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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1273055
審判番号 不服2011-28052  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-27 
確定日 2013-04-18 
事件の表示 特願2010-550766「吸引濾過濃縮方法及び吸引濾過濃縮装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月7日国際公開、WO2010/113822〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年3月26日(優先権主張2009年3月30日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成23年2月25日付けで拒絶理由が通知され、平成23年4月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成23年6月20日付けで拒絶理由が通知され、平成23年8月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成23年10月4日付けで拒絶査定されたので、平成23年12月27日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものであり、その後、平成24年4月20日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、平成24年6月12日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年12月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年12月27日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正前及び補正後の本願発明
(1)補正事項
本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであって、本件補正前後の請求項6の記載は次のとおりである。
(補正前)
「汚泥を、濾布を通じて吸引濾過することにより、濾布内部の濾過室を通じて濾液を回収するとともに、汚泥を濃縮汚泥として濾布の外表面に付着させる吸引濾過濃縮装置であって、
濾過濃縮槽内に汚泥を供給する汚泥供給手段と、
供給された汚泥を濾過濃縮槽内で濾過濃縮する濾過濃縮手段と、
濾過濃縮された濃縮汚泥を濾布の外表面からケーキ片として剥離させる濃縮汚泥剥離手段(散気管を設置して気泡を噴出する手段を除く。)と、
剥離されたケーキ片の濃縮汚泥を濾過濃縮槽の外部に排出する濃縮汚泥排出手段とを有し、
前記濾過濃縮手段は、未濃縮汚泥中で濃縮汚泥を剥離させても保形性を維持可能な程度の一定の吸引圧の下で連続的に吸引することにより、濃縮汚泥を濾布の外表面に付着させる手段を有し、
前記濃縮汚泥剥離手段は、供給された未濃縮の汚泥中で、濾過室を介して濾布に向かって水をポンプにより連続的に所定時間に亘って圧送することにより、濾布の外表面に付着した濃縮汚泥(濾滓)をケーキ片として剥離する手段を有する、吸引濾過濃縮装置。」

(補正後)
「汚泥を、濾布を通じて吸引濾過することにより、濾布内部の濾過室を通じて濾液を回収するとともに、汚泥を濃縮汚泥として濾布の外表面に付着させる吸引濾過濃縮装置であって、
濾過濃縮槽内に汚泥を供給する汚泥供給手段と、
供給された汚泥を濾過濃縮槽内で濾過濃縮する濾過濃縮手段と、
濾過濃縮された濃縮汚泥を濾布の外表面からケーキ片として剥離させる濃縮汚泥剥離手段(散気管を設置して気泡を噴出する手段を除く。)と、
剥離されたケーキ片の濃縮汚泥を濾過濃縮槽の外部に排出する濃縮汚泥排出手段とを有し、
前記濾過濃縮手段は、未濃縮汚泥中で濃縮汚泥を剥離させても保形性を維持可能な程度の一定の吸引圧の下で連続的に吸引することにより、濃縮汚泥を濾布の外表面に付着させる手段を有し、
前記濃縮汚泥剥離手段は、供給された未濃縮の汚泥中で、濾過室を介して濾布に向かって水をポンプにより連続的に25秒以上に亘って圧送することにより、濾布の外表面に付着した濃縮汚泥(濾滓)をケーキ片として剥離する手段を有する、吸引濾過濃縮装置。」

(2)補正の適否
特許請求の範囲の請求項6に関する補正は、本件補正前における「所定時間」について、本件補正により「25秒以上」とするものであるので、この補正は、請求項6に係る発明の特定事項を限定するものであり、補正前後の請求項6に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一なので、上記補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるかを、請求項6に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について検討する。
本願補正発明は、上記した(1)(補正後)に記載されたとおりのものである。

