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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B05C
管理番号 1273188
審判番号 不服2011-23541  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-01 
確定日 2013-04-25 
事件の表示 特願2007-291535「ドット形成用のシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月28日出願公開、特開2009-112991〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件出願は、平成19年11月9日の出願であって、平成22年11月18日付けで拒絶理由が通知され、平成23年1月21日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年7月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成23年11月1日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成24年8月7日付けで書面による審尋がなされたものである。(なお、この審尋に対して回答書の提出はなされていない。)

第2 平成23年11月1日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年11月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成23年11月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年1月21日付けの手続補正により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし5を下記の(b)に示す請求項1ないし5と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲

「【請求項1】
ターゲットに対してノズルから液滴を吐出するヘッドを有するシステムであって、
前記ヘッドのノズルから吐出された液滴は、前記ノズルから前記ターゲットに至る飛翔経路においては複数の小液滴を含み、
前記複数の小液滴の少なくとも1つを前記ターゲットに対して未着にさせるように、前記ノズルから前記ターゲットに至る飛翔経路から除去する手段と、
前記ヘッドのノズルから液滴を吐出するタイミングと、前記除去する手段が前記ヘッドのノズルから吐出された液滴の一部を除去するタイミングとを同期して制御する手段とをさらに有し、
前記除去する手段は、前記ヘッドのノズルから吐出された液滴の一部を蒸発させるためのレーザーを照射する照射ユニットを備え、前記照射ユニットは、前記ヘッドのノズルからの液滴の吐出方向と交差する方向からレーザーを照射し、前記ヘッドのノズルから吐出された液滴の一部を蒸発させ、さらに、
前記飛翔経路において前記レーザーの照射により蒸発させた液滴の蒸気および前記レーザーの照射によりミスト化した液滴を吸収する手段を有する、システム。
【請求項2】
請求項1において、前記制御する手段は、
前記ヘッドのノズルからの液滴の吐出タイミングを含む制御を行う第1の制御ユニットと、
前記照射ユニットからのレーザーの照射タイミングを含む制御を行う第2の制御ユニットとを備えている、システム。
【請求項3】
請求項1または2において、前記ヘッドのノズルから吐出された液滴の飛翔状態を観察する手段をさらに有する、システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記ヘッドのノズルの先方に設けられた第1の電極であって、前記ヘッドのノズルから吐出された液滴を第1の電位に帯電させる第1の電極と、
前記ターゲットの前記ヘッドとは反対側に設けられた第2の電極であって、第2の電位に帯電された第2の電極とをさらに有する、システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記ヘッドのノズルの先方に設けられ、前記ターゲットに向けて飛翔中の液滴を通過させる筒状部材をさらに有する、システム。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲

「【請求項1】
ターゲットに対してノズルから液滴を吐出するヘッドを有するシステムであって、
前記ヘッドのノズルから吐出された液滴は、前記ノズルから前記ターゲットに至る飛翔経路においては複数の小液滴を含み、
前記複数の小液滴の少なくとも1つを前記ターゲットに対して未着にさせるように、前記ノズルから前記ターゲットに至る飛翔経路から除去する手段と、
前記ヘッドのノズルから液滴を吐出するタイミングと、前記除去する手段が前記ヘッドのノズルから吐出された液滴の一部を除去するタイミングとを同期して制御する手段とをさらに有し、
前記除去する手段は、前記ヘッドのノズルから吐出された液滴の一部を蒸発させるためのレーザーを照射する照射ユニットを備え、前記照射ユニットは、前記ヘッドのノズルからの液滴の吐出方向と交差する方向からレーザーを照射し、前記ヘッドのノズルから吐出された液滴の一部を蒸発させ、さらに、
前記飛翔経路において前記レーザーの照射により蒸発させた液滴の蒸気および前記レーザーの照射によりミスト化した液滴を吸収し、前記ミスト化した液滴を前記ターゲットに対して未着にする手段を有する、システム。
【請求項2】
請求項1において、前記制御する手段は、
前記ヘッドのノズルからの液滴の吐出タイミングを含む制御を行う第1の制御ユニットと、
前記照射ユニットからのレーザーの照射タイミングを含む制御を行う第2の制御ユニットとを備えている、システム。
【請求項3】
請求項1または2において、前記ヘッドのノズルから吐出された液滴の飛翔状態を観察する手段をさらに有する、システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記ヘッドのノズルの先方に設けられた第1の電極であって、前記ヘッドのノズルから吐出された液滴を第1の電位に帯電させる第1の電極と、
前記ターゲットの前記ヘッドとは反対側に設けられた第2の電極であって、第2の電位に帯電された第2の電極とをさらに有する、システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記ヘッドのノズルの先方に設けられ、前記ターゲットに向けて飛翔中の液滴を通過させる筒状部材をさらに有する、システム。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「前記飛翔経路において前記レーザーの照射により蒸発させた液滴の蒸気および前記レーザーの照射によりミスト化した液滴を吸収する手段」の記載を、「前記飛翔経路において前記レーザーの照射により蒸発させた液滴の蒸気および前記レーザーの照射によりミスト化した液滴を吸収し、前記ミスト化した液滴を前記ターゲットに対して未着にする手段」とするものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「レーザーの照射により蒸発させた液滴の蒸気および」「レーザーの照射によりミスト化した液滴を吸収する手段」の機能について、「ミスト化した液滴を」「ターゲットに対して未着にする」ことを追加して限定するものであるといえる。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項に限定を付加したものといえるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2004-298842号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【請求項1】
液体材料の液滴を基板上に配置して膜パターンを形成する薄膜パターン形成装置であって、
上記基板上に上記液体材料の液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを有する液滴吐出手段と、
該液滴吐出ヘッドと上記基板との位置を相対的に移動可能とする移動手段と、
液滴吐出手段又は移動手段の少なくとも一方を制御する制御手段とを具備すると共に、
上記液滴吐出手段に液滴吐出ヘッドから吐出する液体材料の液滴に付随して発生するサテライトを消滅させるサテライト消滅手段を設けたことを特徴とする薄膜パターン形成装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記サテライト消滅手段がサテライトに高いエネルギーを付与して消滅させるものであることを特徴とする薄膜パターン形成装置。
【請求項3】
請求項1において、
上記サテライト消滅手段がレーザ照射手段であることを特徴とする薄膜パターン形成装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項3】)

b)「【0003】
ところで、このようなインクジェット方式のインクジェットヘッドには、図10に示すように、インクジェットヘッド1の裏面側に多数インクノズル(例えば180個/1列)37が配設されており、該インクノズルから液状のインクを吐出するようにしている。
このインクの吐出の際に、インク吐出に伴って発生する付随物(サテライトインク又はサテライトという。以下、「サテライト」という。)が発生する。このサテライトは着弾位置が所定のインクとは異なり、混色や描画ムラのおそれがある、という問題がある。」(段落【0003】)

c)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特許文献1にかかるサテライトの除去方法では、電気的手法であるので、サテライトの帯電力の強弱によっては、該サテライトを完全に防止することは困難であった。
特に、サテライトは主インクよりもスピードが遅く、直進安定性が優れず、例えば金属配線のパターンニングの際には、描画領域以外へのサテライトのわずかな付着によりインクショート等の不具合が発生するので、サテライトの完全な消滅が求められている。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑み、サテライトを完全に消滅させることができる薄膜パターン形成装置、薄膜形成方法、プログラム、電子光学装置及び電子機器を提供することを課題とする。」(段落【0006】及び【0007】)

d)「【0017】
上記薄膜パターン形成装置を用いることにより、描画精度が向上し、例えば金属配線のショート防止やカラーフィルタ等の混色防止をはかった電気光学装置を備える電子機器を得ることができる。」(段落【0017】)

