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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1272769
審判番号 不服2012-14482  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-27 
確定日 2013-04-12 
事件の表示 特願2009-506771「芳香族化合物を含有する製品用容器」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月1日国際公開、WO2007/124350、平成21年9月24日国内公表、特表2009-534261〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年4月19日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理2006年4月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年3月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年7月27日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
平成23年10月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、本願の請求項1ないし25に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載された事項によって特定される発明と認める。その請求項1は、次のとおり記載されている。
「少なくとも1つの抗菌性化合物を含有する物質用の容器であって、下側本体部および上側肩部を備え、前記上側肩部が、アルケン重合体を含む肩壁と、前記肩壁の内側表面に結合されるバリヤユニットとを備えており、前記バリヤユニットが、40℃、90日間で約10mg/dm^(2)より少ない、前記抗菌性化合物に対する吸着性を有する重合体材料からなっており、
前記バリヤユニットが、バリヤフィルムと、前記バリヤユニットを取り付けるための取り付けフィルムとを備えている、容器。」
(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

3.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平6-92830号公報(以下、「引用例」という。)には、次の記載がある。
a「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、高い抗菌活性を有し、かつ保存安定性に優れ、口腔内疾患の予防に効果的なハロゲン化ジフェニルエーテル含有口腔用組成物に関する。
【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来、歯磨等の口腔用組成物の容器としては、気密性及び押し出し性の良好なアルミニウム箔をラミネートした積層フィルムを用いたチューブ、ポンプ容器、スクイズボトルや射出中空、プレス、真空等の成形によるボトルが一般的に使用されている。
【0003】この場合、積層フィルムからなるチューブは、通常その内容物と接触する最内層がポリエチレンにて形成されており、口腔用組成物は収容時にポリエチレンと接するようになっている。また、ポンプ容器、スクイズボトルは、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等が口腔用組成物に接するようになっており、射出、中空、プレス、真空等の成形によるボトルの場合は、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン等が口腔用組成物に接するようになっている。
【0004】一方、口腔用組成物の有効成分として知られているハロゲン化ジフェニルエーテルとしては、例えば通称トリクロサン(Triclosan)として知られている2,4,4’-トリクロロ-2-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル、2,2’-ジフェニルエーテル等が使用されている。……」
b「【0005】しかしながら、本発明者の検討によると、上述した内容物が接触する部分がポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチックで形成された容器にトリクロサン等のハロゲン化ジフェニルエーテルを含む口腔用組成物を収容した場合、ハロゲン化ジフェニルエーテルがこれらプラスチックに吸着・吸収し、長期保存中に口腔用組成物中のハロゲン化ジフェニルエーテル含量が減少してしまい、このためハロゲン化ジフェニルエーテル由来の抗菌活性が低下するといった問題が生じることがわかった。……
【0007】一方、特開平2-288820号公報には、ハロゲン化ジフェニルエーテルの貯蔵中の抗菌活性を過度に低下させない手段として固体合成有機ポリマープラスチック材料等の固体ポリマー材料からなる容器、具体的にはポリフルオロエチレンやポリ塩化ビニルからなる容器に収容することが提案されている。
【0008】しかし、この方法は上述したハロゲン化ジフェニルエーテルの保存安定性の改善に関してはなお効果が十分でなく、上記問題を根本的に解決することは困難であった。
【0009】本発明は上記事情に鑑みなされたもので、高い抗菌活性を有する上、保存安定性に優れ、長期間保存してもその抗菌活性の低下がほとんどないプラスチック容器に収容されたハロゲン化ジフェニルエーテル含有口腔用組成物を提供することを目的とする。」
c「【0010】【課題を解決するための手段及び作用】本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、下記一般式(1)で示されるニトリルと下記一般式(2)で示されるエステルとの混合物をブタジエン及び/又はイソプレンと上記一般式(1)のニトリルとの共重合体と重合することにより得られるアクリルニトリル共重合体、又はエチレン-ビニルアルコール重合体を内容物と接触する部分の全部又は一部とする容器にハロゲン化ジフェニルエーテルを有効成分として含有する口腔用組成物を収容することにより、高い抗菌活性を有する上、保存安定性に優れ、長期保存後においてもその抗菌活性が満足に発揮され得ることを見出した。
【0011】【化3】

