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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) E04G
管理番号 1269484
判定請求番号 判定2012-600036  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2013-03-29 
種別 判定 
判定請求日 2012-10-02 
確定日 2013-01-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第3715402号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「免震装置プレロード工法」は、特許第3715402号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は,イ号図面及び説明書に示す「免震工事プレロード工法」は,特許第3715402号発明の技術的範囲に属する,との判定を求めるものである。


第2 本件特許発明
本件特許発明は,特許明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のものである。
「A.既設建造物の基礎杭の周辺の所定位置に複数本の補助杭を打ち込み,
B.該補助杭のそれぞれの上辺に第一のサポートジャッキを取り付けて建造物を支持させ,
C.基礎杭と建造物とを切り離して
D.建造物の下方に耐圧盤を敷設し,
E.所要数の第2のサポートジャッキおよびオイルジャッキを耐圧盤上に載置し,
F.一方免震装置と建物の底面との間に形成する上部コンクリート支承部を介して第2のサポートジャッキおよびオイルジャッキにより免震装置を建造物に密接させ,
G.次いでオイルジャッキを除去した後,第2のサポートジャッキを下部コンクリート支承部により耐圧盤に固着させることを特徴とする免震荷重受替え方法。」

なお,特許請求の範囲における「概説建造物」及び「耐圧版」との記載は,特許明細書及び図面の記載から「既設建造物」及び「耐圧盤」の誤記であることは明らかであるので,上記の認定を行なった。
また,構成要件について,A,B,C...等の記号を付して分説を行なった。


第3 イ号物件
1 請求人によるイ号物件の特定
請求人は,判定請求書(以下「請求書」という。)において,イ号図面及び説明書に示す「免震装置プレロード工法」を次のように特定している。
「(イ)上下の既設の建造物a,cの柱bや梁を補強材qにて補強する補強工程と,
(ロ)建造物a,c間に設けた仮設支柱gと油圧ジャッキkにより建造物aの荷重を支えながら,建造物a,c間の柱bの一部を切断する柱切断工程と,
(ハ)その切断部分fに油圧ジャッキhとねじ機構により高さの調整可能な鋼製支持部材pに載置した免震装置mを建造物aに押し付けてプレロードする免震装置据付工程と,
(ニ)しかる後,仮設支柱gと油圧ジャッキk及びhを取り外す設置完了工程を有し,
(ホ)最終的には鋼製支持部材pは,本設鉄骨部材として柱の一部wに組み込まれる完了後工程(埋め込み工程)を有する。」
(請求書第第2ページ第18?25行)

2 当審におけるイ号物件の特定
上記請求人によるイ号物件の特定に基づき,被請求人によるイ号物件の特定及び甲第1号証及び甲第2号証の記載を参酌して,イ号物件を特定する。
(1)符号kで示される部材について,請求人は「油圧ジャッキk」と,被請求人は「ジャッキk」としているが,少なくとも「ジャッキ」であることに争いがない。

(2)工程(ハ)について,上記請求人による特定では日本語として必ずしも明確でないが,免震装置mを建造物aに押し付けてプレロードする際には,免震装置mを切断部分に配置し,プレロードすることは明らかである。

(3)工程(ホ)に関して、仮設支柱g及びジャッキkを取り外す工程が,免震装置mを建造物に押しつけてプレロードする免震装置据付工程の後であることは,当事者間に争いがない。しかしながら,鋼製支持部材pを柱の一部に組み込む工程との前後関係については,請求人は,「(ニ)・・・仮設支柱g及び油圧ジャッキk・・・を取り外す設置完了工程を有し,(ホ)最終的には鋼製支持部材pは,本設鉄骨部材として柱の一部wに組み込まれる完了後工程(埋め込み工程)を有する」としているのに対して,被請求人は,「(e)・・・鋼製支持部材pを柱bの一部wに組み込み,(f)複数の仮設支柱g及びジャッキkを撤去する」(判定請求答弁書(以下,「答弁書」という。)第4ページ第7?9行)としており,順序が逆である。この点について,甲第1号証及び甲第2号証を参酌してもなおいずれの順序であるかは判然としないので,当審においては,仮設支柱g及びジャッキkを取り外す工程は,「免震装置据付工程の後のいずれかのタイミングで」と特定するにとどめる。