e)「【0020】
[第1の実施の形態]
本実施の形態の薄膜パターン形成装置10は、図1に示すように、液晶表示装置においてその基板上に形成されるカラーフィルタ、薄膜(液晶)又は配線を形成するために用いられるものである。
【0021】
本実施の形態にかかる薄膜パターン形成装置10は、図1に示すように、基板1の表面に例えば液体材料の液滴11を吐出する液滴吐出ヘッド12を有する液滴吐出手段13と、該液滴吐出ヘッド12と基板1との位置を相対的に移動させる移動手段14と、液滴吐出手段13及び移動手段14を制御する制御手段15とを具備してなるものである。
【0022】
上記移動手段14は、図1に示すように、基板ステージ16上に載置された基板1の上方に、液滴吐出ヘッド12を下方側に向けて支持すると共に移動自在のステージ18によりX軸方向に移動自在のヘッド支持部17と、上方の液滴吐出ヘッド12に対して基板ステージ16と共に基板をY軸方向に移動させるステージ駆動部19とから構成されている。」(段落【0020】ないし【0022】)

f)「【0026】
この液滴吐出ヘッド12の構成の一例について図2、図3を参照して説明する。図2、図3に示すように、液滴吐出ヘッド12は、例えばステンレス製のノズルプレート31と振動版32とを備え、仕切り部材(リザーバプレート)33を介して両者を接合したものである。ノズルプレート31と振動板32との間には、仕切り部材によって複数の空間34と液溜まり35とが形成されている。各空間34と液溜まり35の内部は液状材料(図示せず)で満たされており、各空間34と液溜まり35とは供給口36を介して連通したものとなっている。また、ノズルプレート31には、各空間34から液状材料11を噴射するための微小孔のノズル37が形成されている。一方、振動板32には、液溜まり35に液体材料の液滴11を供給するための孔37が形成されている。」(段落【0026】)

g)「【0032】
本発明では、図3に示すように、上記液滴吐出ヘッド12にサテライト消滅手段であるレーザ照射手段50を配設している。
このレーザ照射手段50はレーザ光51を照射して、ノズル37から吐出された主液滴である液体材料の液滴11以外のサテライト52を消滅するものである。これにより、基板側には主液滴である液体材料の液滴11以外の随伴する不要な液滴であるサテライト52が着弾しなくなるので、描画精度の向上、カラーフィルタの混色等を防止することができる。」(段落【0032】)

h)「【0040】
図5は液滴吐出ヘッド12の側面図であり、基板1とレーザ光51との位置の関係を示す図面である。
図5に示すように、液滴吐出ヘッド12のノズル37と基板1との間隙Gは、約0.3?1mm程度であり、この間隙Gの間の所定の位置にレーザ光51を照射し、ノズル37から滴下するサテライト52を消滅させるようにしている。」(段落【0040】)

i)「【0041】
図6にこのサテライト処理を実行する方法を示す。
(1)先ず、描画の動作を開始する(S1)。
(2)次に、エンコーダ信号読み込みを開始する(S2)。
(3)次に、読み込んだエンコーダ信号から液体材料の液滴11をノズルから吐出させる信号を出力する(S3)。
(4)次に、液体材料の液滴11をノズルから吐出する(S4)。
(5)次に、液体材料の液滴11をノズルから吐出させる信号から設定されたディレイ間隔分をずらしてレーザ照射手段50からレーザ光51の照射を開始する(S5)。
(6)所定時間経過後、レーザ照射手段50からのレーザ光51の照射を停止する(S6)。
吐出が終了するまで(3)?(6)のステップを繰り返す。
ここで、吐出タイミングから設定されたディレイ間隔とは、主の液体材料の液滴11が落下し、レーザ照射範囲を液体材料の液滴11が通過した後の所定の設定時間である。この間隔以前にレーザ光を照射すると液体材料の液滴11を消滅させることになるからである。
【0042】
この液体材料の液滴11の通過の確認のためにセンサを別途設けるようにしてもよい。
【0043】
次に、図7を参照してプログラムの実行について説明する。
図7に示すように、第1の制御手段15から液体材料の液滴11をノズルから吐出させる信号を出力するタイミングを示す第1信号61を第2の制御手段60で入力すると、該第2制御手段60で第1信号61を入力してから、設定時間経過後、レーザ照射させる旨の第2信号62をレーザ照射手段50に出力する。次いで、上記第2信号62を出力後、所定時間経過後にレーザ照射手段50でレーザ照射を停止させる第3信号63を出力する。
これにより、的確に液体材料の液滴11に伴って発生するサテライトを消滅させることを実行することができる。
【0044】
なお、上記制御手段60と上記制御手段15とを一体として実行するようにしてもよい。」(段落【0041】ないし【0044】)

