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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1269746
審判番号 無効2010-800032  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-02-26 
確定日 2013-01-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3507719号「防眩フィルム、偏光素子及び表示装置」の特許無効審判事件についてされた平成23年1月25日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成23年(行ケ)第10077号 平成23年6月22日)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3507719号の請求項1乃至16に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 第一次審決の経緯
本件特許第3507719号(以下「本件特許」という。)は、特許法第41条に基づく優先権主張(優先日:平成10年2月17日)をともなって平成11年1月12日に出願された特願平11-4880号に係り、平成15年12月26日に、その請求項1乃至16に係る発明について特許権の設定登録が行われた。
本件無効審判は、本件特許について、平成22年2月26日に、請求人 株式会社巴川製紙所(以下「請求人」という。)が、「本件特許の請求項1乃至16に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めるとして請求したものであって、被請求人 大日本印刷株式会社(以下「被請求人」という。)は、平成22年5月18日付けで答弁書(同年10月14日付け上申書によって文章の欠落を補うための頁の差し替えを行った。)を提出している。
これらを当審において審理し、その審理の結果を特許法第153条第2項に規定により平成22年6月25日付けで無効理由通知書として通知したところ、被請求人から同年7月30日付けで意見書が提出された。
その後、平成22年9月2日付けで通知した審理事項について審理すべく平成22年11月8日に行った第1回口頭審理において、請求人は、同日付け口頭審理陳述要領書及び口頭審理陳述要領書(2)に記載のとおり陳述を行い、被請求人は、同日付けで提出した口頭審理陳述要領書の第11頁末行の「乙第41号証」を「乙第42号証」に、同じく第12頁6行目の「乙第42号証」を「乙第41号証」に訂正した前記口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述を行った。さらにその後、請求人は、平成22年11月12日付けで上申書を、同年12月21日付けで上申書(2)を提出し、被請求人は、同年12月7日付けで上申書(2)を、平成23年1月14日付けで上申書(3)を提出した。
上記提出書類及び陳述事項を審理し、平成23年1月25日付けで「特許第3507719号の請求項1乃至16に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決(以下「第一次審決」という。)をしたところ、被請求人は、法定期間内に第一次審決に対する訴えを提起(平成23年(行ケ)第10077号)するとともに、平成23年6月1日に訂正審判の請求(訂正2011-390067)を行ったため、知的財産高等裁判所は、平成23年6月22日に、特許法第181条第2項の規定により、第一次審決の取消しの決定をした。

2 第一次審決取消しの決定後の経緯
前記第一次審決の取消しの決定後、被請求人は、平成23年7月13日に、本件特許明細書を、添付した全文訂正明細書のとおりに訂正することを求める、とする訂正の請求を行ったところ、当該訂正請求に対し、請求人は、同年8月22日付けで弁駁書を提出している。その後、被請求人から、同年9月13日付け及び10月11日付けで、上申書(4)及び上申書(5)が提出されている。

第2 訂正審判の請求のみなし取下げ
被請求人が、平成23年7月13日に行った訂正の請求は、特許法第134条の3第2項の規定により指定された期間内に行われたものであるから、同条第4項の規定により、平成23年6月1日に被請求人がした訂正審判の請求(訂正2011-390067)は取り下げられたものとみなされ、平成23年7月14日に請求取下の登録がされた。

第3 訂正請求
1 訂正の内容
被請求人が平成23年7月13日に請求した訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許明細書の全文を、平成23年7月13日付け「訂正請求書」に添付した「全文訂正明細書」のとおりに訂正しようとするものであり、その内容は以下のとおりである。(当審注:下線は訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1について、
「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に、屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層を積層し、この防眩層の表面凹凸における表面ヘイズ値hsを7<hs<30、前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiを1<hi<15としたことを特徴とする防眩フィルム。」なる記載を、
「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に、屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層を積層し、この防眩層の表面凹凸における表面ヘイズ値hsを7<hs<30、前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiを3≦hi≦12としたことを特徴とする防眩フィルム。」と訂正する。
なお、内部ヘイズ値hiについて、全文訂正明細書には「3≦<hi≦12」とあるところ、訂正請求書の内容を参酌して上記のとおり認定した。以下、同様。
(2)訂正事項2
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項9について、
「請求項1乃至7のいずれかにおいて、前記透光性樹脂が、熱硬化性樹脂及び電離放射線硬化型樹脂の少なくとも一方であり、前記透光性拡散剤が有機系微粒子であることを特徴とする防眩フィルム。」なる記載を、
「請求項1乃至7のいずれかにおいて、前記透光性樹脂が、熱硬化性樹脂及び電離放射線硬化型樹脂の少なくとも一方であり、前記透光性拡散剤が有機系微粒子であって、さらに、前記防眩層の表面ヘイズ値hsが19≦hs≦25、前記防眩層の内部ヘイズ値hiが5≦hi≦9であることを特徴とする防眩フィルム。」と訂正する。
(3)訂正事項3
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項11について、
「請求項1乃至10のいずれかにおいて、前記透明基材フィルムを、トリアセテートセルロースフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムの一方から構成したことを特徴とする防眩フィルム。」なる記載を、
「請求項1乃至10のいずれかにおいて、前記透明基材フィルムを、トリアセテートセルロースフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムの一方から構成し、さらに、前記防眩層の表面ヘイズ値hsと前記防眩層の内部ヘイズ値hiを、hsが19でありhiが7であること、hsが25でありhiが5であること、hsが20でありhiが9であること、のいずれかとしたことを特徴とする防眩フィルム。」と訂正する。
(4)訂正事項4
訂正事項1と整合させるため、明細書の段落【0012】の、
「【課題を解決するための手段】
本発明は、請求項1のように、透明基材フィルムの少なくとも一方の面に、屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層を積層し、この防眩層の表面凹凸における表面ヘイズ値hsを7<hs<30、前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiを1<hi<15となるようにして、上記目的を達成するものである。」なる記載を、
「【課題を解決するための手段】
本発明は、請求項1のように、透明基材フィルムの少なくとも一方の面に、屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層を積層し、この防眩層の表面凹凸における表面ヘイズ値hsを7<hs<30、前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiを3≦hi≦12となるようにして、上記目的を達成するものである。」と訂正する。
(5)訂正事項5
訂正事項2と整合させるため、明細書の段落【0020】の、
「前記防眩フィルムにおける透光性樹脂を、熱硬化性樹脂及び電離放射線硬化型樹脂の少なくとも一方とし、前記透光性拡散剤を有機系微粒子としてもよい。」なる記載を、
「前記防眩フィルムにおける透光性樹脂を、熱硬化性樹脂及び電離放射線硬化型樹脂の少なくとも一方とし、前記透光性拡散剤を有機系微粒子であって、さらに、前記防眩層の表面ヘイズ値hsが19≦hs≦25、前記防眩層の内部ヘイズ値hiが5≦hi≦9としてもよい。」と訂正する。
(6)訂正事項6
訂正事項3と整合させるため、明細書の段落【0022】の、
「前記防眩フィルムにおける透明基材フィルムを、トリアセテートセルロースフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムの一方から構成してもよい。」なる記載を、
「前記防眩フィルムにおける透明基材フィルムを、トリアセテートセルロースフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムの一方から構成し、さらに、前記防眩層の表面ヘイズ値hsと前記防眩層の内部ヘイズ値hiを、hsが19でありhiが7であること、hsが25でありhiが5であること、hsが20でありhiが9であること、のいずれかとしてもよい。」と訂正する。
(7)訂正事項7
訂正事項1と整合させるため、明細書の段落【0028】の、
「この発明は、屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層を積層して防眩フィルムを形成する場合、防眩層の表面凹凸における表面ヘイズ値hsを7<hs<30、前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiを1<hi<15とすると、透光性拡散剤の粒径を小さくし、且つ例えば液晶ディスプレイ等における表示品位を良好以上にすることができるという知見に基づくものである。」なる記載を、
「この発明は、屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層を積層して防眩フィルムを形成する場合、防眩層の表面凹凸における表面ヘイズ値hsを7<hs<30、前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiを3≦hi≦12とすると、透光性拡散剤の粒径を小さくし、且つ例えば液晶ディスプレイ等における表示品位を良好以上にすることができるという知見に基づくものである。」と訂正する。

2 訂正要件充足性の検討
(1)訂正事項1乃至3について
訂正事項1は、訂正前の請求項1について、内部ヘイズ値hiの範囲を「1<hi<15」から「3≦hi≦12」に減縮する訂正であって、本件特許明細書の段落【0032】の記載に基づくものといえる。また、訂正事項2は、訂正前の請求項9について、表面ヘイズ値hsの範囲を「7<hs<30」から「19≦hs≦25」に減縮するとともに、内部ヘイズ値hiの範囲を「1<hi<15」から「5≦hi≦9」に減縮する訂正であって、本件特許明細書の段落【0118】の【表1】に記載されている実施例の各ヘイズ値の値の範囲に基づくものといえる。そして、訂正事項3は、表面ヘイズ値hsの範囲「7<hs<30」、内部ヘイズ値hiの範囲「1<hi<15」から、hs、hiそれぞれの値を限定して、「hsが19でありhiが7であること、hsが25でありhiが5であること、hsが20でありhiが9であること、のいずれか」に限定する訂正であって、本件特許明細書の段落【0118】の【表1】に記載された各実施例の具体的な値に基づくものといえる。
そうすると、訂正事項1乃至3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、本件特許明細書に記載した事項の範囲内でするものであって、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるともいえない。

(2)訂正事項4乃至7について
訂正事項4乃至7は、明細書の発明の詳細な説明の記載を、訂正事項1乃至3の訂正と整合させるための訂正であって、訂正事項1乃至3の訂正事項が本件特許明細書に記載した事項の範囲内でするものであって、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるともいえないことは前記「(1)」で述べたとおりである。
そうすると、訂正事項4乃至7は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明りようでない記載の釈明に該当し、本件特許明細書に記載した事項の範囲内でするものであって、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3 訂正請求に関するむすび
上記のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書各号に適合し、同法同条第5項において準用する特許法第126条第3項ならびに第4項の規定に適合する。
また、訂正後の請求項1乃至16に係る発明は、いずれも本件無効審判において特許無効の請求がされている請求項に係る発明であるから、本件訂正を認め、無効理由について検討する。

第4 本件特許発明
被請求人が平成23年7月13日に請求した訂正は上記のとおり認められたので、当審において審理すべき本件特許発明は、平成23年7月13日に訂正請求書に添付して提出された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至16に記載されている次のとおりのもの(以下、すべての請求項に係る発明を「本件特許発明」といい、各請求項に係るそれぞれの発明を「特許発明1」乃至「特許発明16」という。)と認める。
「【請求項1】透明基材フィルムの少なくとも一方の面に、屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層を積層し、この防眩層の表面凹凸における表面ヘイズ値hsを7<hs<30、前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiを3≦hi≦12としたことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項2】請求項1において、前記防眩層の上に、更に、この防眩層の屈折率より屈折率の低い低屈折率層を積層してなることを特徴とする防眩フィルム。
【請求項3】請求項1又は2において、前記低屈折率層を、シリコン含有フッ化ビニリデン共重合体から形成したことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項4】請求項3において、前記シリコン含有フッ化ビニリデン共重合体が、フッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレンの共重合体であって、フッ素含有割合が60?70重量%であるフッ素含有共重合体と、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物との重合体であることを特徴とする防眩フィルム。
【請求項5】請求項4において、前記低屈折率層は、少なくとも前記フッ素含有共重合体と前記エチレン性不飽和基を有する重合性化合物とから構成される塗膜を塗布後、活性エネルギー線を照射又は加熱して形成されたものであることを特徴とする防眩フィルム。
【請求項6】請求項2乃至5のいずれかにおいて、前記低屈折率層を、酸化ケイ素の膜から形成すると共に、更にその上に防汚層を形成したことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項7】請求項1乃至5のいずれかにおいて、前記防眩層の表面凹凸におけるヘイズ値hsと前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiとの和が30以下となるようにしたことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項8】請求項1乃至7のいずれかにおいて、前記防眩層における透光性樹脂と透光性拡散剤との屈折率の差Δnを、0.01≦Δn≦0.5とすると共に、透光性拡散剤の平均粒径dを、0.1μm≦d≦5μmとしたことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項9】請求項1乃至7のいずれかにおいて、前記透光性樹脂が、熱硬化性樹脂及び電離放射線硬化型樹脂の少なくとも一方であり、前記透光性拡散剤が有機系微粒子であって、さらに、前記防眩層の表面ヘイズ値hsが19≦hs≦25、前記防眩層の内部ヘイズ値hiが5≦hi≦9であることを特徴とする防眩フィルム。
【請求項10】請求項9において、前記有機系微粒子がスチレンビーズであることを特徴とする防眩フィルム。
【請求項11】請求項1乃至10のいずれかにおいて、前記透明基材フィルムを、トリアセテートセルロースフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムの一方から構成し、さらに、前記防眩層の表面ヘイズ値hsと前記防眩層の内部ヘイズ値hiを、hsが19でありhiが7であること、hsが25でありhiが5であること、hsが20でありhiが9であること、のいずれかとしたことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項12】請求項1乃至11のいずれかにおいて、透明基材フィルムと防眩層との間に透明導電性層を有し、かつ、防眩層中に導電材料が含有されたことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項13】請求項1乃至12のいずれかの防眩フィルムと、この防眩フィルムの前記透明基材フィルムにおける前記防眩層と反対側の面に表面を向けて積層された偏光板と、を有してなることを特徴とする偏光素子。
【請求項14】請求項13において、前記透明基材フィルムにおける前記防眩層と反対側の表面及び前記防眩層の表面をケン化処理した後、前記透明基材フィルムの表面に偏光板を積層して構成されたことを特徴とする偏光素子。
【請求項15】複数の画素を有し、各画素が光を透過又は光を反射することにより、画像を形成する表示パネルと、この表示パネルの表示面側に設けられた請求項1乃至12のいずれかの防眩フィルムと、を有してなる表示装置。
【請求項16】複数の画素を有し、各画素が光を透過又は光を反射することにより、画像を形成する表示パネルと、この表示パネルの表示面側に設けられた請求項13又は14の偏光素子と、を有してなる表示装置。」

