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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1269781
審判番号 不服2011-4590  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-28 
確定日 2013-02-07 
事件の表示 特願2005-500435「改良型MRAMトンネル接合のためのナノ結晶層」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月 9日国際公開,WO2004/107370,平成18年 2月23日国内公表,特表2006-506828〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2003年7月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年8月30日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成22年1月22日付けで拒絶理由が通知され,これに対して,同年5月26日に手続補正されたが,同年10月26日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,平成23年2月28日付けで拒絶査定不服審判の請求がされるとともに,同日付けで手続補正がされ,その後,当審において平成24年1月30日付けで審尋がされ,それに対して同年7月31日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年2月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成23年2月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1?4を,補正後の特許請求の範囲の請求項1?4と補正するものであって,補正前後の特許請求の範囲は,以下のとおりである。
(補正前)
「【請求項1】
磁性素子であって,
シード層と,
前記シード層上に形成されたナノ結晶テンプレート層と,
前記テンプレート層上に形成されたナノ結晶反強磁性固着化層と,を備える磁性素子。
【請求項2】
磁性素子であって,
基板と,
前記基板上に形成されたベース金属層と,
前記ベース金属層上に形成され,結晶構造が不規則配列化されたTaNxシード層と,
前記シード層上に形成されたナノ結晶Ruテンプレート層と,
前記テンプレート層上に形成され,かつ,PtMn,PbMn,PtPdMn,IrMn,FeMn,及びRhMnから成るグループから選択された合金を含むナノ結晶反強磁性固着化層と,
前記固着化層上に形成された複合反強磁性体であって,
第1ナノ結晶強磁性層と,
前記第1ナノ結晶強磁性層上に形成されたルテニウム結合層と,
前記結合層上に形成された第2ナノ結晶強磁性層とを含む前記複合反強磁性体と,
前記複合反強磁性体上に形成されたAlOx層と,
前記AlOx層上に形成された強磁性自由層と,
前記強磁性自由層上に形成された上部電極と,を備える磁性素子。
【請求項3】
方法であって,
結晶構造が不規則配列化されたシード層を形成する工程と,
前記シード層上にナノ結晶テンプレート層を形成する工程と,
前記テンプレート層上にナノ結晶反強磁性固着化層を形成する工程と,を備える方法。
【請求項4】
方法であって,
基板上にベース金属層を形成する工程と,
前記ベース金属層上にTa層を50オングストローム未満の厚さに形成する工程と,
TaNxシード層をプラズマ窒化プロセスまたはイオンビーム窒化プロセスを使用して窒素原子に晒すことにより,TaNxシード層を形成する工程と,
前記TaNxシード層上にナノ結晶Ruテンプレート層を形成する工程と,
PtMn,PdMn,PtPdMn,IrMn,FeMn,及びRhMnから成るグループから選択された合金を使用して,ナノ結晶反強磁性固着化層を形成する工程と,
前記固着化層上に複合反強磁性体を形成する工程であって,
第1強磁性層と,
前記第1強磁性層上に形成されたルテニウム結合層と,
前記ルテニウム結合層上に形成された第2強磁性層とを含む前記複合反強磁性体を形成する工程と,
前記複合反強磁性体上にAlOx層を形成する工程と,
前記AlOx層上に強磁性自由層を形成する工程と,
前記強磁性自由層上に上部電極を形成する工程と,を備える方法。」

