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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1268661
審判番号 不服2011-19453  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-08 
確定日 2013-01-10 
事件の表示 特願2008-22016「玉軸受の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年5月22日出願公開、特開2008-116057〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成9年12月19日に出願した特願平9-351318号の一部を平成20年1月31日に新たな特許出願としたものであって、平成23年7月8日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年9月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成23年9月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年9月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
内輪と外輪及び該内輪と外輪との間に保持器によって転動自在に設けられた転動体を有し、前記内輪と外輪及び転動体により形成される空間内に潤滑剤含有ポリマを充填してなる玉軸受の製造方法において、
前記保持器によって転動自在に設けられた転動体を含む前記内輪と外輪の側端面に当て、前記内輪と前記外輪をその軸方向の両側からゲートを有する治具によって挟持し、
この挟持状態で前記内輪の側端面と前記外輪の側端面から該内輪の内側及び該外輪の内側に入り込む治具の部分と前記内輪と前記外輪及び前記転動体により形成される空間内に前記ゲートから射出成形によって前記潤滑剤含有ポリマを充填し、該潤滑剤含有ポリマを前記空間内で高圧で充填することで連結して一体化し、
一体化した潤滑剤含有ポリマの側端面を前記内輪の内側及び外輪の内側に入り込む治具部分により、前記内輪の側端面及び外輪の側端面より内側にへこみ形成し、この潤滑剤含有ポリマの側端面のへこみ量が、アキシャル方向最大変位量、前記内輪の外周面の角部のR面取りの半径並びに前記外輪の内周面の角部のR面取りの半径のうちで最も大きいものより大きくなるように設定して形成したことを特徴とする玉軸受の製造方法。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
内輪と外輪及び該内輪と外輪との間に保持器によって転動自在に設けられた転動体を有し、前記内輪と外輪及び転動体により形成される空間内に潤滑剤含有ポリマを充填してなる玉軸受の製造方法において、
前記保持器によって転動自在に設けられた転動体を含む前記内輪と外輪の側端面に当て、前記内輪と前記外輪をその軸方向の両側からゲートを有する治具によって挟持し、この挟持状態で前記内輪の側端面と前記外輪の側端面から該内輪の内側及び該外輪の内側に入り込む治具の部分と前記内輪と前記外輪及び前記転動体により形成される空間内に前記ゲートから射出成形によって平均分子量1x10^(4)?1x10^(6)のポリエチレン、平均分子量1x10^(6)?5x10^(6)のポリエチレン、平均分子量700?1x10^(4)のポリエチレンワックス、潤滑油50?90重量%とした潤滑剤含有ポリマを該ポリマの融点以上で加熱して可塑化した混合の状態で充填し、該潤滑剤含有ポリマを前記空間内で高圧で充填することで連結して一体化し、
一体化した潤滑剤含有ポリマの側端面を前記内輪の内側及び外輪の内側に入り込む治具部分により、前記内輪の側端面及び外輪の側端面より内側にへこみ形成し、この潤滑剤含有ポリマの側端面のへこみ量が、アキシャル方向最大変位量、前記内輪の外周面の角部のR面取りの半径並びに前記外輪の内周面の角部のR面取りの半径のうちで最も大きいものより大きくなるように設定して形成したことを特徴とする玉軸受の製造方法。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記潤滑剤含有ポリマを充填し」について、「平均分子量1x10^(4)?1x10^(6)のポリエチレン、平均分子量1x10^(6)?5x10^(6)のポリエチレン、平均分子量700?1x10^(4)のポリエチレンワックス、潤滑油50?90重量%とした潤滑剤含有ポリマを該ポリマの融点以上で加熱して可塑化した混合の状態で充填し」(下線部のみ)とすることにより、その構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「この発明の潤滑剤ポリマは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン等の基本的に同じ化学構造を有するポリオレフィン系樹脂の群から選定された合成樹脂に、潤滑剤としてポリα-オレフィン油のようなパラフィン系炭化水素油、ナフテン系炭化水素油、鉱油、ジアルキルジフェニルエーテル油のようなエーテル油、フタル酸エステルのようなエステル油等の何れか単独若しくは混合油の形で混ぜて調製した原料を、樹脂の融点以上で加熱して可塑化し、その後冷却することで固形状にしたものであり」(段落【0009】参照)、「前記潤滑剤含有ポリマの組成比は、全重量に対してポリオレフィン系樹脂10?50重量%、潤滑剤90?50重量%である。ポリオレフィン系樹脂が10重量%未満の場合は、あるレベル以上の硬さ・強度が得られず、軸受の回転などによって負荷がかかった時に初期の形状を維持するのが難しくなり、軸受の内部空間から脱着する等の不具合を生じる可能性が高くなる。また、ポリオレフィン系樹脂が50重量%を越える場合(つまり、潤滑剤が40重量%未満の場合)は、軸受への潤滑剤の供給が少なくなり、軸受の寿命が短くなる。」(段落【0010】参照)、「前記合成樹脂の群は、基本構造は同じでその平均分子量が異なっており、700?5×10^(6)の範囲に及んでいる。平均分子量700?1×10^(4)というワックス(ex ポリエチレンワックス)に分類されるものと、平均分子量1×10^(4)?1×10^(6)という比較的低分子量のものと、平均分子量1×10^(6)?5×10^(6)という超高分子量のものとを、単独若しくは必要に応じて混合して用いる。」(段落【0011】参照)、及び「本実施形態で使用する潤滑剤含有ポリマ5の組成は、
(1)高密度ポリエチレン(比較的低分子量に分類):10wt%
