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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1267246
審判番号 無効2011-800210  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-10-19 
確定日 2012-10-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2141400号発明「窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第2141400号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成 3年 3月27日 特許出願(特願平3-89840号:国内優先権主張
平成 3年 1月31日(特願平3-32259号))
平成 8年 1月29日 出願公告(特公平8-8217)
平成 9年10月24日 異議決定(平成 9年11月25日発送)
平成 9年11月17日 拒絶査定(平成 9年11月25日発送)
平成 9年12月25日 拒絶査定不服審判請求(審判平10-322号)
(平成10年 1月 5日受付)
平成10年 1月26日 手続補正書(平成10年 1月28日受付)
平成12年 5月29日 審決(審判平10-322号)
(平成12年 6月20日発送)
平成12年 7月21日 設定登録
平成23年10月19日 無効審判請求(本件:無効2011-800210)
平成24年 1月 7日 被請求人:答弁書及び訂正請求書
(平成24年 1月10日受付)
平成24年 3月 8日 請求人:弁駁書
平成24年 4月 4日 審理事項通知書
(平成24年 4月 6日発送)
平成24年 5月 8日 請求人:口頭審理陳述要領書
平成24年 5月14日 被請求人:口頭審理陳述要領書
(平成24年 5月15日受付)
平成24年 5月22日 訂正拒絶理由通知
平成24年 5月22日 被請求人:意見書並びに
訂正請求書及び全文訂正明細書の手続補正書
平成24年 5月22日 口頭審理


第2 請求人の主張の概要
請求人は、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする、審判請求費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、
無効理由1として甲第1号証を主引用例とし、無効理由2として甲第10号証を主引用例としたうえで、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証ないし甲第17号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、本願優先権主張の日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法123条1項2号の規定に該当し、無効とすべきであると主張し、下記甲第1号証ないし甲第17号証を提出し、また、平成24年 3月 8日付け弁駁書において、下記甲第18号証ないし甲第24号証及び平成24年 5月 8日付け口頭審理陳述要領書において下記甲第25号証、甲第26号証を提出している。
なお、無効審判請求書において、甲第1号証に基づく特許法第29条第1項第3号に基づく無効理由を主張していたが、口頭陳述要領書及び口頭審理において、当該主張は取り下げられた。
また、口頭陳述要領書において、訂正請求された特許請求の範囲の請求項1は、技術的意義が一義的に理解することができない特段の事情があるとするならば、旧特許法第36条第5項第2号違反という、新たな無効理由を認定するに等しいとの主張を行っているものの、口頭審理において、当該主張は、無効審判請求の理由の趣旨を変える新たな無効理由を主張する実質的な主張ではないことを説明した。(調書の記載:「新たな無効理由を主張する実質的な主張ではなく、単にそのような事情を説明しているものである。」)


甲第1号証 :佐々木徹他「GaN/サファイア MOVPE二段階成長に
おけるバッファ層成長条件」、第49回応用物理学会学術講
演会講演予稿集 第1分冊、1988年10月4日発行、
288頁(講演番号6p-Z-2)
甲第2号証 :西永頌「格子定数が大きく異なる基板上へのヘテロエピタキ
シー -HM^(2)のメカニズムをめぐって-」、応用物理、第
55巻、第11号、1986年11月10日発行、1069
?1073頁
甲第3号証 :清水正文他「シリコン基板上への直接MOCVD成長による
GaAs太陽電池の作製」、電子通信学会技術研究報告、
Vol.85、No.216、
1985年11月21日発行、23?29頁
甲第4号証 :山本あきお(「日」の下に「高」の文字と「勇」)他「MO
CVD法によるInP/Siのヘテロエピタキシャル成長」
、日本結晶成長学会誌、Vol.13、No.4、1987
年4月25日発行、267?273頁
甲第5号証 :若原昭浩他「MOCVD法によるGaAs基板上へのInP
ヘテロエピタキシャル成長」、電子情報通信学会技術研究報
告、Vol.87、No.373、1988年2月17日発
行、1?5頁
甲第6号証 :特開平2-177490号公報
甲第7号証 :特開平2-180084号公報
甲第8号証 :特開平2-260681号公報
甲第9号証 :特開平2-288285号公報
甲第10号証:特開昭52-23600号公報
甲第11号証:特公昭52-36117号公報
甲第12号証:特開昭60-173829号公報
甲第13号証:小出康夫他「MOVPEによるAlGaN/α-
Al_(2)O_(3) ヘテロエピタキシーにおけるAlNバッファ層
の効果」、日本結晶成長学会誌、Vol.13、No.4、 1987年4月25日発行、218?225頁
甲第14号証:赤崎勇他「GaAlNの結晶成長と光電物性」、電気学会研
究会資料、社団法人電気学会、1987年8月19日、51
?59頁
甲第15号証:特開平2-229476号公報
甲第16号証:Z.Sitar他,「Growth of AlN/GaN layered structures by
gas source molecular-beam epitaxy」,Journal of
Vacuum Science &Technology B.,Vol.8,No.2,
March/April 1990,316?322頁
甲第17号証:平松和政他「MOVPE法によるサファイヤ基板上へのGa
N結晶成長におけるバッファ層の効果」、日本結晶成長学会
誌、Vol.15、No.3&4、1988年1月25日発
行、334?342頁
甲第18号証:特開昭60-175412号公報
甲第19号証:H.Amano他,「Metalorganic vapor phase epitaxial
growth of a high quality GaN film using an AlN
buffer layer」,Appl.Phys.Lett. 48(5),
3 February 1986,353?355頁
甲第20号証:森芳文他「エピタキシャル成長技術実用データ集 第1集
MBEとMOCVD/第1分冊MOCVD」、株式会社サイ
エンスフォーラム、1986年6月15日発行、67?
71頁
甲第21号証:特開平2-18387号公報
甲第22号証:特許第2745819号公報
(平成10年4月28日発行:本件特許の出願後)
甲第23号証:特許第3056781号公報
(平成12年6月26日発行:本件特許の出願後)
甲第24号証:赤崎勇「III族窒化物半導体」、株式会社培風館、
1999年12月8日発行、114?115頁
(本件特許の出願後に発行)
甲第25号証:特許・実用新案審査基準、1997年12月24日発行
(改訂2刷)、第I部明細書4頁
甲第26号証:特開平2-211620号公報

第3 被請求人の主張
被請求人は、答弁書において下記乙第1号証の1ないし乙第8号証を提示し、平成24年 5月22日付けで補正された訂正請求書及び全文訂正明細書により訂正された本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証ないし甲第24号証及び甲第26号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件審判請求は成り立たず、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると主張し、平成24年 5月14日付け口頭審理陳述要領書において、下記乙第9号証、乙第10号証を提出している。
なお、口頭審理において、答弁書で主張した「(1)請求人の主張に対する認否」中、「(1-2)「II 手続の経緯」・・・その余は認める」について部分的に否認するとの点については、争わないとした(調書記載事項)。

乙第1号証の1:S. Ohnishi他,「Chemical Vapor Deposition of
Single-Crystalline ZnO Film with Smooth Surface on
Intermediately Sputtered ZnO Thin Film on
Sapphire」,Jpn.J.Appl.Phys.17(1978),773?778頁
乙第1号証の2:乙第1号証の1抄訳
乙第2号証の1:S. Nishio他,「Chemical Vapor Deposition of Single
Crystalline β-SiC Films on Sillicon Substrate
with Sputtered SiC Intermediate Layer」,
J.Electrochem.Soc.,127(12),December 1980、
2674?2680頁
乙第2号証の2:乙第2号証の1抄訳
乙第3号証の1:M.Ishida他,「Epitaxial Growth of SOS Films with
Amorphous Si Buffer Layer」,Jpn.Appl.Phys.,20(7),
July 1981,L541?L544頁
乙第3号証の2:乙第3号証の1抄訳
乙第4号証の1:M.Ishida他,「EPITAXIAL GROWTH OF Si OVER
AMORPHOUS Si BUFFER LAYER SPUTTERED
ON SAPPIRE SUBSTRATE」,Layered Structures
and Interface Kinetics edited by S.Furukawa, KTK
Scientific Publishers,Tokyo,1985,99?111頁
乙第4号証の2:乙第4号証の1抄訳
乙第5号証の1:M.Ishida他,「Growth and properties of Si films on
sapphire with predeposited amorphous Si layers」,
J.Appl.Phys.,59(12),15 June 1986,4073?4078頁
乙第5号証の2:乙第5号証の1抄訳
乙第6号証: 赤崎勇「III族窒化物半導体」、株式会社培風館、
1999年12月8日、67?69頁
(本件特許の出願後に発行)
乙第7号証 :「結晶成長ハンドブック」、共立出版株式会社、
1995年9月1日、1096?1097頁
(本件特許の出願後に発行)
乙第8号証 :生駒俊明 他「電子材料シリーズ ガリウムヒ素」、丸善
株式会社、1993年1月30日、140?141頁
(本件特許の出願後に発行)
乙第9号証 :特開平5-41541号公報
(平成5年2月19日発行:本件特許の出願後)
乙第10号証 :特開2004-83359号公報
(平成16年3月18日発行:本件特許の出願後)

第4 訂正請求の可否
1 訂正の要旨
平成24年 5月22日付けで補正された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)の要旨は、平成 8年 1月29日付けで 出願公告され、その後拒絶査定不服審判において平成10年 1月26日付けでなされた手続補正書により補正された後、設定登録された本件特許第2141400号の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)を、本件訂正請求書に添付されたものであって、平成24年 5月22日付けで補正された全文訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものである。

2 訂正の内容
本件訂正の内容は、次のとおりである。
なお、下線部は、訂正箇所を示している。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属化合物気相成長法で成長させると共に、窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる反応容器内において、窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、」を「前記バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属化合物気相成長法で成長させると共に、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記反応容器内において、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、」を「窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後前記窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の「とするバッフア層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、続いてバッファ層よりも高い成長温度で、」を「とする前記バッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、続いて前記バッファ層よりも高い成長温度で、」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1の「窒化ガリウム系化合物半導体を成長させると共に、」を「前記基板を回転させて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させると共に、」と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1の「バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる基板に、サファイア基板を使用する」を「前記バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記基板に、サファイア基板を使用する」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2の「一般式がGa_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)で示されるバッファ層を成長させ、」を「一般式がGa_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)で示される前記バッファ層を成長させ、」と訂正する。

(7)訂正事項7
本件特許明細書の段落【0010】「本発明の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法は、バッファ層の上に、有機金属化合物気相成長法で反応容器内に反応ガスを供給して窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法を改良したものである。本発明の方法は、バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属化合物気相成長法で成長させると共に、窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる反応容器内において、窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X<1の範囲である。)とするバッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、続いてバッファ層よりも高い成長温度で窒化ガリウム系化合物半導体を成長させるものである。さらに、バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる基板には、サファイア基板が使用される。」を「本発明の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法は、バッファ層の上に、有機金属化合物気相成長法で反応容器内に反応ガスを供給して窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法を改良したものである。本発明の方法は、前記バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属化合物気相成長法で成長させると共に、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記反応容器内において、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後前記窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X<1の範囲である。)とする前記バッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、続いて前記バッファ層よりも高い成長温度で、前記基板を回転させて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させるものである。さらに、前記バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記基板には、サファイア基板が使用される。」と訂正する。

そして、訂正前の請求項2ないし4は、いずれも請求項1を引用する請求項であるから、当該訂正前の請求項2ないし4についても、実質上、上記訂正事項1ないし5と同様の訂正を行うものである。

3 本件訂正の可否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1において、既出の構成要件であることを明確にするために、「バッファ層」を「前記バッファ層」に、「窒化ガリウム系化合物半導体」を「前記窒化ガリウム系化合物半導体」に、「反応容器」を「前記反応容器」に、それぞれ訂正するものであるから、この訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項1は本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、」との工程において、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後前記」との工程を加え、「窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後前記窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、」との工程に限定しようとするものである。
当該訂正の「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後」は、本件訂正前の本件特許明細書の【0025】「...<6>続いて副噴射管5からH_(2)とN_(2)の混合ガスを供給し、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給する。副噴射管5から供給するH_(2)ガスとN_(2)ガスの流量はそれぞれ10リットル/分、反応ガス噴射管4から供給するアンモニアガスの流量は4リットル/分、H_(2)ガスの流量は1リットル/分とし、この状態でサセプター2の温度が500℃に安定するまで待つ。」との記載に基づくものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。(上記本件特許明細書の引用箇所において用いられている文字であって、○の中に数字が記載されている文字を表記できないので、<1>等、<>で数字を挟んだ標記に置き換えている。以下、同様に文字の置き換えを行う。)
また、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後」に続く「前記」との訂正は、既出の構成要件であることを明確にするためのものであるから、この訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項2は本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1と同じく、特許請求の範囲の請求項1において、既出の構成要件である「バッファ層」であることを明確にするために、後段の「バッファ層」を「前記バッファ層」に訂正するものであるから、この訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項3は本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」を、「前記基板を回転させて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」に限定しようとするものである。
当該訂正は、訂正前の本件特許明細書の【0025】「<1>洗浄された2インチφのサファイア基板をサセプター2の上に載せる。...<9>サセプター2の温度が1020℃まで上昇した後、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスに加えて、TMGガスを5.4×10^(-5)モル/分の流量で60分間供給して、GaNエピタキシャル層を、4.0μmの膜厚で成長させる。この間、副噴射管5から常にH_(2)とN_(2)ガスを前述の条件で供給し続け、反応ガスで反応容器内が汚染されないようにしている。またサセプター2は均一に結晶が成長するように、モーター7で5rpmで回転させる。なお当然のことではあるが、ガスを供給している間、排気ポンプ6の配管と分岐した排気管8から、供給しているガスを外部へ放出している。」との記載に基づくものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、「前記基板を回転させて」に続く「前記」との訂正は、既出の構成要件であることを明確にするためのものであるから、この訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項4は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、上記訂正事項1,3と同じく、特許請求の範囲の請求項1において、既出の構成要件であることを明確にするために、「バッファ層」を「前記バッファ層」に、「窒化ガリウム系化合物半導体」を「前記窒化ガリウム系化合物半導体」に、「基板」を「前記基板」に、それぞれ訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項5は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6については、上記訂正事項1,3,5と同じく、特許請求の範囲の請求項2において、既出の構成要件であることを明確にするために、「バッファ層」を「前記バッファ層」に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項6は本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7については、特許請求の範囲の請求項1を訂正したことに伴い、訂正前の請求項1の記載に対応する【課題を解決するための手段】の中の記載を訂正後の請求項1の記載に対応するように訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項7は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

以上のとおり、本件訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、本件訂正は適法な訂正である。


第5 本件発明
1 本件の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明
上記「第4」のとおり、本件訂正は認められるので、本件の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」、「本件発明4」という。)は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。(下記請求項の下線は、訂正箇所を示す。)

【請求項1】
バッファ層の上に、有機金属化合物気相成長法で反応容器内に反応ガスを供給して窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法において、
前記バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属化合物気相成長法で成長させると共に、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記反応容器内において、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後前記窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)とする前記バッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、続いて前記バッファ層よりも高い成長温度で、前記基板を回転させて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させると共に、前記バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記基板に、サファイア基板を使用することを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。
【請求項2】
サファイア基板の上に、一般式がGa_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)で示される前記バッファ層を成長させ、このバッファ層の上に窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる請求項1記載の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。
【請求項3】
窒化ガリウム系化合物半導体の上に、一般式がGa_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)で示されるバッファ層を成長させ、さらにこのバッファ層の上に窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる請求項1記載の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。
【請求項4】
前記バッファ層の厚さが0.002μm以上、0.2μm以下であることを特徴とする請求項1記載の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。

2 本件訂正明細書に記載された事項
(1) 本件訂正明細書には、下記の事項が記載されている。

(本1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はサファイア等の基板上に、窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法に関し、特に結晶性の優れた窒化ガリウム系半導体化合物のエピタキシャル層の成長方法に関する。」

(本2)「【0002】
【従来の技術及びその問題点】最近、窒化ガリウム系化合物半導体、例えば、一般式が[Ga_(X)Al_(1-X)N(但し、Xは0≦X≦1の範囲にある)]の青色発光デバイスが注目されている。窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法として、有機金属化合物気相成長法(以下、「MOCVD法」という。)がよく知られている。・・・
【0003】・・・第一に結晶性を向上させることが不可欠である。
【0004】また、MOCVD法・・・表面モフォロジーの極めて悪い半導体の結晶層・・・
【0005】このような問題を解決するために、窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる前に、基板上にAlNのバッファ層を成長させる方法が提案されている・・・この方法は、サファイア基板上に、成長温度400?900℃の低温で、膜厚が100?500オングストロームのAlNのバッファ層を設けるものである。この方法はバッファ層であるAlN層上にGaNを成長させることによって、GaN半導体層の結晶性および表面モフォロジーを改善できる特徴がある。」

(本3)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら前記方法は、バッファ層の成長条件が厳しく制限され、しかも膜厚を100?500オングストロームと非常に薄い範囲に厳密に設定する必要があるため、そのバッファ層を、大面積のサファイア基板、例えば約50mmφのサファイア基板上全面に、均一に一定の膜厚で形成することが困難である。したがって、そのバッファ層の上に形成する窒化ガリウム系化合物半導体の結晶性および表面モフォロジーを歩留よく改善することが困難・・・さらなる結晶性の向上が必要・・・」

(本4)「【0012】また前記バッファ層の成長温度は200℃以上900℃以下、好ましくは400?800℃の範囲に調整する・・・900℃より高いと、バッファ層が単結晶となってしまい、後述するバッファ層としての作用を果たさなくなる傾向にある。」

(本5)「【0014】ところでAlNをバッファ層として窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法は、・・・文献に記載されているバッファ層の作用を簡単に述べると以下の内容である。
【0015】低温(約600℃)で成長させるAlNは多結晶層であり、このバッファ層を例えばGaNを成長させるために約1000℃にまで温度を上げる際、層が部分的に単結晶化する。部分的に単結晶化した部分が、1000℃でGaNを成長させる時に方位の揃った種結晶となり、その種結晶からGaN結晶が成長し、均一なGaN単結晶層が成長できる。・・・
【0017】まずバッファ層として、例えば・・・GaNの融点は1100℃であり、AlNの融点は1700℃である。このため600℃でGaNのバッファ層を形成すると、多結晶のバッファ層が成長する。次にこの多結晶のGaNバッファ層の上にGaNのエピタキシャル層を成長するために1000℃まで温度を上げると、GaNのバッファ層は部分的に単結晶化し、AlNをバッファ層とした場合と同様に、GaNエピタキシャル層用の種結晶として作用することになる。
【0018】しかもAlNをバッファ層として形成した場合よりも、融点が低いので温度を上昇しているときに容易に単結晶化しやすい。このため、バッファ層の厚さを厚くしても、バッファ層としての効果が期待できる。バッファ層がGaNなので、その上にGaNのエピタキシャル層を成長する場合、同一材料の上に同一材料を成長するため結晶性の向上が期待・・・」

(本6)「【0023】また本発明の結晶成長方法によるバッファ層は、サファイア基板上だけでなく窒化ガリウム系化合物半導体のエピタキシャル層を有する層であれば、どの層に形成してもよい。例えば・・・前記n型GaNエピタキシャル層の上にバッファ層を形成し、そのバッファ層の上にp型GaNエピタキシャル層を成長させることもできる。」

(本7)「【0025】・・・[実施例1]
・・・<1> 洗浄された2インチφのサファイア基板をサセプター2の上に載せる。<2> ・・・内部をH_(2)で置換する。<3> その後、H_(2)ガスを・・・反応容器1内に供給しながら、サセプター2を・・・1060℃まで加熱する。<4> この状態を10分間保持し、サファイア基板表面の酸化膜を除去する。<5> 次にサセプター2の温度を500℃まで下げて、温度が安定するまで静置する。<6> 続いて副噴射管5からH_(2)とN_(2)の混合ガスを供給し、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給する。・・・反応ガス噴射管4から供給するアンモニアガス・・・、H_(2)ガス・・・とし、この状態でサセプター2の温度が500℃に安定するまで待つ。<7> その後、バッファ層を形成するため、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスに加えて、TMG(トリメチルガリウム)ガスを・・・1分間流す。<8> 次にTMGガスのみを止めて、バッファ層の成長を止める。ここで膜厚0.02μmのバッファ層が形成できる。さらに他のガスを流しながらサセプター2の温度を1000℃まで上昇させる。<9> サセプター2の温度が1020℃まで上昇した後、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスに加えて、TMGガスを・・・60分間供給して、GaNエピタキシャル層を、4.0μmの膜厚で成長させる。・・・またサセプター2は均一に結晶が成長するように、モーター7で5rpmで回転させる。・・・」

(本8)「【発明の効果】・・・
【0042】本発明の方法が、このように飛躍的に結晶性を改善できるのは、窒化ガリウム系化合物半導体を成長させるのと同一の反応容器で、Ga_(X)Al_(1-X)N(0.5≦X≦1)で示されるバッファ層を形成し、このバッファ層の上に窒化ガリウム系化合物半導体を結晶成長させることによって、バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体との境界を極めて理想に近い状態にできるからと推測する。
【0043】すなわち、本発明の方法は、窒化ガリウム系化合物半導体を形成する反応容器において、まず多結晶のGa_(X)Al_(1-X)N(0.5≦X≦1)で示されるバッファ層が成長され、この多結晶バッファ層の上に、窒化ガリウム系化合物半導体を結晶成長させると、多結晶バッファ層は部分的に単結晶化して種結晶となり、この種結晶に窒化ガリウム系化合物半導体のエピタキシャル層が理想的な状態で結晶成長されるからである。」

