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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1267298
審判番号 不服2011-19346  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-07 
確定日 2012-12-06 
事件の表示 特願2009-183741「有機ELディスプレイ用の反射アノード電極およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月17日出願公開、特開2010-135300〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年8月6日(優先権主張 平成20年11月10日、日本国)を出願日とする出願であって、平成23年5月31日付けで拒絶査定がなされ、本件は、これを不服として、同年9月7日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に手続補正がなされ、その後、当審の平成24年6月11日付け審尋に対して同年8月9日に回答書が提出されたものである。

第2 平成23年9月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年9月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、そのうち特許請求の範囲の請求項3に係る発明は、本件補正前の
「【請求項3】
酸化物導電膜が、Al合金膜と直接接触するように、前記Al合金膜上に成膜されており、
前記Al合金膜は、Ni又はCoを0.1?2原子%含有し、
前記Al合金膜は、前記Al合金膜の成膜後であって前記酸化物導電膜の成膜前に、真空または不活性ガス雰囲気下、150℃以上の温度で熱処理されたものであることを特徴とする有機ELディスプレイ用の反射アノード電極。」を
「【請求項3】
酸化物導電膜が、Al合金膜と直接接触するように、前記Al合金膜上に成膜されており、
前記Al合金膜は、Ni又はCoを0.1?2原子%含有し、
前記Al合金膜は、前記Al合金膜の成膜後であって前記酸化物導電膜の成膜前に、真空または不活性ガス雰囲気下、150℃以上の温度で熱処理されたものであり、
反射アノード電極の波長550nmの反射率が86.7%以上である
ことを特徴とする有機ELディスプレイ用の反射アノード電極。」と補正するものである。

2 補正の目的についての検討
上記本件補正は、本件補正前の請求項3に係る発明を補正したものであって、本件補正前の請求項3に係る発明の発明特定事項に、「反射アノード電極の波長550nmの反射率が86.7%以上である」点を追加するものであり、この補正は明らかに限定的に減縮するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。
そこで、本件補正後の請求項3に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下単に「特許法第17条の2」という。)第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

3 本件補正発明
本件補正発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項3に記載された上記のとおりのものである。

