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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1269119
審判番号 不服2010-1091  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-18 
確定日 2013-01-24 
事件の表示 特願2006-288147「合成核酸分子組成物および調製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 1月18日出願公開、特開2007- 6910〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,2001年8月24日(パリ条約による優先権主張 2000年8月24日,米国)を国際出願日とする出願である特願2002-521985号の一部を,平成18年10月23日に分割出願したものであって,平成21年9月14日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年1月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

そして本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,出願当初の明細書及び図面の記載からみて,以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
少なくとも300ヌクレオチドの、ポリペプチドに関するコード領域を含む合成核酸分子であって、上記核酸分子は、ポリペプチドをコードする野生型核酸配列と、コドンの25%より多くが異なるコドン組成を有し、そして上記異なるコドンでのコドンの無作為選択から得られるような配列の平均数に対して、少なくとも3倍少ない転写調節配列を有し、 ここで、上記転写調節配列は、転写因子結合配列、イントロスプライス部位、ポリ(A)付加部位、およびプロモーター配列からなる群より選択され、そしてここで、上記合成核酸分子によりコードされる上記ポリペプチドは、上記野生型核酸配列によりコードされる上記ポリペプチドに対して、少なくとも85%の配列同一性を有する、合成核酸分子。」

2.原査定の拒絶の理由
一方,原査定の拒絶の理由は,次の理由(1)及び(2)を含むものである。
(1)本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本願は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3.特許法第29条第2項について
(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用例1として引用され,本願の優先日前に頒布された,Nucleic Acid Research, (1999), Vol.27, p. 1094-1103(以下,「引用例1」という。)は,「Plasmodium falciparumからのワクチン候補MSP-1:大腸菌と哺乳動物細胞からの全長タンパク質の合成と単離を可能とする,新たに設計された4917bpのポリヌクレオチド」という表題の学術論文であり,
著者などの記載の後に,DDBJ/EMBL/GenBankアクセッション番号がAJ131294であることが記載され,
要約の項に,
「Plasmodium falciparumマラリア原虫は,マラリア熱帯熱の原因物質である。メロゾイトは、この寄生動物の細胞外の成長段階のうちの1つで、それらの表面でメロゾイト表面タンパク質-1複合体(MSP-1)を露出しているが,それは190-200kDaの前駆体のタンパク質分解プロセスの結果によるものである。MSP-1は、人間において高度の免疫原で,多数の研究は、このタンパク質が保護免疫反応の有効な目標であることを示唆している。その機能は未知だが、メロゾイトによる赤血球への侵入の間にそれが役割を果たすかもしれないという徴候がある。寄生動物起源のmsp-1遺伝子は,およそ5000bpの長さであるが,74%のATを含んでいる。この高いAT含量は、大腸菌中での安定的なフルサイズ遺伝子のクローニングと,その結果としての異種起源のシステムでの発現を妨げている。ここで、私たちは、人間のコドン選択に適合するようにP.falciparumのFCB-1株からのMSP-1をコードする4917bpの遺伝子の合成について記述する。合成のmsp-1遺伝子(55%のAT)はクローン化され,維持され,そして,CHOとヒーラ細胞と同様にE.coliの中でその全体を発現した。生成されたタンパク質は可溶で、それがコンフォーメーショナルエピトープに特異的なmAbsのパネルに反応するので、本来のコンフォメーションを保っているように見える。全長のmsp-1遺伝子の合成のために、私たちが使用したストラテジーは、寄生動物の表面で通常生成される主なタンパク質分解による断片をすべてコードするDNA断片から組み立てるものであった。したがって、サブクローン化した後、さらに、私たちは、E.coliの中のヘキサヒスチジン融合タンパク質としてこれらのMSP-1処理生産物の各々を得、Ni^(2+)アガロース上のアフィニティー・クロマトグラフィーによってそれらを単離した。MSP-1とその主な処理生産物の明確にされた調製法の利用可能性は、MSP-1-基づいた実験のワクチンの調査を含むこの重要なタンパク質の、構造および機能レベルで綿密な研究のために新しい可能性を開く。」
と記載され,
1095ページ左欄の「材料と方法」の項に,
「配列のデザイン
コロンビアFCB-1株のMSP-1のアミノ酸配列(25)は,ヒトのコード配列(26)に見出されるのと同様にした平均的コドン組成でDNA配列に翻訳された。・・・・。一つの配列がマスター配列として選ばれ,合成遺伝子の効果的な転写と翻訳に有害であろう配列を除くための多くの方法で改変させた。下記の分析プログラムは,ジェネティックスコンピューターグループのプログラムコレクション(27)からのものであった。・・・・・。’Find Patterns’が,原核生物のプロモーター,ポリ(A)シグナル及びエクソン-イントロン境界を示すコンセンサス配列のサーチに用いられた。・・・・。すべてのこれらの構造は,出現したときに,代わりとなるコドンを用いることで除かれた。・・・・」
と記載されている。

