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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
管理番号 1267027
審判番号 不服2010-18301  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-13 
確定日 2012-12-13 
事件の表示 特願2003-350311「電動リニアアクチュエータ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年4月28日出願公開、特開2005-114081〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年10月9日の出願であって、その請求項1?3に係る発明は特許を受けることができないとして、平成22年5月11日付けで拒絶査定がされたところ、平成22年8月13日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成21年12月21日付け、及び平成23年8月1日付けの手続補正によって補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。なお、平成22年8月13日付けの手続補正は、当審において平成23年5月25日付けで決定をもって却下された。
「【請求項1】
外周にネジ溝が形成された送りネジ軸と外周にネジ溝が形成されていない回転軸とを有する軸部材を備え、
前記送りネジ軸にナット部材を螺合して送りネジ装置を構成し、
前記回転軸にモータ本体及び制御装置を装着して電動モータを構成してなる、電動リニアアクチュエータにおいて、
前記送りネジ軸は、HRC50以上の鋼材からなる磁性材料により形成され、かつその一端面に円筒状突起が一体に形成され、
前記電動モータの回転軸は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる非磁性材料により形成され、かつその一端部分に膨径部が形成されると共に該膨径部の一端に円筒状の穴が形成され、
前記円筒状の穴に前記円筒状突起を嵌合して、前記回転軸と送りネジ軸とを、前記嵌合部に溶融金属媒体を介在する接合により一軸状に一体に固着してなる、
ことを特徴とする電動リニアアクチュエータ。」

2.当審における平成23年5月25日付けの拒絶理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開平8-88953号公報
(2)刊行物2:特開昭60-77180号公報
(3)刊行物3:特開平1-239070号公報
(4)刊行物4:特開2001-21018号公報
(5)刊行物5:特開2002-130417号公報
(6)刊行物6:実願平3-76518号(実開平5-29284号)のCD-ROM

(刊行物1)
刊行物1には、「アクチュエータ」に関して、図面(特に、従来例である図6を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明は、アクチュエータに係り、特に、ボールネジとACサーボモータの出力軸を一体物としたボールネジ一体型ACサーボモータを使用したものにおいて、ACサーボモータの構成部品であるステータ(固定子)に過負荷が作用しないように工夫したものに関する。」(第2頁第2欄第5?10行、段落【0001】参照)
(b)「アクチュエータ、例えば、一軸アクチュエータは、図6に示すような構成になっている。まず、ACサーボモータ101があり、このACサーボモータ101の出力軸103には、カップリング105を介してボールネジ107が連結されている。このボールネジ107にはボールナット109が螺合していて、このボールナット109にスライダ111が取付けられている。そして、ACサーボモータ101を適宜の方向に回転させることにより、出力軸103、カップリング105、ボールネジ107が同方向に回転する。そして、回転を規制されているボールナット109が適宜の方向に移動していき、それによって、スライダ111が同方向に移動していく。又、ACサーボモータ101は、ステータ(固定子)101aと、出力軸103に固着されたロータ(回転子)101bとから構成されている。又、出力軸103は、ACサーボモータ101の両側において、軸受113、115、117によって軸支されている。又、ボールネジ107は、ボールナット109の両側において、軸受119、121、123によって軸支されている。又、軸受117の反ACサーボモータ101側には、ACサーボモータ101の回転量を検出する検出手段(例えば、光学式検出手段、磁気式検出手段等)125が取付けられている。尚、スライダ111には任意の装置、例えば、把持装置、溶接ロボット、等が搭載されることになる。