(2)超高分子量ポリエチレン(超高分子量に分類):12.5wt%
(3)ポリエチレンワックス(ワックスに分類):2.5wt%
(4)鉱油:75wt%
潤滑剤含有ポリマの硬さ:75HD_(A)であり」(段落【0030】参照)と記載されている。
結局、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の原出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開昭55-109824号公報
(2)刊行物2:特開平8-121490号公報
(3)刊行物3:特開平5-312217号公報
(4)刊行物4:特開平6-249247号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「シールレスグリース封入転がり軸受」に関して、図面(特に、第8図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、拗音及び促音は小書きで表記した。
(a)「この発明はグリース封入転がり軸受における封入グリースのシール部材を不要化し得るシールレスグリース封入転がり軸受を提供することを目的としている。
一般に、グリース封入転がり軸受においては、封入グリースの流出防止と異物侵入防止のため、シール部材を別途必要としていたものである。
第1図はその代表的な従来例を示すものであって、(1)は内輪、(2)は外輪、(3)はボール、(4)はリテナー、(5)はシール、(6)は潤滑グリースを示している。
上記第1図からも明らかな様に、シール(5)は鉄板とゴムシールとからなる成形品であり、かつ、内外輪(1)(2)にはシール(5)を装着する溝加工を必要としていたものであるから、加工が複雑となり、コストアップとなっていた。
しかも、巾寸法の小さい軸受にはシールの装着が困難となり、コストアップとなる欠点があった。
この発明は上記欠点に鑑み提供されたものであって、第2図乃至第5図に実施例を示しており、各図において、(11)は内輪、(12)は外輪、(13)は転動体、(14)はリテナー、(15)は本発明に係る潤滑組成物を示している。
上記潤滑組成物(15)は、グリースとプラスチックとの複合物とするもので、特にその外表面(a)をプラスチックの分布密度の高い硬化層となるように処理するものである。
即ち、軸受に充填した潤滑組成物(15)の軸方向断面におけるグリース(A)とプラスチック(B)の分布密度が例えば第6図に示す様な比率となるように処理する。
尚、上記潤滑組成物(15)はグリース(A)に対するプラスチック(B)の混合比率を多くする程、硬化度が高くなるもので、使用するグリース(A)としては、リチウム石鹸鉱油系グリース、ナトリウム石鹸鉱油系グリース、アルミニウム石鹸鉱油系グリース、リチウム石鹸ジエステル系グリース、リチウム石鹸ジエステル鉱油系グリース、非石鹸ジエステル系グリース等が使用でき、プラスチック(B)としては、ポリエチレン粉末、超高分子量ポリエチレン(分子量1×10^(6)?4×10^(6))粉末等が使用でき、これらを(A):(B)=99?5wt%:1?95wt%の割合の範囲で混合加熱(例えば、150?200℃で約30分間)すれば固形化し、その組成の差により、多孔質、ロウ状、ゼリー状となる。従って、軸受内部に充填した潤滑組成物(15)の外表面(a)におけるプラスチック(B)の分布密度を高くなるように処理してやれば、硬化層が形成でき、シールレスとなる。
次に第7図は、上記外表面(a)の処理に代えてプラスチック薄板(16)を用意し、これを潤滑組成物(15)の充填部の外表面形状に適合して加熱による一体融合化等により結合する場合を示しており、この場合も、上記プラスチック薄板(16)によってシールレスを達成せしめるものである。
尚、潤滑組成物(15)の充填は、第8図に示す様に転動体(13)と転動体(13)の間のスペースにだけ入れるようにするのが好ましい。即ち、潤滑組成物(15)の外表面(a)がリテナー(14)のポケット部の外面と略一致する程度に充填する。このようにしておくと、潤滑組成物(15)が収縮した際、内輪(11)の肩部に接触する面積が減少し、回転トルクを小さくすることができるのである。
以上説明した様にこの発明は軸受内部に充填する潤滑組成物をグリースとプラスチックとの複合物とし、その外表面部をプラスチックの分布密度の高い硬化層となるように処理したから、従来品のような鉄板及びゴムシール部品及び軸受軌道輪にシールを装着する溝加工を不要とでき、単純化されコストダウンを図ることができる。」(第1頁左下欄第16行?第2頁左下欄第8行)
上記摘記事項(a)に記載された「潤滑組成物(15)の充填は、第8図に示す様に転動体(13)と転動体(13)の間のスペースにだけ入れるようにするのが好ましい。」(第2頁右上欄第13?15行)は、第8図の記載からみて、「潤滑組成物(15)の充填は、第8図に示す様に内輪(11)と外輪(12)及び転動体(13)の間のスペースにだけ入れるようにするのが好ましい。」の明らかな誤記と認められるから、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
内輪(11)と外輪(12)及び該内輪(11)と外輪(12)との間にリテナー(14)によって転動自在に設けられた転動体(13)を有し、前記内輪(11)と外輪(12)及び転動体(13)により形成されるスペース内に潤滑組成物(15)を充填してなる転がり軸受の製造方法において、
グリース(A)99?5wt%と、ポリエチレン粉末、超高分子量ポリエチレン(分子量1×10^(6)?4×10^(6))粉末等のプラスチック(B)1?95wt%の割合の複合物からなる潤滑組成物(15)を混合加熱して固形化して、転がり軸受内部に充填し、
前記潤滑組成物(15)の充填は、内輪(11)と外輪(12)及び転動体(13)の間のスペースにだけ入れるように、潤滑組成物(15)の外表面(a)がリテナー(14)のポケット部の外面と略一致する程度に充填する転がり軸受の製造方法。

(刊行物2)
刊行物2には、「コンプレッサ用転がり軸受」に関して、図面(特に、図2を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はコンプレッサ用転がり軸受に関し、特に、外部からの給油なしに長期間にわたり安定した作動を維持できるコンプレッサ用転がり軸受に関する。」(第2頁第1欄第8?12行、段落【0001】参照)
(c)「【0007】
