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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1269828 |
審判番号 | 不服2010-11677 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-06-01 |
確定日 | 2013-02-06 |
事件の表示 | 特願2003-539509「慢性閉塞性肺疾患の症状を緩和するためのアルブテロールおよびイプラトロピウム吸入溶液、キット、吸入溶液を中に有する1容器を作成する方法、吸入溶液を作成する方法、および、既包装治療システム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年5月8日国際公開、WO03/37159、平成18年2月16日国内公表、特表2006-505486〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2002年(平成14年)10月18日(パリ条約による優先権主張2001年10月26日アメリカ合衆国、同年12月28日アメリカ合衆国、2002年4月5日オーストラリア、国内優先権主張平成14年4月23日)を国際出願日とする出願であって、平成21年5月18日付けで拒絶理由が通知され、これに応答して、同年8月19日付けで手続補正書及び意見書が提出され、そして、平成22年1月26日付けで拒絶査定され、これに対して、同年6月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、平成23年10月28日付けで審尋が通知されたものである。 2.本願発明 本願請求項1に係る発明は、平成22年6月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「1容器に、慢性閉塞性肺疾患を患う患者において気管支拡張を誘発するかまたは気管支痙攣を緩和するための、治療有効量の1単位用量のアルブテロール0.60mg?5.0mgおよび臭化イプラトロピウム0.01mg?1.0mgからなる既調合、既測量の水性処方物を含み、該溶液が滅菌で抗菌性保存剤非含有溶液であり、さらに、25℃の温度で12ヶ月の貯蔵の後でも、該溶液中に初めに存在する前記アルブテロールの95%超、および前記臭化イプラトロピウムの95%超が、依然として該溶液中に残存するような比較的長期の安定性を有することを特徴とする吸入溶液。」(以下、「本願発明」ともいう。) 3.原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由となった、平成21年5月18日付けで通知した拒絶理由のうち、特許法第29条第1項第3号に基づく理由3の概要は、次のとおりである。 ・引用文献2(以下の「引用例」)には、2.5mg硫酸サルブタモールと500mcg臭化イプラトロピウムとを組み合わせ、防腐剤を含有しない液状製剤が記載されている。 4.引用例とその主な記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に電気通信回路を通じて公衆に利用可能となったと認められる、 INFORMATION FOR HEALTH PROFESSIONALS Data Sheet COMBIVENT^((R))、1999.3.25 (Date of Preparation) http://www.medsafe.govt.nz/Profs/Datasheet/c/Combiventinhresp.htm (2000年10月27日には電気通信回路を通じて公衆に利用可能となっていたことが、http://archive.org/web/web.php(The Wayback Machine)より確認できる。以下、「引用例」という。) には、次の(1)?(6)の事項が記載されている(英文のため、翻訳文で記載する。)。 (1)「Respules^((R)):2.5ml中2.5mg/500mcg COMBIVENT 2.5ml Respuleは、等張、透明、防腐剤不含の吸入溶液であり、次のものを含む。 2.5mgサルブタモール (3.01mg硫酸サルブタモールと等価) 及び 500mcg無水臭化イプラトロピウム (520mcg臭化イプラトロピウム一水化物と等価) 」(表示(Presentation)) (2)「適用(Indications) COMBIVENTは、単一の気管支拡張剤を超えるものを必要とする患者の、閉塞性気道疾患に関連する可逆性気管支痙攣の治療に適用される。」(用途(Uses)) (3)「Respule: Respules中のCOMBIVENT吸入溶液は、適切なネブライザー又は間欠的陽圧換気によって投与される。 (大人:高齢者を含む):症状軽減の必要又は指示に応じて1Respule。1日最大3又は4respules。 