上記のような構成のアクチュエータにおいては、ACサーボモータ101の出力軸103とボールネジ107とをカップリング105を介して連結する構成であるので、まず、部品点数が多くて組立作業が困難であるとともに、装置が大型化してしまうという問題があった。又、カップリング105による連結であるために、一体化した状態で剛性が低下してしまうという問題もあり、さらに、ACサーボモータ101の出力軸103とボールネジ107との軸芯がずれることも予想され、それによって、精度の高い制御が損なわれるおそれがあった。
このような問題点に鑑みて、ACサーボモータの出力軸とボールネジとを予め一体化させて、ボールネジ一体型ACサーボモータとすることが考えられている。そのようなものとして、例えば、実開平1-86457号公報、特開平1-252339号公報、特開平6-86501号公報に示すようなものがある。これらは、何れも、ACサーボモータの出力軸とボールネジとを予め一体化させたものであり、それによって、既に説明したようなカップリングを介しての連結構造を採用した場合の不具合を解消して、部品点数を減少させて組立作業を容易にし、且つ、装置の小形化を図るとともに、制御精度の向上を図らんとするものである。
そのようなものの一例を図7に示す。尚、図6に示したものと同一部分には同一符号を付して示しその説明は省略する。この場合には、ACサーボモータ101の出力軸103と、ボールネジ107とが予め一体に構成されているので、図6に示した構成のもののように、カップリング105を必要とせず、よって、カップリング105を使用した場合の不具合を解消することができるものである。」(第2頁第2欄第12行?第3頁第3欄第17行、段落【0002】?【0005】参照)
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
【引用発明】
外周にボールネジ溝が形成されたボールネジ107と外周にネジ溝が形成されていない出力軸103とを有する軸部材を備え、
前記ボールネジ107にボールナット109を螺合してボール送りネジ装置を構成し、
前記出力軸103にACサーボモータ101及び検出手段125を装着して電動モータを構成してなる、一軸アクチュエータにおいて、
前記出力軸103と前記ボールネジ107とを、カップリング105を介して連結してなる、一軸アクチュエータ。

(刊行物2)
刊行物2には、「接合体」に関して、図面(特に、第3図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(c)「本発明は例えばセラミック部材と金属部材とを接合してなる接合体に関すする。」(第1頁左下欄第19?20行)
(d)「本発明はセラミック部材と金属部材とを接合してなる接合体に接合できる。すなわち、一方の部材をセラミック部材とし、一方の部材より熱膨張率が大なる他方の部材を金属部材とする。セラミック部材としては、窒化けい素、窒化アルミニウムなどの窒化物、炭化けい素などの炭化物またはホウ化物などの非酸化物系セラミックおよびアルミナなどの酸化物系があげられる。金属部材としては、銅、鉄、クロム、ニッケルなどの単体、合金あるいは混合物があげられる。
本発明の接合体における接合部の形態は、第2図および第3図で示すようにセラミック部材1の接合面1aを突状とし、金属部材2の接合面2aを接合面1aに適合する形状の凹状として、両接合面1a,2aを嵌合したものである。接合面1a,2aの形状は第2図で示すテーパ状のもの、第3図で示すスレート状のものあるいはその他の形状のものであっても良い。」(第2頁左下欄第2?19行)
(e)「セラミック部材と金属部材とを接合する接合方法としては、両部材の接合面間にチタン、ジルコニウムまたはそれらの合金からなる活性金属を介在して加熱することにより、(両部材間に加圧する場合もある)直接拡散接合する方法、セラミック部材の接合面をメタライズ処理してろう付けにより金属部材と接合する方法、焼きばめにより接合する方法、さらにはセラミック部材と金属部材とを接触して接合する方法などがある。」(第3頁左上欄第2?11行)

(刊行物3)
刊行物3には、「金属・セラミックス接合体」に関して、図面(特に、第1図(a)を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(f)「本発明はセラミック部材と金属部材とをろう材を介して一体的に接合してなる金属・セラミックス接合体に関するものである。」(第2頁左上欄第5?7行)