(2) 本件訂正明細書の上記各記載事項を整理すると、
本発明は、MOCVD法による窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法において、窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる前に、サファイア基板上に、成長温度400?900℃の低温で、膜厚が100?500オングストロームのAlNのバッファ層を設ける従来技術において、「バッファ層の成長条件が厳しく制限され、しかも膜厚を100?500オングストロームと非常に薄い範囲に厳密に設定する必要があるため、そのバッファ層を、大面積のサファイア基板、例えば約50mmφのサファイア基板上全面に、均一に一定の膜厚で形成することが困難である」との課題を解決するために、
窒化ガリウム系化合物半導体を成長させるのと同一の反応容器で、Ga_(X)Al_(1-X)N(0.5≦X≦1)で示されるバッファ層を形成し、このバッファ層の上に窒化ガリウム系化合物半導体を結晶成長させる、すなわち、窒化ガリウム系化合物半導体を形成する反応容器において、まず低温で、多結晶のGa_(X)Al_(1-X)N(0.5≦X≦1)で示されるバッファ層が成長され、この多結晶バッファ層の上に、窒化ガリウム系化合物半導体をエピタキシャル層を成長するために温度を上げると、多結晶バッファ層は部分的に単結晶化して種結晶となり、この種結晶に窒化ガリウム系化合物半導体のエピタキシャル層が理想的な状態で結晶成長させるものである旨記載されている。

(3)「バッファ層」、「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温」及び「バッファ層よりも高い成長温度」の技術的意義について
訂正された請求項1の
「有機金属化合物気相成長法で成長させると共に、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記反応容器内において、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、・・・前記窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)とする前記バッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、続いて前記バッファ層よりも高い成長温度で・・・前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」
との構成において、
上記「バッファ層」は、上記(1)、(2)及び上記明細書全体の記載から、エピタキシ成長温度よりも低温で成長させた多結晶状態の層であって、その上に、窒化ガリウム系化合物半導体を結晶成長させることで、多結晶バッファ層を部分的に単結晶化して種結晶とし、この種結晶に窒化ガリウム系化合物半導体のエピタキシャル層が理想的な状態で結晶成長させるものであり、従来のバッファ層である多結晶からなるAlN層上にGaNを成長させることによって、GaN半導体層の結晶性および表面モフォロジーを改善する機能と同様の機能を有するものであり、
そのため、バッファ層を成長させる「前記窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温」は、有機金属化合物気相成長法によって成長させた層が多結晶となるような温度であること、
「バッファ層よりも高い成長温度で・・・前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」際の高い成長温度は、有機金属化合物気相成長法によってエピタキシャル成長、即ち、単結晶成長を生じさせる温度であること、
が説明されているものと解される。

(4)「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給」及び「基板を回転させて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」事の技術的意義について
訂正された請求項1の「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後前記窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、・・・前記バッファ層を、・・・成長させ、続いて前記バッファ層よりも高い成長温度で、前記基板を回転させて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」との構成において、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後前記・・・バッファ層を、・・・成長させ、続いて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」、及び「前記基板を回転させて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」との訂正請求により付加された各構成は、何れも、明細書全体を参酌しても、特段の技術的意義が説明されておらず、単に実施例に記載された方法の一部を訂正前の請求項1に組み込んだものと解される。


第6 甲第1?26号証及び乙第1号証の1?乙第10号証の記載事項
1 各甲第1?26号証に記載された事項
(1)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第1号証(佐々木徹他「GaN/サファイア MOVPE二段階成長におけるバッファ層成長条件」)には、以下の事項が記載されている。
(甲1ア)「GaN/サファイア MOVPE二段階成長におけるバッファ層成長条件」(288頁項番6p-Z-2のタイトル)

(甲1イ)「序. 三次元成長抑制による、サファイア上GaN膜の表面形態、結晶性の向上には、二段階成長が有効である。本稿では、二段階成長において重要なGaNバッファ層の成長条件の検討結果について報告する」(288頁項番6p-Z-2の「序」の欄)

(甲1ウ)「実験. 原料としてTMGa、NH_(3)を、また基板としてサファイアC面を用いた。」(288頁項番6p-Z-2の「実験」の欄)

(甲1エ)「結果及び考察. 図1に成長速度一定(?20Å/min.)の条件下で成長したGaN膜のRHEED像の膜厚及び基板温度依存性を示す。図中○印、●印、△印の条件では、各々ストリークを伴った単結晶スポット・パターン、双晶に関与する余剰のスポットを含むスポット・パターン、及び弧状のパターンが得られた。ある臨界膜厚以下では単結晶膜が、それ以上では多結晶膜が成長する事が判る。また、臨界膜厚は、基板温度の低下に伴い減少する。一方、NH_(3)をECRプラズマ励起し室温で成長した膜(図1中、□印の条件)では、膜厚に依らずハロー状の回折像が得られた。(図2)」(288頁項番6p-Z-2の「結果及び考察」の欄)

(甲1オ)「結論. NH_(3)が熱的に分解する温度では、単結晶もしくは多結晶成長が起こる。また、ECR励起による低温成長では、アモルファス膜が得られた。」(288頁項番6p-Z-2の「結論」の欄)

(甲1カ)甲第1号証288頁項番6p-Z-2の図1には、「FILM THICKNESS(Å)」と記載された横軸に、膜厚が100?1000Åの範囲、即ち、0.01?0.1μmの範囲が示されており、「SUBSTRATE TEMPERATURE(℃)」と記載された縦軸には、基板温度が、400℃程度から800℃程度の範囲、及びECRの場合として、0℃から50℃未満程度の範囲がそれぞれ示されている事が看取できる。

(2)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第2号証(西永頌「格子定数が大きく異なる基板上へのヘテロエピタキシー -HM^(2)のメカニズムをめぐって-」)には、以下の事項が記載されている。
(甲2ア)「最近、Si基板上へのGaAsをはじめとし、格子定数が大きく異なる基板上に、良質のエピタキシャル成長を得る技術が注目を集めている。このような、格子定数の大きく異なる基板上へのヘテロエピタキシャル成長をHM^(2)と略称する。本稿では、このうち、成長の第一段階で基板上に低温でnm程度のごく薄いバッファ層をつけ、その上に高温で通常のエピタキシャル成長を行わせる二段階成長法を取り上げ、ZnO/サファイア、SiC/Si、Si/サファイア、GaAs/Si系につき、その成長の様子を概観する。次に、これらの実験結果から、バッファ層の役割と、この層を介しての成長機構を議論する。」(1069頁要約の欄)

(甲2イ)「HM^(2)を可能にする技術として、最近いくつかの方法が提案されている。その一つは、二段階成長法と呼ばれているもので、nm程度のごく薄いバッファ層と呼ばれる層をまず成長させ、次に通常の成長温度でエピタキシャル成長を行うものである。」(1069頁左欄下から6行?下から2行)

(甲2ウ)「これに対して、二段階成長法におけるごく薄いバッファ層は、このバッファ層の歴史にあって、全く新しい考え方を導入したものといえる。すなわち、成長層と全く同じ材料のごく薄い膜を低温で成長させることで、ミスフィット転位をこの層で吸収してしまい、良質の成長層を得ようというものである。」(1070頁左欄11?16行)

(甲2エ)「サファイア基板の上にZnOを成長させる際、13nmのバッファ層を100?160℃という低温で、スパッタ法により成長させ、その上に良質のZnOを900?1000℃で、CVD(化学気相成長)法により成長・・・。この薄いバッファ層は、・・・完全なエピタキシャル関係をもつとはいえないが、一応単結晶的である・・・。この薄いバッファ層の上に成長させたCVD膜は・・・良質の単結晶である」(1070頁左欄18?26行)

(甲2オ)「二段階成長に関する次の報告は、・・・SiC/Siに関するものである。彼らはSi上にSiCを成長させるとき、低温でSiCの薄い膜をRFスパッタ法により成長させておくと、その上に、CVD法により、高温で良質のSiCがエピタキシャル成長することを報告している。」(1070頁左欄28?33行)

(甲2カ)「SiC/Siでは、バッファ層は800℃・・・成長層が得られなかった・・Si/サファイアでは・・・ZnO/サファイア・・・後者の場合はバッファ層はかなり低温で成長させ・・・」(1070頁右欄下から10?下から4行)

(甲2キ)「このような二段階成長に関しては、その後、Si/CaF_(2)系について・・・。彼らも、アモルファスSi層を薄いバッファ層として用いており、成長後、・・・。バッファ層は単結晶化しておらず、にもかかわらずその上に、単結晶Siが成長している・・・」(1071頁左欄下から10?下から4行)

(甲2ク)「このような二段階成長法は、秋山らによってGaAs/Siに応用された。彼らは、MOCVD(有機金属化学気相成長法)・・・を用い、おのおの二段階成長法により、良質のGaAs層を得ることに成功している。・・・MOCVDに対して、良質のCVD膜を得るための条件として、彼らは(100)から傾いた基板を用い、第1段階としてSi基板の高温(900℃)での熱処理とその後、450℃ないしそれ以下でのバッファ層の低温成長、その後700?750℃での高温CVD成長をあげている。」(1071頁左欄下から3行?右欄8行)

(3)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第3号証(清水正文他「シリコン基板上への直接MOCVD成長によるGaAs太陽電池の作製」)には、以下の事項が記載されている。
(甲3ア)「Si基板上へのGaAs単結晶の成長方法は、約400℃で第1段階の薄層成長を行い、つづいて、通常のGaAs基板上へのエピタキシャル成長と同じ温度700?730℃まで昇温した後GaAsを積層する二段階成長法を採用した。
まず、Si基板を、・・・MOCVD装置のサセプターに装着し、・・・約900℃で基板のベーキングを行った後、約400℃で第1段階のGaAs成長(?100Å)を行う。次に700?730℃に昇温した後、通常のGaAs基板上へのエピタキシャル成長と同様に第2段階の成長を行う。」(23頁右欄下から3行?24頁左欄11行)

(甲3イ)「3.1第1段階成長GaAs層
MOCVD反応管中・・・400℃で第1段階の成長を行った・・・GaAS層は明らかに双晶構造を示すスポットが存在する」(24頁左欄「3.Si基板上のGaAs層の評価」の欄の1?11行)

(4)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第4号証(山本あきお他「MOCVD法によるInP/Siのヘテロエピタキシャル成長」)には、以下の事項が記載されている。
(甲4ア)「これまで、Si基板上へのIII-V族化合物半導体のヘテロエピタキシャル成長については、・・・
Si基板上へのInPのヘテロエピタキシャル成長、すなわち、InP/Si構造」(267頁右欄16?24行)

(甲4イ)「InPの成長に使用したMOCVD装置は通常の横形反応管(内径5cm)方式のもの」(268頁左欄16?17行)

(甲4ウ)「エピタキシャル成長は・・・GaAs/Siで採用されている二段階成長法で行い・・・二段階成長法での第一層(低温成長層)の厚さは10?20nmとした。」(268頁左欄下から4行?末行)

(甲4エ)「ホモエピタキシーと同様な一段階成長法(成長温度625℃)と二段階成長法(成長温度:第一層400℃、第二層625℃)との成長膜表面モフォロジを比較した」(269頁右欄5?8行)

(5)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第5号証(若原昭浩他「MOCVD法によるGaAs基板上へのInPヘテロエピタキシャル成長」)には、以下の事項が記載されている。
(甲5ア)「本研究では、有機金属気相成長法(MOCVD)により、直接成長法と、二段階成長法を用いてGaAs基板上にInPをエピタキシャル成長させ、成長層の結晶性について調べたので報告する。」(1頁右欄1?4行)

(甲5イ)「成長方法としては、最良の成長条件を得るため、直接成長法と二段階成長法の二種類について、実験を行った。表1に成長条件を示す。」(1頁右欄14?17行)

(甲5ウ)(甲5イ)記載の「表1」には、成長温度が、バッファ層で400℃、成長層で550?700℃であることが示されている。

(6)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開平2-177490号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲6ア)「第2図は本発明の他の実施例を示す断面構造図であり、この実施例にあっては、被埋込み部Aと埋込み部Bとの表面にわたってGa_(1-Z)Al_(Z)As(Z≧0)を用いて所要厚さにバッファ層15を形成し、バッファ層15上に第1図に示す実施例と同様の半導体多層膜8を形成してある。これによって、表面が均一化され、更に埋込み部Bの成長条件が緩和され、しかも半導体多層膜8の特性の安定性、均一性を容易に得ることが出来る。」(3頁右上欄7?15行)

(甲6イ)「このような実施例にあっては被埋込み層A、埋込み層Bにわたってバッファ層15を形成することによって、これらの表面の均一性が確保でき、半導体多層膜8の形成に際して成長条件の乱れによる結晶の乱れを防止出来、更に相互の接合性も高まる。」(3頁右上欄19行?左下欄4行)

(7)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第7号証(特開平2-180084号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲7ア)「第1図は本発明の半導体レーザ素子の一実施例を示す断面図である。p?GaAs基板10上にp-Al_(Z)Ga_(1-Z)As第1バッファ層11(0≦Z≦1)、p-GaAs中間層12を成長した。・・・その上に、n-Al_(u)Ga_(1-u)As第2バッファ層14(0≦u≦1)、n-GaAs電流阻止層15(層厚0.3?0.7μm)を成長させた。・・・・V字溝16の両肩部付近の活性層の応力集中は緩和される。さらにp?GaAs基板10上にAl_(Z)Ga_(1-Z)Asバッファ層11が設けられているために、活性層全域で基板10から受ける応力の低減を図ることができる。」(3頁右上欄7行?左下欄17行)

(甲7イ)「p?GaAs基板10上にp-Al_(Z)Ga_(1-Z)As第1バッファ層11(0≦Z≦1)、p-GaAs中間層12、n-Al_(u)Ga_(1-u)As第2バッファ層14、n-GaAs電流阻止層15(厚さ0.3?0.7μm)を成長した。・・・V字溝16の肩部付近の活性層18の応力集中は緩和される。」(3頁右下欄4?17行)

(8)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第8号証(特開平2-260681号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲8ア)「GaAs基板(2)・・・n側バッファ層(5)を介して基板(2)上に波長形成されており、下から順に、n側クラッド層(6)、活性層(7)、p側クラッド層(6)の積層体からなる。更に、p側クラッド層(8)・・・上に、p側バッファ層(9)及びキャップ層(10)が積層されている。」(2頁右上欄6行?17行)

(9)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第9号証(特開平2-288285号公報)は、以下の事項が記載されている。
(甲9ア)「次に第2図を参照して第1図に示すこの発明の半導体レーザの製造方法を説明する。
n-GaAs基板(1)上にMOCVD法によりn-(Al_(y)Ga_(1-y))_(0.5)In_(0.5)P第1クラッド層(2)、真性の(Al_(X)Ga_(1-X))_(0.5)In_(0.5)P活性層(3)、p-(Al_(X)Ga_(1-X))_(0.5)In_(0.5)P第2クラッド層(4)、p-InPバッファ層(5)、p-GaAsコンタクト層(6’)をこの順序で成長させ」(3頁左上欄18行?右上欄5行)

(10)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第10号証(特開昭52-23600号公報)には、「窒化ガリウム単結晶の成長方法」(発明の名称)において、以下の事項が記載されている。
(甲10ア)「特許請求の範囲
基板上にまず基板温度1000℃以下において窒化ガリウムの気相成長を行なって第1層となし、さらに基板温度を1000℃をこえる範囲に上げて上記第1層上に窒化ガリウムの第2層を気相成長させることを特徴とする窒化ガリウム単結晶の成長方法。」(1頁左下欄4行?10行)

(甲10イ)「GaNはバンドギャップが、3.4evと広く青色発光素子材料として期待されている化合物半導体であるが、従来電気特性の良い均質な結晶性のものが得にくかった。」(1頁左下欄下から7?4行)

(甲10ウ)「現在一般にGaNはGa-HCl-NH_(3)系気相不均化法により基板上にヘテロ・エピタキシャル成長されている。基板としては高温で分解したりHClやNH_(3)と反応せず、また格子定数がGaNに比較的近いサファイアが一般的に用いられている。
この場合、通例の温度範囲(800?1150℃)では高い基板温度で成長するほどキャリヤー濃度が低く、易動度の大きな電気特性の良いGaNが得られる。」(1頁左下欄下から4行?右下欄6行)

(甲10エ)「発明者らの実験によれば、900℃で成長したGaNは、キャリヤー濃度が約1×10^(20)cm^(-3)易動度が・・・、1100℃で成長したものはキャリヤー濃度が約5×10^(18)・・・の電気特性を示した。
ところが、1000℃以下の低温で成長したGaNはサファイア基板上一面に膜状に成長するのに反し、1000℃をこえる高温で成長させるとGaNは膜状に成長せず基板上に粒状または島状に成長することが多い。」(1頁右欄6行?15行)

(甲10オ)「発明者らは、サファイア基板とGaNの付着が良く、膜状結晶が成長する条件と、電気特性の良い結晶を成長させる条件は異なると結論し、本発明を得るに至った。
本発明はGaN結晶成長における上述の問題点を解決し、電気特性が良い均質な膜状GaN結晶を得る方法である。」(1頁右下欄下から3行?2頁左上欄4行)

(甲10カ)「この問題点は構成原子、格子定数の異なるサファイア上にヘテロ・エピタキシャル成長させることに起因する。よって、第1図に示すごとく、サファイア1上にまず、良好な電気特性は期待できないが付着性の良い膜状結晶が得られる条件1000℃以下の温度、望ましくは800?1000℃においてGaNを例えば0.5μm?5μmの厚みで成長させこれを第1層2とする。つぎに基板温度を1000℃をこえる範囲、望ましくは1050?1150℃の範囲に上昇させ、電気特性の良い結晶が得られる条件でGaNの第2層3を第1層上にあらためて成長させる。」(2頁左上欄4?15行)

(甲10キ)「実施例1
実施の反応装置を第2図に示す。反応装置は主炉4と副炉5および2つのガス流導路を持つ石英反応管6よりなる。上部流導路にはGa7を置き副炉により700℃に保つ。上部流導路は基板8直前で下部流導路と合流する。まず上部流導路にAr500cc/min、下部流導路にNH_(3)ガス500cc/minとAr500cc/minを流す。主炉により基板を1000℃に保ち、上部流導路よりHClガスを5cc/minの流量で5分流し0.5?5μmの厚みでGaNを基板上に成長させる。その後HClガスを止め主炉により基板を1100℃に昇温し、再びHCIガスを5cc/minの流量で流しGaNを成長させる。成長速度は0.1?1.0mm/minであった。成長したGaNは均質な膜状結晶であり」(2頁左上欄下から4行?右上欄11行)

(甲10ク)「実施例2
実施例1と同等の装置においてGa7を副炉により700℃に保ち、サファイア基板8を主炉により1000℃に保つ。・・・主炉を調節して基板温度を1?10℃/minの割合で上昇させ基板上にGaNをエピタキシャル成長させる。基板温度が1100℃にまで上昇した後は温度上昇を止め1100℃に保ちGaNを成長させる。」(2頁右上欄下から6行?2頁左下欄4行)

(甲10ケ)「以上のように、本発明は気相成長方法による窒化ガリウム結晶成長において、・・・第2層を気相成長させることを特徴とするもので、電気特性の良い均質な膜状GaN単結晶を得ることができる。」(2頁左下欄7?13行)

(11)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第11号証(特公昭52-36117号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲11ア)「本発明は、選ばれた窒素含有化合物を第III族元素のアルキル誘導体の少なくとも一種と混合するときに生じるガス混合物および/または反応生成物の熱分解を制御することによって第III族元素の窒化物半導体膜を形成させるためのプロセスにある。」(2頁3欄33行?38行)

(甲11イ)「実施例1.
a-Al_(2)O_(3)上のAlN
きれいにし、みがいたサファイアの種結晶(単結晶)を、膜成長のために(0 1-1 2)面をさらすように配向し、石英反応管内に納められた台座上に置いた。台座は、膜の厚さの一様性を助成するべく、回転させた。」(3頁6欄5?11行)(上記記載中、「1」の上に「-」がある文字を表記できないので、「-1」としている。)

(甲11ウ)「テストランの間、基板表面の軽度のエッチングによって汚染物および望ましくない表面被膜を除去するため、約1300℃に加熱された基板上に、約15?30分間、キヤリアガスの水素を通した。テストランに応じて、純粋な稀釈された形のNH_(3)の制御された量を反応器に導入し、つづいてトリメチルアルミニウム(TMA)を導入した。NH_(3)ガスの量は、トリメチルアルミニウムに対し、方程式1中で表現された化学量論量より過剰になるように選んだ。」(3頁6欄31?40行)

(甲11エ)「トリメチルアルミニウムは、液状TMAの中に通した一部のキャリアガスによつて、反応器へ運び込まれた。水素はキャリアガスとして成功裏に使用された。トリメチルアルミニウムの分圧は、その温度を調整して制御した。一連のテストにおいて、約30℃で測定して、NH_(3)に対し1750cc/分、TMA中に通してバブルさせるH_(2)に対し25?100cc/分の流速を採用した。a-Al_(2)O_(3)上でのAlNの満足すべき膜の成長には、約8l/分の全キャリアガス流量を用いた。
反応すべき両物質は、管の出口側が、加熱された基板から約5?15mmのところにくるように位置された、直径12mmの管を流下させた。NH_(3)とトリメチルアルミニウム運搬用キャリアガスは、いくつかのテストランでは管入口の近くで、別のいくつかのランでは管の中で、混合して、化合物A(TMA:NH_(3))を形成させた。つぎに、化合物Aを、窒化アルミニウムの成長が行われる加熱基板へ向けて導いた。」(3頁6欄41行?4頁7欄16行)

(甲11オ)「実施例2.
a-Al_(2)O_(3)およびSiC上のGaN
サファイア・・・基板上に窒化ガリウム(GaN)の単結晶膜を形成するために・・・トリメチルガリウム(TMG)を用いた以外は、上記実施例について記載した技術を本例でも用いた。・・・アンモニアを用いるべきである。
基板台座の温度は900?975℃の間に制御した。結果として、六方晶系の窒化ガリウムの単結晶膜が、斜方晶系のa-Al_(2)O_(3)・・の上に形成された。」(4頁7欄39行?8欄16行)

(12)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第12号証(特開昭60-173829号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲12ア)「サファイアC面基板上にトリメチルガリウム(TMG)-NH_(3)-N_(2)(またはH_(2))系を用いて薄膜成長させる有機金属気相成長法では膜の均一性は良好となるが、格子不整合の問題は解決されず、成長させたGaN膜は多くの窒素空格子点を含むという欠点があった。・・・
[目的]
・・・格子整合性を向上させる・・・
[発明の構成]
・・・基板とエピタキシャル膜との間に、エピタキシャル膜と同一組成のバッファ層を高周波スパッタ法により設ける。」(2頁右上欄3行?左下欄下から4行)

