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審決分類 審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属さない(申立て不成立) B29C
管理番号 1267034
判定請求番号 判定2012-600029  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2013-01-25 
種別 判定 
判定請求日 2012-08-24 
確定日 2012-11-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第4022908号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「布帛接着積層装置及びその方法」は、特許第4022908号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯
1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号図面及びその説明書に示す布帛接着積層装置は、特許第4022908号技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

2 手続の経緯
平成14年 3月29日 出願
平成19年10月12日 特許登録
平成24年 8月24日 本件判定請求
平成24年 9月12日 手続補正(代理権の証明)
平成24年10月22日 手続補正(被請求人の欄)
平成24年10月25日 判定請求答弁書


第2 特許第4022908号の発明
特許第4022908号は、請求項1及び請求項2を備えているが、上記請求の趣旨のように、本件判定は「イ号図面並びにその説明書に示す布帛接着積層装置」に対して請求されたものであり、特許第4022908号(以下、「本件特許」という。)の発明において「装置」発明は、請求項1に係る発明であり、判定請求書においても「本件特許発明の「布帛接着積層装置」は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり」と説明していることから、以下では、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)を対象として検討する。

本件特許発明を構成要件毎に分説すると次のとおりである。

ア 布帛を吸引固定するための、その中央部にある水平方向の回転軸9を軸として回転可能な上部吸引台8と、
イ 上部吸引台8の上方に移動可能に配置されて、上部吸引台8上に吸引固定された布帛に接着性を有する合成樹脂を付与するためのディスペンサー1と、
ウ 上部吸引台8の下方に設置され、布帛を吸引固定するための、上下・前後に移動可能な下部吸引台17とを具備しており、
エ 上部吸引台8の内部が二層の中空状になっていて、吸着面4と吸着面5の両面に各々布帛を吸引固定できること
オ を特徴とする布帛接着積層装置。


第3 本件特許発明の目的及び効果
特許明細書に記載された本件特許発明の目的及び効果に関する記載は以下のとおり。
1 目的
【0003】
【発明の目的】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、エアバッグ等を構成する布帛同士を接着性を有する合成樹脂を用いて接着積層する工程において、接着性を有する合成樹脂の布帛への付与と布帛同士の接着工程を一台の機械で行えるようにし、そのため機械の設置面積を小さくでき、その作業を簡単に効率的に行うことのできる装置及び方法を提供するものである。

2 効果
【0011】
【発明の効果】
本発明によれば、接着性を有する合成樹脂を付与された布帛と他の布帛を圧着しながら、同時に他の布帛に接着性を有する合成樹脂を付与することができるため、効率よく布帛の貼り合わせができ、更に、布帛への接着性を有する合成樹脂などの樹脂の付与と、布帛同士の貼り合わせ、布帛同士の圧着工程が一台の機械できるため、設備を設置するスペースが狭くてすむなどの利点がある。


第4 イ号装置
1 イ号装置が掲載された被請求人発行の広告パンフレット(甲第2号証)の記載事項
イ号装置が掲載された被請求人発行の広告パンフレット(以下、「甲第2号証パンフレット」という。)には、上下に2つのテーブルを有した「シリコン塗布機MRD-SR3008P」(1頁目)が掲載されると共に、以下の記載がある。
(1)3頁目に「吸着テーブル」の説明として、「20mmピッチであけられた吸着穴で確実にワークをホールドします。」との記載及び穴を多数設けた写真が記載されている。

(2)3頁目に「回転テーブル」の説明として、「塗布面とワーク受け渡しが回転テーブルにより行えます。」との記載及び穴を多数設けたテーブルの側面中央部に軸を配置した写真が記載されている。

(3)4頁目に「スライドテーブル」の説明として「ワークセットを容易にするため、セット時、取り出し時は手前に移動します。塗布をしている間にプレス、取り出し、ワークセットまで作業が終わるため、生産性に優れています。」との記載及びテーブルが手前に出ている写真が記載されている。

(4)4頁目に「スタティックミキサー」の説明として「ロングタイプを使用し、2液を完全に混合させることができます。プラスティック製の使い捨てタイプを使用しているので煩わしいクリーニングの手間がありません。また、Z軸が昇降するため、塗布後に先端が、干渉することもありません。」との説明及びテーブル上の布帛にディスペンサーの先端を向けディスペンサーの付け根に2本の配管が取り付けられている写真が記載されており、また、「ディスペンサー」の説明として「サーボモーター駆動によるローターの回転制御により混合比、吐出量を簡単に調整できます。高粘度の液体も安定供給でき、液ダレ、液だまりがなくワークや周辺機器を汚しません。」との説明及び2系統の配管系が取り付けられた写真が記載されている。