(g)「第1図(a)?(c)はそれぞれ本発明の第1発明である金属・セラミックス接合体の一例を示す部分断面図である。各実施例において、セラミック部材1の凸部2と金属部材3の凹部4とをろう5を使用してろう付けにより接合するとともに、接合端6から所定距離lだけろう5がセラミック部材1の凸部2と化学的接合により強固に固着しないよう構成している。以後、この所定距離lを化学的非接合距離と呼ぶ。セラミック部材1の凸部2とろう5とが化学的接合による強固な固着をしないようにするためには、例えば化学的接合により強固に固着させない部分のセラミック部材1の凸部2に黒鉛等のろうと非接合物質を塗り通常のろう付け操作を実施することにより達成できる。
第1図(a)に示した実施例では、接合予定位置の金属部材3の凹部4の内表面全面にNiメッキを施すとともに、セラミック部材1の凸部2の接合予定位置の接合端6から化学的非接合距離lの部分にろうと非接合物質である黒鉛を施した後、活性金属ろう5を使用して接合することにより、凹部4の内表面とセラミック部材1の凸部2の外表面との間の接合予定位置の接触面を全面ろう付けし、接合端6より化学的非接合距離lの部分における凸部4と活性金属ろう5とは化学的接合により強固に固着していない構造の金属・セラミックス接合体を示している。なお、通常の活性金属元素を含有しないAgろうを使用するときは、上述した凹部4の内表面全面へのNiメッキ後、化学的非接合距離lの部分を除く接合予定位置の凸部2の外表面全面にメタライズ層を設け、該メタライズ層にNiメッキを施すことにより、同様な接合を達成することができる。」(第6頁右上欄第19行?右下欄第10行)
(h)第1図(a)の記載から、金属部材3の一端部分に膨径部が形成されていることが看取できる。

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「ボールネジ溝」は本願発明の「ネジ溝」に相当し、以下同様にして、「ボールネジ107」は「送りネジ軸」に、「出力軸103」は「回転軸」に、「ボールナット109」は「ナット部材」に、「ボール送りネジ装置」は「送りネジ装置」に、「ACサーボモータ101」は「モータ本体」に、「一軸アクチュエータ」は「電動リニアアクチュエータ」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「検出手段125」は、「精度の高い制御」を行うために必要なものであり制御装置に含まれることから、本願発明の「制御装置」に相当するとともに、引用発明の「連結すること」は「一体的に固定すること」である限りにおいて本願発明の「固着すること」にひとまず相当するので、両者は下記の一致点、並びに相違点1及び2を有する。
<一致点>
外周にボールネジ溝が形成された送りネジ軸と外周にネジ溝が形成されていない回転軸とを有する軸部材を備え、
前記送りネジ軸にボールナット部材を螺合してボール送りネジ装置を構成し、
前記回転軸にモータ本体及び制御装置を装着して電動モータを構成してなる、電動リニアアクチュエータにおいて、
前記回転軸と送りネジ軸とを一体的に固定してなる電動リニアアクチュエータ。
(相違点1)
本願発明は、「前記送りネジ軸は、HRC50以上の鋼材からなる磁性材料により形成され」、「前記電動モータの回転軸は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる非磁性材料により形成され」ているのに対し、引用発明はそのような構成を具備していない点。
(相違点2)
前記回転軸と送りネジ軸とを一体的に固定することに関し、本願発明は、「前記送りネジ軸は」「その一端面に円筒状突起が一体に形成され」、「前記電動モータの回転軸は」「その一端部分に膨径部が形成されると共に該膨径部の一端に円筒状の穴が形成され」、「前記円筒状の穴に前記円筒状突起を嵌合して」、前記回転軸と送りネジ軸とを、「前記嵌合部に溶融金属媒体を介在する接合により一軸状に一体に固着してなる」のに対し、引用発明は、出力軸103とボールネジ107とを、カップリング105を介して連結してなる点。
そこで、上記相違点1及び2について検討をする。
(相違点1について)
ボールネジの送りネジ軸を、HRC50以上の鋼材からなる磁性材料により形成することは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物4には、「ねじ軸1、ナット2、およびボール3の材質は、各々軸受鋼製、または肌焼き鋼等の調質材とされている。」[第3頁第4欄第21?23行、段落【0013】参照]と記載されている。刊行物5には、「上記ねじ軸11の材料としては、炭素成分0.4%以上でレーザー或いは電子ビーム焼入れにて、硬度HRC50以上を確保できる材料を用いる。」[第4頁第5欄第42?44行、段落【0024】参照]と記載されている。)にすぎない。