(式中、Rは水素原子、低級アルキル基又はハロゲン原子を示す。)
【0012】【化4】

(式中、Rは上記と同様の意味を示し、R’はアルキル基を示す。)
【0013】なお従来、上述したアクリルニトリル共重合体を用いた容器が練歯磨、その他のクリーム、半液体製品、錠剤の収容に使用され得ることは公知であり(特公昭57-60234号、特開平1-305021号、同1-149724号公報に記載)、またエチレン-ビニルアルコール共重合体は、ガスバリヤー性、保香性、機械強さから積層フィルムの中間層として練歯磨等の歯磨やその他半固形剤、液剤、固形製剤等の包装材料に使用されている(特開平1-149724号公報参照)。」
c「【0026】ここで、上記ニトリルとエステルとの混合物としては、ニトリル量を50%以上、エステル量を残部としたものが好適に用いられ、またブタジエン,イソプレンとニトリルとの共重合体はブタジエン,イソプレン量50?90%、ニトリル量を残部としたものが好適に用いられる。更に、ニトリルとエステルとの混合物に対するブタジエン,イソプレンとニトリルとの共重合体の使用割合は、前者100重量部に対して後者1?40重量部としたものが好適であり、特に好適には、アクリルニトリル70?95%とアクリル酸メチル5?30%との混合物100重量部をブタジエン60?80%とアクリルニトリル20?40%とからなる共重合体1?20重量部と重合させた共重合体が用いられる。ここで、本発明に用いるアクリルニトリル共重合体は、その全量に対してアクリルニトリル量が70?85%であるものが好ましい。」
d「【0029】本発明において上記アクリルニトリル共重合体又はエチレン-ビニルアルコール共重合体よりなる容器は、単層又は2種以上の樹脂によるブローチューブ、アルミニウム等の金属、紙、他のプラスチックとの積層フィルムで内容物と接触する最内層が上記共重合体よりなるチューブ、機械的又は差圧によるディスペンサー容器、ピロー包装等のフィルム包装容器、射出、中空、プレス、真空等の成形によるボトルなど、各種口腔組成物用容器の内容物と接触する全部又は大部分が上記共重合体で形成されたものだけでなく、チューブ、ボトル等の頭部、中栓部、インジェクションパーツ等の容器の一部が上記共重合体で形成されたものも含まれる。」
e「【0031】【実施例】以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、各例中の%はいずれも重量%である。
【0032】〔実施例1?2,比較例1?10〕表1に示す処方の液状歯磨を常法により調製し、表2に示す最内層材質を有するボトル容器に充填し、これを50℃で1カ月保存後、有効成分の残存率を測定すると共に、滞留抗菌力試験を下記方法で実施した。結果を表1に示す。
滞留抗菌力試験:滅菌した唾液に浸漬したハイドロキシアパタイトビーズをリン酸緩衝液で2回洗浄後、歯磨懸濁液(3倍希釈液)と3分間反応させた。3回洗浄後、人工唾液中に浸漬した。人工唾液は1時間毎に交換し、浸漬時間0?8時間後、アクチノマイセス ビスコーサス(Actinomyces
Viscosus,以下AVと略す)菌と共にTHB(Todd Hewitt Broth)培地中24時間嫌気培養した。判定はAV菌のコロニーの存在を目視で判定し、AV菌がコロニー化していない最長時間によって判定した。
○:抗菌時間5時間以上
△:抗菌時間1?4時間
×:抗菌時間0時間以下
【0033】【表1】

*香料組成
スペアミント油 50.0%
ペパーミント油 20
l-メントール 20
アネトール 8
ウィンターグリーン油 0.1
ストロベリフレーバー 0.1
オレンジフレーバー 0.1
エタノール 残
計 100.0%
【0034】【表2】

