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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03B
管理番号 1268201
審判番号 不服2011-21559  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-05 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 特願2000-173687「光学シートの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月27日出願公開、特開2001- 56505〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、特許法第41条に基づく優先権主張(優先日:平成11年6月11日)を伴う平成12年6月9日の出願であって、平成22年5月26日付けで拒絶理由が通知され、同年8月2日付けで意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされ、同年11月30日付けで拒絶理由(最後)が通知され、平成23年2月7日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年2月24日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年4月27日付けで意見書が提出され、同年6月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、平成24年7月27日付けで当審による拒絶理由が通知され、これに対して同年10月1日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされた。

第2 当審による拒絶理由

当審による拒絶理由は以下のとおりである。
『1.(略)

2.(略)

3.本件出願は、以下の理由で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下のとおり記載されている。
「【0010】
【発明の実施の形態】
射出成形法によって光学シートを製造するにあたり、光学シートの表面部分における応力を200kg/c^(2)m以下にするためには、通常の射出成形法、充填圧力を小さくする低圧成形による射出成形法、または、射出圧縮成形法によって光学シートを製造した後に、表面部分における応力が200kg/cm^(2)以下になるようにアニール処理(後処理)を施せば良い。具体的には、射出圧縮成形法等によって得られた光学シートをガラス板などではさみ、光学シートを構成する成形材料の荷重たわみ温度(ASTM D648などによって測定される。)よりも10?20℃低い環境温度で、2?4時間のアニール処理を行えば良い。
【0011】
また、裏面に低熱伝導率部材(ポリイミドフィルム等)が貼り合わされたニッケル板等の薄板部材がキャビティ内に取り付けられた金型に成形材料を充填した時に、該金型で冷却されて転写開始温度以上の温度から転写開始温度以下の温度に下がった金型の表面近傍の成形材料が、再度、転写開始温度を超える温度に上昇するように、低熱伝導率部材の厚さ等が設定された金型を使用する射出成形法(特開平11-129305号公報参照)を利用すれば、成形条件の設定次第によっては、上記アニール処理を行うことなく、光学シートの表面部分における応力を200kg/cm^(2)以下にすることができる。また、射出成形にあたり、合成樹脂の射出充填中または充填完了後に、金型のキャビティ容積を変化させる(キャビティ容積を増加させ、減少させ、あるいは増加させた後に減少させる。)射出成形法(特願平11-23863号明細書、特願平11-36924号明細書を参照。)を利用しても、成形条件の設定次第によっては、上記アニール処理を行うことなく、光学シートの表面部分における応力を200kg/cm^(2)以下にすることができる。」

ここで、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例6?13(このうち、実施例6、7、11及び12は、平成22年8月2日付け手続補正により参考例とされた。)として様々な大きさの金型を用い、上記段落【0011】に記載された射出成形法によって、440cm^(2)?8000cm^(2)の光学シートを製造することが記載されている。(段落【0011】?【0024】及び段落【0030】?【0033】参照。)
これら実施例6?13は、いずれも同じ射出成形法が用いられているにも関わらず、当該射出形成法により製造された光学シートは(1)対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内であり、主面の面積が4000cm^(2)以上のもの(実施例8、9、10)、(2)対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内であり、主面の面積が4000cm^(2)未満のもの(実施例6(参考例)、実施例7(参考例))、(3)対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%超であり、主面の面積が4000cm^(2)以上のもの(実施例13)、(4)対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%超であり、主面の面積が4000cm^(2)未満のもの(実施例11(参考例)、実施例12(参考例))があることからも明らかなように、主面の面積と応力差の値に一定の相関関係は存在しない。

そして、どのような生成条件の設定によれば、上記射出成形法により「対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内であり、主面の面積が4000cm^(2)以上」である光学シートを製造できるかについて一切開示がなく、本願明細書の当該実施例を手がかりとしても、結局、製造された主面の面積が4000cm^(2)以上の光学シートにつき応力を逐一測定し、応力差を計算することで当該条件を満たしているか否かを確認するほかないから、当業者に過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ない。

したがって、発明の詳細な説明の記載はその実施可能要件を満たしていない。

仮に「対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内であり、主面の面積が4000cm^(2)以上」を満たす生成条件の設定について、実施可能要件は満たされており、当業者による過度の試行錯誤は不要であると主張する場合には、下記理由4にも留意されたい。

