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審決分類 審判 判定 その他 属さない(申立て不成立) B29C
管理番号 1267033
判定請求番号 判定2012-600028  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2013-01-25 
種別 判定 
判定請求日 2012-08-24 
確定日 2012-11-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第4022908号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びイ号説明書に示す「布帛の接着積層方法」は、特許第4022908号特許発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯
1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、「イ号図面並びにイ号説明書に示す布帛の接着積層方法は、特許第4022908号技術的範囲に属する、との判定を求める」ものである。

2 手続の経緯
平成14年 3月29日 出願
平成19年10月12日 特許登録
平成24年 8月24日 本件判定請求
平成24年 9月12日 手続補正(代理権の証明)
平成24年10月22日 手続補正(被請求人の欄)
平成24年10月25日 判定請求答弁書

第2 特許第4022908号の発明
特許第4022908号は、請求項1及び2を備えているが、上記請求の趣旨のように、本件判定は「イ号図面並びにイ号説明書に示す布帛の接着積層方法」に対して請求されたものであり、特許第4022908号(以下、「本件特許」という。)の発明において「方法」発明は、請求項2に係る発明であり、判定請求書においても、本件特許発明の説明として「本件特許発明の「布帛の接着積層方法」は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項2に記載されたとおりのものであり」(判定請求書第3頁第2?3行参照。)と説明していることから、以下では、本件特許の請求項2に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)を対象として検討する。

本件特許発明を構成要件毎に分説すると次のとおりである。

A.布帛を、内部が二層の中空状になっていて、吸着面4と吸着面5の両面に各々布帛を吸引固定できる上部吸引台8の吸着面4に吸引固定する工程、
B.該布帛に接着性を有する合成樹脂を付与する工程、
C.上部吸引台8をその中央部にある水平方向の回転軸9を軸として180度回転させる工程、
D.別の布帛を吸着面6に吸引固定した下部吸引台17を上昇させて布帛同士を圧着させると同時に、上部吸引台8の吸引面5に布帛を吸引固定し、該布帛に接着性を有する合成樹脂を付与する工程を有すること
E.を特徴とする布帛の接着積層方法。
(以下、順に「構成要件A」?「構成要件E」という。)

第3 本件特許発明の目的及び効果
特許明細書に記載された本件特許発明の目的及び効果に関する記載は以下のとおりである。
1 目的
【0003】
【発明の目的】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、エアバッグ等を構成する布帛同士を接着性を有する合成樹脂を用いて接着積層する工程において、接着性を有する合成樹脂の布帛への付与と布帛同士の接着工程を一台の機械で行えるようにし、そのため機械の設置面積を小さくでき、その作業を簡単に効率的に行うことのできる装置及び方法を提供するものである。

2 効果
【0011】
【発明の効果】
本発明によれば、接着性を有する合成樹脂を付与された布帛と他の布帛を圧着しながら、同時に他の布帛に接着性を有する合成樹脂を付与することができるため、効率よく布帛の貼り合わせができ、更に、布帛への接着性を有する合成樹脂などの樹脂の付与と、布帛同士の貼り合わせ、布帛同士の圧着工程が一台の機械できるため、設備を設置するスペースが狭くてすむなどの利点がある。

第4 イ号方法
1 イ号方法が記載された被請求人発行の広告パンフレット(甲第2号証;以下、「甲第2号証パンフレット」という。)の記載事項
甲第2号証パンフレットには、上下に2つのテーブルを有した「シリコン塗布機MRD-SR3008P」(第1頁目)が掲載されると共に、以下の記載がある。
(1)3頁目に「吸着テーブル」の説明として、「20mmピッチで空けられた吸着穴で確実にワークをホールドします。」との記載及び穴を多数設けた写真が記載されている。
(2)3頁目に「回転テーブル」の説明として、「塗布面とワーク受け渡しが回転テーブルにより行えます。ワーク受け渡し、プレス工程の作業中に塗布が行えるためマシンタクトに無駄がなく、効率よく生産ができます。」との記載及び穴を多数設けたテーブルの側面中央部に軸を配置した写真が記載されている。
(3)4頁目に「スライドテーブル」の説明として、「ワークセットを容易にするため、セット時、取り出し時は手前に移動します。塗布をしている間にプレス、取り出し、ワークセットまで作業が終わるため、生産性に優れています。」と記載されている。
(4)4頁目に「スタティックミキサー」の説明として、「ロングタイプを使用し、2液を完全に混合させることができます。」との記載及びテーブルの上の布帛にディスペンサーの先端を向けディスペンサーの付け根に2本の配管が取り付けられている写真が記載されている。
(5)6頁目には、「1ディスペンサ仕様」に、「対象材料」が「2液硬化性シリコン」と記載されている。
(6)6頁目には、「2塗布テーブル仕様」及び「3プレステーブル仕様」共に、「バキューム能力」として同一の能力「17.6kPa 2.4m^(3)/min」、「吸着エリア」として「3000×800mm(X×Y)両面」、また、「3プレステーブル仕様」には、「プレス能力」が記載されている。