(甲12イ)「(実施例1)サファイアC面基板上へのGaN膜の成長(第1図の構成)
まず、光学研磨したサファイアC面基板1上に、直流バイアスを印加した高周波スパッタ法によりGaNバッファ層2を1,000Å?7,000Åの厚さに形成した。」(3頁左上欄15行?最終行)

(甲12ウ)「次に、GaNバッファ層2の上に、有機金属相成長法により、GaNエピタキシャル層3を1?10μmの厚さに成長させて、第1図示の構造を得た。・・・基板1を・・・800?1000℃に加熱し・・・C軸配向GaNエピタキシャル層3を成長させた。」(3頁右上欄下から4?左下欄9行)

(13)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第13号証(小出康夫他「MOVPEによるAlGaN/α-Al_(2)O_(3)ヘテロエピタキシーにおけるAlNバッファ層の効果」)には、以下の事項が記載されている。
(甲13ア)「Al_(x)Ga_(1-x)Nは高エネルギーギャップの混晶半導体であり、・・・エピタキシャル成長は主としてサファイヤ(α-Al_(2)O_(3))基板上に行う。しかし、Al_(x)Ga_(1-x)Nとα-Al_(2)O_(3)との大きな格子定数差・・・および熱膨張係数差・・・のために良質のエピタキシャル膜を得ることは難しい。この問題点を克服する一つの方法は成長層と基板との間にバッファ層を導入することである。・・・
ここでは、Al_(x)Ga_(1-x)N(0≦x≦0.4)/α-Al_(2)O_(3)系のヘテロエピタキシーにおいて、低温成長させたAlNバッファ層を介することにより、Al_(x)Ga_(1-x)N膜の結晶性が著しく改善されることを示す。」(218頁右欄2?21行)

(甲13イ)「Al_(x)Ga_(1-x)N膜(0≦x≦0.4)は縦型反応管を用いた常圧MOVPE法により成長させた。原料としてはTMGa、TMAlおよびNH_(3)を用いた。有機金属化合物とNH_(3)の寄生反応を抑制するために、TMGa、TMAlおよびNH_(3)はキャリアガス(H_(2))とともに反応管直前で混合し、引き込み管を用いて高速(110?425cm/s)で基板に供給した。・・・成長直前には、1150度、10分間H_(2)雰囲気中で熱処理を行なった。AlNバッファ層は800?900℃で30?60秒間成長させ、Al_(x)Ga_(1-x)N膜は950?1050℃で20?30分間成長させた。」(219頁左欄6?21行)

(甲13ウ)「800℃で成長させたAlNバッファ層の・・・このことは800℃で成長させたAlN膜が多結晶構造であることを示している。」(219頁左欄下から2行?右欄3行)

(甲13エ)「低温(800℃)で成長させたAlNバッファ層はAl_(x)Ga_(1-x)N成長時の温度(?1000℃、AlNバッファ堆積温度より高い)で再結晶化し、マクロに見てc軸がサファイヤのc面に対し配向するようになる。」(224頁右欄14?18行)

(14)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第14号証(赤崎勇他「GaAlNの結晶成長と光電物性」)には、以下の事項が記載されている。
(甲14ア)「Ga_(1-x)Al_(x)Nはワイドエネルギーギャップの混晶半導体であり、・・・エピタキシャル成長は主としてサファイヤ(α-Al_(2)O_(3))基板上に行う。・・・本報告では、Ga_(1-x)Al_(x)N(0≦x≦0.4)/α-Al_(2)O_(3)系のヘテロエピタキシーにおいて、低温成長させたAlNバッファ層を介することにより、成長層の結晶性が著しく改善されることを示す。」(51頁「1.はじめに」の項目の1?10行)

(甲14イ)「Ga_(1-x)Al_(x)N(0≦x≦0.4)膜は縦型および横型反応管を用いた常圧MOVPE法によりH_(2)雰囲気中でサファイヤC面上に成長させた。原料としてはTMG(またはTEG)、TMA、NH_(3)を用いた。有機金属化合物とNH_(3)の寄生反応を抑制するために、各原料ガスはキャリヤガスとともに反応管直前で混合し、引き込み管を用いて高速に基板に供給した。成長直前には1150?1200℃、10分間H_(2)雰囲気中で熱処理を行った。 AlNバッファ層は600?950℃で、GaNおよびGa_(1-x)Al_(x)Nは950?1050℃で成長させた。GaAlNのAlNモル分率xはTMGおよびTMAの供給濃度比を変化させることにより制御した。」(51頁「2.1成長実験」の項目全行)

(甲14ウ)「GaAlN成長層の表面が平坦となるAlNバッファ層の最適な厚みは、500?1000Åであった。バッファ層が薄いときはGaNは六角錐状のグレインを有する構造になり、厚すぎるとGaNが多結晶化しやすかった。」(51頁最終行?52頁3行)

(15)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第15号証(特開平2-229476号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲15ア)「有機金属化合物ガスを用いてサファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体薄膜(Al_(x)Ga_(1-x)N;X=0を含む)を気相成長させる方法において、
サファイア基板上に成長温度400?900℃で膜厚100?500Åに成長され、結晶構造を無定形結晶中に微結晶又は多結晶の混在したウルツァイト構造とする窒化アルミニウム(AlN)から成る
バッファ層を設け、
前記バッファ層上に窒化ガリウム系化合物半導体(Al_(x)Ga_(1-x)N;X=0を含む)を成長させることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体の気相成長方法。」(1頁、特許請求の範囲(1))

(甲15イ)「従来、有機金属化合物気相成長法(以下「MOVPE」と記す)を用いて、窒化ガリウム系化合物半導体(Al_(x)Ga_(1-x)N;X=0を含む)薄膜をサファイア基板上に気相成長させることや、その窒化ガリウム系化合物半導体薄膜を発光層とする発光素子が研究されている。」(1頁右欄下から6?最終行)

(甲15ウ)「サファイア基板上に、成長温度400?900℃で膜厚100?500Åに成長され、・・・窒化アルミニウム(AlN)から成るバッファ層を設けたため、そのバッファ層上に成長する窒化ガリウム系化合物半導体の結品性が良くなった。」(2頁左下欄3行?9行)

(甲15エ)「まず、有機洗浄及び熱処理により洗浄した(0001)面を主面とする単結晶のサファイア基板50をサセプタ20に装着する。次に、H_(2)を0.3l/分で、第1ガス管28及び第2ガス管29及び外部管35を介してライナー管12に流しながら、温度1100℃でサファイア基板50を気相エッチングした。次に温度を650℃まで低下させて、第1ガス管28からH_(2)を3l/分、NH_(3)を2l/分、15℃のTMAを50cc/分で2分間供給した。」(4頁左上欄2?11行)

(甲15オ)「成長温度が300℃以下であるとAlNバッファ層の所望の膜厚が得られず、成長温度が900℃以上となるとAlNの結晶化が進んでしまい所望の膜質が得られないことが分る。・・・結晶性の良いN層を得るには、AlNのバッファ層の成長温度は400?900℃が望ましいことが分る。」(4頁左下欄5?右下欄3行)

(甲15カ)「上記と同様にして単結晶のサファイア基板60上に、成長温度650℃で、第1ガス管28からH_(2)を3l/分、NH_(3)を2l/分、15℃のTMAを500cc/分で1分間供給して350ÅのAlNのバッファ層61を形成した。次に、1分経過した時にTMAの供給を停止して、サファイア基板60の温度を970℃に保持し、第1ガス管28からH_(2)を2.5l/分、NH_(3)を1.5l/分、-15℃のTMGを100cc/分で60分間供給し、膜厚約7μmのN型のGaNから成るN層62を形成した。そのN層62の形成されたサファイア基板60を気相成長装置から取り出し、・・・」(5頁左上欄2?13行)

(16)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第16号証(Z.Sitar 他、「Growth of AlN/GaN layered structures by gas source molecular-beam epitaxy」(「ガス源分子線エピタキシーによるAlN/GaN層構造の成長」:以下、英文に続く日本語は、当審による訳)には、以下の事項が記載されている。
(甲16ア)「AlN/GaN layered structures with layer periods between 1.5 and 40 nm have been grown on (0001) oriented sapphire・・・」(「1.5から40nmの間で繰り返し積層化されたAlN/GaN積層構造を(0001)面サファイアの上に成長させた」316頁要約の欄1,2行)

(甲16イ)「a 140-nm thick GaN buffer layer was grown followed by 20 to 200 periods of AlN/GaN layers having the thickness for a given deposition in the range of 1.5-40nm.」(「140nm厚GaNバッファ層を成長し、続けて1.5-40nmの範囲で堆積させた厚さを有するAlN/GaN層を20から200回繰り返した。」317頁左欄30行)

(17)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第17号証(平松和政他「MOVPE法によるサファイヤ基板上へのGaN結晶成長におけるバッファ層の効果」)には、以下の事項が記載されている。
(甲17ア)「MOVPE法において成長層と基板との間にエピタキシャル温度よりも低い温度で単結晶でないバッファ層を堆積させることを提案した。すなわち、バッファ層としてAlNを用いこれを通常のエピタキシャル温度(?1200℃)よりも低い温度で堆積させその上にGaN膜を成長させる」(334頁右欄下から2行?335頁左欄5行)

(甲17イ)「GaN膜は横型反応管を用いた常圧MOVPE法によりサファイヤ(0001)面(C面)上に成長させた。AlNバッファ層の原料としては、トリメチルアルミニウム(TMA;+15℃,30sccm H_(2))とアンモニヤ(NH_(3);1slm)を用い、キャリヤガスとして水素(H_(2);1.5slm)を用いた。GaN膜の原料としてはトリメチルガリウム(TMG;-15℃,40sccm H_(2))とアンモニヤ(NH_(3);1slm)を用いた。これらの有機金属化合物(MO)とNH_(3)の寄生反応を抑制するために、各原料ガスはキャリヤガスと共に反応管直前で混合し、引き込み管を用いて高速に基板に供給した。成長直前には1150?1200℃、10分間H_(2)雰囲気中で熱処理を行った。AlNバッファ層は600?950℃で堆積させ、GaN膜は1040℃で成長させた。」(335頁左欄下から5行?右欄10行)

(甲17ウ)「AlNバッファ層の堆積膜厚を?0.2μm以上と厚くした場合には、堆積温度を高くした場合と同様に、膜が多結晶になる傾向がある。このためその上に成長するGaN膜も多結晶になることも確かめている。」(341頁左欄19行?23行)

(18)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第18号証(特開昭60-175412号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲18ア)「反応雰囲気に水素(H_(2))を用いると、初期段階で生成されるGaN核が大型で、低密度になり、これを核として成長する結晶成長物も大きな塊となって、層状の結晶成長面が起伏の大きな粗面になる。・・・一方、反応雰囲気を窒素(N_(2))、アルゴン(Ar)、あるいはヘリウム(He)等の不活性気体にすると、初期生成物のGaN核は微細で高密度になるが、反応過程で生成される中間生成物が分解されず、成長結晶中にメチル基(-CH_(3))を含む不完全結晶が生成され、結晶性が著しく悪い。」(1頁右下欄下から3行?2頁左上欄10行)

(甲18イ)「本発明は、MOCVD法により、結晶基板上に良質のGaN結晶層を育成することの可能なGaNの成長方法を提供するものである。」(2頁左上欄12?14行)

(甲18ウ)「この装置は、・・・石英反応管1の内部にはカーボンサセプタ3を設置し、この上にサファイア単結晶基板4を載置して、この基板4を950℃に加熱保持して、・・・気相反応ができるようにしたものである。・・・まず、第1工程として、反応の雰囲気にN_(2)を・・・供給しながら、反応ガスのNH_(3)およびTMGを・・・導入する。・・・引き続いて、第2工程として、雰囲気を・・・H_(2)に切り換えるとともに、反応ガスのTMGも、・・・H_(2)と混合したもので導入して、NH_(3)の・・・ガス条件下で120分間の反応処理を行う。」(2頁右上欄6行?左下欄5行)

(甲18エ)「第1段階でのGaN核の生成と、次の結晶生成の第2段階とで雰囲気条件を不活性雰囲気から水素雰囲気に変えることにより、安定で、しかも、良質の結晶層に実現される。」(2頁右下欄5?8行)

(19)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第19号証(H.Amano 他、「Metalorganic vapor phase epitaxial growth of a high quality GaN film using an AlN buffer layer」)には、以下の事項が記載されている。
(甲19ア)「We report that, by using a thin AlN layer as the buffer layer, GaN single crystal films with optically flat surfaces free from cracks have been successfully grown by MOVPE for the first time. ・・・・・・
A conventional MOVPE system with a simple vertical reactor operated at atmospheric pressure was used. It is similar to that reported formerly. In order to reduce undesirable reactions between metalorganic compounds and gaseous NH_(3), and to improve the uniformity of grown GaN films, some improvements have been made in the reactor design and growth conditions as shown in Fig.1. Metalorganic sources diluted with H_(2) and a large amount of NH_(3) with H_(2) as a carrier gas were mixed just before the reactor and were fed through a delivery tube to a slanted substrate with a high velocity(?425cm/s).・・・The substrates used were(0001)sappire・・・Prior to growth, they ・・・were heated to about 1150℃ in a H_(2) ・・・At first, by feeding trimethylaluminium(TMA) and NH_(3) gases into the reactor, a thin AlN layer was deposited.」(「最初に、バッファ層として薄いAlN層を用いることによって、クラックが無く、光学的に平坦な表面を有するGaN単結晶フィルムがMOVPEによって十分に成長させられる事を報告する。・・・大気圧下において機能する単純な縦型反応器を備えた従来のMOVPEシステムが使用された。それは以前に報告されたものと類似する。有機金属化合物と気体のNH_(3)との反応を抑制するため、また成長するGaN膜の均一性を改善するため、図1に示されたとおりの反応器のデザインと成長条件においていくつかの改善がなされた。 H_(2)によって希釈された有機金属原料及びキャリアガスとしてのH_(2)を伴う大量のNH_(3)は反応器の直前で混合され、引き込み管を通じて傾斜した基板に高速(?425cm/s)で供給された。・・・基板として(0001)サファイアが使われた。・・・H_(2)雰囲気下、1150℃で熱処理された。・・・最初の成長は、反応器の中にトリメチルアルミニウム(TMA)とNH_(3)ガスを供給し、薄いAlN層を堆積した。」353頁右欄1行?19行)

(甲19イ)353頁の図1(FIG.1.)には、反応器(reactor)の上方にガスの輸送管(delivery tube)があり、輸送管の上方で、「TMG(TMA)+H_(2)」用の管と、「NH_(3)+H_(2)」用の管が結合されていることが看取できる。

(20)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第20号証(森芳文他「エピタキシャル成長技術実用データ集 第1集 MBEとMOCVD/第1分冊MOCVD」)の67頁から始まる「第6節 MOCVD装置」には、以下の事項が記載されている。
(甲20ア)「MOCVDの創始者であるManasevitらの装置を参照して説明しておこう。図-1は彼らのGaAs成長装置の模式図である。」(67頁 右欄5?7行)

(甲20イ)「さて、装置構成毎にManasevitら以後の展開についてみてみよう。」(68頁左欄18、19行)

(甲20ウ)「Manasevitらが用いた縦型反応管において、グラファイトサセプタは気流(実際の流れのパターンという意味ではない)に対して垂直に配置している。この場合、成長層厚みの面内での均一化のためサセプタを自転させるのが普通である。この縦型反応管は現在最も広く用いられている」(71頁左欄8?13行)

(21)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第21号証(特開平2-18387号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲21ア)「第1図に示した横型反応管として・・・基盤台として炭素材を用いた。・・・基盤(3)として1cm角のGaAs基盤を用い、水平方向のガス流の軸に対し、・・・基盤の軸中心に対する回転速度を2/3?1rpmとした。」(3頁左上欄最終行?右上欄8行)

(甲21イ)「III-V族化合物半導体を基盤上に成長させる気相エピタキシャル成長法において、III族元素を含む有機金属化合物とV族元素を含む水素化合物とからなる複数の気体原料を、それぞれ別々の導入経路で横型反応管内に導入し、反応管内で混合された原料ガスが基盤上に全て同時に供給されるように排気系と反応系の切換のバルブ操作を行なうとともに、横型反応管内に基盤を水平方向に対し3?45°なる角度をもたせ、かつ、基盤をその軸中心に回転せしめながら基盤上にIII-V族化合物半導体を成長させることにより基盤上に発光強度も十分で、均一性、再現性の良い結晶成長を行うことができ、その実用的効果は大きい」(3頁左下欄8行?右下欄1行)

(22)本件特許の出願後に頒布された刊行物である甲第22号証(特許第2745819号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲22ア)「【0002】【従来の技術】気相膜成長装置、例えば薄膜形成に有効なMOCVDにおいては、図2に示すように成長炉20を縦型のパンケーキ型とし、低速回転するサセプタ25に載せた基板24に垂直に原料ガスを吹き付けてエピタキシャル成長させる・・・
【0003】そこで従来、基板を載せたサセプタを高速回転・・・しながらエピタキシャル成長を行う方式が提案された・・・これにより均一なエピタキシャル層が基板上に成長するとされている。」

(23)本件特許の出願後に頒布された刊行物である甲第23号証(特許第3056781号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲23ア)「(従来の技術)
基板上に半導体等の結晶薄膜を気相成長させて半導体等を製造する気相成長装置・・・反応管2内に、基板3を載置するサセプタ4と、サセプタ4を着脱自在に支持する筒状のサセプタ受け5と、・・・が配設されている。
・・・サセプタ受け5の下部には、サセプタ4を回転させるための回転駆動装置が連結されている。
従来の気相成長装置は上記のように構成され・・・基板3上に化合物半導体の薄膜を気相成長させる。」(1頁2欄2行?2頁3欄15行)

(24)本件特許の出願後に頒布された刊行物である甲第24号証(赤崎勇「III族窒化物半導体」)には、以下の事項が記載されている。
(甲24ア)「6.2 結晶成長
ここでは、HVPEによるGaNの結晶成長法について述べる。・・・GaNのV族元素のNはNH_(3)ガスで供給され。III属元素のGaは・・・生成するGaClガスで供給される。・・・成長部の温度1000℃から1100℃で原料ガスを反応させ、基板ホルダー上に置いた単結晶基板上にGaNを成長させる。」(114頁1?12行)

(25)甲第25号証(特許・実用新案審査基準)の「第I部明細書」には、以下の事項が記載されている。
(甲25ア)「3.3.1 特許法第36条第5項第2号違反の類型
(1)請求項の記載内容が技術的に明瞭でない場合。」(4頁下から11?10行)

(26)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第26号証(特開平2-211620号公報)には、以下の事項が記載されている。
(甲26ア)「(実施例)
・・・この装置で、InN、GaN,・・・単結晶膜を成長させるためには、まず石英反応管3内を真空排気装置により排気する。次に基板表面の清浄化を目的として、石英反応管内にH_(2)ガスを導入した後、高周波誘導コイル4に通電することによりカーボン・サセプタ2を600?1350℃に加熱し、10?30分間保持する。基板熱処理後、サセプタ温度を成長温度に設定し、NH_(3)ガスを導入する。この状態で、III族有機金属をバブリングしたH_(2)ガス(あるいはN_(2)ガス)を石英反応管内に導入することにより、基板1上でIII属有機金属とNH_(3)を反応させ、InN、GaN,・・・単結晶薄膜を得る。・・・
(実施例1)(GaN単結晶膜の成長)
石英反応管3内を真空排気した後、H_(2)雰囲気中でサファイアM面基板を600?1350℃、10?30分間熱処理する。次に、基板温度を700?1100℃の成長温度に設定し、1?5l/分のNH_(3)ガスを導入管7より供給する。続いて、バブラの温度を-30?50℃に設定したトリメチルガリウム(TMGa)を1?100cc/分のH_(2)ガス(あるいはN_(2)ガス)でバブリングし、0?5l/分のH_(2)キャリアガス(あるいはN_(2)キャリアガス)と合流させた後、導入管6より石英反応管3へ供給する。」(2頁右下欄1行?3頁左上欄18行)

(甲26イ)「M面上に成長する・・・C面上に比べ100?200℃低温でも単結晶成長を行うことが可能となる。」(4頁右上欄8?12行)

2 乙第1号証の1?乙第10号証に記載された事項
(1)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である乙第1号証の1(S. Ohnishi 他、「Chemical Vapor Deposition of Single-Crystalline ZnO Film with Smooth Surface on Intermediately Sputtered ZnO Thin Film on Sapphire」)のタイトルは、「サファイア上にスパッタされた中間ZnO薄膜上に、平坦な表面を有する単結晶ZnO膜の化学気相成長」(乙1ア)である。

(2)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である乙第2号証の1(S. Nishio 他、「Chemical Vapor Deposition of Single Crystalline β-SiC Films on Sillicon Substrate with Sputtered SiC Intermediate Layer」)のタイトルは、「スパッタされたSiC中間層を有するシリコン基板上の単結晶β-SiC膜の化学気相成長」(乙2ア)である。

(3)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である乙第3号証の1(M.Ishida 他、「Epitaxial Growth of SOS Films with Amorphous Si Buffer Layer」)には、以下の事項が記載されている。
(乙3ア)「A new method of SOS epitaxial growth is proposed for the improvement of the crystalline quality. The method consists of two process steps:(1)a sapphire surface is first covered with a thin amorphous Si layer prepared by sputtering, and (2)Si CVD is then carried out, which effctively avoids various problems which occur in the early stage of film growth. We have succeeded in obtaining the epitaxial layer of Si on the sapphire substrate covered with an amorphous Si buffer layer(less than 100Å)」(「SOSエピタキシャル成長の新規方法が、結晶品質の向上のために提案された。この方法は次の2つの工程から成る。:(1)まず、スパッタによるアモルファスSi薄膜によりサファイア基板を被覆する。(2)次に、膜成長の初期段階で生ずる諸問題を効果的に回避するために、CVDによりSiを成長する。我々は、アモルファスSiバッファ層(100Å以下)で被覆されたサファイア基板上のSiエピタキシャル層を得ることに成功した。」アブストラクトの1?6行)