(補正後)
「【請求項1】
磁性素子であって,
シード層と,
前記シード層上に形成されたナノ結晶テンプレート層であって,10ナノメートル未満の平均結晶サイズを有する多結晶材料からなる前記ナノ結晶テンプレート層と,
前記テンプレート層上に形成されたナノ結晶反強磁性固着化層と,を備える磁性素子。
【請求項2】
磁性素子であって,
基板と,
前記基板上に形成されたベース金属層と,
前記ベース金属層上に形成され,結晶構造が不規則配列化されたTaNxシード層と,
前記シード層上に形成されたナノ結晶Ruテンプレート層であって,10ナノメートル未満の平均結晶サイズを有する多結晶材料からなる前記ナノ結晶Ruテンプレート層と,
前記テンプレート層上に形成され,かつ,PtMn,PbMn,PtPdMn,IrMn,FeMn,及びRhMnから成るグループから選択された合金を含むナノ結晶反強磁性固着化層と,
前記固着化層上に形成された複合反強磁性体であって,
第1ナノ結晶強磁性層と,
前記第1ナノ結晶強磁性層上に形成されたルテニウム結合層と,
前記結合層上に形成された第2ナノ結晶強磁性層とを含む前記複合反強磁性体と,
前記複合反強磁性体上に形成されたAlOx層と,
前記AlOx層上に形成された強磁性自由層と,
前記強磁性自由層上に形成された上部電極と,を備える磁性素子。
【請求項3】
方法であって,
結晶構造が不規則配列化されたシード層を形成する工程と,
前記シード層上にナノ結晶テンプレート層を形成する工程であって,前記ナノ結晶テンプレート層は,10ナノメートル未満の平均結晶サイズを有する多結晶材料からなる,前記ナノ結晶テンプレート層を形成する工程と,
前記テンプレート層上にナノ結晶反強磁性固着化層を形成する工程と,を備える方法。
【請求項4】
方法であって,
基板上にベース金属層を形成する工程と,
前記ベース金属層上にTa層を50オングストローム未満の厚さに形成する工程と,
前記Taシード層をプラズマ窒化プロセスまたはイオンビーム窒化プロセスを使用して窒素原子に晒すことにより,TaNxシード層を形成する工程と,
前記TaNxシード層上にナノ結晶Ruテンプレート層を形成する工程であって,前記ナノ結晶Ruテンプレート層は,10ナノメートル未満の平均結晶サイズを有する多結晶材料からなる,前記ナノ結晶テンプレート層を形成する工程と,
PtMn,PdMn,PtPdMn,IrMn,FeMn,及びRhMnから成るグループから選択された合金を使用して,ナノ結晶反強磁性固着化層を形成する工程と,
前記固着化層上に複合反強磁性体を形成する工程であって,
第1強磁性層と,
前記第1強磁性層上に形成されたルテニウム結合層と,
前記ルテニウム結合層上に形成された第2強磁性層とを含む前記複合反強磁性体を形成する工程と,
前記複合反強磁性体上にAlOx層を形成する工程と,
前記AlOx層上に強磁性自由層を形成する工程と,
前記強磁性自由層上に上部電極を形成する工程と,を備える方法。」

2 補正事項の整理
本件補正のうち,特許請求の範囲についての補正事項を整理すると,以下のとおりである。
(補正事項1)
補正前の請求項1の「ナノ結晶テンプレート層」を,補正後の請求項1の「ナノ結晶テンプレート層であって,10ナノメートル未満の平均結晶サイズを有する多結晶材料からなる前記ナノ結晶テンプレート層」と補正すること。

(補正事項2)
補正前の請求項2の「ナノ結晶Ruテンプレート層」を,補正後の請求項2の「ナノ結晶テンプレート層であって,10ナノメートル未満の平均結晶サイズを有する多結晶材料からなる前記ナノ結晶Ruテンプレート層」と補正すること。

(補正事項3)
補正前の請求項3の「ナノ結晶テンプレート層を形成する工程」を,補正後の請求項3の「ナノ結晶テンプレート層を形成する工程であって,前記ナノ結晶テンプレート層は,10ナノメートル未満の平均結晶サイズを有する多結晶材料からなる,前記ナノ結晶テンプレート層を形成する工程」と補正すること。

