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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1270895
審判番号 不服2011-9930  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-11 
確定日 2013-03-04 
事件の表示 特願2004-519717「コバルト、ニッケル、珪素を含む銅合金」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月15日国際公開、WO2004/005560、平成17年10月27日国内公表、特表2005-532477〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年7月1日(優先日、2002年7月5日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年7月3日付けで手続補正がされ、平成21年7月3日付けで拒絶理由が通知され、同年9月8日付けで意見書が提出され、同年12月28日付けで拒絶理由が通知され、平成22年5月31日付けで手続補正がされ、同年6月16日付けで拒絶理由が通知され、同年12月16日付けで意見書が提出され、平成23年1月5日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月11日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において、平成24年3月29日付けで拒絶理由が通知され、同年9月25日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?21に係る発明は、平成22年5月31日付けの手続補正により、補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
重量で、ニッケル:1%?2.5%、コバルト0.5?2.0%、珪素:0.5%?1.5%、マグネシウム:最大0.15%、および、残部としての銅および不可避の不純物から成る鍛錬銅合金において、
ニッケルとコバルトの合計含有量が1.7%?4.3%、ニッケル対コバルトの重量%比が1.01:1?2.6:1であり、
比(Ni+Co)/Siが3.5:1?6:1であり、
40%IACSを超える導電性を有し、降伏強度が655MPaを超え、ストリップ厚(t)の関数としての最小曲げ半径が、良方向曲げおよび悪方向曲げの両者について、最高4tであり、温度950℃での溶体化処理後の平均粒径が20ミクロン以下である鍛錬銅合金。
【請求項2】
ニッケル含有量が1.3%?1.9%、コバルト含有量が0.5%?1.5%、珪素含有量が0.5%?0.8%であることを特徴とする請求項1に記載された鍛錬銅合金。
【請求項3】
ニッケル対コバルトの重量%比が1.01:1?1.5:1であることを特徴とする請求項2に記載された鍛錬銅合金。
【請求項4】
690MPa以上の降伏強度を有することを特徴とする請求項3に記載された鍛錬銅合金。
【請求項5】
亜鉛の最大含有量が0.25%、クロムの最大含有量が0.08%であることを特徴とする請求項1に記載された鍛錬銅合金。
【請求項6】
ニッケル含有量が1.3%?1.9%、コバルト含有量が0.5%?1.5%、および珪素含有量が0.5%?0.8%であることを特徴とする請求項5に記載された鍛錬銅合金。
【請求項7】
降伏強度と導電性の組合せを改善するために、銀、チタン、ジルコニウムおよびこれらの組合せを、最大含有量1%更に含有することを特徴とする請求項1に記載された鍛錬銅合金。
【請求項8】
銀含有量が0.2%?0.7%であることを特徴とする請求項7に記載された鍛錬銅合金。
【請求項9】
マグネシウム含有量が0.005%?0.04%、亜鉛の最大含有量が0.25%、クロムの最大含有量が0.08%、錫と燐の各々の最大含有量が0.04%であることを特徴とする請求項8に記載された鍛錬銅合金。
【請求項10】
ニッケル含有量が1.3%?1.9%、コバルト含有量が0.5%?1.5%、珪素含有量が0.5%?0.8%であることを特徴とする請求項9に記載された鍛錬銅合金。
【請求項11】
ニッケル対コバルトの重量%比が1.01:1?1.5:1であることを特徴とする請求項10に記載された鍛錬銅合金。
【請求項12】
鍛錬銅合金が690MPa以上の降伏強度を有することを特徴とする請求項11に記載された鍛錬銅合金。
【請求項13】
溶体化処理後の鍛錬銅合金の平均粒径が20ミクロン以下であることを特徴とする請求項8に記載された鍛錬銅合金。
【請求項14】
マグネシウム含有量が0.005%?0.04%、亜鉛の最大含有量が0.25%、クロムの最大含有量が0.08%、錫と燐の各々の最大含有量が0.04%であることを特徴とする請求項13に記載された鍛錬銅合金。
【請求項15】
ニッケル含有量が1.3%?1.9%、コバルト含有量が0.5%?1.5%、珪素含有量が0.5%?0.8%であることを特徴とする請求項8または請求項14に記載された鍛錬銅合金。
【請求項16】
ニッケル対コバルトの重量%比が1.01:1?2.6:1であることを特徴とする請求項15に記載された鍛錬銅合金。
【請求項17】
マグネシウム含有量が0.005%?0.04%、亜鉛の最大含有量が0.25%、クロムの最大含有量が0.08%、錫と燐の各々の最大含有量が0.04%であることを特徴とする請求項16に記載された鍛錬銅合金。
【請求項18】
前記鍛錬銅合金が、
a)重量で、ニッケル:1%?2.5%、コバルト:0.5?2.0%、珪素:0.5%?1.5%、マグネシウム:最大0.15%、および、残部としての銅および不可避の不純物から成り、ニッケルとコバルトの合計含有量が1.7%?4.3%、ニッケル対コバルトの重量%比が1.01:1?2.6:1であり、比(Ni+Co)/Siが3.5:1?6:1である銅基合金を鋳造(10)し、
b)鋳造された前記銅基合金を熱間加工(12)して、第一の断面積減少を行い、
c)単一相合金を形成させるために溶体化温度と第一の時間で、鋳造銅基合金に溶体化処理(14)を施し、
d)溶体化処理後に、中間冷間加工を行なうことなく、第2相を析出させるために第一の時効焼鈍温度と第二の時間長で、単一相である前記合金に第一の時効焼鈍(18)を施し、
e)多相合金に冷間加工(20)を施して、第二の断面積減少を行い、
f)追加量の第2相を析出させるために第三の時間長および前記第一の時効焼鈍温度よりも低い第二の時効焼鈍温度で、前記多相合金に第二の時効焼鈍(23)を施す処理を順次実行することを特徴とする製造方法により製造される、請求項1に記載された鍛錬銅基合金。
【請求項19】
前記溶体化処理工程(14)後に、前記鍛錬銅合金の平均粒径が20ミクロン以下であることを特徴とする請求項18に記載された鍛錬銅基合金。
【請求項20】
前記熱間加工工程(b)(12)と前記溶体化処理工程(c)(14)との間に、前記鍛錬銅合金を冷間加工(13)する工程を含む請求項18に記載された鍛錬銅基合金。
【請求項21】
前記熱間加工工程(12)と前記冷間加工(13)工程の両者が圧延加工であって、前記鍛錬銅合金がストリップに成形されることを特徴とする請求項20に記載された鍛錬銅基合金。」
(第4以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第3 原審の査定理由及び当審の拒絶理由の概要
1.原審の査定理由の概要
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



