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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06K
管理番号 1271661
審判番号 不服2011-7588  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-11 
確定日 2013-04-09 
事件の表示 特願2003-143598「通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月 9日出願公開、特開2004-348363〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判の請求に係る特許願(以下,「本願」という。)は,平成15年5月21日の出願であって,平成19年5月25日付けで手続補正がなされ,平成21年4月27日付けで拒絶理由が通知され,これに対し,同年7月13日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,平成22年1月5日付けで最後の拒絶理由が通知され,これに対し,同年3月12日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,平成23年1月5日付けで補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定がなされた。これに対し,平成23年4月11日付けで審判請求がなされるとともに手続補正がなされ,同年12月12日付けで審尋がなされ,これに対して平成24年2月10日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年4月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年4月11日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の記載は,次のとおり補正された。
「 【請求項1】 無線通信を行うための結合用コイルと,操作部と,表示部とを備え,無線通信を行うための送信,受信による無線通信部体を装着可能にする装着機構とを有する携帯電話機と,
近距離通信を行うための結合用コイルと,無線通信を行うための送信,受信による無線通信部体を装着可能にする装着機構とを有するICカードであって,
前記無線通信を行うための送信,受信による無線通信部体を,
前記携帯電話機または前記ICカードが有する装着機構に選択的に装着できるようにしたことを特徴とする通信システム。
【請求項2】 無線通信を行うための結合用コイルと,操作部と,表示部とを備え,
無線通信を行うための送信,受信による無線通信部体を装着可能にする装着機構と,近距離通信を行うための信号処理や通信を行うSPCモジュールとを有する携帯電話機と,
近距離通信を行うための結合用コイルと,無線通信を行うための送信,受信による無線通信部体を装着可能にする装着機構と,前記無線通信部体との信号処理や通信を行うモジュールとを有するICカードであって,
前記無線通信を行うための送信,受信による無線通信部体を,
前記携帯電話機または前記ICカードが有する装着機構に選択的に装着できるようにしたことを特徴とする通信システム。
【請求項3】 請求項2に記載の通信システムにおいて,
前記携帯電話機の装着機構に装着される前記無線通信部体は,情報の記録や処理を行うICモジュール又はICモジュール板を有し,
前記SPCモジュールは,前記ICモジュール又は前記ICモジュール板との信号処理や通信を行うことを特徴とする通信システム。
【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかに記載の通信システムにおいて,
前記ICカードは,ネットワークに接続され,
前記携帯電話機は,前記ICカードとの無線通信を介して前記ネットワークに接続することを特徴とする通信システム。
【請求項5】 請求項3に記載の通信システムにおいて,
前記ICモジュール又はICモジュール板は,リーダと接触して情報の送受を行うものであり,
前記情報の送受を行う接触端子と,
前記ICカードに装着可能な装着機構と,を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項6】 請求項3に記載の通信システムにおいて,
前記ICモジュール又はICモジュール板は,結合用のコイルを有し無線通信を行う無線通信部を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項7】 請求項3に記載の通信システムにおいて,
前記ICモジュール又はICモジュール板は,リーダと接触して情報の送受を行うものであり,
前記情報の送受を行う接触端子と,
結合用のコイルを有し無線通信を行う無線通信部と,を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項8】 請求項6または7に記載の通信システムにおいて,
前記ICモジュール又はICモジュール板は,ICカードに装着可能な装着機構を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項9】 請求項5または8に記載の通信システムにおいて,
前記装着機構は,溝部または突起部であり,
前記溝部または前記突起部が,前記ICカードの突起部または溝部と嵌合することを特徴とする通信システム。
【請求項10】 請求項5または8に記載の通信システムにおいて,
前記装着機構は,複数の突起部または複数の穴部であり,
前記複数の突起部または前記複数の穴部が,前記ICカードの複数の穴部または複数の突起部と嵌合することを特徴とする通信システム。」
(以下,請求項1?10をそれぞれ「補正後の請求項1?補正後の請求項10」という。)

