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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1270404
審判番号 不服2012-2790  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-13 
確定日 2013-02-19 
事件の表示 特願2008-164040「基板上の堆積層を硬化させるシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月 9日出願公開、特開2009- 76859〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年6月24日(パリ条約による優先権主張2007年6月29日、米国)の出願であって、平成20年7月15日付けで特許請求の範囲、明細書、図面及び要約の翻訳文が提出され、平成23年4月27日付けで拒絶理由が通知され、同年10月11日付けで拒絶査定がなされ、平成24年2月13日付けで拒絶査定不服審判が請求されるととともに特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において同年6月7日付けで審尋がなされ、同年9月7日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年2月13日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年2月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、本願の特許請求の範囲の請求項1についての補正を含むものであり、当該請求項1に係る補正は、本件補正により補正される前の(すなわち、平成20年7月15日付けで提出された翻訳文の)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「硬化システムにおいて、
堆積させた材料を有する基板を支持する平坦面を含む支持体と、
光ビームを材料の堆積層の少なくとも一部分に放出することのできるレーザを備える硬化装置と、
硬化装置と電気的に連通状態にて接続された制御システムとを備える、硬化システム。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「硬化システムにおいて、
堆積させた材料を有する基板を支持する平坦面を含むように構成される支持体と、
光ビームを材料の堆積層の少なくとも一部分に放出するように構成されるレーザを備える硬化装置と、
硬化装置と電気的に連通状態にて接続された制御システムと、
硬化性能又は品質を向上させるよう前記制御システムに対しフィードバックを提供することを実現するように、硬化する間、堆積層を視認する少なくとも1つの光センサと、
を備える、硬化システム。」
(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の目的
本件補正の内、本件補正前の請求項1における「堆積させた材料を有する基板を支持する平坦面を含む支持体」を「堆積させた材料を有する基板を支持する平坦面を含むように構成される支持体」とする補正事項は、「支持体」の発明特定事項を明確にするものであり、同じく本件補正前の請求項1における「光ビームを材料の堆積層の少なくとも一部分に放出することのできるレーザを備える硬化装置」を「光ビームを材料の堆積層の少なくとも一部分に放出するように構成されるレーザを備える硬化装置」とする補正事項は、「レーザを備える硬化装置」の発明特定事項を明確にするものである。
また、本件補正は、本件補正前の請求項1に、「硬化システム」をさらに限定する「硬化性能又は品質を向上させるよう前記制御システムに対しフィードバックを提供することを実現するように、硬化する間、堆積層を視認する少なくとも1つの光センサと、」という発明特定事項を追加するものでもある。
したがって、本件補正は、請求項1についていうならば、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項第4号に規定される明りようでない記載の釈明及び同第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 本件補正の適否
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用した本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2006-332568号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(以下、順に「摘記事項1a」ないし「摘記事項1f」という。)。

1a.「導電性粉体と熱硬化性樹脂を均一に分散した導電性ペーストを用意し、この導電性ペーストを物体の表面に塗着して導電性ペースト膜を形成し、この導電性ペースト膜に対して熱線レーザー光を所望パターンに照射して前記導電性ペーストを熱硬化させた描画パターンを形成し、この描画パターンにより前記物体表面に導電パターンを生成することを特徴とする導電パターン生成方法。」(【請求項1】)

1b.「本実施形態に用いるレーザー描画装置10の概略構成を図1に示す。導電パターンが生成される基板3の表面には、導電性粉体と熱硬化性樹脂を均一に分散した導電性ペーストによって、導電性ペースト膜4が塗着されている。導電性ペースト膜4の塗着は基板3表面上に、ペースト塗膜の厚みが20μmになるように塗布され、乾燥処理を経て形成される。基板3は導電性ペースト膜4を上方に向けて基台1の所定位置に載置されている。基台1の上方位置にレーザー描画装置10が配置されている。基台1は等速で矢印c方向に1軸ステージ移動装置(図示せず)により前進移動する。基台1を2次元的に移動させるXYステージ移動装置を使用してもよい。
半導体などの熱線レーザー光源5から射出されたレーザービーム8は、コリメーターレンズ30により集束されて断面直径がビーム径1μm以下の微細レーザービームに成形される。レーザー描画装置10は、熱線レーザーのビーム径が1nmから数nmまで絞ることが可能なものを使用することができる。」(段落【0025】)