第5 無効理由及び被請求人の主張の概要
1 請求人の主張する無効理由
本件特許について、請求人が主張する無効理由の一つの概要は以下のとおり(以下「理由1」という。)であって、請求人は証拠方法として以下の甲第1?40号証を提示している。
(1)請求人が主張する理由1の概要
請求項1乃至16は、防眩層の表面ヘイズ値及び内部ヘイズ値の数値範囲を特定することによって発明の対象である防眩フィルムを特定しようとするものであるが、「ヘイズ値」が如何なる規格に基づく測定によって得られた値を意味するのか明確でないとともに、前記「表面ヘイズ値」及び「内部ヘイズ値」の測定方法が不明であるから、請求項1乃至16は明確に記載されているとはいえず、本件特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許発明1乃至16に係る特許は特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。

(2)請求人が提示した証拠方法
甲第 1号証:特開平9-316213号公報
甲第 2号証:特開平7-125064号公報
甲第 3号証:特開平1-185306号公報
甲第 4号証:特開平6-206946号公報
甲第 5号証:特開平2-255742号公報
甲第 6号証:特開平2-235615号公報
甲第 7号証:実験報告書(平成22年2月12日)
甲第 8号証:JIS K7105「プラスチックの光学的特性試験方法」財団法人日本規格協会(昭和56年7月31日第1刷)
甲第 9号証:ASTM D 1003-92「透明プラスチックのヘイズ及び視覚透過率に関する標準試験方法」(翻訳版)
甲第10号証:実験報告書(平成22年2月25日)
甲第11号証:株式会社村上色彩技術研究所ウェブサイト(http://www.mcrl.co.jp/products/p_haze/HR100.html)の写し(平成22年2月25日印刷)
甲第12号証:(社)日本粉体工業技術協会編「粉体成形ハンドブック」日刊工業新聞社(昭和62年2月27日初版第1刷)第50?60頁
甲第13号証:中山信弘著「特許法」株式会社弘文堂(平成22年8月31日初版第1刷)第175頁
甲第14号証:証明書(平成22年10月20日)
甲第15号証:JIS K7361-1「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法」財団法人日本規格協会(平成9年1月31日第1刷)
甲第16号証:「全光線透過率およびヘーズに関する新規格のお知らせ」(株式会社村上色彩技術研究所から顧客に宛てた平成11年12月付け書信)
甲第17号証:平成17年3月30日判決(平成16年(行ケ)第290号)
甲第18号証:特開平10-20105号公報
甲第19号証:特開平9-251101号公報
甲第20号証:特許・実用審査基準 第I部 第1章「明細書及び特許請求の範囲の記載要件」抜粋
甲第21号証:判例タイムズ1192号 第164?168頁
甲第22号証:平成21年9月29日判決(平成20年(行ケ)第10484号)
甲第23号証:平成20年3月27日判決(平成19年(行ケ)第10147号)
甲第24号証:結果報告書(2010年10月14日)
甲第25号証:実験報告書(2010年11月1日)
甲第26号証:証明書(平成22年11月10日)
甲第27号証:特許第3507344号公報
甲第28号証:特許・実用審査基準 第IV部 第2章「国内優先権
甲第29号証:陳述書(平成22年12月20日)
甲第30号証:試験報告書(住ベリサーチ(株)平成22年11月25日)
甲第31号証:実験報告書(2010年12月20日)
甲第32号証:特開昭60-227201号公報
甲第33号証:「特許審査・審判の法理と課題」竹田稔監修 社団法人発明協会
甲第34号証:特許・実用審査基準 第II部 第2章「新規性進歩性」抜粋
甲第35号証:特開2000-98130号公報
甲第36号証:特開2002-212365号公報
甲第37号証:特開2000-119337号公報
甲第38号証:特開2000-117914号公報
甲第39号証:特開平11-181110号公報
甲第40号証:特開平9-8341号公報

2 当審において通知した無効理由
当審における審理の結果について、職権に基づいて平成22年6月25日付けで通知した理由の概要は以下のとおり(以下それぞれを「理由2」及び「理由3」という。)である。
(1)理由2
特許発明1乃至16は、防眩層について「表面ヘイズ値」及び「内部ヘイズ値」の数値範囲をもって特定するものの、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、及び、本件特許出願時の技術常識を参酌しても、当該数値範囲をもって所望の効果を有する防眩フィルムが得られることを本件特許出願時に具体的な開示がなくとも当業者が理解できるとする根拠はなく、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例と比較例をして、当該数値範囲をもって従来の防眩フィルムが有する課題を解決し、所望の効果を有する防眩フィルムが得られることを裏付けられているとはいえない。したがって、特許発明1乃至16は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとは言えず、請求項1乃至16の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許発明1乃至16に係る特許は特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。

(2)理由3
本件特許明細書の記載は、防眩層について「表面ヘイズ値」及び「内部ヘイズ値」の数値範囲をもって特定するものの、本件特許明細書の発明の詳細な説明又は図面の記載、ならびに本件特許出願時の技術常識を参酌しても、当該数値範囲をもって所望の効果を有する防眩フィルムが得られることを本件特許出願時に具体的な開示がなくとも当業者が理解できるとする根拠はなく、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例と比較例をして、当該数値範囲をもって従来の防眩フィルムが有する課題を解決し、所望の効果を有する防眩フィルムが得られることを当業者は認識することはできないから、当業者は特許発明1乃至16の技術的意味を理解することができないばかりでなく、所望の効果が得られる発明として当業者がその実施をするに際し、過度な試行錯誤を強いられるものである。したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は当業者が特許発明1乃至16を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、本件特許明細書は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許発明1乃至16に係る特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

3 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。本件審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人の主張する上記無効理由及び上記職権により通知した無効理由に対し、平成22年5月18日付け答弁書、同年7月30日付け意見書、同年11月8日付け口頭審理陳述要領書、同年12月7日付け上申書(2)、平成23年1月14日付け上申書(3)を提出し、その後、平成23年7月13日に本件特許明細書の訂正を請求するとともに、さらに、平成23年10月11日付け上申書(5)を提出し、「本件特許の請求項1乃至16は明確に記載されており、また、本件特許明細書の記載は当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとともに本件特許発明は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているから、本件特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、また、本件特許明細書は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているとともに請求項1乃至16の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、本件特許は無効とされるべきでない。」として、概略、以下の主張をし、証拠方法として以下の乙第1?52号証を提示している。
(1)理由1について
ア ヘイズ値の測定方法について
本件特許明細書には、ヘイズ値の測定方法に関して、「表1において、ヘイズ値は村上色彩技術研究所の製品番号HR-100の測定器により測定し」(段落【0131】)と記載されており、当該装置が米国規格ASTM1003-61に基づいて設計された装置であって同1003-92に基づいて設計された装置でないこと、前記米国規格ASTM1003-61はJIS K7105と等価であること、本件特許出願時のヘイズ値の測定は一般的に前記米国規格ASTM1003-61に基づいて行われていたことは乙第6,7号証及び甲第8号証の記載から明らかであるし、乙第8乃至16号証の記載を参酌すれば、本件特許出願時、HR-100がASTM1003-61に準拠したJIS K7105によって測定を行う装置であって、JIS K7105(ASTM1003-61)に基づいてヘイズの測定することが一般的に行われていたことは明らかであるから、本件特許出願時、前記HR-100が前記JIS及びASTM1003-92の両者に基づいて測定可能であるという請求人の主張には誤認がある。そして、JIS K7136は本件特許出願時に未制定の規格であって、前記「HR-100」が、本件特許出願時に制定されていた前記JIS K7105のみならず、JIS K7361を採用して全光線透過率に関する補償を行う方法による測定も可能であるとしても、ヘイズ値は全光線透過率と拡散透過率の比として表されるものであって、乙第24、43、44号証からも、その両者の測定値に差異はないことがわかるし、特許公報のテキスト検索の結果(乙第48,49,51,52号証)からしても、ヘイズ値の測定に関する本件特許出願時の技術常識はJIS K7105を用いるというものであるから、本件特許発明のヘイズ値の測定方法は明確であるといえる。
また、特許法第36条第6項第2号の規定は、特許発明の技術的範囲が不明確に起因する第三者の不測の不利益を防止する趣旨であるから、当該規定の適用に際しては、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに発明の技術的範囲が不明確であるか否かという観点で判断されるべきである。
以上のとおり、ヘイズ値の測定方法に関して、本件特許明細書には、村上色彩技術研究所の製品番号HR-100の測定器により測定したという記載があり、当該測定器がJIS K7105に基づく測定を行う装置であって、ヘイズ値の測定に関する本件特許出願時の技術常識はJIS K7105を用いるというものであるから、本件特許明細書の記載から、当業者は、本件特許発明のヘイズ値の測定方法はJIS K7105に基づくと認識することができる。したがって、請求項1乃至16の記載は明確であって、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至16の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

イ 表面及び内部ヘイズ値の測定方法について
本件特許明細書の記載からして、「表面ヘイズ値」及び「内部ヘイズ値」は、それぞれ、物体の表面の凹凸によって生じる光の拡散に起因するヘイズ値、及び、物体の内部での散乱によって生じる光拡散に起因するヘイズ値を意味することは明らかであって、測定対象を測定して得られるヘイズ値は前記表面ヘイズ値と内部ヘイズ値の和である全ヘイズ値として得られ、さらに測定対象表面を測定対象と同一屈折率の媒体で平滑化して内部ヘイズ値を得て、前記全ヘイズ値から、その得られた内部ヘイズ値を減ずることによって表面ヘイズ値を得ることは、乙第2乃至4号証の記載に照らして本件特許出願時の技術常識であるといえるし、乙第5号証に検証したとおり、その測定方法に誤りはないといえる。
そして、透光性樹脂中に透光性拡散剤を分散させた場合にあっては、当該拡散剤の表面には必ず当該樹脂が存在し、光は当該拡散剤と樹脂との界面で内部拡散され、さらに表面の凹凸形状によって拡散されることになるから、前記の場合に内部ヘイズ値の測定をするためには前記透光性樹脂と同一屈折率の媒体で平滑化すればよいといえ、平滑化に用いるべき媒体の屈折率は一義的に定まるから、「表面ヘイズ値」及び「内部ヘイズ値」の測定方法は明確である。
したがって、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至16は明確に記載されているから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

(2)理由2について
理由2が引用する判断基準は当業者に知られていない特殊な数式に関するものであって、当該判断基準がすべてのパラメータ発明や数値限定発明に一律に適用されるものではなく、当該判断基準は「特許請求の範囲の記載が、いわゆる明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」という「一般的判断基準」と、「いわゆるパラメータ発明においては、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該パラメータが示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要する」という「具体的判断基準」に分けて適用されるべきものである。
そして、前記一般的判断基準の適用にあたっては、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の範囲を対比し、前者の範囲が後者の範囲を超えているか否かを、必要かつ合目的的解釈手法によって判断すれば足り、実施可能要件適合性を判断するのと同じ手法によって判断すべきではなく、また、具体的判断基準は、特許請求の範囲が特異な形式で記載されているために、その技術的範囲の解釈に疑義がある場合や、特許請求の範囲の記載の範囲が、発明の詳細な説明の記載の範囲を超えている場合に適用すべきである。
また、数値限定発明について、公知発明の構成要件に数値限定を行っている発明は数値限定に臨界的意義が要求されるといえるが、公知発明に異なる新たな構成要件を付加した発明であって、当該新たな構成要件に数値限定を付加する発明や、物性値等の選定において公知発明と明らかに異なる目的及び作用効果を有する発明は、異なる新たな構成要件や物性値等の選定自体が新規性進歩性を有し、数値限定そのものは補足的な事項にすぎないものであって、明細書に当該数値限定の臨界的意義を裏付ける具体的な記載は要求されず、前記一般的判断基準に従って判断される、という考え方が審査・審判実務において広く知られており(乙第31号証)、また、明細書のサポート要件については、理由2が判断基準としている偏光フィルム判決以後においても、乙第32、33号証に見られるように、当該発明の特徴、その数値範囲の臨界的意義の必要性の有無を考慮した判決例も見られるとともに、同じ趣旨の判決例は乙第40号証にも見られるのであるから、偏光フィルム判決の基準が一律に適用されているわけではない。
一方、本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0007】?【0012】、【0028】、【0032】、【0033】)からして、表面ヘイズ値を制御しただけの従来の防眩フィルムでは解決できなかった、コントラストの低下抑制、面ギラ、写り込み防止等を同時に達成することを課題とし、一般的に使用されている物性値である表面ヘイズ値hiと内部ヘイズhs値の各々を制御することにより所望の作用効果が奏されることを見出した発明であって、前記表面ヘイズ値及び内部ヘイズ値の望ましい範囲を発明特定事項としたものであって、使用頻度の低い物性値や新たに創出した物性値を用いて発明特定を行う、あるいは、物性値を表す2つの技術的変数を関数とした数式を用いて発明特定するようなパラメータ発明とはいえない。
さらに、本件特許出願の審査過程において示されている参考文献である乙第34乃至36号証に照らせば、本件特許出願の優先日前には、表面ヘイズ値もしくはこれとほぼ等しい全ヘイズ値を制御することは知られていたものの、内部ヘイズ値に着目した、あるいは微粒子による内部散乱効果を積極的に利用した防眩フィルムに関する出願はなされておらず、特に乙第36号証は、内部ヘイズの認識がなく、本件特許発明とは逆に、内部ヘイズをできるだけ小さくすることを示唆していて、本件特許発明とは課題解決方向が逆である。そして、本件特許出願の公開後に内部ヘイズ値と表面ヘイズ値に着目した発明が次々と出願されているといえる(乙第37乃至39号証)から、本件特許発明は、内部ヘイズ値と表面ヘイズ値の各々を相互に関連させて制御することによって、コントラストの低下抑制、面ギラ、写り込み防止等を同時に達成するという所望の作用効果を奏することができるというパイオニア的発明として位置付けられるものである。しかも、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、内部ヘイズ値と表面ヘイズ値に関する技術的な傾向や望ましい範囲についての記載がなされている(【0119】?【0122】)。
そうすると、本件特許発明は、パラメータ発明とはいえず、さらに、防眩フィルムにおいて、内部ヘイズ値に着目し、これを有効な効果を発揮する程度の大きさの値とした上で、表面ヘイズ値と内部ヘイズ値の各々を制御することにより、防眩フィルムとしての所望の作用効果を奏し得ることを最初に見出した点においてパイオニア的な発明と位置付けられるものであるから、前記具体的判断基準が適用される発明ではなく、本件特許発明における内部ヘイズ値と表面ヘイズ値に関する数値限定は、臨界的意義を必要とされないものであって、本件特許発明の課題を解決するための望ましい範囲、すなわち、本件特許発明が実施可能であることを示した補足的なものといえる。
したがって、理由2が判断基準としている明細書のサポート要件のうちの具体的判断基準は、数値範囲自体に格別の臨界的意義が要求されないパイオニア的発明たる本件特許発明に対しては適用されず、前記一般的判断基準に従って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の範囲を対比し、前者の範囲が後者の範囲を超えているか否かを、必要かつ合目的的解釈手法によって判断すべきである。そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは、本件特許発明が規定する数値範囲が課題を解決するための望ましい範囲であることが理解できるのであるから、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至16の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(3)理由3について
本件特許発明はパラメータ発明とはいえず、さらに、明細書のサポート要件のうちの具体的規範は、数値範囲自体に格別の臨界的意義が要求されないパイオニア的発明たる本件特許発明に対しては適用されないこと、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載ならびに技術常識から、本件特許発明が規定する数値範囲によって課題を解決することができるということを当業者が理解できることは上記「(2)」で述べたとおりであるから、当業者は本件特許発明を実施するに際して過度な試行錯誤を強いられるとはいえず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1乃至16を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしている。

