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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1266781
審判番号 不服2011-11303  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-30 
確定日 2012-11-29 
事件の表示 特願2007-306438「通信システムにおける通信データのビット誤り率を推定するための装置およびその関連方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月19日出願公開、特開2008-141752〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年11月27日(パリ条約による優先権主張2006年11月30日 欧州特許庁)の出願であって、平成23年1月27日に拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年5月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年5月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の平成22年11月11日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「【請求項1】
受信器(32)のための装置(64)であって、
該受信器(32)は、デジタルデータの系列を受信し、判定値の系列を生成し、各判定値は、判定されたシンボル値と、該判定されたシンボル値が正しく判定されたものであることの信頼水準とを表し、
該装置は、
選択された閾値を選択するように構成される閾値選択器(66)と、
検出器(76)であって、該検出器(76)は、判定値を受信するように構成されており、該検出器(76)は、該判定されたシンボル値の正しさの低い信頼水準を示す、該判定値が該選択された閾値を下回るかどうかを検出するように構成されている、検出器(76)と、
累算器(78)であって、該累算器(78)は、該検出器(76)によって行われた検出の指標を受信するように構成されており、該累算器(78)は、該選択された閾値を下回る判定値を示す判定のカウントを累算するように構成されており、該カウントは、該デジタルデータの該系列に関連するデータ通信のビット誤り率の推定の決定要因である、累算器(78)と
を備えている、装置(64)。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「【請求項1】
受信器(32)においてビット誤り率を推定するための装置(64)であって、
該受信器(32)は、デジタル送信を形成するデジタルデータの系列を受信し、判定値の系列を生成し、各判定値は、判定されたシンボル値と、該判定されたシンボル値が正しく判定されたものであることの信頼水準とを表し、
該装置は、
選択された閾値を選択するように構成される閾値選択器(66)と、
検出器(76)であって、該検出器(76)は、判定値を受信するように構成されており、該検出器(76)は、該判定されたシンボル値の正しさの低い信頼水準を示す、該判定値が該選択された閾値を下回るかどうかを検出するように構成されている、検出器(76)と、
累算器(78)であって、該累算器(78)は、該検出器(76)によって行われた検出の指標を受信するように構成されており、該累算器(78)は、該検出器によって検出された判定が該低い信頼水準を示すごとに足していき、それにより該選択された閾値を下回る判定値を示す判定のカウントを維持するように構成されており、該カウントに比例する値と、該デジタル送信からの処理されたビットに比例する調整可能な総数とが、該デジタルデータの該系列に関連するデータ通信のビット誤り率の推定を形成する、累算器(78)と
を備えている、装置(64)。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された、
「受信器(32)のための装置(64)」という構成を、「受信器(32)においてビット誤り率を推定するための装置(64)」という構成に限定し、
「デジタルデータの系列」という構成を、「デジタル送信を形成するデジタルデータの系列」という構成に限定し、
累積器(78)に関し、「累算器(78)であって、該累算器(78)は、該検出器(76)によって行われた検出の指標を受信するように構成されており、該累算器(78)は、該選択された閾値を下回る判定値を示す判定のカウントを累算するように構成されており、該カウントは、該デジタルデータの該系列に関連するデータ通信のビット誤り率の推定の決定要因である、累算器(78)」を、「累算器(78)であって、該累算器(78)は、該検出器(76)によって行われた検出の指標を受信するように構成されており、該累算器(78)は、該検出器によって検出された判定が該低い信頼水準を示すごとに足していき、それにより該選択された閾値を下回る判定値を示す判定のカウントを維持するように構成されており、該カウントに比例する値と、該デジタル送信からの処理されたビットに比例する調整可能な総数とが、該デジタルデータの該系列に関連するデータ通信のビット誤り率の推定を形成する、累算器(78)」と限定することにより、
特許請求の範囲を減縮するものである。(なお、下線は、本件補正による補正箇所を示すものであり、当審において加筆した。)
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び特許法第17条の2第5項(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
上記本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明
原審の拒絶理由に引用された、特開昭63-228839号公報(以下、「引用例」という。)には「回線品質監視装置」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「[発明の目的]
(産業上の利用分野)
この発明は、衛星通信路等の回線品質状態(例えばビット誤り率)を検出するための回線品質監視装置に関する。」(2頁上段左欄14行?18行)

