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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) G06F
管理番号 1267035
判定請求番号 判定2012-600020  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2013-01-25 
種別 判定 
判定請求日 2012-07-12 
確定日 2012-12-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第4611388号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号説明書に示す,形式「REGZA Phone IS04」の携帯電話機にインストールされた「ホームアプリ」と称するコンピュータプログラムは、特許第4611388号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求は,イ号説明書に示す,形式「REGZA Phone IS04」の携帯電話機にインストールされた「ホームアプリ」と称するコンピュータプログラムが,特許第4611388号発明(以下,「本件発明」という。)の技術的範囲に属する,との判定を求めたものである。

第2 事案の概要
請求人は,本件判定請求において請求項3に関して判断を求める旨主張(判定請求書第3頁第2?4行,第8頁第10?14行。)し,イ号製品は請求項3に係る特許発明の技術的範囲に属し,さらに,請求項1は,請求項3に係る特許発明の発明特定事項(A?G)のうち,Gを除いたものであるため,イ号製品は,当然に請求項1に係る特許発明の技術的範囲にも属する旨主張している。(第8頁第10?14行。)
一方,被請求人は,判定請求答弁書において,イ号製品が請求項1記載の発明の技術的範囲に属しないことを主張し,請求項3は,請求項1に構成要件が付加されたものであるから,イ号製品は当然に請求項3記載の発明の技術的範囲に属しない旨主張している。(判定請求答弁書,第3頁(1)。)

第3 本件発明
本件発明の構成は,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載されたとおりのものであって,その特許請求の範囲の請求項3に係る発明の構成は,以下のとおりである。(なお,便宜上,構成を以下のとおりに分説し,符号[A1]?[G]を付した。)

[A1]情報を記憶する記憶手段と,情報を処理する処理手段と,利用者に情報を表示する出力手段と,利用者からの命令を受け付ける入力手段とを備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムであって,
[A2]利用者が前記入力手段を使用してデータ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプログラムであり,
[B]前記記憶手段は,
ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための画像データである操作メニュー情報と,当該操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令と,を関連付けた操作情報を1以上記憶し,
当該操作情報は,前記記憶手段に記憶されているデータの状態を表す情報であるデータ状態情報に関連付けて前記記憶手段に記憶されており,
[C1]前記処理手段に,
[D](1)前記入力手段を介して,前記入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令を受信した後から,利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信するまでにおいて,以下の(2)及び(3)を行うこと,
[E](2)前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると,当該受信した際の前記記憶手段に記憶されているデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における操作メニュー情報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること,
[F](3)前記入力手段を介して,当該出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定されると,当該ポインタにより指定された操作メニュー情報に関連付いている命令を,前記記憶手段から読み出して実行し,当該出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなるまで当該実行を継続すること,
当該命令の実行により変化した前記記憶手段に記憶されているデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における前記操作メニュー情報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること,
[G](4)前記入力手段を介して,前記開始動作命令の受信に対応する,前記命令ボタンが利用者によって離されたことによる終了動作命令を受信すると,前記出力手段へ表示している前記メニュー情報の表示を終了すること,
[C2]を実行させることを特徴とする入力支援コンピュータプログラム。

(以下,分説した各構成を,それぞれ「構成[A1]」等という。)

また,特許請求の範囲の請求項1に係る発明の構成は,上記請求項3に係る発明から構成[G]を除いたものである。

第4 イ号製品
判定請求書の第8?12頁に記載されたイ号製品の説明,及び,イ号説明書(甲第1号証)の記載によると,イ号製品は以下の構成を有するものと認められる。

(ア)形式「REGZA Phone IS04」の携帯電話機にインストールされた「ホームアプリ」と称するコンピュータプログラムであって,
(イ)既に配置されているショートカット又はウィジットを移動させる際の画面表示を行うためのコンピュータプログラムであり,
(ウ)指をタッチパネルから離したまま,タッチパネルのショートカット上に指を持っていき,タッチし,そのまま指を動かさずに離さないでいると,ショートカットを移動する状態に遷移し,
(エ)左端のホーム画面の場合,左にスクロールすることはできず,そのため,右スクロールするメニューが表示され,左スクロールするためのメニューが表示されず,左スクロール又は右スクロールが可能かどうかを判断してメニュー表示が変更される動作を行い,
(オ)右スクロールメニュー上に指を移動させると,実際に右スクロールが実行され,
(カ)左から2枚目,3枚目のホーム画面の場合,右スクロールメニュー上に指があると,2枚目,3枚目とスクロールが継続し,
(キ)左スクロールが可能になった場合,左スクロールのメニューが表示されて,このメニュー上に指を指定していれば,左スクロールが実行され,
(ク)左から4枚目のホーム画面に到達すると,右スクロールメニューがあったところのメニュー表示が消え,これは,右スクロールが不可能になったためであり,
(ケ)指を離すことにより,ショートカットの移動が終了し,スクロールメニューが消える
(コ)コンピュータプログラム

