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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1270189
審判番号 不服2012-1464  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-25 
確定日 2013-02-14 
事件の表示 特願2009-185058「自動変速機用コントロールスイッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年2月24日出願公開、特開2011-38568〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成21年8月7日の出願であって、平成23年10月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成24年1月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成24年1月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年1月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
ハウジング及び、自動変速機のシフトレバーの切換操作に応じて前記ハウジング内を回動する可動体を備え、この可動体に可動接点を設けるとともに可動体の回動位置に応じて可動接点と接触・開離する複数の固定接点を前記ハウジング内に設け、接触又は開離する可動接点と固定接点の組み合わせに対応した自動変速機のシフトポジションを示すポジション信号を出力する自動変速機用コントロールスイッチにおいて、
前記可動体は、前記ハウジングに貫設された軸受孔に挿通されて回動自在に枢支される軸部を具備するとともに、前記軸受孔の軸方向に沿って前記軸部を貫通し、前記シフトレバーの操作によって回動するシャフトが圧入される圧入孔を有してなり、
前記圧入孔は、断面略多角形の略角柱状である前記シャフトの側面に圧接する内壁面を有し、この圧入孔の内壁面のうちで、平行して対向配置される1対の内壁における前記シャフトの圧入による応力が集中する内壁と内壁との各交差箇所の近傍に、前記シャフトの側面から離れるように凹んだ応力緩和溝が前記シャフトの圧入方向に沿って設けられたことを特徴とする自動変速機用コントロールスイッチ。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
ハウジング及び、自動変速機のシフトレバーの切換操作に応じて前記ハウジング内を回動する可動体を備え、この可動体に可動接点を設けるとともに可動体の回動位置に応じて可動接点と接触・開離する複数の固定接点を前記ハウジング内に設け、接触又は開離する可動接点と固定接点の組み合わせに対応した自動変速機のシフトポジションを示すポジション信号を出力する自動変速機用コントロールスイッチにおいて、
前記可動体は、前記ハウジングに貫設された軸受孔に挿通されて回動自在に枢支される軸部を具備するとともに、前記軸受孔の軸方向に沿って前記軸部を貫通し、前記シフトレバーの操作によって回動するシャフトが圧入される圧入孔を有してなり、
前記圧入孔は、断面略多角形の略角柱状である前記シャフトの側面に圧接する内壁面を有し、この圧入孔の内壁面のうちで、平行して対向配置される1対の内壁における前記シャフトの圧入による応力が集中する内壁と内壁との各交差箇所の近傍且つ前記各交差箇所から離間した位置に、前記シャフトの側面から離れるように凹んだ応力緩和溝が前記シャフトの圧入方向に沿って設けられたことを特徴とする自動変速機用コントロールスイッチ。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明特定事項である「近傍」を「近傍且つ前記各交差箇所から離間した位置」(下線部のみ)とすることにより、その構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、図3とともに、「図3(a)に示すように、応力緩和溝15aを、圧入孔15の角の部分15b近傍の内壁面に設けてもよい。シャフト20を圧入孔15に挿通すると、圧入孔15には図3(b)の矢印A及びBの向きに圧力がかかり、角の部分15bに応力が集中する。本実施形態では、角の部分15b近傍の内壁面に応力緩和溝15aを設けることによって、当該応力緩和溝15aを設けた内壁面から角の部分15bにかかる応力(矢印Aの向きにかかる圧力によって生じる応力)が緩和される。従って、軸部11やシャフト20に割れや破損が発生するおそれを小さくすることができる。」(段落【0024】参照)と記載されている。
