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審決分類 審判 訂正 特126 条1 項 訂正する B01D
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B01D
管理番号 1268571
審判番号 訂正2011-390120  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2011-10-31 
確定日 2012-12-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2791553号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2791553号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 第1.手続の経緯
(1)本件特許第2791553号は、カースル株式会社を出願人として平成8年10月8日に出願され、平成10年6月19日に設定登録がなされたものである。
(2)本件特許に対して、平成22年10月10日に、東洋アルミエコープロダクツ株式会社から無効審判の請求(無効2010-800183号:以下、「関連無効審判」という。)があり、平成23年7月8日付けで「訂正を認める。
特許第2791553号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決がされた。
(3)上記審決に対して、請求人は、平成23年8月8日に知的財産高等裁判所に審決取消しの訴えを提起(平成23年(行ケ)第10258号:平成24年9月27日審決取消、上告中)するとともに、同年10月31日に本件訂正審判が請求され、平成24年3月6日付けで、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下、「第1次審決」ということがある。)がなされた。
(4)上記の第1次審決に対して、請求人は、平成24年4月5日に知的財産高等裁判所に審決取消の訴えを提起(平成24年(行ケ)第10128号)したところ、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成24年9月27日判決言渡)がなされたものである。

第2.請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第2791553号の明細書、特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書」、「本件特許請求の範囲」という。)を審判請求書に添付された明細書(以下、「本件訂正特許明細書」という。)、特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項1?4からなる。
(ア)訂正事項1
本件特許請求の範囲の請求項1の「幅広の不織布を取付けようとするレンジフード又は換気扇等の角形の通気口に合わせて切断し、切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定して使用する通気口用フイルター部材であって、
前記不織布に一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用したことを特徴とする通気口用フイルター部材。」なる記載を、
「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し、切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フイルター部材であって、
前記不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し、
前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして、この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたことを特徴とする通気口用フイルター部材。」と訂正する。
(イ)訂正事項2
本件特許明細書の段落【0001】の「【発明の属する技術分野】
本発明は、レンジフード等の通気口を覆って使用する通気口用フイルター部材に関する。」なる記載を、
「【発明の属する技術分野】
本発明は、レンジフードの通気口を覆って使用する通気口用フイルター部材に関する。」と訂正する。
(ウ)訂正事項3
本件特許明細書の段落【0004】の「【課題を解決するための手段】
前記目的に沿う請求項1記載の通気口用フイルター部材は、幅広の不織布を取付けようとするレンジフード又は換気扇等の角形の通気口に合わせて切断し、切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定して使用する通気口用フイルター部材であって、前記不織布に一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用したことを特徴とする通気口用フイルター部材。
ここで、一軸方向にのみ非伸縮性の不織布とは、特定の方向には伸びないが、他の方向、特に非伸縮性を有する方向と直交する方向には不織布自体が伸びる不織布をいう。」なる記載を、
「【課題を解決するための手段】
前記目的に沿う請求項1記載の通気口用フイルター部材は、幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し、切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フイルター部材であって、前記不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し、前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして、この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたことを特徴とする通気口用フイルター部材である。ここで、一軸方向にのみ非伸縮性の不織布とは、特定の方向には伸びないが、他の方向、特に非伸縮性を有する方向と直交する方向には不織布自体が伸びる不織布をいう。」と訂正する。
(エ)訂正事項4
本件特許明細書の段落【0013】の「なお、前記実施例においては、レンジフード11の通気口12にフィルター部材を取付けた例について説明したが、換気扇や、クーラ等の通気口であっても本発明は適用される。
また、不織布の周囲の固定は取っ手付き磁石15によって固定したが、鉤状フックを有する面状ファスナー、クリップ等の簡易固定具で不織布の周囲を通気口に固定する場合であっても本発明は適用される。」なる記載を、
