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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1270402
審判番号 不服2011-15408  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-15 
確定日 2013-02-19 
事件の表示 特願2008-284965「燃料噴射システム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月18日出願公開、特開2009-133306〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年11月6日(パリ条約による優先権主張2007年11月26日、欧州特許庁)の出願であって、平成21年1月21日付けで翻訳文が提出され、平成22年8月26日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対し、平成23年2月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年3月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年7月15日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、当審において平成24年2月20日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、平成24年8月17日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成23年7月15日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年7月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成23年7月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、下記(A)から(B)へと補正された。

(A)「 【請求項1】
内燃機関用の燃料噴射システム(8、80、86)において、
それぞれの加圧された燃料の流れを、複数の燃料噴射器(26)へ前記加圧された燃料を順次供給する共有の蓄圧容積室(22)へ、供給するために配置されている複数のポンプ(12、14)と、
前記蓄圧容積室(22)への前記加圧された燃料の流量をエンジン負荷に応じて制御するためのエンジン制御ユニット(74)と、
エンジン負荷データを前記エンジン制御ユニット(74)に入力するためのエンジン負荷データ入力装置(76)と、を備えており、
前記複数のポンプの内の少なくとも1つの第1ポンプ(12)からの前記加圧された燃料の流量は、エンジン速度に依存しており、
前記複数のポンプの内の少なくとも1つの第2ポンプ(14)は、前記ポンプ(14)からの前記加圧された燃料の流量を所与のエンジン速度における設定の範囲に亘って変動させることができるようにする前記エンジン制御ユニットに応答する燃料出力制御装置(50、78、82)を備えており、これによって、前記エンジン制御ユニットは、前記ポンプ(12、14)から前記蓄圧容積室(22)への前記加圧された燃料の総流量を制御することができ、
前記燃料出力制御装置は、前記第2ポンプ(14)への燃料の流量を制御するために配置されている吸入口計量弁(50)と、吸入口逆止弁(56)とを備えており、
前記第2ポンプ(14)は、ポンプ室(36)を備えており、
前記吸入口計量弁50は、前記エンジン制御ユニット(74)の制御の下で、前記吸入口逆止弁(56)を通して、前記ポンプ室(36)へ送出される燃料の流量を制御するように配置されている、内燃機関用の燃料噴射システム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記第2ポンプ(14)は、ポンプ吸入口(54)を備えており、
前記吸入口計量弁(50)は、計量弁部材(75)を備えており、前記計量弁部材(75)は、電磁アクチュエータによって可動になっていて、前記ポンプ吸入口(54)と前記吸入口逆止弁(56)の間の流路内のオリフィス(79)の開口の程度を制御して、前記ポンプ室(36)に到る燃料の流量を変動させることができる、システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシステムにおいて、
前記ポンプ(12、14)は、ユニットポンプである、システム。
【請求項4】
請求項3に記載のシステムにおいて、
前記ユニットポンプは、カム駆動式タペット駆動機構を有している、システム。
【請求項5】
請求項3に記載のシステムにおいて、
前記ユニットポンプは、シュー/ローラー式駆動機構を有している、システム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のシステムにおいて、
前記ポンプは、回転式駆動ポンプのポンピングユニットである、システム。
【請求項7】
請求項6に記載のシステムにおいて、
前記回転式駆動ポンプの前記ポンピングユニットは、共通ハウジングの中に配置されている、システム。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記蓄圧容積室(22)は、コモンレールである、システム。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記燃料噴射器(26)の数は、前記ユニットポンプ(18)の数より多い、システム。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記第1ポンプ(12)は、所与のエンジン速度で実質的に一定の送出量を有しており、前記第2ポンプ(14)は、そのエンジン速度で可変送出量を有している、システム。
【請求項11】
内燃機関用の燃料噴射システム(8、80、86)において、
それぞれの加圧された燃料の流れを、複数の燃料噴射器(26)へ前記加圧された燃料を順次供給する共有の蓄圧容積室(22)へ、供給するために配置されている複数のポンプ(12、14)と、
前記蓄圧容積室への前記加圧された燃料の流量をエンジン負荷に応じて制御するためのエンジン制御ユニット(74)と、
エンジン負荷データを前記エンジン制御ユニット(74)に入力するためのエンジン負荷データ入力装置(76)と、を備えており、
前記複数のポンプの内の少なくとも1つのポンプ(12)は、制御されていない燃料出力を有しており、
前記複数のポンプの内の少なくとも1つの別のポンプ(14)は、前記ポンプ(12、14)から前記蓄圧容積室(22)への前記加圧された燃料の総流量を制御するために、前記エンジン制御ユニットに応答する燃料出力制御装置(50、78、82)を備えており、
前記少なくとも1つの別のポンプからの前記加圧された燃料の流量は、所与のエンジン速度における設定の範囲に亘って変動させることができ、
前記燃料出力制御装置は、前記少なくとも1つの別のポンプ(14)への燃料の流量を制御するために配置されている吸入口計量弁(50)と、吸入口逆止弁(56)とを備えており、
前記少なくとも1つの別のポンプ(14)は、ポンプ室(36)を備えており、
前記吸入口計量弁(50)は、前記エンジン制御ユニット(74)の制御の下で、前記吸入口逆止弁(56)を通して、前記ポンプ室(36)へ送出される燃料の流量を制御するように配置されている、内燃機関用の燃料噴射システム。
【請求項12】
内燃機関の燃料噴射システム(8、80、86)の作動方法において、
それぞれの加圧された燃料の流れを共有の蓄圧容積室(22)へ供給するために複数のポンプ(12、14)を駆動する段階と、
前記ポンプ(12、14)から前記蓄圧容積室(22)への前記加圧された燃料の総流量を制御するために、エンジン負荷に応じて、前記複数のポンプ(12、14)の内の少なくとも1つ(14)の、但し全部よりは少ない数のポンプからの前記加圧された燃料の流量を制御する段階と、から成り、
前記複数のポンプ(12、14)の内の少なくとも1つのポンプ(14)からの前記加圧された燃料の流量は、所与のエンジン速度における設定の範囲に亘って変動され、
吸入口計量弁(50)が、前記複数のポンプのうちの少なくとも1つのポンプ(14)への燃料の流量を制御しており、
前記複数のポンプのうちの少なくとも1つのポンプ(14)は、ポンプ室36を備えており、
前記吸入口計量弁(50)は、前記エンジン制御ユニット(74)の制御の下で、吸入口逆止弁(56)を通して、前記ポンプ室(36)へ送出される燃料の流量を制御するように配置されている、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
前記複数のポンプ(12、14)の内の少なくとも1つのポンプ(12)からの前記加圧された燃料の流量は、エンジン速度に依存している、方法。
【請求項14】
請求項1から11の何れか1項に記載された燃料噴射システムが装備されているエンジン。
【請求項15】
請求項12又は13の何れか1項に記載の方法によって作動させることができる燃料噴射システムが装備されているエンジン。」