2 刊行物に記載された発明
(1)引用例1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-325998号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「上水汚泥を保持する汚泥濃縮槽と、その汚泥濃縮槽の内部上方に設置された膜モジュールと、その膜モジュールの外側から内側に吸水するための吸水手段と、前記汚泥濃縮槽に導入された上水汚泥を曝気撹拌する撹拌手段と、前記膜モジュールの内側へ空気または水を供給するための供給手段と、前記汚泥濃縮槽の下方に沈降した濁質成分を前記汚泥濃縮槽から排出する排出手段とを具備したことを特徴とする上水汚泥の濃縮装置。」(特許請求の範囲の請求項5)
(イ)「第2の観点では、本発明は、上記第1の観点の上水汚泥の濃縮方法において、前記付着過程での吸引を間欠的に行うことを特徴とする上水汚泥の濃縮方法を提供する。上記第2の観点の上水汚泥の濃縮方法では、吸引を間欠的に行うことによって、膜に付着する濁質成分の圧密性を低下させ、剥離性を向上できる」(段落【0005】)
(ウ)「第3の観点では、本発明は、上記第1または第2の観点の上水汚泥の濃縮方法において、前記付着過程で、汚泥濃縮槽に導入した上水汚泥を曝気撹拌することを特徴とする上水汚泥の濃縮方法を提供する。上記第3の観点の上水汚泥の濃縮方法では、上水汚泥を曝気撹拌することによって、汚泥濃縮槽の内部上方では上水汚泥の濃度が低くなり内部下方では上水汚泥の濃度が高くなるといった濃度不均一化による濃縮効率の低下を防止することが出来る。」(段落【0006】)
(エ)「第4の観点では、本発明は、上記第1から第3の観点の上水汚泥の濃縮方法において、前記剥離過程での空気または水の少なくとも一方を前記膜モジュールの内側に供給する逆流を間欠的に行うことを特徴とする上水汚泥の濃縮方法を提供する。上記第3の観点の上水汚泥の濃縮方法では、空気または水の少なくとも一方を前記膜モジュールの内側に供給する逆流を間欠的に行うことによって、膜に付着した濁質成分の剥離を促進することが出来る。」(段落【0007】)
(オ)「図1は、本発明の一実施形態に係る上水汚泥の濃縮装置を示す概略断面図である。この上水汚泥の濃縮装置100は、・・・濃縮汚泥貯留部10に沈降し堆積している濃縮汚泥を前記汚泥濃縮槽2から排出するスクリューコンベア13と、排出された濃縮汚泥を保持する排出汚泥槽18と・・・とを具備している。前記汚泥濃縮槽1の下部は、テーパ状に断面が小さくなるように形成され、前記濃縮汚泥貯留部10になっている。そして、その濃縮汚泥貯留部10の底部に前記濃縮汚泥分離スクリーン11が設けられている。」(段落【0010】)
(カ)「[付着過程]T2
前記制御装置20は、前記吸引バルブ16を間欠的に開状態とし、それと同期して前記吸引ポンプ4を間欠的に作動させる。・・・。図5に示すように、平膜モジュール3を介して上水汚泥の水分が吸引され、吸引水槽17に貯水される。また、図6に示すように、平膜モジュール3の外側には、上水汚泥の濁質成分が付着し、汚泥ケーキ層Cが形成される。さらに、散気管6から噴出した気泡で上水汚泥が撹拌され、汚泥濃縮槽2内の上水汚泥の濃度が均一化される。・・・吸引を間欠的に行うのは、平膜モジュール3の外側に付着した汚泥ケーキ層Cの剥離性を向上させるためである。すなわち、吸引/停止を繰り返すことにより、平膜モジュール3の外側に付着する汚泥に粗密が生じ、剥離しやすくなる。なお、吸引を連続的に行っても良いが、汚泥ケーキ層Cが平膜モジュール3の外側に略均一に高密度に付着するため、剥離しにくくなる」(段落【0015】)
(キ)「[剥離過程]T3
前記制御装置20は、前記逆洗空気バルブ15を間欠的に開状態とし、それと同期して前記ブロワ5を大風量で作動させる。また、前記逆洗空気バルブ15を閉状態にしている期間に前記散気バルブ14を開状態とし、それと同期して前記ブロワ5を大風量で作動させる。なお、前記逆洗空気バルブ15を閉状態にしている期間に前記吸引バルブ16を間欠的に開状態とし、それと同期して前記吸引ポンプ4を吸引と逆方向に作動させてもよい。図8に示すように、平膜モジュール3の外側に付着した汚泥ケーキ層Cが剥離する。剥離した濃縮汚泥は、沈降して、濃縮汚泥貯留部10に堆積する。なお、ケーキ化された濃縮汚泥は、濃度の低い上水汚泥中に溶け出してしまうことはない。空気または水を平膜モジュール3の内側に供給するのを間欠的に行うのは、平膜モジュール3の濾過膜31を外側に膨らましたり元に戻したりするのを繰り返すことで、外側に付着した汚泥ケーキ層Cを剥離しやすくするためである。また、散気管6から気泡を噴出するのは、平膜モジュール3の外側を暴気し、汚泥ケーキ層Cの剥離を促進するためである。」(段落【0017】)
(ク)図1を参照することで記載事項(オ)に記載された内容を、また、図5、6を参照することで同(カ)に記載された内容を確認することができる。また、図8を参照することで、同(キ)に記載された内容を確認できるし、図8によれば、汚泥濃縮槽2中に濃度の低い上水汚泥が平膜モジュール3の上方まで満たされた状態で、平膜モジュール3の外側から汚泥ケーキ層Cが剥離し、濃縮汚泥貯留部10へと落下していること、濃縮汚泥貯留部には沈降堆積した濃縮汚泥を排出するスクリューコンベアが設けられていることを確認できる。

