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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B66B
管理番号 1270781
審判番号 不服2010-4217  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-26 
確定日 2013-03-15 
事件の表示 特願2004-511209「エレベータ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月18日国際公開、WO03/104128、平成17年 9月29日国内公表、特表2005-529042〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯

本件出願は、2003年5月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年6月7日、フィンランド共和国)を国際出願日とする出願であって、平成16年12月7日付けで特許法第184条の5第1項に規定する書面が提出されるとともに特許法第184条の4第1項に規定する明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成18年2月17日付けで特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、平成20年11月11日付けの拒絶理由通知に対して平成21年5月18日付けで意見書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成21年10月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月26日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に、同日付けで明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、さらに、平成22年4月8日付けで審判請求書の請求の理由について補正する手続補正書が提出され、その後、当審における平成22年7月26日付けの書面による審尋に対して平成23年1月27日付けで回答書が提出され、当審において平成23年4月12日付けで上記平成22年2月26日付けで提出された手続補正書による手続補正を却下する決定がなされるとともに、当審において平成23年4月26日付けで拒絶理由を通知したところ、平成23年10月7日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。

第2.本件発明

本件出願の請求項1ないし16に係る発明は、平成23年10月7日付けの手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに平成16年12月7日付けで提出された図面の日本語による翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
エレベータにおいて、巻上機はトラクションシーブを介して一束の巻上ロープに係合し、該トラクションシーブの外径は最大でも240mmであり、該一束の巻上ロープは円形および/または非円形の断面を有するスチールワイヤから撚り合わされている負荷支持部分を有し、前記エレベータには、複数の転向プーリが存在し、該複数の転向プーリは前記トラクションシーブより大きく作られ、該複数の転向プーリのいくつかはエレベータシャフトの上部に取り付けられ、前記巻上機と該巻上機の支持要素との合計の重量は最大でもエレベータの定格積載重量の1/5であるエレベータ。」

第3.刊行物

(1)刊行物1に記載された発明

当審において平成23年4月26日付けで通知した拒絶の理由に引用された本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特許第2593288号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が、図1、2、6及び7とともに記載されている。

a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、エレベータ案内レールに沿って可動のエレベータカーと、カウンタウエイト案内レールに沿って可動のカウンタウエイトと、エレベータカーおよびカウンタウエイトを懸架している1組の巻上げロープと、駆動機により駆動され巻上げロープを係合するトラクションシーブを有する駆動機装置とを含むトラクションシーブエレベータに関するものである。
【0002】
【従来の技術】エレベータの開発作業における目的の1つは、建物空間の効率的、経済的利用である。従来のトラクションシーブ駆動エレベータでは、駆動機装置用に確保されるエレベータ機械室やその他の空間はエレベータに必要な建物空間のかなりの部分を占めている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】問題は、駆動機装置に必要な空間の容積ばかりでなく、建物の中のその位置にもある。機械室の配置に関しては多くの方式があるが、それらは概して、建物の設計を少なくとも空間の利用または外観に関して大きく制約している。・・・・・中略・・・・・
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明によるトラクションシーブエレベータでは、エレベータの駆動機装置は、エレベータシャフトの頂上部においてエレベータカーがその通路上に必要とするシャフト空間および(または)その上部の延長部とエレベータシャフトの壁との間の空間に配置されていることを特徴とする。・・・・・後略・・・・・」(段落【0001】ないし【0006】)

b)「【0009】本発明によるトラクションシーブエレベータを概略的に図1に示す。・・・・・中略・・・・・図1では、エレベータカー1は巻上げロープ3により、ロープ溝の設けられた転向プーリ4、5を使って支持され、カウンタウエイト2は溝付き転向プーリ9により支持されている。転向プーリ4および5は好ましくは、実質的に同一面内で回転する。巻上げロープ3は通常、並んで配置された数本のロープ、通常は少なくとも3本のロープからなる。巻上げロープ3が係合されたトラクションシーブ7を有するエレベータの駆動機装置6は、エレベータシャフトの頂上部に配置されている。」(段落【0009】)

