示用の偏光板の組合せに交換する程度のことは、設計上の微差であって、それにより新たな効果をもたらすものではない。すなわち、内蔵偏光板がある液晶表示装置も、内蔵偏光板のない液晶表示装置と外付けされた画像表示用の偏光板からなる組合せも、ともに、前面に偏光板を設けた液晶表示装置に過ぎないのであるから、その機能は変更前後で同じであり、また、液晶表示装置及び光学的フィルターの全体としてみても、請求人が主張する「円偏光+円偏光方式」が実現される点で変わりはない。したがって、両者は実質同一である。

最後に、(ii)に態様については、偏光板の枚数の点で、両者には、液晶表示装置と光学的フィルターの全体としてみても構成上の違いがあるが、2枚の偏光板を連続して積層する必要はなく、1枚の偏光板で十分にその機能が足りるので、技術的意義はほとんどない。

被請求人は、本件特許発明1?6の第1の直線偏光板は、液晶表示装置それ自体の表面に有する内蔵偏光板ではなく、光学的フィルターに別個に設けられた偏光板であることにより、本件特許発明1?6の光学的フィルターは、取り付け対象の液晶表示装置のタイプに依らず、「円偏光+円偏光方式」を実現することができる、という効果を主張しているが(平成23年11月25日付け 上申書第10頁第11?15行)、この内容は上記上申書にて初めて主張された効果であって、本件特許明細書及び図面には記載されていない。

また、本件特許明細書及び図面において、第1の直線偏光板が液晶表示装置それ自体の表面に有する内蔵偏光板ではないか、あるいは、第1の直線偏光板が液晶表示装置の前面に画像表示のために取り付けられる偏光板とは違う部品である、という形態の記載がない以上、当該被請求人が主張する効果は自明の事項でもない。

仮に、本件特許明細書から上記の効果、即ち、第1の直線偏光板が液晶表示装置それ自体の表面に有する内蔵偏光板でなく、あるいは、第1の直線偏光板が液晶表示装置の前面に画像表示のために取り付けられる偏光板とは違う部品であって、第1の直線偏光板は、光学的フィルターに別個に設けられた偏光板であることにより、取り付け対象の液晶表示装置のタイプに依らず、所期の機能を実現することができることが、当業者にとって自明の効果であったとしても、
タッチパネルを含む光学的フィルターは、一般消費者向けに販売されるものではなく企業間で取引される産業用製品であり、取り付け対象となる液晶表示装置の仕様に併せて提供されることが一般的であると考えられるから、取り付け対象となる液晶表示装置のタイプを考慮しないで、独立した光学的フィルターを製造・提供すれば、これがいずれのタイプの液晶表示装置に外付けされた場合であっても作用効果を奏するとする請求人の主張は、現実的とは言えないものである。したがって、取り付け対象の液晶表示装置のタイプを問わないという効果は、考慮すべきほどのものではない。

ところで、本件特許発明1について考えられる(i)?(iii)の複数態様のうち、少なくとも1つの態様が、先願発明と同一であることが論理付けられれば、本件特許発明は、特許法第29条の2に規定される条件を充足し、特許を無効にすべきことは当然である。

そうすると、本件の場合、本件特許発明1の(ii)の態様は判断するまでもなく、本件特許発明1の(i)及び(iii)の態様は、先願発明と実質的に同一であるから、本件特許発明1は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものということになる。

(5)本件特許発明2?3、5?6について
本件特許発明1と同一構成については、上記検討済みであるので、残りの構成について検討する。

a)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成に加えて、第1の位相差板が1/4波長板であるという限定を付加したものである。
先願発明においても、第1の位相板は1/4波長板である。
よって、本件特許発明と先願発明とは同一、ないしは、実質同一である。

b)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1の構成に加えて、
i)透明基板のいずれか一方若しくは双方が樹脂性の基板であること、
ii)第1の位相板は、(前記)液晶表示装置から外側に向かう光に対して(前記)第1の位相差板と透明タッチパネルとを通過することによって与えられる位相差の合計を1/4波長とする位相差を(前記)光に与える位相差板であること
という2点の限定を付加したものである。

i)について検討すると、先願発明における透明基板はガラス板であるから、本件特許発明3と先願発明とは、透明基板の材質の点で[相違点α]を有している。

[相違点α]について検討すると、タッチパネルに用いられる透明基板の材質として、樹脂は、文献を示すまでもなく周知の基板材質に過ぎないから、ガラス板に替えて樹脂製の基板を使用することは周知技術の付加・転換であって、新たな効果を奏するものではなく、課題解決のための具体的手段の微差に過ぎない。

ii)について検討すると、先願発明における透明タッチパネルは、ガラス板に設けられたITO膜からなるスペーサーを介して対向する2枚の透明導電膜から構成されているものであるから、ここに液晶表示装置から外側に向かう光を通過させるときに生じる位相差はほぼゼロである。したがって、先願発明においても、第1の位相差板は、液晶表示装置から外側に向かう光に対して、第1位相差板と透明タッチパネルとを通過することによって位相差の合計として1/4波長を与えるよう構成されており、このii)の点については本件特許発明3と先願発明には相違点はない。

c)本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明1の構成に加えて、
i)(前記)第2の直線偏光板と第2の位相差板とが一体に積層されて積層体をなし、
ii)(この)積層体における(前記)透明タッチパネルの操作部を除く周辺部に対向する部分と(前記)透明タッチパネルの操作部を除く周辺部との間に接着手段若しくはスペーサが介在されて(前記)積層体が(前記)透明タッチパネルに接着若しくは固定されてなるものである
という2点の限定を付したものである。

i)について検討すると、先願発明(本件先願明細書等の【図2】も参照)においても、第2の直線偏光板と第2の位相差板とは一体に積層されて積層体を形成しているので、i)の点において、本件特許発明5と先願発明とは相違しない。

ii)について検討すると、先願発明においては、透明タッチパネルと、第2の直線偏光板と第2の位相板からなる積層体、とは、配置されているものの、具体的な接着状況は判然としない点で[相違点β]を有している。

[相違点β]について検討すると、透明タッチパネルに他の部材を接着するに際し、透明タッチパネルの操作部を除く周辺部を接着剤等の接着手段により接着することは、甲第8号証、甲第9号証にも記載されているように周知であり、かかる周知技術を付加することは課題解決のための具体化手段における微差に過ぎない。

d)本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明5の構成に加えて、
接着手段が両面接着テープである、との限定を付加したものである。

しかしながら、c)本件特許発明5についての箇所にても検討したとおり、接着手段として両面テープを採用することも甲第8号証に記載されているとおり周知であり、かかる周知技術を付加することは課題解決のための具体化手段における微差に過ぎない。

(6)まとめ
よって、本件特許発明1?3、5?6は、本件先願(甲第2号証)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一か、または実質同一であり、しかも、本件特許の発明者は当該先願の発明者と同一ではなく、また、本件特許出願の出願時点において両出願の出願人も同一ではないため、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

