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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
管理番号 1272426
審判番号 不服2011-13721  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-28 
確定日 2013-04-03 
事件の表示 特願2000-278901「耐水性建築材用のセメント配合物」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月24日出願公開、特開2001-114551〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年8月10日(パリ条約による優先権主張、1999年8月10日、米国)の出願であって、平成22年5月27日付けで拒絶理由が起案され、同年9月1日付けで意見書及び明細書に係る手続補正書が提出され、平成23年3月15日付けで拒絶査定が起案され、同年6月28日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同日付けで明細書に係る手続補正書が提出されたものである。さらに、同年8月31日付けで特許法第162条による審査(以下、前置審査という。)において最後の拒絶理由が(以下、「最後の拒絶理由」という。)起案され、同年12月6日付けで意見書及び明細書に係る手続補正書が提出され、平成24年4月17日付けで特許法第164条第3項による報告を引用した審尋が起案され、同年7月23日付けで回答書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1乃至30に係る発明は、平成23年12月6日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至30に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、最後の拒絶理由のなお書きに記載された請求項1等の記載不備に対して明りょうでない記載の釈明を目的として補正された請求項22に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「以下の(a)成分及び(b)成分を備え、前記(a)成分中のすべてのセメントはポルトランドセメントである建築材に使用する配合物であって、
(a)(1)25?80重量%の硬化可能な硫酸カルシウムと、(2)10?60重量%のポルトランドセメントと、(3)最大40重量%のメタカオリンと、(4)5重量%より少ないCa(OH)_(2)とを含むセメント質材料、
(b)前記セメント質材料に対する容積比が少なくとも2/1であり、前記セメント質材料に対する重量比が少なくとも1.1/1である凝固体、
であることを特徴とする配合物。」

第2 最後の拒絶理由及び前置審査での拒絶の論理の概略
前置審査の拒絶理由通知では、引用文献1(特開平11-12019号公報)を主引用例として、前置報告書では引用文献2(特開昭61-266340号公報)を主引用例として、それぞれ特許法第29条第2項の規定により本願発明の進歩性を否定しているものと解され、いずれにおいても引用文献2、引用文献4(特開平10-236854号公報)は進歩性を否定する論理に用いられているところ、請求人は、回答書第2頁において引用文献2を主引用例とする場合に対して反論しているところから、この場合について検討すれば手続違背となることなく判断できると解されるので、当審としても引用文献2を主引用例とする場合について以下検討する。
(なお、配合物の用途を耐水性建築材に限定する請求項1についても同様に独立して特許を受けることができないものであることを付言する。)

