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審決分類 |
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B23K 審判 全部無効 2項進歩性 B23K 審判 全部無効 特174条1項 B23K 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 B23K 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 B23K |
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管理番号 | 1272333 |
審判番号 | 無効2011-800074 |
総通号数 | 161 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-05-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-05-02 |
確定日 | 2013-04-25 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4152596号発明「ハンダ合金、ハンダボール及びハンダバンプを有する電子部材」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第4152596号の請求項1?11に係る発明についての出願は、平成13年2月9日に特許出願され、平成19年11月28日付けの明細書についての手続補正、及び平成20年3月5日付けの明細書についての手続補正を経て、同年7月11日にそれらの発明について特許権の設定登録がされたものである。 これに対して、平成23年5月2日(4月28日付け)に本件の請求項1?11に係る発明についての特許無効の審判請求がなされ、被請求人から同年7月21日付けで答弁書が提出された。 そこで、当審において、同年8月29日付けで口頭審理における審理事項を通知したところ、被請求人から同年9月27日付けで口頭審理陳述要領書が提出され、請求人から同年9月28日(9月27日付け)に口頭陳述要領書、及び同年10月12日(10月11日付け)に口頭審理陳述要領書(2回目)が提出され、その後、同年10月25日に口頭審理を行った。 第2 本件発明 本件特許の請求項1?11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明11」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。 【請求項1】 Ag:1.2?1.7質量%、Cu:0.5?0.7質量%を含み、残部Sn及び不可避不純物からなり、Ag_(3)Sn金属間化合物を有する無鉛ハンダ合金であって、前記Ag_(3)Sn金属間化合物がネットワークを形成して相互に連結されていることを特徴とする無鉛ハンダ合金。 【請求項2】 更にNi:0.05?1.5質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の無鉛ハンダ合金。 【請求項3】 更にSb:0.005?1.5質量%、Zn:0.05?1.5質量%を含み、Sb、Zn、Niの合計含有量が1.5質量%以下であることを特徴とする請求項2に記載の無鉛ハンダ合金。 【請求項4】 O濃度が10ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無鉛ハンダ合金。 【請求項5】 強度(MPa)×延性(%)が1500以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の無鉛ハンダ合金。 【請求項6】 請求項1乃至5のいずれか1項に記載のハンダ合金よりなることを特徴とする電子部材用無鉛ハンダボール。 【請求項7】 ハンダバンプを有する電子部材であって、該ハンダバンプの一部又は全部は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のハンダ合金よりなることを特徴とする電子部材。 【請求項8】 前記ハンダバンプの1辺の長さが0.2mm以下であることを特徴とする請求項7に記載の電子部材。 【請求項9】 複数の電子部品間をハンダ電極によって接合した電子部材であって、該ハンダ電極の一部または全部は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のハンダ合金よりなることを特徴とする電子部材。 【請求項10】 前記ハンダ電極の1辺の長さが0.2mm以下であることを特徴とする請求項9に記載の電子部材。 【請求項11】 携帯電話に用いることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の電子部材。 第3 請求人の主張 請求人は、請求書、陳述要領書、陳述要領書(2回目)に添付して以下の証拠方法を提出し、本件発明1?11は以下の無効理由1?5により無効とすべきであると主張している。 <無効理由1> 平成19年11月28日付けの明細書についての手続補正は、本件特許の願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第121条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。 <無効理由2> 本件発明1?11に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであり、同法第121条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。 <無効理由3> 本件発明1?11に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備であるから、特許法第36条第4項の規定を満たしていない特許出願についてされたものであり、同法第121条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。 <無効理由4> 本件発明1,2,5,6,9,11は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、本件発明1,2,5,6,9,11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法121条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 <無効理由5> 本件発明1?11は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法121条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 <証拠方法> ・請求書に添付 甲第1号証 国際公開00/18536号 甲第2号証 特開平11-277290号公報 甲第3号証 米国特許第4,695,428号明細書 甲第4号証 菅沼克昭著「鉛フリーはんだ付け技術」、96?103頁、株式会社工業調査会、2001年1月20日発行) 甲第5号証 特開2000-288772号公報 甲第6号証 特公平04-35278号公報 甲第7号証 特開平11-121520号公報 甲第8号証 特開2000-216196号公報 甲第9号証 特開平10-135267号公報 ・口頭審理陳述要領書に添付 甲第10号証 「電子情報通信学会技術研究報告」CPM95-77?83、P.25?29、社団法人電子情報通信学会、1995年10月20日発行 甲第11号証 第6回エレクトロニクスにおけるマイクロ接合・実装技術シンポジウム論文集、P.229?232、社団法人溶接学会、社団法人高温学会、2000年2月3日発行 ・口頭審理陳述要領書(2回目)に添付 甲第12号証 JISZ2201「金属材料引張試験片」の概要(抜粋)及びJISZ2241「金属材料引張試験方法」の概要(抜粋) 第4 被請求人の反論 被請求人は、答弁書及び口頭審理陳述要領書において、本件発明1?11には無効とすべき理由はないと反論し、乙1?3号証を提出している。 