(以下,各記載事項を,それぞれ,「記載事項(ア)」等という。)

第5 本件発明及びイ号製品についての当事者の主張
本件発明が特許請求の範囲に記載されたとおりのものであることについて,請求人及び被請求人の間に争いはない。
また,イ号製品が形式「REGZA Phone IS04」の携帯電話機にインストールされた「ホームアプリ」と称するコンピュータプログラムである点について,請求人及び被請求人の間に争いはない。

1.請求人の主張
判定請求人は,イ号説明書(甲第1号証)において,イ号の説明のみならず,イ号が本件発明に属することの説明も行っているので,以下,判定請求書の主張に加え,イ号説明書における判定請求人の説明もあわせて記載する。

(1)構成[A1],[A2]について
イ号製品がインストールされている形式「REGZA Phone IS04」の携帯電話機は,RAM,HDD等の記憶装置,CPU等の演算装置,ディスプレイ等の出力装置,タッチパネル等の入力装置,を備えた携帯型のコンピュータシステムであって,
イ号製品は,利用者がタッチパネル等の入力装置を使用してデータ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプログラム,である。(判定請求書第10頁第1?6行。)
上記説明のように,構成[A1],[A2]の点について,本件特許発明とイ号製品とに差異はない。(判定請求書第12頁下から第4?3行。)

(2)構成[B]について
イ号製品がインストールされている形式「REGZA Phone IS04」の携帯電話機の記憶装置には,
出力装置におけるタッチパネルの指の位置によって実行される命令結果を携帯電話機の利用者が理解できるように,出力装置に表示するための画像データであるスクロールメニューの画像情報と,当該スクロールメニューの画像情報にポインタが指定された場合に実行される画面スクロール命令と,を関連づけた操作情報を1以上記憶して,
当該操作情報は,記憶装置に記憶されている出力装置に表示されている画面の状態を表す情報に関連付けて記憶装置に記憶されている。
これらの情報が記憶されている明確な証拠として,構成[D]乃至構成[G]の処理を演算装置が行うには,構成[B]の情報が記憶装置に記憶されている必要がある。(判定請求書第10頁第7?17行。)
上記説明のように,構成[B]の点について,本件特許発明とイ号製品とに差異はない。(判定請求書第12頁下から第2?1行。)

(3)構成[C1],[C2]について
イ号製品は,携帯電話機の演算装置に,構成[D]乃至構成[G]の処理を実行させる入力支援コンピュータプログラムである(イ号製品の説明書(甲第1号証)第1ページ乃至第6ページ)。(判定請求書第10頁第18?21行。)
上記説明のように,構成[C1],[C2]の点について,本件特許発明とイ号製品とに差異はない。(判定請求書第13頁第1?2行。)

(4)構成[D]について
指をタッチパネルから離したまま,IS04 のタッチパネルのFacebookショートカットのアイコン上に指を持って行き,タッチする(イ号製品の説明書(甲第1号証)第2ページ,図1,図2)。後述のタッチした指を離す際の動作と併せて,構成[D]の処理となる。(判定請求書第10頁第27?30行。)
最後に,指を離すことにより,ショートカットの移動が終了する。このとき,スクロールメニューが消える(イ号製品の説明書(甲第1号証)第5?6ページ,図8,図9)。
このとき,スクロールメニューが消えるが,これは,本特許に係る請求項3の構成[G]の処理を満たしている。(イ号説明書第6頁第1?2行。)
上記説明のように,構成[D]の点について,本件特許発明とイ号製品とに差異はない。(判定請求書第13頁第3?4行。)