「なお、不織布の周囲の固定は取っ手付き磁石15によって固定したが、鉤状フックを有する面状ファスナー、クリップ等の簡易固定具で不織布の周囲を通気口に固定する場合であっても本発明は適用される。」と訂正する。

第3.当審の判断
1.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正内容を分けてみると、
(ア-1)「不織布を取付けようとする」を「不織布を取り付けようとする」に、
(ア-2)「レンジフード又は換気扇等の角形の通気口」を「レンジフードの角形の通気口」に、
(ア-3)「使用する」を「この通気口を不織布で直接覆って使用する」に、
(ア-4)「前記不織布に一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用した」を「前記不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し、
前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして、この不織布により前記通気口を覆うことを可能とした」に、
それぞれ、訂正するものである。
ここで、
(ア-1)については、「取付け」を、公用文表記である「取り付け」(要すれば、「最新公用文用字用語例集 改訂常用漢字対応」株式会社ぎょうせい(平成22年7月30日発行) 172頁左欄参照)へと単に記載ぶりを改めるものであり、
(ア-2)については、通気口について、訂正前には対象であった「換気扇等の通気口」を除外して「レンジフードの通気口」のみに限定するものであり、
(ア-3)については、使用の形態について、「この通気口を不織布で直接覆って使用する」ことのみに限定するものであり、
(ア-4)については、一軸方向にのみ非伸縮性である不織布に関し、不織布の使用形態、特性、素材について「かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し、不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして、この不織布により通気口を覆うことを可能とした」とすることに限定するものであり、
これらからして、訂正事項1は、明りょうでない記載の釈明、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許明細書には、
・「請求項1記載の通気口用フイルター部材においては、一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用しているので、角形の通気口の一方の幅aにのみ長さを合わせて不織布を切断し、通気口の他方の幅bについては、概略長さで不織布を切断してフィルター部材を用意する。次に、フィルター部材となる不織布の所定の幅aで切断した側の端部を、通気口の幅aの部分に合わせて固定し、該不織布の反対側の端部を、幅aの通気口の反対側の端部に固定する。この場合、概略長さで切断した不織布が幅bより短い場合には、不織布を少し引っ張って伸ばすことにより通気口全体を覆い、概略長さで切断した不織布が幅bより長い場合には、一旦不織布の端部を固定した後、そのはみ出し部分を切断する(なお、余剰部分を折り曲げてもよい)。」(段落【0005】)と記載され、通気口と不織布の間には介在するものがある旨の記載はされていないから、通気口を不織布で直接覆って使用することが、
・「図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る通気口用フイルター部材は、難燃性処理が行われた合成樹脂繊維からなる不織布素材10が使用されている。この不織布素材10は、通常幅広(例えば、1m×2m)となっている。この不織布素材10は、図2において矢印Aで示す幅方向には伸縮性がなく、矢印Bで示す長さ方向には約120?140%程度まで自由に伸びて縮む性質を有している。」(段落【0007】)と記載され、難燃(性)処理が行われた合成樹脂繊維からなる不織布が長さ方向のみに、約120?140%程度自由に伸びて縮むことが、
・「この不織布素材10から、図1、図2に示すように縦横の内側の幅がa×bであるレンジフード11の通気口12に装着する不織布13を切り出す場合には、縦方向については幅aの長さと同一か又は極めて近い長さcで切断する。そして、横方向については、好ましくは通気口12の幅bより少し短い長さdで切断する。これによって、通気口12を覆う不織布13が切り出されるが、縦方向においては通気口12の幅aと略等しいので、通気口12の幅aの一方側の端部14に一致させた状態で簡単に取っ手付き磁石15によって固定できる。この状態で、不織布13を通気口12に向けて張り付けるが、不織布13の幅dが通気口12の幅bより短い場合には、不織布13を横方向に引いて通気口12の幅bにその端部を合わせた状態で取っ手付き磁石15で固定する。」(段落【0009】)と記載され、通気口がレンジフードの通気口であること、及び、不織布を横方向、すなわち、上記段落【0007】の自由に伸びて縮む長さ方向に引いて、通気口に固定する、つまり、通気口を覆うことが、
それぞれ、開示されているということができることから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び同条同項第3号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、同条第3項、第4項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項2?4について
訂正事項2?4は、訂正事項1によって生じた特許請求の範囲の請求項1の記載と特許明細書(発明の詳細な説明)の記載との整合を図ったものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記アの訂正事項1についてのところで述べたことと同様に、本件特許明細書の段落【0005】、【0007】及び【0009】には、訂正事項2?4に係る事項が開示されているということができることから、訂正事項2?4は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2?4は、特許法第126条第1項第3号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、同条第3項、第4項の規定に適合するものである。
ウ 以上のとおりであるから、本件訂正は、訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否に係る訂正要件を満たすものである。

2.本件訂正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて
2-1.本件訂正後の発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し、切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フイルター部材であって、
