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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03C
審判 全部無効 4号2号請求項の限定的減縮  C03C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
管理番号 1269766
審判番号 無効2012-800064  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-04-27 
確定日 2013-01-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3635635号発明「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許3635635号(以下「本件特許」という。)は、平成11年9月30日に出願され、平成17年1月14日に設定登録されたもので、その後の無効審判における手続は次のとおりである。
平成24年 4月27日 無効審判請求
同 年 7月20日 答弁書及び訂正請求書
同 年 8月30日 弁駁書
同 年10月22日 口頭審理陳述要領書(請求人及び被請求人)
同 年11月 5日 口頭審理

第2 訂正請求について
1 訂正請求の内容
被請求人が求めた訂正は、次の2つの事項から成る。
(1)特許請求の範囲の減縮を目的として請求項1を次のとおり訂正する。
「【請求項1】
平均アセタール化度が66?72モル%のポリビニルアセタール100重量部とトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、オリゴエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート及びテトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートからなる群より選択される少なくとも1種の可塑剤30?50重量部とからなる可塑化ポリビニルアセタール中に、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも2種の塩、又は、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩と炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩とを組み合わせた少なくとも2種の塩が合計60ppm以上含有されてなる可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜からなることを特徴とする合わせガラス用中間膜。」
(2)特許請求の範囲の減縮を目的として請求項5を次のとおり訂正する。
「【請求項5】
塩の含有量は、150ppm以下であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の合わせガラス用中間膜。」

2 訂正請求についての当審の判断
訂正事項(1)は、本件訂正前の「炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選択される少なくとも2種の塩」について、「炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選択される少なくとも2種の塩」を削除して「炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも2種の塩、又は、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩と炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩とを組み合わせた少なくとも2種の塩」に限定すると共に、
本件訂正前に「2種の塩が合計5ppm以上含有されてなる」であったものを「2種の塩が合計60ppm以上含有されてなる」として、2種の塩の含有量の下限値を引き上げる訂正である。
このため、訂正事項(1)は、特許請求の範囲の減縮を目的とすることは明らかである。
訂正事項(2)は、訂正事項(1)において請求項1における少なくとも2種の塩の含有量の合計を「60ppm以上」に訂正したことにあわせて、請求項5において、本件訂正前に「塩の含有量は、10?150ppm」であったものを、少なくとも2種の塩の含有量の合計の下限値を削除して、上限のみを規定するように訂正するものである。
このため、訂正事項(2)の訂正は、実質的に特許請求の範囲の減縮を目的とすることは明らかである。
したがって、訂正事項(1)及び(2)による請求項1及び5に係る訂正は、特許無効審判が請求された請求項について請求項ごとに訂正をするものであるところ、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項1及び5に係る訂正は、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、本件訂正は、平成14年改正前特許法第134条第2項ただし書き、及び同条第5項において準用する同法第126条第2項、第3項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。

第3 本件発明
以上のとおり本件訂正が認められるので、本件特許に係る発明であって、無効審判の請求がされた請求項に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下「本件発明1?6」といい、これらを併せて「本件発明」ということがある)。
「【請求項1】
平均アセタール化度が66?72モル%のポリビニルアセタール100重量部とトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、オリゴエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート及びテトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートからなる群より選択される少なくとも1種の可塑剤30?50重量部とからなる可塑化ポリビニルアセタール中に、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも2種の塩、又は、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩と炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩とを組み合わせた少なくとも2種の塩が合計60ppm以上含有されてなる可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜からなることを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
150℃で1時間放置した際の重量減少が3重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
厚さ2.0?4.0mmの2枚のガラスで挟み込んで合わせガラスを作製した後、前記合わせガラスを80℃、相対湿度95%の環境下に2週間放置した際の端辺からの白化距離が7mm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
ポリビニルアセタールは、平均ブチラール化度が66?72モル%のポリビニルブチラールであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
塩の含有量は、150ppm以下であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の合わせガラス用中間膜が用いられていることを特徴とする合わせガラス。」

第4 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1?6に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下の無効理由により、本件特許は無効とされるべきである旨を主張し、証拠方法として甲第1?10号証を提出している。
(1)無効理由1
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分であるとはいえず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。このため、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効である。
(2)無効理由2
本件発明の特許請求の範囲の記載は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないから特許法第36条第6項第1号に適合しない。よって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効である。
(3)無効理由3
本件発明の特許請求の範囲の記載は、不明確であるから特許法第36条第6項第2号の規定に適合しない。よって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効である。

(4)証拠方法
甲第1号証:特開平8-119687号公報
甲第2号証:特開平5-297602号公報
甲第3号証:特開昭64-36442号公報
甲第4号証:特開平11-343152号公報
甲第5号証:特開平4-359903号公報
甲第6号証:特許第3635635号に関する意見書
甲第7号証:特開平7-41340号公報
甲第8号証:特公昭44-32183号公報
甲第9号証:特開平2-212140号公報
甲第10号証:特開2000-211952号公報

2 被請求人の主張
(1)被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由1?3は、いずれも理由がないと主張し、証拠方法として乙第1?17号証を提出している。
(2)証拠方法
乙第1号証:特願2000-572166号 拒絶理由通知
乙第2号証:特願2000-572166号 特許メモ
乙第3号証:米国特許第6383647号明細書
乙第4号証:米国特許第6586103号明細書
乙第5号証:欧州特許第1036775号明細書
乙第6号証:欧州特許第1291333号明細書
乙第7号証:竹田稔監修、「特許審査・審判の法理と課題」、2002年2月5日初版、(社)発明協会、第141頁
乙第8号証:特許第4818553号公報
乙第9号証:特許第4808986号公報
乙第10号証:特許第4221310号公報
乙第11号証:特許第3910094号公報
乙第12号証:特許第4926548号公報
乙第13号証:特許第4754112号公報
乙第14号証:特許第4615152号公報
乙第15号証:特許第4615153号公報
乙第16号証:特許第4295984号公報
乙第17号証:特許第4759901号公報

