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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1270081
審判番号 不服2011-8810  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-25 
確定日 2013-02-13 
事件の表示 特願2006-522354「共同制作電子メール文書を作成するための方法、システム、およびコンピュータ・プログラム(共同制作電子メール)」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月17日国際公開、WO2005/015432、平成19年 2月 1日国内公表、特表2007-501969〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、2004年8月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年8月7日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年2月2日に特許法第184条の5第1項に規定される書面の提出がなされ、同年4月3日付けで特許法第184条の4第1項の規定による国際出願日における明細書、請求の範囲、図面(図面の中の説明に限る。)及び要約の翻訳文の提出がなされ、平成19年7月26日付けで審査請求がなされ、平成22年3月9日付けで最初の拒絶理由通知(同年3月23日発送)がなされ、同年6月23日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年8月2日付けで最後の拒絶理由通知(同年8月10日発送)がなされ、同年11月10日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、同年12月28日付けで拒絶査定(平成23年1月5日謄本送達)がなされ、これに対して、平成23年4月25日付けで審判請求がなされたものである。

2.本願発明

本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記平成22年11月10日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「第一コンピュータ、複数の第二コンピュータ、第三コンピュータとそれぞれ通信可能なコンピュータに適用される方法であり、
当該コンピュータは、プロセッサ、メモリ、通信アダプタを有し、
当該プロセッサが、
第一コンピュータから共同制作電子メール文章の制作を要求されることに応答して、当該通信アダプタを介して当該複数の第二コンピュータへ当該文章のコピーを提供するステップと、
一の第二コンピュータから当該文章の当該コピーの改訂を受信することに応答して、当該メモリに当該改訂を記録するステップと、
当該改訂に基づいて、当該通信アダプタを介して他の第二コンピュータに対して当該文章の当該コピーを更新させるステップと、
当該第一コンピュータから当該第三コンピュータへ当該更新済み文章を電子メールとして送信することを許可するステップと
を備え、
前記第二コンピュータへ提供するステップにおいて、
前記共同制作電子メール文章の制作の要求には、共同制作者を識別する共同制作者ID及び共同作成者毎に前記文章中の編集可能部分を識別するマークアップを含み、当該共同制作者ID及び当該マークアップに基づいて、特定の第二コンピュータへ編集可能部分を特定して当該文章のコピーを提供する方法。」

3.先行技術

(1)引用文献1に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

本願の優先日より前に頒布され、原審の拒絶の査定の理由である上記平成22年8月2日付けの拒絶理由通知において引用された、特開2003-58532号公報(平成15年2月28日出願公開。以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面とともに、下記技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

A 「【0008】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の実施の形態に係るメールマガジン編集システムを示すブロック図である。図1において、各々コンピュータによって構成された端末112?114は、ネットワーク(本実施の形態ではインターネット)111を介して、メールマガジン編集用サーバ101に接続される。サーバ101は、各種演算処理を行い処理手段を構成する中央処理装置(CPU)102、CRT等によって構成され表示手段を構成する表示装置103、キーボードやマウス等によって構成され操作手段を構成する入力装置104、CPU102が実行するプログラムやメールマガジンの編集データ等が記憶されると共に磁気ディスク等によって構成された外部記憶装置106、前記プログラムが随時記憶されると共に編集過程にあるメールマガジンのデータ等が一時記憶される主記憶装置105を備えている。」

B 「【0011】図2は、編集権限者を表す情報と該編集権限者の編集可能領域とを対応付けた編集権限情報を格納したテーブルを示す図である。図2において、前記テーブルには、各メールマガジンに固有の番号(ドキュメント番号)、編集権限者を表す固有の識別情報(ID)と該編集権限者の編集可能領域とを対応付けた編集権限情報が格納される。…(後略)」