(B)「 【請求項1】
内燃機関用の燃料噴射システム(8、80、86)において、
それぞれの加圧された燃料の流れを、複数の燃料噴射器(26)へ前記加圧された燃料を順次供給する共有の蓄圧容積室(22)へ、供給するために配置されている複数のポンプ(12、14)と、
前記蓄圧容積室(22)への前記加圧された燃料の流量をエンジン負荷に応じて制御するためのエンジン制御ユニット(74)と、
エンジン負荷データを前記エンジン制御ユニット(74)に入力するためのエンジン負荷データ入力装置(76)と、を備えており、
前記複数のポンプの内の少なくとも1つの第1ポンプ(12)からの前記加圧された燃料の流量は、エンジン速度に依存しており、
前記複数のポンプの内の少なくとも1つの第2ポンプ(14)は、前記ポンプ(14)からの前記加圧された燃料の流量を所与のエンジン速度における設定の範囲に亘って変動させることができるようにする前記エンジン制御ユニットに応答する燃料出力制御装置(50、78、82)を備えており、これによって、前記エンジン制御ユニットは、前記ポンプ(12、14)から前記蓄圧容積室(22)への前記加圧された燃料の総流量を制御することができ、
前記燃料出力制御装置は、前記第2ポンプ(14)への燃料の流量を制御するために配置されオリフィスの開口の程度を制御する吸入口計量弁(50)と、吸入口逆止弁(56)とを備えており、
前記第2ポンプ(14)は、ポンプ室(36)を備えており、
前記吸入口計量弁50は、前記エンジン制御ユニット(74)の制御の下で、前記吸入口逆止弁(56)を通して、前記ポンプ室(36)へ送出される燃料の流量を制御するように配置されている、内燃機関用の燃料噴射システム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記第2ポンプ(14)は、ポンプ吸入口(54)を備えており、
前記吸入口計量弁(50)は、計量弁部材(75)を備えており、前記計量弁部材(75)は、電磁アクチュエータによって可動になっていて、前記ポンプ吸入口(54)と前記吸入口逆止弁(56)の間の流路内のオリフィス(79)の開口の程度を制御して、前記ポンプ室(36)に到る燃料の流量を変動させることができる、システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシステムにおいて、
前記ポンプ(12、14)は、ユニットポンプである、システム。
【請求項4】
請求項3に記載のシステムにおいて、
前記ユニットポンプは、カム駆動式タペット駆動機構を有している、システム。
【請求項5】
請求項3に記載のシステムにおいて、
前記ユニットポンプは、シュー/ローラー式駆動機構を有している、システム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のシステムにおいて、
前記ポンプは、回転式駆動ポンプのポンピングユニットである、システム。
【請求項7】
請求項6に記載のシステムにおいて、
前記回転式駆動ポンプの前記ポンピングユニットは、共通ハウジングの中に配置されている、システム。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記蓄圧容積室(22)は、コモンレールである、システム。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記燃料噴射器(26)の数は、前記ユニットポンプ(18)の数より多い、システム。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記第1ポンプ(12)は、所与のエンジン速度で実質的に一定の送出量を有しており、前記第2ポンプ(14)は、そのエンジン速度で可変送出量を有している、システム。
【請求項11】
内燃機関用の燃料噴射システム(8、80、86)において、
それぞれの加圧された燃料の流れを、複数の燃料噴射器(26)へ前記加圧された燃料を順次供給する共有の蓄圧容積室(22)へ、供給するために配置されている複数のポンプ(12、14)と、
前記蓄圧容積室への前記加圧された燃料の流量をエンジン負荷に応じて制御するためのエンジン制御ユニット(74)と、
エンジン負荷データを前記エンジン制御ユニット(74)に入力するためのエンジン負荷データ入力装置(76)と、を備えており、
前記複数のポンプの内の少なくとも1つのポンプ(12)は、制御されていない燃料出力を有しており、
前記複数のポンプの内の少なくとも1つの別のポンプ(14)は、前記ポンプ(12、14)から前記蓄圧容積室(22)への前記加圧された燃料の総流量を制御するために、前記エンジン制御ユニットに応答する燃料出力制御装置(50、78、82)を備えており、
前記少なくとも1つの別のポンプからの前記加圧された燃料の流量は、所与のエンジン速度における設定の範囲に亘って変動させることができ、
前記燃料出力制御装置は、前記少なくとも1つの別のポンプ(14)への燃料の流量を制御するために配置されオリフィスの開口の程度を制御する吸入口計量弁(50)と、吸入口逆止弁(56)とを備えており、
前記少なくとも1つの別のポンプ(14)は、ポンプ室(36)を備えており、
前記吸入口計量弁(50)は、前記エンジン制御ユニット(74)の制御の下で、前記吸入口逆止弁(56)を通して、前記ポンプ室(36)へ送出される燃料の流量を制御するように配置されている、内燃機関用の燃料噴射システム。
【請求項12】
内燃機関の燃料噴射システム(8、80、86)の作動方法において、
それぞれの加圧された燃料の流れを共有の蓄圧容積室(22)へ供給するために複数のポンプ(12、14)を駆動する段階と、
前記ポンプ(12、14)から前記蓄圧容積室(22)への前記加圧された燃料の総流量を制御するために、エンジン負荷に応じて、前記複数のポンプ(12、14)の内の少なくとも1つ(14)の、但し全部よりは少ない数のポンプからの前記加圧された燃料の流量を制御する段階と、から成り、
前記複数のポンプ(12、14)の内の少なくとも1つのポンプ(14)からの前記加圧された燃料の流量は、所与のエンジン速度における設定の範囲に亘って変動され、
オリフィスの開口の程度を制御する吸入口計量弁(50)が、前記複数のポンプのうちの少なくとも1つのポンプ(14)への燃料の流量を制御しており、
前記複数のポンプのうちの少なくとも1つのポンプ(14)は、ポンプ室(36)を備えており、
前記吸入口計量弁(50)は、前記エンジン制御ユニット(74)の制御の下で、吸入口逆止弁(56)を通して、前記ポンプ室(36)へ送出される燃料の流量を制御するように配置されている、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
前記複数のポンプ(12、14)の内の少なくとも1つのポンプ(12)からの前記加圧された燃料の流量は、エンジン速度に依存している、方法。
【請求項14】
請求項1から11の何れか1項に記載された燃料噴射システムが装備されているエンジン。
【請求項15】
請求項12又は13の何れか1項に記載の方法によって作動させることができる燃料噴射システムが装備されているエンジン。」(なお、下線は、請求人が補正個所を明示するために付したものである。)

2 本件補正の目的について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1、11及び12に係る発明の発明特定事項である「吸入口計量弁(50)」について、「オリフィスの開口の程度を制御する」という限定を加えるものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

3-1 引用文献
(1)引用文献の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-351135号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。なお、下線は理解の一助のために当審で付した。