c)「【0022】図6は、巻上げ機械装置6の断面図であり、エレベータモータ126 を上から見て示す。モータ126 は、巻上げ機械装置6に適した構造として実現されるが、この構造は、モータ126 をエンドシールドと呼ばれる部品と、固定子を支持すると同時に巻上げ機械装置の側板を形成している要素111 とから構成することによる。側板111 はしたがって、モータの負荷と同時に巻上げ機械装置の負荷を伝達するフレーム部を構成している。この巻上げ機械装置は2つの支持要素、すなわち側板111 および112 を有し、これらは軸113 により接続されている。・・・・・中略・・・・・
【0023】図7は、本発明の適用されている他の巻上げ機械装置の断面図である。巻上げ機械装置6およびモータ326 は側面図で示す。巻上げ機械装置6およびモータ326 は一体化構造をなしている。モータ326 は実質的に巻上げ機械装置6の内側に配置されている。モータの固定子314 および軸313 は巻上げ機械装置の側板311および312 に取り付けられている。このため、本巻上げ機械装置の側板311 および312 もまたモータのエンドシールを形成し、同時にモータおよび巻上げ機械装置の負荷を伝達するフレーム部分として機能する。
【0024】側板311 と312 の間には、サステーナ325 が固定され、これらはまた巻上げ機械装置の剛体部材としても機能する。
【0025】回転子317 は軸受け316 で軸313 に回転可能に装着されている。この回転子は円板状構造のものであり、軸方向に実質的に軸313 の中央に配置されている。回転子の両側には、その巻線と軸の間にトラクションシーブ318 の2つの円形半体318aおよび318bが配置され、両方とも同じ径を有している。このトラクションシーブのそれぞれの半体は同本数のロープ302 を担持している。
【0026】トラクションシーブの径は固定子または回転子のそれよりも小さい。トラクションシーブは回転子に取り付けられ、様々な径のトラクションシーブを同じ径の回転子に用いることができる。・・・・・中略・・・・・
【0027】4本のロープ302 のそれぞれは、トラクションシーブをそれぞれ自身の溝に沿って走る。明確にするため、ロープはトラクションシーブ上に断面でのみ示す。
【0028】・・・・・中略・・・・・しかし、巻上げ機械装置に転向プーリを設けることによって巻上げロープ302 を巻上げ機械装置の軸313 を通る垂直線に近づけるならば、・・・・・後略・・・・・」(段落【0022】ないし【0028】)

d)「【0035】
【発明の効果】本発明を適用することによって次の利点が達成される。
- 本発明のトラクションシーブエレベータは、別個の機械室を必要としないため、顕著に建物空間を節約することができる。
- エレベータシャフトの断面積の有効利用。
・・・・・中略・・・・・
- 本発明を用いて実現されエレベータでは、エレベータカーおよびカウンタウエイトの中心懸架を行なうのは困難ではない。したがって、案内レールに加わる支持力が実質的に減少する。これにより、軽量の案内レールだけでなく軽量のエレベータガイドおよびカウンタウエイトガイドの使用が可能になる。
・・・・・後略・・・・・」(段落【0035】)

そして、上記b)及びc)並びに図1及び7の記載によれば、図1における「駆動機装置6」、「トラクションシーブ7」及び「巻上げロープ3」として、図7における「巻上げ機械装置6」、「トラクションシーブ318」及び「巻上げロープ302」を適用することが示されている。

以上を総合すると、図1において、「駆動機装置6」、「トラクションシーブ7」及び「巻上げロープ3」を、それぞれ、図7における「巻上げ機械装置6」、「トラクションシーブ318」、「巻上げロープ302」と置き換えたエレベータに関して、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

「巻上げ機械装置6はトラクションシーブ318を介して1組の巻上げロープ302に係合し、トラクションシーブエレベータには、複数の転向プーリ4,5,9が存在し、トラクションシーブ318の径は様々とすることができるものであるトラクションシーブエレベータ。」

