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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1270398
審判番号 不服2010-13038  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-15 
確定日 2013-02-19 
事件の表示 特願2003-583343「CC-1065類似体の改良プロドラッグ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月23日国際公開、WO03/86318、平成17年10月27日国内公表、特表2005-532287〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、2003年 3月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年 4月 5日、アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は、概略以下のとおりのものである。

平成16年12月 7日 手続補正書
平成21年 7月 7日 手続補正書
平成21年 7月13日付け 拒絶理由通知書
平成22年 1月21日 意見書・手続補正書
平成22年 2月 9日付け 拒絶査定
平成22年 6月15日 審判請求書・手続補正書
平成22年 6月28日 手続補足書
平成23年 9月30日付け 審尋

なお、平成23年9月30日付けの審尋に対して、指定期間を経過しても回答書の提出はなかった。

第2 平成22年 6月15日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成22年 6月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成22年 6月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、その補正前の平成22年 1月21日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を
「式(I)の第一のサブユニットと式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、(VIII)又は(IX)の第二のサブユニットが、第一のサブユニットのピロール部分の第二級アミノ基から第二のサブユニットのC-2カルボキシルへのアミド結合を介して共有結合して形成されたプロドラッグであって、ここで、式(I)は次の通りであり:
【化1】

式(II)?(IX)は次の通りであり:
【化2】

【化3】

式中、Rは前記プロドラッグの細胞結合因子への連結を可能にする連結基を表し; R_(1)?R_(6)は、それぞれ独立して、水素、C_(1)?C_(3)直鎖アルキル、メトキシ、ヒドロキシ、第一級アミノ、第二級アミノ、第三級アミノ、又はアミドであり;そしてR_(7)はホスフェート、又は隣接した酸素原子とともに形成するピペラジノカルバメートもしくは4-ピペリジノ-ピペリジノカルバメートである;前記プロドラッグ。」
から
「式(I)の第一のサブユニットと式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、(VIII)又は(IX)の第二のサブユニットが、第一のサブユニットのピロール部分の第二級アミノ基から第二のサブユニットのC-2カルボキシルへのアミド結合を介して共有結合して形成されたプロドラッグであって、ここで、式(I)は次の通りであり:
【化1】

式(II)?(IX)は次の通りであり:
【化2】

【化3】

式中、Rまたは式(VI)?(IX)における-NCOと一緒になってRは、前記プロドラッグの細胞結合因子への連結を可能にするアミド含有側鎖を表し; R_(1)?R_(6)は、それぞれ独立して、水素、C_(1)?C_(3)直鎖アルキル、メトキシ、ヒドロキシ、第一級アミノ、第二級アミノ、第三級アミノ、又はアミドであり;そしてR_(7)はホスフェート、又は隣接した酸素原子とともに形成するピペラジノカルバメートもしくは4-ピペリジノ-ピペリジノカルバメートである;前記プロドラッグ。」
に改める補正を含むものである

2 補正の適否
(1)目的要件
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である式中のRを「連結基」を表すものから「アミド含有側鎖」を表すものへと変更することにより、特定の化学構造を有するものへとその特許を受けようとする発明の範囲が減縮するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(補正前の請求項1に記載された発明を補正後の請求項1とする補正が平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものであるか)について、検討する。

実施可能要件について
(ア)発明の詳細な説明の記載
平成21年 7月 7日付けの手続補正書により補正された明細書(以下、単に「明細書」という。)の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

a「【0025】
発明の詳細な記述
本発明者らは、ある種のCC-1065類似体の安定性、水溶性及び有用性は、該類似体のアルキル化部分を適切な保護基で保護することによって増大することを見出した。従って本発明者らが提供するCC-1065類似体のプロドラッグは、高い水溶性及び安定性を有し、さらに細胞結合因子への連結が可能であることによってそのようなCC-1065類似体のプロドラッグの治療的効能が、腫瘍部位への該プロドラッグの標的送達を通じてインビボの分布を変えた結果、非標的組織への低毒性、ひいては低い全身毒性が実現することによって改良されたプロドラッグである。該プロドラッグが送達されると、内因性物質が実質的に該プロドラッグをその活性薬物形に転化し、細胞結合因子への切断可能リンカーを有する態様では、活性薬物形のCC-1065類似体が放出されるので、さらにその細胞毒活性が増大する。あるいは、細胞結合因子へのリンカーが標的細胞内部でまず切断され、その後活性薬物に内因的転化をしてもよい。
【0026】
この目標を達成するために、発明者らはseco-シクロプロパベンズインドール(CBI)含有細胞毒性プロドラッグであるCC-1065類似体の典型的プロドラッグ(図2?6)を合成した。該プロドラッグは、(a)安定性及び水溶性を高めるためにフェノール性ヒドロキシルがインビボで切断される保護基によって保護されている式(I)の第一のサブユニット、及び(b)式(II)?(IX)の一つによって表される構造を有し、該プロドラッグを細胞結合因子に複合させるための連結基を含む第二のサブユニットを含む。連結基はポリエチレングリコールスペーサーを含有することもできる(図3)。プロドラッグの保護基が除去されると親薬物の高い細胞毒性を保持する活性形の薬物が生成する。リンカーは細胞結合因子への複合に使用され、好ましくはジスルフィド結合を介する。」