第3 当審の判断
1 引用文献の記載事項
引用文献2には、下記の記載がある。
(2-ア)「(4)重量比でII型無水石膏が150重量部、ポルトランドセメントが45?100重量部及びフライアッシュが50?15重量部とからなる混和物に、常用の添加剤と骨材と水とを混合し、これを下地床に流布して後、硬化させることを特徴とする石膏系流し延べ床材の施工法。」(第1頁右欄第1?6行、特許請求の範囲)
(2-イ)「流し延べ床材用組成物にはセメント系や石膏系の各種組成物が知られており、流し延べ床材として必要な特性である1流動性、2硬化速度、3作業性、4表面状態・寸法精度、5耐水性等の改善が図られてきた。」(第2頁左上欄第14?18行)
(2-ウ)「II型無水石膏は主にフッ酸製造時の副産物として得られる斜方晶形の無水硫酸カルシウムであるが、その強度が高く、また、ポルトランドセメントは主成分が硅酸三カルシウム、硅酸二カルシウムでありそれ自体水硬性のものであるが、フライアッシュなどのポゾランと反応して長期強度の大きい固形物を生成する。そして、フライアッシュは火力発電所の微粉炭燃焼の際の副産物であり、それ自体は水硬性はないがセメントに混合使用すると、その中のシリカ質が、セメントの水和反応によって生成される水酸化カルシウムと徐々に反応して、不溶性の安定な硅酸カルシウム等の化合物をつくるため、長期にわたって強度が増し、水密性や耐久性が向上するのである」(第3頁左上欄第8行?同右上欄第1行)
(2-エ)「常用の添加剤には、消石灰、生石灰などのアルカリ剤、メラミンホルマリン縮合スルホン化物のような減水剤、メチルセルローズ、ヒドロキシエチルセルローズ等の保水剤、シリコン系界面活性剤のような消泡剤などがあり、必要に応じて適宜添加して使用される。
施工に際しては更に、骨材と水とがが加えられるが、骨材としては珪砂、河砂等が用いられる。
施工は、本発明組成物に骨材と添加剤と水とを加え混合してスラリーとなし、それをコンクリートスラブ床面に流布して自己水平化を進行させた後、硬化を待つ。
なお、本発明組成物と骨材と添加剤及び水との混合はフロー値が220±15mm、好ましくは220±10mm、特に220±5mmとなるようにするのが良い。
添加剤としての、アルカリ剤は、II型無水石膏150重量部に対して9?18重量部、減水剤はII型無水石膏150重量部に対して1?4重量部、保水剤はII型無水石膏150重量部に対して0.12?0.25重量部、消泡剤はII型無水石膏150重量部に対して0.065?0.125重量部を添加するのが好ましい。
そして、骨材はII型無水石膏150重量部に対して50?100重量部を配合するのが好適である。」(第3頁左下欄第12行?同右下欄第14行)
(2-オ)表1に試験体番号4として、調合材量がKgで「石膏7.5、セメント3.5、フライアッシュ1.5、消石灰0.45、骨材(珪砂5号)5」配合したものが記載されている。(第5頁)
引用文献4には、下記の記載がある。
(4-ア)「【請求項1】 (a) 硫酸カルシウム半水和物;(b) ポルトランドセメント;及び(c) ポゾラン活性を有するか焼クレーを含む、耐水性水硬性固体を生産するために水に加えるのに適した組成物であって、
組成物中の成分(a) 、(b) 及び(c) の重量割合が、
(a) 20?98重量%;
(b) 1?5重量%;
(c) 1?30重量%であり、3成分組成物においては、成分(a) 、(b) 及び(c) の割合は加えて100%となることを特徴とする組成物。
【請求項2】 上記か焼クレーがメタカンダイトを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】 上記メタカンダイトが、1g当り少なくとも700mgの水酸化カルシウムとの反応性を有するメタカオリンからなる、請求項2記載の組成物。
【請求項4】 上記3成分組成物における成分(a) 、(b) 及び(c) の重量割合が、(a) 47.5?91重量%、(b) 7?40重量%、(c) 2?12.5重量%の範囲であり、その割合の合計が100重量%である、請求項1?3の何れか1項に記載の組成物。
【請求項5】 乾燥粉末混合物からなる、請求項1?4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】 1種以上の他の添加剤を含む、請求項1?5の何れか1項に記載の組成物。
【請求項7】 水に加えられる、請求項1?6の何れか1項に記載の組成物。
【請求項8】 湿潤した組成物が上記成分(a) 、(b) 及び(c) 以外に、他の改質剤を含む、請求項7記載の組成物。
【請求項9】 少なくとも2種の物品の間のセメントとして塗布し、該物品間に耐水性結合を形成するように固化される、請求項7又は8記載の組成物を使用する方法。
【請求項10】 請求項7又は8記載の組成物を用いて物品をキャストし、該品物が固化して耐水性外側表面を形成することを特徴とする、物品の製造方法。
【請求項11】 請求項10の方法により製造された物品。」(【特許請求の範囲】)
(4-イ)「ポゾラン反応性を最大にするために、メタカオリンへのか焼による変換のための原料クレー、カオリンは本質的に純粋であるか、又は標準鉱物加工技術によって精製すべきである。熱活性化(か焼)は、最も重要な処理工程であり、クレーは、鉱物の原料にもよるが、好ましくは700?900℃の範囲の温度でか焼される。不純物鉱物は希釈剤として機能する。メタカオリンの純度の上昇により、コンクリートの圧縮強度が向上し、硬化マトリックス中のCa(OH)_(2) の濃度が低下することが報告されている。」(段落【0005】)
(4-ウ)「・・・セメント組成物へ添加して使用するため、又はセメント又はセメント含有製品を形成するために、水溶性粒状懸濁液内に配合される様々な公知のクラスの添加剤が、乾燥セメント組成物の一部として、又は別個に上記水和水硬性組成物に配合してもよい。このような任意添加剤は、例えば下記のものを含む。
(i) ポリカルボキシレート等の水溶性ポリマー、例えば、ポリアクリル酸及びその塩、リグノスルホネート及びスルホン化メラミン又はナフタレンホルムアルデヒド及び珪酸アルカリ等の分散剤;
(ii)ステアリン酸カルシウム、亜鉛、又はアルミニウム、又は疎水性特性を付与する化合物等のはっ水剤;
(iii) ポゾラン特性を有する、他の無機粒状物質、例えば、微細ケイ質物質等;
(iv)最終製品の用途に適当又は必要と思われる、他の添加剤、例えば、雲母状物質、及び他の鉱物増量剤又は改質剤;
・・・」(段落【0006】?【0007】)