結局、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開2002-283869号公報
(2)刊行物2:特開2008-190678号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「自動変速機用コントロールスイッチの接点構造」に関して、図面(特に、図6?10を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車における自動変速機のシフトレバーの切換操作で、パーキング、リバース、ニュートラル、ドライブ、2速、1速というようなシフトポジションを示すポジション信号を発生する自動変速機用コントロールスイッチの接点構造に関するものである。」(第2頁第1欄第31?37行、段落【0001】参照)
(b)「【0002】
【従来の技術】一般に、自動車の自動変速機には、シフトポジションを検出するためのコントロールスイッチが設けられている。このコントロールスイッチは、シフトレバーに連動したマニュアルシャフトにより操作され、所定の信号を発生するもので、この信号により制御系のマイクロコンピュータに操作指令が与えられ、各種表示や自動変速機の状態制御が行われる。
【0003】この種の自動変速機用コントロールスイッチの一例としては、図6?図8に示すように、ダイカスト製で略扇形のケース(2)と、このケース(2)に嵌合される合成樹脂製の端子台(3)とから成るハウジング(1)と、このハウジング(1)内の空間に回動自在に収められる可動体(4)とを備え、図10に示すように、自動変速機(30)にハウジング(1)が取り付けられると共に、シフトレバーの操作に応じて回動するシフト切り換え用のマニュアルシャフト(図示しない)に可動体(4)が固定され、シフトレバーの操作に応じてこの可動体(4)がマニュアルシャフトと一体的に回動するものがある。
【0004】前記可動体(4)は、合成樹脂を射出成形して作成され、図7及び図9に示すように、マニュアルシャフトに圧入固定される軸部(4b)と、この軸部(4b)の周面から突設された接点ホルダ(4c)とから成る。なお、ケース(2)と端子台(3)には、それぞれ前記軸部を回動自在に軸支する軸受部(2a)及び(3a)が設けられている。
【0005】一方、接点ホルダ(4c)には前記端子台(3)と対向する側の面に、長手方向に沿って複数の凹部(4a)が設けられている。この凹部(4a)には、後述する可動接点(5)とバネ(7)とがそれぞれ収納されている。
【0006】前記可動接点(5)は、銅板などの導電性板材を所定の形状に打ち抜いた後に断面が略U字状になるように折り曲げて作製されるもので、図11に示すように、固定接点と接触する接触部(5a)を一端に有する主部(5b)と、この主部(5b)の他端より突出する側部(5b)とから成る略門形または略コ字形で、両側部の外側端縁が直線状に形成されている。
【0007】また、前記バネ(7)は、前記凹部(4a)の底面と前記可動接点(5)との間に設けられている。これにより前記バネ(7)は、可動接点(5)を凹部(4a)から突出させる方向に付勢し、前記端子台(3)にインサートされた複数の固定接点(6)に所定の接触圧をもって接触させている。
【0008】前記固定接点(6)は、図8に示すように、前記可動体(4)の回動中心に対して円孤状に前記端子台(3)上に設けられ、パーキング、リバース等の各シフトポジションに対応する固定接点(6b)と、共通の固定接点(6a)とを備えている。つまり、この自動変速機用コントロールスイッチは、各シフトポジションに対応する各固定接点(6a)(6b)間を、シフトレバーの回動操作に連動して接点ホルダ(4c)に保持された可動接点(5)が接触・開離することで、切換出力としてポジション信号を得ている。
【0009】なお、この従来例では、ポジション信号の他に、パーキング及びニュートラルのシフトポジションに対応する固定接点(6c)の接触・開離によって、バッテリからイグニションスイッチを介してスタ一タ回路までの給電経路が入/切されるようになっている。
【0010】また、この自動変速機用コントロールスイッチでは、各固定接点(6)に接続されたコネクタ端子(8)を内部に配設した矩形筒状のコネクタ部(3b)が端子台(3)に一体的に設けられていて、このコネクタ部(3b)に接続される相手側コネクタ(図示しない)によってポジション信号が外部に取り出されるようになっている。」(第2頁第1欄第38行?第3頁第3欄第4行、段落【0002】?【0010】参照)