(5)構成[E]について
指をタッチパネルから離したまま,IS04のタッチパネルの Facebook ショートカットのアイコン上に指を持っていき,タッチする。そのまま指を動かさずに離さないでいると,ショートカットを移動する状態に遷移する(イ号製品の説明書(甲第1号証)第2ページ,第3ページ,図1乃至図3)。
例えば,左端のホーム画面の場合は,左にスクロールすることはできない。そのため,右スクロールするメニューが表示され,左スクロールするためのメニューは表示されない。左スクロール又は右スクロールが可能かどうかを判断してスクロールメニュー表示が変更される(イ号製品の説明書(甲第1号証)第3ページ,第4ページ,図4,図5)。(判定請求書第11頁第5?12行。)
本件特許発明の構成[E]と,イ号製品とは完全一致する。(判定請求書第12頁中央表)

(6)構成[F]について
例えば,右スクロールメニュー上に指を移動させると,実際に右スクロールが実行される(イ号製品の説明書(甲第1号証第3ページ,第4ページ,図4,図5)。
左から2枚目,3枚目のホーム画面である場合に,右スクロールメニュー上に指があると,2枚目,3枚目とスクロールが継続する(イ号製品の説明書(甲第1号証)図6)。このとき,左スクロールが可能になったホーム画面から,左スクロールのメニューが表示されており,実際このメニュー上に指を指定していれば,左スクロールが実行される(イ号製品の説明書(甲第1号証)第4ページ,図5,図6)。(判定請求書第11頁第20?27行。)

左右のスクロールが可能かどうかや,実際に出力手段に表示する「ビュー」の範囲の状態に応じて,スクロールメニューの画像情報を出力装置に表示している(イ号製品の説明書(甲第1号証)第5ページ,図3乃至図7)。
左から4枚目のホーム画面(本例で右端のホーム画面)に到達すると,図7のように,右スクロールメニューがあったところのメニュー表示が消える。これは,右スクロールが不可能になったためである。(判定請求書第11頁第32行?第12頁第2行。)
上記説明のように,構成[F]の点について,本件特許発明とイ号製品とに差異はない。(判定請求書第13頁第5?6行。)

以上の通り,イ号製品は,本件特許請求の範囲に記載の構成と同一の構成を採用しており,均等の主張を行うまでもなく,本件特許発明の技術的範囲に属するものである。(判定請求書第13頁第10?11行。)

2.被請求人の主張
(1)構成[A1],[A2],[C2]について
被請求人は,イ号製品が構成[A1],[A2],[C2]を有しない理由として,以下のア?ウの点を述べている。

ア.特許請求の範囲の文言を自然に解釈する限り,本件発明は,何らかの「データ入力」を行う際に当該データ入力を「支援」するコンピュータプログラムである。
イ.そして,本件特許明細書中の発明の詳細な説明を参照すると,本件発明は,ワープロソフトや表計算ソフトを実行するときに,前者であれば文章データ,後者であれば表計算データ等の編集対象データを入力する際に(段落【0014】,図5?9参照),図4に示されるように,同データ入力を支援するプログラムに関する発明である(段落【0070】?【0076】)。
ウ.これに対し,イ号製品は,「ホームアプリ」という名称から明らかなとおり,ホーム画面(ホームスクリーン)をカスタマイズするプログラムであり(乙第1号証),請求人が指摘する機能は,ホーム画面に表示されているアイコンを隣のホーム画面に移動する操作を実現するプログラムであり,なんらかの「データ入力」を支援するプログラムではないし,「データ入力を行う際に実行される」プログラムでもないから,本件発明の「入力支援コンピュータプログラム」に相当しない。