乙第1号証 広辞苑 第五版 1998年11月11日、株式会社岩波書店発行、第2069、2562頁 乙第2号証 日本規格協会発行JIS Z 2241「金属材料引張試験方法」第1?5頁 乙第3号証 須藤一ら著「金属組織学」丸善株式会社、平成4年4月15日第15刷発行、第255、256頁 第5 無効理由についての当審の判断 <無効理由1> 1 請求人の主張する具体的な理由 平成19年11月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、請求項1の記載に追加された「Ag_(3)Sn金属間化合物を有する無鉛ハンダ合金であって」(以下、「特定事項A」という。)、「前記Ag_(3)Sn金属間化合物がネットワークを形成して相互に連結されている」(以下、「特定事項B」という。)について、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には明示の記載がない。 また、当初明細書には、【0017】に「Sn-Ag系のハンダ合金にCuを0.3質量%以上添加すると、内部のAg_(3)Sn金属間化合物のリング状ネットワークが密になり」と記載されているだけであるから、特定事項A、特定事項Bは、当初明細書の記載から自明な事項でもなく、当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる事項でもない。 よって、本件補正は、新たな技術的事項を導入する補正であって、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでない。 2 当審の判断 (1)特定事項Aについて ア 当初明細書の【0017】には、「Sn-Ag系合金においては、凝固組織の中にAg_(3)Sn金属間化合物のネットワークが生成し、ハンダの強度や疲労特性を向上させる。Sn-Agのみの合金においてはAg_(3)Sn金属間化合物のネットワークが相互に十分に連結されないが、Sn-Ag系のハンダ合金にCuを0.3質量%以上添加すると、内部のAg_(3)Sn金属間化合物のリング状ネットワークが密になり、ハンダバンプの強度、疲労特性を向上し、電子部品用として必要な強度や耐熱疲労特性を確保することが可能になる。」と記載されている。 すると、当該記載から、Sn-Ag系合金においては、その凝固組織中にAg_(3)Sn金属間化合物のネットワークを有し、Sn-Ag二元合金ではAg_(3)Sn金属間化合物のネットワークが相互に十分に連結されないものの、Sn-Ag系のハンダ合金にCuを0.3質量%以上添加すると、リング状ネットワークが密になっているAg_(3)Sn金属間化合物を内部に有する無鉛ハンダ合金が得られることが、自明な事項として把握できる。 したがって、特定事項Aは、当初明細書の記載から自明な事項である。 イ なお、請求人は、「有する」は、抽象的な上位概念を意味するから、特定事項Aとする補正は、新規事項の追加である旨を主張している。 確かに、広辞苑第6版によると、「有する」には、「持っている」という意味があり、「含有」には「含みもつ」の意味があるから、「有する」は、一般的には「含有する」の上位概念を意味する。 しかし、上記の【0017】の記載によると、補正後の「Ag_(3)Sn金属間化合物を有する」の意味するところは、Sn-Ag-Cu系合金の凝固組織中に「Ag_(3)Sn金属間化合物を含みもつ」の意味であることが明らかであるから、特定事項Aにおける「有する」は、「含有する」と解することが相当であって、それ以外の意味と解する余地はない。 したがって、上記の主張は当を得たものでない。 (2)特定事項Bについて ア 当初明細書の【0017】には、Sn-Ag系のハンダ合金にCuを0.3質量%以上添加すると、「内部のAg_(3)Sn金属間化合物のリング状ネットワークが密になり」(以下、「当初明細書の記載b」という。)と記載されている。 ここで、「ネットワーク」とは、「網細工・網状組織の意」であり(乙1号証)、「網状」とは「網の目のようなかたち」であり、「網の目」とは、「網に編んだものの糸・針金に囲まれたすきま」のことである(広辞苑第6版より)。 そして、「網に編んだものの糸・針金に囲まれたすきまのようなかたち」は、「リング状」といえるから、「ネットワーク」は、「リング状」という属性を有するものであって、「リング状ネットワーク」と「ネットワーク」とは実質的に何ら変わりがない。 イ そして、Sn-Ag-Cu系合金についての当初明細書の記載bは、Sn-Ag二元合金についての「Ag_(3)Sn金属間化合物のネットワークが相互に十分に連結されない」ことに対して、ネットワークが相互に連結されることを表現したものと認められるから、当初明細書の記載bから「前記Ag_(3)Sn金属間化合物がネットワークを形成して相互に連結されている」という特定事項Bは自明に導かれる事項である。 (3)小括 したがって、本件補正は適法になされたものであり、無効理由1により本件特許を無効にすることはできない。 <無効理由2> I 本件発明1に対して 1 請求人の主張する具体的な理由 (1)本件発明1の特定事項B「前記Ag_(3)Sn金属間化合物がネットワークを形成して相互に連結されている」と、発明の詳細な説明に記載の「内部のAg_(3)Sn金属間化合物のリング状ネットワークが密になり」(以下「明細書の記載b」という。)とは対応していない。 (2)発明の詳細な説明には、合金に含有されるAg_(3)Sn金属間化合物について、含有量、形態や大きさ、特定事項Bの態様を裏付けるデータがないから、本件発明1は外延が明確でないし、発明の詳細な説明に十分に記載されていない。 (3)特定事項A「Ag_(3)Sn金属間化合物を有する無鉛ハンダ合金であって」における「有する」の用語が一義的に明確でなく、「有する」という記載だけでは、合金のマトリックス成分や結晶組織との関係が明確でない。 (4)特定事項Bで規定される合金の結晶構造の観察方法や観察条件が定義されていないから、本件発明1自体が明確でない。 (5)特定事項Bは、従来公知のSn-Agハンダ合金における「ネットワークが十分に連結されない」態様を含む上位概念であるから、公知合金のAg_(3)Sn金属間化合物のネットワーク構造と区別できず、外延が明確でない。 2 当審の判断 (1)に対して 明細書の記載bと当初明細書の記載bとは同一であるから、<無効理由1>についての上記の「2 当審の判断」の「(2)特定事項Bについて」と同様の理由により、特定事項Bは明細書の記載bから自明に導かれる事項であって、両者の対応関係は明確である。 (2)に対して 発明の詳細な説明の【0017】には、Sn-Ag二元合金では「Ag_(3)Sn金属間化合物のネットワークが相互に十分に連結されない」ことに対して、本件発明1のSn-Ag-Cu三元ハンダ合金に含有されるAg_(3)Sn金属間化合物では、所定量以上のCu含有により、「リング状のネットワークが密になり」と記載されているから、発明の詳細な説明にAg_(3)Sn金属間化合物の含有量、形態や大きさ、特定事項Bの態様を裏付けるデータが記載されていなくても、Cu含有量を特定する本件発明1におけるAg_(3)Sn金属間化合物の態様を、Sn-Ag二元合金のそれとは差異のあるものとして、十分に把握することができる。 