2 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の,平成21年7月13日付けの手続補正による特許請求の範囲の記載は次のとおりである。なお,平成22年3月12日付けの手続補正は却下されている。
「 【請求項1】 結合用のコイルと,無線通信を行うための送信,受信による無線通信部と,を有する携帯電話と,
結合用コイルと,該結合用のコイルが前記携帯電話の送信,受信による無線通信部と通信を行うための前記携帯電話の結合用コイルと結合し,無線通信を行う送信,受信による無線通信部と,を有する端末装置と,
を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項2】 結合用のコイルを有し無線通信を行う無線通信部と,信号処理や通信を行うSPCモジュールと,を有する携帯電話と,
結合用のコイルを有し該結合用のコイルが前記携帯電話の無線通信部が有する結合用のコイルと結合し無線通信を行う無線通信部と,前記無線通信部との信号処理や通信を行うモジュールと,を有する端末装置と,
を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項3】 請求項2に記載の通信システムにおいて,
前記携帯電話は,情報の記録や処理を行うICモジュール又はICモジュール板を有し,
前記SPCモジュールは,前記ICモジュール又は前記ICモジュール板との信号処理や通信を行うことを特徴とする通信システム。
【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかに記載の通信システムにおいて,
前記端末装置は,ネットワークに接続され,
前記携帯電話は,前記端末装置との無線通信を介して前記ネットワークに接続することを特徴とする通信システム。
【請求項5】 請求項3に記載の通信システムにおいて,
前記ICモジュール又はICモジュール板は,リーダと接触して情報の送受を行うものであり,
前記情報の送受を行う接触端子と,
ICカードに装着可能な装着機構と,
を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項6】 請求項3に記載の通信システムにおいて,
前記ICモジュール又はICモジュール板は,結合用のコイルを有し無線通信を行う無線通信部を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項7】 請求項3に記載の通信システムにおいて,
前記ICモジュール又はICモジュール板は,リーダと接触して情報の送受を行うものであり,
前記情報の送受を行う接触端子と,
結合用のコイルを有し無線通信を行う無線通信部と,
を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項8】 請求項6または7に記載の通信システムにおいて,
前記ICモジュール又はICモジュール板は,ICカードに装着可能な装着機構を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項9】 請求項5または8に記載の通信システムにおいて,
前記装着機構は,溝部または突起部であり,
前記溝部または前記突起部が,前記ICカードの突起部または溝部と嵌合することを特徴とする通信システム。
【請求項10】 請求項5または8に記載の通信システムにおいて,
前記装着機構は,複数の突起部または複数の穴部であり,
前記複数の突起部または前記複数の穴部が,前記ICカードの複数の穴部または複数の突起部と嵌合することを特徴とする通信システム。」
(以下,請求項1?10をそれぞれ「補正前の請求項1?補正前の請求項10」という。)

3 補正の目的の適否についての判断
請求項1に関する本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「結合用コイルと,該結合用のコイルが前記携帯電話の送信,受信による無線通信部と通信を行うための前記携帯電話の結合用コイルと結合し,無線通信を行う送信,受信による無線通信部と,を有する端末装置」を削除する補正を含む。
また,独立形式請求項である請求項2に関する本件補正は,補正前の請求項2に記載された発明を特定するために必要な事項である「結合用のコイルを有し該結合用のコイルが前記携帯電話の無線通信部が有する結合用のコイルと結合し無線通信を行う無線通信部と,前記無線通信部との信号処理や通信を行うモジュールと,を有する端末装置」を削除する補正を含む。
したがって,本件補正は,補正前の請求項1ないし補正前の請求項10のいずれかに記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)17条の2第4項2号に規定する,特許請求の範囲の減縮(同法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的としたものとはいえない。
また,上記補正が,同法17条の2第4項1号(請求項の削除),3号(誤記の訂正),4号(明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。))に規定される事項を目的とするものでないことは明らかである。

4 むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法17条の2第4項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年4月11日付けの手続補正は,上記第2のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成21年7月13日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項10に記載された,上記第2の2のとおりのものであるところ,その請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は,再掲すれば,次のとおりである。

「結合用のコイルと,無線通信を行うための送信,受信による無線通信部と,を有する携帯電話と,
結合用コイルと,該結合用のコイルが前記携帯電話の送信,受信による無線通信部と通信を行うための前記携帯電話の結合用コイルと結合し,無線通信を行う送信,受信による無線通信部と,を有する端末装置と,
を備えることを特徴とする通信システム。」