(2)構成[B],[E],[F]について
被請求人は,イ号製品が構成[B],[E],[F]を有しない理由として,以下のア?ウの点を述べている。

ア.本件発明は,「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示する」こと(構成[B]),「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信」すること(構成[E]),「入力手段を介して前記出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定される」こと(構成[F])を特徴とする発明である。
特許請求の範囲の文言を自然に解釈する限り,本件発明は,「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示する」ものであるとともに,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる」ものであり,「操作メニュー情報がポインタにより指定される」ものであるから,本件発明の「ポインタ」とは,出力手段である画面上に表示され,何かの位置を指し示すものであり,その位置を「入力手段を介して…移動させる」ものである。
当該分野の辞典を見ても,「ポインタ」は,「ウィンドウ画面で,マウスの操作位置を示すもの」と定義されており(乙第2号証,2006-07年版,最新パソコン・IT用語辞典996頁。技術評論社),画面上に表示され,マウスの操作位置を指し示すものであり,その位置をマウス操作を介して移動させるものであるから,上記クレーム解釈はかかる辞典中の定義とも合致する。
イ.本件特許明細書中の発明の詳細な説明を見ても,「ポインタ」とは,例えば,「『コンテキストメニュー』は,マウスを右クリックすることにより,マウスが指し示している画面上のポインタ位置に応じた操作コマンドのメニューが表示されるもの」と説明されており(段落【0003】),他の記載を見ても,例えば「『ドラッグ&ドロップ』とは,画面上でマウスポインタがウィンドウの枠やファイルのアイコンなどの重なった状態でマウスの左ボタンを押し,そのままの状態でマウスを移動させ,別の場所でマウスの左ボタンを放すマウス操作である」と説明されておりことから(段落【0004】),「ポインタ」は,マウスが指し示している位置であり,その位置はマウス操作を介して移動するものであり,画面上に表示されるものが説明されている。
そして,本件発明の【課題を解決するための手段】の項における一般論として,「『ポインタの座標位置』とは,前記出力手段における画面上での現時位置を示す絵記号である『カーソル(マウスカーソル)』が指し示している画面上での座標位置である」(段落【0012】)と説明されていることから,「ポインタ」が「画面上での…絵記号である『カーソル(マウスカーソル)』」を意味しており,「ポインタの座標位置」がカーソル(マウスカーソル)が指し示している画面上での座標位置を意味することは明らかである。
これらの理解は,本件特許明細書中の図面による説明とも合致する。例えば,編集対象データの内容を画面に表示した表示例である【図5】は下掲の通りで,「ポインタ」は,「1」の符号が附された矢印である。この矢印は,「入力手段30としてのマウス・キーボードを使って出力手段10としてのディスプレイの画面上に表示されているポインタ1の移動命令を行う。例えば,マウスにおける左ボタンや右ボタンを押したままマウスを移動させること(ドラッグ操作)や,キーボードにおける特定のキーを押しつつマウスを移動させる行為,等が該当する。」と説明されている(段落【0079】)。
ウ.これに対し,イ号製品は,画面上に表示されて,何らかの位置を指し示し,その位置を「入力手段を介して…移動させる」ものを何ら有していないから,本件発明の「ポインタ」(構成[B],[E],[F])を有しない。

(3)構成[B],[F]について
被請求人は,イ号製品が構成[B],[F]を有しない理由として,以下のア?ウの点を述べている。

ア.特許請求の範囲の文言から,本件発明の「操作メニュー情報」は,「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための画像データ」(構成[B])である。
イ.そして,本件特許明細書の発明の詳細な説明に拠れば,「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための画像データ」とは,「当該…画像データにポインタを合わせることで,どのような命令が実行されるのかをシステム利用者が理解できるように構成されている画像データであることを意味する。例えば,どのような命令が実行されるのか,を表す文字を含んだ画像データであったり,『アイコン』のように実行される命令の内容や対象を小さな絵や記号で表現した画像データが考えられる。」と説明されており(段落【0012】),どのような命令が実行されるのかが一目で判るような画像データを意味している。
この点は,本件特許明細書の図6をみても,右スクロール(101),Drag開始(102),末尾へのジャンプ(103),下方スクロール(104),高速下方スクロール(105)等,画面上に表示された画像データである操作メニュー情報がしめる座標位置の範囲内に,当該領域にポインタが入ったときにどのような命令が実行されるかを図示した絵記号が表示されている。
ウ.請求人は,ホーム画面の左右両端部に表示される縦長の長方形である隙間を「スクロールメニュー表示」と呼び,これが本件発明の「操作メニュー情報」に相当すると主張しているが(判定請求書8頁下から7?5行),理由がない。
かかる縦長の長方形である隙間は,隣のホーム画面にスクロールするという命令を利用者が理解できるように何らかの表示がされたものではないから,「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための画像データ」ではなく,本件発明の「操作メニュー情報」に相当しない。