ロ.「(実施例)
以下、この発明の一実施例を図面に従って説明する。
第1図は本実施例に係る回線品質監視装置の構成図である。この装置は軟判定回路1と、クロック再生回路2と、ビット信頼度算出回路3と、ビット列信頼度算出回路4と、回線品質判定回路5とにより構成される。
軟判定回路1は図示しない復調器のアナログ出力信号を入力し、これを軟判定(多値判定)して軟判定データを出力するものである。この実施例では特に軟判定データが4値(2ビット)のデータである場合の例を示している。即ち、復調器の出力振幅電圧は例えば第2図に示すように、シンボル“1”が+EV、シンボルが“0”が-EVに設定されており、これに伝送路で付加される白色ガウス雑音が重畳されている。従って、シンボル“0”である確率及びシンボル“1”である確率の分布は、同図に示されるように-EV,+EVをそれぞれ中心とした正規分布となる。軟判定回路1は、この復調器出力振幅電圧を例えば+E/2以上→“11”、0以上+E/2以下→“10”、-E/2以上0以下→“01”、-E/2以下→“00”というように4値(2ビット)軟判定データに変換する。
クロック再生回路2は、復調器の出力信号からクロックを抽出して復調信号に同期した基本クロックCKを出力するものである。軟判定回路1は、このクロックCKに同期して判定動作を行う。」(2頁下段右欄13行?3頁上段右欄1行)

ハ.「ビット信頼度算出回路3は、軟判定データを入力すると、これを各情報ビットの信頼度を表わす信頼度データに変換する回路である。
この実施例では、このビット信頼度算出回路3を1つの排他的論理和回路11で構成している。2ビットの軟判定データの上位1ビットと下位1ビットは排他的論理回路11において排他的論理和をとられる。従って、このビット信頼度算出回路3の出力である信頼度データは第3図に示すように復調器の出力振幅電圧が0レベルの付近、即ちあいまいな領域で“1”、復調器の出力振幅電圧の絶対値が大きい所、即ち確実な領域で“0”になっている。つまり、このビット信頼度算出回路3の出力は当該情報ビットの信頼性の低さを示していることになる。この回路で得られる各情報ビットの信頼度データはビット列信頼度算出回路4に出力されている」(3頁上段右欄2行?18行)

ニ.「ビット列信頼度算出回路4はビート信頼度算出回路3からの各情報ビットの信頼度データを所定の長さのビット数分だけ統計処理し、所定長の情報ビット列の信頼度データに変換するもので、加算回路12とカウンタ13とで構成されている。加算回路12は上記各情報ビットの信頼度データを順次加算していき、カウンタ13から出力されるリード信号に同期して加算結果を次段の回路に出力する。カウンタ13は、第4図に示すようにクロック再生回路2から出力されるクロックCKをmビットだけカウントした時に上記リード信号を出力する。従って、加算回路12の出力信号はmビツトの情報ビット列を構成する各ビット毎の信頼性の低さの程度を加算したものであるので、mビットの情報ビット列の信頼性の低さの程度を示している。なお、カウンタ13はmビットのカウント動作でリード信号を加算回路12に出力した後、カウント値をクリアし、再びmビットのカウント動作を開始する。」(3頁上段右欄19行?下段左欄17行)

ホ.「以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明はこの実施例には何ら限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
例えば、上記実施例では軟判定として4値判定を行ったが、判定の階調数を更に上げても良い。
第6図は8値判定(3ビット軟判定データ)の例である。この例では、特に-E?+EVを均等にレベル判定するのではなく、0レベル近傍程細く分割した重み付けを行っている。このような重み付けを行うと、より急峻な検出特性を得ることが可能となる。」(4頁上段右欄8行?19行)

ヘ.「[発明の効果]
以上説明したように、本発明によれば、回線品質を受信側で常時モニタするシステムにおいて、送信データ中に回線品質検査用の特定信号を挿入する必要がないので、伝送効率を全く劣化させずに回線品質状態を監視することが可能となる。」(5頁上段左欄4行?9行)

上記イ.?ヘ.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、
上記イ.及びヘ.にあるように、引用例は、通信システムの「受信側」において回線品質を監視する装置に関して記載されている。ここで、「受信側」は、技術常識から「受信器」を示すものである。また、回線品質状態として、「ビット誤り率」を検出するとの記載がある。

上記ロ.に記載のように、受信側において受信された送信データは、復調器でアナログ出力信号とされて軟判定回路1に入力されている。軟判定回路1は、復調器のアナログ出力電圧が入力され、該アナログ信号の振幅電圧に応じてそのシンボルが“1”であるか“0”であるかを判定するための「軟判定データ」を復調信号に同期した基本クロックに同期して、順次出力している。