b「【0034】
式(II)?(IX)中、Rは、CC-1065類似体のプロドラッグの細胞結合因子への連結を可能にする部分を表す。該連結部分はポリエチレングリコールスペーサーを含有していてもよい。例としては、ジスルフィド結合、酸に不安定な基、光に不安定な基、ペプチダーゼに不安定な基、又はエステラーゼに不安定な基を介する連結を可能にする部分などで、当該技術分野で周知である…Rは、場合により、連結可能部分の反応基と2-カルボキシ-インドール又は2-カルボキシ-ベンゾフラン誘導体部分との間に挟まれたスペーサー領域をさらに含むこともできる。好適な態様は、NHCO(CH_(2))_(m)SZ、NHCOC_(6)H_(4)(CH_(2))_(m)SZ、又はO(CH_(2))_(m)SZ、NHCO(CH_(2))_(m)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SZ、NHCOC_(6)H_(4)(CH_(2))_(m)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SZ、又はO(CH_(2))_(m)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SZなどで、式中、ZはH又はSR_(8)を表し、R_(8)は、メチル、直鎖アルキル、分枝アルキル、環状アルキル、単純又は置換アリール又はヘテロサイクリックを表し、mは1?10の整数を表し、nは4?1000の整数を表す。…Rの最も好適な態様は、NHCO(CH_(2))_(2)SH及びNHCO(CH_(2))_(2)SSCH_(3)、NHCO(CH_(2))_(2)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SH及びNHCO(CH_(2))_(2)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SSCH_(3)などである。」

c「【0043】
プロドラッグ複合体の製造
プロドラッグと細胞結合因子の複合体は、現在知られている又は後に開発される任意の技術を用いて形成できる。seco-CBI類似体に結合させたインドリル、ベンゾフラニル、ビス-インドリル、ビス-ベンゾフラニル、インドリル-ベンゾフラニル、又はベンゾフラニル-インドリル誘導体は、遊離アミノ基を含有するように製造し、次いで酸に不安定なリンカーを介して、又は光に不安定なリンカーによって抗体又は他の細胞結合因子に連結させることができる。プロドラッグ化合物を適切な配列を有するペプチドと縮合させ、その後細胞結合因子に連結させるとペプチダーゼに不安定なリンカーを製造することができる。細胞毒性化合物を、スクシニル化できる第一級ヒドロキシル基を含有するように製造し、細胞結合因子に連結させると細胞内エステラーゼによって切断されて遊離プロドラッグを放出できる複合体が製造できる。好ましくは、プロドラッグ化合物は、PEG含有スペーサーがある場合もない場合も、遊離又は保護チオール基を含有するように合成し、次いで一つ以上のジスルフィド又はチオール含有プロドラッグをそれぞれ細胞結合因子にジスルフィド結合を介して共有結合させる。」

d「【0067】
(実施例I)
(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-[(4-メチルピペラジノ)カルボニルオキシ]-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メチルジチオ-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(DC2-SMe、2b)の製造
(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-ヒドロキシ-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メチルジチオ-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(DC1SMe)DC1-SMe(1b、40mg、0.058mmol)のTHF(4mL)中溶液に、4-ニトロフェニルクロロホルメート(17mg、0.084mmol)及びジ-イソプロピルエチルアミン(DIPEA、15μl)を加えた。該反応混合物をアルゴン雰囲気下で3時間撹拌した。TLCによる分析で、全てのDC1が消費されてRf値0.45の中間体が形成されたことが示された(移動相は1:2のアセトン/トルエン)。該反応混合物を4-メチルピペラジン(8.3mg、0.084mmol)で処理し、次いでアルゴン下で一晩撹拌した。次に、該混合物をEtOAc/THFの1:1(v/v)混合物(15mL)及びpH5.0の1M NaH_(2)PO_(4)水溶液(5mL)で希釈した。有機層を分離し、水性層をEtOAc/THF(1:1,4×15ml)で抽出した。有機層を合わせ、MgSO_(4)上で乾燥、ろ過、蒸発、シリカゲルクロマトグラフィーによりアセトン/トルエン(3:8)で溶離して精製、そしてTHF/EtOAc/ヘキサンで再結晶化して40mg(収率85%)のDC2-SMe(2b)を得た。Rf=0.31(アセトン/トルエン、3:8);mp=225℃(分解);」