3.特許法第29条第2項違反(無効理由2)について

(1)刊行物1?5(甲第3?7号証)の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物である刊行物1?5(甲第3?7号証)には以下の事項が記載されている。(下線は当審にて付与した。)

a)刊行物1(甲第3号証)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】表示装置の前面に配設された第1の基板と、この基板と離間して対向する第2の基板と、前記各基板の対向面に形成された透明電極とを備えているタッチパネルであって、表示装置と第1の基板との間又は第2の基板に、少なくとも位相差板と偏光板とが順次積層されているタッチパネル。」

「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討の結果、透明タッチパネルに、位相差板と偏光板とノングレア処理された層とを順次積層すると、前記目的が達成されることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】すなわち、本発明は、表示装置の前面に配設された第1の基板と、この基板と離間して対向する第2の基板と、前記各基板の対向面に形成された透明電極とを備えているタッチパネルであって、表示装置と第1の基板との間又は第2の基板に、少なくとも位相差板と偏光板とが順次積層されているタッチパネルを提供する。」

「【0011】
【作用】このタッチパネルでは、入射した外光は、偏光板により偏光され、位相差板を透過して表示装置の表面で反射する。そして、表示装置の表面で反射した光は、位相差板により、入射光に対して位相が90°ずれる。そのため、位相が90°ずれた反射光は、偏光板を通過せずカットされる。一方、表示装置からの光は、位相がずれた反射光でないため、偏光板を透過する。従って、タッチパネルへの入射光の反射による表示品質の低下を防止できると共に、表示装置からの光を偏光板により偏光でき、コントラスト及び防眩性が高くなる。
【0012】また、タッチパネルの前面がノングレア処理されている場合には、外光の反射が防止される。
【0013】
【実施例】以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の実施例をより詳細に説明する。
【0014】図1は本発明の透明タッチパネルの一例を示す概略断面図であり、抵抗膜方式のタッチパネルが示されている。透明タッチパネルは、互いに離間して対向する固定基板1と可動基板2とを備えており、液晶表示体としての液晶セル9の前面に配置される。この例では、粘着剤10や接着剤により、液晶セル9には前記固定基板1が取付けられている。前記固定基板1及び可動基板2は、表示品質を高めるため、透明な光学的等方性材料で形成されているのが好ましい。このような材料としては、例えば、ガラス、非晶性フィルム、ポリエーテルサルホン、ポリカーボネート、ポリアリレート、一軸延伸ポリエチレンテレフタレートなどのポリマーフィルムなどが挙げられる。なお、フィルムとは、実質的に平らなシートをも含む意味に用いる。固定基板1及び可動基板2は、ガラス/ガラス、ガラス/フィルム、フィルム/ガラス、フィルム/フィルムのいずれの組合せで構成してもよい。
【0015】前記固定基板1と可動基板2との対向面には、それぞれ、透明電極3,4が形成されている。固定基板1の透明電極3はX軸方向に平行に延る電極群で構成され、可動基板2の透明電極4は、前記透明電極3の方向と直交するY軸方向に平行に延る電極群で構成されている。各透明電極3,4を構成する電極群の端部は、それぞれ抵抗体(図示せず)に接続されている。これらの抵抗体には電流が供給される。そのため、押圧による透明電極3,4の接触と、接触位置に対応してデータ入力位置をディジタル式に検出できる。
【0016】透明電極3,4を構成する導電性材料としては、例えば、金パラジウムなどの貴金属や、酸化錫、酸化インジウム、酸化インジウム錫などの金属酸化物、ヨウ化銅などが使用できる。好ましい透明電極3,4は、酸化錫、酸化インジウム、酸化インジウム錫などを用いて形成できる。なお、透明電極3,4は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等の慣用の薄膜形成手段を利用して形成できる。
【0017】前記透明電極3,4の間には、前記固定基板1と可動基板2とを離間させるためのドット状スペーサ5が介在している。
【0018】そして、前記可動基板2には、1/4波長位相差板6、偏光板7およびノングレア処理された透明性フィルム8が順次積層されている。1/4波長位相差板6と偏光板7とノングレア処理された透明性フィルム8とをこの順序に組合せることにより、表面反射が小さく、防眩性及びコントラストを著しく高めることができる。すなわち、前記ノングレア処理された透明性フィルム8により、外部から入射する光の反射を防止できると共に、透明タッチパネルに入射した光は、偏光板7で偏光され、1/4波長位相差板6を透過する。位相差板6を透過した光は、液晶セル9の表面で反射され、前記1/4波長位相差板6により位相が90°ずれるため、偏光板7を透過しない。そのため、反射光による表示品質の低下を防止できる。一方、液晶表示装置からの光は、1/4波長位相差板6、偏光板7およびノングレア処理された透明性フィルム8を順次透過する。その際、偏光板7により液晶表示装置からの光は偏光し、一定の方向へ進行する。従って、外光の反射を防止できると共に、液晶表示装置からの光が、乱反射しながら外方へ至るのを防止でき、防眩性、コントラストを高めることができる。」

「【0021】図1に示すタッチパネルにおいて、前記可動基板と位相差板とは個別に形成することなく、可動基板を位相差板で構成してもよい。位相差板としては1/4波長位相差板を用いるのが好ましい。
【0022】また、位相差板と偏光板は、可動基板上に限らず、液晶セルなどの表示装置と固定基板との間に、外方に向って順次積層してもよい。この場合、固定基板を位相差板で構成してもよい。」

「【0034】
【発明の効果】本発明のタッチパネルは、位相差板および偏光板が順次積層されているので、表面反射が小さく、防眩性及びコントラストが高く、表示精度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の透明タッチパネルの一例を示す概略断面図である。」
【図1】は次のとおり。


これらの記載事項から、刊行物1(甲第3号証)には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
引用発明1:
「液晶表示体としての液晶セル9の前面に粘着剤10により取り付けられるタッチパネルであって、透明な光学的等方性材料から形成されている固定基板1と可動基板2とをドット状スペーサ5を介在させて離間させて備え、固定基板1と可動基板2の対向面に形成された透明電極3、4とを備えているタッチパネルであって、可動基板2に1/4波長位相差板6,偏光板7及びノングレア処理された透明性フィルム8が順次積層されてなるタッチパネル。」

b)刊行物2(甲第4号証)
「【請求項1】画面に画像を表示する表示素子と、
観察者と上記表示素子の画面との間に設けられるレンズと、
上記表示素子の画面からの光を直線偏波に変換する第1の偏光板と、
この第1の偏光板と上記レンズとの間に設けられ、上記第1の偏光板からの直線偏波を円偏波に変換するための第1の1/4波長板と、
上記レンズと上記観察者との間に設けられ、上記円偏波を直線偏波に変換するための第2の1/4波長板とこの第2の1/4波長板と上記観察者との間に設けられ、上記第2の1/4波長板からの直線偏波を通過させるための第2の偏光板とを備える表示装置。」

「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、例えば、カメラ一体型VTRの電子式ビューファインダに用いられる表示装置に関する。」

