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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1273160
審判番号 不服2009-11086  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-15 
確定日 2013-02-27 
事件の表示 特願2005-502039「癌の処置および検出において有用な191P4D12(b)と称される、核酸および対応タンパク質」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月26日国際公開、WO2004/016799、平成18年 4月27日国内公表、特表2006-513724〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明

本願は,2003(平成15)年4月23日(パリ条約による優先権主張2002年8月16日 米国,2002年11月1日 米国)を国際出願日とするものであって,当審において平成24年2月16日付で拒絶理由が通知されたのに対し,同年8月21日付で特許請求の範囲について手続補正書が提出された。
本願発明は,平成24年8月21日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうちその請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,以下のとおりのものである。

「【請求項1】
配列番号3のアミノ酸配列を有しかつ膀胱癌,肺癌,膵臓癌,結腸癌,前立腺癌,子宮頸癌及び卵巣癌からなる群から選択される癌の組織において対応する正常組織と比べて過剰発現するポリペプチド。」

第2 特許法第29条第1項第3号について

1.引用例

当審の拒絶理由通知書で引用文献1として引用された本願優先日前の2002年8月1日に頒布された刊行物である国際公開第2002/59377号(以下,「引用例1」という。)には,「乳癌の診断方法,組成物および乳癌のモジュレーターのスクリーニング方法」について以下の事項が記載されている。

ア「【請求項13】表1?25に示すポリヌクレオチド配列を有する核酸分子によりコードされる単離ポリペプチド。」(特許請求の範囲)

イ「【請求項14】請求項13記載のポリペプチドに特異的に結合する抗体。」(特許請求の範囲)

ウ「本発明は,乳癌においてアップレギュレーションおよびダウンレギュレーションされる遺伝子のヌクレオチド配列を提供する。このような遺伝子は診断目的のために有用であり,そしてホルモンまたは抗体のような乳癌を調整する治療用化合物に関してスクリーニングするための標的としても有用である。」(第4頁第3?6行)

エ「一実施態様では,本発明は,患者からの細胞中の乳癌関連転写体の検出方法であって,表1?25に示されたような配列と少なくとも80%同一である配列と選択的にハイブリダイズするポリヌクレオチドに患者からの生物学的サンプルを接触させることを包含する方法を提供する。一実施態様では,ポリヌクレオチドは,表1?25に示されたような配列と少なくとも95%同一である配列と選択的にハイブリダイズする。一実施態様では,生物学的サンプルは組織サンプルである。別の実施態様では,生物学的サンプルは単離核酸,例えばmRNAを含む。・・・一実施態様では,当該方法は,生物学的サンプルをポリヌクレオチドと接触させる過程前に核酸を増幅する過程をさらに包含する。」(第4頁第14行?第5頁第2行)

オ「一局面では,本発明は,患者からの生物学的サンプル中の乳癌細胞の検出方法であって,生物学的サンプルを本明細書中に記載されたような抗体と接触させることを包含する方法を提供する。」(第6頁第5?7行)

カ「「生物学的サンプル」とは,本明細書中で用いる場合,核酸またはポリペプチド,例えば乳癌タンパク質,ポリヌクレオチドまたは転写体を含有する生物学的組織または流体のサンプルである。このようなサンプルとしては,霊長類,例えばヒトまたは齧歯類,例えばマウスおよびラットから単離された組織が挙げられるが,これらに限定されない。生物学的サンプルは,生検および剖検サンプルのような組織の切片,組織学的目的のために採取された凍結切片,血液,血漿,血清,痰,糞便,涙液,粘液,毛,皮膚等も含み得る。生物学的サンプルは,患者組織から得られる外植片ならびに一次および/または形質転換化細胞培養も含む。」(第11頁第6?12行)

キ「一実施態様では,乳癌タンパク質は,野生型配列と比較した場合,誘導体または変異体乳癌タンパク質である。即ち,以下でさらに詳細に記載されるように,誘導体乳癌タンパク質はしばしば,少なくとも1つのアミノ酸置換,欠失または挿入を含有するが,アミノ酸置換が特に好ましい。アミノ酸置換,挿入または欠失は,乳癌ペプチド内の任意の残基で起こり得る。」(第48頁第10?15行)