e「【0069】
(実施例II)
(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-[(4-メチルピペラジノ)カルボニルオキシ]-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(DC2、2a)の製造
トリス-(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド(TCEP、30mg、0.104mmol)のH_(2)O(2mL)中溶液をNaHCO_(3)粉末でpH7.0に調整した。この溶液に、25mg(0.031mmol)のDMA(3mL)中DC2-SMe(2b)を加えた。2時間撹拌後、数滴のHOAcを加えてpHを3?4に調整した。該混合物を濃縮し、分取用シリカゲルTLC(1:2のアセトン/トルエンで溶離)を用いて精製し、21mg(90%)のDC2(2a)を得た。」

f「【0071】
(実施例III)
(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-[(4-ピペリジノ-ピペリジノ)カルボニルオキシ]-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メチルジチオ-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(DC3-SMe、3b)(3b)(DC3-SMe)の製造
DC1-SMe、1b、(50mg、0.073mmol)のTHF(4ml)中溶液に、4-ニトロフェニルクロロホルメート(35mg、0.173mmol)及びDIPEA(50μl)を加えた。アルゴン下で3時間撹拌後、TLC分析で、全てのDC1-SMeが消費されてRf=0.45の中間体が得られたことが示された(1:2のアセトン/トルエン)。該反応混合物を4-ピペリジノ-ピペリジン(40mg、0.21mmol)で処理したところ、重い沈殿物が形成された。混合物を4時間撹拌し、20mlのEtOAc/THF(1:1)及び5mlの1M NaH_(2)PO_(4)(pH4.5)で希釈した。有機層を分離し、水性層をEtOAc/THF(1:1,4×15ml)で抽出した。有機層を合わせ、MgSO_(4)上で乾燥、ろ過、蒸発、シリカゲルクロマトグラフィー(アセトン/トルエン、3:8)で精製、そしてTHF/EtOAc/ヘキサンで結晶化してDC3-SMe(3b、45mg、収率70%)を得た。mp=285℃(分解);[α]=29.7°(DMF中 c0.5);」

g「【0073】
(実施例IV)
(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-[(4-ピペリジノ-ピペリジノ)カルボニルオキシ]-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(DC3、3a)(3a)(DC3)の製造
TCEP(15.2mg、0.053mmol)のH_(2)O(0.7mL)中溶液を13.5mgのNaHCO_(3)粉末の添加でpH7.0に調整した。該溶液にDMA(2mL)中DC3-SMe(3b、8.2mg、0.0093mmol)を加え、反応混合物を2時間撹拌した。次に数滴のHOAcを加えてpHを3?4に調整した。該混合物を濃縮し、分取用シリカゲルTLCを用いアセトン/トルエン(1:2)で溶離して精製し、7mgのDC3(3a)を得た。MS m/z+854.31(M+Na)+、855.31、856.32、857.31。」

h「【0074】
(実施例V)
(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-(ホスホノキシ)-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メチルジチオ-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(4b)(DC4-SMe)の製造
DC1-SMe(1b、50mg、0.073mmol)の、THF(5ml)、CH_(3)CN(4ml)及びDMA(0.5ml)の混合物中溶液をアルゴン雰囲気下で撹拌した。該混合物に、POCl3(80μL)、DIPEA(150μL)及びDMAP(3mg)を順に加えた。2時間の撹拌後、TLC及びHPLC両方の分析からDC1-SMeが完全に消費されたことが示された。pH4.0の1.0M NaH_(2)PO_(4)水溶液(2ml)を加え、混合物を一晩撹拌した。該混合物をH_(3)PO_(4)でさらに酸性化してpH2.0にし、NaClで飽和し、THF/EtOAc(1:1、6×15ml)で抽出した。有機層を分離し、濃縮し、残渣をTHF/H_(2)O/CH_(3)OHで再結晶化して47mg(84%)の標記化合物(DC4-SMe)を得た。」

i「【0076】
(実施例VI)
(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-(ホスホノキシ)-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(4a)(DC4)の製造
TCEP(30mg、0.104mmol)の2mlH_(2)O中溶液をNaHCO_(3)粉末の添加によってpH6.5?7.0に調整した。該溶液に3mlのDMA/H_(2)O(1:1)中DC4-SMe(26mg、0.034mmol)を加えた。アルゴン下で2時間撹拌した後、数滴の10%H_(3)PO_(4)を加えてpH2.0にした。次に、該混合物をDMA/EtOAc(1:5、6×10ml)で抽出した。有機層を合わせ、蒸発させ、分取用HPLC(C18カラム、20×250mm、流速=8.0ml/分、移動相:A:H_(2)O中0.01%HOAc、B:CH_(3)CN中2%DMA;タイムテーブル:0-10’、5%B;20’まで、20%B;50’まで、50%B)により精製した。DC4のピークは30?38分に溶出された。DC4含有画分をプールし、濃縮し、真空下で乾燥させて22mg(89%)の標記化合物4aを得た。」