2 甲第2号証パンフレット及びイ号方法による布帛の接着積層状態を撮影したDVD(甲第3号証;以下、「甲第3号証DVD」という。)の内容に基づいて確認できた事項、並びに、甲第2号証パンフレット及び甲第3号証DVDにより、イ号図面(甲第1号証の1)及びイ号説明書(甲第1号証の2)の図及び説明のうちで、確認できた事項。
(1)甲第3号証DVDによれば、「シリコン塗布機MRD-SR3008P」は、イ号図面(甲第1号証の1)に図示された、図2(a)?(v)の動作を、その順に行っていることを確認できた。
(2)上記「第4 1」の各記載、及び甲第3号証DVDによれば、「シリコン塗布機MRD-SR3008P」は、イ号説明書(甲第1号証の2)における、「イ号方法の実施に使用する装置」の「A.」?「I.」の構成を備えることを確認できた。
(3)上記「第4 1」の各記載、上記(2)の確認事項及び甲第3号証DVDによれば、「シリコン塗布機MRD-SR3008P」の動作をイ号図面(甲第1号証の1)の記号を用いて説明したものは、下記のとおりであることが確認できた。(なお、イ号説明書(甲第1号証の2)の第2?4頁にて用いられている、J?Zの符号を準用して分説する。)
J.吸着面g1及びg2を備え、その中央部に水平方向の回転軸bを有する塗布テーブルcと、ディスペンサーdと、吸着面eを備えるプレステーブルfを有してなるシリコン塗布機を用いる接着積層方法である。
K.前記プレステーブルfを前方にせりだした状態にして、その上面の前記吸着面eに、二枚の布帛(エアバック袋体などに用いるために所定形状に裁断された布帛)a1及びa2を拡布状態で重ねて載置し[図2(a)]、これを吸引固定した状態で前記塗布テーブルcの下方に移動させ[図2(b)]、この状態で前記プレステーブルfを上昇させ、上に位置する布帛a1を、前記塗布テーブルcの下面に設けられている前記吸着面g1に当接させる[図2(c)]。
L.その後、プレステーブルfの布帛吸引状態を解除すると共に、前記吸着面g1で上の布帛a1を吸引固定する。
M.その後、プレステーブルfを下降させ、塗布テーブルcを回転軸bを軸として180度回転させる[図2(d)]。
N.これにより、吸引固定状態の該布帛a1を、塗布テーブルcの上面に位置した状態にして吸引固定した状態に保持する[図2(e)]
O.この間に、前記プレステーブルfは前方にせりだした状態に戻る[図2(f)]。
その後、前記プレステーブルfの前記吸着面eに吸引固定されている布帛a2の上に別の布帛a3を重ねて二枚重ねにし[図2(f)]、これを該吸着面eに吸引固定された状態として、前記プレステーブルfを前記塗布テーブルcの下方位置に移動させる[図2(g)]。
この間に、前記ディスペンサdが接着性を有する2液硬化性シリコンの付与動作を開始し、前記塗布テーブルcの上面に吸引固定されている前記布帛a1に対して、前記ディスペンサdにより前記2液硬化性シリコンを付与する。
P.その後、前記塗布テーブルcの下方に配置された前記プレステーブルfを上昇させ、二枚重ねの上に位置する布帛a3を前記塗布テーブルcの下面に設けられている前記吸着面g2に吸引固定させる[図2(h)]。
Q.その後、プレステーブルfを下降させ、前記塗布テーブルcを回転軸bを軸として180度回転させて[図2(i)]、前記2液硬化性シリコンが付与された前記布帛a1を前記吸着面g1に吸引固定したまま下方向きにする。
R.その後、前記塗布テーブルcの下面に位置する布帛a1を前記吸着面g1に吸引固定したままの状態で、該プレステーブルfを上昇させ[図2(j)]、前記2液硬化性シリコンが下面hに付与されてなる上の布帛a1と、前記プレステーブルfの吸着面eに吸引固定されている下の布帛a2とを圧着状態とする[図2(k)]。両布帛a1,a2が圧着された状態で、下向きの吸着面g1の吸引を止める。
S.その後、プレステーブルfを所定の位置まで下げる。該プレステーブルfの吸着面eには、上下の布帛a1,a2が接着積層されてなる接着積層体jが吸引固定された状態にある[図2(l)]。
T.その後、前記プレステーブルfを前方にせりだした状態とし、プレステーブルfの布帛吸引状態を解除し該接着積層体jを取り除く[図2(m)]。
その後、該プレステーブルfの吸着面e上に所定の配置状態で、二枚重ね布帛a4,a5を載置する[図2(n)]。
U.その後、プレステーブルfを前記塗布テーブルcの下方に位置させる[図2(o)]。
これらの動作を行っている間に、前記塗布テーブルcの上面に吸引固定されている布帛a3に対して、前記ディスペンサdによって、接着性を有する2液硬化性シリコンを付与する。
V.その後、プレステーブルfを上昇させ、上に位置する布帛a5を、塗布テーブルcの下面に設けられている前記吸着面g1に当接させる[図2(p)]。
W.その後、プレステーブルfを下降させ、前記塗布テーブルcを回転軸bを軸として180度回転させる[図2(q)]。これによって、2液硬化性シリコンが付与された布帛a3を、下向きの吸着面g2に吸引固定された状態で保持する[図2(r)]。
これらの動作を行っている間に、前記塗布テーブルcの上面に吸引固定されている布帛a3に対して、前記ディスペンサdによって、接着性を有する2液硬化性シリコンを付与する。
X.その後、前記プレステーブルfを上昇させ、塗布テーブルfの下向きの吸着面g2に吸引固定されている上の布帛a3と、プレステーブルfの吸着面eに吸引固定されてなる下の布帛a4とを圧着させる[図2(s)]。両布帛a3,a4が圧着された状態で、下向きの吸着面g2の吸引を止める。
Y.その後、該プレステーブルfを所定の位置まで下げる。該プレステーブルfの吸着面eには、布帛a3,a4が接着された接着積層体jが吸引固定された状態にある[図2(t)]。
Z.その後、プレステーブルfを前にせりだした状態とし、プレステーブルfの布帛吸引状態を解除し該接着積層体jを取り除く[図2(u)]。その後、吸着面e上に、前記と同様にして二枚重ねの布帛a6,a7を載置する[図2(v)]。
以降、前記U?Zの工程を繰り返す。

