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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1268950
審判番号 不服2010-21568  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-27 
確定日 2013-01-15 
事件の表示 特願2004-506802「眼の病気を治療するためのロフルミラストの眼科的使用」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 4日国際公開,WO03/99278,平成17年10月 6日国内公表,特表2005-529928〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯,本願発明
本願は,平成15年(2003年)5月27日(パリ条約による優先権主張2002年5月28日,欧州特許庁,2002年5月28日,ドイツ,2003年3月14日,ドイツ)を国際出願日とする出願であって,その請求項1?9に係る発明は,平成22年9月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであるところ,請求項1に係る発明(以下,同項記載の発明を「本願発明1」という。)は,次のとおりである。
「【請求項1】
眼の病気を予防または治療する製薬製剤を製造するためのロフルミラスト、ロフルミラストの塩、ロフルミラストまたはその塩のピリジン残基のN-酸化物からなる群から選択される化合物の使用であって、眼の病気がドライアイ症候群(乾性角膜炎)である使用。」

第2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は,「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」
という理由を含み,以下の点を指摘している。

「請求項1の記載及び請求項1を引用して特定する形式で記載されている請求項2-9の記載からみて、請求項1-9に記載された発明は、ロフルミラストの薬理作用を利用して、眼の病気の治療薬の有効成分とする点に技術的特徴を有する医薬用途発明であると認められる。
一般に化合物の化学構造からその薬理作用を予測することは困難であるから、医薬の発明について当業者がその実施をすることができるように記載されているというためには、明細書に薬理試験結果またはそれと同視しうる程度の記載をして、実際にその有効成分が治療効果を奏することを確認して記載する必要がある。
本願明細書には、ロフルミラストの眼の疾患に対する治療効果を直接・間接に確認した薬理試験結果は記載されていない。明細書には、ロフルミラストがPDE IV阻害作用を有することが知られていたことが文献を引用して記載されるのみで、ロフルミラストが眼の疾患に対する治療効果を有することを理論的に裏付ける記載もない。」

第3 当審の判断
(3-1)
本願発明1は,「ドライアイ症候群(乾性角膜炎)を予防または治療する製薬製剤を製造するため」に,「ロフルミラスト、ロフルミラストの塩、ロフルミラストまたはその塩のピリジン残基のN-酸化物からなる群から選択される化合物」(以下,単に「ロフルミラスト」ということがある。)を使用する「方法の発明」である。

また,「方法の発明」における「発明の実施」とは「その方法を使用する行為」(特許法第2条第3項第2号)であるから,本願発明1において,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる実施可能要件)とは,発明の詳細な説明が,“「ロフルミラスト」を「ドライアイ症候群(乾性角膜炎)の予防または治療用」という用途の「製薬製剤」を製造するために使用できることを,当業者が理解できるように記載されていること”である。