(4)構成[E]について
被請求人は,イ号製品が構成[E]を有しない理由として,以下のア,イの点を述べている。

ア.特許請求の範囲の文言から明らかなとおり,本件発明は,「ポインタの位置を移動させる命令を受信」したときに,「操作メニュー情報」を記憶手段から読み出して表示する発明である。
イ.そして,本件特許明細書の発明の詳細な説明に拠れば,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」とは,「入力手段としてのポインティングデバイスから,画面上におけるポインタの座標位置を移動させる命令(電気信号)を処理手段が受信すること」である(段落【0020】)。
ウ.イ号製品が「ポインタ」及び「操作メニュー情報」を有しないことについては既に詳述したとおりである。
また,イ号製品においては,利用者の指がホーム画面上に表示されているアイコンにタッチした後,指を全く移動しなくても,一定時間(数秒)経過するとホーム画面の左右両端部に縦長の長方形である隙間が表示される。したがって,仮にかかる隙間が「操作メニュー情報」であると仮定して検討を行ったとしても,イ号製品は,「ポインタの位置を移動させる命令」を受信したときに「操作メニュー情報」を記憶手段から読み出して表示するものではなく,利用者がホーム画面上に表示されているアイコンを長押ししたときに「操作メニュー上方」を記憶手段から読み出して表示するものであるから,構成[E]を充足しない。

(5)構成[D]について
被請求人は,イ号製品が構成[D]を有しない理由として,以下のア?エの点を述べている。

ア.本件発明は,「命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令を受信した後から,利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信するまでに…出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定される」(構成[D]および[F])ことを特徴とする発明である。
特許請求の範囲の文言を自然に解釈する限り,本件発明は,「命令ボタン」を押し続けている間に,画面上の「ポインタ」を移動して所望の「出力手段に表示した操作メニュー情報」を指定するものである。したがって,「命令ボタン」とは,「ポインタ」と別個の構成要素であり,それが画面上に表示されるボタンであるとしても,少なくとも「ポインタ」と別個に用意されたものである。
換言すれば,本件発明は,画面上の「ポインタ」を移動して所望の「出力手段に表示した操作メニュー情報」を指定する発明であって,画面上の「命令ボタン」を移動して所望の「出力手段に表示した操作メニュー情報」を指定する発明ではない。
イ.本件特許明細書中の発明の詳細な説明を見ても,例えば,「システム利用者が,先に押した入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンを押し続けたままで,入力手段30としてのマウス・キーボードを使って出力手段10としてのディスプレイの画面上に表示されているポインタ1の移動命令を行う。例えば,マウスにおける左ボタンや右ボタンを押したままマウスを移動させること(ドラッグ操作)や,キーボードにおける特定のキーを押しつつマウスを移動させる行為,等が該当する」と説明されており(段落【0079】),「マウス・キーボードにおける命令ボタン」は「ポインタ1」と別個独立の構成要素として説明されているから,上記クレーム解釈と合致する。
ウ.これに対し,イ号製品は,そもそもポインタが存在せず,画面上の“アイコン”自体を,請求人が言う「スクロールメニュー表示」(単なる縦長の長方形の隙間)上に移動するものである。したがって,当該“アイコン”は「命令ボタン」に相当しないところ,イ号製品において他に「命令ボタン」に相当しうるボタンは存在しないから,結局のところ,イ号製品は,本件発明の「命令ボタン」を具備しないものである。
エ.附言すれば,仮にイ号製品における画面上の“アイコン”を「命令ボタン」と当て嵌めたとしても,イ号製品における画面上には“アイコン”の他に何らかの位置を示す表示は存在しないから,「ポインタ」が存在しないという非充足論をいっそう裏付けるだけである。

したがって,イ号製品は請求項1記載の発明の技術的範囲に属しない。(判定請求答弁書第3頁第10?14行)

第6 対比・判断
はじめに,本件発明の構成のうち,特許請求の範囲の請求項1に対応する構成[A1]?[F],[C2]について以下に検討する。

(1)構成[A1]について
イ号説明書(甲第1号証)第1頁第1,2行には,『形式「REGZA Phone IS04(以下,「IS04」という。)」の携帯電話機にインストールされた「ホームアプリ」と称するコンピュータプログラム(イ号製品)』の記載があり,第4,5行には,「イ号製品たるコンピュータプログラムに基づいて,当該 IS04 の携帯電話機の表示画面に表示される画像の遷移・動作」の記載がある。
一般に,携帯電話機は,記憶手段,及び,処理手段,出力手段,入力手段とを備えたコンピュータシステムからなるものが通常である。したがって,イ号説明書に記載された携帯電話機は,「情報を記憶する記憶手段」と,「情報を処理する処理手段」とを備えたものと認められる。
また,甲第1号証第2?6頁の図1?9には,「REGZA Phone IS04」の携帯電話機の画面の表示内容を示しているものと認められ,したがって,当該携帯電話機は利用者に情報を表示する出力手段を備えたものである。
また,甲第1号証第2頁第5?7行には,「図2のように,指をタッチパネルから離したまま,IS04 のタッチパネルの Facebook ショートカット上に指を持っていき,タッチする。そのまま指を動かさずに離さないでいると,ショートカットを移動する状態に遷移する。」と記載されており,図2には,「指で長押し」と記載された位置に利用者の指の位置が図示されているものと認められる。上記点から,イ号説明書に記載された携帯電話機は利用者によって操作されるタッチパネルを有しており,したがって,当該携帯電話機は「利用者からの命令を受け付ける入力手段」を備えたものである。
したがって,イ号製品は「情報を記憶する記憶手段と,情報を処理する処理手段と,利用者に情報を表示する出力手段と,利用者からの命令を受け付ける入力手段とを備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラム」であると言えるから,構成[A1]を有する。

