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審決分類 審判 一部無効 1項1号公知  E05B
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E05B
審判 一部無効 2項進歩性  E05B
管理番号 1271444
審判番号 無効2010-800118  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-07-13 
確定日 2012-09-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第4008302号発明「ロータリーディスクタンブラー錠及び鍵」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の手続の経緯は以下のとおりである。

平成14年 8月 5日 本件出願(特願2002-226833号)
(優先権主張番号:特願2001-31688
5号,優先日:平成13年10月15日)
平成19年 9月 7日 本件特許の設定登録
(特許第4008302号)
平成22年 1月20日 (別件無効審判請求)
(無効2010-800013号)
平成22年 7月13日 本件無効審判請求
(無効2010-800118号)
平成22年10月 1日 被請求人より審判事件答弁書提出
平成22年10月 5日 手続中止
平成23年10月27日 訂正審判請求
(訂正2011-390118号)
平成23年12月20日 訂正審判審決(認容)
平成24年 3月14日 手続中止解除,訂正を認める審決の確定の通知
平成24年 4月12日 請求人より弁駁書提出
平成24年 4月26日 審理事項通知
平成24年 5月30日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成24年 6月 5日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成24年 6月15日 請求人より口頭審理陳述要領書2提出
平成24年 6月19日 被請求人より上申書提出
平成24年 6月19日 口頭審理(審理終結)


第2 請求人の主張及び提出した証拠方法
請求人は,特許第4008302号の請求項2に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,甲第1?3,5?12号証を提出して,次の無効理由を主張した。

1 無効理由の概要
(1)第1の無効理由(特許請求の範囲の記載不備)
[特許法第36条第6項第2号(特許法第123条第1項第4号)]
本件の特許請求の範囲の請求項2の記載は,特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしておらず,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。

(2)第2の無効理由(新規性の欠如)
[特許法第29条第1項第1号(特許法第123条第1項第2号)]
本件の特許請求の範囲の請求項2に係る発明は,公報である甲第1号証に記載されて本件特許の優先日前に日本国内で公然知られることとなった発明であるから,特許法第29条第1項第1号に該当して特許を受けることができないものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

(3)第3の無効理由(進歩性の欠如)
[特許法第29条第2項(特許法第123条第1項第2号)]
本件の特許請求の範囲の請求項2に係る発明は,甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

(4)第4の無効理由(進歩性の欠如)(訂正違反)
訂正2011-390118号の審決による訂正は,特許法第126条第1項ただし書若しくは第5項の規定に違反してされたものであり,本件の特許請求の範囲の請求項2に係る発明は,第123条第1項第8号の規定により,無効とすべきものである。

2 証拠方法
<審判請求書に添付>
甲第1号証:特許第3076370号公報
甲第2号証:実願昭57-149628号(実開昭59-51958号)のマイクロフィルム
甲第3号証:赤松征夫著,「鍵と錠の世界」第1版,株式会社彰国社,1995年5月10日,P.79-83
甲第5号証:実願昭56-169917号(実開昭58-73847号)のマイクロフィルム
甲第6号証:実用新案登録第2595638号公報
甲第7号証:実公昭51-15730号公報
甲第8号証:実願昭56-76796号(実開昭57-190068号)のマイクロフィルム
甲第9号証:株式会社アルファ編,「KEYStories?鍵は豊かな文化をつくりだす?」株式会社アルファ,平成11年3月,P.24?29,67

<口頭審理陳述要領書に添付>
甲第10号証:実公昭55-32998号公報
甲第11号証:意匠登録第1110356号公報
甲第12号証:特開2001-262879号公報

(甲第13号証(特表2004-514807号公報)は撤回。甲第4号証の1(特願2002-354821号の特許願,明細書,図面,要約書),甲第4号証の2(特願2002-354821号に対する平成18年9月5日付け拒絶理由通知書)は参考資料。)