(3-2)
そこで,本願明細書の発明の詳細な説明の記載事項について検討する。本願明細書の発明の詳細な説明には,ロフルミラストの医薬用途について,以下の事項が記載されている(なお,下線は当審で付した。)。
(a)「従来の技術
環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤(特にタイプ4のもの)は炎症性疾患、特に喘息または気道閉塞(例えばCOPD=慢性的閉塞性肺疾患のような)のような気道疾患を治療するための新しい世代の活性成分として現在特に注目されている。多くのPDE4阻害剤は活性成分N-(3,5-ジクロロピリド-4-イル)-3-シクロプロピルメトキシ-4-ジフルオロメトキシベンズアミド(INN:ロフルミラスト、roflumilast)を含有する経口投与のための投与形を含む進歩した臨床試験を現在受けている。ベンズアミド構造を有するこの化合物および他の化合物およびこれらの化合物の病気を治療するための環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤としての使用はWO95/01338号に記載されている。」(【0002】)
(b)「発明の説明
意想外にもPDE4阻害剤ロフルミラストを含有する製薬製剤が眼の病気を治療する際にきわめて良好な作用および他の有利な特性を示すことが見出された。」(【0003】)
(c)「式Iの化合物、その塩、N-酸化物、その塩およびこれらの化合物のホスホジエステラーゼ(PDE)4阻害剤としての使用は国際特許明細書WO95/01338号に記載されている。」(【0008】)
(d)「眼の病気を治療するためのロフルミラスト、ロフルミラストの塩、ロフルミラストまたはその塩のピリジン残基のN-酸化物を含有する製薬製剤は公知であり、当業者に知られた方法により製造することができる。製薬製剤として本発明の活性成分はそのまままたは有利に適当な製薬助剤と組み合わせて、例えば錠剤、被覆錠剤、カプセル、座薬、パッチ、エマルジョン、懸濁液、ゲル、または溶液の形で使用することができ、活性化合物の含量は有利に0.1?95%である。・・・記載できる他の例は、錠剤、エマルジョン、懸濁液、スプレー、オイル、軟膏、油状軟膏、クリーム、ペースト、ゲル、フォーム、または溶液を製造するために適した担体および/または付形剤および経皮治療系である。」(【0011】)
(e)経皮治療システム(TTS)の製造に関し,【0022】に以下の記載がある。
「マトリックスTTSは医薬物質粒子を粘性の液体または半固体ポリマーと室温で混合し、引き続きポリマー鎖を架橋することにより製造できる。・・・製造のために、医薬物質を最初に水および浸透促進剤として作用するイソプロピルパルミテート中の40%ポリエチレングリコール400と一緒に分散する。得られた分散液を特定の高エネルギー分散技術を使用することにより粘性のシリコーンエラストマーに配合し、エラストマーが同時に接触重合する。医薬物質含有マトリックスを具体的にメルト技術または押出技術により成形し、その後すでに記載された方法で担体と結合することができる。」
(f)錠剤またはペレットの製造工程に関し,【0036】?【0047】において,配合成分や混合・圧縮等の製造工程が記載されている。また,製剤の製造例として,【0049】?【0065】に,例1:眼軟膏,例2:点滴溶液,例3:液滴溶液,例A?例M1:錠剤の17の製剤について,各製剤の配合成分,配合量,および製造工程が記載されている。
(g)「産業的適用性
本発明の製薬製剤はPDE4阻害剤の使用により治療可能または予防可能とみなされるすべての眼の病気の治療および予防に使用できる。本発明による製薬製剤は眼瞼炎、・・・ドライアイ症候群(乾性角膜炎)、・・・および網膜浮腫の群から選択される眼の病気の治療に適している。」(【0066】)
(h)「本発明の他の実施態様において、前記方法は製薬製剤の全身的または眼内および/または硝子体内の投与により投与を行うことを特徴とする。」(【0070】)
(i)「本発明の製薬製剤は具体的な病気の治療に一般的な用量で活性製薬成分を含有する。活性成分の投与量はPDE阻害剤に一般的な大きさの程度を有し、1個以上の投与量単位で1日の用量を投与することが可能である。一般的な投与量は例えばWO95/01338号に記載されている。全身的治療(経口)での通常の用量は1kgおよび一日当たり0.001?3mgである。局所的投与のための本発明により有利な製薬製剤は投与量単位当たりロフルミラスト0.005?5mg、有利に0.01?2.5mg、特に有利に0.1?0.5mgを含有する。本発明の製薬製剤の例は投与量単位当たりロフルミラスト0.01mg、0.1mg、0.125mg、0.25mgおよび0.5mgを含有する。」(【0071】)

しかしながら,(a)?(i)の記載は,ロフルミラストを「ドライアイ症候群(乾性角膜炎)」の予防または治療に使用することの有用性に関する一般的な記載,製剤の剤型,その製造方法,投与方法,投与量,または製剤例に関する記載であり,本願明細書の発明の詳細な説明には,実際に,ロフルミラストが「ドライアイ症候群(乾性角膜炎)」の予防または治療に有効なものであることについて,具体的な記載は全く存在しない。