(2)構成[A2]について
イ号製品は「ホームアプリ」と称するコンピュータプログラムであり,被請求人も述べているように,「ホーム画面(ホームスクリーン)をカスタマイズするプログラム」であって,イ号説明書においては単に「Facebook ショートカット」を移動させる際の動作が記載されているに過ぎず,イ号製品は利用者が「データ入力」を行う際に実行されるものとは認められない。
したがって,イ号製品は何らかのデータ入力が行われる際に実行されるものではなく,本件発明で言うところの「入力支援コンピュータプログラム」とは言えない。
したがって,イ号製品は構成[A2]を有しない。

(3)構成[B]について
a.一般に,「ポインタ」とはウィンドウ等の画面で,マウスの操作位置を示す表示要素を意味する用語である(乙第2号証)。また,本件明細書の第【0012】段落には,「ポインタの座標位置」とは,前記出力手段における画面上での現在位置を示す絵記号である「カーソル(マウスカーソル)」が指し示している画面上での座標位置である。」と記載されており,本件発明でもポインタは,画面上の操作位置を示す表示要素を意味するものである。これに対して,イ号製品は,画面上での操作位置を示す表示要素についてイ号説明書に記載はなく,タッチ操作によって直接に画面上のショートカットやスクロールメニューを操作するものであるから,イ号製品は「ポインタ」を有しない。
b.また,本件明細書の第【0012】段落には,『「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示する画像データ」とは,当該ビットマップ形式やベクター形式の画像データにポインタを合わせることで,どのような命令が実行されるのかをシステム利用者が理解できるように構成されている画像データであることを意味する。例えば,どのような命令が実行されるのか,を表す文字を含んだ画像データであったり,「アイコン」のように実行される命令の内容や対象を小さな絵や記号で表現した画像データが考えられる。』と記載されており,本件発明における「操作メニュー情報」は実行される命令結果を表す特定の画像データを意味しているものと認められる。
一方,イ号明細書の図3?8には,縮小表示されたホーム画面の左右の隙間に隣のホーム画面の一部が表示されていることが読み取れるが,このホーム画面の左右の隙間は,単に隣のホーム画面の一部を表示しているに過ぎず,アイコンのような特定の画像データを用いているものではないから,イ号製品は「操作メニュー情報」を有しない。
c.また,「操作メニュー情報」に関して,イ号製品は「ショートカットを移動する状態」において,「右スクロールメニュー」および「左スクロールメニュー」とされる操作領域が表示されており,ホーム画面の表示位置が左から1枚目,2枚目,3枚目のいずれであるかに応じて,表示するか非表示とするかを制御するとともに,当該操作領域にアイコン位置を合わせるとホーム画面を右スクロール又は左スクロールする動作を行うものであるが,これらの操作領域を示す画像,及び,対応する命令が記憶手段に記憶されているか否か特に明記されておらず,さらに,これらの操作情報とデータの状態を示すデータ状態情報に関連付けられて記憶されているか否かも不明である。この点,イ号製品の動作を実現する際に画像とデータ状態情報を関連付けて記憶手段に記憶することなく,単にプログラム上に直接状態に対応する表示を行うように記述しておくことも可能であるから,イ号は「操作情報」が,「前記記憶手段に記憶されているデータの状態を表す情報であるデータ状態情報に関連付けて前記記憶手段に記憶」しているとは言えない。
したがって,イ号製品は構成[B]を有しない。