(4)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である乙第4号証の1(M.Ishida 他、「EPITAXIAL GROWTH OF Si OVER AMORPHOUS Si BUFFER LAYER SPUTTERED ON SAPPIRE SUBSTRATE」,Layered Structures and Interface Kinetics edited by S.Furukawa」)には、以下の事項が記載されている。
(乙4ア)「Abstract New SOS growth method is proposed. The method consists of two stages; (1)amorphous buffer layer of 10-50Å thick is deposited at room temperature on a sapphire substrate by DC sputtering and (2)Si single crystal film is epitaxially grown over thus prepared amorphous Si by pyrolysis of SiH_(4)in H_(2) atomosphere at approximately 1000℃. It was shown that to grow a high quality single crystalline epitaxial layer it is essential to choose the amorphous layer thickness between 10 and 50 Å and to perform CVD at the temperature higher than 970℃」(「アブストラクト 新しいSOSの成長方法が提案されている。この方法は;(1)DCスパッタ法によって室温で10-50Åのアモルファスのバッファ層をサファイア基板上に積層する、(2)当該アモルファスSiの上に約1000℃のH_(2)雰囲気中でSiH_(4)を熱分解させてSi単結晶膜をエピタキシャル成長させる、という2段階で成り立っている。高品質の単結晶のエピタキシャル膜を成長させるためには、アモルファス層の膜厚を10-50Åにし、CVDを970℃よりも高温で行うことが重要であることが分かった。」アブストラクトの1?7行)

(5)本件特許の優先権主張の日前に頒布された刊行物である乙第5号証の1(M.Ishida 他、「Growth and properties of Si films on sapphire with predeposited amorphous Si layers」)には、以下の事項が記載されている。
(乙5ア)「I. INTRODUCTION
We have already proposed a new method of heteroepitaxial growth using a thin amorphous Si layer(buffer layer) predeposited on sapphire substrates before chemical vapor deposition(CVD). This growth method consists of two proceses:(1)a sapphire surface is covered in the begining with a thin amorphous Si layer prepared by a sputtering method, and (2)Si CVD is carried out on the substrate surface covered with the amorphous Si layer as shown in Fig.1.」(「I.緒言 我々は、化学気相成長法(CVD)の前に、サファイア基板上に予め成長されたアモルファスSi薄膜(バッファ層)を用いた新たなヘテロエピタキシャル成長法をすでに提案した。この方法は、図1に示すように、以下の2つの段階からなる:(1)初めに、サファイア基板表面をスパッタ法によりアモルファスSi薄膜で覆う、そして、(2)アモルファスSi層で覆われたサファイア基板上に、SiのCVDを実行する。」4073頁左欄1?9行)

(乙5イ)4074頁の図2には、「Fig.2 CVD sysytem for Si epitaxial growth by pyrolysis of SiH_(4).」(「SiH_(4)の熱分解によりSiエピタキシャル成長を行わせるためのCVDシステム」)に関する装置が示されており、図の「susceptor」(「サセプタ」)の下方には、「susceptor rotating unit」(「サセプタ回転ユニット」)との記載がなされている。

(6)本件特許の出願後に頒布された刊行物である乙第6号証(赤崎勇「III族窒化物半導体」)には、以下の事項が記載されている。
(乙6ア)「III-V族化合物半導体の気相エピタキシ(MOVPE,MBE,HVPE)では・・・最近GaNを中心とするIII族窒化物半導体にこの手法が適用され、窒化物窒化物半導体の成長は、これまでのV族がリン、ヒ素およびアンチモン系半導体の成長と比べて、かなり特異な成長であることが知られている。」(68頁6?11行)

(乙6イ)「4.2 有機金属エピタキシ(MOVPE)
MOVPE法は、この方法でサファイア基板上にバッファ層を形成することにより良質のエピタキシャル層が得られ、GaNの・・・もっとも広く用いられている方法である。」(68頁13?17行)

(7)本件特許の出願後に頒布された刊行物である乙第7号証(「結晶成長ハンドブック」)には、以下の事項が記載されている。
(乙7ア)「B.原子層ステップ・・・C.成長島・・・D.液滴・・・E.再配列構造や表面組成比の分布・・・4.2.5応用 A.成長機構の解析・・・B.成長下での物性の測定・・・C.成長の制御・・・4.2.6その他・・・」(1096頁左欄1行?1097頁右欄最終行)

(8)本件特許の出願後に頒布された刊行物である乙第8号証(生駒俊明 他「電子材料シリーズ ガリウムヒ素」)には、以下の事項が記載されている。
(乙8ア)「c.高抵抗バッファ層の影響
融点で成長されるバルクGaAsは、多くの点欠陥や不純物を含んでいる。そのため基板に近い成長初期のエピタキシャル層は質の悪いものになる。これを防ぐために通常バッファ層とよばれる緩衝層が動作エピタキシャル層と基板との間にいれられる。GaAsFETの場合にも高抵抗バッファ層を3?5μm成長させた後、連続して動作層を0.2μm程度成長させる。」(140頁下から2行?141頁4行)

(9)本件特許の出願後に頒布された刊行物である乙第9号証(特開平5-41541号公報)には、以下の事項が記載されている。
(乙9ア)「【0003】・・・サファイア上のIII族窒化物半導体成長ではAlN層を介した成長が有効である。・・・このため、平坦なAlN層を形成できさえすればその上に成長するエピタキシャル膜の三次元成長を抑制できる。
【0004】従来、以上の目的のAlN形成方法としては、<1>サファイア基板をNH_(3)・・・等の窒素原料ガス雰囲気で熱処理することにより基板表面を単結晶AlN化方法・・・
【0005】<1>の方法では、数10Åの領域で効果的に窒化層を再現性良く形成できる・・・
【0006】・・・<1>及び<2>の方法で作成したAlNバッファ層は、その上に成長したエピタキシャル膜・・・」

(乙9イ)「【0009】【課題を解決するための手段】・・・サファイア基板表面に形成した窒化層と該窒化層上に堆積したAlNバッファ層を含む・・・サファイア基板を窒素原料ガス雰囲気中で窒化処理する第一の工程と、該窒化層上に・・・AlNバッファ層を堆積する第二の工程と、該AlNバッファ層を堆積温度よりも高温でアニールする第三の工程・・・」

(乙9ウ)「【0017】この装置で、・・・1000?1300℃に加熱し1?60分保持・・・基板20表面を清浄化する。続いて、H_(2)ガスを・・・NH_(3)ガスに切り替え1?60分保持することにより、サファイア(0001)基板20表面を単結晶AlN化する。・・・温度を500?1000℃まで降温する。・・・単結晶もしくはアモルファスのAlN層を堆積する。・・・1000?1300度に加熱し・・・堆積したAlN膜を単結晶化する。・・・」

(10)本件特許の出願後に頒布された刊行物である乙第10号証(特開2004-83359号公報)には、以下の事項が記載されている。
(乙10ア)「【請求項5】厚さが600μm以上の基材と、この基材上において形成された・・・少なくともAlを含むIII族窒化物下地層と、このIII族窒化物下地層上に形成されたIII族窒化物層群・・・
【請求項8】前記基材はサファイア単結晶・・・」

(乙10イ)「【0035】・・・例えば、エピタキシャル基板とIII族窒化物層群との間にバッファ層・・・を挿入し、前記III族窒化物層群の結晶品質をさらに向上させることもできる。さらに、同様の目的でエピタキシャル基板を構成する素材の表面を窒化処理することもできる。」


第7 無効理由1(甲第1号証を主引用例とした場合)について
1 甲第1号証に記載された発明
上記甲第1号証の記載事項(甲1ア)?(甲1カ)を整理すると、甲第1号証には、
「三次元成長抑制による、サファイア上GaN膜の表面形態、結晶性の向上を行う、GaN/サファイア MOVPE二段階成長において、
二段階成長において用いるGaNバッファ層の成長条件として、
基板としてサファイアC面を用い、原料としてTMGa、NH_(3)を用い、NH_(3)が熱的に分解する温度で、膜厚が0.01?0.1μm、基板温度が、400℃程度から800℃程度で、成長速度一定の条件下で成長した場合、
GaN膜は、臨界膜厚以下では単結晶膜が、それ以上では多結晶膜が成長し、臨界膜厚は、基板温度の低下に伴い減少し、また、ECR励起による0℃から50℃未満程度の範囲内での室温での低温成長では、膜厚にかかわらずアモルファス膜が得られる、
GaN/サファイア MOVPE二段階成長。」
が記載されており、これを、以下、「引用発明1」という。

2 本件発明1と引用発明1との対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、
(1)引用発明1における「MOVPE」及び「NH_(3)」は、それぞれ、本件発明1における「有機金属化合物気相成長法」及び「アンモニアガス」に相当する。
(2)「MOVPE」は、反応容器内に有機金属および他のガスからなる反応ガスを供給して、反応ガスを熱化学的に反応させて化合物を形成する周知の気相成長法であるから、引用発明1の「三次元成長抑制による、サファイア上GaN膜の表面形態、結晶性の向上を行う、GaN/サファイア MOVPE二段階成長」と、本件発明1の「バッファ層の上に、有機金属化合物気相成長法で反応容器内に反応ガスを供給して窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法」とは、「有機金属化合物気相成長法で反応容器内に反応ガスを供給」して成長を行わせる方法である点において同一である。
(3)GaNは、Ga_(X)Al_(1-X)NにおいてX=1の場合がGaNであるから、引用発明1の「GaNバッファ層」は、本件発明1の「一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)とする前記バッファ層」に相当する。
(4)引用発明1の「GaNバッファ層の成長条件として、・・・膜厚が0.01?0.1μm」は、本件発明1の「バッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ」に相当する。
(5)引用発明1は、GaNバッファ層の成長条件である基板としてサファイアC面を用いているのであるから、引用発明1と本件発明1とは、「バッファ層を成長させる基板に、サファイア基板を使用する」点で同一である。
(6)甲第1号証の公知日以前には、基板上にエピタキシャル結晶を成長させる技術分野において、成長層の構造を、材質A,Bを用いて「A/B」と記載することは、バッファ層の有無にかかわらず、基板Bの上にエピタキシャル膜Aを成長させることを意味する記載として、例えば、上記甲第2号証、甲第4号証、甲第13号証および甲第14号証の下記記載事項に記載されているように、通常に用いられていた方法である。また、エピタキシャル技術分野で用いられる二段階成長法における「バッファ層」は、基板の上に成長させるエピタキシャル層の結晶性を向上させるために、基板とエピタキシャル層の間に形成する層であることも、下記の記載事項に記載されているとおりである。

<記載形式に関する各甲号証の記載事項>
*甲第2号証
(甲2ア)「・・・Si基板上へのGaAsをはじめとし、・・・基板上に、良質のエピタキシャル成長を得る技術・・・成長の第一段階で基板上に低温でnm程度のごく薄いバッファ層をつけ、その上に高温で通常のエピタキシャル成長を行わせる二段階成長法を取り上げ、ZnO/サファイア、SiC/Si、Si/サファイア、GaAs/Si系に・・・」
(甲2オ)「二段階成長に関する次の報告は、・・・SiC/Siに関するものである。彼らはSi上にSiCを成長させるとき、低温でSiCの薄い膜をRFスパッタ法により成長させておくと、その上に、CVD法により、高温で良質のSiCがエピタキシャル成長することを報告している。」
(甲2ク)「・・・GaAs/Siに応用された。・・・二段階成長法により、良質のGaAs層を得る・・・第1段階としてSi基板・・・の熱処理とその後、450℃ないしそれ以下でのバッファ層の低温成長、その後700?750℃での高温CVD成長をあげている。」
*甲第4号証
(甲4ア)「・・・Si基板上へのInPのヘテロエピタキシャル成長、すなわち、InP/Si構造をGaAs/Si、GaP/Si構造など」
*甲第13号証
(甲13ア)「Al_(x)Ga_(1-x)Nは・・・エピタキシャル成長は主としてサファイヤ(α-Al_(2)O_(3))基板上に行う。・・・Al_(x)Ga_(1-x)N(0≦x≦0.4)/α-Al_(2)O_(3)系のヘテロエピタキシーにおいて、低温成長させたAlNバッファ層を介する」
*甲第14号証
(甲14ア)「Ga_(1-x)Al_(x)Nは・・・エピタキシャル成長は主としてサファイヤ(α-Al_(2)O_(3))基板上に行う。・・・Ga_(1-x)Al_(x)N(0≦x≦0.4)/α-Al_(2)O_(3)系のヘテロエピタキシーにおいて、低温成長させたAlNバッファ層を介する」

一方、甲第1号証の表題は、「GaN/サファイア MOVPE二段階成長におけるバッファ層成長条件」であり、また、甲第1号証の記載事項である(甲1イ)には、「三次元成長抑制による、サファイア上GaN膜の表面形態、結晶性の向上には、二段階成長が有効である。本稿では、二段階成長において重要なGaNバッファ層の成長条件の検討結果について報告する」とされており、これは、サファイア上GaN膜の表面形態、結晶性を向上させること、そのために二段階成長においてGaNバッファ層が重要であることを示している。
してみると、甲第1号証の表題の「GaN/サファイア」は、GaNからなる結晶層をサファイア基板の上に成長させる構造を示すことは明らかであり、二段階成長によるGaNバッファ層を用いることも明らかである。
また、GaNは、窒化ガリウム系化合物半導体であるから、引用発明1の、「三次元成長抑制による、サファイア上GaN膜の表面形態、結晶性の向上を行う、GaN/サファイア MOVPE二段階成長において、二段階成長において用いるGaNバッファ層」は、本件発明1の「バッファ層の上に、窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法において、基板上にバッファ層を成長させる」点で同一である。

よって、両者は、
「有機金属化合物気相成長法で反応容器内に反応ガスを供給して成長を行わせる方法であって、バッファ層の上に、窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法において、
一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)とするバッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、前記バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる基板に、サファイア基板を使用する成長方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は、「バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属化合物気相成長法で成長させると共に、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記反応容器内において、」「前記バッファ層を」「成長させ、続いて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」のに対して、引用発明1には、MOVPEによる成長をどのように行うのか明記されていない点。

(相違点2)
本件発明1は、「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で」「バッファ層を」「成長させ、続いて前記バッファ層よりも高い成長温度で、」「前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」のに対し、引用発明1には、「二段階成長法」との記載しかない点。

(相違点3)
本件発明1は、「前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記反応容器内において、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後」、「前記バッファ層を」「成長させ」るのに対して、引用発明1には、そのような工程が記載されていない点。

(相違点4)
本件発明1は、「基板を回転させて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」のに対して、引用発明1には、そのような構成が記載されていない点。

3 本件発明1と引用発明1との相違点についての判断
(1)相違点1について
ア 引用発明1には、MOVPEによる成長をどのように行うのかについて明記されていない。
しかしながら、甲第1号証の記載事項(甲1イ)の序には、サファイア上のGaN膜の結晶性の向上を図るためのGaNバッファ層の成長条件を検討することが記載されており、引用発明1は、サファイア基板上にGaNをエピタキシャル成長すなわち単結晶成長させる際にGaNバッファ層を形成させるものであることは、上記「2(6)」に記載したとおりである。
また、甲第1号証の記載事項(甲ウ)に記載された原料が、TMG及びNH_(3)であること、(甲1オ)のNH3が熱的に分解する温度であること、その結果としてGaNが得られていることからすれば、図1において○印、●印、△印のものは、MOVPE(有機金属化合物気相成長法)によって形成されているものであることは明らかであり、それらは、臨界膜厚以下(図1より厚くとも300Å(0.03μm)以下)では単結晶膜が、それ以上では多結晶膜ができている。
また、エピタキシャル成長の技術分野において、MOVPE或いはMOCVD(MOVPE、MOCVD共に、有機金属化合物気相成長法であり、以下、甲号証等からの直接引用した箇所を除き、MOVPE、MOCVD、有機金属気相成長法、有機金属化学気相成長法を「有機金属化合物気相成長法」という。)を用いた「二段階成長」なる技術は、例えば、下記各甲号証の記載事項にあるように、「成長の第一段階で基板上に低温で薄層をつけ、その上に通常のエピタキシャル成長を行わせる温度でエピタキシャル成長を行う方法」として用いられていることも明らかである。

<二段階成長法に関する各甲号証の記載事項>
*甲第2号証
(甲2ア)「・・・成長の第一段階で基板上に低温でnm程度のごく薄いバッファ層をつけ、その上に高温で通常のエピタキシャル成長を行わせる二段階成長法・・・」
(甲2ク)「このような二段階成長法は・・・MOCVD(有機金属化学気相成長法)・・・を用い、おのおの二段階成長法により、良質のGaAs層を得ることに成功している。・・・MOCVDに対して、良質のCVD膜を得るための条件として、・・・450℃ないしそれ以下でのバッファ層の低温成長、その後700?750℃での高温CVD成長をあげている。」
*甲第3号証
表題「シリコン基板上への直接MOCVD成長によるGaAs太陽電池の作製」
(甲3ア)「Si基板上へのGaAs単結晶の成長方法は、約400℃で第1段階の薄層成長を行い、つづいて、通常のGaAs基板上へのエピタキシャル成長と同じ温度700?730℃まで昇温した後GaAsを積層する二段階成長法・・・」
*甲第4号証
表題「MOCVD法によるInP/Siのヘテロエピタキシャル成長」
(甲4エ)「二段階成長法(成長温度:第一層400℃、第二層625℃)」

イ さらに、有機金属化合物気相成長法を用いて、二段階成長を利用するに際し、成長させるエピタキシャル(単結晶)層とエピタキシャル(単結晶)成長させる温度よりも低温,即ち、単結晶を成長させない温度で成長させるバッファ層を連続して同一の有機金属化合物気相成長装置内で成長させることは、下記各甲号証の記載事項にあるように、よく知られたものである。

<各甲号証の記載事項>
*甲第3号証
(甲3ア)「約400℃で第1段階の薄層成長を行い、つづいて、通常のGaAs基板上へのエピタキシャル成長と同じ温度700?730℃まで昇温した後GaAsを積層する二段階成長法を採用した。まず、Si基板を、・・・MOCVD装置のサセプターに装着し、・・・、約400℃で第1段階のGaAs成長(?100Å)を行う。次に700?730℃に昇温した後、通常のGaAs基板上へのエピタキシャル成長と同様に第2段階の成長を行う。」
*甲第5号証
(甲5ア)「有機金属気相成長法(MOCVD)により・・・二段階成長法を用いてGaAs基板上にInPをエピタキシャル成長させ」
(甲5イ)「表1」には、成長条件として、成長温度が、バッファ層では400℃、成長層では、550?700℃が、そして、バッファ層及び成長層にTMI流量が示されている。
*甲第13号証
(甲13イ)「Al_(x)Ga_(1-x)N膜(0≦x≦0.4)は縦型反応管を用いた常圧MOVPE法により成長させた。・・・AlNバッファ層は800?900℃で30?60秒間成長させ、Al_(x)Ga_(1-x)N膜は950?1050℃で20?30分間成長させる。」
*甲第14号証
(甲14イ)「Ga_(1-x)Al_(x)N(0≦x≦0.4)膜は縦型および横型反応管を用いた常圧MOVPE法により・・・AlNバッファ層は600?950℃で、GaNおよびGa_(1-x)Al_(x)Nは950?1050℃で成長させた。・・・」
*甲第15号証
(甲15オ)「成長温度が900℃以上となるとAlNの結晶化が進んでしまい所望の膜質が得られない」
(甲15カ)「サファイア基板60上に、成長温度650℃で、・・・H_(2)・・・、NH_(3)・・・TMA・・・1分間供給して350ÅのAlNのバッファ層61を形成した。次に・・・970℃に保持し・・・H_(2)・・・NH_(3)・・・TMG・・・60分間供給し、膜厚約7μmのN型のGaNから成るN層62を形成した。」
*甲第17号証
(甲17ア)「MOVPE法において成長層と基板との間にエピタキシャル温度よりも低い温度で単結晶でないバッファ層を堆積させる」
(甲17イ)「常圧MOVPE法・・・AlNバッファ層の原料・・・トリメチルアルミニウム・・・とアンモニヤ・・・を用いた。GaN膜の原料・・・トリメチルガリウム・・・とアンモニヤ・・・を用いた。・・・・・・AlNバッファ層は600?950℃で堆積させ、GaN膜は1040℃で成長させた。」

ウ そして、引用発明1は、「GaN/サファイア MOVPE二段階成長において、」「二段階成長において用いるGaNバッファ層」を用いているのであるから、上記「2(6)」に記載したように、「GaN/サファイア」は、サファイア上にGaNエピタキシャル(単結晶)層を成長させることであり、「MOVPE二段階成長において、」との記載からは、少なくとも主たる結晶層であるサファイア上に成長させるGaNエピタキシャル(単結晶)層の成長を、MOVPE法で行うであろうことは、当業者なら容易に認識し得た事項であり、また、「GaNバッファ層」の成長条件は、「基板としてサファイアC面を用い、原料としてTMGa、NH_(3)を用い、NH_(3)が熱的に分解する温度で、膜厚が0.01?0.1μm、基板温度が、400℃程度から800℃程度」、すなわち、「GaNバッファ層」の形成もNH_(3)が熱的に分解する温度で、TMGa、NH_(3)を用いて成長させるものであるから、これは、有機金属化合物気相成長法(MOVPE)であることは明らかである。

エ してみると、上記のように、引用発明1では、サファイア基板の上に有機金属化合物成長法或いはECRでGaNバッファ層を形成しその上に有機金属化合物気相成長法でGaNエピタキシャル(単結晶)層を形成することが容易に想到しうるものであり、有機金属化合物気相成長法を用いて、二段階成長を利用するに際し、成長させるエピタキシャル(単結晶)層とエピタキシャル(単結晶)成長させる温度よりも低温,即ち、単結晶を成長させない温度で成長させるバッファ層を連続して同一の有機金属化合物気相成長装置内で成長させることが、上記「イ」に記載のように、よく知られたものであることも考慮すれば、引用発明1において、「バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属化合物気相成長法で成長させると共に、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記反応容器内において、」「前記バッファ層を」「成長させ、続いて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」ようにすることは、当業者ならば容易に想到し得た事項である。