(c)図6?9から、可動体(4)は、ハウジング(1)内に貫設された軸受孔に挿通された回動自在に枢支される軸部(4b)を具備するとともに、軸受孔の軸方向に沿って軸部(4b)を貫通し、シフトレバーの操作によって回動するマニュアルシャフトが圧入固定される圧入孔を有している構成が看取できる。
してみれば、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
ハウジング(1)及び、自動変速機(30)のシフトレバーの切り換え操作に応じて前記ハウジング(1)内を回動する可動体(4)を備え、この可動体(4)に可動接点(5)を設けるとともに可動体(4)の回動位置に応じて可動接点(5)と接触・開離する複数の固定接点(6)を前記ハウジング(1)内に設け、接触又は開離する可動接点(5)と固定接点(6)の組み合わせに対応した自動変速機(30)のシフトポジションを示すポジション信号を出力する自動変速機用コントロールスイッチにおいて、
前記可動体(4)は、前記ハウジング(1)内に貫設された軸受孔に挿通された回動自在に枢支される軸部(4b)を具備するとともに、前記軸受孔の軸方向に沿って前記軸部(4b)を貫通し、前記シフトレバーの操作によって回動するマニュアルシャフトが圧入固定される圧入孔を有している自動変速機用コントロールスイッチ。

(刊行物2)
刊行物2には、「圧入ピンを有する焼結部品」に関して、図面(特に、図2を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(d)「【0001】
この発明は、細長い圧入ピンを有する焼結部品に関する。詳しくは、部品に設けるピン孔とそのピン孔に圧入するピンの嵌合構造を工夫してピン孔に対するピンの圧入を、ピンの変形などの問題を発生させずに行えるようにした焼結部品に関する。」(第2頁第25?28行、段落【0001】参照)
(e)「【0004】
ピン孔12は、平行配置の平面の孔面12a、12aと、その孔面間に配置される中心対称形状の円弧の孔面12b、12bを組み合わせた非円形断面の孔として構成されている。そのピン孔12に圧入されるピン13は、丸ピンの外周に面取りを施して所定の二面幅を持つ平行な平面13a、13aを生じさせており、断面形状がピン孔12のそれとほぼ相似形になっている。従って、焼結体11とピン13は非円形嵌合して相対回転が阻止される。」(第2頁第41?47行、段落【0004】参照)
(f)「【0015】
以下、添付図面の図1?図4に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。例示の焼結部品10は、焼結体11と別部品のピン13を組み合わせてなる。焼結体11は、原料の粉末を成形して圧粉体を形成し、その圧粉体を焼結して作られている。この焼結体11には、ピン孔形成部に一端から他端に貫通するピン孔12を金型で成形して設けており、そのピン孔12にピン13が圧入して取り付けられている。ピン13の両端は焼結体11の端面から所定長さ突出させており、その突出部を軸受に挿入して焼結体11を回転可能に支持することができる。
【0016】
ピン孔12は、図2に示すように、平行配置の平面の孔面12a、12aと、その平面の孔面間に配置される中心対称形状の円弧の孔面12b、12bとを組み合わせた非円形断面の孔(真円の孔をベースにしてその孔に二面幅の平面を形成した孔)として構成されている。円弧の孔面12b、12bは、平面の孔面12a、12aに内接する図2の円S1よりも大径の円S2上に配置されている。円S1、S2は孔中心と同心の円である。平面の孔面12aと円弧の孔面12bとが交差するコーナには、応力集中を回避するための円弧の溝面を有する逃げ部12cを設けると好ましい。」(第4頁第15?30行、段落【0015】及び【0016】参照)
(g)「【0018】
ピン孔12に圧入されるピン13は、図4に示すように、丸ピンの外周に面取りを施して所定の二面幅を持つ平行な平面13a、13aを生じさせており、断面形状がピン孔12のそれとほぼ相似形になっている。従って、焼結体11とピン13は非円形嵌合して相対回転が阻止される。このピン13の図2に示す大径部の径Dは、円S2の直径と同径又は円S2の直径よりも僅かに小さい。また、ピン13の二面幅Wは、円S1の直径よりも僅かに小さい。そのために、ピン13は凸部14を形成した部分でのみピン孔に圧入されることになる。そのときの圧入代が設定範囲に納まるように凸部14の高さを調整する。」(第4頁第37?44行、段落【0018】参照)

