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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A41D |
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管理番号 | 1269772 |
審判番号 | 無効2010-800114 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2010-07-07 |
確定日 | 2012-09-26 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4331782号発明「樹脂表面の形成方法、表面に異なる大きさの凹状部が混在する物品の製造方法及びその物品、手袋の製造方法及び手袋」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4331782号の請求項1乃至7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.本件特許第4331782号に係る特許出願(特願2008-78937)は、平成20年3月25日(特許法第41条第1項の規定による優先権主張:平成19年3月30日)を出願日とするものであって、平成21年6月26日にその特許権の設定の登録(請求項の数7)がされたものである。 2.本件無効事件における手続の経緯は次のとおりである。 (1)本件特許について、本件請求人は平成22年7月7日に本件特許無効審判を請求した。 (2)被請求人は同年9月28日に答弁書を提出した。(なお、明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は請求されていない。) (3)平成23年2月24日に特許庁第1審判廷において請求人及び請求人代理人並びに被請求人及び被請求人代理人の出頭のもと第1回口頭審理が開催された。この口頭審理のために、請求人は同年2月10日付け口頭審理陳述要領書を、また、被請求人は同年2月10日付け口頭審理陳述要領書を、それぞれ提出し、これらの書面は、口頭審理において陳述された。 また、第1回口頭審理をもって審理の終結を両当事者に通知した。 第2 本件特許発明 本件特許第4331782号の請求項1乃至7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」乃至「本件特許発明7」という。)は、本件特許明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮し、しかも実用上十分な耐摩耗性を有する樹脂皮膜表面の形成方法であって、 気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ、樹脂組成物の固化後に前記付着体を除去することにより第1の凹状部を形成し、 第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部は、未固化状態または固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって形成されることを含み、 上記第1の凹状部は、内径が100μm?500μmであり、 上記第2の凹状部は、樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており、 上記樹脂組成物は、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され、 形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である、 樹脂皮膜表面の形成方法。 【請求項2】 異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮し、しかも実用上十分な耐摩耗性を有する樹脂皮膜表面を有する物品の製造方法であって、 気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ、樹脂組成物の固化後に前記付着体を除去することにより第1の凹状部を形成し、 未固化状態または固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部を形成することを含み、 上記第1の凹状部は、内径が100μm?500μmであり、 上記第2の凹状部は、樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており、 上記樹脂組成物は、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され、 形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である、 表面に異なる大きさの凹状部が混在する物品の製造方法。 【請求項3】 異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮し、しかも実用上十分な耐摩耗性を有する樹脂皮膜表面を有する物品であって、 気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ、樹脂組成物の固化後に前記付着体を除去することにより形成された第1の凹状部と、 未固化状態または固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって形成された、第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部と、 を含み、 上記第1の凹状部は、内径が100μm?500μmであり、 上記第2の凹状部は、樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており、 上記樹脂組成物は、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され、 形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である、 表面に異なる大きさの凹状部が混在する物品。 【請求項4】 異なる大きさの凹状部が樹脂皮膜の表面に混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮し、しかも耐実用上十分な摩耗性を有する手袋の製造方法であって、 気泡を含んだ樹脂組成物で未固化状態の樹脂皮膜(3)を形成し、その後粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が樹脂皮膜(3)の表面に食い込んだ状態で付着させ、樹脂皮膜(3)の固化後に前記付着体を除去することにより第1の凹状部(31)を形成し、 第1の凹状部(31)よりも小さい第2の凹状部(32)は、未固化状態または固化状態の樹脂皮膜(3)に含まれている気泡(4)が表面側で開口することによって形成されることを含み、 上記第1の凹状部は、内径が100μm?500μmであり、 上記第2の凹状部は、樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており、 上記樹脂組成物は、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され、 形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である、 手袋の製造方法。 【請求項5】 異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮し、しかも耐実用上十分な摩耗性を有する手袋であって、 気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の表面に、第1の凹状部(31)と該第1の凹状部(31)よりも小さい第2の凹状部(32)とが混在しており、 上記第1の凹状部(31)は、樹脂皮膜(3)表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状または/及び粉末状の付着体を除いた後の痕跡によって形成され、 上記第2の凹状部(32)は、樹脂皮膜(3)に含まれている気泡(4)の開口によって形成されており、 上記第1の凹状部は、内径が100μm?500μmであり、 上記第2の凹状部は、樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており、 上記樹脂皮膜(3)は、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され、 形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である、 手袋。 【請求項6】 気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の下側に、気泡(4)を含まない樹脂皮膜(2)を少なくとも有している、 請求項5記載の手袋。 【請求項7】 樹脂皮膜(3)に含まれる気泡の量が5?10vol%である、請求項5または6記載の手袋。 第3 請求人の主張 請求人は、「特許第4331782号発明の特許請求の範囲1?7に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めるところ、請求人の主張する特許を無効とする理由は、審判請求書の記載及び第1回口頭審理における請求人の陳述のとおり、次の点にある。 ○無効理由1 本件特許発明1乃至7は、甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものについて、特許されたものである。(特許法第123条第1項第2号に該当) ○無効理由2 本件特許発明5及び6は、甲第6号証に記載された日本国内において公然実施をされた発明及び甲第3号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものについて、特許されたものである。(特許法第123条第1項第2号に該当) <証拠方法> ○審判請求書に添付 甲第1号証:国際公開第2005/002375号 甲第2号証:特表2007-524771号公報 甲第3号証:特開昭59-95135号公報 甲第4号証:特開2006-169676号公報 甲第5号証:実願平3-3590号(実開平4-100213号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(平成4年8月31日特許庁発行) 甲第6号証:2010年6月1日付け試験分析等成績書(株式会社ユニワールド 本社 宛、試料名等 アクティブグリップNo.581RIT06G 和歌山県工業技術センター作成) 甲第7号証:特許第2639415号公報 甲第8号証:特許第2639415号の閉鎖特許原簿の記録事項を記載した書面 ○平成23年2月10日付け口頭審理陳述要領書に添付 甲第9号証:本件出願の優先基礎出願(特願2007-94123号)の願書並びに願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面 甲第10号証:平成21年8月3日付け領収書((株)ユニワールド川嶋宛 タイアン発行) 被請求人は第1回口頭審理において、全甲号証の成立を認めている。 