第3 被請求人の答弁
被請求人は,答弁書,口頭審理陳述要領書,及び口頭審理において,本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,さらに第4の無効理由(特許法第123条第1項第8号)に関する請求理由の補正には同意しない,と主張した。


第4 第4の無効理由(特許法第123条第1項第8号)に関する請求理由の補正に対して
平成24年6月19日の口頭審理において,以下のとおり決定した。
「請求人提出の平成24年4月12日付け弁駁書及び同年6月15日付け口頭審理陳述要領書2による,請求理由の補正(新たに主張された特許法第123条第1項第8号に関する無効理由:第4の無効理由)については,特許法第131条の2第2項第2号の規定により許可しない。 」


第5 本件特許発明
本件特許(特許第4008302号) の請求項2に係る発明は,平成23年10月27日に訂正審判請求(訂正2011-390118号)され,平成23年12月20日に,訂正審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める審決がなされたので,以下のとおりのものである。

「【請求項2】
内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外筒と,この外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の仕切板を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と,この内筒の母線に沿って延在し,内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に,上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバーとを有し,上記仕切板の間の各スロットに,中央部に前記内筒の中心軸線に関して点対称に形成された鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通孔26を形成した環状ロータリーディスクタンブラーを挿設し,その実体部の1ヵ所を,内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支すると共に,鍵挿通孔を挟んで上記支軸と対峙するロータリーディスクタンブラーの実体部であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠を形成し,一方,鍵挿通孔の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシブルである合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起を一体に突設し,各ロータリーディスクタンブラーをこの係合突起が合鍵に近接する方向に付勢すると共に,常態では内筒を軸線方向に貫通するバックアップピンに係止し,他方,これらのタンブラー群の係合突起の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のブレードに形成された対応する窪みと係合したとき,各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにしたロータリーディスクタンブラー錠の合鍵であって,鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの突出量が一定である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し,この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき,該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより,各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにし,以て,合鍵と一体的に内筒を回動させたさせたとき,カム溝とロッキングバーとの間に生じる楔作用によりロッキングバーを内筒中心軸方向に移動させ,内筒を外筒に対し相対回動できるようにしたことを特徴とするロータリーディスクタンブラー錠用の鍵。」(以下,「本件特許発明」という。)


第6 無効理由に対する当審の判断
「第4」に示したように,第4の無効理由は許可しないとしたので,第1?3の無効理由について判断する。
しかしながら,第4の無効理由による請求理由の補正を許可したとしても,平成23年12月20日の訂正審判審決(訂正2011-390118号)で示したとおりであり,無効理由は成り立たない。
1 第1の無効理由(特許請求の範囲の記載不備)について
請求人は,審判請求書の2ページ7行?4ページ10行において,ロータリーディスクタンブラー錠の構成に関する記載は「鍵」の構造,機能,特性等にどのように関係しているかについては記載がなく,技術常識からも理解できないと主張しているので,この点について判断する。

本件特許発明の記載を分節すると以下のとおりである。

A 内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外筒と,
B この外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の仕切板を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と,
C この内筒の母線に沿って延在し,内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に,上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバーとを有し,
D 上記仕切板の間の各スロットに,中央部に前記内筒の中心軸線に関して点対称に形成された鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通孔26を形成した環状ロータリーディスクタンブラーを挿設し,
E その実体部の1ヵ所を,内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支すると共に,
F 鍵挿通孔を挟んで上記支軸と対峙するロータリーディスクタンブラーの実体部であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠を形成し,
G 一方,鍵挿通孔の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシブルである合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起を一体に突設し,
H 各ロータリーディスクタンブラーをこの係合突起が合鍵に近接する方向に付勢すると共に,常態では内筒を軸線方向に貫通するバックアップピンに係止し,
I 他方,これらのタンブラー群の係合突起の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のブレードに形成された対応する窪みと係合したとき,各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにした
J ロータリーディスクタンブラー錠の
K 合鍵であって,
L 鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの突出量が一定である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し,
M この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき,該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより,各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにし,
N 以て,合鍵と一体的に内筒を回動させたさせたとき,カム溝とロッキングバーとの間に生じる楔作用によりロッキングバーを内筒中心軸方向に移動させ,内筒を外筒に対し相対回動できるようにしたことを特徴とするロータリーディスクタンブラー錠用の
O 鍵。