(5)6頁目には、「1ディスペンサ仕様」に、「対象材料」が「2液硬化性シリコン」と記載されている。

(6)同じく6頁目には、「2塗布テーブル仕様」及び「3プレステーブル仕様」共に、「バキューム能力」として同一の能力「17.6kPa 2.4m^(3)/min」が、また、「吸着エリア」として同一の大きさ「3000×800mm(X×Y)両面」が記載されており、さらに、「2塗布テーブル仕様」には、「反転方式」であることが、また、「3プレステーブル仕様」には、「プレス能力」が記載されている。

2 甲第2号証パンフレット及びイ号装置の使用による布帛の接着積層作業状態を撮影したDVD(以下、「甲第3号証DVD」という。)に基づいて確認できた事項、並びに、甲第2号証パンフレット及び甲第3号証DVDにより、イ号図面(甲第1号証の1)及びイ号説明書(甲第1号証の2)の図及び説明のうちで、確認できた事項。
(1)甲第3号証DVDによれば、イ号装置が、イ号図面(甲第1号証の1)及びイ号説明書(甲第1号証の2)に記載された動作を行っていることを確認できた。

(2)甲第2号証パンフレットに記載された装置である「シリコン塗布機MRD-SR3008P」は、甲第3号証DVDに撮影された装置の作動状態によれば、甲第1号証の1のイ号図面と甲第1号証の2のイ号説明書のとおり、2枚の布帛を2液硬化性シリコンにより接着・積層する装置である。

(3)上記1(6)から、塗布テーブルは、上記1(1)及び1(2)の回転テーブル及び吸着テーブルの両機能を有しているテーブルであり、また、プレステーブルは、プレス機能及び吸着テーブルの両機能を有しているテーブルであり、甲第3号証DVDによれば、当該機能を考慮すると、甲第2号証パンフレットに記載された「シリコン塗布機MRD-SR3008P」における上下2つのテーブルの内、上側のテーブルが塗布テーブルであり、下側のテーブルがプレステーブルである。
また、甲第2号証パンフレット及び甲第3号証DVDに撮影された装置の作動状態から、塗布テーブル(回転テーブル)の軸は塗布テーブルの端部側面の中央部水平方向に配置され、その軸を中心に塗布テーブルが回転しているものであり、塗布テーブルの両面において、布帛が吸引固定されることが確認できた。

(4)上記1(4)及び1(5)の「1ディスペンサ仕様」の記載及び写真、並びに、甲第3号証DVDに撮影された装置の作動状態によれば、甲第1号証の1のイ号図面及び甲第1号証の2のイ号説明書のとおり、ディスペンサーは、塗布テーブルの上方において、回転軸と平行及び直交する方向(X-Y方向)及びZ軸(上下)方向に移動すること、また、塗布テーブルの上面に吸引固定された布帛に「2液硬化性シリコン」を塗布していることが確認できた。

(5)上記1(1)?(3)及び1(6)の記載及び写真、並びに、甲第3号証DVDに撮影された装置の作動状態によれば、甲第1証の1のイ号図面及び甲第1号証の2のイ号説明書のとおり、前記プレステーブル及びスライドテーブルは、これを兼務するもの(以下「プレス兼スライドテーブル」という。)であり、その上面に布帛aを吸引固定でき、塗布テーブルcの下方において、上下に移動可能であり、塗布テーブルcの下方とそれから手前の位置との間を、前後に移動可能であることが確認できた。

(6)上記1(1)吸着テーブルについての「20mmピッチであけられた吸着穴で確実にワークをホールドします。」との記載及び写真と、上記1(2)回転テーブルについての「塗布面とワーク受け渡しが回転テーブルにより行えます。」の記載、並びに、甲第3号証DVDに撮影された装置の作動状態によれば、甲第1号証の1のイ号図面及び甲第1号証の2のイ号説明書のとおり、塗布テーブルcは、上面側の吸着面g1に吸引保持されている布帛に2液硬化性シリコンを塗布した後、180度回転させて下方向きにし、プレス兼スライドテーブルを上昇させることで、該布帛にプレス兼スライドテーブル上の別の布帛を貼り合わせた後、貼り合わせた布帛を吸着面から離脱させること、また、この間に、他方の吸着面では、さらに別の布帛を吸引固定した状態を保持していること、即ち、塗布テーブルcによりその上下の吸着面g1,g2両面に各々布帛を吸引固定していることが確認できた。