前記不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し、
前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして、この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたことを特徴とする通気口用フイルター部材。」

2-2.刊行物
第1次審決で引用された本件特許出願前に頒布されたことが明らかな下記文献(1)?(6)及び関連無効審判請求人が平成23年12月8日に差し出した上申書において引用している本件特許出願前に頒布されたことが明らかな下記文献(7)?(8)を刊行物として検討する。
(1)特開平3-229608号公報(平成4年5月25日に発行された公報に記載された同年1月16日付けの手続補正書の内容を含まないもの。以下、「刊行物1」という。)
(2)特開平8-196843号公報(以下、「刊行物2」という。)
(3)実願平3-31109号(実開平4-118119号)のCD-ROM(以下、「刊行物3」という。)
(4)特開平8-60515号公報(以下、「刊行物4」という。)
(5)特開平7-300752号公報(以下、「刊行物5」という。)
(6)特開平1-266260号公報(以下、「刊行物6」という。)
(7)特開平7-190434号公報(以下、「刊行物7」という。)
(8)特開平8-218260号公報(以下、「刊行物8」という。)

ア 刊行物1の記載
刊行物1には次の事項が記載され、視認される。
(ア)「(1)所定広さのフィルターで排気口を覆い、周囲をマグネットホルダーによって押さえた排気口カバーの取り付け方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(イ)「〔産業上の利用分野〕
本発明は排気口(換気扇及びレンジフード等をいう)にフィルターを被せる方法に関する。」(1頁右欄3?5行)
(ウ)「〔作用〕
請求の範囲第1項、第2項記載の排気口カバーの取付け方法においては、所定広さのフィルターで排気口を覆い、周囲をマグネットホルダーによって押さえているので、張った状態で排気口をフィルターで覆うことができ、排気と共に吸引される油等はフィルターによって捕捉される。そして、フィルターの周囲はマグネットホルダーによって固定されているので、容易にフィルターの交換を行うことができる。」(2頁右上欄3?12行)
(エ)「ここに、第1図は第1の実施例に係る排気口カバーの取付け方法を示す側面図、第2図は該取付け方法の工程を示す斜視図・・・・・・である。
第1図、第2図に示すように第1の実施例に係る排気口カバーの取付け方法においては、まず第2図に示すようにフィルターの一例である難燃性の不織布10を鋏11等で所定長さに切断し、排気口の一例であるレンジフード12の周囲に被せ、第1図に示すように周囲を適当数のマグネットホルダー13によって固定する。」(2頁左下欄9行?同頁右下欄4行)
(オ)「〔発明の効果〕
請求の範囲第1項?第4項記載の排気口カバーの取付け方法は、簡単な方法によってフィルターを排気口の周囲に固定しているので、その取付け及び交換が極めて容易である。
そして、取替にあってはフィルターの交換のみで済むので、極めて経済的である。」(3頁右上欄第11?17行)
(カ)第2図をみると、上記(エ)に記載された事項及び排気口が角形であることを窺うことができ、不織布10が巻かれていることが見て取れる。
イ 刊行物2の記載
刊行物2には次の事項が記載され、視認される。
(サ)「【請求項1】 換気扇等の吸気側開口全体を覆い、着脱自在に装着される四角形状の換気扇用フィルタ-において、該フィルタ-はフィルタ-部材の少なくとも両端にホルダ-部が設けられているとともに、該フィルタ-部材は中央部が端部に比べ幅広く形成されていることを特徴とする換気扇用フィルタ-。」(特許請求の範囲の請求項1)
(シ)「【産業上の利用分野】本発明は台所用換気扇やレンジフ-ドなどのフィルタ-の装着を必要とする換気扇本体や換気扇本体の前面全体を覆うフィルタ-カバ-の吸気側開口全体を覆い、着脱自在に取り付け可能とした換気扇用フィルタ-に関するものである。」(段落【0001】)
(ス)「【従来の技術】従来例を図5乃至図7により説明する。
・・・・・・
しかしながら、フィルタ-カバ-20にフィルタ-21が装着された状態では図6に示すように両方向に引張られたような状態で装着されている。よって、図5に示すような形状のフィルタ-21では中央部分の幅が両端に比べて片側でA寸法だけ狭くなる。特にフィルタ-部材22として不織布を用いた場合は上記現象がより顕著である。」(段落【0002】?【0005】)
(セ)「【実施例】本発明の一実施例を図1乃至図4により説明する。
・・・・・・
フィルタ-部材9は図1に示すように中央部分が両端に比べて片側でA寸法だけ幅広く形成されているために、装着において左右に引張った状態でも従来のように中央部分が狭くなり、開口2全体を防ぐことができないということはない。またフィルタ-部材として不織布を用いた場合は、図6に示すような現象が顕著であることから本発明のような形状はより効果的である。」(段落【0011】?【0014】)
(ソ)「本発明の一実施例である換気扇用フィルタ-の平面図である」図1、「本発明の従来例である換気扇用フィルタ-を左右に引張った状態の平面図である」図6をみると、それぞれ、上記(セ)の記載事項を窺うことができる。
ウ 刊行物3の記載
刊行物3には次の事項が記載されている。
(タ)「【実施例】
本考案の実施例を図面に従って説明すると、図1、図2は本考案のレンジフード用フィルター装置Aの一実施例を示し、ポリエステル繊維あるいはポリプロピレン繊維を適宜結合剤で3次元の網目構造に結合させた厚さが約0.3mmの不織布1を縦寸法および横寸法が42×27cmの短形体とし、その上端部を折り返すとともに折り返し部の両端を接着もしくは融着によって接合して深さが5cmの袋状端部2aを形成したシート状フィルター2と、上記不織布1と同じ材料で深さが約5cmで開口幅が27cmの浅い袋体3aよりなる係止部材3とから構成してあり、レンジフードの吸気口に配設された金網等からなるフィルター部材4に、前記シート状フィルターの袋状端部2aを被せるとともに、フィルター部材4の他端部にシート状フィルター2の他方の自由端部2bを巻き込み、この巻き込み状態のままで袋体よりなる係止部材3を装着してある。
・・・・・・
図3は、本考案の変形例に係るレンジフード用フィルター装置を示し、・・・・・・このものは、不織布で形成した環状体3bを使用したものである。
この変形例によれば、係止部材3が環状体3bで形成してあるので、シート状フィルター2の自由端部2bを内側に引っ張ると、シート状フィルターの弛みが防止されて、フィルター部材4に容易に密着させて取り付けることができる。