(補正事項4)
補正前の請求項4の「ナノ結晶Ruテンプレート層を形成する工程」を,補正後の請求項4の「ナノ結晶Ruテンプレート層を形成する工程であって,前記ナノ結晶Ruテンプレート層は,10ナノメートル未満の平均結晶サイズを有する多結晶材料からなる,前記ナノ結晶テンプレート層を形成する工程」と補正すること。

(補正事項5)
補正前の請求項4の「TaNxシード層」を,補正後の請求項4の「前記Taシード層」と補正すること。

3 新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
(1)新規事項の追加の有無について

(1-1)補正事項1?4について
補正事項1?4の補正前の請求項1?4の「ナノ結晶テンプレート層」に関して,「10ナノメートル未満の平均結晶サイズを有する多結晶材料からなる」とすることは,本願の願書に最初に添付した明細書(平成17年4月22日付け特許法第184条の5第1項の規定による国内書面(以下「国内書面」という)の明細書をいう)の段落【0012】に「ナノ結晶とは,好適な配向または高次構造がほとんど観測されないか,または無い10ナノメートル(100オングストローム)未満であることが好ましい平均結晶サイズを有する多結晶材料を指す。」と記載されているから,補正事項1?4は本願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。

(1-2)補正事項5について
補正事項5の「Taシード層」については,当初明細書の段落【0016】に「シード層120は窒化タンタル(TaNx)から形成され,プラズマまたはイオンビーム窒化プロセスにより,かなり薄く,好ましくは約100オングストローム未満,最も好ましくは約50オングストローム未満のタンタル(Ta)層として形成される。」と記載されているから,補正事項5は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。

したがって,本件補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから,特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たすものである。

(2)補正の目的の適否について

(2-1)補正事項1?4について
補正事項1?4は,補正前の請求項1?4の「ナノ結晶テンプレート層」又は「ナノ結晶Ruテンプレート層」に対して,「10ナノメートル未満の平均結晶サイズを有する多結晶材料からなる」ものであるという「平均結晶サイズ」に関する技術的限定を加えるものであるから,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2-2)補正事項5について
補正事項5は,補正前の請求項4の「TaNxシード層をプラズマ窒化プロセス又はイオンビーム窒化プロセスを使用して窒素原子に晒す」とあるのを,補正後の請求項4の窒化する前の「Taシード層」を窒化して「TaNxシード層を形成する」とすることで記載を明りょうなものとしたものであるから,補正事項5は,特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

したがって,本件補正は,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たしているものである。

(3)小括

以上検討したとおりであるから,本件補正は特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものである。

そして,本件補正は,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する補正を含むものであるから,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かにつき,以下において更に検討する。

4 独立特許要件について

(1)補正発明
本件補正による補正後の請求項1?4に係る発明は,本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?4に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は,請求項1に記載されている事項により特定される,以下のとおりのものである。

「磁性素子であって,
シード層と,
前記シード層上に形成されたナノ結晶テンプレート層であって,10ナノメートル未満の平均結晶サイズを有する多結晶材料からなる前記ナノ結晶テンプレート層と,
前記テンプレート層上に形成されたナノ結晶反強磁性固着化層と,を備える磁性素子。」

(2)引用例に記載された発明
ア 本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され,原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特開2001-203405号公報(以下「引用例」という。)には,「磁場応答が改良された磁気素子とその作成方法」(発明の名称)に関して,図1?2とともに以下の記載がある(なお,下線は当合議体にて付加したものである。)。

