• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1268019
審判番号 不服2010-29470  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-28 
確定日 2012-12-28 
事件の表示 特願2004-181944「セメントあるいはコンクリート用混和材およびセメント組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月13日出願公開、特開2005-281123〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年6月21日の出願であって(優先権主張 平成16年3月5日 日本)、平成22年5月13日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年6月1日)、同年8月2日付けで意見書並びに特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正書が提出され、同年9月17日付けで拒絶査定され(発送日は同年9月28日)、同年12月28日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正書が提出されたものであり、その後、平成24年2月23日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され(発送日は同年2月28日)、同年4月23日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成22年12月28日付けの手続補正について
平成22年12月28日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は次のとおりに補正された。
「 【請求項1】
高炉水砕スラグと無水石膏とからなるものであること、および、
高炉水砕スラグのブレーン比表面積が1500から3600cm^(2)/gであり、かつ、高炉水砕スラグの90μフルイ残分が1.0%以上10%以下であること、および、
高炉水砕スラグが98?75重量%であること、および、
無水石膏が2?25重量%であること
を特徴とするセメントあるいはコンクリート用混和材。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート用混和材30?70重量%と残部ポルトランドセメントとからなるセメント組成物であること、および、前記セメント組成物中における前記ポルトランドセメントが30?47.4重量%の場合に前記高炉水砕スラグが50?60重量%であること、または、前記セメント組成物中における前記ポルトランドセメントが50?70重量%の場合に前記高炉水砕スラグが28.5?45.0重量%であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のコンクリート用混和材30?70重量%と残部ポルトランドセメントとからなり、かつ、コンクリートでの自己収縮ひずみ量が普通セメントのそれよりも小さいことを特徴とするセメント組成物。」

上記補正は、本件補正前の特許請求の範囲に記載された
「 【請求項1】
ブレーン比表面積が1500から3600cm^(2)/gであるとともに90μフルイ残分が1.0%以上10%以下である高炉水砕スラグ98?75重量%と、無水石膏2?25重量%とからなることを特徴とするセメントあるいはコンクリート用混和材。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート用混和材30?70重量%と残部ポルトランドセメントとからなるセメント組成物であること、および、前記セメント組成物中における前記ポルトランドセメントが30?47.4重量%の場合に前記高炉水砕スラグが50?60重量%であること、または、前記セメント組成物中における前記ポルトランドセメントが50?70重量%の場合に前記高炉水砕スラグが28.5?45.0重量%であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のコンクリート用混和材30?70重量%と残部ポルトランドセメントとからなり、かつ、コンクリートでの自己収縮ひずみ量が普通セメントのそれよりも小さいことを特徴とするセメント組成物。」
における請求項1に関し、本件補正前では、一体として記載されていた高炉水砕スラグのブレーン比表面積、90μフルイ残分及び組成成分量を抜き出して別途記載しただけのものであって、実質的な変更は認められないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号乃至同第4号に規定する補正要件の検討を行うことなく本件補正を認容する。

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「 高炉水砕スラグと無水石膏とからなるものであること、および、
高炉水砕スラグのブレーン比表面積が1500から3600cm^(2)/gであり、かつ、高炉水砕スラグの90μフルイ残分が1.0%以上10%以下であること、および、
高炉水砕スラグが98?75重量%であること、および、
無水石膏が2?25重量%であること
を特徴とするセメントあるいはコンクリート用混和材。」