(2)引用例1に記載された発明
ア 吸引濾過濃縮装置
記載事項(ア)によれば、引用例1には上水汚泥の濃縮装置が記載されており、上水汚泥を保持する汚泥濃縮槽の内部上方に膜モジュールを配置し、その膜モジュールの外側から内側に吸水するための吸水手段を有している。このため、直接の記載はないものの、該濃縮装置は、「汚泥濃縮槽に上水汚泥を供給する手段」を備えていることは当然のことである。
そして、同(ア)によれば、該濃縮装置は、「供給された上水汚泥を平膜モジュールを通じて吸引濾過することにより、平膜モジュールの内部を通じて濾液を回収」しているので、「供給された上水汚泥を汚泥濃縮槽内で濾過濃縮する濾過濃縮手段」を有する装置である。なお、引用例1では、特許請求の範囲で膜モジュールと表記する濾過部材を、発明の詳細な説明では平膜モジュールとしているが、ここでは、平膜モジュールと統一する。
また、同(カ)によれば、平膜モジュールを介して上水汚泥の水分が吸引されると、平膜モジュール3の外側には、上水汚泥の濁質成分が付着し、汚泥ケーキ層Cが形成される。このため、引用例1に記載された濃縮装置は、「汚泥を濃縮汚泥として平膜モジュールの外表面に付着」させている。
したがって、引用例1に記載された濃縮装置は、「上水汚泥を、平膜モジュールを通じて吸引濾過することにより、平膜モジュールの内部を通じて濾液を回収するとともに、汚泥を濃縮汚泥として平膜モジュールの外表面に付着させる吸引濾過濃縮装置であって、
汚泥濃縮槽内に上水汚泥を供給する汚泥供給手段と、
供給された上水汚泥を汚泥濃縮槽内で濾過濃縮する濾過濃縮手段と、を有する吸引濾過縮装置」である。