「【0018】
【作用】上記の構成のこの発明においては、レンズ13と観察者14の間に、図6の例で示したのと同様に、第2の偏光板22と第2の1/4波長板23からなる円偏波変換フィルタが設けられるとともに、レンズ13と表示素子10との間に、第1の1/4波長板21と、偏光板11とからなる円偏波変換フィルタがさらに設けられる構成となっている。
【0019】このため、表示素子10からの光は、第1の1/4波長板21によって円偏波に変換され、その変換された円偏波がレンズ13を通過した後、第2の1/4波長板23によって直線偏波に変換され、この直線偏波が第2の偏光板23をそのまま通過して観察者の目に入る。このため、表示素子10の表示面からの光は減衰することなく、観察者の目に入ることになる。
【0020】一方、観察者側から入射する外光は、第2の1/4波長板23によって円偏波に変換され、レンズ13面で反射されることにより、その円偏波の方向が逆転し、それが再び第2の1/4波長板23に入射することから、図6の例で説明したのと同様にして、この第2の1/4波長板の入射時の偏向軸に対して直交する直線偏波に変換される。このため第2の偏光板22を通過することはできず、この反射光が観察者の目に届くことはない。
【0021】また、レンズ13を通過した円偏波は、第1の1/4波長板21によって直線偏波に変換された後、LCDパネルの画像表示面に到達する。そして、その直線偏波は、反射された後、再び第1の1/4波長板21に入射して、円偏波に変換されるが、その円偏波の方向は入射時と逆転するものとなり、レンズ面での反射の場合と同様にして、第2の1/4波長板によって、その入射時と直交する方向の直線偏波に変換される。したがって、第2の偏光板22を通過することはできず、この反射光も観察者の目に届くことはない。
【0022】
【実施例】以下、この発明による表示装置の一実施例を、前述した液晶ディスプレイを用いた電子式ビューファインダに適用した場合を例にとって、図を参照しながら説明する。図1はこの実施例の原理的構成を示す図である。この図1の実施例においても、図4に説明したLCDパネル10と全く同様に、その後ろ側にバックライト部材を有するとともに、観察者側の面にLCDパネル面からの光を直線偏波に変換するための偏光板11が設けられているが、説明の簡単のため、図1では、偏光板11の面のみを示してある。この例は、前述と同様に、垂直直線偏波が出力光として偏光板11より出射する場合の例である。
【0023】この例の場合においては、レンズ13と、この偏光板11との間に、1/4波長フィルム21が設けられる。この1/4波長フィルム21は、入射する直線偏波を円偏波に変換し、あるいは入射する円偏波を直線偏波に変換する。
【0024】図1では、偏光板11と1/4波長フィルムとは、所定の間隔を離して示したが、実際上は、偏光板11はLCDパネル表示面に貼り付けられており、この偏光板11の上に1/4波長フィルム21が貼り付けられる構成となっている。このように、1/4波長フィルム21が偏光板11に貼り付けられることにより、1/4波長フィルム21と偏光板11との両者が対抗する面は接合面となり、これらの面での表面反射は考えなくてよくなる。
【0025】また、図1に示すように、レンズ13と観察者14との間には、図6の例で示したのと同様の円偏波変換フィルタが設けられる。すなわち、観察者側に偏光板22が設けられると共に、この偏光板22に1/4波長フィルム23が貼り合わされて、円偏波変換フィルタ24が構成される。この場合、1/4波長フィルム23の遅相軸と1/4波長フィルム21の遅相軸とは、互いに90度異なるように設けられる。偏光板22と1/4波長フィルム23とは、前述したように貼り合わされているため、これらの張り合わされる対抗面も同様にして表面反射を生ずることはない。
【0026】そして、特に、この例においては、偏光板22の観察者側の面は、斜線を付して示すように、反射防止膜としてのARコーティング処理が施されている。このARコーティング処理により、観察者の目の近傍から入る外光が、この表面で反射して観察者の目に入ることが少なくなる。
【0027】以上のように構成されているので、LCDパネルの表示面からのLCD光Rtは、偏光板11により垂直直線偏波とされて出力することになる。そして、この偏光板11から出た垂直直線偏波は、1/4波長フィルム21により、左円偏波に変換される。この左円偏波はレンズ13を通過し、1/4波長フィルム23により再び垂直直線偏波に変換される。すなわち、1/4波長フィルム23の遅相軸は、1/4波長フィルム21の遅相軸に対して90度ずれているため、1/4波長フィルム23からの直線偏波は、元のLCDパネル10の表面の偏光板11による垂直偏波と同じ偏波軸を持つ直線偏波とされるものである。
【0028】そして、この垂直直線偏波が、偏光板22を通って観察者14の目に入る。この場合には、1/4波長フィルム23によって、直線偏波とされた後、偏光板22に入るため、LCDパネル面からの光Rtが減衰することなく、観察者の目に入ることになる。つまり、観察者から見てLCDパネル表示面の輝度が低下することはない。
【0029】一方、観察者側から入る外光Rfは、偏光板22によって垂直偏波のみが透過する。そして、この外光の垂直偏波は、1/4波長フィルム23によって右円偏波に変換され、レンズ13の表面で反射されることにより、左円偏波に変換される。そして、この左円偏波が再び1/4波長フィルム23を通ることにより、水平直線偏波に変換される。この水平直線偏波は、偏光板22を通過することはできず、観察者の目には到達しない。」

「【0032】以上のようにして、LCDパネルの表示面からの光は、減衰することなく観察者の目に到達し、かつ、外光は観察者の目に反射光として到達しないようにされる。しかもこの実施例の場合には、偏光板22の観察者との対面側は、ARコーティングが施されているため、この面での反射もほとんどない。よって、この実施例においては、より有効に外光反射を防止できる構成となっている。」
【図1】は次のとおり。


これらの記載事項から、刊行物2(甲第4号証)には次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「画面に画像を表示する表示素子と、観察者と表示装置の画面との間に設けられるレンズを有する観視型の表示装置において、表示素子の画面からの光を直線偏波に変換する第1の偏光板と、第1の偏光板とレンズとの間に設けられた第1の1/4波長板と、レンズと観察者との間に設けられた第2の1/4波長板と、第2の1/4波長板と観察者の間に設けられる第2の偏光板を備えていることにより、表示素子からの光を減衰させずに観察者の目に入れることができ、かつ、観察者型から入射する外光のレンズ面による反射光を観察者に届かないようにする技術。」

