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審決分類 |
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1269983 |
審判番号 | 不服2009-14567 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-08-12 |
確定日 | 2013-02-08 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第135851号「薬物含有粘着シートの包装構造」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月24日出願公開、特開平10-310108〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成9年5月8日に特許出願されたものであって、拒絶理由通知に応答し平成19年10月17日受付けで意見書が提出されたが、平成21年4月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年8月12日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判請求と同時に手続補正がなされ、平成21年9月3日付けで請求理由の手続補正書(方式)が提出されたものである。 その後、当審において、前置報告書を用いた審尋に応答し平成23年9月22日付けで回答書が提出され、平成23年12月6日付けの拒絶理由通知に応答し平成24年2月3日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成24年6月20日付けの最後の拒絶理由が通知され、それに応答し平成24年8月22日付けの意見書が提出されたものである。 2.本願発明 本願請求項1?7に係る発明は、平成24年2月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されたとおりものであるところ、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりである。 「【請求項1】 支持体、薬物含有粘着剤層及び当該薬物含有粘着剤層の表面に積層されたセパレータからなる薬物含有粘着シートを、包装材料にて包装してなる包装構造であって、 薬物含有粘着剤層が液状成分を含んで可塑化され、 包装材料の内面が、ポリエチレン、サーリン、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体またはハイトロンで構成され、 薬物含有粘着剤層とセパレータとの剥離力が10?100g/30mm幅であることを特徴とする薬物含有粘着シートの包装構造: ここで、当該剥離力は、幅30mmに裁断した帯状の薬物含有粘着シートの一端を剥離し、測定機のチャックに一方はセパレータ、一方は粘着シートを固定し、23±2℃、65±10%R.H.の条件下で、ショッパー引張試験機等によって、180度方向に300mm/分の速度で剥離して、測定される。」(下線は、原文のとおり) 3.新規事項追加の違反について 平成24年6月20日付けの拒絶理由には、新規事項追加の違反について、次の様に指摘されている(なお、一部について摘示を省略した。)。 『理由1.平成24年2月3日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 記 平成24年2月3日付け手続補正は、次の(i),(ii)の補正を含むものである。 (i)請求項1において、「薬物含有粘着剤層が液状成分を含んで可塑化され」との発明特定事項を追加する補正 (ii)・・・中略・・・』 そして、該(i)について、次の様に説明されている。 『(i)の補正について 当該補正の根拠について、平成24年2月3日付け意見書において、「明細書の段落[0004]および段落[0020]です。」と主張しているので、先ずそれらの段落の記載を検討する(なお、摘示箇所の下線は当審による、以下同様)。 段落【0004】には、「特に、粘着剤層中に、可塑剤や粘着付与剤、液状成分などを含有させた場合には、これらの物質が粘着剤層の端面から滲み出して、支持体やセパレータの背面、更には包装材料の内面にまで付着(回り込み)し、その結果、包装材料の内面に薬物含有シートが貼り付いてしまい、薬物含有粘着シートを取り出しにくくなってしまうという問題があった。」と記載され、段落【0020】には、「薬物含有粘着剤層12は、アクリル系やゴム系、シリコーン系あるいはビニルエーテル系などの重合体粘着剤を主成分としており、粘着剤層12中には各種の経皮吸収薬物が配合される。経皮吸収薬物として、全身性薬物や局所用薬物を問わず経皮吸収性を有するものであれば特に限定されず用いることができる。さらに、当該粘着剤層12中には、様々な添加剤を添加することができ、各種経皮吸収促進剤や可塑剤や粘着付与剤などの添加剤を用いることができる。」と記載されている。 しかし、「液状成分を含んで可塑化され」とは液状成分によって可塑化されることを意味すると解される(後記なお書きで指摘する請求人の主張も参照)ところ、段落【0004】において、「液状成分」が、「可塑剤」や「粘着付与剤」とは別のものとして区別して説明されているのであるから、可塑剤によって可塑化されることはあっても、「液状成分を含んで可塑化され」ることは、記載されていないし、自明でもなく、新たな技術的事項を追加するものといえる。 そして、段落【0020】の記載は、単に配合される添加剤について言及するものにすぎず、液状成分について言及するものではない。 さらに、本願明細書等の他の記載を検討しても、上記判断を左右し得る記載を見出し得ない。例えば、段落【0042】には段落【0004】の記載と同様な並列的な記載(「・・可塑剤や液状成分が・・・」)もあるが、該記載は、段落【0004】の記載と同様に可塑剤と液状成分を明確に区別しているものであるから、上記判断を左右し得るものではない。 したがって、当該(i)の追加する発明特定事項は、出願当初明細書等の記載からは一義的に導き出されるものではなく、その追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。 なお、請求人は、平成24年2月3日付け意見書の「3.本願発明」の項の最初の箇所において、「薬物含有粘着剤層は、各種経皮吸収促進剤や可塑剤や粘着付与剤などの液状成分を含んで可塑化されています。」