3 イ号方法の認定
(1)上記2より、イ号方法を、イ号図面(甲第1号証の1)の図2の記号を用いて、本件特許発明の構成要件A?Eの分説に対応する構成を構成A’?構成E’とし、さらなる構成を構成α及び構成βとして記載すると、次のとおりである。

A’.プレステーブルfの吸着面eに吸引固定された布帛a2の上に重ねた布帛a1を、吸着面g1と吸着面g2の両面に各々布帛を吸引固定できる塗布テーブルcの前記吸着面g1に吸引固定する工程、
α.前記布帛a1が吸引固定された前記塗布テーブルcを、その中央部にある水平方向の回転軸bを軸として180度回転させる工程、
β.プレステーブルfの吸着面eに吸引固定させている布帛a2の上に布帛a3を重ねて載置する工程、
B’.塗布テーブルcの吸着面g1に吸引固定された前記布帛a1に接着性を有する2液硬化性シリコンを付与すると同時に、前記布帛a3が重ねられた布帛a2が吸着面eに吸引固定されたままプレステーブルfを上昇させて、前記塗布テーブルcの前記吸着面g2に前記布帛a3を吸引固定する工程、
C’.前記布帛a2が吸引固定されたプレステーブルfを下降させると共に、塗布テーブルcを回転軸bを軸として180度回転させる工程、
D’.前記布帛a2が吸着面eに吸引固定された前記プレステーブルfを上昇させて前記布帛a1及びa2を圧着させると同時に、前記塗布テーブルcの前記吸着面g2に吸引固定された布帛a3に接着性を有する2液硬化性シリコンを付与する工程を有する
E’.布帛の接着積層方法。」