1c.「レーザービーム8は波形成形ユニット32に入射し、コンピュータ31からのコピュータ信号によってビームのオンオフ制御が行なわれる。コンピュータ31には導電性ペースト膜4に形成されるべき回路パターン2のデータがオン・オフの二値化データとして格納されている。」(段落【0026】)

1d.「熱線レーザー照射オンのときにレーザービームが導電性ペースト膜4に入射して導電性ペースト膜4のペースト成分中の熱硬化性樹脂が熱硬化され、かつ導電性粉体も焼結される。オフではレーザービームが遮断されるため熱硬化及び焼結が生じない。・・・(略)・・・なお、基板3には基準孔6、7が穿設されており、図示しない光学的検知手段により基準孔6、7を検知することにより、レーザービーム8を走査する基準位置が認識される。」(段落【0028】)

1e.「本発明では、・・・(略)・・・所望の回路パターンをコンピュータ制御により簡単かつ安価に形成することが可能となる。なお、本発明のレーザー光には、紫外光レーザー、可視光レーザー、近赤外光レーザー、赤外光レーザーなどを使用でき、また、レーザー光源には半導体レーザーの他にガスレーザーなどを使用できる。」(段落【0029】)

1f.図1及び摘記事項1bから、基板3及び基台1が平坦な板状であること及びレーザービーム8が導電性ペースト膜4の一部分に射出されていることが看取できる。

(2)引用文献2に記載された事項
平成24年6月7日付け審尋で引用した本願の優先日前に外国で頒布された刊行物である米国特許出願公開第2006/0044555号明細書(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(翻訳文として、ファミリー文献である特表2008-511835号公報(以下、「翻訳文」という。)の記載を援用する。以下、順に「摘記事項2a」ないし「摘記事項2f」という。)。

2a.「To achieve the above and other objects, the present invention is directed to a laser based curing apparatus with a Raman spectroscopic sensor for real-time, non-invasive cure monitoring and control. 」(段落【0008】)(訳:上記及び他の目的を達成するため、本発明は、リアルタイムで非破壊的な硬化モニタリング及び制御のためのラマン分光センサを有するレーザー・ベースの硬化装置を指向している。)(翻訳文の段落【0008】)

2b.「It is thus one goal of the current invention to provide a laser based light source for high precision curing of a material. The laser can be a semiconductor laser diode (LD), a diode pumped solid-state laser (DPSSL), or other kinds of lasers. Depending on the material to be cured, the emission wavelength of the laser can be either in ultraviolet/visible (UVVIS) range for photochemical curing or in near infrared/infrared (NIR/IR) range for thermal curing. 」(段落【0009】)(訳:従って、材料を高精度で硬化させるためのレーザー・ベースの光源を提供することが本発明の1つの目的である。レーザーは、半導体レーザー・ダイオード(LD)、ダイオード励起固体レーザー(DPSSL)、又は他の種類のレーザーであることができる。硬化されるべき材料に応じて、レーザーの放出波長は、光化学的硬化のための紫外線/可視光線(UV/VIS)領域又は熱硬化のための近赤外線/赤外線(NIR/IR)領域のいずれかにあることができる。)(翻訳文の段落【0009】)

2c.「It is another goal of the current invention to utilize a spectroscopic sensor to measure the Raman emission of the material during the cure process, which Raman emission is excited by the curing laser itself. The Raman signal, which contains structural information of the material, is further used as an indicator to monitor the curing status. The spectroscopic sensor can be a general-purpose spectrometer that composed of wavelength selective components (such as gratings, interferometers, tunable filters) and photo detectors or photo detector arrays. Or it can be a special-purpose spectrometer having several fixed filters and photo detectors to measure the Raman signal at certain characteristic wavelengths. 」(段落【0010】)(訳:分光センサを利用して、硬化プロセス中に硬化レーザー自体により励起された材料のラマン放出を測定することが、本発明の別の目的である。材料の構造情報を含むラマン信号が更に、硬化状態をモニタリングするためのインディケータとして用いられる。分光センサは、波長選択器(例えば、回折格子、干渉計、可変フィルタのようなもの)及び光検出器又は光検出器アレイから構成される汎用分光計であることができる。又は、それは、幾つかの固定のフィルタ及び光検出器を有して、ラマン信号を或る一定の特性波長で測定する特別目的の分光計であることができる。)(翻訳文の段落【0010】)