イ 濾過濃縮手段
記載事項(イ)によれば、付着過程においては、吸引を間欠的に行って上水汚泥中の濁質成分を膜に付着させている。
また、同(カ)によれば、上水汚泥の濁質成分が平膜モジュールの外側に付着して汚泥ケーキ層が形成され、同(キ)によれば、ケーキ化された濃縮汚泥は、濃度の低い上水汚泥中に溶け出してしまうことはないとされているので、引用例1に記載された吸引濾過濃縮装置は、濾過濃縮手段として、「濃度の低い上水汚泥中、すなわち未濃縮汚泥中で濃縮汚泥を剥離させても保形性を維持可能な程度の一定の吸引圧の下で、間欠的に吸引することにより、汚泥を濃縮汚泥として平膜モジュールの外表面に付着させる手段」を有している。
なお、記載事項(ア)によれば、引用例1に記載された濃縮装置は、汚泥濃縮槽に導入された上水汚泥を曝気撹拌する撹拌手段を有している。そして、該撹拌手段は、同(ウ)(カ)によれば、上水汚泥の汚泥濃縮槽内での濃度不均一化による濃縮効率の低下の防止を目的としており、濾過濃縮手段としては補助的なものにとどまる。このため、濾過濃縮手段として、撹拌手段は必須のものではない。

ウ 濃縮汚泥剥離手段
記載事項(キ)の記載をもとに図8を参照すれば、引用例1では剥離過程として、逆洗空気バルブを間欠的に開状態として空気を平膜モジュールの内側へ供給すると共に、逆洗空気バルブを閉状態にしている期間に散気バルブを開状態として、平膜モジュール下方の散気管から気泡を噴出することが記載されており、さらに、逆洗空気バルブ15を閉状態にしている期間に吸引バルブ16を間欠的に開状態とし、それと同期して前記吸引ポンプ4を吸引と逆方向に作動させることにより、吸引水槽17中の水を平膜モジュール3の内側へ供給することが記載されている。
これにより、空気または水の供給を間欠的に行うと共に、散気管を設置して気泡を噴出する手段により、平膜モジュールの外側に付着した汚泥ケーキの剥離を行っていることを理解することができる。
また、記載事項(ク)によれば、図8は、剥離過程においては、汚泥濃縮槽には供給された未濃縮で濃度の低い上水汚泥が排出されることなく、付着過程におけると同様に存在していることを示している。このため、剥離過程においては、平膜モジュールの外側に存在する未濃縮の上水汚泥中で、該未濃縮の上水汚泥の液圧に抗して空気または水を平膜モジュールの内側に向かって圧送しなければならないことは、明らかである。
したがって、引用例1には、「濾過濃縮された濃縮汚泥を平膜モジュールの外表面からケーキ片として剥離させる濃縮汚泥剥離手段」が記載されており、該濃縮汚泥剥離手段は、「供給された未濃縮の上水汚泥中で、平膜モジュールの内側を介して平膜モジュールに向かって空気または水を間欠的に圧送することにより、散気管による気泡の噴出も利用しつつ、平膜モジュールの外表面に付着した濃縮汚泥をケーキ片として剥離する手段」である。

エ 濃縮汚泥排出手段
記載事項(オ)(ク)によれば、濃縮汚泥貯留部にはスクリューコンベアが設けられており、これは、濃縮汚泥貯留部に沈降し堆積している濃縮汚泥を汚泥濃縮槽から排出するためのものである。
このため、引用例1に記載された吸引濾過濃縮装置は、「剥離されたケーキ片の濃縮汚泥を濾過濃縮槽の外部に排出する濃縮汚泥排出手段」を有している。