c)刊行物3(甲第5号証)
「【0007】この発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、視野角を大きくしても、映像の周辺部が見えにくくなることなく、映像を全体に亘って良好に観察できるよう適切に構成した表示装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、この発明の表示装置は、直線偏光を射出する表示手段と、この表示手段から順に配置した第1の1/4波長板、第1の半透明半反射部材、第2の1/4波長板、第2の半透明半反射部材および前記表示手段における直線偏光方向と同方向の偏光を透過する偏光板とを有し、前記第1および第2の1/4波長板の結晶軸を、前記表示手段における直線偏光方向に対して45°傾斜させたことを特徴とするものである。
【0009】
【作用】上記構成において、表示手段からの直線偏光は、第1の1/4波長板で右回りの円偏光に変換されて第1の半透明半反射部材を透過する。この第1の半透明半反射部材を透過した右回りの円偏光は、第2の1/4波長板で表示手段における直線偏光方向と直交する方向の直線偏光に変換された後、第2の半透明半反射部材で反射されて、再び第2の1/4波長板に入射することにより左回りの円偏光に変換され、その後、第1の半透明半反射部材で反射されて三たび第2の1/4波長板に入射することにより、表示手段における直線偏光方向と同一方向の直線偏光に変換されて、第2の半透明半反射部材および偏光板を経て射出されることになる。
【0010】
【実施例】図1は、この発明の一実施例を示すものである。この実施例は、液晶パネル11に表示される映像を拡大して観察し得るようにしたもので、観察者に対して、液晶パネル11の後方には、バックライト12を配置して表示手段を構成し、その液晶パネル11の前方には、第1の1/4波長板13、第1の半透明半反射部材としての凹面ハーフミラー14、第2の1/4波長板15、第2の半透明半反射部材としての平面ハーフミラー16および偏光板17を順次配置する。なお、液晶パネル11には、その後面にy方向の透過軸を有する偏光板11aが設けられ、前面にはY方向と直交するx方向の透過軸を有する偏光板11bが設けられている。ここで、第1,第2の1/4波長板13,15は、それらの結晶軸を、液晶パネル11の前面に設けられている偏光板11bの透過軸(x方向)に対して正または負方向の同一方向に45°傾斜させて配置し、偏光板17は、その透過軸をx方向と平行な方向に配置する。
【0011】この実施例において、バックライト12により液晶パネル11から出射するx方向の直線偏光は、第1の1/4波長板13で右回りの円偏光に変換されて凹面ハーフミラー14を透過し、第2の1/4波長板15でx方向と直交するy方向の直線偏光に変換される。このy方向の直線偏光は、平面ハーフミラー16で反射されて再び第2の1/4波長板15に入射して左回りの円偏光に変換された後、凹面ハーフミラー14で反射されて三たび第2の1/4波長板15に入射し、ここでx方向の直線偏光に変換されて、平面ハーフミラー16および偏光板17を経て出射され、これにより液晶パネル11に表示される映像の拡大像が観察者の眼球18に導かれる。
【0012】なお、液晶パネル11からのx方向の直線偏光のうち、第1の1/4波長板13、凹面ハーフミラー14、第2の1/4波長板15および平面ハーフミラー16を経て偏光板17に入射する光は、x方向と直交するy方向の直線偏光となるので、偏光板17で吸収されて出射されない。
【0013】この実施例によれば、液晶パネル11と凹面ハーフミラー14との間に第1の1/4波長板13を配置したので、視野角を大きくしても、第1の1/4波長板13に対しては、液晶パネル11からの主光線がほぼ垂直に入射することになる。したがって、第1の1/4波長板13における入射角依存性の影響を受けることがないので、液晶パネル11に表示される映像の拡大像を、その周辺部が見えにくくなることなく、全体に亘って良好に観察することができる。
【0014】また、平面ハーフミラー16よりも液晶パネル11側に凹面ハーフミラー14を配置したので、液晶パネル11から偏光板17までの距離を短くして、映像を拡大表示することができ、装置を小型化することができる。したがって、顔面または頭部装着型のディスプレイに適用した場合には、偏光板17から観察者の眼球18までの距離をかせぐことができるので、眼鏡をかけた観察者の場合でも支障なく使用することができる。
【0015】この発明の他の実施例では、図1に示す構成において、第2の半透明半反射部材としての平面ハーフミラー16を、凹面ハーフミラー14と同じ向きの凹面ハーフミラーをもって構成する。このように構成すれば、像面彎曲を有効に抑えることができるので、収差のない拡大画像を観察することが可能となる。」
【図1】は次のとおり。


これらの記載事項から、刊行物3(甲第5号証)には次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「後方にバックライト12を配置した液晶パネル11の前方に、第1の1/4波長板13、第1の半透明半反射部材としての凹面ハーフミラー14、第2の1/4波長板15、第2の半透明半反射部材としての平面ハーフミラー16及び偏光板17を順次配置した顔面または頭部装着型のディスプレイであって、液晶パネル11と凹面ハーフミラー14との間に第1の1/4波長板13を設けたことにより、視野角を大きくしても、第1の1/4波長板13に対しては液晶パネル11からの主光線がほぼ垂直に入射させることができ、第1の1/4波長板13における入射角依存性の影響を受けることなく、液晶パネル11に表示される映像の拡大像を、周辺部が見えにくくなることなく、全体に亘って良好に観察することができる技術。」

d)刊行物4(甲第6号証)
「特許請求の範囲
二枚の基板間に液晶を封入してなる液晶セルと、前記液晶セルの表・裏面に設けた偏光子と、検光子とから少なくとも構成され、前記液晶に印加する電圧を制御し画像を表示する液晶表示装置において、前記偏光子と前記液晶セルと前記検光子を順次透過して出射する直線偏光光が円偏光光になるように前記検光子に第1の1/4波長板を貼り合わせ、透明基板の一方の面に反射防止膜を施し、もう一方の面に少なくとも偏光板と第2の1/4波長板とを順次貼り合わせてなる反射防止フィルタを、前記第1の1/4波長板と前記第2の1/4波長板とが対向するように配置したことを特徴とする液晶表示装置。」
(第1頁左下欄第4行?末行)

「〔発明が解決しようとする課題〕
しかし、以上のような従来の反射防止ファルタを従来の液晶表示装置に使用する場合、以下の問題点が生じる。従来の液晶表示装置からの出射光は、検光子を透過した直線偏光光であり従来の反射防止フィルタに入射すると、直線偏光光の偏光方向と1/4波長板の光学軸とのなす角により1/4波長板を透過する光の偏光状態は変化し、なす角が0°または90°の時には直線偏光、45°の時には円偏光、その他の時には楕円偏光となる。この光が反射防止フィルタの偏光板を透過する際、直線偏光光の場合、その偏光方向と偏光板とのなす角が45°となるので光量は半分に低下する。円偏光光の場合も光量は半分に低下し、さらに楕円偏光光の場合光量低下と透過光の色相変化も伴う。以上のように本質的に明るくない従来の液晶表示装置の表示画面がさらに暗くなり実用上問題となる。
他の反射防止フィルタの一例として、透明基板の表面に細かい溝を周期的に形成し、特に溝の断面形状を鋸歯状に加工することにより表面反射光を観察者の目の方向以外に反射させるフィルタがある。しかし従来の液晶表示装置の画素はマトリクス状に形成されているので、反射防止フィルタの溝の周期と、画素の周期との不一致、及び方向のずれからモアレ縞が生じ、表面画面が見ずらいものとなってしまう。
本発明の目的は、表示画面の明るさ並びに見やすさを極端に低下させることなく表面反射を防止するフィルタを備えた液晶表示装置を提供することにある。」
(第2頁左下欄第19行?第3頁左上欄第9行)