第5 対比・判断
以下、本件特許発明とイ号方法とを、分説した各構成要件と構成毎に対比・判断する。

1 構成要件Aと構成A’との対比・判断
(1)塗布テーブルの内部構造について
イ号方法における「塗布テーブル」は、その両面に各々布帛を吸引固定出来るものであるから、本件特許発明の「上部吸引台」に相当する。
そして、本件特許発明の構成要件Aは、「布帛を、内部が二層の中空状になっていて、吸着面4と吸着面5の両面に各々布帛を吸引固定できる上部吸引台8の吸着面4に吸引固定する工程、」であり、上記工程は、上部吸引台が「内部が二層の中空状」であることを前提として行われるものである。
請求人の示す各甲号証は、イ号方法の実施に使用する装置である「シリコン塗布機MRD-SR3008P」の外観や動作を説明あるいは写したものであり、「シリコン塗布機MRD-SR3008P」における塗布テーブルcの内部構造を説明している記載、写真、映像はない。

(2)請求人の説明及び当審の判断
請求人は、判定請求書において、イ号方法で使用する装置の塗布テーブルcについて、内部が二層の中空状をなしていることに関し、外観だけでは判断できないとしつつ、その装置の作動状態から、内部構造が確定される旨、下記の説明を行っている。
「イ号方法で使用する装置の上部吸引台cは、その内部が二層の中空状をなしているか否かについては、外観だけでは判断できないとしても、この点は、甲第2号証の広告パンフレットや、甲第3号証のDVDに撮影された装置の作動状態によれば、甲第1号証の1のイ号図面及び甲第1号証の2のイ号説明書のとおり、上部吸引台cの上下の吸着面g1,g2がそれぞれ上面側にあるとき、該吸着面(g1又はg2)に吸引保持されている布帛aに接着性を有する合成樹脂を付与する。この後、上部吸引台cを180度回転させて上下を反転させて該吸着面(g1又はg2)に吸引固定されている布帛aを下方向きにし、該布帛aに別の布帛aを貼り合わせ、次に、吸引を止めて吸着面(g1又はg2)から離脱させる。この間、他方の吸着面(g2又はg1)では別の布帛aを吸引固定した状態を保持している。このことから、上部吸引台cは、内部が二層の中空状になっていて、その上下の吸着面g1、g2の両面に各々布帛aを吸引固定できるものとしか考えられない。」(判定請求書第10頁第9?21行参照。)
しかし、イ号方法で使用する装置の塗布テーブルcの内部構造が外観からは特定できない以上、塗布テーブルcの「吸着面g1と吸着面g2の両面に各々布帛を吸引固定できる」との機能からは、塗布テーブルcが、吸着面g1、g2のそれぞれの面において、独立して真空吸引できるという機能を有していることが見いだせるだけであり、その内部の構造が二層の中空状であるとまでは認められない。
真空吸引を行う手段としては、種々の構造が知られているが、真空吸引手段を両面にそれぞれ個別に設けた場合には、その内部構造は必ずしも「内部が二層の中空状をなしている」という特定の内部構造に限定されるものではないことは明らかである。
例えば、筐体の相対向する2面で、独立してそれぞれの面で吸着を行い得る構造として、内部を単一空間として両面に独立した弁、バルブ等を適用して吸着制御を行ったり、3層以上の多層空間を形成して吸引する空間の容積を減らしたり、穴毎に個別の吸引配管系を設ける等、種々の構成が想定され得るものであり、「内部が二層の中空状をなしている」構造でなければ、上下面において、それぞれ吸着穴を多数設け、独立してそれぞれの面で吸着を行い得る機能を奏し得ないとまでは言えない。