(2)刊行物2の記載事項

当審において平成23年4月26日付けで通知した拒絶の理由に引用された本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特公平3-43196号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が第1及び2図とともに記載されている。

a)「本発明は、駆動装置と、駆動装置に連結されロープ用のみぞを有する綱車と、それらみぞ上を延在する平行な昇降ロープと、昇降ロープにより吊下げられる昇降ケージおよびつりあいおもりと、昇降ロープが掛けられる少なくとも2個の変換プーリとを具え、少なくとも1個の変換プーリを、昇降ケージからつりあいおもりまで延在する昇降ロープが綱車に2回巻回され、これら巻回の間に変換プーリに1回掛けられるよう、綱車に関連させて取付けた昇降装置に関するものである。」(第2ページ第3欄第13ないし22行)

b)「本発明装置の構成によれば、昇降ケージ重量を従来のものに比べて軽くすることができる。また、補償ロープを用いなくとも、従来の装置に比べて昇降高さを大きくすることができる。最も大きな利点は、補償ロープを使うことなく約60mの高さまで構築することができる、所謂ギヤレス昇降装置とすることができることである。また本発明装置は、加速度が比較的大きな場合にも使用できる。加えて、細いロープを使用することができるので、綱車の直径も小さくすることができる。その結果、ギヤレスモータの軸に作用するトルクも小さくなるので、より小さなモータを使用することができる。」(第2ページ第4欄第37行ないし第3ページ第5欄第5行)

(3)刊行物3の記載事項

当審において平成23年4月26日付けで通知した拒絶の理由に引用された本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-154773号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が図4とともに記載されている。

a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、機械室を無くしたエレベータ装置、および該エレベータ装置の巻上機に関するものである。」(段落【0001】)

b)「【0003】しかし、機械室レスエレベータは一般にワイヤロープの取り回しが複雑となるため、巻上機の配置には大きな制限が伴い、レイアウト設計を困難なものにしている。巻上機の更なる小形化によって設計の自由度は増加するが、現在の主流である鋼製ワイヤロープでは、疲労強度上の問題から、トラクションシーブの直径をワイヤロープの40倍以上としなければならず、これによりシーブの直径、ひいては、巻上機に対する要求トルクが決定されてしまうので、所定のトルクを発生させるためには、現状以上の小形化は困難であった。
【0004】一方、近年エレベータ用として開発されつつある合成樹脂製、あるいは、合成樹脂を被覆した鋼製のワイヤロープは、従来の鋼製ワイヤロープと比べて疲労強度が高く、より小径のシーブを使用することが可能である。これによると、巻上機に対する要求トルクが小さくなるため、巻上機寸法を大幅に小さくすることが可能である。」(段落【0003】及び【0004】)

c)「【0012】上記エレベータ装置を構成するに際しては、以下の要素を付加することができる。
・・・・・中略・・・・・
(5)前記ワイヤロープは樹脂製または樹脂で被覆された鋼製であり、前記トラクションシーブは直径が320mm以下である。」(段落【0012】)

d)「【0014】
・・・・・中略・・・・・機械室レスエレベータ装置は、一般的に図4のように構成されている。昇降路1の頂部内壁にはロープエンド2a,2b及び転向プーリ3a,3bが設けられ、・・・・・後略・・・・・」(段落【0014】)

e)「【0037】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、騒音や振動の小さいエレベータ装置または巻上機を実現することができる。」(段落【0037】)

