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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01L
管理番号 1267725
審判番号 不服2011-10281  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-17 
確定日 2012-12-19 
事件の表示 特願2006-554050「内燃エンジン用排気バルブ機構」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 1日国際公開、WO2005/080773、平成19年 8月16日国内公表、特表2007-523289〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本件出願は、2005年2月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年2月23日、スウェーデン)を国際出願日とする出願であって、平成18年8月18日付けで特許法第184条の5第1項に規定する書面が提出されるとともに特許法第184条の4第1項の規定による明細書、請求の範囲、図面及び要約の翻訳文が提出されるとともに、同日付けで特許協力条約第34条補正の翻訳文が提出され、平成22年4月30日付けで拒絶理由が通知され、平成22年8月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成22年9月10日付けで拒絶理由が通知され、平成22年12月10日付けで意見書が提出されたが、平成23年1月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年5月17日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に、同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成23年12月5日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成24年5月1日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成23年5月17日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年5月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

平成23年5月17日付けで提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、平成22年8月10日付けで提出された手続補正書により補正された)請求項1ないし3を、下記(2)に示す請求項1及び2へと補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲

「 【請求項1】
各エンジンシリンダーが少なくとも一つの排気バルブを持つ内燃エンジン(11)用の排気バルブ機構であって、前記機構(10)は、各シリンダーに設けられ、各ロッカーアームのカム要素(15,32)を持つカムシャフト(16)の調整による排気バルブの通常の作動を行うためのロッカーアームシャフト(13)上に設けられている主ロッカーアーム(12)と、前記主ロッカーアーム上に配置され、排気ブレーキを機能させるためのロッカーアームシャフトに設けられる第2ロッカーアーム(29)であって、排気ブレーキ機能は両方のロッカーアームの間で作動するピストンシリンダー(19-21)に油圧を供給することにより作動し、カムシャフトのカム要素(32)のうちの一つを作動させることにより実行されるようにした第2ロッカーアームを有し、
前記第2ロッカーアームがばね力によりカムシャフト(16)のカム要素(32)と係合するように、ばね装置(33;35)がエンジン上の固定点(34)と第2ロッカーアーム(29)との間で作動するように配置され、
前記ばね装置(33;35)は、第2ロッカーアーム(29)に対して、そのロッカーアームシャフト(13)とそのカム要素(32)との接触部位との間にある点において作用することを特徴とする排気バルブ機構。
【請求項2】
前記ばね装置(33;35)は、第2ロッカーアーム(29)に対して、そのロッカーアームシャフト(13)とそのカム要素(32)との接触部位との間の実質的に中間点において作用することを特徴とする請求項1に記載の排気バルブ機構。
【請求項3】
前記カム要素(32)との接触点部位はカムフォロワーローラ(31)から成ることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の排気バルブ機構。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲

「 【請求項1】
各エンジンシリンダーが少なくとも一つの排気バルブを持つ内燃エンジン(11)用の排気バルブ機構であって、前記機構(10)は、各シリンダーに設けられ、各ロッカーアームのカム要素(15,32)を持つカムシャフト(16)の調整による排気バルブの通常の作動を行うためのロッカーアームシャフト(13)上に設けられている主ロッカーアーム(12)と、前記主ロッカーアーム上に配置され、排気ブレーキを機能させるためのロッカーアームシャフトに設けられる第2ロッカーアーム(29)であって、排気ブレーキ機能は両方のロッカーアームの間で作動する二重作動ピストンシリンダー(19-21)に油圧を供給することにより作動し、カムシャフトのカム要素(32)のうちの一つを作動させることにより実行されるようにした第2ロッカーアームを有し、
前記第2ロッカーアームがばね力によりカムシャフト(16)のカム要素(32)と係合するように、ばね装置(33;35)がエンジン上の固定点(34)と第2ロッカーアーム(29)との間で作動するように配置され、
前記ばね装置(33;35)は、第2ロッカーアーム(29)に対して、そのロッカーアームシャフト(13)とそのカム要素(32)との接触部位との間の実質的に中間点において作用することを特徴とする排気バルブ機構。
【請求項2】
前記カム要素(32)との接触点部位はカムフォロワーローラ(31)から成ることを
特徴とする請求項1に記載の排気バルブ機構。」
(なお、下線は本件補正箇所を示すために、本件審判請求人が付したものである。)