(4)構成[E]について
上記「(3)構成[B]について」において述べたように,イ号製品は,「ポインタ」を有さず,「操作情報」が,「前記記憶手段に記憶されているデータの状態を表す情報であるデータ状態情報に関連付けて前記記憶手段に記憶」しているとも言えない。
また,仮に,タッチパネルのタッチ位置が「ポインタの位置」であるとしても,イ号説明書には,イ号製品が「指をタッチパネルから離したまま,タッチパネルのショートカット上に指を持っていき,タッチし,そのまま指を動かさずに離さないでいると,ショートカットを移動する状態に遷移」すると記載されており,すくなくとも,「ショートカットを移動する状態に遷移」するために指を動かすことを必要としていない。
一方で,本件発明の構成[E]は,「前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると,……操作メニュー情報を……前記出力手段に表示すること,」であるから,「操作メニュー情報」を表示するために「ポインタの位置を移動させる」ことを構成要件としている。
したがって,イ号製品は「ポインタの位置を移動させる命令を受信すると」,「操作メニュー情報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示する」ものであるとは言えない。
以上の点から,イ号製品は構成[E]を有しない。

(5)構成[F]について
上記「(3)構成[B]について」において述べたように,イ号製品は,「ポインタ」を有さず,「操作情報」を,「前記記憶手段に記憶されているデータの状態を表す情報であるデータ状態情報に関連付けて前記記憶手段に記憶」しているとも言えない。
一方で,本件発明の構成[F]は,「当該出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定されると」,「当該ポインタにより指定された操作メニュー情報に関連付いている命令を,前記記憶手段から読み出して実行」することを構成要件としているが,上記「(3)構成[B]について」において述べたように,イ号製品は,「ポインタ」を有さず,「操作情報」が,「前記記憶手段に記憶されているデータの状態を表す情報であるデータ状態情報に関連付けて前記記憶手段に記憶」しているものでもない。
また,イ号製品は「操作情報」を「前記記憶手段に記憶されているデータの状態を表す情報であるデータ状態情報に関連付けて前記記憶手段に記憶」しているものとはいえないから,本件発明の構成[F]における「当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における前記操作メニュー情報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示する」という構成要件をイ号製品が有しているとは言えない。
したがって,イ号製品は構成[F]を有しない。

(6)構成[D]について
本件発明の構成[D]は特定の条件で「(2)及び(3)」(構成[E],[F]に対応。)を行うことであるところ,上記「(4)構成[E]について」,「(5)構成[F]について」で述べたように,イ号製品は構成[E]および構成[F],すなわち(2)及び(3)を有しない。したがって,イ号製品は構成[D]を有しない。

(7)構成[C1],[C2]について
上記「(1)構成[A1]について」で述べたように,イ号製品は「処理手段」を有する携帯電話機において実行されるコンピュータプログラムであると言える。
しかしながら,本件発明の構成[C1]および構成[C2]における「前記処理手段に」「を実行させる」の点は,構成[C1]に記載の「処理手段」に,構成[D],構成[E],構成[F]に記載の処理を実行させることを意味するものであるが,上記「(4)構成[E]について」,「(5)構成[F]について」,「(6)構成[D]について」で述べたように,イ号製品は構成[D],[E],[F]を有しない。したがって,イ号製品は構成[C1],[C2]を有しない。

上記(1)?(7)で述べたように,イ号製品は本件発明の構成[A2],[B],[C1],[C2],[D]?[F]において構成が相違するものであるから,イ号製品は本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。
そして,本件特許請求の範囲の請求項3に係る発明は特許請求の範囲の請求項1に構成Gを付加したものであるから,イ号製品は本件特許請求の範囲の請求項3に係る発明の技術的範囲に属しない。
なお,本件特許請求の範囲の請求項2,4,5に係る発明は特許請求の範囲の請求項1にさらなる構成を付加したものであるから,イ号製品は特許請求の範囲の請求項2,4,5に係る発明の技術的範囲にも属しない。

第7 むすび
以上のとおりであるから,イ号製品は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論の通り判定する。
 
判定日 2012-11-22 
出願番号 特願2007-547822(P2007-547822)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩橋 龍太郎  
特許庁審判長 大野 克人
特許庁審判官 稲葉 和生
衣川 裕史
登録日 2010-10-22 
登録番号 特許第4611388号(P4611388)
発明の名称 入力支援コンピュータプログラム、入力支援コンピュータシステム  
代理人 古志 達也  
代理人 鈴木 信彦  
代理人 高石 秀樹  
代理人 渡辺 光  
代理人 辻居 幸一  

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