と主張しているが、上記検討のとおり、当初明細書等の記載(液状成分と可塑剤等とは別のものであるとの認識)と矛盾するものである。』 これに対し、請求人は、平成24年8月22日付け意見書において、 『(1)「液状成分」について 審判官殿より、「段落【0004】において、「液状成分」が、「可塑剤」や「粘着付与剤」とは別のものとして区別して説明されているのであるから、可塑剤によって可塑化されることはあっても、「液状成分を含んで可塑化され」ることは、記載されていないし、自明でもなく、新たな技術的事項を追加するものといえる」と、ご指摘いただいています。 しかし、粘着剤層に液状成分が含まれることによって、粘着剤層がより可塑化されることは、技術常識です。例えば、特許第3407895号公報の段落【0020】には、「液状成分は、前記重合体と相溶する性質を有するものであり、粘着剤層に含有させることにより、この粘着剤層を可塑化させて」と記載されており、特許第3699527号公報の段落【0004】には、「液状成分を粘着剤中に添加して、粘着剤層を可塑化する」と記載されています。つまり、液状成分を含む前後の粘着剤層の比較において、液状成分を含んだ後の粘着剤層の方が、液状成分を含む前の粘着剤層よりも可塑化されていることは、当業者であれば当然理解し得るものです。よって、請求項1の「液状成分を含んで可塑化され」という記載は、新たな技術的事項を含むものではないと思料いたします。』 と主張している。 しかし、指摘された1件目の特許第3407895号公報(本願出願人が出願したものである)において記載されている「液状成分」は、重合体(ポリマー)と相溶する性質を有するものであることを特定したものであり、何の限定もされずに単に「液状成分」とされているわけではない。しかも、その公報の段落【0020】に続く段落【0021】には、「この液体成分としては、可塑化作用を有するものであればよい」とされているように、可塑化作用を有するか否か不明な液状成分まで包含しているわけではないし、また、その公報の段落【0023】には、「・・・20重量部より少ないと可塑化効果がえられず」と説明されているように、量が少なければ可塑化しないと説明されているのであるから、それらの記載から明らかなように、全ての任意の液状成分が任意の量で可塑化作用を有するものではないことが示されている。 そして、指摘された2件目の特許第3699527号公報の【請求項1】や段落【0007】にも、「共重合体(A)と相溶する液状成分」と記載され、段落【0026】には、「上記液状成分は、上記共重合体(A)と相溶するものであって、粘着基剤である共重合体(A)を可塑するために用いられる。」と記載されているのであり、何の限定もされずに単に「液状成分」とされているわけではない。 してみると、請求人が提示した2件の特許公報のいずれにも、任意の液状成分が任意の量で粘着剤層を可塑化することは記載も示唆もされていないという他無い。 しかも、記載不備として指摘したように(後記「4.」を参照)、本願明細書では、「液状成分」については、可塑剤や粘着付与剤とは明確に区別して記載されていて、その具体的成分が何であるかは全く不明であり、単なる「液状成分」を前記2件の特許公報で説明するところの重合体と相溶する液状成分であると断定すべき理由もない。また、請求人の「単に、液状の成分であればよいのであって、どのような成分であるかについて特に限定されるものではありません」(後記「4.」で摘示する意見書を参照)との主張は、任意の液状成分が任意の量で粘着剤層を可塑化するとの主張と解されるが、上記検討のとおり到底採用できるものではない。 したがって、拒絶理由で指摘したとおり、請求項1について「薬物含有粘着剤層が液状成分を含んで可塑化され」との発明特定事項を追加する補正を含む平成24年2月3日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 4.記載不備について 平成24年6月20日付けの拒絶理由には、記載不備について、次の様に指摘されている。 『理由2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記A,Bの点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 A.請求項1の「サーリン」と「ハイトロン」は、商標または商品の名称であるため、その技術的範囲が不明瞭である。商品の場合、製造時期によってその成分などが変更される場合や物性も異なる場合もあることから、その点でも技術的範囲が不明瞭と言える。 B.請求項1の「液状成分」とは、具体的にどのような成分を意味するのか不明である。発明の詳細な説明を検討しても、「液状成分」との用語が用いられているのは段落【0004】と【0042】のみであり、それらの段落では、可塑剤や粘着剤成分とは別扱いで記載されているところ、具体的などのような成分が該当するのか全く説明が無く、自明であるとも認められないから、不明である。』 これに対し、請求人は、平成24年8月22日付け意見書において次の様に反論している。 『(1)「サーリン」および「ハイトロン」について 審判官殿より、「「サーリン」と「ハイトロン」は、商標または商品の名称であるため、その技術的範囲が不明瞭である」と、ご指摘いただいています。 しかし、例えば、特許第4610986号公報の請求項1や、特許第3871734号公報の請求項2には、「サーリン層」や「サーリン(Surlins)」が記載されており、特許第4620178号公報の請求項1には「ハイトロン」が記載されています。このように、既に登録された請求項において、「サーリン」、「ハイトロン」という記載が認められていることから、本願発明における「サーリン」、「ハイトロン」という記載も、当然認められるべきものであると思料いたします。 (2)「液状成分」について 審判官殿より、「「液状成分」とは具体的にどのような成分を意味するのか不明である」と、ご指摘いただいています。 しかし、「液状成分」という文言は、例えば、特許第3699527号公報の請求項1、特許第4799879号公報の請求項1および特許第4167834号公報の請求項4にも記載されており、これらに記載の「液状成分」は、単に、液状の成分であればよいのであって、どのような成分であるかについて特に限定されるものではありません。そして、既に登録された請求項において、「液状成分」という記載が認められていることから、本願発明における「液状成分」という記載も、当然認められるべきものであると思料いたします。』 しかし、請求人の上記反論は、次の理由により当を得たものではない。 先ず、「液状成分」について検討する。 