上記ハ.に記載のように、上記軟判定データはビット信頼度算出回路3に入力され、振幅電圧が0レベル付近(すなわち、シンボルが“1”であるか“0”であるかがあいまいな領域)で“1”、振幅電圧の絶対値が大きいところ(すなわち、シンボルが“1”であるか“0”であるかが確実な領域)で“0”となるような「信頼度データ」を出力している。すなわち、信頼度データが“1”である場合は、判定されたシンボルの値の信頼度が低いことになる。

上記ニ.に記載のように、上記信頼度データはビット列信頼度算出回路4を構成する加算回路12に入力されている。加算回路12では、信頼度データが“1”、すなわち判定されたシンボルの値の信頼度が低いことが示される場合に加算され、所定の長さの情報ビット数(mビット)分、順次加算している。加算回路12の出力は、所定の長さの情報ビット列の信頼性の低さの程度を示すことになる。

ここで、上記ロ.乃至ニ.に記載されている実施例によれば、上記送信データはシンボルから構成されており、各シンボルは「1」か「0」の二値であり、シンボルが判定されることにより情報ビット値が再生されている。したがって、送信データは「デジタル送信」されたものであるといえる。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「受信器において情報ビット列の信頼性の低さの程度を得るためのビット信頼度算出回路3及び加算回路12からなる装置であって、
該受信器の軟判定回路1は、デジタル送信された送信データを受信し、復調信号に同期した基本クロックに同期して軟判定データを順次生成し、各軟判定データは、シンボルが“0”であるか“1”であるかを判定するときの信頼度を表し、
該装置は、
ビット信頼度算出回路3であって、該ビット信頼度算出回路3は、軟判定データを入力するように構成されており、該ビット信頼度算出回路3は、判定されたシンボルの値の信頼度が低いことを示す、該軟判定データが0レベル付近のあいまいな領域に入ることを示す値であるかどうかを出力するように構成されている、ビット信頼度算出回路3と、
加算回路12であって、該加算回路12は、該ビット信頼度算出回路3によって出力された信頼度データを入力するように構成されており、該加算回路12は、該ビット信頼度算出回路3によって算出された信頼度データがシンボルの値の信頼度が低いことを示すごとに順次加算するように構成されており、
該送信データから所定の長さの情報ビット数を処理したとき、情報ビット列の信頼性の低さの程度を示す加算値を出力する、加算回路12と
を備えている装置。」

(3)対比・判断
引用発明の「情報ビット列の信頼性の低さの程度を得る」と補正後の発明の「ビット誤り率を推定する」とは、「ビットの信頼性の指標を得る」点で共通している。
引用発明の「ビット信頼度算出回路3及び加算回路12からなる装置」は、補正後の発明の「装置」に相当している。

引用発明の「軟判定回路1」は、「受信器」に含まれる構成である。
引用発明の「送信データ」は受信器で復調されて『情報ビット列』というデジタルデータの系列が生成されるようになっており、「送信データ」はデジタルデータの系列から形成されているといえるから、引用発明の「デジタル送信された送信データ」は補正後の発明の「デジタル送信を形成するデジタルデータの系列」に相当している。
引用発明の「軟判定データ」は、明らかに補正後の発明の「判定値」に相当している。そして、引用発明の「軟判定データ」は、復調回路に同期した基本クロックに同期して順次生成されているから軟判定データ列となっており、補正後の発明の「判定値の系列」に相当している。
引用発明の「軟判定データは、シンボルが“0”であるか“1”であるかを判定するときの信頼度を表し」に関し、引用例では、軟判定データは多値で表され、その多値の値により、シンボルの判定値とシンボルが「正しく判定」されたかを表している(例えば、引用例の図2に記載されるように、多値の値が“00”の場合、シンボル値は“0”を表し、その信頼度は『大』、すなわち「正しく判定」されたものである等)。したがって、引用発明の「軟判定データは、シンボルが“0”であるか“1”であるかを判定するときの信頼度を表し」は、補正後の発明の「判定されたシンボル値と、該判定されたシンボル値が正しく判定されたものであることの信頼水準とを表し」に相当している。

引用発明の「軟判定データを入力」は、補正後発明の「判定値を受信」に相当している。
引用発明の「判定されたシンボルの値の信頼度が低いことを示す」は、補正後の発明の「判定されたシンボル値の正しさの低い信頼水準を示す」に相当している。
引用発明の「該軟判定データが0レベル付近のあいまいな領域に入ることを示す値であるかどうかを出力する」は、「軟判定データ」が、シンボルの値の信頼度が低いことを示す「0レベル付近のあいまいな領域」の境界を示す軟判定データ、すなわち「基準」であるかどうかを出力、すなわち「検出」しているといえるので、補正後の発明の「該判定値が該選択された閾値を下回るかどうかを検出するように構成されている」と、「該判定値が基準に応じた値であるのかどうかを検出するように構成されている」点で共通している。
そして、引用発明の「ビット信頼度算出回路3」は、補正後の発明の「検出器」に相当している。