2.本件補正の適否(本件補正の目的要件について)

特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1における「ピストンシリンダー」を「二重作動ピストンシリンダー」と限定するとともに、本件補正前の請求項1における「そのロッカーアームシャフト(13)とそのカム要素(32)との接触部位との間にある点において作用する」について、補正前の請求項2に記載された発明特定事項に基づき「そのロッカーアームシャフト(13)とそのカム要素(32)との接触部位との間の実質的に中間点において作用する」と限定する補正である。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。

3.本件補正の適否(本願補正発明の独立特許要件について)

上記2.のとおり、本件補正は「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正であるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(1)本願補正発明の認定

本願補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記1.(2)の【請求項1】に記載されたとおりのものと認める。

(2)刊行物に記載された発明

A.引用文献に記載された事項

本件出願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である国際公開第03/031778号(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。

なお、以下に記載する当審仮訳については、特表2005-504910号公報に記載された事項を参考にしたものであるし、下線については、発明の理解の一助として当審において付したものである。

(A)「1.Exhaust valve mechanism in an internal combustion engine, comprising at least one exhaust valve (14) in each cylinder, a rocker arm shaft (3) -mounted rocker arm (2) for each cylinder for operating the exhaust valve, a cam shaft (6) with a cam element (5) for each rocker arm, said cam element cooperating with motion transmitting means (4) at one end of the rocker arm, a first piston-cylinder device (8) disposed between an opposite end of the rocker arm and the exhaust valve,said first piston-cylinder device (8) having a first cylinder chamber (9) in said opposite rocker arm end, a hydraulic circuit (20) for supply- ing and draining off pressure fluid to and from said cylinder chamber, and a piston (10) disposed in said cylinder chamber, said piston (10) being biased towards the exhaust valve when pressure fluid is supplied to the cylinder chamber, characterized in that the rocker arm (2) is provided with a second piston-cylinder device (40) on the same side of the rocker arm shaft as the first piston-cylinder device (8), said second piston-cylinder device (40) having a second cylinder chamber (41) communicating with the first cylinder chamber and housing a second piston (42) which, upon supply of pressure fluid to the second cylinder chamber,is biased in a direction from the exhaust valve, and that a second rocker arm (46) mounted on a rocker arm shaft has an end (53) acting against the second piston and an opposite end with motion-transmitting means (49), which cooperate with a cam element (50) on a cam shaft (6).

2. Valve mechanism according to claim 1, characterized in that the second rocker arm (46) is mounted laterally in relation to and on the same rocker arm shaft (3) as the first mentioned rocker arm (2).

3. Valve mechanism according to claim 2 or 3, characterized in that the motion- transmitting means of the second rocker arm is a cam follower (49), which cooperates with a cam element (50) laterally spaced from and on the same cam shaft (6) as the cam element (5) of the first-mentioned cam shaft.

4. Valve mechanism according to one of claims 1-3, characterized in that the second cylinder chamber (4) is disposed at a smaller distance from the rocker arm shaft (3) than the first cylinder chamber (9).

5. Valve mechanism according to one of claims 1-4, characterized in that the second piston-cylinder device (40) is displaced in the rocker arm axial direction in relation to the first piston-cylinder device (8).

6. Valve mechanism according to claim 4 or 5, characterized in that the first rocker arm (2) has a leverage ratio on the order of 1:1.4-1.6, while the second rocker arm (46) has a leverage ratio on the order of 1:1.7-1.1.

7. Valve mechanism according to one of claims 1-6, characterized in that the first rocker arm (2) is mounted on the rocker arm shaft (3) via a bushing (18) non-rotatably joined to the first rocker arm, and having a portion (47) extending in a direction towards the second rocker arm, the second rocker arm (46) being journalled on said portion (47).