請求項において特許を受けようとする発明についての記載は,種々の表現形式を用いることができるから,錠に関する記載があるからといって,直ちに鍵発明が明確でないとはいえない。そして,錠に関する記載は,請求項に存在する事項であるから,発明の把握に際して,必ず考慮の対象とする必要があり,鍵発明は,「鍵」の発明なので,錠に関する記載は,形状・構造・作用・機能・特性・その他の様々な表現方式を用いて鍵を特定するための事項と解釈される。
まず,錠に関する記載により,形状・構造・作用・機能・特性等の観点から鍵の発明が特定され,その発明が明確に把握できる場合は,当該鍵発明は,錠に関する記載によっては不明確にはならない。また,錠に関する記載により,形状・構造・作用・機能・特性等の観点から鍵の発明が何ら特定されず,装着すべき本体に関する記載の有無が鍵の発明に何の影響も及ぼさないことが明確に把握できる場合も,当該鍵発明は,錠に関する記載によっては不明確にはならない。一方,錠に関する記載により,形状・構造・作用・機能・特性等の観点から鍵の発明が特定されているのか否かを明確に把握できないときや,どのように特定されているのかを明確に把握できないときは,当該鍵発明は,錠に関する記載によって不明確になる。

以上の観点から,本件特許発明について以下に検討する。
(1)K,Oは鍵であることを特定しているので,明確な記載である。
(2)Dの「中央部に前記内筒の中心軸線に関して点対称に形成された鍵孔」,Gの「リバーシブルである合鍵」との記載は,鍵がリバーシブルであることを特定しているので,明確な記載である。
(3)Gの「合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起」,Lの「係合突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し」,Mの「前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に」との記載は,鍵の平面部に有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みがあるということを特定しているので,明確な記載である。
(4)本件特許発明におけるロータリーディスクタンブラーである旨の記載,Eの「その実体部の1ヵ所を,内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支する」,Gの「鍵挿通孔の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入された・・・合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起を一体に突設し」,Lの「鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの突出量が一定である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し」,Mの「この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき,該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わる」との記載は,支軸を中心として揺動するロータリーディスクタンブラーに突出量が一定である係合突起が設けられて鍵のブレード平面部にある窪みに係合するから,以下の図から理解されるように,支軸を中心とする円弧に沿っていて,ブレードの中心に寄るほど深くなる窪みを有した鍵を特定しており,明確な記載である。

[図](本願の図10)
解錠切欠9とその右側に点線で表された3つの切欠は,解錠切欠9の形成角度が異なる4種類のロータリーディスクタンブラーが用いられることを表している。係合突起29の突出量は一定であり,換言すれば,支軸23の中心と係合突起29の先端との距離は一定であって,係合突起29が合鍵のブレードの窪み25に係入してその底面に当接したとき,窪み25の深さに応じてロータリーディスクタンブラー27の揺動角度を変化させ,解錠切欠9をロッキングバー6の内側縁に整合させるようにしている。
そうすると解錠状態では,一番左に解錠切欠9があるロータリーディスクタンブラーでは係合突起29は図のように右下に下がり,解錠切欠を右側に設けたロータリーディスクタンブラーほど左へ回転した位置となって係合突起29は左上に上がるから,係合突起と係合する鍵の窪みの位置と深さは,鍵のブレードの中心に寄るものほど深くなり,支軸23を中心とする円弧に沿っている。



(5)その他の記載は,形状・構造・作用・機能・特性等の観点から,「鍵」の発明が特定されず,記載の有無が「鍵」の発明に影響を及ぼさないことは明らかであるから,不明確であるとはいえない。