したがって、本件発明1は明確であるし、発明の詳細な説明に記載されたものである。 なお、本件出願前公知の甲4号証100-101頁の記載によれば、Sn中にAgはほとんど固溶しないから、本件発明1におけるAg_(3)Sn金属間化合物の量は、ハンダ合金中のAg含有量によりほぼ決まるものと認められるし、その形態や大きさも、甲4号証の図5.3、甲10号証のFig.7、甲11号証のFIG.4に示される電子顕微鏡写真と類似の程度であることも、当業者に十分に認識できると認められる。 (3)に対して <無効理由1>についての上記の「2 当審の判断」の「(1)特定事項Aについて」と同様の理由により、特定事項Aにおける「有する」は「含有する」と同義であるから、特定事項Aは、「合金中にAg_(3)Sn金属間化合物を含有する」との意味であることが明確である。 (4)に対して Sn-Ag系ハンダ合金において、Ag_(3)Sn金属間化合物を含む結晶構造の観察を電子顕微鏡で行うことは、本件出願前公知の甲4,10,11号証に示されるように、技術常識であるから、特定事項Bは明確であり、本件発明1も明確である。 (5)に対して 「Ag_(3)Sn金属間化合物」について、発明の詳細な説明には、Sn-Ag二元合金では「ネットワークが相互に十分に連結されない」のに対して、Cuを添加した三元合金では、「リング状のネットワークが密になり」と記載されているから、特定事項Bは、Sn-Ag二元合金よりもネットワークが相互に十分に連結されているSn-Ag-Cu三元合金の態様として明確であるし、発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているといえる。 II 本件発明2,3に対して 1 請求人の主張する具体的な理由 本件発明2は、本件発明1にさらにNiを添加した合金、本件発明3は、本件発明2にさらにSbとZnとを添加した合金に係り、それぞれの添加元素の成分範囲を特定する事項を含むが、発明の詳細な説明の記載からは、それぞれの添加元素が、実施例に記載の特定値を超え、特定された成分範囲全域で効果を奏することを推認することができないから、本件発明2,3は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 また、本件発明3についてのSb添加による「寒冷地条件における耐熱疲労特性改善効果」は、実施例においても示されていないから、本件発明3は発明の詳細な説明に記載したものでない。 2 当審の判断 発明の詳細な説明の【0013】?【0015】には、特定組成のSn-Ag-Cu合金において、延性が顕著に増大し、耐熱疲労特性と耐衝撃性が改善する効果を奏することが記載されており、【0022】には、このSn-Ag-Cu合金に対して、Niを添加する場合には、強度向上に効果があって、延性が低下し始めない添加範囲とすることが記載され、【0018】?【0021】には、Sb、Znを添加する場合の添加範囲を特定する理由が記載され、【0024】には、Ni、Sb、及びZnを添加する場合の合計の添加範囲を、強度を改善しつつ、ハンダの延性が低下しない範囲に限定することが記載されている。 そして、本件発明2の実施例に相当する実施例8のハンダ合金について、Ni無添加の実施例2と比較して、延性、強度、平均耐落下衝撃回数において向上していること、本件発明3の実施例に相当する実施例10について、実施例2と比較すると延性は僅かに低下するが、Ag組成が特定組成をはずれる比較例1?3と比較して増大しており、強度、平均耐落下衝撃回数が向上していることも記載されている。 そうすると、発明の詳細な説明には、本件発明2,3について、Ni、又はNi、Sb及びZnを特定の成分範囲とする理由、及びNi、又はNi、Sb及びZnを特定量添加することによる延性、強度、耐衝撃性についての効果が記載されているといえ、当該理由及び効果を否定するような特段の事情もない。 したがって、本件発明2,3は発明の詳細な説明に記載されたものといえる。 そして、延性、強度、耐衝撃性についての効果が把握されれば、本件発明3におけるSb添加による「寒冷地条件における耐熱疲労特性改善効果」の開示が、発明の詳細な説明において必須であるということもできない。 III 本件発明4に対して 1 請求人の主張する具体的な理由 発明の詳細な説明には、本件発明4に係る「O濃度」について、【0025】に、「本ハンダ合金を、大気中溶解混錬した材料を、グローディスチャージ質量分析(Gdmass)で分析すると、十数ppmの酸素が検出される。一方、アルゴン雰囲気等の非酸化雰囲気で溶解混錬したハンダ合金の酸素検出量は、数ppmレベルとなる。酸素検出量が10ppm以下である場合、そのシェア強度は、大気溶解のものに比して、10%強度は改善された。よって本発明の上記(3)ではハンダ合金中の酸素濃度を10ppm以下にする。」と記載され、また、【0032】には、「実施例3と実施例5との比較から明らかなように、酸素以外の成分が同一成分でも、Ar雰囲気の非酸化雰囲気で溶解混練した実施例5は、酸素濃度が5ppmであるため、酸化雰囲気で溶解混練して酸素濃度が16ppmである実施例3と比較し、強度が約1割向上している。」と記載されている。 しかし、「数ppmレベルとなる。」という漠然とした値や、「5ppmである」という1実施例だけでは、「10ppm」を上限として数値範囲を規定する技術的根拠にはならず、恣意的に数値を選択したに過ぎず、発明が不明確である。 また、「10ppm以下」と上限だけを示す記載であり、下限についての規定がなく、発明の詳細な説明に下限についての説明もないので、本件発明4は明確でない。 2 当審の判断 発明の詳細な説明の【0025】には、「本発明ハンダ合金を溶解混錬する際、溶解雰囲気を非酸化雰囲気にし、ハンダ合金中の固溶酸素濃度を低下させると、強度は約10%向上する。…酸素検出量が10ppm以下である場合、そのシェア強度は、大気溶解のものに比して、10%強度は改善された。」と記載されているから、当該記載から、当業者であれば、ハンダ合金の溶解混錬を非酸化性雰囲気にして、10ppm以下に固溶酸化濃度を低下させると、強度の向上に資することが把握できる。 そして、実施例5における酸素濃度5ppmの合金が、実施例3における酸素濃度16ppmの合金と比較して、強度が約10%(29Mpa→32Mpa)向上していることが見て取れるから、「O濃度が10ppm以下である」との本件発明4の特定事項の技術的意味は明確である。また、固溶酸素濃度の存在が強度に悪影響を及ぼすことは、【0025】の記載から明らかであるから、酸素濃度の下限値を特定する必要はない。 よって、本件発明4は明確である。 IV 本件発明5に対して 1 請求人の主張する具体的な理由 (1)本件発明5における「強度(MPa)×延性(%)が1500以上」との特定事項(以下、「特定事項C」という。)は、発明の詳細な説明の実施例1?10において、特定の製造方法、加工方法で得られた合金のみに特有の特性と考えられる。しかし、本件発明5のハンダ合金は、製造方法や加工方法を特定しない合金であるから、特定事項Cは明確でない。また、実施例で得られた特性を製造方法や加工方法を特定しない本件発明5に係るハンダ合金全体にまで一般化できない。 (2)本件発明2,3について、発明の詳細な説明には、Ni、Sb、Znのそれぞれの含有量、及び合計の含有量について、十分な数の具体例が示されておらず、「強度(MPa)×延性(%)が1500以上」の特性を実施例8,実施例10の特定値を超える数値範囲全体で推認できないので、本件発明5における特定事項Cを、本件発明5におけるハンダ合金のNi、Sb、Znに係る成分組成全体にまで一般化できない。 (3)本件発明5は、特定事項Cに係る強度、及び延性の測定条件について、定義していないし、発明の詳細な説明にも記載がない。 したがって、特定事項Cは、客観的に定まらないから、本件発明5は明確でない。 