図4は、本考案の第2変形例に係るレンジフード用フィルター装置を示し、前記変形例が係止部材3として環状体3bを用いたのに対して、このものは、フィルター部材にマジックテープ(商品名)などの係止爪を植設させたテープ材3c、3c、が貼着してあり、このテープ材3cの係止爪にシート状のフィルター2の自由端部2bを巻き込み状態に係止してある。
この変形例によれば、テープ材3cの係止爪がシート状フィルターに食い込み状態で係止されるので、該シート状フィルター2が油煙の吸着で重くなっても、シート状フィルターに弛みや垂れ下がりが発生し難いものとなる。」(段落【0012】?【0018】)
(チ)「 【考案の効果】
・・・・・・
また、不織布は繊維の結合によって適度の伸縮性を有しているので、既存の深型レンジフードのフィルター部材のサイズに完全に合致していなくても、若干小さいシート状フィルターを伸ばした状態で取り付けできるものであり、既存のフィルター部材のサイズが多少異なったものに対しても取り付けが容易である。」(段落【0021】?【0022】)
エ 刊行物4の記載
刊行物4には次の事項が記載されている。
(ナ)「【産業上の利用分野】本発明は、メルトブロー不織布およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、高強力、細繊度、低目付、良好な均一性等の特徴を有することから、産業資材用途、特に感熱性孔版印刷用原紙の支持体用途に適するメルトブロー不織布およびその製造方法に関する。」(段落【0001】)
(ニ)「メルトブロー不織布は、細繊化および低目付化が可能であり、均一性に優れ、吐出段階で単糸間が自己粘着する等の長所を持つが、低配向度に起因する低強力および高伸度のため、その適用範囲はフィルター、ワイパー、生理用品等の狭いものに限られている。また、ポリエチレンテレフタレートのような融点が200℃以上である半結晶性ポリマからなるメルトブロー不織布は低結晶化度であるため、延伸繊維からなるスパンボンド不織布に比べ熱安定性が大きく劣っている。本発明の目的は、メルトブローブロー不織布の用途を拡大するため、さらなる細繊度、良好な均一性等の特徴を有しながら熱安定性に優れ、測定方向によらず高強力なメルトブロー不織布およびその製造方法を提供することにある。」(段落【0007】)
(ヌ)「本発明において、不織布の巻取方向(縦方向)の最大引張強力と巻取方向に垂直な方向(横方向)の最大引張強力の比とは、不織布の巻取方向(縦方向)の最大引張強力を不織布の巻取方向に垂直な方向(横方向)の最大引張強力で除した値をいう。この強力比が4より大きい場合、横方向の強力が不足し本発明の目的を満たさない。また、メルトブロー不織布を捕集する際、縦方向に繊維が多く配列するため、強力比を0.5より小さくするためには横方向の繊維の配向を縦方向のものよりかなり高くすることになり、不織布を構成する単糸の強力の異方性も著しくなる。このため、不織布の巻取方向の最大引張強力と不織布の巻取方向に垂直な方向の最大引張強力の比は0.5?4である必要がある。全方向により均一な強力を示すためには、強力比は0.8から2であることが好ましく、0.9?1.5であることがさらに好ましい。」(段落【0020】)
(ネ)「比較例2は縦方向の強力は高いものになったが横方向の強力が低く、縦横の強力比が6.0と本発明の範囲を外れるものであった。繊維の複屈折率は0?0.152の範囲で大きくばらついていた。・・・・・・。」(段落【0071】)
(ノ)「実施例5の繊維径分布のCV値は43.7であった。実施例5は非常に細繊度の繊維でありながら従来に無い高い強力を示し、フィルター用途、ワイパー用途等のの産業資材用途に適したものである。」(段落【0078】)
(ハ)表1(段落【0085】)には、実施例1?8及び比較例1?9が示され、その中で比較例2の伸度が、縦20パーセント、横153パーセント、強力比6.0であり、実施例5の伸度が、縦14パーセント、横17パーセントであると、それぞれ記載されている。
オ 刊行物5の記載
刊行物5には次の事項が記載されている。
(マ)「【要約】
【目的】 この出願発明は、タテの伸縮性が制限されている伸縮性不織布により、着用時の伸縮性不織布のタテ方向への伸長をおさえ、安価であって簡単に取り付けることができ、しかも容易に着用することができる締めつけ材及びそれらの製造方法を提供することを目的とするものである。
【構成】 この出願発明は、タテ方向の伸縮性が抑制されている伸縮性不織布、とくに、ループ状捲縮繊維によりタテ方向の伸縮性が抑制されている伸縮性不織布、その伸縮性不織布からなる締めつけ材及びそれらの製造方法に関する。」(1頁【要約】の項目)
(ミ)「【産業上の利用分野】この出願発明は、伸縮性不織布、衣料用締めつけ材及びそれらの製造方法に関するものである。」(段落【0001】)
(ム)「【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、この出願発明は、タテ方向の伸縮性が抑制された、伸縮性および伸長後の弾性回復性が高い不織布・・・・・・である。・・・・・・。この出願発明の伸縮性不織布は衣料用締めつけ材として好適であり、衣料の袖、裾、襟または帽子、手袋等の締めつけ部分に於いて使用するのがとくに好適である。・・・・・・。」(段落【0004】)
カ 刊行物6の記載
刊行物6には次の事項が記載されている。
(ヤ)「 本発明は、かかるポリアミド、ポリエステルを主体とする極細繊維からなる不織布で構成された吸水性布帛である。」(2頁右上欄16行?18行)
(ユ)「 かかる一軸配向不織布は、たて方向に対するよこ方向の伸度が1.5?8.0倍の範囲にある程度の配向のものが吸水性、布帛強度ならびに風合の3つのバランスがとれていて好ましい。」(2頁右下欄18行?3頁左上欄1行)
(ヨ)「[発明の効果]
本発明の吸水性布帛は、極めて吸水特性に優れた布帛であって、さらに柔軟で、しかも布帛強度の高い性質を有するものであるので、水の吸収を必要とする各種用途、たとえば肌着やスポーツ衣料などの衣料用、ワイピングクロスなどのクリーナー用、モップなどの掃除用、壁材、床材などの建装用、シーツ、マットなどの寝装用、ガーゼ、包帯、オムツ、ナプキンなどの医療衛生用、カバー類、各種敷物類などに極めて好適な素材である。」(4頁右上欄7行?16行)
キ 刊行物7の記載
刊行物7には次の事項が記載されている。
(ラ)「【請求項1】 換気扇本体の開口を塞ぐに十分な所定寸法となり得るように形成したフィルター膜の少なくとも相対両端二辺部分に止着具を固着してなる換気扇用フィルター。
【請求項2】 上記フィルター膜を使用時に延伸可能なように長手方向乃至短手方向に蛇腹状に圧縮形成したことを特徴とする請求項1に記載の換気扇用フィルター。」(特許請求の範囲の請求項1、2)
(リ)「上記フィルター膜は、使用時に延伸可能なように長手方向乃至短手方向に蛇腹状に圧縮形成したものとするのが好ましく、長時間の使用によって弛みが生じないように補強することができるばかりか、伸縮性が高くなるので寸法のずれを修正することができる。さらに、平面視した面積当たりの表面積が大となるから収集効率がより高くなる。」(段落【0009】)