(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィードポンプから供給された燃料を更に加圧する高圧燃料ポンプを複数備える内燃機関の燃料供給装置において、
前記複数の高圧燃料ポンプのうち一部のポンプを吐出量の調量可能な調量式高圧燃料ポンプとし、他のポンプを非調量式高圧燃料ポンプとした
ことを特徴とする内燃機関の燃料供給装置。
【請求項2】
前記調量式高圧燃料ポンプは電磁弁の開閉制御を通じてその吐出量の調量を行うものである
請求項1に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項3】
前記非調量式高圧燃料ポンプの吐出量を前記調量式高圧燃料ポンプの最大吐出量よりも少量に設定した
請求項1又は2に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項4】
前記非調量式高圧燃料ポンプの吐出量を、前記調量式高圧燃料ポンプの吐出量の調量範囲における最小吐出量よりも少量に設定した
請求項3に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項5】
前記内燃機関における要求燃料量が前記非調量式高圧燃料ポンプの吐出量以下であるとき、前記調量式高圧燃料ポンプの作動が停止されて前記非調量式高圧燃料ポンプのみによる燃料吐出がなされる
請求項1?4のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項6】
前記非調量式高圧燃料ポンプの吐出量を前記内燃機関がアイドル運転状態にあるときの要求燃料量に設定した
請求項1?5のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項7】
前記調量式高圧燃料ポンプは、加圧室から溢流する燃料の量及び同加圧室に吸入する燃料の量の少なくとも一方の調量を通じて吐出量の調量を行うものであり、
前記フィードポンプからの燃料は前記各高圧燃料ポンプに接続される複数の分岐路を介してこれら高圧燃料ポンプに各別に供給され、前記分岐路の分岐点から前記調量式高圧燃料ポンプまでの前記分岐路の長さは同分岐点から前記非調量式高圧燃料ポンプまでの前記分岐路の長さよりも長く設定されている
請求項1?6のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料供給装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項7】)

(b)「【0001】
本発明は、フィードポンプから供給された燃料を更に加圧する高圧燃料ポンプを複数備える内燃機関の燃料供給装置に関する。」(段落【0001】)

(c)「【0002】
従来、この種の装置としては、例えば特許文献1にみられるようなものが知られている。
即ち、この装置は、シリンダとこのシリンダ内を往復動するプランジャとにより区画される加圧室に吸入された燃料を該加圧室から溢流させる電磁弁を有する調量式高圧燃料ポンプを備えて構成されている。そして、この調量式高圧燃料ポンプでは、その吸入行程において上記プランジャのリフト量に応じた一定量の燃料が上記加圧室内に吸入される。他方、その加圧行程にあっては、内燃機関の要求燃料量に応じた上記電磁弁の開閉制御を通じて上記加圧室から溢流される燃料の量が調量され、これによって燃料の吐出量が調量される。
【0003】
また、この装置では、例えばV型8気筒からなる筒内噴射式内燃機関のような要求燃料量の多い内燃機関に対応して、こうした調量式高圧燃料ポンプを各バンク毎に1つずつ、すなわち合計で2つ備える構成としている。ただしこの場合、ポンプの数が増加した分、電磁弁の開閉動作に伴う騒音が装置全体として増大することにもなる。そこでこの装置では、アイドル時などの内燃機関の要求燃料量が少ないときには、上記2つのポンプの一方のみを用いて燃料を加圧圧送するようにし、これによって電磁弁の開閉動作に伴う騒音を装置全体として低減させるようにしている。
【特許文献1】特開2002-213326号公報」(段落【0002】及び【0003】)

(d)「【0004】
しかしながら、上記装置では、要求燃料量の少ないときには電磁弁の開閉動作に伴う騒音を装置全体として減少できるとしても、当該内燃機関の搭載される車両の走行時など、要求燃料量が多いときには双方の調量式高圧燃料ポンプが作動され、上記電磁弁の開閉動作、換言すれば吐出量の調量操作に伴う騒音は装置全体として増大することとなる。
【0005】
また、調量式高圧燃料ポンプとしては、上記のように電磁弁を利用して吐出量の調量を行うものに限らず、例えば上記プランジャを往復動させるカムのプロフィールをカムシャフトの軸線に対して傾斜させ、この軸線方向への同シャフトの移動量制御を通じて上記プランジャのストロークひいては吐出量を調量するものが考えられる。しかし、いずれにせよ、要求燃料量が多いときには双方の調量式高圧燃料ポンプが作動されることとなり、上記同様、調量操作に伴う騒音が装置全体として増大するといった問題は依然として残ることとなる。
【0006】
本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、騒音の発生を抑制することのできる内燃機関の燃料供給装置を提供することにある。」(段落【0004】ないし【0006】)

(e)「【0007】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
先ず、請求項1に係る発明は、フィードポンプから供給された燃料を更に加圧する高圧燃料ポンプを複数備える内燃機関の燃料供給装置において、前記複数の高圧燃料ポンプのうち一部のポンプを吐出量の調量可能な調量式高圧燃料ポンプとし、他のポンプを非調量式高圧燃料ポンプとしたことをその要旨とする。
【0008】
同構成によれば、複数の高圧燃料ポンプの全てを調量式高圧燃料ポンプとした構成と異なり、吐出量の調量操作に伴う騒音の発生を装置全体として抑制することができるようになる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記調量式高圧燃料ポンプは電磁弁の開閉制御を通じてその吐出量の調量を行うものであることをその要旨とする。
同構成によれば、電磁弁の開閉動作に伴い発生する騒音を装置全体として抑制することができるようになる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記非調量式高圧燃料ポンプの吐出量を前記調量式高圧燃料ポンプの最大吐出量よりも少量に設定したことをその要旨とする。
【0011】
同構成によれば、例えば、非調量式高圧燃料ポンプの吐出量を調量式高圧燃料ポンプの最大吐出量よりも多量に設定した構成と比較して、装置全体としての最大吐出量が同じ場合において吐出量の調量範囲を広く確保することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記非調量式高圧燃料ポンプの吐出量を、前記調量式高圧燃料ポンプの吐出量の調量範囲における最小吐出量よりも少量に設定したことをその要旨とする。
【0013】
例えば、全ての高圧燃料ポンプを調量式高圧燃料ポンプとした構成においては、装置全体としての吐出量に関して、全ての高圧燃料ポンプを停止してこれを「0」とすることや、或いは高圧燃料ポンプを1つのみ作動させてこれを同ポンプにおける下限側の調量限界、即ち上記最小吐出量とすることはできても、この最小吐出量より少量とすることはできない。
【0014】
その点、本発明によれば、調量式高圧燃料ポンプの作動を停止して非調量式高圧燃料ポンプのみによる燃料吐出を行うようにすることで、装置全体としての吐出量を上記最小吐出量よりも少量とすることができるようになる。従って、内燃機関の要求燃料量が上記最小吐出量よりも少ない場合に、装置全体としての吐出量を上記要求燃料量により近い量とすることができ、よりきめ細やかな吐出量の調量が可能となる。
【0015】
なお、本発明における「最小吐出量」は、調量式高圧燃料ポンプの作動時におけるその吐出量調量範囲でのものを指しており、同ポンプの停止時における吐出量(即ち「0」)とは異なるものとする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1?4のいずれか一項に記載の発明において、前記内燃機関における要求燃料量が前記非調量式高圧燃料ポンプの吐出量以下であるとき、前記調量式高圧燃料ポンプの作動が停止されて前記非調量式高圧燃料ポンプのみによる燃料吐出がなされることをその要旨とする。
【0017】
同構成によれば、内燃機関における要求燃料量が非調量式燃料ポンプの吐出量以下であるときには、調量操作に伴う騒音の発生を完全に防止することができる。
請求項6に記載の発明は、請求項1?5のいずれか一項に記載の発明において、前記非調量式高圧燃料ポンプの吐出量を前記内燃機関がアイドル運転状態にあるときの要求燃料量に設定したことをその要旨とする。
【0018】
内燃機関がアイドル運転状態にあるときの要求燃料量を調量式高圧燃料ポンプの吐出量の調量操作を通じて行うようにすると、その調量操作に伴う騒音の発生が避けきれない。一方、こうしたアイドル運転時の要求燃料量を非調量式高圧燃料ポンプによる燃料吐出によって確保する場合、こうした調量操作に伴う騒音の発生は抑えることができるものの、非調量式高圧燃料ポンプの吐出量がアイドル運転時の要求燃料量を上回っている場合には、その分、非調量式高圧燃料ポンプの駆動に伴うエネルギ損失が生じることとなる。
【0019】
その点、本発明によれば、内燃機関がアイドル運転状態にあるときに調量式高圧燃料ポンプの作動を停止することで装置全体としての最小吐出量をアイドル運転時の要求燃料量と等しい量とすることができるようになるため、上記アイドル運転時において要求燃料量を超えた無駄な燃料吐出を極力回避することができるようになる。その結果、無駄なエネルギ消費を抑え、燃費の向上を図り得るようになる。
【0020】
また、アイドル運転時には、内燃機関の燃焼騒音が小さくなるなど、運転者においては他の騒音が比較的認識され易い状況となる。その点、本発明によれば、そうした比較的騒
音の認識し易い状態において吐出量の調量操作に伴う騒音の発生をなくすことができるため、騒音防止効果がより一層顕著なものとなる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1?6のいずれか一項に記載の発明において、前記調量式高圧燃料ポンプは、加圧室から溢流する燃料の量及び同加圧室に吸入する燃料の量の少なくとも一方の調量を通じて吐出量の調量を行うものであり、前記フィードポンプからの燃料は前記各高圧燃料ポンプに接続される複数の分岐路を介してこれら高圧燃料ポンプに各別に供給され、前記分岐路の分岐点から前記調量式高圧燃料ポンプまでの前記分岐路の長さは同分岐点から前記非調量式高圧燃料ポンプまでの前記分岐路の長さよりも長く設定されていることをその要旨とする。
【0022】
加圧室から溢流する燃料の量及び同加圧室に吸入する燃料の量の少なくとも一方の調量を通じて吐出量の調量を行う調量式高圧燃料ポンプにおいては、フィードポンプ側に伝播する圧力脈動が吐出量の調量操作に伴って分岐路内に生じ易くなる。こうした圧力脈動が分岐点に達すると、非調量式高圧燃料ポンプの燃料吸入ひいてはポンプ効率に悪影響を及ぼす懸念が生じる。
【0023】
その点、本発明では分岐点からの分岐路の長さに関して、調量式高圧燃料ポンプまでの長さが非調量式高圧燃料ポンプまでの長さよりも長く設定されることから、こうした調量式高圧燃料ポンプからの圧力脈動が分岐点に達するまでに好適に減衰される。従って、非調量式高圧燃料ポンプにおけるポンプ効率の低下を抑制することができるようになる。」(段落【0007】ないし【0023】)