第4 被請求人の主張 被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めるとともに、乙第1及び2号証を提出して、請求人が主張する、特許を無効とする理由に対して反論している。 <証拠方法> ○答弁書に添付 乙第1号証:上海の警察署における窃盗事件取り調べの調書の概要書面及び日本語訳(ただし、作成日及び作成者不明) ○平成23年2月10日付け口頭審理陳述要領書に添付 乙第2号証:本件出願の審査過程で平成20年8月21日に提出された意見書 請求人は第1回口頭審理において、上記乙第2号証の成立を認め、乙第1号証の成立については不知とした。 第5 甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第5号証の記載事項 (1)甲第1号証 請求人は、甲第1号証の翻訳文として甲第2号証を提出しており、以下の記載事項はほぼ甲第2号証の対応する箇所の記載に基づいているが、下線を付与している部分については当審において翻訳した。 1a.「1.テクスチャード加工表面被覆手袋を製造する方法であって、ステップ: (i)型を凝固剤で処理する; (ii)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層を形成する; (iii)ラテックスの第一層をゲル化する; (iv)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層の上にラテックスの第二層を形成する; (v)ラテックスの第二層に離散粒子を塗布する; (vi)ラテックスの第二層をゲル化する; (vii)離散粒子を溶解する; (viii)形成した層を熱硬化する;および (ix)型から硬化したテクスチャード加工手袋を外す を含む、方法。 2.第二ラテックス層が発泡体である、請求項1記載の方法。 ・・・ 13.テクスチャー加工表面手袋であって: 第一ラテックス層、および 第一ラテックス層に接着した第二ラテックス層を有し、 該第二ラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズを有する離散粒子の形の複数の痕を含み、該痕は実質的に第二ラテックス層の表面を覆う緻密および一様な分布を有し、 そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する、 テクスチャー加工表面手袋。 14.平均粒子サイズが約50ミクロンから約2000ミクロンである、請求項13記載の手袋。 15.平均粒子サイズが約400ミクロンである、請求項14記載の手袋。 16.第二ラテックス層がニトリルである、請求項13記載の手袋。 17.第二ラテックス層が発泡体である、請求項13記載の手袋。」(特許請求の範囲請求項1?2及び13?17) 1b.「それゆえ、通常の手袋製造において簡単に製造されるテクスチャード加工表面被覆を伴う手袋を得ることが望まれている。手袋の外側に取り入れられた場合、このタイプの手袋は、湿潤/油グリップのようなグリップを改良するであろう。手袋の内側に含まれた場合、テクスチャード加工表面は吸汗性を向上し、直接皮膚接触の程度を減少し、ゆえに皮膚に対するべとべとした感触を減少するであろう。それゆえテクスチャード加工表面の開細胞型の構造の発泡体状材料層を得ることが望まれている。」(段落[0007]) 1c.「(発明の概要) 本発明の原理に基づいて、一般的な塩のような離散粒子の層を被覆したラテックスフィルムの液体表面に包埋し、浸漬したラテックス層をゲル化または乾燥し、テクスチャード加工表面を残すように離散粒子を溶解し、それから浸出、乾燥および硬化しそして最後に型から手袋を取り除くことにより製造したテクスチャード加工表面被覆を有する手袋が提供される。一実施態様において、本発明は、湿潤グリップを改良するために手袋外側の、快適性を改良するために手袋内側の、または両方のテクスチャード加工表面被覆を提供し得る。他の実施態様において、本発明はまた、発泡材料を織布、メリヤス生地または他の下地層に塗布し、液体発泡材料層の中に離散粒子の層を包埋し、発泡層を加工しそして包埋した離散粒子を溶解することにより製造されたテクスチャード加工表面を提供し得る。別の実施態様において、本発明はさらにそれによりテクスチャード加工表面被覆または開細胞型発泡表面被覆を伴う手袋を製造することができる方法を提供する。」(段落[0008]) 1d.「(発明の詳細な説明) 本発明は、非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋することにより製造した無発泡ラテックスまたは発泡ラテックスのいずれかにより製造されたテクスチャード加工表面被覆を伴う手袋に関する。ラテックス層は、理想的には離散粒子に接触することでゲル化している。プロセスは手袋を乾燥および硬化することにより完了する。離散粒子は、粒子を適当な溶媒中に溶解させることにより、ゲル化または硬化後のいずれかに層から除去され得る。このプロセスは、離散粒子が包埋していた箇所に痕を残し、グリップ、より少ない直の皮膚の接触を伴う手袋内の空気循環および吸汗性の程度を改良し得るテクスチャード加工表面被覆となる。例えば、湿潤/油グリップは、本発明のテクスチャード加工手袋において改良される。発泡材料は、テクスチャード加工表面層を製造するために無発泡ラテックスの代わりに使用されてもよく、優れたグリップ、より高い吸汗性および絶縁体の柔軟な層を提供する。」(段落[0013]) 1e.「剥離剤/凝固剤浸漬がなされた後、型は好ましくは、ラミネート層が型に塗布される製造ラインにおける次の場所に運搬される。ラミネート層は、天然またはポリウレタン、ニトリルまたはポリクロロプレンのような合成ゴムラテックスのようなラテックスエラストマー浸漬から成ってもよい。例えば、ラテックスの様々な組合せおよび調合が用いられ得る。本発明のラテックスは、任意で発泡させてもよい。有用なニトリルラテックスの一つは、REVENEX 99G43 (Synthomer Ltd., United Kingdom)である。ラテックス材料の選択および組成を変化させることにより、ラミネート層は異なる程度の強度、快適性、柔軟性および化学薬品耐性を提供するように変化し得る。いずれにしても、型に塗布されるラテックスの内容は、好ましくは切断および磨耗からの保護、液体撥水性および化学薬品耐性を提供するように調節されるであろう。」(段落[0019]) 1f.「本発明の一実施態様において、ラテックスの第一層を形成するために型を浸漬する。このラテックスの第一層はその後ゲル化し、非ゲル化ラテックスの第二層を形成するために型を再び浸漬する。第二層の発泡または無発泡ラテックスの粘度は、約100cpsから約2000cpsの範囲に及び得る(ブルックフィールド)。型を離散粒子の流動床に浸漬することによりまたは離散粒子を包埋する他の機械的手段、例えば、噴霧することにより、離散粒子をその後非ゲル化ラテックスの第二層に塗布する。流動床プロセスは、粒子が液体と同様の方法でふるまうように、気流中の塩粒子(NaCl)浮遊物を活用する。離散粒子は、実質的に手袋の表面を覆うテクスチャード加工表面被覆を残すように、離散粒子を塗布した後または手袋のゲル化または硬化の後に、適切な溶媒に溶解することで除去する。例えば、塩粒子は、水による洗浄または噴霧により、ゲル化した表面から除去され得る。ラテックスの粘度は、所望のテクスチャード加工効果を得るために変化させ得る1つのパラメーターである。テクスチャード加工無発泡層は、最適な耐久性および湿潤/油グリップの組合せを提供する。」(段落[0022]) 1g.「さらに本発明の別の実施態様において、ラテックスの第一層を形成するために型を浸漬する。このラテックスの第一層はその後ゲル化し、そして第二層を形成するために型を発泡材料に再び浸漬する。型を離散粒子の流動床に浸漬することによりまたは他の機械的手段、例えば、噴霧することにより、離散粒子をその後発泡材料の非ゲル化層に塗布する。離散粒子は、テクスチャード加工表面被覆を残すように、手袋の加工の後に、適切な溶媒に溶解する。このプロセスは、離散粒子が発泡体をゲル化しそしてゆえに細胞型の構造をとらえるので、開細胞型の構造を保持するテクスチャード加工表面発泡層被覆をもたらす。さらに離散粒子の逆像は、適切な溶媒によるそれらの除去を受けテクスチャード加工表面層が残るので表面層にとらえられる。」(段落[0024]) 1h.「非保護手袋の内側の裏地として、テクスチャード加工表面を皮膚に接して使用することにより、在来の綿くず粉末の代替物とすることができる。この場合、発泡ラテックスにテクスチャーを適用することにより、柔らかいテクスチャード加工表面が提供され得る。柔らかい感触は、無発泡ラテックスのテクスチャー化により得ることができるが、無発泡ラテックスとして軟化低アクリロニトリル(「AN」)ポリマーが好ましい。発泡ラテックスのテクスチャード加工表面は、皮膚に対する低い表面接触面積を提供するのと同時に、発泡構造により吸汗性を提供する。空気循環が増し、滑らかなゴムのものと比べ皮膚に対するべとべとした感触が減少する。」(段落[0027]) (2)甲第3号証 3a.「1.(a)基材、前記基材は、不織繊維ウェブ、織成ウェブ、および編成ウェブから成る群より選ばれた1員である、 (b)ラミネートの1つの表面に適用されたフォーム層、および (c)前記フォーム層は約10?65%のの範囲内の空気含量を有する、 を特徴とする、グリース、油または水の環境におけるすべり止め表面を提供るラミネート。 2.(a)前記フォーム層は、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル、天然ゴム、合成ゴムおよびそれらの混合物から成る群より選ばれた1員である、 ことをさらに特徴とする、特許請求の範囲第1項記載のラミネート。 3.(a)前記フォーム層は15?30%の範囲内の空気含有量を有する、 ことをさらに特徴とする、特許請求の範囲第1項記載のラミネート。 ・・・ 5.特許請求の範囲第1項記載のラミネートから構成された作業手袋。」(特許請求の範囲請求項1?3及び5) 3b.「本発明は、すべり止めまたはスキッド抵抗性のつかみ表面を必要とする、たとえば、摩耗性服飾品・・・の製作において有用なラミネートの製造法、およびその方法により製造されたラミネートに関する。ラミネートは作業環境のためのつかみ面として有用な多孔質表面を包含し、そして本発明の方法は、包含される物品の引き続く使用に要求されるような、大小の耐摩耗性を有するように、つかみ面をコントロールすることができるようなものである。