(ア) 「【0015】
【課題を解決するための手段】上記およびその他の必要性は,ベース金属層, 第1電極,第2電極およびスペーサ層を含む磁気素子を提供することによって満足される。ベース金属層は,基板素子の最上部の表面の上に配置される。2つの電極のうち1つは,固定強磁性層を含み,この層の磁化は,自由層を切り換えるのに十分大きな印加磁場が存在する中で,好適な方向に固定されたままになっており,もう1つの電極は,印加磁場が存在する中で,磁化が,磁化状態の間を自由に回転または切り替えられる自由強磁性層を含む。スペーサ層は,固定強磁性層と,自由強磁性層との間に配置されて,固定層と自由強磁性層とに概ね垂直方向に,トンネル電流が流れるようにする。作製中,ベース金属層とスペーサ層の間に形成された少なくとも1つの層は,X線アモルファス構造であり,より詳しくは,通常のX線技術では,結晶性を示すピークを示さない構造をとるか,またはベース金属層自体が,アモルファス構造を有して形成される。X線アモルファス構造を含む少なくとも1つの層は,その上に堆積される層の粗さの大きさおよび/または特徴的な長さスケールを変化させて,スペーサ層との接合面における磁極の形成を低減する。粗さの大きさの低減,および/または粗さの優勢な長さスケールをより低い空間周波数にシフトさせることにより,結果として,表面が平坦化され,トポロジカル結合が低減する。また,磁場応答が改良された磁気素子を作製する方法が開示される。」

(イ) 「【0016】
【実施例】本明細書の説明において,同じ番号は,本発明を図解する種々の図面による同様の素子を識別するのに使用される。本明細書に開示されるように,X線アモルファス構造を,本発明の磁気素子内に形成可能にして,これにより,スペーサ層との接合面において,磁極の形成を低減する方法は複数存在する。さらに詳しくは,すべての実施例では,X線アモルファス構造は,ベース金属層(本明細書で検討)とスペーサ層(本明細書で検討)との間に形成されるか,ベース金属層自体が,アモルファス構造を有して形成されることが開示される。一般に,これを実現するには,アモルファス・シード層を含めること,またはアモルファス・シードとテンプレートを組み合わせた層を含めること,または強磁性層の1つを実際にアモルファスにすることによって,またはベース金属層をアモルファスにすることによって,X線アモルファス反強磁性ピニング(pinning)層を設ける。
【0017】したがって,図1から図4に示されるのは,積層された磁気素子内でのネール結合を低減するために,X線アモルファス層を実現する種々の実施例である。さらに詳しくは,図1は,本発明による磁気素子の第1実施例の断面図を示す。図1に示されるのは,完全にパターン形成された磁気素子構造10である。この構造は,基板12,第1電極多層スタック(multilayer stack)14,酸化アルミニウムを含むスペーサ層16,および第2電極多層スタック18を含む。スペーサ層16は,作製中の磁気素子の種類に応じて,形成されることを理解されたい。さらに詳しくは,MTJ構造では,スペーサ16は,誘電材料から形成され,スピン・バルブ構造では,スペーサ層16は,導電材料から形成される。第1電極多層スタック14と第2電極多層スタック18は,強磁性層を含む。第1電極層14は,ベース金属層13の上に形成され,ベース金属層は基板12の上に形成される。ベース金属層13は,単一の金属材料または層か,または複数の金属材料または層の積層から構成されるものとして開示される。第1電極層14は,ベース金属層13の上に堆積される第1シード層20,テンプレート層22,反強磁性ピニング材料層24,および下に位置する反強磁性ピニング層24の上に形成されて,交換結合される固定強磁性層26を含む。この第1実施例において,シード層20は,X線アモルファス構造として記載される。通常,シード層20は,窒化タンタル(TaNx)によって形成され,その上にテンプレート層22が形成される。この具体的実施例では,テンプレート層22は,ルテニウム(Ru)によって形成される。このようなシード層20とテンプレート層22との組み合わせは,X線アモルファス・ピニング層24の形成を生じ,これは通常,マンガン鉄(FeMn)によって形成される。
【0018】強磁性層26は,印加磁場が存在する中で,磁気モーメントの回転が阻止される点で,固定またはピンされたものとして記載される。強磁性層26は通常,ニッケル(Ni),鉄(Fe)およびコバルト(Co)のうち1つまたは複数の合金によって形成され,上部表面19と底部表面21とを含む。
【0019】第2電極スタック18は,自由強磁性層28と保護接触層30とを含む。自由強磁性層28の磁気モーメントは,交換結合により固定またはピンされておらず,印加磁場が存在する中で,自由に回転する。自由強磁性層28は通常,ニッケル鉄(NiFe)合金またはニッケル鉄コバルト(NiFeCo)合金によって形成される。裏返しの構造,または反転構造も,本発明では予想されることを理解されたい。さらに詳しくは,本発明の磁気素子は,上部が固定またはピンされた層を含むように形成できると予想され,そのため,上部ピン構造としても記載される。
【0020】前述のように,この具体的実施例では,シード層20は,X線アモルファス構造を有して形成され,より詳しくは,シード層20は,結晶構造が形成されない形で形成される。このように結晶構造が存在しないことから,テンプレート層22,ひいてはピニング層24との接合面がより平坦または滑らかになり,そのため,全体的にネール結合が減少する。テンプレート層22がRuによって形成され,ピニング層24がFeMnによって形成される具体的な実施例では,Ruの薄い層が,ランダムに配向された多結晶構造を有するX線アモルファス・シード層20の上に成長し,これにより,FeMnもX線アモルファスとなる。このようにピニング層24内に結晶構造が存在しないことにより,固定層26がより平坦または滑らかになり,接合面19,21が共に,第1電極内に従来の多結晶層を有する場合に比べて平坦になる。この結果,MRAM素子などの素子に対して,ネール結合が減少して,MRAMビットのスイッチング特性が向上し,センサ用途において,より理想的な応答をもたらす。」