(2) 相違点2について
ア 上記「(1)ア」のように、二段階成長法は、「成長の第一段階で基板上に低温で薄層をつけ、その上に通常のエピタキシャル成長を行わせる温度でエピタキシャル成長を行う方法」として周知であり、さらに、上記「(1)イ」のように、「有機金属化合物気相成長法を用いて、二段階成長を利用するに際し、成長させるエピタキシャル(単結晶)層とエピタキシャル(単結晶)層を成長させる温度よりも低温で成長させるバッファ層を連続して同一の有機金属化合物気相成長装置内で成長させること」もまた周知である。

イ ところで、引用発明1のGaNバッファ層としては、基板温度が、400℃程度から800℃程度の範囲を成長条件として、臨界膜厚以下では単結晶膜が、それ以上では多結晶膜が成長しており、また、成長温度を高温にするほど、結晶化がより進むことはよく知られた技術事項であり、有機金属化合物気相成長法を用いて、GaNのエピタキシャル(単結晶)成長を行う場合、800?1050℃程度(「900?975℃」(甲11オ)、「800?1000℃」(甲12イ)、「950?1050℃」(甲13イ)、「950?1050℃」(甲14イ)、「970℃」(甲15カ)、「1040℃」(甲17イ)、「950℃」(甲18ウ))の成長温度とすることもよく知られたものである。

ウ 加えて、有機金属化合物気相成長法によって低温成長させるバッファ層について、低温成長とさせるのは、通常のエピタキシャル(単結晶)層の成長温度よりも低温として、単結晶ではない状態の層を得るために行っていることも下記各甲号証の記載事項のようによく知られたものである。

<各甲号証の記載事項>
*甲第3号証
(甲3イ)「MOCVD反応管中・・・400℃で第1段階の成長を行った・・・GaAS層は明らかに双晶構造・・・」
*甲第13号証
(甲13ウ)「800℃で成長させたAlNバッファ層の・・・が多結晶構造・・・」
*甲第15号証
(甲15ア)「サファイア基板上に成長温度400?900℃で・・・結晶構造を無定形結晶中に微結晶又は多結晶の混在したウルツァイト構造とする窒化アルミニウム(AlN)から成るバッファ層」
(甲15オ)「成長温度が900℃以上となるとAlNの結晶化が進んでしまい所望の膜質が得られない」
*甲第17号証
(甲17ア)「MOVPE法において成長層と基板との間にエピタキシャル温度よりも低い温度で単結晶でないバッファ層を堆積させる」

エ してみると、引用発明1において、GaN結晶層の成長温度よりも低温で、GaNバッファ層を成長させ、続いて前記GaNバッファ層よりも高いGaN結晶層を形成する成長温度で、前記GaN結晶層を成長させる」こと、すなわち、本件発明1の「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で」「バッファ層を」「成長させ、続いて前記バッファ層よりも高い成長温度で、」「前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」との構成を採用することは、当業者ならば容易に想到し得た事項である。

(3) 被請求人の甲第1号証および二段階成長に関する主張について
答弁書5?6頁における被請求人の主張「(5-1-3)請求人の主張に対する反論」は概略以下のとおり。
「甲第1号証には「二段階成長」と記載されているだけであって、その具体的な内容はなんら記載されていない。・・・このように、二段階成長というだけでは、2つの層を異なる方法や温度で成長したのであろうという抽象的な内容を表現しているだけであって、その具体的な方法を断定することはできない。・・・
・・・甲第2号証?甲第5号証はすべてG a A sやlnPといった異なる材料系に関するものであって、窒化ガリウム系化合物半導体に関する文献ではないから、窒化ガリウム系化合物半導体における「二段階成長法」が周知技術といえないことは明らかである。・・・請求人は「二段階成長法は周知」と主張するのみで、甲第1号証と具体的にどの引用例を組み合わせるというのか、あるいは、そのためにどのような動機付けがあるというのかさえ主張していないのであるから、請求人の主張はそもそも進歩性欠如の主張としての体を為していない。」

しかしながら、甲第1号証には、その表題における「GaN/サファイア」及び「MOVPE二段階成長におけるバッファ層成長条件」、序文の記載「GaNバッファ層」、グラフとそのグラフの説明から、サファイア基板へのGaNエピタキシャル(単結晶)成長技術に関係する技術分野の当業者であれば、サファイア基板の上に二段階成長法で有機金属化合物気相成長法でGaNバッファ層を成長させ、その上にGaNエピタキシャル(単結晶)層を成長させる技術が記載されているものと理解できることは、上記「第7 2 本件発明1と引用発明1との対比」に記載したとおりである。
被請求人は、甲第2号証、甲第2号証の参考文献である乙1号証?乙第5号証及び本件出願時公知ではない、乙第6?10号証を提示して、有機金属化合物成長法でエピタキシャル(単結晶)層を形成する二段階成長法であっても、バッファ層の形成は有機金属化合物気相成長法とは異なるスパッタ法等を用いた方法がよく知られており、「窒化ガリウム系化合物半導体における「二段階成長法」が周知技術といえない」と主張しているが、有機金属化合物成長法を用いた「二段階成長法」でのバッファの成長方法に種々の方法が知られていたとしても、引用発明1においては、上記のように、GaNバッファ層を有機金属化合物気相成長法を用いることが示されており、また、「二段階成長法」自体がバッファ層の形成をエピタキシャル(単結晶)層の成長温度と異なる温度で成長させる手段であるから、上記被請求人の主張によって、上記(1)、(2)に関する判断を変更しなければならない理由はない。

(4) 相違点3について
ア 本件発明1における「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後」の技術的意義について
本件発明1における「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後」との構成は、本件訂正請求書による訂正により加えられたものであるが、その訂正の根拠は、本件訂正前の本件特許明細書【0025】の実施例の記載に基づくものであることは、上記「第4 3 (2)」に記載したとおりであり、また、当該訂正された構成については、明細書中、他に説明が無いことも上記「第5 2」に記載したとおりである。
そして、本件訂正前の本件特許明細書【0025】には、
「・・・<3>その後、H_(2)ガスを反応ガス噴射管4と、・・・副噴射管5とから、・・・反応容器1内に供給しながら、サセプター2を・・・1060℃まで加熱する。<4>この状態を10分間保持し、・・・<5>次にサセプター2の温度を500℃まで下げて、温度が安定するまで静置する。<6>続いて副噴射管5からH_(2)とN_(2)の混合ガスを供給し、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給する。副噴射管5から供給するH_(2)ガスとN_(2)ガスの流量はそれぞれ10リットル/分、反応ガス噴射管4から供給するアンモニアガスの流量は4リットル/分、H_(2)ガスの流量は1リットル/分とし、この状態でサセプター2の温度が500℃に安定するまで待つ。<7>その後、バッファ層を形成するため、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスに加えて、TMG(トリメチルガリウム)ガスを2.7×10^(-5)モル/分で1分間流す。<8>次にTMGガスのみを止めて、バッファ層の成長を止める。・・・」
との記載、すなわち、
「H_(2)ガス雰囲気下でサセプタを1060℃で所定時間保持して酸化膜を除去した後、500℃まで下げ、温度が安定した後に、反応ガス噴射管からアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、再度サセプター2が500℃に安定するまで待った後に、前記反応ガス噴射管から前記混合ガスにTMG(トリメチルガリウム)加えたガスを流すことでバッファ層を形成する。」
ことが記載されている。
そして、サセプタの酸化膜除去の後に500℃まで温度を下げ、温度の安定化後にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、再度サセプターの温度が500℃に安定するまで待つことについては、上記実施例以外の明細書中の他の記載において、何らの説明もされていない。

この点について被請求人は、答弁書3頁「(4)訂正後の本件特許発明」の項の4?7行に、「訂正によってバッファ層の成長前に、「サファイア基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給すること」を規定している。この結果、サファイア基板の表面をアンモニアで窒化させて表面状態を改善し、その後に成長されるバッファ層の品質を改善できる。」と主張し、その機序として、口頭陳述要領書2頁最終行?3頁2行に、「サファイア(Al_(2)O_(3))基板の表面にNH_(3)を吹き付けながら熱処理することで、NH_(3)が分解し、サファイア基板の一部/全部を窒化させることは容易に理解されるところです。」と説明し、乙第9号証および乙第10号証を参考として添付している。

しかしながら、本件発明1に記載されている「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後」には、窒化をすることも、熱処理をすることもまた、特定の温度においてどの程度の時間維持するのか等について特定されておらず、上記明細書の実施例の記載においても、窒化をするために熱処理をすることは、記載されておらず、「混合ガスを供給し、再度サセプターの温度が500℃に安定するまで待つこと」が記載されているのみであり、温度の安定化と熱処理との関係も不明である。

そして、上記のように被請求人は、熱処理をすれば、「NH_(3)が分解し、サファイア基板の一部/全部を窒化させることは容易に理解される」として、乙第9号証及び乙第10号証を提示しているが、乙第9号証及び乙第10号証自体は、本件出願後に公知となったものであり、本件特許の優先権主張の日前においてサファイア基板の窒化の機序が周知であったことを裏付けるものとはならないが、一応記載内容を確認してみると、乙第9号証に記載された従来技術として、(乙9ア)の【0004】には、「<1>サファイア基板をNH_(3)・・・の窒素原料ガス雰囲気で熱処理することにより基板表面を単結晶AlN化方法、」と記載され、これは、「サファイア上のIII族窒化物半導体成長ではAlN層を介した成長が有効である。」(【0003】)として、形成された窒化層ではある(【0005】)が、その上にエピタキシャル層を形成するためのバッファ層(【0006】)であり単結晶化させるものであるとして説明されている。したがって、乙第9号証に記載された従来技術は、サファイア基板の熱処理により単結晶AlN化して、バッファ層化するものであり、また、同乙第9号証の(乙9ウ)に、「【0017】この装置で、・・・1000?1300℃に加熱し1?60分保持することにより、サファイア(0001)基板20表面を清浄化する。続いて、H_(2)ガスを0.5?20l/分のNH_(3)ガスに切り替え1?60分保持することにより、サファイア(0001)基板20表面を単結晶AlN化する。」としており、1000?1300℃の高温で、1?60分保持することにより、窒化層としての単結晶AlNを得ているものであるから、単結晶化させるには、高温であって、所定の時間での処理が必要であるから、任意の熱処理により、サファイア基板を窒化することの機序を説明したものではない。
加えて、乙第9号証では、NH_(3)とH_(2)とを同時に流すことはせずに、H_(2)ガスの流れとNH_(3)ガスとを切替え、NH_(3)ガスのみにより単結晶AlN化を行っている。
したがって、本件訂正明細書の実施例に記載されている「反応ガス噴射管からアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、再度サセプター2が500℃に安定するまで待った」との工程が、乙第9号証に言う窒化処理と言えないことは明らかであり、また乙第10号証の記載を参酌しても同様である。

また、仮に、実施例に記載された工程を実施する事で、何らかの窒化が生じているということが、後々実験等で確認できたとしても、本件訂正明細書には、窒化処理に関する技術的説明及び意義が記載されておらず、まして、本件発明1は、実施例の構成を全て特定することはせず、単に、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、」との構成のみを有しているのであるから、当該構成が、窒化処理であるとの技術的意義を有しているとは認められない。
よって、本件発明1の当該「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、」との構成は、特段の技術的意義を有せずに、単に、ガスの導入手順を特定したにすぎないものである。

イ 次に、本件請求人が、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、」との構成が容易であるとの証拠として提示した、甲第11号証、甲第26号証及び甲第13?15号証、甲第17?19号証に記載されている各技術事項を整理する。

(ア) 甲第11号証の記載事項(甲11オ)には、「a-Al_(2)O_(3)上のGaN」を形成する「実施例2.」として、「サファイア・・・基板上に窒化ガリウム(GaN)の単結晶膜を形成するために・・・トリメチルガリウム(TMG)を用いた以外は、上記実施例について記載した技術を本例でも用いた。・・・基板台座の温度は900?975℃の間に制御した。」と記載され、この「上記実施例について記載した技術を本例でも用いた。」とされる実施例は、(甲11イ)?(甲11ウ)に記載された実施例1であり、実施例1の技術として(甲11ウ)、(甲11エ)には、「テストランの間、・・・表面被膜を除去するため、約1300℃に加熱された基板上に、約15?30分間、キヤリアガスの水素を通した。テストランに応じて、純粋な稀釈された形のNH_(3)の制御された量を反応器に導入し、つづいてトリメチルアルミニウム(TMA)を導入した。NH_(3)ガスの量は、トリメチルアルミニウムに対し、方程式1中で表現された化学量論量より過剰になるように選んだ。」「トリメチルアルミニウムは、液状TMAの中に通した一部のキャリアガスによつて、反応器へ運び込まれた。水素はキャリアガスとして成功裏に使用された。・・・NH_(3)に対し1750cc/分、TMA中に通してバブルさせるH_(2)に対し25?100cc/分の流速を採用した。・・・NH_(3)とトリメチルアルミニウム運搬用キャリアガスは、いくつかのテストランでは管入口の近くで、別のいくつかのランでは管の中で、混合して、化合物A(TMA:NH_(3))を形成させた。つぎに、化合物Aを、窒化アルミニウムの成長が行われる加熱基板へ向けて導いた。」と記載されている(なお、上記「NH_(3)」は、「ガス」であることは明らかであるので、以下、直接の引用記載を除いて「NH_(3)ガス」と表記する。また、「稀釈」も、直接の引用記載を除いて「希釈」と表記する。)。
また、上記成長方法は、有機金属化合物気相成長法であることも明らかである。
以上の点を整理すると、甲第11号証には、「有機金属化学気相成長法を用いて、サファイア基板上にGaN単結晶を成長するに際し、基板の表面被膜を除去するため、約1300℃に加熱された基板上に、キヤリアガスの水素を通し、その後、900?975℃で、純粋な稀釈された形のNH_(3)の制御された量を反応器に導入し、つづいてトリメチルガリウム(TMG)を導入すること。」や、「TMG運搬用、バブリング用のキャリアガスとしてH_(2)を用いること」が記載されているが、上記GaNを有機金属化合物気相成長法により成長させる際の、基板へのガスの導入手順として、水素による表面被膜の除去に続けて、GaN単結晶を成長させるガスを導入する際には、基板温度を900?975℃まで下げており、その間継続して、水素を流し続け、且つ、純粋な稀釈された形のNH_(3)ガスの制御された量を反応器に導入する時点においても、水素を流し続けるのか否かについては、説明されておらず、TMGガスの導入の前に、NH_(3)ガスとキャリアガスとしてのH_(2)を先行して流すことは不明である。
また、成長させるGaNは、単結晶膜でありバッファ層ではない。
一方、キャリアガスとは別に、「純粋な稀釈された形のNH_(3)の制御された量を反応器に導入し」との記載があるが、「稀釈された形のNH_(3)」において、具体的に何によって希釈しているのかは、甲第11号証には記載されていない。
したがって、甲第11号証には、「サファイア基板上に希釈されたNH_(3)ガスを導入して、つづいてTMGガスを導入し、GaN単結晶を成長させる」ことが記載されているが、NH_(3)ガスを何によって、希釈しているかまでは記載されていない。

(イ) 甲第26号証には、(甲26ア)「H_(2)ガスを導入した後、・・・サセプタ2を600?1350℃に加熱し・・・基板熱処理後、サセプタ温度を成長温度に設定し、NH_(3)ガスを導入する。この状態で、III族有機金属をバブリングしたH_(2)ガス・・・導入することにより、基板1上で・・・単結晶薄膜を得る。・・・(実施例I)(GaN単結晶膜の成長)・・・H_(2)雰囲気中で・・・600?1350℃・・・熱処理する。次に、基板温度を700?1100℃の成長温度に設定し、・・・NH_(3)ガスを導入管7より供給する。続いて、・・・トリメチルガリウム(TMGa)を・・・H_(2)ガス・・・でバブリングし、H_(2)キャリアガスと合流させた後、導入管6より石英反応管3へ供給する。」ことが、記載されている。
すなわち、「H_(2)雰囲気中で熱処理し、次に、基板温度を成長温度に設定し、NH_(3)ガスを供給する。続いて、トリメチルガリウム(TMGa)をH_(2)ガスでバブリングし、H_(2)キャリアガスと合流させた後、供給する。」事が記載されているが、「H_(2)ガスを導入」した「基板熱処理後、サセプタ温度を成長温度に設定」する間、及び「成長温度に設定」し、「NH_(3)ガスを導入管7より供給し、続いてTMGガスを供給する」までの間、H_(2)ガスを継続して導入し続けるのか否かについての記載はなく、TMGガスの導入の前に、NH_(3)ガスとキャリアガスとしてのH_(2)を先行して流すことは不明である。
また、成長させるGaNは、単結晶膜でありバッファ層ではない。

(ウ) 甲第13?15号証、甲第17?19号証には、以下の点が記載されている。
甲第13号証の(甲13イ)には、「有機金属化合物とNH_(3)の寄生反応を抑制するために、TMGa、TMAlおよびNH_(3)はキャリアガス(H_(2))とともに反応管直前で混合し、引き込み管を用いて・・・基板に供給した。」と記載されている。
甲第14号証の(甲14イ)には、「原料としてはTMG(またはTEG)、TMA、NH_(3)を用いた。有機金属化合物とNH_(3)の寄生反応を抑制するために、各原料ガスはキャリヤガスとともに反応管直前で混合し、引き込み管を用いて高速に基板に供給した。」と記載されている。
甲第17号証 の(甲17イ)には、「原料としては、トリメチルアルミニウム(TMA;・・・H_(2))とアンモニヤ(NH_(3)・・・)を用い、キャリヤガスとして水素(H_(2)・・・)を用いた。・・・各原料ガスはキャリヤガスと共に反応管直前で混合し、・・・基板に供給した。」と記載されている。
甲第18号証の(甲18ウ)には、共に、単結晶を成長させる2つの工程において「第1工程として、反応の雰囲気にN_(2)を・・・供給しながら、反応ガスのNH_(3)およびTMGを、・・・導入する。・・・第2工程として、雰囲気を・・・H_(2)に切り換えるとともに、反応ガスのTMGも・・・H_(2)と混合したもので導入して、NH_(3)の3l/分のガス条件下で120分間の反応処理を行う。」と記載されている。

したがって、甲第13号証、甲第14号証、甲第17号証及び甲第18号証は、サファイア基板へのGaNエピタキシャル(単結晶)層の成長に先立ってバッファ層を形成する方法において、バッファ層の形成の際に、有機金属ガスとNH_(3)ガスとキャリアガス(H_(2))とを同時に流すか、混合することが記載されているものの、NH_(3)ガスとH_(2)ガスをTMG(TEG)或いはTMAlに先行して流すことは記載されていない。

甲第15号証の(甲15カ)には、「単結晶のサファイア基板60上に、成長温度650℃で、第1ガス管28からH_(2)・・・NH_(3)・・・TMAを・・・供給し・・・AlNのバッファ層61を形成した。次に、・・・TMAの供給を停止し・・・970℃に保持し、・・・H_(2)・・・NH_(3)・・・TMGを・・・供給」することが記載されており、バッファ層形成後、成長層の形成前に、バッファ層形成用のガスのうちTMAのみを止め、H_(2)ガスとNH_(3)ガスのみを流すことが記載されているものの、サファイア基板の上でバッファ層の成長を行う際に、NH_(3)ガスとH_(2)ガスを先行して流すことは記載されていない。

甲第19号証の(甲19ア)には、有機金属化合物気相成長法(MOVPE)によって、AlN層のバッファ層を用いたGaN単結晶フィルムを成長させるに際して、「H_(2)によって希釈された有機金属原料及びキャリアガスとしてのH_(2)を伴う大量のNH_(3)は反応器の直前で混合され、・・・基板・・・供給。・・H_(2)雰囲気下、1150℃で熱処理された。・・・最初の成長は、反応器の中にトリメチルアルミニウム(TMA)とNH_(3)ガスを供給し、薄いAlN層を堆積した。」と記載され、図2には、TMG(TMA)(+H_(2))が供給される管とは別個に「NH_(3)+H_(2)」の混合ガス用の管が示されている。
すなわち、H_(2)ガスによって希釈された有機金属原料と、キャリアガスとしてH_(2)ガスを伴う大量のNH_(3)ガスとが記載されているものの、AlN層のバッファ層の成長に際し、NH_(3)ガスとH_(2)ガスのみをTMAに先行して流すことは記載されていない。
そして、甲第19号証においては、希釈ガスとキャリアガスとの文言を明確に分けて用いている。

(エ) 以上を整理すると、
a サファイア基板の上に有機金属化合物気相成長法によりバッファ層を成長させる、甲第13?15号証、甲第17号証、甲第19号証では、バッファ層の形成に際して、有機金属ガス、アンモニアガス(NH_(3))及びキャリアガス・水素ガス(H_(2))を同時に供給しており、また、甲第18号証も同時に供給している。
b サファイア基板の上に有機金属化合物気相成長法によりGaN単結晶層を成長させる甲第11号証及び甲第26号証では、GaN単結晶層の成長のための有機金属ガスの供給に先行して、NH_(3)ガスを供給することが記載されており、また、甲第15号証には基板上にバッファ層の成長を行い、その上に成長層の膜成長を行う際に、先行する成長時に用いたガスの一部(有機金属)を停止し、他のNH_(3)ガスとキャリアガス(H_(2))をそのまま継続して流すことが記載されている。
c 甲第11号証には、サファイア基板上の単結晶層の成長に際して、TMGガスの導入の前に、希釈されたNH_(3)ガスを導入することが記載されているが、希釈が何によって行われているのかは不明である。
d しかしながら、上記の何れの甲号証においても、サファイア基板上へのバッファ層の膜成長に際して、NH_(3)ガスとH_(2)ガスとを有機金属ガスの導入に先行して流すことは記載されておらず、また、他に当該事項が周知であるとの根拠も見出せない。

ウ 判断
まず、引用発明1には、GaNバッファ層を有機金属化合物気相成長法によってサファイア基板上に成長させる際に、ガスをどの様な手順で供給するかが記載されていない。