・・・発泡された表面は、基材へ適用される。得られるフォームの表面は、理解されるように、多孔質であり、そして表面上の油、水またはグリースを吸収する性質を有して、本発明のスキッド抵抗性表面へ増大したつかみ表面を提供する。」(3頁右上欄最下行?右下欄1行) 3c.「本発明に従い、ラミネートの発泡部分を形成する材料は、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル、天然ゴムまたは合成ゴムであることができる。この材料は、機械的手段または化学的手段により発泡させることができる。好ましくは、それは機械的手段により、約10?65%の範囲内の空気含量に発泡される。好ましい範囲は、15?30%である。よりすぐれた耐摩耗性は前述の範囲内のより低い空気含量を用いて得られるが、よりすぐれたつかみ性およびより低い耐摩耗性は前記範囲内のより高い空気含量を用いて得られる。」(4頁左下欄15行?右下欄6行) 3d.「本発明の1つの重要な面は、表面がそのつかみ機能により更新されうるという事実である。すなわち、本発明による、多孔質つかみ面を有する作業手袋を仮定すると、いったん手袋がある期間使用され、その結果それがつかみ性質を失ったとき、手袋を単に絞って、手袋の孔内に蓄積された油またはグリースを除去して、そのつかみ性質を更新することができる。(4頁右下欄13?最下行) 3e.「実施例1 3l容の容器に3.17ポンド(1.44kg)のPolyco 2622、ポリ塩化ビニルのラテックス・・・を入れた。低剪断の羽根車を用いるミキサーで、おだやかな混合を開始した。混合の間、・・・をラテックスに加えた。次いで、この混合物を空気と混合して、約0.8g/cm^(3)の密度にした。 ほぼ20容量%の空気を含有する得られた組成物を、毛羽立てない編成した綿の布はく上へ直接65ミル(0.17cm)のナイフのセッティングでナイフコーティングした。次いで、このラミネートを325°F(163℃)の炉内に20分間入れて、被覆された材料を乾燥しかつ溶融した。次いで、この材料から片を切り、縫製して1対の手袋を形成した。」(6頁左上欄3行?右上欄15行) (3)甲第4号証 4a.「【請求項1】 繊維製手袋基材上に熱可塑性樹脂からなる発泡層が熱プレスにより凹凸状に形成された手袋。」(特許請求の範囲請求項1) 4b.「しかしながら、熱可塑性樹脂に気泡を含有させると、滑り止め効果は向上するものの、皮膜強度や耐摩耗性が低下するという問題がある。 本発明は上記問題を解決するもので、気泡を含んだ熱可塑性樹脂で被覆して、滑り止め効果、皮膜強度、耐摩耗性とも高い手袋を提供することを目的とする。」(段落【0003】) 4c.「気泡含有量は、コンパウンドの状態で発泡機や家庭用ミキサーで攪拌することによって1%?300%まで任意に調整できる。気泡含有量は比重で測定することができ、成形後もほぼ同じ気泡含有率となる。化学発泡剤のみを利用するよりは機械的にも発泡させる方が、気泡数が多くなり、発泡層の表面に気泡跡の開口がより多く形成されるし、熱プレス時に気泡の潰れや互いの融着が起こりやすい。手袋表面に気泡跡の開口が多いと、対象物との間に介在する水や油を吸収排除することができ、より滑り止め効果に優れる。なお気泡含有量1%?300%では、平均径10μm?400μmの気泡を1cm^(2)あたり10個?130個、内面及び表面に含んでいる。気泡径10μm未満は機械発泡では非常に作り難く、400μmを越えると耐磨耗性が不十分になる。」(段落【0012】) (4)甲第5号証 5a.「【請求項1】 粘弾性微多孔質膜で形成されてなる表面を有する布帛からなることを特徴とする手袋。 ・・・ 【請求項4】 微多孔質膜が、最大直径3?250ミクロンの気孔を含有し、厚さが0.1?4.5mm、密度が0.01?0.6g/cm^(3) であり、かつ、該微多孔質膜の表層における微多孔は開孔され、その開孔された部分の該微多孔質膜の表面に占める面積の割合が20%以上であることを特徴とする請求項1記載の手袋。」(実用新案登録請求の範囲請求項1及び4) 5b.「本考案における微多孔質膜は、最大直径3?250ミクロン、好ましくは20?100ミクロンの微細孔径からなるもので、微多孔質膜表面から裏面に貫通する多数の微細な小孔を有するものであることが好ましい。」(段落【0014】) 5c.「微多孔質膜を構成する孔は、長径Lと短径lの比率が1.0?3.8、好ましくは1.0?3.0の範囲にある円形であって、かつ該長径Lと180ミクロン以下、好ましくは10?100ミクロンの範囲にある実質的に球状孔が最適である。」(段落【0018】) 5d.「微多孔質膜で形成されてなる表面を手袋の内側及び/または外側にして接合して手袋を作る。・・・微多孔質膜面を外側にして接合した場合には、表面平滑な対象物との密着性が良く、滑り難い効果が得られる。」(段落【0030】) 5e.「実施例1 60D/60fのポリエステルからなる加工糸を用いて85g/m^(2) の織布(平織)を作り、次に、この生機を分散染料で染色した。一方、ポリエステル系ポリウレタン(固形分50%)100重量部に起泡剤として脂肪酸塩系活性剤10重量部、架橋剤として水溶性エポキシ3重量部を混合し、この混合物を発泡機で機械的に泡立てた。 このものを、上記織布の裏面に塗布し、次に120℃×13分間→158℃×6.2分間熱処理を行ない、発泡倍率2.9倍、塗膜厚み2.1mmの微多孔質膜を貼着した織布を得た。このものを用い、微多孔質膜側を外側にして図1のようなゴルフ用手袋を作った。 この手袋は、ゴルフクラブとの密着性が極めて良く、感触が良く、柔らかく、手の感覚が直に伝わり、またムレ難く、ゴルフ用手袋に適したものであった。 また、洗濯を15回繰り返したが、性能及び品位ともほとんど変らなかった。 なお、微多孔質膜の微多孔質膜全面に占める開孔面積は30%であった。また、微多孔の最大直径は30?80ミクロンであり、粘着力は1.5kg/cmであった。」(段落【0033】?【0036】) 第6 判断 1.本件特許発明1について (1)甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、「テクスチャード加工表面被覆手袋を製造する方法であって、ステップ: (i)型を凝固剤で処理する; (ii)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層を形成する; (iii)ラテックスの第一層をゲル化する; (iv)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層の上にラテックスの第二層を形成する; (v)ラテックスの第二層に離散粒子を塗布する; (vi)ラテックスの第二層をゲル化する; (vii)離散粒子を溶解する; (viii)形成した層を熱硬化する;および (ix)型から硬化したテクスチャード加工手袋を外す を含む、方法。」(摘示事項1a)が記載されており、この第二ラテックス層が発泡体であることも記載されている(摘示事項1a)。 そして、「本発明のラテックスは、任意で発泡させてもよい」(摘示事項1e)、「非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋することにより製造した無発泡ラテックスまたは発泡ラテックスのいずれかにより製造されたテクスチャード加工表面被覆を伴う手袋に関」し、「発泡材料は、テクスチャード加工表面層を製造するために無発泡ラテックスの代わりに使用されてもよく、優れたグリップ、より高い吸汗性および絶縁体の柔軟な層を提供する」(摘示事項1d)ものであり、「第二層の発泡または無発泡ラテックス」(摘示事項1f)との記載からみて、甲第1号証においては、第二ラテックス層として無発泡ラテックスを用いた場合と発泡ラテックスを用いた場合の2つの場合の態様が記載されている。 さらに、摘示事項1cの記載から、「他の実施態様」において、「本発明はまた、発泡材料を織布、メリヤス生地または他の下地層に塗布し、液体発泡材料層の中に離散粒子の層を包埋し、発泡層を加工しそして包埋した離散粒子を溶解することにより製造されたテクスチャード加工表面を提供し得る」ものであることが明らかである。 加えて、摘示事項1gの記載から、「さらに本発明の別の実施態様」において、「ラテックスの第一層を形成するために型を浸漬する。このラテックスの第一層はその後ゲル化し、そして第二層を形成するために型を発泡材料に再び浸漬する。型を離散粒子の流動床に浸漬することによりまたは他の機械的手段、例えば、噴霧することにより、離散粒子をその後発泡材料の非ゲル化層に塗布する。離散粒子は、テクスチャード加工表面被覆を残すように、手袋の加工の後に、適切な溶媒に溶解する。このプロセスは、離散粒子が発泡体をゲル化しそしてゆえに細胞型の構造をとらえるので、開細胞型の構造を保持するテクスチャード加工表面発泡層被覆をもたらす。さらに離散粒子の逆像は、適切な溶媒によるそれらの除去を受けテクスチャード加工表面層が残るので表面層にとらえられる」ものであることが明らかである。 そうすると、ラテックスの第二層を形成するために液体発泡材料層の中に離散粒子の層を包埋し、発泡層を加工しそして包埋した離散粒子を溶解し、離散粒子が発泡体をゲル化しそしてゆえに細胞型の構造をとらえ、開細胞型の構造を保持するテクスチャード加工表面発泡層被覆をもたらし、離散粒子の逆像がテクスチャード加工表面層にとらえられるものであるということができる。 なお、被請求人は、口頭審理陳述要領書2?3、7?8及び12頁において、甲第1号証における「foam」の語に関し、その翻訳として甲第2号証の翻訳内容について疑義を持っている旨主張するが、具体的にどの箇所の部分において疑義があるのかその具体的な内容は明確ではない。仮に、甲第1号証において第1の離散凝固粒子により形成された凹状部が「foam」というタームで記載されており、それを甲第2号証において「発泡体」と翻訳していることが問題であるという趣旨であるとして被請求人の主張を採用したとしても、甲第1号証において第1の離散凝固粒子により形成された凹状部を「foam」と記載している箇所があるからといって、そのことのみをもってして直ちに、甲第1号証における全ての箇所の「foam」を「第1の離散凝固粒子により形成された凹状部」と解釈しなければならないという理由乃至根拠とはなり得ない。現に、例えば摘示事項1dに係る箇所では、第二層を形成するラテックスとして、「non foamed latex or foamed latex」と記載されており、これを被請求人が主張する様な意味に解釈することには無理があるといわざるを得ず、これは、上で述べたとおり、「無発泡ラテックスまたは発泡ラテックス」と翻訳、解釈することが自然である。したがって、被請求人のこの主張は受け入れることができるものではない。 以上のことに鑑みれば、甲第1号証には、上記のとおり、第二ラテックス層として発泡ラテックスを用いた態様についても記載されているということができる。 