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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1267328
審判番号 不服2010-4755  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-04 
確定日 2012-12-12 
事件の表示 特願2000-535335「糖尿病性網膜症または眼炎症の処置におけるゲニステインのようなタンパク質チロシンインヒビターの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月16日国際公開、WO99/45920、平成14年 2月26日国内公表、特表2002-506028〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1999年3月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1998年3月13日(US)米国、1998年3月13日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年10月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月4日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1?26に係る発明は、平成21年9月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?26に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】 糖尿病性網膜症の動物を予防的または治療的に処置するための医薬であって、該糖尿病性網膜症の動物を予防的または治療的に処置するのに十分な量のタンパク質チロシンキナーゼ経路のインヒビターを有効成分として含み、該タンパク質チロシンキナーゼ経路のインヒビターが、式
【化1】

〔ここでV、WおよびXは、ヒドロ、アルコキシ、ヒドロキシル、ハロ、カルボン酸基、カルボン酸基の薬学的に許容し得る塩、および-SR(ここでRは水素またはアルキル基である)からなる群より選択され、Yは、酸素、硫黄、C(OH)、およびC=Oからなる群より選択され、Zは、ヒドロおよびC(O)OR_(1)(ここでR_(1)はアルキルである)からなる群より選択される。〕の化合物、あるいはそのタンパク質チロシンキナーゼを阻害するプロドラッグまたは薬学的に許容し得る塩である、医薬。」


3.引用例に記載された事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、Investigative ophthalmology & visual science,1997,Vol.38, No.6,p.1193-202(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用例1は英語で記載されているので、訳文で示す。)

(ア)「天然に存在するタンパク質チロシンキナーゼ阻害剤であるゲニステインは、血管内皮細胞やガン細胞の増殖を阻害し、その結果、血管新生阻害と抗ガン作用を示すことがわかっている。^(18-24)」(1194ページ左欄9?13行)

(イ)「18.・・・J Biol Chem.1987;262:5592-5595
19.・・・J Nutr.1995;125:790S-797S
20.・・・Proc Natl Acad Sci USA.1993;90:2690-2694
21.・・・J Nutr.1995;125:713S-716S
22.・・・ARVO Abstracts.Invest Ophthalmol Vis Sci.1991;32:S834
23.・・・Biochem Pharmacol.1994;48:809-818
24.・・・J Cell Biochem.1995;59:123-132」(1201ページ右欄5?29行)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特表平8-503450号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ウ)「チロシンキナーゼ依存性疾患には、異常なチロシンキナーゼ酵素活性により開始され、そして/または維持されるような増殖亢進性の疾患が包含される。従ってチロシンキナーゼの阻害剤は種々のガン、アテローム性動脈硬化症、血管生成(腫瘍生育/転移、糖尿病性網膜症等)、ウィルス性疾患(HIV感染等)等のような異常な細胞増殖による疾患に対抗する有益な治療作用を有することができる。」(36ページ最下行?37ページ5行)

(2)引用例1の記載事項(ア)?(イ)によれば、引用例1には、タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤であるゲニステインは、血管内皮細胞やガン細胞の増殖を阻害し、その結果、血管新生阻害や抗ガン作用を示すことがわかっていることが、従来の複数の学術文献を引用して記載されているから、引用例1には、タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤であるゲニステインが血管新生阻害や抗ガン作用を示す化合物として記載されているといえる。ここで、血管新生阻害や抗ガン作用を示す化合物を、それらに罹患した動物を予防的または治療的に処置するための医薬の有効成分となし得ることは、当業者に明らかであり、また、医薬の有効成分を、その医薬の適用対象となる動物を予防的または治療的に処置するのに十分な量含むものとすることも、当業者に明らかである。
してみると、引用例1には、血管新生やガンの動物を予防的または治療的に処置するための医薬であって、該血管新生やガンの動物を予防的または治療的に処置するのに十分な量のタンパク質チロシンキナーゼ阻害剤を有効成分として含み、該タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤が、ゲニステインである、医薬の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。


4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
まず、本願発明にいう「タンパク質チロシンキナーゼ経路のインヒビター」が引用発明にいう「タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤」と同義であることは明らかである。また、本願発明における上記式の化合物は、本願明細書の【0019】の記載によれば、その好ましいものとしてゲニステインを含むものであるとされている。また、糖尿病性網膜症も、血管新生やガンも、動物の病気であることに変わりはない。
そうすると、両者は、
「病気の動物を予防的または治療的に処置するための医薬であって、該病気の動物を予防的または治療的に処置するのに十分な量のタンパク質チロシンキナーゼ経路のインヒビターを有効成分として含み、該タンパク質チロシンキナーゼ経路のインヒビターが、ゲニステインである、医薬。」
である点で一致し、ただ、上記病気が、引用発明では「血管新生やガン」であるのに対し、本願発明では「糖尿病性網膜症」である点(以下「相違点」という。)で両者は相違する。


5.当審の判断
上記相違点について検討する。
引用例2の記載事項(ウ)によれば、引用例2には、チロシンキナーゼ依存性疾患には、異常なチロシンキナーゼ酵素活性により開始され、そして/または維持されるような増殖亢進性の疾患が包含され、チロシンキナーゼの阻害剤は種々のガン、糖尿病性網膜症等の血管生成のような異常な細胞増殖による疾患に対抗する有益な治療作用を有する、という知見が記載されている。
そうすると、同じくチロシンキナーゼの阻害剤であって、ガンや血管新生の治療に有用とされる引用発明の医薬を、糖尿病性網膜症の予防や治療に転用することに、当業者が格別の創意を要したものとはいえない。

また本願明細書の記載を検討しても、本願発明が引用例1及び2の記載から当業者が予測し得ない優れた効果を奏し得たものともいえない。

なお、審判請求人は、平成22年6月17日付け手続補正書により補正された審判請求書において、「重要なことには、引用文献2(審決注:本審決における引用例2に相当する。)および3は、糖尿病性網膜症の処置の可能性にほんのわずかでさえ関連するいかなるデータも完全に欠いています。」ということを理由に、本願発明は進歩性を有する旨主張するが、引用例2の記載事項(ウ)は、薬理試験などのデータを含まないものであるとしても、チロシンキナーゼの阻害剤が糖尿病性網膜症に対抗する有益な治療作用を有することを当業者に示唆する記載としては十分なものであるというべきであるから、審判請求人の上記主張は採用できない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-11 
結審通知日 2012-07-17 
審決日 2012-07-31 
出願番号 特願2000-535335(P2000-535335)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 景輔  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 天野 貴子
穴吹 智子
発明の名称 糖尿病性網膜症または眼炎症の処置におけるゲニステインのようなタンパク質チロシンインヒビターの使用  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 土井 京子  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 山本 健二  
代理人 高島 一  
代理人 村田 美由紀  

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