したがって、イ号方法の構成A’は、構成要件Aを充足しない。

(3)被請求人の主張
なお、被請求人は、乙第1号証(本件特許出願における平成18年11月9日付けの拒絶理由通知書の写し)、乙第2号証の1(本件特許出願に係る平成19年1月12日付けの手続補正書の写し)、乙第2号証の2(本件特許出願に係る平成19年1月12日付けの意見書の写し)及び乙第3号証(本件公開特許公報)を提出すると共に、判定請求答弁書において、以下の主張をしている。
・「吸着面4と吸着面5の解釈は、これらの用語が補正によって始めて(判定注:「初めて」の誤記)請求項2に導入された経緯や、その補正の根拠となる記載が何であったのか等の事情を十分に考慮して行うべきである。
結論として、請求項2に記載されている『吸着面4』と『吸着面5』は共に、『これら両面が上に向いた状態で布帛が載置されることによって該布帛を吸引固定する吸着面』と解すべきである。以下、これを具体的に説明する。・・・」(判定請求書答弁書第3頁第2?8行参照。)
・「出願人のこれらの主張からすれば、『吸着面5に次に圧着されるべき別の布帛を吸引固定させ』る作業工程は、『布帛2と布帛16とを圧着する工程』と『同時』に行われるものである。従って『吸着面5に次に圧着されるべき別の布帛を吸引固定させ』る作業工程は、必ず、該吸着面5が上に向いた状態で行われるものである。
・・・
かかる出願の経緯から、『吸着面4』と『吸着面5』について、『布帛を吸い上げて吸引固定する吸い上げ吸着面g1と吸い上げ吸着面g2』を含めるように拡張的な解釈をすることは、『出願当初の明細書又は図面に記載した事項から自明な事項とは決していえない。かかる拡張的な解釈が許されるとすれば、『吸着面4』と『吸着面5』の両面に夫々布帛を吸引固定できる作用効果を果たし得る構成であれば、出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内になくとも、その全てが構成要件4を充足すると主張することになってしまう。これでは、出願人が発明した範囲を超えて特許権による保護を与える結果となってしまい、このような結果が生ずることは、特許権に基づく発明者の独占権は当該発明を公衆に対して開示することの大小として与えられるという特許法の理念に反するものとなってしまう。
それ故、請求項2に記載されている『吸着面4』と『吸着面5』は共に、『これら両面が上に向いた状態で布帛が載置されることによって該布帛を吸引固定する吸着面』と解すべきである。
(4)本件特許発明とイ号方法との対比
1)・・・
2)請求項2に記載されている『吸着面4』と『吸着面5』は共に、『これら両面が上に向いた状態で布帛が載置されることによって該布帛を吸引固定する吸着面』と解すべきであるところ、請求人の前記主張は、本願明細書の【0009】の記載を根拠として補正で初めて導入された『吸着面4』と『吸着面5』を、【0009】における根拠となる開示範囲及び前記【0005】の開示範囲を全く無視して解釈した結果のものである。
かかる解釈は、単なる国語的な拡大解釈を行っているに過ぎないものであり、発明開示の代償として独占権を付与する特許制度の趣旨及びこれを規定する特許法第36条第6項第1号並びに特許発明の技術的範囲の一般的解釈指針を規定する特許法第70条第2項の規定の趣旨に反するものであり、又、出願審査過程での自らの主張と矛盾するものであって包袋禁反言の法理に照らして許されない。
・・・
(二)以上によって、『布帛を載置、吸引固定し布帛に接着性を有する合成樹脂を付与する』工程を採用していないイ号方法が本件特許発明と同様の作用効果を奏するものとは決して言えず、両者は発明の作用効果において明確に相違している。
・・・
従って、『布帛を載置、吸引固定し布帛に接着性を有する合成樹脂を付与する』工程を有していないイ号方法と本件特許発明とは発明の目的においても明確に相違している。
4)まとめ
以上述べたことから明らかなように、本件特許発明に係る発明の目的、構成、作用・効果の記載、及び意見書での主張は、終始一貫して、『吸着面4』と『吸着面5』が、『これら両面が上に向いた状態で布帛が載置されることによって該布帛を吸引固定する吸着面』であることを前提としている。
かかることからすれば、イ号方法における前記『吸い上げ吸着面g1』と『吸い上げ吸着面g2』は、請求項2における『吸着面4』、『吸着面5』には該当しないのが明白である。このように、イ号方法が本件特許発明の構成要件14を充足しているとは決して言えない以上、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属さない。
イ号方法が本件特許発明の構成要件14を充足しているとは言えない理由を、念のため、構成要件1と構成要件4に分けてより具体的に説明する。
(イ)構成要件1を充足しない点
構成要件1は『布帛を、内部が二層の中空状になっていて、吸着面4と吸着面5の両面に各々布帛を吸引固定できる上部吸引台8の吸着面4に吸引固定する工程を有すること』である。
ここに、『吸着面4に布帛を吸引する工程』とは、『吸着面4に布帛を拡布状態で載置して吸引固定させるという、独立した一つの工程』を意味すると解すべきである。従って、イ号方法におけるように、『下向きの吸い上げ吸着面g1又はg2が、下部吸引台の吸着面上の布帛を吸い上げによって吸引固定した後、上部吸引台cの180度の回転により、上面側に位置した吸着面(g1又はg2)に布帛が吸引固定されている状態(この状態については、判定請求書の10頁16行目に記載されている)は、該180度の回転による結果的なものであり、『吸着面4に布帛を拡布状態で載置して吸引固定させるという、独立した一つの工程』とは決して言えず、布帛を吸着面4に吸引固定する工程』には該当しない。」(判定請求書答弁書第3頁第2行?第14頁第21行参照。)