8. Valve mechanism according to one of claims 1-7, characterized in that the first piston-cylinder device (8) is formed of a valve play-take up device which is known per se, that said hydraulic circuit (20) is a pressure fluid circuit for supp-lying lubricant to the rocker arm shaft and that in a return circuit (19), valve means (20) arranged for excess lubricant, can be set to block the return flow in order to,through elevated pressure in the first piston-cylinder device, bias the first piston (9) towards the exhaust valve (14).」(請求項1ないし8)
(当審仮訳)
「【請求項1】
内燃機関の排気弁機構であって、
各シリンダー内の少なくとも一つの排気弁(14)、
排気弁を動作させるための、各シリンダー用のロッカーアーム軸(3)に取りつけられたロッカーアーム(2)、
各ロッカーアーム用のカム要素(5)を有し、該カム要素が前記ロッカーアームの一端の運動伝達手段(4)と協働するカム軸(6)、
前記ロッカーアームの反対端と排気弁との間に配置され、該ロッカーアーム反対端内に第一のシリンダー室(9)を有する第一のピストン-シリンダー装置(8)、
圧力流体を、前記シリンダー室に供給し、また該シリンダー室から流出させる油圧回路(20)、
前記シリンダー室内に配置され、圧力流体が該シリンダー室に供給されたとき、排気弁に向って偏倚させられるピストン(10)、
を有する排気弁機構であって、
ロッカーアーム(2)が、前記ロッカーアーム軸の、第一のピストン-シリンダー装置(8)があるのと同じ側に、第二のピストン-シリンダー装置(40)を有し、
該第二のピストン-シリンダー装置(40)が、前記第一のシリンダー室と連絡している第二のシリンダー室(41)を有し、かつ該第二のシリンダー室に圧力流体が供給されたときに排気弁から離れる向きに偏倚させられる第二のピストン(42)を収容しており、
ロッカーアーム軸に取りつけられた第二のロッカーアーム(46)が、前記第二のピストンに対して作用する端(53)と、カム軸(6)上のカム要素(50)と協働する運動伝達手段(49)を有する反対端とを有する、
ことを特徴とする排気弁機構。
【請求項2】
第二のロッカーアーム(46)が、前記第一のロッカーアーム(2)の横に、該アームと同じロッカーアーム軸(3)上に取りつけられていることを特徴とする請求項1に記載の排気弁機構。
【請求項3】
前記第二のロッカーアームの前記運動伝達手段がカム従節(49)であって、該従節が、前記カム軸のカム要素(5)の横に間隔をとって配置され、該カム要素と同じカム軸(6)上に取りつけられたカム要素(50)と協働することを特徴とする請求項2または3に記載の弁機構。
【請求項4】
第二のシリンダー室(4)が、ロッカーアーム軸(3)から、第一のシリンダー室(9)よりも小さな距離に配置されていることを特徴とする請求項1から3の中のいずれか1つに記載の弁機構。
【請求項5】
第二のピストン-シリンダー装置(40)が、第一のロッカーアーム(2)内に、第一のピストン-シリンダー装置(8)に対して軸方向に、配置されていることを特徴とする請求項1から4の中のいずれか1つに記載の弁機構。
【請求項6】
第一のロッカーアーム(2)が大体1:1.4?1.6のてこ比を有し、第二のロッカーアーム(46)が大体1:1.7?1.1のてこ比を有することを特徴とする請求項4または5に記載の弁機構。
【請求項7】
第一のロッカーアーム(2)が、該アームに回転できないように取りつけられたブッシュ(18)によってロッカーアーム軸(3)上に取りつけられ、また第二のロッカーアームに向う方向に延びる部分(47)を有し、第二のロッカーアーム(46)が前記部分(47)にジャーナル軸受けを介して連結されていることを特徴とする請求項1から6の中のいずれか1つに記載の弁機構。
【請求項8】
前記第一のピストン-シリンダー装置(8)が、それ自体は公知の弁遊び吸収装置から成り、前記油圧回路(20)が、前記ロッカーアーム軸に潤滑剤を供給する圧力流体回路であり、また、戻り回路(19)内に過剰な潤滑剤のために配置された弁手段(20)を戻り流を阻止するように調節して、第一のピストン-シリンダー装置内の上昇圧力により、第一のピストン(9)を排気弁(14)に向って偏倚させることができるようにすることを特徴とする請求項1から7の中のいずれか1つに記載の弁機構。」