C 「【0016】図4は、サーバ101の処理を示すフローチャートで、CPU102がメールマガジン編集ソフトウェアを実行することにより行う処理を示している。以下、図1乃至図4を用いて、本実施の形態に係るメールマガジン編集システムの動作を説明する。先ず、メールマガジンを発行する上位管理者(編集長)は、自己のID及びパスワードを用いて端末112?114のいずれかをサーバ101に接続し、編集に参加する編集関係者を表す情報(例えば、複数の原稿作成者のID、編集者のID及び自己のID)及び前記各編集関係者に対して編集領域毎に付与する編集権限の情報を入力する。本実施の形態では、2名の原稿作成者、2名の編集者及び1名の編集長を選定し、前記各編集関係者に図2に示した権限を与える。
【0017】これにより、サーバ101は図2に示すテーブルを生成し、該テーブルを編集権限情報記憶部108に格納する(ステップS401)。ここで、ステップS401はテーブル生成手段を構成している。尚、編集関係者を表す情報等の入力は、外部記憶装置106の所定領域に記憶した編集関係者と該編集関係者を表す情報とを対応付けたテーブルから選択することにより入力するようにしてもよい。また、端末112?114を使用せずに、入力装置104を使用して前記入力作業を行ってもよい。
【0018】同時に、サーバ101は、前記テーブルに登録された情報に基づいて原稿作成者の作業領域等を生成し、図3に示す編集領域301を生成する(ステップS402)。ここで、ステップS402は作業領域生成手段を構成している。図2のテーブルでは、タイトル領域、第1原稿領域、第2原稿領域、連絡事項領域及び配信予定日時領域の5つの作業領域が定義されているため、編集領域301にはこれに対応して、タイトル領域302、第1原稿領域303、第2原稿領域304、連絡事項領域305及び配信予定日時領域306の作業領域が設けられる。」

D 「【0020】図3の編集領域301は、編集データ記憶部107の所定領域(ドキュメント番号Vol.1の領域)に形成され、編集関係者がインターネット111を介して端末112?114より、インターネットのホームページから、与えられた編集権限の範囲内で同一の編集領域を編集することができるように供される。各原稿作成者及び編集者は、端末112?114を使用し、自己のIDやパスワードを用いてネットワーク111経由で前記ホームページにアクセスし、端末の表示装置上に図3の編集領域301を表示させ、自己に付与された権限の範囲内で、同一の作業領域内データの編集を行う。ここで、編集には、データが存在しない作業領域へのデータ入力、作業領域に入力済みデータの修正、変更、加筆、各作業領域の配置換えが含まれる。」

E 「【0021】サーバ101は、編集を行う者が編集権限を有するか否かを、前記テーブルを用いて判断し(ステップS403)、編集権限がある場合には端末からの操作に応じた編集処理を行い(ステップS404)、編集権限がないと判断した場合にはエラー表示を行う等して編集処理を禁止する。…(後略)」

F 「【0023】また、メールマガジンの編集進捗状況は、各編集関係者が端末112?114を用いてサーバ101にアクセスすることにより確認することができる。編集長が当該メールマガジンが完成した旨の情報を端末から入力すると、サーバ101は該メールマガジンの編集が完了したと判断して(ステップS405)、配信予定日時領域に入力された配信予定日時が到来するのを待つ(ステップS406)。ここで、ステップS405は編集完了判別手段を構成し又、ステップS406は配信予定日時判別手段を構成している。ステップS406において配信予定日時が到来したと判断すると、タイトル領域302、第1、第2原稿領域303、304に格納されたデータを一体化して、配信先アドレス記憶部109に記憶している読者のアドレス宛に、メールマガジンとして配信する(ステップS407)。ここで、ステップS407は配信処理手段を構成している。」