【0035】ここで、アクリルニトリル共重合体は、アクリルニトリル-ブタジエンラバー(NBR)にアクリルニトリルとメチルアクリレートをグラフト共重合させたもので、アクリルニトリルの含有量が75%のものを使用した。また、使用したボトル容器は外側より高密度ポリエチレン(620μm)/接着剤層(90μm)/アクリルニトリル共重合体(90μm)である。……
【0037】表2の結果より、容器最内層材質をアクリルニトリル共重合体(実施例1)及びエチレン-ビニルアルコール共重合体(実施例2)にした場合、トリクロサンの残存率が保存前とほぼ変わらない値を示し、また抗菌力も5時間以上の効果があった。しかしながら、アクリルニトリル共重合体及びエチレン-ビニルアルコール共重合体以外の容器最内層材質をもつ容器に充填したもの(比較例1?7)は、50℃で1ヵ月保存後の残存率が70?79%まで減少し、かつ抗菌時間も1?4時間まで低下してしまうことがわかった。また抗菌剤無配合の組成(比較例8)は抗菌活性は発現されなかった。」
f「【0039】更に実施例を示すが、各例で使用した容器及び香料は以下のとおりである。容器……C:ポリエチレンを最内層とするチューブで肩部にアクリルニトリル共重合体のインジェクションパーツをはめ込んだチューブ(アクリルニトリル含有量75%,厚さ1mm)……」
g「【0046】〔実施例8〕練歯磨
無水ケイ酸 20.0%
ソルビット液 22.0
プロピレングリコール 3.5
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.1
α-オレフィンスルホン酸ナトリウム 1.8
サッカリンナトリウム 0.1
香料B 1.0
パラオキシ安息香酸メチル 0.05
アラントイン 0.05
ゼオライト 0.1
フッ化ナトリウム 0.02
トリクロサン 0.3
精製水 残
合 計 100.0%
この練歯磨を上述した容器Cに充填した。」

4.引用発明、及び引用発明と本願発明との対比
引用例の上記記載からみて、引用例には、次の発明が記載されていると認める。(以下、「引用発明」という。)

《引用発明》
トリクロサンを含有する液状歯磨用のボトル容器であって、該ボトル容器は外側より高密度ポリエチレン(620μm)/接着剤層(90μm)/アクリルニトリル共重合体(90μm)であり、最内層材質が、50℃で1カ月保存後、トリクロサンの残存率が100%であるボトル容器。

本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「トリクロサン」は、本願発明の「少なくとも1つの抗菌性化合物」に相当し、同様に、「液状歯磨」は「物質」に、「ボトル容器」は「容器」に、それぞれ相当する。
引用発明のボトル容器で、外側が高密度ポリエチレン(620μm)であることと、本願発明の容器で、上側肩部がアルケン重合体を含む肩壁を備えていることとは、容器の外側層がアルケン重合体(高密度ポリエチレンはアルケン重合体である。)である限りにおいて、共通する。
引用発明のボトル容器の最内層であるアクリルニトリル共重合体(90μm)は、厚さが90μmであるからフィルムであり、かつ、トリクロサンに対するバリヤ機能を備えているので、本願発明のバリヤフィルムに相当する。
引用発明のボトル容器の接着剤層(90μm)は、厚さが90μmであるからフィルムであり、かつ、アクリルニトリル共重合体(90μm)フィルムを容器の外側層に取り付ける機能を備えているので、本願発明の取り付けフィルムに相当する。
そして、引用発明のアクリルニトリル共重合体(90μm)と接着剤層(90μm)とを合わせたものは、本願発明のバリヤユニットに相当する。
そうすると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
《一致点》
少なくとも1つの抗菌性化合物を含有する物質用の容器であって、アルケン重合体を含む外側層と、前記外側層の内側表面に結合されるバリヤユニットとを備えており、前記バリヤユニットが、バリヤフィルムと、前記バリヤフィルムを外側層に取り付けるための取り付けフィルムを備えている、容器。

《相違点1》
本願発明の容器は、下側本体部および上側肩部を備え、前記上側肩部が、アルケン重合体を含む肩壁であるのに対し、引用発明の容器は、ボトル容器であり、下側本体部および上側肩部を備える構造であるか不明な点。

《相違点2》
本願発明のバリヤユニットは、40℃、90日間で約10mg/dm^(2)より少ない、前記抗菌性化合物に対する吸着性を有する重合体材料からなっているのに対し、引用発明の最内層(バリヤユニットのバリヤフィルム)の材質は、50℃で1カ月保存後、トリクロサンの残存率が100%である点。

5.相違点の検討
(1)相違点1について
歯磨剤は、液状歯磨剤の形態も、練歯磨やゲル状の形態も、共に周知慣用であり、練歯磨やゲル状の歯磨剤の容器として、ポリエチレン等のアルケン重合体の材質で、下側の筒状(チューブ状)の本体部と、上側の肩部とを備えるチューブ容器を用いることも、周知慣用である(引用例の段落0002、0003、0039、0046の他、例えば、特公昭62-40326号公報や特公昭63-2529号公報にも記載されている。)。
したがって、引用発明の液状歯磨剤を練歯磨やゲル状の歯磨剤に替えると共に、その容器として下側の筒状(チューブ状)の本体部と、上側の肩部とを備えるチューブ容器を用いること、さらに、容器の肩部内面をもバリヤフィルムで覆うこと(引用例の段落0010、0039参照)は、いずれも当業者が容易に推考し得たことである。