(4)刊行物4の記載事項

当審において平成23年4月26日付けで通知した拒絶の理由に引用された本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭61-174083号公報(以下、「刊行物4」という。)には、次の事項が第4及び5図とともに記載されている。

a)「軸受で回転支持されるシーブ軸に結合された、あるいは固定されるシーブ軸上に軸受を介して回転支持されたシーブ、該シーブに巻付けられ一端に乗かご他端につり合おもりが連結されたロープ、前記乗かごとつり合おもりとの間を適当間隔に保持すべく前記ロープが巻付けられるそらせ車、電動機単独あるいは減速機と組合せてなる巻上機とで構成され、該巻上機によつて前記シーブに駆動トルクが与えられ、前記シーブで前記ロープが駆動され前記乗かご及びつり合おもりが昇降運転されるエレベータ装置において、
前記ロープを前記シーブに少なくとも一周近く巻付けて前記ロープの巻付角が360°の正の整数倍近辺となるようにしたことを特徴とするエレベータ装置。」(第1ページ左下欄第4ないし18行)

b)「以上のように、本実施例では、シーブにロープが少なくとも1周近く巻付けられ、ロープ巻付角が360°の正の整数倍近辺となるようにしたので、シーブ軸に作用する荷重が大幅に低減してシーブ軸が小さくできるとともに、このシーブ軸を回転支持する軸受も小型化でき、巻上機の小型化が可能となる。」(第3ページ右下欄下から3行ないし第4ページ左上欄第4行)

c)「次に、第4?5図に基づいて本発明の他の実施列を説明する。第4?5図は本発明の一実施例の第1図相当図であり、本発明の一実施例と同一構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
第4図が第1図と異なるところは、そらせ車を1個にし、かつそらせ車をシーブより上部に配置したことである。すなわち、1はシーブ、5はそらせ車で前記シーブ1より上部に配置される。7はロープであり、シーブ1及びそらせ車5を巻付けられ、一端に乗かご3、他端につり合おもり4を連結している。8は巻上機であり、該巻上機8によつてシーブ1が駆動され、乗かご3及びつり合おもり4が昇降運転される。そして、前記シーブ1は乗かご3とつり合おもり4を連結する前記ロープ7の外側に配置される。また、シーブ1にロープ7が少なくとも1周近く、360°の正の整数倍近辺になるように巻付けられており、ロープ巻付角θの範囲は本発明の一実施例で説明した(3)、(4)式で示すように設定されている。
本実施例では、本発明の一実施例での効果の他にそらせ車が1個で良いこと、シーブが乗かごとつり合おもりを連結するロープの外側に配置されているので、巻上機を建物の途中階に設置するサイドマウント方式に適用すると良好であるという効果が得られる。
さらに、第5図に示す他の実施例を説明する。第5図が第1図と異なるところは、先の他の実施例の第4図と同じである。そして、本実施例の第5図が先の他の実施例第4図と異なるところは、シーブ1が乗かご3とつり合おもり4を連結するロープ7の内側に配置されていることである。」(第4ページ左上欄第14行ないし同ページ左下欄第4行)

(5)刊行物5の記載事項

当審において平成23年4月26日付けで通知した拒絶の理由に引用された本件出願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭57-14905号(実開昭58-117476号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物5」という。)には、次の事項が第2図とともに記載されている。

a)「この考案は上記従来の欠点を解決するためになされたもので、駆動綱車に対するロープの巻付角が180°以上にできる構造にし、これによりトラクシヨン能力の向上を図り、併せてかご自重の軽量化及び綱車の小型化を容易にしたトラクシヨン式エレベータ装置を提供することを目的とする。」(明細書第3ページ第12ないし18行)

b)「第2図はこの考案にかかるトラクシヨン式エレベータ装置の一例を示すもので、エレベータ巻上機(図示せず)の駆動綱車1の真下に位置して、例えば駆動綱車1より大きい径のそらせ車6を配設し、そして駆動綱車1に巻掛けされた後のロープ3のかご側ロープ部3aと釣合おもり側ロープ部3bとが駆動綱車1とそらせ車6間で互いにクロスされるようにして、駆動綱車1に対し釣合おもり5側に引き出されるロープ部3aをそらせ車6のかご4側に引き出してそらせ車6に巻掛し、さらに駆動綱車1のかご5側に引き出されるロープ3bをそらせ車5の釣合おもり5側に引き出してそらせ車5に巻掛けし、そしてそれぞれのロープ部3a,3bの吊下端にはかご4及び釣合おもり5を取付ける。これにより駆動綱車1に対するロープ3の巻付角θを180°以上にすることができる。
このようにロープ3の巻付角θを180°以上にできることは、上記(1)式から明らかなようにトラクシヨン能力を向上でき、かご自重の軽量化及び綱車1の小径化を容易に達成できることになる。」(明細書第4ページ第1行ないし第5ページ第2行)