(ウ) 「【0021】ここで図2を参照して,図1の素子と同様の,本発明の磁気素子の代替的実施例が示される。図1に示される部材と同様のすべての部材には,同じ番号が付され,異なる実施例であることを示すために,プライム記号が付加される。
【0022】図2は,本発明による磁気素子の第2実施例を断面図で示す。さらに詳しくは,図2には,完全にパターン形成された素子構造10’が示される。この構造は,基板12’,第1電極多層スタック14’,酸化アルミニウムを含むスペーサ層16’,および第2電極多層スタック18’を含む。第1電極多層スタック14’および第2電極多層スタック18’は,強磁性層を含む。第1電極多層スタック14’は,ベース金属層13’の上に形成され,後者は基板12’の上に形成される。第1電極層14’は,ベース金属層13’の上に堆積されて,シード層とテンプレート層を結合した働きをする層23,反強磁性ピニング材料層24’および下に位置する反強磁性ピニング層24’の上に形成されて,交換結合される固定強磁性層26’を含む。
【0023】この第2実施例において,層23は,シード/テンプレート層を結合させた働きをするものとして記載され,さらに詳しくは,シード層とテンプレート層の両方に置き換わる働きをする。通常,結合層23は,タンタル(Ta),ルテニウム(Ru)またはタンタルと窒素の化合物(TaN_(x))のいずれかによって形成される。この結合層23は,アルミニウム(Al)などある一定のベース金属層と組み合わせて用いられ,X線アモルファス・ピニング層24’の形成または成長の種を提供し,層24’は通常,鉄マンガンによって形成される。代替的実施例では,タンタルと窒素の化合物が,ベース金属層とスペーサ層との間に配置され,タンタルと窒素の化合物の層は,この例では,アモルファス構造としてそれ自体が形成されて,自由強磁性層と固定強磁性層との間におけるトポロジカル結合の強度の低減が,素子の電気特性を劣化させずに実現されることが開示される。
【0024】図1の素子と同様,強磁性層26’は,印加磁場が存在する中で,磁気モーメントの回転が阻止される点で,固定またはピンされると記載される。強磁性層26’は通常,ニッケル(Ni),鉄(Fe)およびコバルト(Co)のうち1つまたは複数の合金により形成され,上部表面19’と底部表面21’とを含む。
【0025】第2電極層18’は,自由強磁性層28’と保護接触層30’とを含む。自由強磁性層28’の磁気モーメントは,交換結合によって固定またはピンされておらず,印加磁場が存在する中で自由に回転される。自由強磁性層28’は通常,ニッケル鉄(NiFe)合金またはニッケル鉄コバルト(NiFeCo)合金によって形成される。本発明では,裏返しの構造または反転構造も予想されることを理解されたい。さらに詳しくは,本発明の磁気素子は,上部が固定またはピンされた層を含むように形成できることが予想され,このため,上部ピン構造としても記載される。
【0026】この具体的実施例では,層23は,ランダム配向多結晶構造を有して形成され,これは,ピニング層24’内に,X線アモルファス構造を生じる。このように結晶構造が存在しないと,上部に固定層26’を成長させる接合面21’がより平坦または滑らかになり,ひいては,接合面19’がより平坦または滑らかになり,このため,全体的にネール結合が減少する。ネール結合がこのように減少することにより,MRAMビットにとってより理想的なスイッチング特性を有する素子がもたらされ,センサ用途においてより理想的な応答をもたらす。」