(ア)上記Aの「図1は、本発明の実施の形態に係るメールマガジン編集システムを示すブロック図である。図1において、各々コンピュータによって構成された端末112?114は、ネットワーク(本実施の形態ではインターネット)111を介して、メールマガジン編集用サーバ101に接続される。」との記載、上記Cの「メールマガジンを発行する上位管理者(編集長)は、自己のID及びパスワードを用いて端末112?114のいずれかをサーバ101に接続」との記載、上記Dの「編集関係者がインターネット111を介して端末112?114より、インターネットのホームページから、与えられた編集権限の範囲内で同一の編集領域を編集する」との記載、上記Fの「配信先アドレス記憶部109に記憶している読者のアドレス宛に、メールマガジンとして配信する」との記載、そして、「読者のアドレス宛に、メールマガジンとして配信する」ことは、読者の端末宛に配信されるものであると認められることからすると、引用文献1には、
上位管理者の端末、複数の編集関係者の端末、読者の端末とそれぞれ通信可能なメールマガジン編集用サーバ(以下、「サーバ」という。)に適用される方法
が記載されているものと認められる。

(イ)上記Aの「図1において、各々コンピュータによって構成された端末112?114は、ネットワーク(本実施の形態ではインターネット)111を介して、メールマガジン編集用サーバ101に接続される。」、「サーバ101は、各種演算処理を行い処理手段を構成する中央処理装置(CPU)102、CRT等によって構成され…(中略)…、CPU102が実行するプログラムやメールマガジンの編集データ等が記憶されると共に磁気ディスク等によって構成された外部記憶装置106、前記プログラムが随時記憶されると共に編集過程にあるメールマガジンのデータ等が一時記憶される主記憶装置105を備えている。」との記載、そして、サーバがネットワークに接続されていることから、当該サーバが通信アダプタを有しているのは自明の事項であることからすると、引用文献1には、
サーバは、中央処理装置(CPU)、外部記憶装置及び主記憶装置(以下、これらをまとめて、「記憶装置」という。)、通信アダプタを有し
ている態様が記載されているものと認められる。

(ウ)上記Cの「先ず、メールマガジンを発行する上位管理者(編集長)は、自己のID及びパスワードを用いて端末112?114のいずれかをサーバ101に接続し、編集に参加する編集関係者を表す情報(例えば、複数の原稿作成者のID、編集者のID及び自己のID)及び前記各編集関係者に対して編集領域毎に付与する編集権限の情報を入力する。…(中略)…これにより、サーバ101は図2に示すテーブルを生成…(中略)…同時に、サーバ101は、前記テーブルに登録された情報に基づいて原稿作成者の作業領域等を生成し、図3に示す編集領域301を生成する」との記載、上記Dの「編集関係者がインターネット111を介して端末112?114より、インターネットのホームページから、与えられた編集権限の範囲内で同一の編集領域を編集することができるように供される。」との記載からすると、引用文献1には、
サーバが、上位管理者の端末からメールマガジン原稿の制作を要求されることに応答して、各編集関係者の編集領域を生成して、複数の編集関係者の端末から編集できるようなメールマガジン編集領域を提供するステップ
が記載されているものと認められる。

(エ)上記Dの「各原稿作成者及び編集者は、端末112?114を使用し、自己のIDやパスワードを用いてネットワーク111経由で前記ホームページにアクセスし、端末の表示装置上に図3の編集領域301を表示させ、自己に付与された権限の範囲内で、同一の作業領域内データの編集を行う。」との記載、そして、編集後に改訂された原稿は、サーバの記憶装置に記録されるものと認められることからすると、引用文献1には、
サーバが、一の編集関係者の端末からメールマガジンの編集を行うことに応答して、記憶装置に改訂を記録するステップ
が記載されているものと認められる。

(オ)上記Fの「編集長が当該メールマガジンが完成した旨の情報を端末から入力すると、サーバ101は該メールマガジンの編集が完了したと判断…(中略)…、配信先アドレス記憶部109に記憶している読者のアドレス宛に、メールマガジンとして配信する」との記載、そして、メールマガジンは通常電子メールとして配信されるものであることからすると、引用文献1には、
上位管理者の端末からメールマガジンが完成した旨の情報が入力されると、読者の端末へ当該完成したメールマガジンを電子メールとして配信するステップ
が記載されているものと認められる。