特許第3699527号公報の請求項1には「共重合体(A)と相溶する液状成分」、特許第4799879号公報の請求項1には「(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と相溶しうる液状成分」、および特許第4167834号公報の請求項4には「ポリマーと相溶する液状成分」と記載されているのであり、いずれも重合体(ポリマー)と相溶する性質が特定されているのであって、単に「液状成分」とされている訳ではない。 よって、上記請求人の「液状成分」についての主張は、失当であり、採用できない。 次に、「サーリン」および「ハイトロン」について検討する。 商標名や商品名を用いて物を特定しようとする記載を含む請求項については、少なくとも出願日以前から出願時にかけて、その商標名や商品名で特定される物が特定の品質、組成、構造などを有する物であったことが当業者にとって明瞭でなければ、発明が不明確といえる(例えば、審査基準第1部第1章2.2.2.3の(2)の<5>の下の注を参照)。 そして、平成24年6月20日付けの拒絶理由に追記した、『なお、平成24年2月3日付け意見書において、請求人は、粘着剤成分が粘着シートの端面からはみ出して、粘着シート(セパレータ)と包装袋の内面とが粘着する場合のことを強調するが、粘着剤層とセパレータの間の剥離力のみを限定するだけでは、はみ出した粘着成分によるセパレータと包装袋内面との接着力(その剥離力)との相対的な関係(何故関係するのかも含めて)が明らかでないから、技術的意義が不明であると言わざるを得ない。更に、セパレータと包装袋内面との接着力(その剥離力)が、内面の材質として特定されたポリマー材料によって異なることが想定されるし、また、実施態様項で特定される凹凸面の形成などを設ける場合と設けない場合(請求項1では両者が包含される)で異なるものとなることが想定されるのであるから、単に前記強調された観点からは、粘着剤層とセパレータの剥離力が数値限定されているだけでは、技術的意義を理解し得ないものと言える。』との進歩性の判断についてのなお書きに対し、請求人は、『はみ出した粘着成分によるセパレータと包装袋内面との接着力は、たとえ、凹凸面の有無や包装袋内面の材質(本願発明における包装材料の内面は、ポリエチレン、サーリン、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体またはハイトロンに限定されています)の違いがあっても、必然的に上記剥離力未満となることは、明らかです。よって、審判官殿が指摘される「相対的な関係」は明確であると思料いたします。』と反論しているように、包装袋内面の材質をサーリンやハイトロンなどに特定することにより、その材質ゆえに、技術的意義があると主張しているのであって、特定の物性を有することを前提としていることが明らかであるし、また本願発明において重要な発明特定事項であることを主張しているものと解される。 それにもかかわらず、サーリンやハイトロンについて、製造時期によってその成分などが変更されていなことや物性も異なるものではないことが何等釈明されているわけではないし、その具体的特性について明らかにされているわけでもなく、また、「必然的に上記剥離力未満となる」ことを担保する論理も、データも示されていないのであるから、技術的範囲が不明瞭である点は釈明されているとは言えない。 なお、請求人が意見書で引用した前記特許公報の請求項には、「サーリン」または「ハイトロン」の用語が記載されているが、何故にその用語で特許されているのか明らかでなく、上記判断を左右できるものではない。 したがって、拒絶理由で指摘したとおり、請求項1において、「サーリン」と「ハイトロン」は技術的範囲が不明瞭と言え、「液状成分」とは具体的にどのような成分を意味するのか不明である。 よって、本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明は不明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 5.進歩性欠如について (5-1)引用例 当審の平成23年12月6日付けの拒絶理由通知で引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平7-126156号公報(以下、「引用例1」という。)、特開平6-199659号公報(以下、「引用例2」という。)と特開平8-299381号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の技術的事項が記載されている。なお、下線は、便宜的に当審で付した。 [引用例1] (1-i)「【請求項1】 支持体、薬物含有粘着剤層及びこの薬物含有粘着剤層の表面に積層された被覆材からなる薬物含有粘着シートにおいて、支持体における薬物含有粘着剤層側と反対側面及び/又は被覆材の露出面に凹凸が形成されていることを特徴とする薬物含有粘着シート。 【請求項2】?【請求項9】 ・・・略・・・ 【請求項10】 請求項1ないし9のいずれかに記載の薬物含有粘着シートが、内面に凹凸が形成された包材に包装されている薬物含有粘着シートの包装構造。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】,【請求項10】参照) (1-ii)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は薬物を経皮投与するために用いられる薬物含有粘着シート及びその包装構造に関する。 【0002】 【従来の技術】近年、薬物を生体内へ投与する手段として、薬物含有粘着シートを生体に貼付する経皮吸収方法が採用されている。このような薬物含有粘着シートはポリエステルやポリエチレンなどのプラスチック製の支持体の片面に、経皮吸収用薬物を含有させた粘着剤層を積層し、露出する粘着剤層面を被覆材にて被覆してなるものである。通常、このような薬物含有粘着シートは含有する薬物の揮散の防止や湿度に対する影響を防ぐために、薬物を水分に対して不透過性の包材にて個別包装されている。 【0003】ところで、上記のように包装した場合、薬物含有粘着シートの端面から粘着剤がはみ出して包材の内面や支持体の背面に粘着し、使用時に薬物含有粘着シートを取り出し難くなることがある。 【0004】また、粘着剤層中に可塑剤や粘着付与剤、液状成分などを含有する場合には、これらの物質が粘着剤層の端面から滲み出して支持体や被覆材の背面更に包材の内面に付着(回り込み)し、その結果、包材の内面に薬物含有粘着シートが貼り付いてしまい、やはり薬物含有粘着シートを取り出し難くなるという問題がある。」