イ 引用発明
以上を総合し,第2実施例に注目すると,引用例には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「磁気素子であって,
ベース金属層13’の上に堆積されて,シード層とテンプレート層を結合した働きをする結合層23,反強磁性ピニング材料層24’を有し,
結合層23は,ランダム配向多結晶構造を有して形成され,反強磁性ピニング材料層24’の形成または成長の種を提供し,
反強磁性ピニング材料層24’は,X線アモルファス構造である磁気素子。」

(3)対比
以下に,補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「シード層とテンプレート層を結合した働きをする結合層23」は,「ランダム配向多結晶構造を有して」いるから,多結晶材料からなるものであり,その上に形成される「反強磁性ピニング材料層24’」が「X線アモルファス構造」となるものである。ここで,「X線アモルファス構造」とは,引用例の段落【0020】の記載によれば,「ランダムに配向された多結晶構造を有する」ものであることが分かる。
一方,補正発明の「シード層」及び/又は「テンプレート層」は,本願明細書の段落【0012】,【0023】の記載によれば,その上に形成される反強磁性固着化層の通常の多結晶層形成プロセスを妨げ,「ランダムに配向する」「多結晶材料」とするものである。
したがって,引用発明の「シード層とテンプレート層を結合した働きをする結合層23」と,補正発明の「シード層」及び「テンプレート層」は,その上に形成される「反強磁性固着化層」をランダムに配向する多結晶材料にする層という点及び少なくとも一部が多結晶材料からなる点で共通する。

イ 引用発明の「反強磁性ピニング材料層24’」は,補正発明の「反強磁性固着化層」に対応し,どちらも「ランダムに配向する」「多結晶」構造を有している点で共通する。

したがって,補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「磁性素子であって,
その上に形成される反強磁性固着化層をランダムに配向する多結晶構造にする層と,
前記層上に形成されたランダムに配向する多結晶構造を有する反強磁性固着化層と,を備える磁性素子。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
補正発明は,反強磁性固着化層の下層である「反強磁性固着化層をランダムに配向する多結晶構造にする層」が「シード層」と「テンプレート層」の二層であるのに対し,引用発明は「シード層とテンプレート層を結合した働きをする結合層23」である点。

(相違点2)
補正発明は,テンプレート層が「10ナノメートル未満の平均結晶サイズを有する多結晶材料からなる」「ナノ結晶」であるのに対し,引用発明は「結合層23」が「ランダム配向多結晶構造を有」しているとしか特定されていない点。