(2)相違点2について
引用発明では、バリヤ機能をトリクロサンの残存率で評価しているので、引用例の記載から、引用発明のトリクロサン吸着性を見積もってみる。
引用例では、実施例1(段落0034の表2)のトリクロサン残存率を測定した際の容器の大きさや形状について記載していない。一方、本願明細書では、図16の説明で28mmの直径を有し114gの歯磨きゲルを収容する管状容器を用いて実験したことが記載されている。この容器の大きさ、形状及び内容量は、市販されている歯磨剤として通常程度のものと認められるので、この容量について見積もることとする。なお、見積もりの計算を簡単にするため、容器形状は、下図のような直径2rで、その3倍の長さ6rを有する円筒形であり、歯磨剤の比重は1であると仮定する。

すると、
円筒形の体積 V=6r・πr^(2)=6πr^(3)
円筒形の表面積S=2・πr^(2)+2πr・6r=14πr^(2)
仮定によりV=114cm^(3)であるから、円筒形の半径rは、
円筒形の半径 r=(V/6π)^(1/3)=(6.048)^(1/3)=1.822 cm
円筒形の表面積S=14πr^(2)=14π・(1.821)^(2)=146.0 cm^(2)
引用例の実施例1では、トリクロサン0.2%の歯磨剤のトリクロサン残存率が100%であり、表2から残存率の有効数字は1%の桁と推認される。すると、チューブに収着(吸着+吸収)されたトリクロサンの上限%は0.5%であるから、収着量の上限値Gは、
収着量の上限値G=114g×0.2%×0.5%=114g/100,000=1.14 mg
円筒形容器の単位表面積当たりの収着量の上限値Sorpは、
Sorp=1.14 mg/146.0 cm^(2)=0.007808 mg/cm^(2)
=7.808μg/cm^(2)=0. 07808μg/dm^(2)
本願実施例16では、トリクロサン濃度が0.3%であり、引用例の実施例1の濃度0.2%の1.5倍であること、また、本願発明では、歯磨剤との接触期間が90日であり、引用例の実施例1の1カ月の約3倍であることを考慮して、トリクロサン濃度が0.3%、歯磨剤との接触期間が90日の場合には、単位表面積当たりの収着量の上限値が、上記Sorpの4.5倍(=1.5×3)になると見込むと、その値Sorp’は、次のようになる。
Sorp’=0. 07808μg/dm^(2)×4.5=0.3514μg/dm^(2)
(なお、上記見積もり計算では、得られた計算結果をその上位4桁で表記しているため、上記の値そのものを用いて計算すると下位桁の数値が上記の表記と異なる場合がある。)
引用例の実施例1についての記載から見積もった、引用発明のトリクロサン吸着性である上記Sorp’は、本願発明が特定する約10mg/dm^(2)よりはるかに小さい値である。そうすると、仮に、引用例の実施例1でトリクロサン残存率を測定した際の容器の大きさや形状等が、上記見積もりの際の仮定と相当異なっているとしても、引用発明のトリクロサン吸着性が、本願発明が特定する約10mg/dm^(2)という要件を充足すると認められる。例えば、測定に用いた歯磨きゲルの重量が上記の100分の1の1.14gであるとすると、体積Vが 1/100 倍、表面積Sが (1/100)^(2/3)=0.04642 倍になるから、Sorp’は上記の値の (1/100)/(1/100)^(2/3)=(1/100)^(1/3)=0.2154 倍、すなわち、0.07570μg/dm^(2)になる。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

(3)相違点2についての補足
ア.上記(2)のとおり、本願発明と引用発明とは、抗菌性化合物に対する吸着性に関しては同一である。本願発明は、抗菌性化合物に対する吸着性に関しては、本願出願日前の公知発明に過ぎない。このため、本願明細書等における抗菌性化合物に対する吸着性についての記載は、実施可能要件等の記載不備があるとまではいえない。
しかし、仮に、請求人が本件出願で特許を得ようとする発明が、抗菌性化合物に対する吸着性に関して、公知発明とは異なるものであるとすると、そのような発明は、本願明細書等には、当業者が実施できる程度に開示されていない。仮に、請求人が、本願発明と引用発明とは、抗菌性化合物に対する吸着性に関する点で相違すると主張する場合は、実施可能要件等に関して、本願明細書等の記載不備が顕在化することになるので、念のため、以下で指摘しておく。