オ まとめ
これらの記載を本願補正発明の記載振りに則して整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「上水汚泥を、平膜モジュールを通じて吸引濾過することにより、平膜モジュールの内部を通じて濾液を回収するとともに、汚泥を濃縮汚泥として平膜モジュールの外表面に付着させる吸引濾過濃縮装置であって、
汚泥濃縮槽内に上水汚泥を供給する汚泥供給手段と、
供給された上水汚泥を汚泥濃縮槽内で濾過濃縮する濾過濃縮手段と、
濾過濃縮された濃縮汚泥を平膜モジュールの外表面からケーキ片として剥離させる濃縮汚泥剥離手段と、
散気管を設置して気泡を噴出する手段と、
剥離されたケーキ片の濃縮汚泥を汚泥濃縮槽の外部に排出する濃縮汚泥排出手段とを有し、
前記濾過濃縮手段は、未濃縮汚泥中で濃縮汚泥を剥離させても保形性を維持可能な程度の吸引圧の下で、間欠的に吸引することにより、汚泥を濃縮汚泥として平膜モジュールの外表面に付着させる手段を有し、
前記濃縮汚泥剥離手段は、供給された未濃縮の上水汚泥中で、平膜モジュールの内側を介して平膜モジュールに向かって空気または水を間欠的に圧送することにより、散気管による気泡の噴出も利用しつつ、平膜モジュールの外表面に付着した濃縮汚泥をケーキ片として剥離する手段を有する、吸引濾過濃縮装置。」

3 対比と判断
3-1 対比
本願補正発明と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「上水汚泥」は、本願補正発明における「汚泥」に包含され、引用例1発明の「汚泥濃縮槽」は、本願補正発明の「濾過濃縮槽」に相当する。また、引用例1発明の「平膜モジュール」と本願補正発明の「濾布」とは、濾過部材という点で共通する。そうすると、本願補正発明と引用例1発明とは、
(一致点)
「汚泥を、濾過部材を通じて吸引濾過することにより、濾過部材の内部を通じて濾液を回収するとともに、汚泥を濃縮汚泥として濾過部材の外表面に付着させる吸引濾過濃縮装置であって、
濾過濃縮槽内に汚泥を供給する汚泥供給手段と、
供給された汚泥を濾過濃縮槽内で濾過濃縮する濾過濃縮手段と、
濾過濃縮された濃縮汚泥を濾過部材の外表面からケーキ片として剥離させる濃縮汚泥剥離手段と、
剥離されたケーキ片の濃縮汚泥を濾過濃縮槽の外部に排出する濃縮汚泥排出手段とを有し、
前記濾過濃縮手段は、未濃縮汚泥中で濃縮汚泥を剥離させても保形性を維持可能な程度の吸引圧の下で吸引することにより、濃縮汚泥を濾過部材の外表面に付着させる手段を有し、
前記濃縮汚泥剥離手段は、供給された未濃縮の汚泥中で、濾過部材の内部を介して濾過部材に向かって水をポンプにより圧送することにより、濾過部材の外表面に付着した濃縮汚泥(濾滓)をケーキ片として剥離する手段を有する、吸引濾過濃縮装置。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点a)
濾過部材が、本願補正発明では、「濾布」であって、濾布内部に濾過室を有するものであるのに対し、引用例1発明では、「平膜モジュール」である点。
(相違点b)
未濃縮汚泥中で濃縮汚泥を剥離させても保形性を維持可能な程度の吸引圧の下で吸引することにより、濃縮汚泥を濾過部材の外表面に付着させる濾過濃縮手段が、本願補正発明では、「一定の吸引圧の下で連続的に吸引すること」により行うのに対し、引用例1発明では、「間欠的に吸引すること」により行う点。
(相違点c)
濃縮汚泥剥離手段において、濾過部材に向かって水をポンプにより圧送することが、本願補正発明では、「水をポンプにより連続的に25秒以上に亘って圧送する」ものであるのに対し、引用例1発明では、「空気または水を間欠的に圧送するもの」と相違し、また、本願補正発明では「濃縮汚泥剥離手段(散気管を設置して気泡を噴出する手段を除く。)」と特定されているのに対し、引用例1発明では、散気管を設置して気泡を噴出する手段が設けられており、散気管による気泡の噴出も利用しつつ、濃縮汚泥を平膜モジュールの外表面からケーキ片として剥離させるものである点。

