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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1270866
審判番号 不服2012-13866  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-20 
確定日 2013-03-07 
事件の表示 特願2005-274761「電池用電極」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 4月 5日出願公開、特開2007- 87758〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年9月21日の出願であって、平成23年6月14日付けで拒絶理由が通知され、同年7月26日付けで手続補正がされ、平成24年4月13日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月20日に拒絶査定不服審判が請求されると共に手続補正がされ、同年9月11日付けで前置報告がなされ、これに基づく審尋が同年9月26日付けで発せられ、同年12月3日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年7月20日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

結論
本件補正を却下する。

理由
1.本件補正後の本願発明
本件補正により、補正された特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである。
「【請求項1】
板状の発泡金属担体の空隙部に活物質を含む電極材料が担持されてなり、前記活物質の平均粒子径が1μm以上5μm未満である、電池用電極。」

2.本件補正前の本願発明
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである。
「【請求項1】
板状の発泡金属担体の空隙部に活物質を含む電極材料が担持されてなり、前記活物質の平均粒子径が5μm未満である、電池用電極。」

3.当審の判断
(1)本件補正は、限定的減縮を目的とするものであって、補正後の本願の請求項1に係る発明(以下、「本願補正後発明」という。)は、独立して特許を受けることができるものでなければならないが(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法特許法第126条第5項)、本願補正後発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、又は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


特開平11-111265号公報(原査定の拒絶理由における引用文献1)

(2)刊行物の記載事項
(以下、審決中の「・・・」は、記載事項の省略を意味する。)

1-1
「【請求項1】金属集電体に、活物質、電解質を含有する非水溶液及び該溶液を保持するポリマーを含む電極層を一体化させてなる、正極体及び負極体と、前記正極体及び前記負極体の間に介在されて電解質を含有する非水溶液をポリマーマトリックスに保持してなるポリマー電解質とを有するポリマー電解質二次電池において、前記正極体及び/又は前記負極体は、金属集電体がリチウムと合金を形成しない金属からなる発泡金属板であって、電極層が金属集電体内部に充填されてなるポリマー電解質二次電池。」
1-2
「【0011】本発明は特定の集電体を採用することにより、電池の内部抵抗を低減させ、小型大容量かつ急速充放電特性に優れ、充放電サイクル耐久性が優れたポリマー電解質二次電池を提供する。
・・・
【0014】本発明の正極体及び/又は負極体(以下、まとめて電極体という)は、リチウムと合金を形成しない発泡金属板・・・からなる集電体に、活物質とポリマー電解質とを含む混合物を充填することにより、集電体が前記混合物中に三次元的に広がった状態で一体化されている。したがって、活物質と集電体の間の平均距離が小さく、電極体の内部抵抗が小さい。そのため、容量の大きい電池が得られ、大電流放電にも耐えられる。」
1-3
「【0020】負極用集電体として使用される発泡金属板は、連続した気泡を有する海綿状の多孔体であることが好ましい。・・・
【0026】上記の負極活物質は、電極層自体の強度発現の見地より、粒子径が1?30μmであると好ましい。粒子径が1μm未満では嵩高くなり取扱いにくく、30μm超では負極層を形成するためのスラリが不安定になったり電池容量が減少する傾向がある。」
1-4
「【0031】上記の発泡金属板又は金属繊維焼結板からなる集電体に充填させる正極活物質の粉末の粒径は、集電体の隙間に充填しやすく、リチウムの吸蔵、放出がスムーズに行われ、かつ嵩高くならないように1?80μmとするのが好ましい。
・・・
【0033】正極活物質に使用するリチウム含有化合物としては、特にリチウムとマンガンの複合酸化物、リチウムとコバルトの複合酸化物、リチウムとニッケルの複合酸化物が好ましい。これらのリチウム含有酸化物の粒径は、正極体を形成するためのスラリの安定化、又は正極層自体の強度発現の見地より30μm以下が好ましい。」
1-5
「【0055】
【実施例】以下に実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0056】[例1]・・・
【0062】直径8μm、長さ1cm以上のSUS316L繊維からなるマットを焼結して得た厚さ0.94mm、目付量530g/m^(2) 、気孔率93%のステンレス繊維焼結板を正極集電体とした。正極活物質として平均粒径5μmのLi_(0.95)Fe_(0.25)Zn_(0.05)Mn_(1.7) O_(4) 粉末を5.42g、導電材として粒径1μm以下の黒鉛粉末を0.68g、上記共重合体を2.8g、溶液2を5.4g、及びTHF20gをアルゴン雰囲気中で混合し、撹拌しながら加温してスラリを得た。このスラリを上記ステンレス繊維焼結板に含浸させ、乾燥後プレスして、厚さ0.4mmの正極体を得た。
・・・
【0067】[例3]厚さ1.53mm、目付量1250g/m^(2) 、気孔率90%のステンレス繊維焼結板を正極集電体とし、正極活物質とポリマー電解質とを充填、乾燥、プレス後の厚さを0.64mmとした以外は例1と同様にして正極体を得た。また、厚さ1.45mm、目付量1290g/m^(2) 、平均開口径0.5mm、気孔率90%の発泡ニッケル板を負極集電体とし、負極活物質とポリマー電解質とを充填、乾燥、プレス後の厚さを0.5mmとした以外は例1と同様にして負極体を得た。・・・
【0068】上記正極体及び負極体を用い、例1と同様にしてリチウムイオン二次電池素子を組み立て、例1と同様に充放電サイクル試験を行った。初期放電容量は9.8mAHであり、50サイクル後の容量維持率は91%であった。
【0069】[例4]厚さ3.0mm、気孔率93%、単位泡の平均孔径0.4mmの発泡アルミニウム板を正極集電体とし、正極活物質とポリマー電解質とを充填、乾燥、プレス後の厚さを1.0mmとして正極体を作製した以外は例3と同様にしてリチウムイオン二次電池素子を組み立てた。」