(3-3)
ここで,本願出願当時(優先権主張の日当時)の技術水準について検討する。
国際公開第95/01338号(1995年1月12日,原審における引用例3。引用例3は独文であるため,以下に引用例3に対応する日本語ファミリー文献である特表平8-512041号公報の記載に基づく訳文を記載する。以下,下線は当審で付した。)には,「これは、環状-ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤(しかもIV型の)として、・・・、しかしながら他方では、殊に、例えば気道(喘息-予防)、皮膚、腸、眼及び関節の、特に炎症性の疾病の治療のために好適であり」(19頁3行?10行を参照),「上気道(咽頭腔、鼻)域及び隣接域(副鼻腔、眼)におけるアレルギー性及び/又は慢性、免疫学的誤反応に起因する疾病、例えば、アレルギー性鼻炎/副鼻腔炎、慢性鼻炎/副鼻腔炎、アレルギー性結膜炎」(20頁4行?9行を参照)と記載され,ロフルミラストがホスホジエステラーゼ-IV(PDE-IV)の阻害剤であり(第1表の化合物5を参照),眼における炎症性の疾病やアレルギー性の疾病などの治療に有用である旨記載されるが,PDE-IV阻害作用と「ドライアイ症候群(乾性角膜炎)」との関係については記載されていない。

また,原審において引用された米国特許第4753945号明細書(1988年6月28日,原審における引用例2)には,ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤であるところの3-イソブチル-1-メチルキサンチンなどの化合物が,乾性眼障害の治療に有用である旨記載されているが(2欄42行?50行,同欄59行?64行),これらの化合物はロフルミラストとは化学構造が異なる化合物である。また,同文献には,これらの化合物がPDE阻害剤であることは記載されているが,PDE-IVの阻害剤であることについては記載されていない。

そうすると,本願出願時(優先権主張の日当時)の技術水準からは,PDE-IV阻害作用と「ドライアイ症候群(乾性角膜炎)」との関係については明らかでなく,PDE-IV阻害剤であるロフルミラストが「ドライアイ症候群(乾性角膜炎)」の予防または治療に有効であることは,本願明細書の記載事項を見ても,直ちに理解することはできないというべきである。

この点については,審査段階において,請求人が意見書において上記と同様の趣旨の主張をしている。すなわち,請求人は,新規性又は進歩性が欠如するとして本願に通知された拒絶理由に対し,意見書において,引用例2には,PDE1,PDE2およびPDE3に特に作用する非選択的PDE阻害剤についてのみ開示され,ロフルミラストとは作用および化学構造が全く異なるPDE阻害剤が開示されているに過ぎない旨,また,引用例2には,「ドライアイ症候群(乾性角膜炎)」を予防または治療するにあたり,PDE4の選択的阻害剤であるロフルミラストを採用することについて示唆は無い旨述べている。

(3-4)
そして,本願発明において,「意想外にもPDE4阻害剤ロフルミラストを含有する製薬製剤が眼の病気を治療する際にきわめて良好な作用および他の有利な特性を示すことが見出された」(上記(3-2)(b))のである以上,ロフルミラストが「ドライアイ症候群(乾性角膜炎)」の予防または治療に有効であることを,当業者が理解できるように,それを客観的に検証する過程を発明の詳細な説明において明らかにすべきであると解され,検証過程を明らかにするためには,具体的に如何なる試験により如何なるデータを得て,そのような事実を発見することができたのかについて,発明の詳細な説明において記載することが,有効,適切かつ合理的な方法であるというべきである。

しかしながら,前記(3-2)のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明には,薬理試験方法や薬理試験データ等に関する具体的な説明は何も記載されておらず,ロフルミラストが「ドライアイ症候群(乾性角膜炎)」の予防または治療に有効なものであることについて,具体的な記載は全く存在しない。

このような事情に鑑みると,本願明細書の発明の詳細な説明には,ロフルミラストが「ドライアイ症候群(乾性角膜炎)」の予防または治療に有効であることが,当業者が理解できるように記載されているとは認められないから,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1およびこれを引用する請求項2?7に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

第4 むすび
以上のとおり,本願は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから同法第49条の規定により拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-31 
結審通知日 2012-08-01 
審決日 2012-09-04 
出願番号 特願2004-506802(P2004-506802)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 恵  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 岩下 直人
大久保 元浩
発明の名称 眼の病気を治療するためのロフルミラストの眼科的使用  
代理人 星 公弘  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  

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