3-2 判断
これらの相違点について検討する。
(1)相違点aについて
汚泥を、濾過部材を通じて吸引濾過することにより、濾過部材の内部を通じて濾液を回収する吸引濾過濃縮装置における「濾過部材」として、濾布及び濾布内部に濾液の通る濾過室を有するものを使用することは、本願優先権主張日前に広く知られた周知技術にすぎない。
すなわち、本願優先権主張日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-270513号公報(以下「周知例1」という。)の特許請求の範囲には、汚泥の水分を濾過する濾過濃縮装置の濾過板が記載されており、これは、支持材の表裏両面を濾布で覆い、支持材の内部に一端を挿入し他端が濾過濃縮槽の外部に導出された濾液排出管を備えた濾過板であり、汚泥中の水分を吸引して濾過するものである。そして、第1、2図も併せて参照すれば、該濾過板は、支持材である濾過室と濾布からなる濾過部材であるといえる。なお、濾過、濾液についての簡易慣用字体については、印字の関係上「濾過」、「濾液」と記載している。
また、同じく、特開2006-218455号公報(以下「周知例2」という。)の請求項4には、袋体状に形成した濾布と該袋体内に充填剤を収納した濾過濃縮装置の濾過体が記載されており、該濾過体を使用した濾過の工程を示す第5図を参照すれば、該濾過体は吸引濾過に使用されることが明らかである。
したがって、周知例1、2から明らかなように、吸引濾過により汚泥を濃縮する吸引濾過濃縮装置において、濾布及び濾過室を有する濾過部材を用いることは、本願優先権主張日前に周知の技術である。
そして、引用例1発明においては、平膜モジュールを用いて汚泥を吸引濾過するものであるが、濾過部材として、濾過布と濾過室からなるものが周知であり、吸引濾過という観点から同等の機能を有するものであることが明らかであるので、平膜モジュールに代えて濾布と濾過室からなる周知の濾過部材を採用することは、当業者が適宜なしうるところである。

(2)相違点bについて
記載事項(カ)によれば、引用例1発明の吸引濾過装置においては、濃縮汚泥を濾過部材(平膜モジュール)の外表面に付着させる際の吸引について、「前記制御装置20は、前記吸引バルブ16を間欠的に開状態とし、それと同期して前記吸引ポンプ4を間欠的に作動させる。」とされている。
このため、制御装置により間欠吸引の制御が行われるのであるから、その制御内容を連続吸引に変更することは可能であると認められる。
このため、引用例1に記載された吸引濾過濃縮装置が、「一定の吸引圧の下で間欠的にあるいは連続的に吸引することにより、濃縮汚泥を濾過部材の外表面に付着させる」手段を有する装置であることは、明らかである。
そして、上記記載事項(カ)には、「吸引を間欠的に行うのは、平膜モジュール3の外側に付着した汚泥ケーキ層Cの剥離性を向上させるためである。すなわち、吸引/停止を繰り返すことにより、平膜モジュール3の外側に付着する汚泥に粗密が生じ、剥離しやすくなる。なお、吸引を連続的に行っても良いが、汚泥ケーキ層Cが平膜モジュール3の外側に略均一に高密度に付着するため、剥離しにくくなる。」と記載されているように、汚泥ケーキ層を間欠的な吸引で形成することと、一定の吸引圧の下で連続的な吸引で形成することは、いずれも当業者には公知の技術である。また、吸引を間欠的に行うか連続的に行うかということが、汚泥ケーキ層の剥離性に影響を与えることも、当業者には知られたことである。
このため、引用例1発明は、濃縮汚泥を濾過部材の外表面に付着させるために間欠的な吸引を行うものであるが、濃縮処理の対象となる汚泥の特性や汚泥ケーキの剥離性等を考慮すれば、一定の吸引圧の下で連続的に吸引することにより、濃縮汚泥を濾過部材の外表面に付着させる手段と変更することも、当業者が必要に応じて変更し得る範囲の設計事項にすぎない。
したがって、引用例1発明における間欠吸引による濾過濃縮手段を、一定の吸引圧の下での連続的吸引に変更することは、当業者が適宜なしうるところである。