(f)「【0025】
図1に示すように、この内燃機関の燃料供給装置は、フィードポンプ11、第1及び第2高圧燃料ポンプ30a,30bを備えている。フィードポンプ11は燃料タンク10内に貯蔵された燃料を汲み上げ、各高圧燃料ポンプ30a,30bはその汲み上げられた燃料を更に加圧して送り出す。各高圧燃料ポンプ30a,30bから送り出された高圧燃料は、各対応する高圧燃料配管(デリバリパイプ)17a,17bに圧送される。高圧燃料配管17a,17bに送られた高圧燃料は、必要な圧力に保持された状態でその内部に蓄えられ、内燃機関の各気筒毎に設けられたインジェクタ22に分配される。そしてそのインジェクタ22によって、必要とされる量の燃料が必要なタイミングで内燃機関に噴射供給される。
【0026】
なお、この内燃機関では、双方のバンクに各々1つずつの高圧燃料配管17a,17bを備える構成となっており、各高圧燃料配管17a、17bには片バンク分の4つのインジェクタ22がそれぞれ接続されている。そして、各高圧燃料ポンプ30a,30bは、各対応する高圧燃料配管17a、17bに対して1つが配設されている。ちなみに、この内燃機関では上記2つの高圧燃料配管17a、17bは、接続パイプ18を通じて連結されており、実質的には一体の高圧燃料配管として機能している。
【0027】
さて、本燃料供給装置においてフィードポンプ11によって汲み上げられた燃料は、燃料供給路12を通じて各高圧燃料ポンプ30a,30bに向けて送られる。この燃料供給路12は、燃料タンク10の燃料を各高圧燃料配管17a,17bに供給するためのものであり、その途中に設定される分岐点13と各高圧燃料配管17a,17bとを各別に接続する分岐路14a,14bを有して構成されている。各高圧燃料ポンプ30a,30bは、それぞれ各対応する分岐路14a,14bの途中に設けられている。各高圧燃料ポンプ30a,30bは、それぞれ加圧した高圧燃料を、各対応する分岐路14a,14bを通じて各高圧燃料配管17a,17bに圧送可能となっている。なお、上記した高圧燃料の圧送がなされる各分岐路14a,14bの途中にはチェック弁19が設けられ、各高圧燃料配管17a,17b側から各高圧燃料ポンプ30a,30b側への燃料の逆流が防止されるようになっている。
【0028】
一方の高圧燃料配管である高圧燃料配管17bには、リリーフ弁20を介してドレイン通路21が接続されている。リリーフ弁20は、高圧燃料配管17bひいては高圧燃料配管17a内の燃料圧力が所定圧(例えば14?14.5MPa)以上となることで開弁し、同配管内に蓄えられた燃料の一部をドレイン通路21を通じて燃料タンク10に戻している。これにより、高圧燃料配管17a,17b内の燃料圧力の過剰な高圧化が防止される。
【0029】
さて、各高圧燃料ポンプ30a,30bは、その内部にシリンダ32及びプランジャ33を備えている。プランジャ33は、シリンダ32内を往復動可能に配設されている。内燃機関の吸気弁用、或いは排気弁用のカムシャフト23上には、各高圧燃料ポンプ30a,30bに対応してポンプ用カム24a,24bが各別に設けられており、これらポンプ用カム24a,24bの回転によって、各対応するプランジャ33が一定のストロークで往復動されるようになっている。
【0030】
各高圧燃料ポンプ30a,30bの内部には、シリンダ32及びプランジャ33によって区画されて、加圧室34が形成されている。各加圧室34は、各対応する高圧燃料ポンプ30a,30bに形成された弁室31a,31bと、各分岐路14a,14bの一部とを介して、分岐点13に接続されるとともに、各チェック弁19と、各分岐路14a,14bの他部とを介して、各高圧燃料配管17a,17bに接続されている。
【0031】
加圧室34の容積は、プランジャ33の往復動に応じて変化する。そしてこの往復動によって加圧室34の容積が拡大される各高圧燃料ポンプ30a,30bの吸入行程においては、各分岐路14a,14bを介して分岐点13側から加圧室34内に燃料が吸入される。また、加圧室34の容積が縮小される各高圧燃料ポンプ30a,30bの加圧行程においては、吸入行程において加圧室34内に吸入された燃料がチェック弁19を介して高圧燃料配管17a,17bに吐出され得るようになっている。各加圧室34においては、プランジャ33がそれぞれ一定のストロークで往復動することから、この往復動に伴う容積変化量(最大容積と最小容積との差)がそれぞれ一定となっている。
【0032】
なお、本実施形態では、両ポンプ用カム24a,24b間でカム山が異なる高さに設定されており、両高圧燃料ポンプ30a,30b間でプランジャ33のストロークが異なるようになっている。即ち本実施形態ではこうした構成によって、加圧室34の上記容積変化量が第1高圧燃料ポンプ30aと第2高圧燃料ポンプ30bとで異なるように設定されている。具体的には、第1高圧燃料ポンプ30aにおける上記容積変化量が第2高圧燃料ポンプ30bのそれよりも大きく設定されている。」(段落【0025】ないし【0032】)