上記の確認事項を整理し、イ号装置の構成を、甲第1号証の1のイ号図面の記号を用いて本件特許発明の構成要件ア?オの分説に合わせて記載すると、次のとおりである。

ア’布帛aを吸引固定するための、その中央部にある水平方向の回転軸bを軸として回転可能な塗布テーブルcと、
イ’塗布テーブルcの上方に移動可能に配されて、塗布テーブルc上に吸引固定された布帛aに接着性を有する2液硬化性シリコンを塗布するためのディスペンサーdと、
ウ’塗布テーブルcの下方に設置され、布帛aを吸引固定するための、上下・前後に移動可能なプレス兼スライドテーブルfとを具備しており、
エ’塗布テーブルcの両面が吸着面g1,g2となっていて、一方の吸着面g1と他方の吸着面g2の両面に各々布帛を吸引固定できること
オ’を特徴とするシリコン塗布機。


第5 対比・判断
以下、本件特許発明とイ号装置とを、分説した各構成要件と構成毎に対比・判断するが、本件特許発明の構成要件エ及びイ号装置の構成エ’のそれぞれの認定について、両当事者間において争いがある。
構成要件エ及び構成エ’に関する両当事者の主張については、下記の「構成要件エと構成エ’との対比・判断」で、検討する。

1 構成要件アと構成ア’との対比・判断
イ号装置の構成ア’における「塗布テーブルc」は、両面が吸着面g1,g2となっていて、一方の吸着面g1と他方の吸着面g2の両面に各々布帛を吸引固定するものであり、その中央部にある水平方向の回転軸bを軸として回転可能であるから、本件特許発明の「上部吸引台8」に相当する。
したがって、イ号装置の構成は、本件特許発明の構成要件アを充足する。

2 構成要件イと構成イ’との対比・判断
イ号装置の構成イ’における「接着性を有する2液硬化性シリコン」は、上記第4 1(4)及び(5)から、2液を混合させて、布帛に塗布する接着性を有する液体であるから、シリコーン系の合成樹脂であることは明らかである。したがって、イ号装置の「接着性を有する2液硬化性シリコン」は、本件特許発明の「接着性を有する合成樹脂」に相当する。
したがって、イ号装置の構成は、本件特許発明の構成要件イを充足する。

3 構成要件ウと構成ウ’との対比・判断
イ号装置の構成ウ’における「プレス兼スライドテーブルf」は、布帛を吸引固定し、塗布テーブルcの下方で上下に移動し、塗布テーブルcに吸引肯定されている布帛に対してプレスを行うテーブルであり、更に、塗布テーブルcの下方とその手前との間を前後に移動可能なテーブルであるから、本件特許発明の「下部吸引台17」に相当する。
したがって、イ号装置の構成は、本件特許発明の構成要件ウを充足する。

4 構成要件エと構成エ’との対比・判断
(1)内部構造について
判定請求書及び甲第1号証の2のイ号説明書では、イ号装置における塗布テーブルcの「内部が二層の中空状をなしている」旨説明しているが、甲第2号証パンフレットには、塗布テーブルcの内部構造を説明している記載は存在しない。
また、甲第2号証パンフレットに掲載されている写真及び甲第3号証のDVDの装置を撮影した映像は、イ号装置の外観を写したもののみであり、イ号装置における塗布テーブルcの内部構造を写したものもない。
即ち、イ号装置における塗布テーブルcの「内部が二層の中空状をなしている」事を示す具体的な説明、写真及び映像はない。

(2)判定請求人の説明と当審の判断
本件判定請求人は、イ号装置における塗布テーブルcの「内部が二層の中空状をなしている」事に関して、外観のみで判断できない点を肯定しつつ、装置の動作・機能から内部構造が確定される旨、下記の説明を行っている。(なお、下記の下線は、当審合議体が引いたものである。以下同様。)