(3)相違点cについて
ア 空気または水の圧送
引用例1発明では、濾過部材の内部に空気または水を圧送しているが、本願補正発明では水を圧送している。
しかし、引用例1発明の吸引濾過装置が、濃縮汚泥剥離手段が水を圧送することにより汚泥ケーキを剥離する手段を有する点では、本願補正発明の装置と相違しない。
また、水の圧送も空気の圧送も、濾過部材内部に濾過とは逆方向の圧力を加えて濾過部材の外部に付着した汚泥ケーキを剥離することを目的としており、同一の機能を有する汚泥ケーキ剥離手段である。
したがって、引用例1発明では水または空気の圧送としていたものを、水の圧送に変更することは当業者が適宜なしうるところに過ぎない。

イ 水の連続的圧送と間欠的圧送
引用例1発明では、水を間欠圧送しているが、これは記載事項(キ)によれば、制御装置によって制御されている。このため、間欠圧送を連続的圧送とすることは当然に可能である。
したがって、引用例1発明の吸引濾過装置は、水を間欠的または連続的に圧送することにより汚泥ケーキを剥離する手段を有しているといえる。
そして、同(キ)によれば、引用例1発明で「水を平膜モジュール3の内側に供給するのを間欠的に行うのは、平膜モジュール3の濾過膜31を外側に膨らましたり元に戻したりするのを繰り返すことで、外側に付着した汚泥ケーキ層Cを剥離しやすくするためである。」とされている。
一方、本願補正発明で、濾過室を介して濾布に向かって水を連続的に圧送するのは、段落【0032】の記載によれば、「本発明では、圧送された水の水圧が、濾過室内で一様に所定圧力に達した時点で、濾布の全体に亘って、濾布の表面に付着した濃縮汚泥をいっせいに被処理液中に向かって押圧することが可能となる。そのため、濃縮汚泥(濾滓)を濾布の表面から周方向に均一に剥離することが可能となる。」ためであるとしている。
このため、引用例1において間欠的に水を圧送することで、圧送した水による物理的な圧力により平膜モジュール外側の汚泥ケーキを剥離する点では、本願補正発明において水を連続的に圧送することと共通する。また、水を圧送する態様として、連続的に行うことと間欠的に行うことは、いずれも慣用的な方法であるので、引用例1発明における水の圧送を連続的に行うことは、当業者が適宜なしうるところであり、その効果も汚泥ケーキの剥離という点で格別のものとすることはできない。
したがって、引用例1発明における濃縮汚泥剥離手段として、水を間欠的圧送することにより行う手段を、水を連続的に圧送することにより行う手段に変更することは、当業者が適宜なしうるところである。

ウ 圧送時間を連続的に25秒以上とすること
請求人は、図13に示された試験結果を根拠に、水を25秒以上に亘って圧送することの効果が予測できないことを主張する。
しかし、水を圧送する時間は、方法的な特徴事項であり、本願補正発明に係る吸引濾過装置を特定事項する事項ではない。
また、該試験結果は、本願明細書の段落【0086】?【0089】に記載されているように、段落【0088】記載の特定の条件の試験装置及び汚泥を使用して実験を行い、剥離媒体である水による剥離圧をパラメータに、剥離時間と剥離率との関係を調べて、得られた結果に基づいて時間限定がなされただけのものである。
そして、濃縮汚泥の剥離のために必要なポンプによる水の圧送時間は、濾過する汚泥の種類や濃度、濾布を使用したどのような濾過手段をどのような濾過濃縮槽で使用したのか、水の圧送条件等を含め濃縮汚泥を濾布の外表面に付着させる種々の条件により影響されるものであることが当然予測されるから、濃縮汚泥の剥離のために必要な所定時間は一概に決まるものとは認めることができない。
したがって、所定時間を「25秒以上」と特定することは、当業者が必要に応じ適宜なしうるところである。