第5 当審の判断
1 無効理由1について
1-1 当事者の具体的主張
請求人は、本件発明1における「少なくとも2種の塩が合計60ppm以上含有されてなる」という特定事項に関し、発明の詳細な説明には、実施例において「・・・の含有量となるようにこれらを添加し」と最終的な含有量についての記載(【0034】【0041】段落等)があるのみで、どのようにして樹脂膜中の2種の塩の含有量を合計60ppm以上とするかについて具体的な記載がなく、
樹脂膜中の塩の含有量を直接測定する方法は知られておらず、樹脂中に添加された塩は、樹脂膜中の水分や不純物として含有されるアルカリ金属塩等の影響により、解離や他の塩への変換をうけるので(甲第1?6号証)、本件優先日当時の技術常識を考慮しても、当業者は何をどれだけの量添加すれば、請求項に規定する量の塩を含有する膜が得られるかを理解することができない、と主張する。
これに対して被請求人は、樹脂組成物や樹脂成形体中の金属塩の含有量を規定することは、化学分野の特許出願においては一般的に用いられている表現であるので(乙第8?第16号証)、当業者であれば容易に理解でき、合わせガラス中間膜中に含まれる少なくとも2種の塩の「含有量」は、「仕込み量」によって調整することは可能である旨を主張する。

1-2 判断
(1)ここで、実施可能要件の判断は、明細書に記載された発明の実施に関する教示と出願時の技術常識とに基づいて、当業者が請求項に係る発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明が記載されているかについておこなう。
本件では、請求人の主張するとおり、発明の詳細な説明の記載のみからでは、「少なくとも2種の塩が合計60ppm以上含有されてなる」ことについて、実施することができない。そこで、技術常識を考慮すれば、発明の詳細な説明の記載から当業者が実施できるかについて検討する。
(2)これに関し、樹脂組成物や樹脂成形体中の塩の含有量を規定することは、化学分野の特許出願においては一般的におこなわれていることである(乙第8?16号証)。そして、特許請求の範囲では樹脂組成物中の添加成分の含有量を規定した場合でも、実施例では、樹脂組成物への添加成分の仕込み量を示すことにより、樹脂組成物中の含有量としていることも、以下に示すように通常おこなわれていることである。
すなわち、例えば、乙第9?11号証の特許請求の範囲には、「4-n-ブチルレゾルシノール及び/又はその塩」を含有する皮膚外用剤が記載されているが、該「4-n-ブチルレゾルシノール及び/又はその塩」の含有量は、0.1?0.5質量%(乙第9号証)、0.05?5質量%(乙第10号証)、0.01?6重量%(乙第11号証)と規定されるが、実施例では、皮膚外用剤中の含有量ではなく、これを作成するための原料の仕込み量が記載されている(乙第9号証の【0021】【0022】段落等、乙第10号証の【0033】【0036】段落等、乙第11号証の【0030】段落)。
また、乙第12号証の請求項6では、水溶性無機塩の粒子状物が分散しているポリビニルアルコールフィルムを延伸することを特徴とする、クラックを含有している偏光フィルムの製造方法において、ポリビニルアルコールフィルム中の水溶性無機塩の含有量が5?20重量%であることが規定されているが、実施例では、含有量ではなく仕込み量を記載している(【0047】、【0048】段落等)。乙第16、17号証も同様である。
以上のことから、合わせガラス用の中間膜に関する技術分野における当業者であれば、樹脂組成物中の塩について、特許請求の範囲では含有量で規定している場合でも、その発明の実施にあたっては、含有量は仕込み量を意味すると理解するのが通常であるといえる。
(3)一方で、本件発明1において、中間膜中の塩の含有量を仕込み量と理解するについて、これを阻害するような特段の事由は存在しない。
すなわち、合わせガラス用中間膜の製造時にポリビニルアセタールに添加した酢酸マグネシウムや2-エチル酪酸マグネシウム塩等の金属塩は、混練工程においてポリビニルブチラール中に含まれる水分(極性媒体)と接触したときは電離してイオンとなりうるし、ポリビニルアセタール中にイオン種が含有されている場合には、塩の交換反応が水等の極性媒体の存在下で起こりうる。
しかし、合わせガラスの製造工程で、合わせガラス用中間膜は加熱工程、脱気工程を経るので(本件明細書【0034】【0035】段落)、ポリビニルブチラール中に含まれる水分は通常ごく僅かな量に過ぎず、金属塩の電離反応が起こりうるとしても、配合した金属塩の全体のうちのごく僅かの割合に過ぎない。また、ポリビニルブチラール中に含まれる僅かな量の水分の中で塩が接触して交換反応が起こる確率も低い。
したがって、中間膜中の塩の含有量を仕込み量と理解することについて、金属塩の電離や交換反応の存在を特段の阻害事由とすることはできない。
(4)さらに、「含有量」が「仕込み量」を意味することは、被請求人が口頭審理で、実施例の塩の「含有量」は「仕込み量」を意味する旨の陳述をしたことからも確認することができる(第1回口頭審理調書、被請求人の第3項)。
(5)以上のとおりであるから、本件発明1における「少なくとも2種の塩が合計60ppm以上含有されてなる」に関して、当業者であれば、実施例における塩の「含有量」は「仕込み量」を意味すると理解することができる。