(段落【0001】?【0004】参照) (1-iii)「【0010】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、支持体における薬物含有粘着剤層側と反対側面及び/又は被覆材の露出面に凹凸を形成すると、薬物含有粘着シートと包材の内面との実質的接触面積が少なくなって薬物含有粘着シートや支持体更に被覆材などのシートの滑り性が改善される上、薬物含有粘着シートの貼り付きが効果的に防止されることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。」(段落【0010】参照) (1-iv)「【0027】 【作用】本発明の薬物含有粘着シートは、支持体、薬物含有粘着剤層及びこの薬物含有粘着剤層の表面に積層された被覆材からなる薬物含有粘着シートにおいて、支持体における薬物含有粘着剤層側と反対側面及び/又は被覆材の露出面に凹凸が形成されているので、薬物含有粘着シートと包材の内面との実質的接触面積が少なくなり、つまり薬物含有粘着シートと包材の内面との粘着面積或いは付着面積が少なくなって当該薬物含有粘着シートが使用時に至極容易に取り出せる作用を有するのである。」(段落【0027】参照) (1-v)「【0042】又、上記包材6を製造するための材料としてはフィルム状或いはシート状のものであれば特に限定されるものではないが、ヒートシール性が有るものが好ましく、この観点から、具体的にはポリエチレンやサーリン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、ハイトロンなどのヒートシール性を有するプラスチックシートを用いた包装材料を用いることができる。特に、内包する薬物含有粘着シート1に含有される経皮吸収用薬物の揮散や分解などを防止するためには、ポリエステルフィルムや金属箔などの不透過性のフィルムを積層することが好ましい。」(段落【0042】参照) (1-vi)「【0045】 【発明の効果】本発明の薬物含有粘着シートは、支持体、薬物含有粘着剤層及びこの薬物含有粘着剤層の表面に積層された被覆材からなる薬物含有粘着シートにおいて、支持体における薬物含有粘着剤層側と反対側面及び/又は被覆材の露出面に凹凸が形成されているので、薬物含有粘着シートと包材の内面との実質的接触面積が少なくなり、つまり薬物含有粘着シートと包材の内面との粘着面積或いは付着面積が少なくなり、この結果、端面からの糊はみ出しが起こり易い薬物含有粘着シートや、可塑剤や液状成分が滲み出し易い薬物含有粘着シートを包装した場合にも包材の内面に粘着或いは付着し難くなるので、内包された薬物含有粘着シートを使用する際に取り出し易いという効果を奏するのである。」(段落【0045】参照) [引用例2] (2-i)「【請求項2】 薬物の経皮投与形態として、<1> 薬剤に対する裏打ち材層、<2> 薬剤貯蔵槽、<3> 非イオン性の界面活性剤で処理された多孔質材からなる薬剤放出材層、<4> 薬剤放出面の周囲に設けられた感圧性接着剤層、および<5> 剥離ライナー層、からなる請求項1の経皮治療用装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項2】参照;注:○囲いの数字は、表示できないため、<>付きの数字とした。以下同様。) (2-ii)「【0027】次に、裏打ち材層となるフィルムは薬剤の漏出・揮散の防止の為にいわゆるバリア性に優れ、薬剤放出材層と容易に接着できるなどの性質を有する必要がある。また、装置を皮膚に貼付した際の適度な可撓性があることが好ましい。裏打ち材フィルムの素材としては、上記の条件をそなえていれば特に限定はされないが、具体的には、アルミニウム、エチレンビニルアセテート共重合体またはそのケン化物、酢酸セルロース、セルロース、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリプロピレンなどを例示することができる。これらの素材は、フィルム状にするか、または必要に応じて紙・布状にしたものをフィルムと積層したり、積層フィルム状に加工し、あるいは、アルミニウム蒸着、セラミックス蒸着などの処理を行い、可撓性、バリア性、薬剤放出材層との接着性等を改良することができる。なお、薬剤放出材層との接着性については500gf/cm以上の強度が必要で、それ未満の場合、剥離ライナーの剥離にともなって接着破壊を起こす可能性がある。」(段落【0027】参照) (2-iii)「【0029】また、必要に応じて感圧性接着剤層中に薬剤組成物の一部をあらかじめ配合しておいても良い。剥離ライナー層となるフィルムについては、装置の保存中においては薬剤放出材層からの薬剤揮散等を阻止できることが必要であり、また、この剥離ライナー層は、装置の使用の際に剥離除去可能でなければならない。 【0030】剥離ライナーフィルムの素材は、具体的には、アルミニウム、セルロース、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等が使用可能であり、必要に応じてこれらのフィルムを積層してもよい。また、その表面をシリコンあるいはフルオロカーボン等で処理するかまたはライナー素材中に周知の添加剤を配合するなどして剥離性を調整したり、バリア性、可撓性等を調整してもよい。」(段落【0029】?【0030】参照) (2-iv)「【0031】剥離ライナーには、剥離する際のハンドリングが容易となるよう、剥離のためのつまみ部をもうけることができる。薬剤放出材層とこれを被覆する剥離ライナーとの間の接着性については、装置の保存中においては密封接着されている必要があるが、装置の使用に際しては剥離ライナーを容易に剥離除去できなければならない。従って、薬剤放出材層とこれを被覆する剥離ライナーとの間の接着力は、裏打ち材層と薬剤放出材層中との間の接着力よりも低くなければならない。剥離ライナーの剥離力は、実用的には10?500gf/cmの範囲であることが好ましい。10gf/cm未満の場合は、装置の保存中に不意の衝撃により剥離ライナーが剥がれたり、ずれたりする可能性がある。500gf/cmを越える場合には接着力が強すぎ、剥離困難となる。 【0032】一方、感圧性接着剤層の被覆用剥離ライナーとしては、感圧性接着剤層から容易に剥離できることが条件となる。また、前記の薬剤放出材層用の剥離ライナーと感圧性接着剤用の剥離ライナーとは、図1に示すように兼用することも可能であるし、図3のように、兼用せず別々の剥離ライナーで構成しても問題はない。