【作用】本発明による潤滑油含有ポリマ部材は、自身に多量の潤滑油を含みながら射出成形することが可能なものである。これを転がり軸受の軸受空間内に射出成形機で封入して成形する。その成形の際、合成樹脂がその骨格中に潤滑油を取り込んだ状態で固化する。それゆえ、成形品は射出原料の当初の含油量を維持した状態で得られる。この潤滑油含有ポリマ部材に保持されている潤滑油が、軸受の作動中に経時的に徐々にしみ出して被潤滑部位である内輪,外輪と転動体間の各接触面に供給され、長期間にわたって安定な潤滑が維持される。
【0008】本発明を更に詳細に説明する。本発明の潤滑油含有ポリマ部材に使用できる合成樹脂としては、高い吸油性を持つとともに射出成形に適した材料であることが望ましく、具体的には、ポリエチレン,ポリプロピレンをはじめポリブチレン,ポリメチルペンテン等の基本的に同じ化学構造を有するポリオレフィン系ポリマの群から選定して単独もしくは混合した射出成形可能な熱可塑性樹脂が好適である。
【0009】ポリエチレンとしては、射出成形可能な低分子量から中分子量程度のもの(分子量10000?1000000)が好適である。更に強度向上を目的として超高分子量ポリエチレン(1000000?6000000)を加えても良い。しかしながら超高分子量ポリエチレンの量が多すぎると射出原料が溶融した時点で粘度が高くなりすぎて射出ができなくなるので、超高分子量ポリエチレンの添加量としては全体の重量に対して10重量%以下がよい。
【0010】ポリプロピレンは、自己分解のしやすさから超高分子量のものは存在しない。また、本発明のように10?90重量%という多量の潤滑油を含有した状態では、使用可能な硬さに固化させることができない。そこで硬度向上を目的として、超高分子量ポリエチレンを添加する必要がある。本発明の潤滑油含有ポリマ部材に使用できる潤滑油としては、鉱油,オクタデシルジフェニルエーテル等のアルキルポリフェニルエーテル油,エイコシルナフタレン等のアルキルナフタレン油,ポリα-オレフィン油などの比較的極性の低い油が好適である。その理由は、射出原料の母材となるポリエチレンやポリプロピレンは極性が低いためにポリグリコール油,ポリオールエステル油,エステル油等の極性の高い潤滑油とは親和性が低いためである。したがって、射出原料はこれら極性の高い潤滑油を多量に保持することが困難であり、実際に使用しても潤滑油のしみ出しが早く、短時間で潤滑不良が起こる。」(第2頁第1欄第49行?第2欄第43行、段落【0007】?【0010】参照)
(d)「本発明に係る潤滑油含有ポリマ部材は、前記合成樹脂と前記潤滑油とを混合してなる射出原料を、内輪,外輪,転動体の間に介在する軸受空間内に射出して所望の形状に成形することにより得られる。
【0012】その射出原料の各成分配合割合は、射出原料全重量に対して合成樹脂を10?90重量%の範囲内、潤滑油を10?90重量%の範囲内であるが、好ましくは合成樹脂20?40重量%、潤滑油60?80重量%である。この射出原料の潤滑油配合割合がそのまま潤滑油含有ポリマ部材の含油量となる。潤滑油配合割合が10重量%未満の場合は絶対的に潤滑油の量が不足し、コンプレッサ内に装着された軸受の各被潤滑部位に潤滑油含有ポリマ部材から供給されるべき潤滑油が早期に枯渇し、軸受の耐久性が損なわれてしまう。反対に、潤滑油配合割合が90重量%を越える場合は、固化後の潤滑油含有ポリマ部材に実用上必要とされる機械的強度を確保することが困難である。この理由により、本発明の潤滑油含有ポリマ部材における射出原料全重量に対する潤滑油の含有割合を10?90重量%の範囲内とした。」(第2頁第2欄第46行?第3頁第3欄第16行、段落【0011】及び【0012】参照)
(e)「【0015】本発明のコンプレッサ用転がり軸受における、潤滑油含有ポリマ部材の射出原料調製の要領を次に説明する。先ず、上記の配合割合で潤滑油中に所定の合成樹脂並びに必要に応じて各種添加物を加えて均一に混合し、その混合物を合成樹脂の融解温度以上の温度で一様に溶解させる。その後冷却して、合成樹脂が固化し始めた時点で粉砕機を用いて均一なペースト状あるいは粉末状の混合物とすることにより射出原料が得られる。
【0016】なお、潤滑油と合成樹脂とを混合する際に、潤滑油の種類によっては、所定量の合成樹脂を一度に加えると両者が均一には混合しないことがある。その場合には、合成樹脂を複数回にわたって潤滑油と混合させるとよい。例えば、最初に全配合量の10?40重量%程度を潤滑油に混合して加熱溶解し、冷却により固化し始めた時点で残部を添加し、粉砕機を用いて均一なペースト状あるいは粉末状の混合物とすることもできる。合成樹脂はこうした作業の容易さから、粉末状のものを用いるのが良い。
【0017】本発明に係る潤滑油含有ポリマ部材は、上記のようにして調製した射出原料を転がり軸受内に射出成形して充填することにより得られる。その際使用する射出成形機は、計量部がプランジャ式になっている必要がある。すなわち、インラインスクリュウ式の場合は射出原料中の潤滑油量が多くなるとシリンダが滑ってしまい、正しい計量ができなくなるので、そのような現象を防止するべくプランジャ式射出成形機を用いることが必要である。」(第3頁第3欄第37行?第4欄第13行、段落【0015】?【0017】参照)
(f)「【0020】本発明において対象とする転がり軸受は、コンプレッサ用転がり軸受として使用可能な全ての種類のラジアル玉軸受,ラジアルころ軸受であり、外輪と内輪と転動体との接触態様もラジアルコンタクト,アンギュラコンタクト,自動調心のいずれかを問わない。また、保持器の種類もプレス保持器,もみ抜き保持器,成形保持器,ピン形保持器等のいずれでも良く、このような保持器を有しないタイプをも包含している。また、シールやシールドを有するものにも有しないものにも全て適用できる。」(第3頁第4欄第35?44行、段落【0020】参照)
(g)「【0021】
【実施例】以下に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1に示すものは、冷蔵庫用のコンプレッサに装着して使用する転がり軸受の一実施例である。ラジアル玉軸受に適用した場合の実施例で、外輪11と、内輪12と、それらの間に介在する複数個の転動体(玉)13と、それらの転動体13同士を円周等間隔で保持する保持器14を備え、その外輪11と内輪12とに挟まれた空間内には、転動体13と保持器14とが占める箇所以外の空間に、潤滑油含有ポリマ部材15が充填されている。
【0022】外輪11と内輪12と転動体13と保持器14とは、いずれも例えばステンレス鋼SUS440C製である。この実施例の潤滑油含有ポリマ部材15は次のようにして形成したものである。
(1)射出原料の調製:低分子量ポリエチレン〔三菱油化(株)製、商品名PZ50U〕7.0gと超高分子量ポリエチレン〔三井石油化学工業(株)製、商品名ミペロンXM220〕1.5gとからなる合成樹脂合計8.5gに対しパラフィン系鉱油〔日本石油(株)製、商品名FBK RO100〕70.0gを混合して、ニーダを用いて温度150℃に加熱しながら均一に相溶させた後、放冷して固化させた。