1-3 小括
したがって、発明の詳細な説明には、「少なくとも2種の塩が合計60ppm以上含有されてなる」に関して、本件発明の実施に関する教示と本件出願時の技術常識に基づいて、当業者が本件発明を実施できる程度に記載されているとすることができ、このため、本件発明は特許法第36条第4項の規定を充足するものである。

2 無効理由2について
2-1 請求人の主張
請求人は、本件発明で可塑剤として使用する「トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート」(以下「3G8」という。)、「オリゴエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート」(以下「nG8」という。)及び「テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート」(以下「4G7」という。)からなる群より選択される少なくとも1種に関し、nG8又は4G7を可塑剤として含む合わせガラス用中間膜は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決することが可能であると認識できる範囲を超えるものであるとし、
2種の塩の含有量に関し、特許請求の範囲には、「少なくとも2種の塩が合計60ppm以上含有」と規定されるのみであるが、各塩の含有量の下限値や含有比率の規定はなく、当該規定のないすべての範囲で本件発明の課題を解決できるわけではないので、本件発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決することが可能であると認識できる範囲を超えるものであると主張する。
また、比較例3は1種のマグネシウム塩を4ppmしか含まず、2種のマグネシウム塩を併用して合計60ppm以上含む本件発明の比較例にならないので、本件発明のうち、2種のマグネシウム塩を含有する合わせガラス中間膜は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないし、本件発明1?4は、塩の含有量について上限値を規定していないが、2種の金属塩を多量に含有する場合には、本件発明の効果を達成することはできない(甲第10号証)ので、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないと主張する。

2-2 本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。
(ア)「しかしながら、上記合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスでは、耐湿試験後の周縁部の白化は低減されているものの、依然充分ではない。また、金属塩の添加量を低減すると、上記白化の問題は改善されるが耐貫通性が低下する。
また、近年の合わせガラス用中間膜の自動車サイドガラスへの展開、フロントガラスのオープンエッジ化等に伴い、合わせガラスの耐湿性に対する要求品質がますます高まっている。」(【0004】段落)
(イ)「更に、合わせガラス用中間膜用可塑剤としては、一般にアジピン酸ジヘキシル、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート等が用いられているが、これらの可塑剤は沸点が低いために飛散し易く、中間膜の製造工程において、オートクレーブ時の火災や、オートクレーブ後の端部カット(トリムカット)が難しい等の問題を有するため、より高沸点の可塑剤への変更が期待されている。」(【0005】段落)
(ウ)「発明の要約
本発明は、上記に鑑み、合わせガラスとした際に、透明性、耐候性、接着性、耐貫通性等の優れた特性を有し、かつ、湿度の高い雰囲気下に置かれた場合でも合わせガラス周縁部に白化を起こすことが少なく、オートクレーブ時の火災や端部カット(トリムカット)性の問題が解決された合わせガラス用中間膜及びそれを用いた合わせガラスを提供することを目的とするものである。」(【0006】段落)
(エ)「発明の詳細な開示
以下に本発明を詳述する。
本発明の合わせガラス用中間膜は、合わせガラスを80℃、相対湿度95%の環境下に2週間放置した際の端辺からの白化距離が7mm以下であるが、7mmを超えると、白化がさらに進行しやすく、耐湿性に劣るため上記範囲に限定される。なお、上記端辺とは、合わせガラスにおける外周四辺のうち、白化部分に最も近い辺を意味する。」(【0008】段落)
(オ)「本発明の合わせガラス用中間膜は、可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜からなるものであれば特に限定されないが、上記合わせガラスの耐貫通性を向上させるために、用いられる金属塩を多量に添加すると、耐湿性が著しく低下する。そこで炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選択される少なくとも2種の塩を併用すること等により、少量で耐貫通性を確保できると同時に耐湿性を改善することができる」(【0010】段落)
(カ)「また、上記合わせガラス用中間膜は、可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、オリゴエチレングリールジ-2-エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート等を用いることにより、オートクレーブ火災やトリムカット性の問題を著しく改善することができる。従って、本発明の合わせガラス用中間膜は、平均アセタール化度が66?72モル%のポリビニルアセタール100重量部とトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、オリゴエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート及びテトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートからなる群より選択される少なくとも1種の可塑剤30?50重量部とからなる可塑化ポリビニルアセタール樹脂中に、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選択される少なくとも2種の塩が合計5ppm以上含有されてなる可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜が好ましい。塩の含有量が5ppm未満であると接着力調整効果が低くなることがあり、塩の含有量が高すぎると耐湿性が低下することがある。」(【0011】段落)
(キ)「上記合わせガラス用中間膜は、上記可塑剤のほかに、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選択される少なくとも2種を含むが、これらは、接着力調整剤として用いられるものである。
中間膜とガラスとの接着力が弱すぎると、外部からの衝撃等により破損したガラス破片が中間膜から剥がれ、飛散して人体等に障害を与える可能性が高くなり、一方、中間膜とガラスとの接着力が強すぎると、外部からの衝撃等によりガラスと中間膜とが同時に破損し、ガラスと中間膜との接着破片が飛散して人体等に障害を与えるため、接着力を適当な範囲に調整する必要があるが、これらの塩の2種が併用されることにより、少量で接着力の調整が可能となり、得られる合わせガラス用中間膜の耐湿性もより向上する。」(【0021】段落)
(ク)【0033】?【0048】段落には、本件発明の実施例と比較例及びそれらについての測定結果が記載されており、各実施例、比較例において配合された可塑剤及び接着力調整剤の種類、配合量と評価との関係をまとめると、次の表のとおりとなる。