4 引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である平成18年9月7日に頒布された「特開2006-236839号公報 」(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)
a 発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は電気光学表示装置、特に、TFTを形成したアクティブマトリックス型基板上に電気光学素子として画素領域に有機電界発光型(エレクトロルミネッセンス;EL)素子(以後、有機EL素子と呼ぶ)を形成してなる有機電界発光型表示装置に関する。」
「【0012】
発明者らの実験においても、図3に示す透光性導電酸化膜とのコンタクト抵抗における金属膜の材質の依存性のグラフから明らかなように、従来例として示したAlまたはAl合金膜と透光性導電酸化膜であるITO膜を積層した場合の界面における電気的コンタクト抵抗値は、比較例1として示しているCrの場合を1とすると、10^(7)倍という非常に大きな値となってしまう結果がえられている。したがって、下層であるAl合金膜上にITO膜を単に積層しただけの構成からアノードがなる場合にも同様に電気的絶縁体である酸化物反応層が界面に形成されるため、有機EL層へのホール注入効率を著しく低下させてしまうという問題点がある。この問題を解決するために、導電酸化膜とAl合金膜との間に別の金属膜を追加する方法を適用した場合、この金属は光反射率の点で最適化することが困難なので、アノードに必要な高い光反射率を得ることができないという問題がある。また、高反射率材料として、Ag膜またはAg合金膜を用いた場合、これらの材料は化学的に非常に活性で大気中での表面酸化による反射率の経時劣化が大きく、実際のプロセス適用時に難があった。さらにAl膜の場合はヒロックをはじめとする表面凹凸が発生しやすく有機EL層を挟んだ対向のカソードとのショートモード故障やダークスポットとよばれる表示不良が発生しやすいという問題点もある。上述の特許文献においては、これら問題点の対策については何ら開示されておらず、実デバイスへの適用は実質的に不可能であった。
【0013】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、発光開口面積を広くとることができるトップエミッション型の有機電界発光型表示装置において、さらに発光効率を高め明るい表示画像を得ることを目的としており、プロセス加工性に優れ、かつ良好な表面平坦性、高い光反射率ならびに高いホール注入効率を具備したアノードを有する有機電界発光型表示装置を提供するものである。」
「【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における有機電界発光型表示装置を構成するTFT基板とその上部に形成されている有機EL素子とを示す画素部の断面図である。図1において、絶縁性基板1上に形成された透過性絶縁膜であるSiN膜2、SiO_(2)膜3上にチャネル領域7a、ソース領域7b、ドレイン領域7cを有するポリシリコン膜7が設けられている。SiO_(2)膜3やポリシリコン膜7を覆うようにしてゲート絶縁膜5が形成され、その上層にゲート電極6と、SiO_(2)等からなる第1層間絶縁膜8とが形成されている。ソース電極11とドレイン電極12とは第1層間絶縁膜8上にあって、おのおのコンタクトホール9、10を介してソース領域7b、ドレイン領域7cと接続されており、以上の構成をもって薄膜トランジスタが形成される。さらに、その上層にはSiNやSiO_(2)等からなる第2層間絶縁膜13、および表面を平坦化するために有機樹脂からなる平坦化膜15が形成されている。
【0018】
平坦化膜15上には、第1アノードであるAl合金膜16aの上層に第2アノードとして透光性の導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bを積層してなるアノード16が形成されており、アノード16は平坦化膜15に設けられているコンタクトホール14を介して下層のドレイン電極12と接続している。アノード16上の一部を開口してアノード16と平坦化膜15とを覆っているのは分離膜17であり、分離膜17は隣接する画素(図示せず)間を分離するために画素周囲に額縁のように土手状に形成されており、その開口されている領域のアモルファスITO膜16b上に形成されているのが有機EL材料からなる電界発光層18である。電界発光層18は、アノード16の直上に、ホール輸送層18a、有機EL層18b、電子輸送層18cの順に積層される三層からなる。なお、ホール輸送層18aとアノード16との間に挟まれるホール注入層(図示しない)か、電子輸送層18cの直上に積層される電子注入層(図示しない)か、いずれか少なくとも一層を追加する公知の構造でもよく、その場合の電界発光層18は四層あるいは五層構造で形成されることになる。分離膜17、電界発光層18を覆うようにして形成されているのはカソード19、接着層20である。カソード19はITO等で形成され、アノード16との電位差により電界発光層18に電流を流すためのものであり、接着層20は、電界発光層18を水分や不純物から遮断するためのものである。接着層20上には、絶縁性基板1と対向するように対向基板21が形成されている。
【0019】