第4 引用刊行物
(1)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-357146号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「一般に、高炉セメントの水和特性は、混合材として用いる水砕スラグ粉のブレーン比表面積と密接な関係がある。そして、高炉セメントを結合材として用いたセメント硬化体においては、ブレーン比表面積の大きい水砕スラグ粉を配合した高炉セメントを用いたもの程、強度特性がよいとされ、粉砕技術の進歩により、従来のブレーン比表面積3000?5000cm^(2)/g程度の水砕スラグ粉を用いた高炉セメントの改良品として、ブレーン比表面積6000cm^(2)/g以上の水砕スラグ粉を用いたものが提案されている。
ところが、本発明者が、各種の高炉セメントを結合材として用いたセメント組成物から種々の成形方法によってセメント硬化体の製造を試みたところ、遠心成形やプレス成形によって製造する場合には、ブレーン比表面積3000cm^(2)/g以上の水砕スラグ粉を配合した高炉セメントを用いると、十分な長期強度を発現しないことが判った。そして、その原因について研究を行った結果、ブレーン比表面積の大きい水砕スラグ粉を配合した高炉セメントを用いたセメント硬化体は嵩比重が小さく、これが強度特性に悪影響を及ぼしていると推測するに至った。」(段落【0003】?【0004】)
(イ)「水砕スラグ粉は、高炉で銑鉄を製造する際に発生する溶融状態の高炉スラグを水で急冷した後に脱水して製造される水砕スラグを粉砕して得られるものであり、ブレーン比表面積3000cm^(2)/g以上のものは、高炉セメントの混和材等の水硬性材料として広く用いられているが、それ未満のものは、水硬性が低く、水硬性材料としては適さないとされている。本発明では、ブレーン比表面積1000?2960cm^(2)/gの水砕スラグ粉にセメントクリンカ粉及び石膏を配合した高炉セメントを結合材として用いる。セメントクリンカとしては、普通タイプ、早強タイプ、超早強タイプ、中庸熱タイプ、白色タイプ等の各種クリンカを使用できる。また、石膏としては、二水石膏、無水石膏等を使用できる。本発明で結合材として使用する高炉セメントの水砕スラグ粉含有量は5?90重量%、セメントクリンカ粉含有量は5?90重量%、石膏含有量は1?10重量%であり、セメントクリンカ粉と水砕スラグ粉の含有量の合計は70?99重量%である。」(段落【0008】)
(ウ)「【発明の効果】本発明によれば、嵩比重が大きく、強度の高いセメント硬化体を効率よく製造できる。」(段落【0016】)

(2)引用発明の認定
刊行物1には、記載事項(イ)に「ブレーン比表面積1000?2960cm^(2)/gの水砕スラグ粉にセメントクリンカ粉及び石膏を配合した高炉セメント」及び「石膏としては、二水石膏、無水石膏等を使用できる。本発明で結合材として使用する高炉セメントの水砕スラグ粉含有量は5?90重量%、セメントクリンカ粉含有量は5?90重量%、石膏含有量は1?10重量%であり、セメントクリンカ粉と水砕スラグ粉の含有量の合計は70?99重量%である。」ことが記載されている。
本願の請求項3のように、セメント組成物においてセメントクリンカ粉以外を混和材と分類することができるから、石膏を無水石膏に特定した場合で水砕スラグ粉については、無水石膏の最大は10重量%の場合で水砕スラグ粉5重量%、無水石膏の最小は1重量%の場合で水砕スラグ粉90重量%となるから、セメントクリンカ粉を除いた後の混和材としての重量%を換算すれば、水砕スラグ粉は、最小で5/15重量%,最大で90/91重量%即ち33.3?98.9重量%、無水石膏は、最小で1/91重量%,最大で10/15重量%即ち1.1?66.7重量%である。
これらの記載を本願発明の記載振りに則って整理すると、刊行物1には、
「ブレーン比表面積1000?2960cm^(2)/gの水砕スラグ粉33.3?98.9重量%に無水石膏1.1?66.7重量%を配合したセメント用混和材。」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比、判断
本願発明と刊行1発明とを対比すると、刊行1発明の「セメント用混和材」は、(2)に記載したようにセメント組成物においてセメントクリンカ粉以外のものであるから、「高炉水砕スラグと無水石膏とからなるもの」であり、刊行1発明の「水砕スラグ粉」は、記載事項(イ)に「水砕スラグ粉は、高炉で銑鉄を製造する際に発生する溶融状態の高炉スラグを水で急冷した後に脱水して製造される水砕スラグを粉砕して得られるものであり」とされるから、本願発明の「高炉水砕スラグ」に相当することは明らかである。そして、刊行1発明の「ブレーン比表面積1000?2960cm^(2)/g」は、本願発明の「減ブレーン比表面積が1500から3600cm^(2)/g」と「ブレーン比表面積が1500?2960cm^(2)/g」である点において共通する。また、刊行1発明において「水砕スラグ粉33.3?98.9重量%」であることは、本願発明の「高炉水砕スラグが98?75重量%であること」と「高炉水砕スラグが98?75重量%であること」で共通することも明らかであり、さらに、刊行1発明において「無水石膏1.1?66.7重量%」であることは、本願発明の「無水石膏が2?25重量%であること」ことと「無水石膏が2?25重量%であること」で共通することも明らかである。