以上のとおり,A?Oの記載は何れも不明確であるとはいえず,全体としても不明確であるとはいえない。

請求人は請求書3ページ19行?4ページ4行においてロータリーディスクタンブラー錠が記載された甲第3号証を示し,本件特許発明の請求項の記載に一般的なロータリーディスクタンブラー錠の構成があるので,「鍵」の構成にどのように関係しているか不明であるから不明確である旨を主張している。
しかしながら,錠に関する記載があるからといって,直ちに鍵発明が明確でないとはいえず,上記したようにA?Oの記載は何れも不明確ではなく,全体としても不明確であるとはいえない。

したがって,本件の特許請求の範囲の請求項2の記載は,特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしている。

2 第2の無効理由(新規性の欠如)について
請求人は,本件特許発明は,公報である甲第1号証に記載されて本件特許の優先日前に日本国内で公然知られることとなった発明であるから,特許法第29条第1項第1号に該当して特許を受けることができないと主張するので,以下に検討する。

(1)甲第1号証(特許第3076370号公報)
本件特許出願の優先日前の,平成12年8月14日に発行された甲第1号証には,次の事項が記載されている。
(1-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】それぞれ平板安全キー(1)を挿入するためのキー溝(7,8)が設けられている少なくとも1つのローター(9,10)を有する2つのロックシリンダ(5,6)と,少なくとも1つの上記キー(1)とが含まれるロック装置において,一方のロックシリンダ(5又は6)のローター(9又は10)が他方のロックシリンダ(6又は5)のローター(10又は9)に対して,シリンダハウジング(11,12)に関してその回転軸の回りに180゜旋回されていること,及びそのキー(1)が非回転キーであること,そしてこのキー(1)は,その一方のシリンダ(5又は6)の一方のタンブラ列(a,e,d)を,及び/又は他方のシリンダ(6又は5)の他方のタンブラ列(b,c,f)をロック解除位置に配列させるための各穴(a,f)を備えていることを特徴とするロック装置。
【請求項2】各ローター(9,10)が異なった基本コード又はロックコードを有していることを特徴とする請求の範囲1項記載のロック装置。
【請求項3】1つの非回転キー(1)が上位キーであること,及び各ロックシリンダに下位キーとして回転キーも備えられていることを特徴とする請求の範囲1項記載のロック装置。
【請求項4】キーヘッド(3)に非対称的な形状を与えることによりそれが非回転キーであると識別できることを特徴とする請求の範囲1項に記載のロック装置に用いるためのキー。
【請求項5】キーコードを表す1群又は2群の穴列(A,D,E,B,C,F)を有し,これらがそのキー軸(2)の狭幅側面(13,14)に沿って配置されていることを特徴とする請求の範囲4項記載のキー。
【請求項6】少なくとも1つの群が3つの穴列(A,E,D又はB,C,F)を含み,その際1つの穴列(E又はF)が各直立方向穴により形成されており,そして他の2つの穴列(A,D又はB,C)がキー軸の各広幅側面(15,16)の上に向き合わせに並んだ横方向穴により形成されていることを特徴とする請求の範囲5項記載のキー。」
(1-2)「本発明の詳細を添付図により説明するが,本発明はこれに限定されるものではない。
第1aおよび1b図は本発明によるロツク装置用のキーを示す側面図であり,
第1c図は第1a図の線1c-1cに沿うキーの断面図であり,」 (4欄20行?25行)
(1-3)図面


第1a図?第1c図からみて,穴は広い側部15,16に2列形成されている。また,第1c図からみて,穴列は有底で摺り鉢状であり,キー断面の点対称の位置にある幅広側面に形成された2つの穴(BとD)は異なる深さである。そうすると,上記(1-1)?(1-3)の記載並びに当業者の技術常識によれば,甲第1号証には,以下の鍵の発明が記載されており,甲第1号証は特許公報であるから当該記載された発明が本件特許出願の優先日である平成13年10月15日より前に公知であったものと認められる。