(6)刊行物6の記載事項

当審において平成23年4月26日付けで通知した拒絶の理由に引用された本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-21084号公報(以下、「刊行物6」という。)には、次の事項が図6とともに記載されている。

a)「【0002】
【従来の技術】従来、図6(断面図)に示すようなワイヤロープ100構造が知られている。このワイヤロープ100は、素線101の集合体であるストランド102の複数本を撚り合すことによって形成されたロープ本体103と、このロープ本体103を被覆した被覆層110とによって形成されている。上記素線101は例えば略0.3mmφの細い硬鋼線からなり、この素線101の複数本を撚り合すことによって略1.5mmφのストランド102が形成されている。」(段落【0002】)

b)「【0006】このようなワイヤロープ100は、通常、重量物を牽引したり吊持するために用いられるが、その他機械装置の内部構造に適用されることも多く、その用途は広汎である。具体的な用途としては、鉱山の索道用、漁業用、船舶繋留用、クレーン用、エレベータの吊持用、各種機械装置における駆動力伝達用、織機の綜絖駆動用等が挙げられる。」(段落【0006】)

第4.対比・判断

本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明における「トラクションシーブエレベータ」、「巻上げ機械装置6」、「トラクションシーブ318」、「1組」、「巻上げロープ302」及び「転向プーリ4,5,9」は、その構造、形状、機能又は技術的意義からみて、本件発明における「エレベータ」、「巻上機」、「トラクションシーブ」、「一束」、「巻上ロープ」及び「転向プーリ」に、それぞれ相当する。

してみると、本件発明と刊行物1に記載された発明とは、
「エレベータにおいて、巻上機はトラクションシーブを介して一束の巻上ロープに係合し、エレベータには、複数の転向プーリが存在するエレベータ。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>

「トラクションシーブ」に関し、
本件発明においては、「トラクションシーブの外径は最大でも240mm」であるのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、本件発明における「トラクションシーブ」に相当する「トラクションシーブ318」の径は様々とすることができるものの、その外径が最大でも240mmであるか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

「一束の巻上ロープ」に関し、
本件発明においては、「一束の巻上ロープは円形および/または非円形の断面を有するスチールワイヤから撚り合わされている負荷支持部分を有」するのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「1組」の「巻上げロープ318」が「円形および/または非円形の断面を有するスチールワイヤから撚り合わされている負荷支持部分を有」するか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>

「複数の転向プーリ」の大きさに関し、
本件発明においては、「複数の転向プーリはトラクションシーブより大きく作られ」ているのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「転向プーリ4,5,9」は「トラクションシーブ318」より大きく作られているか否か不明である点(以下、「相違点3」という。)。

<相違点4>

「複数の転向プーリ」の取り付けに関し、
本件発明においては、「転向プーリのいくつかはエレベータシャフトの上部に取り付けられ」ているのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「転向プーリ4,5,9」のいくつかはエレベータシャフトの上部に取り付けられているか否か不明である点(以下、「相違点4」という。)。

<相違点5>

本件発明においては、「巻上機と該巻上機の支持要素との合計の重量は最大でもエレベータの定格積載重量の1/5である」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、そのようになっているか否か不明である点(以下、「相違点5」という。)。