(g)「【0033】
以下、本実施形態の特徴的な構成について説明する。
本燃料供給装置では、2つ設けられた高圧燃料ポンプ、即ち第1及び第2高圧燃料ポンプ30a,30bのうち、第1高圧燃料ポンプ30aにはその高圧燃料配管17a側への吐出量を調量するための制御手段が設けられる一方、第2高圧燃料ポンプ30bはこうした制御手段を有さない構成とされている。
【0034】
即ち、第1高圧燃料ポンプ30aの内部には、電磁スピル弁35が設けられている。電磁スピル弁35は、電磁ソレノイドへの通電制御によって開閉動作し、それにより弁室31aと加圧室34との間の連通遮断を行う電磁弁となっている。ここでは、電磁スピル弁35は、電磁ソレノイドへの通電停止に応じて開弁して弁室31aと加圧室34とを連通するとともに、電磁ソレノイドへの通電に応じて閉弁してそれらの連通を遮断する構成となっている。
【0035】
従って、吸入行程において電磁スピル弁35を開弁した状態としておけば、燃料タンク10側からの燃料が弁室31aを介して加圧室34内に吸入されるようになる。ここで電磁スピル弁35が開弁された状態のまま加圧行程を迎えると、吸入行程で加圧室34内に吸入された燃料は弁室31aへと溢流する。このとき、燃料は高圧燃料配管17aに圧送されることなく弁室31aから燃料供給路12を介して燃料タンク10側に戻される。このため、加圧行程の開始から終了まで電磁スピル弁35を開弁した状態に保持すれば、燃料が高圧燃料配管17aに圧送されることはなく、即ち、第1高圧燃料ポンプ30aの作動を停止することができる。
【0036】
これに対して、加圧行程中に電磁スピル弁35を閉弁して弁室31aと加圧室34とを遮断すると、プランジャ33による加圧室34の容積縮小に応じて、加圧室34内の燃料が高圧化される。そして加圧室34内の燃料圧力が所定圧以上となるとチェック弁19が押し開かれて、燃料が高圧燃料配管17aに圧送される。
【0037】
このように第1高圧燃料ポンプ30aでは、加圧行程中に電磁スピル弁35を閉弁することにより高圧燃料配管17aに燃料を加圧吐出するようにしている。こうした第1高圧燃料ポンプ30aにおいては、その加圧行程中の電磁スピル弁35の閉弁時期を制御することで、高圧燃料配管17aへの燃料の吐出量が調量されるようになる。即ち、この第1高圧燃料ポンプ30aでは、加圧行程の電磁スピル弁35が閉弁されている期間に限って加圧室34から高圧燃料配管17a側に燃料が吐出されるようになっている。従って、例えば、加圧行程中の電磁スピル弁35の閉弁タイミングを早めるなどして加圧行程中の閉弁期間を長くすれば、高圧燃料配管17aへの燃料の吐出量が増加し、閉弁タイミングを遅らせて閉弁期間を短くすれば、燃料の吐出量が減少するようになる。
【0038】
一方、こうした吐出量の調量制御のなされない第2高圧燃料ポンプ30bにおいては、上述の電磁スピル弁35に代えて、分岐路14bにおける加圧室34と分岐点13との間の部分に、同加圧室34側から分岐点13側への燃料の戻りを防止するチェック弁36が配設されている。チェック弁36は、弁室31b内に配置された弁体、及び弁孔を塞ぐべく同弁体を付勢するスプリングを有して構成されている。
【0039】
従って、第2高圧燃料ポンプ30bでは、その吸入行程において、プランジャ33による加圧室34の容積拡大に応じて燃料タンク10側からの燃料がチェック弁36即ち弁室31bを介して加圧室34内に吸入されるようになる。このチェック弁36においては、吸入行程における燃料吸入期間を上記プランジャ33による加圧室34の容積拡大期間に極力近づけるべく(極力長期化すべく)、上記弁体に対するスプリングの付勢力が極小さく設定されている。
【0040】
そして加圧行程では、プランジャ33による加圧室34の容積縮小に応じて、加圧室34内の燃料が高圧化され、その燃料圧力が所定圧以上となるとチェック弁19が押し開かれて、燃料が高圧燃料配管17bに圧送される。
【0041】
このように本実施形態では、第1高圧燃料ポンプ30aには電磁スピル弁35を設ける一方、第2高圧燃料ポンプ30bにはこうした吐出量を調量するための制御手段を設けないようにしている。これによれば、第1高圧燃料ポンプ30aの作動が停止されて第2高圧燃料ポンプ30bのみが作動されるときには電磁スピル弁35の開閉動作音は全く生じなくなる。また、双方の高圧燃料ポンプ30a,30bが作動しているときであっても、例えばこれら双方の高圧燃料ポンプ30a,30bに電磁スピル弁35が設けられる構成と比較して、こうした電磁スピル弁35の開閉動作に伴い発生する騒音を装置全体として抑制することができるようになる。
【0042】
ところで、上記のように構成される第2高圧燃料ポンプ30bにおいては、高圧燃料配管17bへの燃料吐出量に関し、これがプランジャ33の往復動に伴う加圧室34の容積変化量に応じたものとなっている。即ち、この第2高圧燃料ポンプ30bにおいてはその燃料吐出量(カムシャフト23の1回転あたりの燃料吐出量)が一定とされている。
【0043】
従って、内燃機関における要求燃料量(カムシャフト23の1回転あたりの要求燃料量)が第2高圧燃料ポンプ30bの燃料吐出量よりも少量である場合には、例え第1高圧燃料ポンプ30aの作動を停止したとしても、上記燃料吐出量と上記要求燃料量との差分に関して無駄なエネルギが消費されることとなる。
【0044】
本実施形態では、こうした無駄なエネルギ消費が生じるのを極力抑制すべく、第2高圧燃料ポンプ30bの燃料吐出量が少なめに、即ち、第1高圧燃料ポンプ30aの最大吐出量(カムシャフト23の1回転あたりの最大吐出量)よりも少量に設定されている。こうすることで、例えば、第2高圧燃料ポンプ30bの燃料吐出量を第1高圧燃料ポンプ30aの最大吐出量よりも多量に設定した構成と比較して、装置全体としての最大吐出量が同じ場合において吐出量の調量範囲を広く確保することができるようにもなる。」(段落【0033】ないし【0044】)