2 引用発明の認定
引用文献2の記載事項(2-ア)には、「重量比でII型無水石膏が150重量部、ポルトランドセメントが45?100重量部及びフライアッシュが50?15重量部とからなる混和物に、常用の添加剤と骨材と水とを混合」する「石膏系流し延べ床材」が記載されている。
そして、記載事項(2-ウ)には、「フライアッシュは・・・、それ自体は水硬性はないがセメントに混合使用すると、その中のシリカ質が、セメントの水和反応によって生成される水酸化カルシウムと徐々に反応して、不溶性の安定な硅酸カルシウム等の化合物をつくるため、長期にわたって強度が増し、水密性や耐久性が向上する」ことが記載され、記載事項(2-エ)には、「常用の添加剤には、消石灰・・・などのアルカリ剤、・・・などがあり、必要に応じて適宜添加して使用される。
・・・更に、骨材と水とがが加えられるが、骨材としては珪砂、河砂等が用いられる。」こと及び「添加剤としての、アルカリ剤は、II型無水石膏150重量部に対して9?18重量部、・・・骨材はII型無水石膏150重量部に対して50?100重量部を配合するのが好適である。」ことが記載されている。
記載事項(2-オ)を骨材を除外して重量%で換算すると「石膏57.9重量%、セメント27.0重量%、フライアッシュ11.6重量%、消石灰3.5重量%」及び「骨材(珪砂5号)/(石膏+セメント+フライアッシュ+消石灰)=0.386」となる。

これらの記載事項を本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献2には、
「重量%でII型無水石膏が57.9重量%、ポルトランドセメントが27.0重量%及び水酸化カルシウムと徐々に反応して長期にわたって強度が増し、水密性や耐久性が向上するフライアッシュが11.6重量%、消石灰3.5重量%、と骨材として珪砂を骨材(珪砂5号)/(石膏+セメント+フライアッシュ+消石灰)=0.386を配合する石膏系流し延べ床材。」の発明(以下、「引用2発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
そこで、本願発明と引用2発明とを対比すると、まず、引用2発明の「II型無水石膏」、「ポルトランドセメント」は、本願発明の「硬化可能な硫酸カルシウム」、「ポルトランドセメント」に相当することは明らかである。引用2発明の「ポルトランドセメント」が「すべて」であることは、引用文献2に他の種類のセメントの利用についての言及がない以上、当然である。また、引用2発明の「消石灰」及び「水酸化カルシウム」は、本願発明の「Ca(OH)_(2)」であるということができる。
次に、引用2発明の「骨材として」の「珪砂、河砂」は、本願明細書において「【0029】凝固体:この用語はポルトランドセメントのような結合剤を含む配合物に使用される砂、粉砕石、等の粒子に使用される。」とあるから、本願発明の「凝固体」に他ならない。
そして、引用2発明の「水酸化カルシウムと徐々に反応して長期にわたって強度が増し、水密性や耐久性が向上するフライアッシュ」は、本願明細書において「【0032】本発明のセメント配合物の成分の1はシリカヒューム、メタカオリン、顆粒状に粉砕された噴射炉スラグ、あるいは微粉砕されたフライアッシュのような細かに分割されたポゾラン材料である。一般に平均粒径はブレイン表面積が約2000cm^(2)/gより大きな代表的なポルトランドセメントの平均粒径より小さい。ポゾランが等価な性能を与える量使用される場合、他の認識されたポゾランが含まれる。シリカヒュームは高温誘導炉内でシリコン金属及びフェッロシリコン合金の製造の副産物として形成される。一方メタカオリン、顆粒状に粉砕された噴射炉スラグあるいは微粉砕されたフライアッシュは極めて低いシリカ成分及び大量のアルミナを有しているが、有効なポゾラン材料にすることができる。」とあることを踏まえれば、本願発明の「メタカオリン」と「ポゾラン材料」で共通するといえる。
さらに、引用2発明の「石膏系流し延べ床材」は、建築に用いることを目的として配合するのであるから、本願発明の「建築材に使用する配合物」に相当すると認められる。