(4)以上を踏まえて,イ号物件は次のとおりのものと認める。
「(イ)上下の既設の建造物a,cの柱bや梁を補強材qにて補強する補強工程と,
(ロ)建造物a,c間に設けた仮設支柱gとジャッキkにより建造物aの荷重を支えながら,建造物a,c間の柱bの一部を切断する柱切断工程と,
(ハ’)その切断部分に油圧ジャッキhとねじ機構により高さの調整可能な鋼製支持部材pに載置した免震装置mを配置し,該免震装置mを建造物aに押し付けてプレロードする免震装置据付工程と,
(ヘ)油圧ジャッキhを取り外した後に,鋼製支持部材pは,本設鉄骨部材として柱の一部wに組み込まれる工程(埋め込み工程)を有し,
(ト)免震装置据付工程の後のいずれかのタイミングで,仮設支柱g及びジャッキkを取り外す工程を有する
(チ)免震装置プレロード工法。」


第4 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は,請求書において,概ね以下の理由により,イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属する旨主張している。
(1)本件発明に使用されている部位・部材と,それに該当するイ号図面に使用されている部位・部材
第1表
本件発明 イ号図面
既設建造物1 建造物a
基礎杭2 柱b
補助杭3 仮設支柱g
第一のサポートジャッキ4 油圧ジャッキk
耐圧盤5 建造物c
第2のサポートジャッキ7 鋼製支持部材p
オイルジャッキ8 油圧ジャッキh
免震装置9 免震装置m
下部コンクリー卜支承部10 柱の一部w
(請求書第2ページ第27?39行)

(2)本件発明では,工程A?Cにおいて,既設建造物1の基礎杭2の周辺の所定位置に複数本の補助杭3を打ち込み,該補助杭3のそれぞれの上辺に第一のサポートジャッキ4を取り付けて建造物を支持させ,基礎杭2と建造物1とを切り離しているのに対し,イ号では仮設支柱gは,油圧ジャッキkの上に載置されて建造物を支持させ,柱bと建造物aとを切り離している点で,両者はジャッキの位置が相違する。
つまり,ジャッキの位置が上か下かで相違するが,この点は免震装置を建造物のどこに設けるか,その作業環境に応じて任意に選択すべき単なる配置的相違に過ぎず,基礎杭2又は柱bの一部を切り取る間,上下の建造物をジャッキで支える目的から見れば,ジャッキの位置の相違による技術的な作用効果に相違は認められない。したがって,イ号工程(ロ)は本件発明の工程A?Cと実質的な相違は無い。(請求書第2ページ第42?第3ページ第7行)

(3)本件発明は,基礎杭2の一部を切り離す工程Cの次に工程Dにおいて耐圧盤5を敷設した後に,工程Eにより所要数の第2のサポートジャッキ7及びオイルジャッキ8を耐圧盤5上に載置しているのに対し,イ号ではその点が明記されていない点で相違するが,通常の土木建築工事に際しては,強度の必要な部分には耐圧盤に相当する補強的工事を行うことは自明の補強手段であるから,イ号においても当然に本件発明の工程Dを採用しているものと思われる。(請求書第3ページ第8?12行)