2 当審の判断 (1)に対して 本件発明5は、製造方法の発明ではなく、合金という物の発明であるから、製造方法や加工方法が特定される必要はない。 そして、特定事項Cは、発明の詳細な説明全体の記載、特に実施例1?10と比較例1?3との記載によって、十分に裏付けられているといえる。 (2)に対して 本件発明2又は3が発明の詳細な説明に記載されていることは、上記の「II 本件発明2,3に対して」の「2 当審の判断」に示すとおりである。 そして、請求項2又は請求項3の記載を引用する本件発明5は、本件発明2又は3のハンダ合金であって、かつ特定事項Cを有するものであるところ、当該ハンダ合金は、実施例8,10として記載されているから、本件発明5は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 (3)に対して 特定事項Cに係る強度及び延性は、発明の詳細な説明の【0030】の表1に「強度TS」、「延性EL」と記載されていることから、それらの測定については、以下の本件出願前公知の文献の記載からみて、JIS規格による引張試験によって変形(伸び)を続けるのに必要な応力の最大値である引張強さ(tensile strength)を「強度」として測定し、引張試験終了後の破断伸び(elongation)を「延性」として測定したものと推認することができる。 日本金属学会編 「改訂 金属便覧」419?420頁、丸善株式会社、平成7年4月5日 第5版発行 そうすると、特定事項Cの測定条件は、JIS規格にしたがって、適宜当業者が決定できるから、特定事項Cは客観的に定まると認められる。 また、仮に測定条件に多少の差異があったとしても、引張強さや破断伸びという物性の測定値自体に格別の差異が生じるとも認められないから、やはり、特定事項Cは客観的に定まるといえる。 V 本件発明6?11に対して 1 請求人の主張する具体的な理由 本件発明6?11は、本件発明1?5の特定事項を有する発明であるから、本件発明1?5と同様の理由により特許請求の範囲の記載要件に違反している。 2 当審の判断 上記のとおり、本件発明1?5は、特許請求の範囲の記載に不備はない。 したがって、本件発明6?11も、特許請求の範囲の記載に不備はない。 VI 小括 以上のとおりであるから、無効理由2により本件発明1?11についての特許を無効とすることはできない。 <無効理由3> 1 請求人の主張する具体的な理由 (1)特定事項Bと発明の詳細な説明【0017】の記載について (イ)本件発明は、特定事項Bを有するところ、特定事項Bと、発明の詳細な説明の【0017】に記載された事項とは矛盾しており、本件発明1を明確に特定できない。 (ロ)本件発明は、特定事項Aを有するところ、特定事項Aの「有する」とは、合金の技術分野において用語として明確でなく、国語辞書の定義に基いても、発明の詳細な説明には具体的態様が理解できるように記載されていない。 (ハ)本件発明における特定事項Bの「Ag_(3)Sn金属間化合物」について、その含有量、形態や大きさが発明の詳細な説明に記載されていないから、合金の組織構造を理解できない。 (ニ)本件発明における特定事項Bを有するハンダ合金を、従来公知のSn-Ag合金と異なる組織として製造することができるのか、発明の詳細な説明には理解できるように記載されていない。 (2)本件発明における特定事項Bについての形態や、その観察方法、観察条件について、発明の詳細な説明に記載されていない。 (3)本件発明に係る実施例、及び比較例について、発明の詳細な説明には製造条件、組織構造が具体的に記載されていないから、どのような合金が特定事項Bを有する合金であるのか理解することができず、特定事項Bを有する合金を実施例の記載に従って製造することができない。 また、特定事項Bの有無による効果の相違を確認することができない。 (4)発明の詳細な説明の【0037】には、本件発明の合金について「極めて優れた耐熱疲労特性…を実現することができた。」と記載されているが、その特定を示すデータが記載されていないから、耐熱疲労特性に付いての本件発明の効果は不明である。 (5)発明の詳細な説明に記載の実施例6,7,9と、本件発明との関係が不明である。 2 当審の判断 (1)の(イ)に対して 特定事項Bと発明の詳細な説明の【0017】に記載された事項とは、<無効理由2>についての上記「I 本件発明1に対して」の「2 当審の判断」の「(1)に対して」(<無効理由1>についての「2 当審の判断」の「(2)特定事項Bについて」)と同様の理由により、矛盾なく対応付けることができるから、発明の詳細な説明に基いて特定事項Bを明確に把握することができる。 (1)の(ロ)に対して 特定事項Aにおける「有する」は、<無効理由2>についての上記の「I 本件発明1に対して」の「2 当審の判断」の「(3)に対して」(<無効理由1>についての「2 当審の判断」の「(1)特定事項Aについて」)と同様の理由により、Sn-Ag-Cu系合金の凝固組織中に「Ag_(3)Sn金属間化合物を含有する」態様を意味することが明らかである。 (1)の(ハ)に対して 特定事項Bにおける「Ag_(3)Sn金属間化合物」について、<無効理由2>についての上記の「I 本件発明1に対して」の「2 当審の判断」の「(2)に対して」と同様の理由により、Ag_(3)Sn金属間化合物の含有量、形態や大きさが発明の詳細な説明に記載されていなくても、本件発明のハンダ合金の組織構造は、当業者が十分に把握することができるものである。 (1)の(ニ)に対して 本件発明における特定事項Bを有するハンダ合金が、特定成分組成のSn、Ag及びCu、又はこれにさらにNi又はNi、Sb、Znを所定量添加して溶融凝固することにより製造されること、そのハンダ合金の組織が、Sn及びAgを溶融凝固して製造される公知のSn-Ag二元合金と、Ag_(3)Sn金属間化合物のネットワークの連結状態において区別されることは、発明の詳細な説明の【0017】の記載から十分に理解できる事項である。 (2)に対して Sn-Ag系ハンダ合金において、Ag_(3)Sn金属間化合物を含む結晶構造の観察を電子顕微鏡で行うことは、<無効理由2>についての上記の「I 本件発明1に対して」の「2 当審の判断」の「(4)に対して」にて示すように技術常識である。 そして、本件発明における特定事項Bにおける「Ag_(3)Sn金属間化合物」についての形態も、上記「(1)の(ハ)に対して」(<無効理由2>についての上記の「I 本件発明1に対して」の「2 当審の判断」の「(2)に対して」)にて示すように、発明の詳細な説明の【0017】の記載から、十分に把握することができる。 (3)に対して 本件発明に係る実施例、及び比較例について、これらの合金は、特定の成分割合のSnとAg、Cu、又はこれらにさらに特定の成分割合のNi、Sb、Zn等を添加したものを溶融凝固すれば製造できることが、発明の詳細な説明の【0017】、【0029】、【0030】の記載から把握でき、また、実施例1?10の合金は、いずれもSn-Ag系合金にCuを0.3質量%以上添加したものであるから、本件発明の特定事項Bを満たす合金であることが、【0017】の記載から理解することができる。 そして、本件発明は、特定成分組成のSn-Ag-Cu三元合金、又はこの三元合金に特定範囲のNi、Sb、Zn等を添加した合金であって、かつ特定事項Bを有する発明であるところ、【0030】?【0036】の記載から、本件発明の成分組成を満たす実施例1?5,8,10を、本件発明の成分組成を外れた比較例1?3と対比することによって、強度と延性においてともに優れるという本件発明の効果を確認することができる。 したがって、特定事項Bの有無による効果の相違を確認する記載は、本件発明を実施可能とするための必須のものではない。 (4)に対して 本件発明が、強度と延性とがともに優れる効果を奏することが、発明の詳細な説明に記載されているから、耐熱疲労特性を示すデータは、本件発明を実施可能とするための必須のものではない。 (5)に対して 発明の詳細な説明に記載の実施例6,7,9が、その合金組成から本件発明の範囲外であることは明らかである。 3 小括 以上のとおりであるから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明についてその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。 よって、無効理由3により本件発明1?11についての特許を無効とすることはできない。 <無効理由4,5> I 本件発明1に対して 1 請求人の主張する具体的な理由 本件発明1は、その出願前日本国内又は外国において頒布された甲1号証に記載された発明であるか、甲1号証に記載された発明に基いて、甲第4号証に示される公知事項及び甲第5号証に示される周知事項を参酌することにより、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 2 当審の判断 (1)甲1号証の記載事項 (1a)「【請求項1】 SnおよびAgを必須成分とし、さらにBi、InおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む合金からなるはんだ材料。 … 【請求項5】 Agを1.0?4.0重量%、Cuを0.1?1.0重量%含み、残部がSnである合金からなる請求の範囲第1項記載のはんだ材料。」(請求の範囲) (1b)「さらに、ミニディスクプレイヤーやデジタルカメラなどの音響・映像機器、パーソナルコンピューターや携帯電話などの情報・通信機器などの製造においては、例えば部品装着基板と電極とを共晶はんだ材料で接合させていた。しかし、前述のように信頼性に欠けるはんだ材料を用いて接合に用いると、例えば耐衝撃性などの性能に劣る製品となってしまうという問題があった。そして、Pbを含まないはんだ材料のうち、溶融温度、機械的強度、濡れ性、耐熱疲労強度などの特性を総合的に考慮して、実際に製品として実用化できるはんだ材料は見当たらなかった。 上記の従来技術の問題に鑑み、無鉛はんだを使用した製品化を実現するために、本発明の目的は、機械的強度、濡れ性および耐熱疲労強度に優れるはんだ材料を提供することにある。また、本発明の目的は、濡れ性に優れ、はんだ付けにした場合に高い接合強度をもって接合し得る電子部品用外部電極を提供することにある。さらに本発明の目的は、はんだ付け部分の機械的強度および熱衝撃強度をはじめ、種々の性能に優れる電子・電気機器を提供することにある。」(2頁12?26行) (1c)「Agの含有量は、その範囲を超えると融点が大幅に上昇するという点から、1.0?4.0重量%であればよいが、融点を降下させ,濡れ性を向上させるという点から、2.0?3.5重量%、さらに3.0?3.5重量%であるのが好ましい。」(4頁17?20行) (1d)「なお、前記合金には不可避不純物が含まれていてもよい。このような不純物としては、例えばSb、Cu、FeおよびAsなどがあげられる。これらの不純物の含有量は、少ないほど好ましいが、通常約0.05重量%までの範囲で含まれている。」(5頁16?19行) (1e)「(4)耐衝撃性 用いたはんだ材料の耐衝撃性を評価するため、製品である完成品を製造し、落下衝撃試験を行った後に、電気的検査を実施した。その後、部品装着基板上においてはんだ材料が形成する接合部の外観を、目視にて観察した。表8の左欄に示す基準に相当する場合に、右欄に示すように評価した。なお、評価2?5の電気特性は異常なしであった。 表8 」 (17頁7?12行) (1f)「 表22 」 (33頁) (1g)「表22に示す実施例229?247の結果より、携帯電話、ムービーおよびパーソナルコンピューター用周辺機器に用いる本発明のはんだ材料はSn-Ag(1.0?4.0)-Cu(0.1?1.0)の範囲で有用である。これらの中でも、Sn-Ag(2?3.5)-Cu(0.5?1.0)が好ましく、更に、Sn-Ag(2?3.5)-Cu(0.5?0.7)が特に好ましい。なお、ここでは主要な組成についての実験結果のみを記載したが、Sn-Ag(1.0?4.0)-Cu(0.1?1.0)の範囲で表22と同様な傾向を示す。」(33頁) (2)甲1号証に記載された発明 甲1号証には、(1a)によると、「Agを1.0?4.0重量%、Cuを0.1?1.0重量%含み、残部がSnである合金からなるはんだ材料」について記載されており、(1d)によると、上記の合金は不可避不純物を含んでいてよいものである。 以上によると、甲1号証には、以下の発明について記載されていると認められる。 「Ag:1.0?4.0質量%、Cu:0.1?1.0質量%を含み、残部Sn及び不可避不純物からなる無鉛ハンダ合金」 (以下、「甲1発明」という。) (3)本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1と、甲1発明とを対比すると、両者は、「Ag、Cuを含み、残部Sn及び不可避不純物からなる無鉛ハンダ合金」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本件発明1は、「Ag:1.2?1.7質量%、Cu:0.5?0.7質量%を含」むのに対して、甲1発明は、「Ag:1.0?4.0質量%、Cu:0.1?1.0質量%を含」む点 相違点2:本件発明1は、「Ag_(3)Sn金属間化合物を有する無鉛ハンダ合金であって、前記Ag_(3)Sn金属間化合物がネットワークを形成して相互に連結されている」のに対して、甲1発明は、そのような組織であるか不明である点 (4)相違点1に対する判断 ア 甲1発明のSn-Ag-Cu三元合金における成分組成範囲は、本件発明1の成分組成範囲を包含しているから、その成分組成範囲に格別の技術的意義が認められる場合、すなわち、当該範囲に限定することにより当該発明が引用発明に比して格別の優れた作用効果を奏するものである場合に限って、新規性、進歩性があるものと認めることができる。 そこで、相違点1に係る本件発明1における成分組成範囲の技術的意義について、以下に検討する。 イ 本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がされている。 (a)「【0010】 【発明が解決しようとする課題】 電子部材用鉛フリーハンダ、特に電子部材用鉛フリーハンダボールにおいて、接合信頼性、特に耐衝撃信頼性、耐落下信頼性で重要になる点は、ハンダ材料の延性である。従来Sn-Ag共晶組成、Sn-3.5AgやそのSn-Ag共晶組成近傍のSn3.5Ag-0.7Cuでは、延性が優れていることが知られている。更にはSn-Ag-Cu三元共晶組成であるSn-4.7Ag-1.7Cuも延性に優れていることが知られている。しかし、これらのハンダ合金は、原材料価格的に高価なAgを3.0質量%以上含んでいるため、非常に高価なハンダにならざるを得ない。 【0011】 本発明は、無鉛ハンダ合金であって、Agをさほど使用せず(2質量%以下)、接合信頼性、耐落下衝撃性に優れたハンダ合金を安価に提供でき、電子部材のハンダバンプ用として使用することのできるハンダ合金、該組成のハンダボール、該組成のハンダバンプを有する電子部材を提供することを目的とする。」 (b)「【0013】 従来、電子部品用の無鉛ハンダ合金としては、Agの含有量は3%以上必要であるとされていた。本発明においては、Ag含有量1.5質量%付近においてハンダ合金の伸びが著しく向上するAg成分範囲が存在することを見出し、これによってハンダ合金の延性を顕著に増大して耐熱疲労特性及び耐衝撃性の改善を実現した。 