また、摘示事項1dの記載から、非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋することにより製造され、発泡材料が、テクスチャード加工表面層を製造するために無発泡ラテックスの代わりに使用された場合には、「優れたグリップ、より高い吸汗性および絶縁体の柔軟な層を提供する」ものであることも明らかであり、摘示事項1aの記載から、第二ラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズを有する離散粒子の形の複数の痕を含み、該痕は実質的に第二ラテックス層の表面を覆う緻密および一様な分布を有し、そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存するものであって、平均粒子サイズが約400ミクロンであり、第二ラテックス層がニトリルであることも明らかである。 してみると、甲第1号証には次の発明(以下、これを「甲第1号証発明1」という。)が記載されている。 「優れたグリップ、より高い吸汗性および絶縁体の柔軟な層を提供する、テクスチャード加工表面被覆手袋を製造する方法であって、ステップ: (i)型を凝固剤で処理する; (ii)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層を形成する; (iii)ラテックスの第一層をゲル化する; (iv)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層の上に発泡ニトリルラテックスの第二層を形成する; (v)発泡ニトリルラテックスの第二層に離散粒子を塗布し、非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋する; (vi)発泡ニトリルラテックスの第二層をゲル化する; (vii)離散粒子を溶解する; (viii)形成した層を熱硬化する;および (ix)型から硬化したテクスチャード加工手袋を外す を含む、方法であって、 該第二発泡ニトリルラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズが約400ミクロンである離散粒子の形の複数の痕を含み、該痕は実質的に第二発泡ニトリルラテックス層の表面を覆う緻密および一様な分布を有し、そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する、 テクスチャード加工表面被覆手袋を製造する方法。」 (2)本件特許発明1と甲第1号証発明1との対比 甲第1号証発明1における「グリップ」、「テクスチャード加工表面被覆」、「発泡ニトリルラテックスの第二層」、「離散粒子」、「非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋する」、「ラテックスの第二層をゲル化する」、「離散粒子を溶解する」は、本件特許発明1における「滑り止め」、「樹脂皮膜表面」、「気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物」、「粒状または/及び粉末状の付着体」、「その一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ」、「樹脂組成物の固化」、「前記付着体を除去する」に各々相当する。 また、甲第1号証発明1における「該第二発泡ニトリルラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズが約400ミクロンである離散粒子の形の複数の痕を含み、該痕は実質的に第二発泡ニトリルラテックス層の表面を覆う緻密および一様な分布を有し、そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する」ことは、本件特許発明1における「第1の凹状部を形成」することに相当することは明らかであって、その内径も本件特許発明1における「100μm?500μm」と数値が一致している。 そして、甲第1号証発明1において、第二層を形成するラテックス材料として発泡ニトリルラテックスを使用しているのであるから、発泡ニトリルラテックス中には斯かる発泡に由来する気泡が多数存在しているものと認められ、その(未ゲル化)状態で第二層の表面に離散粒子を塗布、包埋し、ゲル化した後、離散粒子を溶解するものであるから、その後においては、第二発泡ニトリルラテックス層の表面に、離散粒子に由来する離散粒子の形の複数の痕を有すると共に、ラテックス中の気泡に由来し、ゲル化及び離散粒子の溶解乃至熱硬化したことにより生じた気泡の表面側での開口を有するものであると認められる。 このことは、摘示事項1bの記載から、「手袋の外側に取り入れられた場合、このタイプの手袋は、湿潤/油グリップのようなグリップを改良するであろう。手袋の内側に含まれた場合、テクスチャード加工表面は吸汗性を向上」するものであり、摘示事項1dの記載から、「発泡材料は、テクスチャード加工表面層を製造するために無発泡ラテックスの代わりに使用されてもよく、優れたグリップ、より高い吸汗性および絶縁体の柔軟な層を提供する」ものであり、摘示事項1hの記載から、「発泡ラテックスのテクスチャード加工表面は、皮膚に対する低い表面接触面積を提供するのと同時に、発泡構造により吸汗性を提供する」ものであることからも明らかであるということができる。 そして、これは本件特許明細書において「(4) 乾燥工程を経て樹脂組成物を固化させた後、付着体を除去し、除去した付着体の付着痕(痕跡)である第1の凹状部を形成し、そして第2の凹状部も形成される。 この第2の凹状部が形成されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、気泡の破泡による開口(破泡痕)或いは気泡に接した付着体の除去に伴って気泡の一部が開口して形成されるものと推量され、このほかにも異なるメカニズムによって形成されることも考えられるが、仮に形成メカニズムが誤謬としても本発明の評価に些かも影響を与えるものではない。」(段落【0047】)と記載されていることとも符合する。 ここで、ラテックス中の気泡のサイズが離散粒子の平均粒子サイズである約400ミクロンよりも小さいことは、この技術分野において技術常識であると認められる(例えば、甲第4号証の摘示事項4c並びに甲第5号証の摘示事項5a乃至5c及び5e)。 そうすると、甲第1号証発明1における、「第二発泡ニトリルラテックス層の表面に、離散粒子に由来する離散粒子の形の複数の痕」(以下、「離散粒子の痕」という。)及び「ラテックス中の気泡に由来し、ゲル化及び離散粒子の溶解乃至熱硬化したことにより生じた気泡の表面側での開口」(以下、「気泡開口」という。)は、本件特許発明1における「第1の凹状部」及び「第2の凹状部」に各々相当し、気泡開口は離散粒子の痕よりも小さいものであって、それにより、第二発泡ニトリルラテックス層表面には異なる大きさの凹状部が混在し、しかも、気泡開口は当然に第二発泡ニトリルラテックス層表面から窪んでいる離散粒子の痕の表面を含む第二発泡ニトリルラテックス層表面全体に多数形成されていることは明らかである。 そして、甲第1号証発明1における「ニトリルラテックス」は、本件特許発明1における「アクリロニトリル-ブタジエンゴム」と、この技術分野において同じものを意味するものである。 してみると、両発明は「異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する樹脂皮膜表面の形成方法であって、 気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ、樹脂組成物の固化後に前記付着体を除去することにより第1の凹状部を形成し、 第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部は、未固化状態または固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって形成されることを含み、 上記第1の凹状部は、内径が100μm?500μmであり、 上記第2の凹状部は、樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており、 上記樹脂組成物は、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用されてなる、 樹脂皮膜表面の形成方法。」の点で一致し、次の点で相違するものである。 <相違点1> 第2の凹状部について、本件特許発明1においては「形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である」と特定されているが、甲第1号証発明1においては特に規定されていない点。 <相違点2> 本件特許発明1においては「実用上十分な耐摩耗性を有する」と特定されているが、甲第1号証発明1においては特に規定されていない点。 (3)相違点1に対する判断 甲第3号証には、甲第1号証発明1と同一の技術分野に係る手袋について記載されており、具体的には、摘示事項3aに「1.(a)基材、前記基材は、不織繊維ウェブ、織成ウェブ、および編成ウェブから成る群より選ばれた1員である、 (b)ラミネートの1つの表面に適用されたフォーム層、および (c)前記フォーム層は約10?65%のの範囲内の空気含量を有する、 を特徴とする、グリース、油または水の環境におけるすべり止め表面を提供るラミネート。 2.(a)前記フォーム層は、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル、天然ゴム、合成ゴムおよびそれらの混合物から成る群より選ばれた1員である、 ことをさらに特徴とする、特許請求の範囲第1項記載のラミネート。 3.(a)前記フォーム層は15?30%の範囲内の空気含有量を有する、 ことをさらに特徴とする、特許請求の範囲第1項記載のラミネート。 ・・・ 5.特許請求の範囲第1項記載のラミネートから構成された作業手袋。」と記載されており、また、摘示事項3bには「得られるフォームの表面は、理解されるように、多孔質であり、そして表面上の油、水またはグリースを吸収する性質を有して、本発明のスキッド抵抗性表面へ増大したつかみ表面を提供する」と記載され、摘示事項3dには「本発明の1つの重要な面は、表面がそのつかみ機能により更新されうるという事実である。すなわち、本発明による、多孔質つかみ面を有する作業手袋を仮定すると、いったん手袋がある期間使用され、その結果それがつかみ性質を失ったとき、手袋を単に絞って、手袋の孔内に蓄積された油またはグリースを除去して、そのつかみ性質を更新することができる」と記載されており、これらの記載からすると、甲第3号証における得られるフォームの表面は、開口していることが明らかである。 そして、摘示事項3cに「本発明に従い、ラミネートの発泡部分を形成する材料は、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル、天然ゴムまたは合成ゴムであることができる。