2 被請求人の主張
被請求人は,答弁書において,概ね以下の理由により,イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属しない旨主張している。なお,構成要件E,F,Gについては,上記第2で認定した本件特許発明の分説に合致させて読み替えている。
(1)構成要件Aについて(答弁書第4ページ第13行?第5ページ第17行)
「基礎杭」とは「構造物の荷重を地盤に安全に支持させるために構造物の基礎下に設けられた杭」(建築大辞典<縮刷版>,株式会社彰国社)であり,また「杭」とは「構造物の荷重をフーティングあるいは基礎スラブから,地盤中あるいは地盤の深部に伝達する役割をする柱状の構造材」(同辞典)である。つまり,本件特許発明の基礎杭2は,既設建造物1の基礎(耐圧盤5)下の地盤に設けられ,既設建造物1の荷重を地盤中あるいは地盤の深部へ伝達するものである。これと同様に,本件特許発明の補助杭3は,基礎杭2の周辺の所定位置の地盤に打ち込まれ,既設建造物1の荷重を地盤中あるいは地盤の深部へ伝達するものである。
これに対してイ号物件では,上部建造物aと下部建造物cとの間に立てられた既設(既存)の柱bの周囲に,すなわち上部建造物aと下部建造物cとの間にジャッキkを介して複数の仮設支柱gを仮設するものであり,本件特許発明のように基礎杭2周辺の所定位置の地盤に本設の補助杭3を打ち込むものではない。また,イ号物件の仮設支柱gは,免震装置mの設置後の工程において撤去される仮設部材であり,本件特許発明の補助杭3のように撤去されない本設の杭ではない。

(2)構成要件Bについて(答弁書第5ページ第29行?第6ページ第15行)
本件特許発明は,地盤に打ち込まれた複数本の補助杭3の上辺に第一のサポートジャッキ4をそれぞれ取り付け,これらの補助杭3及び第一のサポートジャッキ4によって既設建造物1を地盤に直接的に支持するものである。
これに対してイ号物件は,複数の仮設支柱g及びジャッキkによって上部建造物a(上層階)を下部建造物c(1階の使用中の駐車場)に支持するものであり,本件特許発明のように本設の補助杭3及び第一のサポートジャッキ4によって既設建造物1を地盤に直接的に支持するものではない。
また,イ号物件では,仮設支柱gの下側にジャッキkを配置するものであり,本件特許発明のように補助杭3の上辺に第一のサポートジヤッキ4を取り付けるものではない。そもそも本件特許発明では,補助杭3が地盤に打ち込まれるため,補助杭3の下側に第一のサポートジャッキ4を配置することはできず,補助杭3を採用する以上,第一のサポートジャッキ4の配置は補助杭3の上辺側に限定されるものと考えられる。

(3)構成要件Cについて(答弁書第6ページ第20?24行)
本件特許発明は,「基礎杭2と建造物1とを切り離」するものである。これに対してイ号物件は,「柱bの上部を切除して当該柱bの下部と上部建造物aとを切り離」すものであり,本件特許発明とは上部建造物aと切り離す対象が相違する。

(4)構成要件Dについて(答弁書第7ページ第14?24行)
「耐圧盤」とは,「基礎底盤」や「マットスラブ」と称されるものであり,地盤(地表)上に敷設され,上部建造物の荷重を分散して地盤へ伝達する鉄筋コンクリート造等の基礎構造部材である。つまり,本件特許発明は,建造物1の下方の地盤上に耐圧盤5を敷設するものである。
本件特許発明は,基礎杭2と建造物1とを切り離して免震装置9を設置するため,免震装置9を支持する耐圧盤5を新設することになるが,イ号物件では,柱gと上部建造物aを切り離してその間に免震装置mを設置するため,耐圧盤5を新設する必要はない。

(5)構成要件E,Fについて(答弁書第8ページ第19?22行(当審注;答弁書では構成要件Eに該当))
イ号物件は,既設の柱bを鋼製支持部材p及び免震装置mの設置台として使用するものであり,本件特許発明のように新設した耐圧盤5上に第2のサポートジャッキ7およびオイルジャッキ8を載置するものはでない。