「キーコードを表す有底で摺り鉢状の穴列(A,D,E,B,C,F)を有し,穴列(E,F)がそのキー軸(2)の狭幅側面(13,14)に沿って配置され,
2つの穴列(A,D又はB,C)がキー軸の各広幅側面(15,16)の上に向き合わせに並んだ横方向穴により形成されており,キー断面の点対称の位置にある幅広側面に形成された2つの穴(BとD)は異なる深さであるキー。」
(以下,「甲1発明」という。)

(2)本件特許発明と甲1発明との対比・判断
本件特許発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「広幅側面(15,16)」は本件特許発明の「ブレードの平面部」に相当し,甲1発明の「穴列」は有底で摺り鉢状であるから,本件特許発明の「有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪み」に相当し,甲1発明の「キー」は本件特許発明の「合鍵」および「鍵」に相当する。
また,甲1発明の「2つの穴列(A,D又はB,C)がキー軸の各広幅側面(15,16)の上に向き合わせに並んだ横方向穴により形成されており」との点と,本件特許発明の「鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの突出量が一定である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し,この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき,該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わる」との点は,「鍵のブレード平面部における幅方向の複数の位置に有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みがある」点で共通する

そうすると,両者は少なくとも,
「合鍵であって,
鍵のブレード平面部における幅方向の複数の位置に有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みがある
鍵。」の点で一致し,少なくとも次の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明の鍵が「リバーシブルである合鍵」であるのに対し,甲1発明のキーは「キー断面の点対称の位置にある幅広側面に形成された2つの穴(BとD)は異なる深さ」であってリバーシブルではない点。

<相違点2>
本件特許発明の鍵は,上記「1(4)」で示したように錠の記載により鍵の構成を特定されており,ブレードにある複数の「窪み」は,支軸を中心とする円弧に沿っていて,ブレードの中心に寄るほど深くなる「深さ」と「ブレードの幅方向の位置」になるのに対し,甲1発明の穴はそのように特定されるものでなく,そのような深さと位置の関係でない点。

請求人は平成24年6月5日付け口頭審理陳述要領書の3ページ14行?4ページ1行において甲第7,10?12号証を挙げて鍵のブレード幅方向に窪みを作る点は当業者に周知である旨を主張しているが,「鍵のブレード幅方向に窪みを作る点は当業者に周知」であっても上記相違点1,2が実質的に相違点ではないということはできない。
また,請求人は請求書7ページ20行?25行等において「ピンタンブラー方式のシリンダー錠(甲5)用の鍵も,ブレードの平面部と端縁部に有底で所定の深さの摺り鉢状の窪みを形成し,・・・窪みが錠内の係合突起の先端と整合するブレードの位置にあるという上記本件発明特定事項が,上記ロータリーディスクタンブラー錠の用途に特に適した意味を有するとは解することができない。」等と主張しているが,上記のとおりに本件特許発明は鍵として甲1発明との相違点を有するものである。
さらに請求人は,審判請求書及び口頭審理において,「『窪みの深さと位置の関係が深くなるほど幅方向の内側になる点』を一応相違点として認めても,効果がないから実質的に相違点でない」と主張しているが,単に効果がないからといって相違していないとはいえない。その上,「3 第3の無効理由(進歩性の欠如)について」の相違点2についての判断で後述するのと同様の理由で上記の相違点は効果を奏するものである。
以上のとおり,本件特許発明と甲1発明は少なくとも上記2つの相違点を有するから,本件特許発明は甲第1号証に記載されて本件特許の優先日前に日本国内で公然知られることとなった発明であるということはできない。

3 第3の無効理由(進歩性の欠如)について
請求人は,本件特許発明は,甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張するので,以下に検討する。