(2)上記(1)及び図面の記載より分かること

イ)上記(1)g)及びh)並びに図3及び5の記載によれば、ノズル37から吐出された液滴は、ノズル37から基板1に至る飛翔経路においては液滴11及びサテライト52を含んでいることが分かる。

ロ)上記(1)c)及びg)の記載によれば、サテライトの除去が前提技術であること、レーザ照射手段50は、レーザ光51を照射して、ノズル37から吐出された主液滴である液体材料の液滴11以外のサテライト52を消滅するものであり、基板側には主液滴である液体材料の液滴11以外の随伴する不要な液滴であるサテライト52が着弾しなくなることからみて、レーザ照射手段50は、液滴11及びサテライト52の少なくとも1つを基板1に対して未着にさせるように、ノズル37から基板1に至る飛翔経路から除去する手段であることが分かる。

ハ)上記(1)i)並びに図6及び7の記載によれば、第1制御手段及び第2制御手段は、ヘッド12のノズル37から液滴を吐出するタイミングと、レーザ照射手段50がヘッド12のノズル37から吐出された液滴の一部を除去するタイミングとを同期して制御するものであることが分かる。

ニ)上記ハ)を上記ロ)とあわせてみると、第1制御手段及び第2制御手段は、ヘッド12のノズル37から液滴を吐出するタイミングと、除去する手段がヘッド12のノズル37から吐出された液滴の一部を除去するタイミングとを同期して制御するものであることが分かる。

ホ)上記(1)g)及びh)並びに図3及び5の記載によれば、レーザ照射手段50は、ヘッド12のノズル37からの液滴の吐出方向と交差する方向からレーザ光51を照射することが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物1に記載された発明>

「基板1に対してノズル37から液滴を吐出する液滴吐出ヘッド12を有する薄膜パターン形成装置10であって、
液滴吐出ヘッド12のノズル37から吐出された液滴は、ノズル37から基板1に至る飛翔経路においては液滴11及びサテライト52を含み、
液滴11及びサテライト52の少なくとも1つを基板1に対して未着にさせるように、ノズル37から基板1に至る飛翔経路から除去する手段と、
ヘッド12のノズル37から液滴を吐出するタイミングと、除去する手段がヘッド12のノズル37から吐出された液滴の一部を除去するタイミングとを同期して制御する第1制御手段及び第2制御手段とをさらに有し、
除去する手段は、ヘッド12のノズル37から吐出された液滴の一部を消滅させるためのレーザ光51を照射するレーザ照射手段50を備え、レーザ照射手段50は、ヘッド12のノズル37からの液滴の吐出方向と交差する方向からレーザ光51を照射し、ヘッド12のノズル37から吐出された液滴の一部を消滅させる、薄膜パターン形成装置10。」

(4)刊行物2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2007-176150号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【請求項1】
対象物に液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドと、
前記液滴吐出ヘッドと相対向する前記対象物の領域にレーザ光を照射するレーザ照射手段と、
前記レーザ照射手段と前記レーザ光の照射位置との間に設けられて前記液滴からの蒸発成分を吸引する吸引手段と、
を備えたことを特徴とする液滴吐出装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