原査定の拒絶の理由で引用例3として引用され,本願の優先日前に頒布された,Promega Notes Magazine, (1994), Number 49, p. 14(以下,「引用例3」という。)は,「遺伝的レポーティングの改良のために,作り変えられたホタル・ルシフェラーゼ」の表題の文献であり,
「ホタル・ルシフェラーゼは遺伝機能のリポーターのように広くポピュラーだが、生来の酵素の構造及びそのコードするcDNAは異種のホストの中の偏りのない発現には必ずしも最適ではない。種々の適用に、より一般に適していて便利である遺伝リポーターを作るために、私たちは、luc+と呼ばれて、ルシフェラーゼ遺伝子の改変した形態を設計したが,それは多数の新しい特徴を含んでいる。これらの中の第一番目のものは、酵素の細胞質の形態を産出する、ペルオキシゾームの転移配列の除去である。他の変更は、潜在的に妨げる制限部位および遺伝調節部位の除去,哺乳類細胞用のコドン使用頻度の改良、及び酵素からのコンセンサス糖鎖付加部位の除去を含んでいる。関連する遺伝子(luc+NF)もN-末端の融合タンパク質の最適な生成をするように開発されている。」(要約の項)と記載され,
「ii) 調節配列。
どんなレポーター遺伝子も、そのコード領域内に埋め込まれた調節配列を含んでいるが,それは遺伝子の生来の制御的機能によるか,あるいは異種のホストの中の転写調節因子によって偽の認識の結果として遺伝活動に影響することができるものである。いずれの場合も、これらの配列は、レポーター遺伝子に期待された「遺伝学的に中立の」振る舞いの邪魔をするであろう。この可能性を最小化するために、私たちは、転写調節因子結合部位のコンセンサス配列のデータベース(5)を使用して、ルシフェラーゼ遺伝子配列を走査し、潜在的に一般的因子と相互作用することができる多くの部位を除去した。・・・・・」(2ページ目40行-3ページ目6行)と記載されている。

(2)対比
本願発明と,引用例1に記載され,その配列がアクセッション番号AJ131294として知ることができるポリヌクレオチドの発明と比較する。
引用例1に記載されるポリヌクレオチドは,表題にもあるように4917bpであるから,本願発明の「少なくとも300ヌクレオチドの、ポリペプチドに関するコード領域を含む合成核酸分子」に相当するものである。また,引用例1における,もとの野生型核酸配列(アクセッション番号X02919として知ることができる。)と合成核酸分子の配列であるアクセッション番号AJ131294のものとを比較すると,両者は、コードされる1639アミノ酸のうち,1つのアミノ酸が異なっているものであるが,用いられているコドンでは,1639アミノ酸のうち546のアミノ酸についてのみコドンが一致しているから,引用例1に記載されるポリヌクレオチドは,本願発明の「ポリペプチドをコードする野生型核酸配列と、コドンの25%より多くが異なるコドン組成を有する」ものに相当するものであるし,「合成核酸分子によりコードされるポリペプチドは、野生型核酸配列によりコードされるポリペプチドに対して、少なくとも85%の配列同一性を有する」ものに相当するものである。
そうすると,本願発明と引用例1に記載された発明の両者は,「少なくとも300ヌクレオチドの、ポリペプチドに関するコード領域を含む合成核酸分子であって、上記核酸分子は、ポリペプチドをコードする野生型核酸配列と、コドンの25%より多くが異なるコドン組成を有し、そしてここで、上記合成核酸分子によりコードされる上記ポリペプチドは、上記野生型核酸配列によりコードされる上記ポリペプチドに対して、少なくとも85%の配列同一性を有する、合成核酸分子」である点で一致している。
ところが,本願発明が,「異なるコドンでのコドンの無作為選択から得られるような配列の平均数に対して、少なくとも3倍少ない転写調節配列を有し、ここで、上記転写調節配列は、転写因子結合配列、イントロスプライス部位、ポリ(A)付加部位、およびプロモーター配列からなる群より選択され」るものであるのに対し,引用例1には,原核生物のプロモーター,ポリ(A)シグナル及びエクソン-イントロン境界を示すコンセンサス配列を除くことが記載されているものの,具体的にどのような配列を除いたのか明らかでなく,無作為選択から得られるような配列の平均数とどの程度相違しているのかが明らかでない点で相違している。