(相違点3)
補正発明は,「反強磁性固着化層」が「ナノ結晶」であるのに対し,引用発明は,「反強磁性ピニング材料層24’」が「X線アモルファス構造」である点。

(4)判断
ア 相違点1について
4(2)ア(ア)によれば,引用例に記載の第1実施例は,第1シード層20とテンプレート層22上に反強磁性ピニング材料層24を形成しているものであることが,同ア(イ)によれば,下層のシード層もX線アモルファス構造を有することが分かる。そして,引用発明はこの2層を1つにし「シード層とテンプレート層を結合した働きをする結合層23」とした第2実施例に係るものであり,その上に形成する反強磁性ピニング材料層(補正発明の反強磁性固着化層に相当する)をランダムに配向する多結晶材料にするという機能・効果は第1実施例と共通する。
そうすると,引用発明において,「シード層とテンプレート層を結合した働きをする結合層23」に代えて,同じ機能を有する引用例に記載の第1実施例の「シード層」と「テンプレート層」の二層構造とし,テンプレート層を,その上に形成する反強磁性ピニング材料層をランダムに配向する多結晶材料とするための構造を有するものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2,3について
補正発明における「ナノ結晶」とは,本願明細書の「ナノ結晶とは,好適な配向または高次構造がほとんど観察されないか,または無い10ナノメートル(100オングストローム)未満であることが好ましい平均結晶サイズを有する多結晶材料を指す。」(段落【0012】)という記載から,実質的に配向が無い,「平均結晶サイズ」が「10ナノメートル未満」の「多結晶材料」であるといえる。
一方,4(2)ア(ア)?(イ)によれば,引用発明の「X線アモルファス構造」も「ランダムに配向された多結晶構造」のことであり,「通常のX線技術では,結晶性を示すピークを示さない構造」のことである。
そして,アモルファスは,微結晶の結晶粒径が極限的に小さくなった場合,すなわち結晶サイズが極限的に小さくなった場合を指すことは,周知例1にもあるように当業者にとって明らかである。
また,結晶粒径が小さくなるほどX線回折ピークの半値幅が大きくなることは,周知例2にもあるように当業者にとって技術常識であり,つまりX線回折のピークを示さなくなることは,結晶粒径が極限的に小さくなることで,アモルファスになることにほかならない。
以上から引用発明の「X線アモルファス構造」とは,X線回折のピークを示さずアモルファス構造であるとみなせる程平均結晶サイズが極限的に小さい「ランダムに配向された多結晶構造」をいうと認められる。そして,X線回折のピークを示さない程度に極限的に小さい平均結晶サイズに下限が不明な「10ナノメール未満」は当然に包含されると認められる。
なお,粒径が10ナノメートル未満の微結晶構造をX線アモルファス構造と称することは周知例3に記載されるように周知の事項である。
また,引用発明の「結合層23」については,結晶粒径に関する記載はないが,4(2)ア(ウ)によれば,「層23は,シード/テンプレート層を結合させた働きをする」ものであり,引用例の第1実施例のシード層20が,4(2)ア(イ)によれば「ランダムに配向された多結晶構造を有するX線アモルファス・シード層20の上に成長し,これにより,FeMnもX線アモルファスとなる」ことから,同じ働きをする「結合層23」も「ランダムに配向された多結晶構造を有するX線アモルファス」であると認められる。
そして,補正発明の「ナノ結晶」は平均結晶サイズが10ナノメートル未満であることから,引用発明の「X線アモルファス構造」の平均結晶サイズがこの中に含まれることは明らかである。なお,この点については,審判請求人も,審判請求書の3.(c)において,図1を提示し,「ナノ結晶材料」と「X線アモルファス材料」とに共通部分があることも認めている。
以上から,引用発明の「結合層23」及び「反強磁性ピニング材料層24’」がともにランダムに配向された多結晶構造を有し,結晶粒径が極限的に小さくなり10ナノメートル未満となっていると認められ,補正発明の「ナノ結晶」と実質的に同一であると認められる。
したがって,相違点2,3は,実質的なものではない。仮に,相違点2,3が実質的なものではないとまではいえないとしても,引用発明において,「反強磁性固着層」の下層及び「反強磁性固着層」を「X線アモルファス」に代えて「ナノ結晶」とすることは当業者が適宜なし得たことである。
なお,本願明細書の記載からは,本願発明の「ナノ結晶テンプレート層」の「多結晶材料」の「平均結晶サイズ」を特に「10ナノメートル未満」とすることに,臨界的な意義があるとは認められない。

a 周知例1:特開平2001-325704号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-325704号公報(以下「周知例1」という。)には,以下の記載がある。