感圧性接着剤用の剥離ライナーについては、例えば、アルミニウム、セルロース、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の素材が使用可能であり、必要に応じてこれらのフィルムを積層してもよい。また、その表面をシリコンあるいはフルオロカーボン等で処理することにより、その剥離性を調整してもよい。感圧性接着剤用の剥離ライナーにも、剥離する際のハンドリングが容易となるよう、剥離のためのつまみ部をもうけることができる。」(段落【0031】?【0032】参照) (2-v)「【0057】(前略)・・・ 実験例1 実施例1?6および比較例1?6に従って、各々10枚ずつ検体を作成し、セロハン・アルミニウム・ポリエチレンを積層したフィルム(厚さ70μm)で作成した袋中に1枚ずつ封入し、25℃で1ヶ月間保存した後、開封し剥離ライナーを剥して、装置本体と剥離ライナーそれぞれに検出されるインドメタシンの量を比較した。また、剥離ライナーに付着した薬剤の重量を測定し、初期薬剤全体(0.5g)に対する比率を求めた。」(段落【0057】参照) [引用例3] (3-i)「【請求項1】 ポリオレフィン系樹脂フィルムからなる基材と、基材上に塗工された粘着剤層と、粘着剤層の上に配されたガーゼを覆うように粘着剤層に積層された剥離紙とからなる救急絆創膏において、上記剥離紙が、引張り速度500mm/分での180度ピールによる剥離力が25g/19mm以下となるように、粘着剤層に積層されていることを特徴とする救急絆創膏。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】参照) (3-ii)「【0002】 【従来の技術】一般に、救急絆創膏は、軟質フィルムからなる基材の表面に粘着剤を塗布し、得られた粘着剤層の上にガーゼを配してこれを覆うように剥離紙を積層し、この層状物を所定寸法に打ち抜いてさらに表裏面に個別包装紙を重ねると共に所定寸法に切断して作製される(後述の実施例1において添付図1に基づいて詳しく説明する)。」(段落【0002】参照) (3-iii)「【0006】しかし、図2に示すように、基材1 としてポリオレフィン系樹脂フィルムを用いた絆創膏では、剥離紙の引剥しに伴って絆創膏3 がガーゼ4 を外側にしてカール状に湾曲するという実使用上許容できない問題が発生した。このような問題は、基材として可塑化PVCフィルムを用いた時には起きなかったことである。 【0007】この点を改良するものとして、エンボス加工を施したポリオレフィン系樹脂フィルムを基材として用いた救急絆創膏が提案されている(実公平3-2287号公報参照)。しかし、ポリオレフィン系樹脂フィルム基材の場合、実際にはまだ十分な湾曲防止効果が発揮されていない。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記のような実情から、ポリオレフィン系樹脂フィルムからなる基材を用いても、PVCフィルム基材使用の場合と同様に、剥離紙引剥し時にカールを発生する恐れのない救急絆創膏を提供することにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成すべく工夫されたもので、使用する粘着剤と剥離紙の剥離剤との組合せによって発生する剥離力をコントロールする技術に基くものである。 【0010】すなわち、本発明による救急絆創膏は、軟質フィルムからなる基材と、基材上に塗工された粘着剤層と、粘着剤層の上に配されたガーゼを覆うように粘着剤層に積層された剥離紙とからなる救急絆創膏において、上記剥離紙が、引張り速度500mm/分での180度ピールによる剥離力が25g/19mm以下となるように、粘着剤層に積層されていることを特徴とするものである。 【0011】上記剥離力が25g/19mmを越えると、粘着剤層から剥離紙を剥がすのに大きな力を要し、これが絆創膏のカール状の湾曲化を引き起こす。特に好ましい剥離力は15g/19mm以下である。」(段落【0006】?【0011】参照) (3-iv)「【0029】 【作用】本発明によれば、剥離紙は、引張り速度500mm/分での180度ピールによる剥離力が25g/19mm以下となるように粘着剤層に積層されているので、ポリオレフィン系樹脂フィルムからなる基材を用いても、PVCフィルム基材使用の場合と同様に、剥離紙引剥し時にカールを発生する恐れがない。」(段落【0029】参照) (3-v)「【0032】 【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。 【0033】実施例1 Tダイ押出成膜により、エチレン・1-ブテン共重合体(住友化学社製「エクセレンVL800』、密度0.905g/cm^(3) )から、厚み65μmのフィルムを得、これを絆創膏用基材とした。 【0034】アクリル系粘着剤(綜研化学社製「SKダイン1720」)に硬化剤(イソシアネート)を固形分重量比100:1で混合し、この混合物を乾燥厚みが40μmになるように上記基材に塗工し、塗工層を乾燥して粘着剤層を形成した。 【0035】こうして得られた絆創膏用原反から救急絆創膏を製造する際に、上記粘着剤層の上に剥離紙を積層した。剥離紙としては、厚さ100μmのクラフト紙にポリエチレンを20μm厚でコートしその上に剥離剤としてシリコーン系ポリマー(信越化学社製「KS-705F」)を固形分1g/m^(2) 塗工したもの(タイプW)を使用した。 【0036】実施例2 剥離剤としてシリコーン系ポリマー(信越化学社製「KS-705F」)を固形分1.5g/m^(2) 塗工して得られた剥離紙(タイプX)を使用した以外は実施例1と同じ操作を行って救急絆創膏を得た。 【0037】実施例3 表層と内層の樹脂としてエチレン・1-ブテン共重合体(住友化学社製「エクセレンVL800」、密度0.905g/cm^(3) )を用い、中間層の樹脂としてポリプロピレンにエチレンをアロイ化したリアクターTPO(ハイモント社製「キャタロイKS-051」、密度0.890g/cm^(3) )を用い、Tダイ法共押出成膜により、表層と内層と中間層からなるサンドイッチ状の積層フィルムを形成した。表層と内層の厚みはそれぞれ5μm、中間層の厚みは55μm、総厚みは65μmである。得られた積層フィルムを基材として使用した以外は実施例1と同じ操作を行って救急絆創膏を得た。 【0038】こうして得られた救急絆創膏の構成を図1に示す。図1中、1 はポリオレフィン系樹脂フィルムからなる基材で、表層1aと内層1bと中間層1cからなる。2 は剥離紙、3 は粘着剤層、4 はガーゼである。 【0039】比較例1 剥離剤として炭素数18以上の長鎖アルキル基を含むポリマー(日本触媒社製「PR-20」)を固形分1g/m^(2) 塗工して得られた剥離紙(タイプY)を用いた以外は実施例1と同じ操作を行って救急絆創膏を得た。 