(h)「【0052】
続いて、上述の第1高圧燃料ポンプ30aの作動制御即ち吐出量の調量操作を行うための本燃料供給装置の制御系統について説明する。
図1に併せ示すように、本燃料供給装置の制御系統は、電子制御ユニット(ECU)40を中心に構成されている。ECU40は、インジェクタ22の制御による燃料噴射量や燃料噴射時期の制御など、内燃機関の運転状態の制御を司り、その一環として上記電磁スピル弁35の開閉制御を併せ行っている。
【0053】
ECU40は、中央演算装置(CPU)やメモリ等を備える算術論理演算回路として構成されており、外部の機器との信号の入出力のためのポートを備えている。ECU40の入力ポートには、例えばクランク角センサ41、吸気圧センサ42、アクセルセンサ43を始めとして、内燃機関や車両の運転状態を検出する各種センサ類の検出信号が入力されている。ECU40は、これらセンサ類の検出信号に基づいて内燃機関の負荷や機関回転速度等、機関運転状態を示す各種パラメータを算出するとともに、これらに基づいて内燃機関における上述の要求燃料量を算出する。またECU40の入力ポートには、高圧燃料配管17bに取り付けられた燃圧センサ44も接続されており、ECU40はその検出信号に基づいて高圧燃料配管17a,17b内の燃料圧力を求めている。その一方、ECU40の出力ポートには、インジェクタ22や電磁スピル弁35等への信号線が接続されて、それらへの指令信号が出力されている。
【0054】
以上のように構成されたECU40は、電磁スピル弁35の開閉制御を通じて第1高圧燃料ポンプ30aの燃料吐出量の調量操作を行っている。同制御においてECU40は、内燃機関における要求燃料量に応じて第1高圧燃料ポンプ30aの燃料吐出量を調量する。特に、上記要求燃料量が第2高圧燃料ポンプ30bの燃料吐出量以下であるときには、電磁スピル弁35の開閉動作が停止されて第1高圧燃料ポンプ30aからの燃料吐出が停止されるようになっている。この状態では、第2高圧燃料ポンプ30bのみによる燃料吐出がなされることとなり、従って、電磁スピル弁35の開閉動作に伴う騒音の発生は完全に防止される。
(中略)
【0060】
なお、上述した構成においては、請求項との関係に関し、第1高圧燃料ポンプ30aが「調量式高圧燃料ポンプ」に相当し、第2高圧燃料ポンプ30bが「非調量式高圧燃料ポンプ」に相当する。」(段落【0052】ないし【0060】)

(i)「【0061】
なお、実施の形態は上記に限定されるものではなく、例えば、以下の様態としてもよい。
・上記実施形態では、第1高圧燃料ポンプ30aの最大吐出量と第2高圧燃料ポンプ30bの吐出量とを異なるものとすべく、両ポンプ30a,30b間でプランジャ33のストロークを異ならせたが、これに限らず、例えば、プランジャ33の外径を異ならせるようにしてもよい(この場合シリンダ32の内径も同様に変更する)。
(中略)
【0069】
・上記実施形態では、燃料の溢流を生じさせるスピル弁を上記電磁弁として採用したが、これに限らず、例えば、ポンプの吸入行程において、その開閉動作に応じて燃料の吸入を許容/禁止する吸入調量弁を上記電磁弁として採用してもよい。なお、上記吸入調量弁は上記スピル弁に代えて設けられてもよく、また、これら双方が共に設けられてもよい。
【0070】
・上記実施形態では、電磁弁の開閉動作に基づき高圧燃料ポンプの吐出量を調量するようにしたが、これに限らず、例えば、プランジャ33のストロークを変更することにより上記吐出量を調量するようにしてもよい。この場合、例えば、プランジャ33を往復動させるカムのプロフィールをカムシャフト23の軸線に対して傾斜させ、この軸線方向への同シャフト23の移動量制御を通じてプランジャ33のストロークを変更する構成とする。
【0071】
・上記実施形態では、各高圧燃料ポンプ30a,30bが、分岐路14a,14bの途中に各別に配置された、即ち燃料供給路12において並列に配置されたが、これに限らず、例えば、両ポンプ30a,30bの一方が燃料供給路12において他方の上流側に配置されるなど、直列に配置されてもよい。
【0072】
・本発明を、高圧燃料ポンプを3つ以上備える内燃機関の燃料供給装置に適用してもよい。この場合、調量式高圧燃料ポンプと非調量式高圧燃料ポンプとを各1つ以上備えていれば、両者の数量関係はどのように設定されていてもよい。」(段落【0061】ないし【0072】)

(2)引用文献の記載から分かること
(1)(a)ないし(i)及び図1より、以下の事項が分かる。

(ア)(1)(a)ないし(i)及び図1より、引用文献には、内燃機関において、フィードポンプ11は燃料タンク10内に貯蔵された燃料を汲み上げ、各高圧燃料ポンプ30a,30bはその汲み上げられた燃料を更に加圧して送り出し、各高圧燃料ポンプ30a,30bから送り出された高圧燃料は、各対応する高圧燃料配管17a,17bに圧送され、高圧燃料配管17a,17bに送られた高圧燃料は、必要な圧力に保持された状態でその内部に蓄えられ、内燃機関の各気筒毎に設けられたインジェクタ22に分配され、そのインジェクタ22によって、必要とされる量の燃料が必要なタイミングで内燃機関に噴射供給されるというシステム、すなわち、内燃機関用の燃料噴射システムが記載されていることが分かる。

(イ)(1)(a)ないし(i)及び図1より、引用文献に記載された内燃機関用の燃料噴射システムは、それぞれの加圧された燃料の流れを、複数のインジェクタ22へ前記加圧された燃料を順次供給する共有の高圧燃料配管17a,17bへ、供給するために配置されている複数の高圧燃料ポンプ30a,30bを備えていることが分かる。

(ウ)(1)(a)ないし(i)及び図1より、引用文献に記載された内燃機関用の燃料噴射システムは、前記高圧燃料配管17a,17bへの前記加圧された燃料の流量を内燃機関の負荷に応じて制御するための電子制御ユニット(ECU)40と、内燃機関や車両の運転状態を検出する各種センサ類の検出信号が入力されるECU40の入力ポートとを備えていることが分かる。

(エ)(1)(a)ないし(i)(特に段落【0042】の記載を参照。)及び図1より、引用文献に記載された内燃機関用の燃料噴射システムにおいて、前記複数の高圧燃料ポンプ30a,30bの内の少なくとも1つの第2高圧燃料ポンプ30bからの燃料吐出量(カムシャフト23の1回転あたりの燃料吐出量)が一定とされていることから、上記第2高圧燃料ポンプ30bからの前記加圧された燃料の流量は、カムシャフト23の回転数に比例しており、カムシャフト23の回転数はエンジンの回転数に比例するから、前記加圧された燃料の流量は、エンジンの回転速度に依存していることが分かる。

(オ)(1)(a)ないし(i)及び図1より、引用文献に記載された内燃機関用の燃料噴射システムにおいて、前記複数の高圧燃料ポンプ30a,30bの内の少なくとも1つの第1高圧燃料ポンプ30aは、第1高圧燃料ポンプ30aからの加圧された燃料の流量を、エンジンの回転速度に依存した流量から、設定された範囲に亘って変動させることができるようにする、電子制御ユニット(ECU)40に応答し、電磁弁を備える燃料吐出量調量装置を備えており、これによって、電子制御ユニット(ECU)40は、前記複数の高圧燃料ポンプ30a,30bから前記高圧燃料配管17a,17bへの前記加圧された燃料の総流量を制御することができることが分かる。

(カ)(1)(a)ないし(i)(特に段落【0034】の記載を参照。)及び図1より、引用文献に記載された内燃機関用の燃料噴射システムにおいて、前記燃料吐出量調量装置は、前記第1高圧燃料ポンプ30aへの燃料の流量を制御するために配置される電磁弁を備えていることが分かる。また、前記第1高圧燃料ポンプ30aは、加圧室34を備えていることが分かる。