2-3 判断
(1)可塑剤としてのnG8と4G7について
本件発明は、記載事項(ウ)によれば、耐貫通性、耐湿性に優れるとともに、オートクレーブ時の火災や端部カット性の問題が解決された合わせガラス用中間膜及びそれを用いた合わせガラスに関するものである。そして、同(カ)によれば、本件発明においては、2種の塩を併用することにより、合わせガラスの耐貫通性を確保しつつ耐湿性を改善するとともに、可塑剤として3G8、nG8及び4G7より選択される1種を使用することにより、合わせガラス製造におけるオートクレーブ火災やトリムカット性の問題を改善しているとされている。
しかし、実施例4と5では、可塑剤としてnG8又は4G7を選択し2種の塩を併用しているが、1種の塩を用いた比較例がない。このため、nG8及び4G7を3G8とは別個の異なる可塑剤として扱い、それぞれの効果を個別に検討するとした場合には、請求人の主張するように、nG8又は4G7を可塑剤として使用した合わせガラス用中間膜が本件発明の効果を達成できると当業者は認識することはできない。
そこで、発明の詳細な説明には、可塑剤としてnG8と4G7を選択した合わせガラス用中間膜について、3G8を選択した場合と同様に、オートクレーブ時の火災や端部カット性の問題を解決できることを、当業者が認識できるように記載されているかを検討する。
その検討にあたっては、請求項に係る発明と発明の詳細な説明に記載された発明との実質的な対応関係を検討すべきであるし、当業者が認識できるように記載された範囲の把握は、明細書及び図面のすべての記載事項に加え、出願時の技術常識を考慮しておこなうべきである。
本件発明において採用する可塑剤は、記載事項(イ)によれば、従来の可塑剤に比較して高沸点の可塑剤へ変更することを目的として選ばれたもので、高沸点という点で共通の化学的性質を有するものである。また、その化学構造は、エチレングリコール単位を基本骨格として、側鎖に炭素数の近いエチルヘキサノエート基又はヘプタノエート基を有するという、近似した化学構造を有する。このように近似した化学構造を有する化合物は、近似した化学的特性を有するので、高沸点という性質ばかりでなく、一般的に同等の化学的特性を有すると理解することが技術常識であるといえる。また、本件発明において合わせガラス用中間膜の可塑剤として使用する上で、同等の化学的特性を有すると理解することを阻害するような特段の事情も存在しない。このため、nG8及び4G7は、3G8と同等の特性を有する合わせガラス用中間膜の可塑剤である。
そして、記載事項(ク)によれば、3G8に対して、実施例1?3には2種の塩を組み合わせた実施例が、1種の塩を組み合わせた比較例2、3とともに記載されている。これによれば、2種の塩を併用したいずれの実施例でも、高い耐貫通性と耐湿性を両立するとともに、中間膜を加熱したときの重量減少が少ないという、合わせガラス用中間膜として優れた効果を達成している。
よって、3G8と同等の化学的特性を有するnG8や4G7に対しても、実施例4又は5ばかりでなく、3G8に関する実施例1?3及び比較例2、3の結果を参酌することで、3G8と同等に本件発明の効果が達成されることを理解できる。
したがって、nG8又は4G7を可塑剤として使用した合わせガラス用中間膜は、本件発明の効果が達成されることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。

(2)2種の塩の含有量の下限値や比率について
本件明細書には、併用して添加する2種の塩の合計含有量の下限量について記載するのみで、それぞれの塩の個別の含有下限量や配合比率が記載されていないので、各塩が最低でもどの程度含有されていれば本件発明の課題が解決されるかは、具体的には記載されていない。
しかし、特許法第36条第6項第1号適合性の判断においては、請求項に係る発明と発明の詳細な説明に記載された発明を対比し、その実質的な対応関係を検討することが必要である。
本件発明においては、2種の塩の併用に関しては、記載事項(ア)(オ)によれば、合わせガラスの耐貫通性と耐湿性の改善を目的としている。
そして、本件発明を実施するための最良の形態として実施例1?5が記載され、マグネシウム塩どうし、あるいはマグネシウム塩とカリウム塩を併用することにより、それぞれを単独で使用する比較例2、3に比較して、パンメル値で3、白化距離で2?5という耐貫通性と耐湿性に関する効果が達成されることが記載されている。また、記載事項(エ)によれば、本件発明においては、2種の塩を併用することにより白化距離は7mm以下とすることを目的としているし、同(カ)によれば、2種の塩の併用により接着力を適切な範囲に調整することが可能となったものである。
このため、併用する各塩の含有下限量や含有比率は、一方の塩が他方の塩と比べて極端に少なければ併用する意義がなくなるのは明らかであるので、ガラスと中間膜の接着力を調整して合わせガラスの耐貫通性を向上し、合わせガラスの耐湿性を向上するという、本件発明で設定する目的を達成する上で必要な範囲を選択すればよいのであって、その範囲は上記記載から当業者が実質的に理解することができるといえる。
したがって、2種の塩の含有量の下限値や含有比率については、本件発明の目的を達成する範囲で実質的に記載されているといえるので、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決することができることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものでない。

(3)塩の含有量の上限値について
本件発明1?4では、塩の含有量の合計について下限値を60ppmとする規定があるのみで、上限値は規定されていない。また、本件発明5、6では、塩の含有量の合計の上限値は150ppmと規定するが、その場合にも本件発明の効果が達成できるかは具体的には明らかでない。
そこで、本件発明1?6は、2種の塩を多量に含有する場合には、発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えていないかを検討する。
これに関しては、上記(2)と同様に、請求項に係る発明と発明の詳細な説明に記載された発明との実質的な対応関係を検討することにより検討することが必要である。
本件発明においては、記載事項(オ)によれば、合わせガラスの耐貫通性を向上させるために塩を多量に含有させると中間膜の耐湿性が低下するが、2種の塩を併用することにより少量の塩の含有で耐貫通性と耐湿性を確保することができる。また、同(エ)によれば、本件発明では、白化距離が7mm以下を本件発明における耐湿性の目安にしている。
したがって、本件発明では、2種の塩の含有量は、白化距離7mm以下を達成できる限度で実質的に限定されているとすることができる。このため、塩の含有量の上限値は実質的に記載されているといえるので、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決することができることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものでない。