【0014】 本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、Ag:1.2?1.7質量%、Cu0.5?0.7質量%を含有するSn系ハンダ合金組成を適用することにより、安価な無鉛ハンダ合金を提供し、耐熱疲労特性と耐衝撃性を著しく向上し、リフロー後の表面性状の確保を同時に実現することを可能にした。」 (c)「【0015】 【発明の実施の形態】 Ag含有量が0.5?3質量%の範囲にあり、かつCu含有量が0.3?2.0質量%の範囲にあるSnハンダ合金であれば、従来のSn-Pbハンダ合金やSnハンダ合金と同等の延性を有し、更にこれらに比較して良好な耐疲労特性を有している。本発明においては、更にAg含有量を1.0?2.0質量%の範囲とすることにより、ハンダ合金の伸びが著しく向上し、延性の増大を図ることができる。Ag含有量が1.0?1.7質量%の範囲にあれば、伸びの向上効果を最も顕著に得ることができる。」 (d)「【0030】 【表1】 【0031】 ハンダ合金の延性・強度特性については、延性(%)、強度(MPa)を評価し、さらに強度(MPa)×延性(%)を算出した。強度×延性が1500以上の場合は耐衝撃性が安定して優れているとして「○」と評価し、強度×延性が1300?1500の場合は耐衝撃性に優れているとして「△」と評価し、強度×延性が1300未満は「×」と評価した。 【0032】 本発明例1?10はいずれも良好な強度×延性の成績を実現した。 実施例3と実施例5との比較から明らかなように、酸素以外の成分が同一成分でも、Ar雰囲気の非酸化雰囲気で溶解混練した実施例5は、酸素濃度が5ppmであるため、酸化雰囲気で溶解混練して酸素濃度が16ppmである実施例3と比較し、強度が約1割向上している。 【0033】 比較例1はAg含有量が低すぎ、比較例2はAg含有量が高すぎ、それぞれ延性が低下し、結果として強度×延性の値が1300未満となり、十分な耐衝撃性が得られなかった。」 (e)「【0034】 ハンダ合金の耐落下衝撃性を評価するため、本発明合金を基に、φ300μmの電子部材接続用ハンダボールを作製した。それぞれについて以下に示すSiチップ部品と基板をハンダ付けし(240ボール)、それをフリップチップ接続したものを試験片とした。落下衝撃試験は、同フリップチップ接続した衝撃試験片を、金属板にネジ止め固定し、高さ50cmから落下させた。落下後、最も衝撃の大きいチップ周辺部位のハンダ接合部(64ポイント)のすべてを電気的に導通があるかを評価し、一点でも導通が無いハンダ接合部位が生じた時点で破断とし、耐落下衝撃性を評価した。平均耐落下衝撃数で40回以上は、耐落下衝撃性が特に優れているとして「○」と評価し、平均耐落下衝撃数で30回?40回は優れているとして「△」と評価し、平均耐落下衝撃数30回未満は「×」と評価して表1に記載した。本発明例である実施例1?10は、いずれも良好な耐落下衝撃性を示した。 【0035】 上記落下強度試験に用いるSiチップ部品は、Siチップ上にφ200μmの電極ランドを合計240配置したものであり、最外郭の周囲に64配置である。またピッチ間隔は0.3mmである。プリント基板は、片面配線のガラスエポキシ樹脂基板であり、Siチップと同様に配置し、それらを本発明ハンダ合金のφ300μmのボールでフリップチップ接続した。」 (f)「【0036】 本発明の実施例1?10と比較例3の3.5Agハンダ合金とを対比すると、本発明はAgの含有量が少ないので安価なハンダ合金を提供することが可能になり、さらに比較例3と同等あるいはそれ以上の良好な耐衝撃性、耐落下衝撃性を得ることができた。」 ウ 本件明細書の(a)の記載によると、電子部材用鉛フリーハンダにおいて、接合信頼性、特に耐衝撃信頼性、耐落下信頼性で重要になる点は、ハンダ材料の延性であり、本件発明1は、高価なAgをさほど使用せず(2質量%以下)、接合信頼性、耐落下衝撃性に優れたハンダ合金を安価に提供することを目的とするものであって、(b)の記載によると、Ag含有量1.5質量%付近においてハンダ合金の伸びが著しく向上するAg成分範囲が存在するという知見に基いて、Ag:1.2?1.7質量%、Cu0.5?0.7質量%を含有するSn系ハンダ合金組成としたものであり、(c)の記載によると、Ag含有量を1.0?2.0質量%の範囲とすることにより、ハンダ合金の伸びが著しく向上し、延性の増大を図ることができ、Ag含有量が1.0?1.7質量%の範囲にあれば、伸びの向上効果を最も顕著に得ることができるというものである。 そして、Ag含有量1.5質量%付近においてハンダ合金の伸びが著しく向上し、平均耐落下衝撃回数で表される耐衝撃信頼性、耐落下信頼性という効果は、(d)、(f)の記載により、裏付けられている。 エ これに対して、甲1発明は、(1b)の記載によると、機械的強度、濡れ性および耐熱疲労強度に優れるはんだ材料を提供すること、また、はんだ付け部分の機械的強度および熱衝撃強度をはじめ、種々の性能に優れる電子・電気機器用のハンダ材料を提供することを目的とするものである。 そして、(1c)には、Ag含有量の好ましい範囲は、融点を降下させ、濡れ性を向上させる観点から2.0?3.5重量%、さらには3.0?3.5重量%が好ましく、(1f)の表22の記載によると、甲1発明のSn-Ag-Cu三元ハンダ合金において、Agが1.0?4.0重量%、Cuが0.1?1.0%の成分組成範囲において、引張強度については、Ag、Cuの組成に影響される(Ag、Cuの多い方が増大する)傾向が見て取れるものの、耐熱性、耐衝撃性、軽量性、電気抵抗については、Ag、Cuの組成に特に影響されている範囲は見出せず、(1g)にも、Ag含有量が2?3.5の範囲がより好ましく、Sn-Ag(1.0?4.0)-Cu(0.1?1.0)の範囲で表22と同様な傾向を示すと記載されている。 また、甲1発明における耐衝撃性の評価方法は、(1e)記載のものであって、本件発明における(e)に記載の耐落下衝撃性の評価方法と相違し、かつ、延性についての評価は行っていない。 そうすると、甲1号証の記載から、Ag含有量1.5質量%付近において、耐衝撃信頼性、耐落下信頼性にとって重要であるハンダ合金の伸びが著しく向上するという、本件発明の前提となる知見について、当業者といえども予想することができず、当該知見に基いて、甲1発明の成分組成範囲から、好ましい範囲として指摘されていないAg含有量1.5質量%付近の1.2?1.7質量%を選択する動機付けはないというべきである。 オ そして、本件発明1は、Ag含有量を1.5質量%付近の1.2?1.7質量%と特定することにより、甲1発明に包含されるAg含有量2.2質量%のハンダ合金(比較例2)や、本件発明よりAg含有量が0.5質量%と低いハンダ合金(比較例1)と対比して、耐衝撃信頼性、耐落下信頼性が、Ag含有量3.5質量%と高価なハンダ合金(比較例3)と同程度に優れるという予想外の作用効果を奏するものである。 したがって、本件発明1において、Ag含有量を1.2?1.7質量%の範囲とする数値限定は、延性に関する新たな知見に基づく技術的意義を有するものであって、耐衝撃信頼性、耐落下信頼性を向上させるという予想外の作用効果を奏するものと認められるから、本件発明1が甲1号証に記載されているとか、甲1発明に基いて当業者が容易に本件発明1を想起し得たということはできない。 カ 請求人が公知技術として提示した甲4号証には、Sn-Ag系ハンダ合金について、Ag量が3.5%のSn-Ag二元合金の組織写真が示されており(100頁 図5.3)、β-Sn初晶を取り巻いて繊維状のAg_(3)Snがネットワークを形成する旨、Ag量の増加に伴い、Ag_(3)Sn粒子の大きさ及びAg_(3)Sn/β-Sn共晶ネットワーク・リングの大きさは微細になり、はんだ組織としては微細な分散状態が望ましいので、Ag量はある程度多い方が良い旨(100?101頁)、Sn-Ag合金にBi,Cu,Znなどの合金元素が数%添加された場合にも、基本的にはAg_(3)Snの微細分散組織は維持される旨(103頁)が記載されている。 