「〔課題を解決するための手段〕
上記目的を達成するために、本発明の液晶表示装置は、二枚の基板間に液晶を封入してなる液晶セルと、液晶セルの表面に設けた偏光子と、液晶セルの裏面に設けた検光子とから少なくとも構成され、前記液晶に印加する電圧を制御し画像を表示する液晶表示装置において、前記偏光子と前記液晶セルと前記検光子を透過して出射する直線偏光光が円偏光光になるように前記検光子に第1の1/4波長板を貼り合わせ、透明基板の一方の面に反射防止膜を施し、もう一方の面に少なくとも偏光板と第2の1/4波長板とを順次貼り合わせてなる反射防止フィルタを、前記第1の1/4波長板と前記第2の1/4波長板とが対向するように配置したことを特徴としている。
〔作用〕
本発明の上記構成によれば、一方に反射防止膜を施し、もう一方に少なくとも偏光板と1/4波長板とを透明基板に順次貼り合せてなる反射防止フィルタにより従来と同様の反射防止効果が得られ、かつ検光子に貼り合せた1/4波長板により表示画面の出射光は円偏光光となり、反射防止フィルタの1/4波長板で偏光板を透過する直線偏光光となるので、表示画面の明るさ、並びに見やすさを極端に低下させることのない液晶表示装置が得られる。
〔実施例〕
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。第1図は本発明の実施例を示す液晶表示装置の断面図である。
この液晶表示装置は、光源1と反射板2と拡散板3とからなる照明部12と、透明電極膜6,8をそれぞれ施した二枚の基板5,9間に液晶7を封入してなる液晶セル13と、液晶セル13の表裏にそれぞれ配置した偏光子4と検光子10と、検光子10の表面に配置した1/4波長板11と、液晶7に印加する電圧を制御する液晶駆動回路14と、反射防止膜18を施した透明基板17に偏光板16と1/4波長板15とを順次貼り合せた反射防止フィルタ19とから構成される。
以上の構成において照明部12,偏光子4,液晶セル13,検光子10及び液晶駆動回路14は従来の液晶表示装置と同様であり、液晶に印加する電圧を制御することにより画像表面が行われる。ここで、基板5,9はガラス基板を用いた。偏光子4及び検光子10はポリビニルアルコールフィルムに沃素等を配向させて吸着させた偏光膜を用い、それぞれ液晶セル13の表裏に接着した。液晶7に印加する電圧を制御し画像を表示するための駆動方式は単純マトリクス方式を用いたが、各画素ごとにスイッチングトランジスタまたはスイッチングダイオードを付けたアクティブマトリクス方式でもかまわない。液晶7はTN液晶を用いたが、強誘電性液晶、複屈折制御型液晶等も用いることができる。表示画像にはテレビ表示やパソコンのキャラクタ表示、グラフィック表示その他時計等の情報表示画像が用いられる。また、検光子10に貼り合せた1/4波長板11は、ポリビニルアルコールフィルタを延伸し複屈折性を持たせたものを用い、特に検光子10と1/4波長板11とは屈折率の整合をとって接着してあり、かつ、検光子10の偏光軸と1/4波長板11の光学軸とのなす角は45°である。
反射防止フィルタ19は誘電体多層膜の干渉効果により反射光を生じさせない反射防止膜18をガラス基板である透明基板17の一方の面に施し、もう一方の面に前述の偏光膜である偏光板16と、1/4波長板15とを順次貼り合せたものを用いた。
以上の液晶表示装置に外光23が入射した場合、前述した反射防止フィルタ18の作用により、検光子10に貼り合せた1/4波長板11の表面24で生じる外光23の反射光25は偏光板16で吸収され液晶表示装置から出射しない。-方、照明光20が偏光子4,液晶セル13,検光子10,1/4波長板11を透過して得られる表示画面の出射光21は検光子10を透過することにより直線偏光光に、さらに1/4波長板11を透過することにより円偏光光になっている。ここで1/4波長板11の光学軸を、反射光25の円偏光と出射光21の円偏光の回転方向が逆になるように設定すると、出射光21が反射防止フィルタ19の1/4波長板を透過して得られる直線偏光光の偏光方向は、偏光板16の偏光軸と平行となる。従って、表示画面の出射光21は反射防止フィルタ19で吸収されずに透過することができ、出射光22とはるので(当審注:「なるので」の誤記)観察者は明るい表示画面を見ることが可能になる。」
(第3頁左上欄第10行?第4頁左上欄第19行)
第1図は次のとおり。


これらの記載事項から、刊行物4(甲第6号証)には次の技術的事項が記載されている。
「液晶セル13と、液晶セル13の裏面に設けた偏光子4と、液晶セル13の表面に設けた検光子10とから構成された液晶表示装置において、偏光子4と、液晶セル13と、検光子10を順次透過して出射する直線偏光光が円偏光光になるように、検光子10に第1の1/4波長板11を貼り合わせ、透明基板17の一方の面に反射防止膜18を施し、もう一方の面に偏光板16と第2の1/4波長板15を順次貼り合わせてなる反射防止フィルタ19を、第1の1/4波長板11と第2の1/4波長板15とが対向するように配置した液晶表示装置であって、液晶表示装置に入射した外光23が、第1の1/4波長板11の表面24で生じる反射光25は、反射防止フィルタ18が有する偏光板16で吸収されて液晶表示装置から出射しないようにし、液晶表示装置の表示画面の出射光21は、反射防止フィルタ19で吸収されずに透過させて、観察者が明るい表示画面を見ることができる技術。」

e)刊行物5(甲第7号証)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】液晶パネルの表面に対向して配設された光学的に透明な保護板を有する液晶表示装置において、前記保護板の前記液晶パネルに対向した側の面に順次直線偏光板と1/4位相板とを設け、前記液晶パネルの表面に1/4位相板を設けたことを特徴とする液晶表示装置。」