(4)カルボン酸マグネシウムを2種含有する中間膜について
比較例3は、マグネシウム塩を1種のみ含有する比較例であるが、該含有量が4ppmであり、本件発明における2種の塩の合計含有量の下限である60ppmに比較して少なすぎるため、2種の塩を併用することによる耐貫通性と耐湿性の改善の効果を、当業者が認識することができないかを検討する。
これに関しては、請求項に係る発明と発明の詳細な説明に記載された発明との実質的な対応関係を検討すれば、以下の理由により、合わせガラス用中間膜のうちマグネシウム塩を2種含有するものについて、発明の詳細な説明に記載されているとすることができる。
すなわち、たしかに、1種のマグネシウム塩のみを使用する比較例は比較例3のみであるが、カリウムとマグネシウムは化学的に近似した性質を有するし、本件発明においても合わせガラスの接着力調整剤として同等の特性を有するものである。このため、2種のマグネシウム塩を使用する実施例1、3?5の達成する効果に関しては、1種のマグネシウム塩を含有する比較例3ばかりでなく、1種のカリウム塩を使用する比較例2と対比してその優位性を評価することができる。
本件では、実施例1、3?5は、塩を1種しか含有しない比較例2、3に対し、パンメル値と白化距離を良好な範囲に調整することができることが、記載事項(ク)より確認することができる。
したがって、2種のマグネシウム塩を含有する合わせガラス用中間膜に係る発明についても、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものでない。

2-4 小括
したがって、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるので、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。

3 無効理由3について
(1)当事者の主張
請求人は、本件特許請求の範囲の請求項1及びこれを引用する請求項2?6には、「少なくとも2種の塩」について、「合計60ppm含有されてなる」と記載されていることに関し、中間膜中の塩の含有量の測定方法が不明であるので、本件発明は不明確であると主張する。
これに対し、被請求人は、当業者であれば、「仕込み量」から合わせガラス用中間膜中の塩の含有量を明確に理解することができる旨を主張する。
(2)判断
特許請求の範囲の記載の明確性の判断は、発明を特定するための事項の技術的意味が、請求項の記載のみではなく、明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮して明確であるといえるかについておこなう。
本件においては、無効理由1の判断において述べたとおり、特許請求の範囲の請求項1における「合計60ppm以上含有されてなる」に関し、「含有量」は製造工程での「仕込み量」を意味することは、出願時の技術常識を考慮すれば当業者には明らかなことである。
このため、本件発明1?6の特定事項は明確であるとすることができる。
(3)小括
したがって、本件発明は明確であるということができるので、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合する。