2 刊行物の記載事項
(1)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開2001-223631号公報(平成13年8月17日公開。以下,「引用例」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は非接触ICカード機能を有する携帯電話機等の移動体通信機に関する。」
(イ)「【従来の技術】…(中略)…JRにおける料金支払い…(中略)…等において偽造,変造の困難な情報通信手段として非接触ICカードが使用されようとしている。…(中略)…
【0003】図4は非接触ICカードの一構成例を示す。同図において,1はメモリ,2はCPU,3は発振器,4は変調復調回路,5は高周波回路,6はループアンテナ,7は電源供給回路であり,これら回路はIC化されており,ループアンテナ6と共に一枚のカード8に内蔵されている。メモリ1には所要の情報が書き込まれており,カード8を外部情報通信源,例えば,前記公衆電話機,JRの駅の改札口に設置されている情報読取器に対しメモリ1からの情報をループアンテナ6を介して送信し,また情報読取器から所定の高周波信号を受信する。ICカード8の各回路の電源としては,ループアンテナ6での受信信号を電源供給回路7で整流し各回路に給電する。」
(ウ)「【0010】
【発明の実施の形態】図1は本発明の非接触ICカードの機能を付加した携帯電話機の一実施例を示す。同図において,10は携帯電話機に固有の電話通信手段で,アンテナ11,高周波回路12,復調器13,変調器14,PLL回路15,発振器17,制御回路18,キーボード19,表示器20,電池21,電源オフ回路22,スピーカ23,マイクロホン24,ICカード25,CPU26等から成る。30はICカード用通信手段で,ループアンテナ31,高周波回路32,変復調器33等から成る。
【0011】而してICカード25は,携帯電話機に備えられている着脱可能のICカード(例えばSIMカード)で,加入者番号等のセキュリティの高い情報が書き込まれるものである…(中略)…CPU26はデータD1から非接触ICカードC1として機能させるためのICカード25の記憶領域25a2を選択するので,携帯電話機を所望の外部情報通信源,例えば,JRの駅改札口の情報読取器に近接させれば,JR用の非接触ICカードとして機能させることができる。他の非接触ICカードC2として機能させるには,他の所定データD2を入力し,ICカードの記憶領域25a3を選択させればよい。
【0012】携帯電話機を非接触ICカードとして機能させるためのICカード用通信手段の構成部のうち,CPU,メモリ,電源供給回路,発振器は,携帯電話機の電源通信手段の構成部のうちの,CPU26,ICカード25,電池21,発振器17を共用する。」
(エ)「【0016】図3は非接触ICカード用のループアンテナ31の携帯電話機40に内蔵する一構成例を示す。同図において,表示器41の外側トリム板(化粧板)42の裏側と液晶パネル43の間にループアンテナ31を挿入,またはトリム板にモールドして封入する。」

a (ア)の「本発明は非接触ICカード機能を有する携帯電話機等の移動体通信機に関する。」との記載,(ウ)の「ICカード25は,携帯電話機に備えられている着脱可能のICカード(例えばSIMカード)」,「携帯電話機を非接触ICカードとして機能させるためのICカード用通信手段の構成部」との記載,及び(エ)の「非接触ICカード用のループアンテナ31の携帯電話機40に内蔵する」との記載から,引用例記載の携帯電話機は,非接触ICカード用のループアンテナと,ICカード用通信手段を備えて,非接触ICカード機能を有するものである。
また,(イ)には,従来の技術として,「JRにおける料金支払い…(中略)…等において偽造,変造の困難な情報通信手段として非接触ICカードが使用されようとしている。」,「カード8を外部情報通信源,例えば,…(中略)…JRの駅の改札口に設置されている情報読取器に対しメモリ1からの情報をループアンテナ6を介して送信し,また情報読取器から所定の高周波信号を受信する」と記載されているので,引用例に記載された技術は,非接触ICカードとして機能する手段と外部情報通信源との間では,情報が,ループアンテナを介した無線通信により送信及び受信される事を前提としている。
したがって,引用例には,
非接触ICカード用のループアンテナと,無線通信を行うための送信,受信によるICカード用通信手段と,を有する,非接触ICカード機能を備えた携帯電話機,
が記載されている。
b (ウ)の「携帯電話機を所望の外部情報通信源,例えば,JRの駅改札口の情報読取器に近接させれば,JR用の非接触ICカードとして機能させることができる」との記載,及び(エ)の「非接触ICカード用のループアンテナ31の携帯電話機40に内蔵する」との記載から,引用例記載の,例えばJRの駅改札口の情報読取機である外部情報通信源は,携帯電話機と近接すると,携帯電話機をJR用の非接触ICカードとして機能させるものである。
また,上記aをふまえると,引用例に記載された技術は,非接触ICカードとして機能する手段と外部情報通信源との間では,情報がループアンテナを介して送信,受信による無線通信が行われる事を前提としているので,引用例には,
携帯電話機を近接させると,携帯電話機との間で送信,受信による無線通信が行われて,携帯電話機を非接触ICカードとして機能させることができる,外部情報通信源,
が記載されている。
c 上記aないしbによれば,引用例記載のものは,非接触ICカード機能を有する携帯電話機と,該携帯電話機のICカード用通信手段と無線通信を行う外部情報通信源からなる,通信システムといえる。