(3)原査定の拒絶理由における周知文献

特開2005-116304号公報の記載事項
2-1
「【表1】


表1および図4に示すように、正極活物質の平均粒径が10μm以下の二次電池は良好な出力値を示し、平均粒径が5μm以下の二次電池はより良好な出力値を示し、平均粒径が1μm以下の二次電池は特に高い出力値を示した。このように、正極活物質の平均粒径(50%累積径)が小さくなるほど、出力比が向上した。」
2-2
「【図4】



特開2001-216966号公報の記載事項
3-1
「【0040】・・・表1の実施例1に示すように本発明によれば、平均粒径が8μm以下で半値幅が0.12°以下である正極活物質を用いることによって、高容量、高レート、高サイクル特性が実現される。」
3-2
「【表1】



特開2003-288899号公報の記載事項
4-1
「【0018】
【表2】



特開2000-260423号公報の記載事項
5-1
「【0022】
【実施例1】マンガン酸リチウム(Li1.1Mn1.9O4.0)60重量部、ニッケル酸リチウム(LiNi0.95Co0.05O2) 40重量部、グラファイト5重量部、アセチレンブラック2重量部、ポリフッ化ビニリデン4重量部を混合し、N-メチルピロリドンに固形分濃度が50重量%となるように溶解しスラリー状とした。ここで用いたマンガン酸リチウムは、平均粒径2.7ミクロン、最大粒径7.5ミクロンであり、ニッケル酸リチウムは平均粒径2.9ミクロン、最大粒径7.0ミクロンであった(株式会社日本レーザー製レーザー回折式粒度分布測定装置の測定)。・・・良好な出力特性を示した。
【0023】
【実施例2】マンガン酸リチウムに、平均粒径1.9ミクロン、最大粒径5.4ミクロン、ニッケル酸リチウムに平均粒径2.9ミクロン、最大粒径5.6ミクロンの活物質を用いる以外は、実施例1と同様に正極を作製し、出力特性を評価した。1mAでの充電容量140mAh、3mAでの充電容量119mAh、出力維持率は85%であり、良好な出力特性を示した。」
5-2
「【0027】
【比較例1】・・・粒径の大きい活物質を用いることにより出力特性は低下した。」

(4)刊行物に記載された発明
刊行物には、金属集電体に、活物質、電解質を含有する非水溶液及び該溶液を保持するポリマーを含む電極層を一体化させてなる、正極体及び負極体と、前記正極体及び前記負極体の間に介在されて電解質を含有する非水溶液をポリマーマトリックスに保持してなるポリマー電解質とを有するポリマー電解質二次電池において、前記正極体及び/又は前記負極体は、金属集電体がリチウムと合金を形成しない金属からなる発泡金属板であって、電極層が金属集電体内部に充填されており(1-1)、前記発泡金属板からなる集電体に充填させる負極活物質の粒子径を1?30μmとし(1-3)、正極活物質の粉末の粒径を1?30μmとした(1-4【0033】)ポリマー電解質二次電池(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(5)対比
引用発明の「発泡金属板」、「金属集電体に、活物質、電解質を含有する非水溶液及び該溶液を保持するポリマーを含む電極層を一体化させてなる」、「正極体及び負極体」は、本願補正後発明の「板状の発泡金属担体」、「発泡金属担体の空隙部に活物質を含む電極材料が担持されてなり」、「電池用電極」に相当する。
そこで、引用発明を本願補正後発明の記載ぶりに沿って整理し、本願補正後発明とを対比すると、両者は、「板状の発泡金属担体の空隙部に活物質を含む電極材料が担持されてなる、電池用電極」の点で一致し、本願発明が「活物質の平均粒子径が1μm以上5μm未満である」のに対して、引用発明では、「発泡金属板からなる集電体に充填させる負極活物質の粒子径を1?30μmとし、正極活物質の粉末の粒径を1?30μmとした」とし、活物質の平均粒子径として1μm以上5μm未満のものも含むかが明らかでない点(相違点)で一応相違する。