【0023】こうして得られた固化物と、前記超高分子量ポリエチレン7.5g及び低分子量ポリエチレン14.5gとを粉砕機に移し、粉砕しつつ混合して均一な半ペースト状の射出原料を得た。なお、射出原料の含油率は70重量%であった。(略)
(2)軸受内への充填:図1に示すラジアル玉軸受を金型中に予め装着しておく。その軸受の内部空間にプランジャ式射出成形機を用いて前記の射出原料を射出成形した。これによって、外輪11と内輪12とに挟まれた空間内に、転動体13と保持器14とが占める箇所を除いて、潤滑油含有ポリマ部材15が充填され、これを放冷固化して図1に示すコンプレッサ用転がり軸受得られた。
【0024】得られた軸受における潤滑油含有ポリマ部材15の含油率を確認するべく次の試験を実施した。上記射出原料をプランジャ式射出成形機を用いて適宜の型内に射出し、潤滑油含有ポリマ部材15と同一組成の複数個の試験片を作成した。この試験片の含油率を測定したところ68.0?69.0重量%であり、これによって射出原料における含油率70重量%がほぼ維持されていることが確認された。」(第3頁第4欄第48行?第4頁第6欄第8行、段落【0021】?【0024】参照)
(h)「【0025】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のコンプレッサ用転がり軸受は、軸受空間内に潤滑油を10?90重量%含有する合成樹脂からなる潤滑油含有ポリマ部材を充填したものであり、特に吸油性能の高いポリオレフィン系ポリマと潤滑油との混合物としたため多量の潤滑油を成形固化後も樹脂骨格中に保持することができ、この保持されている潤滑油が軸受の運転時に長期間にわたり経時的に徐々にしみ出して軸受内を安定して潤滑する結果、従来のコンプレッサ用転がり軸受におけるような潤滑油量の不足による潤滑不良およびそれに伴う軸受軌道面の早期剥離現象を防止できるという効果を奏する。特に、保守の困難な密閉式コンプレッサ用の転がり軸受として有用である。」(第4頁第6欄第9?22行、段落【0025】参照)

(刊行物3)
刊行物3には、「撚線機用グリース封入転がり軸受」に関して、図面(特に、図1を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(i)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、バンチャー撚線機等に装着される撚線機用グリース封入転がり軸受に関する。」(第2頁第1欄第10?13行、段落【0001】参照)
(j)「【0010】
【実施例】この発明に用いる潤滑グリースは、特に限定されるものでなく、たとえば石けんまたは非石けんで増稠した潤滑グリースとして、リチウム石けん-ジエステル系、リチウム石けん-鉱油系、ナトリウム石けん-鉱油系、アルミニウム石けん-鉱油系、リチウム石けん-ジエステル鉱油系、非石けん-ジエステル系、非石けん-鉱油系、非石けん-ポリオールエステル系、リチウム石けん-ポリオールエステル系等のグリースが挙げられる。
【0011】この発明に用いる超高分子量ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンもしくはこれらの共重合体または混合物であってよく、さらにまた、これらの立体特異性重合によるアイソタクチック構造を有する結晶性、高分子量のものであってよい。たとえば、ポリブテンのアイソタクチック構造の高分子量重合体は、その融点が126℃であり、他のポリオレフィンとの相溶性もよい。市販の超高分子量ポリオレフィンとしては、粉末状で分子量2×10^(6)(粘度法)、融点136℃、平均粒径30μmの三井石油化学工業社製:ミペロンXM-220が挙げられる。
【0012】なお、この発明においては、固形グリースの油性面に滲出する油の離油率を適度に抑えるため、たとえばワックス(ロウ)のうち固体ワックスまたはこれを含む低分子ポリオレフィンなどの添加物を配合してもよい。上記固体ワックスとしては、カルナバロウ、カンデリナロウ等の植物性ワックス、ミツロウ、虫白ロウ等の動物性ワックス、またはパラフィンロウなどの石油系ワックスが挙げられる。このような添加剤の潤滑組成物中の配合割合は1?50wt%である。この配合割合が多い程、離油率が抑制でき、油が滲み出る速度が小さくなる。しかし、50wt%を越える多量では、潤滑組成物の強度を低下させることとなるので好ましくない。
【0013】前記した潤滑グリースに、超高分子量ポリオレフィンおよび油の滲み出しを抑制するための添加剤を分散保持させるには、上記材料を混合した後、超高分子量ポリオレフィンがゲル化を起す温度以上であり、かつ潤滑グリースの滴点未満の温度でたとえば150?200℃程度に加熱し、その後冷却して固形化し、油性面すなわち油が滲み出る面を有する固形グリースとする。
【0014】〔実施例〕粒径30μmの超高分子量ポリオレフィン(三井石油化学工業社製:ミペロン)20部、低分子量ポリエチレンを含有する固形ワックス(三井化成社製:サンワックス)6部および滴点183℃の潤滑グリース(リチウム石けん-鉱油系)74部を原材料として混合し、この混合物を図1に示すように、軸受6203LLB(深溝単列のラジアル玉軸受、内径17mm、合成ゴムシール付き)の内輪1、外輪2および転動体3を保持する保持器4の間隙に充填封入し、さらにこの軸受を150?180℃の恒温槽で30分加熱して、前記の混合物を固化し、固形グリース5とした。」(第2頁第2欄第20行?第3頁第3欄第20行、段落【0010】?【0014】参照)

(刊行物4)
刊行物4には、「固形潤滑組成物を充填した軸受の製造方法及び製造装置」に関して、図面(特に、図2及び3を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(k)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は固形潤滑組成物を充填した軸受の製造方法及び製造装置に関するものである。」(第2頁第1欄第24?26行、段落【0001】参照)
(l)「【0010】
【実施例】以下、上記の製造方法及び製造装置の各発明の実施例を図2に基づいて説明する。
【0011】図2に示した実施例の製造装置において、未焼成混合物の供給装置1は、タンク2と、そのタンク2から未焼成混合物3を汲み出すポンプ4、そのポンプ4に接続された供給パイプ5及びその供給パイプ5の中間に介在された定量供給器6とから成る。
【0012】加熱装置7は誘導加熱コイル8を備え、その内側に加熱パイプ9が挿通される。この加熱パイプ9はら旋状に形成され、上下方向に可撓性を有する。前記の供給パイプ5は加熱パイプ9の上端に接続され、該加熱パイプ9の下端に封入ノズル10が接続される。