上記主張についての見解を以下に述べる。

上記第2で示したように、本件特許発明は、本件特許の請求項2にかかる「布帛の接着積層方法」に関する発明である。
そして、本件特許発明の構成要件Aにおいては、布帛を、布帛を吸引固定できる上部吸引台8の吸着面4に吸引固定する工程を備え、当該上部吸引台8の構造については、内部が二層の中空状になっていて、吸着面4と吸着面5の両面に各々布帛を吸引固定できるとの限定が付されているものの、吸着面4に対してどのようにして布帛を吸引固定させるかについてその手順が特定されるものではない。
これに対し、被請求人は、上記のように、審査経緯及び本件特許明細書の記載から、本件特許発明の「吸着面4に布帛を吸引する工程」とは、「吸着面4に布帛を拡布状態で載置して吸引固定させるという、独立した一つの工程」を意味すると解すべきである旨主張している。
しかしながら、審査段階において、出願当初の明細書の段落【0009】を根拠としてなされた補正は、構成要件Dにかかる記載であり、また、構成要件Aは、上部吸引台8に布帛、特に、最初の一枚の布帛をどのようにして吸引させるのかについて特定するものではない。
したがって、被請求人が主張するような解釈をすべきとする理由はない。

なお、すでに上記(2)で述べたように、イ号方法におけるプレステーブルfが「内部が二層の中空状をなしている」構造を有していると認定することはできないのであるから、本件特許発明の吸着面4に吸引固定する工程において、布帛をどのように吸着面4に吸引固定させるかにかかわらず、イ号方法の構成A’が本件特許発明の構成要件Aを充足しないことに変わりはない。

2 構成要件Bと構成B’との対比・判断
イ号方法における「2液硬化性シリコン」は、上記「第4 1(4)」及び「第4 1(5)」から、2液を混合させて、布帛に塗布する接着性を有する液体であるから、シリコーン系の合成樹脂であることは明らかである。
よって、イ号方法における「2液硬化性シリコン」は、本件特許発明の「合成樹脂」に相当する。
また、イ号方法は、構成B’によると、「塗布テーブルcの吸着面g1に吸引固定された前記布帛a1に接着性を有する2液硬化性シリコンを付与する」ものであるから、イ号方法は、上部吸引台8の吸着面4に吸引固定された布帛に接着性を有する合成樹脂を付与する工程を備えるものである。