(4)被請求人が提示した証拠方法
乙第 1号証:特許第3507719号公報
乙第 2号証:特開平10-272678号公報
乙第 3号証:特許第4049884号公報
乙第 4号証:特開2001-324608号公報
乙第 5号証:実験報告書(平成22年4月28日)
乙第 6号証:写真撮影報告書(平成22年5月14日)
乙第 7号証:確認書(平成22年5月17日)
乙第 8号証:特許第4302214号公報
乙第 9号証:特許第4179404号公報
乙第10号証:特許第4286403号公報
乙第11号証:特開平8-231788号公報
乙第12号証:特許第3539803号公報
乙第13号証:特許第3617215号公報
乙第14号証:特許第3346240号公報
乙第15号証:特許第4099262号公報
乙第16号証:特開2001-11212号公報
乙第17号証:JIS K7361-1「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法」財団法人日本規格協会(平成13年7月25日第3刷)
乙第18号証:ASTM D1003-61(Standard Method of Test for HAZE AND LUMINOUS TRANSMITTANCE OF TRANSPARENT PLASTICS)
乙第18号証の2:乙第18号証(ASTM D1003-61)の邦訳
乙第19号証:特開平8-169052号公報
乙第20号証:特開平11-180035号公報
乙第21号証:特開2001-58377号公報
乙第22号証:公報テキスト検索結果(「ASTM D 1003-61」)
乙第23号証:公報テキスト検索結果(「ASTM D 1003-92」)
乙第24号証:「濁度計(曇り度計)NDH2000取扱説明書」日本電色工業株式会社
乙第25号証:JIS K7136「プラスチック-透明材料のヘーズの求め方」財団法人日本規格協会(平成12年2月29日第1刷)
乙第26号証:特許第3163941号公報
乙第27号証:特許第3559184号公報
乙第28号証:特許第3919984号公報
乙第29号証:特許第4098741号公報
乙第30号証:平成19年2月21日判決(平成17年(行ケ)第10661号)
乙第31号証:吉藤幸朔著、熊谷健一補訂「特許法概説〔第13版〕」株式会社有斐閣(2001年6月20日)第132?133頁
乙第32号証:平成21年9月29日判決(平成20年(行ケ)第10484号)
乙第33号証:平成20年3月27日判決(平成19年(行ケ)第10147号)
乙第34号証:特開平6-16851号公報
乙第35号証:特開平9-290490号公報
乙第36号証:再公表WO95-31737号公報抜粋
乙第36号証の2:再公表WO95-31737号公報全文
乙第37号証:公報テキスト検索結果(「内部ヘイズ」等)
乙第38号証:「防眩フィルム(材料)の内部ヘイズに着目した発明」の表
乙第39号証:公報テキスト検索結果(本件特許を先行技術とした特許出願)
乙第40号証:昭和59年4月27日判決(昭和56年(行ケ)第236号)
乙第41号証:公報テキスト検索結果(「面ぎら」等)
乙第42号証:特開2000-304648号公報
乙第43号証:実験報告書(平成22年12月3日)
乙第44号証:確認書(平成22年12月6日)
乙第45号証:平成17年11月11日判決(平成17年(行ケ)第10042号)
乙第46号証:平成22年1月28日判決(平成21年(行ケ)第10033号)
乙第47号証:「特許審査・審判の法理と課題」竹田稔監修 社団法人発明協会
乙第48号証:公報テキスト検索結果(「ヘイズ*JIS K7105」等)
乙第49号証:公報テキスト検索結果(「ヘイズ*JIS K7361」等)
乙第50号証:平成22年8月31日判決(平成21年(行ケ)第10434号)
乙第51号証:公報テキスト検索結果(乙第48号証の補足)
乙第52号証:公報テキスト検索結果(乙第49号証の補足)

第6 当審の判断
1 理由2について
最初に上記理由2について検討する。
(1)特許法第36条第6項第1号の趣旨と適合性の判断基準
特許法第36条第6項第1号の規定の趣旨は、発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると、公開されていない発明について独占的、排他的な権利が発生することになり、一般公衆からその自由利用の利益を奪い、ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ、発明を公開させることを前提に当該発明に特許を付与して、一定期間その発明を業として独占的、排他的に実施することを保障し、もって、発明を奨励し、産業の発達に寄与するという特許制度の趣旨に反することになるからである。
かかる趣旨に照らせば、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合するか否か、すなわち明細書のサポート要件に適合するか否かの判断は、特許請求の範囲に記載された発明がパイオニア的発明と称される発明であるか否かとは関わりなく、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを実質的に検討して判断すべきものといえる。
したがって、上記判断手法を特許請求の範囲に記載された発明の本質がパラメータの範囲を特定する発明である場合に適用するならば、特許請求の範囲に記載されたパラメータの範囲と発明の詳細な説明の当該パラメータに関する記載とを対比し、特許請求の範囲に記載されたパラメータの範囲を特定する発明が、発明の詳細な説明に記載されたパラメータの範囲を特定する発明であって、発明の詳細な説明の記載されたパラメータの範囲を特定する発明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを実質的に検討して判断すべきであるといえる。
そして、発明の本質がパラメータの範囲を特定する発明にあっては、そのパラメータの範囲が発明の本質である以上、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明の記載は、そのパラメータの範囲であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載したものであるか、又は、その具体例の開示や示唆がなくとも、特許出願時の技術常識を参酌して、当該パラメータの範囲と得られる効果との関係の技術的な意味が、当業者に理解できる程度に実質的に記載したものであることを要することは明らかである。

(2)特許法第36条第6項第1号適用に関する被請求人の主張の検討
一方、被請求人は、特許法第36条第6項第1号の適合性に関し、本件特許発明は内部ヘイズ値と表面ヘイズ値の各々を相互に関連させて制御することによってコントラストの低下抑制、面ギラ、写り込み防止等を同時に達成するという所望の作用効果を奏することができるというパイオニア的発明として位置付けられるものであるから、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の範囲を対比し、前者の範囲が後者の範囲を超えているか否かを、必要かつ合目的的解釈手法によって判断すべきであり、また、明細書のサポート要件のうちの具体的判断基準は、数値範囲自体に格別の臨界的意義が要求されないパイオニア的発明たる本件特許発明に対しては適用されない旨主張し、さらに、本件特許発明は、使用頻度の低い物性値や新たに創出した物性値を用いて発明特定を行う、あるいは、物性値を表す2つの技術的変数を関数とした数式を用いて発明を特定するような、いわゆるパラメータ発明ではない旨主張するので、一応、本件特許発明が、被請求人の主張するパイオニア発明であるか否か、さらに、本件特許発明がパラメータ発明といえるか否かについて検討する。

ア パイオニア発明であるか否について
本件特許発明は、上記「第4 本件特許発明」に記載したとおり、いずれも、防眩層の「表面凹凸における表面ヘイズ値hs」と「防眩層の内部散乱による内部ヘイズ値hi」の各値を発明特定事項として規定した発明であるところ、本件特許出願時、本件特許発明が前提とする「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に」、「透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層を積層した防眩フィルム」が当業者に周知の防眩フィルムであったことは、請求人や被請求人の提示した甲第18,19号証、乙第35,36号証の記載からして明らかである。
加えて、「透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」にあっては、当該透光性拡散剤と透光性樹脂の屈折率が互いに等しくない限り、両者の界面で光の屈折が生じて当該透光性樹脂内部を透過する光の一部が散乱して透過するようになって、当該光の一部が散乱して透過する現象が、防眩層内で、「曇り」、すなわち「ヘイズ」として観察されることは当業者に自明な事項であるとともに、透光性拡散剤が透光性樹脂の表面に存在して透光性樹脂の表面が凹凸となり、その凹凸による光の散乱も「ヘイズ」として観察されることも明らかである。そうすると、本件特許出願時、「透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」が、内部で生ずる散乱に起因するヘイズと、表面で生ずる散乱に起因するヘイズを有する防眩層であるということは当業者の技術常識に属する事項であったということができる。
そして、当該技術常識を参酌すると、「透明フィルムと、前記透明フィルム上に設けられた、全光線透過率85%以上、ヘイズ度3.0?35%、60度光沢度90%以下の光学特性を有しかつ表面中心線平均粗さ0.05?0.6μm、表面凹凸ピッチが5?200μmの表面粗さである屈折率1.40?1.60の樹脂ビーズを含有する電離放射線硬化性樹脂層とからなる、ディスプレイ用防眩性フィルム。」に関する発明(乙第36号証の2の特許請求の範囲の第13項参照)についての記載である、「前記電離放射線硬化型樹脂組成物には、防眩性を付与するために屈折率1.40?1.60の樹脂ビーズを混合することが好ましい。樹脂ビーズの屈折率をこのような値に限定する理由は、電離放射線硬化型樹脂の屈折率は通常1.40?1.50であることから、電離放射線硬化型樹脂の屈折率にできるだけ近い屈折率を持つ樹脂ビーズを選択すると、塗膜の透明性が損なわれずに、しかも、防眩性を増すことができるからである。」という記載(乙第36号証の2第19頁参照)からして、本件特許出願時の当業者は、既に、防眩フィルム内部で生ずる散乱に起因するヘイズである「内部ヘイズ」と、表面で生ずる散乱に起因するヘイズである「表面ヘイズ」について、それぞれを制御することにより所望の作用効果を得ることができるという知見を有していたということができる。
また、「ヘイズ」は、測定機器を用いることにより「ヘイズ値」として数値化できることも技術常識である。なお、「内部ヘイズ」を測定する手法については、後述(「4 理由1について」)のとおりである。
そうすると、防眩フィルムについて、内部ヘイズ値と表面ヘイズ値の各々を相互に関連させて制御することによって所望の作用効果を期することができるという事項は、本件特許出願時に公知の事項であるといえるから、本件特許発明は、被請求人のいうパイオニア発明ではない。

イ パラメータ発明といえるか否かについて
JISにも制定されているとおり、「ヘイズ値」そのものが慣用されている物性値であることは明らかである。しかしながら、光学要素の技術分野において、内部で生じる光の散乱(ヘイズ)のみを数値化して表現すること、あるいは、内部ヘイズ値という物性値を用いることは、被請求人も自認するとおり本件特許出願前には稀であった(平成22年7月30日付け意見書第15?17頁、平成23年7月13日付け訂正請求書第16?18行、乙第37?39号証参照)のであるから、本件特許発明の「内部ヘイズ値」、あるいは、内部ヘイズを有する光学要素の「外部ヘイズ値」という物性値が、本件特許出願前に慣用されていたということはできない。また、後述(「4 理由1について」)のとおり、透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層の内部ヘイズの値の測定方法について、当業者に共通の認識があったということもできないという点からも、本件特許発明の「内部ヘイズ値」、あるいは、内部ヘイズを有する光学要素の「外部ヘイズ値」という物性値が、光学要素である、透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層に関する技術分野において、本件特許出願前に慣用されていたということはできない。
してみると、パラメータ発明を、被請求人の主張するような発明と解したとしても、本件特許発明は、使用頻度の低い物性値を用いて発明特定を行うものであるし、「内部ヘイズ値」と「外部ヘイズ値」という2つの変数を関連づけて発明特定を行うことを発明の本質とするものといえるから、本件特許発明は、いわゆるパラメータ発明に他ならない。

(3)本件特許発明についての検討
特許法第36条第6項第1号適用に関する被請求人の主張が採用できないことは上記「(2)」のとおりであるから、本件特許発明について、上記「(1)」の判断基準に基づいて検討する。

ア 発明特定事項
上記「第4」に記載したとおり、特許発明1乃至16は、少なくとも「防眩層の表面凹凸における表面ヘイズ値hsを7<hs<30、前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiを3≦hi≦12とした」ことを発明特定事項(以下「範囲1」という。)とし、特許発明7、及び、特許発明8乃至16のうち特許発明7を引用することとなる発明は、前記発明特定事項に加え、「前記防眩層の表面凹凸におけるヘイズ値hsと前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiとの和が30以下となるようにした」ことをさらなる発明特定事項(以下「範囲2」という。)とするものである。
また、特許発明9、及び、特許発明10乃至16のうち特許発明9を引用することとなる発明は、「透光性樹脂を熱硬化性樹脂あるいは電離放射線硬化型樹脂に、透光性拡散剤を有機系微粒子と限定するとともに、範囲1の表面ヘイズ値hsを19≦hs≦25、内部ヘイズ値hiを5≦hi≦9」と特定することをさらなる発明特定事項(以下「範囲3」という。)とするものであって、さらに、特許発明11、及び、特許発明12乃至16のうち特許発明11を引用することとなる発明は、範囲1あるいは範囲3の発明特定事項のうち、「前記防眩層の表面ヘイズ値hsと前記防眩層の内部ヘイズ値hiを、hsが19でありhiが7であること、hsが25でありhiが5であること、hsが20でありhiが9であること、のいずれか」(以下「範囲4」という。)と特定するものである。

イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項
これに対し、防眩層の表面ヘイズ値hsと内部ヘイズ値hiの値を特定することの意義や作用効果について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、
(ア)「防眩層18の表面のヘイズ値は、低いほど表示のボケを小さくして明瞭なディスプレイ表示を得ることができるが、ヘイズ値が低すぎると映り込み及び面ギラが発生し、高すぎると白っぽくなり(白化;黒濃度低下)、表面ヘイズ値hsは後述のように7<hs<30が好ましく、7≦hs≦20が更に好ましく、7≦hs≦15が最も好ましい。又、表面ヘイズ値hsを最適にしても内部ヘイズ値hi が低いと面ギラが発生し易いが、防眩層18の内部ヘイズ値hiを好ましくは1<hi<15、更に好ましくは2≦hi<15、最も好ましくは3≦hi≦12とすると面ギラを低下させることができた。又、防眩層18の表面及び内部の両ヘイズ値の和を30以下にすると黒濃度(コントラスト)の低下を防止することができた。」(【0032】)
(イ)「この表1から、表面ヘイズ値が小さい場合は反射率が大きく、映り込みも大きく、又内部ヘイズ値が小さいと面ギラが発生し易いということが分かる。又、表面ヘイズ値が大きい場合、この表面ヘイズ値と内部ヘイズ値との和が大きい場合は黒濃度が低下し、白っぽくなることが分かる。黒濃度が低下すればコントラストが低下する。」(【0119】?【0120】)
(ウ)「上記表1の例及び本発明者による他の実験の結果、防眩層の表面ヘイズ値hs が7<hs<30、内部ヘイズ値hiが1<hi<15とした場合に、面ギラ、映り込みがなく、更に黒濃度が良好となり、高コントラストとなった。更に又、表面ヘイズ値と内部ヘイズ値との和が30を越える場合は、黒濃度が低下し、白っぽくなることが確認された。」(【0121】?【0122】)
という記載(以下、上記(ア)?(ウ)を「包括的記載」という。)と、
(エ)表面ヘイズ値hsと内部ヘイズ値hiの組み合わせ(以下、当該組み合わせを(表面ヘイズ値hs,内部ヘイズ値hi)として表記する。)の具体例として、「(19,7)」、「(25,5)」、「(20,9)」では、面ギラ、映り込みが共になく、良好な黒濃度値が得られるという実施例のほか、「(30,0.7)」、「(14,1)」、「(25,0.3)」、「(47,3)」、「(3,9)」のヘイズ値である場合には、少なくとも面ギラ、映り込み、黒濃度値のいずれか一つが良好でないという比較例に関する記載(以下「具体的記載」という。)がなされている(【表1】参照)。

ウ 発明特定事項と本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項の対比
(ア)上記の特許発明1乃至16ならびに特許発明7、及び、特許発明8乃至16のうち特許発明7を引用することとなる発明が発明特定事項とする範囲1ならびに範囲2(以下「前者」という。)と、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(以下「後者」という。)を対比すると、前者は「7<hs<30、3≦hi≦12」ならびに「hs+hi<30」という範囲であるのに対し、後者は具体例として、その範囲1ならびに範囲2を満足する3点と、その範囲1を満足しない、もしくは、範囲1ならびに範囲2のいずれかを満足しない5点について効果の対比を行っている。これら範囲1、範囲2、及び、前記具体例を図示すると、図1のとおりである。(加えて、範囲3についても図示している。)
図1は、表面ヘイズ値hsを横軸、内部ヘイズ値hiを縦軸とし、グラフ化して図示したもので、図中、●、×は、それぞれ、具体例のうち実施例を示す3点のヘイズ値、具体例のうち比較例を示す5点のヘイズ値をプロットした点であって、細かい点線で囲まれた範囲は、範囲1のヘイズ値の範囲、2点鎖線の直線は、範囲2のヘイズ値の関係に関する境界線を示している。なお、図中、粗い点線で囲まれた範囲は、範囲3のヘイズ値の範囲、●は、特許発明11が特定している範囲4そのものでもある。
すなわち、特許発明1,7が規定する範囲は、細かい点線と2点鎖線によって示され、発明の詳細な説明に記載されている具体例は、●と×で示されている。

(イ)図1に示された●と×を対比すると、それらのデータのみを用いるならば、範囲1のヘイズ値(細かい点線で囲まれた範囲)や、範囲2の境界線(2点鎖線の直線)以外にも、他の範囲や境界線を多数描くことが可能であることは明らかである。
したがって、発明の詳細な説明の具体的記載をもって、特許発明1ならびに特許発明7が規定するヘイズ値の範囲、すなわち、「7<hs<30、3≦hi≦12」ならびに「hs+hi<30」という範囲であれば、所望の効果が得られるという認識を当業者が持つことができるとは到底言えない。
図1


(ウ)また、後者の包括的記載は、表1から得られる総括的知見や、範囲1を満たすならば、「本発明者による他の実験の結果」所望の効果が得られること、さらに範囲2を満たすならば所望の効果が得られるのに対し、満たさない場合は所望の効果が得られないことが確認されたことを述べるにとどまるものである。そして、範囲1や範囲2と所望の効果との関係について、本件特許出願時に当業者に共通の理解があったということを認めるに足りる特段の事情も見いだすこともできない。
そうすると、本件特許出願時の技術常識を参酌しても、後者の包括的記載をもって、前者と得られる効果との関係の技術的な意味を、当業者が理解できる程度の実質的な記載がなされていると認めることもできない。
(エ)なお、範囲4は、実施例として明示された3つのヘイズ値の組み合わせそのものであるから、その技術的な意味を当業者が理解できることは明らかであり、また、範囲3は、表面ヘイズ値hsと内部ヘイズ値hiの組み合わせの実施例として明示された3つのヘイズ値の組み合わせを境界値として選択し、それらによって囲まれる範囲を特定するものであるから、後者の具体的記載と包括的記載をもって、範囲3によって得られる効果についての技術的な意味を当業者が理解できるといえる。

エ 小括
以上のとおりであるから、特許発明1乃至8、及び、特許発明12乃至16(但し、特許発明12乃至16のうち、特許発明9乃至11を引用することとなる発明を除く。)は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本件特許の特許請求の範囲の請求項1乃至8、及び、請求項12乃至16の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定に適合していない。

2 理由3について
本件特許発明は、防眩層について「表面ヘイズ値hs」及び「内部ヘイズ値hi」の数値範囲をもって特定するものである。一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明又は図面に記載された具体例をもって、特許発明1乃至8、及び、特許発明12乃至16(但し、特許発明12乃至16のうち、特許発明9乃至11を引用することとなる発明を除く。)が表面ヘイズ値hs及び内部ヘイズ値hiについて規定する「7<hs<30、3≦hi≦12」ならびに「hs+hi<30」という範囲であれば所望の効果が得られるという認識を当業者が持つことができるとはいえないこと、本件特許出願時の技術常識を参酌しても、本件特許明細書の発明の詳細な説明又は図面に、前記範囲と、得られる作用効果との関係の技術的な意味を当業者が理解できるような実質的な記載があるとも認められないことは、上記「1」の「(3)」で述べたとおりである。
してみると、当業者は、特許発明1乃至8、及び、特許発明12乃至16(但し、特許発明12乃至16のうち、特許発明9乃至11を引用することとなる発明を除く。)の技術的意味を理解することができないばかりでなく、所望の効果が得られる発明として当業者がその実施するに際し、過度な試行錯誤を強いられるものであるといえるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、特許発明1乃至8、及び、特許発明12乃至16(但し、特許発明12乃至16のうち、特許発明9乃至11を引用することとなる発明を除く。)を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、本件特許明細書は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

3 理由1について
(1)「ヘイズ値」について
本件特許出願時、ヘイズ値を測定する規格としてはASTM-D1003-61に準拠したJIS K7105が知られていたこと、試料による反射を補正して全光線透過率を測定する規格としてJIS K7361が知られていたこと、及び、株式会社村上色彩技術研究所の製品番号HR-100の測定器は、少なくともJIS K7105に基づいてヘイズ値を測定する測定器であることについては、甲第8,14,15,25,26号証、乙第6,7号証等を総合勘案することによって首肯できる事項であるし、この点について請求人、被請求人に実質的な争いはない。また、本件特許出願時、規格としては未制定であったものの、ヘイズ値を測定する新たな規格としてJIS K7136が制定に向けて準備されていたことについても同様である。そうすると、本件特許出願時、ヘイズ値を測定する方法としては、JIS K7105に則って測定する方法と、JIS K7105に則りつつ、全光線透過率について、試料による反射を補正して測定するための測定手法としてJIS K7361を用いる方法の少なくとも2つの方法が知られていたといえる。
これに対し、本件特許発明は、既に述べたとおり、「内部ヘイズ値」及び「表面ヘイズ値」という2つの「ヘイズ値」を関連づけて発明特定を行うことを発明の本質とするものであって(上記「1」の「(2)」参照)、その範囲を発明特定事項とするものであるが、特許請求の範囲にはその「ヘイズ値」の測定方法について定義はなされていない。また、本件特許明細書にはヘイズ値の測定方法について、「村上色彩技術研究所の製品番号HR-100により測定」(【0131】)として、測定を行った測定装置の名称が記載されているにすぎず、その測定を行ったとする測定装置がどのような規格に基づいて測定を行う装置であるのか、あるいは、測定に際してどのような規格を採用したかについては記載されていない。
一方、甲第26,29号証を総合勘案すると、本件特許出願時、当業者は、前記HR-100は、JIS K7105のみならず、全光線透過率についてJIS K7361による補償を行ったヘイズ値の測定が可能な装置であるという認識を有していたと認めることができる。

ここで、請求人、被請求人は、JIS K7105によって得られるヘイズ値と、JIS K7105に則りつつJIS K7361による補償を行ったヘイズ値との差異の有無について、それぞれ理論的検討を行うとともに実験報告書を提出しているところ、それらを総合すると以下のとおりである。
〈被請求人の主張〉
ア 当業者には両者の値が同一であるとの認識がある。(乙第24号証第29頁)
イ ヘイズ値は全光線透過量と拡散透過量の比であり、装置自体の拡散光量(T_(3),τ_(3))はゼロとみなせるから、両者の値は同一である。
ウ 株式会社村上色彩技術研究所の社員の立会の下に行った実験の結果、両者の測定値は同一であった。(乙第43,44号証)
〈請求人の主張〉
エ 全光線透過量には装置自体の拡散光量(T_(3),τ_(3))による独立の項が含まれ、これをゼロとみなすことはできないから、両者の値が同一になることはない。
オ 信頼できる第三者機関に依頼した実験の結果、両者の測定値に有意な差があった。(甲第30,31号証)

上記主張のうち「ア」が根拠とする乙第24号証には、前記した2つの測定方法によって得られるヘイズ値の異同についての記載があるものの、該乙号証は、本件特許明細書に記載されている「HR-100」と異なる、「NDH2000(日本電色工業株式会社)」の取扱説明書であり、その記載内容をもって「HR-100」についても同様、もしくは、「HR-100による測定値についても当業者に共通の認識がある」ということはできないから、上記主張アは採用できない。
上記主張イ、エについて検討すると、装置自体の拡散光量は装置自体の設計、構造にも依存するものであって、本件特許発明で測定に用いたとしている装置、すなわち「HR-100」が、装置自体の拡散光量を無視できる装置であるか否かにも依存するものと認められるところ、いずれの甲号証、乙号証をもってしても、それを正確に把握することはできないし、理論的な計算値と実測値が必ずしも一致するものでもない。加えて、上記主張ウ、オについて検討すると、少なくとも乙第43,44号証、甲第30,31号証に示されたいずれの実験結果も、ヘイズ値の測定に精通した第三者の立会の下、あるいは第三者自身によって行われたものであり、それらの実験結果に信ぴょう性を疑うに足る内容を見いだすことはできないから、上記主張イ乃至オはいずれも正しいものとして採用せざるを得ない。

以上の前提によると、本件特許出願時における、「村上色彩技術研究所の製品番号HR-100により測定」したという記載からは、ヘイズ値の測定をJIS K7105によって測定する場合と、JIS K7105に則りつつ、JIS K7361による補償を行って測定する場合との2つの測定方法が含まれていて、その2つの測定方法でヘイズ値を測定した場合には、同一の測定結果が得られる場合と異なる測定結果が得られる場合があるということになり、結局、その測定結果が一義的に定まらないことになる。
してみると、本件特許発明の「ヘイズ値」の測定方法は本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても不明確であって、「ヘイズ値」を一義的に定義することができないから、「ヘイズ値」は明確でないといえる。
しかも、前述のとおり、本件特許発明は、「内部ヘイズ値」と「外部ヘイズ値」という2つの「ヘイズ値」を関連づけて発明特定を行うことを発明の本質とするものといえることからして、その本質たるヘイズ値が一義的に定まらない限り、その発明を明確化することができないことは明らかであるから、本件特許発明は明確でないといわざるを得ない。
したがって、被請求人の、ヘイズ値の測定方法に係る当業者の技術常識はJIS K7105であって、本件特許明細書の「村上色彩技術研究所の製品番号HR-100により測定」したという記載から、本件特許発明のヘイズ値の測定方法はJIS K7105に基づくと認識することができ、当業者に不測の不利益を及ぼすほどの不明確さはない、という主張は採用できない。

(2)「表面ヘイズ値」及び「内部ヘイズ値」について
ヘイズは、試料表面の凹凸などの不規則性や物質中の密度や屈折率の不均一性に起因する光の拡散もしくは散乱によって生じ、試料の全透過光量と拡散透過光量との比によって得られるヘイズ値(全ヘイズ値)が、当該光の拡散もしくは散乱の総和、すなわち、試料表面で生じるヘイズ(表面ヘイズ)、と試料内部で生じるヘイズ(内部ヘイズ)の和であることは技術常識であって、試料表面における屈折率の不均一性を与えることなく試料表面の凹凸を除去した状態、すなわち、試料と同じ屈折率の物質を用いて試料表面の凹凸を除去した状態でヘイズを測定することにより、前記表面ヘイズの影響を除外し、内部ヘイズのみによるヘイズ値が得られることは周知の事項であるといえる。
しかしながら、本件特許発明の「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」においては、「試料表面における屈折率の不均一性を与えることなく試料表面の凹凸を除去した状態」とするための手法は、防眩層表面における「透光性拡散剤」の存在形態によって、以下の理由により異なるものと認められる。
ア 透光性拡散剤が透光性樹脂によって実効的に覆われている場合
防眩層表面において、透光性拡散剤が透光性樹脂によって、実効的に、すなわち、両者の界面における光の拡散や散乱の影響が出尽くすように、覆われている場合には、透光性拡散剤と透光性樹脂との界面で発生した拡散や散乱は既に内部ヘイズとして観測されていて、「表面凹凸による表面ヘイズ」は、透光性樹脂自体の凹凸による拡散や散乱として観測されるのであるから、前述の周知の事項に照らして、透光性樹脂と同一の屈折率の物質を用いて凹凸を除去すれば良いと認められる。