j「【0079】
(実施例VII)
(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-(ジベンジルホスホノキシ)-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メチルジチオ-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(4c)(DC4-SMe ジベンジルホスフェート)の製造
DC1-SMe(50mg、0.073mmol)の10mlTHF/CH_(3)CN(1:1)中溶液にアルゴン下で、CCl_(4)(100μL、1.036mmol)、DIPEA(55μL、0.316mmol)、ジベンジルホスファイト(100μL、0.452mmol)及びDMAP(0.2mg、0.0016mmol)を順に加えた。アルゴン下で一晩撹拌後、TLC分析によれば反応は完了したようで、Rf=0.37(1:2のアセトン/トルエン中)を有する新生成物が形成された。混合物を5mlの1.0M NaH_(2)PO_(4)(pH4.0)及びEtOAc(10mL)で希釈した。有機層を分離し、水溶液をTHF/EtOAc(1:1、4×15ml)で抽出した。有機層を合わせ、MgSO_(4)上で乾燥、ろ過、蒸発及びシリカゲルクロマトグラフィーでアセトン/トルエン(3:7)で溶離して精製し、62mg(89%)の標記化合物4cを得た。…
【0081】
DC4への転化:
フラスコに4c(20mg、0.021mmol)を入れ、Pd/C(15mg)、氷酢酸(100μl)及びDMA(4ml)で処理した。系を真空吸引で真空排気し、次いで水素充填バルーンを通じて水素下で一晩撹拌した。触媒をろ過除去し、溶媒を蒸発させ、残渣を前述のような分取用HPLCで精製して6mg(39%)のDC4(4a)を得た。MS m/z 716.48(M-H)-、717.48、718.50。」

k「【0082】
(実施例VIII)
(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-ヒドロキシ-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-ニトロ-1H-インドール-2-カルボキサミド(DC0、10a)の製造
5-ヒドロキシ-3-アミノ-1-[S]-(クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-3H-ベンズ(e)インドール塩酸塩[seco-(-)CBI、20mg、0.72mmol]及び5-[5’-ニトロインドール-2’-イル-カルボニルアミノ]インドール-2-カルボン酸(9、25mg、0.068mmol)のDMA(3mL)中溶液に、アルゴン下でEDC(40mg、0.20mmol)を加えた。一晩撹拌後、数滴の50%HOAcを加え、混合物を蒸発乾固して分取用シリカゲルTLCクロマトグラフィー(トルエン中40%アセトン)で精製して25mgのDC0(10a)を得た。」

l「【0084】
(実施例IX)
(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-ヒドロキシ-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メチルジチオ-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド、DC1SMe(1b)の製造
フラスコに、10a(10mg、0.017mmol)、Pd/C(10mg)、HCl(濃、3μl)及びDMA(2.5ml)を入れた。空気を排気した後、水素バルーンによって水素を一晩導入した。触媒をろ過除去し、溶媒を蒸発させて10bを褐色固体として得た。該固体化合物はこれ以上精製せずにそのまま使用した。
【0085】
DMA(2mL)中の10bに、3-(メチルジチオ)プロピオン酸(5mg、0.032mmol)及びEDC(15mg、0.078mmol)をアルゴン下で加えた。一晩撹拌後、2滴の50%HOAcを加え、混合物を蒸発乾固して分取用シリカゲルTLC(トルエン中40%アセトン)で精製して6mgのDC1-SMe(1b)を得た。Rf=0.40(3:7のアセトン/トルエン);」

m「【0087】
(実施例X)
(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-ヒドロキシ-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(15”-メチルジチオ-4”,7”,10”,13”-テトラオキサペンタデシル-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(DC5-SMe)の製造
10b(50mg、0.091mmol)のDMA(5mL)中溶液に、15”-メチルジチオ-4”,7”,10”,13”-テトラオキサペンタデカン酸(33mg、0.100mmol)及びEDC(88mg、0.459mmol)をアルゴン下で加えた。一晩撹拌後、2滴の50%HOAcを混合物に加え、該混合物を蒸発乾固し、シリカゲルクロマトグラフィー(トルエン中30%アセトン)で精製してDC5-SMeを得た。」