「【0012】しかしながら、表示パネルが液晶パネル14である場合は、液晶パネル14の表面から出る光は、液晶パネル14表面の偏光板17により直線偏光された後、1/4位相差板16を通過するので、液晶パネル14表面の偏光板17がy軸またはz軸と平行な場合を除いて、1/4位相差板16を通過後の光は、x軸方向の振動に対してy軸方向の振動が1/4波長分ずれた、円偏波、楕円偏波された光となる。これに対して偏光板17は、図6(2)に示すように、光の振動面がy軸に対して45°傾いた光以外の透過率は通常45%と非常に低い。したがって液晶パネル14の表面から出た光は、偏光板17で大きく減衰するため表示光は大変暗いものとなる。例えば、図5に示した偏光板と1/4位相差板とを一枚づつ組合せた円偏光板16による反射低減の方法では表示光が60%近く遮断されるという欠点があった。また、従来技術のように円偏光板上に接着されたガラス基板の表面をエッチング加工したりマルチコーティング加工を施したり、更にライトコントロールフィルムを接着したりすることにより生産工程が複雑で高価となる問題があり、生産が容易で、液晶パネルの表示光を減衰させることなく反射を低減させる方法は無かった。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は、上述の課題を解決するために、液晶パネルの表面に対向して配設された光学的に透明な保護板を有する液晶表示装置において、前記保護板の前記液晶パネルに対向した側の面に順次直線偏光板と1/4位相板とを設け、前記液晶パネルの表面に1/4位相板を設けたものである。
【0014】
【作用】以上のように構成された液晶表示装置は、保護板裏面と液晶パネル面での光の反射が保護板裏面の円偏光板により遮光される外来光の反射(映り込み)を低減する一方、液晶パネルからの表示光は、液晶パネルの表面に形成された円偏光板により円偏光され、保護板側の円偏光板とで偏光面を偏光板軸と一致させるので、減衰なく通過する。
【0015】
【実施例】以下、本発明の液晶表示装置について、図に基づいて説明する。図1は、本発明における液晶表示装置の一実施例の構成を説明するための断面図で、図中、1は保護板、2,5は直線偏光板、3,4は1/4位相差板、6は液晶セル、7は液晶パネルである。
【0016】図1において、液晶セル6は、例えば、透明電極を有するガラス基板間にツイストネマチック液晶を封入したツイストネマッチク液晶セルで、図示しない直線偏光板により偏光された光が電極(図示せず)に印加された電圧に従って直線偏光板5により遮断又は遮光する。直線偏光板2,5は、ポリビニルアルマールの膜を加熱伸長して鎖状分子を一定方向に配列させて沃素を均一に吸着させたものをセルロース系フィルムに挟んだ板状体で、1/4位相差板は、ポリカーボネート等の高分子樹脂を1軸又は2軸に引延ばしたものが使用される。また、保護板1は透明なアクリル板等が用いられる。
【0017】上述の直線偏光板2は、1/4位相差板3と協労して円偏光板を形成し、該直線偏光板2が保護板1に接着される。一方、液晶パネル7の出光側の直線偏光板5の上部面には1/4位相差板4が接着される。以上の如く構成した液晶表示パネル7に対する外来光の反射光および表示光の動作を図2に基いて説明する。
【0018】図2は、本発明の液晶表示装置において、外来光が保護板側から入射した場合における各素子を通過後の光波のモデルを説明するための図である。図2においては、互いに直交する3次元の座標軸xyzでx軸方向に光が進むものとして波形を描いてある。偏光板2は通過する光の振動面をy軸に対して45°、偏光板5はy軸に対して135°傾けてある。つまり偏光板2と偏光板5の吸収軸は直交している。1/4位相差板3,4では、y軸方向の光波に対してz軸方向の光波の位相が1/4遅れるような角度にしてある。
【0019】まず、外来光の反射光について説明する。今、外光が偏光板2を通過するとその光波aはy軸に対して45°傾いた偏波面の振動になる(図2(2))。更に位相差板3を通過するとその光波bはz軸方向は1/4位相遅れた右旋回する円偏光振動となる(図2(3))。このような振動の円偏光した光波が位相差板4の裏面、または偏光板5の表面で反射すると、その光波cの波形は反転した位相の左旋回する円偏光となる(図2(4))。この反射光が再度1/4位相差板4を通過すると光波dの波形は、z軸方向の振動が更に1/4位相、y軸の振動に対して合計1/2位相遅れることになる(図2(5))。この光波は直線偏光され振動面は偏光板2の通過軸と直交するので偏光板2を通過することができない。つまり反射光は偏光板2で吸収され外部に出ていくことはない。
【0020】次に、液晶パネルの表示光について述べる。また、液晶パネルの表示光、つまり偏光板5を通過した光波eはy軸に対して135°傾いた振動面の振動となる(図2(6))。このような振動の光波が位相差板3,4を通過すると、z軸方向の振動がy軸方向の振動に対して1/4位相ずれ、位相差板3と4とで合計1/2位相遅れる。この光の振動面は、図2(8)に示したように右旋回する円偏光となる(図2(7))。更に、位相差板4を通過すると1/4位相ずれ、2の偏光板の通過軸に一致するので、減衰すること無く外部に出ていく。
【0021】
【発明の効果】上述の如く、本発明による液晶表示装置によると、液晶パネルからの表示光を減衰させること無く、効率良く表示することができ、外来光が保護板裏側と液晶パネル表面から反射する外来反射を無くするこができるので、全体の反射光量を減少させ、外来光が強い場合でも表示画面が明るく外来光反射(映り込み)の少ない、見易い画面とすることができる。しかも、1/4位相差板と直線偏光板とで構成できるので生産が容易で安価である。」
【図1】は次のとおり。

【図2】は次のとおり。


これらの記載事項から、刊行物5(甲第7号証)には次の技術的事項が記載されている。
「液晶セル6と、液晶セル6の表面に配置された直線偏光板5とからなる液晶パネル7の表面に対向して配設された光学的に透明な保護板1を有する液晶表示装置において、保護板1の液晶パネル7に対向した側の面に順次直線偏光板2と1/4位相板3を設け、液晶パネル7の表面に1/4位相板4を設けることにより、外来光の反射光が直線偏光板2で吸収されて外部に出ていくことがなく、液晶パネル7の表示光は直線偏光板2の通過軸と一致させることによって減衰することなく外部に出ていくようにすることができるため、表示光を減衰させること無く、かつ、外光反射を防止することができる技術。」

(2)刊行物1(甲第2号証)と刊行物3(甲第4号証)、刊行物4(甲第5号証)とにより本件特許発明の進歩性を否定する無効理由2についての当審の判断について

本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、
引用発明1における
「液晶表示体としての液晶セル9の前面に粘着剤10により取り付けられるタッチパネル」、
「透明な光学的等方性材料で形成されている固定基板1と可動基板2とをドット状スペーサ5を介在させて離間させて備え、固定基板1と可動基板2の対向面に形成された透明電極3、4とを備えている」構成、
「可動基板2に」「積層」された「1/4波長位相差板6」、
「偏光板7」は、それぞれ、
本件特許発明1における
「液晶表示装置に取り付けられる光学的フィルター」、
「偏光性がない又は偏光性が小さい部材の透明タッチパネル」であって「(前記)透明タッチパネルは、表面にそれぞれ透明導電膜を形成した2枚の透明基板がそれぞれの透明電極膜を互いに対向させるように配置され」ている構成、
「(前記)2枚の透明基板のうちの(前記)液晶表示装置側に配置される一方の透明基板」に対する「他方の透明基板における(前記)透明導電膜形成面と反対側の表面に」取り付けられた「透明タッチパネルに実質的に密着させて1/4波長板である」「第2の位相差板」、
「第2の直線偏光板」、
に相当する。

してみると、両者は、
「液晶表示装置に取り付けられる光学的フィルターであって、
前記液晶表示装置側から順に、
偏光性がない又は偏光性が小さい部材の透明タッチパネルと、
該透明タッチパネルに実質的に密着させて1/4波長板である第2の位相差板と、第2の直線偏光板と、が配置されており、
前記透明タッチパネルは、表面にそれぞれ透明導電膜を形成した2枚の透明基板がそれぞれの透明導電膜を互いに対向させるように配置されたものであり、
前記2枚の透明基板のうちの前記液晶表示装置側に配置される方の透明基板に対して、もう他方の透明基板における前記透明導電膜形成面と反対側の表面に前記第2の位相差板及び第2の直線偏光板が表面側から順に取り付けられている光学的フィルター。」
で一致し、以下の点で相違している。