「2)また、イ号装置の上部吸引台cは、その内部が二層の中空状をなしているか否かについては、外観だけでは判断できないとしても、この点は、甲第2号証の広告パンフレットや、甲第3号証のDVDに撮影された装置の作動状態によれば、前記(5)の4)項で述べたとおり、上部吸引台cの上下の吸着面gl、g2が各々個別的に布帛を吸引固定できるようになっていることから、内部が二層の中空状をなしているとしか考えられない。
すなわち、イ号装置を使用する布帛の接着積層の実施において、上下の吸着面は、いずれも上面側にあるときに該吸着面に吸引保持されている布帛aに接着性を有する合成樹脂を付与してから180度回転させて下方向きにし、別の布帛aの貼り合わせた後に吸引を止めて吸着面から離脱させるとともに、この間、他方の吸着面では別の布帛を吸引固定した状態を保持していることから、内部が二層の中空状になっていて、その上下の吸着面gl、g2の両面に各々布帛aを吸引固定できるものとしか考えられないものである。
よって、本件特許発明の構成4とイ号装置の4’とには、実質的に差異を有さないものである。」(判定請求書9頁12?26行:なお、○の中に数字が入っている文字は判定で標記できないので、単にその数字を記している。例えば、「構成4」,「イ号装置の4’」。以下の引用箇所の記載についても同様。)

つまり、イ号装置における塗布テーブルcは、「上部吸引台cの上下の吸着面gl、g2が各々個別的に布帛を吸引固定できるようになっている」ことから、「内部が二層の中空状をなしている」としか考えられないとの趣旨と認められるが、イ号装置の塗布テーブルcの内部構造が外観からは特定できない以上、「上部吸引台cの上下の吸着面gl、g2が各々個別的に布帛を吸引固定できるようになっている」との機能、即ち、イ号装置における塗布テーブルcは、吸着面gl、g2のそれぞれの面において、独立して真空吸引できると言う機能を有していることが見出せるだけである。
真空吸引を行う手段としては、種々の構造が知られているが、周知の真空吸引手段を両面にそれぞれ個別に設けた場合には、その内部構造は必ずしも「内部が二層の中空状をなしている」という特定の内部構造に限定されるものではないことは明らかである。
例えば、筐体の相対向する2面で、独立してそれぞれの面で吸着を行いうる構造として、中を単一空間として両面に独立した弁、バルブ等を適用して吸着制御を行ったり、3層以上の多層空間を形成して吸引空間の容積を減らしたり、穴毎に個別の吸引配管系を設ける等、種々の構成が想定され得るものであり、「内部が二層の中空状をなしている」構造でなければ、上下面において、それぞれ吸着穴を多数設け、独立してそれぞれの面で吸着を行いうる機能を奏し得ないとまでは言えない。

なお、布帛の吸引工程に関する塗布テーブル周辺の構造とその動作について、甲第2号証パンフレットの3頁「回転テーブル」の写真及び甲第3号証DVDの映像(例えば、開始から48秒ないし50秒の映像)から、次の事項が認識できる。
塗布テーブルcの回転軸bのある端面の少なくとも一方側の端面には、回転軸が取り得けられた位置の両側の端部にそれぞれ開口部が有り、また、回転軸bの手前側に前記開口部と接続される配管が有り、更に、塗布テーブルの回転軸bのある面とは異なる側面(手前側とその裏面側)の左右に、それぞれ上下2個の金属板が有る事が看取され、それらの動作として塗布テーブルcの下に向いた面で下方にある布帛を吸着させる際に、前記開口部に配管が接続されると共に下側の前記金属板が手前に僅かに移動し、吸着が終わり塗布テーブルcが反転する前に、前記開口部に接続された配管が外されると共に下側の前記金属板が元の位置に戻る動作が認識できる。
しかし、これらの構造及び動作について、甲第2号証パンフレット及び甲第3号証DVDには特段の説明はないし、これらの写真、映像による動作からも、イ号装置における塗布テーブルcが、「内部が二層の中空状をなしている」構造を有していると特定できるものではない。

したがって、イ号装置の構成は、本件特許発明の構成要件エを充足しない。


(3)被請求人の主張について
なお、被請求人は、乙第1号証(本件特許出願に係る平成18年11月 9日付けの拒絶理由通知書の写し)、乙第2号証の1(本件特許出願に係る平成19年 1月12日付けの手続補正書の写し)、乙第2号証の2(本件特許出願に係19年 1月12日付けの意見書の写し)及び乙第3号証(本件公開特許公報)を提出すると共に、以下の主張をしている。