引用発明の認定
上記aないしcをふまえると,引用例には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

非接触ICカード用のループアンテナと,無線通信を行うための送信,受信によるICカード用通信手段と,を有する,非接触ICカード機能を備えた携帯電話機と,
携帯電話機を近接させると,携帯電話機との間で送信,受信による無線通信が行われて,携帯電話機を非接触ICカードとして機能させることができる,外部情報通信源と,
を備える通信システム。

(2)周知例1
ア 本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開2000-3459号公報(平成12年1月7日公開。以下,「周知例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
「【0027】以下,図1の料金収受システムを構成する無線カードP,カード発行機3,自動改札装置4,POS端末装置5,リロード機6の構成および処理動作について説明する。(1)無線カード
図4は,無線カードの内部構成例を概略的に示したもので,CPU31に,ROM34,RAM35,EEPROM36,およびシリアルインタフェース部33を介して無線送受信部32が接続されて構成されている。
【0028】無線送受信部32は,2つの結合コイルを具備し,ASK(Ampulitude Shift Keying)変調方式により変調された信号を磁気変動を通じて受信し,その搬送波を整流することにより,無線カードP内の電源電圧を供給するようになっている。また,この2つの結合コイルの負荷を変動させることにより発生する磁気変動により信号を送信している。カード発行機3,自動改札装置4,POS端末装置5,リロード機6のそれぞれに具備されるカードリーダ・ライタ100と無線カードPとの間のデータの送受信は,送信側のカードリーダ・ライタ100に具備される2つの結合コイルと,あるいは,無線カードの無線送受信部32の結合コイルのそれぞれにおける負荷の変動により生ずる高周波の磁界の変動を,受信側の結合コイルで受けることにより成り立っている。以下,無線カード,カードリーダ・ライタ100のそれぞれに具備される結合コイルをアンテナと呼ぶ。」

イ 上記アの記載事項では,POS端末装置はカードリーダ・ライタを備え,当該カードリーダ・ライタと無線カードは,各々結合コイルを有して無線によるデータの送受信を行う手段を備えており,この無線によるデータの送受信を行う手段は,通信手段といえる。
したがって,周知例1には,以下の周知技術(以下,「周知技術1」という。)が記載されている。

POS端末装置に具備されたカードリーダ・ライタと,無線カードは,各々無線送受信を行うための結合コイルを具備する通信手段を備える技術。

(3)周知例2
ア 本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開平11-282985号公報(平成11年10月15日公開。以下,「周知例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(ア)「【0002】
【従来の技術】…(中略)…最近では,接点の接触不良によるトラブルを回避するために,電力や情報信号の授受を電磁結合で行うようにした非接触式のICカードおよびカード読み書き装置の開発が進められている。
【0003】…(中略)…密着型ICカードに関して,電磁結合コイルの位置や形状,電気的特性などを定めた国際標準規格(ISO10536)が制定され,…」
(イ)「【0047】図14は,このカード読み書き装置を使用したカードシステムのブロック図である。カード読み書き装置700は,上位のパーソナルコンピュータのような情報処理装置800の端末装置として接続される。そして,このカード読み取り装置700は,カード挿脱窓口220からカード読み書きユニット500のカード受入れ間隙501に挿入されたICカード900と電磁結合して電力の供給と情報信号の授受を行う。
【0048】このカード読み書き装置700は,カード受入れ間隙501に挿入されたICカード900と電磁結合するようにアンテナ回路基板530に設けたアンテナコイル701,702と,…(中略)…と制御装置710を備える。この制御装置710は,…(中略)…前記アンテナコイル701,702によって電磁結合したICカード900に電力を供給し,情報信号を授受し,更に,上位の情報処理装置800と連係する制御を実行する。
【0049】ICカード900は,前記カード読み書き装置700のカード受入れ間隙501に挿入された状態で前記アンテナコイル701,702と電磁結合するアンテナコイル901,902と,電源回路903と,送受信制御回路904と,CPU905と,メモリ906を備える。…(中略)…CPU905は,情報信号を送受信制御回路904を介してアンテナコイル901,901に送受信し,処理し,メモリ906に読み書きする。」