また、電動モータの回転軸を、オーステナイト系ステンレス鋼からなる非磁性材料により形成することは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物6には、「ステッピングモータではロータが固定される出力軸を非磁性材とする必要がある。ところで、非磁性の鋼材(SUS303など)では」[第3頁第28及び29行、段落【0006】参照]と記載されている。特開平7-241065号公報には、「モータ本体からの漏れ磁束の影響を防止するために、ロータ軸としては非磁性材を用いる必要がある。そのため、通常、SUS303を用いている。」[第3頁第3欄第22?25行、段落【0008】参照]と記載されている)にすぎない。
してみれば、引用発明のボールネジ107及び出力軸103に、従来周知の技術手段を適用して、ボールネジ107をHRC50以上の鋼材からなる磁性材料とするとともに、出力軸103をオーステナイト系ステンレス鋼からなる非磁性材料とし、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともに異種材料からなる2つの軸を一体的に固定する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「本発明の接合体における接合部の形態は、第2図および第3図で示すようにセラミック部材1の接合面1aを突状とし、金属部材2の接合面2aを接合面1aに適合する形状の凹状として、両接合面1a,2aを嵌合したものである。接合面1a,2aの形状は第2図で示すテーパ状のもの、第3図で示すスレート状のものあるいはその他の形状のものであっても良い。」(上記摘記事項(d)参照)、及び「セラミック部材と金属部材とを接合する接合方法としては、両部材の接合面間にチタン、ジルコニウムまたはそれらの合金からなる活性金属を介在して加熱することにより、(両軸部材間に加圧する場合もある)直接拡散接合する方法、セラミック部材の接合面をメタライズ処理してろう付けにより金属部材と接合する方法、焼きばめにより接合する方法、さらにはセラミック部材と金属部材とを接触して接合する方法などがある。」(上記摘記事項(e)参照)と記載されている。
したがって、刊行物2には、上記記載からみて、一方の軸部材は、その一端面に円筒状突起が一体に形成され、他方の軸部材は、その一端部分に円筒状の穴が形成され、円筒状の穴に円筒状突起を嵌合して、両軸部材の嵌合部をろう付けによる接合により一軸状に一体に固着する構成が記載又は示唆されている。
また、引用発明及び刊行物3に記載された技術的事項は、ともに異種材料からなる2つの軸を一体的に固定する技術分野に属するものであって、刊行物3には、「第1図(a)?(c)はそれぞれ本発明の第1発明である金属・セラミックス接合体の一例を示す部分断面図である。各実施例において、セラミック部材1の凸部2と金属部材3の凹部4とをろう5を使用してろう付けにより接合する」、及び「通常の活性金属元素を含有しないAgろうを使用するときは、上述した凹部4の内表面全面へのNiメッキ後、化学的非接合距離lの部分を除く接合予定位置の凸部2の外表面全面にメタライズ層を設け、該メタライズ層にNiメッキを施すことにより、同様な接合を達成することができる。」(いずれも、上記摘記事項(g)参照)と記載され、第1図(a)の記載から、金属部材3の一端部分に膨径部が形成されていることが看取できる(上記摘記事項(h)参照)。
したがって、刊行物3には、上記記載からみて、一方の軸部材は、その一端面に円筒状突起が一体に形成され、他方の軸部材は、その一端部分に膨径部が形成されると共に膨径部の一端に円筒状の穴が形成され、円筒状の穴に円筒状突起を嵌合して、両軸部材の嵌合部をろう付けによる接合により一軸状に一体に固着している構成が記載又は示唆されている。
これらの記載からもわかるように、異種材料からなる2つの軸同士を、ろう付けあるいは接着剤等によって接合する固着手段は、従来周知の技術手段(さらに必要であれば、例えば、実願昭63-21301号(実開平1-127348号)のマイクロフィルムには、「モータシャフト1とリードスクリュー5の嵌合固定は、モータ部組立完了後、接着・圧入・焼バメ・冷やしバメなどの方法により一体的に固定し、その後モータ取付板12に取付けて完成させる。」[第6頁第6?10行]と記載されている。特開平7-241065号公報には、「なお、必要があれば、この空気抜き穴88を利用して接着剤を注入することも可能である。」[第4頁第6欄第34?36行]と記載されている。)にすぎない。