n「【図4A】



o「【図4B】



p「【図5】



q【図6】



(イ)本願補正発明における基Rについて
明細書の摘示aに「本発明者らが提供するCC-1065類似体のプロドラッグは、高い水溶性及び安定性を有し、さらに細胞結合因子への連結が可能であることによってそのようなCC-1065類似体のプロドラッグの治療的効能が、腫瘍部位への該プロドラッグの標的送達を通じてインビボの分布を変えた結果、非標的組織への低毒性、ひいては低い全身毒性が実現することによって改良されたプロドラッグである。」と記載されているように、本願の主題は、CC-1065類似体のプロドラッグを細胞結合因子に結合させるための連結基を含む化合物に関すると認められる。そして、明細書の摘示bには、具体的化合物について「式(II)?(IX)中、Rは、CC-1065類似体のプロドラッグの細胞結合因子への連結を可能にする部分を表す。…Rは、場合により、連結可能部分の反応基と2-カルボキシ-インドール又は2-カルボキシ-ベンゾフラン誘導体部分との間に挟まれたスペーサー領域をさらに含むこともできる。好適な態様は、NHCO(CH_(2))_(m)SZ、NHCOC_(6)H_(4)(CH_(2))_(m)SZ、又はO(CH_(2))_(m)SZ、NHCO(CH_(2))_(m)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SZ、NHCOC_(6)H_(4)(CH_(2))_(m)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SZ、又はO(CH_(2))_(m)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SZなどで、式中、ZはH又はSR_(8)を表し、R_(8)は、メチル、直鎖アルキル、分枝アルキル、環状アルキル、単純又は置換アリール又はヘテロサイクリックを表し、mは1?10の整数を表し、nは4?1000の整数を表す。…Rの最も好適な態様は、NHCO(CH_(2))_(2)SH及びNHCO(CH_(2))_(2)SSCH_(3)、NHCO(CH_(2))_(2)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SH及びNHCO(CH_(2))_(2)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SSCH_(3)などである。」と記載されている。ここで、明細書に記載されている式(II)?(IX)は、本件補正後の請求項1に記載された一般式に対応していることからみて、本願補正発明におけるRとは、「NHCO(CH_(2))_(m)SZ、NHCOC_(6)H_(4)(CH_(2))_(m)SZ、又はO(CH_(2))_(m)SZ、NHCO(CH_(2))_(m)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SZ、NHCOC_(6)H_(4)(CH_(2))_(m)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SZ、又はO(CH_(2))_(m)(OCH_(2)CH_(2))_(n)SZなどで、式中、ZはH又はSR_(8)を表し、R_(8)は、メチル、直鎖アルキル、分枝アルキル、環状アルキル、単純又は置換アリール又はヘテロサイクリックを表し、mは1?10の整数を表し、nは4?1000の整数を表す。」場合を含むものと理解できる。
このような本願補正発明の化合物を得る製造方法についての明細書の記載を検討する。