一方、サファイア基板へのバッファ層の成長に際して、NH_(3)ガスとH_(2)ガスとを有機金属に先行して、或いはバッファ層の成長が開始される前に流すことは周知の事項ではなく、特にバッファ層の成長時には、甲第13?15号証、甲第17号証、甲第19号証に記載のように、有機金属ガス、アンモニアガス(NH_(3))及びキャリアガスとしての水素ガス(H_(2))は、同時に供給されている。

また、甲第11号証及び甲第26号証はサファイア基板の上に、GaN単結晶を成長させるものであり、引用発明1はGaNバッファ層を成長させるものであるから、甲第11号証或いは甲第26号証に記載されたガスの導入手順をそのまま引用発明1に適用する直接的な動機づけはない。
仮に、バッファ層或いは単結晶層においてガスの供給手順に格別の技術的な差違がないとして、甲第11号証或いは甲第26号証のガスの導入手順を引用発明に適用したとしても、甲第11号証及び甲第12号証には、NH_(3)ガスとH_(2)ガスとの混合ガスを有機金属の導入に先行して或いはバッファ層の成長が開始される前に流すことは、記載されていないので、NH_(3)ガスとH_(2)ガスとの混合ガスを有機金属の導入に先行して或いはバッファ層の成長が開始される前に流すことにはならない。

そして、甲第11号証及び甲第26号証には、H_(2)ガスによる基板の熱処理の後、NH_(3)ガスを供給しているが、NH_(3)ガスの供給時にも、連続して基板の熱処理用のH_(2)ガスを供給し続けることは不明であり、バッファ層を成長させる場合には、有機金属ガス、アンモニアガス(NH_(3))及びキャリアガス・水素ガス(H_(2))を同時に供給する事は上記したとおりであるから、引用発明1に、甲第11号証及び甲第26号証のH_(2)ガスによる基板の熱処理の後、NH_(3)ガスを供給する構成を適用し、その上で、H_(2)ガスによる基板の熱処理の後もH_(2)ガスを供給し続けるとの構成を想到し採用するにはその動機づけを欠いている。

ところで、甲第11号証には、「純粋な稀釈された形のNH_(3)の制御された量を反応器に導入し、つづいてトリメチルガリウム(TMG)を導入」することが記載されているが、NH_(3)ガスの希釈が何によって行われているのか記載されておらず、また、希釈ガスとガスの運搬に関与するキャリアガスとを文言上分けており、同じガス種とすることは記載されていない。また、請求人が提出した他の各甲号証においてもNH_(3)ガスの希釈ガスとしてH_(2)ガスを用いているものはない。
引用発明1自体には、そもそもキャリアガスについての記載がなく、バッファ層の形成を行う上記各甲号証においては、有機金属ガス、アンモニアガス(NH_(3))及びキャリアガスとしての水素ガス(H_(2))を同時に供給する事は上記したとおりであるから、引用発明1に、甲第11号証の「純粋な稀釈された形のNH_(3)ガスの制御された量を反応器に導入し、つづいてトリメチルガリウム(TMG)を導入」するとの構成を採用し且つ希釈ガスをH_(2)ガスとして基板の熱処理の後もH_(2)ガスを供給し続けるとの構成を想到し採用することの動機づけが無い。

エ 請求人の混合ガスに関する反論について
請求人の口頭陳述要領書8?9頁には、以下の主張が記載されている。
「(3)請求項には、アンモニアガスと水素ガスの混合ガスの後に有機金属ガスを供給するということまでの限定はないこと
・・・明細書を参酌して限定を加えるべき根拠は存しない。かかる前提に基づけば、発明の要旨認定は請求項の記載のみをもってなされるべきである。
そして、本件特許の請求項に記載されているのは、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し」た後に「バッファ層を成長させ」るというものであるところ、「バッファ層を成長させ」ることと、有機金属ガスを供給することとは同時ではなく、現実には、有機金属ガスを供給し始めてからバッファ層が成長し始めるまでには時間差がある。つまり、本件発明の「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し」た後に「バッフア層を成長させ」るということは、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し」た後に有機金属ガスの供給を始める構成には限定されるものではなく、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し」た後にバッフア層が成長させられるものであれば、「アンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガス」と有機金属ガスを同時に供給する構成であっても含まれると解すべきである。
・・・・・・
以上から、本件発明は「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し」た後に有機金属ガスを供給する構成には限定されない以上、甲第11号証のみならず、甲第13号証?甲第15号証、甲第17号証?甲第18号証をも根拠として、本件発明の容易想到性を導くことができるのである。」

確かに、本件発明1の「前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後、・・・前記バッファ層を、・・・成長させ」、との構成において、アンモニアガスとH_(2)ガス以外のガスであって、バッファ層を形成するTMG等の有機金属ガスをどのタイミングで導入するかについては、直接的な記載はない。
しかしながら、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給」するタイミングと「バッファ層を成長させる」タイミングとは、「その後」との文言により明確に分けられていることは明らかである。
そして、ある時点から「成長させる」といえば、その時点からガスを導入させると理解することが技術常識に沿う解釈であり、請求人の主張するように、「ガスの導入時点」と、「ガスの反応が開始し、基板への成長が始まる」時点とが完全に同時ではないとしても、本件発明1には、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給」する最初の時点からTMG等の有機金属ガスを流すとの記載がないことから、せいぜい、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給」し、その後TMG等の有機金属ガスを流し、その後バッファ層の成長が行われると言うことの可能性があり得る程度のものである。

そもそも、上記本件発明1の上記混合ガスの供給については、本件訂正請求により訂正された構成であり、その訂正の根拠は、下記訂正前明細書【0025】の記載である。
「・・・<6>続いて・・・反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給する。・・・この状態でサセプター2の温度が500℃に安定するまで待つ。<7>その後、バッファ層を形成するため、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスに加えて、TMG(トリメチルガリウム)ガスを2.7×10-5モル/分で1分間流す。<8>次にTMGガスのみを止めて、バッファ層の成長を止める。・・・」
上記訂正の根拠たる【0025】の記載には、「アンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給」した、その後に、バッファ層を形成するため、「アンモニアガスとH_(2)ガスに加えて、TMG(トリメチルガリウム)ガスを流す」事が明記されており、バッファ層が実際に成長される僅か前にTMGガスが アンモニアガスとH_(2)ガスに加えて、流すことがあったとしても、TMGガスの添加以前に、TMGガスが流されずに、アンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスが供給される状態があることは明らかであり、バッファ層が成長される前から「アンモニアガスとH_(2)ガス及びTMG(トリメチルガリウム)ガス」の三者のガスが同時に供給されることは記載されていない。

ところで、請求人は、上記のように、本件発明1に関して明細書を参酌して限定を加えるべき根拠は存しないから、発明の要旨認定は請求項の記載のみをもってなされるべきであるとも主張しているが、訂正された構成について、請求項に記載されていない事項は、全て、訂正前の明細書の記載と異なる或いは矛盾した事項であっても、自由に解釈し得るのだとすれば、これは訂正に当たり新規事項を自由に許容することとなり、そうだとすれば、これを避けるためには、明細書の記載事項を全て請求項に記載しなければならないようなことになりかねず、明細書の存在意義がなくなってしまう。
そして、請求人主張のように、本件発明1に記載されていない「バッファ層が成長される前から「アンモニアガスとH_(2)ガス及びTMG(トリメチルガリウム)ガス」の三者のガスが同時に供給される」との構成を、請求項に直接的に記載されていないにもかかわらず、意図的に解釈するとなると、訂正の根拠の記載を無視することになり、また、訂正前の本件特許明細書に記載されていない新規の事項として解釈することになるから、請求人の解釈は、採用し得るものではない。

したがって、上記請求人の主張によって、相違点3に関する上記判断を変更しなければならない理由はない。

(5) 相違点4について
ア 化学気相成長(CVD)において、基板への膜形成を均一に成長させるために、基板を回転させることは、甲第11号証、甲第20号証、甲第21号証及び乙第5号証の1に記載されているように周知の技術事項にすぎず、特に、有機金属化合物気相成長においても、下記証拠の記載事項のようによく知られたものである。

<甲号証の記載事項>
*甲第11号証
(甲11イ)「サファイアの種結晶(単結晶)を、・・・台座上に置いた。台座は、膜の厚さの一様性を助成するべく、回転させた。」
*甲第20号証
(甲20ウ)「成長層厚みの面内での均一化のためサセプタを自転させるのが普通である。この縦型反応管は現在最も広く用いられている」
*甲第21号証
(甲21ア)「水平方向のガス流の軸に対し・・・基盤の軸中心に対する回転速度を2/3?1rpmとした。」
(甲21イ)「回転せしめながら基盤上にIII-V族化合物半導体を成長させることにより基盤上に発光強度も十分で、均一性、再現性の良い結晶成長を行う」
*乙第5号証
(乙5イ)図2に「・・・エピタキシャル成長を行わせるためのCVDシステム」に関する装置が示され、「susceptor」(「サセプタ」)の下方に、「susceptor rotating unit」(「サセプタ回転ユニット」)との記載がなされている。
(なお、請求人は、他に、甲第22,23号証を挙げているが、何れも、本件優先権主張の日前公知の文献ではなく、当該文献中に従来技術として記載された技術自体が公知であったことの証明はないので、本件特許の優先権主張の日前公知の周知技術の事例として認められない。)

そして、引用発明1においても、実際にGaN膜形成する際には、膜成長の均一性を向上させたいとの課題は必然的に有しているものであるから、上記周知技術を採用し、「基板を回転させて、GaN膜を成長」させようとすることは当業者ならば容易に想到し得たことである。

イ 被請求人の主張について
被請求人は、答弁書3頁下から4?最終行で
「さらに、このバッファ層上に窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる際に、「基板を回転させて窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」ことも規定した。この結果、サファイア基板上に均一に結晶が成長し、図9のグラフに示すように、基板の中心から側面に向かって均一に、高い移動度とキャリア濃度を実現している。」と、
また、口頭陳述要領書の3頁「3「基板を回転させること」について」の項において
「請求人は、「基板を回転させること」は周知技術または当業者が適宜選択しうる設計事項であるとしている(8?14頁)。
しかしながら、請求人が根拠とする甲第11、甲20?23は、いずれも、単に基板を回転させることが記載されるのみで、請求項1で規定する、Ga_(X)AI_(1-x)Nバッファ層よりも高い成長温度で窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる際に基板を回転させることまで開示や示唆するものでない。
したがって、これらの証拠から、本件訂正発明が規定するような低温バッファ層を使用した技術において、MOCVDを使用して「基板を回転させること」は周知慣用技術であるとはいえない。」
と主張している。

しかしながら、本件訂正前の本件特許明細書及び本件訂正明細書において、「基板を回転させること」事については、【0025】に記載された下記の実施例の文言のみである。
「【0025】・・・サセプター2の温度が1020℃まで上昇した後、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスに加えて、TMGガスを5.4×10-5モル/分の流量で60分間供給して、GaNエピタキシャル層を、4.0μmの膜厚で成長させる。この間、副噴射管5から常にH_(2)とN_(2)ガスを前述の条件で供給し続け、反応ガスで反応容器内が汚染されないようにしている。またサセプター2は均一に結晶が成長するように、モーター7で5rpmで回転させる。・・・上記のようにしてサファイア基板上に、膜厚0.02μmのGaNバッファ層、その上に4μmのGaNエピタキシャル層を成長させた。」
また、「基板を回転させること」の技術的意義についても、上記実施例中において、単に、「均一に結晶が成長するように」との記載、すなわち上記「(5)ア」で引用した甲第11号証、甲第20号証、甲第21号証で示したものと同一の目的が記載されているのみであり、本件発明1における「基板を回転させる」との構成による効果に格別な点は見出せない。

したがって、被請求人主張の「低温バッファ層を使用した技術において、MOCVDを使用して「基板を回転させること」は周知慣用技術であるとはいえない。」としても、引用発明1において、均一化を図るために用いる「基板の回転」との技術を採用し得たことは上記「(4)ア」で判断したとおりであり、被請求人の主張によって、上記「(4)ア」の判断を変更しなければならない理由はない。
なお、被請求人は、答弁書において、図9のグラフが、「基板を回転させる」ことの効果を示しているかのように主張しているが、実施例1の結果を表す図9のグラフと対比されている図10のグラフは、実施例1の工程において、GaNバッファ層をAlNバッファ層に変えただけのものであり、「基板を回転させる」こと自体の格別な効果を示しているものでもない。

(6) したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

4 本件発明2?4について
(1)本件発明2は、本件発明1の全ての構成要件を含むとともに、更に「サファイア基板の上に、一般式がGa_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)で示される前記バッファ層を成長させ、このバッファ層の上に窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」との構成を特定するものである。
ところで、本件発明1の「窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、基板上に・・・ガスを供給し、その後一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)とする前記バッファ層を、・・・成長させ、続いて・・・前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させると共に、前記バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記基板に、サファイア基板を使用すること」との構成は、「窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、混合ガスを供給し、その後バッファ層を成長させ、続いて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させ」るためのものであることは明らかだが、前記「その後」が、訂正請求により付加されたものであることから、当該訂正における訂正請求の理由及び訂正の根拠となる記載(実施例)を考慮すれば、ガスの供給後に他の窒化ガリウム系化合物半導体を成長させることなく、バッファ層をサファイア基板の上に成長させることを意味していることは明らかである。
したがって、本件発明2は、上記の特定により、本件発明1の上記の点を更に、明確にしたものである。
そうすると、上記「3 本件発明1と引用発明1との相違点についての判断」のように、実質的に、ガスの供給後に他の成長層を形成させずに、バッファ層をサファイア基板の上に成長させる構成を含む本件発明1が、甲第1号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないのであるから、本件発明1の構成要件を全て含み、上記事項を更に明確にしたものに相当する本件発明2もまた、甲第1号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)本件発明3は、本件発明1の全ての構成要件を含むとともに、更に「窒化ガリウム系化合物半導体の上に、一般式がGa_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)で示されるバッファ層を成長させ、さらにこのバッファ層の上に窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」との構成を付加するものである。
ところで、訂正前の請求項1に係る発明のバッファ層は、サファイア基板の上に成長させるのか、窒化ガリウム系化合物半導体の上に成長させるのかが特定されておらず、従属項としての訂正前の請求項2で、サファイア基板の上に成長させること、訂正前の請求項3で窒化ガリウム系化合物半導体の上に成長させることを特定していたものである。そして、訂正前の請求項3の構成は、訂正前の明細書の【0023】「また本発明の結晶成長方法によるバッファ層は、サファイア基板上だけでなく窒化ガリウム系化合物半導体のエピタキシャル層を有する層であれば、どの層に形成してもよい。例えば・・・n型GaNエピタキシャル層の上にバッファ層を形成し、そのバッファ層の上にp型GaNエピタキシャル層を成長させる・・・」及び実施例7において、説明されている。
一方、上記(1)に記載したように訂正請求によって訂正された本件発明1のバッファ層は、訂正請求の理由及び訂正の根拠となる記載(実施例)から、ガスの供給後に他の成長層を形成させずに、バッファ層をサファイア基板の上に成長させることを意味しているものであるから、本件発明3の「窒化カリウム系化合物半導体の上に、・・・バッファ層を成長させ、」におけるバッファ層は、本件発明1のバッファ層と異なる部位に成長されるものであることは明らかである。
また、訂正前の請求項3の発明に係る「バッファ層」は、訂正前の請求項1に係る発明の「バッファ層」を特定していたものであるから、訂正された本件発明3の「バッファ層」も、訂正前の請求項1に係る発明の「バッファ層」を意味することは明らかである。
仮に、訂正によって、本件発明3で特定されている「バッファ層」が、成長条件、組成等が任意の種々のバッファ層を意味するものとなると、明細書中に記載されていない新規の構成を付加したものとなり、そのような解釈はできない。
したがって、本件発明3は、本件発明1の全ての構成要件を含むとともに、本件発明1で特定されているバッファ層とは異なるバッファ層(訂正前の請求項1に記載されていたバッファ層)である「窒化ガリウム系化合物半導体の上に、一般式がGa_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)で示されるバッファ層を成長させ、さらにこのバッファ層の上に窒化カリウム系化合物半導体を成長させる」ものである。
そうすると、上記「3 本件発明1と引用発明1との相違点についての判断」のように、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないのであるから、本件発明1の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を含む本件発明3もまた、甲第1号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
なお、本件発明3で特定されたバッファ層については、答弁書、及び口頭陳述要領書からも明確であり、この点をもって、本件発明3を無効とするまでもない。

(3)本件発明4は、本件発明1の全ての発明特定事項を含むとともに、更にバッファ層の厚さの下限を限定して「前記バッフア層の厚さが0.002μm以上、0.2μm以下である」との構成を特定するものである。
そして、「3 本件発明1と引用発明1との相違点についての判断」のように、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないのであるから、本件発明1の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を含む本件発明4もまた、甲第1号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。


第8 無効理由2(甲第10号証を主引用例とした場合)
1 甲第10号証に記載された発明
上記甲第10号証の記載事項(甲10ア)?(甲10ケ)を整理すると(甲第10号証に記載された「Ar」は、ガス状のものが用いられていることは明らかであるので、以下「Arガス」と表記する。)、甲第10号証には、
「反応装置内のサファイア基板直前で上部流導路と下部流導路と合流させ、上部流導路にGaを置き、まず、上部流導路にArガス、下部流導路にNH_(3)ガスとArガスを流し、サファイア基板を1000℃に保ち、続けて上部流導路よりHClガス流し、良好な電気特性は期待できないが付着性の良い膜状結晶が得られる条件である1000℃以下の温度において、サファイア基板上にGaNを例えば、0.5μm?5μmの厚みで成長させこれを第1層とし、その後、HClガスを止め基板を1100℃に昇温し、再びHCIガスを流し基板温度を1000℃をこえる範囲に上昇させ、電気特性の良い結晶が得られる条件で上記第1層上にGaNの第2層を気相成長させる窒化ガリウム単結晶の成長方法。」
が記載されており、これを、以下、「引用発明10」という。

2 本件発明1と引用発明10との対比
(1)本件発明1と引用発明10とを対比すると、引用発明10における「反応装置」、「第2層」、「NH_(3)ガス」、「窒化ガリウム単結晶の成長方法。」は、それぞれ、本件発明1における「反応容器」、「窒化ガリウム系化合物半導体」、「アンモニアガス」及び「窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。」に相当する。
(2)引用発明10の「気相成長」と、本件発明1の「有機金属化合物気相成長法」とは、「気相成長」の点で同一である。
(3)引用発明10の「第1層」と、本件発明1の「バッファ層」とは、基板の上に形成する「第1層」の点で同一である。
(4)引用発明10の「GaN」は、本件発明1の「Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)」において、X=1の場合である。
(5)引用発明10の「NH_(3)ガス」と「HClガス」は、本件発明1の「反応ガス」と同一である。
(6)引用発明10の「まず、上部流導路にArガス、下部流導路にNH_(3)ガスとArガスを流し、サファイア基板を1000℃に保ち、続けて」と、本件発明10の「前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後」とは、「前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、基板上にアンモニアガスと他のガスとの混合ガスを供給し、その後」の点で同一である。

よって、両者は、
「第1層の上に、気相成長法で反応容器内に反応ガスを供給して窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法において、
前記第1層と前記窒化ガリウム系化合物半導体の両方を気相成長法で成長させると共に、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記反応容器内において、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、基板上にアンモニアガスと他のガスとの混合ガスを供給し、その後前記窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)とする前記第1層を、成長させ、続いて前記第1層よりも高い成長温度で、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させると共に、前記第1層と前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記基板に、サファイア基板を使用する窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1では、「有機金属化合物気相成長法」を用いるのに対して、引用発明10では、「有機金属化合物気相成長法」を用いることが記載されていない点。

(相違点2)
本件発明1では、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給」するのに対して、引用発明10では、「NH_(3)ガスとArガス」を流す点。

(相違点3)
本件発明1では、「バッファ層」について「有機金属化合物気相成長法で成長させると共に」、「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、バッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、続いて前記バッファ層よりも高い成長温度で、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」のに対して、引用発明10では、「気相成長法で成長させると共に」、「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、第1層を、0.5μm?5μmの膜厚で成長させ、続いて前記第1層よりも高い成長温度で、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」点。

(相違点4)
本件発明1では、「基板を回転させて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」のに対して、引用発明10では、その点が記載されていない点。

3 本件発明1と引用発明10との相違点についての判断
(1)相違点1について
甲第10号証に記載された従来技術として、(甲10ウ)には、「一般にGaNはGa-HCl-NH_(3)系気相不均化法により基板上にヘテロ・エピタキシャル成長されている。」こと、そして、この場合、すなわちこの成長方法の場合に、「通例の温度範囲(800?1150℃)では高い基板温度で成長するほどキャリヤー濃度が低く、易動度の大きな電気特性の良いGaNが得られる。」との成長温度と電気特性との関係が説明されていること、また、(甲10エ)に記載された引用発明10の前提となる温度条件による成長の状況についても上記のGa-HCl-NH_(3)系気相不均化法を用いた場合であることは明らかである。
そして、甲第10号証に記載された実施例1、実施例2((甲10キ)、(甲10ク))の何れも、Ga-HCl-NH_(3)系気相不均化法を用いており、その他の記載も含め、甲第10号証には「有機金属化合物気相成長法」を用いることは記載されていない。
請求人の主張するように、甲第10号証の特許請求の範囲の記載及び(甲10ケ)には、確かに、「気相成長」という、「有機金属化合物気相成長法」の上位概念が記載されているものの、甲第10号証全体の記載によれば、上記のように「Ga-HCl-NH_(3)系気相不均化法」を用いた場合の成長条件における現象と課題及び実施例が記載されているのみであり、それとは異なる「有機金属化合物気相成長法」においても、同一の条件及び課題が生じるとの記載乃至は示唆はされておらず、また、一般に、成長方法が異なれば、各種条件における現象及び課題も異なるものである。
また、請求人が提示した他の各甲号証を参照しても、「Ga-HCl-NH_(3)系気相不均化法」を用いた場合の成長条件における現象と課題及びその課題解決手段が、それとは異なる「有機金属化合物気相成長法」においても、共通することは認められない。
してみると、単に、甲第10号証の特許請求の範囲の記載及び(甲10ケ)に「気相成長」という、「有機金属化合物気相成長法」の上位概念が記載されているからといって、これを「有機金属化合物気相成長法」に変えることは困難と言わざるを得ない。