ク「好ましい実施態様では,乳癌タンパク質が,例えば免疫療法または免疫診断のために抗体を生成するために用いられる場合,乳癌タンパク質は,全長タンパク質と少なくとも1つのエピトープまたは決定因子を共有すべきである。「エピトープ」または「決定因子」とは,本明細書中では,典型的にはMHCの状況で抗体またはT細胞受容体を生成および/または結合するタンパク質の一部を意味する。したがってほとんどの場合,より小さい乳癌タンパク質に対して作られる抗体は,全長タンパク質,特に線状エピトープと結合し得る。好ましい実施態様では,エピトープは独特である。即ち,独特のエピトープに対して産生される抗体は,交差反応性をほとんどまたはまったく示さない。」(第52頁第29行?第53頁第6行)

ケ「診断および治療用のための乳癌配列の検出
一局面において,遺伝子のRNA発現レベルが,乳癌表現型における異なる細胞状態に関して確定される。正常組織(即ち乳癌に罹患していない)中のならびに乳癌組織(そしていくつかの場合には,下記のような予後に関連する種々の重症度の乳癌に関して)中の遺伝子の発現レベルが評価されて,発現プロフィールを提供する。・・・評価は,遺伝子転写物,またはタンパク質レベルであり得る。遺伝子発現の量は,遺伝子転写物のDNAまたはRNA等価物に対する核酸プローブを用いてモニタリングされ,そして遺伝子発現の定量または代替的に最終遺伝子産物それ自体(タンパク質)が,例えば乳癌タンパク質に対する抗体,標準イムノアッセイ(ELISA等)またはその他の技法,例えば質量分光学検定,2Dゲル電気泳動検定等を用いてモニタリングされ得る。乳癌遺伝子に対応するタンパク質,即ち乳癌表現型において重要であると同定されるものが,乳癌診断試験で評価され得る。」(第58頁第14行?第59頁第24行)

コ「別の好ましい方法において,乳癌タンパク質に対する抗体は,例えば組織学において,in situイメージング技法に用途を見出す(略)。この方法では,細胞は,乳癌タンパク質(単数または複数)に対する1つから多数の抗体と接触される。洗浄して非特異的抗体結合を除去後,単数または複数の抗体の存在が検出される。一実施態様では,抗体は,検出可能標識を含有する二次抗体とともにインキュベートすることにより検出される。・・・別の好ましい実施態様では,抗体は,血液,血清,血漿,糞便およびその他のサンプルから乳癌を診断するのに用途を見出す。したがってこのようなサンプルは,乳癌タンパク質の存在に関してプローブまたは試験されるサンプルとして有用である。抗体は,前に記載されたイムノアッセイ技法,例えばELISA,免疫ブロッティング(ウエスタンブロッティング),免疫沈降,BIACORE技法等により,乳癌タンパク質を検出するために用いられ得る。」(第61頁第7?27行)

サ「


」(表25 Seq ID NO:53及びSeq ID NO:54)

以上の記載から,引用例1には,乳癌においてアップレギュレーションおよびダウンレギュレーションされる遺伝子のヌクレオチド配列が記載され,その一つの遺伝子として表25のSeq ID NO:53に記載されたヌクレオチド配列があり,該ヌクレオチドがコードするポリペプチドとして表25のSeq ID NO:54に記載されたアミノ酸配列を有するポリペプチドが記載されている(記載事項ア及びサ)。

2.対比・判断

引用例1に記載のポリペプチドのSeq ID NO:54に記載された510アミノ酸からなる配列は,本願配列番号3のアミノ酸配列と100%一致している。
そこで,本願発明1と引用例1に記載された事項を比較すると,両者は,配列番号3のアミノ酸配列を有するポリペプチドである点で共通し,両者は,ポリペプチドについて,本願発明1には,膀胱癌,肺癌,膵臓癌,結腸癌,前立腺癌,子宮頸癌及び卵巣癌からなる群から選択される癌の組織において対応する正常組織と比べて過剰発現することが記載されているのに対し,引用例1には,該記載がない点で一応相違する。

上記相違点について検討する。
本願発明1はポリペプチドという化学物質に係る発明である。
そして,「膀胱癌,肺癌,膵臓癌,結腸癌,前立腺癌,子宮頸癌及び卵巣癌からなる群から選択される癌の組織において対応する正常組織と比べて過剰発現する」との記載は本願配列番号3のアミノ酸配列を有するポリペプチドの性質を記載しているに過ぎず,どの組織で発現するかを特定しても化学物質であるポリペプチドに物としての新たな構成を付加するものでないから,上記記載で特定された本願発明1のポリペプチドは特定のアミノ酸配列を有するポリペプチドそのものに他ならない。
よって,本願発明1のポリペプチドは,アミノ酸配列が同じで構造が同一である引用例1に記載されたポリペプチドと化学物質として同一であり,区別できないものであるので,上記相違点は化学物質の発明としての実質的な相違点とはいえない。