(ル)「【実施例】以下、本発明の一実施例を図面によって説明する。
・・・・・・
フィルター膜2は、綿などの天然繊維素材、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ビニロン等の合成繊維素材、アルミニウム等の金属素材、その他適宜材質の通気性を有する不織布シート、或いは細かい網状シート等を素材とし、図1に示すように、長手方向に比較的細かい連続した波形状乃至蛇腹状に形成してある。このように長手方向に波形状乃至蛇腹状に形成することにより、前後方向に弛みが生じないように強度を高めることができるばかりか、長手方向の伸縮を自在とすることができ、開口幅に合うように巾を調整することができる。また、例えば換気扇本体10の開口11単位面積当たりの換気扇用フィルター1の表面積が大となるから、塵埃、油分などの微粒子などの収集効率を一層高めることができる。
・・・・・・
ただし、フィルター膜の形状は、上記フィルター膜2のような形状に限定するものではなく、波形状乃至蛇腹状に形成しなくともよく、伸縮性を有しているのが好ましい。尚、上記波形状乃至蛇腹状は、長手方向全面に亘って形成してある例を示したが、適宜巾で中央部又は両端部付近に設けて、他は平坦面とし、或いは適宜巾で断続的に設けてもよい。長手方向と短手方向の両方向を組合せて設けることもできる。」(段落【0012】?【0016】)
(レ)「本発明の換気扇用フィルター1は、上記のように構成してあるので、例えば図3及び図4に示すような、中央部に開口11を有し、この開口11周縁部をフィルター取付面部12とし、この開口11内で回転するように換気扇13が設置され、さらに開口11前面に開口11を塞ぐように網部が装着されているステンレス製の換気扇本体10に対して、長手方向両端部を持って網部を外側から被覆しつつ長手方向に拡開させて幅を調節し、止着部材31が例えば磁石であれば、各々フィルター取付面部12,12に磁着させればよく、換気扇用フィルター1を換気扇本体10に装着させることができる。」(段落【0022】)
ク 刊行物8の記載
刊行物8には次の事項が記載されている。
(ワ)「【産業上の利用分野】本発明は、薄手軽量でドレープ性および柔軟性があり、かつ縦横の強度バランスが改良された強化熱融着不織布、およびウエブ形成工程や熱融着工程が本来有している高速生産性を低下させることのない上記不織布の製造方法に関するものである。更に詳しくは、芯地等の衣料製品、フィルターや工業用ワイパー等の産業用資材、および手術衣、シーツ、タオル、マスク等のメディカルデスポーザブル製品、ジオテキスタイル等の工業用資材等に広く用いられる薄手軽量強化熱融着不織布およびその製造方法に関するものである。」(段落【0001】)
(ヲ)表1(段落【0034】)には、実施例1?5及び比較例1?5が記載され、その実施例5には、「引張伸び〔縦/横〕(%)」が6/90、20/9のものが記載されている。

2-3.刊行物1に記載された発明
ア 刊行物1の(ア)には、「所定広さのフィルターで排気口を覆い、周囲をマグネットホルダーによって押さえた排気口カバーの取り付け方法」が記載されており、この記載を「排気口カバー」に着目して整理すると、「所定広さのフィルターで排気口を覆い、周囲をマグネットホルダーによって押さえて取り付けた排気口カバー」ということができる。
イ 上記アの「排気口カバー」における「排気口」とは、同(イ)の「排気口(換気扇及びレンジフード等をいう)」との記載をみると、「レンジフードの排気口」ということができる。
ウ 刊行物1の(エ)の「フィルターの一例である難燃性の不織布10を鋏11等で所定長さに切断し、排気口の一例であるレンジフード12の周囲に被せ・・・・・・周囲を適当数のマグネットホルダー13によって固定する。」との記載をみると、
「フィルター」とは「難燃性の不織布」ということができ、この「難燃性の不織布」を「鋏11等で所定長さに切断し、排気口の一例であるレンジフード12の周囲に被せ・・・・・・周囲を適当数のマグネットホルダー13によって固定」しているから、上記アの「所定広さのフィルターで排気口を覆」うことは、「難燃性の不織布を鋏等で所定長さに切断し排気口を覆」うことといえる。
エ そうすると、刊行物1には、
「難燃性の不織布を鋏等で所定長さに切断しレンジフードの排気口を覆い、周囲をマグネットホルダーによって押さえて取り付けた排気口カバー。」の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されていると認める。

2-4.対比・判断
ア 本件訂正発明と刊行物発明とを対比する。
イ 刊行物発明の「排気口」、「排気口カバー」は、それぞれ、本件訂正発明の「通気口」、「通気口用フィルター部材」に相当する。
ウ-1 本件訂正発明の「幅広の不織布」とは、本件訂正特許明細書の段落【0007】に「・・・・・・本発明の一実施の形態に係る通気口用フイルター部材は、難燃性処理が行われた合成樹脂繊維からなる不織布素材10が使用されている。この不織布素材10は、通常幅広(例えば、1m×2m)となっている。・・・・・・。」と記載されているから、幅(横)方向に長い不織布といえる。
ウ-2 一方、刊行物発明の不織布は、「難燃性の不織布10を鋏11等で所定長さに切断」するものであり、刊行物1の(カ)の不織布が巻かれているという視認事項をあわせみると、切断する前の不織布は幅方向に長いもの、すなわち、幅広であるとみることが自然である。
ウ-3 また、刊行物発明では所定長さに切断した難燃性の不織布でレンジフードの排気口を覆うに当たって、不織布と排気口との間に何らかのものを介在させていないから、排気口は不織布で直接覆っているといえる。
そうすると、刊行物発明の「難燃性の不織布を鋏等で所定長さに切断しレンジフードの排気口を覆」うことは、本件訂正発明でいう「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの通気口に合わせて切断し、切断した不織布で・・・・・・直接覆って使用する・・・・・・この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたこと」といえる。
エ-1 本件訂正発明の不織布の「仮固定」について、本件訂正特許明細書の段落【0013】に「なお、不織布の周囲の固定は取っ手付き磁石15によって固定したが、鉤状フックを有する面状ファスナー、クリップ等の簡易固定具で不織布の周囲を通気口に固定する場合であっても本発明は適用される。」と記載されていることからみて、磁石による固定を含むものといえる。
エ-2 そうすると、刊行物発明のレンジフードの排気口を覆った不織布の「周囲をマグネットホルダーによって押さえて取り付けた」ものは、不織布の周囲を磁石により固定しているといえ、本件訂正発明でいう「不織布の周囲を通気口に仮固定し」たものといえる。