【0040】比較例2 基材厚みを75μmにした以外は、比較例1と同じ操作を行って救急絆創膏を得た。 【0041】比較例3 粘着剤層の乾燥厚みを50μmにした以外は比較例1と同じ操作を行って救急絆創膏を得た。 【0042】比較例4 基材表面にエンボス加工として#60メッシュの絹目を施した以外は比較例1と同じ操作を行って救急絆創膏を得た。 【0043】参考例1 基材として可塑化PVCフィルム(バンドー化学社製)を使用した以外は比較例1と同じ操作を行って救急絆創膏を得た。 【0044】性能試験 こうして得られた各救急絆創膏について、500mm/分の引張り速度での180度ピールに従って剥離紙の剥離力を測定し、また表2に示す評価基準に従ってカールの程度を評価し、さらに総合的な評価を下した。この結果を表1にまとめて示す。 【0045】 【表1】 【表2】 表1から明らかなように、実施例の救急絆創膏は全ての項目において良好な結果を示した。」(段落【0032】?【0045】参照) (5-2)対比、判断 引用例1には、上記「5.(5-1)」の[引用例1]の摘示からみて、特に、 (イ)「支持体、薬物含有粘着剤層及びこの薬物含有粘着剤層の表面に積層された被覆材からなる薬物含有粘着シートにおいて、支持体における薬物含有粘着剤層側と反対側面及び/又は被覆材の露出面に凹凸が形成されていることを特徴とする薬物含有粘着シート」(摘示(1-i)参照)が記載されていること、 (ロ)前記薬物含有粘着シートが、包材に包装された包装構造(摘示(1-i),(1-ii)参照)が記載されていること、 (ハ)該包材を製造するための材料として、具体的には、「ポリエチレンやサーリン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、ハイトロンなどのヒートシール性を有するプラスチックシート」(摘示(1-v)参照)だけが挙げられていること、 (ニ)薬物粘着剤層には、「可塑剤や粘着付与剤、液状成分などを含有する」(摘示(1-ii)参照)と記載されていること に鑑み、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が開示されていると認められる。 <引用例1発明> 「支持体、薬物含有粘着剤層及びこの薬物含有粘着剤層の表面に積層された被覆材からなる薬物含有粘着シートを、包材に包装した包装構造において、 支持体における薬物含有粘着剤層側と反対側面及び/又は被覆材の露出面に凹凸が形成され、 該薬物粘着剤層に、可塑剤や粘着付与剤、液状成分などを含有し、 該包材を製造するための材料として、ポリエチレンやサーリン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、ハイトロンなどのヒートシール性を有するプラスチックシートを採用し、 薬物含有粘着シートを包材に包装した包装構造。」 そこで、本願発明と引用例1発明を対比する。 (a)引用例1発明の「被覆材」、「包材」は、それぞれ本願発明の「セパレータ」、「包装材料」に相当する。なお、引用例1発明の被覆材と本願発明のセパレータは、いずれも、その技術分野の技術常識から言って、粘着剤層を保護し、粘着剤層を皮膚に貼り付けるために使用時には剥がして用いるものであることが明らかであって、単に表現が異なっているにすぎない。 (b)引用例1発明の「該薬物粘着剤層に、可塑剤や粘着付与剤、液状成分などを含有し」は、本願発明の「薬物含有粘着剤層が液状成分を含んで」に相当する。なお、本願発明でも、可塑剤や粘着付与剤を含有し得ることは明らか(本願明細書段落【0003】、【0020】、【0042】参照)であり、可塑剤や粘着付与剤を含有する点では、両発明の相違点とはなり得ない。むしろ一致点と言っても過言ではない。 (c)引用例1発明において「支持体における薬物含有粘着剤層側と反対側面及び/又は被覆材の露出面に凹凸が形成され」と特定されている点については、本願発明でもその実施の態様として、例えば請求項1を引用する請求項2において、「支持体の露出面、セパレートの露出面及び・・・のうち少なくとも一つ面に、凹凸が形成されている」(注:セパレートは請求項1のセパレータを指すことは明らかである。)とされているのであって、実質的に同じ凹凸の形成を意味していることが明らかであるから、両発明の相違点とはなり得ない。 (d)引用例1発明において、包材を製造するための材料について「ヒートシール性を有するプラスチックシート」であることも特定されている点については、本願発明でも、発明の詳細な説明において、「ヒートシール性を有するプラスチックシート」を用い(本願明細書段落【0023】参照)と説明されていることに鑑み、両発明の相違点とはなり得ない。 してみると、上記(a)?(d)の判断を総合的に勘案し、両発明は、本願発明の表現を用いて表すと、 「支持体、薬物含有粘着剤層及び当該薬物含有粘着剤層の表面に積層されたセパレータからなる薬物含有粘着シートを、包装材料にて包装してなる包装構造であって、 薬物含有粘着剤層が液状成分を含んでいて、 包装材料が、ポリエチレン、サーリン、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体またはハイトロンで構成される、 薬物含有粘着シートの包装構造」 で一致し、次の相違点A?Cで一応相違している。 <相違点> A.薬物含有粘着剤層について、本願発明では、「液状成分を含んで可塑化され」と特定されているのに対し、引用例発明ではそのような表現では規定されていない点 B.包装材料の材質について、本願発明では「包装材料の内面が」と特定されているのに対し、引用例1発明では単に包材(包装材料)の材質として特定されている点 C.本願発明では、「薬物含有粘着剤層とセパレータとの剥離力が10?100g/30mm幅である」、「ここで、当該剥離力は、幅30mmに裁断した帯状の薬物含有粘着シートの一端を剥離し、測定機のチャックに一方はセパレータ、一方は粘着シートを固定し、23±2℃、65±10%R.H.の条件下で、ショッパー引張試験機等によって、180度方向に300mm/分の速度で剥離して、測定される」と特定されているのに対し、引用例1発明ではそのように特定されていない点 そこで、これらの相違点について検討する。 (α)相違点Aについて 「液状成分を含んで可塑化され」との特定については、上記「3.」で検討しているように、本願明細書に記載が無いが、仮に、液状成分で可塑化するのであれば、引用例1発明においても、同じ「液状成分」を含有しているのであり、可塑化すると解する他ない。 