イ 透光性拡散剤が透光性樹脂によって実効的に覆われていない場合
防眩層表面において、透光性拡散剤が透光性樹脂によって実効的に覆われていない場合には、透光性樹脂と同一の屈折率の物質を用いて凹凸を除去すると、前記凹凸を除去するために用いた透光性樹脂と同一の屈折率の物質と、透光性樹脂によって実効的に覆われていない透光性拡散剤との界面で新たな内部ヘイズが生じることになり、その新たに生じた内部ヘイズを補償する必要が生じることになると認められる。

ここで、被請求人の提示した乙号証(乙第2?4号証)のうち、乙第2号証には、透光性拡散剤を含有しないフィルムの内部ヘイズの測定方法について記載があり、前述の周知に事項を勘案すると、被測定対象と同一の屈折率を有する透明な物質を用いて凹凸を平滑化して内部ヘイズを測定することが本件特許出願時の技術常識であったことを首肯できる。しかしながら、乙第3,4号証には、それぞれ、「内部ヘイズ(Hi)を測定(光拡散層の表面にバインダー樹脂と同様の屈折率の樹脂をコートする等して、外部ヘイズの影響をなくして測定)」(乙第3号証の【0012】)、「光拡散層用樹脂溶液a?fからそれぞれの樹脂粒子を除いた樹脂溶液を用いて、光拡散性シート1の光拡散層2の凹凸表面をバインダー樹脂で図6のように埋めて、当該光拡散層2の凹凸表面が埋まった光拡散性シート1について、同様に測定して光拡散性シート1の内部ヘーズも測定した」(乙第4号証の【0055】)と記載され、透光性拡散剤を含有するフィルムの内部ヘイズの測定方法が記載されているものの、それらはいずれも本件特許出願(本件特許優先日)後の出願に係るものであり、当該文献のみをもって、「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂(バインダー樹脂)からなる防眩層」の表面ヘイズの影響を除外して内部ヘイズのみによるヘイズ値を得る方法について、「透光性樹脂(バインダー樹脂)と同一屈折率を有する透明な物質を用いて凹凸を平滑化」することが、本件特許出願時の技術常識であったとは認められない。
さらに、請求人の提示した甲第27号証の【0031】には、「本発明においては、前記透光性樹脂との屈折率の差が0.3以下である前記第2の透光性微粒子46を、前記防眩層の表面より0.1?0.3μm突出して形成しており、防眩層よりも屈折率の低い膜が防眩層表面に適当な膜厚にて形成された状態が擬似的に構成され、…(以下略)」と記載され、当該記載は、屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層の表面には、実効的に、透光性樹脂と異なる屈折率の層が形成されていることを意味していると認められるから、当該記載を参酌すると、「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂(バインダー樹脂)からなる防眩層」における防眩層表面における「透光性拡散剤」の存在形態に関する共通認識、すなわち、透光性拡散剤が透光性樹脂によって実効的に覆われているか否かに関する共通認識が、本件特許出願時の当業者に存在したとも認められない。したがって、甲第27号証の記載からしても、「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂(バインダー樹脂)からなる防眩層」の表面ヘイズの影響を除外して内部ヘイズのみによるヘイズ値を得る方法について、「透光性樹脂(バインダー樹脂)と同一屈折率を有する透明な物質を用いて凹凸を平滑化」することが、本件特許出願時の技術常識であったとは認められない。
そうすると、表面ヘイズ値、内部ヘイズ値についても、上記「(1)」と同様に、その値を一義的に定めるべき方法を明らかにしない限り、その値を明確に定めることができず、本件特許発明は不明確であるといわざるを得ない。
なお、防眩層表面における透光性拡散剤の存在形態について、被請求人は、透光性拡散剤のほとんどは透光性樹脂中に埋没し、防眩層の表面近傍に存在する透光性拡散剤はごくわずかであって、透光性樹脂を塗布することによって測定される内部ヘイズ値に影響をおよぼすものではない旨主張する(訂正請求書第45?46頁参照)が、前述のとおり、本件特許発明は、「内部ヘイズ値」と「外部ヘイズ値」という2つの「ヘイズ値」を関連づけて発明特定を行うことを発明の本質とするものであることからして、その本質たる「内部ヘイズ値」と「表面ヘイズ値」が一義的に定まらない限り、その本質を明確化することはできないのであるから、本件特許は明確でないといわざるを得ず、本件特許発明には、当業者に不測の不利益を及ぼすほどの不明確さはない、という被請求人の主張は採用できないことは、上記「(1)」と同様である。