したがって、上記相違点1に係る構成を、甲第10号証に記載された発明、他の各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。

(2)相違点2について
請求人が「NH_(3)ガスとH_(2)ガスの混合ガス」自体が周知であることの証拠として提示した各甲号証は、全て有機金属化合物気相成長法によるものであり、上記「(1)相違点1について」の検討のように、引用発明10における「気相成長」を「有機金属化合物気相成長法」に転用することができないのであるから、上記各証拠を引用発明10における周知技術の証拠とすることはできない。
また、「有機金属化合物気相成長法」及び「Ga-HCl-NH_(3)系気相不均化法」の何れにおいても、全く同じキャリアガスを用いるとの必然性も見出せない。
したがって、引用発明10において、基板上に供給するガスを「NH_(3)ガスとAr」との混合ガスに変えて「NH_(3)ガスとH_(2)ガスの混合ガス」とすることを、甲第10号証に記載された発明、他の各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。

(3)相違点3について
ア 本件発明1では、「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、バッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、続いて前記バッファ層よりも高い成長温度で、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」のに対して、引用発明10には、そのような構成が特定されておらず、特に引用発明10の「第1層」が「バッファ層」であることに関して、甲第10号証には、直接的な記載はない。

イ 本件発明1の構成に係る用語の解釈について
請求人は、各甲号証の技術的内容を本件発明1と対比するにあたり、本件発明1の認定における請求項1に記載された用語の解釈について、口頭陳述要領書の1?5頁において、概略以下の主張を行った。

「リパーゼ事件の判示事項に基づき、発明の新規性及び進歩性の審理における発明の要旨認定においては、特段の事情がない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情かある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。
仮に本件特許の請求項の記載内容が技術的に明瞭でないとすると、本件明細書の特許請求の範囲には特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものとは認められず、甲第25号証として提示した特許庁の審査基準によれば、旧特許法第36条第5項第2号の類型として、一番目に「請求項の記載内容が技術的に明瞭でない場合」が記されており、このような場合は、同号違反の典型例であるといえる。
請求人は、仮に請求項の記載から技術的意義が一義的に明確に理解することができない特段の事情かあるとするならば、それはむしろ、旧特許法第36条第5項第2号違反という、新たな無効理由を認定するに等しいものと考える。
そして、「バッフア層」、「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度」、「成長温度よりも低温」及び「基板上にアンモニアガスとH2ガスの混合ガスを供給し、その後前記窒化ガリウム系化合物半導体の・・・前記バッファ層を成長させ」の何れについても、当業者の技術常識をもって請求項の記載を読めば、その技術的意義を一義的に明確に理解することができないとまではいえないと考え、リパーゼ事件における「特段の事情」に当たる事由はなく、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して、「バッフア層」を一定の類型のものに限定して解するべきではない。」

ところで、「バッファ層」との文言自体には、緩衝機能として、熱の伝達を和らげる物、衝突等の衝撃力を和らげる物、膨張係数の異なる部材間において完成品の使用時における熱応力の伝達を和らげる物、製造工程における残留応力を和らげる物、格子不整合に起因する結晶欠陥の伝搬を和らげる物等、種々の状態を緩衝しようとする種々の技術的意義を有するものを含み得るが、当該発明において、何を緩衝しバッファとしての機能を有するのかについて、特定の技術的意義を解釈せずに、その文言を単に「緩衝」する「層」として捉えれば、これは技術的にみて多義的な作用を有するものとなってしまい、明細書中に記載された発明とは異なる発明をも認定することとなる。
したがって、「バッファ層」との文言自体は、技術的意義が一義的なものではなく、個々の発明において、技術分野に応じた理解が必要であることは明らかである。
そして、技術分野に応じた理解をし、用語の意義を解釈しようとすれば、請求項に記載された他の構成に加えて、発明の詳細な説明の記載や図面を参酌すべきことは当然である。
そして、請求項に記載されていない事項は、明細書の記載と異なる或いは矛盾した事項であっても、自由に解釈し得るのだとすれば、これは明細書に開示されていない発明を自由に許容することとなり、むしろ請求人がいう旧特許法における第36条第5項第1号の規定に反する行為となることは明らかである。
また、これを防ぐために、発明の詳細な説明に記載された技術的な事項である、発明の目的、構成及び効果を全て請求項に記載しなければならないとすれば、旧特許法第36条第4項「前項第三号の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施する事ができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければ成らない。」との規定の意義が判然としなくなってしまう。当該条文があるからこそ、請求項の記載において、必ずしも、その発明の目的、構成及び効果の全てを記載しなくとも良いことは明らかである。
そして、請求項に記載された用語の技術的意義が一義的に明確に理解することができなければ、必ず、旧特許法第36条第5項第2号「特許を受けようとする発明の構成に欠くことが出来ない事項のみを記載した項に区分してあること。」に違反するものでもない。

そこで、訂正された請求項1に記載された各構成について確認してみる。
本件発明1における「バッファ層」は、その請求項1において少なくとも「一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)とする」層であって、「有機金属化合物気相成長法で成長させる」ものであり、且つ「基板上」に「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で」、「0.2μm以下の膜厚で成長させ」るものであるから、例えば、スパッタ法、Ga-HCl-NH_(3)系気相不均化法、MBE法等、「有機金属化合物気相成長法」以外の成長方法により成長された「バッファ層」でないことは明らかであり、その他任意のバッファ層全てを含むと解釈することはできない。
そして、本件発明1の「バッファ層」は、「有機金属化合物気相成長法で成長させる」ものであり、且つ「基板上」に「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で」成長させるものであり、「窒化ガリウム系化合物半導体」は、「バッファ層」の上に成長させる単結晶から成るものであることは明らかであるから、「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度」は、単結晶を成長させる温度であることも明らかである。
してみると、本件発明1の「バッファ層」は、少なくとも「有機金属化合物気相成長法で基板上に単結晶からなる窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で成長させるもの」である。

加えて、本件訂正明細書には、上記「第5 2(3)」に記載のように、本件発明1の「バッファ層」について、「多結晶状態の層であって、その上に、窒化ガリウム系化合物半導体を結晶成長させることで、多結晶バッファ層を部分的に単結晶化して種結晶とし、この種結晶に窒化ガリウム系化合物半導体のエピタキシャル層が理想的な状態で結晶成長させるものであり、従来のバッファ層である多結晶からなるAlN層上にGaNを成長させることによって、GaN半導体層の結晶性および表面モフォロジーを改善する機能と同様の機能を有するもの」以外の説明はなされていないことから、上記「有機金属化合物気相成長法で基板上に単結晶からなる窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で成長させるもの」における「低温」は、その技術的意義を踏まえれば、少なくとも「有機金属化合物気相成長法で単結晶」を成長させる温度よりも低い成長温度であることも明らかである。

なお、低温で成長されたAlNバッファ層が多結晶構造を有する従来例としては、本件訂正明細書【0014】に記載の文献以外にも、例えば、甲第13号証等が有り、(甲13ア)には、「Al_(x)Ga_(1-x)Nとα-Al_(2)O_(3)との大きな格子定数差・・・および熱膨張係数差・・・のために良質のエピタキシャル膜を得ることは難しい。この問題点を克服する一つの方法は成長層と基板との間にバッファ層を導入することである。・・・低温成長させたAlNバッファ層を介することにより、Al_(x)Ga_(1-x)N膜の結晶性が著しく改善されることを示」し、その理由として、(甲13ウ)に「800℃で成長させたAlNバッファ層の・・・が多結晶構造であることを示している。」とし、更に、(甲13エ)に、「低温(800℃)で成長させたAlNバッファ層はAl_(x)Ga_(1-x)N成長時の温度(?1000℃、AlNバッファ層堆積温度より高い)で再結晶化し、マクロに見てc軸がサファイヤのc面に対し配向するようになる。」と説明されている。

したがって、上記のように、訂正された請求項1に記載された一部の用語及び構成に必ずしも一義的に明確には解釈し得ない構成があるものの、本件訂正明細書全体の記載を参酌すれば、その技術的意義は十分明確というべきであるから、旧特許法第36条第5項第2号違反として、無効とすべきまでもない。

ウ 本件発明1における「バッファ層」について
「バッファ層」自体は、上記「イ」のように、少なくとも「一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)とする」層であって、「有機金属化合物気相成長法で成長させる」ものであり、且つ「基板上」に「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で」、「0.2μm以下の膜厚で成長させ」るものであり、「有機金属化合物気相成長法で基板上に単結晶からなる窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で成長させるもの」であり、当該「低温」は、「有機金属化合物気相成長法で単結晶」を成長させる温度よりも低い成長温度である。

エ 甲第10号証における「第1層」について
(ア) 請求人の主張
甲第10号証には、「バッファ層」との直接的な記載はないが、請求人は、甲第10号証には「窒化ガリウム(GaN)の付着性の良い膜状結晶である第1層は、高温で成長させた電気特性が良いGaNはサファイア基板上に均一に成長しがたいという問題を解決し、電気特性が良い均質な膜状GaNを得ることを目的としたバッファ層であることが開示されている。」と主張している。

(イ) 甲第10号証の「第1層」に係る記載
a 上記「3(1)」で検討したように、甲第10号証全体の記載によれば、成長法自体は、「Ga-HCl-NH_(3)系気相不均化法」を用いたものであり、「有機金属化合物気相成長法」を含みうるものではない。
b 甲第10号証で得ようとしている「第1層」及び「第2層」は、共に、その特許請求の範囲に記載されているように単結晶であるから、GaNの成長におけるGa-HCl-NH_(3)系気相不均化法による通例の温度範囲(800?1150℃)とは、単結晶を得るための温度範囲である。
c 上記「b」のように「第1層」及び「第2層」共に単結晶であり、(甲10エ)には、「900℃で成長したGaNは、キャリヤー濃度が約1×10^(20)cm^(-3)・・・、1100℃で成長したものはキャリヤー濃度が約5×10^(18)cm^(-3)・・・の電気特性を示した。ところが、1000℃以下の低温で成長したGaNはサファイア基板上一面に膜状に成長するのに反し、1000℃をこえる高温で成長させるとGaNは膜状に成長せず基板上に粒状または島状に成長することが多い。」と記載されているから、「第1層」は、単結晶を得るための「通例の温度範囲(800?1150℃)」である、1000℃以下の900℃では、1000℃をこえる1100℃よりも電気特性が悪いが、サファイア基板上一面に膜状に成長するものである。
d (甲10カ)には、「この問題点は構成原子、格子定数の異なるサファイア上にGaNをヘテロ・エピタキシャル成長させることに起因する。」と、問題の原因を指摘し、その解決手段として「サファイア1上にまず、良好な電気特性は期待できないが付着性の良い膜状結晶が得られる条件1000℃以下の温度、望ましくは800?1000℃においてGaNを例えば、0.5μm?5μmの厚みで成長させこれを第1層2とする。つぎに基板温度を1000℃をこえる範囲、望ましくは1050?1150℃の範囲に上昇させ、電気特性の良い結晶が得られる条件でGaNの第2層3を第1層上にあらためて成長させる。」ことが記載されており、第1層である膜状結晶の成長温度範囲である800?1000℃は、単結晶を得るための「通例の温度範囲(800?1150℃)」のものである。
なお、「1000℃以下の温度、望ましくは800?1000℃」との記載において、上記「b」、「c」の記載からは、通例の温度範囲、すなわち単結晶を成長させる温度よりも低い温度で成長させることについては、想定されていないものであり、また、実施例の記載も1000℃におけるものが記載されているのみであるから、800℃よりも低い温度で単結晶以外の層を成長させることを示唆しているとは言えない。

してみると、甲第10号証の「第1層」は、1000℃以上の成長温度では、電気特性が良いが基板上に均一に成長しがたいという、構成原子、格子定数の異なるサファイア上にGaNをヘテロ・エピタキシャル成長させることに起因する問題点を解決するために、GaNからなる第2層の1000℃以上の成長温度よりも低温である1000℃以下の温度で、GaNの膜状結晶を成長させたものであるから、一種の「バッファ」機能を備えたものと言えなくもないが、甲第10号証の「第1層」は、「有機金属化合物気相成長法」による成長法ではない「Ga-HCl-NH_(3)系気相不均化法」により成長されるものであり、また、第2層の成長温度よりも低温の成長温度ではあるが、この低温は、単結晶を得るための「通例の温度範囲(800?1150℃)」での成長温度である。そして、膜厚については、0.5?5μmが例示されており、これに限定すべき直接の記載はないが、その上方の第2層が均質な膜状結晶となり得るためには、どの程度まで「第1層」としての均一な膜状結晶を、薄くできるのか不明である。
したがって、甲第10号証に記載された発明、他の各甲号証に記載された発明及び周知事項によって、本件発明1の「有機金属化合物気相成長法で成長させると共に」、「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、バッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、続いて前記バッファ層よりも高い成長温度で、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる」との構成を容易に想到し得たものとはいえない。

(4) 相違点4について
ア 化学気相成長(CVD)において、基板への膜形成を均一に成長させるために、基板を回転させるは、甲第11号証、甲第20号証、甲第21号証及び乙第5号証の1に記載されているように周知の技術事項にすぎないことは、上記「第7 3(4)」に記載したとおりである。
また、引用発明10においても、実際にGaN膜形成する際には、膜成長の均一性を向上させたいとの課題は必然的に生じるものである。
そして、本件発明1における「基板を回転させること」の技術的意義についても、訂正明細書の実施例中において、単に、均一に成長させるとの周知の目的が記載されているのみであり、従来知られていた均一性を向上させるために基板を回転させることによる効果からみて、格別な点も見出せない。
したがって、上記周知技術を採用し、「基板を回転させて、GaN膜を成長」させようとすることは当業者ならば容易に想到し得たことである。

(5) したがって、上記相違点1?4の検討によれば、本件発明1は、甲第10号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

4 本件発明2?4について
(1)本件発明2は、上記「第7 4 (1)」に記載したとおりのものである。
そうすると、上記「3 本件発明1と引用発明10との相違点についての判断」のように、本件発明1が、甲第10号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないのであるから、本件発明1の構成要件を全て含み、上記事項を単に明確にしたものに相当する本件発明2もまた、甲第10号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)本件発明3は、上記「第7 4 (2)」に記載したとおりのものである。
そうすると、上記「3 本件発明1と引用発明10との相違点についての判断」のように、本件発明1が、甲第10号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないのであるから、本件発明1の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を含む本件発明3もまた、甲第10号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(3)本件発明4は、上記「第7 4 (3)」に記載したとおりのものである。
そして、「3 本件発明1と引用発明10との相違点についての判断」のように、本件発明1が、甲第10号証、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないのであるから、本件発明1の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を含む本件発明4もまた、甲第10号証に記載された発明、各甲号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

5 請求人の主張
請求人は、本願発明の認定における請求項に記載された用語の解釈について、口頭陳述要領書の1?5頁において、リパーゼ判決及び旧特許法の審査基準に基づいて、概略「本件発明1には、特段の事情がないから、特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。仮に請求項の記載から技術的意義が一義的に明確に理解することができない特段の事情かあるとするならば、それはむしろ、旧特許法第36条第5項第2号違反という、新たな無効理由を認定するに等しいものと考える。」と主張しているが、「バッフア層」、「窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度」、「成長温度よりも低温」については、上記「第8 3(3)イ」で検討したように、訂正された請求項1に記載された一部の用語及び構成に必ずしも一義的に明確には解釈し得ない構成があるものの、本件訂正明細書全体の記載を参酌すれば、その技術的意義は明確であるから、旧特許法第36条第5項第2号違反として、無効とすべきまでもないものである。

また、「基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後前記窒化ガリウム系化合物半導体の・・・前記バッファ層を成長させ」の解釈は、上記「第7 3(4)エ」で判断したとおりであり、請求人の主張しているような解釈、即ち、請求項に記載されていない事項を、発明の詳細な説明に記載された範囲と矛盾或いはそれを超えて、これを解釈することはできないものである。