なお、可塑化することによって、「可塑剤や粘着付与樹脂、液状成分などを含有させた場合には、これらの物質が粘着剤層の端面から滲み出して」(本願明細書段落【0004】参照)、可塑剤や液状成分が滲み出しやすい(本願明細書段落【0042】参照)との趣旨と解するのであれば、引用例1発明にあっても同様な説明はされている(摘示(1-ii)の段落【0004】、摘示(1-vi)参照)。 したがって、相違点Aは、実質的な相違であると言うべきではない。 (β)相違点Bについて 本願明細書を検討しても、単に包装材料の材質として説明されているに過ぎず、包装材料の内面についての材質であると明確に説明する記載はない。しかし、その程度の明細書の記載で内面の材質を意図すると理解する(平成24年8月22日付け意見書においてそのように主張している)のであれば、本願明細書の記載と同様な記載がある引用例1においても同様に理解できることになる。 したがって、相違点Bは、実質的な相違であると解すべき理由を見いだせない。 (γ)相違点Cについて ところで、後記引用する引用例2、3は、引用例1発明や本願発明と同様に、いずれも、支持体(裏打ち材、基材)と粘着剤層とセパレータ(剥離シート、剥離ライナー、剥離紙)を有する薬物含有粘着シートであって、包装材料にて包装して保存する態様を有することも記載(上記「5.(5-1)」の摘示事項から明白であり、例えば、包装については、摘示(2-v)における袋中に保存したとの記載や、(3-ii)における剥離紙を積層し、さらに表裏面に個別包装紙を重ねる態様を参照)していて、それらの点で引用例1発明や本願発明と軌を一にするものである。このように、引用例2,3は引用例1発明や本願発明と技術分野が同じであることを念頭において,以下に検討を進める。 なお、質量の単位(例えば「g」)に重力を加味して表す場合に、質量単位の記号の後ろにw(weight)かf(force)を付ける(例えば「gf」)ことから、両者は厳密には異なるが地上において殆ど差異はなく、以下、便宜的に、「g」と「gf」を実質的に区別せず同じ意味として扱うこととする。 (γ-1)先ず、剥離力の下限値(10g/30mm?)について検討する。 引用例2には、薬剤放出層と剥離ライナーとの接着性に関し、接着されている必要があるが、使用に際し容易に剥離できなければならないと説明され、かつ、裏打ち材層(支持体)と薬剤放出材層との間の接着力よりも低くなければならないとされていて、実用的には10?500gf/cmの範囲が好ましく、10gf/cm未満の場合は保存中に不意の衝撃により剥離シートが剥がれたり、ずれたりする可能性があること、500gf/cmを超える場合には接着力が強すぎ剥離困難となることが記載されている(摘示(2-iv)参照)。ところで、薬剤放出層は接着力を有するものと解されるから、粘着層とも言えるものであり、たとえ感圧粘着層であると言えなくとも、接着するか否かの点で相違するわけではない。 引用例2のこれらの記載によれば、剥離力が小さい場合(10gf/cm未満)には剥離ライナー(剥離シート)が剥がれたり、ずれたりすることが説明されている。また、それらの記載に徴するまでもなく、そもそも、剥離シートは粘着層などを保護するために用いられるものであるから、剥離力が小さすぎれば、(保護しきれず)剥がれたりすることを防止できず適切に被着・保護することができないから、剥離シートとしての役目を果たせないことは自明なことというべきである。 そして、剥離シートが剥がれたり、ずれたりすれば、粘着部分が露出するのであるから、袋に保存していれば、袋(即ち包装袋)に粘着することは火を見るよりも明らかなことであるといえるので、包装からの取り出しの支障となることも自明なことと言える。ちなみに、剥がれることは、本願明細書でいうところの「めくれ」(本願明細書段落【0024】参照)と同じ現象といえる。 そのような支障を回避するためには、剥がれることのない最小限必要な剥離力が必要とされることは明らかであるから、その最小限必要な剥離力を検討し・定めることに格別の創意工夫が必要であったとは認められない。しかも、引用例2の記載によれば、剥がれないようにするために剥離シートの剥離力は10gf/cm以上(即ち、30g/30mm以上)が目安と認めれるところ、その数値がどの程度の剥離速度で行われたものか(例えば、本願発明で規定する180度方向に300mm/分なのか)記載はないけれども、180度方向に300mm/分の剥離速度(23±2℃、65±10%R.H.の条件)で測定した場合にどのような数値になるかを求めるのに過度の試行錯誤が必要であるとは認められない。 よって、剥離シートが剥がれないようにするための剥離力の下限の目安として、「10g/30mm?」とすることに格別の創意工夫が必要であったとは認められない。その際に、測定条件を特定するのは当然のことであり、「ここで、当該剥離力は、幅30mmに裁断した帯状の薬物含有粘着シートの一端を剥離し、測定機のチャックに一方はセパレータ、一方は粘着シートを固定し、23±2℃、65±10%R.H.の条件下で、ショッパー引張試験機等によって、180度方向に300mm/分の速度で剥離して、測定される」の如き測定条件を規定することに格別の創意工夫が必要であったとは認められない。 なお、着目した粘着シートの剥離力としては10?100g/30mmの幅を持って採り得る訳ではなく単に1点の値しか採り得ず、本願発明で規定する剥離力は例えば20g/30mmでも、30g/30mmでも、50g/30mmでも、90g/30mmでも良いと言えるから、仮に上記試行錯誤の結果が90g/30mmであってもその値は本願発明で規定する剥離力と一致する。 (γ-2)次に、剥離力の上限値(?100g/30mm)について検討する。 引用例3には、救急絆創膏におい、支持体の材質としてポリオレフィンを採用した場合でもカール状の湾曲化を起こさないように、剥離紙の剥離力が25g/19mm以下となるようにすることが記載されている(摘示(3-i)、(3-iii)、(3-v)参照)。 一方、剥離シートは、剥離できなければならないから、その剥離力に上限が必然的に存在するものであり、前記引用例2においては500gf/cmまでと説明されている。また、過度の剥離力は、剥離シートを剥離するに際し必要もない力が必要になること(例えば、摘示(3-iii)【0011】の「粘着剤層からの剥離紙を剥がすのに大きな力を要し」との記載参照)から、あまりに強い剥離力に出来ないことも自明なことと言わざるをえない。 ところで、引用例3によれば、支持体の材質と剥離力の程度によっては、剥離時にカールが発生することが明らかにされている。