(3)小括
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1乃至16は明確に記載されているとはいえず、本件特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第7 まとめ
以上のとおり、平成23年7月13日に請求した訂正によって訂正された本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至16の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであって、さらに、請求項1乃至8、及び、請求項12乃至16の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、前記本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、平成23年7月13日に請求した訂正によって訂正された特許発明1乃至8、及び、特許発明12乃至16(但し、特許発明12乃至16のうち、特許発明9乃至11を引用することとなる発明を除く。)を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、前記本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、請求人の主張するその余の理由について検討するまでもなく、本件特許の特許発明1乃至16に係る特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
防眩フィルム、偏光素子及び表示装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】透明基材フィルムの少なくとも一方の面に、屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層を積層し、この防眩層の表面凹凸における表面ヘイズ値hsを7<hs<30、前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiを3≦hi≦12としたことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項2】請求項1において、前記防眩層の上に、更に、この防眩層の屈折率より屈折率の低い低屈折率層を積層してなることを特徴とする防眩フィルム。
【請求項3】請求項1又は2において、前記低屈折率層を、シリコン含有フッ化ビニリデン共重合体から形成したことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項4】請求項3において、前記シリコン含有フッ化ビニリデン共重合体が、フッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレンの共重合体であって、フッ素含有割合が60?70重量%であるフッ素含有共重合体と、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物との重合体であることを特徴とする防眩フィルム。
【請求項5】請求項4において、前記低屈折率層は、少なくとも前記フッ素含有共重合体と前記エチレン性不飽和基を有する重合性化合物とから構成される塗膜を塗布後、活性エネルギー線を照射又は加熱して形成されたものであることを特徴とする防眩フィルム。
【請求項6】請求項2乃至5のいずれかにおいて、前記低屈折率層を、酸化ケイ素の膜から形成すると共に、更にその上に防汚層を形成したことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項7】請求項1乃至5のいずれかにおいて、前記防眩層の表面凹凸におけるヘイズ値hsと前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiとの和が30以下となるようにしたことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項8】請求項1乃至7のいずれかにおいて、前記防眩層における透光性樹脂と透光性拡散剤との屈折率の差Δnを、0.01≦Δn≦0.5とすると共に、透光性拡散剤の平均粒径dを、0.1μm≦d≦5μmとしたことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項9】請求項1乃至7のいずれかにおいて、前記透光性樹脂が、熱硬化性樹脂及び電離放射線硬化型樹脂の少なくとも一方であり、前記透光性拡散剤が有機系微粒子であって、さらに、前記防眩層の表面ヘイズ値hsが19≦hs≦25、前記防眩層の内部ヘイズ値hiが5≦hi≦9であることを特徴とする防眩フィルム。
【請求項10】請求項9において、前記有機系微粒子がスチレンビーズであることを特徴とする防眩フィルム。
【請求項11】請求項1乃至10のいずれかにおいて、前記透明基材フィルムを、トリアセテートセルロースフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムの一方から構成し、さらに、前記防眩層の表面ヘイズ値hsと前記防眩層の内部ヘイズ値hiを、hsが19でありhiが7であること、hsが25でありhiが5であること、hsが20でありhiが9であること、のいずれかとしたことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項12】請求項1乃至11のいずれかにおいて、透明基材フィルムと防眩層との間に透明導電性層を有し、かつ、防眩層中に導電材料が含有されたことを特徴とする防眩フィルム。
【請求項13】請求項1乃至12のいずれかの防眩フィルムと、この防眩フィルムの前記透明基材フィルムにおける前記防眩層と反対側の面に表面を向けて積層された偏光板と、を有してなることを特徴とする偏光素子。
【請求項14】請求項13において、前記透明基材フィルムにおける前記防眩層と反対側の表面及び前記防眩層の表面をケン化処理した後、前記透明基材フィルムの表面に偏光板を積層して構成されたことを特徴とする偏光素子。
【請求項15】複数の画素を有し、各画素が光を透過又は光を反射することにより、画像を形成する表示パネルと、この表示パネルの表示面側に設けられた請求項1乃至12のいずれかの防眩フィルムと、を有してなる表示装置。
【請求項16】複数の画素を有し、各画素が光を透過又は光を反射することにより、画像を形成する表示パネルと、この表示パネルの表示面側に設けられた請求項13又は14の偏光素子と、を有してなる表示装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ワードプロセッサ、コンピュータ、テレビジョン等の画像表示に用いるCRT、液晶パネル等の高精細画像用ディスプレイの表面に用いて好適な、防眩フィルム、偏光素子及びこの防眩フィルム又は偏光素子を用いた表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記のようなディスプレイにおいて、主として内部から出射する光がディスプレイ表面で拡散することなく直進すると、ディスプレイ表面を目視した場合、眩しいために、内部から出射する光をある程度拡散するための防眩フィルムをディスプレイ表面に設けている。
【0003】
この防眩フィルムは、例えば特開平6-18706号公報、特開平10-20103号公報等に開示されるように、透明基材フィルムの表面に、二酸化ケイ素(シリカ)等のフィラーを含む樹脂を塗工して形成したものである。
【0004】
これらの防眩フィルムは、凝集性シリカ等の粒子の凝集によって防眩層の表面に凹凸形状を形成するタイプ、塗膜の膜厚以上の粒径を有する有機フィラーを樹脂中に添加して層表面に凹凸形状を形成するタイプ、あるいは層表面に凹凸をもったフィルムをラミネートして凹凸形状を転写するタイプがある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来の防眩フィルムは、いずれのタイプでも、防眩層の表面形状の作用により、光拡散・防眩作用を得るようにしていて、防眩性を高めるためには前記凹凸形状を大きくする必要があるが、凹凸が大きくなると、塗膜の曇価(ヘイズ値)が上昇し、これに伴い画像の鮮明性が低下するという問題点がある。
【0006】
上記に類似したものとして、微粒子を層内部に分散して光分散効果を得るようにした光拡散フィルムが、例えば反射型液晶表示装置用として、照明学会研究会誌MD-96-48(1996年)第277頁?282頁に開示されている。
【0007】
ここで用いられている内部散乱効果により十分な光拡散効果を得るためには、用いている微粒子の粒径を大きくしなければならず、このため、曇価の高いものの画像の鮮明性が非常に小さいという問題点がある。
【0008】
又、ディスプレイ表面に前記光拡散フィルムのような内部散乱効果により光拡散効果を得るものを防眩用として用いた場合には、その表面がほぼ平坦であるためディスプレイ表面への外光の写り込みを防止できないという問題点もある。
【0009】
更に又、上記従来のタイプの防眩フィルムは、フィルム表面に、いわゆる面ぎら(シンチレーション)と呼ばれるキラキラ光る輝きが発生し、表示画面の視認性が低下するという問題がある。
【0010】
このような防眩フィルムの評価基準の一つとしてヘイズ値があるが、表面のヘイズ値を低くすると、いわゆる面ぎらと称されるギラつき感が強くなり、これを解消しようとしてヘイズ値を高くすると、全体が白っぽくなって黒濃度が低下し、これによりコントラストが低下してしまうという問題点がある。逆に、白っぽさを除くためにヘイズ値を低くすると、いわゆる映り込みとギラつき感が増加してしまうという問題点がある。
【0011】
この発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、ディスプレイ表面に取付けたとき、コントラストの低下を抑えると共に面ギラ、写り込み、白化を防止することができる防眩フィルム、これを用いた偏光素子、及び、この防眩フィルム又は偏光素子を用いた表示装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、請求項1のように、透明基材フィルムの少なくとも一方の面に、屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層を積層し、この防眩層の表面凹凸における表面ヘイズ値hsを7<hs<30、前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiを3≦hi≦12となるようにして、上記目的を達成するものである。
【0013】
又、前記防眩層の上に、更に、この防眩層の屈折率より屈折率の低い低屈折率層を積層してもよい。
【0014】
更に、前記低屈折率層を、シリコン含有フッ化ビニリデン共重合体から形成してもよい。
【0015】
又、前記シリコン含有フッ化ビニリデン共重合体を、フッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレンの共重合体であって、フッ素含有割合が60?70重量%であるフッ素含有共重合体と、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物との重合体としてもよい。
【0016】
更に又、前記低屈折率層は、少なくとも前記フッ素含有共重合体と前記エチレン性不飽和基を有する重合性化合物とから構成される塗膜を塗布後、活性エネルギー線を照射又は加熱して形成されたものとしてもよい。
【0017】
又、前記低屈折率層を、酸化ケイ素の膜から形成すると共に、更にその上に防汚層を形成するようにしてもよい。
【0018】
前記防眩フィルムにおける防眩層の表面凹凸におけるヘイズ値hsと前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiとの和が30以下となるようにしてもよい。
【0019】
又、前記防眩層における透光性樹脂と透光性拡散剤との屈折率の差Δnを、0.01≦Δn≦0.5とすると共に、透光性拡散剤の平均粒径dを、0.1μm≦d≦5μmとしてもよい。
【0020】
前記防眩フィルムにおける透光性樹脂を、熱硬化性樹脂及び電離放射線硬化型樹脂の少なくとも一方とし、前記透光性拡散剤を有機系微粒子であって、さらに、前記防眩層の表面ヘイズ値hsが19≦hs≦25、前記防眩層の内部ヘイズ値hiが5≦hi≦9としてもよい。
【0021】
又、前記有機系微粒子をスチレンビーズとしてもよい。
【0022】
前記防眩フィルムにおける透明基材フィルムを、トリアセテートセルロースフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムの一方から構成し、さらに、前記防眩層の表面ヘイズ値hsと前記防眩層の内部ヘイズ値hiを、hsが19でありhiが7であること、hsが25でありhiが5であること、hsが20でありhiが9であること、のいずれかとしてもよい。
【0023】
又、透明基材フィルムと防眩層との間に透明導電性層を有し、かつ、防眩層中に導電材料が含有されるようにしてもよい。
【0024】
偏光素子に係る本発明は、請求項13のように、前記のいずれかの防眩フィルムと、この防眩フィルムの前記透明基材フィルムにおける前記防眩層と反対側の面に表面を向けて積層された偏光板と、を有してなることを特徴とする偏光素子により上記目的を達成するものである。
【0025】
又、前記透明基材フィルムにおける前記防眩層と反対側の表面及び前記防眩層の表面をケン化処理した後、前記透明基材フィルムの表面に偏光板を積層してもよい。
【0026】
表示装置に係る本発明は請求項15のように、複数の画素を有し、各画素が光を透過又は光を反射することにより、画像を形成する表示パネルと、この表示パネルの表示面側に設けられた前記のいずれかの防眩フィルムと、を有してなる表示装置により上記目的を達成するものである。
【0027】
又、本発明は、請求項16のように、複数の画素を有し、各画素が発光又は光を反射することにより、画像を形成する表示パネルと、この表示パネルの表示面側に設けられた上記のような偏光素子と、を有してなる表示装置により上記目的を達成するものである。
【0028】
この発明は、屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層を積層して防眩フィルムを形成する場合、防眩層の表面凹凸における表面ヘイズ値hsを7<hs<30、前記防眩層の内部拡散による内部ヘイズ値hiを3≦hi≦12とすると、透光性拡散剤の粒径を小さくし、且つ例えば液晶ディスプレイ等における表示品位を良好以上にすることができるという知見に基づくものである。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
図1に示されるように、本発明の実施の形態の第1例に係る防眩フィルム10は、透明基材フィルム12の一方の面(図において上面)に屈折率の異なる透光性拡散剤14を含有する透光性樹脂16からなる防眩層18を積層し、更に、その外側に低屈折率層20を積層してなり、前記防眩層18の表面凹凸における表面ヘイズ値hsが7<hs<30で、且つ、該防眩層18の内部拡散による内部ヘイズ値hiが1<hi<15となるようにしたものである。
【0031】
なお、低屈折率層20は反射防止作用を発現する通常範囲の材質、膜厚であれば、防眩層18の表面のヘイズ値にほとんど影響を与えない。
【0032】
防眩層18の表面のヘイズ値は、低いほど表示のボケを小さくして明瞭なディスプレイ表示を得ることができるが、ヘイズ値が低すぎると映り込み及び面ギラが発生し、高すぎると白っぽくなり(白化;黒濃度低下)、表面ヘイズ値hsは後述のように7<hs<30が好ましく、7≦hs≦20が更に好ましく、7≦hs≦15が最も好ましい。又、表面ヘイズ値hsを最適にしても内部ヘイズ値hiが低いと面ギラが発生し易いが、防眩層18の内部ヘイズ値hiを好ましくは1<hi<15、更に好ましくは2≦hi<15、最も好ましくは3≦hi≦12とすると面ギラを低下させることができた。又、防眩層18の表面及び内部の両ヘイズ値の和を30以下にすると黒濃度(コントラスト)の低下を防止することができた。
【0033】
上述のように、本発明では、防眩層18における表面の拡散と、内部の拡散を併用して、所定の効果を得ているが、上記のような表面ヘイズ値hsと内部ヘイズ値hiとの和を所定値にするよう、防眩層18を形成することにより、更に大きな効果を得ることができる。この際、通常、防眩層18中に含有する微粒子により樹脂層表面に適度な凹凸を設けることができ、これが好ましい形態である。
【0034】
又、透明基材フィルム12に対して、透光性拡散剤14を混ぜた透光性樹脂16を塗布し、この塗布層の上から、表面に、表面粗さRaが1.2μm以下の微細な凹凸を形成された賦型フィルムを、該表面が前記塗布層に接するようにラミネートし、次に、前記透光性樹脂16が電子線あるいは紫外線硬化型樹脂の場合は、これら電子線あるいは紫外線を賦型フィルムを介して照射し、又溶剤乾燥型樹脂の場合は加熱して硬化した後、賦型フィルムを硬化した防眩層18から剥離することによっても、凹凸を形成することが可能である。
【0035】
このようにすると、防眩層18は賦型フィルムに予め形成されている表面粗さRa=1.2μm以下の細かな凹凸が賦型される。
【0036】
上記のようにするため、上記実施の形態の例においては、防眩層18を構成する透光性樹脂16の屈折率と透光性拡散剤14の屈折率の差Δnを0.01≦Δn≦0.5とすると共に、拡散剤の平均粒径dを、0.1μm≦d≦5μmとしている。
【0037】
上記のように、屈折率差Δnが0.01以上としたのは、0.01未満であると、防眩層18における光拡散性を発現するには非常に多くの拡散剤を透光性樹脂中に含有させなければならず、このようにすると防眩層18の透明基材フィルム12への接着性及び塗工適性が悪化し、又Δnが0.5よりも大きい場合は、透光性樹脂16中の透光性拡散剤14の含有量が少なく、均一で適度な凹凸を持つ防眩層18が得られないからである。
【0038】
透光性拡散剤14の平均粒径dについては、これが0.1μm未満である場合、透光性拡散剤14の透光性樹脂16中への分散が困難となり、凝集が生じて均一で適度な凹凸を持つ防眩層18を形成することができず、又d>5μmの場合、防眩層18の内部における拡散効果が減少するため内部ヘイズ値が低下し面ギラが発生してしまう。更に膜厚が厚くなるため透光性樹脂16の製造過程における硬化収縮が増大し、割れやカールを生じてしまう。
【0039】
又、上記防眩層18の表面及び内部におけるヘイズ値を上記のようにしたのは、本発明者の実験によって得られた知見(後述の実施例及び表参照)に基づくものである。又、上記のようなヘイズ値は、具体的には、透光性拡散剤14と透光性樹脂16との比であるフィラー/バインダー比、溶剤等を調整して得られる。
【0040】
前記透明基材フィルム12の素材としては、透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明樹脂シートや透明ガラスがある。
【0041】
透明樹脂フィルムとしては、トリアセテートセルロース(TAC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ジアセチルセルロースフィルム、アセテートブチレートセルロースフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリルロニトリルフィルム等が使用できる。又、厚さは通常25μm?1000μm程度とする。
【0042】
前記透明基材フィルム12には、液晶用途としては、複屈折がないTACが、防眩フィルムと偏光素子との積層を可能(後述)とし、更にその防眩フィルムを用いて表示品位の優れた表示装置を得ることができるので、特に好ましい。
【0043】
又、防眩層18を、各種コーティング方法によって塗工する場合の耐熱、耐溶剤性や機械強度等の加工適性の面から、透明基材フィルム12としては、PETが特に望ましい。
【0044】
前記防眩層18を形成する透光性樹脂16としては、主として紫外線・電子線によって硬化する樹脂、即ち、電離放射線硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂に熱可塑性樹脂と溶剤を混合したもの、熱硬化型樹脂の3種類が使用される。
【0045】
電離放射線硬化型樹脂組成物の被膜形成成分は、好ましくは、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジェン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アルリレート等のオリゴマー又はプレポリマー及び反応性希釈剤としてエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン等の単官能モノマー並びに多官能モノマー、例えば、ポリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を比較的多量に含有するものが使用できる。
【0046】
更に、上記電離放射線硬化型樹脂組成物を紫外線硬化型樹脂組成物とするには、この中に光重合開始剤としてアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α-アミロキシムエステル、テトラメチルチュウラムモノサルファイド、チオキサントン類や、光増感剤としてn-ブチルアミン、トリエチルアミン、ポリ-n-ブチルホソフィン等を混合して用いることができる。特に本発明では、オリゴマーとしてウレタンアクリレート、モノマーとしてジペンタエリストリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を混合するのが好ましい。
【0047】
更に、上記防眩層18を形成するための透光性樹脂16として、上記のような電離放射線硬化型樹脂に対して溶剤乾燥型樹脂を含ませてもよい。前記溶剤乾燥型樹脂には、主として熱可塑性樹脂が用いられる。電離放射線硬化型樹脂に添加する溶剤乾燥型熱可塑性樹脂の種類は通常用いられるものが使用されるが、透明基材フィルム12として特に前述のようなTAC等のセルロース系樹脂を用いるときには、電離放射線硬化型樹脂に含ませる溶剤乾燥型樹脂には、ニトロセルロース、アセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、エチルヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂が塗膜の密着性及び透明性の点で有利である。
【0048】
その理由は、上記のセルロース系樹脂に溶媒としてトルエンを使用した場合、透明基材フィルム12であるポリアセチルセルロースの非溶解性の溶剤であるトルエンを用いるにも拘らず、透明基材フィルム12にこの溶剤乾燥型樹脂を含む塗料の塗布を行っても、透明基材フィルム12と塗膜樹脂との密着性を良好にすることができ、しかもこのトルエンは、透明基材フィルムであるポリアセチルセルロースを溶解しないので、該透明基材フィルム12の表面は白化せず、透明性が保たれるという利点があるからである。
【0049】
更に、次のように、電離放射線硬化型樹脂組成物に溶剤乾燥型樹脂を含ませる利点がある。
【0050】
電離放射線硬化型樹脂組成物をメタリングロールを有するロールコータで透明基材フィルム12に塗布する場合、メタリングロール表面の液状残留樹脂膜が流動して経時で筋やムラ等になり、これらが塗布面に再転移して塗布面に筋やムラ等の欠点を生じるが、上記のように電離放射線硬化型樹脂組成物に溶剤乾燥型樹脂を含ませると、このような塗布面の塗膜欠陥を防ぐことができる。
【0051】
上記のような電離放射線硬化型樹脂組成物の硬化方法としては、前記電離放射線硬化型樹脂組成物の硬化方法は通常の硬化方法、即ち、電子線又は紫外線の照射によって硬化することができる。
【0052】
KeVのエネルギーを有する電子線等が使用され、紫外線硬化の場合には超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等が利用できる。
【0053】