オ 刊行物発明の「難燃性の不織布」は、本件訂正発明の「不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるもの」と「不織布が難燃性」である点で共通している。
カ 以上を踏まえると、両者は、
「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの通気口に合わせて切断し、切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フィルター部材であって、
前記不織布として、難燃性のものを使用し、
この不織布により前記通気口を覆うことを可能とした通気口用フィルター部材。」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1:本件訂正発明ではレンジフードの通気口が角形であるのに対し、刊行物発明は排気口(通気口)を有するものの、その形状は不明である点。
相違点2:本件訂正発明では、「不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し、不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして」「通気口を覆う」のに対して、刊行物発明では、「不織布として、難燃性のものを使用し」て排気口(通気口)を覆うものの、かかる事項を有していない点。
キ そこで、まず相違点1について検討する。
ク 排気口(通気口)の形状は、周囲から油煙等を吸い込むことができる形状であればよいから、刊行物発明の排気口(通気口)の形状を角形とすることは当業者であれば適宜なし得ることである。
なお、刊行物1の(カ)の視認事項で述べたように、刊行物1の第2図をみると、排気口(通気口)が角形であることを窺うことができるから、この相違点1は実質的なものでない可能性もある。
ケ 次に、相違点2について検討する。
コ 相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を整理すると、「不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で」あることと、「不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして通気口を覆う」ことの2の事項を含んでいる。
この2の事項は、一軸方向とは直交する方向へ伸ばしたときに該一軸方向にのみ非伸縮性の不織布、すなわち、「伸ばしたときに一軸方向に縮みが抑制された不織布」で通気口を覆う、つまり、「レンジフードの通気用フィルター部材として使用する」ということができる。
そこで、刊行物2?8において、この「伸ばしたときに一軸軸方向に縮みが抑制された不織布をレンジフードの通気用フィルター部材として使用する」という事項が導出できる記載があるかについて、検討する。
サ-1 刊行物2について
刊行物2には、その記載(ス)に「両方向に引張られたような状態で装着されている・・・・・・図5に示すような形状のフィルター21では中央部分の幅が両端に比べて片側でA寸法だけ狭くなる。」と従来技術の問題点が記載され、また、実施例に関する、同(セ)に「フィルター部材9は図1に示すように中央部分が両端に比べて片側でA寸法だけ幅広く形成されているために、装着において左右に引張った状態でも従来のように中央部分が狭くなり、開口2全体を防ぐことができないということはない。」と記載されている。これらの記載からすると、刊行物2では、前記従来技術の問題点を解決するための「換気扇用フィルター部材」は、左右に引っ張った状態でも従来のように中央部分が狭くなり、開口全体を防ぐことができないことが生じないように、予め中央部分が両端に比べて片側でA寸法だけ幅広く形成しておくものであるから、使用する不織布は直交する2つの軸方向においてともに伸縮性を有した不織布を用いるということが前提であるといえる。
よって、刊行物2には、換気扇用フィルター部材の不織布に関し、装着に当たり左右に引っ張った状態で縮みを抑制するという技術思想は記載されていないとみることが自然である。
サ-2 刊行物3について
刊行物3には、不織布に関し、その記載(チ)に「若干小さいシート状フィルターを伸ばした状態で取り付けできる」との記載があるから、当該フィルターは少なくとも一軸方向への伸縮性を有しているといえるものの、この軸と直交する方向についての伸縮性についての明言はないし、この直交する方向についての収縮性の有無を推定させる記載も見当たらない。
ところで、刊行物3には、その記載(タ)に、「シート状フィルター2が油煙の吸着で重くなっても、シート状フィルターに弛みや垂れ下がりが発生し難いものとなる」ことが記載されている。しかし、この記載に係る弛みや垂れ下がりは、テープ材3cの係止爪がシート状フィルターに食い込み状態で係止されることに関連して生じるものであって、シート状フィルターが油煙の吸着で重くなったために、その自由端部がずれて発生する弛みや垂れ下がりを防止していると解される。よって、弛みや垂れ下がりが防止されるとの効果は、シート状フィルターの伸縮性の有無あるいは、伸縮の方向性により得られるものではない。
よって、刊行物3には、レンジフード用フィルターとして用いられている不織布に関して一軸方向への伸縮性を有していることだけが開示され、この1軸方向と直交する方向についての収縮性については何ら開示がされていないといえる。
サ-3 刊行物4について
刊行物4は、「特に感熱性孔版印刷用原紙の支持体用途に適するメルトブロー不織布およびその製造方法に関する」発明であって、伸ばしたときに一軸方向に縮みが抑制された不織布をフィルター部材として使用することは開示されていない。
すなわち、刊行物4の記載(ノ)には、実施例5の不織布について、「フィルター用途、ワイパー用途等の産業資材用途に適したものである」と記載がされているが、実施例5の不織布は、伸度が縦14パーセント、横17パーセントであって、一軸方向の伸縮性が抑制されてかつこれと直交する方向へ伸縮するものとはいえない。また、同(ネ)に記載の比較例2は、伸度が縦20パーセント、横153パーセントで、一軸方向への伸縮性が大きい不織布ではある。しかし、比較例2の強力比は6.0とされており、同(ヌ)には、強力比について、「0.5?4である必要がある」とされていることからすれば、刊行物4には比較例2の不織布について何らかの用途に用いることは示されていない。
なお、同(ニ)には、「メルトブロー不織布は・・・・・・低配向度に起因する低強力および高伸度のため、その適用範囲はフィルター・・・・・・等の狭いものに限られている。・・・・・・本発明の目的は、メルトブローブロー不織布の用途を拡大するため、さらなる細繊度、良好な均一性等の特徴を有しながら熱安定性に優れ、測定方向によらず高強力なメルトブロー不織布およびその製造方法を提供することにある。」と記載されており、メルトブロー不織布はフィルターに使用されていたことを示す一般的な記載があるが、この記載から、複数個記載された実施例及び比較例の中から比較例2に着目して、比較例2の不織布をレンジフードを覆うフィルターに用いることを教示するものは何ら見当たらない。