4.本願発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)本願発明
本願発明は、平成23年2月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】 対向する2つの主面の表面部分における応力が200kg/cm^(2)以下であり、該対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内であり、前記主面の面積が4000cm^(2)以上であり、かつ、板厚が4mm以下である光学シートの製造方法であって、裏面に低熱伝導率部材が貼り合わされた金属薄板部材がキャビティ内に取り付けられた金型を用い、成形材料を充填した時に、該金型で冷却されて転写開始温度以上の温度から転写開始温度以下の温度に下がった金型の表面近傍の成形材料が、再度、転写開始温度を超える温度に上昇させ、かつ、アニール処理を行わないことを特徴とする光学シートの製造方法。」

(2)引用文献
特開平11-129305号公報(以下「引用刊行物」という。)には次の発明が記載されている。(下線は当審が付した。)

(イ)「【請求項1】 転写開始温度以上の温度を有する熱可塑性樹脂を、転写開始温度以下の温度に保持された金型で構成されたキャビティ部に導入し、該金型で冷却されて転写開始温度以下の温度に下がった金型の表面近傍の熱可塑性樹脂が、キャビティ部に熱可塑性樹脂が充填された後に、再度、転写開始温度を超える温度に上昇するように、キャビティ部側の表面部分の熱容量が設定された金型を使用して、射出成形することを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】 第1の面がキャビティ部を構成する薄板本体がキャビティ部側に装着されており、該第1の面に対向する面である第2の面に、該薄板本体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を有する低熱伝導率部材が設けられている薄板部材が装着された金型を使用する請求項1記載の樹脂成形品の成形方法。」(【特許請求の範囲】)

(ロ)「本発明の樹脂成形品の成形方法により、レンズシートを成形する場合にも、転写性が向上し、ウエルドマーク、コールド樹脂マーク、フローマークなどの発生が低減される。このことは、図6に示すように、成形物の厚さを2mmとし、金型(炭素鋼製とする。)の厚さを25mmとし、薄板本体(ニッケル製とする。)の厚さを0.3mmとし、ポリエチレンテレフタレート製の低熱伝導率部材の厚さを0.1mmとして、上記した導光板の成形方法と同様にシミュレーションした結果により確認された。」(段落【0030】)

(ハ)「(実施例10?11)薄板本体として、熱伝導率が79.2kcal/m・hr・℃であり、厚さが0.3mmであり、大きさが250mm×220mmであるニッケル製の薄板を使用した。薄板本体のキャビティ側表面には、有効面積が220mm×166mmであり、ピッチが500μmであり、中心部から外周部にかけて25から80μmまで徐々に高さが変化するフレネルレンズパターンが配置されている。薄板本体のパーティング面(キャビティとは反対の面)側には、熱伝導率が0.3kcal/m・hr・℃であり、厚さが0.1mmであり、大きさが220mm×170mmであるポリイミドフィルム(低熱伝導率部材)が接着されている。この薄板部材を装着した金型を使用してポリメチルメタクリレート樹脂を使用して表3に示す条件により射出成形法でレンズシートを成形することができた。」(段落【0048】)

(ニ)「(実施例12?18)薄板本体として、熱伝導率が79.2kcal/m・hr・℃であり、厚さが0.3mmであり、大きさが250mm×220mmであるニッケル製の薄板を使用した。薄板本体のキャビティ側表面には、有効面積が220mm×166mmであり、ピッチが500μmであり、中心部から外周部にかけて25から80μmまで徐々に高さが変化するフレネルレンズパターンが配置されている。薄板本体のパーティング面(キャビティとは反対の面)側には、熱伝導率が0.3kcal/m・hr・℃であり、大きさが220mm×170mmであるポリイミドフィルム(低熱伝導率部材)が接着されている。ここで、ポリイミドフィルムの厚さを表4に示すように変更した。上記の金型を使用して実施例10?11と同じポリメチルメタクリレート樹脂を使用して、表4に示す条件により、射出成形法でレンズシートを成形した。得られたレンズシートのフレネルレンズパターンの高さの測定、外観観察、環境試験による反り測定をそれぞれ行った。環境試験はレンズシートを65℃×90%RHの環境で300時間放置して行い、300時間経過後のレンズシートの反りをチクネスゲージにより測定した。」(段落【0055】)