(カ)上記Bの「図2は、編集権限者を表す情報と該編集権限者の編集可能領域とを対応付けた編集権限情報を格納したテーブルを示す図である。図2において、前記テーブルには、各メールマガジンに固有の番号(ドキュメント番号)、編集権限者を表す固有の識別情報(ID)と該編集権限者の編集可能領域とを対応付けた編集権限情報が格納される。」との記載、上記Cの「サーバ101は図2に示すテーブルを生成…(中略)…同時に、サーバ101は、前記テーブルに登録された情報に基づいて原稿作成者の作業領域等を生成し、図3に示す編集領域301を生成する」との記載、上記Eの「サーバ101は、編集を行う者が編集権限を有するか否かを、前記テーブルを用いて判断」、「編集権限がある場合には端末からの操作に応じた編集処理を行い」との記載、及び関連する図2からすると、引用文献1には、
複数の編集関係者の端末から編集できるようなメールマガジンを提供するステップにおいて、
メールマガジンの編集の要求には、編集関係者を識別する固有の識別情報(ID)及び編集関係者毎に前記メールマガジン中の編集可能部分を識別する編集権限情報を含むテーブルを有し、当該テーブル中の当該識別情報(ID)及び当該編集権限情報に基づいて、各編集関係者の端末からの編集可否を判断して当該メールマガジンの編集を可能にする
態様が記載されているものと認められる。

以上、(ア)ないし(カ)で指摘した事項から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

上位管理者の端末、複数の編集関係者の端末、読者の端末とそれぞれ通信可能なサーバに適用される方法であり、
当該サーバは、中央処理装置(CPU)、記憶装置、通信アダプタを有し、
当該サーバが、
上位管理者の端末からメールマガジン原稿の制作を要求されることに応答して、各編集関係者の編集領域を生成して、複数の編集関係者の端末から編集できるようなメールマガジン編集領域を提供するステップと、
一の編集関係者の端末から当該メールマガジンの編集を行うことに応答して、当該記憶装置に改訂を記録するステップと、
当該上位管理者の端末から当該メールマガジンが完成した旨の情報が入力されると、当該読者の端末へ当該完成したメールマガジンを電子メールとして配信するステップと
を備え、
複数の編集関係者の端末から編集できるようなメールマガジンを提供するステップにおいて、
前記メールマガジンの編集の要求には、編集関係者を識別する固有の識別情報(ID)及び編集関係者毎に前記メールマガジン中の編集可能部分を識別する編集権限情報を含むテーブルを有し、当該テーブル中の当該識別情報(ID)及び当該編集権限情報に基づいて、各編集関係者の端末からの編集可否を判断して当該メールマガジンの編集を可能にする方法。

(2)引用文献2に記載されている技術的事項

本願の優先日より前に頒布され、原審の拒絶の査定の理由である上記平成22年8月2日付けの拒絶理由通知において引用された、特開平9-54719号公報(平成9年2月25日出願公開。以下、「引用文献2」という。)には、関連する図面とともに、下記技術的事項が記載されている。

G 「【請求項1】 複数台のコンピュータをクライアント,サーバとしてネットワークで接続し、クライアントとサーバで共有のデータファイルをもつクライアント・サーバ型データベースにおいて、
クライアントとサーバにそれぞれ同等のデータファイルを設け、データ更新の履歴をサーバに設け、各クライアントが最後にデータ更新した日時の記録をクライアントまたはサーバに設け、クライアントが当該ファイルのデータを更新したときにサーバのファイルに同じ更新内容を反映し、サーバがネットワークに接続中の他のクライアントに同じ更新内容を反映し、その際各クライアントのデータ更新日時を最後のデータアクセス日時として記録するか、又はクライアントが非接続の手続きを取った日時を最後のデータアクセス日時として記録し、非接続のクライアントが再びネットワークに接続する際、データ更新の履歴から当該クライアントが最後にデータアクセスした日時以降のデータ更新内容を取り出し、当該クライアントのファイルに反映することを特徴とするクライアント・サーバ型データベース。」