図1に示す有機電界発光型表示装置においては、ソース電極11から伝わる信号電圧がドレイン電極12を介してアノード16に印加され、カソード19との間の電圧差により電界発光層18に電流が流れて有機EL層18bが発光するため表示に必要な光をえることができる。本発明の実施の形態1においては、光反射率の高いAlに少なくとも8族3d遷移金属であるFe、Co、Niから選ばれる1種以上を不純物として含むAl合金膜16aと、その上層にアモルファスITO膜16bとを積層した少なくとも二層膜としてアノード16が形成されているので、Al合金膜16aとアモルファスITO膜16bとの界面においては、例えばアルミナ等の電気的絶縁性の界面反応層が存在しない。さらに、Al合金膜16aにおける上記不純物の組成を0.5at%以上15at%以下とすると、光反射率が高いアノード16をえることができる。そのため、有機EL素子から発生する光の反射率が高いうえに、電界発光層18へのホール注入効率を高めることができるので、発光効率が高く明るい表示画像を有する有機電界発光型表示装置を得ることが可能となる。」
「【0032】
図2(E)を参照して、第2層間絶縁膜13上に、コンタクトホール14の一部または全部と重なるようにドレイン電極12に到達する開口部を有する平坦化膜15を形成する。平坦化膜15としては有機樹脂膜、例えば光透過性のアクリル系感光樹脂膜であるJSR製の製品名PC335を約2μmの膜厚となるようにスピンコート法を用いて塗布形成し、フォトリソグラフィ法を用いてドレイン電極12に到達する開口部を形成する。平坦化膜15をキュアするために220℃のアニールを施す。平坦化膜15を形成することにより、ゲート電極6やソース電極11、ドレイン電極12などの表面凹凸を被覆し、アレイ表面を平坦にすることができる。
【0033】
次に、アノード16の第1アノードとして、アルミニウム(Al)にニッケル(Ni)を添加したターゲットを用いたスパッタリング法により、アルミニウム(Al)にニッケル(Ni)を不純物として2at%添加したAl合金膜16aを50nmの厚さで成膜し、続いて第2アノードとして透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bを20nmの厚さで成膜する。その後に写真製版工程により、所定の開口を有するレジスト膜を形成し、これをマスクとして、シュウ酸を含む溶液、続いて燐酸+硝酸+酢酸を含む溶液を用いて、順次アモルファスITO膜16b、Al合金膜16aをエッチングする。その後、レジストを除去する。
【0034】
ここで、Alに不純物としてNiを添加したが、Niに限定されず、他の8族3d遷移金属であるFe、Coのいずれかを1種以上添加していればよい。Alに8族3d遷移金属を1種以上添加することにより、上層に積層される透光性の導電酸化膜との界面における絶縁性酸化物反応層の形成を抑制することができ、ホール注入効率の低下を防止できる。その添加量は0.5at%以上であり、かつ15at%以下にすることが望ましい。図3に示す透光性導電酸化膜とのコンタクト抵抗値におけるアノード金属膜の材質の依存性において本実施例Aで示される通り、AlにNiが添加されているAl合金膜へITO膜を積層したときのコンタクト抵抗は、Niを添加していないAl膜とITO膜とを積層させた時のコンタクト抵抗を示した従来例に比べて大幅に低減しており、比較例1および比較例2で示されている高融点金属であるMoやCrとITOとを積層した場合のコンタクト抵抗と同程度である。Niを0.5at%以上添加することにより、Al合金膜16aと透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bとの間に形成される絶縁性酸化物反応層の生成を抑制し、良好な電気的コンタクト特性を得ることができる。一方、Niの添加量を15at%以下とした場合、波長550nmにおけるAl合金膜の光反射率のNi組成依存性を示す図4から明らかなように、Al合金膜の光反射率を比較例1、2で示されたCrやMoの光反射率と同等以上にすることができるので、電界発光層18からの発光を反射させることにより表示光として寄与する効果もそれだけ大きいことになるため好ましい。
【0035】
あるいはAlに不純物として、Nを添加しても良い。その添加量は5at%以上であり、かつ26at%以下にすることが望ましい。図3の本実施例Bにおいて示される通り、AlにNが添加されているAl合金膜へITO膜を積層したときのコンタクト抵抗は、比較例で示されている高融点金属であるMoやCrとITOとを積層した場合のコンタクト抵抗よりやや高いものの、Nを添加しない従来例に比べて大幅に低減している。Nを添加することにより、Al合金膜16aと透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bとの間に形成される絶縁性酸化物反応層の生成を抑制し、良好な電気的コンタクト特性を得ることができる。一方、AlへのNの添加量を26at%以下とした場合、波長550nmにおけるAl合金膜の光反射率のN組成依存性を示す図5から明らかなように、Al合金膜の光反射率を比較例1、2で示されたCrやMoの光反射率と同等以上にすることができるので、電界発光層18からの発光を反射させることにより表示光として寄与する効果もそれだけ大きいことになるため好ましい。」
「【0038】
本実施の形態1においては、Al合金膜16aの膜厚を50nmとしたが、10nm以上200nm以下であれば良い。図6において、波長550nmにおけるAl膜の光反射率と光透過率に対するAl膜の膜厚依存性を示す。図6から明らかなように、Al合金膜の膜厚が10nm以上の場合、光透過成分を十分低減でき、Al合金膜の光反射率を比較例1、2で示されたCrやMoの光反射率と同等以上にすることができるので、電界発光層18からの発光を反射させることにより表示光として寄与する効果もそれだけ大きいことになるため好ましい。また、Al合金膜の膜厚が厚くなると、グレインサイズが大きく表面凹凸が荒くなるため、有機電界発光表示装置のアノードとして用いる場合には、電界発光層18による被覆不良を引き起こし、カソードとのショートモード故障等の要因となる。表面平滑性の指針としては平均粗さRaを1.0nm以下とするのが好ましく、この点からAl合金膜16aの膜厚としては200nm以下とするのが好ましい。」