(6)判断
ア.特許法第29条第1項第3号該当性について
そこで、上記相違点について検討する。
引用発明も「本発明は特定の集電体を採用することにより、電池の内部抵抗を低減させ、小型大容量かつ急速充放電特性に優れ、・・・活物質と集電体の間の平均距離が小さく、電極体の内部抵抗が小さい。そのため、容量の大きい電池が得られ、大電流放電にも耐えられる」ものであって(1-2)、本願補正後発明と技術思想を同一にするばかりでなく、活物質の粒径として1μm以上5μm未満の範囲が明示されており(1-3、1-4)、「正極体及び/又は負極体(以下、まとめて電極体という)」(1-2)を構成する活物質の具体例として平均粒径を5μmにすることも記載されている(1-5)。
また、引用発明の技術分野において、活物質の平均粒子径の具体例として、1μm以上5μm未満のものは周知である(2-1、2-2、3-1、3-2、4-1、5-1、5-2)。
そうすると、引用発明も、活物質の平均粒子径として1μm以上5μm未満のものも含むと解するのが相当である。
よって、上記相違点は実質的な相違点ではないというべきである。

なお、請求人は、平成24年12月3日付けの回答書(第2頁第20行?第25行)で、本願補正後発明が100Cオーダー程度の高出力条件下でのものであることを前提として、「100Cオーダー程度の高出力条件下での出力特性に関する先行技術が現時点では何ら提示されていない以上、本願発明により奏される上述したような効果は、先行技術における開示に対して非常に顕著なものであり、しかも、引用文献1の開示や上記ご提示の4つの特許文献に開示された技術的事項の内容を知っている当業者といえども、到底予測できたものではない」と主張する。
しかしながら、本願補正後発明には、100Cオーダー程度の高出力条件下でのものとの特定がなく、その前提を欠くから、上記請求人の主張は採用できない。

そうすると、本願補正後発明は、引用発明と同一であるというべきである。

イ.特許法第29条第2項該当性について

仮に、引用発明が本願補正後発明と同一でないとしても、第2 3.(6)ア.の「判断」をふまえ、活物質の粒径として1μm以上5μm未満を含む範囲が明示されていること(1-3、1-4)、及び、電極体を構成する活物質の平均粒径の具体例として、本願発明の範囲に接する5μmが例示されていることから(1-5)、活物質の粒径として1μm以上5μm未満とすることは、当業者が容易に推考できたというべきである。
また、本願補正後発明の効果は、「本発明によれば、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増大が抑制され、充分な電流を取り出しうる電池が提供されうる」(【0012】)とされているものの、特許請求の範囲には、高出力条件下(仮に「高出力」との特定があっても、相対的な特定にとどまる。)であることが何ら特定されていないばかりか、本発明の電池用電極によれば、高出力条件下において「も」出力特性に優れる電池が提供されうる(【0106】)と、出力の程度によらず、広く発明の技術的範囲とするものである。
そして、引用発明も「大容量かつ急速充放電特性に優れ」、「大電流放電にも耐えられる」ものであるから(1-2)、本願補正後発明の効果が格別顕著であるとまではいえない。

そうすると、本願補正後発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたというべきである。

(7)小活
以上のとおり、本願補正後発明は、引用発明と実質的に同一であるか、又は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8)結論
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり、却下されることとなる。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、平成23年7月26日付け手続補正で補正された特許請求の範囲1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
板状の発泡金属担体の空隙部に活物質を含む電極材料が担持されてなり、前記活物質の平均粒子径が5μm未満である、電池用電極。」
(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第4 原査定の理由の概要
原査定の理由とされた平成23年6月14日付けの拒絶理由通知書に記載した理由は、次のとおりである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・理由1,2
・請求項1
・引用文献1
・備考
請求項1
引用文献1には、空隙率が90%以上である板状の発泡金属単体の空隙部に活物質を含む電極材料が担持されてなり、前記活物質の平均粒子径が5μm以下である電池用電極、及び当該電極と厚さが100μm以下のポリマー電解質を備えた電池が開示されており、本願の請求項1に係る発明の特定事項を実質満たしている(実施例等)。

引用文献等一覧
1.特開平11-111265号公報」

第5 当審の判断
刊行物の記載事項及び刊行物1に記載された発明は、第2、3.(2)及び(4)のとおりである。
また、活物質の平均粒子径が、本願補正後発明の1μm以上5μm未満から本願発明の5μm未満に広がったことを除いて、その余の発明特定事項において、両者に相違するところがなく、対比・判断についても、第2、3.(5)及び(6)のとおりである。
そうすると、本願発明も、引用発明と実質的に同一であるか、又は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、又は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2?6に係る発明については検討するまでもなく、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-27 
結審通知日 2013-01-08 
審決日 2013-01-21 
出願番号 特願2005-274761(P2005-274761)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 572- Z (H01M)
P 1 8・ 113- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 裕久  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 小川 進
佐藤 陽一
発明の名称 電池用電極  
代理人 八田国際特許業務法人  

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