(6)構成要件Gについて(答弁書第9ページ第6?9行(当審注;答弁書では構成要件Fに該当))
イ号物件は,既設の柱bを鋼製支持部材p及び免震装置mの設置台として使用し,最終的に鋼製支持部材pを既存の柱bの一部として組み込みものであり,新設の耐圧盤5に単に第2のサポートジャッキ7を固着する本件特許発明とは全く異なるものである。


第5 当審の判断
1 イ号物件が,本件特許発明の各構成要件を充足するか否かについて
(1)構成要件A,B,Cについて
イ号物件の「柱」が本件特許発明における「基礎杭」に,同様に「仮設支柱」が「補助杭」に相当するか否か検討する。
「基礎杭」とは,被請求人の前記「第4 2(1)」における主張のほか,「構造物の基礎の下に上部の荷重を地盤内のある深さまで伝達するために打ち込まれる杭・・・」(前出「建築用語辞典」)を意味するものであり,すなわち,建造物の荷重を地盤で支持するために基礎の下に設けられた杭を意味するものといえる。
また,「杭」とは,被請求人の前記「第4 2(1)」における主張のほか,「地中に打ち込む長い棒。目印や支柱にする。」(広辞苑第6版),「地中に打ち込む棒状材。木材,鋼,コンクリート製などがある。一般に基礎杭をいい,・・・」(「建築用語辞典」株式会社技報堂,第1版第8刷,昭和48年6月25日)を意味するものであり,いずれにしても地中に埋め込まれる棒状物を意味することに疑いはない。
これに対して,イ号物件における「柱」は建造物a,c間に設けられるものであって,建造物a及び建造物cとは甲第1号証及び甲第2号証によれば中間階の上下,つまり上層階と下層階を意味するものである。すなわち,イ号物件における「柱」は,上層階と下層階の間に設けられる文字通り「柱」を意味するものであり,基礎の下に設けられるものでもなく,地中に埋め込まれるものでないことは明らかであるから,本件特許発明における「基礎杭」の技術的範囲に属するものではない。

また,上記のように「杭」とは,地中に埋め込まれる棒状物を意味するものである。「補助杭」とは,杭の機能又は役割をさらに限定したものであるが,少なくとも地中に埋め込まれる棒状物であることに変わりはない。
これに対して,イ号物件における「仮設支柱」は,建造物a,c間に設けられて建造物aの荷重を支えるものであって,前述のとおり建造物a及び建造物cとは上層階と下層階を意味するものである。すなわち,イ号物件における「仮設支柱」は,少なくとも地中に埋め込まれるものでないことは明らかであるから,本件特許発明における「補助杭」の技術的範囲に属するものではない。

してみれば,イ号物件における「柱」及び「仮設支柱」は,「基礎杭」及び「補助杭」の技術的範囲に属するものではない。よって,「基礎杭」及び「補助杭」を構成要素とする本件特許発明の構成要件A,B,Cについて,イ号物件はこれを充足しない。

(2)構成要件D,E,Gについて
構成要件Dによれば,本件特許発明の「耐圧盤」は,「建造物の下方に敷設」されるものである。これに対して,イ号物件は建造物a,cの間,すなわち中間階に対する工法であって,建造物の下方に対する工事等を何ら特定していないから,イ号物件は本件特許発明の「耐圧盤」に相当する構成要素を有していないことは明らかである。