発明の詳細な説明又は図面の記載をみても、「J662、J663、J668、J717」の各合金についてはその最小曲げ半径(GW方向及びBW方向のmbr/t)及び「温度950℃での溶体化処理後の平均粒径」に関して具体的な物性値の記載は何等なされておらず、また残る「J721、J722」の各合金についてもその最小曲げ半径(GW方向及びBW方向のmbr/t)に関して具体的な物性値の記載は何等なされていない。
【0022】の記載はあくまで銅合金における「コバルト含有量が2.5%を超える場合」が望ましくない旨を開示するに過ぎず、また一般に合金の加工性は合金組成のみに依って定まるものではないことから、本願請求項1における合金組成の規定を満足する銅合金において、単に「Co<2.5」という条件を満足することをもってその全てが「加工性は良好であり、mbr/t<4tを満足する」ものと結論付ける出願人の上記主張は技術常識に鑑みても採用できない。
「表3」及び「表16」における「mbr/t<4tを満足する」合金に係る記載は本願請求項1に係る規定を満足しない「類似の成分の合金」に係る記載に過ぎず、当該記載を根拠に「J662、J663、J668、J717、J721、J722として開示された合金」が「mbr/t<4tを満足する」ことに関し「当業者であれば、請求項の成分の合金は良好な加工性を有することが理解できるであろう」と結論付ける出願人の主張は採用できない。
また、「表14」における「mbr/t<4tを満足する」合金に係る記載は「J989-A」に関するものであるが、「J989-A」の降伏強度は650MPa未満であって本願請求項1に係る規定を満足しないものであるに過ぎず、当該記載を根拠に「J662、J663、J668、J717、J721、J722として開示された合金」が「mbr/t<4tを満足する」ことに関し「当業者であれば、請求項の成分の合金は良好な加工性を有することが理解できるであろう」と結論付ける出願人の主張はやはり採用できない。
【0059】の記載はあくまで「合金が0.5%より多いコバルトと珪素の両者を有する」ことを開示するに過ぎず、また一般に合金の「温度950℃での溶体化処理後の平均粒径結晶粒径」は合金組成のみに依って定まるものではないことから、本願請求項1における合金組成の規定を満足する銅合金において、単に「0.5%より多いコバルトと珪素の両者を有する」という条件を満足することをもってその「温度950℃での溶体化処理後の平均粒径結晶粒径」が「20μmより小さい」ものであると結論付ける出願人の上記主張は技術常識に鑑みても採用できない。