2d.「It is yet another goal of the current invention to utilize the obtained Raman signal to control the curing profile of the laser, which includes laser power, intensity, pulse width, duty cycle, and/or repetition rate variation with time, in order to further improve the curing result. Based on previous research results, many materials cure best under varied light exposure during the cure process. Once the spectroscopic sensor indicates that the curing reaches its optimum condition, the laser can be automatically turned off by the feedback control system to avoid over-curing. 」(段落【0011】)(訳:更に硬化結果を改善するため、得られたラマン信号を利用して、時間に対するレーザー・パワー、強度、パルス幅、デューティ・サイクル、及び/又は繰返し率の変化を制御することが更に別の目的である。前の研究結果に基づいて、多くの材料は、硬化プロセス中の様々な露光下で最良に硬化する。ひとたび分光センサが硬化がその最適状態に達したことを示すと、レーザーは、フィードバック制御システムにより自動的にオフにされ、過硬化を避けることができる。)(翻訳文の段落【0011】)

2e.「A schematic representation of the laser curing apparatus is shown in FIGS. 1 (a) and (b). In FIG. 1 (a), the curing laser 10 produces laser light 11 , which is first transformed (focused, expanded, collimated) by a secondary optical system 12 and then absorbed by the material 13 to induce and/or accelerate the polymerization process. The laser light 11 in the mean time excites Raman/fluorescence emission 14 from the material 13 during the cure process. An optical spectrometer 15 is used to collect and analyze the Raman/fluorescence signal and produces a Raman/fluorescence spectrum 16 , which is composed of Raman signal 17 and fluorescence background 18 . The intensity and wavelength position of the Raman signal 17 are used to determine the curing status of the material in real time since the Raman signal 17 is directly related to the vibration/rotational energy levels of the material 13 , which energy levels will vary during the cure process. The curing status is finally sent to an operator for further actions. In FIG. 1 (b), the curing laser 20 produces laser light 21 , which is first transformed by a secondary optical system 22 and then cures material 23 and produces Raman/fluorescence emission 24 in a similar way as shown in FIG. 1 (a). The detected Raman signal by the spectrometer 25 is used control the secondary optical system 22 and the operation parameters of the laser 20 , i.e., regulating the power, intensity, pulse width, duty cycle, and/or repetition rate of the laser light 21 during the cure process through a feedback control system 26 to achieve the optimum curing result. 」(段落【0021】)(訳:レーザー硬化装置の概略図が、図1(a)及び図1(b)に示されている。図1(a)において、硬化レーザー10は、レーザー光11を発生し、当該レーザー光11は、最初に、副光学システム12により変換(集束、拡大、コリメート)され、次いで、材料13により吸収されて、重合プロセスを誘発及び/又は加速する。レーザー光11は、その間に、ラマン/蛍光放出14を材料13から硬化プロセス中に励起する。光学分光計15を用いて、ラマン/蛍光信号を収集して解析し、そして、ラマン信号17及び蛍光バックグラウンド18から構成されるラマン/蛍光スペクトル16を生成する。ラマン信号17の強度及び波長位置を用いて、材料の硬化状態をリアルタイムで決定する。それは、ラマン信号17が材料13の振動/回転エネルギ・レベルに直接関連付けられ、当該材料13の振動/回転エネルギ・レベルは、硬化プロセス中に変わるからである。硬化状態は、最終的に、更なる操作のためオペレータに送られる。図1(b)においては、硬化レーザー20は、レーザー光21を発生し、当該レーザー光21は、最初に、副光学システム22により変換され、次いで、材料23を硬化し、そして図1(a)に示されるのと類似の要領でラマン/蛍光放出24を生成する。分光計25により検出されたラマン信号を用いて、副光学システム22及びレーザー20の動作パラメータを制御し、即ち、フィードバック制御システム26を通じて硬化プロセス中にレーザー光21のパワー、強度、パルス幅、デューティ・サイクル、及び/又は繰り返し率を調整して、最適な硬化結果を達成する。)(翻訳文の段落【0013】)