引用発明の「加算回路12」は、補正後の発明の「累算器」に相当している。
引用発明の「信頼度データ」は補正後の発明の「検出の指標」に相当している。
引用発明の「該ビット信頼度算出回路3によって算出された信頼度データがシンボルの値の信頼度が低いことを示すごとに順次加算するように構成されており」に関しては、引用発明の「信頼度が低いことを示すごと」は補正後の発明の「判定が該低い信頼水準を示すごと」に相当し、引用発明の「順次加算する」ことは、補正後の発明の「足していき」「カウントを維持する」ことに相当しているから、補正後の発明と「累算器は、該検出器によって検出された判定が該低い信頼水準を示すごとに足していき、それにより該基準に応じた値の判定値を示す判定のカウントを維持するように構成されており」である点で共通している。
引用発明の「該送信データから所定の長さの情報ビット数を処理したとき、情報ビット列の信頼性の低さの程度を示す加算値を出力する」に関し、引用発明の「加算値」は補正後の発明の「カウント」に相当し、「所定の長さの情報ビット数」の「所定の長さ」は引用例においてmビットとされており、mは種々の値を取り得るから、「調整可能」であり、所定の長さの「情報ビット数」は、処理された情報ビットの「総数」であるといえるから、補正後の発明の「該カウントに比例する値と、該デジタル送信からの処理されたビットに比例する調整可能な総数とが、該デジタルデータの該系列に関連するデータ通信のビット誤り率の推定を形成する」と、「該カウントに関する値と、該デジタル送信からの処理されたビットに関する調整可能な総数とから、該デジタルデータの該系列に関連するデータ通信のビットの信頼性の指標を形成する」の点で共通する。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「受信器においてビットの信頼性の指標を得るための装置であって、
該受信器は、デジタル送信を形成するデジタルデータの系列を受信し、判定値の系列を生成し、各判定値は、判定されたシンボル値と、該判定されたシンボル値が正しく判定されたものであることの信頼水準とを表し、
該装置は、
検出器であって、該検出器は、判定値を受信するように構成されており、該検出器は、該判定されたシンボル値の正しさの低い信頼水準を示す、該判定値が基準に応じた値であるのかどうかを検出するように構成されている、検出器と、
累算器であって、該累算器は、該検出器によって行われた検出の指標を受信するように構成されており、該累算器は、該検出器によって検出された判定が該低い信頼水準を示すごとに足していき、それにより該基準に応じた値の判定値を示す判定のカウントを維持するように構成されており、該カウントに関する値と、該デジタル送信からの処理されたビットに関する調整可能な総数とから、該デジタルデータの該系列に関連するデータ通信のビットの信頼性の指標を形成する、累算器と
を備えている、装置。」

(相違点)
(1)「ビットの信頼性の指標を得る」に関し、補正後の発明は、「ビット誤り率を推定する」のに対し、引用発明では、「情報ビット列の信頼性の低さの程度を得る」である点。
(2)補正後の発明では、「選択された閾値を選択するように構成される閾値選択器」を有するのに対し、引用発明では、そのような閾値選択器を有しない点。
(3)「基準に応じた値」に関し、補正後の発明では「選択された閾値を下回る」値であるに対し、引用発明では「0レベル付近のあいまいな領域」に入ることを示す値である点。
(4)「該カウントに関する値と、該デジタル送信からの処理されたビットに関する調整可能な総数とから、該デジタルデータの該系列に関連するデータ通信のビットの信頼性の指標を形成する」に関し、補正後の発明では「該カウントに比例する値と、該デジタル送信からの処理されたビットに比例する調整可能な総数とが、該デジタルデータの該系列に関連するデータ通信のビット誤り率の推定を形成する」であるのに対し、引用発明では「該送信データから所定の長さの情報ビット数を処理したとき、情報ビット列の信頼性の低さの程度を示す加算値を出力する」である点。