b 図面の記載









上記図1の装置の記載からして、図1には、アモルファスITO膜16bが、Al合金膜16aと直接接するようにAl合金膜16a上に形成された装置が記載されている。
また、上記図4のAl-Ni膜の反射率のNi組成依存性の記載からして、図4には、Ni組成が0at%、2at%の時に波長550nmの光の反射率がそれぞれ90%?95%の間、90%程度である点が記載されている。
さらに、上記図6のAl膜の反射率及び透過率と膜厚の関係の記載からして、図6には、Al膜厚が50nmの時に波長550nmの光の反射率が90%?100%の間であって90%に近い値である点が記載されている。

c 図面の記載の考察
引用例の図4のAl-Ni膜の反射率のNi組成依存性の記載に関し、そのAl-Ni膜の膜厚がどの程度であるか明細書及び図面に記載されていない。
しかしながら、引用例の図4及び図6には、Al-Ni膜のNi組成が0at%の時に光の反射率が90%?95%の間である点、及び、Al膜厚が50nmの時に波長550nmの光の反射率が90%?100%の間であって90%に近い値である点がそれぞれ記載されており、これらの記載はいずれもNiが含まれていないAl膜の波長550nmの光の反射率が90%台前半の値であることを示すものであるから、引用例の図4に記載されたAl-Ni膜の反射率のNi組成依存性の記載は、その膜厚が50nmと大きく相違しない数値であると推察できる。
そして、引用例の図4には、Ni組成が2at%であるAl-Ni膜の波長550nmの光の反射率が90%程度である点が記載されている。
してみると、引用例に記載された「50nmの厚さ」で「ニッケル(Ni)を不純物として2at%添加した」「Al合金膜16a」は、波長550nmの反射率が90%程度であるといえる。

d 引用例記載の発明
a、bの記載事項及びcの考察によると、引用例には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bが、Al合金膜16aと直接接するようにAl合金膜16a上に成膜されており、
Al合金膜16aが、ニッケル(Ni)を2at%添加したものであって、50nmの厚さであり、
Al合金膜16aの波長550nmの反射率が90%程度である
有機EL素子を有する有機電界発光型表示装置の光反射率が高いアノード16。」

5 本件補正発明と引用発明の対比
(1)引用発明の「透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜16b」が、本件補正発明の「酸化物導電膜」に相当するから、引用発明の「透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bが、Al合金膜16aと直接接するようにAl合金膜16a上に成膜されて」いる点が、本件補正発明の「酸化物導電膜が、Al合金膜と直接接触するように、前記Al合金膜上に成膜されて」いる点に相当する。

(2)引用発明の「Al合金膜16aは、ニッケル(Ni)を2at%添加したものであ」る点は、本件補正発明の「Al合金膜は、Ni又はCoを0.1?2原子%含有」する点に相当する。

(3)引用発明の「光反射率が高いアノード16」は「透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜16bが、Al合金膜16aと直接接するようにAl合金膜16a上に成膜され」たものであり、「Al合金膜16aの波長550nmの反射率が90%程度である」から、引用発明の「光反射率が高いアノード16」は波長550nmの反射率が86.7%以上であるといえる。
そうすると、引用発明の「Al合金膜16aの波長550nmの反射率が90%程度である」点は、本件補正発明の「反射アノード電極の波長550nmの反射率が86.7%以上である」点に相当する。