サ-4 刊行物5について
刊行物5には、その記載(マ)、(ミ)及び(ム)をみると、衣類の締めつけ材及びそれらの製造方法に関する発明が記載されており、不織布をレンジフードを覆うフィルター用途に用いることについての言及はない。
サ-5 刊行物6について
刊行物6は、その記載(ヤ)によれば「不織布で構成された吸水性布帛」に関するものであり、同(ヨ)の「[発明の効果]」の項目には、「水の吸収を必要とする各種用途、たとえば肌着やスポーツ衣料などの衣料用、ワイピングクロスなどのクリーナー用、モップなどの掃除用、壁材、床材などの建装用、シーツ、マットなどの寝装用、ガーゼ、包帯、オムツ、ナプキンなどの医療衛生用、カバー類、各種敷物類などに極めて好適な素材である」との記載があるものの、フィルター部材として使用することについての言及はなく、レンジフードを覆うフィルター部材に吸水性が必要とされる技術的必然性は見当たらない。
サ-6 刊行物7について
刊行物7は、その記載(ラ)の請求項2に係る記載を独立形式に改めてみると、「換気扇本体の開口を塞ぐに十分な所定寸法となり得るように形成したフィルター膜の少なくとも相対両端二辺部分に止着具を固着し、上記フィルター膜を使用時に延伸可能なように長手方向乃至短手方向に蛇腹状に圧縮形成したことを特徴とする換気扇用フィルター。」となり、このフィルター膜として、同(ル)には、「不織布シート」である旨が記載されおり、また、同(レ)には、長手方向両端部を持って網部を外側から被覆しつつ長手方向に拡開させて幅を調節し、換気扇本体に装着させることが記載されているから、「一軸方向にのみ延伸可能な不織布シートを用いた換気扇用フィルターを延伸する方向に伸ばして使用すること」が記載されているとみることができる。しかし、延伸は不織布シート自体を延伸させるのではなく、蛇腹状の圧縮を拡開させて生じるものであるから、刊行物7は、換気扇フィルターとして用いられている不織布が伸縮性を有していることすら開示していない。
サ-7 刊行物8について
刊行物8は、その記載(ワ)をみると、不織布がフィルター等の産業用資材として用いられていることが記載されているものの、刊行物8のいずれの記載にも、複数個記載された実施例及び比較例の中から実施例5に着目して、実施例5の不織布をレンジフードを覆うフィルターに用いることを教示するものは見当たらない。
シ そうすると、刊行物2?8のいずれにも「伸ばしたときに一軸軸方向に縮みが抑制された不織布をレンジフードの通気用フィルター部材として使用する」という事項が導出できる記載はなく、これら刊行物をいかように組み合わせたとしても上記事項を導出することもできない。
ス そうすると、相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項は、当業者が容易に想到することができたものではない。
そして、本件訂正発明は、上記発明特定事項により、本件訂正特許明細書の「通気口を覆う不織布に一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用したので、幅広の不織布素材から切り出すのが極めて容易である。そして、通気口にも取付け易く、伸縮性のある方向であれば、不織布を多少短く切っても使用できるという利点がある。」(段落【0014】)という顕著な効果を奏しているものと認められる。
セ したがって、本件訂正発明は、上記刊行物(1)?(8)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、他に本件訂正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由も見当たらない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第1項、第3項乃至第5項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
通気口用フイルター部材
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、レンジフードの通気口を覆って使用する通気口用フイルター部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
換気扇やレンジフードは、周囲からの油煙を吸い込むので、汚れが酷くこれを掃除するのは大変であるので、通気口に取替え可能な不織布等からなるフィルターを取付けることが行われている。特公平6-7895号公報には、市販されている幅広の不織布から適当広さの不織布を切り出し、前記した通気口を切り出した不織布で直接覆い、周囲をマグネット等の仮固定手段で通気口の周囲に固定する排気口(即ち、通気口)へのフィルター取付け方法が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、公報記載の排気口へのフィルター取付け方法に使用されている不織布には平面方向に伸びない不織布を使用しているので、取付けようとする通気口に合わせて不織布を切断する必要があり、所定の幅より短い場合にはフィルターとして使用することができず、長い場合には再度切断し直す必要があり、極めて面倒であるという問題があった。本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、比較的簡便に取付けが可能な通気口用フイルター部材を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
前記目的に沿う請求項1記載の通気口用フイルター部材は、幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し、切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フイルター部材であって、前記不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し、前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして、この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたことを特徴とする通気口用フイルター部材である。ここで、一軸方向にのみ非伸縮性の不織布とは、特定の方向には伸びないが、他の方向、特に非伸縮性を有する方向と直交する方向には不織布自体が伸びる不織布をいう。
【0005】