b)「【0007】
液滴吐出装置では、従来より、蒸発成分を吸引する吸引手段を搭載して液滴吐出ヘッドの周辺に浮遊する蒸発成分を吸引し、液滴のにじみを抑制させる、あるいは液滴吐出ヘッド周辺の結露を回避させる提案がある。特許文献3は、着弾した液滴の領域をファンによる空気流や非接触真空吸引デバイスによる空気流に晒し、液滴の乾燥を促進させる。特許文献4は、液滴吐出ヘッドの上側周辺に揮発性物質を吸引する吸引手段を設け、液滴吐出ヘッドの下面周辺に浮遊して滞留する揮発性物質を液滴吐出ヘッドの下面周辺の空気と共に吸引して排除する。特許文献5は、印刷用紙の両側方、又は紫外線を照射する照射エリアよりも印刷用紙の搬送方向の下流側で吸引動作を行い、紫外線照射にともなう液滴からの蒸発成分を吸引する。
【特許文献1】特開平11-77340号公報
【特許文献2】特開2003-127537号公報
【特許文献3】特開2003-136689号公報
【特許文献4】特開2005-22194号公報
【特許文献5】特開2003-145737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3と特許文献4は、液滴のにじみ防止や結露防止を目的とするため、着弾した液滴周辺や液滴吐出ヘッド周辺の蒸発成分を吸引する一方で、吸引動作にともなう蒸発成分の流動経路と光学系の配置位置との間の関係について何ら検討していない。また、特許文献5は、電磁輻射線透過板や反射板などの光学系の保護を目的とする一方で、電磁輻射装置の直下で蒸発した蒸発成分を印刷用紙の両側、あるいは、照射位置の下流側から吸引する。そのため、吸引途中の蒸発成分が電磁輻射装置の直下を通過し、蒸発成分の一部が光学系に付着して光学系を汚染する。」(段落【0007】及び【0008】)

c)「【0040】
図4及び図5は、ヘッドユニット30を説明する概略側面図であって、図6は、ヘッドユニット30を、マザー基板2Mから見た概略平面図である。
図4において、ケース31の内部には、液状体F(図5参照)を導出可能に収容する液状体タンク35が配設され、ケース31の下側には、液滴吐出ヘッド32が配設されている。液状体タンク35は、収容する液状体Fを吐出ヘッド32に導出する。
【0041】
図5において、吐出ヘッド32の下側には、ノズルプレート36が備えられている。ノズルプレート36の下面(ノズル形成面36a)には、マザー基板2Mの法線方向(Z矢印方向)に沿う複数の円形孔(ノズルN)が貫通形成されている。図6において、各ノズルNは、ヘッドユニット30の「走査方向RA」と直交する方向に沿って配列形成されて、その形成ピッチが、「セル幅W」と同じサイズで形成されている。尚、本実施形態では、マザー基板2M上の位置であって、各ノズルNと相対向する位置を、それぞれ着弾位置PFという。」(段落【0040】及び【0041】)

d)「【0044】
図4において、吸引ポート33は、下方を開口した箱体状に形成されて、その内部が、ケース31内に配設された吸引チューブ39に連結されている。吸引チューブ39は、第3アーム28c、第2アーム28b、第1アーム28a及び主軸27の内部に引き回されて、基台21内に配設された吸引ポンプ40(図2及び図3参照)に連結されている。すなわち、吸引ポート33は、吸引チューブ39を介して吸引ポンプ40に連結されている。」(段落【0044】)

e)「【0049】
各半導体レーザLDは、それぞれ対応する照射位置PTが目標吐出位置Pに位置するとき、レーザ駆動電圧COM2を受けてレーザ光Bを出射する。半導体レーザLDからのレーザ光Bは、反射ミラーMに全反射されて、対応する照射位置PTに位置する液滴Fbの領域を照射する。液滴Fbの領域を照射するレーザ光Bは、液滴Fbの溶媒あるいは分散媒等を「蒸発成分Ev」として蒸発させて、液滴Fbの金属微粒子を焼成させる。これによって、目標吐出位置Pの領域に、データセルCに対応するサイズのドットDを形成させる。」(段落【0049】)

f)「【0051】
浮遊する「蒸発成分Ev」は、各ノズルNから見て照射位置PT側に位置する吸引ポート33により、順次「走査方向RA」の反対方向に向かって吸引される。この結果、「蒸発成分Ev」は、各ノズルNの移動する方向の反対方向に向かって吸引され、各ノズルNから離間する。さらに、浮遊する「蒸発成分Ev」は、反射ミラーMから見て照射位置PT側(「走査方向RA」側)に位置する吸引ポート33によって順次吸引される。この結果、「蒸発成分Ev」は、走査される反射ミラーM(レーザヘッド34)が照射位置PTに到達する前に、反射ミラーMの前段で吸引されて排気される。」(段落【0051】)