また、引用発明の、一軸アクチュエータのボールネジ107を、刊行物2及び3に記載又は示唆された「一方の軸部材」とし、一軸アクチュエータの出力軸103を、刊行物2及び3に記載又は示唆された「他方の軸部材」とすることは、異種材料からなる2つの軸を一体的に固定するという観点からみると、どちらの軸を選択するかという2つの選択枝しかないうち、それぞれの軸に最適の材質と形状・構造等を選択することにより、当業者が適宜なし得る設計変更の範囲内の事項にすぎない。(ちなみに、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0026】には、「なお、突起10を回転軸6側に、穴11を送りネジ軸7側に設けてもよい。」と記載されている。)
してみれば、上記(相違点1について)における判断の前提下において、引用発明の一軸アクチュエータにおいて、ボールネジ107及び出力軸103のカップリング105を介しての連結に代えて、上記刊行物2及び3に記載又は示唆された技術手段、並びに従来周知の技術手段を適用して、ボールネジ107をその一端面に円筒状突起を一体に形成し、出力軸103をその一端部分に膨径部を形成すると共に膨径部の一端に円筒状の穴を形成し、円筒状の穴に円筒状突起を嵌合して、出力軸103とボールネジ107とを、嵌合部に溶融金属媒体を介在する接合により一軸状に一体に固着することにより、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

また、本願発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2及び3に記載された発明、並びに従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、当審における拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)に対する平成23年8月2日付けの意見書において、「審判官は、『3.対比・判断(1)本願発明1について』において、『連結』は、『固着』に相当するとし、本願発明と引用発明の<一致点>として、『…前記回転軸と送りネジ軸とを、一軸状に一体に固着してなる電動リニアアクチュエータ』と指摘し、かつ(相違点2)として、『引用発明は、出力軸103とボールネジ107とを、カップリング105を介して一軸状に一体に連結している点』をあげている。
刊行物1には、[0003](拒絶理由通知の(b)を参照)において、カップリングによる連結の課題(部品点数の増加、それによる組立作業の困難、装置の大型化、剛性の低下、両軸の軸芯ずれ、精度の高い制御が損なわれる)が記載され、それを解消するため、図7に示すように『出力軸103とボールネジ107とを予め一体に構成する点』が記載されている([0005]参照)。
従って、図6を基本とする引用発明は、回転軸と送りネジ軸とは、一軸状に連結されてはいるが、固着されているものではなく、上記審判官の<一致点>の認定は誤りである。」((4)の項を参照)と主張している。
しかしながら、当審拒絶理由においては、引用発明の「(カップリング105を介して)連結」と本願発明の「(溶融金属媒体を介在する接合により一軸状に一体に)固着」の両方を含む上位概念ないしは広義の意味で「固着」という用語を用いて両発明の一致点の認定を行ったものであり、本審決では、より正確を期すため、引用発明の「連結すること」と本願発明の「固着すること」の両方を含む上位概念ないしは広義の意味で「一体的に固定すること」という用語を用いて両発明の一致点の認定を行っているので、審判請求人の主張は的を射たものとはいえない。
よって、上記(相違点1について)及び(相違点2について)において述べたように、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、審判請求人が主張する本願発明が奏する作用効果は、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の作用効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

4.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1?3に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-13 
結審通知日 2012-01-17 
審決日 2012-02-13 
出願番号 特願2003-350311(P2003-350311)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 広瀬 功次  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
所村 陽一
発明の名称 電動リニアアクチュエータ  
代理人 近島 一夫  

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