前記電離放射線硬化型樹脂に混合される熱可塑性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラニン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂等が使用され、これらの樹脂に必要に応じて架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶剤、粘度調整剤等を加えて使用する。
【0054】
前記防眩層18に含有させる透光性拡散剤14としては、プラスチックビーズが好適であり、特に透明度が高く、マトリックス樹脂(透光性樹脂16)との屈折率差が前述のような数値になるものが好ましい。
【0055】
プラスチックビーズとしては、スチレンビーズ(屈折率1.59)、メラミンビーズ(屈折率1.57)、アクリルビーズ(屈折率1.49)、アクリル-スチレンビーズ(屈折率1.54)、ポリカーボネートビーズ、ポリエチレンビーズ、塩ビビーズ等が用いられる。これらのプラスチックビーズの粒径は、前述のように0.1?5μmのものを適宜選択して用いる。上記プラスチックビーズのうち、スチレンビーズが特に好ましく用いられる。
【0056】
上記のような有機フィラーとしての透光性拡散剤14を添加した場合には、樹脂組成物(透光性樹脂16)中で有機フィラーが沈降し易いので、沈降防止のためにシリカ等の無機フィラーを添加してもよい。なお、無機フィラーは添加すればする程有機フィラーの沈降防止に有効であるが、塗膜の透明性に悪影響を与える。従って、好ましくは、粒径0.5μm以下の無機フィラーを、透光性樹脂16に対して塗膜の透明性を損なわない程度に、0.1重量%未満程度含ませると沈降を防止することができる。
【0057】
有機フィラーの沈降防止のための沈降防止剤である無機フィラーを添加しない場合は、透明基材フィルム12への塗布時に有機フィラーが底に沈澱しているので、よく掻き混ぜて均一にして使用すればよい。
【0058】
ここで、一般に、電離放射線硬化型樹脂の屈折率は約1.5で、ガラスと同程度であるが、前記透光性拡散剤14の屈折率との比較において、用いる樹脂の屈折率が低い場合には、該透光性樹脂16に、屈折率の高い微粒子であるTiO2(屈折率;2.3?2.7)、Y2O3(屈折率;1.87)、La2O3(屈折率;1.95)、ZrO2(屈折率;2.05)、Al2O3(屈折率;1.63)等を塗膜の拡散性を保持できる程度に加えて、屈折率を上げて調整することができる。
【0059】
本発明において用いられる低屈折率層20はシリコン含有フッ化ビニリデン共重合体からなり、具体的には、フッ化ビニリデン30?90重量%及びヘキサフルオロプロピレン5?50重量%を含有するモノマー組成物が共重合されてなるフッ素含有割合が60?70重量%であるフッ素含有共重合体100重量部と、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物80?150重量部とからなる樹脂組成物であることを特徴とする。この樹脂組成物を用いて、膜厚200nm以下の薄膜であって、且つ耐擦傷性が付与された屈折率1.60未満(好ましくは1.45以下)の低屈折率層20を形成する。
【0060】
この低屈折率層20に用いられる前記フッ素含有共重合体は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとを含有するモノマー組成物を共重合することによって得られる共重合体であり、当該モノマー組成物における各成分の割合は、フッ化ビニリデンが30?90重量%、好ましくは40?80重量%、特に好ましくは40?70重量%であり、又ヘキサフルオロプロピレンが5?50重量%、好ましくは10?50重量%、特に好ましくは15?45重量%である。このモノマー組成物は、更にテトラフルオロエチレンを0?40重量%、好ましくは0?35重量%、特に好ましくは10?30重量%含有するものであってもよい。
【0061】
又、このフッ素含有共重合体を得るためのモノマー組成物は、本発明の目的及び効果が損なわれない範囲において、他の共重合体成分が、例えば、20重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲で含有されたものであってもよい。ここに、当該他の共重合成分の具体例として、例えばフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン、2-ブロモー3,3,3-トリフルオロエチレン、3-ブロモー3,3-ジフルオロプロピレン、3,3,3-トリフルオロプロピレン、1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロピレン、α-トリフルオロメタクリル酸等のフッ素原子を有する重合性モノマーを挙げることができる。
【0062】
このようなモノマー組成物から得られるフッ素含有共重合体は、そのフッ素含有割合が60?70重量%であることが必要であり、好ましいフッ素含有割合は62?70重量%、特に好ましくは64?68重量%である。
【0063】
このフッ素含有重合体は、特にそのフッ素含有割合が上述の特定の範囲であることにより、後述の溶剤に対して良好な溶解性を有する。又、このようなフッ素含有重合体を成分として含有することにより、種々の基材に対して優れた密着性を有し、高い透明性と低い屈折率を有すると共に十分に優れた機械的強度を有する薄膜を形成するので、基材の表面の耐傷性等の機械的特性を十分に高いものとすることができ、極めて好適である。
【0064】
このフッ素含有共重合体は、その分子量がポリスチレン換算数平均分子量で5000?200000、特に10000?100000であることが好ましい。このような大きさの分子量を有するフッ素含有共重合体を用いることにより、得られるフッ素系樹脂組成物の粘度が好適な大きさとなり、従って、確実に好適な塗布性を有するフッ素系樹脂組成物とすることができる。
【0065】
更に、フッ素含有共重合体は、それ自体の屈折率が1.45以下、特に1.42以下、更に1.40以下であるものが好ましい。屈折率が1.45を越えるフッ素含有共重合体を用いた場合には、得られるフッ素系塗料により形成される薄膜が反射防止効果の小さいものとなる場合がある。
【0066】
本発明において用いられる重合性化合物は、光重合開始剤の存在下又は非存在下で活性エネルギー線が照射されることにより、又は熱重合開始剤の存在下で加熱されることにより、付加重合を生ずるエチレン性不飽和基を有する化合物である。
【0067】
このような重合性化合物の具体例としては、例えば、前述の特開平8-94806号に挙げるものを使用することができる。
【0068】
これらの化合物のうち、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0069】
用いる重合性化合物が、エチレン性不飽和基を1分子中に3個以上含有するものである場合には、得られるフッ素系樹脂組成物は、特に、基材に対する密着性及び基材の表面の耐傷性等の機械的特性が極めて良好な薄膜を形成するものとなる。
【0070】
重合性化合物の使用量は、フッ素含有共重合体100重量部に対して30?150重量部、好ましくは35?100重量部、特に好ましくは40?70重量部である。
【0071】
この重合性化合物の使用割合が過小であると、得られる塗料によって形成される薄膜は、基材に対する密着性が低いものとなり、一方、使用割合が過大であると、形成される薄膜は屈折率の高いものとなって良好な反射防止効果を得ることが困難となる。
【0072】
前記フッ素系樹脂組成物においては、フッ素含有共重合体及び重合性化合物を含む重合体形成成分の合計量におけるフッ素含有割合が30?55重量%、特に35?50重量%であることが好ましい。このような条件が満足される場合には、本発明の目的及び効果を更に十分に達成する薄膜を確実に形成することができる。フッ素含有割合が過大であるフッ素系樹脂組成物によって形成される薄膜は、基材に対する密着性が低いものとなる傾向と共に、基材の表面の耐傷性等の機械的特性が若干低下するものとなり、一方、フッ素含有割合が過小であるフッ素系樹脂組成物により形成される薄膜は、屈折率が大きいものとなって反射防止効果が低下する傾向が生じる。
【0073】
本発明の低屈折率層20は、シリコン含有フッ化ビニリデン重合体からなり、シリコン及びフッ素が表面の防汚性、耐傷性を向上させ、又、シリコンが、後述のケン化処理後における低屈折率層20の物性の劣化を抑制することができる。
【0074】
前記防眩フィルム10においては、低屈折率層20が、フッ化ビニリデン30?90重量%及びヘキサフルオロプロピレン5?50重量%を含有するモノマー組成物が共重合されてなるフッ素含有割合が60?70重量%であるフッ素含有共重合体100重量部と、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物30?150重量部からなる樹脂組成物を用いて形成されているので、特に、そのフッ素含有共重合体中においてヘキサフルオロプロピレン5?50重量%のモノマー成分を含んでいるので、この樹脂組成物の塗布により形成される低屈折率層において、1.45以下の低屈折率を実現することができ、又、特に、そのフッ素含有共重合体中においてフッ化ビニリデン80?90重量%のモノマー成分を含んでいるため、得られる樹脂組成物の溶剤溶解性が増し、塗布適性が良好となり、その膜厚を反射防止に適した200nm以下の薄膜とすることができる。更に、塗布される樹脂組成物中に、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物30?150重量部が含まれているため、得られる塗膜は耐擦傷性の機械的強度の優れたものとなる。又、各樹脂成分は透明性が高いため、これらの成分を含有した樹脂組成物を用いて形成された低屈折率層20は、透明性に優れている。
【0075】
前記防眩フィルム10では、接する空気からその内部に至るまで、空気層(屈折率1.0)、低屈折率層20(屈折率1.60未満、好ましくは1.45以下)、防眩層18(屈折率1.50以上)、透明基材フィルム12(防眩層18より低くあるいはほぼ同様の屈折率)となっているので、効率のよい反射防止を行うことができる。防眩層18の屈折率が透明基材フィルム12の屈折率よりも高く構成されることが望ましく、このような場合には、透明基材フィルム12と防眩層18との間の界面における反射を防止する効果が更に付加される。
【0076】
前記低屈折率層20に使用される溶剤は、当該フッ素系樹脂組成物の塗布性及び形成される薄膜の基材に対する密着性の点から、760ヘクトパスカルの圧力下における沸点が50?200℃の範囲内のものが好ましい。
【0077】
このような溶剤の具体例としては、例えばアセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル。酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸第二ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸第二アミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、乳酸メチル等のケトン類又はカルボン酸エステル類よりなる溶剤を挙げることができる。これらの溶剤は単一でも2成分以上の混合物でもよく、更に上記に例示したもの以外の溶剤を、樹脂組成物の性能が損なわれない範囲で加えることもできる。
【0078】
溶剤の使用量は、フッ素含有共重合体と重合性化合物との合計量100重量部に対して、通常200?10000重量部、好ましくは1000?10000重量部、特に好ましくは1200?4000重量部である。
【0079】
溶剤の使用量をこの範囲とすることにより、フッ素系樹脂組成物の粘度の大きさを、樹脂組成物として好ましい塗布性が得られる0.5?5cps(25℃)、特に0.7?3cps(25℃)の範囲のものとすることが容易であり、その結果、当該フッ素系樹脂組成物により、可視光線の反射防止膜として実用上好適な均一で塗布ムラのない厚さ100?200nmの薄膜を容易に形成することができ、しかも基材に対する密着性が特に優れた薄膜を形成することができる。
【0080】
本発明の光学機能性フィルムに使用されるフッ素系樹脂組成物は、含有される重合性化合物のエチレン性不飽和基が重合反応することによって硬化するものであり、従って、当該樹脂組成物が塗布されて形成された塗膜に対し、当該重合性化合物を重合反応させる硬化処理が施されて固体状の薄膜が形成される。
【0081】
このような硬化処理の手段として、当該フッ素系樹脂組成物の塗膜に活性エネルギー線を照射する手段、又は塗膜を加熱する手段が利用され、これにより、本発明が目的とする硬化状態の薄膜を確実に且つ容易に形成することができるので、実際上極めて有利であり、薄膜形成操作の点においても便利である。
【0082】
本発明の光学機能性フィルムに使用されるフッ素系樹脂組成物を活性エネルギー線の照射によって硬化処理する場合において、活性エネルギー線として電子線を用いるときは、当該フッ素系樹脂組成物には特に重合開始剤を添加することなしに、所期の硬化処理を行うことができる。
【0083】
又、硬化処理のための活性エネルギー線として、紫外線あるいは可視光線の如き光線を用いる場合には、当該活性エネルギー線の照射を受けて分解して、例えばラジカルを発生し、それによって重合性化合物の重合反応を開始させる光重合開始剤がフッ素系樹脂組成物に添加される。
【0084】
このような光重合開始剤の具体例は、前述の特開平8-94806号に開示されているが、1-ヒドロキシルシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノプロバン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-1-〔4-(モルフォリニル)フェニル〕-2-フェニルロチル)-1-ブタノン等が好ましい。
【0085】
更に、硬化処理のために加熱手段が利用される場合には、加熱により、例えばラジカルを発生して重合性化合物の重合を開始させる熱重合開始剤がフッ素系樹脂組成物に添加される。
【0086】
熱重合開始剤の具体例としては、例えばベンゾイルパーオキサイト、tert-ブチル-オキシベンゾエート、アゾビスイソブチロニトリル、アセチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、tert-ブチルパーアセテート、クミルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2′-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等を挙げることができる。
【0087】
前記フッ素系樹脂組成物における光重合開始剤又は熱重合開始剤の添加量は、フッ素含有共重合体と重合性化合物との合計100重量部に対し、通常、0.5?10重量部、好ましくは1?8重量部、特に好ましくは1?3重量部である。この添加量が10重量部を越えると、樹脂組成物の取り扱い並びに形成される薄膜の機械的強度等に悪影響を及ぼすことがあり、一方、添加量が0.5重量部未満では硬化速度が小さいものとなる。
【0088】
前記フッ素系樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の目的及び効果が損なわれない範囲において、各種添加剤、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン等のアミン系化合物から成る増感剤、もしくは重合促進剤;エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリエーテル、ポリエステル、スチレン-ブタジエンスチレンブロック共重合体、石油樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、シリコーン系オリゴマー、ポリスルフィド系オリゴマー等のポリマー、あるいはオリゴマー;フェノチアジン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール等の重合禁止剤;その他にレベリング剤、漏れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、無機充填剤、樹脂粒子、顔料、染料等を配合することができる。
【0089】
なお、上記では、低屈折率層について、その反射防止効果を説明したが、低屈折率層には黒濃度を良好として高コントラストとする効果もあり、好ましい形態は前述と同様である。
【0090】
前記低屈折率層20の形成方法は、他の一般的な薄膜成形手段、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、イオンプレーティング法、電気めっき法等の適宜な手段であってもよく、例えば前記以外の反射防止塗料の塗膜、膜厚0.1μm程度のMgF2等の極薄膜や金属蒸着膜、あるいはSiOxやMgF2の蒸着膜により形成してもよい。
【0091】
なお、前述の如く、選択された低屈折率層20の材料の屈折率に対して、(1)式を充足する屈折率の透光性樹脂16が得られない場合は、この透光性樹脂中に、前述のような屈折率の高いTiO2等の微粒子を加えて、屈折率を上げて調整する。
【0092】
なお、上記図1の防眩フィルム10は、低屈折率層を設けたものであるが、本発明はこれに限定されるものでなく、図2に示される実施の形態の第2例の防眩フィルム10Aのように、低屈折率層を設けないようにしてもよい。
【0093】
又、図3に示される実施の形態の第3例の防眩フィルム10Bのように低屈折率層20、粘着層22、セパレータ24を設けるようにしてもよい。
【0094】
前記透明基材フィルム12の防眩層18と反対側に設けられている粘着層22は、防眩フィルム10を例えば液晶パネルに取り付ける場合に用いるものであり、セパレータ24を剥離した露出した粘着層22を、液晶パネル等に押し付けることによって、防眩フィルム10を取り付けることができる。
【0095】
又、図4に示される実施の形態の第4例の防眩フィルム10Cのように、透明基材フィルム12と防眩層18との間に、透明導電性層26を設け、更に、防眩層18中に更に導電材料27を含有するように構成することにより、帯電防止性能を付与することができる。この帯電防止性能は透明導電性層を設けることによって、本発明の各実施の形態の例における全ての防眩フィルム(後述の偏光素子、表示装置における防眩フィルムを含む)に付与できる。
【0096】
透明導電性層26は、導電性微粒子を樹脂組成物に分散したものであり、導電性微粒子としては、例えばアンチモンドープのインジウム・ティンオキサンド(以下、ATOと記載する)やインジウム・ティンオキサンド(ITO)、金及び/又はニッケルで表面処理した有機化合物微粒子等を、樹脂組成物としては、アルキッド樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート(以下本明細書では、アクリレートとメタアクリレートとを(メタ)アクリレートと記載する)等のオリゴマー又はプレポリマー及び反応性の希釈剤を比較的多量に含むものが使用できる。
【0097】
防眩層18に含有させる導電材料27としては、金及び(又は)ニッケルで表面処理をした粒子を使用することができる。このような表面処理をする前の粒子は、シリカ、カーボンブラック、金属粒子及び樹脂粒子からなる群から選ぶことができる。
【0098】
前記図2?4の防眩フィルム10A、10B、10Cにおいて、他の構成は前記防眩フィルム10におけると同一であるので、同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0099】
次に図5に示される偏光素子に係る本発明の実施の形態の第1例について説明する。
【0100】
図5に示されるように、この実施の形態の例に係る偏光素子30は、前記防眩フィルム10と同様の防眩フィルム10Dと、この防眩フィルム10Dで透明基材フィルムであるTACフィルム34Aの防眩層18と反対側の面に積層された偏光膜32と、を有している。この偏光膜32はポリビニルアルコール(PVA)にヨウ素や染料を加え延伸したフィルムからなっている。
【0101】
更に、前記偏光膜32の図5において下側には、TACフィルム34Bが設けられている。
【0102】
このTACフィルム34Bと前記TACフィルム34Aとで偏光膜32を挟持した状態で、偏光板40が構成されている。
【0103】
これら透明基材となるTACは複屈折がなく偏光が乱されないので、偏光素子となるPVA及びPVA+ヨウ素フィルムと積層しても、偏光が乱されない。従って、このような偏光素子30を用いて表示品位の優れた液晶表示装置を得ることができる。
【0104】
上記のような偏光膜32を構成する偏光材料としては、上記のPVAフィルムの他に、ポリビニルホルマールフィルム、ポリビニルアセタールフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体系ケン化フィルム等からも構成され得る。
【0105】
更に、前記偏光素子30から、図6に示されるように、低屈折率層を除いた偏光素子30A、あるいは、図7に示されるように、低屈折率層20、粘着層22、セパレータ24を設けた偏光素子30Bとしてもよい。
【0106】
なお、偏光膜32とTACフィルム34A、34Bとを積層するにあたっては、接着性の増加及び静電防止のために、前記TACフィルムにケン化処理を行うとよい。このようなケン化によってTACフィルム34A、34Bの表面が親水性化してPVAフィルムに対する接着性が向上する。
【0107】
TACフィルムにケン化処理を行うと、前記低屈折率層20の材料として例えばSiOxの薄膜を用いる場合、防汚性及び耐ケン化性の点で問題となるが、この場合は、光防眩層18をケン化処理した後、SiOx真空蒸着あるいはスパッタリング等により低屈折率層20を形成し、その上に防汚材料の層を形成するとよい。
【0108】
次に、図8?図10に示されている本発明に係る表示装置を液晶表示装置に適用した場合の実施の形態の例について説明する。
【0109】
図8に示される液晶表示装置70は、偏光素子30と、液晶パネル74と、偏光板50とを、この順で積層すると共に、偏光板50側の背面にバックライト78を配置した透過型の液晶表示装置である。偏光板50としては、通常の液晶表示装置で用いられる偏光板を用いることができる。
【0110】
図9は、本発明を適用した、外付け反射板タイプの反射型液晶表示装置80である。この液晶表示装置80においては、前記液晶表示装置70におけるバックライトに代えて、偏光板50に密着して反射板82を配置したものである。
【0111】
図10は、本発明を適用した内部反射電極タイプの反射型液晶表示装置90を示す。この液晶表示装置90においては、液晶パネル74、液晶セル92内に反射板の電極を兼ねる反射電極94を配置したものであり、図10の液晶表示装置80における偏光板50及び反射板82は設けられていない。
【0112】
前記液晶表示装置70、80、90における液晶パネル74で使用される液晶モードとしては、ツイストネマティックタイプ(TN)、スーパーツイストネマティックタイプ(STN)、ゲスト-ホストタイプ(GH)、相転移タイプ(PC)、高分子分散タイプ(PDLC)等のいずれであってもよい。
【0113】
又、液晶の駆動モードとしては、単純マトリックスタイプ、アクティブマトリックスタイプのどちらでもよく、アクティブマトリックスタイプの場合では、TFT、MIM等の駆動方式が取られる。
【0114】
更に、液晶パネル74は、カラータイプあるいはモノクロタイプのいずれであってもよい。
【0115】
更に又、本発明は液晶表示装置以外の表示装置、例えばプラズマ表示装置、CRT表示装置にも適用されるものである。
【0116】
【実施例】
次に本発明の実施例について説明する。
【0117】
表1に、本発明による実施例1?6及び比較のために従来技術による比較例1?10の防眩フィルムを観察した結果及び低屈折率層(実施例3?6、比較例6?10は低屈折率層なし)の耐ケン化性の評価を示す。なお、実施例7(後述)は表1に記載されていない。
【0118】
【表1】