してみると、両者は、
「高炉水砕スラグと無水石膏とからなるものであること、および、
高炉水砕スラグのブレーン比表面積が1500から2960cm^(2)/gであり、かつ、
高炉水砕スラグが98?75重量%であること、および、
無水石膏が2?25重量%である、
セメント用混和材。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点a:本願発明は、「高炉水砕スラグの90μフルイ残分が1.0%以上10%以下である」のに対し、刊行1発明は、高炉水砕スラグの「フルイ残分」について特定がない点

相違点aについて検討する。
本願発明における「高炉水砕スラグの90μフルイ残分が1.0%以上10%以下である」ことの技術的意義は、本願の明細書には、何ら記載されておらず、単に「【0012】
以下に実施例、比較例を記載するが、実施例、比較例に用いたコンクリートの材料は次の通りである。
普通ポルトランドセメント 記号 N 比表面積3200cm^(2)/g 密度3.14 太平洋社製
高炉セメントB種 記号 BB 比表面積3760cm^(2)/g密度3.07第一セメント社製
低熱ポルトランドセメント 記号 L 比表面積3400cm^(2)/g 密度3.22 太平洋社製
高炉スラグ 記号 BS15 比表面積1530cm^(2)/g 密度2.92 90μフルイ残分9.2%
記号 BS28 比表面積2800cm^(2)/g 密度2.92 90μフルイ残分3.1%
記号 BS39 比表面積3870cm^(2)g 密度2.92 90μフルイ残分0.3%
天然無水石膏 記号 AG 比表面積 4320cm^(2)/g 密度2.91
細骨材 記号 S 密度2.59 鬼怒川産川砂
粗骨材 記号 G 密度2.64 最大寸法20mm 葛生産砕石
AE減水剤 記号 AE リグニン系 ポゾリスNo.70
水 記号 W 水道水」においてBS15、BS28、BS39の3種類高炉スラグにおいて本願発明の数値範囲内である比表面積と対応してフルイ残分が示されるだけであって、それらを用いた実施例をみても、フルイ残分の数値限定範囲が独立して臨界的意義を有することが示されているものとは認められない。
そして、平成24年2月23日付けで通知された特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である井田敦師,高炉スラグ粗粉を用いたセメントペーストの流動性,土木学会年次学術講演会講演概要集 第5部,日本,1999年 8月 1日,Vol.54,第1030-1031頁(以下、「参考文献」という。)には、「高炉スラグ粗粉BS(比表面積 粗粉A:1800cm^(2)/g、粗粉B:1000cm^(2)/g、粗粉C:3400cm^(2)/g、平均粒径 粗粉A:42μ、粗粉B:113μ、粗粉C:12μ、密度:2.91g/cm^(3))を混和材とした。」(1030頁)と記載され、「図-1 各資料の粒度分布

」において示されているように、比表面積1000?3400cm^(2)/gの範囲の高炉スラグ粗粉BSの粒度分布自体は、比表面積によって格別の形状変化なく推移するものであるということができるから、一定以上の粒度の累積であるフルイ残分も比表面積に対応して変化するものと認められる。
してみれば、高炉水砕スラグのブレーン比表面積が1500から3600cm^(2)/gである刊行1発明において「高炉水砕スラグの90μフルイ残分が1.0%以上10%以下であること」は、蓋然性が高いから、相違点aは実質的なものでなく、結局、刊行1発明は、本願発明と同一である。
そして、相違点aが、仮に実質的なものであるとしても、当業者であれば、参考文献に記載された技術事項に基づき容易に設定採用し得たものであり、引用1発明も記載事項(ウ)の効果が得られたのであるから、本件補正後の明細書の記載を検討しても、本願発明により当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとすることはできない。
よって、刊行1発明においてさらに、「高炉水砕スラグの90μフルイ残分が1.0%以上10%以下であること」と特定して、本願発明1とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

第5 回答書の主張について
請求人は、回答書において「換言しますと、高炉スラグにつきまして、ブレーン比表面積が同一のものでありましても90μ残分が異なるものでありますときには、コンクリート段階やセメント組成物段階での上記性状が異なるという新たな知見に基づき、本願発明を完成させたのであります。」と主張する。
しかしながら、このような知見は、特許請求の範囲はもとより明細書の記載に基づくものとは認められないので、請求人の主張は、採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-15 
結審通知日 2012-10-23 
審決日 2012-11-05 
出願番号 特願2004-181944(P2004-181944)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
P 1 8・ 113- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 史泰立木 林  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 國方 恭子
中澤 登
発明の名称 セメントあるいはコンクリート用混和材およびセメント組成物  
代理人 菊池 徹  
代理人 菊池 新一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