(ホ)「実施例12?18のように薄板本体の厚さが0.1?0.6mmであり、低熱伝導率部材の厚さが0.1?0.3mmである範囲において、フレネルレンズのパターンの転写性が高く、ウエルドライン等の外観不良がなく、信頼性の高い成形品が得られた。また、高温度高湿度環境下でも反りがほとんど発生しなかった。」(段落【0057】)

してみると、引用刊行物には「有効面積が220mm×166mm(365.2cm^(2))であり、かつ、生成物の厚さが2mmであるレンズシートの成形方法であって、第1の面がキャビティ部を構成する薄板本体がキャビティ部側に装着されており、該第1の面に対向する面である第2の面に、該薄板本体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を有する低熱伝導率部材が設けられている薄板部材が装着された金型を使用し、転写開始温度以上の温度を有する熱可塑性樹脂を、転写開始温度以下の温度に保持された金型で構成されたキャビティ部に導入し、該金型で冷却されて転写開始温度以下の温度に下がった金型の表面近傍の熱可塑性樹脂が、キャビティ部に熱可塑性樹脂が充填された後に、再度、転写開始温度を超える温度に上昇するようにしたレンズシートの成形方法。」(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
引用発明の「生成物の厚さが2mmであるレンズシート」が本願発明の「板厚が4mm以下である光学シート」に、引用発明の「第1の面がキャビティ部を構成する薄板本体がキャビティ部側に装着されており、該第1の面に対向する面である第2の面に、該薄板本体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を有する低熱伝導率部材が設けられている薄板部材が装着された金型を使用し、転写開始温度以上の温度を有する熱可塑性樹脂を、転写開始温度以下の温度に保持された金型で構成されたキャビティ部に導入し、該金型で冷却されて転写開始温度以下の温度に下がった金型の表面近傍の熱可塑性樹脂が、キャビティ部に熱可塑性樹脂が充填された後に、再度、転写開始温度を超える温度に上昇する」ことは、本願発明の「裏面に低熱伝導率部材が貼り合わされた金属薄板部材がキャビティ内に取り付けられた金型を用い、成形材料を充填した時に、該金型で冷却されて転写開始温度以上の温度から転写開始温度以下の温度に下がった金型の表面近傍の成形材料が、再度、転写開始温度を超える温度に上昇させ」ることに、引用発明の「レンズシートの成形方法」が本願発明の「光学シートの製造方法」に、それぞれ相当する。

したがって、本願発明と引用発明は、「板厚が4mm以下である光学シートの製造方法であって、裏面に低熱伝導率部材が貼り合わされた金属薄板部材がキャビティ内に取り付けられた金型を用い、成形材料を充填した時に、該金型で冷却されて転写開始温度以上の温度から転写開始温度以下の温度に下がった金型の表面近傍の成形材料が、再度、転写開始温度を超える温度に上昇させる光学シートの製造方法。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

(4)相違点
本願発明と引用発明は、
(イ)相違点1
本願発明の製造方法により製造される光学シートの主面の面積が「4000cm^(2)以上」であるのに対し、引用発明の製造方法により製造される光学シートの主面の面積は365.2cm^(2)である点。

(ロ)相違点2
本願発明が「アニール処理」を行わなくても「対向する2つの主面の表面部分における応力が200kg/cm^(2)以下であり、該対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内」になるのに対し、引用発明には、アニール処理を行わない場合の対向する2つの主面の表面部分における応力の値が不明である点。
で相違している。