(a) 「【0037】この際,下シールド層や下部導電層を形成する材料の結晶粒径が小さい方が表面ラフネスは減少する。結晶粒径が大きい場合の方が隣接する結晶粒間での結晶方向の差が大きく,それだけ粒界に蓄えられるエネルギーが大きいことが影響していると考えられる。アモルファスは微結晶の結晶粒径が極限的に小さくなった場合であり,微結晶の場合よりもさらに表面ラフネスが小さくなる。」

b 周知例2:特開平10-97707号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-97707号公報(以下「周知例2」という。)には,以下の記載がある。

(a) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,誘導型磁気ヘッド,磁気抵抗効果型磁気ヘッド(MRヘッド),誘導型ヘッド部とMRヘッド部とを有するMR誘導型複合ヘッド等の各種磁気ヘッドに主として適用される軟磁性薄膜を製造する方法に関する。」
(b) 「【0051】熱処理後の薄膜の平均結晶粒径は,100nm以下であり,5?50nmとすることも容易である。平均結晶粒径は,X線回折でのFe(200)ピークの半値巾W_(50)を測定し,下記のシェラーの式から求めればよい。
【0052】式 D=0.9λ/W_(50) cosθ
【0053】この式において,λは用いたX線の波長であり,θは回折角である。」

c 周知例3:特開平11-21171号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平11-21171号公報(以下「周知例3」という。)には,以下の記載がある。

(a)「【請求項7】 1種以上の安定剤が担体材料上に7nm未満の微結晶寸法を有するX線アモルファス形で存在する、請求項6記載の酸素貯蔵材料。」
(b)「【0019】酸素貯蔵材料は、安定剤が担体材料上に7nm未満の微結晶寸法で存在すれば、特に高い温度安定性を有する。この場合には、安定剤はX線アモルファスとも称される。それというのも、このような小さい微結晶寸法を有する物質は分離したX線回折スペクトルをもはや呈しないからである。」

ウ 判断についてのまとめ
以上検討したとおり,補正発明は,当業者における技術常識を勘案することにより,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

エ 独立特許要件についてのまとめ
本件補正は,補正後の特許請求の範囲により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,特許法第17条の2第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項をいう。以下同じ。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。

(5)補正却下の決定についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから,特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?4に係る発明は,平成22年5月26日付けの手続補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「磁性素子であって,
シード層と,
前記シード層上に形成されたナノ結晶テンプレート層と,
前記テンプレート層上に形成されたナノ結晶反強磁性固着化層と,を備える磁性素子。」

第4 引用例に記載された発明
引用例には,上記第2,4(2)イに記載したとおり,引用発明が記載されている。

第5 判断
本願発明は,補正発明から,上記第2,2に記載した補正事項1についての補正によりなされた技術的限定を省いたものである。
そうすると,第2,4において検討したとおり,補正発明は,技術常識を勘案することにより,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,補正発明から技術的限定を省いた本願発明についても,当然に,技術常識を勘案することにより,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-05 
結審通知日 2012-09-11 
審決日 2012-09-24 
出願番号 特願2005-500435(P2005-500435)
審決分類 P 1 8・ 56- Z (H01L)
P 1 8・ 536- Z (H01L)
P 1 8・ 537- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 西脇 博志
近藤 幸浩
発明の名称 改良型MRAMトンネル接合のためのナノ結晶層  
代理人 本田 淳  

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