」(用量・用法(Dosage and Administration)) (4)「30℃以下で保存」(薬剤の注意(Pharmaceutical Precautions)) (5)「添加剤(Excipients) … Respule:塩化ナトリウム、塩酸、純水」(詳細な情報(Further Information)) (6)「Respuleの使用/取扱い方法: 単位用量のバイアル(respules)は、…。 1.メーカーの説明書と医師の助言に従って、ネブライザーを準備する。 2.注意しつつ、一片から新しいバイアルを分離する(図1参照)。開封済みのものは決して使用しない。 図1(省略) 3.直立状態を保つように常に注意しつつ、上部を単にねじってバイアルを開封する(図2参照)。 図2(省略) 4.医師からの特段の指示がなければ、プラスチックバイアルの全ての中身をネブライザー薬室に絞り出す(図3参照)。 図3(省略) 5.ネブライザーを組み立て、医師の指図に従って使用する。 6.吸入後は、メーカーの説明書に従って、ネブライザーをきれいにする。」(詳細な情報(Further Information)) 5.引用発明 引用例には、1単位用量2.5ml中にサルブタモール2.5mg及び無水臭化イプラトロピウム500mcg(0.5mg)を含み、等張、透明、防腐剤不含の吸入水性溶液(上記4.(1)、(5))が記載されており、さらに、吸入水性溶液は、1単位用量毎にバイアルに入っており(上記4.(3)、(6))、そして、閉塞性気道疾患による気管支痙攣の治療に用いられること(上記4.(2))が記載されている。 よって、引用例には、次の発明が記載されているといえる。 「1単位用量毎にバイアルに入っており、閉塞性気道疾患による気管支痙攣の治療のための吸入水性溶液であって、1単位用量当たり、サルブタモール2.5mg及び無水臭化イプラトロピウム0.5mgを含み、防腐剤不含の吸入水性溶液。」(以下、「引用発明」という。) 6.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明における「サルブタモール」と本願発明における「アルブテロール」とは、同じ成分であることは明らかである(この点については、THE MERCK INDEX 13th p.215「Albuterol」を参照。)。 また、引用発明における「バイアル」及び「防腐剤不含」は、それぞれ、本願発明における「容器」及び「抗菌性保存剤非含有」に実質的に相当するといえ、そして、引用発明は、サルブタモール(アルブテロール)と無水臭化イプラトロピウムとをバイアル(容器)に含むことから、「既調合」であり、「1容器」に含まれているともいえる。 さらに、引用発明における、サルブタモール(アルブテロール)と無水臭化イプラトロピウムの各配合量(それぞれ、「2.5mg」及び「0.5mg」)は、「既測量」であり、本願発明の各範囲内(それぞれ、「0.60mg?5.0mg」及び「0.01mg?1.0mg」)でもある。 加えて、本願発明における「慢性閉塞性肺疾患」とは、「慢性の気道閉塞を特徴とする病像を呈する疾患の総称」(南山堂医学大辞典第19版より。 本願明細書の【0002】にも同様の説明が記載されている。)であり、引用発明における「閉塞性気道疾患」と同義である。 そうすると、両者は、 「1容器に、慢性閉塞性肺疾患を患う患者において気管支痙攣を緩和するための、治療有効量の1単位用量のアルブテロール2.5mgおよび臭化イプラトロピウム0.5mgからなる既調合、既測量の水性処方物を含み、該溶液が抗菌性保存剤非含有溶液である吸入溶液。」 である点で一致し、以下の2点で一応相違する。 [相違点1] 吸入溶液(水性処方物)について、本願発明では「滅菌」されていると特定するのに対し、引用発明ではこの点について特定していない点。 [相違点2] 吸入溶液(水性処方物)について、本願発明では「25℃の温度で12ヶ月の貯蔵の後でも、該溶液中に初めに存在する前記アルブテロールの95%超、および前記臭化イプラトロピウムの95%超が、依然として該溶液中に残存するような比較的長期の安定性を有する」と特定するのに対し、引用発明ではこの点について特定していない点。 7.判断 上記一応の相違点1、2について順に検討する。 ・相違点1について 「滅菌」操作は、注射剤、点眼剤及び生物学的製剤に限らず、他の製剤にも求められている重要な操作であるし(以下の(a)参照。)、しかも、引用発明は、微生物汚染されやすい水性溶液(以下の(b)参照。)であるにもかかわらず、防腐剤(抗菌性保存剤)不含の医薬品、すなわち、抗菌性保存剤を添加しなくても、微生物汚染の問題に対処できている医薬品である。 以上のことより、引用発明の吸入水性溶液も「滅菌」されたものであることは明らかであり、上記相違点1は実質的な相違点ではない。 (a)仲井由宣・花野学編「製剤学」、南山堂、1977、p.143 「§7. 滅菌…は注射剤,点眼剤および生物学的製剤の製造において,きわめて重要な操作である.しかし最近これらの剤形でなくても,できるだけ無菌であることが望まれるようになってきた.」と記載されている。 (b)医薬品添加物研究会編「実用医薬品添加物」、化学工業社、昭和49年、p.200 「…保存剤,安定剤が適用される製剤は主に水溶液製剤である。