2.当審の拒絶理由の概要
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



インゴットIDのJ739(【表1-2】)は、ストリップ厚(t)の関数としての最小曲げ半径が、良方向曲げおよび悪方向曲げの両者(以下、「最小曲げ半径」という。)について、本願発明の要件を満たすものの(【表3】)、Ni及びNi:Coの値は、本願発明の成分組成の要件から外れている(【表1-2】)。
他方、インゴットIDのJ721及びJ722は、本願発明の成分組成の要件を満たすものの(【表1-2】)、最小曲げ半径の要件を満たすものか否かが不明である。
そうすると、本願発明の成分組成の満たさないものでも、最小曲げ半径を満たすものがある一方、本願発明の成分組成の要件を満たすものが最小曲げ半径の要件を満たすものか否かが不明であって、結局、本願発明を実施できるか、この出願の発明の詳細な説明によって明らかとはいえない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?21に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

第4 当審の判断
1.特許法第36条第6項第1号の要件充足性について
(1)特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している(以下、「サポート要件」という。)。
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合することを要するとされるのは、特許を受けようとする発明の技術内容を一般的に開示すると共に、特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲を明らかにするという明細書の役割に基づくものである。この制度趣旨に照らすと、明細書の発明の詳細な説明が、出願時の当業者の技術常識を参酌することにより、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されていることが必要である。
(2)これを本件について検討する。
本願発明は、「自動車およびマルチメディア産業、ならびに小型化がより厳しい強度および導電性要件を招いているその他の分野でのニーズに合致した特性の組合せを有する銅合金」の発明であり(【0015】)、当該「ニーズに合致した特性」として、良好な加工性、高強度、適度な高導電性が挙げられるから(【0003】)、本願発明の課題は、良好な加工性、高強度、適度な高導電性を含むものである。
発明の詳細な説明には、良好な加工性(本願発明の課題)につき、本願発明に係る成分組成を満たすJ662、J663、J668、J717、J721、J722の各合金(【表1-1】【表1-2】)の最小曲げ半径(良好な加工性の指標である。)の評価が何等記載されていない。
他方、発明の詳細な説明には、良好な加工性(本願発明の課題)につき、本願発明に係る成分組成を満たさないJ739、J740、J741、J742、J743の各合金(【表3】)の最小曲げ半径が本願発明の要件を満たすこと、すなわち良好な加工性(本願発明の課題)を有することが記載されているのみならず、本願発明に係る成分組成を満たさず、「比較例」とされたJ738の合金でさえ、良好な加工性(本願発明の課題)を有することが記載されている(【表3】)。
そして、本願発明に係る成分組成を満たす合金であれば最小曲げ半径が本願発明の要件である最高4tであることが、出願時の当業者の技術常識であるともいえない。
そうすると、発明の詳細な説明には、本願発明に係る成分組成を満たさない合金が良好な加工性(本願発明の課題)を有することが記載されている一方で、本願発明に係る成分組成を満たす合金が良好な加工性を有すること(本来、出願人が発明の詳細な説明で記載しなければならないことである。)が不明であり、本願発明に係る成分組成を満たす合金が良好な加工性を有することが、出願時の当業者の技術常識であるともいえないから、発明の詳細な説明には、出願時の当業者の技術常識を参酌したとしても、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されているとはいえない。
よって、この出願は、サポート要件を充足していないというべきである。