まず、相違点1について検討する。

トラクション式エレベータにおいて、巻上機やトラクションシーブなどの部材を小型化、軽量化することは、上記第3.(2)ないし(4)において示した刊行物2ないし4に記載されているように、本件出願の優先日前に周知の技術課題(以下、「周知の技術課題」という。)である。
また、上記第3.(1)a)における「【発明が解決しようとする課題】問題は、駆動機装置に必要な空間の容積ばかりでなく、・・・・・」及び上記第3.(1)d)における「【発明の効果】本発明を適用することによって次の利点が達成される。- 本発明のトラクションシーブエレベータは、別個の機械室を必要としないため、顕著に建物空間を節約することができる。- エレベータシャフトの断面積の有効利用。・・・」の記載を参酌すれば、刊行物1には、トラクションシーブエレベータの駆動機装置に必要な空間の容積を減少させるという技術課題が開示されていることは明らかである。
そして、「駆動機装置に必要な空間の容積」は、「駆動機装置」の容積以上となることは明らかであるから、技術常識に照らせば、「駆動機装置に必要な空間の容積」を減少させるとは、「駆動機装置」の容積を減少させることを意味しているといえる。
以上によれば、刊行物1に記載された発明においても、周知の技術課題が、記載ないし示唆されているといえる。
ところで、本件発明においては、「トラクションシーブの外径は最大でも240mm」と数値限定しているところであるが、発明を特定するための事項を数値や数値範囲により数量的に表現したいわゆる数値限定に関して、実験的に数値や数値範囲を最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない程度のものであり、また、数値限定の技術的意義や臨界的意義については、明細書に明確に記載されていなければならないものである。
そこで、本件発明における「トラクションシーブの外径」を「最大でも240mm」とする数値限定についてみると、本件出願の明細書における段落【0018】において、「・・・通常より著しく細い強靭な巻上ロープを使用すれば、トラクションシーブおよびローププーリは通常の太さのロープを用いる場合と比べて十分に小さく設計可能である。またこれによれば、エレベータの運転モータとして、トルクの低い小さなモータを使用することも可能である。このことはモータの費用の削減につながる。例えば、定格積載量が1000kg以下に設計された本発明によるエレベータにおいて、トラクションシーブの直径は120?200mmであることが望ましいが、これ以下でもよい。トラクションシーブの直径は使用する巻上ロープの太さに依存する。・・・」と、段落【0019】においては、「・・・トラクションシーブの直径が160mmで直径が4mmの巻上ロープが使われるとすれば、機械装置と支持要素とを合計して、たかだか75kgとなる。換言すれば、機械装置とその支持要素との合計の重量は、エレベータの定格積載量の約1/8である。他の例として、同じ2:1の懸垂比を使用し、定格積載量が約1000kgのエレベータで、トラクションシーブの直径を同じく160mmとして巻上ロープの直径を同じく4mmとした場合、機械装置とその支持要素との合計の重量は約150kgであり、この場合機械装置とその支持要素との合計の重量は定格積載量の1/6と等しくなる。第3の例として、定格積載量を1600kgとして設計されたエレベータを考える。この場合、懸垂比が2:1であり、トラクションシーブの直径が240mmであり、巻上ロープの直径が6mmであれば、機械装置とその支持要素との合計の重量は約300kg、つまり定格積載量の約1/7である。巻上ロープ懸垂方式を変更すれば、機械装置とその支持要素との合計の重量は、さらに小さくすることが可能である。例えば、懸垂比が4:1であり、直径が160mmのトラクションシーブと直径が4mmの巻上ロープとが定格積載量500kgとして設計されたエレベータに用いられているとき・・・」と記載されているものの、「トラクションシーブの外径」を「最大でも240mm」とする数値限定についての技術的意義やその数値範囲の臨界的意義に関しては明確に記載されておらず、「トラクションシーブの外径」を「最大でも240mm」とする数値限定については、トラクションシーブの重量を小さくするという以上の技術的意義は認められない。

以上によれば、刊行物1に記載された発明におけるトラクションシーブについて、周知の技術課題を考慮して、その外径が最大でも240mmであるように設計して、相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