(3)判断
引用例1には,合成遺伝子の効果的な転写と翻訳に有害であろう配列として,原核生物のプロモーター,ポリ(A)シグナル及びエクソン-イントロン境界を示すコンセンサス配列を除くことが記載されているのであるから,アクセッション番号AJ131294の配列に,これらのコンセンサス配列が残っていないか調べ,残っていれば,それを完全に除いておく程度のことは,当業者が容易に想到できることにすぎない。
そして,ポリ(A)シグナルのコンセンサス配列がAATAAAであることは,よく知られたことであり,アクセッション番号AJ131294の配列の2カ所に,このポリ(A)シグナルのコンセンサス配列が残っていることを,当業者は容易に知ることができ,これらを代わりとなるコドンを用いることで除くことは,当業者が容易になしえることにすぎない。
そうすると,ポリ(A)シグナルのコンセンサス配列はなくなり,ゼロとなるのであるから,「異なるコドンでのコドンの無作為選択から得られるような配列の平均数」が幾らになるのかは不明ではあるが,「少なくとも3倍少ない転写調節配列」となることは明らかである。あるいは,「少なくとも3倍少ない」という数値範囲は適宜設定することができることである。
また,原核生物のプロモーターやエクソン-イントロン境界を示すコンセンサス配列を完全に除いておくことも,当業者が容易に想到できることであるし,さらにイントロン-エクソン配列をできるだけ完全に除いておく程度のことも,当業者が容易に想到できることである。
さらに,引用例3には,遺伝活動に影響のないように,転写調節因子結合部位のコンセンサス配列を除去することが記載されているのであるから,引用例1に記載される合成遺伝子において,転写調節因子結合部位のコンセンサス配列を同様に除去する程度のことも当業者が容易になしえることである。

したがって,本願発明は,引用例1及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお,請求人は,審判請求書において,本願発明は、
1)少なくとも300ヌクレオチドの、
2)ポリペプチドに関するコード領域を含む合成核酸分子であって、
3)上記核酸分子は、ポリペプチドをコードする野生型核酸配列と、
4)コドンの25%より多くが異なるコドン組成を有し、そして
5)上記異なるコドンでのコドンの無作為選択から得られるような配列の平均数に対して、少なくとも3倍少ない転写調節配列を有し、
6) ここで、上記転写調節配列は、転写因子結合配列、イントロスプライス部位、ポリ(A)付加部位、およびプロモーター配列からなる群より選択され、
7)そしてここで、上記合成核酸分子によりコードされる上記ポリペプチドは、上記野生型核酸配列によりコードされる上記ポリペプチドに対して、少なくとも85%の配列同一性を有する、
1’)合成核酸分子。
という特徴を有しているが,原査定では、引用例1-5のどこに、これらの要素が記載されているのか、具体的な記載をされていないか、あるいはどれに対応するのか指摘されていないことを主張している。
ところが,引用例1や3は,その表題からみても,そこに改変された合成核酸分子が記載されていることは容易に理解できることであるし,本願発明の技術内容が十分に理解できているのであれば,審査官の拒絶の理由の記載に基づき,引用例1や3のどこに,本願発明に対応する記載があるのか容易に知ることができるにすぎないことであるので,該主張を採用することはできない。