2.特許法第36条第4項第1号の要件充足性について
(1)特許法第36条第4項第1号には、「発明の詳細な説明は、・・・の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と規定している(以下、「実施可能要件」という。)。
実施可能要件が要請される趣旨は、発明を公開する代償として、一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するところにあるが、発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、かかる趣旨を没却するものと解される。
そして、物の発明における発明の実施とは、その物を作ることができ、その物を使用することができることをいうから(特許法第2条第3項第1号)、過度の試行錯誤なく、その物を作ることができ、その物を使用することができるような記載が発明の詳細な説明に必要であり、そのような記載がない場合は、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を作ることができ、その物を使用することができることが、実施可能要件を満たすために必要であると解する。
(2)これを本件について検討する。
本願発明に係る成分組成を満たすJ721、J722の各合金(【表1-2】)が良好な加工性を有するか不明である一方で、本願発明に係る成分組成を満たさないJ739の合金は(【表1-2】)、良好な加工性を有するから(【表3】)、本願発明に係る成分組成と良好な加工性の対応関係につき、予測可能性が認められない。
そうすると、本願発明に係る成分組成を有する合金を前にした当業者は、これが良好な加工性を有する否か直ちには判別できないのだから、本願発明を作ったり、使用したりするために、各成分組成ごと逐一最小曲げ半径を測定して、良好な加工性を有するか否かを確認する煩が生じ、過度の試行錯誤なく、その物を作ることができ、その物を使用することができるとはいえない。
そして、本願発明に係る成分組成を満たす合金であれば最小曲げ半径が最高4tであること、すなわち良好な加工性を有することが、出願時の当業者の技術常識であるともいえない。
そうすると、本願発明を作ること、使用することができるような記載が発明の詳細な説明にないばかりでなく、本願発明を作ること、使用することができるというような出願時の当業者の技術常識もないのだから、たとえ、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づいたとしても、過度の試行錯誤なく、本願発明を作ることができ、使用することができるとはいえない。
よって、この出願は、実施可能要件を充足していないというべきである。

3.補足
なお、拒絶査定がされ又は当審からの拒絶理由が通知された際、記載要件が充足されている旨の立証責任がある請求人は、明細書の不合理な記載についての削除等の補正する機会があったにもかかわらず、これらの機会に何ら補正することなく、不合理な記載が残された明細書のままで、当該明細書に基づき、単に記載不備はない旨の簡潔な意見に終始していることを付言しておく。

第5 むすび
以上のとおり、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないし、また、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、その余の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は、平成22年6月16日付けの拒絶理由通知の理由及び平成24年3月29日付けの拒絶理由通知の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-11 
結審通知日 2012-10-12 
審決日 2012-10-23 
出願番号 特願2004-519717(P2004-519717)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C22C)
P 1 8・ 536- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河野 一夫  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 山田 靖
佐藤 陽一
発明の名称 コバルト、ニッケル、珪素を含む銅合金  
代理人 森 徹  
代理人 白江 克則  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  
代理人 森 徹  
代理人 白江 克則  

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