(キ)(1)(a)ないし(i)(特に段落【0054】の記載を参照。)、上記(オ)、(カ)及び図1より、引用文献に記載された内燃機関用の燃料噴射システムにおいて、前記電磁弁は、前記電子制御ユニット(ECU)40の制御の下で、前記加圧室34へ送り出される燃料の流量を制御するように配置されていることが分かる。

(ク)(1)(a)ないし(i)(特に段落【0069】の記載を参照。)、及び図1より、前記燃料吐出量調量装置を構成する電磁弁は、前記電磁スピル弁35に限られないことが分かる。例えば、ポンプの吸入行程において、その開閉動作に応じて燃料の吸入を許容/禁止する吸入調量弁を上記電磁弁として採用してもよく、上記吸入調量弁は上記スピル弁に代えて設けられてもよく、また、上記吸入調量弁と上記スピル弁が共に設けられてもよいことが分かる。したがって、上記(オ)、(カ)、(キ)における「電磁弁」は、「吸入調量弁及び電磁スピル弁35」とすることができることが分かる。その際、「前記吸入調量弁は、前記電子制御ユニット(ECU)40の制御の下で、前記電磁スピル弁35を通して、前記加圧室34へ送り出される燃料の流量を制御するように配置されている」となることも分かる。

(3)引用文献記載の発明
上記(1)(a)ないし(i)、(2)(ア)ないし(ク)及び図1から、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されているといえる。

「内燃機関用の燃料噴射システムにおいて、
それぞれの加圧された燃料の流れを、複数のインジェクタ22へ前記加圧された燃料を順次供給する共有の高圧燃料配管17a,17bへ、供給するために配置されている複数の高圧燃料ポンプ30a,30bと、
前記高圧燃料配管17a,17bへの前記加圧された燃料の流量を内燃機関の負荷に応じて制御するための電子制御ユニット(ECU)40と、
内燃機関や車両の運転状態を検出する各種センサ類の検出信号を電子制御ユニット(ECU)40に入力するための入力ポートと、を備えており、
前記複数の高圧燃料ポンプ30a,30bの内の少なくとも1つの第2高圧燃料ポンプ30bからの前記加圧された燃料の流量は、エンジンの回転速度に依存しており、
前記複数の高圧燃料ポンプ30a,30bの内の少なくとも1つの第1高圧燃料ポンプ30aは、前記第1高圧燃料ポンプ30aからの前記加圧された燃料の流量を所与のエンジンの回転速度における設定された範囲に亘って変動させることができるようにする前記電子制御ユニット(ECU)40に応答する燃料吐出量調量装置を備えており、これによって、前記電子制御ユニット(ECU)40は、前記複数の高圧燃料ポンプ30a,30bから前記高圧燃料配管17a,17bへの前記加圧された燃料の総流量を制御することができ、
前記燃料吐出量調量装置は、前記第1高圧燃料ポンプ30aへの燃料の流量を制御するために配置される吸入調量弁と、電磁スピル弁35とを備えており、
前記第1高圧燃料ポンプ30aは、加圧室34を備えており、
前記吸入調量弁は、前記電子制御ユニット(ECU)40の制御の下で、前記電磁スピル弁35を通して、前記加圧室34へ送り出される燃料の流量を制御するように配置されている、内燃機関用の燃料噴射システム。」

3-2 対比
本願補正発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「インジェクタ22」は、その構成及び機能からみて、本願補正発明における「燃料噴射器(26)」に相当し、以下、同様に、「高圧燃料配管17a,17b」は「蓄圧容積室(22)」に、「高圧燃料ポンプ30a,30b」は「ポンプ(12、14)」に、「内燃機関の負荷」は「エンジン負荷」に、「電子制御ユニット(ECU)40」は「エンジン制御ユニット(74)」に、「内燃機関や車両の運転状態を検出する各種センサ類の検出信号」は「エンジン負荷データ」に、「入力ポート」は「エンジン負荷データ入力装置」に、「第2高圧燃料ポンプ30b」は「第1ポンプ(12)」に、「エンジンの回転速度」は「エンジン速度」に、「第1高圧燃料ポンプ30a」は「第2ポンプ(14)」に、「加圧室34」は「ポンプ室(36)」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明における「燃料吐出量調量装置」は、第1高圧燃料ポンプ30a(本願補正発明における「第2ポンプ」に相当)からの加圧された燃料の流量を所与のエンジンの回転速度における設定された範囲に亘って変動させることができるようにする前記電子制御ユニット(ECU)40に応答するものであるから、本願補正発明における「燃料出力制御装置(50、78、82)」に対応する。
また、引用文献記載の発明における「吸入調量弁」は、第1高圧燃料ポンプ30a(本願補正発明における「第2ポンプ」に相当)の吸入口に配置され、第1高圧燃料ポンプの加圧室34(本願補正発明における「ポンプ室(36)」に相当)へ送り出される燃料の流量を制御することにより吐出量の調量制御を行う弁であるから、本願補正発明における「吸入口計量弁(50)」に対応し、その際、引用文献記載の発明における「電磁スピル弁35」は、吸入口に設けられる逆止弁でもあることから、本願補正発明における「吸入口逆止弁(56)」に対応する。

したがって、両者は、
「内燃機関用の燃料噴射システムにおいて、
それぞれの加圧された燃料の流れを、複数の燃料噴射器へ前記加圧された燃料を順次供給する共有の蓄圧容積室へ、供給するために配置されている複数のポンプと、
前記蓄圧容積室への前記加圧された燃料の流量をエンジン負荷に応じて制御するためのエンジン制御ユニットと、
エンジン負荷データを前記エンジン制御ユニットに入力するためのエンジン負荷データ入力装置と、を備えており、
前記複数のポンプの内の少なくとも1つの第1ポンプからの前記加圧された燃料の流量は、エンジン速度に依存しており、
前記複数のポンプの内の少なくとも1つの第2ポンプは、前記ポンプからの前記加圧された燃料の流量を所与のエンジン速度における設定された範囲に亘って変動させることができるようにする前記エンジン制御ユニットに応答する燃料出力制御装置を備えており、これによって、前記エンジン制御ユニットは、前記ポンプから前記蓄圧容積室への前記加圧された燃料の総流量を制御することができ、
前記燃料出力制御装置は、前記第2ポンプへの燃料の流量を制御するために配置される吸入調量弁と、吸入口逆止弁とを備えており、
前記第2ポンプは、ポンプ室を備えており、
前記吸入調量弁は、前記エンジン制御ユニットの制御の下で、前記吸入口逆止弁を通して、前記ポンプ室へ送り出される燃料の流量を制御するように配置されている、内燃機関用の燃料噴射システム。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
・本願補正発明における「燃料出力制御装置」は、「第2ポンプへの燃料の流量を制御するために配置されオリフィスの開口の程度を制御する吸入口計量弁と、吸入口逆止弁とを備えており」、「吸入口計量弁は、エンジン制御ユニットの制御の下で、吸入口逆止弁を通して、ポンプ室へ送出される燃料の流量を制御するように配置されている」のに対し、引用文献記載の発明における「燃料吐出量調量装置」は、「第1高圧燃料ポンプ30aへの燃料の流量を制御するために配置される吸入調量弁と、電磁スピル弁35とを備えており」、「吸入調量弁は、電子制御ユニット(ECU)40の制御の下で、電磁スピル弁35を通して、加圧室34へ送り出される燃料の流量を制御するように配置されている」点(以下、「相違点」という)。