第6 むすび
以上のとおりであるので、本件特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たし、同法第36条第6項第1号及び第2号の規定に適合するので、特許法第123条第1項第4号の規定に該当しない。
したがって、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1?6に係る特許を無効とすることはできない。
また、他に本件発明1?6に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
合わせガラス用中間膜及び合わせガラス
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均アセタール化度が66?72モル%のポリビニルアセタール100重量部とトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、オリゴエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート及びテトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートからなる群より選択される少なくとも1種の可塑剤30?50重量部とからなる可塑化ポリビニルアセタール中に、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも2種の塩、又は、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩と炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩とを組み合わせた少なくとも2種の塩が合計60ppm以上含有されてなる可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜からなることを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
150℃で1時間放置した際の重量減少が3重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
厚さ2.0?4.0mmの2枚のガラスで挟み込んで合わせガラスを作製した後、前記合わせガラスを80℃、相対湿度95%の環境下に2週間放置した際の端辺からの白化距離が7mm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
ポリビニルアセタールは、平均ブチラール化度が66?72モル%のポリビニルブチラールであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
塩の含有量は、150ppm以下であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の合わせガラス用中間膜が用いられていることを特徴とする合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
技術分野本発明は、耐湿性に優れ、可塑剤の揮発の少ない合わせガラス用中間膜及び該合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスに関する。
【0001】
背景技術
少なくとも二枚のガラス板の間に可塑化ポリビニルアセタール樹脂からなる中間膜が挟着されてなる合わせガラスは、透明性や耐候性が良好で、しかも耐貫通性に優れ、ガラスの破片が飛散し難い等の合わせガラスに必要な基本性能を有しており、例えば、自動車や建築物の合わせガラス用として広く使用されている。
【0002】
この種の合わせガラスは、上記の基本性能が良好で安全性に優れているものの、耐湿性に劣り、しかも、可塑剤の飛散が多いという問題を有する。
耐湿性については、具体的には、上記合わせガラスを湿度の高い雰囲気中に置いた場合、合わせガラスの周縁では中間膜が直接周囲の空気と接触しているため、周縁部の中間膜が白化してしまうという問題が起こる。
【0003】
このような湿度の高い雰囲気中に置かれた場合でも、合わせガラスの周縁部の白化を低減しようとする試みとして、特開平7-41340号公報には、「ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤、カルボン酸金属塩及び直鎖脂肪酸を含有する樹脂組成物からなる合わせガラス用中間膜」が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスでは、耐湿試験後の周縁部の白化は低減されているものの、依然充分ではない。また、金属塩の添加量を低減すると、上記白化の問題は改善されるが耐貫通性が低下する。
また、近年の合わせガラス用中間膜の自動車サイドガラスへの展開、フロントガラスのオープンエッジ化等に伴い、合わせガラスの耐湿性に対する要求品質がますます高まっている。
【0005】
更に、合わせガラス用中間膜用可塑剤としては、一般にアジピン酸ジヘキシル、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート等が用いられているが、これらの可塑剤は沸点が低いために飛散し易く、中間膜の製造工程において、オートクレーブ時の火災や、オートクレーブ後の端部カット(トリムカット)が難しい等の問題を有するため、より高沸点の可塑剤への変更が期待されている。
【0006】
発明の要約
本発明は、上記に鑑み、合わせガラスとした際に、透明性、耐候性、接着性、耐貫通性等の優れた特性を有し、かつ、湿度の高い雰囲気下に置かれた場合でも合わせガラス周縁部に白化を起こすことが少なく、オートクレーブ時の火災や端部カット(トリムカット)性の問題が解決された合わせガラス用中間膜及びそれを用いた合わせガラスを提供することを目的とするものである。
【0007】
本発明は、可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜からなる合わせガラス用中間膜であって、上記合わせガラス用中間膜を厚さ2.0?4.0mmの2枚のガラスで挟み込んで合わせガラスを作製した後、上記合わせガラスを80℃、相対湿度95%の環境下に2週間放置した際の端辺からの白化距離が7mm以下であり、上記合わせガラス用中間膜を150℃で1時間放置した際の重量減少が3重量%以下であることを特徴とする合わせガラス用中間膜である。
【0008】
発明の詳細な開示
以下に本発明を詳述する。
本発明の合わせガラス用中間膜は、合わせガラスを80℃、相対湿度95%の環境下に2週間放置した際の端辺からの白化距離が7mm以下であるが、7mmを超えると、白化がさらに進行しやすく、耐湿性に劣るため上記範囲に限定される。なお、上記端辺とは、合わせガラスにおける外周四辺のうち、白化部分に最も近い辺を意味する。
【0009】
上記合わせガラス用中間膜を150℃で1時間放置した際の重量減少が3重量%以下であるが、3重量%を超えると、オートクレーブ時に火災が起こる可能性が高くなり、オートクレーブ後の端部のカットも難しくなるため上記範囲に限定される。
【0010】
本発明の合わせガラス用中間膜は、可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜からなるものであれば特に限定されないが、上記合わせガラスの耐貫通性を向上させるために、用いられる金属塩を多量に添加すると、耐湿性が著しく低下する。そこで炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選択される少なくとも2種の塩を併用すること等により、少量で耐貫通性を確保できると同時に耐湿性を改善することができる。
【0011】
また、上記合わせガラス用中間膜は、可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、オリゴエチレングリールジ-2-エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート等を用いることにより、オートクレーブ火災やトリムカット性の問題を著しく改善することができる。従って、本発明の合わせガラス用中間膜は、平均アセタール化度が66?72モル%のポリビニルアセタール100重量部とトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、オリゴエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート及びテトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートからなる群より選択される少なくとも1種の可塑剤30?50重量部とからなる可塑化ポリビニルアセタール樹脂中に、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選択される少なくとも2種の塩が合計5ppm以上含有されてなる可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜が好ましい。塩の含有量が5ppm未満であると接着力調整効果が低くなることがあり、塩の含有量が高すぎると耐湿性が低下することがある。
【0012】
上記ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールをアセタール化することにより得られるものであり、なかでも、ポリビニルアルコールをブチラール化することにより得られるポリビニルブチラールが好ましい。
【0013】
ポリビニルアルコールをアセタール化して、ポリビニルアセタールを得る方法としては、例えば、ポリビニルアルコールを温水に溶解し、得られた水溶液を所定の温度、例えば、0?95℃に保持しておいて、所要の酸触媒及びアルデヒドを加え、攪拌しながらアセタール化反応を完結させ、その後、中和、水洗及び乾燥を行ってポリビニルアセタール樹脂の粉末を得る方法等が挙げられる。
【0014】
上記ポリビニルアルコールとしては、平均重合度500?5000のものが好ましく、平均重合度1000?2500のものがより好ましい。平均重合度が500未満であると、合わせガラス用中間膜を用いて合わせガラスを作製した際に、得られる合わせガラスの耐貫通性が低下することがあり、平均重合度が5000を超えると、合わせガラス用中間膜の成形がしにくくなり、しかも合わせガラス用中間膜の強度が強くなり過ぎる場合がある。
上記ポリビニルアセタールは、ビニルアセタール成分とビニルアルコール成分とビニルアセテート成分とから構成されている。これらの各成分量は、例えば、JIS K 6728「ポリビニルブチラール試験方法」や赤外吸収スペクトル(IR)に基づいて測定することができる。
【0015】