【0013】上記封入ノズル10は、誘導加熱コイル8の下端からその内部に自由に出入りできる大きさに形成され、その両端部に連結されたエアシリンダ等のアクチュエータ11により上下動される。封入ノズル10の下面は軸受ワーク12の上面に密着する形状に形成され、その下面の一部に軸受ワーク12の封入すき間に合致するノズル出口13が設けられる。このノズル出口13は、前述の加熱パイプ9と通路14により連通され、該通路14のノズル出口13の近くに弁15が設けられる。この弁15は、封入ノズル10の上下動と連動して自動的に開閉される。
【0014】上記の封入ノズル10の下方にこれと対向してワーク受け16が基台17上に設けられる。このワーク受け16は軸受ワーク12の下面と密着するように形成される。
【0015】次に、上記の製造装置により固形潤滑組成物を充填した軸受を製造する方法について説明する。
【0016】上記の組成物は、平均分子量約1×10^(6)?5×10^(6)の超高分子量ポリエチレン95?1wt%と、その超高分子量ポリエチレンのゲル化温度より高い満点を有する潤滑グリース5?99wt%とからなる混合物である。その他の例として、平均分子量1×10^(6)?5×10^(6)の超高分子量ポリオレフィンのゲル化点より高い満点を有する潤滑グリース5?99wt%に粒径1?100μmの前記超高分子量ポリオレフィン粉末95?1wt%を混合したものもある(特公昭63-23239号公報参照)。
【0017】上記の組成物の未焼成混合物3を供給するに先立ち、予めアクチュエータ11を作動させて、封入ノズル10を誘導加熱コイル8の内部に嵌入しておく(図2の一点鎖線参照)。ポンプ14を駆動すると、定量供給器6により制限された一定量の未焼成混合物3が加熱パイプ9及び封入ノズル10内に供給され、加熱装置7の誘導加熱コイル8により約150℃まで誘導加熱される。
【0018】なお、封入ノズル10内に前回の混合物が残留している場合は、その混合物も共に加熱溶融される。
【0019】上記の加熱が完了すると、アクチュエータ11を復帰させて、封入ノズル10及びこれと一体の加熱パイプ9を下降させ、封入ノズル10を加熱装置7の下方まで降ろし、ワーク受け16上の軸受ワーク12の上面に密着させる。封入ノズル10のノズル出口13は軸受ワーク12の間隙に対向するので、封入ノズル10が軸受ワーク12の上面に密着した時点で弁15を開放すると共に、ポンプ4を作動させるとポンプ4の圧力により封入ノズル10の内部及び加熱パイプ9内の加熱後の混合物が軸受ワーク12の内部に封入される。
【0020】封入が完了すると弁15を閉めると共に、アクチュエータ11を作動させて封入ノズル10を軸受ワーク12から分離し、誘導加熱コイル8の内部に戻して次の供給に備える。
【0021】一方、封入が完了した軸受ワーク12はワーク受け16から取除かれ、自然冷却される。封入された加熱後の混合物は次第に固化し、一定温度以下になると所定の硬度をもった固体潤滑組成物となり、焼成が完了する。軸受ワーク12のサイズにもよるが、加熱開始から焼成完了までの時間は約30秒程度である。」(第2頁第2欄第27行?第3頁第3欄第47行、段落【0010】?【0021】参照)
(m)「【0022】図3に示した他の実施例は、加熱パイプ9が可撓部9aとその下端に接続された固定部9bとに分けられ、固定部9bの下端に封入ノズル10が一体に取付けられる。固定部9bは外筒18と内筒19とを密に嵌合し、両者の間に螺旋状の通路20を形成したものである。また封入ノズル10のノズル出口13は複数形成され、その分岐部分に弁15が設けられる。
【0023】なお、上記の各実施例は、加熱装置7の加熱源として誘導加熱コイル8を用いたが、これに代えて電気ヒータやガスバーナを用いることができる。また、未焼成混合物を軸受ワーク12の内部空間の全部に封入する、いわゆるフルパックタイプのほかに、部分的に封入するスポットタイプの場合にも適用することができる。
【0024】更に、上記の各実施例は、軸受ワーク12の上部に封入ノズル10、加熱パイプ9、加熱装置7を配置しているが、これらを軸受ワーク12の下部に配置する方式もある。この場合は、封入ノズル10の弁15は不要となる。」(第3頁第3欄第48行?第3頁第4欄第16行、段落【0022】?【0024】参照)
(n)図2及び3から、封入ノズル10の下面は軸受ワーク12の上面に密着する形状に形成され、その下面の一部は軸受ワーク12の封入すき間に合致しているとともに、ノズル出口13が設けられ、ワーク受け16(図3の最下部に記載された「18」は「16」の誤記である。)の上面は軸受ワーク12の下面に密着する形状に形成され、その上面の一部は軸受ワーク12の封入すき間に合致している構成が看取できる。

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「内輪(11)」は本願補正発明の「内輪」に相当し、以下同様にして、「外輪(12)」は「外輪」に、「リテナー(14)」は「保持器」に、「転動体(13)」は「転動体」に、「内輪(11)と外輪(12)及び転動体(13)により形成されるスペース」は「内輪と外輪及び転動体により形成される空間」に、「潤滑組成物(15)」は「潤滑剤含有ポリマ」に、「転がり軸受」は「玉軸受」に、それぞれ相当するので、両者は、下記の一致点、及び相違点1?3を有する。
<一致点>
内輪と外輪及び該内輪と外輪との間に保持器によって転動自在に設けられた転動体を有し、前記内輪と外輪及び転動体により形成される空間内に潤滑剤含有ポリマを充填してなる玉軸受の製造方法。
(相違点1)
前記潤滑剤含有ポリマに関し、本願補正発明は、「平均分子量1x10^(4)?1x10^(6)のポリエチレン、平均分子量1x10^(6)?5x10^(6)のポリエチレン、平均分子量700?1x10^(4)のポリエチレンワックス、潤滑油50?90重量%とした」のに対し、引用発明は、グリース(A)99?5wt%と、ポリエチレン粉末、超高分子量ポリエチレン(分子量1×10^(6)?4×10^(6))粉末等のプラスチック(B)1?95wt%の割合の複合物からなる点。
(相違点2)
本願補正発明は、「前記保持器によって転動自在に設けられた転動体を含む前記内輪と外輪の側端面に当て、前記内輪と前記外輪をその軸方向の両側からゲートを有する治具によって挟持し、この挟持状態で前記内輪の側端面と前記外輪の側端面から該内輪の内側及び該外輪の内側に入り込む治具の部分と前記内輪と前記外輪及び前記転動体により形成される空間内に前記ゲートから射出成形によって」「潤滑剤含有ポリマを該ポリマの融点以上で加熱して可塑化した混合の状態で充填し、該潤滑剤含有ポリマを前記空間内で高圧で充填することで連結して一体化し」たのに対し、引用発明は、潤滑組成物(15)を混合加熱して固形化して、転がり軸受内部に充填した点。