4.特許法第36条第6項第2号について
平成20年11月28日付け拒絶理由通知において,以下の点が指摘されている。

(a)請求項1に記載の核酸分子は、具体的な塩基配列を特定せずに、塩基配列を設計する上での特徴で核酸分子を特定しようとするものであるが、該記載によって特定される核酸分子には非常に多くの核酸分子が包含され化学物質として不明確であるから、請求項1に係る発明は不明確である。
(b)請求項1の「異なるコドンでのコドンの無作為選択から得られるような配列の平均数に対して、少なくとも3倍少ない転写調節配列」なる記載は技術的に不明確な記載である。

(a)の点について
特許請求の範囲の記載は,これに基づいて特許出願に係る発明の新規性進歩性等の特許要件が判断され,これに基づいて特許発明の技術的範囲が定められ,これに基づいて特許権の権利範囲が対世的に確定されるなどの特許法の定める種々の機能を持つものである。特許法第36条第6項第2号は,特許請求の範囲がその記載において,特許を受けようとする発明が明確であること,すなわち一の請求項の記載から一の発明を明確に把握することができることを要求しているが,その趣旨は,上記の機能のいずれとも関係するものであり,特許権の権利範囲の明確化でありさえすれば発明が明確であるとすることはできないと解される。したがって,化学物質である核酸分子の発明に関して,本願発明のように,塩基配列を設計する上での特徴といえる,野生型核酸配列との関係を特定しても,特許権の権利範囲が明確とは言えても,元となる野生型核酸配列に,非常に多くの核酸分子が包含され,化学物質として不明確であることから,化学物質である本願発明の合成核酸分子自体の発明も明確であることにはならないのである。野生型核酸配列といっても,明らかになっているものは,ごくわずかなものであり,多くの生物種の野生型核酸配列は,配列はおろか,存在さえも明らかにされていないものが多くあるし,生物種の存在さえ知られていない生物由来の野生型核酸配列をも包含するものであるから,野生型核酸配列が化学物質として明確であるとは到底言えないものである。
なお,この点について請求人は,本願発明は具体的な塩基配列自体に特徴があるのではなく、転写調節等で機能的に優れたものを提供する発明で、その技術的意義は明解であり,技術的意義が明確であれば、特許法第36条第6項第2号違反がないことは最高裁平成3年3月8日付判決に示されるところであることを主張しているが,転写調節等で機能的に優れた塩基配列を設計することの技術的意義が明解であったとしても,本願発明は設計方法の発明ではなく,設計された化学物質自体の発明であるから,これが明確であることにはならないし,最高裁平成3年3月8日付判決(昭和62(行ツ)第3号)は,リパーゼ自体の発明ではなく,トリグリセリドの測定法の発明における,特許請求の範囲に記載された「リパーゼ」の解釈について判示するものであるから,化学物質自体の発明である本願発明における明確性の判断の参考にはならないものである。

(b)の点について
「異なるコドンでのコドンの無作為選択から得られるような配列の平均数に対して、少なくとも3倍少ない転写調節配列」が不明確であるとの審査官の指摘に対して,請求人は,最低限,この記載がどのような意味であるのかを説明することができるはずであるにもかかわらず,特段の主張を行っていない。

そして,この記載は,例えば,以下のア)?オ)の点で技術的に不明確である。
ア)異なるコドン位置のすべてで,無作為選択をするのか,異なるコドン位置の一カ所でも無作為選択をするだけでよいのか明らかでない。
イ)コドンの無作為選択は,アミノ酸を変えない範囲で行うのか否か明確でない。
ウ)野生型核酸配列と合成核酸分子の対応するコドンのアミノ酸が異なるとき,合成核酸分子のコドンのアミノ酸を変えない範囲で無作為選択するのか,アミノ酸を変えてもよい範囲で無作為選択するのか明らかでない。
エ)「得られるような」では,得られるもの以外にどのようなものを包含するのか不明瞭である。
オ)そもそも「転写調節配列」がすべて知られているわけではないから,基準となる「転写調節配列」の数が不明確である。

以上のように,(a)及び(b)の点で,本願の特許請求の範囲の記載が明確でなく,特許を受けようとする発明が明確でないので,本願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,また,本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-31 
結審通知日 2012-09-03 
審決日 2012-09-14 
出願番号 特願2006-288147(P2006-288147)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱田 光浩  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 六笠 紀子
中島 庸子
発明の名称 合成核酸分子組成物および調製方法  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  
代理人 山本 秀策  

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