(B)「The invention is based on the idea of using two separate rocker arms, one for exhaust valve lifting during regular driving mode and one for exhaust valve lifting in braking mode.The regular exhaust rocker arm can have a normal lever ratio on the order of 1:1,4- 1,6 and need only be dimensioned for the forces occurring during driving mode.The exhaust valve rocker arm for braking mode transmits the valve movement from a separate cam element, whereby the extra cam lobes on the cam elements for regular drive mode can be eliminated.The rocker arm for braking mode acts on the second piston which functions as a pump piston and pumps fluid to the first cylinder chamber.The pressure in the first cylinder chamber presses the first piston towards the exhaust valve.The valve movement during braking mode is thus transmitted partially hydraulically.The second exhaust rocker arm can have another lever ratio than the first exhaust rocker arm, e.g.1: 0, 7-1, 1, which reduces the forces and the contact pressure in the mechanism.The cam element cooperating with the second rocker arm can have a greater base diameter than the cam element of the first rocker arm, which reduces the contact pressure and/or offers more rapid upward or downward movement.」(本文第3ページ第6ないし20行)
(当審仮訳)
「(【0008】)本発明は、二つの独立のロッカーアームを使用し、一つを通常の駆動モード時の排気弁リフトのために使用し、もう一つを制動モード時の排気弁リフトに使用する、という着想にもとづく。通常の排気ロッカーアームは大体1:1.4?1.6の普通のてこ比を有することができ、駆動モード時に発生する力にのみ合わせて寸法決めすればよい。制動モードのための排気弁ロッカーアームは、独立のカム要素から弁運動を伝達し、したがって、通常の駆動モードのためのカム要素上の追加のカムローブは取り去ることができる。制動モードのためのロッカーアームは、ポンプピストンとして作用して第一のシリンダー室に流体を送る第二のピストンに作用する。第一のシリンダー室内の圧力により、第一のピストンが排気弁の方向に押される。したがって、制動モード時の弁運動が一部油圧により伝達される。第二の排気ロッカーアームは第一の排気ロッカーアームのものとは異なるてこ比たとえば1:0.7?1.1を有することができ、それによって、弁機構における力と接触圧力とが低下する。第二のロッカーアームと協働するカム要素は第一のロッカーアームのカム要素のものよりも大きな基礎円直径(base diameter)を有することができ、したがって、接触圧力が減少し、かつ/またはより迅速な上方または下方運動が与えられる。」

(C)「A second exhaust rocker arm 46 is mounted on a laterally extending portion 47 of the bearing bushing 18 non-rotatably joined to the first exhaust rocker arm 2 (see Figs. 3 and 4).」(本文第6ページ第11ないし13行)
(当審仮訳)
「第二の排気ロッカーアーム46が、第一の排気ロッカーアーム2に回転できないように取りつけられた軸受けブッシュ18の横方向に延びる部分47(図3、4参照)に取りつけてある。」