この材料は、機械的手段または化学的手段により発泡させることができる。好ましくは、それは機械的手段により、約10?65%の範囲内の空気含量に発泡される。好ましい範囲は、15?30%である。よりすぐれた耐摩耗性は前述の範囲内のより低い空気含量を用いて得られるが、よりすぐれたつかみ性およびより低い耐摩耗性は前記範囲内のより高い空気含量を用いて得られる」と記載されているように、作業手袋の表面に用いられるフォームの表面において、空気含量が約10?65%の範囲内、好ましくは15?30%であること、及び、よりすぐれた耐摩耗性はこの範囲内のより低い空気含量を用いて得られ、よりすぐれたつかみ性はこの範囲内のより高い空気含量を用いて得られると記載されているとおり、耐摩耗性とつかみ性との効果の兼ね合いにより空気含量を最適化することが示唆されているということができる。 このことは、本件特許明細書において、「以上の結果から、樹脂皮膜3に含まれる気泡量が40vol%以上になると気泡量が30vol%の場合と比較して耐摩耗性が半分以下になるため、気泡量は30vol%以下が、より好ましい。また、樹脂皮膜3に含まれる気泡量が5vol%以上では3vol%の場合と比較して摩擦係数の変化が大きくなるためグリップ性の観点からは気泡量が5vol%以上が好ましい。これらのことより、耐摩耗性及びグリップ性を考慮すると実用性から好ましい気泡量は5?30vol%である。」(段落【0104】)と記載されていることとも符合する。 そして、甲第4号証は、手袋という甲第1号証発明1と同一の技術分野に係るものであって、摘示事項4cに「平均径10μm?400μmの気泡を・・・内面及び表面に含んでいる。気泡径10μm未満は機械発泡では非常に作り難く、400μmを越えると耐磨耗性が不十分になる」と記載されている。甲第5号証は、手袋という甲第1号証発明1と同一の技術分野に係るものであって、摘示事項5cに「微多孔質膜を構成する孔は、・・・好ましくは10?100ミクロンの範囲にある実質的に球状孔が最適である」と記載されており、「微多孔質膜面を外側にして接合した場合には、表面平滑な対象物との密着性が良く、滑り難い効果が得られる」と記載されており、摘示事項5eに実施例1において製造された手袋の微多孔質膜の微多孔の最大直径が30?80ミクロンであることが記載されている。 そうすると、甲第1号証発明1において、第2の凹状部について、耐摩耗性とつかみ性との効果の兼ね合いを考慮しつつ気泡の量を15?30%と特定し、かつ、耐摩耗性などを考慮しつつ気泡の長さ平均径を10?50μmと特定することは、甲第3号証乃至甲第5号証から当業者が容易になし得たことである。そして、それによりもたらされる効果も格別顕著であるとすることもできない。 なお、被請求人は、口頭審理陳述要領書5、6、9及び12?13頁において、「本発明でいうところの第2の凹状部は、単に手袋の外表面の気泡が破裂しただけではなく、すでに形成された第1の凹状部の内表面を含んだ手袋外表面に気泡破裂の開口部を形成していることを特徴とするものである。 加えて、その気泡の量や長さ平均径を一定の数値に限定してグリップ性や耐摩耗性や耐久性の向上を図ったことにある」と述べ、さらに乙第2号証を提出して、表4を折れ線グラフとしたものを示した上で、作業用手袋として耐摩耗性とグリップ性を実用上十分かつ好ましい範囲で両立することができるのは気泡量が5?30vol%の範囲内にあるものである旨主張している。 しかし、甲第1号証発明1において、第2の凹状部が第1の凹状部の内表面を含んだ手袋外表面に気泡破裂の開口部を形成していると認められることについては、上記第6 1.(1)甲第1号証に記載された発明で述べたとおりである。そして、甲第3号証に、手袋外表面のフォーム層の気泡量が、15?30%であることが好ましく、よりすぐれた耐摩耗性はこの範囲内のより低い空気含量を用いて得られ、よりすぐれたつかみ性はこの範囲内のより高い空気含量を用いて得られると記載されていることは、上記第6 1.(3)相違点1に対する判断で述べたとおりであって、この内容は上記乙第2号証の内容と一致するものである。 そして、本件特許明細書においても、段落【0097】?【0101】において、樹脂皮膜に含まれる気泡の平均径が耐摩耗性に及ぼす影響について調べられており、同じく段落【0102】?【0105】において、樹脂皮膜に含まれる気泡の量が耐摩耗性及びグリップ性に及ぼす影響について調べられているものの、樹脂皮膜に含まれる気泡の量と気泡の平均径と関係が耐摩耗性及びグリップ性にどの様な影響を及ぼすのかについては一切記載されておらず、斯かる効果は上記した甲第3号証乃至甲第5号証に記載されたものと比較して特段のものということもできない。 以上のことから、第2の凹状部の気泡の量や長さ平均径の限定により格別の効果を奏する旨の被請求人の主張は受け入れることができない。 (4)相違点2に対する判断 上記(3)相違点1に対する判断で述べたとおり、甲第1号証発明1においても、耐摩耗性を考慮しつつ、第2の凹状部の気泡の量及び気泡の長さ平均径を設定しているのであるから、得られた手袋は当然に実用上十分な耐摩耗性を有するものであるということができる。 したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。 (5)本件特許発明1についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、当業者が甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 2.本件特許発明2について (1)甲第1号証に記載された発明 上記第6 1.(1)甲第1号証に記載された発明で述べたとおり、甲第1号証発明1は次のとおりのものである。 「優れたグリップ、より高い吸汗性および絶縁体の柔軟な層を提供する、テクスチャード加工表面被覆手袋を製造する方法であって、ステップ: (i)型を凝固剤で処理する; (ii)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層を形成する; (iii)ラテックスの第一層をゲル化する; (iv)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層の上に発泡ニトリルラテックスの第二層を形成する; (v)発泡ニトリルラテックスの第二層に離散粒子を塗布し、非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋する; (vi)発泡ニトリルラテックスの第二層をゲル化する; (vii)離散粒子を溶解する; (viii)形成した層を熱硬化する;および (ix)型から硬化したテクスチャード加工手袋を外す を含む、方法であって、 該第二発泡ニトリルラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズが約400ミクロンである離散粒子の形の複数の痕を含み、該痕は実質的に第二発泡ニトリルラテックス層の表面を覆う緻密および一様な分布を有し、そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する、 テクスチャード加工表面被覆手袋を製造する方法。」 (2)本件特許発明2と甲第1号証発明1との対比 甲第1号証発明1における「手袋」は、本件特許発明2における「物品」に相当する。 そして、他の点については、上記第6 1.(2)本件特許発明1と甲第1号証発明1との対比で述べたのと同様である。 してみると、両発明は「異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する樹脂皮膜表面を有する物品の製造方法であって、 気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ、樹脂組成物の固化後に前記付着体を除去することにより第1の凹状部を形成し、 未固化状態または固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部を形成することを含み、 上記第1の凹状部は、内径が100μm?500μmであり、 上記第2の凹状部は、樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており、 上記樹脂組成物は、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用されてなる、 表面に異なる大きさの凹状部が混在する物品の製造方法。」の点で一致し、次の点で相違するものである。 <相違点3> 第2の凹状部について、本件特許発明2においては「形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である」と特定されているが、甲第1号証発明1においては特に規定されていない点。 <相違点4> 本件特許発明2においては「実用上十分な耐摩耗性を有する」と特定されているが、甲第1号証発明1においては特に規定されていない点。 (3)相違点3に対する判断 上記第6 1.(3)相違点1に対する判断で述べたとおり、甲第1号証発明1において、第2の凹状部について、耐摩耗性とつかみ性との効果の兼ね合いを考慮しつつ気泡の量を15?30%と特定し、かつ、耐摩耗性などを考慮しつつ気泡の長さ平均径を10?50μmと特定することは、甲第3号証乃至甲第5号証から当業者が容易になし得たことである。そして、それによりもたらされる効果も格別顕著であるとすることもできない。 (4)相違点4に対する判断 上記(3)相違点3に対する判断で述べたとおり、甲第1号証発明1においても、耐摩耗性を考慮しつつ、第2の凹状部の気泡の量及び気泡の長さ平均径を設定しているのであるから、得られた手袋は当然に実用上十分な耐摩耗性を有するものであるということができる。 したがって、相違点4は実質的な相違点ではない。 (5)本件特許発明2についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明2は、当業者が甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 3.本件特許発明3について (1)甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、「テクスチャー加工表面手袋であって: 第一ラテックス層、および 第一ラテックス層に接着した第二ラテックス層を有し、 該第二ラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズを有する離散粒子の形の複数の痕を含み、該痕は実質的に第二ラテックス層の表面を覆う緻密および一様な分布を有し、 そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する、 テクスチャー加工表面手袋。」(摘示事項1a)が記載されており、この第二ラテックス層が「ニトリル」であって、かつ「発泡体」であることも記載されている(摘示事項1a)。さらに加えて、上記第6 1.