H 「【0014】
【課題を解決するための手段】本発明は、クライアント・サーバ型データベースにおいて、クライアントとサーバにそれぞれ同等のデータファイルを設け、データ更新の履歴をサーバに設け、各クライアントが最後にデータ更新した日時の記録をクライアントまたはサーバに設け、クライアントが当該ファイルのデータを更新したときにサーバのファイルに同じ更新内容を反映し、サーバがネットワークに接続中の他のクライアントに同じ更新内容を反映し、その際各クライアントのデータ更新日時を最後のデータアクセス日時として記録するか、又はクライアントが非接続の手続きを取った日時を最後のデータアクセス日時として記録し、非接続のクライアントが再びネットワークに接続する際、データ更新の履歴から当該クライアントが最後にデータアクセスした日時以降のデータ更新内容を取り出し、当該クライアントのファイルに反映することを特徴とする。」

J 「【0017】この実施形態を図1?図5で説明する。まず、クライアント11、12には、サーバ13と同等のファイル11_(1)、12_(1)と、その内容を常に等しく保つクライアント機能の等化リクエスタ11_(2)、12_(2)を付加する。なお、「等化」とは内容を等しくするという意味で今後用いるものとする。
【0018】次に、サーバ13には、クライアント11、12と同等のファイル13_(1)と、その内容を常に等しく保つサーバ機能の等化エンジン13_(2)と、データ更新の日時や内容を記録する履歴13_(3)と、本データベースにログオン/ログオフするクライアントの日時を記録するアカウント13_(4)を付加する。
【0019】通常は、図1に示すように、2つのクライアント11、12がともにログオン中において、1つのクライアント11でファイル11_(1)のデータ更新を行ったとき(S1)、その等化リクエスタ11_(2)及びプロトコル11_(3)、13_(5)を通じてサーバ13の履歴13_(3)に更新履歴を記録し(S2)、サーバ13はその等化エンジン13_(2)によりファイル13_(1)を等化し(S3)、ログオンしているその他のすべてのクライアント12のファイル12_(1)を等化する(S4)。」

(3)参考文献に記載されている技術的事項

本願の優先日より前に頒布された刊行物である特開2001-273285号公報(平成13年10月5日出願公開。以下、「参考文献」という。)には、関連する図面とともに、下記技術的事項が記載されている。

K 「【0021】次に動作について説明する。システムの管理者は、図3に示すようなXML文書1が存在する場合において(この例では、タグがセグメントに相当する)、<タグ1>の文書内容についてはグループX,Y,Zに属するユーザに開示を許可し、<タグ2>の文書内容についてはグループYに属するユーザに開示を許可し、<タグ3>の文書内容についてはグループZに属するユーザに開示を許可する場合、セキュリティ情報設定部2を用いて、セグメントであるタグ毎に、アクセス権を有するグループを示すセキュリティ情報を設定する(ステップST1)。図4はセキュリティ情報付与後のXML文書3であり、この例では、XML文書の中にセキュリティ情報が埋め込まれている。
【0022】グループ所属判定部5は、セキュリティ情報設定部2によりセキュリティ情報が付与された後、ユーザID(XML文書1に対するアクセス要求)が入力されると(ステップST2)、グループ所属定義ファイル4を参照して、そのアクセスの要求元であるユーザが所属するグループを判定する(ステップST3)。図5はグループ所属定義ファイル4の記述内容を示し、例えば、ユーザIDが“b”である場合、ユーザbが所属するグループは、“X”と“Y”になる。
【0023】情報開示部6は、グループ所属判定部5がアクセスの要求元であるユーザが所属するグループを判定すると、セキュリティ情報を参照して、そのグループがアクセス権を有するタグを判定する(ステップST4)。例えば、ユーザIDが“b”である場合には、ユーザbが所属するグループとして、グループ所属判定部5から“X”と“Y”が出力される。そして、図4に示すように、グループXは<タグ1>に記述され、グループYは<タグ1>,<タグ2>に記述されているので、それらの論理和である<タグ1>,<タグ2>がアクセス権を有するタグとして判定される。」