イ.化学大辞典2(共立出版、1987年2月15日 縮刷版第30刷発行)810?811頁の「きゅうしゅう 吸収」の項目の(2)に、「気体が液体または固体に吸われる現象.厳密にいえば,吸われた気体分子が液体または固体の内部まで移動する場合を吸収といい,吸われた分子が表面付近に留まっている場合を吸着といって区別する.しかし,実際にはこのどちらに属するか区別しがたい場合もあり,これを收着という.」と説明されているように、化学技術分野では、「吸着」、「吸収」、「收着」は、別の意味を有する用語として区別して用いられる。
本願では、特許請求の範囲で「吸着」、明細書(段落0011等)で「吸収」、図面(図5等)のグラフで「收着」と用語を使い分けている。そうすると、特許請求の範囲において「抗菌性化合物に対する吸着性」という表現で本願発明を特定しているのであるから、化学大辞典2で示されているように、バリヤユニットの「表面付近に留まっている抗菌性化合物の量」によって、本願発明を特定していると認められるが、どのようにして「表面付近に留まっている抗菌性化合物の量」を測定するのかが、特許請求の範囲、明細書及び図面のいずれにも、明確に説明されていない。明細初段落0029に「あらかじめ決められた表面積がサンプルの各々から切断され」と記載されていることから、サンプルの表面を、ごく薄く切り取ってそこに「留まっている抗菌性化合物の量」を測定するものとも推認されるが、その場合、サンプルの表面をどの程度の厚さ(薄さ)に切り取るかによって測定される「抗菌性化合物の量」は大きく異なるものと認められる。また、切り取る厚さ(薄さ)がごく薄い場合には、切り取る方法によっても、測定される「抗菌性化合物の量」が異なるものと推認される。しかし、特許請求の範囲、明細書及び図面のいずれにも、サンプルから切り取る厚さ(薄さ)がどの程度であるか示されていないし、切り取る方法についても示されていない。
そうすると、特許請求の範囲に記載された発明は、「約10mg/dm^(2)より少ない、前記抗菌性化合物に対する吸着性を有する」という記載が特定する事項が明確でない(特許法第36条第6項第2号違反)。また、特許請求の範囲及び明細書の記載に従ってバリヤユニットを作成しても、そのバリヤユニットが、「約10mg/dm^(2)より少ない、前記抗菌性化合物に対する吸着性を有する」という条件を満たしているかを確認する方法が不明であるから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に記載されているとはいえない(特許法第36条第4項第1号違反)。

ウ.本願請求項1は、「バリヤユニットが、40℃、90日間で約10mg/dm^(2)より少ない、前記抗菌性化合物に対する吸着性を有する重合体材料」と特定しているから、この特定は、「バリヤユニット」それ自体の吸着性を特定しているものであって、「バリヤユニットを備えた上側肩部」の全体の特性を特定しているものではないことは明確である。
しかし、本願明細書の段落0002に「問題点は、抗菌性化合物が管状容器材料によって吸収され…ることである。この結果は、抗菌性化合物に対する管状容器構造体による吸収を減少させる、またはなくすように管状容器構造体を改変する必要がある」と記載されているように、本願発明の課題を解決するためには、「管状容器構造体による吸収を減少させる、またはなくす」必要があると認められる。そして、本願請求項1で特定されるバリヤユニットはフィルムであり、肩壁は、抗菌性化合物を吸収しやすいアルケン重合体を含むものであるから、バリヤユニットに吸収された抗菌性化合物の一部又は大部分は、バリヤユニットを通過してアルケン重合体を含む肩壁へと移動するものと認められる。特に、本願請求項1は、バリヤフィルムの厚さを特定していないところ、バリヤフィルムの厚さが薄い場合には、バリヤユニットを通過して肩壁へと移動する抗菌性化合物の量はかなり多いものと推認される。
しかし、本願では、特許請求の範囲、明細書及び図面のいずれにも、「バリヤユニット」それ自体の吸着性が、「40℃、90日間で約10mg/dm^(2)より少ない」であれば、「管状容器構造体による吸収」を、十分減少させることが可能であり、本願発明の課題を解決できることを立証していないし、説明してもいない。そうすると、本願の特許請求の範囲で特定された技術的範囲のすべてにおいて、本願発明の課題を解決するものとは認められないから、本願の特許請求の範囲及び明細書は、いわゆるサポート要件を備えていない(特許法第36条第6項第1号違反)。