(1)甲第2号証:実願昭57-149628号(実開昭59-51958号)のマイクロフィルム
(1-1)「鍵(A)は断面大略矩形状の帯板状で,その鍵片部における側面(A_(1))に鍵部(10)を,ピンタンブラ(6)をレベル合致状態に作動し得るよう所定の深さ関係に凹設する,一方板面(A_(2))にはその両面に鍵部(11)(11)を,ピンタンブラ(7)(7)をレベル合致状態に作動し得るよう所定の深さ関係に凹設する。
各鍵部(10)(11)(11)は夫々大略倒円錐台形状に凹設形成する。」(明細書4ページ3行?10行)
(1-2)「4.図面の簡単な説明
図面は本考案鍵の実施例を示し,第1図乃至第4図はその第1実施例で,第1図は正面図,第2図は平面図,第3図はIII-III線に沿える拡大横断面図,第4図はIV-IV線に沿える拡大縦断面図。第5図は第2実施例を示す縦断面図,第6図は第1実施例で操作されるシリンダ錠の縦断面図。第7図はVII-VII線に沿える縦断面図。第8図は第2実施例の鍵で操作されるシリンダ錠の同縦断面図である。
図中
(A)は鍵
(A_(1))は側面
(A_(2))は板面
(B)はシリンダ錠
(1)は外筒
(2)は内筒
(3)は鍵挿通孔
(3a)は短尺巾側面
(3b)は長尺巾側面
(4)(5)(5)はガイド孔
(6)(7)(7)はピンタンブラ
(10)(11)(11)は鍵部」(明細書4ページ14行?5ページ16行)
(1-3)図面


(1-1)?(1-3)からみて,甲第2号証には以下の発明が記載されている。
「断面大略矩形状の帯板状で,その鍵片部における側面(A_(1))に鍵部(10)を,ピンタンブラ(6)をレベル合致状態に作動しうるよう所定の深さ関係に凹設し,
一方板面(A_(2))にはその両面に鍵部(11)(11)を,ピンタンブラ(7)(7)をレベル合致状態に作動しうるよう所定の深さ関係に凹設し,
各鍵部(10)(11)(11)は夫々大略倒円錐台形状に凹設形成する鍵(A)。」(以下,「甲2発明」という。)

(2)本件特許発明と甲2発明との対比・判断
本件特許発明と甲2発明を対比すると,
甲2発明の「鍵片部」は本件特許発明の「ブレード」に相当し,
以下同様に,「板面(A2)」は「ブレードの平面部」に,
「鍵部」は夫々大略倒円錐台形状に凹設形成されているから,「有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪み」に,それぞれ相当する。

そうすると,両者は少なくとも,
「合鍵であって,
ブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成した
鍵。」の点で一致し,少なくとも次の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明の鍵が「リバーシブルである合鍵」であるのに対し,甲2発明の鍵(A)はリバーシブルであるか不明である点。

<相違点2>
本件特許発明の鍵は,上記「1(4)」で示したように錠の記載により鍵の構成を特定されており,ブレードにある複数の「窪み」は,支軸を中心とする円弧に沿っていて,ブレードの中心に寄るほど深くなる「深さ」と「ブレードの幅方向の位置」になるのに対し,甲2発明の鍵部はそのように特定されるものでなく,そのような深さと位置の関係でない点。

まず,相違点1について検討する。
リバーシブルである鍵は,甲第6号証の実用新案登録請求の範囲,【0008】,【0027】,図4,5,甲第5号証の3ページ9行?14行にも記載されているように,当業者に周知な技術事項である。そして,甲2発明を当業者に周知なリバーシブル鍵とすることは当業者が容易に想到したことである。