(相違点3)
本願補正発明は、「一体化した潤滑剤含有ポリマの側端面を前記内輪の内側及び外輪の内側に入り込む治具部分により、前記内輪の側端面及び外輪の側端面より内側にへこみ形成し、この潤滑剤含有ポリマの側端面のへこみ量が、アキシャル方向最大変位量、前記内輪の外周面の角部のR面取りの半径並びに前記外輪の内周面の角部のR面取りの半径のうちで最も大きいものより大きくなるように設定して形成した」たのに対し、引用発明は、潤滑組成物(15)の充填は、内輪(11)と外輪(12)及び転動体(13)の間のスペースにだけ入れるように、潤滑組成物(15)の外表面(a)がリテナー(14)のポケット部の外面と略一致する程度に充填した点。
以下、上記相違点1?3について検討する。
(相違点1について)
引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともに潤滑組成物(潤滑剤含有ポリマ)を充填した転がり軸受(玉軸受)の製造方法に関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「本発明の潤滑油含有ポリマ部材に使用できる合成樹脂としては、高い吸油性を持つとともに射出成形に適した材料であることが望ましく、具体的には、ポリエチレン,ポリプロピレンをはじめポリブチレン,ポリメチルペンテン等の基本的に同じ化学構造を有するポリオレフィン系ポリマの群から選定して単独もしくは混合した射出成形可能な熱可塑性樹脂が好適である。
【0009】ポリエチレンとしては、射出成形可能な低分子量から中分子量程度のもの(分子量10000?1000000)が好適である。更に強度向上を目的として超高分子量ポリエチレン(1000000?6000000)を加えても良い。」(第2頁第2欄第10?22行、段落【0008】及び【0009】、上記摘記事項(c)参照)、「本発明の潤滑油含有ポリマ部材に使用できる潤滑油としては、鉱油,オクタデシルジフェニルエーテル等のアルキルポリフェニルエーテル油,エイコシルナフタレン等のアルキルナフタレン油,ポリα-オレフィン油などの比較的極性の低い油が好適である。」(第2頁第2欄第32?37行、段落【0010】、上記摘記事項(c)参照)、「その射出原料の各成分配合割合は、射出原料全重量に対して合成樹脂を10?90重量%の範囲内、潤滑油を10?90重量%の範囲内であるが、好ましくは合成樹脂20?40重量%、潤滑油60?80重量%である。」(第3頁第3欄第1?5行、段落【0012】、上記摘記事項(d)参照)、「この実施例の潤滑油含有ポリマ部材15は次のようにして形成したものである。
(1)射出原料の調製:低分子量ポリエチレン〔三菱油化(株)製、商品名PZ50U〕7.0gと超高分子量ポリエチレン〔三井石油化学工業(株)製、商品名ミペロンXM220〕1.5gとからなる合成樹脂合計8.5gに対しパラフィン系鉱油〔日本石油(株)製、商品名FBK RO100〕70.0gを混合して、ニーダを用いて温度150℃に加熱しながら均一に相溶させた後、放冷して固化させた。」(第4頁第5欄第11?20行、段落【0022】、上記摘記事項(g)参照)と記載されている。上記各記載から、刊行物2には、引用発明と同じ、転がり軸受(玉軸受)に潤滑組成物(潤滑剤含有ポリマ)を充填するものにおいて、潤滑組成物(潤滑剤含有ポリマ)を、分子量10000?1000000の低分子量から中分子量程度のポリエチレン、分子量1000000?6000000の超高分子量ポリエチレン、潤滑油10?90重量%とすることが記載又は示唆されている。
また、引用発明及び刊行物3に記載された技術的事項は、ともに潤滑組成物(潤滑剤含有ポリマ)を充填した転がり軸受(玉軸受)の製造方法に関する技術分野に属するものであって、刊行物3には、「この発明においては、固形グリースの油性面に滲出する油の離油率を適度に抑えるため、たとえばワックス(ロウ)のうち固体ワックスまたはこれを含む低分子ポリオレフィンなどの添加物を配合してもよい。上記固体ワックスとしては、カルナバロウ、カンデリナロウ等の植物性ワックス、ミツロウ、虫白ロウ等の動物性ワックス、またはパラフィンロウなどの石油系ワックスが挙げられる。このような添加剤の潤滑組成物中の配合割合は1?50wt%である。この配合割合が多い程、離油率が抑制でき、油が滲み出る速度が小さくなる。しかし、50wt%を越える多量では、潤滑組成物の強度を低下させることとなるので好ましくない。」(第2頁第2欄第41行?第3頁第3欄第2行、段落【0012】、上記摘記事項(j)参照)、及び「〔実施例〕粒径30μmの超高分子量ポリオレフィン(三井石油化学工業社製:ミペロン)20部、低分子量ポリエチレンを含有する固形ワックス(三井化成社製:サンワックス)6部および滴点183℃の潤滑グリース(リチウム石けん-鉱油系)74部を原材料として混合し、この混合物を図1に示すように、軸受6203LLB(深溝単列のラジアル玉軸受、内径17mm、合成ゴムシール付き)の内輪1、外輪2および転動体3を保持する保持器4の間隙に充填封入し、さらにこの軸受を150?180℃の恒温槽で30分加熱して、前記の混合物を固化し、固形グリース5とした。」(第3頁第3欄第10?20行、段落【0014】、上記摘記事項(j)参照)と記載されている。上記各記載から、刊行物3には、引用発明と同じ、転がり軸受(玉軸受)に潤滑組成物(潤滑剤含有ポリマ)を充填するものにおいて、保油性を向上させ、長期に亘って潤滑油が滲み出るように低分子量ポリエチレンをワックスとして含有させることが記載又は示唆されている。
してみれば、引用発明の潤滑組成物(15)に、刊行物2及び3に記載された技術事項を適用することにより、平均分子量1x10^(4)?1x10^(6)のポリエチレン、平均分子量1x10^(6)?5x10^(6)のポリエチレン、平均分子量700?1x10^(4)のポリエチレンワックス、潤滑油50?90重量%とした潤滑剤含有ポリマとし、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