【0119】
この表1から、表面ヘイズ値が小さい場合は反射率が大きく、映り込みも大きく、又内部ヘイズ値が小さいと面ギラが発生し易いということが分かる。
【0120】
又、表面ヘイズ値が大きい場合、この表面ヘイズ値と内部ヘイズ値との和が大きい場合は黒濃度が低下し、白っぽくなることが分かる。黒濃度が低下すればコントラストが低下する。
【0121】
上記表1の例及び本発明者による他の実験の結果、防眩層の表面ヘイズ値hsが7<hs<30、内部ヘイズ値hiが1<hi<15とした場合に、面ギラ、映り込みがなく、更に黒濃度が良好となり、高コントラストとなった。
【0122】
更に又、表面ヘイズ値と内部ヘイズ値との和が30を越える場合は、黒濃度が低下し、白っぽくなることが確認された。
【0123】
又、低屈折率層を表面に設けることにより黒濃度を良好とし高コントラストであり、且つ、反射防止効果も得られる。
【0124】
前記実施例1及び2の実施条件は、表2に示される。
【0125】
【表2】

【0126】
表2におけるPETAはペンタエリスリトールトリアクリレート、CAPはセルロースアセテートプロピオネート、又表2において10%CAPは、酢酸エチルで希釈した状態でポリマー含有率が10%ということである。10%シリコン含有フッ化ビニリデン及び10%DPHAにおける「10%」も同様である。
【0127】
又、DPHAはジペンタエリスリトールヘキサアクリレートであり、これを希釈するための溶剤MIBKは、メチルイソブチルケトンを示す。
【0128】
又、P/Vは、フィラー/バインダーを示し、スチレンビーズペースト(商品名SX-130H)は、スチレンビーズとPETAが4:6のペーストを意味し、ビーズ含有量は40%である。
【0129】
又、表1において、接触角とは、前記低屈折率層の表面における水滴の接線と低屈折率層の表面との角度、初期スチールウール及び耐ケン化性におけるスチールウールとは、低屈折率層表面におけるハードコート性を確認するものであり、#0000のスチールウールを用い、200g荷重で20回表面を擦り、表面の疵の有無及び光学特性の変化を見るものである。
【0130】
又、ケン化テストは、防眩フィルムを60℃のアルカリ溶液(2NのNaOH)に1分間浸漬した後に取り出して、洗浄水で水洗してから行う。
【0131】
又、表1において、ヘイズ値は、村上色彩技術研究所の製品番号HR-100の測定器により測定し、反射率は、島津製作所製の分光反射率測定機MPC-3100で測定し、波長380?780nm光での平均反射率をとった。
【0132】
又、接触角は、純水を用い、エルマ社製の接触角測定機Model G1で測定した。
【0133】
又、面ギラの評価は、バックライト(HAKUBA製LIGHTBOX45)上に、千鳥格子配置のカラーフィルター(ピッチ150μm)を設置し、カラーフィルター表面から160μm離れた位置に、防眩フィルム処理面を上に向けて貼着し、面ギラ状態を目視で評価した。
【0134】
前記黒濃度の評価は、防眩フィルムの裏面に黒い絶縁ビニールテープ(ヤマト製、幅37.5mm)を貼って試験片とし、蛍光灯下でフィルム表面を観察した。更に、この試験片をKollmorgen Instruments Corporation製のマクベスRD918で測定した。同様に裏面に黒いビニールテープを貼った透明基材フィルムを測定し、この値を基準、即ち黒濃度100%(例えばTACの場合は2.28)とし、これに対し試験片の測定値が85%以上である場合を良好とした。
【0135】
又、映り込みについては、防眩フィルムを偏光板に貼り、クロスニコルでバックを黒くして蛍光灯の映り込みの有無を見た。
【0136】
実施例1及び2における防眩フィルムの製造方法は、次の如くである。
【0137】
まず、表2の条件で得られた防眩層の材料をTAC基材上に塗布し、60℃で1分間乾燥後、UV光(紫外線)を90mJ照射してハーフキュアし、膜厚3?4μm/m2の防眩層を作成する。
【0138】
次に、上記得られた防眩層の上に表2に示される低屈折率層の材料を塗布し、80℃で1分間乾燥後、窒素パージ下においてUV光500mJ照射して、前記防眩層と共に完全にキュアする。このとき、低屈折率層の膜厚は0.1μm/m2である。
【0139】
ここで、上記防眩層における表面ヘイズ値及び内部ヘイズ値は、主として表2におけるP/V比、P及びVの屈折率差、溶剤の種類等により適宜選定することができる。
【0140】
次に、実施例3について説明する。
【0141】
実施例3は、実施例1と同様の防眩層を形成し、これをケン化処理後、低屈折率層として、SiO2膜を蒸着により膜厚0.1μmで形成し、更にその上から防汚層を設けたものである。SiO2の蒸着条件は、真空度4×10-5Torr、電圧8KV、電流20?40mAである。
【0142】
又、防汚層は、フッ素系溶剤PF5080(商品名;3M製)により0.007%に希釈したKP-801M(商品名;信越化学製)を塗布し、80℃で1分間乾燥し、膜厚約5nmの防汚層を形成したものである。
【0143】
実施例4?6は、実施例1?3での低屈折率層を省略したものであり、従ってケン化処理はない。
【0144】
次に実施例7について説明する。
【0145】
表1には記載されていないが、図4のように、透明導電性層26と、導電材料27を設けた実施例7についての製造方法について述べる。
【0146】
まず、透明導電性層の材料をTAC基材上に膜厚2μm/m2となるようにコーティングし、70℃で1分間乾燥後、窒素パージ下でUV(紫外)光54mJを照射してハーフキュアする。透明導電性層の材料はDA-12(ATO含有導電インキ:住友大阪セメント製)を用いた。次に、この透明導電性層の上に防眩層の材料を膜厚3?4μm/m2となるようにコーティングし、60℃で1分間乾燥後、窒素パージ下でUV光90mJを照射してハーフキュアする。防眩層の材料は、実施例1で用いた材料に導電材料ブライトGNR4,6-EH(金-ニッケルコート樹脂ビーズ:日本化学工業製)を0.005g加えたものを用いた。更に、この防眩層の上に表2に示される低屈折率層の材料を塗布し、80℃で1分間乾燥後、窒素パージ下でUV光500mJを照射して、前記透明導電性層及び防眩層と共に完全にキュアする。
【0147】
比較例1は、防眩層の材料として表2に示されるPETAを2.27g、ビーズを粒径1μm、屈折率n=1.45のシリカビーズ0.2gとし、他の条件は前記実施例2と同一とした。
【0148】
又、比較例1における低屈折率層は、前記実施例2と同一とし、且つ製造方法も、実施例1及び2と同一とした。
【0149】
次に、比較例2について説明する。
【0150】
比較例2は、前記表2におけると同様のPETAを13.50g、スチレンビーズペーストは実施例1と同一、10%CAPは13.3g、溶剤(トルエン、酢酸ブチル、イソブチルアルコール)は36.8g、光硬化開始剤は実施例1、2と同一のものを0.399gとした。
【0151】
又、低屈折率層については、実施例1と同一条件、製造方法は、実施例1、2と同一である。
【0152】
次に、比較例3について説明する。
【0153】
比較例3における防眩層の材料は、実施例1と同様のPETAを10g、10%CAPを5g、溶剤(トルエン、酢酸ブチル、イソブチルアルコール)を20g、実施例1と同様の光硬化開始剤を0.3gとした。
【0154】
又、賦型フィルムとしてマットPET(商品名E130;ダイヤホイル製)を用い、低屈折率層の材料は実施例1と同一とした。
【0155】
製造方法は、まず、防眩層の材料をTAC基材上に、膜厚3?4μm/m2となるようにコーティングし、前記マットPETとラミネートした後、UV光150mJでハーフキュアする。
【0156】
次に、前記マットPETを剥離し、防眩層に微細な凹凸を形成した上、低屈折率層材料を膜厚0.1μm/m2となるようにコーティングし、80℃で1分間乾燥後、窒素パージ下でUV光500mJを照射して前記防眩層と共に完全にキュアする。
【0157】
次に、比較例4について説明する。
【0158】
比較例4は、前記実施例2のうちの防眩層の溶剤を酢酸エチル、アノンに変更したものであり、他の条件は全て実施例1と同一である。
【0159】
次に、比較例5について説明する。
【0160】
比較例5は、防眩層材料について、実施例1における溶剤をMIBKのみに変更した他は、実施例1と同一であり、低屈折率層、製造方法についても実施例1と同一とした。
【0161】
比較例6?10は、比較例1?5における低屈折率層を取除いたものである。
【0162】
次に、表3に示される実施例2と比較例11におけるケン化の効果の比較について説明する。
【0163】
【表3】

【0164】
比較例11における防眩層は、前記実施例2と同一条件であり、低屈折率層は、シリコンを含有しないフッ素系低屈折率ポリマー(品番、TM005;JSR)を用い、製法は実施例1、2と同様である。実施例2は低屈折率層にシリコン含有のフッ素系低屈折率ポリマーを用いており、表3からも分るように、両者でケン化後のハード性に明らかな差を生じる。
【0165】
表4は、実施例7の帯電防止性能を実施例1と比較したものである。表4から、実施例7の他の性能は実施例1と同等であり、且つ、表面抵抗値(Ω/□)が小さな値となっていることが分かる。
【0166】
【表4】

【0167】
【発明の効果】
本発明は上記のように構成したので、ディスプレイパネルの表面に取り付けたとき、コントラストの低下を抑え、更に、面ギラ、映り込み、白化を防止することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の第1例に係る防眩フィルムを示す断面図
【図2】同第2例に係る防眩フィルムを示す断面図
【図3】同第3例に係る防眩フィルムを示す断面図
【図4】同第4例に係る防眩フィルムを示す断面図
【図5】偏光素子に係る本発明の実施の形態の第1例を示す断面図
【図6】同第2例に係る偏光素子を示す断面図
【図7】同第3例に係る偏光素子を示す断面図
【図8】本発明の表示装置を液晶表示装置とした場合の実施の形態の第1例を示す断面図
【図9】同第2例を示す断面図
【図10】同第3例を示す断面図
【符号の説明】
10、10A、10B、10C、10D・・・防眩フィルム
12・・・透明基材フィルム
14・・・透光性拡散剤
16・・・透光性樹脂
18・・・防眩層
20・・・低屈折率層
22・・・粘着層
26・・・透明導電性層
27・・・導電材料
30、30A、30B・・・偏光素子
32・・・偏光膜
34A、34B・・・TACフィルム
40、50・・・偏光板
70、80、90・・・液晶表示装置
74・・・液晶パネル
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-10-20 
結審通知日 2011-10-24 
審決日 2011-11-07 
出願番号 特願平11-4880
審決分類 P 1 113・ 536- ZA (G02B)
P 1 113・ 537- ZA (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 荒井 良子  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 北川 清伸
伊藤 幸仙
登録日 2003-12-26 
登録番号 特許第3507719号(P3507719)
発明の名称 防眩フィルム、偏光素子及び表示装置  
代理人 金山 聡  
代理人 結田 純次  
代理人 田村 恭子  
代理人 竹林 則幸  
代理人 服部 誠  
代理人 金山 聡  
代理人 片山 英二  
代理人 結田 純次  
代理人 後藤 直樹  
代理人 櫻井 彰人  
代理人 竹林 則幸  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 後藤 直樹  
代理人 櫻井 彰人  
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