したがって、イ号方法の構成B’は、構成要件Bを充足する。

3 構成要件Cと構成C’との対比・判断
構成α及びC’によると、「回転軸b」は、「塗布テーブルc」の「中央部にある水平方向の回転軸b」であり、イ号方法は「塗布テーブルcを回転軸bを軸として180度回転させる工程、」を備えるものであるから、イ号方法の「回転軸b」は本件特許発明の「回転軸9」に相当する。

したがって、イ号方法の構成C’は、構成要件Cを充足する。

4 構成要件Dと構成D’との対比・判断
(1)請求人の説明と当審の判断
請求人は、判定請求書において、下記のとおり説明する。
「イ号の方法では、・・・言い換えると、下部吸引台fの上昇により布帛同士を圧着すると同時に、上部吸引台cの上面側の吸着面<g2又はg1>に吸引固定されてなる布帛に、接着性を有する合成樹脂を付与することになり、本件特許発明の前記構成4の工程と実質的に同じ工程を実施することになる。」(判定請求書第6頁第12?23行参照。なお、○の中に数字が入っている文字は判定では表記できないので、単にその数字を記している。例えば、「構成4」。以下の引用箇所の記載についても同様。)
「すなわち、イ号方法では、下部吸引台f上の二枚重ねの上側の布帛aを吸い上げ吸引固定した後の上部吸引台cの180度回転により、上面側に位置した吸着面(g1又はg2)に吸引固定させた状態の布帛aに、接着性を有する合成樹脂を付与する工程を実施している間に、該上部吸引台cの下面側の吸着面(g2又はg1)に吸引固定されている合成樹脂付与後の布帛aに、前記二枚重ねの残り布帛aを圧着し、さらに、こうして布帛同士を貼り合わせた接着積層体jを取り除いた後、再度、下部吸引台f上に二枚重ねで供給される布帛の上側の布帛aを、接着積層体jを取り除いた後の上部吸引台cの下面側の吸着面(g2又はg1)に吸い上げ固定させておき、前記合成樹脂付与後の上部吸引台cの180度回転により、上面側に吸引固定した状態に保持するものである。この場合においても、接着性を有する合成樹脂を付与している間に、下部吸引台fの上昇により布帛同士を圧着する工程が行われること、言い換えれば、下部吸引台fの上昇により布帛同士を圧着するのと同時に、上部吸引台cの上面側の吸着面(g2又はg1)に吸引固定した布帛aに、接着性を有する合成樹脂を付与する工程を有することには変わりがなく、本件特許発明の4の工程と実質的に同じ工程を備えることになる。
なお、本特許発明では、実施の形態の説明において、裁断された布帛2を、拡布状態で上部吸引台8の吸着面4に布帛を吸引固定するとしているだけであり、上面にある吸着面に載置する方法までは限定していない。
よって、本件特許発明の構成4の工程とイ号方法の4’の工程には、実質的に差異を有さないものである。」(判定請求書第11頁第24行?第12頁第18行参照。)