イ 上記アの記載事項では,情報処理装置800に端末装置として接続されるカード読み書き装置700と,非接触式のICカードであるICカード900は,各々電磁結合して情報信号を送受信するためのアンテナコイルを備えている。そして,アンテナコイルは電磁結合して情報の授受を行うので,「結合コイル」といえるものである。また,カード読み書き装置700とICカード900は,相互に情報の授受を行うものであるから,情報を送受信するための通信手段を備えていることは明らかである。
したがって,周知例2には,以下の周知技術(以下,「周知技術2」という。)が記載されている。

端末装置とのしてのカード読み書き装置と,非接触式のICカードは,各々情報を送受信するための結合コイルを備える通信手段を備える技術。

(4)周知例3
ア 本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開平11-191146号公報(平成11年7月13日公開。以下,「周知例3」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
「【0009】図7において,非接触ICカードリーダ・ライタは,制御回路11,変復調回路12,定電流回路13,出力トランジスタ14,マッチング回路15,結合コイル16,サブキャリア増幅回路17及びフォトインタラプタ4から構成され,また,非接触ICカード2内は結合コイル16と電磁誘導により結合する結合コイル5を備えている。
【0010】制御回路11は,カードリーダ・ライタの動作を制御する制御部であり,結合コイル16を介して電磁誘導結合された非接触ICカード2に対する固有情報の読み出し及び新たに固有情報の書き込みを行う。」

イ 上記アの記載事項では,非接触ICカードリーダ・ライタと非接触ICカードは,各々結合コイルを介して,電磁誘導による固有情報の読み出し及び書き込み,すなわち,無線によるデータの送受信を行う手段を備えており,この電磁誘導によるデータの送受信を行う手段は,通信手段を備えて,結合コイルを介して非接触ICカードに対する固有情報の読み出し及び書き込みを行う手段といえる。
したがって,周知例3には,以下の周知技術(以下,「周知技術3」という。)が記載されている。

非接触ICカードリーダ・ライタと,非接触ICカードは,各々電磁誘導により結合する結合コイルを有する通信手段を備えて,カードリーダ・ライタが結合コイルを介して非接触ICカードに対する固有情報の読み出し及び書き込みを行う技術。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「携帯電話機」は,本願発明の「携帯電話」に対応する。
(2)引用発明の「非接触ICカード用のループアンテナと,無線通信を行うための送信,受信によるICカード用通信手段」と,本願発明の「結合用のコイルと,無線通信を行うための送信,受信による無線通信部」は,ともに無線通信を行うための手段である無線通信部といえるから,引用発明と本願発明は,
無線通信を行うための送信,受信による無線通信部を有する携帯電話,
を有する点で共通している。
(3)引用発明の「携帯電話機を近接させると,携帯電話機との間で送信,受信による無線通信が行われて,携帯電話機を非接触ICカードとして機能させることができる,外部情報通信源」と,本願発明の「結合用コイルと,該結合用のコイルが前記携帯電話の送信,受信による無線通信部と通信を行うための前記携帯電話の結合用コイルと結合し,無線通信を行う送信,受信による無線通信部と,を有する端末装置」は,ともに携帯電話との間で通信を行うものであるから,
前記携帯電話の無線通信部との間で,無線通信を行う送信,受信による無線通信部と,を有する装置,
である点で共通している。
以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

[一致点]
無線通信を行うための送信,受信による無線通信部を有する携帯電話と,
前記携帯電話の無線通信部との間で,無線通信を行う送信,受信による無線通信部を有する装置と,
を備える通信システム。

[相違点1]
本願発明は,「結合用のコイル」を有する「携帯電話」を備えているのに対して,引用発明は「非接触ICカード用のループアンテナ」を有する「携帯電話」を備えている点。