また,請求書の第1表によれば,請求人は本件特許発明の「耐圧盤」がイ号物件の「建造物c」に該当するとし,さらに,請求人は通常の土木建築工事に際しては強度の必要な部分には耐圧盤に相当する補強的工事を行なうことは自明の補強手段であると主張しているので,さらに検討する。
まず,「耐圧盤」の意味であるが,被請求人は「『耐圧盤』とは,・・・地盤(地表)上に敷設され,上部建造物の荷重を分散して地盤へ伝達する鉄筋コンクリート造等の基礎構造部材を意味する」としている。本件特許明細書では、段落【0002】に「各基礎杭を結んでその上面位置に耐圧盤となるコンクリートを打ち,・・・建造物の重量が免震装置を介して耐圧盤により受け止められ」と記載されており,基礎の下に設けられる基礎杭(前述(1)参照)を結んで建造物の重量を受け止めるというのであるから,耐圧盤とは,基礎としての機能及び構造を有する部材と受け取るのが自然であり,これは,被請求人の主張するような耐圧盤の通常の意味とも合致する。してみれば、本件特許発明における「耐圧盤」とは,建造物の重量を受け止める基礎構造部材の一種と解するのが相当である。
そして,前述のように建造物の下層階である「建造物c」が,基礎構造部材という範疇に属するものでないことは明らかであるし,建造物の下層階である「建造物c」は既存のものであり,建造物aの「下方に敷設」されるものでないことは明らかであるから、「耐圧盤」が「建造物c」に該当するということはできない。
また,仮にイ号物件において,切り離された柱のうち下方の柱の上部に何らかの補強的工事を行なったとしても,それは柱の補強的工事にとどまるものであって,基礎構造部材の一種ではないことは明らかであるから,耐圧盤に相当する構成をイ号物件が有しているということもできない。

よって,イ号物件は,本件特許発明の「耐圧盤」に相当する構成要素を有しておらず,「耐圧盤」を構成要素とする本件特許発明の構成要件D,E,Gについて,イ号物件はこれを充足しない。

(3)構成要件Fについて
構成要件Fには「免震装置と建物の底面との間に形成する上部コンクリート支承部」とあるが,イ号物件は建造物の中間階に対する工法であって,建物の底面に対する工事を何ら特定していないから,「免震装置と建物の底面との間に形成される」上部コンクリート支承部に相当する構成要素を有していないことは明らかである。
よって,「免震装置と建物の底面との間に形成される」上部コンクリート支承部を構成要素とする本件特許発明の構成要素Fについて,イ号物件はこれを充足しない。

2 均等について
請求人は,均等について直接的には主張していないが,上記「第4 1(1)」のように本件特許発明の「基礎杭」がイ号物件の「柱」に,同「補助杭」が「仮設支柱」に,同「耐圧盤」が「建造物c」に該当するなど,明らかに異なる構成要素同士を該当すると主張しているので,均等についても判断する。

最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡,民集52巻1号113頁)は,特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という)と異なる部分が存在する場合であっても,以下の要件の全てを満たす対象製品等は,特許請求の範囲に記載された製品等と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であるとしている。
積極的要件
(a)相違部分が,特許発明の本質的な部分でない。
(b)相違部分を対象製品等の対応部分と置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏する。
(c)対象製品等の製造時に,異なる部分を置換することを,当業者が容易に想到できる。
消極的要件
(d)対象製品等が,出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考することができたものではない。
(e)対象製品等が特許発明の出願手続において,特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がない。

これを踏まえて,(a)の要件について検討する。
本件特許の従来技術,解決しようとする課題及び作用効果に関して,本件特許明細書には以下の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】
従来,高層建造物を構築するに当っては,通常,地中に多数の基礎杭を打ち込み,その先端が岩盤等の支持層に達して固定されると,これら各基礎杭を結んでその上面位置に耐圧盤となるコンクリートを打ち,この耐圧盤上に免震装置を取り付けて建造し,建造物の重量が免震装置を介して耐圧盤により受け止められた状態に構築されていた。
このような状態で地震動が発生したときに,耐圧盤は揺れても,耐圧盤上に設置された免震装置に地震動が吸収され,建造物の地震動による揺れを可及的に迅速かつその大部分を減衰させることがおこなわれている。」
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述した免震装置を用いた高層建造物は,これから新しく構造建造物を構築する場合には最上の方法ではあるが,既設の高層建造物には適用することが出来ないという問題点がある。
本発明は,上記事情に鑑みてなされたもので,既設の高層建造物の荷重のかかる基礎杭の周辺の所定位置に,それぞれの荷重に応じて免震装置を敷設することのできる免震荷重受替え方法を提案しようとするものである。」
「【0005】
【作用】
上記した免震荷重受替え方法によれば,既設建造物を何等損なうことなく基礎杭または基礎面の所定位置に免震装置を設置することが可能となり,既設建造物は免震装置上に構築された新建造物と同様に安全管理を保つことができる。
また,免震装置の取付後オイルジャッキの除去に際して,免震装置への荷重導入時の荷重,及び変位量の管理も容易となり格段に優れた建造物を得ることができる。」
「【0013】
【発明の効果】
以上,詳細に説明したように,本発明に係る免震荷重受替え方法は,個々の基礎杭の位置に,また基礎杭のない場合は建造物の基礎面の所定の位置に,免震装置を荷重の大小に応じて選択して取り付けられ,安全性はより高くなると共に,作業に個々の位置より順次行なうことが可能となるので,既設の高層建造物であっても居住する人々を移動させることなく実施することができる特長がある。」