上記判定請求書の説明をまとめれば、上部吸引台cの上面にある吸着面g2に布帛aを吸引固定する手順について、本件特許発明の実施の形態の説明においては、拡布状態で上部吸引台8の吸着面に載置して吸引固定するという手順をとることが説明されており、下部吸引台f上に二枚重ねで供給される布帛の上側の布帛aを、上部吸引台cの下面側の吸着面に吸い上げ吸引させた後、上部吸引台cを180度回転させることにより、上部吸引台cの上面にある吸着面g2に布帛aを吸引固定するという、イ号方法とは異なる手順を取るが、本件特許発明においては、上面にある吸着面に載置する方法までは限定していないから、本件特許発明の4の工程とイ号方法の4’の工程には、実質的に差異を有さないとの趣旨と認められる。
しかし、本件特許発明の構成要件Dは、「布帛を吸着面6に吸引固定した下部吸引台17を上昇させて布帛同士を圧着させる」ことと「上部吸引台8の吸引面5に布帛を吸引固定し、該布帛に接着性を有する合成樹脂を付与する」こととが同時に行われる工程であるとしたものであり、上部吸引台8に吸着された布帛2と下部吸引台17に吸着された布帛16が、布帛16が吸引固定された下部吸引台の上昇により、圧着される工程中に、上部吸引台8の吸着面5に布帛18を載置、吸引固定し、接着性を有する合成樹脂を付与するものが、本件特許明細書の段落【0008】、【0009】、図2及び図5にも、示されている。
本件特許発明においては、請求人が主張するように、どのような手段を用いて上部吸引台8の吸引面5に布帛18を吸引固定させるのかまでは特定されていないが、上部吸引台8の布帛2を吸引固定された吸着面4が、布帛16が吸引固定された下部吸引台17に対向して、布帛2と布帛16とを圧着させる圧着工程と、上部吸引台8の、下部吸引台17と対向しない吸引面5に布帛18を吸引固定し、該布帛に接着性を有する合成樹脂を付与する樹脂付与工程とを同時に行うものであり、構成要件Dの工程以前には、上部吸引台8の吸引面5に布帛を吸引固定する工程が無いことから、少なくとも、既に上部吸引台8の吸引面5に吸引固定されている状態の布帛に、構成要件Dの工程において接着性を有する合成樹脂を付与するというものではなく、構成要件Dの工程中に初めて、上部吸引台8の吸引面5に布帛を吸引固定する動作が行われ、該布帛に接着性を有する合成樹脂を付与するものであると認められる。
そうすると、構成要件Dにおける「上部吸引台8の吸引面5に布帛を吸引固定し、該布帛に接着性を有する合成樹脂を付与する」ことは、被請求人が主張するように、吸引面5が上を向いた状態で新たに別の布帛が吸引面5に吸引固定され、該布帛に接着性を有する合成樹脂を付与することを示すと認められる。
また、本件特許明細書には、上述した、布帛2と布帛16の圧着工程中に、上部吸引台8の吸引面5に布帛18を載置、吸引固定し、接着性を有する合成樹脂を付与する手順以外に、布帛同士を圧着させることと、吸引面に布帛を吸引固定し、該布帛に合成樹脂を付与することとの関係を説明した記載はない。
以上を踏まえると、構成要件Dは、「別の布帛を吸着面6に吸引固定した下部吸引台17を上昇させて布帛同士を圧着させると同時に、上部吸引台8の吸引面5に布帛を吸引固定し、該布帛に接着性を有する合成樹脂を付与する工程を有すること」であり、布帛同士を圧着することと、上部吸引台8の吸引面5に布帛を吸引固定し、該布帛に接着性を有する合成樹脂を付与することとが、同じ工程で行われるものである。
これに対して、イ号方法は、布帛a2が吸着面eに吸引固定された下部吸引台fを上昇させて、当該布帛a2と上部吸引台cの吸着面g1に吸引固定された布帛a1とを圧着させると同時に、前記上部吸引台cの吸着面g2に吸引固定された布帛a3に接着性を有する合成樹脂を付与する(構成E’参照。)ものの、布帛同士を圧着させる工程の前で、前記上部吸引台cの前記吸引面g2に前記布帛a3が既に吸引固定されている(構成β、構成B’参照。)ものである。
したがって、イ号方法の構成D’は、「別の布帛を吸着面6に吸引固定した下部吸引台17を上昇させて布帛同士を圧着させると同時に、上部吸引台8の吸引面5に布帛を吸引固定し、該布帛に接着性を有する合成樹脂を付与する」ものとは言えず、イ号方法の構成D’は、構成要件Dを充足しない。

5 構成要件Eと構成E’との対比・判断
イ号方法の構成E’は、「布帛の接着積層方法」であるから、本件特許発明の構成要素Eを充足する。

第6 むすび
上記「第5(1)」ないし「第5(5)」に示すように、イ号方法の構成は本件特許発明の構成要件B、C、Eは充足するものの、本件特許発明の構成要件A、Dを充足していない。
したがって、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2012-11-19 
出願番号 特願2002-95819(P2002-95819)
審決分類 P 1 2・ 9- ZB (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 健史斎藤 克也  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 藤原 敬士
松岡 美和
登録日 2007-10-12 
登録番号 特許第4022908号(P4022908)
発明の名称 布帛接着積層装置及びその方法  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 蔦田 正人  
代理人 岡本 清一郎  
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