(5)上記(4)及び図面の記載より分かること

イ)上記(4)a)及びc)並びに図4の記載によれば、液滴吐出装置は、マザー基板に対してノズルから液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを有することが分かる。

ロ)上記(4)a)及びd)ないしf)並びに図4の記載によれば、液滴吐出装置は、レーザ光の照射により蒸発させた液滴の蒸発成分を吸引する手段を有することが分かる。

(6)刊行物2に記載された発明

したがって、上記(4)及び(5)を総合すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物2に記載された発明>

「マザー基板に対してノズルから液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを有する液滴吐出装置において、
レーザ光の照射により蒸発させた液滴の蒸発成分を吸引する手段を有する、液滴吐出装置。」

2.対比・判断

本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物1に記載された発明における「基板1」、「ノズル37」、「液滴吐出ヘッド12」、「薄膜パターン形成装置10」、「液滴11及びサテライト52」、「第1制御手段及び第2制御手段」、「レーザー光51」及び「レーザ照射手段50」は、それぞれ、本件補正発明における「ターゲット」、「ノズル」、「ヘッド」、「システム」、「複数の小液滴」、「手段」、「レーザー」及び「照射ユニット」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「消滅」は、「消滅または蒸発」という限りにおいて、本件補正発明における「蒸発」に相当する。

してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「ターゲットに対してノズルから液滴を吐出するヘッドを有するシステムであって、
ヘッドのノズルから吐出された液滴は、ノズルからターゲットに至る飛翔経路においては複数の小液滴を含み、
複数の小液滴の少なくとも1つをターゲットに対して未着にさせるように、ノズルからターゲットに至る飛翔経路から除去する手段と、
ヘッドのノズルから液滴を吐出するタイミングと、除去する手段がヘッドのノズルから吐出された液滴の一部を除去するタイミングとを同期して制御する手段とをさらに有し、
除去する手段は、ヘッドのノズルから吐出された液滴の一部を消滅または蒸発させるためのレーザーを照射する照射ユニットを備え、照射ユニットは、ヘッドのノズルからの液滴の吐出方向と交差する方向からレーザーを照射し、前記ヘッドのノズルから吐出された液滴の一部を蒸発させる、システム。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>

「消滅または蒸発」に関し、
本件補正発明においては、「液滴の一部を蒸発させる」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「液滴の一部を消滅させる」点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

本件補正発明においては、「飛翔経路においてレーザーの照射により蒸発させた液滴の蒸気およびレーザーの照射によりミスト化した液滴を吸収し、ミスト化した液滴をターゲットに対して未着にする手段を有する」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、そのような手段を有しているか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。

まず、上記相違点1について検討する。

刊行物1には、「このレーザ照射手段50はレーザ光51を照射して、ノズル37から吐出された主液滴である液体材料の液滴11以外のサテライト52を消滅するものである。これにより、基板側には主液滴である液体材料の液滴11以外の随伴する不要な液滴であるサテライト52が着弾しなくなるので、描画精度の向上、カラーフィルタの混色等を防止することができる。」(上記1.(1)g)参照。)と記載されており、この記載によれば、刊行物1に記載された発明は、描画精度の向上を図ることを目的としており、不要な液滴であるサテライトを基板(ターゲット)に着弾させないための手段として、レーザ光によりそのサテライトを消滅させることが明らかである。
一方、不要な液滴を除去するために、レーザー光を不要な液滴に照射することにより、その液滴を蒸発させることは、本件出願前周知の技術(例えば、特開2003-34016号公報[特に、段落【0002】、【0007】、【0009】及び【0029】]、及び、特開2003-28696号公報[特に、段落【0059】ないし【0065】]等参照。以下、「周知技術」という。)である。
そうすると、刊行物1に記載された発明において、不要な液滴をレーザー光により除去する際に、周知技術を考慮して、液滴の一部を蒸発させるようにすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