(D)「In normal drive mode operation, the valve 21 is open and the pistons 10 and 42 lie in their end positions shown in Figs.1 and 2.The transition to braking mode is effected by closing the valve 21 so that the pressure is built up in the hydraulic circuit 20.The piston 10 is thereby displaced downwards to adjust the valve play to zero at the same time as the piston 42 is displaced upwards to an upper end position abutting against the lock ring 44.The brake cam element 50 can be provided with, for example, one or two (not shown) cam lobes with the top radiusdshown in Fig. 2, either only one for opening the exhaust valve 14 at the end of the compression stroke (the decompression) or one for opening the exhaust valve 14 at the last portion of the intake stroke (the charging) and one for opening the exhaust valve 14 at the end of the compression stroke (the decompression).During the angular interval, when first the first and then the second of these brake cam lobes strikes the cam follower roller 49 of the rocker arm 46 and the rocker arm 46 thereby presses against the piston 42 so that oil is pumped into the cylinder chamber 9 behind the piston 10 to press it down and open the exhaust valve, the cam follower roller 4 of the regular exhaust rocker arm 2 lies on the base circleaof the cam element 5.By virtue of the above described difference in the leverage of the two rocker arms 2 and 46, there will be a limited reactive torque in the regular rocker arm 2, which is continually taken up by its cam follower roller 4 on the base circleaof the cam element 5 during charging and decompression.The regular exhaust rocker arm 2 thus does not move on its own during the charging and decompression, which is advantageous for the bearing bushing 18 since it cannot be subjected to load on one edge.The design results in the two rocker arms 2 and 46 together taking up the loads during the charging and decompression sequence, even if the extra exhaust valve rocker arm 46, for brake mode operation, has to absorb the major part of the load and perform the work of opening the exhaust valves.」(本文第7ページ第7ないし30行)
(当審仮訳)
「(【0017】)通常の駆動モード動作の場合、図1と2に示すように、弁21は開き、ピストン10と42はその端位置にある。制動モードへの移行は、弁21を閉じて、油圧回路20内に圧力が蓄積されるようにすることによってなされる。このとき、ピストン10は下方に変位して、弁遊びを調節してゼロとなるようにし、同時に、ピストン42は上方に変位して固定リング44に接する上部端位置に達する。ブレーキカム要素50は、たとえば、図2に示す最大直径“d”の一つまたは二つのカムローブ(図示せず)を備えることができ、このとき、一つだけのものを、圧縮ストロークの終わりにおける排気弁14の開放(減圧)のために備えることができ、あるいは、一つを吸気ストロークの最後の部分における排気弁14の開放(充填)のため、また一つを圧縮ストロークの終わりにおける排気弁14の開放(減圧)のために備えることができる。まず第一の、次に第二のブレーキカムローブがロッカーアーム46のカム従節ローラー49にぶつかって、それによりロッカーアーム46がピストン42を押し、油がピストン10の背後のシリンダー室9内に送られて、該ピストンを押し下げ、それによって排気弁を開放する角度範囲においては、通常の排気ロッカーアーム2のカム従節ローラー4はカム要素5の基礎円“a”上にある。二つのロッカーアーム2と46の前記のようなてこ比の違いにより、通常のロッカーアーム2には限られた反作用トルクが生じ、該トルクは、充填および減圧中に、カム要素5の基礎円“a”上のロッカーアーム2のカム従節ローラー4によって連続的に吸収される。したがって、通常の排気ロッカーアーム2そのものは充填および減圧中に動かず、これは軸受けブッシュ18にとって有利である。該ブッシュがその一端に荷重を受けることがないからである。この構造の場合、二つのロッカーアーム2と46が協働して充填および減圧過程中に荷重を吸収する。これは、追加の排気弁ロッカーアーム46が、制動モード動作のために、荷重の主要部分を吸収して排気弁開放の作業を実行しなければならない場合でも、そうである。」

(E)「Fig.1 shows a side view of one embodiment of an exhaust valve mechanism according to the invention with a longitudinal section through the exhaust valve rocker arm for regular valve lifting during driving mode but without the rocker arm for braking mode, Fig.2 shows a side view, mirror reversed in relation to Fig.1, of the valve mechanism according to the invention with the rocker arm for braking mode and with the rocker arm for regular valve lift partially in section, Fig.3 shows a section through the rocker arm in Fig.1 along the line III-III, Fig. 4 shows a section through the rocker arm in Fig. 1 along the line IV-IV」(本文第3ページ第29行ないし第4ページ第6行)
(当審仮訳)
「図1は、本発明による排気弁機構の一つの実施形態の側面図である。この図には、駆動モード時の通常の弁リフトのための排気弁ロッカーアームを通る縦断面を示すが、制動モードのためのロッカーアームは示さない。
図2は、図1とは反対の側から見た、本発明の弁機構の側面図である。この図には、制動モードのためのロッカーアームを示し、また通常の弁リフトのためのロッカーアームを部分断面図として示す。
図3は、図1の線III-IIIに沿うロッカーアームの断面図である。
図4は、図1の線IV-IVに沿うロッカーアームの断面図である。」