2f.「In the second exemplary embodiment of the current invention, a 785 nm NIR laser diode is used to thermally cure an epoxy sample from Tra-Con, Inc. with product No. of Tra-bond 2116. ・・・(略)・・・A CCD spectrometer with 750-1050 nm spectral range and 10 cm^(-1) spectral resolution is used to record the Raman/fluorescence emission spectrum of the epoxy during the cure process. The integration time of the spectrometer is set to 60 s. In this exemplary embodiment, the epoxy sample has a size of 3×3 mm. The laser beam is focused onto the sample surface and diffused by the epoxy material for uniform curing. 」(段落【0024】)(訳:本発明の第2の例示的実施形態においては、785nmNIRレーザー・ダイオードを用いて、Tra-Con,Inc.からの製品番号Trabond2116のエポキシ・サンプルを熱硬化させる。・・・(略)・・・750-1050nmのスペクトル範囲及び10cm^(-1)のスペクトル分解能を有するCCD分光計を用いて、硬化プロセス中のエポキシのラマン/蛍光放出スペクトルを記録する。当該分光計の積分時間は、60秒に設定されている。この例示的実施形態においては、エポキシ・サンプルは、3×3mmのサイズを有する。レーザー・ビームは、サンプルの表面上に集束され、そして均一な硬化のためエポキシ材料により拡散される。)(翻訳文の段落【0016】)

(3)引用文献1に記載された発明
引用文献1の摘記事項1aの「この導電性ペースト膜に対して熱線レーザー光を所望パターンに照射して前記導電性ペーストを熱硬化させた描画パターンを形成し」及び摘記事項1dの「熱線レーザー照射オンのときにレーザービームが導電性ペースト膜4に入射して導電性ペースト膜4のペースト成分中の熱硬化性樹脂が熱硬化され、かつ導電性粉体も焼結される。」という記載によると、引用文献1には、導電性ペースト膜4を硬化する装置が記載されている。
引用文献1の摘記事項1bの「導電パターンが生成される基板3の表面には、導電性粉体と熱硬化性樹脂を均一に分散した導電性ペーストによって、導電性ペースト膜4が塗着されている。」という記載によると、引用文献1には、塗着された導電性ペースト膜4を有する基板3が記載されている。
引用文献1の摘記事項1bの「基板3は導電性ペースト膜4を上方に向けて基台1の所定位置に載置されている。」という記載によると、引用文献1には、基板3を支持する基台1が記載されている。
引用文献1の摘記事項1fによると、引用文献1には、基台1が基板3を支持する平坦面を含むように構成されていることが記載されている。
引用文献1の摘記事項1aの「この導電性ペースト膜に対して熱線レーザー光を所望パターンに照射して」、摘記事項1bの「基台1の上方位置にレーザー描画装置10が配置されている。」及び「半導体などの熱線レーザー光源5から射出されたレーザービーム8は、コリメーターレンズ30により集束されて断面直径がビーム径1μm以下の微細レーザービームに成形される。」、摘記事項1dの「熱線レーザー照射オンのときにレーザービームが導電性ペースト膜4に入射して」及び摘記事項1fの記載によると、引用文献1には、レーザービームを塗着された導電性ペースト膜4の一部分に射出されるように構成されるレーザーを備える装置が記載されている。
引用文献1の摘記事項1cの「レーザービーム8は波形成形ユニット32に入射し、コンピュータ31からのコピュータ信号によってビームのオンオフ制御が行なわれる。」という記載によると、引用文献1には、レーザーを備える装置と接続されたコンピュータ31が記載されている。
引用文献1の摘記事項1dの「基板3には基準孔6、7が穿設されており、図示しない光学的検知手段により基準孔6、7を検知することにより、レーザービーム8を走査する基準位置が認識される。」という記載によると、引用文献1には、基板3に穿設された基準孔6、7を検知することにより、レーザービーム8を走査する基準位置を認識する光学的検知手段が記載されている。
したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「導電性ペースト膜4を硬化する装置において、
塗着された導電性ペースト膜4を有する基板3を支持する平坦面を含むように構成される基台1と、
レーザービーム8を塗着された導電性ペースト膜4の一部分に射出するように構成されるレーザーを備える装置と、
レーザーを備える装置と接続されたコンピュータ31と、
基板3に穿設された基準孔6、7を検知することにより、レーザービーム8を走査する基準位置を認識する光学的検知手段と、
を備える、導電性ペースト膜4を硬化する硬化する装置。」