そうすると、両発明は、
「すべてのセメントはポルトランドセメントである建築材に使用する配合物であって、
(a)(1)57.9重量%の硬化可能な硫酸カルシウムと、(2)27.0重量%のポルトランドセメントと、(3)11.6重量%のポゾラン材料と、(4)3.5重量%のCa(OH)_(2)とを含むセメント質材料、
(b)凝固体、
である配合物。」
で一致し、以下の点で相違点する。

相違点a:本願発明は、ポゾラン材料が「メタカオリン」であるのに対し、引用2発明は、「フライアッシュ」である点

相違点b:本願発明は、「凝固体」が「前記セメント質材料に対する容積比が少なくとも2/1であり、前記セメント質材料に対する重量比が少なくとも1.1/1である」のに対し、引用2発明は、骨材(珪砂5号)/(石膏+セメント+フライアッシュ+消石灰)=0.386であり、骨材の容積比について特定がない点

4 相違点の判断
相違点aについて検討する。
引用文献2の記載事項(2-ウ)に「フライアッシュなどのポゾランと反応して長期強度の大きい固形物を生成する。そして、フライアッシュは火力発電所の微粉炭燃焼の際の副産物であり、それ自体は水硬性はないがセメントに混合使用すると、その中のシリカ質が、セメントの水和反応によって生成される水酸化カルシウムと徐々に反応して、不溶性の安定な硅酸カルシウム等の化合物をつくるため、長期にわたって強度が増し、水密性や耐久性が向上するのである」とあるように、ポゾラン材料の一つとして「フライアッシュ」を認識しており、その他の材料を排除していない。そして、例えば、引用文献4には、記載事項(4-ア)の請求項4を独立形式で記載すると、「(a) 硫酸カルシウム半水和物;(b) ポルトランドセメント;及び(c) ポゾラン活性を有する1g当り少なくとも700mgの水酸化カルシウムとの反応性を有するメタカオリンを含む、耐水性水硬性固体を生産するために水に加えるのに適した組成物であって、
組成物中の成分(a) 、(b) 及び(c) の重量割合が、
(a) 47.5?91重量%;
(b) 7?40重量%;
(c) 2?12.5重量%であり、3成分組成物においては、成分(a) 、(b) 及び(c) の割合は加えて100%となることを特徴とする組成物。」(以下、「引用4発明」という。)が記載されていると認められる。同(4-イ)には、引用4発明は、「ポゾラン反応性を最大にするために、メタカオリンへのか焼による変換のための原料クレー、カオリンは本質的に純粋であるか、又は標準鉱物加工技術によって精製すべきである。・・・メタカオリンの純度の上昇により、コンクリートの圧縮強度が向上し、硬化マトリックス中のCa(OH)_(2)の濃度が低下することが報告されている。」が特徴であることが記載されている。また、同(4-ウ)には、引用4発明の「任意添加成分」として「他の鉱物増量剤」があることが記載されている。
よって、本願発明及び引用2発明と類似する引用4発明において圧縮強度の向上を課題としてポゾラン活性を有する材料から「メタカオリン」を採用することが記載されていると認められる。
さらに、圧縮強度の高い建築材料を得ることは、一般的な技術課題ということができるから、引用2発明のフライアッシュに換えて、引用文献4に記載された「メタカオリン」採用することは、当業者であれば容易に想到し得ることであるというべきである。
次に、相違点bについて検討する。
本願発明が相違点bに係る特定事項を採用することの技術的意義は、本願明細書の「【0029】凝固体:この用語はポルトランドセメントのような結合剤を含む配合物に使用される砂、粉砕石、等の粒子に使用される。粒子のサイズ及び等級、粒子の面形態、吸水性、化学相溶性、及び反応性は特定配合物の性能に影響を与えるものと考えられる。本発明では凝固体とセメント結合剤との容積比は少なくとも2/1である。・・・」及び「【0041】使用される凝固体は周知な材料から選択される。凝固体は充填剤として考えられ、製品の強度への影響はセメント材料との化学的反応から生じるのではなく実質的に物理的であると考えられるので、ポゾランである必要はない。特定の配合物に使用される量は必要な製品性能を満足するように選択されるが、例えばタイル用のバッキングボードにおいて水の存在下で線形膨張が重要である場合、凝固体のセメント結合剤に対する容積比は少なくとも2/1にする必要がある。・・・」であって、これらからは、凝固体は砂、粉砕石、等の粒子であって充填剤として考えられ、製品の強度への影響はセメント材料との化学的反応から生じるのではなく実質的に物理的であると考えられ、そのセメント質材料に対する重量比や容積比には数値限定の臨界的意義は認められず、せいぜい用途に合わせた最適化が行われているにすぎないものである。
従って、凝固体のセメント質材料に対する重量比や容積比の下限の設定は、当業者であれば適宜付加しうる操業条件の設定にすぎないものというべきである。
そして、本願明細書及び図面の記載を検討しても、本願発明が相違点aおよびbに係る特定事項を採用することにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