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「ハウジング(1)」は本願補正発明の「ハウジング」に相当し、以下同様に、「自動変速機(30)」は「自動変速機」に、「可動体(4)」は「可動体」に、「可動接点(5)」は「可動接点」に、「固定接点(6)」は「固定接点」に、「軸部(4b)」は「軸部」に、「圧入固定」は「圧入」に、それぞれ相当するので、両者は、下記の一致点、及び相違点を有する。
<一致点>
ハウジング及び、自動変速機のシフトレバーの切換操作に応じて前記ハウジング内を回動する可動体を備え、この可動体に可動接点を設けるとともに可動体の回動位置に応じて可動接点と接触・開離する複数の固定接点を前記ハウジング内に設け、接触又は開離する可動接点と固定接点の組み合わせに対応した自動変速機のシフトポジションを示すポジション信号を出力する自動変速機用コントロールスイッチにおいて、
前記可動体は、前記ハウジングに貫設された軸受孔に挿通されて回動自在に枢支される軸部を具備するとともに、前記軸受孔の軸方向に沿って前記軸部を貫通し、前記シフトレバーの操作によって回動するシャフトが圧入される圧入孔を有してなる自動変速機用コントロールスイッチ。
(相違点)
本願補正発明は、「前記圧入孔は、断面略多角形の略角柱状である前記シャフトの側面に圧接する内壁面を有し、この圧入孔の内壁面のうちで、平行して対向配置される1対の内壁における前記シャフトの圧入による応力が集中する内壁と内壁との各交差箇所の近傍且つ前記各交差箇所から離間した位置に、前記シャフトの側面から離れるように凹んだ応力緩和溝が前記シャフトの圧入方向に沿って設けられ」ているのに対し、引用発明は、そのような構成を具備していない点。
以下、上記相違点について検討する。
(相違点について)
刊行物1の第6、8、及び9(b)図には、マニュアルシャフトが圧入固定される圧入孔の形状が図示されている。一般的に、軸穴は軸にならう略同一形状とするのが普通であるので、マニュアルシャフトの形状が断面略多角形の略角柱状であることは、上記各図から推認できるし、刊行物2には、「そのピン孔12に圧入されるピン13は、(中略)断面形状がピン孔12のそれとほぼ相似形になっている。」(第2頁第44?46行、段落【0004】、上記摘記事項(e)参照)、及び「ピン孔12に圧入されるピン13は、(中略)断面形状がピン孔12のそれとほぼ相似形になっている。」(第4頁第38?40行、段落【0018】、上記摘記事項(g)参照)と記載されていることから、引用発明の圧入孔は、断面略多角形の略角柱状であるマニュアルシャフト(シャフト)の側面に圧接する内壁面を有していることは技術的に自明の事項である。
また、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともにシャフトの圧入に関する技術分野に属するものであって、刊行物2には、「平面の孔面12aと円弧の孔面12bとが交差するコーナには、応力集中を回避するための円弧の溝面を有する逃げ部12cを設けると好ましい。」(第4頁第28?30行、段落【0016】、上記摘記事項(f)参照)と記載され、また、図2には、平面の孔面12aと円弧の孔面12bとが交差する各コーナの近傍に逃げ部12cが図示されている。
上記記載から、刊行物2には、圧入孔の内壁面のうちで、平行して対向配置される1対の平面の孔面12aにおけるピン13の圧入による応力が集中する平面の孔面12aと円弧の孔面12bとの交差する各コーナの近傍に、ピン13の側面から離れるように凹んだ逃げ部12cがピン13の圧入方向に沿って設けられた構成が記載又は示唆されている。
そして、応力集中に関する一般的な技術的知見に照らせば、応力集中を緩和するためには、刊行物2に記載された逃げ部12cは、応力が集中する各コーナに近い方に設けた方が好ましいが、応力集中を同等に緩和できるのであれば、刊行物2の図2に記載されたように厳密に各コーナの近傍に設ける必要はないことから、逃げ部12cを、交差する各コーナの近傍且つ交差する各コーナから離間した位置に設けることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計変更の範囲内の事項にすぎない。