刊行物2には、「本発明による潤滑油含有ポリマ部材は、自身に多量の潤滑油を含みながら射出成形することが可能なものである。これを転がり軸受の軸受空間内に射出成形機で封入して成形する。」(第2頁第1欄第50行?第2欄第3行、段落【0007】、上記摘記事項(c)参照)、「本発明に係る潤滑油含有ポリマ部材は、上記のようにして調製した射出原料を転がり軸受内に射出成形して充填することにより得られる。その際使用する射出成形機は、計量部がプランジャ式になっている必要がある。すなわち、インラインスクリュウ式の場合は射出原料中の潤滑油量が多くなるとシリンダが滑ってしまい、正しい計量ができなくなるので、そのような現象を防止するべくプランジャ式射出成形機を用いることが必要である。」(第3頁第4欄第5?13行、段落【0017】、上記摘記事項(e)参照)、及び「(2)軸受内への充填:図1に示すラジアル玉軸受を金型中に予め装着しておく。その軸受の内部空間にプランジャ式射出成形機を用いて前記の射出原料を射出成形した。これによって、外輪11と内輪12とに挟まれた空間内に、転動体13と保持器14とが占める箇所を除いて、潤滑油含有ポリマ部材15が充填され、これを放冷固化して図1に示すコンプレッサ用転がり軸受得られた。」(第4頁第5欄第26?33行、段落【0023】、上記摘記事項(g)参照)と記載されている。つまり、刊行物2には、潤滑油含有ポリマ部材を転がり軸受の軸受空間内に充填するにあたり、一般的な射出成形(一般に、射出成形は、型締め、射出、保圧、冷却による固形化、固形化後の型開き、製品の取出しの工程を経てなされるものであり、シリンダ内で加熱溶融、混合された材料を金型に射出注入し、金型内で冷却固化させた後に型を開くようにする成形方法である。)により行うことが記載又は示唆されている。
また、軸受に潤滑剤含有ポリマを充填する際に、射出成形により行うことは、従来周知の技術手段(例えば、特開平8-247145号公報には、「この実施例の潤滑剤含有ポリマ部材42は、低分子量ポリエチレン(三菱油化製,PZ50U)21重量%と超高分子量ポリエチレン(三井石油化学製,ミペロンXM220)9重量%からなるポリエチレンに、潤滑剤としてパラフィン系鉱油(日本石油製,FBK RO100)70重量%を含有させたものを原料とし、これを射出成形機を用い一度可塑化(溶解)させた後、所定の金型に注入して加圧しつつ冷却固化させて成形されている。」(第5頁第7欄第36?44行、段落【0025】参照)と記載されている。特開平6-313435号公報には、「潤滑油含有ポリマの充填に際して、射出成形を併用しても良い。」[第5頁第7欄第46及び47行、段落【0038】参照]と記載されている。)にすぎないし、金型により射出成形するにあたり、内輪の側端面と外輪の側端面から内輪の内側及び外輪の内側に入り込む治具により挟持するとともに、内輪と外輪及び転動体により形成される空間内にゲートにより充填することは、刊行物4の図2及び3(上記摘記事項(n)参照)に図示されているように当業者に良く知られている技術的事項にすぎない。
してみれば、引用発明に、刊行物2及び4に記載された技術的事項、及び従来周知の技術手段を適用して、リテナー(14)によって転動自在に設けられた転動体(13)を含む内輪(11)と外輪(12)の側端面に当て、内輪(12)と外輪(12)をその軸方向の両側からゲートを有する治具によって挟持し、この挟持状態で内輪(11)の側端面と外輪(12)の側端面から内輪(11)の内側及び外輪(12)の内側に入り込む治具の部分と内輪(11)と外輪(12)及び転動体(13)により形成される空間内にゲートから射出成形によって、潤滑組成物(潤滑剤含有ポリマ)をポリマの融点以上で加熱して可塑化した混合の状態で充填し、潤滑組成物(潤滑剤含有ポリマ)を空間内で高圧で充填することで連結して一体化し、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点3について)
刊行物1には、「潤滑組成物(15)の充填は、第8図に示す様に転動体(13)と転動体(13)の間のスペースにだけ入れるようにするのが好ましい。即ち、潤滑組成物(15)の外表面(a)がリテナー(14)のポケット部の外面と略一致する程度に充填する。このようにしておくと、潤滑組成物(15)が収縮した際、内輪(11)の肩部に接触する面積が減少し、回転トルクを小さくすることができるのである。」(第2頁右上欄第13?20行、上記摘記事項(a)参照)と記載されている。なお、上述したように、上記「潤滑組成物(15)の充填は、第8図に示す様に転動体(13)と転動体(13)の間のスペースにだけ入れるようにするのが好ましい。」は、「潤滑組成物(15)の充填は、第8図に示す様に内輪(11)と外輪(12)及び転動体(13)の間のスペースにだけ入れるようにするのが好ましい。」の明らかな誤記と認められる。そして、上記「潤滑組成物(15)が収縮した際、内輪(11)の肩部に接触する面積が減少し、回転トルクを小さくすることができる」(第2頁右上欄第18?20行、上記摘記事項(a)参照)の記載の記載に鑑みれば、刊行物1の第8図から、潤滑組成物(15)の側端面のへこみ量が、アキシャル方向最大変位量、内輪(11)の外周面の角部のR面取りの半径並びに外輪(12)の内周面の角部のR面取りの半径のうちで最も大きいものより大きくされていることが看取できる。
してみれば、上記(相違点2について)についてにおける判断の前提下において、引用発明の潤滑組成物(15)を、一体化した潤滑組成物(潤滑剤含有ポリマ)の側端面を内輪(11)の内側及び(12)の内側に入り込む治具部分により、内輪(12)の側端面及び外輪(11)の側端面より内側にへこみ形成し、この潤滑組成物(潤滑剤含有ポリマ)の側端面のへこみ量が、アキシャル方向最大変位量、内輪(11)の外周面の角部のR面取りの半径並びに外輪(12)の内周面の角部のR面取りの半径のうちで最も大きいものより大きくなるように設定して形成し、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2?4に記載された発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1?4に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「引用文献1(注:本審決の「刊行物1」に対応する。以下同様。)では、粘性のある流動性グリースを注入するようにした転がり軸受であり、流動性グリースは、シール部により軸受内に留まるようにしているので、シール部は、完全に固定された状態に維持される。つまり、引用文献1のグリースは、流動する性質があっても、シール部の部分は移動しない。
よって、引用文献1では、シール部自体の移動は、想定されておらず、シール部の移動を考慮する必要がない。したがって、引用文献1は、潤滑剤含有ポリマの移動を考慮する本願に係る発明とは、根本的に相違する。」(「(B)引用文献の説明」「(i)引用文献1(特開昭55-109824号公報)」の項参照)と主張している。