上記ポリビニルアセタールが、ポリビニルブチラール以外の場合は、ビニルアルコール成分量とビニルアセテート成分量とを測定し、残りのビニルアセタール成分量は、100から上記両成分量を差し引くことにより算出することができる。上記ポリビニルアセタール中におけるビニルアセテート成分は、30モル%以下に設定するのが好ましく、そのためには、ポリビニルアルコールとして鹸化度70モル%以上のものが好適に用いられる。ポリビニルアルコールの鹸化度が70モル%未満であると、得られるポリビニルアセタールの透明性や耐熱性が低下することがあり、更に、反応性も低下することがある。
なお、ポリビニルアルコールの平均重合度及び鹸化度は、例えば、JIS K 6726「ポリビニルアルコール試験方法」に基づいて測定することができる。
【0016】
こうして得られるポリビニルアセタールの平均アセタール化度は、66?72モル%が好ましい。平均アセタール化度が66モル%未満では可塑剤との相溶性が低下することがあり、72モル%を超えると得られる合わせガラスの耐貫通性に必要な力学物性が確保できないことがある。
【0017】
上記合わせガラス用中間膜は、可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、オリゴエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート及びテトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートからなる群より選択される少なくとも一種を含む。
上記トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートは、トリエチレングリコールとその2倍等量以上の2-エチルヘキシル酸とを触媒下で反応させることにより得ることができる。
【0018】
上記オリゴエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートは、オリゴエチレングリコールとその2倍等量以上の2-エチルヘキシル酸とを触媒下で反応させることにより得ることができる。
【0019】
上記オリゴエチレングリコールとしては、エチレングリコール単位が3?9のものを90重量%以上含有しているものが好ましく、具体的には、例えば、三井東圧化学社製、三菱化学社製、日曹ケミカル社製等の市販品が挙げられる。
【0020】
上記テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートは、テトラエチレングリコールとその2倍等量以上のn-ヘプタン酸とを触媒下で反応させることにより得ることができる。
ポリビニルアセタールに対する上記可塑剤の配合量は、ポリビニルアセタール100重量部に対し、30?50重量部が好ましい。可塑剤の配合量が30重量部未満であると、得られる合わせガラス用中間膜のトリムカット性が低下することがあり、一方、可塑剤の配合量が50重量部を超えると、上記可塑剤がブリードアウトしてガラスとの接着不良が生じることがある。
【0021】
上記合わせガラス用中間膜は、上記可塑剤のほかに、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選択される少なくとも2種を含むが、これらは、接着力調整剤として用いられるものである。
中間膜とガラスとの接着力が弱すぎると、外部からの衝撃等により破損したガラス破片が中間膜から剥がれ、飛散して人体等に障害を与える可能性が高くなり、一方、中間膜とガラスとの接着力が強すぎると、外部からの衝撃等によりガラスと中間膜とが同時に破損し、ガラスと中間膜との接着破片が飛散して人体等に障害を与えるため、接着力を適当な範囲に調整する必要があるが、これらの塩の2種が併用されることにより、少量で接着力の調整が可能となり、得られる合わせガラス用中間膜の耐湿性もより向上する。
【0022】
上記炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選ばれる2種以上の塩を組み合わせる場合、マグネシウム塩同士の組み合わせであってもよいし、カリウム塩同士の組み合わせであってもよいし、更に、マグネシウム塩とカリウム塩との組み合わせであってもよい。
【0023】
上記合わせガラス用中間膜中の炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選ばれる2種以上の塩は、合わせガラス用中間膜中に合計量で5ppm以上含有されていることが好ましい。塩の含有量が5ppm未満では、得られる合わせガラス用中間膜の接着力の調整がしにくくなるからである。より好ましくは、10?150ppmである。塩の含有量が150ppmを超えた場合には、得られる中間膜の耐湿性が低下することがある。
【0024】
本発明の合わせガラス用中間膜には、そのほか、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、着色剤等の合わせガラス用中間膜に一般的に用いられている公知の添加剤が添加されていてもよい。
【0025】
上記紫外線吸収剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾトリアゾール系のもの等が挙げられ、具体的には、チバガイギー社製の商品名「チヌビンP」、「チヌビン320」「チヌビン326」「チヌビン328」等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
上記光安定剤としては特に限定されず、例えば、ヒンダードアミン系のもの等が挙げられ、具体的には、旭電化工業社製の商品名「アデガスタブLA-57」等が挙げられる。これらの光安定剤は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
上記酸化防止剤としては特に限定されず、例えば、フェノール系のもの等が挙げられ、具体的には、住友化学工業社製の商品名「スミライザーBHT」、チバガイギー社製の商品名「イルガノックス1010」等が挙げられる。これらの酸化防止剤は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
上記合わせガラス用中間膜を製造する方法としては特に限定されるものではないが、例えば、上述のポリビニルアセタールに、上述の可塑剤、及び、炭素数2?10のカルボン酸のマグネシウム塩及び炭素数2?10のカルボン酸のカリウム塩からなる群より選択される少なくとも2種の塩を添加し、更に、必要に応じて、各種添加剤を所定量配合し、これを均一に混練した後、押し出し法、カレンダー法、プレス法、キャスティング法、インフレーション法等によりシート状に製膜して可塑化ポリビニルアセタール樹脂膜を成形し、これを合わせガラス用中間膜とする方法等が挙げられる。
【0028】
上記合わせガラス用中間膜は、単層で合わせガラス用中間膜としてもよいし、2枚以上が積層された状態で合わせガラス用中間膜としてもよい。
上記合わせガラス用中間膜の全体の膜厚は、特に限定されるものではないが、得られる合わせガラスに最小限必要な耐貫通性や耐侯性等を考慮すると、実用的には、通常、0.3?1.6mmが好ましい。より好ましくは、0.3?0.8mmである。
本発明の合わせガラスは、上記合わせガラス用中間膜を2枚のガラス板で挟み込んだものである。
【0029】
上記ガラス板としては特に限定されず、例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、熱線吸収板ガラス、着色された板ガラス等の無機透明ガラス板;ポリカーボネート板、ポリメチルメタクリレート板等の有機透明ガラス板等が挙げられる。
これらの無機透明ガラス板及び有機透明ガラス板は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、無機透明ガラス板と有機透明ガラス板とが積層されたものであってもよい。
【0030】
上記ガラス板の厚さは、用途によって適宜選択されればよく、特に制限されるものではない。
【0031】
上記合わせガラスを製造する方法としては特に限定されず、例えば、2枚の透明なガラス板の間に、上記合わせガラス用中間膜を挟み、これをゴムバックに入れ、減圧吸引しながら約70?110℃の温度で予備接着し、次いで、オートクレーブを用いて約120?150℃の温度で、約10?15kg/cm^(2)圧力で本接着を行うことにより、所望の合わせガラスを得る方法等が挙げられる。
【0032】
発明を実施するための最良の形態
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
実施例1
(1)ポリビニルブチラールの合成
純水2890gに、平均重合度1700、鹸化度99.2モル%のポリビニルアルコール275gを加えて加熱溶解した。反応系を15℃に温度調節し、35重量%の塩酸201gとn-ブチルアルデヒド157gとを加え、この温度を保持しながら反応物を析出させた。その後、反応系を60℃で3時間保持して反応を完了させ、過剰の水で洗浄して未反応のn-ブチルアルデヒドを洗い流し、塩酸触媒を汎用な中和剤である水酸化ナトリウム水溶液で中和し、更に、過剰の水で2時間水洗及び乾燥することにより、白色粉末状のポリビニルブチラールを得た。このポリビニルブチラールの平均ブチラール化度は68.5モル%であった。
【0034】
(2)合わせガラス用中間膜の製造
上記で得られたポリビニルブチラール100重量部に対し、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート39重量部を配合し、更に、酢酸マグネシウムが20ppm、2-エチル酪酸マグネシウムが40ppmの含有量となるようにこれらを添加し、ミキシングロールで充分に溶融混練した後、プレス成形機を用いて150℃で30分間プレス成形し、平均膜厚0,76mmの合わせガラス用中間膜を得た。
【0035】
(3)合わせガラスの製造
上記で得られた合わせガラス用中間膜を、その両端から透明なフロートガラス(縦30cm×横30cm×厚さ3mm)で挟み込み、これをゴムバック内に入れ、20torrの真空度で20分間脱気した後、脱気したままオーブンに移し、更に、90℃で30分間保持しつつ真空プレスした。このようにして予備圧着された合わせガラスをオートクレーブ内で135℃、圧力12kg/cm^(2)の条件で20分間圧着を行い、合わせガラスを得た。
【0036】
得られた合わせガラスを下記の評価方法で評価した。結果を表2に示した。
【0037】
評価方法1、パンメル値
中間膜のガラスに対する接着性はパンメル値で評価した。即ち、合わせガラスを-18±0.6℃の温度に16時間放置した後、これを頭部が0.45kgのハンマーで叩いてガラスの粒径が6mm以下になるまで粉砕した。ガラスが部分剥離した後の膜の露出度を予めグレード付けした限度見本で判定し、その結果を下記表1に従いパンメル値として表した。なお、パンメル値が大きい程ガラスとの接着力も大きく、パンメル値が小さい程ガラスとの接着力も小さい。
【0038】
【表1】