次に,相違点2について検討する。
上記「1(4)」で示したように,支軸を中心とする円弧に沿っていて,ブレードの中心に寄るほど深くなる窪みを有した鍵を特定している。そしてこのような位置と深さの関係になるのは「ロータリーディスクタンブラーを挿設し,その実体部の1ヵ所を,内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支」し,「鍵挿通孔の開口端縁に,」「合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起を一体に突設し,」「鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの突出量が一定である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し,この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき,該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わる」錠の鍵である場合に特有であると認められ,ピンタンブラー錠等の直線的にタンブラーが動く錠用の鍵では一般的にはこのような窪みとはならないと認められる。
請求人は平成24年6月5日付け口頭審理陳述要領書の5ページにおいて,「『ブレード(平面部)のどの位置にどのような深さの窪みをつけるか』は,ロータリーディスクタンブラーに具体的に適用した場合の設計変更にすぎない。」と主張しているが,そもそも一般的なロータリーディスクタンブラー錠は,本件特許明細書における従来例である図2から理解できるように,レバータンブラー11(ロータリーディスクタンブラーに相当)が揺動して鍵の側端部(平面部とは垂直な面)に当接するものと認められる。
【図2】

そしてこの錠を,ロータリーディスクタンブラーが回転によってわずかに上下に動くことを利用して,その係合突起が鍵のブレード平面部の窪みに当接するようにし,円弧に沿って当接する構成とすることは,当業者であっても通常は想到し得ないものであって,そのことにより上記したような特徴的な位置と深さの窪みを持つ本件特許発明の鍵も想到し得ないものである。さらに,本件特許発明の鍵の構成とすることにより,側端部と当接するよりも平面部と当接する方が当接部(係合突起)の回転半径が小さくなり,解錠切欠の動きは,当該解錠切欠の回転半径と当接部の回転半径の比により決まるものであるから,本件特許発明の鍵の場合は側端部に窪みがある場合よりも解錠切欠の動きが大きくなり,わずかな窪み位置や深さの違いで解錠できなくなって,合鍵を製造しにくい効果を奏すると認められる。
以上のことから,相違点2については当業者が容易になし得たものではない。

請求人は請求書12ページにおいて「有底で所定の深さの摺り鉢状の窪みがシリンダー錠内の係合突起の先端と整合するブレードの位置にあるという鍵の構成は,甲1,甲2,甲5から甲8までに記載のある鍵と全く同じである。」として進歩性を否定しているが,甲第1,2,5?8号証の鍵はいずれも係合突起が直線的に移動する錠用の鍵であるから,窪みの位置が決まっていて深さのみが変化するものであって,一般的に本件特許発明の相違点2に係る構成とは異なっており,そのようにすることが容易であるとの理由もない。したがって,当業者が容易になし得たものではない。
また,請求人は口頭審理において「ブレードの幅方向の位置に窪みがあるという相違点については,甲第7,10?12号証に記載されているように周知である。」と主張しているが,「鍵のブレード幅方向に窪みを作る点は当業者に周知」であっても上記相違点2に示したように,本件特許発明の鍵の窪みにはその位置と深さに特有の関係があり,甲第7号証,甲第10?12号証の錠における係合突起は直線的に移動するから,鍵の窪みは位置が決まっていて深さのみが変化するものであって,その鍵が一般的に本件特許発明の相違点2に係る構成のような窪みとなるとは認められず,当業者が容易になし得たということはできない。
甲第9号証は鍵の平面部と縁部に窪みが形成されたディンプルキーが公知であったことを示す文献であるが(請求書14?15ページ),本件特許発明は鍵の平面部に窪みが形成されたディンプルキーであり,本件特許発明との関係では甲第2号証と同じ技術を示しているにすぎない。

以上のことから,本件特許発明は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。


第7 むすび
以上のとおり,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件特許発明を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人の負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-07-31 
出願番号 特願2002-226833(P2002-226833)
審決分類 P 1 123・ 111- Y (E05B)
P 1 123・ 537- Y (E05B)
P 1 123・ 121- Y (E05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 住田 秀弘多田 春奈  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 高橋 三成
中川 真一
登録日 2007-09-07 
登録番号 特許第4008302号(P4008302)
発明の名称 ロータリーディスクタンブラー錠及び鍵  
代理人 三浦 光康  
代理人 熊谷 秀紀  
代理人 森下 寿光  
代理人 戸張 正子  
代理人 宮坂 英司  
代理人 飯田 岳雄  
代理人 今村 健志  
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