[相違点2]
本願発明は,携帯電話と無線通信を行う対象が「結合用コイルと,該結合用のコイルが前記携帯電話の送信,受信による無線通信部と通信を行うための前記携帯電話の結合用コイルと結合し,無線通信を行う送信,受信による無線通信部と,を有する端末装置」であるのに対して,引用発明では,「結合用コイル」が「前記携帯電話の送信,受信による無線通信部と通信を行うための前記携帯電話の結合用コイルと結合」するものではなく,また,携帯電話と無線通信を行う対象が「端末装置」と特定されていない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)[相違点1]について
2(2)イに周知技術1として提示した,POS端末装置に具備されたカードリーダ・ライタと,無線カードは,各々無線送受信を行うための結合コイルを具備する通信手段を備える技術,2(3)イに周知技術2として提示した,端末装置とのしてのカード読み書き装置と,非接触式のICカードは,各々情報を送受信するための結合コイルを備える通信手段を備える技術,及び2(4)イに周知技術3として提示した,非接触ICカードリーダ・ライタと,非接触ICカードは,各々電磁誘導により結合する結合コイルを有する通信手段を備えて,カードリーダ・ライタが結合コイルを介して非接触ICカードに対する固有情報の読み出し及び書き込みを行う技術から明らかなように,カードリーダ・ライタ(カード読み書き装置)と,非接触で通信を行うカードの各々が結合コイル,すわなち,「結合用のコイル」を備えることは,当業者に周知の技術である。
そして,引用発明の,非接触ICカード機能を備えて無線通信を行うための非接触ICカード用のループアンテナを備えた携帯電話機を,外部情報通信源と無線通信を行わせるために,ループアンテナに代えて,周知技術1ないし周知技術3のように結合用のコイルを備えることにより,[相違点1]の構成とすることは,当業者が適宜なし得る程度のことである。
したがって,引用発明,周知技術1ないし周知技術3に基づいて,本願発明の[相違点1]の構成とすることは,当業者が容易に想到できたものである。

(2)[相違点2]について
2(2)イに周知技術1として提示した,POS端末装置に具備されたカードリーダ・ライタと,無線カードは,各々無線送受信を行うための結合コイルを具備する技術,及び,2(3)イに周知技術2として提示した,端末装置とのしてのカード読み書き装置と,非接触式のICカードは,各々情報を送受信するための結合コイルを備える通信手段を備える技術のように,POS端末装置が具備するカードリーダ・ライタやカード読み書き装置が,結合用コイルを具備して非接触式カードとの間で無線通信を行う事は,当業者に周知の技術にすぎない。そして,周知技術1のPOS端末装置及びカードリーダ・ライタや,周知技術2の端末装置としてのカード読み書き装置は,本願発明の「端末装置」とみなせるものである。
したがって,引用発明の,携帯電話機を近接させると,携帯電話機との間で送信,受信による無線通信が行われて,携帯電話機を非接触ICカードとして機能させることができる,外部情報通信源に対して,非接触式カードとの間で無線通信を行うための手段として,周知技術1や周知技術2に記載されているような,周知の結合用のコイルを具備した通信手段を採用して,本願発明のような「結合用コイルと,該結合用のコイルが前記携帯電話の送信,受信による無線通信部と通信を行うための前記携帯電話の結合用コイルと結合し,無線通信を行う送信,受信による無線通信部」を備えるようにすることは,当業者が適宜なし得る程度のことである。
また,引用発明における非接触ICカードを利用する際に,非接触ICカードと通信を行う外部情報通信源の形態として,周知技術1のPOS端末装置や周知技術2の端末装置としてのカード読み書き装置のような「端末装置」とすることにより,非接触ICカードを端末装置に対して使用するようにすることも,当業者が適宜なし得る程度のことである。
したがって,引用発明,周知技術1及び周知技術2に基づいて,本願発明の[相違点2]の構成とすることは,当業者が容易に想到できたものである。

そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用例に記載された発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

5 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-25 
結審通知日 2012-05-08 
審決日 2012-05-21 
出願番号 特願2003-143598(P2003-143598)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G06K)
P 1 8・ 121- Z (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 浩  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 殿川 雅也
酒井 伸芳
発明の名称 通信システム  
代理人 西尾 美良  
代理人 丹羽 宏之  
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