したがって、本願発明は、当審の拒絶理由の引用文献2に記載された発明及び同引用文献4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 回答書の主張について
請求人は、平成24年7月23日付けの回答書において、「本願発明において、凝固体は、明細書の記載のように「粒径が20μmより小さいもの」が使用されますので、外見が粉状のものです。このような粉状のものは、粒度により見かけ比重が大きく変わってきます。この凝固体は、他の組成成分と混合されて「建築材」中に入り込みますので、その組織構成は物性に大きく影響してきます。すなわち、「建築材」が水中に浸漬されたときに、組織中に水が浸透しますので、組織構成中の凝固体とセメント質材料の重量比と共に容積比が、その物性(湿潤強度)に影響を及ぼします。本願発明明細書の図1に示したように、セメント質材料に対して凝固体の容積比が2/1以上であるときに膨張が小さくなることがわかります。
前置報告書では、「セメント質材料に対して骨材の配合量を、容積比を2以上、重量比を1:1以上とすることは、当業者が適宜設定することである。」としていますが、本願発明者は、重量比と容積比を上記のように設定したときに所望の「耐水性建築材」が実現できることを見出して本発明に至ったものであり、これは、容易に想到できる、あるいは当業者の適宜設定事項を超えたものであると思料致します。」と主張するが、「耐水性建築材」は、請求項22において記載のない事項であり、しかも、引用文献2の記載事項(2-イ)「流し延べ床材用組成物にはセメント系や石膏-の各種組成物が知られており、流し延べ床材として必要な特性である1流動性、2硬化速度、3作業性、4表面状態・寸法精度、5耐水性等の改善が図られてきた。」及び(2-ウ)「II型無水石膏は主にフッ酸製造時の副産物として得られる斜方晶形の無水硫酸カルシウムであるが、その強度が高く、また、ポルトランドセメントは主成分が硅酸三カルシウム、硅酸二カルシウムでありそれ自体水硬性のものであるが、フライアッシュなどのポゾランと反応して長期強度の大きい固形物を生成する。そして、フライアッシュは火力発電所の微粉炭燃焼の際の副産物であり、それ自体は水硬性はないがセメントに混合使用すると、その中のシリカ質が、セメントの水和反応によって生成される水酸化カルシウムと徐々に反応して、不溶性の安定な硅酸カルシウム等の化合物をつくるため、長期にわたって強度が増し、水密性や耐久性が向上するのである」並びに引用文献4の(4-ア)「【請求項1】 (a) 硫酸カルシウム半水和物;(b) ポルトランドセメント;及び(c) ポゾラン活性を有するか焼クレーを含む、耐水性水硬性固体を生産するために水に加えるのに適した組成物であって、」と記載されるように「耐水性」は、引用2発明及び引用4発明においてもそれぞれ備えられている特性であるから、請求人の主張は当を得たものとは認められない。
したがって、上記主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、前置審査の拒絶理由の引用文献2に記載された発明及び引用文献4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-05 
結審通知日 2012-11-06 
審決日 2012-11-21 
出願番号 特願2000-278901(P2000-278901)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 國方 恭子
中澤 登
発明の名称 耐水性建築材用のセメント配合物  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  

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