そして、支持体の材質に従来のPVCを用いる場合には、40gf/cm(剥離スピード500mm/分)の剥離力でもカールしなかったが、支持体の材質としてポリオレフィンを採用した場合には(なお、本願発明でも又引用例1発明でも、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンを支持体として使用することが説明されている(本願明細書段落【0018】、摘示(1-ii)参照)から、その前提は満たされている。)、その程度の剥離力ではカールが生じるものの、18gf/19mmや9gf/19mm(即ち、28.4gf/30mmや14.2gf/30mm)であればカールが殆ど生じないことが明らかにされている。すなわち、剥離時のカールを避けるために、その程度の剥離力を参考に、支持体の材質や厚みによって剥離力の上限を検討・設定することは当業者が適宜なし得たものというべきである。 ところで、そもそも、本願発明では、支持体の材質や厚みなどについて何等限定もされてないことにも留意すべきであり(本願明細書には、パラメータで限定するにもかかわらず、実施例すら記載が無く、支持体の材質や厚さを限定できる根拠は見い出せないことにも留意が必要である。)、そのような支持体の材質や厚みなどを特定することなく、剥離力の上限を「?100g/30mm」(「ここで、当該剥離力は、幅30mmに裁断した帯状の薬物含有粘着シートの一端を剥離し、測定機のチャックに一方はセパレータ、一方は粘着シートを固定し、23±2℃、65±10%R.H.の条件下で、ショッパー引張試験機等によって、180度方向に300mm/分の速度で剥離して、測定される」)と規定することに臨界的な技術的意義があるということはできない。 (γ-3)また、別の観点から検討すると、剥離シートの剥離力について、引用例2では10?500gf/cm(30?1500gf/30mm)とされ、引用例3では、従来のPVC支持体の場合に40gf/cm(120gf/30mm)の剥離力であり、剥離スピードを勘案すると500mm/分を300mm/分で行なうのであるから、70gf/3cm(平成19年10月7日受付の意見書による換算法による)程度が従来採用されることのある剥離力と認められるし、ポリオレフィン支持体を用いるのであれば17gf/3cmや8.5gf/3cm(平成19年10月7日受付の意見書による計算)とされているのであるから、本願発明で特定する10?100g/30mm(「ここで、当該剥離力は、幅30mmに裁断した帯状の薬物含有粘着シートの一端を剥離し、測定機のチャックに一方はセパレータ、一方は粘着シートを固定し、23±2℃、65±10%R.H.の条件下で、ショッパー引張試験機等によって、180度方向に300mm/分の速度で剥離して、測定される」)は、従来技術で採用されている程度の剥離力と解さざるを得ない。 そうであるから、たとえ、支持体の材質、厚み、包装の内面とセパレータとの粘着性(包装材の種類とセパレータの種類、滲み出す粘着剤層の成分種類、量などに依存)などが特定された場合に10g/30mmとの下限値に臨界的意義があると仮定したとしても(本願発明では、それらの前提が必要な程度に特定されていないし、特定できる程度に説明されていないから、臨界的意義は不明である。)、本願発明で特定する10?100g/30mm(「ここで、当該剥離力は、幅30mmに裁断した帯状の薬物含有粘着シートの一端を剥離し、測定機のチャックに一方はセパレータ、一方は粘着シートを固定し、23±2℃、65±10%R.H.の条件下で、ショッパー引張試験機等によって、180度方向に300mm/分の速度で剥離して、測定される」)は従来技術で採用される剥離力と一致する範囲を包含していると認められるのであるから、その数値限定に格別の技術的意義があるとは到底言えるものではない。 (γ-4)相違点Cについてのまとめ 以上のことを総合的に勘案すると、引用例1発明においても、技術常識を勘案し引用例2,3の記載を勘案し、薬剤含有粘着剤層とセパレータ(剥離シート)との剥離力を10?100g/30mm(測定条件は、本願発明で用いられる条件)と設定することは当業者が容易に想到しえたものと言う他無い。 ところで、平成19年10月17日受付の意見書において、剥離力と取出し性(粘着シートがめくれてひっついたり、出しにくかったりしたもののを×)を評価した追加の実験データを提示しているが、その結果は、上記容易性の判断に沿うものにすぎず、格別予想外のものであると言えるものではないし、特定の粘着シートについてのものであって、そもそも一般化できることすら不明である。しかも、実験例26では、剥離力が11g/30mm幅と本願発明に包含されるにもかかわらず、取出し性×とされているから、本願発明の有効性を否定するものと言えるし、また、実験例1?7は添加剤(ミリスチン酸イソプロピル;この成分の役割は説明されていないが、融点-5℃なので液状の可塑剤の可能性がある)が配合されていないところ、その添加剤を配合した場合(実験例8?28)とを比べても、剥離力と取出し性の関係について異なった判断ができるとも解し得ないから、該添加剤を仮に液状成分と解してもその配合の有無によってその結果に影響はないから、液状成分を含んで可塑化したとの特定事項に技術的意義はないと解する他なくなる。 (5-3)まとめ したがって、本願発明は、周知技術や引用例2,3に記載された技術事項を勘案し、引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 6.むすび 以上のとおり、平成24年2月3日付け手続補正は新規事項の追加を含むものであるため特許法第17条の2第3項の規定に違反し、本願請求項1に係る発明は、発明が不明確であるため特許法第36条第6項第2号の規定を満たしておらず、また、本願請求項1に係る発明は、周知技術や引用例2,3に記載された技術事項を勘案し、引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-11-29 |
結審通知日 | 2012-12-05 |
審決日 | 2012-12-19 |
出願番号 | 特願平9-135851 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61K)
P 1 8・ 537- WZ (A61K) P 1 8・ 55- WZ (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大久保 元浩 |
特許庁審判長 |
川上 美秀 |
特許庁審判官 |
荒木 英則 渕野 留香 |
発明の名称 | 薬物含有粘着シートの包装構造 |
代理人 | 籾井 孝文 |