したがって,本願発明1は引用例1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

3.審判請求人の主張

審判請求人は,平成24年8月21日付意見書において,以下のように主張している。

ア.「組換えタンパク質」の発明については,特許実用新案審査基準第VII部 特定技術分野の審査基準;第2章 生物関連発明;1.1 明細書及び特許請求の範囲の記載要件;1.1.1 特許請求の範囲;(6)組換えタンパク質の欄に「(3)組換えタンパク質は,その機能,理化学的性質,起源・由来,製法等により特定して記載することもできる(ただし,発明が明確であること,及び,実施可能要件(1.1.2.1参照)を満たすことが必要である点に留意する)」と記載されているように,該審査基準は,特許請求の範囲において,組換えタンパク質は,その機能,理化学的性質,起源・由来,製法等により「特定して記載する」ことができること,従って,「その機能,理化学的性質,起源・由来,製法等」により特定された即ち「その機能,理化学的性質,起源・由来,製法等」を発明特定事項として有する組換えタンパク質は,そのような特定のない組換えタンパク質とは「発明」として区別可能であることを明確に示している。・・・従って,本願発明は,「膀胱癌,肺癌,膵臓癌,結腸癌,前立腺癌,子宮頸癌及び卵巣癌からなる群から選択される癌の組織において対応する正常組織と比べて過剰発現する」という「その機能,理化学的性質,起源・由来,製法等」により特定される発明特定事項のない,単なる「配列番号3のアミノ酸配列を有するポリペプチド」等及び「膀胱癌,肺癌,膵臓癌,結腸癌,前立腺癌,子宮頸癌及び卵巣癌」以外の癌又はその他の疾患において(過剰)発現される「配列番号3のアミノ酸配列を有するポリペプチド」等とは異なる「発明」であることは明らかであり,かつ,それらから予測できない異質な効果を有するものであることは明らかである。

上記主張について検討する。

審査基準第VII部第2章1.1.1(6)組換えタンパク質の欄の上記記載は,特許請求の範囲において,組換えタンパク質は,全アミノ酸配列によって特定する以外にも,その機能,理化学的性質,起源・由来,製法等により「特定して記載する」ことができることを示しているに過ぎず,該記載は,「その機能,理化学的性質,起源・由来,製法等」を発明特定事項として有する組換えタンパク質が,そのような特定のない組換えタンパク質と「発明」として区別可能であることを示すものではない。一方,タンパク質の全長のアミノ酸配列が特定され,構造が一義的に決まっているものについてさらに「その機能,理化学的性質,起源・由来,製法等」で限定しても,組換えタンパク質に新たな構成を付加するものではないから,そのような限定のない組換えタンパク質と区別可能ではない。このことは,物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合であっても,用途限定が付された化合物については,このような用途限定は一般に化合物の有用性を示しているに過ぎないため,用途限定のない化合物そのものであると解される(特許実用新案審査基準第II部 第2章1.5.2(2)参照)ことと同様である。
そして,物質が同一である場合には,仮に予測できない異質な効果を奏するものであるとしても物としては同一であり,考慮される余地はない。

また,請求人は,本願発明1について,引用文献1は「配列番号54のポリペプチド」を含む乳癌関連配列は乳癌においてのみ発現され得るが乳癌以外の癌では発現されないことを明確に示していることから,引用文献1に記載された「配列番号54のポリペプチド」を含む乳癌関連配列に基づいて,乳癌以外の癌において「乳癌関連配列」の取得を試みることは,当業者が容易に想到し得るものではないことを主張しているが,該主張は進歩性の判断についての主張であって,参酌できない。

よって,請求人の主張は,いずれも採用することができない。

4.結論

したがって,本願請求項1に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

第3 むすび

以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないものであるので,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-01 
結審通知日 2012-10-02 
審決日 2012-10-16 
出願番号 特願2005-502039(P2005-502039)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 冨永 みどり
六笠 紀子
発明の名称 癌の処置および検出において有用な191P4D12(b)と称される、核酸および対応タンパク質  
代理人 内田 潔人  
代理人 加藤 朝道  

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