4.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「上位管理者の端末」、「編集関係者の端末」、「読者の端末」、及び「サーバ」は、それぞれ、本願発明の「第一コンピュータ」、「第二コンピュータ」、「第三コンピュータ」、及び「コンピュータ」に相当する。
したがって、引用発明の「上位管理者の端末、複数の編集関係者の端末、読者の端末とそれぞれ通信可能なサーバに適用される方法」は、本願発明の「第一コンピュータ、複数の第二コンピュータ、第三コンピュータとそれぞれ通信可能なコンピュータに適用される方法」に相当する。

(2)引用発明の「中央処理装置(CPU)」及び「記憶装置」は、本願発明の「プロセッサ」及び「メモリ」に相当する。
したがって、引用発明の「当該サーバは、中央処理装置(CPU)、記憶装置、通信アダプタを有し」は、本願発明の「当該コンピュータは、プロセッサ、メモリ、通信アダプタを有し」に相当する。

(3)引用発明の「当該サーバが、」「上位管理者の端末からメールマガジンの発行を要求されることに応答して、各編集関係者の編集領域を生成して、複数の編集関係者の端末から編集できるようなメールマガジンを提供するステップと、」「一の編集関係者の端末から当該メールマガジンの編集を行うことに応答して、当該記憶装置に改訂を記録するステップと」「当該上位管理者の端末から当該メールマガジンが完成した旨の情報が入力されると、当該読者の端末へ当該メールマガジンを電子メールとして配信するステップと」「を備え、」において、サーバが備えるこれらのステップが、サーバが有する「中央処理装置(CPU)」によって処理されることは、当業者にとって自明の事項である。

(4)引用発明の「メールマガジン原稿」、「メールマガジン」、及び「編集関係者」は、それぞれ、本願発明の「共同制作電子メール文章」、「文章」、及び「共同制作者」に相当する。
ここで、引用発明の「各編集関係者の編集領域を生成して、複数の編集関係者の端末から編集できるようなメールマガジン編集領域を提供する」ことは、編集関係者へ編集関係者が編集するメールマガジン原稿を提供することに他ならない。そして、本願発明の「当該通信アダプタを介して当該複数の第二コンピュータへ当該文章のコピーを提供する」ことも、(第二コンピュータを使用する)共同制作者へ共同制作者が編集する文章を提供することに他ならない。
してみると、引用発明の「上位管理者の端末からメールマガジン原稿の制作を要求されることに応答して、各編集関係者の編集領域を生成して、複数の編集関係者の端末から編集できるようなメールマガジンの作業領域を提供するステップ」と、本願発明の「第一コンピュータから共同制作電子メール文章の制作を要求されることに応答して、当該通信アダプタを介して当該複数の第二コンピュータへ当該文章のコピーを提供するステップ」とは、ともに、“第一コンピュータから共同制作電子メール文章の制作を要求されることに応答して、共同制作者が編集する文章を提供するステップ”である点で共通する。

(5)引用発明の「一の編集関係者の端末から当該メールマガジンの編集を行うことに応答して、当該記憶装置に改訂を記録する」における「メールマガジンの編集を行うことに応答して、当該記憶装置に改訂を記録する」ことは、(サーバが)メールマガジンの改訂を受信することに応答して、記憶装置に当該改訂を記録することに他ならない。
してみると、引用発明の「一の編集関係者の端末から当該メールマガジンの編集を行うことに応答して、当該記憶装置に改訂を記録するステップ」と、本願発明の「一の第二コンピュータから当該文章の当該コピーの改訂を受信することに応答して、当該メモリに当該改訂を記録するステップ」とは、ともに“一の第二コンピュータから当該文章の改訂を受信することに応答して、当該メモリに当該改訂を記録するステップ”である点で共通する。