(ウ)明細書に記載された具体的製造例について
まず、化合物の具体的な製造が記載された部分を検討する。
明細書には、(実施例I)において(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-ヒドロキシ-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メチルジチオ-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(DC1-SMe、1b)と4-ニトロフェニルクロロホルメートとを反応させて、(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-[(4-メチルピペラジノ)カルボニルオキシ]-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メチルジチオ-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(DC2-SMe、2b)を製造したことが記載されている(摘示d、o)。ここで得られたDC2-SMe(2b)は、本願補正発明において、第二のサブユニットが式(V)であり、RがNHCO(CH_(2))_(2)SSMeであり、基R_(7)が(4-メチルピペラジノ)カルボニルオキシ基である場合に該当する化合物であって、上記反応は、原料化合物であるDC1-SMe(1b)のヒドロキシ基を(4-メチルピペラジノ)カルボニルオキシ基に変換することによって、本願補正発明における基R_(7)を導入する反応である。
そして、(実施例II)においては、DC2-SMe(2b)をHOAcすなわち酢酸で処理して、(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-[(4-メチルピペラジノ)カルボニルオキシ]-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(DC2、2a)を製造している(摘示e、o)。ここで得られたDC2(2a)は、本願補正発明において、第二のサブユニットが式(V)であり、RがNHCO(CH_(2))_(2)SSHであり、基R_(7)が(4-メチルピペラジノ)カルボニルオキシ基である場合に該当する化合物であって、前記反応は、DC2-SMe(2b)の-SMeを-SHに変換する反応である。
同様に、(実施例III)は、基R_(7)を導入する反応によって、本願補正発明において、第二のサブユニットが式(V)であり、RがNHCO(CH_(2))_(2)SSMeであり、基R_(7)が(4-ピペリジノ-ピペリジノ)カルボニルオキシである場合に該当する化合物であるDC3-SMe(3b)を得る方法である(摘示f、o)。次いで、(実施例IV)では、-SMeを-SHに変換し、本願補正発明において、第二のサブユニットが式(V)であり、RがNHCO(CH_(2))_(2)SSHであり、基R_(7)が(4-ピペリジノ-ピペリジノ)カルボニルオキシである場合に該当する化合物DC3(3a)を得ている(摘示g、o)。
(実施例V)は、基R_(7)を導入する反応によって、本願補正発明において、第二のサブユニットが式(V)であり、RがNHCO(CH_(2))_(2)SSMeであり、基R_(7)がホスホノキシである場合に該当する化合物であるDC4-SMe(4b)を得る方法である(摘示h、q)。次いで、(実施例VI)では、-SMeを-SHに変換し、本願補正発明において、第二のサブユニットが式(V)であり、RがNHCO(CH_(2))_(2)SSHであり、基R_(7)がホスホノキシである場合に該当する化合物DC4(4a)を得ている(摘示i、q)。
(実施例VII)は基R_(7)を導入する反応によって、本願補正発明において、第二のサブユニットが式(V)であり、RがNHCO(CH_(2))_(2)SSMeであり、基R_(7)がジベンジルホスホノキシである場合に該当する化合物である(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-(ジベンジルホスホノキシ)-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メチルジチオ-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(4c)を得てから、-SMeを-SHに変換し、第二のサブユニットが式(V)であり、RがNHCO(CH_(2))_(2)SSHであり、基R_(7)がホスホノキシである場合に該当する化合物DC4(4a)を得る方法である(摘示j、q)。
ここで、(実施例I)(実施例III)(実施例V)(実施例VII)の出発物質であるDC1-SMe(1b)については、(実施例VIII)と(実施例IX)の一連の操作によって以下のように製造されたことが理解できる(摘示k、l、n)。
すなわち、まず(実施例VIII)において、5-ヒドロキシ-3-アミノ-1-[S]-(クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-3H-ベンズ(e)インドール塩酸塩(seco-(-)CBI)と5-[5’-ニトロインドール-2’-イル-カルボニルアミノ]インドール-2-カルボン酸とを反応させて、(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-ヒドロキシ-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-ニトロ-1H-インドール-2-カルボキサミド(DC0、10a)を製造する(摘示k、n)。この反応は、seco-(-)CBIの二級アミノ基と5-[5’-ニトロインドール-2’-イル-カルボニルアミノ]インドール-2-カルボン酸のカルボキシル基との間で、アミド結合を形成する反応である。
次いで、(実施例IX)において、DC0(10a)をPd/Cを用いて水素と反応させる(摘示l、n)。この反応は、DC0(10a)のニトロ基を還元してアミノ基に変換する反応である。次いで、3-(メチルジチオ)プロピオン酸を反応させて、(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-ヒドロキシ-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(3-メチルジチオ-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド、DC1-SMe(1b)を得る(摘示l、n)。この反応は、DC0(10a)の還元によって生じたアミノ基との間にアミド結合を形成して、3-メチルジチオ-1-オキソプロピル基を導入する反応である。
(実施例X)は、10bと15”-メチルジチオ-4”,7”,10”,13”-テトラオキサペンタデカン酸とを反応させて(S)-N-[2-{(1-クロロメチル)-1,2-ジヒドロ-5-ヒドロキシ-3H-ベンズ(e)インドール-3-イル}カルボニル]-1H-インドール-5-イル]-5-[(15”-メチルジチオ-4”,7”,10”,13”-テトラオキサペンタデシル-1-オキソプロピル)-アミノ]-1H-インドール-2-カルボキサミド(DC5-SMe)を得る製造方法であるが、図5(摘示p)を参照すると、第二のサブユニットに相当する部分の末端のインドール環に結合したアミノ基と15”-メチルジチオ-4”,7”,10”,13”-テトラオキサペンタデカン酸とでアミド結合を形成し、本願補正発明における第二のサブユニットが式(V)であり、RがNHCO(CH_(2))_(2)SSMeであり、基R_(7)相当部分がヒドロキシ基である化合物のアミド含有側鎖を導入するものである。
これら具体的製造例は、いずれも、本願補正発明における第二のサブユニットが式(V)である場合の化合物についての製造実施例であり、Rが式(V)で表される第二のサブユニットの末端のインドール環の5位に結合したアミノ基から誘導されるアミド基を含有する連結基を有するものである。
これに対し、本願補正発明は、第二のサブユニットとして式(V)のように、インドール環に結合したアミノ基を有するものだけでなく、式(VI)?(IX)の構造を有し、縮合複素環を構成する窒素原子を介して細胞結合因子が結合しうるようにされた化合物も包含するものである。
そこで、これら式(VI)?(IX)の構造を有する化合物を包含する本願補正発明について、明細書の記載は具体的製造例の記載がなくとも、当業者が実施することができる程度に記載したものといえるかを以下で検討する。