請求項1記載の通気口用フイルター部材においては、一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用しているので、角形の通気口の一方の幅aにのみ長さを合わせて不織布を切断し、通気口の他方の幅bについては、概略長さで不織布を切断してフィルター部材を用意する。次に、フィルター部材となる不織布の所定の幅aで切断した側の端部を、通気口の幅aの部分に合わせて固定し、該不織布の反対側の端部を、幅aの通気口の反対側の端部に固定する。この場合、概略長さで切断した不織布が幅bより短い場合には、不織布を少し引っ張って伸ばすことにより通気口全体を覆い、概略長さで切断した不織布が幅bより長い場合には、一旦不織布の端部を固定した後、そのはみ出し部分を切断する(なお、余剰部分を折り曲げてもよい)。
【0006】
【発明の実施の形態】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。ここに、図1は本発明の一実施の形態に係る通気口用フイルター部材の取付け状態を示す斜視図、図2は同通気口用フイルター部材の平面図、図3は比較例に係る通気口用フイルター部材の使用状態説明図である。
【0007】
図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る通気口用フイルター部材は、難燃性処理が行われた合成樹脂繊維からなる不織布素材10が使用されている。この不織布素材10は、通常幅広(例えば、1m×2m)となっている。この不織布素材10は、図2において矢印Aで示す幅方向には伸縮性がなく、矢印Bで示す長さ方向には約120?140%程度まで自由に伸びて縮む性質を有している。
【0008】
このような不織布の製造方法としては、比較的伸びにくいポリエステル等の繊維を一方向に並べて不織布とすることによって製造可能であるし、場合によっては自由方向に繊維が並んだ不織布に一方向に伸びにくい繊維を多数平行に入れて製造してもよいし、その他の周知の方法によって製造してもよい。
【0009】
この不織布素材10から、図1、図2に示すように縦横の内側の幅がa×bであるレンジフード11の通気口12に装着する不織布13を切り出す場合には、縦方向については幅aの長さと同一か又は極めて近い長さcで切断する。そして、横方向については、好ましくは通気口12の幅bより少し短い長さdで切断する。これによって、通気口12を覆う不織布13が切り出されるが、縦方向においては通気口12の幅aと略等しいので、通気口12の幅aの一方側の端部14に一致させた状態で簡単に取っ手付き磁石15によって固定できる。この状態で、不織布13を通気口12に向けて張り付けるが、不織布13の幅dが通気口12の幅bより短い場合には、不織布13を横方向に引いて通気口12の幅bにその端部を合わせた状態で取っ手付き磁石15で固定する。
【0010】
不織布13が弛んだ状態で取付けられている場合には、伸縮性のないA方向に不織布13を引っ張った状態で固定することによって、見栄えが良く不織布13を通気口12に固定できる。また、不織布13の幅dが通気口12の幅bより長い場合には、再度切断して適当な長さにするか、あるいは不織布13の余分な端部を内側に折り曲げた状態で取っ手付き磁石15によって固定する。なお、取っ手付き磁石15の内面側には鉄板が設けられているものとする。
【0011】
ここで、図3(A)、(B)に示すように、比較実験のために、A、B何れの方向にも自由に伸びる不織布16を使用し、その周囲を取っ手付き磁石15で固定した状態でフィルター部材として使用したところ、時間の経過と共に油等の汚れが不織布16に付着し、通気口12の下方に垂れ下がることが確認された(図3(A)参照)。また、レンジフード11のファンの風力が強い場合には、ファンによって内側に吹き寄せられる(図3(B)参照)。従って、自由に伸びる不織布16の場合には、中央部分が上下に弛み易いという欠点が判明した。
【0012】
一方、直交する何れの方向にも伸びない不織布を使用して通気口12を覆った場合には、図3(A)、(B)のようには中弛みはしないが、所定の寸法に切断しないと通気口12に収まらず、収まっても丁度に取付けることは難しく、特に、幅が短い場合には全く使用できないという欠点があった。
【0013】
なお、不織布の周囲の固定は取っ手付き磁石15によって固定したが、鉤状フックを有する面状ファスナー、クリップ等の簡易固定具で不織布の周囲を通気口に固定する場合であっても本発明は適用される。
【0014】
【発明の効果】
請求項1記載の通気口用フイルター部材は以上の説明からも明らかなように、通気口を覆う不織布に一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用したので、幅広の不織布素材から切り出すのが極めて容易である。そして、通気口にも取付け易く、伸縮性のある方向であれば、不織布を多少短く切っても使用できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る通気口用フイルター部材の取付け状態を示す斜視図である。
【図2】同通気口用フイルター部材の平面図である。
【図3】比較例に係る通気口用フイルター部材の使用状態説明図である。
【符号の説明】
10 不織布素材
11 レンジフード
12 通気口
13 不織布
14 端部
15 取っ手付き磁石
16 不織布
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し、切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フイルター部材であって、
前記不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し、
前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして、この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたことを特徴とする通気口用フイルター部材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2012-12-06 
出願番号 特願平8-287613
審決分類 P 1 41・ 85- Y (B01D)
P 1 41・ 856- Y (B01D)
最終処分 成立  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 吉水 純子
斉藤 信人
佐藤 陽一
真々田 忠博
登録日 1998-06-19 
登録番号 特許第2791553号(P2791553)
発明の名称 通気口用フイルター部材  
代理人 村林 ▲隆▼一  
代理人 村林 ▲隆▼一  
代理人 安倍 逸郎  
代理人 井上 裕史  
代理人 栗本 知子  
代理人 栗本 知子  
代理人 安倍 逸郎  
代理人 井上 裕史  

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