B.上記A.の記載及び図面の記載から分かること

(F)排気バルブ機構が、各シリンダーに設けられるものであることが分かる。

(G)第一のロッカーアーム(2)が、カム軸(6)の調整による排気バルブの通常の作動を行うためのロッカーアーム軸(3)上に設けられているものであることが分かる。

(H)第二のロッカーアーム(46)が、第一のロッカーアーム上に配置され、制動モードを機能させるためのロッカーアームシャフトに設けられることが分かる。

(I)制動モードは、両方のロッカーアームの間で作動する二重作動ピストンシリンダーに油圧を供給することにより作動し、カム軸(6)のカム要素(50)のうちの一つを作動させることにより実行されるようにした第二のロッカーアーム(46)を有するものであることが分かる。

(J)図面の特に図2の記載及び上記A.の記載から、第二のロッカーアーム(46)が、カム軸(6)のカム要素(50)と係合するように配置されることが分かる。

(K)図面の特に図2の記載及び上記A.の記載から、第二のロッカーアーム(46)が、ロッカーアーム軸(3)に対応する部位と、カム要素(50)との接触部位とを有することが分かる。

C.引用発明

上記A.及びB.の記載並びに図面の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「各シリンダーが少なくとも一つの排気弁(14)を持つ内燃機関用の排気弁機構であって、前記機構は、各シリンダーに設けられ、各ロッカーアーム用のカム要素(5,50)を持つカム軸(6)の調整による排気バルブの通常の作動を行うためのロッカーアーム軸(3)上に設けられている第一のロッカーアーム(2)と、前記第一のロッカーアーム(2)上に配置され、制動モードを機能させるためのロッカーアームシャフトに設けられる第二のロッカーアーム(46)であって、制動モードは両方のロッカーアームの間で作動する二重作動ピストンシリンダーに油圧を供給することにより作動し、カム軸(6)のカム要素(50)のうちの一つを作動させることにより実行されるようにした第二のロッカーアーム(46)を有し、
第二のロッカーアーム(46)が、カム軸(6)のカム要素(50)と係合するよう配置され、
第二のロッカーアーム(46)が、ロッカーアーム軸(3)に対応する部位と、カム要素(50)との接触部位とを有する排気弁機構」

(3)対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「各シリンダー」は、その機能及び構造からみて、本願補正発明の「各エンジンシリンダー」に相当し、以下同様に、「排気弁(14)」は「排気バルブ」に、「内燃機関」は「内燃エンジン(11)」に、「排気弁機構」は「排気バルブ機構」に、「カム要素(5),(50)」は「カム要素(15,32)」に、「カム軸(6)」は「カムシャフト(16)」に、「ロッカーアーム軸(3)」は「ロッカーアームシャフト(13)」に、「第一のロッカーアーム(2)」は「主ロッカーアーム(12)」に、「制動モード」は「排気ブレーキ」及び「排気ブレーキ機能」に、「第二のロッカーアーム(46)」は「第2ロッカーアーム(29)」にそれぞれ相当する。

してみると、本願補正発明と引用発明とは、次の<一致点>で一致し、次の<相違点>で相違する。

<一致点>

「各エンジンシリンダーが少なくとも一つの排気バルブを持つ内燃エンジン用の排気バルブ機構であって、前記機構は、各シリンダーに設けられ、各ロッカーアームのカム要素を持つカムシャフトの調整による排気バルブの通常の作動を行うためのロッカーアームシャフト上に設けられている主ロッカーアームと、前記主ロッカーアーム上に配置され、排気ブレーキを機能させるためのロッカーアームシャフトに設けられる第2ロッカーアームであって、排気ブレーキ機能は両方のロッカーアームの間で作動する二重作動ピストンシリンダーに油圧を供給することにより作動し、カムシャフトのカム要素のうちの一つを作動させることにより実行されるようにした第2ロッカーアームを有する排気バルブ機構。」

<相違点>

本願補正発明においては、「第2ロッカーアームがばね力によりカムシャフト(16)のカム要素(32)と係合するように、ばね装置(33;35)がエンジン上の固定点(34)と第2ロッカーアーム(29)との間で作動するように配置され、ばね装置(33;35)は、第2ロッカーアーム(29)に対して、そのロッカーアームシャフト(13)とそのカム要素(32)との接触部位との間の実質的に中間点において作用する」ようにしているのに対し、引用発明においては、「第二のロッカーアーム(46)が、カム軸(6)のカム要素(50)と係合するよう配置され、第二のロッカーアーム(46)が、ロッカーアーム軸(3)に対応する部位と、カム要素(50)との接触部位とを有する」もののばね装置に関する構成を有しない点(以下、「相違点」という。)。