(エ)式(VI)?(IX)の構造を有する化合物について
プロドラッグ複合体の製造について、明細書の摘示cに「プロドラッグと細胞結合因子の複合体は、現在知られている又は後に開発される任意の技術を用いて形成できる。seco-CBI類似体に結合させたインドリル、ベンゾフラニル、ビス-インドリル、ビス-ベンゾフラニル、インドリル-ベンゾフラニル、又はベンゾフラニル-インドリル誘導体は、遊離アミノ基を含有するように製造し、次いで酸に不安定なリンカーを介して、又は光に不安定なリンカーによって抗体又は他の細胞結合因子に連結させることができる。」との一般的記載がある。しかし、明細書には遊離アミノ基を含有する中間体の製造法、リンカーとの結合方法などを説明する記載はなく、第二のサブユニットとして式(VI)?(IX)の構造を有する化合物を製造できる合成ルートや反応条件を知るための手がかりとなる記載もない。
このような記載に基づき、当業者が第二のサブユニットとして式(VI)?(IX)の構造を有する化合物を製造するには、基R_(7)の導入、第一のサブユニットと第二のサブユニットのアミド結合形成、第二のサブユニットへの基Rの導入をどのような順序で行うかという合成ルートの検討、各反応段階で用いる反応物質の入手、反応条件や生成物の単離精製の条件の検討を試行錯誤によって行うほかなく、技術常識を考慮しても当業者に通常期待し得る程度を超える過度の負担を強いるものである。
したがって、このような明細書の記載は、本願補正発明において第二のサブユニットとして式(VI)?(IX)の構造を有する化合物について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がされたものとはいえない。

(オ)まとめ
上記のように、明細書の記載は、本願補正発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載されたものとはいえないから、特許法第36条第4項第1項に適合するものでない。

イ サポート要件について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号判決参照)。
本願補正発明が解決しようとする課題は、摘示aに記載されたような「高い水溶性及び安定性を有し、さらに細胞結合因子への連結が可能であることによってそのようなCC-1065類似体のプロドラッグの治療的効能が、腫瘍部位への該プロドラッグの標的送達を通じてインビボの分布を変えた結果、非標的組織への低毒性、ひいては低い全身毒性が実現することによって改良されたプロドラッグ」である新規化合物を提供することであると認められる。そして、新規化合物の発明について、明細書に化合物が記載されているといえるためには、化合物が実在する化合物として当業者に認識し得るように記載されている必要がある。
上記の点を本願についてみると、上記アで指摘したように、本願補正発明において第二のサブユニットとして式(VI)?(IX)の構造を有する化合物については、実際に化合物を得て記載されていないだけでなく、上記(ウ)で述べたのと同様の理由で、当該化合物は、明細書にその記載や示唆がなくとも、当業者が得ることができるものともいえない。すなわち、明細書には、本願補正発明において第二のサブユニットとして式(VI)?(IX)の構造を有する化合物を包含する化学構造式が記載されていても、当該化学構造式で表される化合物が実在する化合物として当業者に認識し得るように記載されたものではない。
したがって、明細書には本願補正発明において第二のサブユニットとして式(VI)?(IX)の構造を有する化合物が記載されているとはいえず、本願補正発明は明細書に記載された発明であるとはいえない。
そうすると、本件補正後の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において実施可能要件及びサポート要件について、以下のように主張している。
「補正により、本願発明のプロドラッグにおいて細胞結合因子への連結を可能にする部分がどのような化学構造を含むものであるかが明確になった。また、本願発明のプロドラッグは、細胞結合因子を連結するという戦略を採用したことが重要なのであり、その戦略に即した官能基にの選択については当業者が本願明細書の記載を参照しながら適宜実施するいことができる。本願明細書(例えば段落[0008]、[0034])は、官能基の選択に際しての指標を十分に開示しており、請求項の記載において当該官能基を具体的な構造をもって特定せずとも、当業者は本願発明の技術的思想を理解し、よって本願特許請求の範囲に記載の発明を明確に理解することが可能である。」
しかし、明細書【0008】【0034】に官能基の選択に際しての指標が示されていても、上記第2 2(2)で指摘したとおり、これら官能基を有する本願発明の化合物を製造することができるように明確かつ十分な記載がなく、また、化合物が実在するものとして記載されていないのであるから、請求人の上記主張を参酌しても本願が実施可能要件及びサポート要件を満たすということはできない。