(6)引用発明の「完成したメールマガジン」は、本願発明の「更新済み文章」に相当する。
ここで、引用発明の「当該上位管理者の端末から当該メールマガジンが完成した旨の情報が入力されると、当該読者の端末へ当該完成したメールマガジンを電子メールとして配信する」ことは、当該上位管理者の端末から当該読者の端末へ当該完成したメールマガジンを電子メールとして配信することを許可していることに他ならない。
してみると、引用発明の「当該上位管理者の端末から当該メールマガジンが完成した旨の情報が入力されると、当該読者の端末へ当該完成したメールマガジンを電子メールとして配信するステップ」は、本願発明の「当該第一コンピュータから当該第三コンピュータへ当該更新済み文章を電子メールとして送信することを許可するステップ」に相当するといえる。

(7)引用発明の「複数の編集関係者の端末から編集できるようなメールマガジンを提供するステップ」と、本願発明の「前記第二コンピュータへ提供するステップ」とは、ともに、“共同制作者が編集する文章を提供するステップ”である点で共通する。

(8)引用発明の「固有の識別情報(ID)」は、本願発明の「共同制作者ID」に相当する。そして、引用発明の「編集可能部分を識別する編集権限情報」と本願発明の「編集可能部分を識別するマークアップ」とは、ともに、“編集可能部分を識別するための情報”である点で共通する。
ここで、引用発明の「当該テーブル中の当該識別情報(ID)及び当該編集権限情報に基づいて、各編集関係者の端末からの編集可否を判断して当該メールマガジンの編集を可能にする」ことは、当該識別情報(ID)及び当該編集権限情報に基づいて、各編集関係者の編集可能部分を特定して当該メールマガジンの編集可能部分を提供することに他ならない。そして、本願発明の「当該共同制作者ID及び当該マークアップに基づいて、特定の第二コンピュータへ編集可能部分を特定して当該文章のコピーを提供する」ことも、当該共同制作者ID及び当該マークアップに基づいて、共同制作者の編集可能部分を特定して当該文章の編集可能部分を提供することに他ならない。
してみると、引用発明の「前記メールマガジンの編集の要求には、編集関係者を識別する固有の識別情報(ID)及び編集関係者毎に前記メールマガジン中の編集可能部分を識別する編集権限情報を含むテーブルを有し、当該テーブル中の当該識別情報(ID)及び当該編集権限情報に基づいて、各編集関係者の端末からの編集可否を判断して当該メールマガジンの編集を可能にする」と、本願発明の「前記共同制作電子メール文章の制作の要求には、共同制作者を識別する共同制作者ID及び共同作成者毎に前記文章中の編集可能部分を識別するマークアップを含み、当該共同制作者ID及び当該マークアップに基づいて、特定の第二コンピュータへ編集可能部分を特定して当該文章のコピーを提供する」とは、ともに、“前記共同制作電子メール文章の制作の要求には、共同制作者を識別する共同制作者ID及び共同作成者毎に前記文章中の編集可能部分を識別するための情報を含み、当該共同制作者ID及び当該編集可能部分を識別するための情報に基づいて、共同制作者の編集可能部分を特定して当該文章の編集可能部分を提供する”点で共通する。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

(一致点)

第一コンピュータ、複数の第二コンピュータ、第三コンピュータとそれぞれ通信可能なコンピュータに適用される方法であり、
当該コンピュータは、プロセッサ、メモリ、通信アダプタを有し、
当該プロセッサが、
第一コンピュータから共同制作電子メール文章の制作を要求されることに応答して、共同制作者が編集する文章を提供するステップと、
一の第二コンピュータから当該文章の改訂を受信することに応答して、当該メモリに当該改訂を記録するステップと、
当該第一コンピュータから当該第三コンピュータへ当該更新済み文章を電子メールとして送信することを許可するステップと
を備え、
共同制作者が編集する文章を提供するステップにおいて、
前記共同制作電子メール文章の制作の要求には、共同制作者を識別する共同制作者ID及び共同作成者毎に前記文章中の編集可能部分を識別するための情報を含み、当該共同制作者ID及び当該編集可能部分を識別するための情報に基づいて、共同制作者の編集可能部分を特定して当該文章の編集可能部分を提供する方法。