これらの記載からは,一貫して,本件特許の対象が,基礎杭又はその周辺の位置における免震荷重受替えとしていることが読み取れる。そして,本件特許発明は構成要件として,地中に打ち込まれるものである「基礎杭」や「補助杭」,基礎構造部材の一部分となる「耐圧盤」といった構成要素とともに,「建造物の下方」や「免震装置と建物の底面の間」といった建造物の下方の箇所に対する工事もしくは作業を特定,すなわち本件特許発明の構成要素として,建造物の下方の基礎周辺に関する構成を数多く特定しているものである。してみれば,建造物の基礎周辺に対する工法であることは本件特許発明の本質的部分をなすと解するのが相当である。
したがって,少なくとも本件特許発明における「基礎杭」及び「補助杭」が,イ号物件では「柱」及び「仮設支柱」として異なる点,同様に「耐圧盤」が,「建造物c」又は下方の柱の上部に施す補強的工事として異なる点は,本件特許発明の本質的部分が相違しているというべきである。

また,本件特許の審査過程で請求人より提出された平成16年11月25日付け意見書では「このように,上部コンクリート支承部,下部コンクリート支承部および耐圧盤を介して免震装置を建造物の下方に配置する本願発明の特徴事項は,引用文1(当審注:「引用文献1」の誤記)の発明[1]には何も開示されておらず」及び「本願発明においては・・・,この補助杭は本願発明の免震荷重受替え方法では作業終了後に撤去されることなく(引用文献1では仮受けサポート等は撤去することが発明の構成要件となっています),・・・免震装置取付後にも建造物の支承に役立つのであります。」と述べており,上部コンクリート支承部,下部コンクリート支承部および耐圧盤を介して免震装置を建造物の下方に配置することや,補助杭を建造物の支承に役立てることを,本件特許発明を特徴づけるものとしている。
よって,少なくとも「耐圧盤」及び「補助杭」は本件特許発明の本質的部分の一部をなすということができ,上述のように,これらが異なるイ号物件は,本件特許発明と本質的部分が異なるというべきである。

したがって,本件特許発明の「補助杭」がイ号物件では「仮設支柱」である点,同「耐圧盤」が「建造物c」又は下方の柱の上部に施す補強的工事である点は,特許発明の本質的な部分が相違しているので,均等の上記(a)の要件を満たさない。

よって,(b)?(e)の要件を検討するまでもなく,イ号物件が本件特許発明と均等であるということはできない。


第6 むすび
以上のとおり,イ号物件は,本件特許発明の構成要件A?Gを充足しないから,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2013-01-10 
出願番号 特願平9-51854
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (E04G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 哲  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 中川 真一
筑波 茂樹
登録日 2005-09-02 
登録番号 特許第3715402号(P3715402)
発明の名称 免震荷重受替え方法  
代理人 福田 浩志  
代理人 中野 浩和  
代理人 荒木 昭生  
代理人 岩本 公雄  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 上野 敏範  
代理人 竹内 満  
代理人 堀内 大輔  
代理人 坂手 英博  

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