次に、上記相違点2について検討する。

前述のとおり、刊行物1に記載された発明は、描画精度の向上を図ることを目的としている。
一方、刊行物2には、「液滴吐出装置では、従来より、蒸発成分を吸引する吸引手段を搭載して液滴吐出ヘッドの周辺に浮遊する蒸発成分を吸引し、液滴のにじみを抑制させる・・・提案がある。」(上記1.(4)b)参照。)と記載されており、これによれば、従来から、不要な蒸発成分を吸引することにより、蒸発成分による基板上の液滴のにじみを抑制する技術が知られていることが記載されている。
そうすると、刊行物2における「吸引手段」により吸引される「液滴からの蒸発成分」の意味するところとして、基板上の液滴のにじみの原因となる不要な蒸発成分を想定しているといえる。
これらを総合すると、刊行物1に記載された発明と、刊行物2に記載された発明と、本件補正発明とは、その目的において、軌を一にするものであり、しかも、ターゲットに対してノズルから液滴を吐出するヘッドを有するシステム(以下、「液滴吐出システム」という。)という同一の技術分野に属するものであるといえる。

そこで、刊行物2に記載された発明と本件補正発明とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物2に記載された発明における「マザー基板」、「液滴吐出ヘッド」、「液滴吐出装置」、「レーザ光」、「蒸発成分」及び「吸引」は、それぞれ、本件補正発明における「ターゲット」、「ヘッド」、「システム」、「レーザー」、「蒸気」及び「吸収」に相当する。
そうすると、刊行物2に記載された発明は、本件補正発明における用語を用いると、以下のように表現できる(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)。
「ターゲットに対してノズルから液滴を吐出するヘッドを有するシステムにおいて、
レーザーの照射により蒸発させた液滴の蒸気を吸収する手段を有する、システム。」

一方、液滴吐出システムにおいて、ミスト化した不要な液滴が基板や記録媒体などのターゲットに付着することにより描画に悪影響が生じることは、液滴吐出システムにおける周知の課題(例えば、特開2004-174401号公報[特に、段落【0002】及び【0003】]、特開2001-260384号公報[特に、段落【0009】及び【0010】]、及び、特開2003-34016号公報[特に、段落【0007】]等参照。以下、「周知課題」という。)である。
そして、技術常識に照らせば、レーザーの照射により液滴の一部を蒸発させる際に、レーザーを照射する対象となる液滴の物性や容量、周囲雰囲気の環境及びレーザーの照射条件等により、液滴からの蒸発成分がミスト化することは、ごく普通に予測されることであるから、刊行物1に記載された発明において、レーザ照射手段により液滴の一部を消滅(蒸発)させる際に、及び、刊行物2に記載された技術において、レーザーの照射により液滴を蒸発させる際に、液滴からの蒸発成分がミスト化することは、ごく普通に予測されることである。
以上を総合すると、刊行物1に記載された発明において、刊行物2に記載された技術を付加する際に、周知課題を考慮して、飛翔経路においてレーザーの照射により蒸発させた液滴の蒸気およびレーザーの照射によりミスト化した液滴を吸収し、ミスト化した液滴をターゲットに対して未着にする手段を有することとして、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術及び周知課題から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術及び周知課題に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成23年11月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明は、平成23年1月21日付けの手続補正により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物1(特開2004-298842号公報)及び刊行物2(特開2007-176150号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(3)及び(4)ないし(6)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

上記第2[理由][2]で検討したように、本件補正発明は、本件発明の発明特定事項について限定したものであるから、本件発明は、実質的に、本件補正発明における発明特定事項についての上記限定を省いたものに相当する。
本件発明は、上記第2[理由][2]で検討した本件補正発明から、「ミスト化した液滴を」「ターゲットに対して未着にする」という発明特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術及び周知課題に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術及び周知課題に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術及び周知課題から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術及び周知課題に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-18 
結審通知日 2013-02-19 
審決日 2013-03-14 
出願番号 特願2007-291535(P2007-291535)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B05C)
P 1 8・ 121- Z (B05C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土井 伸次  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 久島 弘太郎
藤原 直欣
発明の名称 ドット形成用のシステム  
代理人 今井 彰  

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