「6.答弁の理由
(1)イ号装置の構成は、本件特許発明の構成要件4「上部吸引台8の内部が二層の中空状になっていて、吸着面4と吸着面5の両面に各々布帛を吸引固定できること」を充足しているとは言えないため、イ号装置は本件特許発明の技術的範囲に属さない。
以下その理由を詳細に説明する。
・・・
(3)吸着面4と吸着面5の意義について
吸着面4と吸着面5の解釈は、これらの用語が補正によって始めて請求項1に導入された経緯や、その補正の根拠となる記載が何であったか等の事情を十分に考慮して行うべきである。
結論として、請求項1に記載されている「吸着面4」と「吸着面5」は共に、「これら両面が上に向いた状態で布帛が載置されることによって該布帛を吸引固定する吸着面」と解すべきである。・・・
かかる出願の経緯から、「吸着面4」と「吸着面5」について、「布帛を吸い上げて吸引固定する吸い上げ吸着面glと吸い上げ吸着面g2」を含めるように拡張的な解釈をすることは、「出願当初の明細書又は図面に記載した事項から自明な事項とは決していえない。かかる拡張的な解釈が許されるとすれば、「吸着面4」と「吸着面5」の両面に夫々布帛を吸引固定できる作用効果を果たし得る構成であれば、出願当初の明細書又は図面に記載した事項から自明な事項の範囲内になくても、その全てが構成要件4を充足すると主張することになってしまう。これでは、出願人が発明した範囲を超えて特許権による保護を与える結果となってしまい、このような結果が生ずることは、特許権に基づく発明者の独占権は当該発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるという特許法の理念に反するものとなってしまう。
それ故、請求項1に記載されている「吸着面4」と「吸着面5」は共に、「これら両面が上に向いた状態で布帛が載置されることによって該布帛を吸引固定する吸着面」と解すべきである。
(4)本件特許発明とイ号装置との対比
1)・・・
2)請求項1に記載されている「吸着面4」と「吸着面5」は共に、「これら両面が上に向いた状態で布帛が載置されることによって該布帛を吸引固定する吸着面」と解すべきであるところ、請求人の前記主張は、本願明細書の【0005】の記載を根拠として補正で初めて導入された「吸着面4」と「吸着面5」を、【0005】における根拠となる開示範囲及び前記【0009】の開示範囲を全く無視して解釈した結果のものである。
かかる解釈は、単なる国語的な拡大解釈を行っているに過ぎないものであり、発明開示の代償として独占権を付与する特許制度の趣旨及びこれを規定する特許法第36条第6項第1号並びに特許発明の技術的範囲の一般的解釈指針を規定する特許法第70条第2項の規定の趣旨に反するものであり、又、出願審査過程での自らの主張と矛盾するものであって包袋禁反言の法理に照らして許されない。
・・・
従って、「布帛を載置、吸引固定し布帛に接着性を有する合成樹脂を付与する」構成を有していないイ号装置と本件特許発明とは発明の目的においても明確に相違している。
4)まとめ
以上述べたところから明らかなように、本件特許発明に係る発明の目的、構成、作用・効果の記載、及び意見書での主張は、終始一貫して、「吸着面4」と「吸着面5」が、「これら両面が上に向いた状態で布帛が載置されることによって該布帛を吸引固定する吸着面」であることを前提としている。
かかることからすれば、イ号装置における前記「吸い上げ吸着面g1」と「吸い上げ吸着面g2」は、請求項1における「吸着面4」、「吸着面5」には該当しないのが明白である。このように、イ号装置が本件特許発明の構成要件4を充足しているとは決して言えない以上、イ号装置は、本件特許請求の範囲の請求項1に係る本件特許発明の技術的範囲に属さない。」(答弁書2頁1行?13頁最終行)

上記主張についての見解を以下に述べる。

上記第2で示したように、本件特許発明は、本件特許の請求項1に係る「布帛接着積層装置」に関する発明である。
そして、本件特許発明の上部吸引台の構成要件としては、分説した下記のア、エの2点を有するものの、各装置の操作手順については、何ら特定されるものではない。
ア 布帛を吸引固定するための、その中央部にある水平方向の回転軸9を軸として回転可能な上部吸引台8と、
エ 上部吸引台8の内部が二層の中空状になっていて、吸着面4と吸着面5の両面に各々布帛を吸引固定できること