(5)判断
上記相違点について判断する。

(イ)相違点1について
4000cm^(2)以上の主面の面積を有する光学シートを製造するために、引用刊行物に記載された光学シートの製造方法の採用を妨げる特段の事情も存在しない。
なお、請求人は、平成22年11月15日付け意見書の【意見の内容】の(2)で、「本願発明の実施例においては、薄板部材を厚さ0.5mmのニッケル板とし、低熱伝導率部材を0.1?0.3mmのポリイミドフィルムとしております。樹脂温度を規定するシリンダ温度は270℃であり、金型温度は80℃としております。この条件で板厚4mmの光学シートを成形しております。これに対し、本願発明が引用する特開平11-129305号の実施例には、薄板部材として厚さ0.3?0.6mmのニッケル板と低熱伝導率部材として厚さ0.1?0.3mmのポリイミドフィルムを用いてシリンダ温度270℃、金型温度76℃で射出成形を行い板厚2mmの光学シートを成形する態様が示されております。両者を比較いたしますと、その構成は極めて類似しております。・・・そして本願実施例では、「対向する2つの主面の表面部分における応力が200kg/cm^(2)以下であり、該対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内であり、前記主面の面積が4000cm^(2)以上であり、かつ、板厚が4mm以下である光学シート」を成形しております。すなわち、本願実施例においては、「対向する2つの主面の表面部分における応力が200kg/cm^(2)以下であり、該対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内であり、前記主面の面積が4000cm^(2)以上であり、かつ、板厚が4mm以下である光学シート」を成形するに際し、特開平11-129305号の実施例の上記の特徴を有する製造方法を適用していることは当業者にとって自明の事項であると思料いたします。」(下線は当審が付した。)と主張している。すなわち、請求人の主張からも、引用発明記載の方法を4000cm^(2)以上の主面の面積を有する光学シートを製造するために用いることに特段の阻害要因があったものとは認められない。
したがって、引用発明を4000cm^(2)以上の主面の面積を有する光学シートの製造方法にも採用して、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を得ることに格別の困難性はない。

(ロ)相違点2について
引用発明の製造方法を4000cm^(2)以上の主面の面積を有する光学シートの製造方法に採用した際には、当該製造方法において「板厚が4mm以下である光学シートの製造方法であって、裏面に低熱伝導率部材が貼り合わされた金属薄板部材がキャビティ内に取り付けられた金型を用い、成形材料を充填した時に、該金型で冷却されて転写開始温度以上の温度から転写開始温度以下の温度に下がった金型の表面近傍の成形材料が、再度、転写開始温度を超える温度に上昇させ」る点について本願発明と引用発明とに差異はないところ、その結果得られる、アニール処理が行われていない光学シートの対向する2つの主面の表面部分における応力が200kg/cm^(2)以下で、該対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内となるような生成条件を設定することは当業者が容易になし得るものと認める。

以上のことから、本願発明は、引用発明に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 』

第3 拒絶理由の検討

1 特許法第36項第4項(理由3)について
(1)本願発明の認定
本願発明は、「第2 当審による拒絶理由」の「4.」「(1)本願発明」に記載したとおりのものである。

(2)拒絶理由
「第2 当審による拒絶理由」の「3.」参照。

(3)請求人の主張
上記拒絶理由に対して、請求人は平成24年10月1日付けの意見書で以下のとおり主張している。
『審判官殿は、「そして、どのような生成条件の設定によれば、上記射出成形法により「対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内であり、主面の面積が4000cm^(2)以上」である光学シートを製造できるかについて一切開示がなく、本願明細書の当該実施例を手がかりとしても、結局、製造された主面の面積が4000cm^(2)以上の光学シートにつき応力を逐一測定し、応力差を計算することで当該条件を満たしているか否かを確認するほかないから、当業者に過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ない。」(下線は審判請求人が付しました)と認定されました。しかしながら、各種の項目を評価して射出成形の条件を定めることは、通常の射出成形においても日常的に行われることであり、当業者にとって過度の試行錯誤を強いるものではありません。このことは、本件審判請求書において審判請求人が「なお、射出成形においては、賦型性、離型性等の通常の成形性を満足するように条件設定する際も、成形物の形状、装置の諸元、樹脂の種類等により成形条件は変化しますから、それらは試行錯誤により決定する必要があります。一方、本願発明に接した当業者にとっては、本願発明を実施するに際して射出成形時の条件設定にかかる試行錯誤時の目標として表面部分における応力の値を測定することを加えるだけで良く、応力の測定自体は公知であるため、その値が目標の範囲内となるよう条件を設定することは、上記の通常の試行により可能です。」(下線は審判請求人が付しました)と主張したとおりです。
ここで審判官殿が、「仮に「対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内であり、主面の面積が4000cm^(2)以上」を満たす生成条件の設定について、実施可能要件は満たされており、当業者による過度の試行錯誤は不要であると主張する場合には、下記理由4にも留意されたい。」と記された点につきましては、後述いたしますが、要点といたしましては、上記成形条件の決定に際して、「射出成形時の条件設定にかかる試行錯誤時の目標として表面部分における応力の値を測定することを加える」必要があり、測定値を請求項1で限定された範囲内にすることを知っている当業者にとってのみ、それは容易であるということです。』