【0039】
2、耐湿性
合わせガラスを、温度80℃、相対湿度95%の環境下に2週間放置した後、取り出してすぐに端辺からの白化距離を測定した。
【0040】
3、中間膜中の可塑剤の揮発性(加熱減量)
中間膜を150℃のオーブンに1時間放置し、加熱前後の中間膜の重量を測定し、得られた測定値から重量減少(重量%)を算出した。
【0041】
実施例2
接着力調整剤として、酢酸カリウム70ppm、2-エチル酪酸マグネシウム20ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にして合わせガラスを作製し評価した。得られた結果を表2に示した。
【0042】
実施例3
接着力調整剤として、酢酸マグネシウム20ppm、2-エチルヘキシル酸マグネシウム60ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にして合わせガラスを作製し評価した。得られた結果を表2に示した。
【0043】
実施例4
トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートに代えて、オリゴエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(平均グリコール鎖:3.8)を用いた以外は実施例1と同様にして合わせガラスを作製し評価した。得られた結果を表2に示した。
【0044】
実施例5
トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートに代えて、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートを用いた以外は実施例1と同様にして合わせガラスを作製し評価した。得られた結果を表2に示した。
【0045】
比較例3
接着力調整剤として、2-エチル酪酸マグネシウムのみを4ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にして合わせガラスを作製し評価した。得られた結果を表2に示した。
【0046】
比較例1
トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートに代えて、アジピン酸ジヘキシル(DHA)を用いた以外は実施例1と同様にして合わせガラスを作製し評価した。得られた結果を表2に示した。
【0047】
比較例2
接着力調整剤として、酢酸カリウムのみを80ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にして合わせガラスを作製し評価した。得られた結果を表2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】
産業上の利用可能性
本発明の合わせガラス用中間膜は、上述の構成からなるので、合わせガラスとした際に、透明性、耐候性、接着性、耐貫通性等の優れた特性を有し、かつ、湿度の高い雰囲気下に置かれた場合でも合わせガラス周縁部に白化を起こすことが少なく、可塑剤の揮発も抑制されるためオートクレーブ時に火災を起こしにくく、トリムカット性も良好である。
本発明の合わせガラスは、上述の構成からなるので、透明性、耐候性、接着性、耐貫通性等の合わせガラスとして必要な基本性能に優れ、かつ、湿度の高い雰囲気下に置かれた場合でも合わせガラス周縁部に白化を起こすことが少ない。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-11-21 
結審通知日 2012-11-26 
審決日 2012-12-10 
出願番号 特願2000-572166(P2000-572166)
審決分類 P 1 113・ 572- YAA (C03C)
P 1 113・ 536- YAA (C03C)
P 1 113・ 537- YAA (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 直也  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 國方 恭子
斉藤 信人
登録日 2005-01-14 
登録番号 特許第3635635号(P3635635)
発明の名称 合わせガラス用中間膜及び合わせガラス  
代理人 ▲辻▼ 淳子  
代理人 藤野 睦子  
代理人 北原 潤一  
代理人 井窪 保彦  
代理人 辻 淳子  
代理人 藤野 睦子  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 日野 真美  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  
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