(4)判断

前記「(3)対比」において検討したとおり、相違点に係る引用発明の「第二のロッカーアーム(46)」は、本願補正発明の「第2ロッカーアーム(29)」に相当し、以下同様に「カム軸(6)」は「カムシャフト(16)」に、「カム要素(50)」は「カム要素(32)」に、「ロッカーアーム軸(3)」は「ロッカーアームシャフト(13)」にそれぞれ相当することから、両者は、「第2ロッカーアーム」が、「カムシャフト」の「カム要素」と係合するよう配置され、「第2ロッカーアーム」が、「ロッカーアームシャフト」に対応する部位と、「カム要素」との接触部位とを有する装置であることで技術が共通し、ばね装置の有無に係る技術的事項について実質的に相違するといえる。
しかしながら、2つのロッカーアームを備えた可変バルブ機構において、ロッカーアームをカム要素から離間しないように、ばね装置をエンジン上の固定点とロッカーアームとの間で作用するように配置し、該ばね装置がロッカーアームに対して、そのロッカーアームシャフトとそのカム要素との接触部位との間において作用するようにするものは、本願の優先日前の周知技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開2002-155719号公報の特に【0015】及び【0042】並びに図4「ロストモーションばね87」、特開2004-44449号公報の特に【0040】ないし【0042】、【0048】ないし【0053】及び図3「アームスプリング43」参照。)である。そして、引用発明に周知技術を適用するにあたり、該周知技術の「ロッカーアームシャフト」と「カム要素との接触部位」の間における「ばね装置」の作用する点を、「実質的に中間点」とすることに、当業者の格別の創意は要しないといえる。
してみると、引用発明及び周知技術に基づき、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。
また、本願補正発明を全体としてみても、その作用効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

(5)小括

したがって、本願補正発明は、上記のとおり、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび

上記3.のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について

1.本願発明

平成23年5月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年8月10日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2.[理由]1.(1)の【請求項1】に記載のとおりのものである。

2.刊行物に記載された発明

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(国際公開第03/031778号公報)の記載事項及び引用発明は、上記第2.[理由]3.(2)に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、前記第2.[理由]2.で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部を削除したものに相当する。

そうすると、本願発明を特定する事項をすべて含み、さらに本願発明を減縮したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]3.に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。


なお、請求人は、平成24年5月1日付け回答書において、本発明に係る「排気バルブ機構」に関して、「ばね装置から生まれる圧力の方向により、第2ロッカーアーム(29)に対して交互の方向に荷重が掛かる」点を明確にするために、請求項1について、「 ?(省略)? 前記ばね装置(33;35)は、第2ロッカーアーム(29)に対して、そのロッカーアームシャフト(13)とそのカム要素(32)との接触部位との間の実質的に中間点において作用し、それによってカムシャフト(16)の回転により、前記カム要素(32)を介して下側から、そして前記ばね装置(33;35)を介して反対方向に、交互に第2ロッカーアーム(29)に荷重が加えられていることを特徴とする排気バルブ機構。」 と補正する準備があるとしているが、該追加して限定する技術的事項は、引用発明及び周知技術に基づき当業者が容易に想到し得るとした装置が備える自明の技術的事項といえるから、該技術的事項を含む本願発明は、引用発明及び周知技術に基づき進歩性を有しない。また、該技術的事項を含む本願発明を全体としてみても、その作用効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
 
審理終結日 2012-07-17 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-06 
出願番号 特願2006-554050(P2006-554050)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01L)
P 1 8・ 575- Z (F01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩谷 一臣八木 誠  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 柳田 利夫
藤原 直欣
発明の名称 内燃エンジン用排気バルブ機構  
代理人 秋庭 英樹  
代理人 重信 和男  
代理人 清水 英雄  
代理人 高木 祐一  
代理人 堅田 多恵子  
代理人 溝渕 良一  

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