次に、相違点2について検討する。

エレベータの巻上ロープとして、円形の断面を有するスチールワイヤから撚り合わされている負荷支持部分を有するロープを用いることは、上記第3.(6)において示した刊行物6に従来の技術として記載されているように、本件出願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。)である。
してみると、刊行物1に記載された発明における巻上げロープとして、周知技術1を採用して、相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

次に、相違点3について検討する。

上記第3.(4)c)における「本実施例の第5図が先の他の実施例第4図と異なるところは、シーブ1が乗かご3とつり合おもり4を連結するロープ7の内側に配置されている」の記載及び第5図を参酌すれば、「シーブ1」(本件発明における「トラクションシーブ」に相当する。)が、「そらせ車5」(本件発明における「転向プーリ」に相当する。)に巻き付けられた「ロープ7」(本件発明における「巻上ロープ」に相当する。)の内側に配置されているのであるから、「そらせ車5」は「シーブ1」の径よりも大きく形成されていることが分かり、また、上記第3.(5)b)には、「駆動綱車1より大きい径のそらせ車6を配設し、」との記載がある。
これらによれば、トラクション式エレベータにおいて、転向プーリ(あるいは、そらせ車)をトラクションシーブの径よりも大きく形成することは、上記第3.(4)及び(5)において示した刊行物4及び刊行物5に開示されるように、本件出願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。)であるといえる。
そして、刊行物4の第4及び5図並びに刊行物5の第2図の記載によれば、周知技術2により、より広いロープ通路の構成を達成していることは、当業者であれば当然に予測しうることであり、しかも、刊行物4や刊行物5には、転向プーリ(あるいは、そらせ車)の大径化とともに巻上機の小型化や綱車(トラクションシーブ)の小径化に関しても記載されているところである(以下、「刊行物4及び5に記載された技術」という。)。さらに、巻上ロープが巻き掛けられるプーリ等の径を大きくすることにより、巻上ロープの摩耗が少なくなり、耐久性が向上することは、当業者における技術常識の範疇に属する事項である。
してみると、刊行物1に記載された発明における転向プーリとトラクションシーブの径について、刊行物4及び5に記載された技術並びに技術常識を考慮しつつ周知技術2を適用して、相違点3に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

次に、相違点4について検討する。

トラクション式エレベータにおいて、転向プーリのいくつかをエレベータシャフトの上部に取り付けることは、本件出願の優先日前に周知の技術(例えば、上記第3.(3)において示した刊行物3[特に、段落【0014】及び図4]のほか、特開平9-165172号公報[特に、段落【0008】及び図1]等参照。以下、「周知技術3」という。)である。
してみると、刊行物1に記載された発明において、周知技術3を採用して、相違点4に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