また、請求人が周知技術として提示した甲5号証には、ハンダ合金には高い伸びを有することが強く求められており、Ag2.0?5.0重量%と、Bi、Cu、P、Niとを含むSn基合金が、格段に高い伸びを有する旨が記載されている(請求項1、【0004】、【0007】)。 しかしながら、甲4,5号証は、Sn-Ag系ハンダ合金において、Ag含有量1.5質量%付近の組成範囲と延性との関係について、何ら示唆するところがない。 したがって、甲1発明に甲4,5号証記載の事項を組み合わせても、本件発明1におけるAg含有量についての数値限定を導く動機付けは存在しないから、甲4,5号証記載の事項を参酌しても、本件発明1が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものとすることはできない。 (5)小括 以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1号証に記載された発明でないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 II 本件発明2に対して 1 請求人の主張する具体的な理由 本件発明2は、その出願前日本国内又は外国において頒布された甲2号証に記載された発明であるか、甲2号証に記載された発明に基いて、甲第4号証に示される公知事項及び甲第5号証に示される周知事項を参酌することにより、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 2 当審の判断 (1)甲2号証の記載事項 (2a)「【請求項2】 Ni0.01ないし0.5重量%と、Cu0.5ないし2.0重量%と、Ag0.5ないし2.89重量%と、Sn96.6重量%以上と、を含有してなることを特徴とするPbフリー半田。」 (2b)「【0011】 【発明の実施の形態】本発明のPbフリー半田において、Niの添加量は全体100重量%のうち0.01ないし0.5重量%が好ましい。Niの添加量が0.01重量%未満であると耐電極喰われ性が劣化し半田付け時の電極残存面積が低下する。他方、Niの添加量が0.05重量%を超えると、Pbフリー半田の液相線温度が上昇し、同じ温度で半田付けした場合にブリッジ不良や外観不良が生じ、これを回避するために高い温度で半田付けすると高熱による電子部品の特性不良が生じる。 【0012】また、本発明の主にSn-Ni-Cuの3元素、Sn-Ni-Ag-Cuの4元素からなるPbフリー半田において、Cuの添加量は全体100重量%のうち0.5ないし2.0重量%であることが好ましい。Cuの添加量が0.5重量%未満であると、接合強度の改善効果が小さい。他方、Cuの添加量が2.0重量%を超えると、過剰にCu_(6)Sn_(5),Cu_(3)Sn等の硬くて脆い金属化合物が析出することで接合強度が低下する。また、Pbフリー半田の液相線温度が上昇し、同じ温度で半田付けした場合にブリッジ不良や外観不良が生じ、これを回避するために高い温度で半田付けすると高熱により電子部品が破壊され特性不良が生じる。また、Sn,Ni等の添加量が減少することに伴う不具合が生じる。 … 【0014】また、本発明の主にSn-Ni-Ag-Cuの4元素からなるPbフリー半田において、Agの添加量は全体100重量%のうち0.5ないし2.89重量%であることが好ましい。Agの添加量が0.5重量%未満であると、接合強度の改善効果が小さい。他方、Agの添加量が2.89重量%を超えると、Ag+Cuの添加量が3.39重量%を超えるため、Ag_(3)Sn,Cu_(6)Sn_(5),Cu_(3)Sn等の硬い金属化合物が同時析出することで接合強度が低下する不具合が生じる。また、Sn,Ni等の添加量が減少することに伴う不具合が生じる。」 (2c)「【0017】なお、本発明のPbフリー半田は、半田組成中に上記成分以外に微量の不可避不純物を含むものであってもよい。不可避不純物としては、例えばPb,Bi,Cu,Na等が挙げられる。」 (2d)「【0021】 【実施例】… 【0024】次に、表面を溶融したSnでめっき処理したCuリード線でCu板を挟みこみ、あらかじめ260℃に溶融しておいた試料1ないし12および比較例1ないし7の半田に浸漬して半田付けして、試料1ないし12および比較例1ないし7の試験片を得た。これらの試験片を引張り試験機を用いてCuリード線を引張り、それぞれ接合強度を測定した。 【0025】次に、実施例1ないし12と比較例1ないし7の半田を、それぞれ液相線温度+100℃に加熱して溶融し、黒鉛鋳型に流し込んで凝固させた後に148時間常温エージングして試料1ないし12および比較例1ないし7の試験片を得た。これらの試験片を引張り速度5mm/sで引張り、それぞれ半田引張り強度を測定した。なお、試験片形状は平板型で試験部分は8×3mmの長方形断面とし、切り欠きは無しとした。 【0026】次に、引張り強度試験を実施した後の試料1ないし12および比較例1ないし7の断面積を測定し半田絞りを算出した。なお、評価方法はJISZ2241(6.11項)に準拠した。 【0027】次に、Al_(2)O_(3)からなる基板上にAgからなる厚膜電極を形成し、表面を溶融したSnでめっき処理したCuリード線でこれを挟み込み、あらかじめ260℃に溶融しておいた試料1ないし12および比較例1ないし7の半田に浸漬して半田付けした。これらを-30℃と+125℃30分保持を1サイクルとするに保持した熱衝撃槽に500サイクル投入して試料1ないし12および比較例1ないし7のフィレットを外観観察してクラックの有無を判別し、それぞれ耐熱衝撃性を測定した。なお、半田付けはリード線側をガラスエポキシ基板に取り付け、基板側に形成されたフィレットを評価個所とした。耐熱衝撃性の評価はクラックのないものを○とした。 【0028】こうして測定した電極残存面積率、広がり率、接合強度、半田引張り強度、半田絞り、耐熱衝撃性を表1にまとめた。なお、本発明の範囲内となるPbフリー半田および半田付け物品については総合評価を○とした。 【0029】 【表1】 【0030】表1から明らかであるように、Sn-Niを含有する実施例1ないし12の半田は何れもCu電極における電極残存面積率が95%以上、広がり率65%以上、接合強度17N以上、半田引張り強度30以上、半田絞り55以上、耐熱衝撃性優良となり満足できる結果となった。」 (2e)「【0038】また、本発明のPbフリー半田は、Ag等の高価な電極喰われ抑制元素の添加量が少ないため、従来のPbフリー半田に比べて半田コストを削減することが出来る。」 (2)甲2号証に記載された発明 甲2号証には、上記(2a)、(2c)の記載によると、以下の発明について記載されていると認められる。 「Ag:0.5?2.89質量%、Cu:0.5?2.0質量%、Ni:0.01?0.5質量%を含有し、残部Sn及び不可避不純物からなる無鉛ハンダ合金。」 (以下、「甲2発明」という。) (3)本件発明2と甲2発明との対比 本願発明2と、甲2発明とを対比すると、両者は、 「Ag、Cu、Niを含有し、残部Sn及び不可避不純物からなる無鉛ハンダ合金」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点3:本件発明2は、「Ag:1.2?1.7質量%、Cu:0.5?0.7質量%を含み」、「更にNi:0.05?1.5質量%を含有する」のに対して、甲2発明は、「Ag:0.5?2.89質量%、Cu:0.5?2.0質量%、Ni:0.01?0.5質量%を含有する」点 相違点4:本件発明2は、「Ag_(3)Sn金属間化合物を有する無鉛ハンダ合金であって、前記Ag_(3)Sn金属間化合物がネットワークを形成して相互に連結されている」のに対して、甲2発明は、そのような組織構成であるか不明である点 (4)相違点3に対する判断 甲2号証の(2b)及び(2d)の記載によると、甲2発明におけるハンダ合金の成分組成範囲は、耐電極食われ性や、接合強度、液相線温度、耐脆性、耐熱衝撃性の観点から選択されていると認められ、(2e)の記載によると、コスト削減の面から、Agの添加量を少なくすることも示されている。 