上記のように、訂正された請求項1に記載された一部の用語及び構成に必ずしも一義的に明確には解釈し得ない構成があるものの、本件訂正明細書全体の記載を参酌すれば、その技術的意義は明確であるから、旧特許法第36条第5項第2号違反として、無効とすべきまでもなく、請求人の上記主張を参酌したとしても、上記「第7」及び「第8」における各無効の理由の判断を変える理由はない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件訂正請求によって訂正された請求項1?4に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。
よって、結論の通り審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッファ層の上に、有機金属化合物気相成長法で反応容器内に反応ガスを供給して窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法において、
前記バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属化合物気相成長法で成長させると共に、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記反応容器内において、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後前記窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)とする前記バッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、続いて前記バッファ層よりも高い成長温度で、前記基板を回転させて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させると共に、前記バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記基板に、サファイア基板を使用することを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。
【請求項2】
サファイア基板の上に、一般式がGa_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)で示される前記バッファ層を成長させ、このバッファ層の上に窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる請求項1記載の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。
【請求項3】
窒化ガリウム系化合物半導体の上に、一般式がGa_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)で示されるバッファ層を成長させ、さらにこのバッファ層の上に窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる請求項1記載の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。
【請求項4】
前記バッファ層の厚さが0.002μm以上、0.2μm以下であることを特徴とする請求項1記載の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はサファイア等の基板上に、窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法に関し、特に結晶性の優れた窒化ガリウム系半導体化合物のエピタキシャル層の成長方法に関する。
【0002】
【従来の技術及びその問題点】
最近、窒化ガリウム系化合物半導体、例えば、一般式が[Ga_(X)Al_(1-X)N(但し、Xは0≦X≦1の範囲にある)]の青色発光デバイスが注目されている。窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法として、有機金属化合物気相成長法(以下、「MOCVD法」という。)がよく知られている。この方法はサファイア基板を設置した反応容器内に、反応ガスとして有機金属化合物ガスを供給し、結晶成長温度をおよそ900℃?1100℃の高温で保持して、基板上に化合物半導体結晶のエピタキシャル層を成長させる方法である。例えばGaNエピタキシャル層を成長させる場合には、III族ガスとしてトリメチルガリウムと、V族ガスとしてアンモニアガスとを使用する。
【0003】
このようにして成長させた窒化ガリウム系化合物半導体のエピタキシャル層を発光デバイスとして用いるためには、第一に結晶性を向上させることが不可欠である。
【0004】
また、MOCVD法を用いてサファイア基板上に直接成長された、例えばGaN層の表面は、6角ピラミッド状、ないしは6角柱状の成長パターンとなって無数の凹凸ができ、その表面モフォロジーが極めて悪くなる欠点がある。表面に無数の凹凸がある表面モフォロジーの極めて悪い半導体の結晶層を使用して青色発光デバイスを作ることは、非常に歩留が悪く、ほとんど不可能であった。
【0005】
このような問題を解決するために、窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる前に、基板上にAlNのバッファ層を成長させる方法が提案されている{Appl.Phys.Lett 48,(1986),353、(アプライドフィズィックス レターズ 48巻、1986年、353頁)、および特開平2-229476号公報}。この方法は、サファイア基板上に、成長温度400?900℃の低温で、膜厚が100?500オングストロームのAlNのバッファ層を設けるものである。この方法はバッファ層であるAlN層上にGaNを成長させることによって、GaN半導体層の結晶性および表面モフォロジーを改善できる特徴がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら前記方法は、バッファ層の成長条件が厳しく制限され、しかも膜厚を100?500オングストロームと非常に薄い範囲に厳密に設定する必要があるため、そのバッファ層を、大面積のサファイア基板、例えば約50mmφのサファイア基板上全面に、均一に一定の膜厚で形成することが困難である。したがって、そのバッファ層の上に形成する窒化ガリウム系化合物半導体の結晶性および表面モフォロジーを歩留よく改善することが困難であり、またその結晶性は未だ実用的な発光ダイオード、半導体レーザー等を作るまでには至っておらず、さらなる結晶性の向上が必要であった。
【0007】
さらに、特開昭60-173829号公報には、Al_(X)Ga_(1-X)N、またはInNバッファ層を高周波スパッタリングで形成し、そのバッファ層の上にMOCVD法でAl_(X)Ga_(1-X)N、InNをエピタキシャル成長させる方法が示されている。高周波スパッタで形成されるバッファ層は、陰極のターゲットを高周波プラズマでスパッタし、ターゲットから飛び出した原子、イオンを加速して陽極にぶつけて薄膜に形成される。高周波スパッタは、加速された原子、イオンを衝突させて薄膜のバッファ層を形成する。このため、高周波スパッタリングで形成されたバッファ層は、プラズマダメージによる結晶欠陥が生じやすく、膜質の良いバッファ層を形成することが難しい。
【0008】
さらに、この公報に記載される方法は、バッファ層を高周波プラズマ装置で形成した後、バッファ層の形成されたウエハをMOCVD装置に移し、バッファ層の上に窒化ガリウム系化合物半導体を結晶成長させている。この製造方法は、バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体とを連続的に成膜できない。バッファ層の形成されたウエハを、MOCVD装置に移送する際、バッファ層の表面が空気に触れて酸化される恐れがある。たとえバッファ層の表面が酸化されないように移送しても、バッファ層の形成されたウエハを別工程に移すときに、バッファ層の表面が変質してしまう。変質したバッファ層の表面に窒化ガリウム系化合物半導体を形成すると、結晶性の良いエピタキシャル層を得ることができない。
【0009】
本発明はこのような事情を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、バッファ層上に成長させる窒化ガリウム系化合物半導体の結晶性および表面モフォロジーを実用レベルにまで改善し、さらに窒化ガリウム系化合物半導体が安定して、歩留よく成長できるための成長方法を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法は、バッファ層の上に、有機金属化合物気相成長法で反応容器内に反応ガスを供給して窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法を改良したものである。本発明の方法は、前記バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属化合物気相成長法で成長させると共に、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記反応容器内において、前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、基板上にアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給し、その後前記窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0.5≦X<1の範囲である。)とする前記バッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、続いて前記バッファ層よりも高い成長温度で、前記基板を回転させて前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させるものである。さらに、前記バッファ層と前記窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前記基板には、サファイア基板が使用される。
【0011】
前記バッファ層の厚さは、好ましくは0.002μm以上、0.5μm以下、さらに好ましくは0.01?0.2μmの範囲に調整する。その厚さが0.002μmより薄く、また、0.5μmより厚いと、バッファ層の上に形成される窒化ガリウム系化合物半導体の結晶の表面モフォロジーが悪くなる傾向にある。
【0012】
また前記バッファ層の成長温度は200℃以上900℃以下、好ましくは400?800℃の範囲に調整する。200℃より低いと、バッファ層が形成しにくく、また900℃より高いと、バッファ層が単結晶となってしまい、後述するバッファ層としての作用を果たさなくなる傾向にある。
【0013】
【作用】
図1にGa_(X)Al_(1-X)Nをバッファ層として、その上に窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させた場合のエピタキシャルウエハの構造を表す断面図を示し、図2にAlNをバッファ層として、同じくその上に、同じ結晶を成長させた場合のエピタキシャルウエハの構造を表す断面図を示す。本発明のバッファ層は従来のバッファ層に比べて、厚さの許容範囲が大きいため、歩留良くバッファ層および窒化ガリウム系化合物半導体結晶が成長できる。
【0014】
ところでAlNをバッファ層として窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法は、Thin Solid Films.163,(1988),415(シィン ソリッド フィルムズ 163巻、1988年、415頁)、およびAppl.Phys.Lett 48,(1986),353(アプライドフィズィックス レターズ 48巻、1986年、353頁)等に詳しく述べられているが、それらの文献に記載されているバッファ層の作用を簡単に述べると以下の内容である。
【0015】
低温(約600℃)で成長させるAlNは多結晶層であり、このバッファ層を例えばGaNを成長させるために約1000℃にまで温度を上げる際、層が部分的に単結晶化する。部分的に単結晶化した部分が、1000℃でGaNを成長させる時に方位の揃った種結晶となり、その種結晶からGaN結晶が成長し、均一なGaN単結晶層が成長できる。バッファ層がないときはサファイア基板自身が種結晶となるため、方位が大きくばらついたGaNの六角柱の結晶が成長してしまうという内容である。
【0016】
本発明のようにGa_(X)Al_(1-X)N(0<X≦1)をバッファ層として形成した場合を従来のAlNをバッファ層とした場合と比較すると、以下のようになると考えられる。
【0017】
まずバッファ層として、例えばX=1のGaNを形成する場合を考えると、GaNの融点は1100℃であり、AlNの融点は1700℃である。このため600℃でGaNのバッファ層を形成すると、多結晶のバッファ層が成長する。次にこの多結晶のGaNバッファ層の上にGaNのエピタキシャル層を成長するために1000℃まで温度を上げると、GaNのバッファ層は部分的に単結晶化し、AlNをバッファ層とした場合と同様に、GaNエピタキシャル層用の種結晶として作用することになる。
【0018】
しかもAlNをバッファ層として形成した場合よりも、
▲1▼融点が低いので温度を上昇しているときに容易に単結晶化しやすい。このため、バッファ層の厚さを厚くしても、バッファ層としての効果が期待できる。
▲2▼バッファ層がGaNなので、その上にGaNのエピタキシャル層を成長する場合、同一材料の上に同一材料を成長するため結晶性の向上が期待できる。
等の利点があると考えられる。
【0019】
以上のことを確認するため、AlN、Ga_(0.5)Al_(0.5)N、GaNの3種類のバッファ層を600℃でそれぞれサファイア基板上に形成し、その上に1000℃でGaNエピタキシャル層を4μmの厚さで成長させた場合の、GaNエピタキシャル層のダブルクリスタルX線ロッキングロッキングカーブの半値巾(FWHM:full width at half-maximum)とバッファ層の膜厚との関係を求めた図を図3に表す。FWHMは小さいほど結晶性がよい。
【0020】
図3に示すように、GaN、およびGa_(0.5)Al_(0.5)Nのバッファ層としたものは、広いバッファ層の膜厚範囲で結晶性がよく、従来のAlNのバッファ層に比較して極めて優れた特性を示している。
【0021】
図4?図7に、サファイア基板上に形成するGaNバッファ層の膜厚を変え、さらにその上にGaNのエピタキシャル層を4μm成長させた場合の、GaNエピタキシャル層の表面の結晶構造を表す顕微鏡写真図を示す。図4から図7まで順に、バッファ層厚さは0.002μm、0.07μm、0.20μm、0μm(バッファ層無し)である。
【0022】
これらの図を見ても分かるように、バッファ層がない場合は、図7が示すように表面に6角柱状の結晶が現れる。バッファ層を形成する際の条件にもよるが、バッファ層を形成するにしたがって表面が鏡面均一になる傾向がある。しかしバッファ層が厚すぎると、表面の状態(表面モフォロジー)が悪くなる傾向にある。したがって好ましいバッファ層の厚さは0.01μmから0.2μmの間である。
【0023】
また本発明の結晶成長方法によるバッファ層は、サファイア基板上だけでなく窒化ガリウム系化合物半導体のエピタキシャル層を有する層であれば、どの層に形成してもよい。例えばn型GaNエピタキシャル層の上に、p型不純物であるMgがドープされたp型GaNのエピタキシャル層を形成したい場合、前記n型GaNエピタキシャル層の上にバッファ層を形成し、そのバッファ層の上にp型GaNエピタキシャル層を成長させることもできる。
【0024】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。但し以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための方法を例示するものであって、本発明の方法は成長条件、有機金属化合物ガスの種類、使用材料等を下記のものに特定するものではない。この発明の成長方法は、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0025】
図8に示す装置を用いて窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長を行った。
[実施例1]
下記の工程でサファイア基板にGaNのエピタキシャル層を4μmの膜厚で成長させた。
▲1▼洗浄された2インチφのサファイア基板をサセプター2の上に載せる。
▲2▼ステンレス製の反応容器1内の空気を、排気ポンプ6で排気した後、さらに内部をH_(2)で置換する。
▲3▼その後、H_(2)ガスを反応ガス噴射管4と、反応容器1上部の副噴射管5とから、反応容器1内に供給しながら、サセプター2をヒーター3によって1060℃まで加熱する。
▲4▼この状態を10分間保持し、サファイア基板表面の酸化膜を除去する。
▲5▼次にサセプター2の温度を500℃まで下げて、温度が安定するまで静置する。
▲6▼続いて副噴射管5からH_(2)とN_(2)の混合ガスを供給し、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスの混合ガスを供給する。副噴射管5から供給するH_(2)ガスとN_(2)ガスの流量はそれぞれ10リットル/分、反応ガス噴射管4から供給するアンモニアガスの流量は4リットル/分、H_(2)ガスの流量は1リットル/分とし、この状態でサセプター2の温度が500℃に安定するまで待つ。
▲7▼その後、バッファ層を形成するため、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスに加えて、TMG(トリメチルガリウム)ガスを2.7×10^(-5)モル/分で1分間流す。
▲8▼次にTMGガスのみを止めて、バッファ層の成長を止める。ここで膜厚0.02μmのバッファ層が形成できる。さらに他のガスを流しながらサセプター2の温度を1000℃まで上昇させる。
▲9▼サセプター2の温度が1020℃まで上昇した後、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスに加えて、TMGガスを5.4×10^(-5)モル/分の流量で60分間供給して、GaNエピタキシャル層を、4.0μmの膜厚で成長させる。この間、副噴射管5から常にH_(2)とN_(2)ガスを前述の条件で供給し続け、反応ガスで反応容器内が汚染されないようにしている。またサセプター2は均一に結晶が成長するように、モーター7で5rpmで回転させる。なお当然のことではあるが、ガスを供給している間、排気ポンプ6の配管と分岐した排気管8から、供給しているガスを外部へ放出している。
上記のようにしてサファイア基板上に、膜厚0.02μmのGaNバッファ層、その上に4μmのGaNエピタキシャル層を成長させた。
【0026】
[比較例1]
▲7▼のバッファ層を形成する工程において、AlNのバッファ層を0.02μmの膜厚で形成する以外は、実施例1と同様にして、AlNバッファ層の上に4μmのGaNエピタキシャル層を成長させた。なおAlNバッファ層を形成する際、▲7▼において、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスに加えて、TMA(トリメチルアルミニウム)を2.7×10^(-5)モル/分で1分間流した。
【0027】
成長後ホール測定を室温で行い、本発明によるGaNエピタキシャル層と、比較例1によるGaNエピタキシャル層の、キャリア濃度と移動度とをそれぞれ求め、その結果によるキャリア濃度、および移動度の面内分布を表す図を、図9および図10に示す。本発明は図9、比較例は図10、キャリア濃度は●、移動度は○で示している。
【0028】
ノンドープの結晶を成長させた場合は、キャリア濃度が小さく、しかも移動度が大きい程、結晶性が良く、また不純物濃度が小さいことを表す。
【0029】
本発明によるGaNは、図9に示すようにキャリア濃度が4×10^(16)/cm^(3)、移動度が600cm^(2)/V・secと非常によい値を示す。一方、AlNをバッファ層とした比較例1は、キャリア濃度が1×10^(18)/cm^(3)、および移動度が約90cm^(2)/V・secであった。
【0030】
[実施例2]
▲7▼のバッファ層を形成する工程において、Ga_(0.5)Al_(0.5)Nのバッファ層を0.02μmの膜厚で形成して、バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体とを同一組成としない以外は、実施例1と同様にして、バッファ層の上にGaNエピタキシャル層を成長させた。なおバッファ層を形成する際、反応ガス噴射管4からアンモニアガスと、H_(2)ガスに加えて、TMGを2.7×10^(-5)モル/分、TMAを2.7×10^(-5)モル/分でそれぞれ0.5分間流した。このGaNエピタキシャル層も図3に示すように、優れたX線ロッキングカーブを示し、また顕微鏡観察による表面モフォロジーは実施例1と同等、キャリア濃度および移動度は、実施例1と比較例1との中間に位置するものであった。
【0031】
[実施例3]
▲6▼においてバッファ層の成長温度を600℃とし、▲7▼のガス流時間を2.5分間に変えて、バッファ層の膜厚を0.05μmとする他は、実施例1と同様にして、GaNエピタキシャル層を成長させた。このGaNエピタキシャル層も表面モフォロジーは実施例1と同等、X線ロッキングカーブの半値巾は3分と優れた結晶性を示し、キャリア濃度、移動度とも実施例1と同等であった。
【0032】
[実施例4]
▲6▼においてバッファ層の成長温度を800℃とする他は、実施例1と同様にして、GaNエピタキシャル層を成長させた。このGaNエピタキシャル層も表面モフォロジーは実施例1と同等、X線ロッキングカーブの半値巾は3分と優れた結晶性を示し、キャリア濃度、移動度とも実施例1と同等であった。
【0033】
[実施例5]
▲7▼のバッファ層を形成する工程において、実施例2と同様の条件で、Ga_(0.5)Al_(0.5)Nのバッファ層を0.02μmの膜厚で形成し、▲9▼において、反応ガス噴射管4からアンモニアガスとH_(2)ガスに加えて、TMAガスを2.7×10^(-5)モル/分、TMGガスを2.7×10^(-5)モル/分の流量で60分間供給して、Ga_(0.5)Al_(0.5)Nエピタキシャル層を4.0μmの膜厚で成長させる他は、実施例1と同様にして、サファイア基板上に、膜厚0.02μmのGa_(0.5)Al_(0.5)Nバッファ層と、その上に4μmのGa_(0.5)Al_(0.5)Nエピタキシャル層を成長させた。このGa_(0.5)Al_(0.5)Nエピタキシャル層も、表面モフォロジーは実施例1と同等であった。
【0034】
[実施例6]
▲9▼において、アンモニアガス、H_(2)ガス、およびTMGガスに加えて、Cp_(2)Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)ガスを流しながら、GaNエピタキシャル層にp型の不純物であるMgをドープして、p型GaNエピタキシャル層を4.0μmの膜厚で成長させた。上記のようにしてサファイア基板上に、膜厚0.02μmのGaNバッファ層、その上にMgを10^(20)/cm^(3)ドープした膜厚4.0μmのp型GaNエピタキシャル層を成長させた。このp型GaNエピタキシャル層も、表面モフォロジーは実施例1と同等であり、キャリア濃度2.0×10^(15)/cm^(3)、移動度9.4cm^(2)/V・secと窒化ガリウム系化合物半導体では、初めてp型特性を示した。このことは、このエピタキシャル層の結晶性が非常に優れていることを示している。
【0035】
[実施例7]
実施例1で得た膜厚4μmのGaNエピタキシャル層の上に、実施例6と同様にして、膜厚0.02μmのGaNバッファ層、その上にMgを10^(20)/cm^(3)ドープした膜厚4.0μmのp型GaNエピタキシャル層を成長させた。このp型GaNエピタキシャル層も、表面モフォロジーは実施例1と同等であり、キャリア濃度3.5×10^(15)/cm^(3)、移動度8.5cm^(2)/V・secと同じくp型特性を示した。
【0036】
[実施例8]
▲9▼において、アンモニアガス、H_(2)ガス、およびTMGガスに加えて、シラン(SiH_(4))ガスを流しながら、GaNエピタキシャル層にn型の不純物であるSiをドープして、4.0μmの膜厚で成長させた。上記のようにしてサファイア基板上に、膜厚0.02μmのGaNバッファ層の上に、Siを約10^(20)/cm^(3)ドープした膜厚4μmのn型GaNエピタキシャル層を成長させた。このn型GaNエピタキシャル層も、表面モフォロジーは実施例1と同等であり、キャリア濃度1.0×10^(19)/cm^(3)と非常に高いキャリア濃度を示した。
【0037】
[比較例2]
AlNのバッファ層を0.02μmの膜厚で形成する以外は、実施例8と同様にSiをドープして、サファイア基板上に形成したAlNバッファ層の上に、さらに4μmのn型GaNエピタキシャル層を成長させた。このn型GaNエピタキシャル層は、キャリア濃度が5.0×10^(18)/cm^(3)であり、比較例1程のキャリア濃度は得られず、不純物により補償されて低くなっていると考えられる。
【0038】
【発明の効果】
本発明の方法は、結晶性の飛躍的に改善された窒化ガリウム系化合物半導体を成長できる極めて優れた特長がある。窒化ガリウム系化合物半導体は、その結晶性がいかに理想に近い状態にあるかは、キャリアの移動度を測定して判定できる。結晶性に優れた窒化ガリウム系化合物半導体は、キャリアの移動度が大きくなる。規則的に配列されて結晶欠陥の少ない結晶構造の窒化ガリウム系化合物半導体は、キャリアが結晶欠陥に衝突することなくスムーズに移動できて、移動度が大きくなる。本発明の実施例1で試作した窒化ガリウム系化合物半導体は、結晶性を示すキャリア移動度が600cm^(2)/V・secである。この数値は、従来のいかなる方法で製造された窒化ガリウム系化合物半導体に比較しても、飛躍的に改善された数値である。それも、従来の方法で製造された窒化ガリウム系化合物半導体の移動度を、数%や数十%程度改善するものではなく、数倍以上と飛躍的に改善するものである。
【0039】
ちなみに、バッファ層をAlNとし、このバッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属化合物気相成長法で成長させる比較例1の窒化ガリウム系化合物半導体は、キャリアの移動度が約90cm^(2)/V・secである。この数値は、本発明の方法で成長された窒化ガリウム系化合物半導体の移動度の約7分の1である。さらに、特開昭60-173829号公報に記載されるように、高周波スパッタリングでAl_(X)Ga_(1-X)Nのバッファ層を成長し、その上に窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる方法で製造したものは、移動度が約60cm^(2)/V・secと、本発明の方法で成長された層の10分の1である。
【0040】
本発明の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法は、バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体の両方を、有機金属化合物気相成長法で成長させると共に、窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる反応容器内において、窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前にバッファ層を成長させる技術と、この方法で成長させるバッファ層の一般式を、Ga_(X)Al_(1-X)N(但しXは0<X≦1の範囲である)とすることを特徴とするものであるが、バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属化合物気相成長法で製造する方法によっても、また、一般式をGa_(X)Al_(1-X)Nとするバッファ層を設ける方法によっても、到底実現できない、極めた優れた結晶性を実現するものである。
【0041】
一般的な考察からすれば、優れた結晶性の窒化物半導体層を製造できる二つの方法を組み合わせることは、両方の特長を生かすことに効果があることは容易に推測できる。本発明の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法は、同一の反応容器でバッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体の両方を形成する技術に、バッファ層をGa_(X)Al_(1-X)N(0<X≦1)とする技術とを組み合わせたものであるが、この組み合わせによって、従来の方法では到底推測もできないほどに飛躍的に結晶性を改善することに成功したものである。
【0042】
本発明の方法が、このように飛躍的に結晶性を改善できるのは、窒化ガリウム系化合物半導体を成長させるのと同一の反応容器で、Ga_(X)Al_(1-X)N(0<X≦1)で示されるバッファ層を形成し、このバッファ層の上に窒化ガリウム系化合物半導体を結晶成長させることによって、バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体との境界を極めて理想に近い状態にできるからと推測する。
【0043】
すなわち、本発明の方法は、窒化ガリウム系化合物半導体を形成する反応容器において、まず多結晶のGa_(X)Al_(1-X)N(0<X≦1)で示されるバッファ層が成長され、この多結晶バッファ層の上に、窒化ガリウム系化合物半導体を結晶成長させると、多結晶バッファ層は部分的に単結晶化して種結晶となり、この種結晶に窒化ガリウム系化合物半導体のエピタキシャル層が理想的な状態で結晶成長されるからである。
【0044】
窒化ガリウム系化合物半導体の結晶性はX線ロッキングカーブのFWHMによっても測定でき、結晶性が良くなると、FWHMは小さくなる。本発明の窒化ガリウム系化合物半導体の成長方法は、図3に示すように、AlNをバッファ層に使用する従来法で成長されたGaNエピタキシャル層よりもFWHMを著しく改善できる。図3は、本発明の方法で成長された窒化ガリウム系化合物半導体であるGaNエピタキシャル層のFWHMを、●と□でプロットし、バッファ層をAlNとする従来の方法で製造したGaNエピタキシャル層のFWHMを○で示している。この図に示すように、本発明の方法で製造されたGaNエピタキシャル層は、FWHMが小さく、優れた結晶性を示すことが明示される。
【0045】
キャリア濃度も、移動度のように結晶性を示すパラメータである。ノンドープの結晶を成長させた場合、キャリア濃度が小さく、しかも移動度が大きい程、結晶性が良く、また不純物濃度が小さいことを表す。本発明の実施例1で試作された窒化ガリウム系化合物半導体は、図9に示すように、結晶のホール測定において、キャリア濃度が4×10^(16)/cm^(3)と極めて優れた値を示す。この値は、窒化ガリウム系化合物半導体結晶において飛躍的に優れた値である。ちなみに、AlNをバッファ層とする従来の方法で製作された窒化ガリウム系化合物半導体のキャリア濃度は1×10^(18)/cm^(3)である。さらに、特開昭60-173829号公報に記載されるように、高周波スパッタリングでAl_(X)Ga_(1-X)Nのバッファ層を成長し、その上に窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる方法で製造したものも、キャリア濃度は1×10^(18)/cm^(3)である。これに対して、本発明の方法で結晶成長させた窒化ガリウム系化合物半導体は、キャリア濃度が100倍以上と飛躍的に優れた数値を示した。
【0046】
さらに、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法は、バッファ層を形成することによって、その上に成長させるMgをドープしたGaNエピタキシャル層が、何の処理もなしにp型を示す。これは全く初めてのことであり、本発明の方法で成長させた窒化ガリウム系化合物半導体の結晶性がいかに優れているかを示すものである。またそのバッファ層上に成長させるSiをドープしたn型GaNも、AlNをバッファ層としたものに比較して、非常に高いキャリア濃度を示す。さらにまた、従来のAlNバッファ層に比べて、本発明の方法では、バッファ層を成長させるための条件が緩やかである。すなわち、バッファ層の厚みの広い範囲で、その上に成長させる窒化ガリウム系化合物半導体層の結晶性がよい。このため発光素子を形成する際の量産性に優れている。このように本発明の技術を用いることにより、窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を利用して、青色発光ダイオードはもちろんのこと、半導体レーザーまで、実用化に向けてその用途は非常に大きいものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の結晶成長方法によるエピタキシャルウエハの構造を表す概略断面図
【図2】従来の結晶成長方法によるエピタキシャルウエハの構造を表す概略断面図
【図3】GaNエピタキシャル層のダブルクリスタルX線ロッキングカーブの半値巾(FWHM)と、バッファ層の膜厚との関係を表す図
【図4】GaNエピタキシャル層の結晶の構造を表す顕微鏡写真図
【図5】GaNエピタキシャル層の結晶の構造を表す顕微鏡写真図
【図6】GaNエピタキシャル層の結晶の構造を表す顕微鏡写真図
【図7】GaNエピタキシャル層の結晶の構造を表す顕微鏡写真図
【図8】本発明に使用した装置の部分概略断面図
【図9】本発明の方法によるGaN結晶のホール測定結果による、キャリア濃度、および移動度の面内分布を表す図
【図10】従来の方法によるGaN結晶のホール測定結果による、キャリア濃度、および移動度の面内分布を表す図
【符号の説明】
1…反応容器
2…サセプター
3…ヒーター
4…反応ガス噴射管
5…副噴射管
6…排気ポンプ
7…モーター
8…排気管
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2012-06-18 
出願番号 特願平3-89840
審決分類 P 1 113・ 121- YA (H01L)
P 1 113・ 534- YA (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 一正  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 鈴木 正紀
川端 修
登録日 2000-07-21 
登録番号 特許第2141400号(P2141400)
発明の名称 窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法  
代理人 門松 慎治  
代理人 豊栖 康弘  
代理人 牧野 知彦  
代理人 黒田 健二  
代理人 豊栖 康弘  
代理人 豊栖 康司  
代理人 牧野 知彦  
代理人 吉村 誠  
代理人 豊栖 康司  

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