エ 独立特許要件のまとめ
以上のとおり、本件補正後の本願は、特許法第36条第4項及び同法同条第6項に規定する要件を満たしていない。
そうすると、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、上記請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

3 むすび
以上によれば、請求項1についての補正は平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、その余について検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
本件補正は却下されたから、この出願の発明は、本件補正前の特許請求の範囲、すなわち、平成22年 1月21日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載されているとおりの事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「式(I)の第一のサブユニットと式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、(VIII)又は(IX)の第二のサブユニットが、第一のサブユニットのピロール部分の第二級アミノ基から第二のサブユニットのC-2カルボキシルへのアミド結合を介して共有結合して形成されたプロドラッグであって、ここで、式(I)は次の通りであり:
【化1】(審決注:上記第2 1に示したものと同じであるので、化学構造式は省略する。)
式(II)?(IX)は次の通りであり:
【化2】(審決注:上記第2 1に示したものと同じであるので、化学構造式は省略する。)
【化3】(審決注:上記第2 1に示したものと同じであるので、化学構造式は省略する。)
式中、Rは前記プロドラッグの細胞結合因子への連結を可能にする連結基を表し; R_(1)?R_(6)は、それぞれ独立して、水素、C_(1)?C_(3)直鎖アルキル、メトキシ、ヒドロキシ、第一級アミノ、第二級アミノ、第三級アミノ、又はアミドであり;そしてR_(7)はホスフェート、又は隣接した酸素原子とともに形成するピペラジノカルバメートもしくは4-ピペリジノ-ピペリジノカルバメートである;前記プロドラッグ。」

第4 原査定の理由
拒絶査定には、「この出願については、平成21年7月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由2?4によって、拒絶をすべきものです。」と記載され、平成21年7月13日付けの拒絶理由書には、「理由」の欄に以下の記載がある。
「3.この出願は、明細書の記載が下記(C)の点で、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」
また、上記拒絶理由通知書には、「記」の(C)に以下の記載がある。
「 本願明細書の実施例、図面等から、その化学構造及び製造方法が理解できるCC-1065類似体は、請求項7に示されるものであって、R_(7)が請求項4で定義されているもの及びRが【0034】で「好適な態様」以下で示されるもののみと認められる。
一方、請求項1等に係る発明が対象とする化合物は、「類似体」、「細胞結合因子に複合させることができるリンカー」、「プロドラッグの水溶性を増大させる」、「含む」等の表現を用いて特定される多種多様な化学構造のものを包含するものであるが、上記具体的に開示された化合物以外のものが具体的に如何なる化学構造を採り得るのか、それらが如何なる製造方法により入手できるのか、その技術的範囲、外延が如何なるものであるのか等を当業者が推知するに必要な情報は本願明細書に示されていない。
そうすると、本願明細書の記載からでは、請求項1等に係る発明が対象とする化合物を理解し、製造、入手するには当業者に過度の試行錯誤、実験を要するものと認められるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、請求項1?12、23?28に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確且つ十分に記載されたものとすることはできない。
また、当該発明は、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものとはいえない。」
上記拒絶理由通知が対象としている請求項1は、平成22年 1月21日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に対応するものである。そうすると、原査定の理由は、請求項1についてみたときに、本願は、明細書の記載は特許法第36条第4項第1号に適合するものでないから、同法同条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、同法同条第6項に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものであると認められる。

第5 当審の判断
当審は、本願発明は、原査定の理由のとおり、本願は、明細書の記載は特許法第36条第4項第1号に適合するものでないから、同法同条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、同法同条第6項に規定する要件を満たしていない、と判断する。
その理由は以下のとおりである。

上記第2 2(1)で述べたように、本願補正発明は、本願発明の発明特定事項を限定して特定したものである。そして、上記第2 2(2)で検討したように、本願発明の発明特定事項を限定して特定した本願補正発明について、実施可能要件及びサポート要件を満たしていないのであるから、同様の理由で、本願補正発明を包含する本願発明についても、本願が実施可能要件及びサポート要件を満たしていないことは明らかである。

したがって、本願は、明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものでなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、特許法第36条第4項及び同法同条第6項に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項及び同法同条第6項に規定する要件を満たしていないから、その余を検討するまでもなく、特許法第49条第4号の規定により、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-27 
結審通知日 2012-09-28 
審決日 2012-10-10 
出願番号 特願2003-583343(P2003-583343)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07D)
P 1 8・ 537- Z (C07D)
P 1 8・ 536- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 東 裕子
齋藤 恵
発明の名称 CC-1065類似体の改良プロドラッグ  
代理人 社本 一夫  
代理人 小野 新次郎  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  
代理人 廣瀬 しのぶ  
代理人 富田 博行  

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