[相違点a]
本件特許発明1においては、(前記)2枚の透明基板のうちの(前記)液晶表示装置側に配置される一方の透明基板における(前記)透明導電膜形成面と反対側の表面に(前記)第1の位相差板が取り付けられ、液晶表示装置と(前記)第1の位相差板との間に(前記)第1の直線偏光板が設けられる構成を有しているのに対して、引用発明1においては、第1の直線偏光板と第1の位相差板はない点。

[相違点a]を、刊行物2(甲第4号証)、刊行物3(甲第5号証)を使って検討する。
請求人は、刊行物2(甲第4号証)及び刊行物3(甲第5号証)に記載されているように、液晶表示装置と観察者の間に配置された光学部材(刊行物2においてはレンズ、刊行物3においては凹面ハーフミラー14)を直線偏光板と1/4波長板の組合せからなる円偏光板で挟む技術は周知技術であり、このような円偏光板で光学部材の両側を挟むように配置することにより、液晶表示装置からの光が減衰することなく観察者に届き、観察者側から入射する外光の反射光を観察者に届かなくすることができるという効果は、刊行物2(甲第4号証)にも記載されているように当業者であれば容易に理解することができ、そして、このような光学部材に対して両側に円偏光板を配置して挟むという構成は、刊行物2(甲第4号証)のレンズや、刊行物3(甲第5号証)の凹面ハーフミラー14に限定されるものではないから、引用発明1のタッチパネルにも適用することができるものであると主張している(審判請求書第15?17頁 「第4 3」「第4 4」、及び、審判請求書第25?26頁 「第6 1(3)ア」)。

請求人は、引用発明1に刊行物2(甲第4号証)・刊行物3(甲第5号証)の技術を適用するのに阻害要因がない理由として、刊行物11(甲第13号証)にも光学部品を円偏光板で挟んだ液晶表示装置が記載されているから、このように光学部品を円偏光板で挟む構成を有する刊行物2(甲第4号証)・刊行物3(甲第5号証)の技術の適用範囲は、「眼を装置に近接させて画面を覗き込むタイプの装置」に限らない、と主張している(口頭審理陳述要領書 第16?21頁 「第2 1」)。
更に、請求人は、引用発明1に刊行物11(甲第13号証)の技術を適用することにより、本件特許発明1の進歩性を否定できる、とも主張している。(同じく口頭審理陳述要領書 第16?21頁 「第2 1」)。

これに対して、被請求人は平成23年6月17日付け審判事件答弁書第15頁第20行でも説明されているように、被請求人(本件特許出願人)は平成17年10月20日付けで提出した審判請求理由補充書にて、この点について論駁している。

両者の主張を踏まえて当審での判断を記載する。
刊行物2(甲第4号証)はビデオカメラのビューファインダに関するものであり(甲第4号証【0001】)、刊行物3(甲第5号証)は顔面又は頭部装着型のディスプレイに関するものであって(甲第5号証【0014】)、いずれも眼を装置に近接させて画面を覗き込むタイプの装置である。
したがって、刊行物2(甲第4号証)、刊行物3(甲第5号証)に記載されている具体的な装置は、共に、画面から眼までの距離が短く、外光の影響も比較的少ないので、画面から眼に達する光の量が少々少なくても視認性を確保できると考えられる一方で、レンズや凹面ミラー等の曲面によるさまざまな方向への反射による視認性悪化を課題として有しており、当該課題の解決のためには、画面との間に、透過光の減衰があっても上記反射光の抑制をする光学素子を配置することが、このタイプの装置の場合には視認性を向上させることができるものであったと考えられる。
これに対して本件特許発明のような透明タッチパネルでは、光吸収性が高いものであるうえに、所謂眼を装置に近接させて覗き込むタイプとはむしろ逆であって、眼は画面から比較的離れた位置にあり、したがって、眼と画面(タッチパネル)との間はほぼ全面的に外光に晒されるものであって、刊行物2(甲第4号証)のビューファインダや、刊行物3(甲第5号証)の頭部装着型ディスプレイとは、その間に配置される光学素子の色相や視認度に与える作用が著しく異なっている。

その上で、更に、本件特許発明では、このような配置により、明るさ(Y値)のほか、色相、色差、色度、視野角についても向上をし、視認性を著しく向上させるという特有の効果を有するものである。

刊行物2(甲第4号証)、刊行物3(甲第5号証)と同様に光学部品を円偏光板で挟む構成を開示する刊行物11(甲第13号証)が存在するからといって、刊行物2(甲第4号証)、刊行物3(甲第5号証)が「眼を装置に近接させて画面を覗き込むタイプの装置」について記載された文献であり、そのような装置における課題の解決を想定していることに変わりはないから、刊行物11(甲第13号証)の存在によって、引用発明1に対し、刊行物2(甲第4号証)、刊行物3(甲第5号証)の技術を適用することに対する想到困難性が減殺されることはない。

したがって、引用発明1に刊行物2(甲第4号証)、刊行物3(甲第5号証)の技術を適用して、本件特許発明を構成することは、当業者が容易に想起し得たものではない。
なお、引用発明1に刊行物11(甲第13号証)の技術を適用して進歩性を否定することは、当初の請求の要旨を変更するものであるので、この点における請求人の主張は採用しない。

(3)刊行物1(甲第2号証)と刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)とにより進歩性を否定する無効理由2についての当審の判断について

本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、両者は前記(2)で記載したとおりの一致点と[相違点a]を有する。

[相違点a]について、刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)を使って検討する。

請求人は、
引用発明1における「液晶セル9」を、
刊行物4(甲第6号証)の「液晶表示装置(液晶セル13)」(当審注:これはつまり、液晶セル13の観察者側に検光子10と第1の1/4波長板11が積層された液晶表示装置のことを意味している。)や、
刊行物5(甲第7号証)の「液晶表示装置(液晶パネル7)」(当審注:これはつまり、液晶セル6の観察者側に直線偏光板5と1/4位相板4が積層された液晶表示装置のことを意味している)と取り替えることによって、

あるいは、引用発明1における「タッチパネル」(当審注:これはつまり、タッチパネルの観察者側に位相差板7と直線偏光板6とからなる円偏光板8を備えたタッチパネルである)、を、
刊行物4(甲第6号証)の「液晶表示装置(液晶セル13)」(当審注:前記したとおり、液晶セル13の観察者側に検光子10と第1の1/4波長板11が積層された液晶表示装置)や、
刊行物5(甲第7号証)の「液晶表示装置(液晶パネル7)」(当審注:前記したとおり、液晶セル6の観察者側に直線偏光板5と1/4位相板4が積層された液晶表示装置)に、取り付ければ、

本件特許発明を構成することができるとし、このように想起することは当業者にとって容易であると主張している(審判請求書第26?27頁 「第6 1(3)イ」)。

そして、このように、刊行物1(甲第3号証)と、刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)にそれぞれ記載されているタッチパネル、液晶表示装置を組み替えることが容易に想起し得るとする根拠は、引用発明1と、刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)に記載の発明が有する課題の共通性を挙げている(口頭審理陳述要領書第21?25頁 「第2 2(1)」、及び、口頭審理陳述要領書第25頁「第2 2(2)」)。