最後に、相違点5について検討する。

前述のとおり、トラクション式エレベータにおいて、巻上機やトラクションシーブなどの部材を小型化、軽量化することは、周知の技術課題であり、また、刊行物1に記載された発明においても、周知の技術課題が、記載ないし示唆されているといえる。
そして、上記第3.(1)c)における「【0022】図6は、巻上げ機械装置6の断面図であり、エレベータモータ126 を上から見て示す。モータ126 は、巻上げ機械装置6に適した構造として実現されるが、この構造は、モータ126 をエンドシールドと呼ばれる部品と、固定子を支持すると同時に巻上げ機械装置の側板を形成している要素111 とから構成することによる。側板111 はしたがって、モータの負荷と同時に巻上げ機械装置の負荷を伝達するフレーム部を構成している。この巻上げ機械装置は2つの支持要素、すなわち側板111 および112 を有し、これらは軸113 により接続されている。・・・・・中略・・・・・【0023】図7は、本発明の適用されている他の巻上げ機械装置の断面図である。巻上げ機械装置6およびモータ326 は側面図で示す。巻上げ機械装置6およびモータ326 は一体化構造をなしている。モータ326 は実質的に巻上げ機械装置6の内側に配置されている。モータの固定子314 および軸313 は巻上げ機械装置の側板311および312 に取り付けられている。このため、本巻上げ機械装置の側板311 および312 もまたモータのエンドシールを形成し、同時にモータおよび巻上げ機械装置の負荷を伝達するフレーム部分として機能する。」の記載及び図6及び7を参酌すれば、図7における「側板311 および312」は、図6における「側板111 および112」と同様に、「巻上げ機械装置」の「支持要素」であるから、刊行物1に記載された発明において、「巻上げ機械装置6」は、その「支持要素」である「側板311 および312」を構成の一部として包含していることが分かる。
そこで、相違点5に関し、本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明においても、「巻上げ機械装置6」に重量があり、また、「トラクションシーブエレベータ」に定格積載重量があることは明らかであるから、刊行物1に記載された発明における「巻上げ機械装置6」の重量及び「トラクションシーブエレベータ」の定格積載重量は、本件発明における「巻上機と該巻上機の支持要素との合計」の重量及び「エレベータ」の定格積載重量に相当するといえる。
ところで、本件発明においては、「巻上機と該巻上機の支持要素との合計の重量は最大でもエレベータの定格積載重量の1/5」と数値限定しているところであるが、前述のとおり、発明を特定するための事項を数値や数値範囲により数量的に表現したいわゆる数値限定に関して、実験的に数値や数値範囲を最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない程度のものであり、また、数値限定の技術的意義や臨界的意義については、明細書に明確に記載されていなければならないものである。
そこで、本件発明における「巻上機と該巻上機の支持要素との合計の重量」を「最大でもエレベータの定格積載重量の1/5」とする数値限定についてみると、本件出願の明細書における段落【0018】において、「・・・本発明によるエレベータでは、小さいトラクションシーブを使用することにより、例えば定格積載量が1000kg以下のエレベータの場合、機械装置の重量を従来用いられている機械装置の約半分とすることが可能である。これは、製造されるエレベータ機械装置の重量が100?150kg以下となることを意味する。本発明において、機械装置は少なくともトラクションシーブ、モータ、機械装置収容構体および制動装置から成るものと理解される。」と、段落【0019】においては、「エレベータ機械装置と、エレベータシャフト内の定位置に機械装置を固定するために用いる支持要素との重量は、最大で定格積載量の約1/5となる。仮に、機械装置が1つ以上のエレベータおよび/またはカウンウェイトガイドレールのみで完全に、あるいはほぼ完全に支えられている場合、機械装置およびその支持要素の総重量は定格積載量の約1/6もしくは1/8以下に減少することとなる。・・・支持要素を有し機械装置の重量が定格積載量の1/7以下もしくは定格積載量の約1/10もしくはそれ以下であるエレベータを達成することは容易である。」と記載されているものの、「巻上機と該巻上機の支持要素との合計の重量」を「最大でもエレベータの定格積載重量の1/5」とする数値限定についての技術的意義やその数値範囲の臨界的意義に関しては明確に記載されておらず、「巻上機と該巻上機の支持要素との合計の重量」を「最大でもエレベータの定格積載重量の1/5」とする数値限定については、巻上機と該巻上機の支持要素との合計の重量を小さくするという以上の技術的意義は認められない。

以上によれば、刊行物1に記載された発明における巻上げ機械装置について、周知の技術課題を考慮して、その重量を最大でもエレベータの定格積載重量の1/5となるように設計して、相違点5に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物4及び5に記載された技術並びに周知の技術課題及び周知技術1ないし3から予測される以上の格別な効果を奏するものではない

第5.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物4及び5に記載された技術並びに周知の技術課題及び周知技術1ないし3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-24 
結審通知日 2011-11-29 
審決日 2011-12-14 
出願番号 特願2004-511209(P2004-511209)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大塚 多佳子  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 安井 寿儀
中川 隆司
発明の名称 エレベータ  
代理人 香取 孝雄  

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