(相違点1)

共同制作電子メール文章の制作に関して、本願発明が、「第二コンピュータへ当該文章のコピーを提供」し、「一の第二コンピュータから当該文章の当該コピーの改訂を受信することに応答して、当該メモリに当該改訂を記録」し、「当該改訂に基づいて、当該通信アダプタを介して他の第二コンピュータに対して当該文章の当該コピーを更新させる」ものであるのに対して、引用発明は、(サーバにおいて)「複数の編集関係者の端末から編集できるようなメールマガジン編集領域を提供」し、「一の編集関係者の端末から当該メールマガジンの編集を行うことに応答して、当該記憶装置に改訂を記録する」ものである点。

(相違点2)

共同制作者を識別する共同制作者ID及び共同作成者毎に文章中の編集可能部分を識別するための情報に関して、本願発明が、文章中に含まれる「共同制作者を識別する共同制作者ID及び共同作成者毎に前記文章中の編集可能部分を識別するマークアップ」であるのに対して、引用発明は、外部テーブル中に含まれる「編集関係者を識別する固有の識別情報(ID)及び編集関係者毎に前記メールマガジン中の編集可能部分を識別する編集権限情報」である点。

5.判断

相違点1及び相違点2について検討する。

(1)相違点1について

クライアントとサーバで共有データを利用するシステムについては、当該技術分野において、慣用的に用いられている技術にすぎず、また、当該共有データをどのように管理するかについては、当業者が利用する環境に応じて、適宜採用し得る設計事項にすぎない。
そして、共有データの管理方法の一形態として、上記引用文献2(特に、上記G、H、J等参照。)に記載されるように、“多種の構成例が存在しており、サーバのデータを複数のクライアントにコピーし、あるクライアントが該コピーしたデータを編集した際には、サーバにその編集情報を送信し、サーバは、編集情報を記録すると共に、サーバが管理するデータを編集情報によって更新し、またサーバは、その他のクライアントが有するデータについても、編集情報を反映するように更新することで、データを等化する”技術についても周知技術にすぎない。
してみると、引用発明においても、当該周知技術を採用し、メールマガジン原稿を編集関係者の端末にコピーし、編集関係者による改訂をサーバに反映させると共に、他の編集関係者のメールマガジン原稿に対しても反映させるように構成すること、すなわち、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、相違点1は格別なものではない。

(2)相違点2について

文書に対するアクセス権限情報を、当該文書内に含ませるか、外部のテーブルとして持つようにするかについては、引用文献等を示すまでもなく、いずれも当該技術分野において慣用的に用いられている周知技術にすぎず、どちらの構成を採用するかについては、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。
そして、上記参考文献(特に、上記K、図4、図5等参照。)に記載されるように、“ユーザが文書中のどの部分を編集可能であるかを示すセキュリティ情報を、タグに埋め込む形(本願発明における「マークアップ」に相当)として文章中に含ませる”技術についても、周知技術にすぎず、また、タグにどのような情報を埋め込ませるかについても、必要に応じて、当業者が適宜採用し得る設計事項にすぎない。
してみると、引用発明においても、当該周知技術を採用し、編集関係者を識別する固有の識別情報(ID)及び編集関係者毎に前記メールマガジン中の編集可能部分を識別する編集権限情報を、マークアップ形式で含ませるように構成すること、すなわち、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、相違点2は格別なものではない。

(3)まとめ

上記で検討したごとく、相違点1及び相違点2は格別のものではなく、そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、容易に発明できたものである。

6.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-14 
結審通知日 2012-09-18 
審決日 2012-10-01 
出願番号 特願2006-522354(P2006-522354)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩島 豪  
特許庁審判長 山崎 達也
特許庁審判官 原 秀人
田中 秀人
発明の名称 共同制作電子メール文書を作成するための方法、システム、およびコンピュータ・プログラム(共同制作電子メール)  
代理人 市位 嘉宏  
代理人 太佐 種一  
代理人 上野 剛史  

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