(4)引用発明の「有機EL素子を有する有機電界発光型表示装置」及び「光反射率が高いアノード16」は、本件補正発明の「有機ELディスプレイ」及び「反射アノード電極」に相当するから、引用発明の「有機EL素子を有する有機電界発光型表示装置の光反射率が高いアノード16」は、本件補正発明の「有機ELディスプレイ用の反射アノード電極」に相当する。

上記(1)?(4)の点から、本件補正発明と引用発明は、
「酸化物導電膜が、Al合金膜と直接接触するように、前記Al合金膜上に成膜されており、
前記Al合金膜は、Ni又はCoを0.1?2原子%含有し、
反射アノード電極の波長550nmの反射率が86.7%以上である
有機ELディスプレイ用の反射アノード電極。」
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
Al合金膜が、本件補正発明は、Al合金膜の成膜後であって前記酸化物導電膜の成膜前に、真空または不活性ガス雰囲気下、150℃以上の温度で熱処理されたものであるのに対し、引用発明は、熱処理されたものであるか否か特定されていない点。

6 当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
Al合金膜と酸化物導電膜との接触抵抗を低くするために、Niをわずかに含有するAl合金膜を形成した後、酸化物導電膜をAl合金膜と直接接触するように成膜するに際し、当該Al合金膜を150℃以上の温度で熱処理することは、本願優先日前の周知技術(特開2006-215279号公報の【0023】、【0030】、【0033】、図1及び図3、特開2004-214606号公報の【0047】?【0049】、【0052】、図11及び図12、特開2008-122941号公報の【0033】?【0036】、図3及び図4参照。)である。
そして、引用例には、「AlにNiが添加されているAl合金膜へITO膜を積層したときのコンタクト抵抗」を「低減」(【0034】)させることが記載されているから、引用発明において、Al合金膜と透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜との接触抵抗を低くするために、Al合金膜の成膜後であって透光性導電酸化膜であるアモルファスITO膜の成膜前に、真空または不活性ガス雰囲気下、150℃以上の温度で熱処理することは、当業者が容易になしえたことである。
また、熱処理を真空または不活性ガス雰囲気下で行うことは技術常識であるから、上記熱処理を、真空または不活性ガス雰囲気下で行うことは、格別困難なことではない。
ここで、引用発明に対し、上記熱処理を適用するに際し、「光反射率が高いアノード16」の波長550nmの反射率に変化がみられるかも知れない。
しかしながら、本件明細書には、「酸化物導電膜を積層する前にAl合金膜を熱処理することによって、優れた反射率を実現でき」、「有機発光層から放射された光を反射膜で効率よく反射できる」(【0018】)と記載されており、また、特開2008-122941号公報の実施例1及び実施例2には、Niを1原子%または2原子%含むAl-Ni合金薄膜を250℃で熱処理をすることにより、Al-Ni合金薄膜の波長550nmの反射率が上がっていることが記載されている。
したがって、これらの記載を考慮すると、引用発明において上記熱処理を適用したところで、反射率が上がることはあっても下がることはないと推測されるから、引用発明に特定されていた「反射アノード電極の波長550nmの反射率」が「86.7%」を下回ることはない。

相違点については上記のとおりであり、本件補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び上記周知技術から当業者が当然に予測できる範囲内のものと認められる。
よって、本件補正発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

7 本件補正についての補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年9月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項3に記載されたとおりのものである。(第2[理由]1参照。)

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された引用刊行物及びその記載事項、並びに引用発明は、上記第2[理由]4に記載したとおりである。

3 対比及び当審の判断
本願発明は、本件補正発明の発明特定事項から「反射アノード電極の波長550nmの反射率が86.7%以上である」点を削除したものである。
したがって、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記点を追加した本件補正発明が、上記第2[理由]6に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-01 
結審通知日 2012-10-02 
審決日 2012-10-15 
出願番号 特願2009-183741(P2009-183741)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中山 佳美  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 森林 克郎
土屋 知久
発明の名称 有機ELディスプレイ用の反射アノード電極およびその製造方法  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 菅河 忠志  
代理人 竹岡 明美  
代理人 植木 久彦  
代理人 植木 久一  

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