そこで、上記相違点について検討する。
まず、上記相違点(1)について検討する。
引用発明の加算回路12の出力は、mビットの情報ビット列を構成する各ビットごとの信頼性の低さの程度を加算したものとなり、mビットの情報ビット列の信頼性の低さの程度を表している。
ここで、当業者であれば、ビットの信頼性の低さはビットのエラーに繋がると推定できるので、上記加算回路12の出力は、mビットの情報ビット列におけるビットエラー数の推定値を表しているといえ、また、引用例において「この発明は、・・・回線品質状態(例えば、ビット誤り率)を検出するための回線品質監視装置に関する。」(上記「(2)引用発明」の摘記事項イ.)との記載があることをあわせ見れば、上記加算回路12の出力をmビットで除算することにより、ビット誤り率の推定を得るようにすることは容易に為し得るものである。
したがって、相違点(1)は格別なものでない。

ついで、相違点(4)について検討する。
引用発明では、1シンボルが1ビットを表しているから、補正後の発明の用語を用いれば、引用発明において「カウントに関する値」は「カウント値」となり、「デジタル送信からの処理されたビットに関する調整可能な総数」は「デジタル送信からの処理されたビットの調整可能な総数」となっている。
一方、補正後の発明では、「カウントに関する値」は「カウントに比例する値」であり、デジタル送信からの処理されたビットに関する調整可能な総数」は「デジタル送信からの処理されたビットに比例する調整可能な総数」である。
ここで、「比例」とは、二つの量に対し一方が他方の定数倍である関係の事を指すのであるから、1倍の場合、すなわち引用発明の「カウント値に関する値」がカウント値そのものの場合も「カウント値に比例する値」に含まれるものである。
そして、上記相違点(1)に対して検討したとおり、引用発明において、加算器からの出力をmビットで除算することにより、ビット誤り率の推定を得るようにすることは容易に為し得るものである。
以上のことから、引用発明において、「該カウントに比例する値と、該デジタル送信からの処理されたビットに比例する調整可能な総数とが、該デジタルデータの該系列に関連するデータ通信のビット誤り率の推定を形成する」ことは、当業者が適宜想到し得ることである。
なお、当業者であれば、1シンボルが複数ビットを表す変調が行われている周知のデジタルデータの系列に対して引用発明を適用することを容易に為し得るものであり、そのような場合には、ビット数はシンボル数と比例する関係となっているので、「該カウントに比例する値と、該デジタル送信からの処理されたビットに比例する調整可能な総数とが、該デジタルデータの該系列に関連するデータ通信のビット誤り率の推定を形成する」ことになる。
このように、上記相違点(4)も格別なものでない。

最後に、上記相違点(2)及び(3)について検討する。
引用発明では、「軟判定データ」が「0レベル付近のあいまいな領域」に入っていることを示す値であるとき、すなわちあいまいな領域の境界(「基準」)以内のときに、シンボルの値の信頼度が低いことを示す信頼度データを出力し、加算回路12において該信頼度データを順次加算するようにしている。
引用例では、上記「(2)引用発明」の摘記事項ロ.において、シンボルの値の信頼度が低いことを示す「0レベル付近のあいまいな領域」を、+E/2?-E/2の範囲とする実施例が記載されている。ここで、該「+E/2」や「-E/2」の境界値に対応する軟判定データ“01”及び“10”は「閾値」というべきものである。
さらに、引用例には、上記のとおり軟判定データの「0レベル付近のあいまいな領域」を、+E/2?-E/2の範囲としている実施例の他に、摘記事項ホ.及び第6図に記載されるように、「0レベル近傍ほど細く分割した重み付け」を行う実施例についても記載されており、これは、シンボルの値の信頼度が低いことを示す「0レベル付近のあいまいな領域」の範囲の設定が異なるものである。
このように引用例には、「0レベル付近のあいまいな領域」の設定を異なるものに変え得ることが記載されているので、当業者であれば、「0レベル付近のあいまいな領域」の境界値を示す軟判定データ、すなわち「閾値」として異なるものを複数設定し、選択可能とする「閾値選択器」を設け、選択された閾値以下であることに基づいてシンボル値の低い信頼水準を検出することを容易に想到するものである。ここで、シンボル値の低い信頼水準を検出する際、閾値を下回ることで検出するか、閾値以内で検出するかは当業者が適宜行い得る設計的事項にすぎない。
したがって、上記相違点(2)及び(3)も格別なものでない。

そして、補正後の発明に関する作用・効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。

以上のとおりであるから、上記補正後の発明は上記引用発明に基いて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明及び周知技術
引用発明は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から、当該補正に係る構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明に基いて容易に発明することができたものであるから、上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-05 
結審通知日 2012-07-06 
審決日 2012-07-20 
出願番号 特願2007-306438(P2007-306438)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
P 1 8・ 575- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷岡 佳彦  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 新川 圭二
神谷 健一
発明の名称 通信システムにおける通信データのビット誤り率を推定するための装置およびその関連方法  
代理人 大塩 竹志  

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