(4)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明における「導電性ペースト膜4を硬化する装置」は、本願補正発明における「硬化システム」に相当する。
引用発明における「塗着された導電性ペースト膜4」は、本願補正発明における「堆積させた材料」及び「材料の堆積層」に相当する。
引用発明における「基板3を支持する平坦面を含むように構成される基台1」は、本願補正発明における「基板を支持する平坦面を含むように構成される支持体」に相当する。
引用発明における「レーザービーム8」は、引用文献1の摘記事項1eによると紫外光レーザー、可視光レーザー、近赤外光レーザー、赤外光レーザーなどのレーザー光であるから、本願補正発明における「光ビーム」に相当する。
引用発明における「レーザービーム8を塗着された導電性ペースト膜4の一部分に射出するように構成されるレーザーを備える装置」は、本願補正発明における「光ビームを材料の堆積層の少なくとも一部分に放出するように構成されるレーザを備える硬化装置」に相当する。
引用発明における「コンピュータ31」は、本願補正発明における「制御システム」に相当する。
引用発明における「レーザーを備える装置」と「コンピュータ31」との接続が電気的に連通状態であることは明らかである。
引用発明における「基板3に穿設された基準孔6、7を検知することにより、レーザービーム8を走査する基準位置を認識する光学的検知手段」は、本願補正発明における「硬化性能又は品質を向上させるよう前記制御システムに対しフィードバックを提供することを実現するように、硬化する間、堆積層を視認する少なくとも1つの光センサ」と、「少なくとも1つの光センサ」である限りにおいて一致する。
したがって、両者は、
「硬化システムにおいて、
堆積させた材料を有する基板を支持する平坦面を含むように構成される支持体と、
光ビームを材料の堆積層の少なくとも一部分に放出するように構成されるレーザを備える硬化装置と、
硬化装置と電気的に連通状態にて接続された制御システムと、
少なくとも1つの光センサと、
を備える、硬化システム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
「少なくとも1つの光センサ」に関して、本願補正発明では、「硬化性能又は品質を向上させるよう前記制御システムに対しフィードバックを提供することを実現するように、硬化する間、堆積層を視認する」ものであるのに対し、引用発明では、「基板3に穿設された基準孔6、7を検知することにより、レーザービーム8を走査する基準位置を認識する」ものである点。

(5)相違点についての判断
引用文献2の摘記事項2aによると、引用文献2には、制御のためのラマン分光センサを有するレーザー・ベースの硬化装置が記載されている。
引用文献2の摘記事項2bの「レーザーは、半導体レーザー・ダイオード(LD)、ダイオード励起固体レーザー(DPSSL)、又は他の種類のレーザーであることができる。」、摘記事項2eの「図1(a)において、硬化レーザー10は、レーザー光11を発生し」及び摘記事項2fの「レーザー・ビームは、サンプルの表面上に集束され、そして均一な硬化のためエポキシ材料により拡散される。」という記載によると、引用文献2記載の硬化装置は、半導体レーザー光のレーザービーム、即ちレーザの光ビームを放出するものである。
引用文献2の摘記事項2bの「硬化されるべき材料に応じて、レーザーの放出波長は、光化学的硬化のための紫外線/可視光線(UV/VIS)領域又は熱硬化のための近赤外線/赤外線(NIR/IR)領域のいずれかにあることができる」及び摘記事項2fの「エポキシ・サンプルを熱硬化させる」という記載によると、引用文献2記載の硬化装置が硬化する材料には、熱硬化性樹脂が含まれる。
引用文献2の摘記事項2cの「分光センサを利用して、硬化プロセス中に硬化レーザー自体により励起された材料のラマン放出を測定することが、本発明の別の目的である。材料の構造情報を含むラマン信号が更に、硬化状態をモニタリングするためのインディケータとして用いられる。」という記載によると、引用文献2記載の硬化装置のラマン分光センサは、材料のラマン放出を測定していることから、材料を視認するものである。
引用文献2の摘記事項2cの「分光センサは、波長選択器(例えば、回折格子、干渉計、可変フィルタのようなもの)及び光検出器又は光検出器アレイから構成される汎用分光計であることができる。」という記載によると、引用文献2記載の硬化装置のラマン分光センサは光を検出するもの、即ち光センサである。
引用文献2の摘記事項2d「硬化結果を改善するため、得られたラマン信号を利用して、時間に対するレーザー・パワー、強度、パルス幅、デューティ・サイクル、及び/又は繰返し率の変化を制御することが更に別の目的である。」及び摘記事項2eの「分光計25により検出されたラマン信号を用いて、副光学システム22及びレーザー20の動作パラメータを制御し、即ち、フィードバック制御システム26を通じて硬化プロセス中にレーザー光21のパワー、強度、パルス幅、デューティ・サイクル、及び/又は繰り返し率を調整して、最適な硬化結果を達成する。」という記載によると、引用文献2記載の硬化装置は、硬化結果を改善し、最適な硬化結果を達成するよう、硬化プロセス中、即ち硬化する間、ラマン分光センサにより検出されたラマン信号をフィードバック制御システムにフィードバックするものである。また、「硬化結果を改善し、最適な硬化結果を達成する」が「硬化性能又は品質を向上させる」を意味することは明らかである。
これらを整理すると、引用文献2には、熱硬化性樹脂の材料をレーザの光ビームにより硬化する硬化装置において、硬化性能又は品質を向上させるよう、フィードバック制御システムに対しフィードバックを提供することを実現するように、硬化する間、熱硬化性樹脂の材料を視認する光センサを設けること(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