しかしながら、刊行物1には、「上記潤滑組成物(15)はグリース(A)に対するプラスチック(B)の混合比率を多くする程、硬化度が高くなる」(第2頁左上欄第8?10行、上記摘記事項(a)参照)、「これらを(A):(B)=99?5wt%:1?95wt%の割合の範囲で混合加熱(例えば、150?200℃で約30分間)すれば固形化し、その組成の差により、多孔質、ロウ状、ゼリー状となる。」(第2頁左上欄第18行?右上欄第2行、上記摘記事項(a)参照)と記載され、素材比率が変ることにより潤滑組成物(15)の固形化の程度が変化することが記載又は示唆されているし、また、刊行物1には、「潤滑組成物(15)の外表面(a)がリテナー(14)のポケット部の外面と略一致する程度に充填する。このようにしておくと、潤滑組成物(15)が収縮した際、内輪(11)の肩部に接触する面積が減少し、回転トルクを小さくすることができるのである。」(第2頁右上欄第15?20行、上記摘記事項(a)参照)と記載され、潤滑組成物(15)の外表面(a)が収縮により移動し得ることが記載又は示唆されていることから、審判請求人の主張は的を射たものではない。
よって、上記(相違点1について)?(相違点3について)において述べたように、本願補正発明は、刊行物1?4に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

なお、審判請求人は、平成23年9月27日付けの上申書において、補正案を提示して、潤滑剤含有ポリマに関して、「・・・平均分子量1x10^(4)?1x10^(6)のポリエチレン、平均分子量1x10^(6)?5x10^(6)のポリエチレン、平均分子量700?1x10^(4)のポリエチレンワックス(これら3つの樹脂分を合計した重量%は10?50重量%)、潤滑油50?90重量%とした潤滑剤含有ポリマ・・・」(下線部のみ)との構成を追加しようとしているので、念のため検討をする。この補正案により追加しようとする構成については、刊行物2に「その射出原料の各成分配合割合は、射出原料全重量に対して合成樹脂を10?90重量%の範囲内、潤滑油を10?90重量%の範囲内である」(第3頁第3欄第1?3行、段落【0012】、上記摘記事項(d)参照)と、また、特開平6-313435号公報に「使用される潤滑油含有ポリマーにおいて全ポリマー成分が占める比率すなわちポリマー添加量の総計は、5?90重量%、好ましくは10?50重量%であり、残部は後述する潤滑油である。」(第3頁第3欄第34?37行、段落【0017】参照)と記載され、補正案により追加しようとする数値範囲と重複していることから、仮に補正案のように補正したとしても、補正後の発明は、上記した理由と実質的に同様の理由により拒絶されるべきものであることを付記する。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成23年9月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成23年2月18日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
内輪と外輪及び該内輪と外輪との間に保持器によって転動自在に設けられた転動体を有し、前記内輪と外輪及び転動体により形成される空間内に潤滑剤含有ポリマを充填してなる玉軸受の製造方法において、
前記保持器によって転動自在に設けられた転動体を含む前記内輪と外輪の側端面に当て、前記内輪と前記外輪をその軸方向の両側からゲートを有する治具によって挟持し、
この挟持状態で前記内輪の側端面と前記外輪の側端面から該内輪の内側及び該外輪の内側に入り込む治具の部分と前記内輪と前記外輪及び前記転動体により形成される空間内に前記ゲートから射出成形によって前記潤滑剤含有ポリマを充填し、該潤滑剤含有ポリマを前記空間内で高圧で充填することで連結して一体化し、
一体化した潤滑剤含有ポリマの側端面を前記内輪の内側及び外輪の内側に入り込む治具部分により、前記内輪の側端面及び外輪の側端面より内側にへこみ形成し、この潤滑剤含有ポリマの側端面のへこみ量が、アキシャル方向最大変位量、前記内輪の外周面の角部のR面取りの半径並びに前記外輪の内周面の角部のR面取りの半径のうちで最も大きいものより大きくなるように設定して形成したことを特徴とする玉軸受の製造方法。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された本願の原出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の「前記潤滑剤含有ポリマを充填し」に関する限定事項である「平均分子量1x10^(4)?1x10^(6)のポリエチレン、平均分子量1x10^(6)?5x10^(6)のポリエチレン、平均分子量700?1x10^(4)のポリエチレンワックス、潤滑油50?90重量%とした潤滑剤含有ポリマを該ポリマの融点以上で加熱して可塑化した混合の状態で充填し」(下線部のみ)を、「前記潤滑剤含有ポリマを充填し」とすることにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1?4に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、実質的に同様の理由により、刊行物1?4に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その原出願前に日本国内において頒布された刊行物1?4に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、請求項2及び3に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-27 
結審通知日 2012-10-02 
審決日 2012-11-28 
出願番号 特願2008-22016(P2008-22016)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 智樹  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
所村 陽一
発明の名称 玉軸受の製造方法  
代理人 峰 隆司  
代理人 佐藤 立志  
代理人 中村 誠  
代理人 野河 信久  
代理人 河野 直樹  
代理人 村松 貞男  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 哲  
代理人 砂川 克  
代理人 岡田 貴志  
代理人 堀内 美保子  
代理人 福原 淑弘  
代理人 白根 俊郎  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 竹内 将訓  

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