(1)甲第1号証に記載された発明で述べたことからみて、 甲第1号証には次の発明(以下、これを「甲第1号証発明2」という。)が記載されている。 「優れたグリップ、より高い吸汗性および絶縁体の柔軟な層を提供する、テクスチャード加工表面被覆手袋であって、ステップ: (i)型を凝固剤で処理する; (ii)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層を形成する; (iii)ラテックスの第一層をゲル化する; (iv)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層の上に発泡ニトリルラテックスの第二層を形成する; (v)発泡ニトリルラテックスの第二層に離散粒子を塗布し、非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋する; (vi)発泡ニトリルラテックスの第二層をゲル化する; (vii)離散粒子を溶解する; (viii)形成した層を熱硬化する;および (ix)型から硬化したテクスチャード加工手袋を外す を含む、方法により製造される、 該第二発泡ニトリルラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズが約400ミクロンである離散粒子の形の複数の痕を含み、該痕は実質的に第二発泡ニトリルラテックス層の表面を覆う緻密および一様な分布を有し、そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する、 テクスチャード加工表面被覆手袋。」 (2)本件特許発明3と甲第1号証発明2との対比 甲第1号証発明2における「手袋」は、本件特許発明3における「物品」に相当する。 そして、他の点については、上記第6 1.(2)本件特許発明1と甲第1号証発明1との対比で述べたのと同様である。 してみると、両発明は「異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する樹脂皮膜表面を有する物品であって、 気泡を含んだ未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させ、樹脂組成物の固化後に前記付着体を除去することにより形成された第1の凹状部と、 未固化状態または固化状態の樹脂組成物に含まれている気泡が表面側で開口することによって形成された、第1の凹状部よりも小さい第2の凹状部と、 を含み、 上記第1の凹状部は、内径が100μm?500μmであり、 上記第2の凹状部は、樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており、 上記樹脂組成物は、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され、 表面に異なる大きさの凹状部が混在する物品。」の点で一致し、次の点で相違するものである。 <相違点5> 第2の凹状部について、本件特許発明3においては「形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である」と特定されているが、甲第1号証発明2においては特に規定されていない点。 <相違点6> 本件特許発明3においては「実用上十分な耐摩耗性を有する」と特定されているが、甲第1号証発明2においては特に規定されていない点。 (3)相違点5に対する判断 上記第6 1.(3)相違点1に対する判断で述べたとおり、甲第1号証発明2において、第2の凹状部について、耐摩耗性とつかみ性との効果の兼ね合いを考慮しつつ気泡の量を15?30%と特定し、かつ、耐摩耗性などを考慮しつつ気泡の長さ平均径を10?50μmと特定することは、甲第3号証乃至甲第5号証から当業者が容易になし得たことである。そして、それによりもたらされる効果も格別顕著であるとすることもできない。 (4)相違点6に対する判断 上記(3)相違点5に対する判断で述べたとおり、甲第1号証発明2においても、耐摩耗性を考慮しつつ、第2の凹状部の気泡の量及び気泡の長さ平均径を設定しているのであるから、得られた手袋は当然に実用上十分な耐摩耗性を有するものであるということができる。 したがって、相違点6は実質的な相違点ではない。 (5)本件特許発明3についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明3は、当業者が甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 4.本件特許発明4について (1)甲第1号証に記載された発明 上記第6 1.(1)甲第1号証に記載された発明で述べたとおり、甲第1号証発明1は次のとおりのものである。 「優れたグリップ、より高い吸汗性および絶縁体の柔軟な層を提供する、テクスチャード加工表面被覆手袋を製造する方法であって、ステップ: (i)型を凝固剤で処理する; (ii)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層を形成する; (iii)ラテックスの第一層をゲル化する; (iv)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層の上に発泡ニトリルラテックスの第二層を形成する; (v)発泡ニトリルラテックスの第二層に離散粒子を塗布し、非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋する; (vi)発泡ニトリルラテックスの第二層をゲル化する; (vii)離散粒子を溶解する; (viii)形成した層を熱硬化する;および (ix)型から硬化したテクスチャード加工手袋を外す を含む、方法であって、 該第二発泡ニトリルラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズが約400ミクロンである離散粒子の形の複数の痕を含み、該痕は実質的に第二発泡ニトリルラテックス層の表面を覆う緻密および一様な分布を有し、そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する、 テクスチャード加工表面被覆手袋を製造する方法。」 (2)本件特許発明4と甲第1号証発明1との対比 甲第1号証発明1における「手袋」は、本件特許発明4における「手袋」に相当する点を除いて、他の点については、上記第6 1.(2)本件特許発明1と甲第1号証発明1との対比で述べたのと同様である。 してみると、両発明は「異なる大きさの凹状部が樹脂皮膜の表面に混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する手袋の製造方法であって、 気泡を含んだ樹脂組成物で未固化状態の樹脂皮膜(3)を形成し、その後粒状または/及び粉末状の付着体をその一部又は全部が樹脂皮膜(3)の表面に食い込んだ状態で付着させ、樹脂皮膜(3)の固化後に前記付着体を除去することにより第1の凹状部(31)を形成し、 第1の凹状部(31)よりも小さい第2の凹状部(32)は、未固化状態または固化状態の樹脂皮膜(3)に含まれている気泡(4)が表面側で開口することによって形成されることを含み、 上記第1の凹状部は、内径が100μm?500μmであり、 上記第2の凹状部は、樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており、 上記樹脂組成物は、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用されてなる、 手袋の製造方法。」の点で一致し、次の点で相違するものである。 <相違点7> 第2の凹状部について、本件特許発明4においては「形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である」と特定されているが、甲第1号証発明1においては特に規定されていない点。 <相違点8> 本件特許発明4においては「耐実用上十分な摩耗性を有する」と特定されているが、甲第1号証発明1においては特に規定されていない点。 (3)相違点7に対する判断 上記第6 1.(3)相違点1に対する判断で述べたとおり、甲第1号証発明1において、第2の凹状部について、耐摩耗性とつかみ性との効果の兼ね合いを考慮しつつ気泡の量を15?30%と特定し、かつ、耐摩耗性などを考慮しつつ気泡の長さ平均径を10?50μmと特定することは、甲第3号証乃至甲第5号証から当業者が容易になし得たことである。そして、それによりもたらされる効果も格別顕著であるとすることもできない。 (4)相違点8に対する判断 「耐実用上十分な摩耗性を有する」とは「実用上十分な耐摩耗性を有する」の明らかな誤記と認められ、そうであれば、上記(3)相違点7に対する判断で述べたとおり、甲第1号証発明1においても、耐摩耗性を考慮しつつ、第2の凹状部の気泡の量及び気泡の長さ平均径を設定しているのであるから、得られた手袋は当然に実用上十分な耐摩耗性を有するものであるということができる。 したがって、相違点8は実質的な相違点ではない。 (5)本件特許発明4についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明4は、当業者が甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 5.本件特許発明5について (1)甲第1号証に記載された発明 上記第6 3.(1)甲第1号証に記載された発明で述べたとおり、甲第1号証発明2は次のとおりのものである。 「優れたグリップ、より高い吸汗性および絶縁体の柔軟な層を提供する、テクスチャード加工表面被覆手袋であって、ステップ: (i)型を凝固剤で処理する; (ii)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層を形成する; (iii)ラテックスの第一層をゲル化する; (iv)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層の上に発泡ニトリルラテックスの第二層を形成する; (v)発泡ニトリルラテックスの第二層に離散粒子を塗布し、非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋する; (vi)発泡ニトリルラテックスの第二層をゲル化する; (vii)離散粒子を溶解する; (viii)形成した層を熱硬化する;および (ix)型から硬化したテクスチャード加工手袋を外す を含む、方法により製造される、 該第二発泡ニトリルラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズが約400ミクロンである離散粒子の形の複数の痕を含み、該痕は実質的に第二発泡ニトリルラテックス層の表面を覆う緻密および一様な分布を有し、そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する、 テクスチャード加工表面被覆手袋。」 (2)本件特許発明5と甲第1号証発明2との対比 甲第1号証発明2における「グリップ」、「テクスチャード加工表面被覆」、「第二発泡ニトリルラテックス層」及び「離散粒子」は、本件特許発明5における「滑り止め」、「樹脂皮膜表面」、「気泡を含む樹脂皮膜」及び「粒状または/及び粉末状の付着体」に各々相当する。 そして、甲第1号証発明2において、第二層を形成するラテックス材料として発泡ニトリルラテックスを使用しているのであるから、発泡ニトリルラテックス中には斯かる発泡に由来する気泡が多数存在しているものと認められ、その(未ゲル化)状態で第二層の表面に離散粒子を塗布、包埋し、ゲル化した後、離散粒子を溶解するものであるから、その後においては、第二発泡ニトリルラテックス層の表面に、離散粒子に由来する離散粒子の形の複数の痕を有すると共に、ラテックス中の気泡に由来し、ゲル化及び離散粒子の溶解乃至熱硬化したことにより生じた気泡の表面側での開口を有するものであると認められる。 このことは、摘示事項1bの記載から、「手袋の外側に取り入れられた場合、このタイプの手袋は、湿潤/油グリップのようなグリップを改良するであろう。手袋の内側に含まれた場合、テクスチャード加工表面は吸汗性を向上」するものであり、摘示事項1dの記載から、「発泡材料は、テクスチャード加工表面層を製造するために無発泡ラテックスの代わりに使用されてもよく、優れたグリップ、より高い吸汗性および絶縁体の柔軟な層を提供する」ものであり、摘示事項1hの記載から、「発泡ラテックスのテクスチャード加工表面は、皮膚に対する低い表面接触面積を提供するのと同時に、発泡構造により吸汗性を提供する」ものであることからも明らかであるということができる。 そして、これは本件特許明細書において「(4) 乾燥工程を経て樹脂組成物を固化させた後、付着体を除去し、除去した付着体の付着痕(痕跡)である第1の凹状部を形成し、そして第2の凹状部も形成される。 この第2の凹状部が形成されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、気泡の破泡による開口(破泡痕)或いは気泡に接した付着体の除去に伴って気泡の一部が開口して形成されるものと推量され、このほかにも異なるメカニズムによって形成されることも考えられるが、仮に形成メカニズムが誤謬としても本発明の評価に些かも影響を与えるものではない。」(段落【0047】)と記載されていることとも符合する。 ここで、ラテックス中の気泡のサイズが離散粒子の平均粒子サイズである約400ミクロンよりも小さいことは、この技術分野において技術常識であると認められる(例えば、甲第4号証の摘示事項4c並びに甲第5号証の摘示事項5a乃至5c及び5e)。 そうすると、甲第1号証発明2における、「第二発泡ニトリルラテックス層の表面に、離散粒子に由来する離散粒子の形の複数の痕」(以下、「離散粒子の痕」という。)及び「ラテックス中の気泡に由来し、ゲル化及び離散粒子の溶解乃至熱硬化したことにより生じた気泡の表面側での開口」(以下、「気泡開口」という。)は、本件特許発明5における「第1の凹状部」及び「第2の凹状部」に各々相当し、気泡開口は離散粒子の痕よりも小さいものであって、それにより、第二発泡ニトリルラテックス層表面には異なる大きさの凹状部が混在し、しかも、気泡開口は当然に第二発泡ニトリルラテックス層表面から窪んでいる離散粒子の痕の表面を含む第二発泡ニトリルラテックス層表面全体に多数形成されていることは明らかである。 また、甲第1号証発明2における「該第二発泡ニトリルラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズが約400ミクロンである離散粒子の形の複数の痕を含み、該痕は実質的に第二発泡ニトリルラテックス層の表面を覆う緻密および一様な分布を有し、そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する」ことは、本件特許発明5における「第1の凹状部(31)は、樹脂皮膜(3)表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状または/及び粉末状の付着体を除いた後の痕跡によって形成され」ることに相当することは明らかであって、その内径も本件特許発明5における「100μm?500μm」と数値が一致している。 そして、甲第1号証発明2における「ニトリルラテックス」は、本件特許発明5における「アクリロニトリル-ブタジエンゴム」と、この技術分野において同じものを意味するものである。 してみると、両発明は「異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する手袋であって、 気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の表面に、第1の凹状部(31)と該第1の凹状部(31)よりも小さい第2の凹状部(32)とが混在しており、 上記第1の凹状部(31)は、樹脂皮膜(3)表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状または/及び粉末状の付着体を除いた後の痕跡によって形成され、 上記第2の凹状部(32)は、樹脂皮膜(3)に含まれている気泡(4)の開口によって形成されており、 上記第1の凹状部は、内径が100μm?500μmであり、 上記第2の凹状部は、樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており、 上記樹脂皮膜(3)は、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用されてなる、 手袋。」の点で一致し、次の点で相違するものである。 <相違点9> 第2の凹状部について、本件特許発明5においては「形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である」と特定されているが、甲第1号証発明2においては特に規定されていない点。 <相違点10> 本件特許発明5においては「耐実用上十分な摩耗性を有する」と特定されているが、甲第1号証発明2においては特に規定されていない点。 (3)相違点9に対する判断 上記第6 1.(3)相違点1に対する判断で述べたとおり、甲第1号証発明2において、第2の凹状部について、耐摩耗性とつかみ性との効果の兼ね合いを考慮しつつ気泡の量を15?30%と特定し、かつ、耐摩耗性などを考慮しつつ気泡の長さ平均径を10?50μmと特定することは、甲第3号証乃至甲第5号証から当業者が容易になし得たことである。そして、それによりもたらされる効果も格別顕著であるとすることもできない。 (4)相違点10に対する判断 「耐実用上十分な摩耗性を有する」とは「実用上十分な耐摩耗性を有する」の明らかな誤記と認められ、そうであれば、上記(3)相違点9に対する判断で述べたとおり、甲第1号証発明2においても、耐摩耗性を考慮しつつ、第2の凹状部の気泡の量及び気泡の長さ平均径を設定しているのであるから、得られた手袋は当然に実用上十分な耐摩耗性を有するものであるということができる。 したがって、相違点10は実質的な相違点ではない。 (5)本件特許発明5についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明5は、当業者が甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 6.本件特許発明6について (1)甲第1号証に記載された発明 上記第6 3.(1)甲第1号証に記載された発明で述べたとおり、甲第1号証発明2は次のとおりのものである。 「優れたグリップ、より高い吸汗性および絶縁体の柔軟な層を提供する、テクスチャード加工表面被覆手袋であって、ステップ: (i)型を凝固剤で処理する; (ii)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層を形成する; (iii)ラテックスの第一層をゲル化する; (iv)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層の上に発泡ニトリルラテックスの第二層を形成する; (v)発泡ニトリルラテックスの第二層に離散粒子を塗布し、非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋する; (vi)発泡ニトリルラテックスの第二層をゲル化する; (vii)離散粒子を溶解する; (viii)形成した層を熱硬化する;および (ix)型から硬化したテクスチャード加工手袋を外す を含む、方法により製造される、 該第二発泡ニトリルラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズが約400ミクロンである離散粒子の形の複数の痕を含み、該痕は実質的に第二発泡ニトリルラテックス層の表面を覆う緻密および一様な分布を有し、そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する、 テクスチャード加工表面被覆手袋。」 (2)本件特許発明6と甲第1号証発明2との対比 甲第1号証発明2における「ラテックスの第一層」及び「発泡ニトリルラテックスの第二層」は、本件特許発明6における「気泡(4)を含まない樹脂皮膜(2)」及び「気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)」に各々相当し、甲第1号証発明2における「ラテックスの第一層の上に発泡ニトリルラテックスの第二層を形成する」は、本件特許発明6における「気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の下側に、気泡(4)を含まない樹脂皮膜(2)を少なくとも有し」に相当する。 そして、他の点については、上記第6 5.(2)本件特許発明5と甲第1号証発明2との対比で述べたのと同様である。 してみると、両発明は「異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する手袋であって、 気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の表面に、第1の凹状部(31)と該第1の凹状部(31)よりも小さい第2の凹状部(32)とが混在しており、 上記第1の凹状部(31)は、樹脂皮膜(3)表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状または/及び粉末状の付着体を除いた後の痕跡によって形成され、 上記第2の凹状部(32)は、樹脂皮膜(3)に含まれている気泡(4)の開口によって形成されており、 上記第1の凹状部は、内径が100μm?500μmであり、 上記第2の凹状部は、樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており、 上記樹脂皮膜(3)は、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され、 形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下であり、 気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の下側に、気泡(4)を含まない樹脂皮膜(2)を少なくとも有している、 手袋。」