これに対し被請求人は上記のように、審査経緯及び特許明細書の記載から本件特許発明の「吸着面4」と「吸着面5」は、共に、次のような操作手順を組み込んだ「これら両面が上に向いた状態で布帛が載置されることによって該布帛を吸引固定する吸着面」と解すべきである旨主張している。
しかしながら、本件特許は、請求項1に係る「装置」に関する発明と、請求項2に係る「方法」に関する発明があり、請求項1に係る「装置」に関する発明に対して、審査段階において補正・追加された上記エの構成要件は、出願当初明細書の【0005】に記載された上部吸引台の内部構造に関する記載に基づくものであり、出願当初明細書の【0009】を根拠とする補正は、装置の操作手順を特定する請求項2に係る「方法」に関する発明に対するものである。
上記第3で挙げたように、特許明細書に記載されている目的は、「本発明は、上述の課題を解決するものであり、エアバッグ等を構成する布帛同士を接着性を有する合成樹脂を用いて接着積層する工程において、接着性を有する合成樹脂の布帛への付与と布帛同士の接着工程を一台の機械で行えるようにし、そのため機械の設置面積を小さくでき、その作業を簡単に効率的に行うことのできる装置及び方法を提供するものである。」というものである。
そして、本件特許発明においては、構成要件エで、上部吸引台の両面の吸着面4、5に各々布帛を吸引固定できることを特定しているだけであり、布帛の載置及び吸引に関する操作手順までは限定されていない。
ところで、本件特許発明は装置に関する発明であり、その構成要件により、上部吸引台の上下両面において布帛を吸引固定でき、上部吸引台の上方にディスペンサーを配置し、上部吸引台の下に布帛を吸引固定できる下部吸引台を配置できるのであるから、一台の機械で、接着される布帛と合成樹脂の付与が行われる布帛とを同時に吸引固定する機能を有しているのは明らかである。
したがって、本件特許発明は上記特許明細書記載の目的を達成しうるものであり、本件特許発明に係るそのような装置自体は、出願当初明明細書において既に開示された範囲のものである。
また、本件特許明細書には、装置の操作手順として、布帛同士の接着工程と布帛への合成樹脂の付与については、特定の工程しか説明されていないが、本件特許発明は、装置に関する発明として既に上記目的を達成しているものであり、特定の操作手順を有する装置として限定的に解釈されるべき理由はない。
さらに、構成要件エ及び構成エ’における吸着面に関して、被請求人が認定すべきと主張する「これら両面が上に向いた状態で布帛が載置されることによって該布帛を吸引固定する吸着面」(構成要件エ)及び「布帛を吸い上げて吸引固定する吸い上げ吸着面glと吸い上げ吸着面g2」(構成エ’)は共に、吸着面を用いた布帛の吸着動作手順を、吸着面の構成要件及び構成として認定しようとするものであるが、布帛の吸着に関するそのような吸着動作手順にかかわらず、装置自体の構成としては、イ号装置の塗布テーブルc及び本件特許発明の上部吸引台8の何れも、その両面に各々個別に布帛を吸引固定できる吸着面を有しているものである。
したがって、両面の「吸着面」が、各々個別に布帛を吸引固定できる機能を有している点において、本件特許発明の上部吸引台8における吸着面4,5とイ号装置の塗布テーブルcにおける吸着面g1,g2とに差異はない。

なお、すでに上記(2)で述べたように、イ号装置における塗布テーブルcが、「内部が二層の中空状をなしている」構造を有していると特定することはできないのであるから、本件特許発明の上部吸引台8における吸着面4,5とイ号装置の塗布テーブルcにおける吸着面g1,g2との異同にかかわらず、イ号装置は、本件特許発明の構成要件エを充足しない事に変わりはない。

5 構成要件オと構成オ’との対比・判断
イ号装置の構成オ’における「シリコン塗布機」は、2枚の布帛を2液硬化性シリコンにより接着・積層する装置であるから、本件特許発明の「布帛接着積層装置」に相当する。
したがって、イ号装置の構成は、本件特許発明の構成要件オを充足する。


第6 むすび
以上のとおりイ号装置の構成は、本件特許発明の構成要件エを充足しないから、イ号装置は、本件特許の請求項1に係る発明の技術範囲に属しない。
 
判定日 2012-11-20 
出願番号 特願2002-95819(P2002-95819)
審決分類 P 1 2・ - ZB (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 健史斎藤 克也  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 松岡 美和
藤原 敬士
登録日 2007-10-12 
登録番号 特許第4022908号(P4022908)
発明の名称 布帛接着積層装置及びその方法  
代理人 岡本 清一郎  
代理人 蔦田 正人  
代理人 蔦田 璋子  

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