エ 散気管からの気泡噴出
記載事項(キ)によれば、引用例1発明では、濃縮汚泥剥離において、水を平膜モジュールの内側へ圧送することで、該平膜モジュールの外側に付着した汚泥ケーキを剥離しており、その際に散気管から気泡を噴出しているが、これは、平膜モジュールの外側を曝気して汚泥ケーキ層の剥離を促進するためである。このため、汚泥ケーキの剥離において、散気管からの気泡噴出を行うことは、水の圧送による剥離を促進するための補助的手段に過ぎないものとすることができる。
そして、汚泥ケーキの剥離に際して、補助的手段を採用して剥離を促進するか否かは、汚泥ケーキの付着強度や作業効率等を考慮して当業者が適宜決定することである。
したがって、引用例1発明において、汚泥ケーキの剥離にあたり、「散気管を設置して気泡を噴出する手段を除く」ことは、当業者が必要に応じて適宜選択しうるものである。

オ まとめ
これら相違点a?cに係る構成を採用したことによる効果については、得られる濃縮汚泥のケーキ片の性状等についての具体的な記載も明細書にはなく、予測される範囲外の格別な効果が奏されるものとも認められない。
そうすると、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
したがって、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年12月27日付けの手続補正は前記「第2」のとおり却下されたので、本願の請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。) は、平成23年8月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「汚泥を、濾布を通じて吸引濾過することにより、濾布内部の濾過室を通じて濾液を回収するとともに、汚泥を濃縮汚泥として濾布の外表面に付着させる吸引濾過濃縮装置であって、
濾過濃縮槽内に汚泥を供給する汚泥供給手段と、
供給された汚泥を濾過濃縮槽内で濾過濃縮する濾過濃縮手段と、
濾過濃縮された濃縮汚泥を濾布の外表面からケーキ片として剥離させる濃縮汚泥剥離手段(散気管を設置して気泡を噴出する手段を除く。)と、
剥離されたケーキ片の濃縮汚泥を濾過濃縮槽の外部に排出する濃縮汚泥排出手段とを有し、
前記濾過濃縮手段は、未濃縮汚泥中で濃縮汚泥を剥離させても保形性を維持可能な程度の一定の吸引圧の下で連続的に吸引することにより、濃縮汚泥を濾布の外表面に付着させる手段を有し、
前記濃縮汚泥剥離手段は、供給された未濃縮の汚泥中で、濾過室を介して濾布に向かって水をポンプにより連続的に所定時間に亘って圧送することにより、濾布の外表面に付着した濃縮汚泥(濾滓)をケーキ片として剥離する手段を有する、吸引濾過濃縮装置。」

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1に記載された発明は、前記「第2」の「2 刊行物に記載された発明」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」「3 対比と判断」で検討した本願補正発明における、濾過室を介して濾布に向かって水をポンプにより連続的に圧送する「所定時間」についての「25秒以上」とする限定がないものである。
してみると、本願発明を特定するために必要な事項である「前記濃縮汚泥剥離手段は、供給された未濃縮の汚泥中で、濾過室を介して濾布に向かって水をポンプにより連続的に所定時間に亘って圧送することにより、濾布の外表面に付着した濃縮汚泥(濾滓)をケーキ片として剥離する手段」のうちの「所定時間」を、「25分以上」と限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2」「3 対比と判断」に記載したとおり、引用例1記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明と同様の理由により、本願発明も、引用例1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する
 
審理終結日 2013-02-14 
結審通知日 2013-02-19 
審決日 2013-03-04 
出願番号 特願2010-550766(P2010-550766)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C02F)
P 1 8・ 575- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷水 浩一  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 國方 恭子
松本 貢

発明の名称 吸引濾過濃縮方法及び吸引濾過濃縮装置  
代理人 渡邉 一平  

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