エ.直ちには、実施可能要件やサポート要件に違反しているとまではいえないが、「アルケン重合体を含む肩壁と、前記肩壁の内側表面に結合されるバリヤユニットとを備え」「前記バリヤユニットが、バリヤフィルムと、前記バリヤユニットを取り付けるための取り付けフィルムとを備えている」構成について、抗菌性化合物に対する吸着性に関する試験を行ったものは、明細書の段落0027及び図18に示された例のみであり、この試験は「40℃、40日間」までしか試験していない。したがって、本願の特許請求の範囲、明細書及び図面のいずれにも、本願請求項1で特定される発明が存在することを実証する開示はないことを指摘しておく。
なお、段落0019及び図10、並びに段落20及び図11には、本願発明のバリヤフィルムとして使用し得る重合体材料のフィルムについて、「40℃、90日間」の試験をしたことが示されているが、これら試験は、フィルム単独の試験であって、上記のような肩壁とバリヤユニットを有する構成について行った試験ではない。

オ.特許請求の範囲の「40℃、90日間で約10mg/dm^(2)より少ない」「抗菌性化合物に対する吸着性を有する」との特定事項は、上記イで指摘した点の他、次の点でも明確でない又はサポート要件等に反している。
請求項1では、単に「抗菌性化合物」としか特定していないから、文言どおりに解釈すれば、あらゆる任意の「抗菌性化合物」を意味する。しかし、実際に試験した抗菌性化合物は、トリクロサンのみである。そうすると、特許請求の範囲に記載された「抗菌性化合物」が、「トリクロサン」のみを意味するのか、あらゆる任意の「抗菌性化合物」を意味するのかが明確でない。仮に、あらゆる任意の「抗菌性化合物」を意味するのであれば、「トリクロサン」以外の「抗菌性化合物」について、サポート要件を満たしているとは認められないし、同様の理由で、実施可能要件についても違反している疑いが高い。
また、「約10mg/dm^(2)より少ない」「吸着性」となるか否かは、単に「40℃、90日間」という条件だけで定まるのではなく、バリヤフィルムに接する歯磨きゲル等の抗菌性化合物の濃度や、歯磨きゲル等が含有する抗菌性化合物以外の成分によっても異なるものと推認される。例えば、特開平2-288820号公報の4頁左下欄1?7行、7頁6?18行の記載によれば、トリクロサンの收着量は、歯磨きゲル等に添加される安定化剤によって減少するものと推認される。しかし、本願明細書では、抗菌性化合物に対する吸着性に関する試験に用いた歯磨きゲルについて、商品名で特定しているに過ぎず、その組成については明らかにしていない。また、本願明細書で特定した商品名の歯磨きゲルであれば、本願の優先権主張日当時、当業者にとってその組成が明白であったと認めるべき根拠もない。そうすると、本願の発明の詳細な説明は、抗菌性化合物に対する吸着性に関して、当業者が客観的な試験ができる程度に、技術内容を開示しているとはいえない(特許法第36条第4項第1号違反)。

(4)作用効果について
そして、本願発明が奏する効果も、引用発明から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものとはいえない。特に、本願発明の「40℃、90日間で約10mg/dm^(2)より少ない、前記抗菌性化合物に対する吸着性」について述べれば、有効成分である抗菌性化合物に対する吸着性は、少なければ少ないほど好ましいことが、当業者に自明であるところ、その少ない値の目安(指標)として、「40℃、90日間で約10mg/dm^(2)」を採用した点については、本願明細書及び図面の記載すべてを参酌しても、この値を満足することにより格別な作用効果が得られる等の技術的意義が認められない。そうすると、吸着性の少なさの目安(指標)として、「40℃、90日間で約10mg/dm^(2)」を採用することは、当業者が適宜決定すべき単なる設計的事項に過ぎないと言わざるを得ない。
したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
原査定は妥当である。よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-15 
結審通知日 2012-11-16 
審決日 2012-12-03 
出願番号 特願2009-506771(P2009-506771)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 楠永 吉孝  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 仁木 浩
河原 英雄
発明の名称 芳香族化合物を含有する製品用容器  
代理人 田上 靖子  
代理人 小林 泰  
代理人 星野 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  
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