(4)当審の判断
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0011】には「また、裏面に低熱伝導率部材(ポリイミドフィルム等)が貼り合わされたニッケル板等の薄板部材がキャビティ内に取り付けられた金型に成形材料を充填した時に、該金型で冷却されて転写開始温度以上の温度から転写開始温度以下の温度に下がった金型の表面近傍の成形材料が、再度、転写開始温度を超える温度に上昇するように、低熱伝導率部材の厚さ等が設定された金型を使用する射出成形法(特開平11-129305号公報参照)を利用すれば、成形条件の設定次第によっては、上記アニール処理を行うことなく、光学シートの表面部分における応力を200kg/cm^(2)以下にすることができる。また、射出成形にあたり、合成樹脂の射出充填中または充填完了後に、金型のキャビティ容積を変化させる(キャビティ容積を増加させ、減少させ、あるいは増加させた後に減少させる。)射出成形法(特願平11-23863号明細書、特願平11-36924号明細書を参照。)を利用しても、成形条件の設定次第によっては、上記アニール処理を行うことなく、光学シートの表面部分における応力を200kg/cm^(2)以下にすることができる。」という記載(下線は当審が付した。)のみで「成形条件の設定次第」の具体的内容が何ら開示されていないこと、及び【表5】の実施例11ないし13(すべて参考例であり、応力差の条件を満たしていない)等からも、請求項1の「裏面に低熱伝導率部材が貼り合わされた金属薄板部材がキャビティ内に取り付けられた金型を用い、成形材料を充填した時に、該金型で冷却されて転写開始温度以上の温度から転写開始温度以下の温度に下がった金型の表面近傍の成形材料が、再度、転写開始温度を超える温度に上昇させ、かつ、アニール処理を行わない」という事項を満たすように作成された光学シートが必ず上記所定応力値を満たすものでないことからも明らかなように、シリンダー温度、樹脂温度、金型温度、射出速度、射出圧力、樹脂融点、樹脂粘度あるいはその他の諸元からなり、組み合わせが無数にある射出成形時の成形条件の何をどのように設定すれば、「主面の面積が4000cm^(2)以上であり、かつ板厚が4mm以下である光学シートの製造方法」において、「対向する2つの主面の表面部分における応力」を「200kg/cm^(2)以下」かつ同時に「該対向する2つの主面の表面部分における応力差」を「20%以内」(以下「所定応力値」という。)とすることができるかについては一切開示がないため、上記応力値の測定と成形条件の設定の関係について、測定された応力値が所定応力値ではなかった場合に、成形条件のうち、具体的に何をどのように調整すれば所定応力値とすることができるのかという試行錯誤の方向性について何らの手がかりもなく、当業者といえどもこれらの条件の具体的な達成方法を理解することができないから、本願明細書の発明の詳細な説明には当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないといわざるを得ない。

(5)小括
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
すなわち、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