薬剤は一般に水溶液中で経時するとき,微生物汚染または変質・分解されやすいものであることが容易に推察される。」と記載されている。 ・相違点2について 上記「・相違点1について」で述べたとおり、引用発明も「滅菌」された吸入溶液であるといえるから、容器に含まれる吸入溶液(「1単位用量のアルブテロール2.5mgおよび臭化イプラトロピウム0.5mgからなる既調合、既測量の水性処方物を含み、該溶液が滅菌で抗菌性保存剤非含有溶液」)の点において、両者に相違するところはない。 よって、引用発明の吸入水性溶液も、本願発明が特定する貯蔵安定性に関する"特性"を備える蓋然性の高いものと認められる。 加えて、医薬品は、品質が長く確保できる条件で保存するものであり、通常の条件では品質が確保できない場合、容器および環境条件に関する貯法を設定し、貯法の設定だけでは変化を防ぎ得ない場合には、有効期限を設けて品質を確保するものである。 そして、医薬品の安定性の検討にあたっては、数年にわたる長期保存試験等が行われている(以下の(c)参照。)ところ、引用例には、保存条件について「30℃以下で保存」(上記4.(4))と記載される一方で、有効期限等のさらなる条件については特に記載されていない。 よって、引用発明の吸入水性溶液は、「30℃以下」すなわち常温保存で、医薬品としての安定性が一定期間にわたり維持されるものと把握できる。 したがって、引用例には、引用発明の吸入水性溶液が、本願発明が特定す る貯蔵安定性を満足することについて実質的に記載されているともいえ、上記相違点2は実質的な相違点ではない。 (c)岡野定舗編「新・薬剤学総論(改訂第3版)」、南江堂、1987、p.364-365 「13.3 安定性試験 医薬品製剤の安定性を検討するにあたっては,それらが実際に取り扱われるあらゆる状況を想定して,光,熱,湿度,pHなどの影響について試験することが必要である。安定性試験 stability testには,医薬品の性質に応じて適当な条件と測定法を選んで,「過酷試験」,「長期保存試験」,「加速試験」などの試験を行う.… a)過酷試験 severe tests … b)長期保存試験 long-term storage tests … A法:室温,3年以上の安定性を,6ヶ月を超えない範囲内で定期的に観測する. B法:25°,75%RHで2年間,3,6,9,12,18,24ヶ月経過時に試験する. c)加速試験 acceleration tests … 13.4 製剤の保存 医薬品製剤は,その品質が長く確保される条件で保存する.保存の条件は安定性試験の成績にもとづいて定めるが,加熱・加湿・凍結のない通常の条件で品質が確保されないときは,容器および環境条件に関して貯法…を設定する(…).容器の選択および環境条件の規整だけで変化を防ぎ得ないときは有効期限(…)をもうけて品質を確保する.」と記載されている。 なお、請求人は、意見書(平成21年8月19日付け)において、次の主張をしている。 (1)「…引用文献2(審決注:「引用例」)における液状製剤とは、正確には、微粒化された硫酸サルブタモールと臭化イプラトロピウムとの乳液状の懸濁液(…)であります。すなわち、…2つの成分が液中において分子レベルで溶解混合しているのか否かという点で異なっていることは明らか…」 (2)「…アルブテロールと臭化イプラトロピウムとの混合物は本来的に不安定であり、混合により直ぐに劣化するものであり、アルブテロールと臭化イプラトロピウムとを、劣化を伴うことなく混合して貯蔵できない…」 しかし、次に述べるように、上記主張(1)、(2)はいずれも採用できない。 ・主張(1)について 引用例には、アルブテロール(サルブタモール)及び臭化イプラトロピウムを含み、透明な吸入水性溶液について記載されていることは、上記5.で述べたとおりである。 ・主張(2)について 引用例には、アルブテロールと臭化イプラトロピウムとの混合物を含み、貯蔵もできる吸入水性溶液について記載されていることは、上記「・相違点2について」で述べたとおりである。 したがって、本願請求項1に係る発明は、本願優先日前に電気通信回路を通じて公衆に利用可能となったと認められる引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 8.まとめ 以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-09-05 |
結審通知日 | 2012-09-11 |
審決日 | 2012-09-24 |
出願番号 | 特願2003-539509(P2003-539509) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 櫛引 明佳、福井 悟 |
特許庁審判長 |
内田 淳子 |
特許庁審判官 |
平井 裕彰 大久保 元浩 |
発明の名称 | 慢性閉塞性肺疾患の症状を緩和するためのアルブテロールおよびイプラトロピウム吸入溶液、キット、吸入溶液を中に有する1容器を作成する方法、吸入溶液を作成する方法、および、既包装治療システム |
代理人 | アイアット国際特許業務法人 |