3-3 判断
上記相違点について検討する。
「燃料出力制御装置」を、吸入口計量弁と、吸入口逆止弁とから構成する技術は、周知技術(以下、「周知技術1」という。例えば、拒絶査定において例示された特開2004-278491号公報(特に段落【0014】及び図1を参照。)、特開2003-113741号公報(特に段落【0017】及び図1を参照。)及び特開2004-316518号公報(特に段落【0017】及び図1を参照。)のほか、新たに例示する特開2003-227440号公報(特に【特許請求の範囲】及び図3を参照。)、特表平8-505680号公報(特に【特許請求の範囲】、第19ページ第10ないし13行及び図1を参照。)、特開2005-256738号公報(特に【特許請求の範囲】及び図1ないし3を参照。)、特開2004-316640号公報(特に【特許請求の範囲】及び図1ないし5を参照。)にすぎない。
また、吸入口計量弁において、オリフィスの開口の程度を制御する技術も、周知技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開2004-19469号公報(特に段落【0035】並びに図1及び2を参照。)、特開2003-222059号公報(特に【特許請求の範囲】、段落【0018】及び図1ないし5を参照。)、特開2003-120845号公報(特に【特許請求の範囲】、段落【0003】、【0030】ないし【0032】及び図1ないし18を参照。)、特開2003-139009号公報の段落【0004】、【0034】ないし【0036】及び図1ないし11を参照。)にすぎない。
してみれば、引用文献記載の発明における「前記燃料吐出量調量装置」として、周知技術1のような吸入口計量弁と、吸入口逆止弁とから構成し、その際に、周知技術2のように吸入口計量弁において、オリフィスの開口の程度を制御することにより、上記相違点に係る本願補正発明における発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願補正発明を全体として検討しても、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別の効果を奏するとも認めることができない。

以上により、本願補正発明は、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、審判請求書及び平成24年8月17日付け回答書において、本願補正発明は引用文献記載の発明及び周知技術に基づいて容易に想到できたものではない旨主張しているので、請求人の主張について以下に検討する。

(1)審判請求書における請求人の主張について
(a)請求人は、審判請求書において、「(3)顕著な効果(機械的効率の向上)」として、「本願発明(本願補正発明)における計量弁50は、引用文献に記載された電磁スピル弁35よりも構造を簡単にできる」旨主張する。
しかしながら、本願補正発明において、「吸入口計量弁50」の構造については限定されておらず、引用文献に記載された電磁スピル弁35とどちらが構造を簡単にできるかは明らかでない。
(なお、本願の図2に記載された吸入計量弁50は、かなり複雑な形状である。)
また、本願補正発明における「吸入口計量弁50」の構造が簡単な構造であるとしても、引用文献記載の発明において、電磁弁として「吸入調量弁」を採用した場合には、本願補正発明と同様に簡単な構造にできると考えられる。
また、周知技術1及び2を採用した場合にも、本願補正発明と同様に簡単な構造にできると考えられる。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(b)次に、請求人は、「(4)顕著な効果(コストの低減)」として、本願発明(本願補正発明)によれば、カムの作動と同期させることが要求されない旨主張する。
しかし、上記周知技術1及び2を採用すれば、本願補正発明と同様に、カムの作動と同期させることが要求されないことは明らかである。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(c)また、請求人は、「(5)阻害要因1」として、引用文献記載の発明における電磁スピル弁35は制御可能な逆止弁から構成されているから、これに加えて制御可能な計量弁を用いることは考えられない旨主張する。
しかしながら、引用文献には(特に段落【0069】の記載を参照。)、電磁弁として、スピル弁と共に吸入調量弁を用いることも開示されているから、スピル弁(逆止弁)と共に制御可能な吸入調量弁(計量弁)を用いることは、容易に想到できたことである。
また、引用文献の段落【0069】に記載されているように、電磁弁として電磁スピル弁に代えて吸入調量弁を用いる場合も考えられ、その際には、引用文献における第2高圧燃料ポンプ31b並びに周知技術1及び2に示されるように、逆止弁が必要になることは明らかであるから、吸入調量弁と共に逆止弁を用いることも、容易に想到できたことである。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(d)また、請求人は、「(6)阻害要因2」として、引用文献記載の発明において、カムのサイクルと同期した制御可能な逆止弁に、カムのサイクルと同期させる必要が無い計量弁を組み合わせることは考えられない旨主張する。
しかしながら、引用文献には、上記のように、電磁弁として、スピル弁に代えて吸入調量弁を用いること及びスピル弁と共に吸入調量弁を用いることが開示されているのであるから、請求人の上記主張は採用できない。

(e)また、請求人は、「(7)阻害要因3」として、引用文献記載の発明における電磁スピル弁35に代えて、音が発生する可能性のあるオリフィスを有する計量弁を適用することは考えられない旨主張する。
しかしながら、引用文献記載の発明において目的としているのは、第2高圧燃料ポンプを非調量式とし、アイドル運転時には調量式高圧ポンプの作動を停止することにより、騒音を防止することを目的としているのであって、それは音が発生する電磁スピル弁35に代えて、音が発生する可能性のあるオリフィスを有する計量弁を適用することによって阻害されるわけではない。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(2)平成24年8月17日付け回答書における請求人の主張について
(f)請求人は、「阻害要因4」として、引用文献に記載のスピル弁35と本願補正発明における吸入口計量弁50とは動作が異なるから、引用文献に記載のスピル弁35に吸入口逆止弁を組み合わせても、本願補正発明と同様に動作することはない旨主張する。
しかしながら、引用文献には、上記のように、電磁弁として、スピル弁に代えて吸入調量弁を用いること及びスピル弁と共に吸入調量弁(吸入口逆止弁ではない)を用いることが開示されているのであるから、請求人の上記主張は採用できない。

(g)また、請求人は、引用文献記載の発明が燃料が燃料タンク10から加圧室34に吸入されるのに対し、本願補正発明は低圧ポンプを用いて吸入口計量及び逆止弁への供給を行っている旨主張するが、引用文献記載の発明は、引用文献の【特許請求の範囲】、段落【0001】、【0025】等に記載されているように、「フィードポンプ11」(本願補正発明における「低圧ポンプ」に相当する。)が燃料タンク10内の燃料を汲み上げて各高圧燃料ポンプ30a、30bに供給するのであって、請求人が主張するように、燃料タンク10から直接加圧室34に吸入されるわけではない。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

4 独立特許要件についてのまとめ
したがって、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年7月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成21年1月21日付けで提出された翻訳文による明細書及び図面、並びに平成23年2月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の1の(A)の請求項1に記載したとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶理由に引用された引用文献(特開2005-351135号公報)の記載は、前記第2の[理由]3-1のとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]1及び2で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2の[理由]3-1ないし3-3に記載したとおり、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-25 
結審通知日 2012-09-26 
審決日 2012-10-10 
出願番号 特願2008-284965(P2008-284965)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02M)
P 1 8・ 575- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩谷 一臣八木 誠  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 中川 隆司
金澤 俊郎
発明の名称 燃料噴射システム  
代理人 富田 博行  
代理人 小林 泰  
代理人 星野 修  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小野 新次郎  

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