の点で一致し、次の点で相違するものである。 <相違点11> 第2の凹状部について、本件特許発明6においては「形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である」と特定されているが、甲第1号証発明2においては特に規定されていない点。 <相違点12> 本件特許発明6においては「耐実用上十分な摩耗性を有する」と特定されているが、甲第1号証発明2においては特に規定されていない点。 (3)相違点11に対する判断 上記第6 1.(3)相違点1に対する判断で述べたとおり、甲第1号証発明2において、第2の凹状部について、耐摩耗性とつかみ性との効果の兼ね合いを考慮しつつ気泡の量を15?30%と特定し、かつ、耐摩耗性などを考慮しつつ気泡の長さ平均径を10?50μmと特定することは、甲第3号証乃至甲第5号証から当業者が容易になし得たことである。そして、それによりもたらされる効果も格別顕著であるとすることもできない。 (4)相違点12に対する判断 「耐実用上十分な摩耗性を有する」とは「実用上十分な耐摩耗性を有する」の明らかな誤記と認められ、そうであれば、上記(3)相違点11に対する判断で述べたとおり、甲第1号証発明2においても、耐摩耗性を考慮しつつ、第2の凹状部の気泡の量及び気泡の長さ平均径を設定しているのであるから、得られた手袋は当然に実用上十分な耐摩耗性を有するものであるということができる。 したがって、相違点12は実質的な相違点ではない。 (5)本件特許発明6についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明6は、当業者が甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 7.本件特許発明7について (1)甲第1号証に記載された発明 上記第6 3.(1)甲第1号証に記載された発明で述べたとおり、甲第1号証発明2は次のとおりのものである。 「優れたグリップ、より高い吸汗性および絶縁体の柔軟な層を提供する、テクスチャード加工表面被覆手袋であって、ステップ: (i)型を凝固剤で処理する; (ii)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層を形成する; (iii)ラテックスの第一層をゲル化する; (iv)型を浸漬被覆することによりラテックスの第一層の上に発泡ニトリルラテックスの第二層を形成する; (v)発泡ニトリルラテックスの第二層に離散粒子を塗布し、非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋する; (vi)発泡ニトリルラテックスの第二層をゲル化する; (vii)離散粒子を溶解する; (viii)形成した層を熱硬化する;および (ix)型から硬化したテクスチャード加工手袋を外す を含む、方法により製造される、 該第二発泡ニトリルラテックス層は離散粒子の除去の後平均粒子サイズが約400ミクロンである離散粒子の形の複数の痕を含み、該痕は実質的に第二発泡ニトリルラテックス層の表面を覆う緻密および一様な分布を有し、そこで該痕の分布は平均粒子サイズに依存する、 テクスチャード加工表面被覆手袋。」 (2)本件特許発明7と甲第1号証発明2との対比 甲第1号証発明2と本件特許発明7とを比較すると、上記第6 5.(2)本件特許発明5と甲第1号証発明2との対比あるいは上記第6 6.(2)本件特許発明6と甲第1号証発明2との対比で述べたのと同様である。 してみると、両発明は「異なる大きさの凹状部が混在することにより滑り止め効果と柔軟性を発揮する手袋であって、 気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の表面に、第1の凹状部(31)と該第1の凹状部(31)よりも小さい第2の凹状部(32)とが混在しており、 上記第1の凹状部(31)は、樹脂皮膜(3)表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状または/及び粉末状の付着体を除いた後の痕跡によって形成され、 上記第2の凹状部(32)は、樹脂皮膜(3)に含まれている気泡(4)の開口によって形成されており、 上記第1の凹状部は、内径が100μm?500μmであり、 上記第2の凹状部は、樹脂皮膜(3)表面から窪んでいる第1の凹状部(31)の表面を含む樹脂皮膜(3)表面全体に多数形成されており、 上記樹脂皮膜(3)は、天然ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムを単独でまたは組み合わせて使用され、 形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?30vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である、手袋であって、 気泡(4)を含む樹脂皮膜(3)の下側に、気泡(4)を含まない樹脂皮膜(2)を少なくとも有しているかまたは有していない、 手袋。」の点で一致し、次の点で相違するものである。 <相違点13> 第2の凹状部について、本件特許発明7においては「形成された樹脂皮膜に含まれる気泡の量は5?10vol%、気泡の長さ平均径は50μm以下である」と特定されているが、甲第1号証発明2においては特に規定されていない点。 <相違点14> 本件特許発明7においては「耐実用上十分な摩耗性を有する」と特定されているが、甲第1号証発明2においては特に規定されていない点。 (3)相違点13に対する判断 甲第4号証は、手袋という甲第1号証発明2と同一の技術分野に係るものであって、摘示事項4cに「気泡含有量は、コンパウンドの状態で発泡機や家庭用ミキサーで攪拌することによって1%?300%まで任意に調整できる。気泡含有量は比重で測定することができ、成形後もほぼ同じ気泡含有率となる。化学発泡剤のみを利用するよりは機械的にも発泡させる方が、気泡数が多くなり、発泡層の表面に気泡跡の開口がより多く形成されるし、熱プレス時に気泡の潰れや互いの融着が起こりやすい。手袋表面に気泡跡の開口が多いと、対象物との間に介在する水や油を吸収排除することができ、より滑り止め効果に優れる。なお気泡含有量1%?300%では、平均径10μm?400μmの気泡を1cm^(2)あたり10個?130個、内面及び表面に含んでいる。気泡径10μm未満は機械発泡では非常に作り難く、400μmを越えると耐磨耗性が不十分になる」と記載されていることからみて、気泡含有量は1%?300%まで任意に調整できる程度のものにすぎず、手袋表面に気泡跡の開口が多いと、対象物との間に介在する水や油を吸収排除することができ、より滑り止め効果に優れるものであることもみてとれる。そして、気泡含有量1%?300%で、気泡平均径10μm?400μmを有するものが記載されているのであるから、これらの数値範囲内において、気泡含有量と気泡平均径とをどのように設定するかということは当業者であれば耐摩耗性や滑り止め効果などを考慮しつつ適宜設定し得る程度のことということができる。 また、甲第5号証は、手袋という甲第1号証発明2と同一の技術分野に係るものであって、摘示事項5cに「微多孔質膜を構成する孔は、・・・好ましくは10?100ミクロンの範囲にある実質的に球状孔が最適である」と記載されており、「微多孔質膜面を外側にして接合した場合には、表面平滑な対象物との密着性が良く、滑り難い効果が得られる」と記載されており、摘示事項5eに実施例1において製造された手袋の微多孔質膜の微多孔の最大直径が30?80ミクロンであることが記載されている。 そうすると、甲第1号証発明2において、第2の凹状部について、耐摩耗性と滑り止め効果との兼ね合い、特に耐摩耗性を考慮しつつ気泡の量を5?10%と特定し、かつ、耐摩耗性などを考慮しつつ気泡の長さ平均径を10?50μmと特定することは、甲第4号証乃至甲第5号証から当業者が容易になし得たことである。そして、それによりもたらされる効果も格別顕著であるとすることもできない。 (4)相違点14に対する判断 「耐実用上十分な摩耗性を有する」とは「実用上十分な耐摩耗性を有する」の明らかな誤記と認められ、そうであれば、上記(3)相違点13に対する判断で述べたとおり、甲第1号証発明2においても、耐摩耗性を考慮しつつ、第2の凹状部の気泡の量及び気泡の長さ平均径を設定しているのであるから、得られた手袋は当然に実用上十分な耐摩耗性を有するものであるということができる。 したがって、相違点14は実質的な相違点ではない。 (5)本件特許発明7についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明7は、当業者が甲第1号証及び甲第4号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第7 むすび 以上のとおり、本件特許発明1乃至7に係る特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するものであるから、請求人の主張する無効理由1は是認できるものである。 したがって、無効理由2について検討するまでもなく、請求項1乃至7に係る発明の特許は無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、上記結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2011-03-08 |
出願番号 | 特願2008-78937(P2008-78937) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Z
(A41D)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 大島 祥吾 |
特許庁審判長 |
小林 均 |
特許庁審判官 |
小野寺 務 松浦 新司 |
登録日 | 2009-06-26 |
登録番号 | 特許第4331782号(P4331782) |
発明の名称 | 樹脂表面の形成方法、表面に異なる大きさの凹状部が混在する物品の製造方法及びその物品、手袋の製造方法及び手袋 |
代理人 | 山上 祥吾 |
代理人 | 金子 一郎 |
代理人 | 藤江 和典 |
代理人 | 市川 泰央 |
代理人 | 金子 一郎 |
代理人 | 金子 一郎 |
代理人 | 阿部 伸一 |
代理人 | 松尾 憲一郎 |
代理人 | 藤江 和典 |
代理人 | 藤江 和典 |
代理人 | 阿部 伸一 |
代理人 | 阿部 伸一 |