してみれば、引用発明の圧入孔に、刊行物2に記載又は示唆された技術的手段を適用して、断面略多角形の略角柱状であるマニュアルシャフト(シャフト)の側面に圧接する内壁面を有し、この圧入孔の内壁面のうちで、平行して対向配置される1対の内壁におけるマニュアルシャフト(シャフト)の圧入による応力が集中する内壁と内壁との各交差箇所の近傍且つ各交差箇所から離間した位置に、シャフトの側面から離れるように凹んだ逃げ溝(応力緩和溝)をシャフトの圧入方向に沿って設けることにより、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、及び刊行物2に記載又は示唆された技術的手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、当審における審尋に対する平成24年10月22日付けの回答書(以下、「回答書」という。)において、「応力緩和溝を、内壁と内壁との各交差箇所の近傍且つ各交差箇所から離間した位置に設けた構成は、引用文献1,2(注:本審決の刊行物1、2に対応する。以下同様。)の何れにも開示されていません。引用文献2には、確かに応力緩和溝に相当する逃げ部12cを、内壁に相当する孔面12a,12bの交差箇所に備えた構成は開示されていますが、孔面12a,12bの交差箇所の近傍且つ交差箇所から離間した位置に逃げ部12cを設けた構成は開示されていません。そして、当該構成のように交差箇所ではなく交差箇所の近傍且つ交差箇所から離間した位置に応力緩和溝を設けることで交差箇所への応力の集中を回避することは、当業者といえども自明の事項ではなく、容易に想到し得るものではありません。」と主張している。
しかしながら、上述したように、応力集中に関する一般的な技術的知見に照らせば、応力集中を緩和するためには、刊行物2に記載された逃げ部12cは、応力が集中する各コーナに近い方に設けた方が好ましいが、応力集中を同等に緩和できるのであれば、刊行物2の図2に記載されたように厳密に各コーナの近傍に設ける必要はないことから、逃げ部12cを、交差する各コーナの近傍且つ交差する各コーナから離間した位置に設けることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計変更の範囲内の事項にすぎない。
よって、本願補正発明は、上記(相違点について)において述べたように、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成24年1月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年8月22日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおり次のとおりのものである。
「【請求項1】
ハウジング及び、自動変速機のシフトレバーの切換操作に応じて前記ハウジング内を回動する可動体を備え、この可動体に可動接点を設けるとともに可動体の回動位置に応じて可動接点と接触・開離する複数の固定接点を前記ハウジング内に設け、接触又は開離する可動接点と固定接点の組み合わせに対応した自動変速機のシフトポジションを示すポジション信号を出力する自動変速機用コントロールスイッチにおいて、
前記可動体は、前記ハウジングに貫設された軸受孔に挿通されて回動自在に枢支される軸部を具備するとともに、前記軸受孔の軸方向に沿って前記軸部を貫通し、前記シフトレバーの操作によって回動するシャフトが圧入される圧入孔を有してなり、
前記圧入孔は、断面略多角形の略角柱状である前記シャフトの側面に圧接する内壁面を有し、この圧入孔の内壁面のうちで、平行して対向配置される1対の内壁における前記シャフトの圧入による応力が集中する内壁と内壁との各交差箇所の近傍に、前記シャフトの側面から離れるように凹んだ応力緩和溝が前記シャフトの圧入方向に沿って設けられたことを特徴とする自動変速機用コントロールスイッチ。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「近傍且つ前記各交差箇所から離間した位置」を「近傍」とすることにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-12 
結審通知日 2012-12-18 
審決日 2012-12-27 
出願番号 特願2009-185058(P2009-185058)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16H)
P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬川 裕  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 窪田 治彦
常盤 務
発明の名称 自動変速機用コントロールスイッチ  
代理人 坂口 武  
代理人 北出 英敏  
代理人 西川 惠清  
代理人 仲石 晴樹  

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