他方、引用文献1の摘記事項1aの「導電性粉体と熱硬化性樹脂を均一に分散した導電性ペーストを用意し、この導電性ペーストを物体の表面に塗着して導電性ペースト膜を形成し、この導電性ペースト膜に対して熱線レーザー光を所望パターンに照射して前記導電性ペーストを熱硬化させた描画パターンを形成し」及び摘記事項1dの「熱線レーザー照射オンのときにレーザービームが導電性ペースト膜4に入射して導電性ペースト膜4のペースト成分中の熱硬化性樹脂が熱硬化され」という記載によると、引用発明も、熱硬化性樹脂の材料をレーザの光ビームにより熱硬化させるものであるから、硬化性能又は品質を向上させるという課題は、当然内在する課題である。

したがって、引用発明において、当該課題を解決するために、引用文献2記載事項を適用し、相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、本願補正発明により、引用発明及び引用文献2記載事項からみて、格別顕著な効果が奏されるともいえない。

(6)むすび
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし18に係る発明は、平成20年7月15日付け翻訳文提出書の特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(1)」のとおりである。

2 引用文献1に記載された事項及び引用文献1に記載された発明
原査定の拒絶の理由で引用した本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2006-332568号公報(以下、上記「第2[理由]3(1)と同様に「引用文献1」という。)には、上記「第2[理由]3(1)」のとおりの事項が記載されている。
そして、引用文献1には、上記「第2[理由]3(3)」のとおりの発明(以下、上記「第2[理由]3(3)と同様に「引用発明」という。)が記載されていると認める。

3 対比・判断
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明における「導電性ペースト膜4を硬化する装置」は、本願発明における「硬化システム」に相当する。
引用発明における「塗着された導電性ペースト膜4」は、本願発明における「堆積させた材料」及び「材料の堆積層」に相当する。
引用発明における「基板3を支持する平坦面を含むように構成される基台1」は、本願発明における「基板を支持する平坦面を含む支持体」に相当する。
引用発明における「レーザービーム8」は、本願発明における「光ビーム」に相当する。
引用発明における「レーザービーム8を塗着された導電性ペースト膜4の一部分に射出されるように構成されるレーザーを備える装置」は、本願発明における「光ビームを材料の堆積層の少なくとも一部分に放出することのできるレーザを備える硬化装置」に相当する。
引用発明における「コンピュータ31」は、本願発明における「制御システム」に相当する。
引用発明における「レーザーを備える装置」と「コンピュータ31」との接続が電気的に連通状態であることは明らかである。
したがって、両者は、
「硬化システムにおいて、
堆積させた材料を有する基板を支持する平坦面を含むように構成される支持体と、
光ビームを材料の堆積層の少なくとも一部分に放出するように構成されるレーザを備える硬化装置と、
硬化装置と電気的に連通状態にて接続された制御システムとを備える、硬化システム。」
である点で一致し、相違点はない。

よって、本願発明は引用発明であり、即ち引用文献1に記載された発明である。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-26 
結審通知日 2012-09-27 
審決日 2012-10-10 
出願番号 特願2008-164040(P2008-164040)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関根 崇  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 井上 茂夫
加藤 友也
発明の名称 基板上の堆積層を硬化させるシステム及び方法  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  

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