しかしながら、引用発明1の「液晶セル9」を、刊行物4(甲第6号証)の「液晶表示装置(液晶セル13)」や刊行物5(甲第7号証)の「液晶表示装置(液晶パネル)」と取り替えるか、

あるいは、引用発明1の「タッチパネル」を、刊行物4(甲第6号証)の「液晶表示装置(液晶セル13)」や刊行物5(甲第7号証)の「液晶表示装置(液晶パネル)」に取り付けようとすることについて、

刊行物1(甲第3号証)、刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)には、その契機となる記載はなく、そのように組み替えるのがよいということを示唆する記載もなく、また当該技術分野において、この組み替えをしなくてはならない必然性もないから、
本件特許発明1を構成するべく、それぞれがばらばらに記載されている刊行物1(甲第3号証)、刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)のタッチパネルと液晶表示装置を都合良く組み合わせることは、当業者であっても困難である。

より詳細に検討すれば、刊行物1(甲第3号証)はタッチパネルの外面(観察者側)に付与された円偏光板により外光反射をカットする技術であり、刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)は、液晶表示装置の表面に円偏光板からなる反射防止フィルタを配置した時に、表示光がその円偏光板により減衰することを抑制するために、液晶表示装置表面に反射防止フィルタの円偏光板と軸合わせした1/4波長板を設けておくものであるから、刊行物1(甲第3号証)と刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)は、円偏光により外光反射を防止しようとする共通の技術的思想を持っているとはいえる。

しかしながら、引用発明1のタッチパネル付き液晶表示装置に、刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)記載の技術的事項を採用して更に表示光の減衰を抑制しようと試みれば、タッチパネル下面の液晶表示装置側に、1/4波長板を追加で設けておくことは想起し得るかもしれないが、タッチパネルと液晶表示装置の間に、1/4波長板と直線偏光板からなる円偏光板を設けておいて、タッチパネルの液晶表示装置側界面の内部反射光を抑制するという構成には、到達し得ない。

逆に、刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)の液晶表示装置から、反射防止フィルタ19、反射防止板を取り外して、引用発明1のタッチパネルを搭載しようと試みた場合には、本件特許発明とほぼ同一の構成が偶然得られるが、刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)から反射防止フィルタ19,反射防止板を取り外して、刊行物1(甲第3号証)のタッチパネルを搭載しようとする契機乃至示唆となる記載は刊行物1(甲第3号証)、刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)のいずれにも見られない。

また、刊行物1(甲第3号証)、刊行物4(甲第6号証),刊行物5(甲第7号証)が有している各々の課題は、より具体的に見ると、
刊行物1(甲第3号証)ではタッチパネル表面の外部反射の抑制であり、
刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)では円偏光板からなる反射防止フィルタ(板)を設けたときの表示光の減衰を抑制することであるから、
請求人の主張する刊行物1(甲第3号証)と、刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)の課題の共通性は、より具体的レベルで考察すれば、決して共通とはいえない。

したがって、引用発明1に刊行物4(甲第6号証)、刊行物5(甲第7号証)の技術を適用して、本件特許発明1を構成することは、当業者が容易に想起し得たものではない。

(3)本件特許発明1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1は、刊行物1?5(甲第3?7号証)、刊行物11(甲第13号証)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定には違反せず、特許法第123条第1項第2号に該当しないので無効とすべきものではない。

(4)本件特許発明2?6について
本件特許発明2?6は、本件特許発明1の請求項1の従属項に係る発明であり、本件特許発明1の構成を全て備えているから、刊行物1?8(甲第3?10号証)、刊行物11(甲第13号証)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定には違反しない。よって、本件特許発明2?6は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものではない。

4.特許法第36条第4項並びに同条第6項第1号及び第2号(無効理由3)について
(1)無効理由3-1について
本件特許請求の範囲の請求項1?6と、本件特許明細書の発明の詳細な説明中に記載された文言である「請求項1?14」の番号が合致しない箇所があったとしても、そのことが、当業者が発明を実施できないほどの記載不備であるとは認められないから、特許法第36条第4項に違反せず、また、特許請求の範囲を不明りょうにするものであるとも認められないから、特許法第36条第6項第2号には違反しない。

(2)無効理由3-2について
補正により、本件特許発明1?6において、第1の直線偏光板が必須の構成となった後においても、なお、本件特許明細書に、実施例として、第1の直線偏光板を有さない例を削除せずに残すことは、望ましいことではないが、これにより、本件特許発明1?6の技術上の意義が理解できなくなることはなく、特許法第36条第4項の違反ではない。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明【0091】は、出願当初の「円偏光+位相差方式」からなる光学的フィルターの機構が、透明タッチパネル以外の、防塵ケースの表示窓や、表示装置の保護フィルター等にも適用できることを技術的に説明しているだけであり、しかも本件特許明細書の特許請求の範囲は、透明タッチパネルを含む光学フィルターである構成が明確に定義されて記載されているのであるから、【0091】の記載内容によって、特許請求の範囲が不明りょうとはならず、特許法第36条第6項第2号には違反しない。

(3)無効理由3-3について
本件特許請求の範囲は、液晶表示装置と第1の1/4波長板の間に第1の直線偏光板があればよいことを示しているに過ぎないのであるから、特許請求の範囲として不明瞭ではなく、特許法第36条第6項第2号には違反しない。
また、「液晶表示装置自体が有する偏光板」と「第1の直線偏光板」の関係性については、本件特許明細書の開示内容を当業者が解釈すれば、少なくとも1枚の偏光板があれば機能することが分かり、かつ、液晶表示装置自体が有する内蔵偏光板と、それに追加して、もう1枚余分に直線偏光板があって、合計で2枚以上あっても機能し得ることも当業者であれば理解できるから、特許法第36条第4項には違反しない。

(4)まとめ
本件の特許請求の範囲、及び、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項、同条第6項第1号、第2号には違反しないから、特許法第123条第1項第4号に該当せず無効とすべきものではない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許発明1?3、5?6は、本件先願(甲第2号証)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者は当該先願の発明者と同一ではなく、また、本件特許出願の出願時点において両出願の出願人も同一ではないため、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

本件特許発明1?6は、刊行物1?8(甲第3?10号証)、刊行物11(甲第13号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項には違反せず、特許法第123条第1項第2号に該当しない。

本件特許発明1?6は、特許法第36条第4項、同条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしており、特許法第123条第1項第4号に該当しない。

したがって、本件特許発明1?3、5?6は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであり、本件特許発明4は無効とすべき理由はない。

審判に関する費用は、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第64条の規定により、請求人がその6分の1を、被請求人がその6分の5を負担すべきものとする。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-16 
結審通知日 2011-12-20 
審決日 2012-01-05 
出願番号 特願平9-307507
審決分類 P 1 113・ 161- ZC (G02B)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 吉野 公夫  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 磯貝 香苗
木村 史郎
登録日 2006-09-15 
登録番号 特許第3854392号(P3854392)
発明の名称 光学的フィルター  
代理人 清野 仁  
代理人 奥山 知洋  
代理人 阿仁屋 節雄  

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