2 特許法第29条第2項(理由4)について
(1)本願発明の認定
「第2 当審による拒絶理由」の「4.」「(1)本願発明」参照。

(2)引用刊行物の記載及び引用発明
「第2 当審による拒絶理由」の「4.」「(2)引用文献」参照。

(3)請求人の主張
請求人は、当審による拒絶理由の理由4に対して、上記意見書にて上記「第2」の「4.」の「(3)対比」において認定した本願発明と引用発明の一致点を認めつつ、
『相違点1と相違点2につきましてはそれぞれ独立して比較すべきではなく、相違点1と2の内容は相互に密接に関連していることから、一体として取り扱うべきであることから同意いたしかねます。
すなわち、引用発明においては、「板厚が4mm以下である光学シートの製造方法であって、裏面に低熱伝導率部材が貼り合わされた金属薄板部材がキャビティ内に取り付けられた金型を用い、成形材料を充填した時に、該金型で冷却されて転写開始温度以上の温度から転写開始温度以下の温度に下がった金型の表面近傍の成形材料が、再度、転写開始温度を超える温度に上昇させ」る方法を、4000cm^(2)以上の主面の面積を有する光学シートの製造に使用し、かつ、その際にアニール処理を行うことなく光学シートの対向する2つの主面の表面部分における応力が200kg/cm^(2)以下で、該対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内となるような成形条件を設定することについては、なんらの記載も示唆もありません。
仮に当業者が、4000cm^(2)以上の主面の面積を有する光学シートの製造に使用することがあったとしても、(1)アニールすることなく反り(変形量)の低減を図ること、(2)対向する2つの主面の表面部分における応力が200kg/cm^(2)以下で、該対向する2つの主面の表面部分における応力差が20%以内とすること、の2点を実施することについての示唆がなんらなされておらず、本願発明は当業者にとっても容易に想到し得るものではないと思料いたします。すなわち、引用発明に触れた当業者は、4000cm^(2)以上の主面の面積を有する光学シートの製造にあたり、変形量の低減を図るためには従来行われているアニールを採用するのが自然であり、上記表面応力に関する条件を知ることなくアニールをすることなく変形量の低減を図るためには条件の設定に過度の試行錯誤を強いられることとなります。(なお、本意見書と同日で提出した手続き補正書において、実施例13を参考例といたしましたが、該実施例(参考例)においては、上記の引用発明の方法を4000cm^(2)以上の主面の面積を有する光学シートの製造に適用したとしても、それだけでは本願発明にいたらない一例であります。)
それに対して、本願発明に触れて上記の点についての知識を有する当業者は、表面応力の測定とその表裏の比較を条件設定時の評価項目に追加するだけで、本願発明の実施が可能となる成形条件を容易に見出すことができます。』
と主張する。

(4)当審の判断
「第3 拒絶理由の検討」「1」で述べたように、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないが、以下では、仮に本願明細書の発明の詳細な説明は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている、すなわち、「対向する2つの主面の表面部分における応力」及び「該対向する2つの主面の表面部分における応力差」につき前記所定応力値を目標とすれば、そのような前記所定応力値を達成するための前記諸元にかかる成形条件を設定することは、当業者であれば実施可能であることを前提として検討する。

4000cm^(2)以上の主面の面積を有する光学シートであっても、反らないようにするために光学シートの応力をできるだけ小さくする必要があることは、当業者にとって自明な技術課題である(引用刊行物の段落【0062】の「本発明によって、残留応力による変形が小さい、信頼性の高い基板を得ることができる」という記載、及び特表平3-505185号公報の第3ページ右下欄20行?第4ページ左上欄第3行の「プラスチック内の分子の配向および残留応力はプラスチック成型品に複屈折を生じさせる。・・・(中略)・・・複屈折はレンズおよび光学ディスクのようなプラスチック製光学成形品において大きな問題である。」という記載を参照)から、「板厚が4mm以下である光学シートの製造方法であって、裏面に低熱伝導率部材が貼り合わされた金属薄板部材がキャビティ内に取り付けられた金型を用い、成形材料を充填した時に、該金型で冷却されて転写開始温度以上の温度から転写開始温度以下の温度に下がった金型の表面近傍の成形材料が、再度、転写開始温度を超える温度に上昇させ」る方法を4000cm^(2)以上の主面の面積を有する光学シートの製造に採用することは当業者が容易になし得るものであり、また、そうすることに特段の阻害要因も見あたらない。そして、その際、光学シートの表面における応力の値自体と対向する2つの面の応力差の双方が共に小さい方が好ましいことも当業者にとって明らかであるから、それぞれ特定の値(上限値)以下にすることに困難性はなく、かつ「対向する2つの主面の応力が『200kg/cm^(2)』以下であり、該対向する2つの主面の応力差が『20%』以内」という(上限)値に臨界的意義も認められないことから、引用発明を4000cm^(2)以上の主面の面積を有する光学シートの製造に用いる際に、対向する2つの主面の応力及び該対向する2つの主面の応力差を少なくするように成形条件を設定して記相違点1及び2に係る本願の発明特定事項を得ることは当業者であれば容易になし得ることである。
そして、本願発明の効果は、引用発明から予測し得る範囲内のものであって、格別のものではない。

(5)小括
よって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび

以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条4項に規定する要件を満たしていないから特許を受けることができない、又は、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり結審する。
 
審理終結日 2012-10-31 
結審通知日 2012-11-06 
審決日 2012-11-19 
出願番号 特願2000-173687(P2000-173687)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03B)
P 1 8・ 536- WZ (G03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 久則  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 森林 克郎
川俣 洋史
発明の名称 光学シートの製造方法  
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