そして、(2d)には、実施例9,10として、Ag含有量が1.0質量%と2.0質量%である以外は本件発明2と成分組成が重複するハンダ合金が記載されている。 しかし、甲2号証には、Sn-Ag-Cu-Ni四元ハンダ合金のAg含有量1.5質量%付近において、耐衝撃信頼性、耐落下信頼性にとって重要であるハンダ合金の伸びが著しく向上するという知見を示す記載がされていない。 そうすると、甲2号証の記載から、上記の知見に基いて、甲2発明の成分組成範囲からAg含有量1.5質量%付近の1.2?1.7質量%を選択する動機付けはないというべきである。 そして、本件発明2は、Ag含有量が1.2?1.7質量%であるSn-Ag-Cu三元ハンダ合金である本件発明1に、さらにNiを添加した四元ハンダ合金であるところ、本件発明1よりもさらに延性、強度、平均耐落下衝撃回数において優れた特性を示すことが本件明細書の(d)の実施例8の記載から見て取れるから、本件発明2のAg含有量の数値限定による作用効果には顕著性が認められる。 したがって、本件発明2におけるAg含有量についての数値限定は、技術的意義を有し、当該数値限定により格別の作用効果を奏するものであるから、本件発明2が甲2発明であるということはできない。 また、本件発明1に対する<無効理由4,5>についての「2 当審の判断 (4)相違点1に対する判断 カ」に示すのと同様の理由により、甲2発明に甲4,5号証記載の事項を組み合わせても、本件発明2におけるAg含有量の数値限定を導く動機付けが存在しないから、本件発明2は、甲2発明に甲4,5号証記載の事項を参酌して、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (5)小括 以上のとおりであるから、相違点4について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2号証に記載された発明でないし、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 III 本件発明3に対して 1 請求人の主張する具体的な理由 本件発明3は、その出願前日本国内又は外国において頒布された甲2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された引用発明3に基いて、甲第4号証に示される公知事項及び甲第5号証に示される周知事項を参酌することにより、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 当審の判断 (1)本件発明3と甲2発明との対比 本願発明3は、本願発明2において、さらに「Sb:0.005?1.5質量%、Zn:0.05?1.5質量%を含み、Sb、Zn、Niの合計含有量が1.5質量%以下である」ものであるから、甲2発明と対比すると、「Ag、Cu、Niを含有するSn基無鉛ハンダ合金」である点で一致するが、上記相違点3,4(ただし、「本件発明2」を「本件発明3」と読み替える。)に加えて、さらに以下の点で相違する。 相違点5:本願発明3は、「Sb:0.005?1.5質量%、Zn:0.05?1.5質量%を含み、Sb、Zn、Niの合計含有量が1.5質量%以下である」のに対して、甲2発明は、Sb、Znを含まない点 (2)相違点についての判断 甲3号証には、以下の記載がされている。 「請求の範囲 1.下記の組成を含む低温鉛フリーハンダ合金 Sb:0.5?4.0質量% Zn:0.5?4.0質量% Ag:0.1?3.0質量% Cu:0.1?2.0質量% Sn:88.0?98.8質量%」 また、Sn-Ag-Cu三元ハンダ合金に、さらにSb、Znを含有させた、四元又は五元のハンダ合金について、例A?Eとして示されている。 しかし、甲3号証には、上記の四元又は五元ハンダ合金にさらにNiを含有させることは、記載も示唆もされていないから、Niの含有を前提する甲2発明に甲3号証の記載事項を組み合わせて、Sb、Znを含有させることを当業者が容易に想到し得たということはできない。 仮に、Niを含有する甲2発明の四元の無鉛ハンダ合金にSb、Znを含ませることが想到容易であるとしても、「Sb、Zn、Niの合計含有量が1.5質量%以下」と規定する根拠や動機付けを、甲3号証の記載から導くことはできない。 また、甲4,5号証にも上記の相違点に関する記載はない。 したがって、本願発明3は、甲2発明及び甲3?5号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 IV 本件発明4?11に対して 1 請求人の主張する具体的な理由 本件発明4?11は、全て本件発明1?3のいずれかであるハンダ合金を発明を特定するための事項として含んでいるところ、本件発明4?11において、本件発明1?3のいずれかのハンダ合金に対してさらに付加された特定事項は、甲1号証又は甲2号証に記載された事項であるか、甲6?9号証に記載された事項を参酌して当業者が容易に想到し得る事項である。 したがって、本件発明4?11は、甲1号証又は甲2号証に記載された発明であるか、甲1発明又は甲2発明に基いて、甲3?9号証の記載事項を参酌することにより当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 当審の判断 本件発明1?3は、上記のとおり、甲1発明又は甲2発明に対し、甲3?5号証記載の事項を参酌しても、新規性、進歩性を有するものである。 そして、甲6?9号証や、陳述要領書に添付した甲10?12号証のいずれにも、Sn-Ag-Cu系ハンダ合金において、延性に着目してAg含有量を1.5質量%近傍に設定することを示唆する記載はない。 したがって、本件発明1?3のいずれかであるハンダ合金に、さらなる特定事項を付加した本件発明4?11は、甲1号証又は甲2号証に記載された発明ではないし、甲1発明又は甲2発明に基いて、甲3?9号証の記載事項を参酌することにより当業者が容易に発明をすることができたものでないし、仮に甲10?12号証の記載事項を参酌しても、容易に発明をすることができたものでない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によって本件発明1?11についての特許について、無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2011-11-11 |
出願番号 | 特願2001-33878(P2001-33878) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(B23K)
P 1 113・ 536- Y (B23K) P 1 113・ 113- Y (B23K) P 1 113・ 55- Y (B23K) P 1 113・ 537- Y (B23K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 蛭田 敦、鈴木 毅 |
特許庁審判長 |
吉水 純子 |
特許庁審判官 |
山田 靖 田中 則充 |
登録日 | 2008-07-11 |
登録番号 | 特許第4152596号(P4152596) |
発明の名称 | ハンダ合金、ハンダボール及びハンダバンプを有する電子部材 |
代理人 | 田中 久喬 |
代理人 | 内藤 俊太 |
代理人 | 西 義之 |